(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層の形成後に当該誘電体層と弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、前記誘電体層が形成された焼結体についての示差熱分析における100〜300℃での質量減少の当該分析前の質量に対する割合が0.02%以下となるように行うことを特徴とするコンデンサの陽極体の製造方法。
タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層の形成後に当該誘電体層とタングステン以外の弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、前記誘電体層の表層中におけるタングステン原子に対するタングステン以外の弁金属原子の原子数比が0.05〜0.35となるように行うことを特徴とするコンデンサ陽極体の製造方法。
タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層の形成後に当該誘電体層とタングステン以外の弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、前記誘電体層が形成された焼結体についての示差熱分析における100〜300℃での質量減少の当該分析前の質量に対する割合が0.02%以下となり、かつ前記誘電体層の表層中におけるタングステン原子に対するタングステン以外の弁金属原子の原子数比が0.05〜0.35となるように行うことを特徴とするコンデンサ陽極体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記タングステン粉の焼結体を陽極体とする電解コンデンサにおけるDC電圧に対する容量変化(バイアス電圧依存性)の低減されたタングステンコンデンサの陽極体を提供すること、及びその陽極体を用いた電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、タングステン粉を焼結して得られた焼結体(陽極体)を化成して表面に誘電体層を形成した電解コンデンサ用陽極体をチタンエトキシド溶液で処理したところ、コンデンサ特性のうちDC電圧に対する容量変化(バイアス電圧依存性)が低減することを見出し、また、チタンが誘電体層の表層中に残存していることを確認し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は下記のタングステンコンデンサの陽極体の製造方法、及び固体電解コンデンサの製造方法に関する。
[1]タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層の形成後に当該誘電体層と弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、前記誘電体層が形成された焼結体についての示差熱分析における100〜300℃での質量減少の当該分析前の質量に対する割合が0.02%以下となるように行うことを特徴とするコンデンサの陽極体の製造方法。
[2]前記弁金属のアルコキシド化合物がチタンのアルコキシド化合物またはタングステンのアルコキシド化合物である前項1に記載のコンデンサの陽極体の製造方法。
[3]タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層の形成後に当該誘電体層とタングステン以外の弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、前記誘電体層の表層中におけるタングステン原子に対するタングステン以外の弁金属原子の原子数比が0.05〜0.35となるように行うことを特徴とするコンデンサ陽極体の製造方法。
[4]タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層の形成後に当該誘電体層とタングステン以外の弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、前記誘電体層が形成された焼結体についての示差熱分析における100〜300℃での質量減少の当該分析前の質量に対する割合が0.02%以下となり、かつ前記誘電体層の表層中におけるタングステン原子に対するタングステン以外の弁金属原子の原子数比が0.05〜0.35となるように行うことを特徴とするコンデンサ陽極体の製造方法。
[5]前記タングステン以外の弁金属のアルコキシド化合物がチタンのアルコキシド化合物である前項3または4に記載のコンデンサの陽極体の製造方法。
[6]前項1〜5のいずれかに記載の陽極体の製造方法を用いる固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、タングステン焼結体を化成することにより酸化タングステン化合物からなる誘電体層を形成したコンデンサの陽極体の製造において、誘電体層を弁金属のアルコキシドで処理する陽極体の製造方法を提供するものである。
本発明の製造方法による陽極体を用いたコンデンサは、DCに対するコンデンサ容量の変動(バイアス電圧依存性)が低いため精密機器用の回路に好ましく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、タングステン焼結体の原料としてのタングステン粉(未加工のタングステン粉。以下、「一次粉」ということがある。)は、平均粒径の下限が約0.5μmまでのものが市販されている。タングステン粉は、粒径が小さいほど細孔の小さな焼結体(陽極)を作製できる。市販品よりもさらに粒径の小さいタングステン粉は、例えば、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で粉砕することによって、あるいはタングステン酸やハロゲン化タングステンを水素やナトリウム等の還元剤を使用し、条件を適宜選択して還元することによって得ることができる。
また、タングステン含有鉱物から直接または複数の工程を得て、条件を選択して還元することによっても得ることもできる。
【0009】
本発明では、原料となるタングステン粉は、造粒されたものであってもよい(以下、造粒されたタングステン粉を単に「造粒粉」ということがある。)。造粒粉は、流動性が良好で成形等の操作がしやすいので好ましい。
前述の造粒粉は、例えばニオブ粉について特開2003−213302号公報に開示されている方法と同様の方法により細孔分布を調整したものでもよい。
【0010】
造粒粉は、例えば一次粉に水等の液体や液状樹脂等の少なくとも1種を加えて適当な大きさの顆粒状とした後に、減圧下に加熱し、焼結して得ることもできる。取り扱い易い顆粒状の造粒粉は、減圧条件(例えば、水素等の非酸化性ガス雰囲気中、10kPa以下)や高温放置条件(例えば、1100〜2600℃,0.1〜100時間)を、例えば予備実験などにより適切に定めることで得ることができる。造粒後に顆粒同士の凝集がなければ、解砕の必要はない。
このような造粒粉は、ふるいで分級して粒径を揃えることができる。平均粒径が好ましくは50〜200μm、より好ましくは100〜200μmの範囲であれば、成形機のホッパーから金型にスムーズに流れるために好都合である。
【0011】
一次粉の平均一次粒子径を0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.3μmの範囲にしておくと、特にその造粒粉から作製した電解コンデンサの容量を大きくすることができ好ましい。
このような造粒粉を得る場合、例えば、前記一次粒子径を調整して、造粒粉の比表面積(BET法による)が、好ましくは0.2〜20m
2/g、より好ましくは1.5〜20m
2/gになるようにすると、電解コンデンサの容量をより大きくすることができ好ましい。
【0012】
本発明では、得られるコンデンサの漏れ電流特性等の改善のために、タングステン材料(一次粉、造粒粉及び焼結体を含む)に、後述するいくつかの不純物を含有させておいてもよい。
例えば、ケイ素含有量が特定の範囲となるよう表層中にケイ化タングステンとしたタングステン粉が好ましく用いられる。表層中にケイ化タングステンとしたタングステン粉は、例えばタングステン粉に0.05〜7質量%のケイ素粉を混合し、減圧下で加熱して1100〜2600℃で反応させることにより、あるいは水素気流中でタングステンを粉砕後、さらに、ケイ素粉を混合した後、減圧下で1100〜2600℃の温度にて加熱して反応させることにより調製することができる。
【0013】
タングステン粉としては、さらに、表層中に、窒化タングステン、炭化タングステン、及びホウ化タングステンから選択される少なくとも1つを有するものも好ましく用いられる。
【0014】
本発明においては、上記のタングステン粉を好ましくは8g/cm
3以上の密度の成形体に成形し、その成形体を好ましくは1480〜2600℃の温度で、好ましくは10分〜100時間加熱して焼結体を形成する(焼結工程)。
次いで、焼結体の表層を電解質水溶液中にて電解酸化(化成)する(化成工程)。この化成により、焼結体の表面(外表面と空孔部の内表面)に酸化タングステン(VI)つまり三酸化タングステン(WO
3)が形成され、これが誘電体被膜(誘電体層)となる。
【0015】
ところで、三酸化タングステン化合物には、WO
3の他に、WO
3に水和水が付いた水和化合物であるタングステン酸(例えば、H
2WO
4、H
4WO
5など)が存在する。三酸化タングステン(WO
3)は、工業的には、タングステン酸を大気中900〜1000Kで加熱分解することにより製造されている(粉体粉末冶金用語事典、312頁、日刊工業新聞社、2001年)。また、タングステン酸は、粉体が試薬としても市販されている。
【0016】
タングステンコンデンサの作製過程においては、金属のタングステン焼結体を陽極体として酸化剤水溶液を用いて化成を行っている。従って、化成の際に三酸化タングステン(WO
3)の水和化合物であるH
2WO
4、H
4WO
5などが生じていると考えられる。
【0017】
本発明者らは、誘電体層を形成したタングステン陽極体を、チタンエトキシドのエタノール溶液に漬け1時間置いたところ、すなわち、誘電体層とチタンのアルコキシド化合物とを接触させる処理を行ったところ、バイアス電圧3Vにおける容量はバイアス電圧0Vにおける容量とほぼ同じとなり、通常見られるようなバイアス依存性が見られないことが確認された。
チタンエトキシドを作用させると、誘電体被膜の表層に酸化チタン(IV)が生じていることも確認された。なお、ここで言う表層とは、後述のように、誘電体被膜(誘電体層)の表面から30nmの深さまでの領域である。また、チタンエトキシドで処理を行った陽極体について、後述する示差熱質量分析(TG−DTA)で加熱時の質量減少を調べたところ、水和水の脱離に相当する質量減少は確認できなかった。すなわち、化成後にチタンエトキシドを作用させることにより、誘電体層中に存在するタングステン酸から水和水が除去された三酸化タングステン(WO
3)となることによりコンデンサとしての特性が良くなっていると考えられる。また、チタンエトキシド処理を行うと水和水が脱離するが、大気下放置しても吸着水が付着することはあっても、再び水和水が入って特性を落とすことはない。
【0018】
なお、水和水が存在してバイアス電圧依存性を引き起こしている理由として、例えばタングステン酸からなる誘電体が水和水の存在により対称性に歪みを持っていて自発分極を示していることが考えられる。一方、水和水が除去された三酸化タングステンは対称性に歪みがなく、バイアス電圧依存性を示さないと考えられる。
【0019】
本発明の実施形態で使用されるチタンのアルコキシド化合物としては、特に限定はされないが、例えば、チタニウムテトラエトキシド(チタンエトキシド)、チタニウムテトライソプロポキシド(チタンイソプロポキシド)、チタニウムテトラブトキシド(チタンブトキシド)等が挙げられる。チタンエトキシド、チタンプロポキシドは室温で液体であり、陽極体を浸漬させて好適に作用させることができ、また適宜エタノールで希釈して用いることができることから、エトキシド及びプロポキシドが好ましい。
陽極体を浸漬させる前に予め無水エタノールに浸漬させておくとチタンアルコキシド化合物溶液がなじみやすく好ましい。
【0020】
チタンアルコキシド処理後、チタンは酸化物として誘電体被膜に留まる。三酸化タングステンの水和化合物はコンデンサ特性に与える影響が大きいが、チタン酸化物の量は微量であり、またチタンは弁金属であって、その酸化物のコンデンサ特性に与える影響は小さい。
【0021】
チタンアルコキシド溶液に浸漬させる際の温度はチタンアルコキシド化合物及び溶媒の融点以上沸点未満であればよい。扱いやすさの点から室温付近で作用させることが好ましく、また反応を加速させる点から50〜70℃程度に加熱して行うことができる。
処理時間は温度に応じて適宜調節することができる。短すぎると効果がないが、長すぎても効果は上乗せされない。
チタンアルコキシド処理後の陽極体は熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は100〜250℃が好ましく、160〜230℃がより好ましい。
【0022】
なお、上記の例では、チタンのアルコキシド化合物で処理を行う場合を挙げたが、本発明の実施形態で使用されるアルコキシド化合物はこれに限定されず、弁金属のアルコキシド化合物を用いることができる。ここで、弁金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、バナジウム、ジルコニウム、亜鉛、モリブデン、タングステン、ビスマス、アンチモン等が挙げられる。このうち、陽極体と同じ金属であるタングステンのアルコキシド化合物が好ましく、また、酸化物の誘電率が高く、扱い易いという点でチタンのアルコキシド化合物が好ましい。
【0023】
金属アルコキシド化合物は、その加水分解反応がゾル−ゲル法による金属酸化物の合成に利用されている。本発明の実施形態においても、このゾル−ゲル法による金属酸化物の合成反応と同様の反応が起こっていると考えられる。すなわち、誘電体層中の三酸化タングステンの水和化合物の水和水を金属アルコキシドが奪って加水分解し、加熱によりゾル−ゲル法と同様の反応を経由して、最終的に金属酸化物が生成して誘電体層に残留すると考えられる。ここで金属アルコキシドの金属が弁金属であれば、生成する金属酸化物は弁金属の酸化物となるため、コンデンサとしての特性を損なうことがない。また、生成する金属酸化物の誘電率が高いほど、三酸化タングステンの高い誘電率を損なうことがない。
【0024】
上記のように、タングステン陽極体の誘電体層と金属アルコキシド化合物を接触させる処理を行うことにより、誘電体層中の三酸化タングステンの水和化合物の水和水が除去される。この水和水の除去の程度は示差熱分析(TG−DTA)で評価することができる。ここで、金属アルコキシドで処理した陽極体の室温での質量をW
RTとし、TG−DTAで100℃に加熱したときの質量をW
100、300℃に加熱したときの質量をW
300とする。この場合、室温〜100℃での質量減少(W
RT−W
100)は吸着水の脱離量に相当し、100〜300℃での質量減少(W
100−W
300)は水和水の脱離量(誘電体層中に残存する水和水の量)に相当すると考えられる。従って、加熱前の質量に対する100〜300℃での質量減少の割合「(W
100−W
300)/W
RT」で誘電体層中における水和水の残存の程度を知ることができる。本発明の実施形態においては、金属アルコキシドで処理した陽極体の誘電体層について、この(W
100−W
300)/W
RTの値(質量減少率)が0.02%以下であることが必要である。この値が0.02%を超えると、容量のバイアス電圧依存性が大きくなる。
【0025】
また、金属アルコキシドの金属原子は最終的には誘電体層の表層に残る。ここで、誘電体層の表層において残留する金属アルコキシド由来の金属原子とタングステン原子の原子数比(金属の原子数/タングステンの原子数)は、後述のようにX線光電子分光分析(XPS)によって測定することができる。本発明の他の実施形態においては、この金属原子とタングステン原子の原子数比(金属の原子数/タングステンの原子数)が0.05〜0.35の範囲となるように金属アルコキシドによる処理を行う。この金属原子とタングステン原子の原子数比が0.05未満の場合には、容量のバイアス電圧依存性が大きくなる。
【0026】
さらに、本発明の別の実施形態においては、金属アルコキシドで処理した陽極体の誘電体層について、前記(W
100−W
300)/W
RTの値(質量減少率)が0.02%以下で、かつ前記誘電体層の表層に残留する金属アルコキシド由来の金属原子とタングステン原子の原子数比(金属の原子数/タングステンの原子数)が、0.05〜0.35の範囲となるように金属アルコキシドによる処理を行う。
【実施例】
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
陽極体の誘電体層から水和水が除去されたことの確認は、示差熱分析(TG−DTA)によりアルゴン雰囲気で陽極体を300℃まで加熱して行った。ここで、前述のように、室温から100℃における質量減少は吸着水の脱離量に相当し、100℃から300℃における質量減少がタングステン酸の水和水の脱離量に相当するとした。そして、加熱前の陽極体の質量に対する100〜300℃での質量減少の割合(質量減少率)を求めた。
【0028】
Ti/W比:
XPS分析装置(島津製作所AXIS−NOVA)を用いて陽極体誘電体層のXPSスペクトルを測定したところ、チタン(Тi)の殆どは4価であった。35eV付近のピークを6価のタングステンピークとして、460eV付近のピークを4価のチタンピークとしてピークの強度比から原子数比を算出した。また、誘電体層をアルゴンエッチングしながら分析することにより、チタンは造粒粉の粒子表面から30nmまでの範囲に存在することが分かった。アルゴンエッチングすると部分的に還元され、ピーク位置が変化した。エッチングなしの状態での検出深さは15nm程度であり、30nmの深さまで原子数比は変わらないものと仮定した。なお、Tiのピークは原子数が少ないため弱く、かつWのバックグラウンドに重なるため測定値には算出値±0.05の誤差がある。
【0029】
実施例1〜5、比較例1〜2:
体積平均粒子径0.65μmの市販タングステン粉を1400℃で30分、真空炉中に放置した後に室温に取り出して得た塊状物を解砕して、体積平均粒子径75μmの造粒粉を作製した。この粉を成形機を使用して直径0.29mmのタンタル線を植立させて成形し、さらに1470℃で20分真空炉中で焼結して、大きさ1.0×3.0×4.4mm(質量120mg、タンタル線は、1.0×3.0mmの面中央で内部に3.4mm侵入し、外部に6mm突出している)の焼結体を1000個作製した。3質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を化成液として、焼結体1個あたり初期電流密度2mA、電圧10V、温度50℃で5時間化成し、焼結体の表面(外表面と空孔部の内表面)に誘電体層を形成し、水洗、次いでエタノール洗浄し、化成済み焼結体を作製した。チタンエトキシドに無水エタノールを溶媒として加えて80体積%溶液を作製した。表1の実施例1〜5及び比較例1に記載した温度及び時間条件でアルゴン雰囲気下マグネティックスターラーで撹拌したチタンエトキシド溶液に化成済み焼結体を浸漬させた。チタンエトキシド溶液から取り出した後、アルゴン雰囲気下190℃で30分間乾燥させ、エタノール洗浄した。
各実施例及び比較例1で作製した化成済み焼結体(陽極体)、及びチタンエトキシド溶液への浸漬処理を行わなかった比較例2の化成済み焼結体(陽極体)について、50質量%の硫酸水溶液を電解液として、0V、2V、3Vの各バイアス電圧でコンデンサ容量を測定した。この測定結果(各例30個の平均値)を、TG−DTAにより調べた質量減少の有無、XPS測定から求めたTi/Wの原子数比(各例2個の平均値)と共に表1に示す。なお、表中の「TG−DTAでの質量減少」は、加熱前の質量に対する100〜300℃における質量減少分の割合(前述の(W
100−W
300)/W
RTの値)が0.02%以下の場合を「なし」と表記し、0.02%を超える場合を「あり」と表記している。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例6〜9、比較例3〜4:
実施例1で、市販のタングステン粉に平均粒径1μmの市販ケイ素粉を0.4質量%混合して1450℃で造粒粉を作製し、さらに、焼結温度を1540℃にした以外は実施例1と同様にして焼結を行った。また、実施例1で、4質量%の過硫酸カリウム水溶液を化成液として、焼結体1個あたり初期電流密度5mA、電圧15V、温度40℃とした以外は実施例1と同様にして化成を行った。続いて、実施例1で、チタンアルコキシドとしてチタンイソプロポキシドを用いた以外は実施例1と同様にして、表2の実施例6〜9及び比較例3、4に記載した処理条件でチタンアルコキシドによる処理を行った。その後、各バイアス電圧での容量を測定した。この測定結果(各例30個の平均値)を、TG−DTAにより調べた質量減少の有無、XPS測定から求めたTi/Wの原子数比(各例2個の平均値)と共に表2に示す。なお、表中の「TG−DTAでの質量減少」の表記については表1と同様である。
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2に示される通り、実施例の条件で処理を行った陽極体は、比較例の条件で処理を行った陽極体に比べてDCバイアス電圧をかけた場合の容量変化が小さく、良好な結果を示した。また、実施例の条件で処理を行った陽極体は、TG−DTAによる評価で水和水の脱離に相当する質量減少が見られず、チタンアルコキシドで処理することにより誘電体層中の水和水が除去されていることが分かる。さらに、誘電体層の表層中におけるタングステンに対するチタンの原子比Ti/Wの値が0.05〜0.35(0.05の誤差を考慮している)の場合にバイアス電圧依存性が小さい結果が得られた。
本発明は、タングステン粉の焼結体を形成する焼結工程、前記焼結体の表面に誘電体層を形成する化成工程、及び前記誘電体層を形成後に当該誘電体層と弁金属のアルコキシド化合物とを接触させる処理工程を有し、前記処理工程を、(A)前記誘電体層が形成された焼結体についての示差熱分析における100〜300℃での質量減少の当該分析前の質量に対する割合が0.02%以下となるように行うか、(B)前記誘電体層の表層中におけるタングステン原子に対するタングステン以外の弁金属原子の原子数比が0.05〜0.35となるように行うか、または(C)前記(A)及び(B)の要件を満たすように行うコンデンサ陽極体の製造方法を提供する。本発明によれば、タングステン粉の焼結体を陽極体とするコンデンサのバイアス電圧依存性を低減することができる。