(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779809
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】耐切断性複合糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20150827BHJP
D02G 3/12 20060101ALI20150827BHJP
D02G 3/16 20060101ALI20150827BHJP
D02G 3/32 20060101ALI20150827BHJP
D02G 3/38 20060101ALI20150827BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20150827BHJP
A41D 13/015 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/12
D02G3/16
D02G3/32
D02G3/38
A41D19/00 A
A41D13/015
【請求項の数】14
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-548723(P2011-548723)
(86)(22)【出願日】2010年2月9日
(65)【公表番号】特表2012-517533(P2012-517533A)
(43)【公表日】2012年8月2日
(86)【国際出願番号】EP2010051561
(87)【国際公開番号】WO2010089410
(87)【国際公開日】20100812
【審査請求日】2013年2月4日
(31)【優先権主張番号】09001759.1
(32)【優先日】2009年2月9日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】ヘンセン, ジオヴァニ ヨセフ イダ
【審査官】
斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/046476(WO,A1)
【文献】
特開2001−303324(JP,A)
【文献】
特開2003−201607(JP,A)
【文献】
米国特許第06581366(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0041958(US,A1)
【文献】
特表2006−525412(JP,A)
【文献】
特表2008−508433(JP,A)
【文献】
特表2004−538387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)高分子フィラメント及び/または高分子ステープルファイバーを含む少なくとも1本の第1糸であって、前記フィラメント及び/またはステープルファイバーが硬質成分を含み、前記硬質成分が複数本の硬質繊維であり、前記硬質繊維が25ミクロン以下の平均直径を有し、前記硬質繊維がガラス繊維、鉱物繊維又は金属繊維である、少なくとも1本の第1糸と;
b)少なくとも1本の連続弾性フィラメントと
を含む、耐切断性複合糸。
【請求項2】
ポリエステル及び/またはナイロンの、フィラメント及び/またはステープルファイバーを含む少なくとも1本の糸をさらに含む、請求項1に記載の糸。
【請求項3】
ポリエチレンの溶融紡糸フィラメント及び/または溶融紡糸ステープルファイバーを含む少なくとも1本の糸をさらに含む、請求項1または2に記載の糸。
【請求項4】
超高分子量ポリエチレンのゲル紡糸フィラメント及び/またはゲル紡糸ステープルファイバーを含む少なくとも1本の糸をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の糸。
【請求項5】
前記第1糸の繊度が100から400dtexの間である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の糸。
【請求項6】
前記弾性フィラメントが、弛緩状態において8〜220dtexの間の線密度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の糸。
【請求項7】
前記弾性フィラメントが、セグメント化ポリウレタンを含む長鎖合成ポリマーから製造される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の糸。
【請求項8】
繊度が100〜10.000dtexの間である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の糸。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の糸を含む、軽量の耐切断性布帛。
【請求項10】
前記布帛が、ASTM F 1790−97で測定された場合に500gより大きい切断抵抗を有し、かつ400g/m2以下の面密度を有する、請求項9に記載の布帛。
【請求項11】
前記布帛が少なくとも15ゲージの編機で製造される、請求項9または10に記載の布帛。
【請求項12】
前記編機が少なくとも18ゲージであった、請求項11に記載の布帛。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項に記載の布帛を含む手袋。
【請求項14】
請求項13に記載の手袋または請求項9〜12のいずれか一項に記載の布帛であって、その表面が少なくとも部分的にポリウレタン系エラストマーで被覆されている、手袋または布帛。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、耐切断性複合糸および上記複合糸を含む製品に関する。特に本発明は、上記複合糸を含む耐切断性布帛および手袋に関する。
【0002】
国際公開第2008/046476号パンフレットは、フィラメント及び/またはステープルファイバーを含む耐切断性糸であって、上記フィラメントまたはファイバーが、25ミクロン以下の平均直径を有する複数本の硬質繊維の形で硬質成分を含む耐切断性糸を開示している。その糸の製造方法もその中に開示されている。国際公開第2008/046476号パンフレットによる糸は、製造しやすく、改善された切断抵抗、良好な機械的性質を示し、柔軟であり、清浄にしやすい。国際公開第2008/046476号パンフレットは、金属線からなる芯の周りに撚られた上述の耐切断性糸を含む複合糸も開示している。
【0003】
本発明の目的は、機械的性質および耐切断特性が向上した耐切断性複合糸を提供することである。本発明の更なる目的は、切断抵抗特性が向上した軽量の布帛を提供することである。
【0004】
したがって、本発明は、
a)高分子フィラメント及び/または高分子ステープルファイバーを含む少なくとも1本の第1糸であって、上記フィラメント及び/またはステープルファイバーが硬質成分を含み、上記硬質成分が複数本の硬質繊維であり、上記硬質繊維が25ミクロン以下の平均直径を有する、少なくとも1本の第1糸と;
b)少なくとも1本の連続弾性フィラメントと
を含む、耐切断性複合糸を提供する。
【0005】
本発明の糸から製造された物品、特に手袋を着用すると、疲れが少なくなり、さらに上記物品では、第1糸だけからなる糸あるいはスチール繊維またはガラス繊維を含む複合糸からなる糸から製造された物品と比較して、切断抵抗が向上することが見出された。
【0006】
同じ切断抵抗レベルを実現するためには、普通、スチール繊維またはガラス繊維を含む複合糸を用いる。こうした繊維、特に、ガラス繊維は、過激にまたは長期にわたって使用している間に壊れ、皮膚刺激を引き起こす。
【0007】
本発明の糸を含む物品では、長期にわたって、かつ/または過激に利用した後でさえ、皮膚刺激が少ないことが見出された。
【0008】
本発明の糸から製造された物品は、切断抵抗が同じレベルである場合、重量が低減することも見出された。
【0009】
第1糸の高分子フィラメントおよび高分子ステープルファイバーを製造するための材料の例示的な例としては、例えば、ポリアミド類およびポリアラミド類、例えば、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)、例えば、ケブラー(Kevlar(登録商標))、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、例えば、Nomex(登録商標)、ポリ(m−キシリレンアジパミド)、ポリ(p−キシリレンセバカミド)、ポリ(2,2,2−トリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ピペラジンセバカミド)、ならびに脂肪族および脂環式のポリアミド類、例えば、30%のヘキサメチレンジアンモニウムイソフタレートと70%のヘキサメチレンジアンモニウムアジペートとのコポリアミド、30%までのビス−(−アミドシクロヘキシル)メチレンとテレフタル酸とカプロラクタムとのコポリアミド;ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE);ポリ{2,6−ジイミダゾ−[4,5b−4’,5’e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(M5として知られる);ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)(ザイロン(Zylon(登録商標))として知られる);ポリビニルアルコール類;それだけでなく、ポリオレフィン類、例えば、ポリエチレン及び/またはポリプロピレンのコポリマーおよびホモポリマーもあるが、これらに限定されない。
【0010】
第1糸の高分子フィラメント及び/または高分子ステープルファイバーを製造するための好ましい材料は、ポリオレフィン(特にポリエチレン)であり、より好ましくは超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)、すなわち、固有粘度(IV)が少なくとも8dl/gであるポリエチレンである。その固有粘度は、デカリン中135℃でPTC−179の方法(Hercules Inc.Rev.Apr.29,1982)に従って測定し、溶解時間は16時間であり、酸化防止剤であるDBPCの量は2g/リットル(溶液)であり、種々の濃度での粘度を濃度ゼロに外挿したものである。
【0011】
第1糸は、好ましくは国際公開第2008/046476号パンフレット(本明細書に援用する)に記載の方法に従って製造される。
【0012】
第1糸中の硬質成分は、硬質材料から製造される複数本の繊維である。本発明との関連において硬質とは、少なくとも、硬質繊維を持たないフィラメントまたはステープルファイバー自体よりも硬いことを意味する。好ましくは、その繊維を製造するのに用いられる材料は、モース硬度が少なくとも2.5、より好ましくは少なくとも4、もっとも好ましくは少なくとも6である。好適な硬質繊維の好例としては、ガラス繊維、鉱物繊維または金属繊維がある。
【0013】
第1糸のフィラメント及び/またはステープルファイバーの繊度は、好ましくは少なくとも0.1dpf、より好ましくは少なくとも1.0dpf、もっとも好ましくは少なくとも1.5dpfである。その利点として、dpfの小さい繊維を含む布帛は、快適性が向上するという点がある。好ましくは、上記繊度は、20dpf以下、より好ましくは10dpf以下、もっとも好ましくは5dpf以下である。第1糸の繊度が、少なくとも10dtex、好ましくは少なくとも40dtex、より好ましくは少なくとも70dtexである場合に、良好な結果が得られる。第1糸の最大繊度は、実用上の理由によってのみ決まり、好ましくは7500dtex以下、より好ましくは5000dtex以下、もっとも好ましくは2500dtex以下である。好ましい実施態様では、第1糸の繊度は100〜400dtexの間、より好ましくは200〜300dtexの間であり、その利点は、それを含む本発明の糸は、好適であり、いっそう軽くかつ/または切断抵抗が向上した物品、例えば、手袋を作るのに使用されることである。
【0014】
本発明の糸の繊度は、好ましくは100dtex〜10000dtexの間、より好ましくは200dtex〜1000dtexの間、もっとも好ましくは300dtex〜500dtexの間である。そのように低い繊度を有する本発明の糸を使用して、切断抵抗が向上した物品、例えば、手袋を作ることができることが見出された。例えば、繊度が300dtex〜500dtexの間である本発明の糸から作られた布帛を含む手袋は、薄くて軽いだけでなく、小さな物体を取り扱う際に良好な切断抵抗を有すると同時に、着用者がいっそう器用な動きができるようにする。
【0015】
本発明の糸はまた、少なくとも1本の弾性フィラメント(すなわち、伸びかつ復元するフィラメント)を含む。弾性フィラメントは、上記弾性フィラメントの周囲のさやを形成する他のタイプのフィラメント及び/またはステープルファイバーで覆うこともできるが、弾性フィラメントを実際に上記さやで完全に覆うことは重要ではない。
【0016】
本発明の糸の中の弾性フィラメントは、1本または複数本の個別のフィラメントまたは1本または複数本の合体したフィラメント集団の形で存在しうる。しかし、ただ1本の合体したフィラメント集団を用いるのが好ましい。1本または複数本の個別のフィラメントとして存在するにせよ、1本または複数本の合体したフィラメント集団として存在するにせよ、弛緩状態にある弾性フィラメントの総合線密度は、好ましくは、8〜560dtexの間であり、好ましい線密度の範囲は17〜560dtexの間、より好ましくは22〜220dtexの間、さらにより好ましくは40〜220dtexの間、さらには44〜220dtexの間、もっとも好ましくは44〜156dtexの間である。本発明の物品がこの好ましい範囲内の繊度を有する弾性フィラメントを含む場合、上記物品の切断抵抗が向上することが見出された。
【0017】
好ましい弾性繊維としては、オレフィン系の伸縮繊維(stretch fibers)、例えば、DOW XLA;二成分ポリエステル系繊維、例えば、デュポン(DuPont)のT400;およびテクスチャライズド(texturized)ポリエステルまたはナイロンがある。テクスチャライズ(texturizing)とは、ポリエステルまたはナイロンの部分的に配向したフィラメント糸を加熱および延伸によって安定化して、けん縮した弾性連続フィラメント糸を製造する方法である。
【0018】
より好ましい弾性繊維は、セグメント化ポリウレタンを含む長鎖合成ポリマーから製造される繊維である。好ましくは、上記ポリマーは、少なくとも85重量%のセグメント化ポリウレタンを含む。より好ましくは、セグメント化ポリウレタンはスパンデックスタイプのものである。スパンデックスタイプのセグメント化ポリウレタンの中には、例えば、米国特許第2,929,801号明細書;米国特許第2,929,802号明細書;米国特許第2,929,803号明細書;米国特許第2,929,804号明細書;米国特許第2,953,839号明細書;米国特許第2,957,852号明細書;米国特許第2,962,470号明細書;米国特許第2,999,839号明細書;および米国特許第3,009,901号明細書に記載されているものがある。
【0019】
本発明の糸は、他のフィラメント及び/またはステープルファイバー、例えば、硬質成分を含まない上述の例示的な例で示した高分子材料から製造されたフィラメント及び/またはステープルファイバーを含んでもよい。そのようなフィラメント及び/またはステープルファイバーは市販されている。ステープルファイバーは一般的に、フィラメントの切断またはけん切によって得られる。
【0020】
好ましくは、本発明の糸は、ポリエステル、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、およびポリ(1,4シクロヘキシリデンジメチレンテレフタレート)のフィラメント及び/またはステープルファイバーを含む少なくとも1本の糸をさらに含む。そのような糸から製造された布帛は染色性(dyebility)が良好であり、切断抵抗がさらに向上することが見出された。
【0021】
好ましくは、本発明の糸は、ナイロン、例えば、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6,6として知られる)、ポリ(4−アミノ酪酸)(ナイロン6として知られる)のフィラメント及び/またはステープルファイバーを含む少なくとも1本の糸をさらに含む。そのような糸から製造される布帛は染色性が良好であり、切断抵抗が向上することも見出された。好ましくは、ナイロンのフィラメント及び/またはステープルファイバーを含む上記糸の繊度は、少なくとも10dtex、より好ましくは少なくとも50dtex、もっとも好ましくは少なくとも100dtexである。ナイロンのフィラメント及び/またはステープルファイバーを含む上記糸の最大繊度は、単に実用面から定められ、好ましくは、上記繊度は10.000dtex以下、より好ましくは5000dtex以下、もっとも好ましくは1000dtex以下である。
【0022】
好ましくは、本発明の糸は、ポリエチレンの溶融紡糸フィラメント及び/またはステープルファイバーを含む少なくとも1本の糸をさらに含む。そのような糸から製造される布帛は、快適性が向上することが見出された。
【0023】
好ましくは、本発明の糸は、UHMwPEのゲル紡糸フィラメント及び/またはステープルファイバー、例えば、ダイニーマ(Dyneema(登録商標)として知られるUHMwPE糸)を含む少なくとも1本の糸をさらに含む。そのような糸から製造される布帛は、切断抵抗がさらに向上することが見出された。
【0024】
上記の好ましい糸も、組み合わせて本発明の糸で使用してもよい。
【0025】
撚り糸は機械的安定性が向上することが見出されたので、本発明の糸の第1糸および弾性フィラメントは撚り合わせてもよい。撚り(回転/メートル)が50〜500の間、より好ましくは150〜400の間である場合に、耐摩耗性および快適性が向上する。
【0026】
より好ましい実施態様では、本発明の糸は、弾性フィラメントに第1糸を巻き付けながら上記弾性フィラメントを引っ張った状態に維持することによって作る。好ましくは、第2糸、例えば、ポリエステル糸を第1糸に巻き付けて、二重巻き付け構造を形成する。
【0027】
本発明はさらに、本発明の糸を含む布帛に関する。
【0028】
本発明の布帛は、当該技術分野において知られている任意の構造、例えば、織り構造、編み構造、三つ編み(plaited)構造、3つ編み(braided)構造または不織構造あるいはそれらの組合わせであってよい。織物としては、平織、畝、斜子織(matt weave)およびあや織の布帛などを挙げることができる。編物は、横編み、例えば、シングルジャージーまたはダブルジャージー布帛、あるいは縦編みすることができる。不織布の例は、フェルト生地である。織物、編物または不織布の更なる例ならびにそれらの製造法は、“Handbook of Technical Textiles”,ISBN 978−1−59124−651−0の第4、5および6章に記載されており、その開示を参照により本明細書に援用する。3つ編みの布帛の説明および例は、同じハンドブックの第11章、より具体的には第11.4.1節に記載されており、その開示内容を参照により本明細書に援用する。
【0029】
好ましくは、本発明の布帛は、編物または織物である。丸編物または縦編物(warp knit fabric)、平編物または平織物の場合に、良好な結果が得られた。そのような布帛は、切断抵抗が向上したまま、柔軟性および軟らかさの度合いが増大することが見出された。平編は、手袋を作るのに用いた場合、特に有利であることが判明した。
【0030】
ゲージが18以上という大きさの編機を利用して、高分子糸(すなわち、ガラス繊維もスチール繊維も含まず、かつ高度の切断抵抗を有する糸)から布帛を製造することはこれまで不可能であった。そのような高ゲージの機械では、低い繊度、例えば、400dtex未満の糸しか使用できない。しかし、低い繊度の糸を使用したのでは、得られた布帛の切断抵抗も減少する。それゆえに、耐切断特性を有する布帛を製造するのに、これまでゲージが13以下の編機が使用された。
【0031】
本発明の糸を用いると、高度の切断抵抗(すなわち、ASTM F 1790−97で測定した場合に500gより大きい切断抵抗)を有し、しかも軽量である(面密度が400g/m
2未満である)布帛を製造できることが見出された。そのような高い切断抵抗を有する布帛を、通常用いられる、例えば、15または18ゲージの編機で本発明の糸から製造できる。
【0032】
したがって、本発明は、ASTM F 1790−97で測定した場合の切断抵抗が500gより上であり、面密度が400g/m
2以下である軽量の耐切断性布帛に関する。さらに詳しくは、本発明は、ASTM F 1790−97で測定した場合の切断抵抗が500gより上であり、面密度が400g/m
2以下である軽量の耐切断性布帛であって、上記布帛が本発明の糸を含む、軽量の耐切断性布帛に関する。面密度とは、単位面積当たりの布帛の重量であり、1m
2当たりのグラム数で表される。好ましくは、軽量の耐切断性布帛の切断抵抗は、少なくとも1000g、より好ましくは少なくとも1500g、もっとも好ましくは少なくとも2000gである。好ましくは、軽量の耐切断性布帛の面密度は、300g/m
2以下、より好ましくは200g/m
2以下である。好ましくは、本発明の軽量で耐切断性である布帛は、編物であり、より好ましくは、ゲージが少なくとも15、より好ましくは18以上である編機で編まれた布帛である。好ましくは、本発明の軽量の耐切断性布帛は本発明の糸を含む。本発明はまた、本発明の軽量の耐切断性布帛を含む手袋に関する。
【0033】
本発明はさらに、本発明の糸を含む手袋に関する。そのような手袋は、快適性が向上し、いっそう器用な動きができるようになる。さらに、本発明の手袋では、特に長く使用している間の着用者の指の疲労が低減する。
【0034】
本発明の布帛および特に手袋は、好ましくはエラストマー塗料で少なくともその表面の一部を被覆する。好ましくは、上記塗料は、上記エラストマーの水性分散液、または好適な溶剤中に上記エラストマーを含む溶液から得る。好ましくは、エラストマーは、ポリウレタン類(水性または溶剤系)、クロロスルホン化ポリエチレン(polyethylene chlorosulphone)(例えば、ハイパロン(HYPALON(登録商標)))、ポリビニルアルコール類、ブチルゴム(butylic rubbers)、ニトリルおよびそれらの混合物よりなる群から選択される材料をベースにしたものである。被覆方法は、例えば、欧州特許第1.349.463号明細書に開示されている。もっとも好ましいエラストマーは、その良好な摩擦特性ゆえにポリウレタンである。
【0035】
本発明はまた、本発明の布帛を含む他の物品、特に衣類、例えば、上着、衣服、衣装のようなものに関する。衣類品の例としては、エプロン、革ズボン、ズボン、ワイシャツ、上着、コート、靴下、下着、ベスト、帽子などがあるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の布帛が有利に使用される特定の衣料としては、スポーツ関連の衣料、例えば、スケーター、オートバイ乗り、自転車乗り用の保護被服だけでなく、スキー服、ヘッドバンド、およびヘルメット裏地がある。
【0037】
本発明はまた、上記の物品における、特に先ほど述べた例における本発明の布帛の使用に関する。
【0038】
[比較実験および実施例]
[比較実験1]
以下から糸を作った:
i. 440dtexの標準ゲル紡糸フィラメントUHMwPE糸(ダイニーマ(登録商標)SK65という名称で知られる);
ii. 78dtex(46本のフィラメント)の原液着色黒色ポリアミド。
iii. 110dtexのライクラ(Lycra(登録商標))糸。
【0039】
ライクラ(登録商標)糸は、ダブルカバーリングマシーン(double covering machine)で引き延ばし(延伸し)、最初にダイニーマ(登録商標)糸を巻き付け、その後2回目にナイロン糸を二重に巻き付けた。
【0040】
上記の糸を島精機製作所(Shima Seiki)の13ゲージの手袋編機で編んで、手袋にした。その手袋を(溶剤系の)ポリウレタンに浸した。ASTM F 1790−97に従った手袋の切断性能は450gであった。
【0041】
[比較実験2]
比較実験1に従って上記の糸を用いて糸を作った(上記のi.〜iii.を参照)。ダイニーマ(登録商標)SK65の繊度は220dtexであり、ライクラ(登録商標)糸の繊度は約36dtexであり、原液着色の黒色ポリアミドの繊度は約65dtexであった。ライクラ(登録商標)糸を、ダブルカバーリングマシーンで2回引き延ばし(延伸し)、最初にダイニーマ(登録商標)糸を200回転/メートルで巻き付け(S巻き付け)、その後2回目にナイロン糸を250回転/メートルで巻き付けた(Z巻き付け)。18ゲージの編機でこの糸を用いて、シングルジャージー構成の布帛を含む手袋を作った。手袋の重量は約15gであった。手袋の手のひら部は、上記手袋を水性ポリウレタン分散液中に上記手袋を浸すことにより、ポリウレタンで覆った。被覆された手袋の重量は約19gであった。ASTM F 1790−97に従って測定した切断抵抗は250gであった。
【0042】
[実施例1]
以下の成分を用い、比較実験1の場合のようにして、糸を作った。
i. 5重量%の鉱物繊維(RB215−Roxul(商標)1000という商品名で販売)と95重量%のUHMWPE(IVが約21.0dl/g)(国際公開第2008/046476号パンフレットの実施例1に従って製造された)とからなる440dtexの糸;
ii. 78dtexの原液着色の黒色ポリアミド。
iii. 110dtexのライクラ(登録商標)糸。
【0043】
比較実験に従って製造した手袋の切断抵抗は、1601gであり、比較実験の手袋の3.5倍超の高さであった。
【0044】
[実施例2]
以下の成分を用い、比較実験1の場合のようにして、糸を作った。
i. 5重量%の鉱物繊維(RB215−Roxul(商標)1000という商品名で販売)と95重量%のUHMWPE(IVが約21.0dl/g)(国際公開第2008/046476号パンフレットの実施例1に従って製造された)とからなる440dtexの糸;
ii. 156dtexの原液着色の黒色ポリアミド。
iii. 110dtexのライクラ(登録商標)糸。
【0045】
比較実験に従って製造した手袋の切断抵抗は1789gであり、比較実験の手袋の3.9倍超の高さであった。
【0046】
[実施例3]
比較実験2を繰り返したが、但し、220dtexのダイニーマ(登録商標)SK65の代わりに、5重量%の鉱物繊維(RB215−Roxul(商標)1000という商品名で販売)と95重量%のUHMWPE(IVが約21.0dl/g)(国際公開第2008/046476号パンフレットの実施例1に従って製造された)とからなる220dtexの糸を用いた。被覆前の手袋の重量は12.6gであり、被覆後では21gであった。手袋の切断抵抗は780gであった。
【0047】
上記の実施例および比較実験のデータに基づき、本発明の糸では、それからの手袋製造は切断抵抗が増大することが分かった。13ゲージの編機で周知の耐切断性糸から製造された手袋よりも、薄くて軽く、しかも着用者が小さな物体をいっそう器用に取り扱えるようになる上記手袋を18ゲージの編機を用いて作ることも可能であった。