特許 5779516 釣糸巻回用スプールと、このスプールを搭載した魚釣用リール

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】5779516

(24)【登録日】2015年7月17日

(45)【発行日】2015年9月16日

(54)【発明の名称】釣糸巻回用スプールと、このスプールを搭載した魚釣用リール

(51)【国際特許分類】

   A01K 89/015 20060101AFI20150827BHJP

【ＦＩ】

   A01K89/015 C

【請求項の数】5

【全頁数】12

(21)【出願番号】特願2012-23347(P2012-23347)

(22)【出願日】2012年2月6日

(65)【公開番号】特開2013-158308(P2013-158308A)

(43)【公開日】2013年8月19日

【審査請求日】2014年3月11日

(73)【特許権者】

【識別番号】000002495

【氏名又は名称】グローブライド株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100108855

【弁理士】

【氏名又は名称】蔵田 昌俊

(74)【代理人】

【識別番号】100159651

【弁理士】

【氏名又は名称】高倉 成男

(74)【代理人】

【識別番号】100091351

【弁理士】

【氏名又は名称】河野 哲

(74)【代理人】

【識別番号】100088683

【弁理士】

【氏名又は名称】中村 誠

(74)【代理人】

【識別番号】100109830

【弁理士】

【氏名又は名称】福原 淑弘

(74)【代理人】

【識別番号】100075672

【弁理士】

【氏名又は名称】峰 隆司

(74)【代理人】

【識別番号】100095441

【弁理士】

【氏名又は名称】白根 俊郎

(74)【代理人】

【識別番号】100084618

【弁理士】

【氏名又は名称】村松 貞男

(74)【代理人】

【識別番号】100103034

【弁理士】

【氏名又は名称】野河 信久

(74)【代理人】

【識別番号】100119976

【弁理士】

【氏名又は名称】幸長 保次郎

(74)【代理人】

【識別番号】100153051

【弁理士】

【氏名又は名称】河野 直樹

(74)【代理人】

【識別番号】100140176

【弁理士】

【氏名又は名称】砂川 克

(74)【代理人】

【識別番号】100158805

【弁理士】

【氏名又は名称】井関 守三

(74)【代理人】

【識別番号】100124394

【弁理士】

【氏名又は名称】佐藤 立志

(74)【代理人】

【識別番号】100112807

【弁理士】

【氏名又は名称】岡田 貴志

(74)【代理人】

【識別番号】100111073

【弁理士】

【氏名又は名称】堀内 美保子

(74)【代理人】

【識別番号】100134290

【弁理士】

【氏名又は名称】竹内 将訓

(72)【発明者】

【氏名】堤 わたる

【審査官】 竹中 靖典

(56)【参考文献】

【文献】 特開２００１−１４５４４５（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０１１−２３９７２２（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０１１−１２５２６４（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０００−０８３５３４（ＪＰ，Ａ）

【文献】 米国特許第０６２９０１６１（ＵＳ，Ｂ１）

【文献】 米国特許第０６２９６２００（ＵＳ，Ｂ１）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ａ０１Ｋ ８９／００−８９／０８

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

釣糸を糸巻胴部に巻回保持するスプールであって、
中空な円筒形状を成す糸巻胴部と、
前記糸巻胴部の円筒内部中央に縦立し、円筒内面と直交する方向で全周に亘り一体的に接合し、中央にスプール軸を嵌装する軸挿入部を有する円盤状を成すリブ部と、
前記糸巻胴部の両端で、それぞれに外周に渡って湾曲状に縦立して環状に形成されるフランジ部と、を具備し、
前記糸巻胴部の周面上で周方向に列状に連なり、異なる複数の開口面積を有し、前記リブ部と繋がる中央部分から両外周の前記フランジ部にそれぞれ向かって開口面積が小さくなる順に複数段で配置される複数の貫通孔を有することを特徴とする釣糸巻回用スプール。

【請求項2】

前記釣糸巻回用スプールにおいて、
前記複数の貫通孔が、少なくとも第１の貫通孔群と、該第１の貫通孔よりも開口面積が小さい第２の貫通孔群とを有し、
複数の前記第１の貫通孔群が前記糸巻胴部の表面側中央を挟んで、前記周面の周方向に列状に配置され、
複数の前記第２の貫通孔群が前記糸巻胴部上の周方向における前記第１の貫通孔群間の中間で、前記フランジ部の近傍に、周方向に列状に配置されていることを特徴とする請求項１に記載の釣糸巻回用スプール。

【請求項3】

前記釣糸巻回用スプールにおいて、
前記複数の貫通孔は、開口形状が６角形を成して、異なる複数の開口面積を有し、前記リブ部と繋がる中央部分から両外周の前記フランジ部にそれぞれ向かって開口面積が小さくなる順にハニカム配置されることを特徴とする請求項１又は２に記載の釣糸巻回用スプール。

【請求項4】

釣糸を糸巻胴部に巻回保持するスプールであって、
中空な円筒形状を成す糸巻胴部と、
前記糸巻胴部の円筒内部中央で中空を塞ぎ、円筒内面と直交する方向で全周に亘り一体的に接合し、中央にスプール軸を嵌装する軸挿入部を有する円盤状を成すリブ部と、
前記糸巻胴部の両端で、それぞれに外周に渡って湾曲状に縦立して環状に形成されるフランジ部と、を具備し、
前記糸巻胴部の周面上で、前記リブ部と繋がる中央部分から両外周の前記フランジ部にそれぞれ向かって開口幅が狭くなる形状の複数の貫通孔を有することを特徴とする釣糸巻回用スプール。

【請求項5】

対向する一対の側壁部を有するリール本体と、
釣糸を糸巻胴部に巻回保持するスプールと、
前記スプールに嵌装され、両端を前記側壁部に取り付けて、前記スプールを回転自在に支持するスプール軸と、
前記スプール軸と機械的に連結され、前記スプールを回転させる駆動機構と、を具備し、
前記スプールは、
中空な円筒形状を成す糸巻胴部と、
前記糸巻胴部の円筒内部中央で縦立し、円筒内面と直交する方向で全周に亘り一体的に接合し、中央にスプール軸を嵌装する軸挿入部を有する円盤状を成すリブ部と、
前記糸巻胴部の両端で、それぞれに外周に渡って湾曲状に縦立して環状に形成されるフランジ部と、
前記糸巻胴部の周面上で、開口面積が異なり、前記リブ部と繋がる中央部分から両外周の前記フランジ部にそれぞれ向かって開口面積が小さくなる順に配置される複数の貫通孔と、を有することを特徴とする釣糸巻回用スプールを搭載した魚釣用リール。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、剛性を有し軽量化されたスプールを有する両軸受型の魚釣用リールに関する。

【背景技術】

【0002】

一般に、両軸受型の魚釣用リールとして、例えば、ルアー等の疑似餌をキャストするために用いられるベイトキャスティングリール（以下、ベイトリールと称する）が知られている。このベイトリールにおいて、道糸となる釣糸は、円筒形状のスプールに巻回されて、収納されている。疑似餌をキャストする場合には、クラッチ機構によりスプールをフリー状態に切り換えて、釣竿を素早く振り抜くことにより、スプールから釣糸が引き出されながら、疑似餌が飛翔し所望するポイントに着水する。

【0003】

疑似餌は、その重さが数ｇから数十ｇ程度の軽量であるが、ユーザは、その飛距離がより長距離となり、着水ポイントに対してコントロールできるように要望している。さらに、着水等により釣糸の引き出しが停止した時点でスプールの回転も停止し、スプールに巻回された釣糸に緩み（バックラッシュ）が生じないように要求されている。

【0004】

従って、スプールの慣性力を低減するための軽量化と、スプールの回転初速を高めるための回転効率（回転抵抗の低減）を図るために種々の技術が提案されている。勿論、ベイトリール以外のタイプのリールにおいても、スプールの軽量化は、高性能化に多くの利点をもたらすため、広く求められている。
例えば、特許文献１は、中空な糸巻胴部の内周面中央に一体的に接合する円盤形状のリブ部が設けられ、そのリブ部の中心にスプール軸が装嵌された構成のスプールが記載されている。スプールの軽量化を図るために、スプールの糸巻面（糸巻胴部）に同径で複数の貫通孔を形成した技術が提案されている。また、特許文献２は、同様に複数の貫通孔がスプールの外周に沿って列状に配置された構成が提案されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特開２００１−０２８９８３号公報

【特許文献2】特開平１１−１１３４６２号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

前述したスプールの構成においては、負荷が糸巻胴部に掛かると、スプール軸近傍のリブ部分に大きな割合で、その負荷が掛かっている。さらに、釣行時において、釣糸が糸巻胴部の端位置にある状態でスプールが停止していた場合、魚等が掛かり巻上げを行うと、糸巻胴部の巻回面の接線方向（径方向と直交する方向）に引っ張られて、その端位置に負荷が掛かり、スプールにねじれの力が生じる。このねじれにより、糸巻胴部、リブ部及びスプール軸嵌装部に偏りや変形が生じると、スプールが適正に回転できなくなる。これを防止するため、通常のスプールは、特許文献１のように嵌装されるスプール軸やリブ部及び糸巻胴部に掛かる負荷に対応できる強度を基準として製作されている。しかし、強度を高めることは、スプールの重量の増加に繋がり、結果、慣性モーメントを増加させてしまう事態を招きかねない。

【0007】

そこで、前述した特許文献１又は特許文献２におけるスプールの軽量化を図るために、釣糸の糸巻面（糸巻胴部）に複数の貫通孔を形成した構成が提案されている。これらの貫通孔を形成することにより、回転中心となるスプール軸から離れた糸巻胴部等の構成部位の軽量化が実現する。

【0008】

しかし、貫通孔の形成は、単に開口すれば軽量化は実現できるが、強度が低くなる場合もあり、貫通孔の配置や径等を考慮しなくてはならない。また、回転時にスプールに発生する慣性モーメントは、スムーズな回転となるためには、糸巻胴部の全周面に対して同じであることが要求される。従って、特許文献１又は特許文献２に記載されるように、同径の貫通孔を配置して、強度と慣性モーメントを考慮した配置を形成することは容易ではない。

【0009】

そこで本発明は、強度を保持しながら軽量化を図り、慣性モーメントの低減によるスムーズな回転と回転停止を実現するスプールと、そのスプールを備える魚釣用リールを提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0010】

上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態は、釣糸を糸巻胴部に巻回保持するスプールであって、中空な円筒形状を成す糸巻胴部と、前記糸巻胴部の円筒内部中央に縦立し、円筒内面と直交する方向で全周に亘り一体的に接合し、中央にスプール軸を嵌装する軸挿入部を有する円盤状を成すリブ部と、前記糸巻胴部の両端で、それぞれに外周に渡って湾曲状に縦立して環状に形成されるフランジ部と、を具備し、前記糸巻胴部の周面上で周方向に列状に連なり、異なる複数の開口面積を有し、前記リブ部と繋がる中央部分から両外周の前記フランジ部にそれぞれ向かって開口面積が小さくなる順に複数段で配置される複数の貫通孔を有する釣糸巻回用スプールを提供する。

【0011】

さらに、実施形態は、対向する一対の側壁部を有するリール本体と、釣糸を糸巻胴部に巻回保持するスプールと、前記スプールに嵌装され、両端を前記側壁部に取り付けて、前記スプールを回転自在に支持するスプール軸と、前記スプール軸と機械的に連結され、前記スプールを回転させる駆動機構と、を具備し、前記スプールは、中空な円筒形状を成す糸巻胴部と、前記糸巻胴部の円筒内部中央で縦立し、円筒内面と直交する方向で全周に亘り一体的に接合し、中央にスプール軸を嵌装する軸挿入部を有する円盤状を成すリブ部と、前記糸巻胴部の両端で、それぞれに外周に渡って湾曲状に縦立して環状に形成されるフランジ部と、前記糸巻胴部の周面上で、開口面積が異なり、前記リブ部と繋がる中央部分から両外周の前記フランジ部にそれぞれ向かって開口面積が小さくなる順に配置される複数の貫通孔と、を有する釣糸巻回用スプールを搭載した魚釣用リールを提供する。

【発明の効果】

【0012】

本発明によれば、強度を保持しながら軽量化を図り、慣性モーメントの低減によるスムーズな回転と回転停止を実現するスプールと、そのスプールを備える魚釣用リールを提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0013】

【図1】図１（ａ）は、本発明の実施形態に係る魚釣用リールの全体的な外観構成を示す図、図１（ｂ）は魚釣用リールに搭載されているスプールの外観構成を示す図である。

【図2】図２は、第１の実施形態に係り、図１（ｂ）に示す線分Ａ−Ａからみたスプール側面の外観構成を示す図である。

【図3】図３は、第１の実施形態に係り、図１（ｂ）に示す線分Ｂ−Ｂにおけるスプール軸を含むスプールの断面構成を示す図である。

【図4】図４（ａ）は、第１の実施形態に係るスプールの外観構成を示す図、図４（ｂ）は、図４（ａ）に示す線分Ｃ−Ｃにおけるスプールの側断面構成を示す図、図４（ｃ）は、図４（ａ）に示す線分Ｄ−Ｄにおけるスプールの側断面構成を示す図である。

【図5】図５（ａ）は、図４（ｂ）に示す線分Ｅ−Ｅにおけるスプールの断面構成を示す図、図５（ｂ）は、図４（ｃ）に示す線分Ｆ−Ｆにおけるスプールの断面構成を示す図である。

【図6】図６（ａ）は、第２の実施形態に係るスプールの外観構成を示す図、図６（ｂ）は、図６（ａ）に示す線分Ｇ−Ｇにおけるスプールの側断面構成を示す図、図６（ｃ）は、図６（ａ）に示す線分Ｈ−Ｈにおけるスプールの側断面構成を示す図、図６（ｄ）は、図６（ａ）に示す線分Ｊ−Ｊにおけるスプールの側断面構成を示す図である。

【図7】図７（ａ）は、図６（ｂ）に示す線分Ｋ−Ｋにおけるスプールの断面構成を示す図、図７（ｂ）は、図６（ｃ）に示す線分Ｌ−Ｌにおけるスプールの断面構成を示す図である。

【図8】図８（ａ）は、第３の実施形態に係るスプールの外観構成を示す図、図８（ｂ）は、図８（ａ）に示す線分Ｍ−Ｍにおけるスプールの側断面構成を示す図である。

【図9】図９（ａ）は、図８（ｂ）に示す線分Ｎ−Ｎにおけるスプールの側断面構成を示す図、図９（ｂ）は、開口する孔の形状について説明するための図である。

【図10】図１０は、第４の実施形態に係るスプールの側面構成を示す図である。

【発明を実施するための形態】

【0014】

以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図１は、本発明に係る魚釣用リールの全体的な外観構成を示す図である。
この魚釣用リール（以下、リールと称する）１は、スプール５を貫通するスプール軸（図１（ｂ）の符号７）で両側から回転可能に軸支する両軸受型の手巻きリールである。

【0015】

リール本体２内には、両側が支持されたスプール軸７と嵌装するスプール５が回転可能に配置される。スプール軸７は、駆動機構、即ちギヤ機構（図示せず）及びドラグ機構（図示せず）を介在して、リール本体側面に配置されるスプール５を回転駆動させるためのハンドル３のハンドル軸３ａに機械的に連結されている。

【0016】

スプール５から延出したスプール軸７の両側は、それぞれに図示しないベアリング等を介して、リール本体２の間隔を空けて対向する一対の側壁部の間に取り付けられ、スプール５が回転自在に支持されている。尚、側壁部へのスプール軸７の取り付けは、回転可能ならベアリングは必ずしも必要でなく、側壁部へ直接でも間接（例えば、セットプレートやバックラッシュ防止機構等を介して）であってもよい。スプール軸７の一端は、同軸上に配置されたギヤにギヤ機構が歯合し、ハンドル３の回転力が伝達される。

【0017】

ドラグ機構は、ギヤ機構とハンドル軸の間に配置され、ギヤ機構へのハンドル３による回転動力の伝達及びスプール５の制動力を調整する。このドラグ機構では、ドラグ調整体（例えば、スタードラグ）４の締め込み具合により、スプール５から釣糸が引き出される制動力及びハンドル３の回転動力の伝達が調整される。

【0018】

また、リール本体２の前方側には、往復移動して、釣糸をスプール５に均一に巻回させるレベルワインド機構６が配置されている。さらに、リール本体２の後方には、スプール５をギヤ機構と連結させる図示しないクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、リール本体２に後方側に設けられたクラッチレバー８により、フリー状態（非連結状態）又は、巻上げ可能状態（連結状態）に切り換えられる。ここでは、クラッチレバー８の押し下げにより、クラッチ機構が解除されてフリー状態となり、またハンドル３の巻上げ操作により、解除から復帰し、クラッチ機構が連結する。

【0019】

［第１の実施形態］
図１（ｂ）は、第１の実施形態の魚釣用リールに搭載されているスプールの外観構成を示す図である。図２は、スプール側面の外観構成を示す図であり、図３は、図１（ｂ）に示す線分Ｂ−Ｂにおけるスプールの断面構成を示す図である。

【0020】

本実施形態のスプール５は、糸巻胴部１２とリブ部１１とが削り出しにより、一体的に形成される。図３に示すように、中空な円筒形状の糸巻胴部１２で内部中央に、円盤状のリブ部１１が一体的に設けられている。リブ部１１は、糸巻胴部１２内で縦立されて、糸巻胴部１２の内面と直交する方向で全周に亘り接合して支持する。なお、リブ部１１は、糸巻胴部１２内の中空を完全に塞ぐ必要はなく、リブ部１１にスプール軸方向への貫通孔を開けてもよい。

【0021】

さらに、スプール削り出し工程の中で、図３に示すように、リブ部１１の中央には、円筒形状の軸挿入部（スプール軸支持部）１４が設けられている。軸挿入部１４には、スプール軸９を嵌装して固着するための嵌装孔１４ａが形成されている。また、糸巻胴部１２とリブ部１１との接続箇所、及びリブ部１１と軸挿入部１４との接続箇所は、それぞれの面が交差する箇所を角付けるのではなく、角を丸めるように面と面を曲面状で繋ぐ、所謂、Ｒ（アール）を付けることにより、掛かる負荷を分散させて強度を高めている。

【0022】

また、図１（ｂ）に示すように、スプール５には、糸巻胴部１２の両側の外周端から湾曲状に縦立して環状に張り出すように形成されるフランジ部１３が設けられている。フランジ部１３の張り出し量（縁の高さ）は、釣糸の巻回容量を規定する。つまり、フランジ部１３が糸巻胴部１２の面より高いほど、巻回容量が増加する。

【0023】

負荷となる釣糸を巻き上げる場合、釣糸は、レベルワインド機構６によりスプール５の糸巻胴部１２上を往復移動されながら、均一な厚さで巻き取られている。従って、スプール５に掛かる負荷も図３に示すように、力Ｆ1から力Ｆ2は、糸巻胴部１２上を移動する。この時、糸巻胴部１２及びフランジ部１３、特には、リブ部１１に、ねじれの力Ｆtが作用し、スプール軸まで伝達される。

【0024】

そのため、円盤形状のリブ部１１には、ねじれに耐え得る強度を持たせるために、設計値に基づく厚み（リブ部の肉厚）が必要である。尚、設計に従えば、同じ材料により形成されていた場合で、リブ部１１の厚さは、スプール両端のフランジ部１３の厚さに対して、例えば、２倍以上の厚さを設定している。糸巻胴部１２は、その中央部分がリブ部１１と繋がっているため、強度的に強くなり、フランジ部１３側に向かい強度的に弱まっていく。

【0025】

従って、糸巻胴部１２に貫通孔を形成してスプールの軽量化を図ることを考えると、糸巻胴部１２におけるフランジ部１３側の強度が、スプールに掛かる負荷（ねじれを含む）に対して耐え得る強度であれば、糸巻胴部１２の中央側に、外周側より大きな径（又は、開口面積）の貫通孔を周方向に列状として形成することが許容される。逆に言えば、強度的には、フランジ部側の外周に近づくに従い、径（又は、開口面積）の小さな貫通孔を配置する構成が好ましい。例えば、２種類の開口面積の異なる円形の貫通孔を配置する場合であれば、径の大きい貫通孔の列（貫通孔群）を糸巻胴部１２の中央側に配置し、径の小さい貫通孔の列（貫通孔群）をフランジ部側に配置する。

【0026】

貫通孔の開口形状としては、円形、本実施形態で例としている楕円形、矩形、多角形、星形があるが、後述する実施形態のように、開口面積が異なれば、複数種の形が複合された形状も適用できる。また、糸巻胴部に複数の貫通孔を形成する場合に、同じ形の開口形状で統一されてもよいし、異なる形状が混在してもよい。複数種の貫通孔をもちいる場合に、形状で大小を述べてもよいが、以下の実施形態では、形状ではなく、開口面積で定義して説明を行う。

【0027】

本実施形態では、図１（ｂ）及び図４（ａ）乃至図４（ｃ）に示すように、糸巻胴部１２の周囲に渡り、同じ形状で開口面積が異なる２種類の貫通孔９，１０が等間隔でそれぞれに列配置される。図４（ｂ）、図４（ｃ）に示すように、共に楕円形状を成し、開口面積が広い貫通孔９（第１の貫通孔）が中央側に配置され、外周のフランジ部１３に向かい、開口面積が狭い貫通孔１０（第２の貫通孔）が配置され、２段の列の構成となっている。

【0028】

これらのうち、貫通孔９は、図５（ａ）に示すように、内面側中央にリブ部１１が一体的に接合された糸巻胴部１２の表面側中央を挟んで、それぞれ一列に周方向に等間隔で配置される（貫通孔群となっている）。また、貫通孔９よりも小さい貫通孔１０は、図４（ａ）、図５（ｂ）に示すように、貫通孔９間を基準にして、中間に配置され、且つフランジ部１３近傍側に等間隔で配置されている。

【0029】

この例では、楕円の長い側の径（長さ）で貫通孔９は、貫通孔１０の２倍の長さ、即ち、４倍の面積差となるように設定されている。しかし、これらの貫通孔の大きさや開口形状及び、その個数は、スプール５の大きさ（直径）や形成する材料に応じて、設計時に適宜設定される数値である。

【0030】

貫通孔の開口面積値や配置は、少なくとも掛かる負荷に対して、スプールが変形等の不具合が発生せず、糸巻胴部１２上で同じ程度の強度となるように設定されている。特に、複数の貫通孔９，１０の配置は、スプール５に負荷が掛かった際の変形ひずみ量が均一となるように調整される。本実施形態の貫通孔は、フランジ部１３近傍における強度を下回らないまでの範囲で、糸巻胴部１２全体で同一な強度であることが好ましい。

【0031】

以上説明したように本実施形態によれば、糸巻胴部１２に中央側に開口面積（径）が大きい貫通孔を配置し、フランジ部１３近傍側に開口面積（径）が小さい貫通孔を配置することにより、軽量化が図られたスプール５における均一な強度を得ることができる。さらに、スプール軸７の軸心からの距離が大きい糸巻胴部の質量を効率よく減少できるので、スプール５の慣性モーメントが小さくなり、レスポンスのよいスムーズな回転、停止が可能となる。

【0032】

［第２の実施形態］
次に、第２の実施形態について説明する。図６（ａ）は、第２の実施形態に係るスプールの外観構成を示す図、図６（ｂ）乃至図６（ｄ）は、それぞれ異なる位置のスプールの側断面構成を示す図である。図７（ａ）及び図７（ｂ）は、スプールの断面構成を示す図である。本実施形態について、前述した第１の実施形態と同等の構成部位には、同じ参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。

【0033】

本実施形態は、前述した第１の実施形態における貫通孔９，１０に加えて、貫通孔１０よりも小さい開口面積（径）の貫通孔２２（第３の貫通孔）を外周側に付加した構成である。
図６（ａ）に示すように、糸巻胴部１２の周回方向と直交する方向で、貫通孔９とフランジ部１３との間に、楕円の貫通孔２２を形成した構成である。この例では、貫通孔２２は、楕円の長い側の径（長さ）で貫通孔１０の１／２の長さ、即ち、４倍の面積差となるように設定されている。従って、貫通孔２２，１０，９の開口面積は、べき乗の関係にある。勿論、貫通孔２２は、貫通孔９，１０に合わせて、設計により適宜変更されるものであり、その形状や開口面積は限定されるものではない。

【0034】

本実施形態によれば、貫通孔９，１０に加えて、貫通孔１０よりも小さい開口面積の貫通孔２２を付加した構成により、糸巻胴部１２における強度の細かな調整が実現できる。また、より軽量化したスプール５を実現することができる。よって、さらなるスプール５における、より均一な強度と慣性モーメントを得ることができ、耐久性のある釣糸の巻上げと、スムーズな回転による引き出しと停止を実現する。

【0035】

［第３の実施形態］
次に、第３の実施形態について説明する。図８（ａ）は、第３の実施形態に係るスプールの外観構成を示す図、図８（ｂ）及び図９（ａ）は、スプールの側断面構成を示す図である。図９（ｂ）は、開口する孔の形状について説明するための図である。本実施形態について、前述した第１の実施形態と同等の構成部位には、同じ参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。

【0036】

前述した第１及び第２の実施形態では、同じ形状で異なる開口面積の複数種の貫通孔を配置した構成例であったが、本実施形態においては、１種類の形状の貫通孔２３（第４の貫通孔）であり、その形状は、図９（ｂ）にしめすように、貫通孔２３を３分割して、糸巻胴部１２に中央側からｑ１端とし、ｑ２、ｑ３、さらにフランジ部１３側をｑ４端とした場合に、それぞれの幅においては、ｑ２＞ｑ３の関係がある。即ち、貫通孔２３は、ｑ１端から通常の円又はそれ以上に広がる円弧でｑ２の最大幅まで広がり、それ以降、フランジ部１３側に進むにつれて、湾曲状に開口幅が徐々に狭まっていく先細りの形状例えば、アーモンド形状である。

【0037】

本実施形態では、図８（ａ）に示すように、糸巻胴部１２の中央を境にして、両フランジ部１３に対して、それぞれに開口幅の狭い方を向けて、図８（ｂ）に示すように周方向に等間隔に配置される。尚、貫通孔２３は、図９（ａ）に示すように、先細りの端部が糸巻胴部１２のそれぞれの両端からフランジ部１３に掛かるＲ部分に接する位置までとしている。

【0038】

本実施形態によれば、１つの貫通孔２３の開口形状を中央側から外周側に向かい、開口幅を狭める形状にすることで、スプール５における均一な強度を得ることができる。
さらに、１種類の貫通孔を形成するため、設計が容易であり、形成作業も容易になる。その強度も貫通孔２３の開口面積（又は、形状）と配置数により調整できるが、開口幅の狭まり具合を変えることで、微小な調整も容易にできる。

【0039】

さらに第１の実施形態と同様に、回転時にスプールに発生する慣性モーメントをスプール５の周面に対して、均一にできるためスムーズな回転となり、且つ軽量化により、スプールの停止にあたり、巻回された釣糸に緩み（バックラッシュ）を生じさせないことができる。

【0040】

［第４の実施形態］
次に、第４の実施形態について説明する。図１０は、第４の実施形態に係るスプールの側面構成を示す図である。本実施形態について、前述した第１の実施形態と同等の構成部位には、同じ参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
本実施形態のスプール４１は、貫通孔の開口形状に多角形、例えば６角形の複数種の貫通孔を用いて、糸巻胴部１２の中央を境にして、両フランジ部１３側に向かい、開口面積が小さくなるように、公知なハニカム状に配置した構成である。

【0041】

即ち、図１０に示すように、貫通孔４２，４３，４４，４５は、開口面積が順に小さくなるように設定される。ここでは、一例としては、貫通孔４２の開口面積を１とすると、それぞれの貫通孔４３を１／４、４４を１／８、４５を１／１６の面積比を設定している。勿論、作成するスプールの仕様に基づく設計により、それらの開口面積の減少率は、適宜設定される。これらの貫通孔をもちいて、ハニカム配置を行い、両フランジ部１３側に向かい、貫通孔の開口面積を減じて、糸巻胴部１２の中央から外周に向けて強度が一定となるように設定している。

【0042】

本実施形態によれば、貫通孔を６角形を用いて、ハニカム配置を行うことで、他の形状の貫通孔による異なる配置に比べて、強度的に低下しにくくなるため、糸巻胴部１２の全体的な開口面積を大きくすることができ、スプール全体の軽量化を実現することができる。

【0043】

以上説明した第１乃至第３の実施形態における糸巻胴部１２は、略均一な厚さとして、両端のフランジ部１３に達して、フランジ部１３が先端にかけて厚さを薄くする形状を示したが、これに限定されるものではない。前述したように、リブ部１１と繋がっている糸巻胴部１２の中央部分の方が、両端のフランジ部１３部分よりも負荷が強く掛かる。そこで、強度と軽量化を考慮したスプールとして、必要とされる強度に基づく糸巻胴部１２の中央部分の厚さ（肉厚）から、両端のフランジ部１３に向かい徐々に薄くなるように形成された断面構造を有してもよい。

【0044】

また、第１乃至３の実施形態では、糸巻胴部１２に貫通孔を形成することを例として説明したが、貫通孔に限定されるものではなく、例えば、貫通孔に底部を設けた有底孔、即ち、凹形状の溝として形成してもよい。この凹形溝は、糸巻胴部１２の片面から切削して底部を残すように形成してもよいし、両面から凹形溝を切削して、底部を壁として残すように形成してもよい。この溝形成においても、前述した第１乃至３の実施形態と同等の作用効果を得ることができる。さらに、貫通孔を通じたスプール内への水（淡水又は塩水）への進入が抑制されるため、防錆等に対して効果を有している。

【0045】

以上説明した第１乃至３の実施形態によるスプールは、材料として、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等を採用することができる。これらの材料に対して、削り出し、プレス加工、又は鍛造により形成することかできる。これらのスプールは、露出表面が耐腐食処理されることが望ましく、例えば、公知な耐性膜の被膜処理又は、耐性塗料の塗装処理等を行う。スプールがアルミ系金属で形成されていたならば、酸化処理（例えば、アルマイト処理）を施してもよい。また、カーボン繊維等で強化された樹脂材料等で形成することも可能である。

【0046】

また、必要とされる剛性に従うが、スプールは、ステンレス薄板又は、その合金の薄板により形成することも可能である。さらに、スプールは、必ずしも一体的に形成されている必要はなく、同じ材料又は異なる材料により形成されたパーツを組み付けて構成されていてもよい。例えば、アルミニウム合金からなる糸巻胴部と、樹脂材料からなるフランジ部とが組み付けられた構成であってもよい。

【符号の説明】

【0047】

１…魚釣用リール、２…リール本体、３…ハンドル、４…ドラグ調整体、５…スプール、６…レベルワインド機構、７…スプール軸、８…クラッチレバー、９，１０…貫通孔、１１…リブ部、１２…糸巻胴部、１３…フランジ部、１４…軸挿入部、１４ａ…嵌装孔、１５…部分リブ部、１６…貫通孔。

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】