特許第5779723号(P5779723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5779723ハロゲン含有難燃繊維とその製造方法及びそれを用いた難燃繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779723
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ハロゲン含有難燃繊維とその製造方法及びそれを用いた難燃繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/48 20060101AFI20150827BHJP
   D01F 6/54 20060101ALI20150827BHJP
   D01F 1/07 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   D01F6/48 A
   D01F6/54 C
   D01F1/07
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-536858(P2014-536858)
(86)(22)【出願日】2013年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2013075037
(87)【国際公開番号】WO2014046087
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2014年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-208759(P2012-208759)
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田中 健
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−303306(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/101930(WO,A1)
【文献】 特開2005−082668(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/008958(WO,A1)
【文献】 特開平11−310688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
D01F 8/00−8/18
D01F 9/00−9/04
D01F 11/00−13/04
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含有するハロゲン含有重合体100質量部と、モリブデン化合物1.3〜20質量部を含み、
前記モリブデン化合物は、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、無機質充填剤の上に担持された酸化モリブデン及び無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸アンモニウムからなる群から選ばれる一種以上の化合物であり、
前記モリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、600nm未満であることを特徴とするハロゲン含有難燃繊維。
【請求項2】
前記ハロゲン含有重合体がアクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能なビニル単量体0〜10質量部を含む総量100質量部の単量体組成物を重合して得られる重合体である請求項1に記載のハロゲン含有難燃繊維。
【請求項3】
前記ハロゲン含有重合体がアクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能なビニル単量体0〜10質量部を含む総量100質量部の単量体組成物を重合して得られる重合体である請求項1又は2に記載のハロゲン含有難燃繊維。
【請求項4】
前記モリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、300nm未満である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハロゲン含有難燃繊維。
【請求項5】
前記モリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、100nm未満である請求項1〜4のいずれか一項に記載のハロゲン含有難燃繊維。
【請求項6】
前記無機質充填剤が、タルク及び/又は炭酸カルシウムを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のハロゲン含有難燃繊維。
【請求項7】
ISO 15025:2000(ProcedureA)に基づく燃焼試験方法において、評価用布帛が溶融せずかつ平均残炎時間が30秒未満である請求項1〜のいずれか一項に記載のハロゲン含有難燃繊維。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載のハロゲン含有難燃繊維の製造方法であって、
重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含有するハロゲン含有重合体100質量部と、モリブデン化合物1.3〜20質量部を含む組成物を紡糸する工程を含み、
前記モリブデン化合物は、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、無機質充填剤の上に担持された酸化モリブデン及び無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸アンモニウムからなる群から選ばれる一種以上の化合物であり、
前記紡糸に用いる組成物においてモリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、600nm未満であることを特徴とするハロゲン含有難燃繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載のハロゲン含有難燃繊維を含むことを特徴とする難燃繊維製品。
【請求項10】
前記ハロゲン含有難燃繊維を10質量%以上と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維及びハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の他の繊維を90質量%以下含むことを特徴とする請求項に記載の難燃繊維製品。
【請求項11】
前記他の繊維を30〜70質量%含む請求項10に記載の難燃繊維製品。
【請求項12】
前記他の繊維がセルロース系繊維を含む請求項10又は11に記載の難燃繊維製品。
【請求項13】
前記セルロース系繊維が、木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ及び酢酸セルロース繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維である請求項12に記載の難燃繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有難燃繊維とその製造方法及びそれを用いた難燃繊維製品に関し、詳細には特定の平均粒子径を有するモリブデン化合物を含むハロゲン含有難燃繊維とその製造方法及びそれを用いた難燃繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲン含有繊維の難燃化は最も有効な難燃剤としてアンチモン化合物を1〜50重量部程度含有させる方法が一般的であった。ところが、近年アンチモン化合物の溶出、排出が環境問題としてクローズアップされ、多量の摂取で人体への中毒症状が疑われている状況にある。そこで、アンチモン化合物の溶出、排出に起因する人体に対する影響の可能性をなくすため、アンチモン化合物に代わる難燃剤が必要となってきた。
【0003】
ハロゲン含有繊維に対し、アンチモン化合物以外の化合物を含めることで難燃性が得られるものとして、特許文献1では錫酸亜鉛化合物を添加したハロゲン含有繊維を提案している。錫酸亜鉛化合物以外にも、ポリ塩化ビニルに代表されるハロゲン含有ポリマーの難燃剤あるいはエポキシ樹脂組成物の難燃剤として、モリブデン化合物が用いられている(特許文献2〜6)。その他、難燃性能を高める手法として、難燃剤をナノサイズあるいはサブミクロンサイズに微粒子化することで、難燃効率が高まり難燃性能が向上する事例が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−1822号公報
【特許文献2】特許第4457182号
【特許文献3】特開平9−263668号公報
【特許文献4】特開2003−138102号公報
【特許文献5】特開2011−42752号公報
【特許文献6】WO2006/008958号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「これでわかる難燃化技術」(西澤仁著、工業調査会出版、2003年初版第1刷発行、80頁〜93頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の提案は、高度な難燃性を得るのに多量の錫酸亜鉛化合物をハロゲン含有繊維に添加する必要があり、製造面、コスト面、繊維品質面のいずれをとっても実用上好ましくない。また、前記特許文献2〜6では、モリブデン化合物を他の難燃性を有する化合物と併用している。一般に減煙剤や難燃剤として市販されているモリブデン化合物は、平均粒子径が1〜10μmの範囲内にあり、このようなモリブデン化合物は、アンチモン化合物と同添加量で比較した場合、煙抑制性には優れるものの、難燃性に関しては劣るため、ハロゲン含有ポリマーの難燃剤としてモリブデン化合物を使用する場合、アンチモン化合物やその他難燃剤と併用するのが一般的である。特に、ハロゲン含有ポリマーを繊維化して木綿等の易燃性成分と混ぜ合わせた生地のような厚みの薄い構造体を高度に難燃化する場合においては、市販されている平均粒子径が1〜10μmのモリブデン化合物のみでは高度の難燃性を達成することは困難である。また、難燃性能を高める手段として難燃剤を微粒子化した非特許文献1の提案は、必ずしも全ての難燃剤、全てのベースポリマーに当てはまるわけではなく、難燃評価方法によってもその効果の程度はまちまちである。また、モリブデン化合物を微粒子化することによって難燃性能が著しく向上することを示した詳細なデータは未だ報告されていない。特に、アンチモン化合物とハロゲン系難燃剤の組合せによってのみ高度な難燃化が達成される用途において、アンチモン化合物を添加すること無しにアンチモン化合物以外の難燃剤を微粒子化することだけで実用的に難燃化を達成した事例は無い。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、環境や人体への影響が懸念されるアンチモン化合物を添加することなしにハロゲン含有繊維を高度に難燃化することができるハロゲン含有難燃繊維とその製造方法及びそれを用いた難燃繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハロゲン含有難燃繊維は、重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含有するハロゲン含有重合体100質量部と、モリブデン化合物1.3〜20質量部を含み、前記モリブデン化合物は、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、無機質充填剤の上に担持された酸化モリブデン及び無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸アンモニウムからなる群から選ばれる一種以上の化合物であり、前記モリブデン化合物は、メジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、600nm未満であることを特徴とする。
【0009】
本発明のハロゲン含有難燃繊維の製造方法は、重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含有するハロゲン含有重合体100質量部と、モリブデン化合物1.3〜20質量部を含む組成物を紡糸する工程を含み、前記モリブデン化合物は、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、無機質充填剤の上に担持された酸化モリブデン及び無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸アンモニウムからなる群から選ばれる一種以上の化合物であり、前記紡糸に用いる組成物においてモリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、600nm未満であることを特徴とする。
【0010】
本発明の難燃繊維製品は、前記のハロゲン含有難燃繊維を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境や人体への影響が懸念されるアンチモン化合物を添加することなく高い難燃性を有するハロゲン含有難燃繊維及び難燃繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含有するハロゲン含有重合体100質量部に、モリブデン化合物を1.3〜20質量部配合するとともに、モリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径(以下において単に平均粒子径とも記す。)を10nm以上、600nm未満にすることで、驚くことに、アンチモン化合物を添加することなしに高度な難燃性を獲得したハロゲン含有難燃繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
これに対し、アンチモン化合物を含むハロゲン含有繊維においては、難燃性の程度とアンチモン化合物の平均粒子径の大きさには相関がなく、平均粒子径を600nm未満にしても、高度な難燃性を付与する効果はなかった。また、ハロゲン含有ポリマーの難燃性能を高める物質として一般に知られているヒドロキシ錫酸亜鉛、メタ錫酸、酸化第二錫、酸化鉄、酸化ビスマスなどの金属化合物の場合も、平均粒子径を600nm未満にしても、高度な難燃性を付与する効果はなかった。特に、ハロゲン含有ポリマーにヒドロキシ錫酸亜鉛を配合した場合は、ヒドロキシ錫酸亜鉛の平均粒子径が大きいほど、難燃性が高くなっており、平均粒子径が小さいほど、難燃性が高くなるモリブデン化合物とは反対の傾向であった。
【0014】
本発明において、ハロゲン含有繊維に含まれているモリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径を10nm以上、600nm未満にすることで難燃性が向上して高度な難燃性を獲得するのは、ハロゲン含有ポリマーとモリブデン化合物を併用した場合の特有の効果である。
【0015】
本発明で用いるハロゲン含有重合体は、重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含み、好ましくは23〜70質量部含む。この重合体100質量部中にハロゲンを17〜70質量部含むハロゲン含有重合体(以下において、単に、ハロゲン含有重合体とも記す。)としては、例えばハロゲンを含有する単量体を重合して得られる重合体、ハロゲンを含有する単量体とハロゲンを含有しない単量体との共重合体、ハロゲンを含有する重合体とハロゲンを含有しない単量体との共重合体、ハロゲンを含有する重合体とハロゲンを含有しない重合体とのポリマーブレンド物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
前記ハロゲン含有重合体の具体例としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等のハロゲン含有単量体の単独重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等からなる群から選ばれる二種以上のハロゲン含有単量体の共重合体;アクリロニトリル−塩化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−臭化ビニル等の一種以上のハロゲン含有単量体とアクリロニトリルの共重合体;前記一種以上のハロゲン含有単量体とアクリロニトリルの共重合体とこれらと共重合可能なビニル系単量体との共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
前記共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸及びその塩、メタクリルスルホン酸及びその塩、スチレンスルホン酸及びその塩等が挙げられ、それらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0018】
前記ハロゲン含有重合体としては、例えば、アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能なビニル単量体0〜10質量部を含む総量100質量部の単量体組成物を重合して得られる重合体が好ましい。前記アクリロニトリル含有量が30〜70質量部であると、繊維化するのに必要な耐熱性が得られ、かつ難燃化もできる。特に好ましいアクリロニトリル含有量の下限としては40質量部以上、更に好ましくは45質量部以上である。特に好ましいアクリロニトリル含有量の上限としては60質量部以下、更に好ましくは57質量部以下である。前記好ましい範囲であれば、難燃性を維持しつつ、衣料等に使われる繊維に必要とされる耐熱性が得られる。特に好ましいハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体の下限としては40質量部以上、更に好ましくは43質量部以上であり、上限としては60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。特に好ましい共重合可能なビニル単量体の下限としては0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、上限としては7質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。より高い難燃性を発現させるためには、ハロゲン含有単量体としてハロゲン含有ビニリデン単量体の使用が特に好ましい。また、重合体に染色性能を付与する点から、共重合可能なビニル単量体として少なくとも1種のスルホン酸基含有ビニル単量体の使用が好ましい。
【0019】
前記ハロゲン含有重合体は、既知の重合方法で得ることができる。例えば、重合方式としては塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられ、重合形態としては連続式、回分式、半回分式等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この中でも工業的視点から、重合方式としては乳化重合と溶液重合が好ましく、重合形態としては連続式、半回分式が好ましい。
【0020】
本発明のハロゲン含有難燃繊維は、前記ハロゲン含有重合体100質量部に対してモリブデン化合物を1.3〜20質量部含む。前記ハロゲン含有難燃繊維中のモリブデン化合物の含有量が前記の範囲を満たせば、充分な難燃性が得られ、繊維製造工程でろ布やノズル詰り等の問題が生じにくく、更に充分な繊維物性(強度や伸度)が得られる。前記モリブデン化合物の含有量は、ハロゲン含有重合体100質量部に対し、好ましくは2.6質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。また、前記モリブデン化合物の添加量は、ハロゲン含有重合体100質量部に対し、好ましくは13質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0021】
前記モリブデン化合物としては、例えば、酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、無機質充填剤の上に担持された酸化モリブデン、無機質充填剤の上に担持された硫化モリブデン、無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸アンモニウム、無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸亜鉛、無機質充填剤の上に担持されたモリブデン酸カルシウム等が挙げられる。無機質充填剤としては、例えば、タルクや炭酸カルシウム等が挙げられる。これらのモリブデン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく複数を組合せて用いても良い。
【0022】
本発明のハロゲン含有難燃繊維において、前記モリブデン化合物は、難燃性能の観点からメジアン径で表される平均粒子径が600nm未満であることが求められる。本発明のハロゲン含有難燃繊維において、モリブデン化合物の平均粒子径が600nm未満であることで、高度な難燃性が得られる。確かに平均粒子径が600nm以上でも、添加量を多くすることで、難燃性能を向上させることはできるが、添加量を多くすることは即ち、繊維製造工程でのトラブルを発生させやすくし、更にコスト高となるため、実用を考慮した場合、モリブデン化合物の平均粒子径は600nm未満であることが求められる。モリブデン化合物の平均粒子径は、好ましくは590nm以下であり、より好ましくは570nm以下、更に好ましくは540nm以下、更に好ましくは300nm以下であり、更に好ましくは300nm未満であり、更に好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは100nm未満である。モリブデン化合物の平均粒子径を300nm未満にすることで、高度に難燃性能を発現することができるだけでなく、例えば繊維のような厚みの薄い成形体に添加した場合、繊維に光沢感を与えることができるので良い。モリブデン化合物の平均粒子径を100nm未満にすることで、それらの効果は更に向上するので良い。モリブデン化合物の平均粒子径における下限は特に限定されないが、平均粒子径が10nm未満になると、繊維製造方法が湿式紡糸法である場合、凝固浴や水洗浴中にモリブデン化合物粒子が溶出し易くなるので好ましくない。特に、金属化合物の添加量が同様の場合、平均粒子径が300nm未満であるモリブデン化合物を含有するハロゲン含有難燃繊維は、アンチモン化合物を含有するハロゲン含有難燃繊維と同等の難燃性を有する。
【0023】
後述するように、本発明では、ハロゲン含有重合体とモリブデン化合物を含む組成物を紡糸することでモリブデン化合物をハロゲン含有難燃繊維に含ませており、紡糸に用いる組成物(紡糸組成物)中のモリブデン化合物の平均粒子径とハロゲン含有難燃繊維中のモリブデン化合物の平均粒子径はほぼ同等である。特に、湿式紡糸の場合は、紡糸組成物(紡糸原液)中のモリブデン化合物のメジアン径で表される平均粒子径を、ハロゲン含有難燃繊維中のモリブデン化合物の平均粒子径として用いてもよい。紡糸組成物中のモリブデン化合物のメジアン径(d50)で表される平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱式測定法で測定することができる。なお、本発明のハロゲン含有難燃繊維中のモリブデン化合物の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡による繊維軸に垂直の断面写真(20000倍)及び繊維軸に並行の断面写真(20000倍)の任意の視野において画像解析ソフトWinROOF(Ver.5.04)を用いて100個の粒子の粒子径を計測し、その平均値を算出してもよい。
【0024】
本発明のハロゲン含有難燃繊維は、ハロゲンを17〜70質量部含有するハロゲン含有重合体100質量部に対し、メジアン径で表される平均粒子径が10nm以上、600nm未満のモリブデン化合物を1.3〜20質量部添加した組成物を、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式紡糸法等の公知の製造方法で製造することができる。
【0025】
湿式紡糸法では、例えば、上記ハロゲン含有重合体をN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、ロダン塩水溶液、ジメチルスルフォキシド、硝酸水溶液等の溶媒に溶解した樹脂溶液に、モリブデン化合物を添加・混合し、得られた組成物(紡糸原液)を、ノズルを通じて凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで水洗、乾燥、延伸、熱処理し、必要であれば捲縮を付与し切断することでハロゲン含有難燃繊維を得る。前記ハロゲン含有重合体を溶解するのに用いる溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド及びアセトンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒が好ましく、更にはN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド及びアセトンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒が工業的にハンドリングできることから好ましい。
【0026】
湿式紡糸において、ハロゲン含有重合体を溶解した樹脂溶液にモリブデン化合物のゾル又はモリブデン化合物の分散液を添加・混合し、紡糸組成物(紡糸原液)としてもよい。モリブデン化合物のゾルは、一般的なモリブデン化合物のゾルの作製方法に基づいて作製すればよい。例えば、モリブデン酸を予め水で希釈した過酸化水素水に入れ、95℃で2時間攪拌することで過モリブデン酸の状態にし、その後、L−アスコルビン酸をモリブデンの金属酸化物1molに対し0.03〜0.6mol加えることで過モリブデン酸を還元して得た三酸化モリブデンゾルを用いることができる。モリブデン化合物の分散液は、一般的なモリブデン化合物(粒子)の分散液の作製方法に基づいて作製すればよい。例えば、分散剤を溶解させた溶媒中にモリブデン化合物の粉体を分散させ、その後、湿式ビーズミルで粉砕することで得ることができる。分散液におけるモリブデン化合物の濃度、分散剤の濃度や粉砕の条件等によりモリブデン化合物の平均粒子径を調整することができる。前記モリブデン化合物の分散液の作製に用いる溶媒としては、例えば、上述したハロゲン含有重合体を溶解するのに用いる溶媒と同様の溶媒を用いることができる。前記分散剤としては、特に限定されず、分散効果が高いという観点から、例えば、アクリル酸−スチレン系分散剤などを好適に用いることができる。アクリル酸−スチレン系分散剤としては、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−スチレンスルホン酸共重合体などのスチレン−アクリル酸系樹脂を用いることができる。また、前記分散剤としては、前記共重合体のナトリウム、カリウム、アンモニウム及びアミン類などの塩を用いてもよい。前記スチレン−アクリル酸系樹脂において、アクリル酸エステルは、炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。前記分散剤は、単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
モリブデン化合物のゾル又はモリブデン化合物の分散液を用いる場合、紡糸組成物中のモリブデン化合物の平均粒子径は、ハロゲン含有重合体を溶解する溶媒でモリブデン化合物のゾル又はモリブデン化合物の分散液を希釈した試料を用い、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置でメジアン径(d50)を測定すればよい。
【0028】
本発明のハロゲン含有難燃繊維は、木綿と50:50の質量割合で混綿し作製した評価用布帛においても優れた難燃性能を示し、ISO 15025:2000(ProcedureA)に基づく燃焼試験方法において、評価用布帛が溶融せずかつ平均残炎時間が30秒未満となる。
【0029】
本発明のハロゲン含有難燃繊維は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法に応じて適宜選択することが可能である。他の繊維、例えば天然繊維、再生繊維、半合成繊維又は前記ハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維と複合させて加工する場合には、複合させる繊維に近似なものが好ましい。例えば、前記ハロゲン含有難燃繊維の繊度は、繊維製品の用途に応じて適宜選択することができる。天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記ハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維等からなる群から適宜選択される他の繊維と複合する場合は、他の繊維の繊度と同等でも良く、細くても太くても良い。具体的には、1〜30dtexであることが好ましく、1〜10dtexであることがより好ましく、1〜3dtexであることがさらに好ましい。また、カット長は、繊維製品の用途により適宜選択される。例えば、ショートカットファイバー(繊維長0.1〜5mm)、短繊維(繊維長38〜128mm)、全くカットされていない長繊維(フィラメント)等が挙げられる。この中でも、繊維長38〜76mm程度の短繊維が好ましい。
【0030】
本発明のハロゲン含有難燃繊維は、単独使用は勿論可能であり、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、前記ハロゲン含有難燃繊維以外の他の合成繊維等の他の繊維と組合せて使用することも可能である。他の繊維と組合せて使用する場合には、本発明のハロゲン含有難燃繊維を繊維総量に対して10質量%以上含むことが好ましい。ハロゲン含有難燃繊維の含有量の下限値は好ましくは30質量%以上であり、上限値は好ましくは70質量%以下である。これらを組合せる方法としては、混綿、混紡、混繊等があり、組合せの具体的な形態としては、不織布、織物、編み物、レース網、組み物等がある。
【0031】
織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。平織、朱子織、紋織が商品としての風合いや強度等に優れる。
【0032】
編み物としては、丸編、緯編、経編、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織等がある。天竺編、リブ編が商品としての風合いに優れる。
【0033】
本発明においては、難燃繊維製品は、前記のハロゲン含有難燃繊維を10質量%以上と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記ハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維90質量%以下を含むことが好ましい。天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記ハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の他の繊維の含有量の下限値は好ましくは30質量%以上であり、上限値は好ましくは70質量%以下である。
【0034】
天然繊維としては、例えば、木綿、カポック繊維、麻、大麻繊維、ラミー繊維、ジュート繊維、マニラ麻繊維、ケナフ繊維、羊毛繊維、モヘア繊維、カシミヤ繊維、ラクダ繊維、アルパカ繊維、アンゴラ繊維、絹繊維等が挙げられる。
【0035】
再生繊維としては、例えば、再生セルロース繊維、再生コラーゲン繊維、再生タンパク繊維等が挙げられる。再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、ポリノジック、旭化成社製商品名“キュプラ”、レンチング社製商品名“テンセル”、レンチング社製商品名“レンチングモダール”等が挙げられる。
【0036】
前記ハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル繊維、ポロオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維(旭化成せんい社製商品名“サラン”)、ポリクラール繊維、ポリエチレン繊維(東洋紡社製商品名“ダイニーマ”)、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、アラミド繊維(デュポン社製商品名“ケブラー”、同“ノーメックス”、帝人社製商品名“テクノーラ”、同“トワロン”、同“コーネックス”)、ベンゾエート繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維(東洋紡社製商品名“プロコン”)、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリベンズアゾール繊維、ポリイミド繊維(東洋紡社製商品名“P84”)、ポリアミドイミド繊維(ケルメル社製商品名“ケルメル”)等が挙げられる。
【0037】
更に再生繊維としては、例えば、特殊再生セルロース繊維(水ガラスを含有するレーヨン繊維:サテリ社製商品名“ヴィジル”、ダイワボウ社製商品名“FRコロナ”)、難燃剤を塗付した後加工難燃セルロース繊維、素材難燃レーヨン繊維(レンチング社製商品名“レンチングFR”)が挙げられる。更に前記ハロゲン含有難燃繊維以外の合成繊維として、例えば、難燃ポリエステル(東洋紡社製商品名“ハイム”、トレビラ社製商品名“トレビラCS”)、ポリエチレンナフタレート繊維(帝人社製商品名“テオネックス”)、メラミン繊維(バソフィルファイバー社製商品名“バソフィル”)、アクリレート繊維(東洋紡社製商品名“モイスケア”)、ポリベンズオキサイド繊維(東洋紡社製商品名“ザイロン”)が挙げられる。その他、酸化アクリル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、活性炭素繊維等が挙げられる。
【0038】
本発明の難燃繊維製品は、他の繊維としてセルロース系繊維を好適に含むことができる。本発明に用いるセルロース系繊維は、特に限定されず、例えば、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、半合成セルロース繊維のいずれに属するセルロース系繊維であってもよい。このうち、木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、及び酢酸セルロース繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロース系繊維が好ましく、木綿及びレーヨンからなる群から選ばれる1種以上のセルロース系繊維が吸湿性、着心地の点から特に好ましい。セルロース系繊維が前記難燃繊維製品に30〜70質量%含有されていることが好ましく、40質量%以上含有されていることがより好ましい。
【0039】
本発明のハロゲン含有難燃繊維には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤、難燃剤等のその他の添加剤を含有させても良い。
【0040】
本発明の難燃繊維製品としては、一例として次のものがある。
(1)衣類及び日用品材料
衣服(上着、下着、セーター、ベスト、ズボン等を含む)、手袋、靴下、マフラー、帽子、寝具、枕、クッション、ぬいぐるみ等。
(2)特殊服
防護服、消防服、作業服、防寒服等。
(3)インテリア材料
椅子張り、カーテン、壁紙、カーペット等。
【実施例】
【0041】
以下、実施例にて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記の実施例中で「%」は「質量%」を意味する。尚、実施例における繊維の難燃性は、布帛を用いた難燃性試験(燃焼試験)により評価した。
【0042】
(実施例1)
<ハロゲン含有繊維の製造例1>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をジメチルスルフォキシドに樹脂濃度が28%になるように溶解させて樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化モリブデンの添加量が4質量%になるように平均粒子径12nmの三酸化モリブデンゾルを添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径12nmの三酸化モリブデンゾルは、モリブデン酸(和光純薬工業株式会社製)を予め水で希釈した過酸化水素水(和光純薬工業株式会社製、30%濃度品)に入れ、95℃で2時間攪拌することで過モリブデン酸の状態にし、その後、L−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)をモリブデンの金属酸化物1molに対し0.03〜0.6mol加えることで過モリブデン酸を還元することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、60%のジメチルスルフォキシド水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で2倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0043】
(実施例2)
<ハロゲン含有繊維の製造例2>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化モリブデンの添加量が4質量%になるように平均粒子径100nmの三酸化モリブデンの分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径100nmの三酸化モリブデンの分散液は、三酸化モリブデン粉体(日本無機化学工業社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0044】
(実施例3)
<ハロゲン含有繊維の製造例3>
樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化モリブデンの添加量が4質量%になるように平均粒子径140nmの三酸化モリブデンの分散液を添加して紡糸原液とした以外は、製造例2と同様にしてハロゲン含有繊維を得た。ここで、平均粒子径140nmの三酸化モリブデンの分散液は、三酸化モリブデン粉体(日本無機化学工業社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0045】
(実施例4)
<ハロゲン含有繊維の製造例4>
樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化モリブデンの添加量が4質量%になるように平均粒子径540nmの三酸化モリブデンの分散液を添加して紡糸原液とした以外は、製造例2と同様にしてハロゲン含有繊維を得た。ここで、平均粒子径540nmの三酸化モリブデンの分散液は、三酸化モリブデン粉体(日本無機化学工業社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0046】
(実施例5)
<ハロゲン含有繊維の製造例5>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対してモリブデン酸アンモニウムの添加量が4質量%になるように平均粒子径160nmのモリブデン酸アンモニウムの分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径160nmのモリブデン酸アンモニウムの分散液は、モリブデン酸アンモニウム粉体(日本無機化学工業株式会社製、グレード:TF−2000)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0047】
(実施例6)
<ハロゲン含有繊維の製造例6>
樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化モリブデンの添加量が10質量%になるように樹脂溶液に平均粒子径140nmの三酸化モリブデンの分散液を添加して紡糸原液としたこと以外は、製造例3と同様にしてハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0048】
(比較例1)
<ハロゲン含有繊維の製造例7>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化モリブデンの添加量が4質量%になるように平均粒子径1350nmの三酸化モリブデンの分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径1350nmの三酸化モリブデンの分散液は、三酸化モリブデン粉体(日本無機化学工業社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0049】
(比較例2)
<ハロゲン含有繊維の製造例8>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対してモリブデン酸アンモニウムの添加量が4質量%になるように平均粒子径3450nmのモリブデン酸アンモニウムの分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径3450nmのモリブデン酸アンモニウムの分散液は、モリブデン酸アンモニウム粉体(日本無機化学工業株式会社製、グレード:TF−2000)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0050】
(比較例3)
<ハロゲン含有繊維の製造例9>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対してヒドロキシ錫酸亜鉛の添加量が4質量%になるように平均粒子径150nmのヒドロキシ錫酸亜鉛の分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径150nmのヒドロキシ錫酸亜鉛の分散液は、ヒドロキシ錫酸亜鉛粉体(水澤化学工業株式会社製、グレード:ALCANEX−ZHSF)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【比較例4】
【0051】
<ハロゲン含有繊維の製造例10>
樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対してヒドロキシ錫酸亜鉛の添加量が4質量%になるように平均粒子径250nmのヒドロキシ錫酸亜鉛の分散液を添加して紡糸原液とした以外は、製造例9と同様にしてハロゲン含有繊維を得た。ここで、平均粒子径250nmのヒドロキシ錫酸亜鉛の分散液は、ヒドロキシ錫酸亜鉛粉体(水澤化学工業株式会社製、グレード:ALCANEX−ZHSF)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0052】
(比較例5)
<ハロゲン含有繊維の製造例11>
樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対してヒドロキシ錫酸亜鉛の添加量が4質量%になるように平均粒子径1440nmのヒドロキシ錫酸亜鉛の分散液を添加して紡糸原液とした以外は、製造例9と同様にしてハロゲン含有繊維を得た。ここで、平均粒子径1440nmのヒドロキシ錫酸亜鉛の分散液は、ヒドロキシ錫酸亜鉛粉体(水澤化学工業株式会社製、グレード:ALCANEX−ZHSF)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0053】
(比較例6)
<ハロゲン含有繊維の製造例12>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対してメタ錫酸の添加量が4質量%になるように平均粒子径240nmのメタ錫酸の分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径240nmのメタ錫酸の分散液は、メタ錫酸粉体(日本化学産業工業株式会社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0054】
(比較例7)
<ハロゲン含有繊維の製造例13>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をジメチルスルフォキシドに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して酸化第二錫の添加量が4質量%になるように平均粒子径6nmの酸化第二錫ゾル(多木化学株式会社製、グレード:セラメースS−8)を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、60%のジメチルスルフォキシド水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で2倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0055】
(比較例8)
<ハロゲン含有繊維の製造例14>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して酸化第二錫の添加量が4質量%になるように平均粒子径150nmの酸化第二錫の分散液を4質量%添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径150nmの酸化第二錫の分散液は、酸化第二錫粉体(株式会社高純度化学研究所製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0056】
(比較例9)
<ハロゲン含有繊維の製造例15>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をジメチルスルフォキシドに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して酸化鉄の添加量が4質量%になるように平均粒子径6nmの酸化鉄ゾル(多木化学株式会社製グレード:バイラールFe−C10)を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、60%のジメチルスルフォキシド水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で2倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0057】
(比較例10)
<ハロゲン含有繊維の製造例16>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して酸化鉄の添加量が4質量%になるように平均粒子径310nmの酸化鉄の分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径310nmの酸化鉄の分散液は、酸化鉄粉体(株式会社高純度化学研究所製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて粉砕することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0058】
(比較例11)
<ハロゲン含有繊維の製造例17>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して酸化ビスマスの添加量が4質量%になるように平均粒子径150nmの酸化ビスマスの分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径150nmの酸化ビスマスの分散液は、酸化ビスマス粉体(シーアイ化成株式会社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて分散することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0059】
<参考例1>
(ハロゲン含有繊維の製造例18)
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化アンチモンの添加量が2質量%になるように平均粒子径800nmの三酸化アンチモンの分散液を添加し、紡糸原液とした。ここで、平均粒子径800nmの三酸化アンチモンの分散液は、三酸化アンチモン粉体(日本精鉱株式会社製)をアクリル酸−スチレン系分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体、BASFジャパン社製、品名「ジョンクリル611」)を溶解させたアセトン中に分散させ、その後、湿式ビーズミルを用いて分散することで得た。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0060】
(参考例2)
<ハロゲン含有繊維の製造例19>
樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して三酸化アンチモンの添加量が4質量%になるように平均粒子径800nmの三酸化アンチモンの分散液を樹脂溶液に添加して紡糸原液とした以外は、製造例18と同様にしてハロゲン含有繊維を作製した。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0061】
(参考例3)
<ハロゲン含有繊維の製造例20>
アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる単量体組成物を重合して得られる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解させ樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の全体質量に対して五酸化アンチモンの添加量が4質量%になるように平均粒子径80nmの五酸化アンチモンゾル(Nyacol Nano Technologies Inc.社製)を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、38%のアセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗することで、水洗糸を得た。この水洗糸を120℃で乾燥し、さらに150℃で2倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂株式会社製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0062】
ハロゲン含有繊維の製造例1〜20で用いた各種金属化合物のゾル又は分散液における金属化合物の平均粒子径は下記のように測定した。
【0063】
(平均粒子径の測定方法)
製造例1、13、15、20で用いた各種金属化合物のゾルにおける金属化合物の粒子径測定には、各々の金属化合物のゾルを、それぞれの製造例でハロゲン含有重合体を溶解するのに用いた溶媒により希釈した試料を用いた。各々の試料における金属化合物のメジアン径を、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950)を用いて測定し、各種金属化合物の平均粒子径とした。このように測定した各種金属化合物のゾルにおける金属化合物の平均粒子径は、紡糸原液中の金属化合物の平均粒子径と同じであり、ハロゲン含有繊維中の金属化合物の平均粒子径と同じであるとみなすことができる。
【0064】
製造例2〜12、14、16〜19の湿式ビーズミルを用いてアセトン中で粉砕/分散した各種金属化合物の分散液における金属化合物の粒子径測定には、各々の金属化合物の分散液をアセトン(それぞれの製造例でハロゲン含有重合体を溶解するのに用いた溶媒)により希釈した試料を用いた。各々の試料における金属化合物のメジアン径を、HORIBA社製レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(LA−920)を用いて測定し、各種金属化合物の平均粒子径とした。このように測定した各種金属化合物の分散液における金属化合物の平均粒子径は、紡糸原液中の金属化合物の平均粒子径と同じであり、ハロゲン含有繊維中の金属化合物の平均粒子径と同じであるとみなすことができる。
【0065】
実施例1〜6、比較例1〜11、参考例1〜3で得られたハロゲン含有繊維の難燃性は、ハロゲン含有繊維を含む布帛を用い、ISO 15025:2000(ProcedureA)に基づいた燃焼試験方法で評価した。
【0066】
<難燃性評価用布帛の作製方法>
製造例1〜20で作製したハロゲン含有繊維と木綿を50:50の質量割合で混綿し、MDTA(Micro Dust Trash Analyzer、ウスター社製「MDTA3」)でスライバーを作製した。次に、このスライバーを用いてクイックスピンシステム(ウスター社製「クイックスピンシステム」)により、20/1番手のオープンエンド糸を作製した。このオープンエンド糸を用い、1口編機(16ゲージ)により、ニット布帛を作製した。得られたニット布帛を難燃性評価用布帛とした。
【0067】
<難燃性試験評価方法>
難燃性評価は、上記で作製した難燃性評価用布帛を使用し、燃焼試験方法はISO 15025:2000(ProcedureA)に基づいて実施した。ISO 15025:2000(ProcedureA)に基づく燃焼試験方法は、規定のホルダーにセットした評価用布帛に対して直角に17±1mm離れた場所から25±2mmの炎を10秒間着炎する方法である。なお、難燃性評価基準は、ISO 15025:2000(ProcedureA)に基づいた燃焼試験において、評価用布帛が溶融した場合、あるいは平均残炎時間が30秒以上であった場合は不合格とし、評価用布帛が溶融せずかつ平均残炎時間が30秒未満であった場合、難燃性があると判断し合格とした。
【0068】
下記表1に実施例1〜6、比較例1〜11、参考例1〜3のハロゲン含有繊維を含む布帛を用いた難燃性試験評価の結果をまとめて示した。また、下記表1には、実施例1〜6、比較例1〜11、参考例1〜3のハロゲン含有繊維における金属化合物の平均粒子径及びハロゲン含有重合体100質量部に対する金属化合物の添加量も併せて示した。なお、ハロゲン含有繊維の製造例1〜20で用いたハロゲン含有重合体は、重合体100質量部中にハロゲンを35.1質量部含んでいる。
【0069】
【表1】
上記表1の結果から分かるように、実施例1〜6のハロゲン含有繊維は、ハロゲン含有繊維を含む布帛を用いた難燃性試験評価において、布帛が溶融することなく、残炎秒数も30秒未満であり合格であった。特に、実施例1〜3、5、6の平均粒子径が300nm未満であるモリブデン化合物を含有するハロゲン含有難燃繊維は、ハロゲン含有繊維を含む布帛を用いた難燃性試験評価において、残炎秒数が0秒であり極めて高い難燃性能を示した。
【0070】
一方、比較例1及び比較例2のハロゲン含有繊維は、モリブデン化合物の平均粒子径が600nm以上であるため、ハロゲン含有繊維を含む布帛を用いた難燃性試験評価において、残炎秒数が30秒以上となり不合格であった。
【0071】
なお、参考例1〜3の結果から分かるように、アンチモン化合物を含むハロゲン含有繊維において、アンチモン化合物の含有量が同じであれば、平均粒子径の大きさに関係なく、同等の難燃性を示しており、アンチモン化合物の場合、平均粒子径を600nm未満にしても、難燃性を向上させる効果は確認されなかった。
【0072】
アンチモン化合物を用いた参考例2〜3のハロゲン含有繊維との対比から明らかなように、金属化合物の添加量が同様の場合、実施例1〜3、5、6の平均粒子径が300nm未満であるモリブデン化合物を含有するハロゲン含有難燃繊維は、アンチモン化合物を含有するハロゲン含有難燃繊維と同等の難燃性を有する。
【0073】
モリブデン化合物以外で、ハロゲン含有ポリマーの難燃性能を高める物質として一般に知られているヒドロキシ錫酸亜鉛、メタ錫酸、酸化第二錫、酸化鉄、酸化ビスマスを含有した比較例3〜11のハロゲン含有繊維は、ハロゲン含有繊維を含む布帛の難燃性試験評価において、残炎秒数が30秒以上となり不合格であった。これらの結果から分かるように、モリブデン化合物以外の金属化合物を用いた場合、平均粒子径を600nm未満にしても、難燃性を向上させる効果はなかった。特に、比較例3〜5の結果から分かるように、ハロゲン含有ポリマーにヒドロキシ錫酸亜鉛を配合した場合、ヒドロキシ錫酸亜鉛の平均粒子径が大きいほど、難燃性が高くなっており、平均粒子径が小さいほど、難燃性が高くなるモリブデン化合物とは反対の傾向であった。