特許第5779788号(P5779788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779788
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】炭素線および集合線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150827BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150827BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20150827BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20150827BHJP
   D06M 11/73 20060101ALI20150827BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   H01B13/00 Z
   H01B5/02 A
   D06M11/83
   D06M11/73
   D06M101:40
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-96232(P2013-96232)
(22)【出願日】2013年5月1日
(62)【分割の表示】特願2008-129637(P2008-129637)の分割
【原出願日】2008年5月16日
(65)【公開番号】特開2013-212980(P2013-212980A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2013年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日方 威
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳一
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−179915(JP,A)
【文献】 特開2007−112662(JP,A)
【文献】 特開平04−333659(JP,A)
【文献】 特開2005−279816(JP,A)
【文献】 特表2007−515364(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/013705(WO,A1)
【文献】 特開2007−280731(JP,A)
【文献】 特開2003−238123(JP,A)
【文献】 J. Fujita et al.,Inducing graphite tube transformation with liquid gallium and flash discharge,Applied Physics Letters,2006年 2月20日,Vol.88, No.8,p.083109.1-083109.3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
D06M10/00−11/84,16/00,19/00−23/18
H01B5/00−5/16
H01B13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素フィラメントが接触した集合体部を準備する工程と、
前記集合体部の表面を液体ガリウムに接触させることにより前記集合体部の表面にグラファイト層を形成する工程とを備え、
前記グラファイト層を形成する工程において、前記集合体部に対して圧縮応力が加えられ
前記グラファイト層を形成する工程において、前記液体ガリウムの温度は450℃以上750℃以下である、炭素線の製造方法。
【請求項2】
前記グラファイト層を形成する工程では、前記液体ガリウムを加圧することにより、前記集合体部に対して圧縮応力が加えられる、請求項1に記載の炭素線の製造方法。
【請求項3】
前記グラファイト層を形成する工程では、前記液体ガリウムに接触する雰囲気ガスの圧力を調整することにより、前記液体ガリウムを加圧する、請求項2に記載の炭素線の製造方法。
【請求項4】
前記グラファイト層を形成する工程より前に、前記集合体部の表面層としてアモルファスカーボン層を形成する工程を備える、請求項1〜のいずれか1項に記載の炭素線の製造方法。
【請求項5】
前記グラファイト層を形成する工程の後、前記炭素線の表面に付着するガリウムを除去する工程をさらに備える、請求項1〜のいずれか1項に記載の炭素線の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の炭素線の製造方法を用いて炭素線を複数本形成する工程と、
前記複数の炭素線を撚り合わせて集合線材を形成する工程とを備える、集合線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭素線、集合線材およびそれらの製造方法に関し、より特定的には、複数の炭素フィラメントを用いた炭素線、集合線材およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素フィラメントの一例としてのカーボンナノチューブ(CNT)は、その優れた特性により様々な工業的応用が期待されている。たとえば、CNTの電気抵抗値はほぼ銅なみに低く、線材の材料として用いることが考えられる。また、このようなCNTの製造方法としては、様々な方法が提案されている(たとえば、特開2007−112662号公報:以下、特許文献1と呼ぶ)。
【0003】
上記特許文献1では、触媒金属としてガリウム(Ga)を用い、当該触媒金属を導入したアモルファスカーボン線状構造体に直流電流を印加することで、所望のサイズや形状、配向のCNTを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来のCNTの製造方法は、CNT単体としてのサイズなどを制御することに着目しているが、CNTの工業的な応用を考えると、このようなCNTを複数集めた長尺の線材(炭素線)を製造する必要性が考えられる。しかし、発明者が検討したところ、このような複数のCNT(たとえば、長さが数十〜数百μmのCNT)を集合させて(たとえば撚り合わせて)形成した線材(炭素線)については、CNT単体が極めて低抵抗であるにも関わらず、炭素線としての電気抵抗値は銅からなる線材に比べて3桁程度高い値を示す。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、電気抵抗値の十分低い、CNTなどの炭素フィラメントを用いた炭素線やその炭素線を用いた集合線材を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った炭素線の製造方法では、複数の炭素フィラメントが接触した集合体部を準備する工程を実施する。そして、集合体部の表面を液体ガリウムに接触させることにより集合体部の表面にグラファイト層を形成する工程を実施する。グラファイト層を形成する工程において、集合体部に対して圧縮応力が加えられる。グラファイト層を形成する工程において、液体ガリウムの温度は450℃以上750℃以下である。
【0008】
このようにすれば、集合体部において表面に露出する炭素フィラメントの部分を、液体ガリウムに接触させることによって、当該液体ガリウムの触媒作用によりグラファイト層を形成することができる。このため、集合体部の表面に直接グラファイト層を気相成長させるといった場合より、処理温度を低くした状態でグラファイト層を形成し、本発明による炭素線を得ることができる。
【0009】
また、集合体部に対して圧縮応力が加えられた状態でグラファイト層が形成されるので、形成される炭素線において集合体部を構成する炭素フィラメント同士の接触部の面積や接触圧力を大きくすることができる。この結果、炭素線の電気抵抗値をより確実に低減できる。
【0010】
上記炭素線の製造方法において、グラファイト層を形成する工程では、液体ガリウムを加圧することにより、集合体部に対して圧縮応力が加えられてもよい。この場合、集合体部に対する圧縮応力の印加を、液体ガリウムに対する加圧(たとえば液体ガリウムに接触する雰囲気ガスの圧力を高める方法や、カプセルなどの容器にGaとCNTを封入した後、カプセル(容器)ごと加圧する方法など)により、容易に行なうことができる。
【0011】
上記炭素線の製造方法において、グラファイト層を形成する工程では、液体ガリウムに接触する雰囲気ガスの圧力を調整することにより、液体ガリウムを加圧してもよい。この場合、液体ガリウムに対する加圧を容易に行なうことができる。また、雰囲気ガスの圧力を調整することで、液体ガリウムへ加えられる圧力の値を容易に調整することができる。
【0012】
上記炭素線の製造方法では、グラファイト層を形成する工程において、上述のように液体ガリウムの温度は450℃以上750℃以下であることが好ましい。この場合、集合体部の外周部からグラファイト層を形成する液体ガリウムの触媒反応をより効率的に起こすことができる。ここで、液体ガリウムの温度の下限を450℃としたのは、当該温度より液体ガリウムの温度が低いと、液体ガリウムの触媒反応が不十分になるためである。また、液体ガリウムの温度の上限を750℃としたのは、集合体部を構成する炭素フィラメントの分解を避けるためである。
【0013】
上記炭素線の製造方法は、グラファイト層を形成する工程より前に、集合体部の表面層としてアモルファスカーボン層を形成する工程を備えていてもよい。この場合、グラファイト層となるべき層であるアモルファスカーボン層を予め形成することにより、集合体部における炭素フィラメントの構造を維持したまま、グラファイト層を形成することができる。このため、炭素線の構成の設計の自由度を大きくすることができる。
【0014】
上記炭素線の製造方法は、グラファイト層を形成する工程の後、炭素線の表面に付着するガリウムを除去する工程をさらに備えていてもよい。この場合、グラファイト層を形成する工程において、炭素線の表面に液体ガリウムが固化したガリウムが付着しても、当該固化したガリウムを炭素線表面から除去することができる。
【0015】
この発明に従った集合線材の製造方法では、上記炭素線の製造方法を用いて炭素線を複数本形成する工程を実施する。そして、複数の炭素線を撚り合わせて集合線材を形成する工程を実施する。この場合、本発明にしたがった低抵抗な炭素線を用いて集合線材を形成することができる。
【0016】
この発明に従った炭素線は、集合体部とグラファイト層とを備える。集合体部は、複数の炭素フィラメントが接触して構成される。グラファイト層は、集合体部の外周に形成される。
【0017】
このようにすれば、炭素線において外周部に形成されたグラファイト層によって、集合体部の炭素フィラメント同士が確実に接触するように集合体部を保持することができる。そのため、集合体部における炭素フィラメント同士の接触面積や接触部での圧力を大きくすることができるので、集合体部の炭素フィラメント同士の接触が不十分となることに起因する、炭素線の電気抵抗値の増大を抑制できる。またグラファイト層も導電層として作用することにより、炭素線の電気抵抗値をより低減することが可能になる。
【0018】
上記炭素線において、炭素フィラメントはカーボンナノチューブであってもよい。この場合、カーボンナノチューブは良好な導電性(低い電気抵抗値)を示すことから、炭素線の電気抵抗値をより低下させることができる。
【0019】
上記炭素線において、グラファイト層はカーボンナノチューブであってもよい。この場合、グラファイト層も導電層として作用することで、より効果的に炭素線の電気抵抗を低減することができる。
【0020】
この発明に従った集合線材は、上記炭素線を複数備える。このようにすれば、十分に低抵抗な集合線材を実現できる。また、炭素線を複数本用いることにより、大きな断面積の集合線材を実現できるので、集合線材に流すことが可能な電流値を大きくすることもできる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、低抵抗な炭素線および集合線材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に従った炭素線の実施の形態を示す断面模式図である。
図2図1の線分II−IIにおける断面模式図である。
図3】本発明に従った集合線材の実施の形態を示す断面模式図である。
図4図3に示した集合線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5】本発明に従った集合線材の他の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6図5に示した被覆工程を説明するための模式図である。
図7図5に示したGa触媒反応工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰返さない。
【0024】
図1は、本発明に従った炭素線の実施の形態を示す断面模式図である。図2は、図1の線分II−IIにおける断面模式図である。図1および図2を参照して、本発明による炭素線1を説明する。なお、図1は炭素線1の長手方向に対して垂直な方向における断面を示しており、図2は炭素線1の長手方向に沿った方向での断面を示している。
【0025】
図1および図2に示すように、炭素線1は、集合体部3とグラファイト層4とを備える。集合体部3は、複数の炭素フィラメントとしてのカーボンナノチューブ2が接触して構成される。グラファイト層4は、集合体部3の外周を囲むように形成される。なお、図1および図2では、炭素線1の断面には2つのカーボンナノチューブ2が現れるような構成となっているが、炭素線1における集合体部3の断面を構成するカーボンナノチューブ(CNT)2は2つ以上、たとえば3つ、もしくは4つ以上であってもよい。また、図1および図2に示すように、集合体部3を構成するカーボンナノチューブ2は、互いに接触している。そして、図2に示すように、炭素線1の長手方向においても、カーボンナノチューブ2が順次接触した状態となることで、集合体部3においては炭素線1の長手方向に沿って延びるように、電流を流通させることが可能な導電経路がカーボンナノチューブ2により構成される。
【0026】
このようにすれば、炭素線1において外周部に形成されたグラファイト層4によって、集合体部3のカーボンナノチューブ2同士が確実に接触するように集合体部3を保持することができる。そのため、集合体部3におけるカーボンナノチューブ2同士の接触面積や接触部での圧力を大きくすることができるので、集合体部3のカーボンナノチューブ2同士の接触が不十分となることに起因する、炭素線1の電気抵抗値の増大を抑制できる。またグラファイト層4も導電層として作用することにより、炭素線1の電気抵抗値をより低減することが可能になる。
【0027】
また、上記炭素線1において、集合体部3を構成する炭素フィラメントが、良好な導電特性を示すカーボンナノチューブ2であるため、炭素線1の電気抵抗値を確実に低下させることができる。
【0028】
上記炭素線1において、グラファイト層4はカーボンナノチューブであることが好ましい。この場合、グラファイト層4も導電層として作用することにより、炭素線1の電気抵抗をより低減することができる。
【0029】
また、グラファイト層4により、集合体部3を構成するカーボンナノチューブ2が互いに押圧された状態となっていることが好ましい。このようにすれば、集合体部3におけるカーボンナノチューブ2同士、またグラファイト層4と集合体部3のカーボンナノチューブ2との間の接触部における接触面積や接触圧力を大きくすることができる。この結果、低抵抗な炭素線1を実現できる。
【0030】
図3は、本発明に従った集合線材の実施の形態を示す断面模式図である。図3を参照して、本発明に従った集合線材5を説明する。なお、図3は、集合線材5の長手方向に対して垂直な方向における断面を示している。
【0031】
図3を参照して、集合線材5は、上記炭素線1を複数(図3では7本)備える。このようにすれば、本発明による低抵抗な炭素線1を用いて十分に低抵抗な集合線材5を実現できる。また、炭素線1を複数本用いることにより、大きな断面積の集合線材5を実現できるので、集合線材5に流すことが可能な電流値を大きくすることが可能になる。また、集合線材5では、複数の炭素線1を拠り合わせるようにしてもよいし、単純に複数の炭素線1を束ねて、当該束ねた複数の炭素線1を結束するような固定部材を複数の炭素線1の外周部に配置してもよい。当該固定部材としては、たとえば絶縁体(たとえば樹脂)からなる環状の固定具などを用いてもよい。
【0032】
なお、集合線材5を構成する炭素線1の数は、図3に示した構成における数とは異なる数(たとえば2以上の任意の数)とすることができる。また、集合線材5を構成する炭素線1は、図3に示した構成ではすべて同様の構造を備えているが、集合線材5の断面における位置によって炭素線1の構成を変えてもよい。たとえば、集合線材5の断面における中央部においては、炭素線1を構成するカーボンナノチューブ2(図1参照)の集積数(炭素線1の延在方向に垂直な方向における断面に現れるカーボンナノチューブ2の数)を多くし(たとえば10以上とし)、一方、集合線材5の断面における外周部においては、炭素線1を構成するカーボンナノチューブ2の集積数を、上記中央部に位置する炭素線1での集積数より少なくする(たとえば集積数を10未満、より具体的には5以下)、という構成を採用してもよい。
【0033】
また、集合線材5に対して、後述する炭素線1のグラファイト層4を形成する工程と同様に、当該集合線材5に液体ガリウム(Ga触媒)を接触させる処理を実施することで、集合線材5の外周を囲むグラファイト層を形成してもよい。また、外周にグラファイト層が形成された集合線材5を複数本準備し、当該複数の集合線材5を束ねてより断面積の大きな線材を準備する。そして、その線材に対しても、外周を囲むグラファイト層を形成するために液体ガリウムを接触させる処理を行なう。さらに、外周にグラファイト層が形成された線材をさらに複数本束ねて、より断面積の大きな線材を構成する。このように、線材を束ねて集合線材とし、その集合線材を液体ガリウムに接触させて集合線材の表面にグラファイト層を形成した後、そのグラファイト層が形成された集合線材をさらに複数本束ねる、という工程を繰返すことで、より抵抗が低くかつ太径の集合線材を製造することができる。
【0034】
図4は、図3に示した集合線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。図4を参照して、図3に示した集合線材の製造方法を説明する。
【0035】
図4に示すように、集合線材5の製造方法では、まずCNT生成工程(S10)を実施する。このCNT(カーボンナノチューブ)生成工程(S10)では、短尺(たとえば数μmの長さ)のカーボンナノチューブを、従来周知の方法により製造する。
【0036】
たとえば、CNT生成用の基板の表面に下地膜を形成し、当該下地膜上にカーボンナノチューブを形成するための触媒として作用する複数のナノ粒子を分散した状態で形成する。ここで、下地膜を構成する材料としては、たとえばアルミナ、シリカ、アルミン酸ナトリウム、ミョウバン、リン酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム化合物、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどのアパタイト系の材料を用いることが好ましい。また、ナノ粒子を構成する材料としては、活性な金属を用いることができる。そのようなナノ粒子を構成する金属としては、たとえばバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)などを用いることができる。
【0037】
また、ナノ粒子の粒径をたとえば100nm以下、好ましくは1.0nm以上10nm以下、より好ましくは0.5nm以上5nm以下とする。また、下地膜の厚みとしては、たとえば2.0nm以上100nm以下といった値を用いることができる。
【0038】
そして、ナノ粒子が形成された基板の表面に、カーボンナノチューブを形成するための原料ガスを供給しながら、当該基板を加熱する。この結果、基板の表面に配置されたナノ粒子の表面にカーボンナノチューブが成長する。このようにして成長したカーボンナノチューブは、以下説明するように複数のカーボンナノチューブが集まって構成される集合体部を形成するために用いられる。
【0039】
次に、図4に示すようにCNT集合体形成工程(S20)を実施する。この工程(S20)では、従来周知の方法により、上記工程(S10)で生成されたカーボンナノチューブを複数本撚り合せることにより、カーボンナノチューブからなる集合体部を形成する。この工程(S20)においては、従来周知の方法によりカーボンナノチューブの集合体部を形成することができる。たとえば、必要とする個数のナノサイズ触媒をそれぞれ近くに隣接させてカーボンナノチューブ(CNT)を成長させる事により、必要とする本数のCNTを接合させるといった方法や、さらには複数のCNTの端部をチャッキングして回転させる事により撚り線化するといった方法を用いることができる。
【0040】
次に、Ga触媒反応工程(S30)を実施する。この工程(S30)では、上記工程(S20)において形成されたカーボンナノチューブからなる集合体部の表面を、液体ガリウム(Ga)に接触させる。この結果、カーボンナノチューブからなる集合体部の表面層が、液体ガリウムの触媒反応により当該集合体部を取囲むグラファイト層へと変化する。この結果、図1および図2に示すように、集合体部3がグラファイト層4により取囲まれた構造の炭素線1を得ることができる。つまり、上記工程(S10)〜工程(S30)は、炭素線1の製造方法に対応する。
【0041】
このとき、液体ガリウムの温度は450℃以上750℃以下、より好ましくは550℃以上700℃以下とすることが好ましい。この場合、集合体部3の外周部からグラファイト層を形成する液体ガリウムの触媒反応をより効率的に起こすことができる。
【0042】
また、グラファイト層を形成する工程としての上記工程(S30)において、集合体部3に対して圧縮応力が加えられることが好ましい。この場合、集合体部3に対して圧縮応力が加えられた状態でグラファイト層4が形成されるので、形成される炭素線1において集合体部3を構成するカーボンナノチューブ2同士の接触部の面積や接触圧力を大きくすることができる。この結果、得られる炭素線1や集合線材5の電気抵抗値をより確実に低減できる。
【0043】
また、上記工程(S30)では、液体ガリウムを加圧することにより、集合体部3に対して圧縮応力が加えられることが好ましい。より具体的には、液体ガリウムに接触する雰囲気ガスの圧力を調整することにより、液体ガリウムを加圧してもよい。たとえば、液体ガリウムが保持される浴槽を保持容器(チャンバ)の内部に保持し、当該チャンバの内部における雰囲気ガス(液体ガリウムに接触する雰囲気ガス)の圧力を調整する、といった方法を用いてもよい。この場合、集合体部3に対する圧縮応力の印加を、液体ガリウムに対する加圧により、容易に行なうことができる。また、雰囲気ガスの圧力を調整することで、液体ガリウムへ加えられる圧力の値を容易に調整することができる。なお、ここで雰囲気ガスとしてはたとえばアルゴンガスや窒素ガスなど、カーボンナノチューブや液体ガリウムと反応し難い不活性ガスを用いることができる。また、雰囲気ガスの圧力は、たとえばガリウム(Ga)の蒸気圧以上10MPa以下、より好ましくは1×10−5torr以上1MPa以下とすることができる。
【0044】
次に、付着Ga除去工程(S40)を実施する。グラファイト層を形成する工程(S30)の後、炭素線1の表面に付着するガリウムを除去する工程である付着Ga除去工程(S40)では、形成された炭素線1の表面(グラファイト層4の表面)に付着しているガリウムを除去する。当該ガリウムの除去方法としては、任意の方法を用いることができる。たとえば、ガリウムを溶解することが可能な薬液(たとえば希塩酸や希硝酸)などを炭素線1に噴霧する、あるいは当該薬液を入れた浴槽に炭素線1を浸漬する、といった方法を用いることができる。この場合、工程(S30)において、炭素線1の表面に液体ガリウムが固化したガリウムが付着しても、当該固化したガリウムを炭素線1表面から除去することができる。このため、後工程である加工工程(S50)において、集合線材5を形成する際に、当該固化したガリウムが不具合の原因になる可能性を低減できる。
【0045】
そして、上記工程(S10)〜工程(S40)を複数回実施することにより、あるいは工程(S20)においてカーボンナノチューブからなる集合体部を複数本形成し、当該複数の集合体部に対して工程(S30)および工程(S40)を同時並行して実施することにより、複数の炭素線を得る。このようにして、上記工程(S10)〜(S40)までに示された炭素線の製造方法を用いて炭素線を複数本形成する工程が実施される。
【0046】
次に、加工工程(S50)を実施する。この工程(S50)では、上記工程(S10)〜工程(S40)までを実施することにより得られた複数の炭素線1を撚り合わせることにより、集合線材5(図3参照)を形成する。この工程(S50)においては、従来周知の任意の方法を用いて複数の炭素線1を撚り合せる事ができる。たとえば、必要とする個数のナノサイズ触媒をそれぞれ近くに隣接させてCNTを成長させる事により、必要とする本数のCNTを接合させるといった方法や、さらには複数のCNTの端部をチャッキングして回転させる事により撚り線化するといった方法を用いることができる。このようにして、図3に示した炭素線1からなる、低抵抗な集合線材5を得ることができる。
【0047】
上述した炭素線1または集合線材5の製造方法においては、工程(S30)で説明したように、集合体部3において表面に露出するカーボンナノチューブの部分を、液体ガリウムに接触させることによって、当該液体ガリウムの触媒作用によりグラファイト層4(図1および図2参照)を形成することができる。このため、集合体部3の表面に直接グラファイト層4を気相成長させるといった場合より、処理温度を低くした状態でグラファイト層4を形成し、本発明による炭素線を得ることができる。
【0048】
図5は、本発明に従った集合線材の他の製造方法を説明するためのフローチャートである。図6は、図5に示した被覆工程を説明するための模式図である。図7は、図5に示したGa触媒反応工程を説明するための模式図である。図5図7を参照して、本発明に従った集合線材の他の製造方法を説明する。
【0049】
図5に示した集合線材の製造方法は、基本的には図4に示した集合線材の製造方法と同様の工程を備えるが、Ga触媒反応工程(S30)より前に、集合体部の表面層としてアモルファスカーボン層を形成する工程である被覆工程(S60)を実施する点が異なっている。
【0050】
すなわち、図5に示した集合線材の製造方法では、図4に示した製造方法と同様に、まず工程(S10)および工程(S20)を実施した後、図6に示すように、得られた集合体部3の表面にグラファイト層4(図7参照)となるべき層であるアモルファスカーボン層11を形成する。このアモルファスカーボン層11の形成方法としては、従来周知の任意の方法を用いることができる。たとえば、フェナントレン(C1410)やピレン、メタンアセチレン等を熱分解することによりアモルファスカーボン層11を形成してもよいし、電子ビームやイオンビームを用いて炭化水素系ガスを分解する方法を用いてもよい。この結果、図6に示す構造を得る。
【0051】
次に、図5に示すように、Ga触媒反応工程(S30)を実施する。この工程(S30)は、基本的に図4に示した製造方法における工程(S30)と同様の方法を用いることができる。ただし、図5に示した工程(S30)では、上記アモルファスカーボン層11の表面層が液体ガリウムの触媒反応によってグラファイト層4となる。この結果、図7に示した構造の炭素線1を得ることができる。
【0052】
このように、図5に示した製造方法によれば、集合体部3におけるカーボンナノチューブ2の構造を維持したまま、アモルファスカーボン層11からグラファイト層4を形成することができる。このため、炭素線1の構成の設計の自由度を大きくすることができる。
【0053】
その後、図4に示した製造方法と同様に工程(S40)および工程(S50)を実施することにより、図3に示した集合線材5と類似する構造の集合線材を得ることができる。なお、図5に示した製造方法により製造された集合線材では、図7からも分かるように、集合線材を構成する炭素線1において、集合体部3を構成するカーボンナノチューブ2とグラファイト層4との間にアモルファスカーボン層11が配置された状態になっている。
【0054】
(実施例1)
試料の準備:
アーク法で作製した未精製の単層カーボンナノチューブ(CNT)からなる、集合体部としての0.3mm径のCNTフィラメント撚り線を準備した。当該撚り線の長さは10mmとした。
【0055】
そして、当該撚り線を、600℃に加熱した液体ガリウム(Ga)中に1時間浸漬した。また、このときの雰囲気ガスはArガスを用い、雰囲気ガスの圧力は1×10−5Torrとした。
【0056】
その後、液体Gaから引き上げた撚り線の表面に付着したGaを希塩酸で除去した。このようにして、CNTフィラメント撚り線表面にグファライト層が形成された炭素線を得た。グラファイト層の厚みは5μm程度であった。
【0057】
測定:
グラファイト層を形成した炭素線について、電気抵抗値を測定した。測定方法としては、4端子法を用いた。
【0058】
結果:
グラファイト層を形成した炭素線の電気抵抗値は、後述する比較例1の試料の電気抵抗値と比べて1/5程度に低下していた。
【0059】
(実施例2)
試料の準備:
アーク法で作製した未精製の単層カーボンナノチューブ(CNT)からなる、集合体部としての5μm径のCNTフィラメント撚り線を準備した。当該撚り線の長さは10mmとした。
【0060】
そして、当該撚り線の表面に、フェナントレン(C1410)を熱分解することによりアモルファスカーボン層を形成した。
【0061】
次に、当該撚り線を、600℃に加熱した液体ガリウム(Ga)中に1時間浸漬した。また、このときの雰囲気ガスはArガスを用い、雰囲気ガスの圧力は2気圧とした。
【0062】
その後、液体Gaから引き上げた撚り線の表面に付着したGaを希塩酸で除去した。このようにして、CNTフィラメント撚り線表面にグファライト層が形成された炭素線を得た。グラファイト層の厚みは1μm程度であった。
【0063】
測定:
グラファイト層を形成した炭素線について、電気抵抗値を測定した。測定方法としては、4端子法を用いた。
【0064】
結果:
グラファイト層を形成した炭素線の電気抵抗値は、実施例1の比較例と比べて1/20程度に低下していた。
【0065】
この結果より、炭素線の内部においては、複数のカーボンナノチューブがほぼ一体化しているものと思われる。
【0066】
(実施例3)
試料の準備:
直径が10nm、長さが300μmのカーボンナノチューブ(CNT)を準備し、これらのCNTを100μmづつ重ね合わせることで、集合体部としてのCNTフィラメント接合線を準備した。当該接合線の長さは50mmであり、接合線の直径は2μmとした。
【0067】
そして、当該接合線の表面に、フェナントレン(C1410)を熱分解することによりアモルファスカーボン層を形成した。
【0068】
そして、当該接合線を、500℃に加熱した液体ガリウム(Ga)中に1時間浸漬した。また、このときの雰囲気ガスはアルゴン(Ar)ガスを用い、雰囲気ガスの圧力は10気圧とした。これは、接合線内部のカーボンナノチューブを互いに密着させるためである。
【0069】
その後、液体Gaから引き上げた接合線の表面に付着したGaを希塩酸で除去した。このようにして、CNTフィラメント接合線表面にグファライト層が形成された炭素線を得た。グラファイト層の厚みは0.2μm程度であった。また、グラファイト層は、内部のCNTを包むように連続したリング状に形成され、カーボンナノチューブ化(CNT化)している事が分かった。
【0070】
測定:
グラファイト層を形成した炭素線について、電気抵抗値を測定した。測定方法としては、4端子法を用いた。
【0071】
結果:
グラファイト層を形成した炭素線の電気抵抗値は、比較例と比べて1桁小さくなっていた。これは、炭素線の内部においてカーボンナノチューブ同士が強く密着し、一体化しているためであると考えられる。
【0072】
(実施例4)
試料の準備:
触媒CVD法を用いて、直径が30nm、長さが500μmの多層カーボンナノチューブ(CNT)を準備し、これらのCNTを200μmづつ重ね合わせることで、集合体部としてのCNTフィラメント接合線を準備した。当該接合線の長さは10mmであり、接合線の直径は0.6μmとした。
【0073】
そして、当該接合線を、550℃に加熱した液体ガリウム(Ga)中に1時間浸漬した。具体的には、ステンレス製のカプセルに液体ガリウムと接合線を封入した。そして、カプセルの周囲の雰囲気ガスはアルゴン(Ar)ガスを用いた。当該雰囲気ガスを加圧することで、カプセルごと液体ガリウムと接合線とに圧力を加えた。このときの加圧圧力は100気圧とした。これは、接合線内部のカーボンナノチューブを互いに密着させるためである。
【0074】
その後、液体Gaから引き上げた接合線の表面に付着したGaを希塩酸で除去した。このようにして、CNTフィラメント接合線表面にグファライト層が形成された炭素線を得た。グラファイト層の厚みは80nm程度であった。また、グラファイト層は、内部のCNTを包むように連続したリング状に形成され、カーボンナノチューブ化(CNT化)している事が分かった。
【0075】
さらに上記グラファイト層が形成された炭素線を束ねて撚り線化し、0.5μmの直径の接合線を作製した。そして、上述した工程と同様に液体Gaに当該接合線を浸けることにより、接合線を構成する複数の炭素線を接合する(複数の炭素線の束の外周を囲むように当該束の表面にグラファイト層を形成する)工程を実施した。このように、複数の炭素線を束ねる工程、束ねた炭素線の集合体線を液体Gaに浸漬することで複数の炭素線を接合する工程、接合された複数の炭素線からなる集合体線をさらに複数本準備し、当該複数の集合体線を束ねる工程、を繰返すことで、より直径の大きな線材(具体的には、0.1mmの直径の接合線)を作製した。
【0076】
測定:
グラファイト層を形成した炭素線について、電気抵抗値を測定した。測定方法としては、4端子法を用いた。
【0077】
結果:
グラファイト層を形成した炭素線の電気抵抗値は、比較例と比べて2桁以上小さくなっていた。これは、炭素線の内部においてカーボンナノチューブ同士が強く密着し、一体化しているためであると考えられる。
【0078】
(比較例1)
試料の準備:
アーク法で作製した未精製の単層カーボンナノチューブ(CNT)からなる、集合体部としての0.3mm径のCNTフィラメント撚り線を準備した。当該撚り線の長さは10mmとした。
【0079】
測定:
CNTフィラメント撚り線について、電気抵抗値を測定した。測定方法としては、4端子法を用いた。
【0080】
結果:
比較例であるCNTフィラメント撚り線の電気抵抗値は、7.8×10−3Ω・cmとなった。この値は、銅と比較して3桁以上高い値であった。
【0081】
(比較例2)
試料の準備:
アーク法で作製した未精製の単層カーボンナノチューブ(CNT)からなる、集合体部としての0.3mm径のCNTフィラメント撚り線を準備した。当該撚り線の長さは10mmとした。
【0082】
そして、当該撚り線を、800℃に加熱した液体ガリウム(Ga)中に1時間浸漬した。また、このときの雰囲気ガスはArガスを用い、雰囲気ガスの圧力は1×10−5Torrとした。
【0083】
結果:
上記のように液体Gaに撚り線を浸漬した結果、当該撚り線は液体Ga中で分解し、消失した。このため、撚り線を浸漬する液体ガリウムの加熱温度は800℃未満、より好ましくは750℃以下とすることが好ましい。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、特に短尺のカーボンナノチューブを複数本組合せて構成する炭素線および当該炭素線を用いた集合線材に有利に適用される。
【符号の説明】
【0086】
1 炭素線、2 カーボンナノチューブ、3 集合体部、4 グラファイト層、5 集合線材、11 アモルファスカーボン層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7