特許第5779532号(P5779532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779532
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】エンジンの電子ガバナ
(51)【国際特許分類】
   F02D 1/08 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   F02D1/08 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-73157(P2012-73157)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204484(P2013-204484A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正徳
(72)【発明者】
【氏名】藤井 保生
(72)【発明者】
【氏名】辻野 一成
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−011564(JP,A)
【文献】 特開2005−105842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00−37/22
F02M 39/00−71/04
F02D 1/00− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御手段(1)が、回転数偏差演算手段(2)と、PID制御またはPI制御の制御値演算手段(3)と、電流制御部(4)と、アクチュエータ駆動回路(5)とを備え、回転数偏差演算手段(2)で目標回転数と実回転数との回転数偏差を演算し、この回転数偏差に基づいて、制御値演算手段(3)がPID制御またはPI制御の制御値を演算し、この制御値に基づいて、電流制御部(4)がアクチュエータ駆動回路(5)のアクチュエータ駆動電流を制御し、このアクチュエータ駆動電流でアクチュエータ(6)を駆動し、このアクチュエータ(6)で燃料噴射ポンプ(7)の燃料調量部(8)を調量することにより、回転数偏差ΔRを所定範囲内に収束させるとともに、
制御手段(1)がディザ電流重畳手段(9)を備え、このディザ電流重畳手段(9)でアクチュエータ駆動電流にディザ電流を重畳させるようにした、エンジンの電子ガバナにおいて、
制御手段(1)が、積分値変動率判定手段(3a)と、積算キャンセル手段(10)とを備え、制御値演算手段(3)で演算した積分値Iの積分値変動率ΔI/ΔTの絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回っている間は、これを積分値変動率判定手段(3a)が判定したことに基づいて、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルする、ことを特徴とするエンジンの電子ガバナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの電子ガバナに関し、詳しくは、回転数偏差が微小範囲に収まった後に発生することがある、周期的な回転数変動の狭小ピークを回避することができる、エンジンの電子ガバナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの電子ガバナとして、制御手段が、回転数偏差演算手段と、PID制御またはPI制御の制御値演算手段と、電流制御部と、アクチュエータ駆動回路とを備え、回転数偏差演算手段で目標回転数と実回転数との回転数偏差を演算し、この回転数偏差に基づいて、制御値演算手段がPID制御またはPI制御の制御値を演算し、この制御値に基づいて、電流制御部がアクチュエータ駆動回路のアクチュエータ電流を制御し、このアクチュエータ駆動電流でアクチュエータを駆動し、このアクチュエータで燃料噴射ポンプの燃料調量部を調量することにより、回転数偏差を所定範囲内に収束させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、制御手段がディザ電流重畳手段を備え、このディザ電流重畳手段でアクチュエータ駆動電流にディザ電流を重畳させるものがある(特許文献2参照)。
後者には、ディザ電流によりアクチュエータの出力部を微小振動させ、これに追従する燃料調量部の微小振動により、燃料調量部の応答性を高めることができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−74771号公報(図2参照)
【特許文献2】特開2009−85062号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題》 回転数偏差が微小範囲に収まった後に、周期的な回転数変動の狭小ピークが発生することがある。
PID制御またはPI制御の制御値演算手段とディザ電流重畳手段とを組み合わせると、図5に示すように、回転数偏差ΔRの絶対値|ΔR|が微小範囲LRに収まった後に、周期的な回転数変動の狭小ピーク(P)が発生することがある。
このような狭小ピーク(P)の発生は、周波数変動に直結し、例えばエンジン発電機に用いた場合には、電圧と周波数の安定性等の性能が低下し、電灯をちらつかせる等の不具合が生じる。
【0005】
本発明の課題は、回転数偏差が微小範囲に収まった後に発生することがある、周期的な回転数変動の狭小ピークを回避することができる、エンジンの電子ガバナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1に係る発明の前提となる発明特定事項)
図3に例示するように、制御手段(1)が、回転数偏差演算手段(2)と、PID制御またはPI制御の制御値演算手段(3)と、電流制御部(4)と、アクチュエータ駆動回路(5)とを備え、回転数偏差演算手段(2)で目標回転数と実回転数との回転数偏差を演算し、この回転数偏差に基づいて、制御値演算手段(3)がPID制御またはPI制御の制御値を演算し、この制御値に基づいて、電流制御部(4)がアクチュエータ駆動回路(5)のアクチュエータ駆動電流を制御し、このアクチュエータ駆動電流でアクチュエータ(6)を駆動し、このアクチュエータ(6)で燃料噴射ポンプ(7)の燃料調量部(8)を調量することにより、回転数偏差ΔRを所定範囲内に収束させるとともに、
制御手段(1)がディザ電流重畳手段(9)を備え、このディザ電流重畳手段(9)でアクチュエータ駆動電流にディザ電流を重畳させるようにした、エンジンの電子ガバナ。
【0007】
(周期的な回転数変動の狭小ピークが発生する原因)
PID制御またはPI制御の制御値演算手段とディザ電流重畳手段とを組み合わせた場合、回転数偏差が微小範囲に収まった後に、周期的な回転数変動の狭小ピークが発生する原因について、本願発明の発明者らは、研究の結果、次の知見を得た。
すなわち、図1を参照して説明すると、目標回転数がある値に設定された場合、燃料噴射ポンプ(7)の燃料圧送周期とディザ電流による燃料調量部(8)の振動周期が同期することがある。この場合、燃料圧送のために作動が拘束された燃料調量部(8)がアクチュエータ(6)の出力部(13)の振動に追従せず、燃料調量部(8)の調量位置が適正位置からずれ、微小回転数偏差(例えば、1rpm以下の回転数偏差)が定常的に残ることがある。この微小回転数偏差を放置しておくと、図5に示すように、積分値Iが累積し、この積分値Iを相殺する制御の結果、周期的な回転数変動の狭小ピーク(P)が発生する。
本願発明の発明者らは、この知見に基づき、本願発明に至った。
【0008】
【0009】
(請求項1に係る発明の特徴となる発明特定事項)
図3図4に例示するように、制御手段(1)が、積分値変動率判定手段(3a)と、積算キャンセル手段(10)とを備え、制御値演算手段(3)で演算した積分値Iの積分値変動率ΔI/ΔTの絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回っている間は、これを積分値変動率判定手段(3a)が判定したことに基づいて、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルする、ことを特徴とするエンジンの電子ガバナ。
【発明の効果】
【0010】
【0011】
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 回転数偏差が微小範囲に収まった後に発生することがある、周期的な回転数変動の狭小ピークを回避することができる。
図3図4に例示するように、制御手段(1)が、積分値変動率判定手段(3a)と、積算キャンセル手段(10)とを備え、制御値演算手段(3)で演算した積分値Iの積分値変動率ΔI/ΔTの絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回っている間は、これを積分値変動率判定手段(3a)が判定したことに基づいて、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルするので、微小回転数偏差に基づく積分値Iが累積せず、この積分値Iを相殺する制御の結果生じていた、周期的な回転数変動の狭小ピークの発生が起こらない。このため、回転数偏差が微小範囲LRに収まった後に発生することがある、周期的な回転数変動の狭小ピークを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の参考形態に係るエンジンの電子ガバナのブロック図である。
図2図1の電子ガバナの制御によるエンジン回転数のグラフである。
図3】本発明の実施形態に係るエンジンの電子ガバナのブロック図である。
図4図3の電子ガバナの制御によるエンジン回転数のグラフである。
図5】従来技術に係るエンジンの電子ガバナの制御によるエンジン回転数と積分値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図2は本発明の参考形態に係るエンジンの電子ガバナを説明する図、図3図4は本発明の実施形態に係るエンジンの電子ガバナを説明する図であり、この参考形態と実施形態では、ディーゼルエンジンの電子ガバナについて説明する。
【0014】
まず、参考形態について説明する。
このディーゼルエンジンの電子ガバナは、エンジン発電機に用いている。
図1図2に示すように、制御手段(1)が、回転数偏差演算手段(2)と、PID制御方式の制御値演算手段(3)と、電流制御部(4)と、アクチュエータ駆動回路(5)とを備え、回転数偏差演算手段(2)で目標回転数と実回転数との回転数偏差を演算し、この回転数偏差に基づいて、制御値演算手段(3)がPID制御の制御値を演算し、この制御値に基づいて、電流制御部(4)がアクチュエータ駆動回路(5)のアクチュエータ駆動電流を制御し、このアクチュエータ駆動電流でアクチュエータ(6)を駆動し、このアクチュエータ(6)で燃料噴射ポンプ(7)の燃料調量部(8)を調量することにより、回転数偏差ΔRを所定範囲内に収束させるとともに、制御手段(1)がディザ電流重畳手段(9)を備え、このディザ電流重畳手段(9)でアクチュエータ駆動電流にディザ電流を重畳させるようにしている。
【0015】
図1に示すように、回転数偏差演算手段(2)には、目標回転数検出手段(19)と実回転数検出手段(20)を接続している。目標回転数検出手段(19)は、アクセルペダルの位置を検出して、エンジンの目標回転数を検出するポテンショメータである。実回転数検出手段(20)は、エンジンの実回転数を検出するピックアップコイルである。
【0016】
図1に示すように、制御値演算手段(3)は、比例項演算部(14)と積分項演算部(11)と微分項演算部(15)とを備えている。
制御値演算手段(3)は、回転数偏差に基づく制御値のPID演算式の演算を行う。
PID演算式は、次の通りである。
制御値=Kp×(回転数偏差)+Ki×(偏差の累積値)+Kd×(前回偏差との差)
ここで、Kp×(回転数偏差)は比例項、Ki×(偏差の累積値)は積分項、Kd×(前回偏差との差)は微分項、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kdは微分ゲインである。
制御値演算手段(3)は、微分項演算部(15)のないPI制御の演算手段であってもよい。
【0017】
図1に示すように、アクチュエータ(6)は、リニアソレノイドである。
燃料噴射ポンプ(7)はボッシュ式の列形燃料噴射ポンプである。
燃料調量部(8)は燃料調量ラック(16)である。
燃料調量ラック(16)は、付勢スプリング(17)によって燃料増量側に付勢され、アクチュエータ(6)の出力部(13)で受け止められている。
アクチュエータ(6)の出力部(13)がソレノイドの電磁力で本体側に引かれると、付勢スプリング(17)の付勢力で、燃料調量ラック(16)が燃料増量側に駆動される。アクチュエータ(6)の出力部(13)が戻しスプリング(18)の付勢力で本体側から押し出されると、燃料調量ラック(16)が燃料減量側に駆動される。
アクチュエータ(6)の非通電時は、出力部(13)が戻しスプリング(18)の付勢力で本体側から押し出され、燃料調量ラック(16)が燃料無噴射位置に保持される。
【0018】
図1図2に示すように、制御手段(1)が、回転数偏差判定手段(2a)と積算キャンセル手段(10)とを備え、所定時間Δtの回転数偏差ΔRの平均値ΔRavの絶対値|ΔRav|が所定の基準偏差値SRを下回っている間は、これを回転数偏差判定手段(2a)が判定したことに基づいて、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルする。この実施形態では、基準偏差値SRは、微小範囲LRよりも小さい値で、1rpm未満の値としている。この基準偏差値SRは、適用するシステムに応じて適正な値を選択すればよい。回転数偏差ΔRが微小範囲LRに入っている場合には、所定時間Δtの回転数偏差ΔRの平均値ΔRavの絶対値|ΔRav|が所定の基準偏差値SRを下回るように、基準偏差値SRを設定しておく。
図1図2に例示するように、この参考形態では、制御手段(1)が、回転数偏差判定手段(2a)と積算キャンセル手段(10)とを備え、所定時間Δtの回転数偏差ΔRの平均値ΔRavの絶対値|ΔRav|が所定の基準偏差値SRを下回っている間は、これを回転数偏差判定手段(2a)が判定したことに基づいて、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルするので、微小回転数偏差に基づく積分値Iが累積せず、この積分値Iを相殺する制御の結果生じていた、周期的な回転数変動の狭小ピークの発生が起こらない。このため、回転数偏差が微小範囲LRに収まった後に発生することがある、周期的な回転数変動の狭小ピークを回避することができる。
【0019】
図2のグラフは、縦軸がエンジン回転数、横軸が時間であり、負荷投入により、実回転数が目標回転数から下降した後、目標回転数に復帰する過程を示しており、所定時間Δtの回転数偏差ΔRの平均値ΔRavの絶対値|ΔRav|が所定の基準偏差値SRを下回っている間は、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルするため、その間、制御値演算手段(3)では、絶対値|ΔRav|が所定の基準偏差値SRを下回った下回り開始時点の積分値Iで制御値の演算を行う。
【0020】
次に実施形態について説明する。
図3図4に示すように、制御手段(1)が、積分値変動率判定手段(3a)と、積算キャンセル手段(10)とを備え、制御値演算手段(3)で演算した積分値Iの積分値変動率ΔI/ΔTの絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回っている間は、これを積分値変動率判定手段(3a)が判定したことに基づいて、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルする。回転数偏差ΔRの絶対値|R|が微小範囲LRに入っている場合には、制御値演算手段(3)で演算した積分値Iの積分値変動率ΔI/ΔTの絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回るように、基準変動率値SIを設定しておく。ΔTは所定時間、ΔIは所定時間ΔTにおける積分値Iの変動値である。
【0021】
図4のグラフは、縦軸がエンジン回転数、横軸が時間であり、負荷投入により、実回転数が目標回転数から下降した後、目標回転数に復帰する過程を示しており、積分値変動率ΔI/ΔTの絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回っている間は、積算キャンセル手段(10)が制御値演算手段(3)による積分値Iの積算をキャンセルするため、その間、制御値演算手段(3)では、絶対値|ΔI/ΔT|が所定の基準変動率値SIを下回った下回り開始時点の積分値Iで制御値の演算を行う。
他の構成は、参考形態と同じであり、図3、4中、参考形態と同じ要素には、図1図2と同じ符号を付しておく。
【符号の説明】
【0022】
(1) 制御手段
(2) 回転数偏差演算手段
(2a) 回転数偏差判定手段
(3) 制御値演算手段
(3a) 積分値変動率判定手段
(4) 電流制御部
(5) アクチュエータ駆動回路
(6) アクチュエータ
(7) 燃料噴射ポンプ
(8) 燃料調量部
(9) ディザ電流重畳手段
(10) 積算キャンセル手段
(11) 積分項演算部
Δt 所定時間
ΔR 回転数偏差
|ΔRav| 回転数偏差の平均値の絶対値
SR 基準偏差値
I 積分値
ΔI/ΔT 積分値変動率
|ΔI/ΔT| 積分値変動率の絶対値
SI 基準変動率値
図1
図2
図3
図4
図5