(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779750
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】血管新生療法用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20150827BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20150827BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20150827BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20150827BHJP
A61K 31/5585 20060101ALI20150827BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20150827BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20150827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K35/76
A61K37/24
A61K37/48
A61K31/5585
A61P9/00
A61P9/10
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-528658(P2011-528658)
(86)(22)【出願日】2010年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2010005321
(87)【国際公開番号】WO2011024480
(87)【国際公開日】20110303
【審査請求日】2013年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2009-200900(P2009-200900)
(32)【優先日】2009年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502100149
【氏名又は名称】福田 恵一
(73)【特許権者】
【識別番号】595110128
【氏名又は名称】田邉 忠
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】福田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】川上 崇史
(72)【発明者】
【氏名】田邉 忠
【審査官】
鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2002/000258(WO,A1)
【文献】
KAWAKAMI, T et al,Adeno-associated Virus-mediated Prostaglandin I2 Synthase (PGIS) Gene Transfer Improves a Limb Ischemia,Circ J,2009年 3月 1日,Vol.73, No.Supplement 1,p.592-593
【文献】
HIRAOKA,K. et al,Enhanced therapeutic angiogenesis by cotransfection of prostacyclin synthase gene or optimization of intramuscular injection of naked plasmid DNA,Circulation,2003年,Vol.108, No.21,p.2689-96
【文献】
KAWAKAMI,T. et al,AAV-PGIS gene transfer improves hypoxia-induced pulmonary hypertension in mice,Biochemical and biophysical research communications,2007年,Vol.363, No.3,p.656-61
【文献】
YAN,H. et al,Superior neovascularization and muscle regeneration in ischemic skeletal muscles following VEGF gene transfer by rAAV1 pseudotyped vectors,Biochem Biophys Res Commun,2005年,Vol.336, No.1,p.287-98
【文献】
HAUCK,B. et al,Characterization of tissue tropism determinants of adeno-associated virus type 1,J Virol,2003年,Vol.77, No.4,p.2768-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 35/76
A61K 38/22
A61K 38/43
A61K 31/5585
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させる作用を有する物質であるプロスタグランジンI2(PGI2)を合成するhPGISをコードするhPGIS遺伝子と、血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子とを導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)を有効成分として含有し、
上記hPGIS遺伝子よりコードされたhPGISより合成されるプロスタグランジンI2(PGI2)は、血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させ、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を誘導し、
上記hPGISより合成される上記プロスタグランジンI2(PGI2)により産生される血管内皮増殖因子(VEGF)と、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により誘導されて産生される血管内皮増殖因子(VEGF)との併用により末梢動脈の血管新生作用を増強する末梢動脈疾患の治療又は予防に用いられることを特徴とする血管新生療法用医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させる作用を有する物質であるプロスタグランジンI2(PGI2)を合成するhPGISをコードするhPGIS遺伝子を導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)と、
血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子を導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)と、
を有効成分として含有し、
上記hPGIS遺伝子よりコードされたhPGISより合成されるプロスタグランジンI2(PGI2)により血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させ、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を誘導し、
上記hPGISより合成される上記プロスタグランジンI2(PGI2)により産生される血管内皮増殖因子(VEGF)と、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により誘導されて産生される血管内皮増殖因子(VEGF)との併用により末梢動脈の血管新生作用を増強する末梢動脈疾患の治療又は予防に用いられることを特徴とする血管新生療法用医薬組成物。
【請求項3】
上記アデノ随伴ウイルス(AAV)は、タイプ(type)1又はタイプ(type)2であることを特徴とする請求項1又は2記載の血管新生療法用医薬組成物。
【請求項4】
上記アデノ随伴ウイルス(AAV)を含む医薬的に許容される担体を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の血管新生療法用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生療法に用いて有用な医薬組成物、血管新生作用を増強する増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
西欧化したライフスタイルと高齢化社会を背景に、経年的に、末梢動脈疾患(peripheral arterial disease; PAD)の患者の増加が著しい。このPADは、動脈硬化をベースとした疾患であり、年齢、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常等が危険因子となる。そして、アメリカ心臓協会の報告によると、PADを検出する非侵襲的検査の普及により、PADの有病率は50歳までは約2〜3%、75歳以上では約20%との報告がある。また、PADの患者の約40%は、無症状であるといわれている。
【0003】
現在、このPADの治療法として、抗血小板剤(anti-platelets)、血管拡張剤(vasodiator)、プロスタノイド(prostanoid)を中心とした薬物療法、血管内ステント治療、外科的バイパス術がある。しかし、薬物療法の効果は限定的であり、血管内ステント治療や外科的バイパス術は、重症例に対する第一選択治療であるが、治療適応外のケースも多い。このような従来の治療法に抵抗性を有するPADとして、重症下肢虚血(critical limb ischemia; CLI)がある。CLIは、慢性虚血性安静時疼痛や虚血性皮膚病変 (潰瘍、壊疽)を伴う状態と定義される。CLIの予後は悲観的であり、発症1年後に約25%が下肢を失い、約25%が死亡するといわれている。
【0004】
近年、臨床研究で、PADに対する血管新生療法として、細胞療法(cell therapy)や遺伝子治療(gene therapy)が多く試みられている。細胞療法には、骨髄単核球や末梢血単核球が用いられている。遺伝子治療には、組換え血管新生因子が用いられる。遺伝子治療に用いられる組換え血管新生因子としては、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)が用いられている。これらの血管新生因子は、血管増殖因子を虚血組織に発現させることにより、血管新生を増加させる。そして、この種の血管新生因子を用いることにより、心筋及び下肢虚血症の動物モデルにおける側副血行路の発達を促進及び/又は増進させ得ることが確認されている(Circulation 90,II−228−II−234(1994)。
【0005】
上述したような血管新生因子を用いて血管障害を治療する治療法を「血管新生療法」と称している。特に最近では、上述の如き血管新生因子の遺伝子を用いて、虚血性疾患や動脈疾患に対する血管新生療法の検討が積極的に進められている。
【0006】
そして、血管新生療法に用いられる医薬組成物として、国際公開第2002/000258号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1に記載される医薬組成物は、HGF遺伝子又はVEGF遺伝子とプロスタサイクリン合成酵素遺伝子とを有効成分として含有する血管新生療法用医薬組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2002/000258号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述したような血管新生因子を用いた治療法は、PADの全症例で有効ではなく、長期的な有効性や有害事象についても不明である。特に、増殖因子を用いた遺伝子治療については、腫瘍発生及び増大のリスクが否定できない。したがって、上述したような問題点を解決できる新規な治療法の開発が要望されている。
【0009】
PADの病態では、血管内皮が障害されており、血管拡張因子 (vasodilator) である酸化窒素(nitric oxide)、プロスタグランジン(prostaglandin)、内皮細胞依存性過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor;EDHF)、血管内皮増殖因子(VEGF)等が減少し、血管収縮因子 (vasoconstrictor) であるアンギオテンシン(angiotensin)−2、エンドセリン(endothelin)−1等が増加していることがわかっている。これらの血管因子は、PADの治療に有用である可能性が高い。実際、プロスタノイド(Prostanoid)は、PADや肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension) に対して臨床使用されている。
【0010】
そこで、本願発明者等は、これらの中で、血小板凝集阻害、血管拡張、血管新生作用を有するプロスタグランジン(Prostaglandin)I2の合成酵素であるプロスタサイクリン合成酵素(PGIS)に注目した。
【0011】
PGISは、実験的に肺高血圧症や頚動脈内皮傷害モデルで高い有効性が報告されている治療薬を生合成する遺伝子で、代謝産物であるPGI2は血小板凝集阻害、血管拡張作用、血管新生作用を誘導する作用を有している。遺伝子治療は、病変局所に長期間の遺伝子発現を起こすため、産生物質(products)による有害事象の発生が常に問題になる。臨床研究で用いられた増殖因子では腫瘍発生、進展等のリスクがあるが、これまでにPGI2治療薬による臨床例において腫瘍発生などの報告はなく、PGI2は血管拡張及び血管保護因子であるため、安全性は明らかに高い。同様に、安全に有効な遺伝子発現が比較的長期に得られるベクターとして、アデノ随伴ウイルス (adeno-associated virus;AAV)ベクターが最も適していると判断した。
【0012】
上述の重症下肢虚血の臨床研究にはプラスミドやアデノウイルス等が使用されているが、プラスミドでは強力かつ長期間の遺伝子発現を得ることは難しく、頻回の投与を必要とする。また、アデノウイルスは、強力な遺伝子発現が得られるが、効果は短期的で病原性が強く、安全面で懸念が残るベクターである。従来、ウイルスベクターは高い遺伝子導入効率を有するが、ヒトに対する病原性など、ヒトへの使用に際して議論されることが多い。しかし、AAVベクター、は筋細胞・神経細胞等の非分裂細胞に高い効率で長期間の遺伝子発現が達成でき、ヒトに対して非病原性であることから、注目されているベクターである。
【0013】
そこで、本願発明者等は、AAVをベクターとして用いて、プロスタグランジンI2(PGI2)を合成するヒトプロスタサイクリン合成酵素遺伝子(PGIS遺伝子)をマウスの骨格筋に遺伝子導入することによって、肺高血圧症マウスが改善した例を確認した。この実験の際、遺伝子導入を行ったマウスの局所骨格筋内に強力なPGIS遺伝子の発現が確認された。この実験から、PGIS遺伝子の導入は、下肢虚血治療において十分に期待できるとの知見を得た。
【0014】
また、一般的に遺伝子治療には、治療遺伝子の選択だけではなく、遺伝子導入に際して使用するベクターが、遺伝子導入効率、つまり、治療効果に大きく影響する。
【0015】
遺伝子治療で用いるベクターは、可能な限り、病変部での治療遺伝子の発現が高く、長期間持続することが望まれる。しかし、過去の遺伝子治療研究には、プラスミド (plasmid)や非ウイルス性ベクター(non viral vector)が多く使用されており、強力でしかも長期間に亘って治療遺伝子の発現を得るのが難しい。
【0016】
ところで、ウイルス性ベクターであるであるアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus;AAV)であれば、骨格筋細胞に強い親和性(tropism) を持つため、強力で長期間の治療遺伝子発現を達成することができる。このアデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒトの血友病 (hemophilia)、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)、パーキンソン病(Parkinson disease) の遺伝子治療にも使用され、高い安全性と有効性が証明されている。骨格筋に対して強力でしかも長期間の遺伝子発現効率を達成できるアデノ随伴ウイルスを用いることにより、治療遺伝子の長期発現が得られ、ヒトへの臨床応用の可能性が期待できる。
【0017】
本願の発明者等は、上述したような知見に基づいて、本発明を完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に先行する血管新生療法用医薬組成物は、血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させる作用を有する物質であるプロスタグランジンI
2(PGI
2)を
合成するヒトプロスタサイクリン合成酵素(hPGIS)をコードするhPGIS遺伝子を導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)を有効成分として含有し、
上記AAVに導入されたhPGIS遺伝子よりコードされたhPGISより合成されたプロスタグランジンI2(PGI2)により血管内皮増殖因子(VEGF)を産生し、この血管内皮増殖因子(VEGF)により末梢動脈の血管新生作用を増強する末梢動脈疾患の治療又は予防に用いられる血管新生療法用医薬組成物である。
【0019】
本発明は、少なくとも血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させる作用を有する物質であるプロスタグランジンI2(PGI2)を合成するhPGISをコードするhPGIS遺伝子と、血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子とを導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)を有効成分として含有し、上記hPGIS遺伝子よりコードされたhPGISより合成されるプロスタグランジンI2(PGI2)は、血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させ、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を誘導し、上記hPGISより合成される上記プロスタグランジンI2(PGI2)により産生される血管内皮増殖因子(VEGF)と、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により誘導されて産生される血管内皮増殖因子(VEGF)との併用により末梢動脈の血管新生作用を増強する末梢動脈疾患の治療又は予防に用いられることを特徴とする血管新生療法用医薬組成物である。
【0020】
また、本発明は、
少なくとも血管内皮増殖因子(VEGF)の産生させる作用を有する物質であるプロスタグランジンI
2(PGI
2)を
合成するhPGISをコードするhPGIS遺伝子を導入
したアデノ随伴ウイルス(AAV)と、
血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子
を導入
したアデノ随伴ウイルス(AAV)
と、を有効成分として含有
し、上記hPGIS遺伝子よりコードされたhPGISより合成されるプロスタグランジンI2(PGI2)により血管内皮増殖因子(VEGF)を産生させ、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を誘導し、
上記hPGISより合成される上記プロスタグランジンI2(PGI2)により産生される血管内皮増殖因子(VEGF)と、上記血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子により誘導されて産生される血管内皮増殖因子(VEGF)との併用により末梢動脈の血管新生作用を増強
する末梢動脈疾患の治療又は予防に用いられる血管新生療法用医薬組成物である。
【0021】
ここで、アデノ随伴ウイルスとして、タイプ(type)1又はタイプ(type)2を用いることが有効である。
【0022】
本発明に係る血管新生療法用医薬組成物は、ヒトプロスタサイクリン合成酵素遺伝子、又はヒトプロスタサイクリン合成酵素遺伝子と血管新生因子をコードする遺伝子を導入したアデノ随伴ウイルスを含む医薬的に許容される担体を有する。
【0023】
本発明に係る血管新生療法用医薬組成物に用いられる血管新生因子をコードする遺伝子は、新たな血管の形成を誘導し得るタンパク質、ポリペプチド、これらの一部分をコードする遺伝子のいずれかが用いられる。
【0024】
特に、血管新生因子をコードする遺伝子としては、血管内皮増殖因子遺伝子が望ましい。
【0025】
本発明は、上述したように、末梢動脈疾患の治療又は予防に用いられて有用な血管新生療法用医薬組成物であって、血管拡張作用及び/又は血小板凝集抑制作用を有する物質であるプロスタグランジンI2(PGI2)を生じさせるヒトプロスタサイクリン合成酵素(hPGIS)遺伝子を含有し、さらには血管新生因子をコードする遺伝子を含有したアデノ随伴ウイルス(AAV)を有する血管新生療法用医薬組成物を提供するものである。
【0026】
ここで血管新生療法において用いられる、アデノ随伴ウイル(AAV)に含有される「血管新生因子をコードする遺伝子」とは、hPGIS遺伝子と同様の血小板凝集阻害、血管拡張作用、血管新生作用のいずれかを誘導する作用を有し、新たな血管の形成を誘導し得るタンパク質、ポリペプチド、あるいはこれらの一部分をコードする遺伝子を含む。具体的には、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF−2、酸性FGF(aFGF)、塩基性FGF(bFGF)、FGF−4、EGF、TGF−α、TGF−β、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インシュリン様増殖因子、アンジオポエチン−1などをコードする遺伝子が挙げられる。また、VEGF等の遺伝子の発現を制御するHIF−1、あるいはets−1を含むetsファミリー等の転写因子をコードする遺伝子も挙げられる。好ましくはVEGF遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子は、公共のデータベースにその遺伝子配列が登録されており、当業者であれば、これらを利用することにより上記の遺伝子を容易にクローニングすることができる。
【0027】
以下、VEGF遺伝子を例に挙げて説明する。本発明において「VEGF遺伝子」とは、VEGFタンパクをコードする遺伝子を指す。また、このVEGF遺伝子を発現可能なように発現プラスミドに組み込んだものを、単に「VEGF遺伝子」と称する場合もある。具体的には、VEGFのcDNAを、発現ベクターとして後述するウイルスベクターに組み込んだものが例示される。VEGF遺伝子は、ヒトにおいては転写に際しての選択的スプライシングにより、4種類のサブタイプ(VEGF121、VEGF165、VEGF189、VEGF206)の存在が報告されている(Science,219,983(1983)、J.Clin.Invest., 84,1470(1989)、Biochem.Biophys.Res.Commun., 161,851(1989))。本発明においては、これらのいずれのVEGF遺伝子をも使用することが可能であるが、生物学的に最も活性が強いという観点から、VEGF165遺伝子がより好ましい。さらに、これらVEGFの遺伝子に対して改変等を施した遺伝子であっても、血管新生作用を有するタンパクをコードする遺伝子である限り、本発明のVEGF遺伝子の範疇に含まれる。
【0028】
このVEGF遺伝子は、文献(例えばScience,246,1306(1989))記載の配列及びデータベースに登録されている配列情報に基づき、当業者ならば容易にクローニングすることができ、またその改変等も容易に行うことができる。
【0029】
以上のようなVEGF遺伝子、あるいはこれらの改変体をコードする遺伝子が血管新生作用を有することは、例えばin vitroにおいては国際公開第97/07824号公報に記載の血管内皮細胞に対する増殖効果を調べることができる。
【0030】
以上のような血管新生因子をコードする遺伝子は、本発明の血管新生療法において単独で用いてもよいし、又は複数を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ここで、hPGISにより合成されるPGI2は、上述したように血管拡張作用や血管透過性亢進作用、血小板凝集抑制作用を有するものである。そして、このPGI2と血管新生因子をコードする遺伝子を併用することにより、一層顕著な併用効果が得られる。
【0032】
ところで、本発明においては、「血管拡張作用を有する物質」として、PGI2が用いられ、より好ましくはPGI2誘導体が用いられる。また「血小板凝集抑制作用を有する物質」としても、PGI2が用いられ、より好ましくはPGI2誘導体が用いられる。
【0033】
本発明において「血管拡張作用及び/又は血小板凝集抑制作用を有する物質を生じさせる物質」とは、血管拡張作用及び/又は血小板凝集抑制作用を有するPGI2を合成、産生若しくは誘導する物質を意味する。具体的には、プロスタグランジンを上昇させる物質を合成、産生若しくは誘導する物質を指す。当該物質は遺伝子、タンパク質、低分子化合物等の如何なる物質であってもよいが、PGI2を合成する合成酵素する物質としては、PGIS遺伝子が用いられる。PGIS遺伝子は、公共のデータベースにその遺伝子配列が登録されており、当業者であればこれらを利用することにより、容易にクローニングすることができる。
【0034】
以下、hPGIS遺伝子を例にとり説明する。本発明において「PGIS遺伝子」とは、PGISタンパクをコードする遺伝子を指す。なお、PGIS遺伝子を発現可能なように発現プラスミドに組み込んだものを、単に「PGIS遺伝子」と称する場合もある。具体的には、B.B.R.C,Vol.200,No.3,p1728−1734(1994)及び国際公開第95/30013号公報に記載のPGISのcDNAを適当な発現ベクターに組み込んだものが例示される。さらに、前記のVEGF遺伝子の場合と同様に、これらPGISの遺伝子に対して改変等を施した遺伝子であっても、PGISとしての作用を有するタンパクをコードする遺伝子である限り、本発明のPGIS遺伝子の範疇に含まれる。
【0035】
当該PGIS遺伝子もVEGF遺伝子と同様に、前記文献記載の配列及びデータベースに登録されている配列情報に基づき、当業者ならば容易にクローニングすることができ、またその改変等も容易に行うことができる。当該遺伝子によりコードされるタンパク質が所望のPGIS活性を有することは、例えば、6−keto Prostaglandin F1 α enzyme immunoassay kit(Cayman社製、カタログ番号#515211)を用いたエンザイムイムノアッセイ、又はプロスタサイクリン合成酵素の代謝産物を薄層クロマトグラフィー(TLC)により検出する方法などにより、測定することができる。
【0036】
以上のような血管拡張作用及び/又は血小板凝集抑制作用を有する物質であるPGI2、あるいはPGI2を生じさせる物質は、血管新生因子の遺伝子を用いた血管新生療法において、単独で用いてもよいし、又は複数を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
以下、本発明に係る血管新生療法用医薬組成物の導入方法、導入形態及び導入量等について記述する。
【0038】
1)血管拡張作用及び/又は血小板凝集抑制作用を有するPGI2、及び当該物質を生じさせるPGIS遺伝子と、血管新生因子をコードする遺伝子とを用いる場合血管新生因子をコードする遺伝子と、前述のPGIS遺伝子を併用する場合、すなわち2種類以上の遺伝子を併用する場合は、共に遺伝子治療剤の形態をとる必要がある。具体的には、VEGF遺伝子とPGIS遺伝子の組み合わせが挙げられる。
【0039】
当該遺伝子治療剤を患者に投与する場合、その投与形態としては、ウイルスベクターを用いる例が挙げられ、実験手引書などにその調製法、投与法が詳しく解説されている(別冊実験医学,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、別冊実験医学,遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。以下、具体的に説明する。
【0040】
ところで、本発明においては、アデノ随伴ウイルス(AAV)に目的とする遺伝子を導入し、この遺伝子を導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)をベクターとして標的細胞に組換えウイルスを感染させることにより、標的細胞内に遺伝子を導入することが可能である。ここでアデノ随伴ウイルス(AAV)としては、タイプ(typpe)1、2、5、8のいずれかを用いることができ、望ましくは、タイプ(type)1又はタイプ(type)2が用いられる。
【0041】
本発明において、目的の病変部位等の遺伝子導入部位への遺伝子の導入をするためアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いている。これは、アデノ随伴ウイルス(AAV)が、筋細胞、神経細胞、肝細胞などの非分裂細胞に効率よく遺伝子導入することができるためであり、そのような細胞を標的細胞とする場合には、遺伝子発現を長時間持続させることが可能であるためである。
【0042】
そして、本発明の遺伝子治療剤は、血管新生療法用医薬組成物を構成するものであり、アデノ随伴ウイルス(AAV)の中でも、筋細胞、神経細胞、肝細胞などの非分裂細胞に効率よく遺伝子導入することができるタイプ(type)1又はタイプ(type)2を用いることが望ましい。
【0043】
そして、本発明の遺伝子治療剤の患者への導入法としては、遺伝子治療剤を直接体内に導入するin vivo法、及び、ヒトからある種の細胞を取り出して体外で遺伝子治療剤を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,36(1),23−48,1994、実験医学増刊,12(15),1994、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック,エヌ・ティー・エス,1999)。本発明では、in vivo法が好ましい。in vivo法により投与する場合は、治療目的の疾患、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内などに投与するか、又は病変の認められる組織そのものに直接局所投与することができる。
【0044】
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の製剤形態、例えば、液剤等を採り得る。例えば、有効成分である遺伝子を含有する注射剤とされた場合、当該注射剤は常法により調製することができ、例えば適切な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水、滅菌水等)に溶解した後、必要に応じてフィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。当該注射剤には必要に応じて慣用の担体等を加えても良い。また、HVJ−リポソーム等のリポソームにおいては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などのリポソーム製剤の形態とすることができる。
【0045】
また、疾患部位の周囲に遺伝子を存在し易くするために、徐放性の製剤(ミニペレット製剤等)を調製し患部近くに埋め込むことも可能であり、あるいはオスモチックポンプなどを用いて患部に連続的に徐々に投与することも可能である。
【0046】
なお、製剤中の遺伝子の含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができるが、通常、各々の遺伝子として0.0001−100mg、好ましくは0.001−10mgであり、これを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。
【0047】
2)血管拡張作用及び/又は血小板凝集抑制作用を有するPGI2、及び当該物質を生じさせるPGIS遺伝子と、血管新生因子をコードする遺伝子とを用いる場合
【0048】
血管新生因子をコードする遺伝子と、低分子化合物やタンパク質、ペプチド等とを併用する場合、血管新生因子をコードする遺伝子については前述の遺伝子治療剤の形態とする。一方の低分子化合物等は、一般的な医薬組成物の形態とし、経口または非経口的に投与される。代表的な組み合わせとしては、VEGF遺伝子とPGI2誘導体の組み合わせなどが挙げられる。
【0049】
以下、前記低分子化合物やタンパク質等を有効成分とする医薬組成物につき説明する。
【0050】
前記低分子化合物やタンパク質のうち、既に血管拡張剤や血小板凝集抑制剤(抗血小板剤)として市販されているものであれば、その能書に従い投与方法や投与量等を設定することができるが、一般的には以下のような投与形態、投与方法が挙げられる。
【0051】
すなわち、経口的に投与する場合、通常当分野で用いられる投与形態で投与することができる。非経口的に投与する場合には、局所投与剤(経皮剤等)、直腸投与剤、注射剤、経鼻剤等の投与形態で投与することができる。
【0052】
経口剤又は直腸投与剤としては、例えばカプセル、錠剤、ピル、散剤、ドロップ、座剤、液剤等が挙げられる。注射剤としては、例えば無菌の溶液又は懸濁液、乳剤等が挙げられ、具体的には水、水−プロピレングリコール溶液、緩衝化液、0.4%の生理食塩水等が挙げられる。局所投与剤としては、例えばクリーム、軟膏、ローション、経皮剤等が挙げられる。
【0053】
以上の剤形は通常当分野で行われている手法により、薬学的に許容される賦形剤、添加剤と共に製剤化される。薬学的に許容される賦形剤、添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤、pH調節剤、張度調節剤、浸潤剤等が挙げられる。また、薬学的に許容される担体としては、例えば炭酸マグネシウム、ラクトース、ペクチン、澱粉、メチルセルロース等が挙げられる。
【0054】
このような医薬組成物は、治療目的の疾患、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内などに投与するか、又は病変の認められる組織そのものに直接局所投与することができる。また経口投与や坐薬としての投与も可能である。投与量、投与回数は症状、年齢、体重、投与形態等によって異なるが、通常は成人に対し1日あたり約0.0001〜約500mgの範囲、好ましくは約0.001〜約100mgの範囲を1回または数回に分けて投与することができる。
【0055】
以上のような低分子化合物やタンパク質を有効成分とする医薬組成物は、血管新生因子をコードする遺伝子を含有する遺伝子治療剤と同時に投与することもできれば、時間的間隔をおいて別々に投与することも可能である。
【発明の効果】
【0056】
以上、本発明の血管新生療法用医薬組成物につき述べたが、当該医薬組成物は、血管新生療法が必要とされる末梢動脈疾患の治療又は予防に有効に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の虚血肢の灌流状態をレーザー・ドップラー血流測定法と光学的カメラにより撮影した画像を示す。
【0058】
【
図2】
図2は、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の虚血肢を発症していない非虚血肢(右脚)と比較した虚血肢(左脚)の血流量灌流速度を定量解析(n=12)して示す図である。
【0059】
【
図3】
図3は、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の壊死の改善状況を比較して示す図である。
【0060】
【
図4】
図4は、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群において、定量的RT−PCR法とウエスタンブロット法による分析を用いたhPGISの発現状況を示す図であって、(A)は外部から骨格筋にhPGISを投与してPGISの発現状況を定量的RT−PCR分析(n=5)して示し、(B)はマウス体内の大腿筋肉にhPGISを投与してPGISの発現状況を定量的RT−PCR分析(n=)して示す図であり、(C)、(D)、(E)はマウスの大腿筋肉にVEGF,FLK−1,FLTをそれぞれ投与したときの発現状況を定量的RT−PCR分析(n=5)して示す図である。
【0061】
【
図5】
図5は、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群のウエスタンブロット法での分析結果を示す図である。
【0062】
【
図6】
図6は、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群のそれぞれにAAVtype1−hPGISベクターを投与したときの左大腿筋肉内のhPGISの発現状態を示す顕微鏡写真であって、Aは免疫組織科学的染色法により染色した状態を示す顕微鏡写真であり、Bは各群の左大腿筋肉内のフォン・ウィルブランド因子(vWF)を染色した状態の代表モデルを示す顕微鏡写真であり、CはvWFに関する免疫蛍光染色をした左大腿筋肉内の微笑血管密度の定量分析して示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0064】
プラスミドとアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターの構築【0065】
ヒトPGIS発現ベクターの構築法を簡単に述べると、全長ヒトPGISのcDNAの制限酵素HindIII/BamHI断片の平滑化したものを、pUC−CAGGS発現プラスミドのXhoIで消化し平滑化された部位に連結する。このpUC/PGIS構築物が生物学的に活性なPGIS蛋白質をコードしていることを確認するため、pUC/PGISベクターをNIH3T3細胞にトランスフェクトし、[14C]−PGH2の6−keto−[14C]−PGF1αへの変換を測定した。挿入のないpUC−CAGGSベクターを対照ベクターとして用いた。次に、ヒトPGIS遺伝子をAAV−CAGプラスミドに挿入し、AAV−hPGISベクターを構築した。また、対象実験のため高活性緑色蛍光蛋白質(enhancd green fluorescent protein;AAV−EGFP)を調製した。
【0066】
マウス後肢虚血モデル【0067】
週齢の雄BALB/cヌードマウス (日本CLEA製)又は雄C57/BL6(8週齢)を用意し、このヌードマウスをヂエチルエーテル麻酔下に置き、左後肢の中心部にある大腿動脈まで皮膚を切開した。大腿動脈を徐々に分離し、動脈の近位部を7−0絹結紮糸で結紮した。用いた動物実験方法及び計画書は、慶應義塾大学医学部の動物愛護と使用に関する委員会により調査承認されており、それらは実験動物の愛護と使用に関するNIHガイドラインに準拠している。
【0068】
実験【0069】
用意したマウスを、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の3群に分けた。ここで、AAV−hPGIS投与群には、左大腿筋にプロスタグランジンI2(PGI2)を生じさせるhPGIS遺伝子をタイプ1のアデノ随伴ウイルス(AAVtype1)に導入したアデノ随伴ウイルス(AAVtype1−hPGIS)ベクター(1.0×1011(v.g./body))を投与した。対照(CONTROL)群には、左大腿筋に媒介体(0.9%生理食塩水)を投与した。マイナス対照であるAAV−EGFP投与群には、左大腿筋にAAVtype1−EGFPベクター(1.0×1011)を投与した。遺伝子導入1週間後、 マウスの左大腿動脈を結紮し後肢虚血を作成した。結紮2週間後後肢壊死の発生を評価した。マウスの血液灌流率を、レーザー・ドップラー灌流イメージング(LDPI)・システムで測定した。上記マウスの左大腿筋は、摘出され以後の分析に用いられた。
【0070】
そして、ヒトPGIS mRNAの発現の持続性を調べるため、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の各群当たり4又は5匹のC57/BL6(8週齢)の左大腿筋へ、AAVtype1−hPGISベクター(1.0×1011 (v.g./body))を投与した。
【0071】
レーザー・ドップラー灌流解析【0072】
上述のAAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の3群の各マウスの後肢の左脚(L)を虚血させ、右脚(R)を正常とした上記マウスの後肢のレーザー・ドップラー灌流率を、レーザー・ドップラー灌流イメージング(LDPI)・システム(商品名:ムーアLDPI、米国・ムーア・インスツルメンツ社製)で測定した。この測定は、各群のマウスの虚血肢の灌流状態をLDPI・システムで撮影し行った。この結果を
図1に示す。
【0073】
なお、
図1には、各群のマウスの虚血肢の灌流状態を光学カメラで撮影した画像(Macro)をLDPI・システムで撮影した画像(LDP)に対応して示す。
【0074】
図1において、レーザー・ドップラー血流測定法により撮影した画像は、カラー画像であり、このカラー画像に対応して灌流状態を示す指標がカラーにより示されているを示す。この指標は、左側から右側に向かって濃紺から赤色に着色が変化する。指標の左側の着色(濃紺)で示される区間は、低又は皆無灌流の区間であり、右側の着色(赤から白の部分)で示される区間は、最高の灌流区間を示す。
【0075】
また、
図2において、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群における非虚血対照肢である右脚と比較した虚血肢である左脚の血液灌流速度の定量解析(n=12)を行った結果を示す。
【0076】
図2において、データは、平均値 ± SD. *P<.05; ns, 有意差無を意味する。
【0077】
定量RT−PCR【0078】
RNAの抽出と定量RT−PCRを実施した。定量RT−PCRは、TaqMan指標物質(Applied Biosystems)として、hPGIS(Hs00168766-ml),マウスPGIS(Mm00447271-ml),マウスVEGF(Mm01281449_ml),FLK−1(Mm0122219-ml),FLT−1(Mm00438971-ml))及び齧歯類GAPDHと比較して正規化し、mRNAレベルはGAPDH mRNAと比較して正規化した。その結果を
図4に示す。
図4において、データは、平均値 ± SD. *P<.05; ns, 有意差無を意味する。
【0079】
ウエスタン・プロット解析【0080】
骨格筋の膜分画は、氷冷した緩衝液中で大腿筋をホジナイズすることで調製した。免疫学的な検出は、ヒトを用いて膜画分抽出物について行った。その結果を
図5に示す。
【0081】
組織学的解析【0082】
試料は10%ホルマリンで固定され、パラフィンに包埋され、4μmの切片に切断された。切断された切片は、ヘマトリキシリンとエオシンで染色した。また、大腿筋は、抗hPGIS抗体で染色した。この染色結果を、
図6に示す。
図6から明らかなように、AAV−hPGISベクターを投与したAAV−hPGIS投与群では、導入筋でhPGIS mRNAが顕著に発現し血管新生に寄与した。
【0083】
なお、
図6において、(A)はAAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群のそれぞれにAAVtype1−hPGISベクターを投与したときの左大腿筋肉内のhPGISの発現状態を示す顕微鏡写真であって、Aは免疫組織科学的染色法により染色した状態を示す顕微鏡写真であり、(B)は各群の左大腿筋肉内のフォン・ウィルブランド因子(vWF)を染色した状態の代表モデルを示す顕微鏡写真であり、(C)はvWFに関する免疫蛍光染色をした左大腿筋肉内の微笑血管密度の定量分析した結果を示す図である。
図6の(C)のデータにおいて、±SD.*P<.05;ns,有意差無を意味する。
【0084】
微細血管の密度【0085】
動物は麻酔下に殺され、灌流固定を4%パラホルムアルデヒドで行われた。大腿筋は摘出され、OTC混合物に埋包された。凍結切片(7μm)が、組織試料から切り出された。血管内皮細胞の免疫蛍光染色は、抗von Willebrand因子(vWF)抗体(DAKO)を用いて行われた。核は、TOTO−3(Molecular Probes)で染色された。微細血管の密度の密度は、vWF陽性細胞の数から計算された。全ての共焦点検鏡は、LSM510 META(Carl Zeiss, Jena, Germany)で行われた。毛細血管密度は、イメージ J ソフトウェアによって測定された毛細血管の全面積の骨格筋の全面積に対する割合である。各マウスのデータは、30連続切片から計算された。
【0086】
統計解析【0087】
全てのデータは、平均値±標準偏差値で表されている。統計学的有意性は、非対Student t testを使って評価された。3群以上の比較は、分散分析により行った。P<.05が有意とみなした。
【0088】
[実験結果]
【0089】
AAVtype1−hPGISベクター投与後の発現持続
【0090】
本願発明者等は、8週齢のコントロールマウス(C57/BL6)を用いてAAVtype1−hPGISベクターの効果持続期間を調べた。マウスの左大腿筋へAAVtype1−hPGISベクターを投与し、解析には、ベクター投与前、投与2週間後、4週間後、8週間後、12週間後の左大腿筋を使用した。結果、定量的RT−PCRにて、投与2週間後よりヒトPGIS mRNAの強い発現を認め、12週間後においても強力な発現が持続していた。その結果を表1に示す。
【0091】
表1に示す結果からも明らかなように、骨格筋へのAAAVtype1−hPGISの投与が骨格筋内に強力かつ長期間のmRNAの発現を示すことがわかった。また、この長期間のmRNAの発現は単回の筋肉内投与で達成された。
【0092】
【表1】
【0093】
下肢虚血の改善【0094】
本願の発明者等は、下肢虚血マウスを治療する目的で、患側の左大腿筋へAAVtype1−hPGISを投与し、下肢虚血処置2週間後に改善の程度を検討した。検討に際して、下肢虚血の重症度を足壊死、指壊死、無壊死の3段階に区分した。その結果、
図3に示すように、コントロール群は63%、AAVtype1−EGFPを投与したAAV−EGFP投与群は69%に足壊死又は指壊死が認められた。しかし、AAVtype1−hPGISを投与したAAV−hPGIS投与群の壊死の割合は19%と有意に低下改善していた。また、最重症である足壊死の頻度も、AAVtype1−hPGIS投与群が3群間で最も低かった。これらより、AAVtype1−hPGISの筋肉内投与が下肢虚血に対して有効であることが示された。
【0095】
レーザー・ドップラー血液灌流解析【0096】
レーザー・ドップラー血液灌流(Laser Doppler Blood perfusion;LDP)法を用いて、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の3群間の下肢筋組織の血流を経皮的に解析した。LDPにおいて、コントロール群、AAV−hPGIS投与群は、
図1に示すように、AAVtype1−EGFP投与群と比較して、病側の左下肢筋組織の血流低下が認められた。また、LDPの定量解析(血液灌流率)では、コントロール群、AAV−EGFP投与群、AAV−hPGIS投与群は、健側である右下肢組織血流と比較して、それぞれ73%、54%、118%であった(
図2参照)。このLDPの所見より、AAV−hPGIS投与が血流を改善したと見られる。
【0097】
虚血筋肉内のmRNA分析【0098】
QT−PCRを用いて、下肢虚血組織のmRNA発現を解析した。コントロール群、AAV−EGFP投与群と比較して、AAV−hPGIS投与群では著しく有意なヒトPGIS遺伝子の発現を認めた(
図4のA参照)。また、内因性のマウスPGIS遺伝子の発現は、3群間で有意差を認めなかった(
図4のB参照)。また、下肢虚血組織の血管新生について検討するため、3群間のマウスVEGF、マウスFLK−1、マウスFLT−1のmRNA発現について解析した。結果、マウスVEGFは、AAV−hPGISで他の2群より2倍程度発現し有意であった(
図4のC参照)。しかし、マウスFLK−1、マウスFLT−1のmRNA発現は、AAV−hPGIS投与群が他の2群と比べて増加傾向であったが、統計学的な有意差を見出せなかった(
図4のD、E参照)。以上より、mRNAレベルで骨格筋内に強力なhPGIS遺伝子の発現を確認することができた。また、骨格筋内のVEGF遺伝子のmRNA発現も増加していた。
【0099】
虚血筋肉内のウエスタンブロット解析【0100】
さらに、ウエスタンブロットを用いて、下肢虚血組織内の蛋白質レベルの遺伝子発現を検討した。ウエスタンブロットによりAAV−hPGIS投与群でhPGIS蛋白質が発現していることが確認できた(
図5参照)。
【0101】
骨格筋内のhPGISの発現【0102】
さらにまた、AAV−hPGISの投与部位である骨格筋の組織学的検討を行った。抗ヒトPGIS抗体の免疫染色において、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群と比べて、AAV−hPGIS投与群の筋細胞に著明なhPGIS遺伝子の発現を認めた(
図6参照)。また、AAV−hPGIS投与群、対照(CONTROL)群、AAV−EGFP投与群の3群間で炎症細胞浸潤等の明らかな免疫学的変化は認められなかった。
【0103】
骨格筋内の血管新生【0104】
さらに、筋細胞レベルの改善を検討するために、骨格筋を抗vWF抗体で免疫染色した。共焦点顕微鏡では、コントロール群、AAV−EGFP投与群と比較して、AAV−hPGIS投与群でvWF陽性細胞の増加が観察された(
図6、A及びB参照)。そこで、Image Jを用いて、vWF陽性範囲を定量的に解析した。結果、AAV−hPGIS投与群では、コントロール群、AAV−EGFP投与群の約6.5倍であり、統計学的に有意な増加であった(
図6のC参照)。なお、骨格筋のEVG染色も行ったが、3群間で有意な変化は見られなかった。
【0105】
以上より、AAV−hPGISを投与した虚血骨格筋には、毛細血管レベルでの血管新生が起こり、これが虚血傷害を軽減していることが分かった。
【0106】
以上より、下肢虚血マウスに対してAAVtype1をベクターとするヒトPGIS遺伝子を虚血骨格筋内へ遺伝子導入することによって、下肢虚血の改善を得ることができた。AAVには多くの血清型(serotype)が存在するが、AAVtype1は骨格筋内で最も強力かつ長期間の遺伝子発現を呈する。本願発明者等は、AAVtype1−ヒトPGIS(AAV−PGIS)がin vitro及びin vivoのコントロール実験で強力かつ長期間の遺伝子導入効率を示すことを報告している。加えてAAVtype1の遺伝子発現範囲は遺伝子導入された局所のみであり、遠隔臓器には発現しない。この特徴は遠隔臓器への副作用(side effect)を減少させるものであり、他臓器の動脈硬化性疾患を合併することが多い重症下肢虚血患者の治療に有効である。
【0107】
上述の実験から明らかなように、AAV−hPGIS投与群は、非投与群と比べて、壊死の頻度が著しく低下し、最重症である足壊死の頻度もこのAAV−hPGIS投与群が最も低かった。また、LDPによる定量解析において、AAV−hPGIS投与群は、非投与群と比べて、統計学的に有意な血流増加を表した。LDP imageでは、全群において、大腿動脈の結紮による大腿動脈の血流途絶、すなわち、本管の閉塞が確認できたため、側副血行路(collateral vessels)の発達が血流改善に寄与したとみられる。
【0108】
次に、AAV−hPGISの導入部位である骨格筋について検討した。骨格筋内のPGIS遺伝子発現についてQT−PCRで解析したところ、AAV−hPGIS投与群の骨格筋では、外因性のPGISの著明な遺伝子発現が認められ、コントロール群の1万倍程度であった。また、骨格筋内のVEGF発現もAAV−hPGIS投与群ではコントロール群の2倍程度の発現の増強が認められた。この結果は、hPGISにより、VEGFが誘導されたためとみられる。また、hPGISによる免疫染色では、AAV−hPGIS治療群の筋細胞内に著明な発現が認められた。そして、ウィルスベクター投与による筋細胞の炎症性変化や腫瘍形成は、全く認められなかった。これは、AAV−hPGISの安全性を証明する所見であり、特にAAVは、ウィルスベクターの中でも、最も免疫原性が低いことを示している。
【0109】
さらに、本願発明者等は、組織学的に血管新生の有無について、骨格筋をvWFで免疫染色した。AAV−hPGIS投与群では、毛細管(capillary)レベルで顕著な血管新生を確認することができた。なお、骨格筋のEVG染色も行ったところ、全群で有意な変化は見られなかったため、AAV−hPGIS投与群の骨格筋内には、毛細血管レベルでの血管新生が起こっていると見られる。
【0110】
以上より、AAVtype1−hPGISの骨格筋内への遺伝子導入が、骨格筋細胞内に著明なヒトPGIS遺伝子発現を起こさせ、この遺伝子発現を介して筋細胞から産生・分泌されたPGI2が、血管保護作用、血管新生誘導作用等を起こし、下肢虚血を改善させた。そして、以上の効果が単回投与で達成することができた。従来の臨床及び基礎研究の報告では、プラスミド、非ウィルスベクター等の長期間発現することができないベクターが使用されていたため、強力かつ持続的な遺伝子発現を維持することができなかった。また、複数回の投与を必要とした。実際にヒトに対して使用する際には、動物実験より多くの遺伝子発現が必要になる。AAVベクターのようなな長期間、強力な遺伝子発現が達成でき、かつ、安全性が高いウィルスベクターはヒトへの臨床応用に理想的なベクターであるといえる。