(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
<ARスペクトル推定の説明>
以下、本発明の実施形態に適用するARスペクトル推定法について示す。
ARスペクトル推定法は、MUSIC法と同じくスペクトルを推定するスペクトル推定法として知られており、ARモデル(自己回帰モデル)を用いた推定処理を行う。
【0022】
ARスペクトル推定法は、まず線形式によって示されるARモデルを用いてモデル化して、入力データに基づいた正規方程式(自己相関行列や共分散行列と呼ばれる行列と、右辺ベクトルや相互相関ベクトルと呼ばれるベクトルも含まれる)を作成する。さらに、正規方程式に基づいて、ARフィルタの係数(AR係数)と入力白色雑音の分散値を求めた後、そのAR係数と入力白色雑音の分散値を用いてパワースペクトルを求め推定する手法である。入力データには、時系列のデータの他、本発明のレーダのような空間方向のチャネルデータでも適用できる。ARスペクトル推定法には、自己相関行列を用いた手法と共分散行列を用いた手法に大別され、自己相関行列を用いた手法として自己相関法(又は、ユールウォーカー法)とバーグ法があり、共分散行列を用いた方法として共分散法(Covariance Method)と改良共分散法(Modified Covariance Method)がある。また、改良共分散法は、前向き後向き線形予測法(FBLP Method;Forward and Backward Linear Prediction Method)とも呼ばれる。
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による電子走査型レーダ装置(FMCW方式ミリ波レーダ)について図面を参照して説明する。
図1は、同実施形態における電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。
この図において、本実施形態による電子走査型レーダ装置100Aは、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20Aを備える。
信号処理部20Aは、メモリ21、周波数分離処理部22A、周波数分解レベル検知部23A、ターゲット抽出部24、距離検出部25、速度検出部26、ターゲット確定部31、及び、方位スペクトル算出部30Aを備える。
【0024】
次に、
図1を参照して、本実施形態による電子走査型レーダ装置の動作を説明する。
受信アンテナ1−1〜1−nは、送信波がターゲットにて反射し、このターゲットから到来する反射波、すなわち受信波を受信する。
ミキサ2−1〜2−nは、送信アンテナ3から送信される送信波と、受信アンテナ1−1〜1−nそれぞれにおいて受信された受信波が増幅器により増幅された信号とを混合して、それぞれの周波数差に対応したビート信号を生成する。
送信アンテナ3は、三角波生成部9において生成された三角波信号を、VCO(Voltage Controlled Oscillator )10において周波数変調した送信信号をターゲットに対して送信波として送信する。
分配器4は、VCO10からの周波数変調された送信信号を、ミキサ2−1〜2−n及び送信アンテナ3に分配する。
【0025】
フィルタ5−1〜5−n各々は、それぞれミキサ2−1〜2−nにおいて生成された各受信アンテナ1−1〜1−nに対応したCh1〜Chnのビート信号に対して帯域制限を行い、SW(スイッチ)6へ帯域制限されたビート信号を出力する。
SW6は、制御部8から入力されるサンプリング信号に対応して、フィルタ5−1〜5−n各々を通過した各受信アンテナ1−1〜1−nに対応したCh1〜Chnのビート信号を、順次切り替えて、ADC(A/Dコンバータ)7に出力する。
ADC7は、SW6から上記サンプリング信号に同期して入力される、各受信アンテナ1−1〜1−n各々に対応したCh1〜Chnのビート信号を、上記サンプリング信号に同期してA/D変換してデジタル信号に変換し、信号処理部20におけるメモリ21の波形記憶領域に順次記憶させる。
制御部8は、マイクロコンピュータなどにより構成されており、図示しないROMなどに格納された制御プログラムに基づき、
図1に示す電子走査型レーダ装置全体の制御を行う。
【0026】
<距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理>
次に、図を参照し、本実施形態における信号処理部20Aにおいて用いられる電子走査型レーダ装置とターゲットとの距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理について簡単に説明する。
図2は、送信信号と、ターゲットに反射された受信信号が入力された状態を示す図である。
この図に示される信号は、
図1の三角波生成部9において生成された信号をVCO10において周波数変調した送信信号と、その送信信号をターゲットが反射して、受信された受信信号である。この図の例では、ターゲットが1つの場合を示す。
図2(a)から判るように、送信する信号に対し、ターゲットからの反射波である受信信号が、ターゲットとの距離に比例して右方向(時間遅れ方向)に遅延されて受信される。さらに、ターゲットとの相対速度に比例して、送信信号に対して上下方向(周波数方向)に変動する。そして、
図2(a)にて求められたビート信号の周波数変換(フーリエ変換やDTC、アダマール変換、ウェーブレッド変換など)後において、
図2(b)に示されるように、ターゲットが1つの場合、上昇領域及び下降領域それぞれに1つのピーク値を有することなる。ここで、
図2(a)は横軸が周波数、縦軸が強度を示す。
【0027】
周波数分解処理部22Aは、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)のそれぞれについて周波数分解、例えばフーリエ変換などにより離散時間に周波数変換する。すなわち、周波数分解処理部22Aは、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解する。そして、周波数分解処理部22Aは、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データを算出する。
【0028】
その結果、
図2(b)に示すように、上昇部分と下降部分とにおいて、それぞれの周波数分解されたビート周波数毎の信号レベルのグラフが得られる。
【0029】
次に、距離検出部25は、ターゲット抽出部24から入力される上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、下記式により距離rを算出する。式中の「・」は乗算を示し、「/」は除算を示す。
r={C・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}
また、速度検出部26は、ターゲット抽出部24から入力される上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、下記式により相対速度vを算出する。
v={C/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}
上記距離r及び相対速度vを算出する式において、
C :光速度
Δf:三角波の周波数変調幅
f0
:三角波の中心周波数
T :変調時間(上昇部分/下降部分)
fu
:上昇部分におけるターゲット周波数
fd
:下降部分におけるターゲット周波数
【0030】
次に、本実施形態における受信アンテナ1−1〜1−nについて示す。
図3は、受信アンテナにおける受信波の説明を行う概念図である。
この図に示されるように、受信アンテナ1−1〜1−nは、間隔dによりアレー状に配置される。受信アンテナ1−1〜1−nには、アンテナを配列している面に対する垂直方向の軸に対して角度θ方向から入射される、ターゲットからの到来波(入射波、すなわち送信アンテナ3から送信した送信波に対するターゲットからの反射波)が入力する。このとき、その到来波は、受信アンテナ1−1〜1−nにおいて同一角度にて受信される。この同一角度、例えば角度θ及び各アンテナの間隔dにより求められる位相差「d
n−1・sinθ」が、各隣接する受信アンテナ間にて発生する。
その位相差を利用して、アンテナ毎に時間方向に周波数分解処理された値を、高分解能アルゴリズム等の信号処理にて上記角度θを検出することができる。
【0031】
<信号処理部20Aにおける受信波に対する信号処理>
次に、
図1を参照し、信号処理部20Aの一態様について示す。
信号処理部20Aを以下に示すように構成する。
メモリ21は、ADC7により波形記憶領域に対して、受信信号がA/D変換された時系列データ(上昇部分及び下降部分)を、アンテナ1−1〜1−n毎に対応させて記憶している。
周波数分解処理部22Aは、例えばフーリエ変換などにより、各Ch1〜Chn(各アンテナ1−1〜1−n)に対応するビート信号それぞれを、予め設定された分解能に応じて周波数成分に変換することによりビート周波数を示す周波数ポイントと、そのビート周波数の複素数データを出力する。
ここで、アンテナ毎の複素数データには、上記角度θに依存した位相差があり、それぞれの複素数データの複素平面上における絶対値(受信強度あるいは振幅など)は等価である。
周波数分解処理部22Aは、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、受信チャンネル(CH)のそれぞれで、フーリエ変換(FFT)等の周波数分解処理を行い、ビート周波数(ドップラーシフトを含めた距離に相当)ポイント毎に振幅(又は電力)レベルを算出する。
【0032】
周波数分解レベル検知部23は、受信チャンネル毎の複素数データを平均した周波数スペクトルにより、振幅レベルを検知する。周波数分解レベル検知部23は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、最大値(尖頭値)を示すピークの周辺に存在し、最大値より小さな極大値(準尖頭値)を示すピークを含む周辺ポイントも演算対象とすることにより、多くの周波数(距離)ポイントを検知する。周波数分解レベル検知部23は、設定した閾値に基づいて、全受信チャンネルを平均した周波数スペクトルの振幅レベルを判定し、判定して選択された受信チャンネル毎の複素数データを有効な情報として抽出する。検知したポイントの受信チャンネル毎のデータを、抽出された複素数データと呼ぶ。このような処理により、周波数分解レベル検知部23は、後段の方位スペクトル推定処理に不要な情報を除去することができる。周波数分解レベル検知部23は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)の処理をそれぞれ別々に独立して行う。
なお、周波数分解レベル検知部23は、複素数データを要素とする行列の固有値の大きさに基づいて、信号処理部20Aにおけるスペクトル推定処理に有効とされる複素数データであるか否かを判定し、複素数データを抽出してもよい。
【0033】
方位スペクトル算出部30Aは、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、レベル検知範囲(つまり抽出された複素数データ)の方位スペクトルとしてARスペクトル(=パワースペクトル)を算出する。
また、方位スペクトル算出部30Aは、AR係数を算出する際に、同時に白色雑音の分散値も算出する。
なお、以下の説明においては、方位スペクトル算出部30Aは、2次の改良共分散法(=前向き後向き線形予測法)によるARスペクトル推定を実施するものとして説明するが、バーグ(Burg)法等の他のスペクトル推定法を利用することも可能である。
【0034】
ターゲット抽出部24は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、周波数ポイント毎にARスペクトルのピークを算出し、ポイント毎のピーク数と角度を検知するARピーク検知処理を行う。
さらに、ターゲット抽出部24は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、同一の周波数ポイントにおいて、複数のピークが検出されたポイントにつては再度1次の改良共分散法によるスペクトル推定処理を行う。
また、ターゲット抽出部24は、後段の組合せ処理を行い易くするため、ピークをグループ化するグループ化処理を行う。このグループ化処理は、ターゲット単位に行われる。グループ化処理では、それぞれのピークを対象とし、特定のピークを基準にして、所定の距離と角度とにより定められる一定領域内に、他のピークが入るか否かを判定して、グループ化する。全てのグループには、そのターゲットまでの平均距離、そのターゲットを見込む平均角度の情報を、グループ毎それぞれに持たせる。また、複数のグループの方には、さらに平均相対レベル差の情報を持たせる(
図11参照)。
また、ターゲット抽出部24は、上記のように、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)に分けてそれぞれ処理してきた結果に基づいて、上りと下りの検出結果としてグループ化されたピークのグループを、さらに組合せるグループの組合せ処理を行う。
【0035】
距離検出部25は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組合せのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの上記距離rを演算する。
また、速度検出部26は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組合せのビート周波数の差分によりターゲットとの上記相対速度vを演算する。
【0036】
ターゲット確定部31は、距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位スペクトル算出部30Aによって算出されたターゲットの方位とを結びつける。
【0037】
続いて、
図1から
図12を参照し、信号処理部20Aにおける受信波に対する信号処理について示す。
図4は、信号処理部20Aにおける処理の手順を示すフローチャートである。
この
図4に示されるフローチャートは、第1手段、第2手段、第3手段を組合せた手順を示している。また、
図5〜
図12は、
図4のフローチャートにおいて示される信号処理部20Aにおける処理をそれぞれ説明する図である。
【0038】
まず、ステップS001において、周波数分解処理部22Aは、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)とのそれぞれについて受信チャンネル毎に周波数分解処理を行う。そして、周波数分解処理部22Aは、ビート周波数に分解されたポイント毎の複素数データから、振幅(又は電力)レベル(周波数スペクトル)を算出する。
【0039】
ステップS002において、周波数分解レベル検知部23は、受信チャンネル毎の複素数データを平均した周波数スペクトルにより、振幅レベルを検知する。周波数分解レベル検知部23は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、最大値(尖頭値)を示すピークの周辺に存在し、最大値より小さな極大値(準尖頭値)を示すピークを含む周辺のポイントも演算対象として、複数の周波数(距離)ポイントを検知する。
ここで、ステップS001とS002における処理を模式化した
図5(a)を参照して説明する。
図5(a)に示すように、チャンネルCH1からCHnまでのそれぞれのチャンネルにおいて、自装置からの距離に対するビート信号の振幅レベルをそれぞれグラフ化して示すことができる。特定の距離ポイントにターゲットがある場合、ビート信号の振幅レベルが大きくなる。例えば、連続した特定の周波数(距離)ポイントを抽出できるような、比較的低レベルの閾値Thfとして設定し、その閾値Thfに従って受信チャンネル(CH)の振幅レベルを判定する。
閾値Thfより大きな振幅レベルを示す距離ポイントにおいて、受信チャンネル毎の複素数データを抽出する。
【0040】
図4に戻り、ステップS003において、方位スペクトル算出部30Aは、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、レベル検知範囲(つまり抽出された複素数データ)の、方位スペクトルとしてARスペクトル(=パワースペクトル)を算出する。
例えば、
図5(b)に示すように、複数の距離ポイント(Pt(n−2),Pt(n−1),Pt(n),Pt(n+1)、Pt(n+2))においてそれぞれARスペクトルが算出された場合を示す。それぞれの距離ポイントにおいて算出されたARスペクトルにおいて、それぞれのピークは、角度が「−a」近傍、又は「+a」近傍に集中している。なお、距離ポイントPt(n−2)において算出されたARスペクトルでは、角度が「+a」近傍のみであり、距離ポイントPt(n+2)において算出されたARスペクトルでは、角度が「−a」近傍のみであったとする。また、この演算結果は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)のいずれか一方についての場合を示すものである。
【0041】
図4に戻り、ステップS004において、ターゲット抽出部24は、ARピーク検知処理として、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、距離ポイント毎にピークを算出し、距離ポイント毎のピーク数と角度を検知する。
例えば、
図5(c)において、
図5(b)に示した算出結果から、ピークが検出された位置を「黒点(・)」で示す。また、「黒点(・)」が四角で囲まれている距離ポイント(Pt(n−1),Pt(n),Pt(n+1))においては、同じ距離ポイントにおいて複数のピークが検出された地点を示す。なお、この演算結果は、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)のいずれか一方についての場合を示すものである。
【0042】
図4に戻り、ステップS005において、ターゲット抽出部24は、相対レベル差算出処理として、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、同一の距離ポイントにおいて、複数のピークが検出されたポイントにつては再度1次の改良共分散法によるスペクトル推定処理を行う。具体的な処理の手順については、後述する。
例えば、ステップS005において算出された結果から、2つのピーク間の角度差が得られている。
図6(a)に示す方法により、1次のARスペクトル推定処理からピークの角度が得られる。これらの関係、すなわち、得られた2つのピークの角度と1次のARスペクトル推定処理から得られるピークの角度との関係から、相対レベル差を算出する。相対レベル差を算出する近似式は、例えば2つのピーク間の角度差(相対角度)毎に近似多項式を予め複数設けておくこともでき、また、それらの式をテーブル化しておいても良い。
図6(b)は、相対レベル差に対する1次のARスペクトル推定処理によるピークの角度の関係を近似多項式によって示したものである。この図に示される近似多項式を1次式とした場合、縦軸との切片を、前述の得られた2つのピーク間の角度差の中心角度とする。近似多項式の傾きは、予め定めておくことができる。このような線形式に従うことにより、1次のARスペクトル推定処理から得られたピークの角度から、2つのピークの相対レベル差を算出することができる。
【0043】
図7は、その処理の過程で作成する正規方程式を示す。
この
図7に示される正規方程式においては、次数が2次の場合の正規方程式を式(1)として示し、次数を下げた1次の場合の正規方程式を式(2)として示している。
【0046】
式(1)と式(2)において、左辺が相関行列とAR係数ベクトルとの積であり、右辺が右辺ベクトルである。相関行列の要素又は右辺ベクトルの要素であるC
xM(*,*)、及びAR係数ベクトルの要素であるa
Mは、それぞれが複素数である。なお、MがARモデルの次数(ARモデル次数)を示す。
また、相関行列の要素又は右辺ベクトルの要素であるC
xM(*,*)は、式(3)として示される改良共分散関数から導かれる。
【0048】
式(3)において、x(n)が入力データを示し、Nがデータ数を示し、MがARモデルの次数(ARモデル次数)を示し、x(n−j)又はx(n+k)の添え字の「*」が複素共役を示し、kとjが変数を示す。
例えば、式(1)、式(2)を解くことによりAR係数ベクトル(AR係数)を求めることができる。そのAR係数から、受信波数と角度とを以下に示す方法により求めることができる。AR係数から、受信波数と角度とを求める第1の方法は、単位円をサーチすることによりパワースペクトルを求める方法である。その第2の方法は、高次多項式の解(根)を求める方法である。
【0049】
ここで、
図8は、前述のステップS003からS005までの詳細な処理の手順を示すフローチャートである。
図4と同じ処理には、同じ符号を附す。
ステップS003において方位スペクトル算出部30Aによって行われる処理を、例えばステップS301からS304に示すように分解することができる。
まず、ステップS301において、複素数データを抽出する。
ステップS302において、抽出した複素数データに基づいて、次数を2次とした正規方程式を作成する。
ステップS303において、作成した次数を2次とした正規方程式を解いて、AR係数と白色雑音の分散値とを算出する。正規方程式を解く計算としては、コレスキー分解などの計算方法を使用できる。
ステップS304において、次数を2次として算出したAR係数と白色雑音の分散値とからパワースペクトルを算出する。
そして、前述したようにターゲット抽出部24は、ステップS004において、算出されたパワースペクトルに基づいて、ピーク数と角度が検知される。
【0050】
また、ステップS005においてターゲット抽出部24によって行われる処理を例えばステップS501からS506に示すように分解することができる。
まず、ステップS501において、ステップS004によって検知されたピーク数が2であるか否かを判定する。その判定の結果、ピーク数が2でない(ステップS501:NO)である場合、相対レベル差算出処理(ステップS005)を終える。一方、その判定の結果、ピーク数が2である(ステップS501:YES)場合、ステップS502の処理に進む。
【0051】
ステップS502において、抽出した複素数データに基づいて、次数を1次とした正規方程式を作成する。
ステップS503において、作成した次数を1次とした正規方程式を解いて、AR係数と白色雑音の分散値とを算出する。
ステップS504において、次数を1次として算出したAR係数と白色雑音の分散値とからパワースペクトルを算出する。
ステップS505において、算出されたパワースペクトルに基づいて、ピークの角度が検知される。
ステップS506において、ステップS505において検知されたピークの角度に基づいて、後述する相対レベル差算出処理を行い、相対レベル差算出処理(ステップS005)を終える。
【0052】
(相対レベル差算出処理の原理)
次に、2つのターゲットの方位スペクトルを推定する場合を例にして相対レベル差算出処理の原理について示す。
図9は、2つのターゲットに対して、次数を2次として推定されたスペクトル(方位スペクトル)と、次数を1次として推定されたスペクトル(方位スペクトル)とを示す図である。
図9(a)に示すように、電子走査型レーダ装置100Aを搭載した車両の前方正面と、前方正面より角度θ1(例えば、4.8deg(度))だけ左に寄った位置とにターゲットが配置された場合を示している。
図9(b)は、ターゲットの受信相対レベル差が等しい場合の、スペクトル推定結果を示す。次数を2次として推定されたスペクトルが示す2つのピークPb21、Pb22の角度は、それぞれ+4.8度と0度を示す。
縦軸によって示されるパワーの値は、繰り返して検出を行うと検出されたタイミングに応じて変動する。そのため、
図9(b)は、ある特定のタイミングに検出されたパワーの波形を3データ分重ねて示すものであり、また、繰り返し検出された結果をさらに多く重ねて示す場合には、図中の矢印によって示される範囲でピークの値がさらに変動する。そのため、この
図9(b)に示される波形、すなわちスペクトルの波形によって示されるピークの値からは、相対レベル差を得ることができない。
このような条件により検出されるターゲットを、次数を1次としてスペクトル推定した結果を対比して示す。次数を1次として推定されたスペクトルのピークは、安定したパワーレベルで2.4(度)に表れる。つまり、次数を1次として推定されたスペクトルのピークは、2つのターゲットをみなす角であるθ1の半分の角度として検出することが可能となる。
【0053】
一方、
図9(c)は、左のターゲットの方が右のターゲットより受信相対レベルが大きい場合の、スペクトル推定結果を示す。次数を2次として推定されたスペクトルが示す2つのピークPb21、Pb22の角度は、それぞれ+4.8度と0度を示す。
縦軸によって示されるパワーの値は、繰り返して検出を行うと検出されたタイミングに応じて変動する。そのため、
図9(c)は、ある特定のタイミングに検出されたパワーの波形を3データ分重ねて示すものであり、また、繰り返し検出された結果をさらに多く重ねて示す場合には、図中の矢印によって示される範囲でピークの値がさらに変動する。そのため、この
図9(c)に示される波形、すなわちスペクトルの波形によって示されるピークの値からは、相対レベル差を得ることができない。
しかし、次数を1次として推定されたスペクトルのピークは、2次のスペクトルにおいて検出されたピークPc21側に寄った角度として安定して検出される。
このように、次数を1次としてスペクトル推定した結果のスペクトルは、相対レベル差が同じ場合には2ターゲットの中心の角度を示すが、相対レベル差が生じるとレベルの高い方に引き寄せられる。これは、ARスペクトル推定が、受信波の振幅レベルの高い方に合わせて近似させようとすることにより生じる。
【0054】
図10は、2つの受信波の振幅レベル差によるピーク角度の変化を示す図である。
この
図10に示されるグラフは、
図9に示したように、2つのターゲットからの受信波の振幅レベルを変化させた場合に、検出されるピーク角度が変化する様子を示している。
図9(a)に示したように2つのターゲットのみなし角度θ1を所定の角度(例えば、θ1=4.8deg)に定めた場合について示す。このグラフは、縦軸が検出されたピーク角度、横軸が左右の相対レベル差を示す。横軸は、左になるほど左側のターゲットからの受信波の振幅(レベル)が大きく、右になるほど右側のターゲット、すなわち正面のターゲットからの受信波の振幅が大きくなることを示す。
左右の相対レベル差を変化させて、ピークの角度をグラフにプロットし、相関式(多項式)にて近似する。
このグラフに示されるように、中心角度(この場合、2.4deg)を基準に、対称に分布するので、相関式には多項式近似で対応できる。本実施形態によれば、この相関式により、±10dBの範囲であれば正確な左右レベル差を算出することが可能となる。また、±10dB以上のレベル差が生じていたとしても、振幅レベルの大きい方の角度に近づくので、振幅レベルのレベル差が大きいと判断できる。
このように、複数のピーク間の角度の差と、複数のピーク間の相対レベル差との関係を示す相関式に従って、ターゲット抽出部24は、次数を下げて算出されたスペクトル(第2の方位スペクトル)に基づいて算出されたピーク角度に基づいて相対レベル差を算出する。
【0055】
図4に戻り、ステップS006において、ターゲット抽出部24は、グループ化処理として、後ステップの組合せ処理を行い易くするため、検出されたピークをターゲット単位にグループ化する。そのグループ化には、1つ1つの(個々の)ピークを基準にして、ターゲットに対する距離方向と角度方向とにおいて予め定められる所定の距離と角度を基準とする領域を単位としてグループ化する。そして、同一の距離ポイントに存在するグループが単数である場合のグループと、複数である場合にグループとに分ける。またそれぞれのグループには、平均距離、平均角度の情報を持たせる。複数のグループには、そのグループ間の振幅レベルのレベル差を示す平均相対レベル差の情報をさらに持たせる(
図11参照)。
【0056】
ステップS007において、ターゲット抽出部24は、上記のステップS006まで個別に処理してきた上りと下りのグループについて組合せる組合せ処理を行う。
図12(a)は、角度情報だけでは複数の組合せパターンが存在する場合の一例を示している。このような場合であっても、グループの組合せを相対レベル差に基づいて行うことよってグループ化できる。
例えば、同一のグループであると判定する条件を、次のように定めるとする。
それぞれのグループの角度が一致するか否かを判定条件とする、すなわち、基準とするピークを中心として所定の角度範囲(±α(deg))に含まれる角度範囲であるか否かを判定条件とする。
かつ、それぞれのグループの相対レベル差が一致するか否かを判定条件とする、すなわち、基準とするピークの相対レベル差が所定の相対レベル差の範囲(±β(dB))に含まれるレベル範囲であるか否かを判定条件とする。
図12(a)では、相対レベル+5dBの組み合わせ(レベル+5dB)と、相対レベル−2dBの組み合わせ(レベル−2dB)が決定する。なお、組合せの条件は、
図12に示した形態に限られず、前回サイクルの確定結果からの予測など、公知の手法との併用が可能である。
【0057】
図4に戻り、続いて、ステップS008において、組合せたグループにおける距離と相対速度を算出し、ステップS009において、既知の角度を含めてターゲットを確定する。
【0058】
このように、電子走査型レーダ装置100Aは、自己回帰モデルを用いるスペクトル推定法により、受信波の到来方向を算出することができる。
なお、本実施形態において、周波数分解レベル検知部23が第1手段として機能する。方位スペクトル算出部30Aが第2手段として機能する。ターゲット抽出部24が第3手段として機能する。
【0059】
(第2実施形態)
次に、
図13から
図20を参照し、本実施形態による電子走査型レーダ装置について説明する。
本実施形態では固有値計算による次数推定を行う。例えば、3次の正規方程式の共分散行列から固有値を計算し、その固有値から次数推定を行う。ここでは、固有値計算により算出される最大(又は総和)の固有値に基づいて判定することにより、前述の周波数分解レベル検知部23と同様に、ビート信号の振幅レベルを判定する閾値を設け、連続した多ポイントが検知できるようにする。
また、次数推定の過程において、2次と推定された場合には、1次と2次のARスペクトル推定をそれぞれ行う。
【0060】
図13は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態における信号処理部20Bは、第1実施形態と同様に、方位推定を高分解能アルゴリズムで行う。
図1に示す第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、以下第1実施形態との相違点について説明する。
この図において、本実施形態による電子走査型レーダ装置100Bは、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20Bを備える。
信号処理部20Bは、メモリ21、周波数分離処理部22B、次数推定部27、ターゲット抽出部24、距離検出部25、速度検出部26、ターゲット確定部31、及び、方位スペクトル算出部30Bを備える。
【0061】
信号処理部20Bにおいて周波数分解処理部22Bは、アンテナ毎の上昇領域と下降領域とのビート信号を複素数データに変換し、そのビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データとを次数推定部27へ出力する。
次に、周波数分解処理部22Bは、上昇領域及び下降領域それぞれについて該当する複素数データを、方位スペクトル算出部30Bへ出力する。この複素数データが、上昇領域及び下降領域のそれぞれのターゲット群(上昇領域及び下降領域において連続した特定のビート周波数)となる。
次数推定部27は、供給される複素数データに基づいて次数推定を行う。ここで、次数推定部27は、モデル次数推定処理における最大固有値判定を行う。
方位スペクトル算出部30Bは、次数推定部27によって推定された結果により、2次と推定された周波数ポイントについて、次数を2次と1次とするスペクトル推定処理を行う。
方位スペクトル算出部30Bは、上昇部分(上り)及び下降部分(下り)共、レベル検知範囲(つまり抽出された複素数データ)の、ARスペクトル(=パワースペクトル)を算出する。
なお、方位スペクトル算出部30Bは、改良共分散法(=前向き後向き線形予測法)によるARスペクトル推定を実施するものとして説明するが、バーグ(Burg)法等の他のスペクトル推定法を利用することもできる。
また、方位スペクトル算出部30Bは、AR係数を算出する際に、同時に白色雑音の分散値も算出する。
【0062】
続いて、
図14から
図20を参照し、信号処理部20Bにおける受信波に対する信号処理について示す。
図14は、信号処理部20Bにおける処理の手順を示すフローチャートである。
図4、
図8と同じ処理を行うステップには、同じ符号を附す。
図15から
図20は、
図14に示される処理を説明する図である。
【0063】
ステップS002aにおいて、次数推定部27は、複素数データに基づいて作成される正規方程式の構成部である行列から、算出された固有値に基づいた次数推定処理を行う。
図15は、次数推定部27による次数推定処理の一実施手順を示すフローチャートである。
ステップS002aの処理として、ステップS201において、次数推定部27は、正規方程式の構成部である共分散行列(又は自己相関行列)を作成し、ユニタリ変換を行う。
ステップS202において、次数推定部27は、ユニタリ変換された行列(共分散行列又は自己相関行列)の固有値を算出する。
図16は、固有値計算について示す図である。
ユニタリ変換を行うことにより、実数の相関行列に変換することができ、以降におけるステップでの最も計算負荷の重い固有値計算が実数のみの計算とすることができ、大幅に演算負荷を軽減することができる。
本実施形態に示すように次数を3次とした場合には、ユニタリ変換による、エルミート行列の実数相関行列(対称行列)化は、式(4)として示される演算式によって行うことができる(一般式は、参考文献(菊間、「アダプティブアンテナ技術」(オーム社、2003年、pp158-160)を参照)。
【0065】
式(4)において、右肩に付したHは、エルミート転置を示す。
なお、このユニタリ変換を行うことにより、後段処理の固有値計算の負荷を軽減させることができ、また、信号相関抑圧効果も期待できる。そのため、ユニタリ変換による実数相関行列への変換を行わずに、次のステップにおける固有値計算も複素数で計算することも可能であるが、ユニタリ変換による実数相関行列への変換を実施することが望ましい。
また、固有値計算は、式(5)、式(6)として示す式によって行うことができる。
【0068】
固有値計算は、固有ベクトルの処理を削減したもので良く、式(6)の固有方程式を直接解く他、任意の解法アルゴリズムを適用できる。例えば、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復計算タイプのアルゴリズムも適用できる。
【0069】
図15に戻り、ステップS203において、得られた最大となる固有値(最大固有値)を判定する。ステップS204において、次数推定部27は、算出された固有値が予め定めた閾値以上の値を示した場合には、それぞれ算出された固有値を、算出された固有値の最大の値に基づいて正規化する。
ステップS205において、次数推定部27は、正規化された固有値の値を予め定められる閾値に基づいて判定し、その判定結果に基づいて後段の処理の次数を選択する。
上記のステップS203からS205までの一連の処理をモデル次数推定処理と呼ぶ。ステップS203からS205に示すモデル次数推定処理の具体的な実施態様については、後述する。
また、
図14に戻り、ステップS003aにおいて、方位スペクトル算出部30Bは、推定された次数に従ってARスペクトル算出処理の次数を定め、ARスペクトルの算出処理を行う。
【0070】
図17は、
図15のステップ203からステップS205までに示したモデル次数推定処理の詳細を示す図である。
ステップS203aは、ステップS203に対応する最大固有値判定処理である。ステップS203aによる判定により、予め設定した閾値(λmax_th)よりも最大固有値の値(λa)が小さい場合(ステップS203a:No)には、ステップS203bにおいて、得られた情報(複素数データ)から反射レベルが小さな物体であると判定し、次数推定部27は、該当ターゲットに対しての次ステップの次数推定処理及び方位検知処理を行わなくする。最大固有値は、入力信号の強度と等価(比例する)であることから、路面マルチパス等の車載用レーダ特有のクラッタ状況による信号を受信するような場合であっても、最大固有値の値を判定することにより、間違った方位推定となることを抑制することができる。また、次数推定部27は、最大固有値の代わりに、算出した固有値の総和(又は、元の相関行列の対角要素の和)を用いて判定しても良い。
つまり、このステップS203bでは、次数推定及び方位検出の双方をキャンセルすることができるので、第1実施形態の周波数レベル検知(ステップS002)と同様の機能を持たせることができる。
【0071】
ステップS203aによる判定により、予め設定した閾値よりも最大固有値の値が小さくない場合(ステップS203a:Yes)には、ステップS204aの処理は、ステップS204に対応する固有値の正規化処理であり、各固有値λxを最大固有値λaでそれぞれ除算した値を正規化固有値λyとする。レーダのように、ターゲットとの距離によって固有値(信号強度)が変動する場合は、正規化して相対的に固有値間の大小関係を判定した方が、容易に判定できる。
【0072】
ステップS205aからS205eまでは、次数推定部27が行うステップS205に対応する次数推定処理である。
ステップS205aでは、ステップS204aにおいて正規化処理された固有値の中から2番目に大きな固有値(正規化第2固有値)を選択し、正規化第2固有値が予め定められる閾値Th1より小さいか否かを判定する。判定の結果、正規化第2固有値が予め定められる閾値Th1より小さくないと判定した場合(ステップS205a:No)には、ステップS205cに進む。
【0073】
ステップ205bでは、ステップS205aにおける判定の結果、正規化第2固有値が予め定められる閾値Th1より小さいと判定した場合(ステップS205a:Yes)には、推定次数を1次に定め、図示されない推定次数情報を記憶する記憶領域に記録し、次数推定処理を終える。
【0074】
ステップS205cでは、ステップS204aにおいて正規化処理された固有値の中から3番目に大きな固有値(正規化第3固有値)を選択し、正規化第3固有値が予め定められる閾値Th2より小さいか否かを判定する。判定の結果、正規化第3固有値が予め定められる閾値Th2より小さくないと判定した場合(ステップS205c:No)には、ステップS205eに進む。
【0075】
ステップ205dでは、ステップS205cにおける判定の結果、正規化第3固有値が予め定められる閾値Th2より小さいと判定した場合(ステップS205c:Yes)には、推定次数を2次に定め、図示されない推定次数情報を記憶する記憶領域に記録し、次数推定処理を終える。
【0076】
ステップ205eでは、ステップS205cにおける判定の結果、正規化第3固有値が予め定められる閾値Th2より小さくないと判定した場合(ステップS205c:No)には、推定次数を3次に定め、図示されない推定次数情報を記憶する記憶領域に記録し、次数推定処理を終える。
【0077】
このようにステップS205aからS205eまでの次数推定処理において、次数1と次数2以上とを分別する閾値Th1と、次数2と次数3とを分別する閾値Th2の2種類の閾値で構成している。このような閾値の構成とすることにより、複数のターゲットの時に、ARスペクトル推定精度に有利な高次設定寄りに設定できるので、ARスペクトル推定を用いた車載用レーダ特有の設定に適用できる。
【0078】
図18は、その処理の過程で作成する正規方程式を示す。
ここ図に示される正規方程式においては、次数が1次から3次の場合の正規方程式を式(7)から式(9)として、それぞれ示している。
【0082】
式(7)から式(9)において、左辺が相関行列とAR係数ベクトルとの積であり、右辺が右辺ベクトルである。相関行列の要素又は右辺ベクトルの要素であるC
xM(*,*)、及びAR係数ベクトルの要素であるa
Mは、それぞれが複素数である。なお、MがARモデルの次数(ARモデル次数)を示す。
また、相関行列の要素又は右辺ベクトルの要素であるC
xM(*,*)は、式(10)として示される改良共分散関数から導かれる。
【0084】
式(10)において、x(n)が入力データを示し、Nがデータ数を示し、MがARモデルの次数(ARモデル次数)を示し、x(n−j)又はx(n+k)の添え字の「*」が複素共役を示し、kとjが変数を示す。
例えば、式(7)から式(9)を解くことによりAR係数ベクトル(AR係数)を求めることができる。そのAR係数から、受信波数と角度とを以下に示す方法により求めることができる。AR係数から、受信波数と角度とを求める第1の方法は、単位円をサーチすることによりパワースペクトルを求める方法である。その第2の方法は、高次多項式の解(根)を求める方法である。
方位スペクトル算出部30Bは、推定次数に応じて、正規方程式の次数を定める。方位スペクトル算出部30Bは、推定次数が1の場合は、次数1の正規方程式に基づいてAR係数ベクトルを求め、推定次数が2の場合は、次数1と次数2の正規方程式に基づいてAR係数ベクトルを求め、推定次数が3の場合は、次数3の正規方程式に基づいてAR係数ベクトルを求める。
【0085】
次に、第1実施形態と第2実施形態において、同一制御サイクルでデータを多数取得する場合に適用できる例を示す。
図19は、検知サイクルにおけるデータ取得処理を示すタイムチャートである。
図19には、今回制御(検知)サイクルからさかのぼって、過去に行われた過去制御(検知)サイクルが示されている。
各サイクルでは、少なくとも1回のデータ取得が行われ、1回のデータ取得を三角の波形で示す。三角の波形は、FMCW方式によって変調された信号を示し、右上がりのタイミングにおいて上り、右下がりのタイミングにおいて下りの検知が行われる。
個々のデータ取得は、干渉が生じないだけの時間間隔が確保され繰り返し行われ、三角波の周波数変調周期は、必ずしも同一でなくても良い。
今回制御(検知)サイクルにおいて、P回のデータ取得が行われ、1回目に行われたデータ取得を「今回データ_1取得」として示し、P回目に行われたデータ取得を「今回データ_P取得」として示す。
同じサイクル内で取得されたデータに基づいて、後に示す各種処理の平均化処理が行われる。
また、現在データ取得されている制御(検知)サイクルを「今回制御(検知)サイクル」といい、「今回制御(検知)サイクル」より過去に行われた制御(検知)サイクルを「過去制御(検知)サイクル」という。
【0086】
<ARモデルを用いた正規方程式の作成処理の原理>
次に、ARモデルを用いた正規方程式の作成処理について、改良共分散法を例にして詳細に示す。
共分散行列を用いた正規方程式を式(11)に示す。
【0088】
式(11)において、左辺が共分散行列C
xxとAR係数ベクトルaの積であり、右辺が右辺ベクトルc
xxである。
共分散行列C
xxの要素は、式(12)として示される関係式によって導かれる。
【0090】
以下、具体的な構成として5チャンネルのデータから3次の処理を行う場合を例として示す(最大モデル次数は任意に設定できるが、5チャンネルのデータの場合、改良共分散法では3次が最大となる。データのチャンネル数をさらに多くできると、正規方程式に適用できる最大次数も大きくなり、適用する最大モデル次数の柔軟性が増す。)。
共分散行列C
xxは、3行3列の行列式で表すことができ、その式を式(13)として示す。
【0092】
式(13)において、行列の各要素C
x3(k,j)は、複素数を示す。各要素について展開した演算式を合わせて示す。x(n)、すなわち、(x(0)、x(1)、x(2)、x(3)、x(4))は、それぞれが複素数データであり、「*」は、複素共役を示す。
式(13)に示されるように、共分散行列C
xxは、式(14)として示される関係があることから、エルミート行列(複素数対称行列)となる。
【0094】
また、同様に、3次の処理を行う場合の右辺ベクトルc
xxを式(15)として示す。
【0096】
入力白色雑音の分散σ
v2を導く関係式を、式(16)として示す。
【0098】
ARモデルによる線形予測では、予測値と観測値の差(予測誤差)の最小2乗誤差、又は、平均2乗誤差が最小となる条件から、この正規方程式が導かれる。
この正規方程式を一般的な手法により解くことにより、AR係数が導かれる。
また、式(16)によって算出される入力白色雑音の分散σ
v2に基づいて、パワースペクトルSxx(ω)を算出する演算式を式(17)として示す。
【0100】
式(17)において、ωは角速度を示し、H
AR(ω)は、角速度ωにおけるARフィルタの伝達関数からの周波数特性を示し、Svv(ω)は、角速度ωにおける入力白色雑音のパワースペクトルを示し、Svv(ω)=σ
v2と表せる。ここの角速度ωは、本発明のレーダのような方向検出に利用する場合には、受信波の位相差に換算する。
以上に示した演算式を用いることにより、ターゲットの方向と合致したピークの特徴を持つスペクトルを導くことができる。
【0101】
図20は、取得された複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理を示す図である。
図20に示されるM次の正規方程式は、M次の正方行列である共分散行列と、M行1列のAR係数と、M行1列の右辺ベクトルを要素として構成される。
取得された複素数データに基づいて、共分散行列と、右辺ベクトルが生成される。AR係数は、正規方程式を解くことにより算出される。
【0102】
図19に示したように1つの制御(検知)サイクルにおいて複数回のデータ所得が行われる。取得された複素数データを取得された順に、共分散行列C
xxk(t)と右辺ベクトルc
xxk(t)が生成される。
図19において、1制御(検地)サイクルにおいてデータを取得する回数をP回とする。取得された回数に対応させて、「今回_1」、・・・、「今回_P」として順に、共分散行列C
xxk(t)と右辺ベクトルc
xxk(t)を示す。
【0103】
本実施形態において、正規方程式の平均化処理では、同一制御(検知)サイクル内に取得されたデータに基づいて行われ、「今回_1」から「今回_P」までの共分散行列C
xxk(t)と右辺ベクトルc
xxk(t)を構成する要素をそれぞれ平均することにより、平均化処理が行われる。平均共分散行列Ave_C
xxk(t)を算出する演算式を式(18)に示す。
【0105】
式(18)において、k1からkPは、加重平均を行う場合の重み計数である。
また、右辺ベクトルAve_c
xxk(t)を算出する演算式を式(19)に示す。
【0107】
式(19)において、k1からkPは、加重平均を行う場合の重み計数である。
また、平均化処理された正規方程式に基づいて、固有値を算出する場合には、平均化処理された正規方程式の共分散行列の固有値を算出する。
このように、データを多数取得する場合には、方位スペクトル算出部30Bは、周波数ポイントに対応させ、自己回帰モデルに基づいて生成された正規方程式の平均化処理をする。方位スペクトル算出部30Bが正規方程式を平均化することにより、方位スペクトル算出部30Bにより算出されるスペクトルが安定し、算出されるスペクトルの精度を向上させることができる。
【0108】
また、このように、電子走査型レーダ装置100Bは、自己回帰モデルを用いるスペクトル推定法により、DBFを用いない多ポイント方位推定の上りと下りの組合せ精度を向上させることができる。
なお、本実施形態において、次数推定部27が第4手段として機能する。方位スペクトル算出部30Bが第2手段として機能する。ターゲット抽出部24が第3手段として機能する。
【0109】
本実施形態による電子走査型レーダ装置は、検出ビート周波数の複素数データに基づいて、方位スペクトル算出部30Bでスペクトル推定を行う正規方程式の次数を設定して方位推定を行うことにより、検出精度を向上させることができる。
【0110】
本発明に係る第1実施形態によれば、ARスペクトル推定法を方位検出に応用した車載用レーダにおいて、特にDBFを用いない場合に、以下に述べる手段を備えることを特徴とする。
第1手段として、周波数分解レベル検知部23を設ける。ここでは、周波数分解レベル検知部23は、周波数分解部22で算出した結果に対して、スペクトル推定を行う周波数ポイント(=物理的にドップラーシフトを含めた距離であるが、便宜上距離ポイントと示す)を決定する。周波数分解レベル検知部23は、周波数分解されたレベルを検知する際に、そのレベルを判定する閾値を設け、連続した多ポイントが検知できるようにする。連続した多ポイントが検知できた領域(多ポイントの領域)の周波数ポイントに対して、後ステップの方位スペクトル推定を行う。
【0111】
第2手段として、方位スペクトル算出部30Aを設ける。ここでは、第1手段で決定した多ポイントの領域で、ARスペクトル推定を行う。連続した多ポイントのピークを算出することによって、後ステップのグループ化(=ターゲット単位化)を行い易くすることができる。
【0112】
第3手段として、ターゲット抽出部24を設ける。ここでは、まず第2手段で算出したスペクトルのピークを検知し、ピーク数と角度を得る。同一距離ポイントに複数のピークがあることを判定した場合、次数を一つ下げたARスペクトル推定を行い、複数のピークのピーク角度と、次数を一つ下げたARスペクトル推定結果による角度とから、相関式によりピークの相対レベル差を算出する。次数を一つ下げたARスペクトル推定結果による角度は、ピーク数に対して設定次数が一つ低い場合にはピーク間の値を示し、受信波レベルの相対差に比例して、その値が変動する特性を使っている。
次に、上りと下り別にピーク検知のグループ化(=ターゲット単位化)を行う。ここでは、距離と角度の一定領域を基準にグループ化する。最後に、ターゲット単位の角度とレベル差情報に基づいて、上りと下りの組合せを決定する。
以上の各手段により、上りと下りのターゲットの組合せが決まり、距離と相対速度の計算を行うことができる。既知の角度と計算した距離、相対速度により、ターゲットが確定される。
【0113】
次に第2実施形態として、上記第1手段の代わりに第4手段を使うこともできる。
第4手段として、次数推定部27を設ける。ここでは、次数推定の前処理として、共分散行列の固有値計算と、前記固有値計算による最大(又は総和)固有値判定により、第1手段と同じようにレベルの閾値を設け、連続した多ポイントが検知できるようにできる。
また、上記の第2手段の中で、次数推定した結果のARスペクトル推定と一つ次数を下げたARスペクトル推定を同時に行う。
また、固有値計算処理の負荷が重くて計算できない場合は、周波数分解レベルの閾値判定や最大(又は総和)固有値判定の代わりに、共分散行列の対角行列の総和を設けた閾値により判定することにより、対象とする周波数ポイントを判断しても良い。
【0114】
以上、本実施形態は、
図1又は
図13に示すFMCW方式のレーダに用いる構成例を基に説明したが、FMCW方式の他のアンテナ構成にも適用することが可能である。
また、本実施形態では、次数2の場合に相対レベル差を計算する形態で説明したが、次数3以上についても1つ下位次数による計算に応用することが可能である。
さらに、本実施形態では、ARスペクトル推定の改良共分散法で説明したが、信号部分空間を利用するMFBLP法(Modified FBLP Method)や、主成分ARスペクトル推定法(Principal Component AR Spectrum estimator)を用いることも可能である。
【0115】
また、周波数分解処理部22は、スペクトル推定を行う周波数ポイントとして算出した結果に基づいて、隣接する周波数ポイントの値を平均化処理した結果を、スペクトル推定を行う周波数ポイントとして決定してもよい。
また、周波数分解処理部22は、スペクトル推定を行う周波数ポイントとして算出した結果に基づいて、近接する周波数ポイントの値が、予め定めた閾値より近い値を示す場合において、その閾値より近い値を示すいずれかの周波数ポイントを代表してスペクトル推定を行う周波数ポイントとして決定し、他の周波数ポイントにおいてはスペクトル推定を行なわない周波数ポイントとして決定してもよい。
【0116】
また、データ取得から複素数データ抽出まで(周波数分解処理やピーク検出等)を、本実施形態のマイクロコンピュータでの演算の他、他のデバイスやプロセッサ(FPGA,DSP,マイクロコンピュータ)等で計算させることにより、データ取得回数を増加させることができ、さらに方位推定精度の向上が可能となる。
また、上記用途における効果以外にも、本相対レベル差算出手段は、ARスペクトル推定を車載用レーダ(FMCW方式以外も含む)の方位検知に用いる場合に、スペクトルのピーク相対レベルの認識が必要とする適所に広く用いることが可能である。
本実施形態において、パワースペクトルのピークを算出してターゲット数と方位を求める形態としたが、入力白色雑音の分散値を乗算しないで作成したスペクトルで推定することも可能であるので、入力白色雑音の分散値の計算を省略することもできる。さらに、パワースペクトルの代わりに高次方程式の根を求める計算を用いて、その極で方位を推定してもよい。
【0117】
なお、
図1、
図13における信号処理部20A、20Bの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、受信波から方位検出を行う信号処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0118】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。