特許第5779717号(P5779717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5779717湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779717
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/00 20060101AFI20150827BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   A61C19/00 Z
   A61C13/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-523830(P2014-523830)
(86)(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公表番号】特表2014-521456(P2014-521456A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】KR2012001015
(87)【国際公開番号】WO2013035947
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2014年1月30日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0092117
(32)【優先日】2011年9月9日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511306837
【氏名又は名称】オステムインプラント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨン イル
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジュ ドン
(72)【発明者】
【氏名】ガン,ウン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チォエ,ダ ミ
(72)【発明者】
【氏名】オム,テ グアン
(72)【発明者】
【氏名】チォエ,ギュ オク
【審査官】 石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05960956(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
A61C 13/00
A61F 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉可能な蓋体と、
前記蓋体によって封止される本体と、
前記蓋体及び前記本体内部の収容空間を第1空間及び第2空間の二つの空間に区画し、区画された空間の間において気化された水分子の移動を許容する仕切部材と、
を含む、少なくとも一時的又は臨時に気密密封が可能な容器を含み、
前記本体は、前記蓋体に対して同心をなしてそれぞれ接合される内筒及び外筒からなる2重構造を有し、
前記仕切部材により区画された二つの空間のうち、前記第1空間が前記蓋体に形成され、前記2空間が前記本体に形成され、
気化された水分子を供給する水分供給源が前記第1空間に収容され、
歯科用インプラントの少なくとも一部分が前記第2空間内に突出するように嵌着されることを特徴とする湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項2】
前記仕切部材は、前記区画された空間の間において、気化された水分子の移動を許容する分離膜を備えることを特徴とする請求項1に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項3】
前記歯科用インプラント表面の少なくとも一部には、親水性コーティング層が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項4】
前記親水性コーティング層は、糖アルコールを含む成分から形成されたことを特徴とする請求項3に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項5】
前記糖アルコールは、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、及びラクチトールからなる群より選ばれる少なくとも何れか一種であることを特徴とする請求項4に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル
【請求項6】
前記親水性コーティング層は、スルホン酸基を有する有機両性イオン緩衝物質であるACES、BES、CHES、HEPES、MOPS、PIPES及びTESからなる群より選ばれるいずれか一種以上の緩衝物質を含む膜であることを特徴とする請求項3に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項7】
前記親水性コーティング層は、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸カルシウム、及びこれらの物質を含む群から選ばれる一種以上のリン酸の無機塩を含む膜であることを特徴とする請求項3に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項8】
前記親水性コーティング層は、グリセロール−フォスフェート、又はこれを含むグリセロール−フォスフェートの有機塩から形成される膜であることを特徴とする請求項3に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項9】
前記分離膜は、多孔性材質からなることを特徴とする請求項2に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項10】
前記多孔性材質は、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、混合セルロースエステル(MCE)、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニールクロリド(PVC)、ナイロン及び石英ガラス繊維からなる群より選ばれる何れか一種以上の物質を含むことを特徴とする請求項9に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項11】
前記水分子供給源は、ポリアクリル酸、ポリビニールアルコール、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース及びヒアルロン酸からなる群より選ばれる何れか一種以上の物質が、水分を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【請求項12】
前記仕切部材は、前記蓋体と前記本体との間を横切って配置されたことを特徴とする請求項1に記載の湿度が維持可能な歯科用インプラント保管用アンプル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントを収納するアンプルに係り、より詳しくは、歯科用インプラント表面又はその表面上に形成されたコーティング層によって付与されたり又は保護されたりするインプラントの湿度を、長期に亘って維持可能な環境を形成した、湿度が維持可能なインプラント保管用アンプルに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラント(以下、「インプラント」と略称する)は、欠損歯の永久的な人工代替物であるため、実際の歯芽の役割及び機能を代行するものではなければならない。これに加えて、咀嚼中に歯芽に加えられる荷重を適切に分散することができ、長時間に亘って使用できるように製作されること、及び美容上にも実際の歯芽と大差ない形状および色感を有するように精密に作られることが求められる。
【0003】
インプラントは、口腔内生体組織、すなわち、歯槽骨内に植立されるが、生体内に植立された後に時間が経過すると、体内の細胞液や体液によって、あるいは、生体組織との接触や摩擦によって金属インプラントの金属イオンが溶出してインプラントを腐食する。また、インプラント金属から溶出された金属イオンは、生体内の食細胞を損傷したり、生体内の細胞に侵入して炎症性細胞又は巨大細胞を発生させたりする要因となるため、インプラントは生体適合性に優れている必要がある。
【0004】
この種のインプラント素材の開発は、種々の金属及び合金を用いて試みられたが、人体組織への高い親和性、高い機械的強度、及び生体に不活性であるという性質を有する金属チタンやその合金が汎用されている。
【0005】
一方、インプラントが生体内において骨と安定に結合できるように、インプラントの表面粗さを増大させて生体組織との接触表面積を広げる方法が用いられている。インプラントの表面積を広げる方法の代表例として、サンドブラスト・酸エッチング表面処理法(Sandblasting with large grit and Acid treatment;SA法)が挙げられる。同方法は、インプラントの表面にAl粒子を吹き付けてクレーターとマイクロピットとを生成し、次いで、強酸(HSO/HCl)処理を施す方法であり、既存の吸収性ブラスト媒体を用いた表面処理法(resorbable blasting media;RBM法)に比べて表面積が40%以上増大するという効果が得られ、これにより、サンドブラスト・酸エッチング表面処理法によって製造されたインプラントは、インプラント施術後の平均治癒期間を12週から6〜8週に短縮させた。
【0006】
しかしながら、SA法によって表面処理された親水性チタン表面は、空気中の炭素汚染源からの非可逆的な吸着によって速やかに疎水化されてしまうという欠点を有している。疎水化された表面は、骨細胞のインプラント表面への流入を妨げてインプラント施術の初期から骨とインプラントとの結合率を下げるため、初期のインプラント施術失敗の潜在的な原因になり得る。
【0007】
このため、SA法によって製造されたチタン製のインプラントの表面が、大気中で疎水化されることを防ぎ親水性を維持するための対応策が講じられている。その代表例として、水や不活性ガスが充填された容器内にチタン製のインプラントを入れて包装することにより空気との接触を遮断する方法が挙げられる。
【0008】
上記の包装方法も、チタン製のインプラントの表面の親水性維持という面ではかなり効果的であるとはいえ、最近のインプラントの開発傾向を鑑みたとき、使用上の制約を伴う。すなわち、最近のインプラント開発傾向は、インプラントの表面に骨との直接結合(オッセオインテグレーション)を促す化学物質やペプチド又はタンパク質などをコーティングすることにより、インプラント施術期間を短縮することを目的とするが、このような物質がコーティングされたインプラントを水に漬けたときに、コーティング層にどのような影響が及ぼされるかは未だ検証されておらず、もし悪影響があれば、これを解消可能な他の包装方法を開発する必要がある。
【0009】
この理由から、従来の不活性環境の形成のための包装方法とは全く異なる新規な概念から出発して、インプラント表面の疎水化を防いで親水性表面特性を維持することのできる新規なインプラントパッケージング方法の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、インプラント表面に形成されたコーティング層により保護され又は付与されたインプラントの親水性を、長期に亘って維持可能な環境を形成することができる、湿度維持可能なインプラント保管用アンプルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る湿度維持可能のインプラント保管用アンプルは、開閉可能な蓋体と、蓋体によって封止される本体と、蓋体及び本体の収容空間を第1空間及び第2空間の二つの空間に区画し、区画された空間の間において気化された水分子の移動を許容する仕切部材と、を含む、少なくとも一時的又は臨時に気密密封が可能な容器を含み、
本体は、蓋体に対して同心をなしてそれぞれ接合される内筒及び外筒からなる2重構造を有し、仕切部材により区画された二つの空間のうち、第1空間が蓋体に形成され、第2空間が本体に形成され、気化された水分子を供給する水分供給源が第1空間に収容され、歯科用インプラントの少なくとも一部分が第2空間内に突出するように嵌着されることを特徴とする。
【0012】
ここで、前記仕切部材は、気化された水分子の移動通路を形成する通気孔を備えていてもよい。
または、前記仕切部材は、区画された空間の間において、気化された水分子の移動を許容する分離膜を含むこともあり得る。
【0013】
そして、前記インプラントの少なくとも一部が第2空間内に突出するように嵌着されてもよい。
一方、前記インプラント表面の少なくとも一部には、親水性コーティング層が形成されることもあり得る。
【0014】
前記親水性コーティング層は、糖アルコールを含む成分から形成されていてもよく、前記糖アルコールは、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール及びラクチトールから成る群より選ばれる少なくとも何れか一種であってもよい。
【0015】
また、前記親水性コーティング層は、スルホン酸基を有する有機両性イオン緩衝物質であるACES、BES、CHES、HEPES、MOPS、PIPES及びTESよりなる群から選ばれるいずれか一種以上の緩衝物質を含む膜であってもよい。
【0016】
そして、前記親水性コーティング層は、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸カルシウム及びこれらの物質を含む群から選ばれる一種以上のリン酸の無機塩を含む膜であってもよい。
更に、前記親水性コーティング層は、グリセロール−フォスフェート、又はこれを含む
グリセロール−フォスファート基盤の有機塩から形成される膜であってもよい。
【0017】
一方、前記分離膜は、多孔性材質から成っている。
ここで、前記多孔性材質は、ポリビニリデンフルオリド (PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、混合セルロースエステル(MCE)、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニールクロリド(PVC)、ナイロン及び石英ガラス繊維からなる群より選ばれる何れか一種以上の物質を含むものであってもよい。
【0018】
そして、前記水分子供給源は、ポリアクリル酸、ポリビニールアルコール、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース及びヒアルロン酸からなる群より選ばれる何れか一種以上の物質が水分を含有するものであってもよい。
【0019】
本発明の具体的な態様において、前記容器は、開閉可能な蓋体及び蓋体によって封止される本体を備え、第1空間が蓋体に形成され、第2空間が本体に形成される。
【0020】
そして、前記仕切部材は、蓋体と本体との間を横切って配置されるが、
前記仕切部材は、区画された空間の間において気化された水分子の移動を許容する分離膜であってもよく、
前記仕切部材は、蓋体と一体に形成され、蓋体は第1空間と第2空間を連通させて気化された水分子の移動通路を形成する通気孔を備えるものであってもよい。
【0021】
また、本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプルにおいて、前記本体は、前記蓋体に対して同心をなしてそれぞれ封合される内筒及び外筒を備え、外筒に包まれた内筒が第2空間を形成してもよい。
そして、前記内筒の少なくとも一部に切欠面が形成されて前記内筒と外筒が前記第2空間を形成してもよい。
【0022】
ここで、前記切欠面上の一部に第2空間に設置されたインプラントが固定される着脱溝が形成されてもよい。
そして、前記内筒又は前記外筒のそれぞれは螺合又は突起−溝嵌合のうちのいずれか一つの方式により蓋体と接合されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
上記の構成を有する本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプルは、水分子供給源から供給される気化された水分子が、分離膜を介して第1空間と第2空間との間を自由に移動して両空間の湿度が動的平衡状態を維持するようにし、これによりインプラント表面又はその表面上に形成されたコーティング層によって付与されたり保護されたりするインプラントの湿度を長期に亘って維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプルの一実施形態の外観を示す斜視図である。
図2図1の湿度が維持可能なインプラント保管用アンプルの分解斜視図である。
図3図1のA−A線に沿って切り取った断面図である。
図4】本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプルの他の実施形態の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、添付図面を参照しながら、本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプル10の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の実施例を説明するに当たって、当業者であれば自明に理解可能な公知の構成についての説明は、本発明の要旨を曖昧にしないために省略する。
【0026】
また、図面を参照するときには、図示の線の太さや構成要素の大きさなどが説明の便宜と明瞭化のために誇張されていてもよいことを考慮しなければならず、また特別に断りのない限り、相対的な位置を示す前後や上下左右、内外などの用語は、図示された方向を基準とする。
【0027】
図1〜3に示す本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプル10は、少なくとも瞬間的又は一時的に密封が可能な容器100を備える。この容器100の内部の収容空間は、仕切部材200である分離膜200’を境界にして二つの空間に仕切られる。ここで、容器100が「少なくとも瞬間的又は一時的に密封が可能である」ということは、容器100の密封を繰り返し行うことが可能である場合はもとより、容器100の気密密封を1回のみ行うことが可能である場合も含むことを意味する。
【0028】
仕切部材200は、容器100の内部の収容空間を二つの空間、すなわち、第1空間101と第2空間102とに区画すると共に、気化した水分子の自由な移動を許容する部材である。このような仕切部材200の一例として、多孔性材質からなる分離膜200’を選択することができる。分離膜200’を構成する多孔性材質としては、例として、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、混合セルロースエステル(MCE)、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニールクロリド(PVC)、ナイロン、及び石英ガラス繊維からなる群より選ばれる何れか一種以上の物質を挙げることができる。
【0029】
このように、仕切部材200により仕切られた二つの空間のうちのいずれか一方である第1空間101には水分子供給源300が収容される。水分子供給源300は、容器100内の限られた空間内に気化した水分子を供給する部材である。気化した水分子は、仕切部材200である分離膜200’を介して自由に第1空間101と第2空間102との間を流通することができる。これにより、第1空間101と第2空間102の湿度は、互いに動的な平衡状態を維持することが可能になる。すなわち、水分子供給源300が第1空間101内に仕切部材200により隔離されて収容されていても、第2空間102の湿度もまた、水分子供給源300により可逆的に水分子を排出されたり吸収されたりして、動的に調節される。
【0030】
水分子供給源300としては、十分な量の水を含有しうる物質や素材を選択することが好ましい。例えば、ポリアクリル酸、ポリビニールアルコール、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、及びヒアルロン酸からなる群より選ばれる少なくとも何れか一種以上の物質に水を添加し水分を含有するようにして構成することが可能である。
【0031】
一方、仕切部材200によって仕切られた二つの空間のうち残りの一つである第2空間102には、インプラント20が設置される。ここで、インプラント20の表面の少なくとも一部、好ましくは人体の歯槽骨内に植立されて生体組織と接触するインプラント20の主な部分であるフィクスチャー24の表面、を中心として親水性コーティング層が形成されてもよい。
【0032】
インプラントの表面にマイクロメートル単位の粗さを形成すれば、その表面積が増大してインプラントの骨との結合を向上させるというメリットがあるが、一方インプラントの施術前まで保管する間に、増大された表面積に比例して空気中の汚染源による汚染の発生も増大するという欠点がある。例えば、二酸化炭素、有機炭素などの空気中に存在する炭素汚染源は、インプラントの表面に非可逆的に吸着されてインプラントの表面を疎水化させる虞がある。表面が疎水化された状態でインプラントが生体内に植え付けられると、血液内に存在する種々のタンパク質がインプラントの表面に付着できないなど、生体適合性が減少して骨との結合に問題が生じることがあり、また汚染源により炎症反応が引き起こされる虞もある。このため、インプラント20の表面には、汚染源の吸着による疎水化を防ぐために各種の親水性コーティング層が形成される可能性がある。
【0033】
このような親水性コーティング層は、ある程度の期間内はインプラント20の表面の親水性を維持するが、長期間の乾燥環境下では、コーティング層が破壊される可能性がある。それゆえ、インプラント20をめぐる周辺環境を適切な湿潤状態に維持することが好ましい。しかし、あまりにも高い湿度状態でインプラント20を長期に亘って保管することは、コーティング層の変質を引き起こしたり、コーティング層が形成されていないインプラント20の他の部分に悪影響を及ぼす虞がある。
【0034】
本発明は上記の種々の要求事項を考慮して、容器100の内部を仕切部材200によって二つの空間に仕切り、これらのうちの第1空間101には水分子供給源300を収容し、第2空間102には親水性コーティング層付きインプラント20を設置するようにしている。上述したように、気化した水分子は仕切部材200を介して第1空間101と第2空間102との間を自由に流通することができ、両空間の湿度は互いに動的な平衡状態をなすが、これは、第2空間102に前記インプラント20が収容された場合にも同様である。
【0035】
すなわち、第2空間102は、収容したインプラント20の親水性コーティング層が乾いた状態になって周囲の湿気(気化された水分子)を吸着することにより第2空間102の湿度が下がると、第1空間101との平衡を取るために水分子供給源300から水分子が供給され、その逆の場合には、水分子供給源300が水分子を吸収することにより最終的には第1空間101と第2空間102との湿度が互いに動的な平衡状態になる。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、インプラント20の表面に形成された親水性コーティング層は、常温下で湿潤状態又は乾燥状態を維持する膜からなってもよい。特に、常温下で湿潤状態を維持する保湿膜である親水性コーティング層は、水分の存在下で長期に亘ってインプラント20の疎水化を防ぐことができるので、本発明に好適に適用することができる。
【0037】
このような親水性コーティング層は、糖アルコールを含む溶液を塗布したり、前記溶液に浸漬したりして形成可能であり、本発明の一実施形態において親水性コーティング層をなす糖アルコールは、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール及びラクチトールからなる群より選ばれる少なくとも何れか一種以上の物質であってもよい。
【0038】
親水性コーティング層を形成するための物質としては、その他に、スルホン酸基を有する有機両性イオン緩衝物質であるACES、BES、CHES、HEPES、MOPS、PIPES及びTESからなる群より選ばれる何れか一種以上の緩衝物質を用いることができる。
【0039】
また、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸カルシウム、及びこれらの物質を含む群から選ばれるいずれか一種以上のリン酸の無機塩を含む膜、又は、グリセロール−フォスファート又はこれを含むグリセロール−フォスファートの有機塩から形成される膜から親水性コーティング層を形成してもよい。
【0040】
上記の物質の特徴は、インプラント20の表面の疎水化を防ぐことができるだけではなく、水分を吸収する性質を有しているため、水分子供給源300から供給される水分子を有効に取り入れることができるということにある。
【0041】
一方、図2及び3に示すように、本発明は、インプラント20が収容される容器100が、開閉可能な蓋体110と、前記蓋体110によって封止される本体120と、を備えていてもよい。水分子供給源300が収容される第1空間101が蓋体110に形成され、インプラント20が設置される第2空間102が本体120に形成されてもよい。
このとき、仕切部材200である分離膜200’は、蓋体110と本体120との接合面に沿って配置される。
【0042】
そして、容器100の上部(蓋体)に第1空間101を配置し、下部(本体)に第2空間102を配置してもよい。ここで、容器100が小さな場合には、相対的に重量の大きいインプラント20を容器100の下側に設置することにより、全体的な重心を下げて容器100のバランスを取ることができる。
【0043】
また、本発明の一実施形態において、本体120は、蓋体110に対して同心をなして接合される内筒122及び前記内筒122を包み込む外筒130の2重構造を有しても良い。このときは、外筒130に包み込まれた内筒122が、インプラント20を収容する第2空間102を形成し、分離膜200’が蓋体110と内筒122との接合面に沿って配置される。
【0044】
分離膜200’の固定は、蓋体110に形成された段差116に分離膜200’が嵌合された後に、内筒122の上面に分離膜200’を押し付けることにより行われ、内筒122の上面に折曲部125を形成し分離膜200’との接触面積を増大させることにより、分離膜200’を破損せずに安定に気密を維持することもできる。このような2重構造の本体120は、容器100の密封性を向上させると共に、インプラント20を外部の衝撃から一層確実且つ有効に保護することができる。
【0045】
また、外筒130又は内筒122をはじめとして、本体120の全体を透明な材質によって形成することにより、インプラント20の状態、特に、親水性コーティング層の状態を目視可能にしてもよい。
【0046】
特に、インプラント20は、内筒122の底面に形成された係合孔124を貫通してその一部が第2空間102内に突出するように嵌着されてもよく、より好ましくは、親水性コーティング層付きインプラント20の一部(例えば、フィクスチャー部分)が前記第2空間102内に突出するように嵌着されてもよい。このような構成によれば、内筒122に収容されたインプラント20を固定して設置することにより、インプラント20の揺動による容器100の転倒を防ぐことができるという点でも効果的であるが。更に重要なのは、例えば図3に示すように、親水性コーティング層付きインプラント20のフィクスチャー24部分のみを第2空間102に収容することにより、親水性コーティング層に水分子供給源300が供給する水分子をフィクスチャー24部分に集中させることである。
【0047】
一方、本発明は、容器100を構成する蓋体110と本体120とを着脱し易いように、内筒122の上部に形成された第1雄ねじ部123及び外筒130の上部に形成された第2雄ねじ部131が、蓋体110に同心状に形成された第1雌ねじ部112及び第2雌ねじ部114とそれぞれに螺合されてもよい。このような構成によれば、内筒122と外筒130との直径に対応して、第1雌ねじ部112は第2雌ねじ部114よりも小径となる。
【0048】
図4は、本発明に係る湿度が維持可能なインプラント保管用アンプル10の他の実施形態を示す図である。図4の実施形態の説明は、図1から図3に基づいて説明した実施形態における構成とは異なる部分を中心として説明し、重複する部分の説明は省く。
【0049】
図4に示した実施形態が有する最大の相違点は、仕切部材200が蓋体110と一体に形成される代わりに、第1空間101と第2空間102とを連通させる通気孔210を形成して、水分子供給源300で気化された水分子の移動通路を設けたという点である。すなわち、図4に示す実施形態は、分離膜200’を用いる代わりに、通気孔210を備えて、蓋体110に形成された第1空間101と内筒122に形成された第2空間102との間において気化された水分子を自由に移動可能にしているという点に相違点がある。
【0050】
他の相違点は、内筒122の少なくとも一部に切欠面126を形成して内筒122と外筒130とが第2空間102を形成し、且つ、切欠面126上の一部に一方の端が開口されてインプラント20が嵌着可能な着脱溝127を形成したということである。切欠面126上に一方の端が開口された着脱溝127を形成すると、切欠面126によって第2空間102がやや拡張されるとはいえ、インプラント20を容易に着脱することができて使い勝手がよくなるというメリットがある。
【0051】
そして、図4に示した実施形態は、蓋体110に内筒122と外筒130とを固定する方式を採用しており、螺合方式112−123、114−131の代わりに、突起132−溝117による嵌合方式を採用している。図4においては、外筒130の先端の外周面に突起132を形成し、蓋体110の内周面に突起132に嵌入される溝117を形成し、これらを嵌合している。もちろん、蓋体110と、内筒122及び外筒130間の接合は接触面間の密着が重要であり、図4に示すように、蓋体110と内筒122との密着によっても強固な嵌合性及び接合性が得られる。ここで、図4は、蓋体110と一体に形成された仕切部材200の外面に内筒122の内周面が密着して結合される例を示している。
【0052】
図4に示した実施形態は、蓋体110が容器100の下方に配置された例を示し、蓋体110の露出された下面が平面となっている。この実施形態は、多数の湿度が維持可能なインプラント保管用アンプル10を一つの箱に入れて梱包したときに上方にあるインプラント20を容易に覗き見ることができるという点で、現実的なメリットを有する。
【0053】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の属する技術範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。

図1
図2
図3
図4