特許第5779786号(P5779786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 5779786-発光性キレートを含むセキュア文書 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779786
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】発光性キレートを含むセキュア文書
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20150827BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C09D11/328
   C09K11/06 660
【請求項の数】23
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-510242(P2012-510242)
(86)(22)【出願日】2010年5月10日
(65)【公表番号】特表2012-526879(P2012-526879A)
(43)【公表日】2012年11月1日
(86)【国際出願番号】EP2010056350
(87)【国際公開番号】WO2010130681
(87)【国際公開日】20101118
【審査請求日】2013年2月18日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2009/005572
(32)【優先日】2009年5月12日
(33)【優先権主張国】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】アブタノ,ヴィッキー
(72)【発明者】
【氏名】ティレー,トマ
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト,クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ラスカグネレ,ステファニー
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05542971(US,A)
【文献】 米国特許第06402986(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/328
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
[Ln(A)
の少なくとも1つの発光性ランタニド錯体を含む水性インクジェットインク組成物
[式中、Mは、アルカリカチオンLi、Na、K、RbおよびCs、ならびにそれらの混合物から選択され、
式中、Lnは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb、ならびにそれらの混合物の三価の希土類カチオンから選択され、
式中、Aは、つのカルボン酸基を有し、場合により置換されているピリジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピラジンからなる群から選択される2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子であり、ここで、置換基は、ヒドロキシル、アミノ、C〜C−アルコキシ基、またはC〜C−アルキル基からなる]。
【請求項2】
〜C−アルコキシ基が、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシである、請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項3】
〜C−アルキル基が、メチル、エチルまたはイソプロピルである、請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項4】
ランタニド錯体が、1:3の正確な化学量論比を有する再結晶化生成物である、請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
遊離形態の過剰の配位子Aがインク中に存在しない、請求項1から4のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項6】
水性インク組成物の最終Cl含量が、錯体の全重量に基づいて0.1%を超えない、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項7】
水性インク組成物の最終Cl含量が、錯体の全重量に基づいて0.1%から0.25%の間である、請求項1から6のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの吸湿性物質をさらに含有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの目に見える染料または顔料をさらに含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項10】
組成物の全重量に基づいて1〜15重量%の発光性ランタニド錯体を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項11】
組成物の全重量に基づいて5〜45重量%の吸湿性物質を含む、請求項8に記載の水性インク組成物。
【請求項12】
組成物の全重量に基づいて1〜15重量%の目に見える染料または顔料を含む、請求項9に記載の水性インク組成物。
【請求項13】
吸湿性物質が、第一級、第二級または第三級アルコール、ラクタム、ポリマーグリコール、グリコール、環状スルホンからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項8または11に記載の水性インク組成物。
【請求項14】
吸湿性物質が、DL−ヘキサン−1,2−ジオール、2−ピロリドン、スルホラン、テトラメチレンスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−プロパンジオール、ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、ブタノールからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項8または11に記載の水性インク組成物。
【請求項15】
目に見える染料または顔料が、モノアゾおよび/またはジスアゾ染料、モノアゾCu錯体染料からなる群から選択される、請求項9に記載の水性インク組成物。
【請求項16】
2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aが、つのカルボン酸基を有するピリジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピラジンからなる群から選択される、請求項1から15のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項17】
Aが、ジピコリン酸および/または4−ヒドロキシピリジン−2,6−ジカルボン酸であり、Lnが、ユーロピウム(Eu3+)および/またはテルビウム(Tb3+)の三価イオンから選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項18】
紙幣、パスポート、セキュリティー文書、有価値文書、チケット、箔、縫い糸、ラベル、カード、または商品等の物品を認証するための、請求項1から17のいずれか一項に記載の水性インク組成物の使用。
【請求項19】
請求項1から17のいずれか一項に記載の水性インク組成物によりつくられた少なくとも1つの層を含むセキュリティー文書。
【請求項20】

[Ln(A)
[式中、Mは、アルカリカチオンLi、Na、K、RbおよびCs、ならびにそれらの混合物から選択され、
式中、Lnは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb、ならびにそれらの混合物の三価の希土類カチオンから選択され、
式中、Aは、つのカルボン酸基を有し、場合により置換されているピリジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピラジンからなる群から選択される2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子であり、ここで、置換基は、ヒドロキシル、アミノ、C〜C−アルコキシ基、またはC〜C−アルキル基からなる]
の発光性ランタニド錯体を得る方法であって、三価のランタニドイオンLnの前駆体化合物を、少なくとも3当量のアルカリカチオンMの存在下で、3当量の2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aと反応させるステップを含む方法。
【請求項21】
三価のランタニドイオンLnの前駆体化合物を、酸化物Ln、塩化物LnCl、炭酸塩Ln(COおよび酢酸塩Ln(CHCOO)からなる群から選択する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aを、遊離酸HAとして必要量の塩基と共に、またはモノアルカリ塩HMAとして、またはジアルカリ塩MAとして用いる、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
錯塩の成分を水溶液中で合わせ、得られた錯塩を再結晶させて反応の副生成物からそれを分離する、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティー文書の分野に関し、そのような文書のセキュリティーレベルを改善することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
通貨、パスポート、または身分証明書等のセキュア文書(secure document)は、偽造が世界中に広がりつつある。この状況は概して政府および社会にとって非常に重大な問題である。例えば、犯罪組織は、人身売買のために偽造のパスポートまたは身分証明書を使用することがある。複写技術がますます洗練されるに従って、偽造文書と原物とを明確に区別することがさらに一層困難となる。したがって、文書のセキュリティーは、国々の経済に対して、また偽文書を伴う密売の犠牲者に対しても多大な効果を与える。
【0003】
パスポートおよび身分証明書は、一般に、多数の防御、例えば、ホログラム、バーコード、暗号化データ、特定の用紙または基材などを含むセキュア文書である。防御によっては、肉眼で可視(「顕在的」外観)であり、他の防御は不可視(「隠された」外観)であり、それらの探知には特定の道具を必要とする。
【0004】
米国特許出願公開第2007/0225402号には、文書に証印(indicia)の形で印刷される紫外線発光性インクの使用が開示されている。この紫外線発光性インクは、自然光のもとでは目に見えず、そのためその証印はUV光の照射のもとでのみ明らかにすることができる。この紫外線発光性インクは、パスポートまたは紙幣等のセキュリティー文書上にコードを付けるために有用である。前述の文書には、シルクスクリーン、グラビア、凸版およびオフセット印刷を含めた印刷工程が、目に見えない紫外線蛍光インクを適用するために使用される。
【0005】
顔料の形の発光性化合物が、インクおよびその他の製品に幅広く使用されている(米国特許第6,565,770号、WO08033059、WO08092522参照)。発光顔料の例は、特定の種類の無機化合物、例えば、遷移金属または希土類イオンから選択される少なくとも1つの発光性カチオンをドープした非発光性カチオンの硫化物、酸硫化物、リン酸塩、バナジウム酸塩、ガーネット、スピネルなどの中に見出すことができる。
【0006】
インク中の発光を生じるために有用なその他の化合物の種類は、特許出願WO2009/005733または米国特許第7,108,742号に記載されているような特定の希土類金属錯体によって形成される。
【0007】
発光性化合物、特に発光性希土類金属錯体をセキュア文書に刷り込むための特定のプロセスは、インクジェット印刷、より特定的にはサーマルインクジェット印刷である。サーマルインクジェット印刷機は、フォトリソグラフィーによって構成された一連の微小な電気的に加熱されるチャンバーを有するプリントカートリッジを使用する。画像を形成するために、このプリンターは、電流のパルスを各チャンバーの背に配置されている加熱素子を通して送り、インクの液滴をチャンバーの開口部を通してその前にある紙に向けて推し進める気泡を形成するように、そのチャンバー中で蒸気爆発を引き起こす(したがって、ある種のインクジェットプリンターの商品名はBubblejet(登録商標)である)。このインクの表面張力、ならびに蒸気泡の凝縮ひいては縮小が、インクのさらなる分量をインクリザーバーに接続されている狭い導管を通してチャンバー中に引き込む。
【0008】
使用されるインクは水性(すなわち、顔料または染料を含む水性インク)であり、プリントヘッドは、他のインクジェット技術のために必要な装置より製造するのに一般に安価である。しかし、その寿命は短く、それは一般に空のインクカートリッジと共に交換される。
【0009】
インクジェットプリンターが遭遇する主な問題は、プリントヘッドのノズル中でインクが乾燥して、顔料および/または染料が微小なインクオリフィスを詰まらせる固体の沈着物の形成を引き起こすことである。殆どのプリンターは、使用中でないとき、プリントヘッドのノズルをゴムキャップで自動的に覆うことによってこの乾燥を防いでいる。しかし、突然の停電、またはプリンターがそのプリントヘッドにキャップし終わる前にそのプラグを抜いて電気を切ることによって、プリントヘッドが乾ききることが起こり得る。さらに、キャップしたときでも、このシールが完全でないと、数週間にわたるとノズル中のインクは乾燥してそれらを詰まらせ得る。一旦インクがノズル中で乾燥して固まり始めると、液滴量が影響され、液滴の軌道が変化する可能性があり、またはノズルは完全にインクを噴出し損なうことがあり得る。
【0010】
希土類金属錯体を含む発光性インクジェットインクの場合、水中での錯体の安定性はノズルの障害を避けるために極めて重要である。早過ぎる乾燥を防ぐために、水または溶媒を添加してインクを十分に希釈することは明らかな解決策である。しかし、水または溶媒による希釈は、そのようなインクで印刷したセキュリティー文書の発光の強度(したがって、探知の容易さ)を低減する。
【0011】
サーマルインクジェット印刷で遭遇する別の問題は、「コゲーション」である。コゲーション(日本語の「焦げ」=焼け焦げ、焼け、焦げ物、に由来)は、インクジェットプリントヘッドの各チャンバーの背に配置されている加熱素子の表面上で固体の分解生成物を生じるインク成分の熱分解であり、そのときそのチャンバーのノズルを詰まらせうる。
【0012】
希土類金属錯体はインクジェットインクに発光を与える非常に有用な方法であろうが、ノズル中のインクの乾燥の問題が、インクジェットカートリッジの全体を使用することを多くの場合不可能にしており、そのためインクカートリッジの消費コストを増す原因となっている。これは、そのような「使用された」カートリッジに起因する「リサイクリング」問題による環境保護およびセキュリティーへの影響のみでなく、印刷のコストへの無視できない影響も有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、希土類金属錯体に基づく発光性インクジェットインクの有効利用を促進するために前述の問題を解決すること、ひいてはインクカートリッジの全寿命期間中、正確に印刷されかつ保護されたセキュリティー文書を得ることの決定的な必要性がなおも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の不都合を、
i.インクカートリッジの全寿命期間中、セキュリティー文書の有効なマーキングをするための安定したレベルの発光を提供すること、
ii.安定な希土類金属錯体を含む発光インクを提供すること、
iii.インクカートリッジの全体を使用することが不可能であることに関与するノズルの障害を回避すること、
によって克服する。
【0015】
前記のことは、少なくとも1つの特定の種類の希土類金属錯体を特定の割合で含んでいる特定の水性インクジェット組成物を使用することによって達成される。
【0016】
本発明の希土類金属錯体は、3つの2価の負電荷を帯びた(dinegatively charged)5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子を有する三価の希土類イオンの発光性ランタニド錯体から選択される。
【0017】
使用されるこの発光インクは、58から70の間の原子番号を有する三価の希土類カチオン、例えば、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybおよびそれらの混合物などの、電磁スペクトルの紫外および/または青領域において吸収する2価の負電荷を帯びたヘテロアリール三座配位子との安定な水溶性トリス錯体を含む。これらランタニド錯体におけるルミネセンス発光は、Eu(3+)に関する5D→7Fおよび5D→7Fのような内部f殻遷移に起因する。
【0018】
本発明によれば、三価の希土類イオンの純化学両論的錯体が、むしろ大過剰の配位子中の希土類イオン塩の溶液よりも使用される。
【0019】
これは加熱した際に水溶液中で解離(加水分解または熱分解)が起こらないような、三価の希土類イオンと非常に安定なアニオン錯体を形成する配位子により可能である。加水分解は、沈殿およびそれに付随するノズルの閉塞を引き起こすことが顕著である。
【0020】
そのような配位子の例は、ジピコリン酸のジアニオン、dpa2−、であり、それは、式:
Eu3+→[Eu(dpa)]→[Eu(dpa)→[Eu(dpa)3−
に従ってEu(3+)のような三価の希土類イオンとの安定な高度に水溶性の1:3の錯体を形成し、水溶液中で加水分解しない。
【0021】
よって、本発明によれば、次式の純錯塩が発光性インク成分として使用される:
[Ln(A)
式中、Mは、アルカリカチオンLi、Na、K、RbおよびCs、ならびにそれらの混合物から選択され、
式中、Lnは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb、ならびにそれらの混合物の三価の希土類カチオンから選択され、
式中、Aは、2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子、例えば、ジピコリネート陰イオンなどである。
【0022】
そのような純錯塩の使用は、インク中の遊離配位子の不必要な過剰を避け、よって、その全体の固形分含量およびそれと共にコゲーションまたは乾燥によりインクジェットノズルを詰まらせる(塞ぐ)傾向を減少させる。
【0023】
本発明のこれらおよびその他の特徴および利点は、当業者であれば以下の詳細な説明を読むことでより容易に理解されよう。明確にするために別々の実施形態に照らして上記および下記の本発明の一定の特徴は、単一の実施形態において一緒に提供することもできることを理解すべきである。反対に、簡略のために単一の実施形態に照らして記載されている本発明のさまざまな特徴は、別々にかまたは任意の部分的組合せで提供することもできる。さらにまた、範囲内で述べられている値に対する言及は、その範囲内のありとあらゆる値を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、254nmで励起されたNa[Eu(dpa)]含有インクのインクジェット印刷物の発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によれば、水性インクジェットインク組成物は、式:
[Ln(A)
の発光性ランタニド錯体の少なくとも1つを含み、
式中、Mは、アルカリカチオンLi、Na、K、RbおよびCs、ならびにそれらの混合物から選択され、
式中、Lnは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの三価の希土類カチオンから選択され、
そして式中、Aは、ジコピリネート陰イオンなどの2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子であり、
ここで錯体は、正確な1:3(Ln:A)の化学量論比を有する。
【0026】
本発明の錯体M[Ln(A)]を得る方法は、三価のランタニドイオンLnの前駆体化合物を、少なくとも3当量のアルカリカチオンMの存在下で、3当量の2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aと反応させるステップを含む。
【0027】
三価のランタニドイオンLnの前駆体化合物として、酸化物Ln、塩化物LnCl、炭酸塩Ln(COまたは酢酸塩Ln(CHCOO)を使用することができる。
【0028】
2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aは、遊離酸HAとして必要量の塩基と共に、またはモノアルカリ塩HMAとして、またはジアルカリ塩MAとして採用することができる。
【0029】
錯塩の成分は、例えば、
EuCl+3Na(dpa)→Na[Eu(dpa)]+3NaCl
のように水溶液中で合わせ、得られた錯塩は、本発明の目標、すなわち、可能な最低限の固形分含量を有するインクを達成するために望ましくないNaCl等の反応の副生成物から分離するために、好ましくは再結晶させる。
【0030】
この再結晶プロセスの利点は、最低限の副生成物含量を有するランタニド錯塩を提供することである。これは、錯体の溶解性に対する影響および乾燥またはコゲーションに対する影響を有する。好ましい実施形態において、錯塩に伴って存在するClの濃度は、それぞれ錯塩の全重量の0.1%未満のClまたは0.17%未満のNaClである。高品質の印刷を得るためには、錯塩の最終の塩化物含量は、0.1重量%を超えてはならない。容認できる印刷品質の場合、錯塩の塩化物含量は0.1重量%から0.25重量%の間である。
【0031】
好ましい実施形態において、2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aは、少なくとも1つのカルボン酸基を有するピリジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピラジンからなる群から選択される。少なくとも1つのカルボン酸基を有する本発明のこの5員環または6員環のヘテロアリールは、さらにまた、ヒドロキシル基、アミノ基、C〜Cアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ等の基、またはC〜Cアルキル、例えば、メチル、エチル、イソプロピル等の基によって置換されていてもよい。
【0032】
本発明の錯塩中に使用される具体的な2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aは、ジピコリン酸、4−ヒドロキシピリジン−2,6−ジカルボン酸、4−アミノピリジン−2,6−ジカルボン酸、4−エトキシピリジン−2,6−ジカルボン酸、4−イソプロポキシピリジン−2,6−ジカルボン酸および/または4−メトキシピリジン−2,6−ジカルボン酸からなる群から選択される。
【0033】
より好ましい実施形態において、本発明によるインク中に存在する2価の負電荷を帯びた5員環または6員環のヘテロアリール三座配位子Aは、ジピコリン酸および/または4−ヒドロキシピリジン−2,6−ジカルボン酸からなる群から選択され、三価のランタニドイオンは、ユーロピウム(Eu3+)および/またはテルビウム(Tb3+)のものである。最も好ましい実施形態において、ジピコリン酸(dipolinic acid)または4−ヒドロキシピリジン−2,6−ジカルボン酸は、ユーロピウム(Eu3+)との組合せで使用される。
【0034】
本発明の水性インクジェットインク中のランタニド錯塩の割合は、組成物の全重量を基準として、1〜15重量%、より好ましくは1〜8重量%、そしてさらにより好ましくは1〜3重量%の間である。
【0035】
上記のランタニド錯体は、すべて電磁スペクトルの紫外領域において強い吸収を示す。図1によれば、[Eu(dpa)3−に基づく本発明の水性インクは254nmのUV光に曝されたとき、617nmに極大のある強い赤色の発光を示す。
【0036】
本発明による水性インクは、有価値の製品、包装または文書のコーディングおよびマーキングのための効果的なインクジェット印刷技術であるサーマルインクジェット印刷に適している。
【0037】
本発明による水性インク組成物の印刷過程中の早過ぎる乾燥を防ぐために、本発明の水性インクジェットインクは、少なくとも1つの吸湿性物質をさらにまた含む。この吸湿性物質は、第一級、第二級または第三級アルコール、ラクタム、ポリマーグリコール、グリコール、環状スルホンからなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0038】
より好ましい実施形態において、この吸湿性物質は、DL−ヘキサン−1,2−ジオール、2−ピロリドン、スルホラン、テトラメチレンスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−プロパンジオール、ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、ブタノールからなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0039】
本発明の水性インク中のこの吸湿性物質の割合は、組成物の全重量を基準として、5〜45%、より好ましくは10〜45%、そしてさらにより好ましくは20〜45%の間である。
【0040】
本発明による水性インク組成物は、さらにまた、本インクに混ぜたときそれに色を与える少なくとも1つの目に見える染料または顔料を含むこともできる。好ましい実施形態において、この目に見える染料または顔料は、モノアゾおよび/またはジスアゾ染料、モノアゾCu錯体染料からなる群から選択される。そのような染料の例は、CIBA社によりIRGASPERSE Jet(登録商標)の名のもとで生産されているものであり得る。本発明による水性インク組成物は、さらにまた、組成物の全重量を基準として1〜15重量%の目に見える染料または顔料を含む。
【0041】
刷り込まれるセキュリティー文書の種類に応じて、本発明による印刷インクは、さらにまた、通例の添加剤、例えば、防かび剤、殺生物界面活性剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、共溶媒または例えばアクリレートバインダーなどのバインダー等を、これらの添加剤に関する通例の量で含むことができる。
【0042】
本発明の別の目的は、紙幣、パスポート、セキュリティー文書、有価値文書、チケット、箔、縫い糸、ラベル、カード、または商品等の物品を認証するための本発明による水性インクの使用である。
【0043】
本発明によるインクでつくられた少なくとも1つの層を含むセキュリティー文書を提供することも、本発明の別の目的である。
【0044】
本発明を以下の非限定の実施例によってさらに説明する。百分率は重量によっている。当業者であれば、別に示されていない限りは、すべての用語が、それらの最も広範囲の妥当な意味において意味している以下の特許請求の範囲およびそれらの同等物によって定義されることが意図されているこれらの実施例の精神および範囲の中で、多くの変化が可能であることを認識するであろう。
【0045】
図1は、254nmで励起されたNa[Eu(dpa)]含有インクのインクジェット印刷物の発光スペクトルを示している。617nmに極大のある強い赤色の発光を、254nmの励起のもとで見ることができる。
【実施例】
【0046】
Na[Eu(dpa)nHOの合成
315gの2,6−ピリジンジカルボン酸を5.4lの蒸留水中に90℃で溶解した。230gのEuCl6HOの250ml水溶液を、撹拌を続けながら加えた。次に、その混合物をそのまま室温まで冷却し、2MのNaOHの溶液によりそのpHが7.5〜8.5の間の値に到達するまで中和した。
【0047】
pHが安定した時点で、その溶液を乾燥するまで蒸発させた。得られた粉末を熱水中に1/2.25の固形分/液体の比で再溶解させた。生成物を結晶化させるために、その溶液を室温までゆっくり冷却した。結晶化した生成物を濾過して次に乾燥させた。
【0048】
Na[Tb(dpa)nHOの合成
315gの2,6−ピリジンジカルボン酸を5.4lの蒸留水中に90℃で溶解した。次に、235gのTbCl6HOの250ml水溶液を加えた。その冷却した溶液を、2MのNaOHによりそのpHが7.5〜8.5の値に到達するまで中和した。pHが安定した時点で、その溶液を濾過し、1.5lの最後の反応容積まで濃縮した。次に沈殿物を90℃で再溶解し、その生成物をそのまま朝まで結晶化させた。その生成物を次に遠心脱水機を通過させて単離した。最終生成物の純度を増すために、その粉末は水と氷の混合物中に再分散させることができる。その洗浄した粉末は、最後に濾過して乾燥させることができる。
【0049】
本発明による錯体を含んでいるインクの配合物の例:
蛍光レッド(254nm)を含むブラック:
脱イオン水(204g)の溶液に、2−ピロリドン(30g)および1,2−ヘキサンジオール(15g)を加える。その溶液を均一化した溶液を得るために500〜600rpmで撹拌する。15gのNa[Eu(dpa)]をその溶液に加え、次に40℃でその錯体が完全に溶解するまで加熱する。その溶液を周囲温度まで冷却し、その後18gのIrgasperse(登録商標)JetシアンRL、13.65gのIrgasperse(登録商標)JetイエローRLおよび4.35gのIrgasperse(登録商標)JetマゼンタBを添加し、その混合物を500〜600rpmで約20分間撹拌する。撹拌後、その溶液を濾過してすべての不溶性化合物および未反応生成物を除去する。
得られたブラックインクをHP45カートリッジに詰め、960Cxi、970Cxi、980Cxiまたは990CxiシリーズのDeskjetプリンターにより使用する。254nmでの蛍光をfisher Bioblock Scientific VL−4.LCランプを用いてよく目に見えることをチェックする。
【0050】
インクの安定性を評価するために次の2つの試験を行なった。
−続けて200ページの印刷をしてその後2〜4日の中断をし、別の400ページのために再スタートさせる。
−短い印刷試験を、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後と、その後6ヶ月間にわたって4週間毎に行なう。
【0051】
この安定性試験の間、本発明によるインクでは印刷および乾燥の問題は起こらなかった。すべての場合に、蛍光強度は、非常に満足なレベルで不変であった。
図1