特許第5779744号(P5779744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5779744-樹脂組成物およびその成形品 図000018
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779744
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20150827BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20150827BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20150827BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20150827BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
   C08L29/04 DZBP
   C08L67/02
   B32B27/30 102
   B32B27/36
   !C08L101/16
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-542286(P2013-542286)
(86)(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公表番号】特表2014-512413(P2014-512413A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2011056694
(87)【国際公開番号】WO2012124129
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2014年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紀人
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー,ラルス
(72)【発明者】
【氏名】スクピン,ガーブリエル
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−075866(JP,A)
【文献】 特開2002−210890(JP,A)
【文献】 特開2002−060497(JP,A)
【文献】 特開平06−091823(JP,A)
【文献】 特開平06−263954(JP,A)
【文献】 特表2007−533770(JP,A)
【文献】 特開2010−059418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08L 67/00− 67/08
C08L 101/16
B32B 27/30
B32B 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂(i)と、脂肪族−芳香族ポリエステル(ii)とを含有する樹脂組成物であって、
【化1】

〔式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。〕
該脂肪族−芳香族ポリエステル(ii)は、下記A)〜B)を必須成分として含有するポリエステルを含み、
A)下記で構成される酸成分
a1)炭素数2〜18のジカルボン酸またはそのエステル
a2)テレフタル酸またはジメチルテレフタレート
B)炭素数2〜12の直鎖状のアルカンジオール
脂肪族−芳香族ポリエステル(ii)に対するポリビニルアルコール系樹脂(i)の含有比率(i)/(ii)が、重量比で98/2〜50/50である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)中、R〜Rは水素原子を示し、Xは単結合を示す、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(i)に含有される前記一般式(1)で表される構造単位の含有量が1〜15mol%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(i)に含有される前記一般式(1)で表される構造単位の含有量が1〜15mol%である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物の溶融成形物を含む成形品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された層と、他の生分解性ポリマーから形成された層とを有する積層フィルム。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された層と、他の生分解性ポリマーから形成された層とを有する共押出フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を主体とする樹脂組成物であって、さらに詳しくは、透明性、ガスバリア性、および柔軟性に優れ、生分解性である溶融成形品が得られる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する。)系樹脂は、ガスバリア性、強靭性、透明性などに優れているため、各種物品の包装材料として好適である。
しかしながら、通常のPVA系樹脂は融点と分解温度が近接しているため、実質的に溶融成形は不可能であり、その成形法としては、水溶液とした後、これを流延・乾燥してフィルム化したり、各種基材表面に塗工・乾燥する方法を採用せざるをえず、この制約がPVA系樹脂を包装材用途に広範に展開する際の大きな障害となっていた。
【0003】
これに対し、近年、溶融成形が可能でガスバリア性に優れるPVA系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール成分を有するPVA系樹脂が提案された。(例えば、特許文献1参照。)
PVA系樹脂が高融点であり、ガスバリア性に優れるのは、分子構造が単純であるため結晶性が高いことと、結晶部および非晶部において、分子鎖が水酸基同士の水素結合によって強く拘束されていることによるものである。かかる特許文献1に記載のPVA系樹脂は、側鎖の立体障害によって結晶性が低下し、低融点化されるにもかかわらず、非晶部における側鎖水酸基による強い水素結合によって結晶性低下によるガスバリア性の低下が抑制されているものと推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−075866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
包装材料、特にフィルム、シート、および積層構造体を構成する層の材料には柔軟性が要求される。
しかしながら、PVA系樹脂は上述の通り結晶性の高さと非晶部の水素結合による拘束力の強さなどから、他の熱可塑性樹脂と比較して柔軟性に劣り、この点もPVA系樹脂の包装材料への展開の障害となっている。
【0006】
特許文献1に記載されたPVA系樹脂は、側鎖の導入によって柔軟性が若干向上しているものの、実用的にはまだまだ不充分であった。
例えば、かかるPVA系樹脂はガスバリア性に優れるものであるが、そのフィルムを繰り返し屈曲するとピンホールが生じ、それによってガスバリア性が一気に低下する場合があった。
【0007】
なお、剛直な樹脂に柔軟性を付与する方法として、可塑剤を配合する方法や、弾性率が低い樹脂を配合し、これを島成分とする海島構造のポリマーアロイとする方法が広く用いられている。
PVA系樹脂に対してもこれらの検討が行われているが、可塑剤を配合するとPVA系樹脂の結晶性が阻害されるためガスバリア性が低下し、海島構造型ポリマーアロイとする方法では、海成分と島成分の屈折率の差や界面の密着性不良により透明性が損なわれる傾向があるため、良好な特性を備えたものは未だ見出されていない。
【0008】
すなわち本発明は透明性、ガスバリア性、および柔軟性に優れる成形物を得ることが可能な樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表される構造単位を有するPVA系樹脂(i)と、脂肪族−芳香族ポリエステル(以下、AAPEと略記する。)(ii)を含有する樹脂組成物によって、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の態様を含む。
【0010】
[1]下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂(i)と、脂肪族−芳香族ポリエステル(ii)を含有する樹脂組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
〔式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。〕
【0013】
AAPE(ii)は、下記A)〜B)を必須成分とし、所望により下記C)〜D)から選択される1種以上の成分を含有するポリエステルを含み、
【0014】
A)下記で構成される酸成分
a1)40〜75mol%の少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体またはそれらの混合物
a2)25〜60mol%の少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体またはそれらの混合物
a3)0〜5mol%のスルホネート化合物
【0015】
B)少なくとも1種のC〜C12のアルカンジオールまたはそれらの混合物で構成されるジオール成分
【0016】
C)下記c1)〜c6)から選択される成分、又はこれらの混合物
c1)エーテル基を有し、下記式(I)で表される構造を有する少なくとも1種のジヒドロキシ化合物
【0017】
【化2】
【0018】
〔式中、nは2、3または4を示し、mは2〜250の整数を示す〕
【0019】
c2)下記式(II)で表される構造の少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸、
【0020】
【化3】
【0021】
〔式中、pは1〜1500の整数を示し、Gはフェニレン、o−ヒドロキシフェニレン、−(CH−(qは1〜5の整数を示す)、C(R)H−及び−C(R)HCH(Rはメチル基またはエチル基を示す)からなる群から選択されるラジカルを示す〕
【0022】
c3)少なくとも1種のアミノ−C〜C12アルカノール、少なくとも1種のアミノ−C〜C10シクロアルカノール、またはそれらの混合物、
c4)少なくとも1種のジアミノ−C〜Cアルカン、
【0023】
c5)下記式(III)で表される構造の少なくとも1種の2,2‘−ビスオキサゾリン、
【0024】
【化4】
【0025】
〔式中、Rは、単結合、(CHアルキレン基(z=2、3もしくは4)またはフェニレン基を示す〕
【0026】
c6)天然アミノ酸、4〜6個の炭素原子を有するジカルボン酸と4〜10個の炭素原子を有するジアミンの縮重合によって得られるポリアミド、下記式(IV)で表される化合物からなる群から選択される、少なくとも1種のアミノカルボン酸
【0027】
【化5】
【0028】
〔式中、sは1〜1500の整数を示し、Tはフェニレン、−(CH−(uは1〜12の整数を示す)、−C(R)H−及び−C(R)HCH(Rはメチル基またはエチル基を示す)からなる群から選択される基を示す〕
【0029】
D)下記d1)〜d3)から選択される成分、又はこれらの混合物
d1)エステル形成が可能な基を少なくとも3個有する化合物、
d2)ジまたはポリイソシアネート、
d3)ジまたはポリオキシド、
【0030】
該AAPE(ii)に対するポリビニルアルコール系樹脂(i)の含有比率(i)/(ii)が、重量比で98/2〜50/50である、
樹脂組成物。
【0031】
[2] 前記一般式(1)中、R〜Rは水素原子を示し、Xは単結合を示す、[1]記載の樹脂組成物。
[3] 前記ポリビニルアルコール系樹脂(i)に含有される前記一般式(1)で表される構造単位の含有量が1〜15mol%である、[1]記載の樹脂組成物。
[4] 前記ポリビニルアルコール系樹脂(i)に含有される前記一般式(1)で表される構造単位の含有量が1〜15mol%である、[2]記載の樹脂組成物。
【0032】
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物の溶融成形物を含む成形品。
[6] [1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された層と、他の生分解性ポリマーから形成された層とを有する積層フィルム。
[7] [1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された層と、他の生分解性ポリマーから形成された層とを有する共押出フィルム。
【0033】
本発明の樹脂組成物の溶融成形物を含む成形品は、PVA系樹脂が海成分、AAPEが島成分である海島構造を形成するが、特定構造のPVA系樹脂(i)と特定構造のAAPE(ii)を用いることによって、微細かつ均一な海島構造が得られたものと推測される。その結果、PVA系樹脂(i)のガスバリア性を阻害することなく、良好な柔軟性が得られた。
また、本発明の樹脂組成物による成形品は、海成分と島成分の界面状態が良好であると推測され、それが柔軟性に寄与するとともに、良好な透明性が得られた要因であるものと推測される。
【発明の効果】
【0034】
本発明の樹脂組成物の溶融成形物を含む成形品は透明性、ガスバリア性、および柔軟性に優れることから、各種物品の包装材料として好適であり、特にフィルム、シート、容器、あるいはこれらの積層構造体を構成する層の材料として有用である。
さらに、本発明で用いられるPVA系樹脂(i)、およびAAPE(ii)のいずれも生分解性であることから、これらを含有する本発明の樹脂組成物も生分解性である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1、比較例1及び比較例2における、生分解比率と時間の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、PVA系樹脂(i)と、AAPE(ii)を含有する樹脂組成物であって、該PVA系樹脂(i)が、一般式(1)で表される構造単位を有するPVA系樹脂(i)であり、該AAPE(ii)が、AAPE(ii)であることを特徴とする樹脂組成物である。
以下、各順に説明する。
【0038】
〔PVA系樹脂(i)〕
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(i)について説明する。
本発明の樹脂組成物に用いられるPVA系樹脂は、下記一般式(1)で示される構造単位を有するもので、一般式(1)におけるR、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示すものである。
【0039】
【化6】
【0040】
特に、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR〜R、及びR〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合であるものが最も好ましく、下記一般式(1’)で表わされる構造単位を有するPVA系樹脂が好適に用いられる。
【0041】
【化7】
【0042】
なお、かかる一般式(1)で表わされる構造単位中のR〜R、及びR〜Rは、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよく、その有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、かかる有機基は、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0043】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CHO)−、−(OCH−、−(CHO)CH−、−CO−、−COCO−、−CO(CHCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0044】
本発明で用いられるPVA系樹脂の製造法としては、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0045】
【化8】
【0046】
【化9】
【0047】
【化10】
【0048】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR、R、R、X、R、R、Rは、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R及びRはそれぞれ独立して水素原子またはR−CO−(式中、Rはアルキル基である)である。R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基である。
【0049】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、日本国特開2006−95825に説明されている方法を用いることができる。
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、(i)の方法において、一般式(2)で表わされる化合物として3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを用いることが好ましく、特に3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた際の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701、であり、これは(ii)の方法で用いられる一般式(3)で表される化合物であるビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4、と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0050】
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数は、Cx(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.003(65℃)であり、これはビニルエチレンカーボネートのCx(ビニルエチレンカーボネート)=0.005(65℃)や、(iii)の方法で用いられる一般式(4)で表される化合物である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランのCx(2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン)=0.023(65℃)と比較して、重合度が上がりにくくなったり、重合速度低下の原因となることがないことを示すものである。
【0051】
また、かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理や溶剤回収系に敢えて特別な装置や工程を設ける必要がなく、従来からの設備を利用出来るという点も、工業的に大きな利点である。
【0052】
なお、上記の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、WO00/24702、USP5,623,086、USP6,072,079などに記載されたエポキシブテン誘導体を経由する合成方法や、1,4−ブタンジオール製造工程の中間生成物である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウムなどの金属触媒を用いて異性化する反応によって製造することができる。
また、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。
【0053】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られたPVA系樹脂は、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分であると、側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存し、そのようなPVA系樹脂を溶融成形すると、かかる環状基によってPVA系樹脂が架橋し、ゲル状物などが発生する場合がある。
よって、かかる点からも、(i)の方法によって得られたPVA系樹脂が本発明においては好適に用いられる。
【0054】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)、(3)、(4)で示される化合物)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、などが共重合されていてもよい。
【0055】
本発明で用いられるPVA系樹脂(i)のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、80〜100モル%であり、好ましくは85〜99.9モル%、より好ましくは88〜99.5モル%、さらに好ましくは95〜99のものが好ましく用いられる。かかるケン化度が低すぎると、溶融成形時に溶融粘度が不安定になり、安定した成形が困難になったり、成形中に酢酸臭が発生し、それが成形品中に残存したり、得られた成形物のガスバリア性が不充分になる場合がある。
【0056】
また、PVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、200〜1800であり、好ましくは250〜1500、より好ましくは300〜1000、さらに好ましくは300〜500のものが好ましく用いられる。
かかる平均重合度が小さすぎると得られた成形物の機械的強度が不足する場合があり、逆に平均重合度が大きすぎると、流動性が不足して成形性が低下する場合があり、成形時せん断発熱が異常発生して樹脂が熱分解しやすくなる傾向がある。
【0057】
PVA系樹脂(i)に含まれる1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常、1〜15モル%であり、好ましくは2〜10モル%、より好ましくは3〜9モル%のものが好ましく用いられる。かかる含有量が低すぎると、融点が高くなり、熱分解温度に近くなるため、溶融成形時の熱分解による焦げやゲル、フィッシュアイができやすくなり、逆に高すぎると、金属密着性及び溶融粘度が高くなり、溶融成形時、流れ性が悪くなり、滞留等による熱劣化が生じやすくなる。
【0058】
なお、PVA系樹脂(i)中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0059】
さらに、溶融成形での安定な粘性挙動および積層構造における別の樹脂に対する優れた接着性は、PVA系樹脂(i)内の酢酸および酢酸のアルカリ金属塩の含量比を調節して、そのPVA系樹脂(i)の水溶液のpHが5.4〜6.4になるようにすることによって得ることができる。このような酢酸および酢酸のアルカリ金属塩は、PVA系樹脂(i)の製造におけるケン化工程で用いられるアルカリ金属水酸化物、およびその中和工程で用いられる酢酸に由来する。
【0060】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(i)は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよく、その場合は、上述のPVA系樹脂(i)以外の未変性PVA、あるいは各種変性PVA系樹脂との混合物でもよいが、混合物を用いる場合には、重合度、ケン化度、1,2−ジオール構造単位の含有量の平均値が上述の範囲内であることが好ましい。
【0061】
〔AAPE(ii)〕
次に、本発明において用いられるAAPE(ii)について説明する。
AAPE(ii)は、下記A)〜B)を必須成分とし、所望により下記C)〜D)から選択される1種以上の成分を含有するポリエステルを含み、
【0062】
A)下記で構成される酸成分
a1)40〜75mol%の少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体またはそれらの混合物
a2)25〜60mol%の少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体またはそれらの混合物
a3)0〜5mol%のスルホネート化合物
【0063】
B)少なくとも1種のC〜C12のアルカンジオールまたはそれらの混合物で構成されるジオール成分
【0064】
C)下記c1)〜c6)から選択される成分、又はこれらの混合物
c1)エーテル基を有し、下記式(I)で表される構造を有する少なくとも1種のジヒドロキシ化合物
【0065】
【化11】
【0066】
〔式中、nは2、3または4を示し、mは2〜250の整数を示す〕
【0067】
c2)下記式(II)で表される構造の少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸、
【0068】
【化12】
【0069】
〔式中、pは1〜1500の整数を示し、
Gはフェニレン、o−ヒドロキシフェニレン、−(CH−(qは1〜5の整数を示す)、C(R)H−及び−C(R)HCH(Rはメチル基またはエチル基を示す)からなる群から選択されるラジカルを示す〕
【0070】
c3)少なくとも1種のアミノ−C〜C12アルカノール、少なくとも1種のアミノ−C〜C10シクロアルカノール、またはそれらの混合物、
c4)少なくとも1種のジアミノ−C〜Cアルカン、
【0071】
c5)下記式(III)で表される構造の少なくとも1種の2,2‘−ビスオキサゾリン、
【0072】
【化13】
【0073】
〔式中、Rは、単結合、(CHアルキレン基(z=2、3もしくは4)またはフェニレン基を示す〕
【0074】
c6)天然アミノ酸、4〜6個の炭素原子を有するジカルボン酸と4〜10個の炭素原子を有するジアミンの縮重合によって得られるポリアミド、下記式(IV)で表される化合物からなる群から選択される、少なくとも1種のアミノカルボン酸
【0075】
【化14】
【0076】
〔式中、sは1〜1500の整数を示し、Tはフェニレン、−(CH−(uは1〜12の整数を示す)、−C(R)H−及び−C(R)HCH(Rはメチル基またはエチル基を示す)からなる群から選択される基を示す〕
【0077】
D)下記d1)〜d3)から選択される成分、又はこれらの混合物
d1)エステル形成が可能な基を少なくとも3個有する化合物、
d2)ジまたはポリイソシアネート、
d3)ジまたはポリオキシド、
【0078】
1つの好ましい実施形態におけるAAPEの酸成分Aは、a1を40〜70モル%、特に45〜65モル%、および、a2を30〜60モル%、特に35〜55モル%含む。
【0079】
脂肪酸および対応する誘導体a1として、これは一般には、2〜18個の炭素原子を有するもの、好ましくは4〜10個の炭素原子を有するものが考えられる。それらは分岐状であっても直鎖状であってもよい。しかし、原理的には、より多数の炭素原子、例えば、最大30個の炭素原子を有するジカルボン酸を用いることも可能である。
【0080】
適切な例は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、α−ケトグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、ジグリコール酸、オキザロ酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、イタコン酸、およびマレイン酸である。ジカルボン酸またはそれらのエステル形成誘導体は、個々に用いられてもよいし、またはそれらの2つ以上の混合物の形態で用いられてもよい。
【0081】
コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸もしくはそれらのそれぞれのエステル形成誘導体またはそれらの混合物を用いることが好ましい。特に好ましいのは、コハク酸、アジピン酸もしくはセバシン酸またはそれらのそれぞれのエステル形成誘導体またはそれらの混合物を用いることである。コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびブラシル酸はまた、それらが再生可能な原料として利用可能であるという利点を有する。
特に好ましいのは、アジピン酸または、そのアルキルエステルなどのそのエステル形成誘導体、もしくはそれらの混合物、または、セバシン酸、またはセバシン酸とアジピン酸との混合物を用いることである。
【0082】
芳香族ジカルボン酸またはそれらのエステル形成誘導体a2は、個々にまたはそれらのうち2つ以上の混合物の形態で用いられ得る。特に好ましいのは、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートなどのそのエステル形成誘導体を用いることである。
【0083】
一般には、ジオールBは、2〜12個の炭素原子、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する分枝状もしくは直鎖状のアルカンジオール類、または5〜10個の炭素原子を有するシクロアルカンジオール類から選択される。
【0084】
有用なアルカンジオール類の例は、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−2−エチレンヘキサン−1,3−ジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、特にエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール);シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、または2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールである。特に好ましいのは、成分a1)として特にアジピン酸と組み合わされた1,4−ブタンジオール、および成分a1)として特にセバシン酸と組わされた1,3−プロパンジオールである。1,3−プロパンジオールはさらに、再利用可能な原料として利用できるという利点を有する。異なるアルカンジオールの混合物もまた用いられてもよい。
【0085】
過剰の酸またはOH末端基が所望されるか否かに依存して、いずれかの成分である成分Bが通常は過剰に用いられる。好ましい実施形態では、用いられる成分のA:Bのモル比は、0.4:1〜1:1の範囲で、好ましくは0.6:1〜1:1の範囲であり得る。
【0086】
好ましいAAPEは、1000〜100000g/モルの範囲、特に9000〜75000g/モルの範囲、および好ましくは10000〜50000g/モルの範囲の分子量(Mn)、ならびに60〜170℃の範囲、および好ましくは80〜150℃の範囲の融点によって特徴づけられる。
【0087】
言及されるAAPEは、ヒドロキシルおよび/またはカルボキシル末端基を任意の所望の割合で有してもよい。言及される部分的に芳香族のポリエステルは、末端基修飾されてもよい。例えば、OH末端基が、フタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、または無水ピロメリット酸によって修飾された酸であってもよい。 AAPEは、本発明の目的のために、ポリエーテルエステル類、ポリエステルアミド類、またはポリエーテルエステルアミド類などのポリエステル誘導体類も含む。有用な部分的に芳香族のポリエステル類としては、直鎖状の非伸長鎖(non−chain−extended)ポリエステル類が挙げられる(WO92/09654)。チェーン・エクステンディッド(chain−extended)および/または分岐状の部分的に芳香族のポリエステル類が好ましい。後者は、各々が本明細書に明示的に援用される、上述の参照文献WO96/15173〜15176から公知である。異なる部分的に芳香族のポリエステル類の混合物は、同様に有用である。最近の興味深い開発は再利用可能な原料に基づくものである(WO−A2006/097353、WO−A2006/097354および欧州特許第08165372.7を参照のこと)。AAPEは、Ecoflex(登録商標)(BASF SE)およびOrigo−Bi(登録商標)(Novamont)のような特定の製品において有意義であると理解されるべきである。
【0088】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、上述のPVA系樹脂(i)と、上述のAAPE(ii)を含有するものである。
【0089】
本発明の樹脂組成物におけるPVA系樹脂(i)とAAPE(ii)の含有比率(i/ii)(重量比)は、通常、98/2〜50/50であり、好ましくは95/5〜60/40、より好ましくは80/20〜70/30の範囲が好ましく用いられる。本発明の樹脂組成物では、PVA系樹脂(i)が海成分であり、AAPE(ii)が島成分である海島構造が形成され、優れたガス障壁特性が、連続相である海成分によって得られ、かつ優れた曲げ亀裂耐性が、可撓性の島成分によって得られることができる。これによって、かかる含有比率が大きすぎると成形品としたときの充分な曲げ亀裂耐性が得られなくなる場合があり、逆に小さすぎるとガスバリア性が不充分となる傾向がある。
【0090】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の重合体を含有していてもよい。含有しうる重合体としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。特に、本発明の樹脂組成物はさらに、ポリ乳酸のような生分解性ポリマー、例えば、NatureWorks(登録商標)4020または4043D(NatureWorksのポリ乳酸)またはSynbraのポリ乳酸を含んでもよい;ポリヒドロキシアルカノエート類は主に、ポリ−4−ヒドロキシブチラート類およびポリ−3−ヒドロキシブチラート類であるが、さらに、上述のヒドロキシブチラート類と3−ヒドロキシバレレートまたは3−ヒドロキシヘキサノアートとのコポリエステル類を含む。ポリ−3−ヒドロキシブチラート−コ−4−ヒドロキシブチラート類は特に、Metabolix社製のものが知られている。それらは、Mirel(登録商標)の商品名で市販されている。ポリ−3−ヒドロキシブチラート−コ−3−ヒドロキシヘキサノアート類は、P&Gまたはカネカ社製のものが知られている。ポリ−3−ヒドロキシブチラート類は例えば、PHB IndustrialからBiocycle(登録商標)の商品名で、およびTiananからEnmat(登録商標)の名称で市販されている。ポリブチレンスクシナート(PBS)、ポリブチレンスクシナートアジパート(PBSA)、ポリブチレンスクシナートセバケート(PBSSe)、ポリブチレンセバケート(PBSe)または対応するポリエステルアミド類のような、脂肪族ポリエステル類は、脂肪族のジオールおよび脂肪族のジカルボン酸由来の単位を含んでいる。脂肪族ポリエステル類は、昭和高分子から、Bionolleの名称で、および三菱からGSP1aの名称で市販されている。さらに近年の開発は、WO2010/034711に記載されている。
【0091】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、補強剤、充填剤、可塑剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、他の熱可塑性樹脂などが含有されてもよい。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、通常の高分子物質の混合に用いられる方法、装置によって調製することができ、特に溶融混練による方法が好ましく用いられる。かかる溶融混練装置としては、混練機、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられ、特に連続的に処理することが可能で、混合効率に優れる押出機を用いる方法が好適である。
かかる押出機を用いて溶融混練し、本発明の樹脂組成物を得る条件としては、PVA系樹脂(i)の融点などに応じて適宜調節する必要があるが、通常、160〜230℃の範囲が採用される。
かかる混合によって得られた本発明の樹脂組成物は、成形材料として使用するために、通常はペレットや粉末などの形状とされる。中でも成形機への投入や、取扱い、微粉発生の問題が小さい点から、ペレット形状とすることが好ましい。
なお、かかるペレット形状への成形は公知の方法を用いることができるが、上述の押出機からストランド状に押出し、冷却後所定の長さに切断し、円柱状のペレットとする方法が効率的である。
【0093】
〔成形品〕
本発明の樹脂組成物は、成形性、特に溶融成形性に優れていることから、成形材料として有用である。溶融成形方法としては、押出成形、インフレーション成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、圧縮成形、カレンダー成形、など公知の成形法を用いることができる。
また、本発明の樹脂組成物から得られる成形品としては、フィルム、シート、パイプ、円板、リング、袋状物、ボトル状物、繊維状物など、多種多用の形状のものを挙げることができる。
【0094】
さらに、本発明の樹脂組成物からなる層と他の材料による層との積層構造体とすることも可能である。
特に、本発明の樹脂組成物はPVA系樹脂を主体とするものであり、低湿度条件下では優れたガスバリア性が得られるものの、吸湿によってその特性は大きく変化する場合があるため、水蒸気バリア性が高い素材を表面に配した積層構造体としての使用が望ましい。
【0095】
かかる水蒸気バリア性が高い素材としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩化ビニル系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂に代表される熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、金属、各種金属の蒸着フィルムなどを挙げることができ、その用途、所望される特性に応じて選択すればよい。
【0096】
かかる積層構造体においては、本発明の樹脂組成物を含む層と他の素材を含む層との間に、接着剤層を介在させてもよく、かかる接着剤層に用いられる接着剤としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体などのカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体等を挙げることができる。
【0097】
なお、かかる積層構造体を形成する方法としては、熱可塑性樹脂と積層する場合には、共押出、共射出などが可能であり、その他の方法としては、所望の形状や厚さなどに応じて、押出しコーティング、あるいは各層を予め形成しておき、それらを積層する方法など、各種方法を採用することができる。
【0098】
特に好ましいのは、1つの層が本発明による樹脂から形成され、かつ1つ以上のさらなる層が、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸AAPEなどの別の生分解性ポリマー、ポリブチレンスクシナート(PBS)、ポリブチレンスクシナートアジペート(PBSA)、ポリブチレンスクシナートセバケート(PBSSe)、ポリブチレンセバケート(PBSe)もしくは対応するポリエステルアミド類などの脂肪族ポリエステル類、またはこれらの生分解性ポリマー類の混合物から形成される、積層または共押し出しされた構造である。
本発明の樹脂組成物を含む成形品は、各種気体に対する優れたバリア性を有し、さらに優れた柔軟性、曲げ亀裂耐性を有しているので、これらの特性が要求される物品に使用することができる。かかる用途例としては、飲食品用包装材、容器、バッグインボックス用内袋、容器用パッキング、医療用輸液バッグ、有機液体用容器、有機液体輸送用パイプ、各種ガスの容器、チューブ、ホースなどが挙げられる。多層複合材は、例えば、飲料、野菜、果実、食肉、惣菜、コーヒー、茶、化粧品、医薬用の食品包装用として興味深い。
また、各種電気部品、自動車部品、工業用部品、レジャー用品、スポーツ用品、日用品、玩具、医療器具などに用いることも可能である。
【実施例】
【0099】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、本実施例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0100】
製造例1
〔PVA系樹脂(A1)の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0101】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶温を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニルに由来する構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに由来する構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするPVA系樹脂(i)を作製した。
【0102】
得られたPVA系樹脂(A1)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、98.9モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。
【0103】
製造例2
〔AAPE(B1)の製造〕
ポリエステルB1を調製するために、87.3kgのジメチルテレフタレート、80.3kgのアジピン酸、117kgの1,4−ブタンジオールおよび0.2kgのグリセロールを、0.028kgのテトラブチルオルトチタナート(TBOT)と混合し、アルコール成分と酸成分との間のモル比を1.30にした。この反応混合物を、180℃の温度まで加熱し、この温度で6時間反応させた。次いで、温度を240℃に上昇させ、過剰のジヒドロキシ化合物を3時間にわたって真空下で蒸留によって除去した。次に、0.9kgのヘキサメチレンジイソシアナートを1時間以内で240℃でゆっくり計量しながら供給した。
得られたポリエステルB1は、融点が119℃で、分子質量(Mn)は23000g/モルであった。
【0104】
実施例1
〔樹脂組成物の作製〕
製造例1で得られたPVA系樹脂(A1)80重量部と、製造例2で得られたAAPE(B1)20重量部をドライブレンドした後、これを二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出してペレタイザーでカットし、円柱形ペレットの樹脂組成物を得た。
直径(D)15mm
L/D=60
スクリュ回転数:200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=
120/150/180/195/200/200/210/210/210℃
スクリューパターン:3箇所混練スクリュー
スクリーンメッシュ:90/90mesh
吐出量:1.5kg/hr
【0105】
〔フィルムの作製〕
得られたペレットを、押出機にて下記条件で製膜し、厚さ約30μmの単層フィルムを作製し、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
直径(D)15mm、
L/D=60
スクリュ回転数 :200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=
150/180/190/195/200/210/210/210/210℃
吐出量:1.5kg/hr
スクリーンメッシュ:90/90mesh
ダイ:幅300mm、コートハンガータイプ
引取速度:2.6m/min
ローラー温度:50℃
エアーギャップ:1cm
【0106】
(酸素透過度)
得られたフィルムの23℃、65%RHでの酸素透過度を、酸素透過度試験機(MOCON社製「Oxtran2/20」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0107】
(柔軟性)
得られたフィルムを、ゲルボフレックステスター(理学工業社製)を用い、下記条件にて曲げ亀裂試験を行った。
試験環境:23℃、50%RH
曲げ亀裂条件:2.5インチ進んだ後、3.5インチ進みながら440°捻る
サイクル:40サイクル/分
曲げ亀裂回数:100回
試験後のフィルムの中央部から28cm×17cmの試料を切り出し、ピンホール数を数えた。かかるテストを5回試行し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0108】
(透明性)
得られたフィルムの内部ヘイズをヘイズメーター(日本電色工業社製「Haze Meter NDH2000」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0109】
(生分解性)
ISO14851に記載の生分解性評価方法に準じ、大阪市の下水処理場の活性汚泥を30mg/lの濃度で含む標準試験培養液300mL中に得られたフィルムを100mg/Lとなるように添加し、25±1℃で68日間培養し、生分解に消費された酸素量を閉鎖系酸素消費量測定装置(大倉電気社製「クーロンメーターOM3001A」)を用いて測定し、その値から生分解率を求めた。結果を図1に示す。また、60日後の生分解率を表1に示す。
【0110】
実施例2
実施例1において、PVA系樹脂(A1)の配合量を70重量部、AAPE(B1)の配合量を30重量部とした以外は実施例1と同様に樹脂組成物、フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0111】
比較例1
実施例1において、AAPE(B1)を配合しなかった以外は実施例1と同様に樹脂組成物、フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0112】
比較例2
実施例1において、PVA系樹脂(A1)とAAPE(B1)から製造された組成物に代えて、ポリ乳酸(ネイチャーワークス社製4032D)を用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物、フィルムを作製し、同様にその生分解性を評価した。結果を表1に示す。
【0113】
比較例3
実施例1において、AAPE(B1)に代えて、酸変性スチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(旭化成社製「タフテックM1913」)を用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物、フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
かかる結果から明らかなように、式(1)で表される構造単位を有するPVA系樹脂(i)に、AAPE(B1)を配合した実施例1、および2の樹脂組成物から得られたフィルムは、ガスバリア性および柔軟性、透明性に優れるものであった。
さらに、表1および図1の60日後の生分解性比の結果から明らかなように、実施例1のフィルムが水に不溶性のAAPEを含むのにもかかわらず、このフィルムは、水溶性でありかつ生分解性である比較例1のフィルムの場合にほぼ等しい、水中の生分解性を示す。他方では、水に不溶性であるポリ乳酸のみからできている比較例2のフィルムは、水の中で示す生分解性が劣っている。
一方、AAPE(B1)を配合しなかった比較例1のフィルムは、ガスバリア性、透明性は優れるものの、柔軟性が極めて乏しかった。
またAAPE(B1)に変えてPVA系樹脂の柔軟性改善剤として広く用いられているスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体を配合した比較例3のフィルムは、柔軟性は優れているものの、ガスバリア性と透明性の点で不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の樹脂組成物の溶融成形物を含む成形品は、透明性、ガスバリア性、および柔軟性に優れることから、各種物品の包装材料として用いることができ、特に食品や医薬品など、酸化による劣化を避けたい物品を包装するためのフィルム、シート、容器、積層構造体の構成層として、および高度なガスバリア性と柔軟性が求められる水素ガス用の容器、チューブ、ホースなどの材料として好適に用いることができる。
また、本発明の樹脂組成物は生分解性であることから、生分解性が求められる各種成形品の材料として、特にポリ乳酸などの生分解性樹脂との積層構造体とすることによって、完全生分解性でガスバリア性の優れる包装材料とすることが可能である。
図1