【課題を解決するための手段】
【0009】
微粒状無機材料と熱硬化性樹脂の凝結体からなる成形体の機械的強度は、成形体を構成する成分の物理的特性や、微粒状無機材料と凝結体の接着構造に支配されると考えられる。つまり、無機材料自身の強度、熱硬化性樹脂またはその凝結体自身の強度および無機材料と凝結体との接着面の剥離強度に依存することになる。
そして、無機材料と凝結体との接着面の剥離強度については、凝結体が無機材料粉粒の表面に存在する凸凹の細部にまで浸透及び付着して無機材料の粉粒相互を結合しているか否か、粉粒と凝結体との接着層の界面に働く二次結合(ファン・デル・ワールス力)が大きいか否かに支配される。
【0010】
無機材料と凝結体との接着面の剥離強度を高めるには、無機材料の表面に凝結体となる樹脂を浸透及び付着させるようにすればよい。そして、親水性の無機材料の表面に親油性の樹脂の組成成分を浸透及び付着させるには、界面活性剤を用いて両者の親和性を高めればよい。
しかしながら、単に界面活性剤を用いただけでは、樹脂のもつ粘弾性のために、無機材料粉粒の表面に存在する凸凹の細部にまで、樹脂を十分に浸透及び付着させることができない。
そこで、本発明者は、比較的浸透力がある単量体の状態から無機材料の表面に樹脂を浸透及び付着させ、その状態でゲル化させて凝結体にしたので、微粒状の無機材料の表面に存在する凸凹の細部にまで浸透及び付着した凝結体の被膜を得ることができる。これにより、凝結体被膜のアンカー効果により、凝結体と無機材料との接着面の剥離強度を高めることができる。
本発明は係る知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0011】
(1)本発明に係る成形体は、非可塑材料としての微粒状無機材料を熱硬化性樹脂からなる凝結体によって結合してなる成形体であって、前記凝結体は、熱硬化性樹脂の組成成分である単量体及びオリゴマーを前記微粒状無機材料の表面に浸透及び付着させた状態でゲル化させたものであることを特徴とするものである。
凝結体は、熱硬化性樹脂の組成成分である単量体及びオリゴマーを前記微粒状無機材料の表面に浸透及び付着させることで、単量体及びオリゴマーが微粒状無機材料の表面に存ずる凸凹の細部まで浸透及び付着し、その状態でゲル化することでアンカー効果を発揮し、微粒状無機材料を強固に結合し、成形体としての強度を高めている。
ここでいうオリゴマーとは、2〜50個の繰り返し単位を有する分子である。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記微粒状無機材料の平均粒子径が500μm以下であることを特徴とするものである。
微粒状無機材料の平均粒子径を500μm以下に設定することにより、微粒状無機材料と凝結体としての熱硬化性樹脂との比率を維持しながら、微粒状無機材料の粒子相互の結合に必要な表面積を確保することができる。また、成形過程において微粒状無機材料が圧潰されてさらに微細な粒子になっても、細部まで浸透及び付着した凝結体の割合を高くすることができる。
【0013】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記熱硬化性樹脂は炭化率が45〜55%であり、前記微粒状無機材料と該熱硬化性樹脂との質量比率が90:10〜50:50の範囲にあることを特徴とするものである。
微粒状無機材料と熱硬化性樹脂との質量比率が90:10〜50:50の範囲にすることにより、成形体の表面を平滑にできると共に、成形材料の流動性を確保でき、残留応力を小さくすることができる。
【0014】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記微粒状無機材料が黒鉛粉粒であり、前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とするものである。
微粒状無機材料が黒鉛粉粒であることにより、成形体に電磁誘導性能を付与することができる。また、熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることにより、成形体を焼成した場合において、樹脂の炭化率が約50%となり、黒鉛と類似する性質を示すことになる。したがって、黒鉛単独でできた電磁誘導加熱器と同程度の性能を発揮することができる。また、フェノール樹脂は、黒鉛粉粒との接着層の界面に大きな二次結合を形成することができる。
【0015】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、前記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0016】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記レゾール型フェノール樹脂が感圧熱自硬化性を有することを特徴とするものである。
感圧熱自硬化性とは、分子中にメチロール基を含有し、加熱だけでは流動性を示さないが、圧力を加えると熱融着し硬化する特性を持つものであり、レゾール型フェノール樹脂が感圧熱自硬化性を有するので、トランスファー成形などの熱プレス成形することにより、容易に一体成形が可能な高い機械的強度を有する成形体を得ることができる。
【0017】
(7)本発明に係る焼成体は、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の成形体を焼成してなることを特徴とするものである。
【0018】
(8)また、上記(7)に記載のものにおいて、前記焼成は前記成形体を真空または不活性ガスの雰囲気中において800℃〜2000℃の温度範囲で行ったものであることを特徴とするものである。
【0019】
(9)本発明に係る成形体の製造方法は、熱硬化性樹脂の反応成分、反応触媒、乳化分散剤および水を含む液体を撹拌しながら微粒状無機材料を投入して所定時間反応させる工程と、過剰な乳化分散剤を水洗除去したあと反応により生成した固形分を取り出し乾燥して成形材料を調製する工程と、当該成形材料を型成形機の金型に入れて成形する工程と、金型に入れた後所定時間保温保圧したあと成形体を取り出す工程とを備えたことを特徴とするものである。
本発明においては、熱硬化性樹脂の付加縮合過程で、微粒状無機材料を投入するようにしたので、樹脂の組成成分が無機材料粉粒の表面の凸凹に浸透及び付着した状態で付加縮合させることができ、黒鉛と高分子の樹脂との密着性を高めることができる。
【0020】
(10)また、上記(9)に記載のものにおいて、型成形機はトランスファー成形機であり、成形材料を金型に入れて成形する工程は、成形材料をトランスファー成形機のポットに入れて、加熱加圧により溶融した成形材料を金型キャビティに注入するものであることを特徴とするものである。
本発明では、上記のように調製された成形材料をトランスファー成形法で成形するようにしたので、成形材料を融解して流動性を高めて金型のすみずみまで成形材料を充填することができ、充填時の気孔の発生を防止できる。また、充填後所定時間保温保圧したので、硬化反応を促進することができる。
【0021】
(11)また、上記(9)又は(10)に記載のものにおいて、前記微粒状無機材料の平均粒子径が500μm以下であることを特徴とするものである。
微粒状無機材料の平均粒子径が500μm以下であるので、微粒状無機材料と凝結体としての熱硬化性樹脂との比率を維持しながら、微粒状無機材料の粒子相互の結合に必要な表面積を確保することができる。また、成形過程において微粒状無機材料が圧潰されてさらに微細な粒子になっても、細部まで浸透及び付着した凝結体の割合を高くすることができる。なお、微粒状無機材料の平均粒子径を100μm以下にすれば、細部まで浸透及び付着した凝結体の割合を更に高くすることができる。
また、微粒状無機材料として、黒鉛を用いる場合には、市販の黒鉛粉粒を用いることができ、粉粒径は大きく粉塵災害を防止することができる。
【0022】
(12)また、上記(9)乃至(11)のいずれかに記載のものにおいて、前記熱硬化性樹脂は炭化率が45〜55%であり、微粒状無機材料と熱硬化性樹脂との質量比率が90:10〜50:50の範囲にあることを特徴とするものである。
炭化率が45〜55%の微粒状無機材料と熱硬化性樹脂との質量比率が90:10〜50:50の範囲にあるので、流動性がよく、焼成後の残留応力を減少させることができる。
【0023】
(13)また、上記(9)乃至(12)のいずれかに記載のものにおいて、前記微粒状無機材料が黒鉛粉粒であり、前記熱硬化性樹脂の反応成分がフェノール類およびアルデヒド類であることを特徴とするものである。
熱硬化性樹脂の反応成分としてフェノール類およびアルデヒド類を用いたので、凝結体の炭化率が高く、焼成炭化後の機械的強度を高めることができる。
【0024】
本発明に用いられるフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。具体的にはフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、スチレン化フェノール、炭素数2〜9のアルキル基で置換されたアルキルフェノール、p−フェニルフェノール、キシレノール、レゾルシノール、カテコール、ピロガロール、更には塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノール等公知のフェノール誘導体の1種又は2種以上の混合物が上げられる。p−置換フェノール類を使用する場合はそれ以外のフェノール類と併用するのが好ましい。
【0025】
また、本発明において用いられるアルデヒド類としてはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、フルフラール等の1種又は2種以上の混合物が上げられるがとくにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。
【0026】
(14)また、上記(13)に記載のものにおいて、前記反応触媒がアミン化合物触媒であり、乳化分散剤がグルコシド結合を有する高分子活性剤であり、フェノール類とアルデヒド類が付加縮合する過程において微粒状無機材料を投入することを特徴とするものである。
【0027】
本発明において用いられるフェノール類とアルデヒド類とを付加縮合反応させるための反応触媒としては、アミン化合物が用いられる。例えば、ヘキサメチレンテトラミン、アンモニアの他メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等の第1級や2級のアミン類または、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−(2−アミノエチル)プロパノールアミン、グアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ水素を少なくとも2個以上含有するアルキルアミン化合物触媒の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0028】
本発明において用いられる乳化分散剤としてはグルコシド結合を有する高分子活性剤が好適であり、グルコース単位当たり酸化エチレン1.4〜3.5モル付加したヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドエーテル、アルギン酸の金属塩、ムコ多糖類骨格の天然ゴム金属塩の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。これらの界面活性剤は高分子化しているために水に膨潤はするが溶けにくいのであらかじめ0.3〜4質量%水溶液を調整しておくことが望ましい。
【0029】
付加縮合反応触媒と乳化分散剤の存在下、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合反応が進行するに従い、微粒状無機材料を包括した縮合反応物が均一に分散された安定化状態に達するため、樹脂の組成成分が黒鉛粉粒の表面の凸凹の細部にまで浸透及び付着することを促進し、この状態でゲル化したものであるから、樹脂と黒鉛との接着力を高めることができる。
【0030】
(15)また、上記(14)に記載のものにおいて、前記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0031】
(16)また、上記(15)に記載のものにおいて、前記レゾール型フェノール樹脂が感圧熱自硬化性を有することを特徴とするものである。
【0032】
(17)本発明に係る焼成体の製造方法は、上記(9)乃至(16)のいずれかに記載の成形体の製造方法によって製造された成形体を焼成して焼成体を製造することを特徴とするものである。
【0033】
(18)また、上記(17)に記載のものにおいて、前記成形体の焼成は、前記成形体を真空または不活性ガスの雰囲気中において800℃〜2000℃の温度範囲で行うことを特徴とするものである。