特許第5779564号(P5779564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779564
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】緑化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01F 25/00 20060101AFI20150827BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20150827BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   A01F25/00 A
   A01G7/00 601C
   A01G7/06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-221196(P2012-221196)
(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2013-90626(P2013-90626A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2012年10月3日
【審判番号】不服2014-24342(P2014-24342/J1)
【審判請求日】2014年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-219070(P2011-219070)
(32)【優先日】2011年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】原田 和夫
【合議体】
【審判長】 小野 忠悦
【審判官】 中田 誠
【審判官】 住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−187598(JP,A)
【文献】 特開平9−149729(JP,A)
【文献】 特開平8−252028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01F25/00
A01G1/00 - 1/02
A01G7/00
A47F11/06 - 11/10
F25D27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫後のジャガイモに、光強度が最小でも15W/mである遠赤色光と、光強度が最大でも2W/mである白色光を同時に照射する
ことを特徴とする緑化抑制方法。
【請求項2】
収穫後のジャガイモに、7〜8℃の低温下で光強度が最小でも0.4W/mである遠赤色光と、光強度が最大でも2W/mである白色光を同時に照射する
ことを特徴とする緑化抑制方法。
【請求項3】
収穫後のジャガイモに、8〜9℃の低温下で光強度が最小でも0.5W/mである遠赤色光と、光強度が最大でも5W/mである遠赤色光以外の波長域の光を同時に照射し、
前記遠赤色光以外の波長域の光が赤色光、青色光、緑色光、及び黄色光のいずれか1つを含
ことを特徴とする緑化抑制方法。
【請求項4】
光強度の平均値が40〜50W/mである白色光の存在下において、栽培中の軟化栽培野菜に、光強度が5〜10W/mである遠赤色光を照射する
ことを特徴とする緑化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、野菜の緑化抑制方法、例えば、収穫後のジャガイモの貯蔵や、葉緑素の形成を抑えて栽培する軟化栽培に用いられる緑化抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
収穫後のジャガイモを蛍光灯等による白色光に曝露した場合、品種間で差はあるものの、全ての品種において表皮の緑化とともにジャガイモ中の食中毒成分であるグリコアルカロイドが顕著に増加することが報告されている。この場合、主成分をα−ソラニン及びα−チャコニンとするグリコアルカロイドは、可食限界とされる目安値の200mg/kg新鮮重を超える場合がある。また、表皮の緑化の程度とグリコアルカロイド含有量とには、高い正の相関があること、曝露時間の増加とともに、緑化が進行し、食中毒成分が増加すること、なども報告されている(例えば、非特許文献1−8参照)。
【0003】
このため、通常、収穫後のジャガイモは、暗所下の低温貯蔵庫に保管されている。また、出荷作業は、ホークリフト等の重機の灯りを点灯するなどして、極力室内照明を点灯せずに、暗い環境下で行われている。一方、店頭では、萌芽しやすい品種のジャガイモは日持ちの短い野菜等と同様に、低温のショーケースに収納されている場合が多い。また、ショーケースに収納されていないジャガイモも、店内の照明に長時間曝されている。
【0004】
また、ウド、ホワイトアスパラ、ハマボウフウ、ニラ、ミツバ等を葉緑素の形成を抑えて栽培する軟化栽培では、被覆材で上部を完全に遮光したり、遮光カーテンと土や籾殻等を併用したりして、新芽部分を軟化させる。通常、僅かな光によっても野菜は次第に緑化することから、軟化栽培用の遮光カーテンには黒ビニールが利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、この出願に係る発明者らによって、ジャガイモなどの根菜に、青色光、緑色光、黄色光及び赤色光や、これらの光を含むいわゆる白色光を照射した場合には、緑化が誘導されるが、遠赤色光を照射した場合には、緑化が抑制されることが確かめられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−252028号公報
【特許文献2】特開2010−187598号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】久野加代子、三浦博史、杉井通泰.長崎産バレイショのSolanineに関する研究(第1報)塊茎のSolanine含量と光によるその変動の品種間差異.生薬学雑誌、34、110-116 (1980)
【非特許文献2】忠田吉弘.貯蔵流通条件によるジャガイモ中のグリコアルカロイドの変化.農業技術、60、213-215 (2005)
【非特許文献3】Salunke,K. and Salunkhe D.K. Chlorophyll and solanine in potato tubers : formation and control. Int. Congress Food Sci. Technol., III, 284-292 (1974)
【非特許文献4】Machado,R.M.D., Toledo,M.C.F., and Garcia,L.C. Effect of light and temperature on the formation of glycoalkaloids in potato tubers. Food Control, 18, 503-508 (2007)
【非特許文献5】Percival, G.C. The influence of light upon glycoalkaloid and chlorophyll accumulation in potato tubers (Solanum tuberosum L.). Plant Sci., 145, 99-107 (1999)
【非特許文献6】Percival,G., Dixon,G.R. and Sword,A. Glycoalkaloid Concentration of Potato Tubers Following Exposure to Daylight. J. Sci. Food Agric., 71, 59-63 (1996)
【非特許文献7】Percival, G. and Dixon, G. Glycoalkaloid Concentration of Potato Tubers Following Continuous Illumination. J. Sci. Food Agric., 66, 139-144 (1994)
【非特許文献8】Morris,S.C. and Lee,T.H. The toxicity and teratogenicity of Solanaceaeglycoalkaloids, particularly those of the potato (Solanum tuberosum): a review. Food Technol. Aust., 36, 118-124 (1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、収穫後のジャガイモの出荷作業は、暗い環境下で行われるため、作業性が悪い。
【0009】
また、通常、店頭のショーケースには照明用の蛍光灯が設置されているため、店頭に陳列されたジャガイモは蛍光灯による白色光の照射下にある。ショーケース以外の店頭に陳列されたジャガイモも、店内の照明等に長時間曝露される。このため、店頭に陳列されたジャガイモは、店内やショーケースの照明等によって、緑化が進行し、食中毒成分が増加することが懸念される。
【0010】
一方、軟化栽培を行うに当たっては、黒ビニールと籾殻等の併用には多大な労力がかかる。また、黒ビニールでは日中に内部の温度が上昇しやすいことなどから、収穫が気象条件に大きく左右される。さらに、気象条件に左右されない軟化栽培装置については、温度、湿度、照度等を人工的に制御するために大型の装置となり、非常に高価になる。
【0011】
そこで、発明者らが検討を行ったところ、野菜が緑化を起こさせる光に長時間曝露されている環境下でも、波長700〜800nmの遠赤色光を同時に照射させることで、緑化を抑制できることを見出した。
【0012】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、収穫後のジャガイモの緑化抑制や、栽培中の軟化栽培野菜の緑化抑制を、より簡便に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、この発明の第1の緑化抑制方法は、収穫後のジャガイモに、光強度が最小でも15W/mである遠赤色光と、光強度が最大でも2W/mである白色光を同時に照射する。
また、この発明の第2の緑化抑制方法では、収穫後のジャガイモに、7〜8℃の低温下で、光強度が最小でも0.4W/mである遠赤色光と、光強度が最大でも2W/mである白色光を同時に照射する。
また、この発明の第3の緑化抑制方法では、収穫後のジャガイモに、8〜9℃の低温下で、光強度が最小でも0.5W/mである遠赤色光と、光強度が最大でも5W/mである遠赤色光以外の波長域の光を同時に照射する。遠赤色光以外の波長域の光は、赤色光、青色光、緑色光、及び黄色光のいずれか1つを含む。
また、この発明の第4の緑化抑制方法では、光強度の平均値が40〜50W/mである白色光の存在下において、栽培中の軟化栽培野菜に、光強度が5〜10W/mである遠赤色光を照射する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の第1〜第4の緑化抑制方法によれば、野菜の緑化を誘導する青色光、緑色光、赤色光などと、遠赤色光を、上述した条件で同時に野菜に照射することで、野菜の緑化を抑制することができる。
【0015】
すなわち、緑化を起こさせる蛍光灯等による白色光の照射下であっても、同時に遠赤色光を照射することで、その緑化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ワセシロに対して、遠赤色光及び白色光を照射したときと、白色光のみを照射したときのクロロフィル含有量を示す図である。
図2】レッドアンデスに対して、遠赤色光及び白色光を照射したときと、白色光のみを照射したときのクロロフィル含有量を示す図である。
図3】キタアカリに対して、低温下で遠赤色光及び白色光を照射したときと、白色光のみを照射したときのクロロフィル含有量を示す図(1)である。
図4】キタアカリに対して、低温下で遠赤色光及び白色光を照射したときと、白色光のみを照射したときのクロロフィル含有量を示す図(2)である。
図5】照射時間とクロロフィル含有量の関係を示す図である。
図6】低温下で、キタアカリを暗所下に保管したときと、キタアカリに対して、赤色光のみを照射したときのクロロフィル含有量を示す図である。
図7】低温下で、キタアカリを暗所下に保管したときと、キタアカリに対して、遠赤色光及び赤色光を照射したときのクロロフィル含有量を示す図である。
図8】低温下で、キタアカリに対して、遠赤色光及び赤色光を照射したときのクロロフィル含有量を示す図である。
図9】葉柄が約2cm前後のハマボウフウの葉におけるクロロフィル含有量を示している。
図10】葉柄が約4cm前後のハマボウフウの葉におけるクロロフィル含有量を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について説明するが、数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更を行うことができる。
【0018】
この発明の緑化抑制方法は、野菜に、遠赤色光と、遠赤色光以外の波長域の光とを同時に照射する過程を備える。ここでは、遠赤色光は、波長が700〜800nmの波長域の光である。一方、遠赤色光以外の波長域の光は、青色光、緑色光、黄色光及び赤色光のそれぞれや、これらの光を含む混合光(白色光とも称する。)である。
【0019】
また、ここでの野菜は、例えば、収穫後のジャガイモを指す。ジャガイモは、貯蔵時や店頭陳列時に、蛍光灯による白色光などに曝露されると、速やかに緑化が起こる。このとき、遠赤色光を同時に照射すると緑化が抑制される。
【0020】
従って、遠赤色光を同時に照射すれば、収穫後のジャガイモの出荷作業を蛍光灯等の照明下で行うことが可能となり、作業性が向上する。また、店頭に陳列されている間の、食中毒成分の増加を抑えることができる。
【0021】
さらに、ウド、ホワイトアスパラ、ハマボウフウ、ニラ、ミツバ等を葉緑素の形成を抑えて栽培する軟化栽培を行うにあたり、遮光率85%程度の遮光材被覆下での栽培でも葉緑素の生成が抑えられる。このため、気象条件に左右されにくい軟化栽培を簡易に実現できる。
【0022】
(実施例1)
実施例1は、室温での白色光照射時における、遠赤色光によるジャガイモの緑化抑制効果を調べる試験である。
【0023】
試験区−1及び2を設定し、各試験区には、縦、横、高さが、それぞれ34cm、25cm、21cmのダンボール製容器(以下、単に容器とも称する。)を設置した。
【0024】
試験区−1は、遠赤色光と白色光の併用照射(同時照射)を行う試験区である。また、試験区−2は、白色光のみの照射を行う試験区である。遠赤色光の光源としてLEDを用いる。また、白色光の光源として電球型の蛍光灯を用いる。光源は、容器の上蓋を開けた状態で、容器の上部上に設置される。
【0025】
分光分析装置(LI−COR社製のLI−1800)を用いて、使用した光源の分光特性を評価した。遠赤色光については、約750nmに、半値幅25nm程度のシャープなピークを示した。また、白色光については、青色から赤色までの波長域である400nmから700nmに、幅広い波長の光を含み、約435nmから610nmに、5本のシャープなピークを示した。
【0026】
光源直下の容器中央付近の底面における、遠赤色光及び白色光の光強度は、それぞれ、15W/m及び2W/mとした。なお、試験区−1及び2とも、試験期間を15日間とし、1日の照射時間を12時間連続とし、残りの12時間は暗所とした。また、光源側面には、放熱用の小型ファンを設置した。
【0027】
試験区−1及び2の各容器内には、検体としてワセシロとレッドアンデスの2種類のジャガイモを7個ずつ設置した。ここでは、収穫後約2ヶ月間涼しい暗所下で保管されたレッドアンデスと、収穫後4ヶ月間涼しい暗所下で保管したワセシロを生産者から入手して試験を行った。なお、ワセシロは、緑化が起こりやすい品種である。
【0028】
各試験区における容器内の温度は、約12〜18℃の範囲で推移した。また、容器内の湿度は、約20〜40%で推移した。両試験区で温度及び湿度に差は見られなかった。
【0029】
照射に伴う緑化の指標として、表皮のクロロフィル含有量を測定した。ここでは、照射15日後の各検体6個ずつを用いて、表皮部位を採集し、凍結乾燥後、粉末化した。ここで表皮部位は、光照射域の表層の厚さ1mm前後の表層部を指す。
【0030】
得られた粉末のメタノール抽出液を用いて吸収スペクトルを測定し、クロロフィル含有量を算出した。ここで、吸収スペクトルの測定は、日立製作所製のU−3000を用いて行い、Holdenの関係式(Holden、M., Chemistry and Biochemistry of Plant Pigments, Goodwin, T.W., pp.1−37(1976)参照)により、測定結果からクロロフィル含有量を算出した。この算出したクロロフィル含有量を図1及び2に示す。図1は、ワセシロについてのクロロフィル含有量を示し、図2は、レッドアンデスについてのクロロフィル含有量を示している。各値は、2反復の測定結果の平均値である。
【0031】
ワセシロについては、白色光のみの照射を行った試験区−2におけるクロロフィル含有量は、15日後では約30μg/g新鮮重であった。一方、遠赤色光と白色光を同時照射した試験区−1では、表皮のクロロフィル含有量は約8μg/g新鮮重であり、白色光のみの照射の場合に比べて1/4程度まで抑制されている。
【0032】
また、レッドアンデスについては、白色光のみの照射を行った試験区−2では、クロロフィル含有量が、15日後では約8μg/g新鮮重であった。一方、遠赤色光と白色光を同時照射した試験区−1では、表皮のクロロフィル含有量は約4.5μg/g新鮮重であり、白色光のみの照射の場合に比べて1/2程度まで抑制されている。
【0033】
なお、白色光のみを照射した場合と、遠赤色光と白色光を同時照射した場合とで、萌芽長や重量変化には、両品種とも差は見られなかった。ここで、萌芽長は、各試験区の総萌芽長を各試験区の個体数で除した値である。
【0034】
(実施例2)
実施例2は、低温での白色光照射時における、遠赤色光によるジャガイモの緑化抑制効果を調べる試験である。
【0035】
試験区−1〜3を設定し、試験区−1及び2には、縦、横、高さが、それぞれ30cm、21cm、5cmのプラスティック製容器を設置した。また、試験区−3には、縦、横、高さが、それぞれ34cm、25cm、21cmのダンボール製容器を設置した。
【0036】
試験区−1は、遠赤色光と白色光の照射を行う試験区である。試験区−2は、白色光のみの照射を行う試験区である。試験区−1及び2における光源の条件及びその分光特性は実施例1と同様である。また、試験区−3は、暗所下とされている。
【0037】
光源直下のプラスティック容器中央付近の底面における、遠赤色光及び白色光の光強度を、それぞれ、10W/m及び1.8W/mとした。なお、試験期間を20日間とし、試験区−1及び2とも、連続照射を行った。
【0038】
ここでは、収穫後約2ヶ月間、涼しい暗所下で保管されたキタアカリを、生産者から入手して試験を行った。なお、キタアカリは、緑化が起こりやすい品種である。
【0039】
各試験区における容器内の温度は、約7〜8℃の範囲で推移した。また、容器内の湿度は、約55〜65%で推移した。各試験区で温度及び湿度に差は見られなかった。
【0040】
照射に伴う緑化の指標として、表皮のクロロフィル含有量を測定した。照射10日後と、照射20日後に、各検体6個ずつを用いて、実施例1と同様にクロロフィル含有量を算出した。この算出したクロロフィル含有量を図3に示す。
【0041】
白色光のみの照射を行った試験区−2については、クロロフィル含有量が、10日後では約13μg/g新鮮重であり、20日後では約28μg/g新鮮重であった。一方、遠赤色光と白色光を同時照射した試験区−1については、表皮のクロロフィル含有量は、10日後では約7μg/g新鮮重であり、20日後では約11μg/g新鮮重であった。このように、遠赤色光と白色光を同時照射すると、白色光のみの照射の場合に比べてクロロフィル含有量が1/2程度にまで抑制されている。なお、暗所下の試験区−3でのクロロフィル含有量は、2μg/g新鮮重前後と非常に小さい値であり、クロロフィルに基づく明確な吸収も見られない。このことから、この値は試料中の他の色素による影響と考えられる。従って、2μg/g新鮮重前後の値では、クロロフィルは生成していないものと考えられる。
【0042】
各試験区について、重量変化やBrix糖度には、差は見られなかった。
【0043】
(実施例3)
実施例3は、低温での白色光照射時における、光強度を低下させた遠赤色光によるジャガイモの緑化抑制効果を調べる試験である。
【0044】
実施例2と同様に、試験区−1〜3を設定した。試験区−1は、遠赤色光と白色光の照射を行う試験区であり、試験区−2は、白色光のみの照射を行う試験区であり、試験区−3は、暗所下の試験区である。
【0045】
光源直下の容器中央付近の底面における、遠赤色光及び白色光の光強度を、それぞれ、1W/m及び1.8W/mとした。このとき、容器の四隅付近における遠赤色光の光強度は0.4W/m程度であった。一方、容器の四隅付近における白色光の光強度は1.6〜1.7W/m程度の範囲内であった。これは、白色光の光源として用いた電球型の蛍光灯の配光性が、遠赤色光の光源として用いたLEDよりも高いためであると考えられる。なお、試験期間を10日間とし、試験区−1及び2とも、連続照射を行った。
【0046】
ここでは、収穫後約3ヶ月間、涼しい暗所下で保管されたキタアカリを、生産者から入手して試験を行った。
【0047】
各試験区における容器内の温度は、約7〜8℃の範囲で推移した。また、容器内の湿度は、約55〜65%で推移した。各試験区で温度及び湿度に差は見られなかった。
【0048】
照射に伴う緑化の指標として、表皮のクロロフィル含有量を測定した。照射5日後と、照射10日後に、各検体6個ずつを用いて、実施例1と同様にクロロフィル含有量を算出した。この算出したクロロフィル含有量を図4に示す。
【0049】
白色光のみの照射を行った試験区−2については、クロロフィル含有量が、5日後では約6μg/g新鮮重であり、10日後では約13μg/g新鮮重であった。一方、遠赤色光と白色光を同時照射した試験区−1については、表皮のクロロフィル含有量は、5日後では約3μg/g新鮮重であり、10日後では約8μg/g新鮮重であった。このように、遠赤色光と白色光を同時照射すると、白色光のみの照射の場合に比べてクロロフィル含有量が顕著に抑制されている。なお、暗所下の試験区−3でのクロロフィル含有量は、2〜3μg/g新鮮重前後と非常に小さい値であった。従って、遠赤色光と白色光を同時照射した試験区−1の5日後、及び、暗所下の試験区−3では、クロロフィルは生成していないものと考えられる。
【0050】
各試験区について、重量変化は、光照射によって促進されることはなく、試験10日後では、暗所下に比べて、やや抑制される傾向が見られた。これは、光照射によって萌芽が抑制されたためと考えられる。
【0051】
なお、遠赤色光の光強度が1W/mである容器中央付近の検体と、遠赤色光の光強度が0.4W/mである容器の四隅付近の検体とで、クロロフィル含有量に差は認められなかった。
【0052】
また、Brix糖度には、各試験区で差は見られなかった。
【0053】
実施例2及び実施例3の結果をもとに得られた、照射時間と表皮のクロロフィル含有量の関係を図5に示す。図5では、横軸に照射時間(日)を取って示し、縦軸にクロロフィル含有量(μg/g新鮮重)を取って示している。また、図5では、遠赤色光と白色光を同時に照射したときのクロロフィル含有量を曲線Iで示し、白色光のみを照射したときのクロロフィル含有量を曲線IIで示している。
【0054】
白色光のみの照射の場合(曲線II)、照射時間の増加に伴って、表皮のクロロフィル含有量は直線的に増加することが分かる。一方、白色光と遠赤色光を同時照射した場合(曲線I)には、どの照射時間においてもクロロフィルの生成が顕著に抑制される。
【0055】
以上のことより、低温下であれば、遠赤色光の光強度が1W/m程度と弱い場合であっても、蛍光灯等の照明によるジャガイモ表皮の緑化は、遠赤色光の同時照射によって顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0056】
また、遠赤色光の光強度が0.4W/m程度と非常に弱い光であっても蛍光灯5日間程度の照射による緑化であれば、ほぼ完全に抑制できることが示された。
【0057】
(実施例4)
実施例4は、低温での赤色光照射時における、遠赤色光によるジャガイモの緑化抑制効果を調べる試験である。
【0058】
試験区−1〜3を設定し、試験区−1及び2には、縦、横、高さが、それぞれ30cm、21cm、5cmのプラスティック製容器を設置した。また、試験区−3には、縦、横、高さが、それぞれ34cm、25cm、21cmのダンボール製容器を設置した。
【0059】
試験区−1は、遠赤色光と赤色光の照射を行う試験区である。試験区−2は、赤色光のみの照射を行う試験区である。試験区−1における遠赤色光については、光源の条件及びその分光特性は実施例1と同様である。また、試験区−1及び2における赤色光については、約670nmに、半値幅30nm程度のシャープなピークを示した。ここでは、赤色光の光源としてLEDを用いた。また、試験区−3は、暗所下とされている。
【0060】
そして、表1に示す4つの条件を設定し、試験区1〜3に対して各条件に係る光強度の組み合わせで、試験を行った。なお、以下に説明する光強度は、光源直下のプラスティック容器中央付近の底面における光強度である。また、試験期間を5日間とし、試験区−1及び2とも、連続照射を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、条件1では、試験区−1の遠赤色光及び赤色光の光強度を、それぞれ、2W/m及び2W/mとした。試験区−2の赤色光の光強度を2W/mとした。また、条件2では、試験区−1の遠赤色光及び赤色光の光強度を、それぞれ、2W/m及び5W/mとした。試験区−2の赤色光の光強度を5W/mとした。また、条件3では、試験区−1の遠赤色光及び赤色光の光強度を、それぞれ、1W/m及び5W/mとした。試験区−2の赤色光の光強度を5W/mとした。また、条件4では、試験区−1の遠赤色光及び赤色光の光強度を、それぞれ、0.5W/m及び5W/mとした。試験区−2の赤色光の光強度を5W/mとした。なお、試験区−3は、暗所下であるため、各条件において、遠赤色光及び赤色光の光強度は、ともに0W/mである。
【0063】
ここでは、収穫後約6ヶ月間、涼しい暗所下で保管されたキタアカリを、生産者から入手して試験を行った。
【0064】
各試験区における容器内の温度は、約8〜9℃の範囲で推移した。また、容器内の湿度は、約55〜65%で推移した。各試験区で温度及び湿度に差は見られなかった。
【0065】
照射に伴う緑化の指標として、表皮のクロロフィル含有量を測定した。照射5日後に、各検体6個ずつを用いて、実施例1と同様にクロロフィル含有量を算出した。この算出したクロロフィル含有量に基づく、試験の結果を図6〜8に示す。
【0066】
まず、図6は、キタアカリを暗所下に保管した場合と、赤色光のみを照射した場合におけるクロロフィル含有量を示す図である。図6では、横軸に赤色光の光強度(W/m)を取って示し、縦軸にクロロフィル含有量(μg/g新鮮重)を取って示している。図6において、赤色光の光強度が0W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−3において条件1及び2の下で得られた各値の平均値である。また、赤色光の光強度が2W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−2において条件1の下で得られた値である。また、赤色光の光強度が5W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−2において条件2の下で得られた値である。
【0067】
赤色光のみを照射した場合では、光強度が2W/m及び5W/mのそれぞれの条件において、クロロフィル含有量が、約11μg/g新鮮重であった。また、暗所下、すなわち遠赤色光及び赤色光の光強度がともに0W/mである場合では、クロロフィル含有量が3μg/g新鮮重前後と非常に小さい値であり、クロロフィルに基づく明確な吸収も見られない。このことから、この値は試料中の他の色素による影響と考えられる。従って、3μg/g新鮮重前後の値では、クロロフィルは生成していないものと考えられる。
【0068】
次に、図7を参照して、遠赤色光と赤色光を同時照射した場合の結果について説明する。図7は、キタアカリを暗所下に保管した場合と、キタアカリに対して、遠赤色光の光強度を一定とし、赤色光の光強度を変えて、遠赤色光と赤色光を同時照射した場合におけるクロロフィル含有量を示す図である。図7では、横軸に赤色光の光強度(W/m)を取って示し、縦軸にクロロフィル含有量(μg/g新鮮重)を取って示している。図7において、赤色光の光強度が2W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−1において条件1の下で得られた値である。また、赤色光の光強度が5W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−1において条件2の下で得られた値である。従って、赤色光の光強度が2W/m及び5W/mの各条件において、遠赤色光の光強度は2W/mで一定である。なお、赤色光の光強度が0W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−3において条件1及び2の下で得られた各値の平均値である。
【0069】
赤色光と2W/mの遠赤色光を同時照射した場合では、赤色光の光強度が2W/m及び5W/mのそれぞれの条件において、クロロフィル含有量が、約3μg/g新鮮重であった。図6と比較すると、遠赤色光と赤色光を同時照射した場合では、赤色光のみの照射の場合に比べてクロロフィル含有量が1/3程度にまで抑制されており、暗所下と同程度となっている。
【0070】
次に、図8は、赤色光の光強度を一定とし、遠赤色光の光強度を変えて、遠赤色光と赤色光を同時照射した場合におけるクロロフィル含有量とを示す図である。図8では、横軸に遠赤色光の光強度(W/m)を取って示し、縦軸にクロロフィル含有量(μg/g新鮮重)を取って示している。図8において、遠赤色光の光強度が0W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−2において条件2〜4の下で得られた各値の平均値である。また、遠赤色光の光強度が0.5W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−1において条件4の下で得られた値である。また、遠赤色光の光強度が1W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−1において条件3の下で得られた値である。また、遠赤色光の光強度が2W/mである場合のクロロフィル含有量は、試験区−1において条件2の下で得られた値である。従って、遠赤色光の光強度が0W/m、0.5W/m、1W/m、及び2W/mの各条件において、遠赤色光の光強度は2W/mで一定である。
【0071】
遠赤色光と5W/mの赤色光を同時照射した場合では、遠赤色光の光強度が0.5〜2W/mの範囲の条件において、クロロフィル含有量が、約3μg/g新鮮重であった。また、遠赤色光の光強度が0W/mである場合のクロロフィル含有量の平均値は、約9μg/g新鮮重であった。従って、赤色光と光強度が最小でも0.5〜2W/mの遠赤色光を同時照射すると、赤色光のみの照射の場合に比べてクロロフィル含有量が1/3程度にまで抑制されることが明らかとなった。
【0072】
各条件における各試験区について、重量変化やBrix糖度には、差は見られなかった。
【0073】
以上のことより、低温下において、遠赤色光の光強度が0.5W/m程度と非常に弱い光であっても、光強度が最大でも5W/mの赤色光5日間程度の照射による緑化であれば、ほぼ完全に抑制できることが示された。
【0074】
ここで、赤色光、青色光、緑色光、及び黄色光をそれぞれキタアカリに照射した場合、赤色光を照射した場合において、最もクロロフィル含有量が大きくなることが、この出願の発明者らによって確認されている(特許文献2の図17参照)。従って、赤色光を照射した場合には、青色光、緑色光、又は黄色光をキタアカリに照射した場合と比べて、顕著にクロロフィルの産生に伴う緑化が起こる。そして、上述したように、図3〜5に示した結果から、白色光によるジャガイモ表皮の緑化は、遠赤色光の同時照射によって顕著に抑制される。また、図6〜8に示した結果から、赤色光によるジャガイモ表皮の緑化は、遠赤色光の同時照射によって顕著に抑制される。この結果から、赤色光のみならず、青色光、緑色光、及び黄色光のそれぞれや、これらの光を含む混合光による緑化についても、遠赤色光の同時照射によって抑制することができると考えられる。
【0075】
(実施例5)
実施例5は、ハマボウフウの軟化栽培における緑化抑制効果を調べる試験である。
【0076】
試験では、間口10.8m×奥行30mのビニール製ハウスを用いて行われた。また、試験区−1及び2を設定し、試験区−1では遠赤色光照射を行い、試験区−2では遠赤色光無照射とした。
【0077】
各試験区では、幅約90cm、長さ約90cmの2ヶ所の籾殻を除去し、一度茎葉部を全て除去した後、日本ワイドクロス株式会社製の約80%の遮光ネット(品番:AQコモNO.142)を用いてトンネル状に被覆した。なお、ハウス内の天井部には、遮光率40%前後の遮光用カーテンを設置した。
【0078】
遮光ネット内の上部中央付近に遠赤色光の光源を設置した。遠赤色光の光照射時間は朝4時から夜8時までとした。
【0079】
遠赤色光の光強度は、中央付近の株で約10W/m、端の株で5〜8W/m前後であった。
【0080】
試験期間中、ハウス内の光強度は最大で500W/m前後であり、日の出から日の入りまでの平均で200〜250W/m程度であった。遮光率約80%の遮光ネットで被覆されたトンネル内での光強度は、ハウス内の光強度の2割程度であり、40〜50W/m程度であった。遮光したトンネル内の温度は、最高で25℃前後、最低で7度前後、またトンネル内の湿度は最高で80%前後、最低で40%前後であった。なお、温度及び湿度は、遠赤色光照射区である試験区−1と無照射区である試験区−2とで差は見られなかった。
【0081】
試験開始約2週間後に、両試験区から葉柄の長さが約2cm及び約4cmの葉を、葉柄を含むようにそれぞれ3枚ずつ採取し、凍結乾燥後、粉末化した。その後、実施例1と同様にクロロフィル含有量を測定した。その結果を、図9及び図10に示す。図9は、葉柄が約2cm前後の葉におけるクロロフィル含有量を示している。また、図10は、葉柄が約4cm前後の葉におけるクロロフィル含有量を示している。
【0082】
試験区−1におけるクロロフィル含有量は、葉柄が約2cmの葉で約95μg/g新鮮重、葉柄が約4cmの葉で約180μg/g新鮮重であった。一方、試験区−2においては、葉柄が約2cmの葉で約180μg/g新鮮重、葉柄が約4cmの葉で約230μg/g新鮮重であった。このように、遠赤色光の照射により、クロロフィル含有量の増加は顕著に抑制された。
【0083】
なお、使用した葉柄を含む葉の含水率は、両試験区とも89〜90%であり、両試験区で明確な差は見られなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10