【実施例】
【0024】
以下の実施例では、透過X線画像を用いてヨウ素造影剤の厚さを示すCT画像を得る場合を対象として具体的に説明するが、本発明の放射線検出器は、かかる用途に限らず、ガンマ線等を用いた種々の放射線検査装置にも同様に適用できることはいうまでもない。
図1は、本発明に係る放射線検出器を用いたX線検査装置の概略構成図であり、
図2はその放射線検出器の一実施例を示す概略図である。
【0025】
<X線検査装置と放射線検出器の構成>
図1に示すように、X線検査装置1は、X線を被検体Sに向けて照射するX線管2、被検体Sを透過したX線を検出する多数の放射線検出器(X線検出器)3を縦横に配置してなる放射線検出器アレイ4、各放射線検出器からの出力を増幅する増幅器5、それらの各出力電流を読み取る電流読み取り装置6、造影剤厚さ演算装置7、画像化装置8等から構成される。
【0026】
X線管2から照射されるX線としては、特に限定されないが、例えば120kVpに加速した電子をタングステンターゲットに衝突させ、放出された白色X線からLaフィルタによって高エネルギ部分(38.9keV以上)を除去して得られるフィルタX線等が好適である。X線管2から被検体Sに向けてX線が照射されると、被検体Sを透過したX線が放射線検出器アレイ4内の放射線検出器3に入射する。
【0027】
ここで放射線検出器3は、
図2に示すように、入射した放射線から付与されたエネルギによって電荷を発生する3個の検出素子11,12,13が、X線の入射方向に沿って順に並ぶ形で配設され、その最後尾に位置する検出素子13よりも放射線入射端側に、錫箔からなる吸収体14を設置した構造である。各検出素子の検出媒体として、この例ではSi(Li)半導体を用いているが、CdTeなど他種の半導体を用いることもできるし、各種シンチレータなど、一般的な放射線検出器の検出媒体を利用することもできる。各検出素子11,…,13から出力した電流が、各検出素子11,…,13に対応した数の増幅器5に送られる。
【0028】
放射線検出器3にX線が入射すると、第1検出素子11〜第3検出素子13は、入射したX線から付与されたエネルギによって、それぞれ電流I
1 〜I
3 を出力する。検出電流I
1 〜I
3 は、増幅器5により増幅された後、電流読み取り装置6により測定され、造影剤厚さ演算装置7に出力する。造影剤厚さ演算装置7では、被検体S内のヨウ素造影剤の厚みが演算され、その演算結果に基づき画像化装置8が透過X線画像を生成する。
【0029】
注入されたヨウ素造影剤が癌などの病巣や血管に滞留した被検体Sに、X線を照射すると、
図3に示すように、ヨウ素のK吸収端のエネルギ準位(33.2keV)付近が不連続となったX線エネルギスペクトルが得られる。なお、
図3は、人体を模した厚さ10cmの水層中にヨウ素造影剤を模したヨウ素を含ませたものにフィルタX線を照射して得たX線エネルギスペクトルのグラフであり、X線の3つのエネルギ範囲E
1 〜E
3 とこれらエネルギ範囲E
1 〜E
3 に含まれるX線の個数Y
1 〜Y
3 とを示している。
【0030】
<試作した放射線検出器の構造と特性評価>
試作した放射線検出器では、Si(Li)検出素子を3個用いている。
図2に示すように、この放射線検出器の第2と第3のSi(Li)検出素子の間に、厚さ58μmの錫吸収体を設置した。この錫吸収体を設置した場合と設置しない場合とについて比較を行い、錫吸収体の効果を求めた。なお錫吸収体の厚さは58μmに限られるものではなく、適宜変更してよい。
【0031】
この放射線検出器の特性を、以下のようにして評価した。
図2の放射線検出器の前に、厚さが既知のアクリル及びヨウ素を、アクリルは7mmから10mm毎に47mmまで、またヨウ素は0μmから15μm毎に60μmまで、それぞれ変えて配置し、各検出素子で電流測定を行った。なお、ここでアクリル樹脂は、軟組織、あるいは軟組織と骨を模擬するものとして使用している。検出素子11〜13で得られた電流値をI
1 〜I
3 とし、I
2 /I
1 をx軸に、I
3 /I
1 をy軸に取ったグラフを
図4に示す。錫吸収体がない場合(a)には、I
2 /I
1 −I
3 /I
1 のグラフは、アクリル厚さ、ヨウ素厚さが集約された形で、一つの線上に分布した。それに対して錫吸収体がある場合(b)には、I
2 /I
1 −I
3 /I
1 のグラフは、アクリル厚さごとに分解され、ヨウ素厚さ−アクリル厚さの二つのパラメータにより、2次元的な地図が得られた。
【0032】
次に、
図5に示すようにX線源、被検体、及び放射線検出器を設置してX線を照射し、該被検体内部を透過したX線が放射線検出器に入射することによって各検出素子(検出素子番号1〜3)から生じた電流を測定した。なお、被検体はアクリル樹脂製の円柱であって、該円柱の中央部に設けた穴にヨウ素溶液を充填したものである。各測定点(x,θ)での電流値比I
2 /I
1 及びI
3 /I
1 をI
2 /I
1 −I
3 /I
1 のグラフ上に記すことで、即座にその測定点(x,θ)において、X線通過線上のアクリル厚さおよびヨウ素厚さを求めることができる。一方、アクリル樹脂およびヨウ素の平均吸収係数は文献などで既知であることから、上記のようにして得られたアクリル厚さおよびヨウ素厚さの情報により、従来のアンフォールディング法を用いることなく、次の式1を用いて、X線数Y
1 〜Y
3 を直接的に精度良く求めることができる。
【数1】
【0033】
このようにして得られたY
1 〜Y
3 の中のY
2 を用いて、CT画像を再構成したCT値の断面プロファイルを
図6に示す。
図6の横軸は被検体の中心を0mmとしてX線を透過させた位置を示し、縦軸はCT値を示している。参考のため,従来法である電流値を用いたCT値を、見やすくするために負の値で示してある。本発明に係る放射線検出器を用いて得られた結果は、理論値と同じCT値を示し、しかも従来法である電流CT値よりもヨウ素の大きなCT値が得られている。他方、錫吸収体を用いない場合には、CT値は小さくなり、電流CT値と同程度である。
【0034】
ところで、血管にカルシウムが沈着している場合、従来の電流測定CTでは、ヨウ素造影剤との区別がつかないことがある。そのため、従来の電流測定CTでは、X線管電圧を変化させ、2回の照射を行う。例えば、70kVpと140kVpとの2回のX線照射を行うことでエネルギー情報を得、これからヨウ素かカルシウムかを区別している。
【0035】
しかし、この方法では、2回のX線照射を受けるため被曝量が増える問題がある。それに対して本発明に係る放射線検出器で測定を行えば、1回の照射で、いくつかのエネルギー範囲のX線数を用いたCT画像を作ることでヨウ素かカルシウムかの区別がつく。すなわち、カルシウムの場合、K吸収端が低いエネルギーにあるので、20keV以上ではエネルギーが低い方が吸収が大きく、X線のエネルギーが高くなると吸収されにくくなる。一方で、ヨウ素はK吸収端が33.2keVにあるので、33.2keVよりも高いエネルギーのX線の吸収が大きくなる。従って、X線のエネルギーが高くなるにつれて、CT値が単調に小さくなるのがカルシウムで、33.2keVより高いエネルギーでCT値が大きくなるのがヨウ素であり、区別することができる。従って、本発明の放射線検出器を使用し、1回のX線照射による測定で複数のエネルギ範囲のX線数を用いたCT画像を形成し、X線のエネルギに対するCT値の変化のパターンにより、被検体中のカルシウムとヨウ素を区別するX線検査が行える。
【0036】
以上の実施例では、主として、ヨウ素造影剤を観測するために、錫吸収体を用いた例で説明した。しかし、吸収体は錫に限るものではなく、ヨウ素より小さい原子番号のアルミニウム、鉄なども可能であり、またヨウ素より大きい原子番号を持つタンタルも利用できる。例として、アルミニウム(Al)、ヨウ素(I)、及びビスマス(Bi)吸収体を用いたI
2 /I
1 −I
3 /I
1 のグラフを、
図7(a)〜(c)に示す。
【0037】
バリウム造影剤の場合についても同様に、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、及びビスマス(Bi)吸収体を用いたI
2 /I
1 −I
3 /I
1 のグラフを、
図8(a)〜(c)に示す。
【0038】
金造影剤を観測する場合には、X線管出口に厚さ3cmのAlフィルタなどを設置し、被検体および放射線検出器に入射するX線のエネルギースペクトルのピークエネルギーが金のK吸収端のエネルギー値よりも高い値となるようにする。3番目の検出素子の前に、アルミニウム(Al)、金(Au)、及びビスマス(Bi)吸収体を設置した場合のI
2 /I
1 −I
3 /I
1 のグラフを、
図9(a)〜(c)に示す.