【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「土壌汚染対策のための技術開発/原位置処理重金属等土壌汚染対策技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
汚染物質により汚染された不飽和帯の土壌の表層に、水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液を供給し、自然流下により汚染土壌中に浸透させて、汚染土壌を生物処理により原位置浄化する方法であって、
予め水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液を供給する前の汚染土壌の含水量と圃場容水量を測定しておき、この圃場容水量の0.15〜1.00倍を水分量の管理設定値として定め、水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液を供給した後の、不飽和帯の任意の深度における汚染土壌の水分量を水分計により測定し、
水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液の供給前後における汚染土壌の水分量の差が、前記管理設定値の範囲内であれば適正であると判断し、多ければ過剰と判断し、少なければ不足と判断し、適正または過剰と判断した場合はそれ以降の測定において不足と判断するまで水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液の供給は行わず、不足と判断した場合は汚染土壌の水分量が適正値になるまで水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液を供給して、汚染土壌の水分量を管理することを特徴とする汚染土壌の原位置浄化方法。
【背景技術】
【0002】
汚染された土壌や地下水の浄化には、その場所(in situ)で浄化する方法(原位置浄化)や、汚染された土壌を掘り出して(on situ)浄化する方法などがある。特に、原位置浄化は、土壌を掘り出すことなく原位置で土壌を浄化できるので、on situによる浄化に比べてコストが安く、地上に建物が存在する場合でも施工が可能となる場合が多い。また、原位置浄化は、汚染が広範囲にわたる場合の浄化にも適している。
汚染土壌の浄化方法としては、微生物により土壌を浄化するバイオレメディエーション(生物処理)などの方法が知られている。
【0003】
ところで、地中においては、汚染物質が帯水層(飽和帯)まで到達せずに、その上部に位置する不飽和帯に留まる場合があり、不飽和帯の土壌が汚染物質によって汚染されることもある。
しかし、上述した生物処理は、一般的に飽和帯の汚染土壌の浄化に適した方法であって、不飽和帯の汚染土壌を浄化する方法はこれまで確立されていなかった。
【0004】
近年、不飽和帯の汚染土壌の浄化に、生物処理を利用する試みがなされている。
例えば特許文献1には、不飽和帯汚染領域中または周辺の不飽和帯部分に、複数の注入井戸と真空抽出井戸を設け、微生物の活動を利用して原位置浄化する方法が開示されている。特許文献1によれば、注入井戸から栄養成分等を含む注入水を供給しつつ、注入地点に減圧影響の及ぶ範囲内の2箇所以上に設置した真空抽出井戸を運転することにより、汚染した不飽和帯内で注入液を拡散でき、その結果、微生物の活動が活性化されるとしている。
【0005】
また、生物処理以外の方法、すなわち物理的または化学的処理によって不飽和帯の汚染土壌を浄化する方法も提案されている。
例えば特許文献2には、土壌汚染物質を洗浄ないし無毒化する薬剤を含む溶液(薬剤液)を、特定の供給速度にて地表から散布する方法が開示されている。特許文献2によれば、少ない中和剤で効率的に土壌浄化できるとしている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明の対象となる土壌は、汚染物質により汚染された不飽和帯の土壌(汚染土壌)である。
本発明において「不飽和帯」とは、地下水によって飽和している帯水層(飽和帯)より上に位置する層のことである。
汚染原因となる汚染物質としては、シアン化合物、全石油系炭化水素を主成分とする油類、有機塩素化合物などが挙げられる。なお、「シアン化合物」とは、シアン化物や金属(鉄、ニッケル、銅等)のシアン錯体など、構造にCNを含む化合物をいう。
【0014】
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法(以下、単に「浄化方法」という。)は、汚染土壌の表層に、水または汚染物質分解微生物用の活性剤を含む水溶液(以下、「活性剤水溶液」という。)を供給し、自然流下により汚染土壌中に浸透させて、生物処理により原位置浄化することを特徴とする。加えて、不飽和帯の任意の深度における汚染土壌の水分量を水分計により測定し、汚染土壌の水分量を管理する。
【0015】
生物処理による汚染土壌の浄化には、水分の存在が重要となる。かかる理由は以下のように考えられる。
水分は、水または活性剤水溶液を表層に供給することで汚染土壌に浸透するが、水や活性剤水溶液の供給量が少ないと汚染土壌中の水分が不足し、微生物による汚染物質の分解が進行せず、汚染土壌が十分に浄化されにくくなる。また、供給量が過剰となり水や活性剤水溶液が不飽和帯に留まらず飽和帯まで浸透すると、汚染が飽和帯に落ち込む。従って、汚染土壌の浄化には一定量の水分が必要である。
【0016】
本発明の浄化方法であれば、不飽和帯の任意の深度における汚染土壌の水分量を水分計等により測定し、汚染土壌の水分量を管理するので、地下水によって飽和されていない不飽和帯であっても、生物処理による浄化に重要とされる水分を一定の範囲でコントロールできる。よって、汚染土壌中において適正な水分量が維持され、浄化が十分に進行する。
【0017】
生物処理は、土壌に生息する微生物の有無によって、バイオスティミュレーション(土壌にもとから生息する微生物を活用し、土壌を浄化する方法)を採用してもよいし、バイオオーグメンテーション(土壌に生息する微生物が少ないか、微生物がいない場合、大量培養した微生物を外部から投入し、土壌を浄化する方法)を採用してもよい。
【0018】
汚染物質を分解し、土壌を浄化する微生物としては、Novosphingobium(ノボスフィンゴビウム属細菌)、Pseudomonas(シュードモナス属細菌)などが挙げられる。また、土壌の浄化に使用する微生物は好気性でもよいし、嫌気性でもよい。特に微生物が好気性の場合は、詳しくは後述するが、土壌へ空気を注入し、微生物の活性を適度に促すバイオスパージングを採用するのが好ましい。
【0019】
微生物用の活性剤としては、例えばアミノ酸、炭水化物およびこれらの混合物などが挙げられる。
これら活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
活性剤水溶液は、上述した活性剤を水で希釈することで調製できる。
活性剤を2種以上併用する場合は、活性剤の混合物を水で希釈して活性剤水溶液を調製してもよいし、各活性剤をそれぞれ水で希釈して、複数の活性剤水溶液を調製してもよい。
【0021】
活性剤水溶液中の活性剤の濃度については特に制限されず、原位置浄化を行う汚染領域のうち、任意の場所の汚染土壌を採取して汚染状態(汚染濃度など)を確認しておき、汚染状態に応じて適切な濃度になるように活性剤水溶液を調製すればよい。
例えば、シアン化合物により汚染された土壌であり、遊離シアン含有量が10mg/kgの場合、汚染土壌1.0m
3当たり0.1〜5.0kgとなる量の活性剤を、10〜100倍に水で希釈して活性剤水溶液を調製するのが好ましい。
なお、汚染土壌の遊離シアン含有量は、平成15年3月環境省告示第19号「土壌含有量調査に係る測定方法を定める件」に準拠して測定される値である。
【0022】
水および活性剤水溶液の供給方法は特に制限されず、例えばホースを用いて汚染領域の表層に散水することができる。また、汚染領域が広範囲に及ぶ場合は、例えば
図1に示すように、散水車10を走行させながら散水すればよい。
ここで、
図1中、符号「A」は表層、「B」は不飽和帯、「C」は飽和帯であり、「X」は汚染土壌である。
【0023】
また、複数の活性剤水溶液を供給する場合は、一度に供給してもよいし、間隔を設けて順次供給してもよい。供給の間隔は特に制限されず、汚染状態に応じて適宜決定すればよい。
【0024】
汚染土壌の表層に水または活性剤水溶液を供給すると、
図1に示すように、水または活性剤水溶液は自然流下によって汚染土壌中に浸透する。すると、微生物の活動が活性化され、汚染物質の分解が効率よく行われ、汚染土壌が浄化される。特に、活性剤水溶液を供給すると微生物の活動がより活性化されやすくなる。
また、本発明は汚染土壌の表層に供給した水や活性剤水溶液を浸透によって汚染土壌中にまで供給するので、広範囲に水や活性剤水溶液を行渡らせることができる。従って、汚染領域が広範囲に及ぶ場合にも容易に対応でき、井戸からの注入方式に比べてコストを削減できる。
【0025】
本発明においては、不飽和帯の任意の深度における汚染土壌の水分量を水分計等により測定し、汚染土壌の水分量を管理する。
水分計としては、土壌中の水分量を測定できるものであれば特に限定されず、例えばテンシオメータ、pF計、土壌水分センサーなどを用いることができる。
また、水分量の測定箇所は、汚染状態(縦方向や横方向の広がり)に応じて適宜決定すればよい。なお、「不飽和帯の任意の深度」とは、汚染の縦方向(深さ方向)の広がりに応じて1箇所の深度であってもよいし、複数個所の深度であってもよい。すなわち、縦方向の広がりが狭い場合は1箇所の深度について測定すれば十分であるし、縦方向の広がりが広い場合は複数個所の深度について測定する。また、横方向についても任意の場所を測定すればよく、横方向の広がりが狭い場合は1箇所の深度について測定すれば十分であるし、横方向の広がりが広い場合は複数個所の深度について測定する。
また、水分量の測定は、浄化が完了するまで定期的に行うのが好ましく、1日に1回行えば十分である。
【0026】
汚染土壌の水分量の管理は以下のようにして行う。
まず、予め水または活性剤水溶液を供給する前の汚染土壌の含水量と圃場容水量を測定しておく。そして、この圃場容水量の値を基準にして水分量の管理設定値を定め、水または活性剤水溶液を供給した後の汚染土壌の水分量を測定し、管理する。具体的には、供給前後における汚染土壌の水分量の差が管理設定値の範囲内であれば適正であると判断する。また、水分量が管理設定値より多ければ過剰と判断し、逆に少なければ不足と判断する。
管理設定値は、圃場容水量の0.15〜1.00倍とするのが好ましい。
【0027】
ここで、「圃場容水量」とは、多量の降雨または潅水の後、重力によって余分な水が下に排水され、排水速度が蒸発速度と同程度に小さくなったときの、土壌の含水量のことである。つまり、降雨などの後、排水が殆ど終了し、表面蒸発を防いでおくと土壌の水分量は一定になる。この一定の水分量が圃場容水量である。
【0028】
汚染土壌の水分量を測定し、適正または過剰と判断した場合は、それ以降の測定において不足と判断するまで水または活性剤水溶液の供給は行わない。
一方、不足と判断した場合は、汚染土壌の水分量が適正値になるまで水または活性剤水溶液を供給する。
【0029】
なお、活性剤水溶液を供給する場合、水分は表層に供給された活性剤水溶液が浸透することで汚染土壌に供給されるので、汚染土壌の水分量を測定することにより、汚染土壌への活性剤の到達の程度も確認できる。すなわち、ある深度において供給前後で汚染土壌の水分量が増えれば、活性剤がその地点まで到達したことを意味し、水分量に変化がなければ(水分量の差が0の場合)、活性剤がその地点まで到達していないことを意味する。
従って、汚染土壌の水分量を測定し不足と判断したときに、供給前後における水分量の差が0の場合は、活性剤がその地点まで到達していないので活性剤水溶液を供給する。水分量の差が0でない場合は、活性剤水溶液を供給してもよいが、活性剤は汚染土壌まで到達しているので、水のみを供給してもよい。
【0030】
このように汚染土壌の水分量を管理することで、生物処理による浄化に重要とされる水分を一定の範囲でコントロールでき、汚染土壌中の水分を適正量に維持できる。また、活性剤水溶液を供給する場合は活性剤の到達の程度も確認できる。よって、汚染土壌の浄化を円滑に進行できる。
また、事前に管理設定値を決めておくので、水や活性剤水溶液の供給量の目安になる。従って、水や活性剤水溶液の過剰な供給を防ぐことができ、水や活性剤水溶液が不飽和帯に留まらず飽和帯まで浸透するのを抑制できる。よって、分解前の汚染物質が飽和帯へ流出するのを防止できる。
【0031】
ところで、微生物の活性は、水や活性剤水溶液が浸透した部分から促進されるので、深度の浅い部分から汚染土壌の浄化は進行する。従って、浸透速度にもよるが、汚染濃度が高い場所では、深度の浅い部分において水や活性剤水溶液が消費されやすく、深度が深くなるに連れて水や活性剤水溶液が到達しにくくなる傾向にある。
しかし、本発明であれば、任意の深度における汚染土壌の水分量を測定することで、水や活性剤水溶液の到達の程度を確認できる。水や活性剤水溶液が到達していなかったり、水分が不足していたりする場合は、水や活性剤水溶液を再度供給すればよく、供給を再度行うか否か、容易に判断できる。また、2回目以降に供給する場合の供給量や活性剤水溶液の濃度も決定しやすい。従って、本発明であれば、汚染領域内において汚染濃度にムラがある場合でも、供給場所の汚染状態に応じて水や活性剤水溶液の供給を調整できるので、汚染濃度に関係なく汚染土壌を十分に浄化できる。
【0032】
なお、事前に各場所の汚染濃度が分かっていれば、供給場所に応じて供給量や活性剤水溶液の濃度を調整することもできる。
汚染領域が広範囲に及ぶため各場所での汚染濃度を把握するのが困難な場合は、供給量や活性剤水溶液の濃度を減らして供給した後、任意の深度における汚染土壌の水分量を測定し、不足と判断された場所のみ、水または活性剤水溶液を再度供給すればよい。
【0033】
本発明の浄化方法では、例えば
図1に示すように、汚染土壌またはその近傍に達する注入井戸20を設け、該注入井戸20から空気の注入を行うことが好ましい。また、汚染土壌またはその近傍に達する吸引井戸30を設け、該吸引井戸30から吸引を行うことが好ましい。
【0034】
注入井戸20、および吸引井戸30としては、汚染土壌の位置に相当する部分がスクリーン加工されたスクリーン井戸などが挙げられる。
注入井戸20、および吸引井戸30は、汚染土壌Xの広がりなどに応じて、それぞれ1本または複数本掘削される。
【0035】
注入井戸20には、注入井戸20を介して汚染土壌に空気を送り込むブロワ21が連結されている。
一方、吸引井戸30には、吸引井戸30を介して汚染土壌から空気や、気体状の汚染物質の分解物などを吸引するブロワ31が連結されている。
ブロワ21、31としては、バイオスパージングに用いられる公知のブロワを使用できる。
【0036】
上述したように、土壌の浄化に使用する微生物は好気性でもよいし、嫌気性でもよいが、微生物が好気性の場合は、注入井戸10から汚染土壌へ空気の注入を行うことで微生物がより活性化され、汚染土壌の浄化がより進行しやすくなる。
なお、汚染土壌の表層が通気性のよい場所であれば、注入井戸20を用いて空気の注入を行わなくても、自然に空気が汚染土壌に供給されるので微生物は活性化されるが、注入井戸20から積極的に空気を注入すれば、より効果的に微生物を活性化できる。
【0037】
ところで、微生物が好気性の場合、生物処理によって汚染物質が分解され汚染土壌が浄化されると、汚染物質の種類にもよるが、分解物としてシアン化水素など人体に影響を及ぼすガスが発生する場合がある。このような場合には、吸引井戸30を介して汚染土壌から空気や汚染物質の分解物であるガスを吸引することで、汚染土壌の浄化によって発生したガスが地表へ拡散するのを抑制できる。
【0038】
注入井戸20からの吸引および吸引井戸30からの吸引は、同時に行ってもよいし、交互に行ってもよいし、いずれか一方のみを行ってもよい。ただし、シアン化水素などのガスが発生する場合には、少なくとも吸引井戸30からの吸引を行うのが好ましい。
【0039】
なお、注入井戸20は空気の注入、吸引井戸30は空気やガスの吸引を目的として設けられる。空気やガスなどの気体は液体に比べて拡散範囲が広い。従って、従来のように井戸から活性剤水溶液を汚染土壌に注入する場合に比べて井戸の設置数が少なくて済むので、施工費用はかかりにくい。
【0040】
以上説明したように、本発明の浄化方法によれば、汚染土壌の表層に供給した水や活性剤水溶液を浸透によって汚染土壌中にまで供給するので、広範囲に水や活性剤水溶液を行渡らせることができる。従って、汚染領域が広範囲に及ぶ場合にも容易に対応でき、井戸からの注入方式に比べて不飽和帯の汚染土壌を低コストで十分に原位置浄化できる。
また、汚染土壌の水分量を測定し管理することで、生物処理による浄化に重要とされる水分を一定の範囲でコントロールでき、汚染土壌中の水分を適正量に維持できる。また、活性剤水溶液を供給する場合は活性剤の到達の程度も確認できる。従って、水や活性剤水溶液の過剰な供給を防ぐことができ、分解前の汚染物質の流出を抑制できる。加えて、汚染領域内において汚染濃度にムラがある場合でも、供給場所の汚染状態に応じて水活や活性剤水溶液の供給を調整できるので、汚染濃度に関係なく汚染土壌を十分に浄化できる。
【0041】
また、本発明においては、汚染土壌の表層に透水性の盛土やアスファルトを施工してから、水または活性剤水溶液を供給してもよい。供給前に施工を行えば、公園、グランド、駐車場などの土地を二次利用しながら原位置浄化できる。
また、アスファルトなどを施工した後で汚染土壌が確認された場合であっても、アスファルトなどが透水性であれば、その上から水または活性剤水溶液を供給すれば、水または活性剤水溶液は自然流下により汚染土壌中に浸透する。従って、改めて水や活性剤水溶液を供給するための井戸を掘削する必要がないので、低コストで原位置浄化できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[評価用土壌の作製]
シアン化合物により汚染された汚染土壌を掘り出した。掘り出した汚染土壌の遊離シアン含有量(F−CN含有量)を測定したところ、20mg/kgであった。
ついで、汚染土壌中のシアン濃度を均一にするために汚染土壌を十分に混練し、これを評価用土壌とした。
なお、土壌のF−CN含有量は、平成15年3月環境省告示第19号「土壌含有量調査に係る測定方法を定める件」に準拠して測定した。
【0044】
[活性剤水溶液の調製]
以下に示す2種類の活性剤水溶液A、Bを調製した。
なお、汚染物質分解微生物用の活性剤として用いた下記の混合物A、Bの使用量は、その合計が評価用土壌1kgに対して0.8kgに相当する量である。また、質量比(混合物A:混合物B)が1:5になるように、混合物A、Bの使用量を決定した。
【0045】
<活性剤水溶液A>
活性剤として、アミノ酸と炭水化物の混合物A(新日鉄エンジニアリング株式会社製、「NSバイオアクティ−CN1」)0.2gを50倍に希釈し、10mLの活性剤水溶液Aを調製した。
【0046】
<活性剤水溶液B>
活性剤として、アミノ酸と炭水化物の混合物B(新日鉄エンジニアリング株式会社製、「NSバイオアクティ−CN2」)1.0gを50倍に希釈し、10mLの活性剤水溶液Bを調製した。
【0047】
[実施例1]
<カラム試料の作製>
カラム試料の作製には、
図2に示すカラム41を用いた。
カラム41は、上部41aの直径d
1が26cm、底部41bの直径d
2が22.5cm、高さh
1が25.5cmであり、上部41aは解放状態となっている。また、底部41bは
図2に示すように上げ底状のメッシュ構造(目開き1mm)になっており、通気および通水が可能となっている。
このカラム41に、底部41bから高さh
2が約6cmの位置まで玉砂利を充填しこれを支持層42とした。この支持層42上に、嵩比重が1.5〜2.0kg/Lの範囲内になるように、高さh
3が約15cm(充填容積6.7Lに相当)の評価用土壌43を充填し、カラム試料40を作製した。
カラム41に充填した評価用土壌43の質量を測定し、下記式(1)から嵩比重を求めた。結果を表1に示す。
嵩比重[kg/L]=カラムに充填した評価用土壌の質量/充填容積 ・・・(1)
【0048】
得られたカラム試料40について、評価用土壌の圃場容水量を以下の手順で測定した。
まず、カラム試料40の質量を測定した。ついで、水を張ったバケツ内にカラム試料40を24時間浸漬して、評価用土壌43を水で飽和させた。その後、カラム試料40をバケツから揚げて24時間自然排水した。自然排水後のカラム試料40の質量を測定し、下記式(2)より圃場容水量を求めた。結果を表1に示す。
圃場容水量[kg]=自然排水後のカラム試料40の質量−飽和前のカラム試料40の質量 ・・・(2)
【0049】
また、自然排水後のカラム試料40について、評価用土壌の水分量をpF計(大起理化工業株式会社製、「DIKI−8343」)、および土壌水分センサー(デカゴン社製、「エコチック・ECH2Oプローブ EC−5」)を用いて測定し、質量測定によって求めた圃場容水量との相関関係を確認した。
【0050】
<浄化試験>
浄化試験を行うに際して、評価用土壌の水分量の管理設定値を「圃場容水量×1.0」、試験期間を1ヶ月に設定し、以下のようにして浄化試験を行った。
なお、評価用土壌の浄化は、汚染土壌にもとから生息する微生物を利用したバイオスティミュレーションを採用した。また、カラム41の底部41bはメッシュ構造であり通気が可能であるため、評価用土壌には常に空気が供給される。従って、浄化試験はバイオスパージングと同等とみなす。
【0051】
カラム試料40について、圃場容水量を測定した後、養生して管理設定値になった時点で評価用土壌43の表面に活性剤水溶液A(50mL)を供給した。
活性剤水溶液Aの供給から1週間経過した後、評価用土壌43の表面に活性剤水溶液B(250mL)を供給した。
活性剤水溶液Aの供給から1ヶ月経過した後にカラム41を解体し、評価用土壌のF−CN含有量を測定した。なお、カラム41に充填する前に評価用土壌のF−CN含有量を予め測定しておき、下記式(3)より浄化率を求めた。結果を表1に示す。
浄化率[%]={(浄化試験前のF−CN含有量)−(浄化試験前のF−CN含有量)}/(浄化試験前のF−CN含有量)×100 ・・・(3)
【0052】
また、浄化試験中(活性剤水溶液Aを供給してから1ヶ月)は1日に1回、カラム試料40の質量を測定し、この測定値から圃場容水量を測定したときに求めた「飽和前のカラム試料40の質量」を差し引いて、これを評価用土壌の水分量とした。そして、この質量測定によって求めた水分量の値が、先に設定した管理設定値から乖離25%以上の場合、水分量が不足と判断し、管理設定値となるように評価用土壌43の表面に水を供給することで水分管理を行った。
また、評価用土壌の水分量を測定するのに併せて、pF計および土壌水分センサーでも水分量を測定し、質量測定によって求めた水分量との相関関係を確認した。
【0053】
[実施例2、3]
実施例1と同様にしてカラム試料を作製し、各カラム試料について圃場容水量を測定した。結果を表1に示す。
評価用土壌の水分量の管理設定値を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして浄化試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
実施例1と同様にしてカラム試料を作製し、各カラム試料について圃場容水量を測定した。結果を表1に示す。
評価用土壌の水分量の管理設定値を表1に示す値に変更し、かつ活性剤水溶液A、Bを供給しなかった以外は、実施例1と同様にして浄化試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例2]
実施例1と同様にしてカラム試料を作製し、各カラム試料について圃場容水量を測定した。結果を表1に示す。
評価用土壌の水分量の管理設定値を表1に示す値に変更し、かつ水分管理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして浄化試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、各実施例の場合、浄化試験終了後の評価用土壌のF−CN含有量が浄化試験前に比べて著しく減少し、汚染土壌を十分に浄化できた。
実施例1〜3のうち、最も浄化率の値が高く浄化に優れていたのは、評価用土壌中の水分を圃場容水量75%で管理し、活性剤を添加した実施例2であった。
【0058】
ところで、実際に汚染土壌の浄化を行う現場では、pF計および土壌水分センサーなどの水分計を用いて汚染土壌の水分量を測定する。
しかし、本実施例では、より正確に測定できる観点で、質量測定によって評価用土壌の水分量を測定した。そこで、評価用土壌の水分量を測定するのに併せて、pF計および土壌水分センサーでも水分量を測定し、質量測定によって求めた水分量との相関関係を確認したところ、これらは常に一定の関係にあることが確認された。従って、質量測定によって水分量を求める方法は、水分計を用いて水分量を求める方法の代替として用いても、何ら支障がない。
【0059】
一方、活性剤水溶液を供給しなかった比較例1の場合、浄化試験による評価用土壌の浄化率は52.9%と低かった。すなわち、比較例1では汚染土壌が十分に浄化されなかった。
水分管理を行わなかった比較例2の場合、比較例1に比べると浄化率は上がったが、水分管理以外の浄化試験の条件が同じである実施例2と比べると浄化率は低かった。