(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば自動車搭載の通信機器用として用いられるシールドコネクタにおいては、通信品質向上や信頼性に対する要求が高まっている。そのために、機器から外部に向けたノイズの発生および外部機器からのノイズの影響を十分に抑制すると共に、コネクタの挿抜時などにおけるコンタクトへの静電気放電をより確実に防止することが望まれる。これに応えるためには、特許文献1のようにハウジングをシールドケースに収納したり、嵌合面にブリッジを設けるだけでは十分ではなく、シールド部材を相手コネクタのシールド部材に接触させる接触構造を設けることによって高いシールド性能を確保したい。
その接触構造としては、例えば、片持ちバネ式の接触子がある。
図9(A)に示すシールドコネクタ7は、1つの嵌合凹部85を有して、コンタクト84を保持するハウジング80と、ハウジング80の外周面を覆うように設けられた導電性材料からなるシールドシェル81とを備えている。シールドシェル81の両側面部を内側に切り起こした部分が、片持ちバネである接触子82とされている。この接触子82は、相手コネクタのシールド部材に接触して電気的に接続されることにより、シールドシェル81を介してノイズを接地部に流すための部材であるとともに、コンタクト84の前端よりも前方まで延びていることで、コンタクト84への静電気放電を防止する部材でもある。
【0005】
ところで、一つのシールドコネクタに2以上の嵌合凹部が必要とされる場合もあるため、本発明者らは次のように検討した。まず、
図9(A)と同様、ハウジング80の外周面を覆うようにシールドシェル81を設けると、
図9(B)に示すシールドコネクタ8のような形態となる。すなわち、シールドコネクタ8は、2つの嵌合凹部85A,85Bを有するハウジング80と、シールドシェル81とを備えている。この
図9(B)の形態では、嵌合凹部85A,85Bの数が多い分、(A)の形態よりも接触子82,82の間隔が広がる。すると、シールドシェル81の両側面近傍のコンタクト84への人体や、相手コンタクトを含んで構成されるワイヤーハーネス等の帯電物からの放電電流は接触子82,82によって捕捉できても、嵌合凹部85A,85Bの境界付近のコンタクト84は、接触子82から遠く、嵌合凹部85A,85Bに近づく帯電物と接触子82との距離よりもその帯電物とコンタクト84との距離の方が小さくなるので、シールドシェル81にではなくコンタクト84に短絡するおそれがある。
ここで、接触子82から遠いコンタクト84への短絡も防止するとともに、高いシールド性能を確保するために、嵌合凹部85A,85B間に、嵌合凹部85A側に臨む接触子82が形成されたシールド壁と、嵌合凹部85B側に臨む接触子82が形成されたシールド壁とを設けることが考えられる。つまり、シールドシェル81と、嵌合凹部85A,85B間のシールド壁とによって嵌合凹部85A,85Bをそれぞれ囲むと共に、嵌合凹部85A,85Bの境界にも接触子82を配置すれば、高いシールド性能の確保、およびコンタクト84への短絡をより確実に防止する観点からは理想的である。
しかし、嵌合凹部85A,85Bの間に設けられるシールド壁の厚みおよび接触子の突出幅分、コネクタが大型化してしまう。コネクタに対する省スペース化の要望は高く、この厚み分をも無視できない。
【0006】
そこで、本発明者らが、所定のシールド性能を満足しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策を維持しながら、小型化を図る目的において検討を進めたところ、嵌合凹部85A,85Bの間には、ハウジング80の前面に沿って何らかの金属片を設けるという着想を得た。
しかし、その金属片を特許文献1のようなブリッジとした場合には、次のような懸念がある。つまり、シールドシェル81の両側面に接触子82,82が設けられるとともに、嵌合凹部85A,85B間にブリッジが設けられるとすると、ブリッジがシールドシェル81の装着の妨げとならないように、ハウジング80の前方からシールドシェル81が装着される。そうすると、接触子82,82を通過させるための孔が嵌合凹部85A,85Bの前方端縁から側壁内面に沿って必要となる。このような孔が形成されることでハウジングの強度が不足するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、所定のシールド性能を確保しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策もとりながら、ハウジング強度を確保した上で小型化を実現できるシールドコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシールドコネクタは
、それぞれに相手コネクタが嵌合される複数の嵌合凹部を備える絶縁性のハウジングと、ハウジングに装着される導電性部材とを備えている。
ハウジングは、コンタクトを保持する基部、および基部から立ち上がる周壁部を有するハウジング本体と、周壁部の内方の空間を区切ることで複数の嵌合凹部を形成する境界部とを有している。
導電性部材は、ハウジング本体の外周に設けられるシールドシェルと、シールドシェルとは別体とされるとともに境界部に設けられる静電気放電対策用の境界片とを有している。
シールドシェルは、複数の嵌合凹部のうち両端の嵌合凹部の一方に嵌合される相手コネクタの導電性部材に接触する接触子と、他方に嵌合される相手コネクタの導電性部材に接触する接触子とを有している。
当該シールドコネクタにおいて、周壁部の先端側であって相手コネクタに嵌合される側を前、基部側を後とすると、接触子の前端はそれぞれ、コンタクトの前端よりも前方に位置している。
そして、境界片は、境界部において相手コネクタに臨む面(以下、この面を「前面」と適宜称する。)に沿って延びるとともに、コンタクトの前端よりも前方に位置する対向部と、対向部の少なくとも一端部に連続してシールドシェルに接触導通する接触部とを有し
、接触部は、シールドシェルと周壁部との間に挟持されることで弾性変形し、弾性力でシールドシェルに接触導通する。
【0009】
本発明によれば、ハウジングの外周にシールドシェルが設けられるとともに、相手コネクタの導電性部材に接触する接触子がシールドシェルに形成されていることにより、シールドシェルを介して接地部にノイズを確実に落とすことができるので、所定のシールド性能を確保できる。
また、シールドシェルの接触子の前端が、コンタクトの前端よりも前方に位置することに加え、境界片の対向部も、コンタクトの前端よりも前方に位置することにより、シールドシェルの接触子から遠い、嵌合凹部の境界付近のコンタクトも含め、各コンタクトへの静電気放電を防止できる。すなわち、相手コネクタや異物等の帯電物からコンタクトに流れようとする放電電流が、コンタクトよりも前方で接触子および境界片に短絡するので、コンタクトへの短絡を未然に防止できる。
ここで、境界片は、境界部の前面に沿って延びる、境界部よりも細い導電性部材とされていれば足りるので、嵌合凹部が並ぶ方向(幅方向)にシールドコネクタを小型化できる。
【0010】
その上、境界片がシールドシェルとは別体とされることにより、シールドシェルがハウジング本体に組み付けられる方向と、境界片がハウジングの境界部に組み付けられる方向とが一致する必要がないため、例えば、シールドシェルが基部側(後方側)からハウジング本体に組み付けられる一方、境界片が周壁の先端側(前側)から境界部に組み付けられる構成とすることができる。
つまり、境界片が妨げとなることなく、シールドシェルをハウジングに後方から装着する(組み付ける)構成とすることができる。このため、特許文献1のようにシールドシェルの前端部にブリッジが設けられる場合とは異なり、シールドシェルの装着時に接触子を通過させる孔が基部側から周壁部の内壁に沿って形成され、周壁部の先端側には形成されない。これにより、ハウジングの強度を確保できる。
また、基部上において嵌合凹部が並ぶ方向に直交する方向からシールドシェルが装着される構成としたとき、特許文献1のようにシールドシェルと一体のブリッジを備えたシールドコネクタの場合にはブリッジの厚み、および装着に必要な隙間の分、シールドコネクタの大型化を招いてしまう。これに対して、本発明のシールドコネクタは、境界片の対向部を境界部の前面に組み付けるのは、シールドシェルをハウジングに組み付ける方向と同じ方向からでなくてもよいので、上記のように、基部上において嵌合凹部が並ぶ方向に直交する方向からシールドシェルがハウジングに装着される場合であっても、その装着時に対向部が妨げとならないように、境界部(ハウジング)の前端よりも対向部が前方に位置している必要がない。このため、ハウジングの前面と面一に、あるいはハウジングの前面から後側にオフセットして境界片の対向部を配置することができる。これによってシールドコネクタの小型化を図ることができる。
【0011】
本発明では、境界片の接触部は、シールドシェルと周壁部との間に挟持されることで弾性変形し、弾性力でシールドシェルに接触導通する
。
この構成では、境界片の接触部をハウジング本体の周壁部の外周側に配置した後、ハウジング本体および接触部の外側にシールドシェルを装着することにより、あるいは、ハウジング本体にシールドシェルを装着した後、周壁部とシールドシェルとの間に接触部を挿入することによって、接触部がシールドシェルに接触導通される。つまり、シールドシェルをハウジングに装着するだけで、境界片をシールドシェルに接触導通させることができるので、シールドシェルの装着とは別途、境界片をシールドシェルに接触導通させる場合よりも工数が増えない。また、シールドシェルと周壁部との間に位置する接触部がシールドコネクタの外部には露出しないことにより、導通品質を維持し易い。
そして、弾性力で接触導通させているため、境界片とシールドシェルとを導通させるための専用の部材(例えば導電性接着剤、リード線)が不要となる。
【0014】
本発明では、対向部においてその延出方向の一部は、基部においてコンタクトが保持される保持領域の略中央に直交する線と交差するように配置されていることが好ましい。
本発明では、上述のように対向部がコンタクトの前端よりも前方に配置されることに加えて、対向部の延出方向の一部が、保持領域から前方に延びたコンタクトの前端の近くに配置される。これにより、嵌合凹部に相手コネクタ等の帯電物が接近する際に、その帯電物において放電しうる経路の始点(放電経路始点)と対向部との距離が、殆どの場合において、放電経路始点とコンタクトとの距離よりも小さくなる。このように放電経路始点に対して対向部がコンタクトよりも近いことで、放電電流を境界片で捕捉し、コンタクトへの放電を避けることができる。
本発明によれば、対向部が上記のように配置されていることにより、コンタクトへの放電を効果的に防止することができる。
さらに、対向部が、その一端から延びている範囲が、保持領域の略中央に直交する線と交差する位置付近までに限定されることで当該位置付近が対向部の端部とされていれば、静電気放電を十分に防止する効果が得られるので、それより先には対向部を延出させないことで、シールドシェルにブリッジを架設する場合と比べて軽量化できる。
【0015】
本発明では、嵌合凹部が並ぶ方向を含む面に沿って配置される回路基板に、シールドコネクタが支持されることが好ましい。
上述した小型化により、シールドコネクタの回路基板上での占有スペースを小さくできる。これによって、シールドコネクタの近傍に形成される回路パターン等のレイアウトの自由度が向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシールドコネクタによれば、所定のシールド性能を確保しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策もとりながら、ハウジング強度を確保した上で、小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜
図3に示すように、本実施形態のシールドコネクタ10は、複数のコンタクト11を保持するハウジング20と、ハウジング20に装着される導電性部材30とを備えている。このシールドコネクタ10は、回路基板S(
図1に図示)に支持されている。
【0019】
ハウジング20は、
図1、
図3に示すように、後述する相手コネクタ90(
図6)が嵌合される側に向けて開口した直方体箱状のハウジング本体21と、境界部22とを有している。このハウジング20は、絶縁性の樹脂一体成形部材とされている。
ハウジング本体21は、コンタクト11を保持する板状の基部23と、基部23の周縁から立ち上がる断面長方形状の筒状の周壁部24とを有している。
境界部22は、周壁部24の互いに対向する長辺24A、24Aの中央において、これら長辺24A、24Aを結ぶ方向に沿って形成されている。この境界部22は、側面部27,28と同等の厚みを有している。
そして、境界部22によって周壁部24の内方の空間が区切られることで、境界部22を挟んで2つの嵌合凹部20A、20Bが形成されている。これらの嵌合凹部20A,20Bにはそれぞれ、相手コネクタ90が嵌合される。
以下では、基部23の表面に直交する方向を前後方向とし、周壁部24の先端側を前、基部23側を後として説明する。
【0020】
このハウジング20には、いずれも後述する側面接触子371,372および境界片40がそれぞれ挿入される側面孔271,281および境界溝220が形成されている。これら側面孔271,281および境界溝220の具体的な構成について以下で述べる。
【0021】
基部23は、本実施形態では、回路基板Sに対して垂直な面内に配置されるとともに、コンタクト11が挿入される孔231を有している。
周壁部24は、回路基板Sに沿って配置される下面部25と、下面部25に対向する上面部26と、下面部25および上面部26に直交する側面部27,28とを有している。
上面部26の上側の面の長手方向中央には、
図4に示すように前端部26Fから後端部26Bの手前まで延び、境界溝220の一部をなす上面溝261が形成されている。
また、嵌合凹部20A,20B内において、上面部26の下面部25との対向面には、前後方向に延びる突条262が、例えば2つずつ形成されている。相手コネクタ90には、図示を省略するが、この突条262が挿入される溝が形成されている。これらの突条262および溝は、コネクタ嵌合時のガイドとして機能する。
また、これらの突条262および溝は、それらが形成される嵌合凹部20A(あるいは20B)と、その隣の嵌合凹部20B(あるいは20A)とで、それらの形状や位置を相互に変えることが好ましい。それにより、相手コネクタ90が、嵌合されるべき嵌合凹部とは異なる他の嵌合凹部に誤って嵌合されるのを防止できる。
【0022】
側面部27は、
図1、
図3に示すように、厚み方向(ハウジング20の外側と内側とを結ぶ方向)に貫通した側面孔271を有している。この側面孔271は、側面部27の後端から前端近傍までの範囲に亘り形成されている。また、側面孔271は、基部23側に開口した孔入口E(
図3)を有している。孔入口Eの幅は、後述する側面接触子371の前端30Fが挿入可能な寸法に設定されている。
他方の側面部28も、上記の側面孔271と同様に形成された側面孔281を有している。
【0023】
境界部22は、
図1に示すように、相手コネクタ90に臨む面である前面22Fに、上記の上面溝261と連なる一端から下方に向けて延びる前面溝221を有している。この前面溝221と上面溝261とを有して境界溝220が構成されている。
図4に示すように、前面溝221の下端部の前面22Fより少し奥側には、さらに下方へと延び、境界片40の下端を保持する保持穴223が形成されている。
【0024】
嵌合凹部20A,20Bには、それぞれ予め定めた本数のコンタクト11が配置されている。嵌合凹部20A,20Bにそれぞれ配置されたコンタクト11からなる各コンタクト群Gは、
図2に示すように、嵌合凹部20A,20Bの上下方向中央部に配置されている。
コンタクト11の前端側111は、
図4に示すように、ハウジング20の内側で前後方向に延びている。コンタクト11の後端側112は、ハウジング20の外側で屈曲し、回路基板Sに電気的に接続されている。
【0025】
次に、金属板の打ち抜き、折り曲げによって形成される導電性部材30は、ハウジング20の外周に設けられるシールドシェル31と、境界部22に沿って延びる静電気放電対策用の境界片40とを有している。
シールドシェル31は、基部23に沿ったシールド後面部33と、上面部26に沿ったシールド上面部36と、側面部27,28に沿っていて、相手シールド部材92に接触されるシールド側面部37,38と、下面部25を支持する複数の支持片35とを有している。
【0026】
このシールドシェル31は
図4に示すように、その前後方向の寸法がハウジング本体21よりも大きく形成されている。このシールドシェル31は、その前端31Fとハウジング本体21の前端21Fとの位置がほぼ一致するように装着がなされるので、シールド後面部33は基部23よりも後側に位置している。この基部23とシールド後面部33との間には、コンタクト11の後端側112が配置されている。
【0027】
一方のシールド側面部37は、
図5に示すように、シールドシェル31を構成する金属板の切り起こし片である側面接触子371を有している。側面接触子371は、シールド側面部37と連続した支持端371A(本実施形態では後端)と、相手シールド部材92に接触される自由端371B(本実施形態では前端)とを有しており、片持ちバネとされている。この側面接触子371は、支持端371Aから、シールド側面部37に沿って前方に延び、その前端側に、嵌合凹部20A内に突出するよう山型に折り曲げられた接点部Cを有している。
図3に示すように、接点部Cの前端30Fは、コンタクト11の前端11Fよりも前方に突出する。
【0028】
他方のシールド側面部38は、上記の側面接触子371と同様に形成された側面接触子381を有している。
なお、これら側面接触子371,381が下面部25および上面部26ではなく側面部27,28に沿って配置されることで、シールドコネクタ10の回路基板Sからの高さが低く抑えられている。
【0029】
また、シールド側面部37,38にはそれぞれ、回路基板Sに設けられた図示しないグランド端子に電気的に接続された状態で回路基板Sに固定される突起375,385が形成されている。グランド端子は、回路基板Sおよびシールドコネクタ10を収容する機器筐体等に接地されている。これにより、導電性部材30は、外部の電場(あるいは電磁場)を遮蔽する。
【0030】
境界片40は、略L字状に屈曲するとともに、境界溝220の幅内に収まるように細く(幅が狭く)形成されている。この境界片40は、その一端側であって相手コネクタ90に対向する対向部41と、対向部41と直交する他端側であってシールド上面部36と上面部26との間に挟持される挟持部(接触部)42とを有している。
なお、境界片40は、本実施形態では、金属板からの打ち抜き、および折り曲げによって形成されている。この境界片40は細く、材料となる金属板上での占有面積が小さいため、シールドシェル31と同じ金属板を用いて形成することができる。つまり、シールドシェル31の材料となる金属板上において、シールドシェル31を形成する領域の周りのスペースにて、境界片40をシールドシェル31と同時に打ち抜きすればよい。
ただし、境界片40は、金属板から構成されていなくてもよく、例えば針金状の線材等、任意の素材により構成できる。
【0031】
対向部41は、境界部22における相手コネクタ90との前面22F(
図1)に沿って上下方向に延びており、前面溝221内に配置される。また、対向部41は、保持穴223(
図4)に挿入される被保持部411を有している。被保持部411の幅方向両側にはそれぞれ、保持穴223の内壁に係止される複数の突起411Aが形成されている。
この対向部41は、本実施形態では境界部22の前面22Fと面一とされ、シールドコネクタ10において最も前側に位置している。そして、対向部41は、
図2、
図4に示すように、ハウジング20の上端から、嵌合凹部20A,20Bの上下高さの半分程度まで延びており、下面部25には到達していない。対向部41の一方の端部である下端部41Dは、各コンタクト群Gの上下方向中央に位置している。つまり、下端部41Dは、基部23においてコンタクト11が保持される保持領域232の略中央に直交する直線Lと交差するように配置されており、これによって下端部41Dは、各コンタクト11の前端11Fの近傍に配置されている。対向部41は、この下端部41Dを含み、所定のシールド性能を確保できる必要十分な範囲に形成されている。
【0032】
挟持部42は、
図4に示すように、対向部41の上端部に連続し、後方に向けて延びており、上面溝261内に配置される。挟持部42の長手方向中央には、上側に凸となるように湾曲した接点部421が形成されている。この接点部421は、シールド上面部36の裏側に接触して電気的に接続されている。
【0033】
以上説明したシールドコネクタ10を組み立てるには、先ず、コンタクト11が組み付けられたハウジング20に対し、上方から境界片40を取り付ける。具体的に、境界片40の被保持部411を保持穴223に挿入するとともに、境界片40の対向部41および挟持部42を境界溝220内に配置する。この状態で、ハウジング20の後方に配置したシールドシェル31の内部に、ハウジング20および境界片40を挿入する。そうすると、シールド上面部36と上面部26との間で挟持部42が上面溝261の深さ方向に弾性変形して圧縮された状態となりそのバネ力(反発力)によって、接点部421がシールドシェル31に押し付けられるので、境界片40とシールドシェル31とが電気的に接触導通される。
そして、側面接触子371,381が側面部27,28にそれぞれ沿って配置されるとともに、
図3に示すように、その前端30Fがコンタクト11の前端11Fよりも前方に突出する。
【0034】
導電性部材30の装着が済んだら、シールドコネクタ10を回路基板Sに載置し、シールドシェル31の突起375,385を回路基板Sのグランド端子に接続するとともに、コンタクト11を回路基板S上の各端子にはんだ等で接続する。以上により、シールドコネクタ10の組立が完了する。
【0035】
シールドコネクタ10に嵌合される相手コネクタ90は、
図6に示すように、ハウジング91と、ハウジング91内に収容された相手シールド部材92とを備えている。相手シールド部材92は、例えば、相手コネクタ90の図示しないコンタクトに接続されたケーブルの芯線を被覆する金属編組チューブに接触導通されている。この相手シールド部材92の側面92Aは、ハウジング91の側壁に形成されたスリット911からハウジング91の外部に露出している。
【0036】
次に、導電性部材30の作用について説明する。
シールドコネクタ10の嵌合凹部20Aに向けて、
図6に示すように相手コネクタ90を近づけていくと、先ず、境界片40の対向部41が相手コネクタ90におけるシールドコネクタ10との対向面90Fに近接する。さらに相手コネクタ90を嵌合凹部20Aの奥側に向けて動かしていくと、側面接触子371の前端30Fが相手シールド部材92の対向面90Fに近接し、その後側面92Aに接触して電気的に接続される。相手コネクタ90を奥へと押し込み、シールドコネクタ10と完全に嵌合させると、相手シールド部材92の側面92Aに側面接触子371の接点部Cが押し付けられる。
【0037】
上記のように対向部41に相手コネクタ90が近接すると、相手コネクタ90、そのコンタクトに接続された複数の電線、その電線に設けられた結束帯、および固定用の部品等から構成されたワイヤーハーネスや、それを持つ指等の帯電物から、対向部41に放電されうる。
上記のような帯電物の電荷(シールドコネクタ10の外部電荷)からの放電電流は、原則的に最短距離で放電されるため、相手コネクタ90とコンタクト11との距離よりも、相手コネクタ90との距離が近い対向部41に放電する可能性が高い。
したがって、対向部41に放電させ、対向部41を介して放電電流を回路基板Sのグランド端子へと落とすことにより、コンタクト11のうち、主に、境界部22近傍のコンタクト11への静電気放電を未然に防止できる。
【0038】
しかも、対向部41が、
図4に示すように、コンタクト群Gの上下方向中央まで延びていることにより、生じうる放電経路始点Pからの距離が、殆どの場合において、対向部41の方がコンタクト11よりも小さくなる。
つまり、対向部41が境界部22の前面22Fに沿って配置されることでコンタクト11の前端11Fよりも前側に位置しているだけでなく、対向部41が下方に向けて各コンタクト11の前端11Fに近い位置にまで延びていることにより、境界部22近傍のコンタクト11への静電気放電を効果的に防止できる。
【0039】
一方、側面接触子371に相手シールド部材92が近接すると、ワイヤーハーネスやそれを持つ指などの帯電物からの放電電流が、上記で述べた相手コネクタ90に対する距離の差に起因して、相手コネクタ90とコンタクト11との距離よりも、相手コネクタ90との距離が近い側面接触子371に流れうる。
したがって、側面接触子371に放電させ、この側面接触子371を介して放電電流を回路基板Sのグランド端子へと落とすことにより、コンタクト11のうち、主に、側面部27近傍のコンタクト11への静電気放電を未然に防止できる。
【0040】
嵌合凹部20Bに相手コネクタ90を嵌合する際も上記と同様であり、相手コネクタ90がコンタクト11に近接するよりも先に、対向部41および側面接触子381に近接することにより、境界部22近傍のコンタクト11への放電も、側面部27,28近傍のコンタクト11への放電も防止できる。
したがって、コンタクト11が接続された回路基板Sの回路部が破損、誤作動することを防止できる。
【0041】
また、ハウジング本体21の外周を覆うようにシールドシェル31が設けられ、かつ側面接触子371,381が相手シールド部材92の側面92Aと接触していることにより、シールドシェル31および相手シールド部材92を介してノイズをグランド端子に確実に落とすことができる。
なお、シールドコネクタ10と相手コネクタ90とが嵌合されているとき(接続中)、あるいはシールドコネクタ10から相手コネクタ90を抜くときにも、シールドシェル31がハウジング本体21に設けられ、かつ側面接触子371,381の接点部Cが相手シールド部材92と接触していることにより、シールドシェル31および相手シールド部材92を介してノイズをグランド端子に確実に落とすことができる。
【0042】
ところで、嵌合凹部20A,20Bに相手コネクタ90ではない異物が挿入されることもありうる。その異物が帯電していた場合でも、当該異物がコンタクト11の前端11Fに近接するよりも前に、対向部41、側面接触子371,381の少なくともいずれかに近接して静電気放電されることで、コンタクト11への静電気放電を防止できる。
【0043】
上述のように、本実施形態のシールドコネクタ10によれば、ノイズをグランド端子に落とすことにより、外部機器からのノイズの影響、および外部機器に向けたノイズの発生を十分に抑制できるので、電磁両立性(EMC;Electromagnetic Compatibility)の確保に寄与できる。
さらに、コンタクト11への短絡による回路部の破損等を防止する静電気放電対策がとられていることにより、シールドコネクタ10が用いられる機器の信頼性を向上させることができる。
【0044】
これに加えて、嵌合凹部20A,20B間に配置される境界片40が、相手シールド部材92の側面92Aに接触する接触子を有しておらず、境界部22の肉厚内に収まる細い金属片であるため、シールドコネクタ10を幅方向(嵌合凹部20A,20Bが並ぶ方向)に小型化することができる。
これにより、シールドコネクタ10の回路基板S上での占有スペースを小さくできる。したがって、シールドコネクタ10の近傍に形成される回路パターン等のレイアウトの自由度が増す。例えば、シールドコネクタ10の小型化により生じた空きスペースにパターンを配置することができる。
さらに、境界片40の対向部41は、コンタクト11への短絡を避け、所定のシールド性能を確保できる必要十分な範囲のみに形成されており、下面部25まで延びていないので、上面部26と下面部25とに跨るブリッジを形成する場合と比べて軽量化できる。
【0045】
その上、境界片40がシールドシェル31とは別体とされていることにより、シールドシェル31を対向部41が配置される側とは逆のハウジング20の後方から装着することができるので、以下述べるように、ハウジング20の強度を確保できる。
もし仮に、境界片40の対向部41がブリッジと同様、その両端がシールドシェル31と一体に形成されていたとすると、ハウジング20の後方からシールドシェル31を装着することはハウジング20が分断されるため不可能であり、その対向部41がシールドシェル31の装着の妨げとならないように、ハウジング20の前方からシールドシェル31を装着せざるを得ない。そうすると、側面接触子371,381を通過させるための孔を周壁部24の端縁から周壁部24の内壁に沿って形成することが必要となり、そのことでハウジング20の強度が不足するおそれがある。ハウジング20の強度を確保しようとして周壁部24を厚肉にすると、シールドコネクタ10が大型化してしまう。
これに対し、本実施形態ではシールドシェル31がハウジング20の後方から装着されることで、側面接触子371,381を通すための側面孔271,281の孔入口Eが基部23側に位置する。つまり、周壁部24の端縁に孔が形成されるのを回避できるので、シールドコネクタ10の大型化を招くことなく、ハウジング20の強度を確保できる。ハウジング20の強度が確保されることにより、特に、自動車用コネクタに要求されることの多いコジリ性能を満足することができる。
【0046】
以上より、本実施形態のシールドコネクタ10によれば、シールド性能とハウジング強度とを確保しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策もとりながら、その上シールドコネクタ10の小型化および軽量化をも遂げることができる。
【0047】
なお、境界片40の形状は、
図5に例示したものに限らず、シールドシェル31と別体とされ、かつシールドシェル31に電気的に接続される限り、各種のものを採用しうる。シールドシェル31が下面部を有する場合には、対向部41を挟んでその両側に挟持部42が連続した略C字状の部材とすることもできる。
また、境界片40は、バネ力(弾性力)でシールドシェル31に接触導通するものに限られない。例えば、境界片40の対向部41の少なくとも一端部に連続して形成され、シールドシェル31に接触導通する接触部が、導電性接着剤等でシールドシェル31に接合されていてもよい。
ただし、本実施形態の境界片40の挟持部42のようにバネ力で接触導通することにより、導電性接着剤やリード線等の導通用部材が不要となる上、シールドシェル31の装着と同時に境界片40をシールドシェル31に接触導通させることができる。さらに、接点部421がシールドコネクタ10の外部に露出しないので、導通品質を維持し易い。
【0048】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係るシールドコネクタ50について、
図7および
図8を参照して説明する。なお、以降の説明において、既に説明した構成と同様の構成については同じ符号を付し、その説明を省略または簡略する。
シールドコネクタ50が備える導電性部材60は、シールドシェル61と、シールドシェル61と一体に形成された境界片70とを有している。
シールドシェル61のシールド上面部66には、
図7に示すように、打ち抜きによってU字状の切り込み661が形成されており、その切り込み661の内側が境界片70とされている。境界片70は、切り込み661の内側を前側の基端661Aから下側に曲げることによってシールド上面部66と一体に形成されている。
境界片70は、
図8に示すように、基端661Aに連続し、基端661Aよりも前側に折り返された折り返し部72と、折り返し部72に連続する対向部41とを有している。対向部41は、折り返し部72に連続する点を除いては、第1実施形態の対向部41と同様に形成されている。したがって、対向部41は、本実施形態においても、ハウジング20の上端から嵌合凹部20A,20Bの上下高さの半分程度まで延びており、下面部25には到達していない。対向部41の上端部(一端部)41Uのみが、折り返し部72を介してシールドシェル61に連続している。
また、ハウジング20の上面部26に形成され、前面溝221と共に境界溝220を構成する上面溝265は、上面部26の前端部26Fから後端部26Bまで延びている。
一方、ハウジング20の側面孔271´,281´は、第1実施形態の側面孔271,281とは異なり、側面部27,28の上端から側面接触子371,381の位置までの範囲に亘って形成されている。
【0049】
シールドコネクタ50を組み立てる際には、シールドシェル61をハウジング20に上方から装着する。装着する際には、支持片35が側面部37,38と同一面に沿って延びた状態のシールドシェル61を、ハウジング20の上方に配置し、対向部41下端と境界部22の前面溝221との位置を合わせ、前面溝221に沿って対向部41を導きながら、シールドシェル61の内側にハウジング20を挿入する。
その後、支持片35をハウジング20の下面部25に沿って折り曲げる。
【0050】
本実施形態のシールドコネクタ50も、第1実施形態の境界片40と同様に、対向部41を有する境界片70を備えているので、第1実施形態と同様に、コンタクト11への静電気放電を防止できる。また、接地されたシールドシェル61によってハウジング20が覆われ、かつシールドシェル61の側面接触子371,381が相手シールド部材92に接触する点でも第1実施形態と同様であるため、シールド性能を確保できる。
さらに、本実施形態の境界片70も境界片40と同様に細いため、シールドコネクタ50を小型化できる。
その上、本実施形態によれば、境界部22の前面22Fに形成された前面溝221に対向部41が配置されることにより、対向部41を境界部22の前面22Fと面一に配置できるので、対向部41を設けることでコネクタが前後方向に大型化するのを回避できる。ハウジング20の上方からシールドシェル61が装着される本実施形態では、対向部41の下端がシールドシェル61に繋がっていないので、その対向部41下端から、対向部41を前面溝221に配置して前面22Fと面一にできる。これは、対向部41の両端がシールドシェル61と一体のときは困難である。
そして、ハウジング20の上方からシールドシェル61が装着されることにより、前方から装着する場合とは違って周壁部24の先端に孔が形成されないので、ハウジング20の強度も確保できる。
【0051】
しかも、本実施形態によれば、回路基板Sに支持される側とは逆(ここでは上方)からシールドシェル61をハウジング20に装着する構成とされるので、コンタクト11が回路基板S表面のパターンに実装される場合に重要な、コブナリティ(端子最下面の均一性)を満足させることが容易となる。つまり、コブナリティを満足させるために、ハウジング20に対するシールドシェル61の装着具合を上方から微調整することができる。
上述の効果に加え、本実施形態によれば、境界片70がシールドシェル61と一体に形成されるため、第1実施形態よりも部品点数を減少させることができる。
さらに、境界片70がシールドシェル61と一体に形成されることで、シールドシェル31に境界片40をバネ力で接触導通していた第1実施形態に比べ、導通品質を長期に亘り維持できる上、接触抵抗による発熱がない利点も有する。
【0052】
なお、境界片70は、切り込み66の基端661Aから折り返された折り返し部72によって外力が緩衝されるために取り扱いが容易な形態となるが、シールドシェル61に一体に連続している限り、各種の形態を採用できる。例えば、境界片70が、シールド上面部66の前端の一部をさらに前方に延出させた突片を下側に折り曲げたものであってもよい。
【0053】
さらに、境界片がシールドシェルに一体に形成される形態は、第2実施形態のように、ハウジング20の上方からシールドシェル61を装着するほか、ハウジングの後方からシールドシェルを装着するように構成することもできる。例えば、対向部41下端がハウジング20に係止されない場合には、折り返し部72に対して対向部41を折り曲げずに前方に延ばした状態で、ハウジング20の後方からシールドシェル61を装着し、装着後に、対向部41を下方に向けて折り曲げるようにしてもよい。
【0054】
上記第1、第2実施形態のいずれを選択するかは適宜決められる。例えば、境界片70がシールドシェル61から突出する第2実施形態の形態よりも、境界片40がシールドシェル31と別体とされる第1実施形態の方が部品の取り扱いが容易である場合には、第1実施形態を選択することができる。
【0055】
ところで、第1実施形態においてハウジング20の上方または下方からシールドシェル31を装着したり、第2実施形態においてハウジング20の下方からシールドシェル61を装着するように構成されていてもよい。このようにしても、既に説明したように、対向部41が装着の妨げとならず、また、対向部41が前面溝221に配置されるため、ハウジング20の大型化を避けられる。さらに、側面接触子371,381を通すための孔が周壁部24の先端に形成されないため、ハウジング20の強度を確保できる。
【0056】
ここで、仮に、ブリッジのように対向部41がシールドシェル31,61に一体に形成されていて、かつハウジング20の上方または下方からシールドシェル31,61が装着される構成においては、そのブリッジ状の対向部41の厚み、および装着に必要な対向部41と境界部22の前面22Fとの間の隙間分、シールドコネクタ10,50が大型化してしまう。また、上述したように、このように対向部41がブリッジのようにシールドシェル31,61に一体に形成されている場合には、対向部41が装着の妨げとなるので、ハウジング20の前方からシールドシェル31,61を装着せざるを得ず、周壁部24の先端に孔が形成されることとなるので、ハウジング20の強度低下を招く。
つまり、ブリッジを採用せず、シールドシェル31とは別体とされた境界片40、あるいはシールドシェル61と一体ではあるが対向部41の一方の端部(上端部41U)のみが(挟持部42を介して)シールドシェル61と連続した境界片70を備えることにより、シールドコネクタ10,50が大型化したり、ハウジング20の強度が低下したりすることなく、所定のシールド性能を確保できるとともに、静電気放電対策も講じることができるので、本発明の目的を達成できる。
【0057】
そして、上記実施形態では、コンタクト11を保持する基部23の向きが回路基板Sに垂直であったが、これに限らず、基部23が回路基板Sに平行となるように構成されたシールドコネクタにも本発明を適用できる。
なお、本発明のシールドコネクタは、回路基板Sに支持されるものには限定されない。
【0058】
上記実施形態のシールドコネクタ10,50は、2つの嵌合凹部20A,20Bを備えていたが、3つ以上の嵌合凹部を備えるものとすることもできる。この場合にも、隣り合う嵌合凹部の境界部に沿って、境界片を配置することによって、上述した効果と同様の効果が得られる。
【0059】
上述した以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。