【実施例1】
【0012】
はじめに、
本発明に係る衝撃吸収体用の支柱の一例について説明する。
<1>全体構成。
本実施例に係る支柱は、斜面に設置して衝突物を受撃するための衝撃吸収体に用いる部材であり、斜面に立った状態で敷設されるネットの形状を保持するための部材である。
図1は、本実施例に係る支柱の構造を示す概略図であり、(a)は、支柱の平面図、(b)は、支柱の右側面図であり、(c)は、山側からみた支柱の正面図である。
【0013】
<2>本体形状。
支柱10には後述する貫通孔12および頭部11の各種連結部を設けることができる範囲であらゆる断面形状の鋼材を用いることができる。
なお、例えば支柱10に管状の鋼材を用いた場合、H鋼などの溝形鋼と比べて軽量化が可能となる点で好ましい。
支柱の底部は、斜面に立設可能な構造を呈しておく。
【0014】
<3>頭部構造。
支柱10の頭部11には、各種控え材と連結するための、以下の連結機構を設けることができる。
<3.1>山側の連結部。
支柱10の背面方向(斜面山側)には、斜面山側に設ける控え材と連結するための連結部(山側連結部11a)を備えている。
<3.2>谷側の連結部。
支柱10の正面方向(斜面谷側)には、斜面谷側に設ける控え材と連結するための連結部(谷側連結部11b)を備えている。
<3.3>左右側の連結部。
支柱10の左右方向(斜面幅方向側)には、隣り合う支柱との間隔保持ロープの連結のため、または横控え材と連結するための連結部(右側連結部11c、左側連結部11d)を備えている。
【0015】
<4>貫通孔の形成。
支柱10の中間部には、適宜貫通孔12を設ける。
[貫通孔の向き]
貫通孔12を設ける方向は、支柱10の前後方向や左右方向の何れかあるいは両方とすることができる。
貫通孔12を支柱10の前後方向に設けた場合には、斜面とネットとを連結するための山側控え材を挿通するための要素となる。
また、貫通孔12を、支柱10の左右方向に設けた場合には、ネットに設けた横ロープを挿通するための要素となる。
使用態様に応じた、これらの貫通孔12の向きの詳細については、後述の実施例2以降にて説明する。
【0016】
[貫通孔の数]
本実施例では、貫通孔12を支柱10の前後方向に複数設けている。
図1に示す構成では、貫通孔12を、支柱の上端近傍に1箇所、支柱の中間部分に2箇所、支柱の下端近傍に1箇所の計4箇所に設けているが、本発明に係る支柱10は、上記構成例に限定されるものではなく、貫通孔12の数および配置間隔は、現場条件に合わせて適宜決定することができる。
なお、支柱10の中間部分に、より多くの貫通孔12を設けておくと、前記山側控え材や横ロープをより多く設けたり、配置間隔を自在に調整できたりする点で好ましい。
【0017】
<5>横控え材との連結部。
支柱10の左右には、横控え材と連結するための連結部(横控え用連結部13)を備えておくこともできる。
横控え用連結部13の数および配置間隔は、現場条件に合わせて適宜決定すれば良い。
なお、横控え用連結部13は、全ての支柱10において使用される要素ではなく、衝撃吸収体を構成する両端の支柱10(端支柱)で用いる要素である。
また、前記端支柱であっても、当該支柱10の貫通孔を左右方向に設けて横ロープを挿通するような場合には、横控え用連結部13は使用しない。
【0018】
<6>使用方法。
このように、支柱10の頭部の前後左右に連結部を設けつつ、貫通孔12を前後方向または左右方向の何れかに設けておけば、支柱10の長手方向を回転軸として、該支柱90度回転させれば、同一の支柱10で、貫通孔12を前後方向に設けた状態で立設した態様や、貫通孔12を左右方向に設けた状態で立設した態様のいずれをも任意に選択することができる。
また、支柱10の前後方向および左右方向の両方に貫通孔12を設けておけば、支柱10を回転させて立設する必要も無くなる。
【実施例2】
【0019】
次に、本発明に係る衝撃吸収体の第1実施例について説明する。
<1>全体構成。
図2は、本実施例に係る衝撃吸収体の概略斜視図である。
本実施例に係る衝撃吸収体は、斜面の幅方向に間隔を空けて立設する複数の支柱10と、前記複数の支柱10間に配置して前記衝突物を受撃するネット20と、前記支柱10またはネット20と、斜面とを繋ぐ各種控え材とを少なくとも具備する。
そして、前記支柱10と前記ネット20は、衝突物による衝撃力が互いに伝達しない、もしくは伝達しづらい態様で一体化されて、衝撃吸収体を構築している。
以下、各構成要素、ならびにこれらの構築態様の詳細について説明する。
【0020】
<2>支柱。
支柱10は、斜面に立った状態で敷設されるネット20の形状を保持するための部材である。
この支柱10には、前記実施例1に記載の支柱を用いることができる。
支柱10は、前記貫通孔12が支柱10の前後方向を向くように立設してある。
よって、本実施例では、貫通孔12は、斜面とネットとを連結するための山側控え材(第二の山側控え材60)を挿通するための要素となる。
【0021】
また、支柱の頭部11に設けた、支柱の背面方向(斜面山側)にある山側連結部11aは、斜面山側に設ける第一の控え材30と連結する。
また、支柱10の正面方向(斜面谷側)にある谷側連結部11bは、斜面谷側に設ける第一の谷側控え材40と連結する。
また、支柱10の左右方向(斜面幅方向側)にある右側連結部11c、左側連結部11dは、隣り合う支柱との間隔保持ロープ、または横控え材50と連結する。
【0022】
<3>ネット。
ネット20は、衝突物の受撃面を構成するための部材である。
ネット20は受撃面を構成する金網21と、前記金網21に取り付ける横方向及び縦方向のワイヤーロープ(横ロープ22、縦ロープ23、以下「各ロープ」ともいう。)からなる。
金網20と各ロープとの連結方法は、図示しない接続コイルを介するなど、公知の方法によって行うことができる。
また、各ロープの交点部分は、公知の交点処理を行って目開きを防止しておくことが好ましい。
【0023】
<3.1>金網。
金網21の素材、形状は、衝突物に対する所望の衝撃吸収性能によって適宜決定することができ、例えば、超硬金網、菱形金網、亀甲金網等の金網、ワイヤーロープ製のネット、などを用いることができる。
【0024】
<3.2>横ロープ。
横ロープ22は、金網21の縦方向に所定間隔毎に設ける部材であり、一般的には金網21の上縁部分、単数又は複数の中間部分、下縁部分に等間隔で設けるが、配置位置、配置本数は適宜決定されるものであり、本発明において特段限定するものでではない。
横ロープ22の各端部は、挿通孔を通過した第二の山側控え材60の端部と連結する。
【0025】
<3.3>縦ロープ。
縦ロープ23は、金網21の横方向に対して所定間隔毎に設ける部材であり、一般的には、金網21の左縁部分、単数又は複数の中間部分、右縁部分に等間隔で設けるが、配置位置、配置本数は適宜決定されるものであり、本発明において特段限定するものではない。
縦ロープ23は、前記横ロープ22との交点処理によって当該横ロープと一体化した状態となる。
【0026】
<4>各控え材とアンカーとの連結。
次に、各控え材における、各アンカーとの連結態様について説明する。
【0027】
<4.1>山側アンカーとの連結。
第一の山側控え材30および第二の山側控え材60は、斜面の山側に設けた山側アンカーXと連結する。
図1では、支柱10と連結する第一の山側控え材30と、該第一の山側控え材30と連結する支柱10の挿通孔12に挿通する前記第二の山側控え材60とを、同一の山側アンカーXを介して斜面と連結している。
当該構成によれば、衝突物の衝撃力に抵抗するために設ける山側アンカーXに、支柱の控え機能を兼用することになるため、第一の山側控え材30のために別途アンカーを設ける必要が無い点で好ましい。
なお、本発明は
図1に示す連結態様を必須とするものではない。よって各控え材30,60を別々の山側アンカーXに連結することもできる。
【0028】
<4.2>谷側アンカーとの連結。
第一の谷側控え材40は、斜面の谷側に設けた谷側アンカーYと連結する。
図1では、隣り合う二本の支柱から伸びる第一の谷側控え材は、同一の谷側アンカーと連結して鋭角を形成しているが、本発明は当該連結態様を必須とするものではない。よって各控え材40を、別々の谷側アンカーYで連結してもよい。
【0029】
<4.3>横アンカーとの連結。
衝撃吸収体の左右縁側に設けた支柱10と連結する横控え材50は、衝撃吸収体の横に設けた横アンカーZと連結する。
図1では、同一の支柱10から伸びる横控え材50は、同一の横アンカーZと連結しているが、本発明は当該連結態様を必須とするものではない。よって各控え材50を、別々の横アンカーZで連結してもよい。
【0030】
<4.4>緩衝金具の追加。
なお、各控え材を構成するワイヤーロープの途上に、該ワイヤーロープに所定以上の張力が作用したときに、該ワイヤーロープの摩擦摺動を許容して緩衝機能を発揮する公知の緩衝金具を設けることもできる(図示せず)。
【0031】
<5>機能・作用。
次に、
図3,4を参照しながら、本発明に係る衝撃吸収体の作用について説明する。
【0032】
<5.1>支柱の設置態様。
図3は、支柱10と、該支柱10と連結する各控え材との関係を示した概略図である。
支柱10は頭部11の連結部から、山側および谷側に各控え材(第一の山側控え材30,第一の谷側控え材40)を介して斜面にアンカー連結した状態である。
このとき、ネット20と連結する各控え材は、支柱10と連結していない状態である。
このように、支柱に連結する各控え材(第一の山側控え材30,第一の谷側控え材40)は、支柱10の立設状態を維持することができる程度で足りることとなる。
【0033】
<5.2>ネットの設置態様。
図4は、ネット20と、該ネット20と連結する控え材との関係を示した概略図である。
前記支柱10の貫通孔12を挿通してきた第二の山側控え材60の先端は、ネット20を構成する横ロープ22とループ状に連結されている状態である。
このとき、支柱10に連結してある各控え材(第一の山側控え材30,第一の谷側控え材40)は、ネット20と連結していない状態である。
よって、ネット20に連結する各控え材は、ネット20が受撃する衝突物の衝撃を吸収できる程度の強度を備えていなければならない。
【0034】
<5.3>衝突物の受撃時。
以上説明した構造によれば、衝突物がネット20に落下してきた場合には、ネット20にかかる衝撃力が支柱10に伝達することはほぼ無いため、支柱10の設計において、衝突物による衝撃力を考慮する必要が無い。
よって、支柱10のサイズダウンが可能となる。
なお、支柱10に直接衝突物が落下してきた場合には、支柱10が破損してしまう場合が考えられるが、支柱10に当たった衝突物は、続いてネット20によって捕獲されることとなるため、衝突物の防護の観点の上では問題とならない。
【0035】
また、支柱10の中間部分に第二の山側控え材60を複数設けておくと、衝突物の受撃時におけるネット20の変位量をより小さくすることができる。よって、衝撃吸収体の後方すぐに保全施設がある現場などにおいて有益である。
【0036】
<6>比較例。
同程度の衝撃吸収機能を備える、従来の落石防護柵と本発明の落石防護柵において、支柱のサイズの比較例を以下に示す。
[表1]
このように、本発明の落石防護柵に用いる支柱は、従来の落石防護柵に用いる支柱と比較して、1本あたり半分以下の重量とすることができた。