(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779830
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】縦型刃先交換式切削インサートと隅削りフライスカッタ
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20150827BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-271288(P2011-271288)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-121636(P2013-121636A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】前田 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘樹
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−511464(JP,A)
【文献】
特開2013−006221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦長の側面(4)をすくい面、側面の長辺を主切れ刃(6)、上面(2)または下面(3)を主切れ刃の逃げ面、側面(4)の短辺を副切れ刃(7)、端面(5)の一部を副切れ刃(7)の逃げ面として使用する縦型刃先交換式切削インサートであって、
前記側面(4)の短辺の一部が前記副切れ刃(7)として構成され、その副切れ刃(7)が、インサートの側面視において主切れ刃(6)の先端に曲げ半径R1のノーズR部(8)を介して連なり、
前記端面(5)は、前記副切れ刃(7)の逃げ面となる第1の面(5a)と、その第1の面の両側に配置される逆向き三角形の第2、第3の面(5b、5c)を含んで構成され、前記第1の面(5a)が端面の対角方向に延びて前記副切れ刃(7)となる稜線を前記側面(4)との交差部に生じさせている縦型刃先交換式切削インサート。
【請求項2】
前記上面(2)は、曲げ半径R2のノーズR部(9)に連なる傾斜した面を有する請求項1に記載の縦型刃先交換式切削インサート。
【請求項3】
前記副切れ刃(7)の刃幅tを、インサート厚みTの1/3〜2/3に設定した請求項1又は請求項2に記載の縦型刃先交換式切削インサート。
【請求項4】
前記副切れ刃(7)と主切れ刃(6)との間に形成されるコーナのコーナ角θを、85°≦θ≦95°の条件を満たすように設定した請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の縦型刃先交換式切削インサート。
【請求項5】
前記副切れ刃(7)を、曲げ半径が200〜1000mmの凸円弧の刃にした請求項1
〜請求項4のいずれか1項に記載の縦型刃先交換式切削インサート。
【請求項6】
前記副切れ刃(7)を、曲げ半径R1のノーズR部(8)を介して前記主切れ刃(6)
の先端に連ならせ、前記側面(4)の短辺の副切れ刃となす側とは反対側を、前記R1よ
りも大きい曲げ半径R2のノーズR部(9)を介してローテーションによって主切れ刃と
入れ替える側の主切れ刃の後端に連ならせた請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の縦型刃先交換式切削インサート。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の切削インサート(1)を、カッタボディ(21)の外周に形成された座溝(22)に、片方の側面(4)がすくい面、上面(2)又は下面(3)とすくい面との交差部の稜線が主切れ刃(6)、上面(2)又は下面(3)が主切れ刃の逃げ面、側面(4)の片方の短辺が最先端に位置して副切れ刃(7)、片方の端面の前記第1の面(5a)が副切れ刃(7)の逃げ面となる向きに装着し、上面(2)と下面(3)の切削に関与しない側を前記座溝の座底面(22a)で、切削に関与しない側の側面(4)を前記座溝の座側面(22b)で、切削に関与しない側の端面の前記第2、第3の面(5b、5c)を前記座溝の座側面(22c,22d)で各々支持して構成される隅削りフライスカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、隅削りフライス加工用の刃先交換式切削インサート、特に、側面をすくい面として使用するいわゆる縦型の刃先交換式切削インサートとそれを用いた隅削りフライスカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
隅削りフライス加工用の縦型刃先交換式切削インサート(以下では単に切削インサートと言う)として、例えば、下記特許文献1〜3に開示されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載された切削インサートや特許文献2の
図1、
図2の切削インサートは、180°の回転で使用済み切れ刃と未使用刃を入れ替えられるようにしたものであって、すくい面となす側面の短辺部に、短辺を2等分した長さで、なおかつ、主切れ刃となす側面の対向位置の長辺に対してそれぞれが同一角度で傾く副切れ刃を左右対称に設けている。
【0004】
また、主切れ刃と副切れ刃との間に形成される主切れ刃先端のノーズRと主切れ刃後端のノーズRを同サイズにしている。
【0005】
一方、特許文献3の切削インサートは、短辺の全域を副切れ刃として使用できるようにしている(実質は主切れ刃側の一部が副切れ刃として使用される)。また、特許文献1,2の切削インサートと同様に、主切れ刃と副切れ刃との間に形成される主切れ刃先端のノーズRと主切れ刃後端のノーズRを同サイズにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−528230号公報
【特許文献2】特許第4491404号公報
【特許文献3】特表2007−520360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2の切削インサートは、側面の短辺の半分を副切れ刃として使用するので、副切れ刃の長さが制限される。また、2等分した短辺を相反する向きに同一角度傾斜させているので、主切れ刃とのなす角度も制限され、工具の送りが一定値を超えるなど、一定の条件を越えて使用したときに加工面の面粗さが著しく劣化する問題があった。
【0008】
また、特許文献3の切削インサートは、短辺の全長をサラエ加工用の副切れ刃として利用できるが、副切れ刃のフェース角を小さくして加工面の面粗さを向上させると、主切れ刃と副切れ刃に加工される面の直角度を確保できず、その直角度を維持すると加工面の面粗さが低下すると言う問題があり、直角度の確保の観点から面粗さの向上は実質的に不可能であった。
【0009】
また、主切れ刃先端のノーズRの大きさは、加工されるワークのサイズや形状に依存し、ユーザのニーズによって決まる。このために、従来の切削インサートは、主切れ刃後端のノーズRも主切れ刃先端のノーズRに制約を受けて曲げ半径の大きなノーズRとなる。
【0010】
これにより、隅削りフライスカッタで掘り込み加工などを行ったときに主切れ刃に加工された面の刃形の継ぎ目の段差(いわゆる送りマークの波の高さ)が大きくなる不具合もあった。
【0011】
この発明は、隅削りフライス加工用の縦型の切削インサートを、工具送りなどの使用条件が高められても良好な面粗さを維持できるものにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、縦長の側面をすくい面、側面の長辺を主切れ刃、上
面又は下面を主切れ刃の逃げ面、側面の短辺を副切れ刃(サラエ刃)、端
面の一部を副切れ刃の逃げ面として使用する縦型刃先交換式切削インサートを、
側面
の短辺の一部が前記副切れ刃として構成され、その副切れ刃が、インサートの側面視において主切れ刃の先端に曲げ半径R1のノーズR部を介して連なり、
前記端面は、前記副切れ刃の逃げ面となる第1の面と、その第1の面の両側に配置される逆向き三角形の第2、第3の面を含んで構成され、前記第1の面が端面の対角方向に延びて
前記副切れ刃となる稜線を前記側面との交差部に生じさせているものにした。
【0013】
前記副切れ刃の刃幅tは、インサート厚みTの1/3〜2/3程度、主切れ刃と副切れ刃との間に形成されるコーナのコーナ角θは、85°〜95°(85°≦θ≦95°)の範囲が適当である。
【0014】
副切れ刃は、直線刃、円弧刃のどちらであってもよく、円弧刃の場合の円弧の半径は、200〜1000mm程度が適当である。
【0015】
また、側面の短辺の副切れ刃となす側とは反対側は、ローテーション(180°の回転)によって主切れ刃と入れ替える側の主切れ刃の後端に、R1<R2の条件を満たす曲げ半径R2のノーズR部を介して連ならせるとよい。
【0016】
主切れ刃の先端と副切れ刃との間に形成されるノーズR部の曲げの半径R1は、ユーザのニーズによって変動するが、0.4〜6.0mmが一般的である。短辺の反対側のノーズR部の曲げの半径R2は、そのR1の5〜100倍くらいが望ましい。
【0017】
この切削インサートは、カッタボディの外周に形成された座溝に、片方の側面がすくい面、上面(又は下面)とすくい面との交差部の稜線が主切れ刃、上面(又は下面)が主切れ刃の逃げ面、側面の片方の短辺が最先端に位置して副切れ刃(サラエ刃)、片方の端面が副切れ刃の逃げ面となる向きに装着する。
【0018】
上面を主切れ刃の逃げ面となす場合には、下面をカッタボディの座溝の座底面に着座させ、切削に関与しない側の側面と、切削に関与しない側の端面に設けられた2つの三角形の平面を前記座溝の座側面で受け支える。この発明は、このように構成された隅削りフライスカッタも併せて提供する。
【発明の効果】
【0019】
この発明の切削インサートは、側面の短辺を左右非対称にしてその短辺の主切れ刃側を副切れ刃にしている。従って、副切れ刃の幅を好ましい数値範囲内で自由に変化させることができ、その幅を特許文献1,2の切削インサート(厚みが同一のインサート)よりも広くするなどして加工の条件変動に対する対応の自由度を拡げることができる。
【0020】
それによって、送りなどが一定の条件を超えて高められたときにも加工面の良好な面粗さを維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明の切削インサートの第1形態を示す斜視図
【
図5】
図1の切削インサートを使用した隅削りフライスカッタの斜視図
【
図9】この発明の切削インサートの第2形態を示す斜視図
【
図11】この発明の切削インサートの第3形態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面の
図1〜
図14に基づいて、この発明の切削インサートとそれを用いた隅削りフライスカッタの実施の形態を説明する。
図1〜
図4は、この発明の切削インサートの第1形態(ブレーカ溝無し)を示している。
【0023】
この切削インサート1は、四角形を基本形としたものであって、縦長に形成された側面4の左右の長辺が主切れ刃6として使用され、側面4の両短辺の一部が副切れ刃7(サラエ刃)として使用される。
【0024】
側面4の長辺は、上面2及び下面3との交差部に形成される稜線である。また、側面4の短辺は、端面5との交差部に形成される稜線である。
【0025】
下面3側は上面2側と同一構成である。また、対向した2つの側面4、4の構成や対向した2つの端面5,5の構成も同一である。従って、ここでの説明は、上面側の構成と、片方の側面、端面の構成のみについて行う。
【0026】
側面4の短辺は、
図3に示すように、左右非対称の辺にしている。その短辺の一端側は、半径R1のノーズR部8を介して主切れ刃6の先端に連なり、その一端側が副切れ刃7として使用される。
【0027】
また、側面4の短辺の他端側は、ローテーション(180°の回転)によって位置の入れ替えがなされる側の主切れ刃6の後端に、半径R2のノーズR部9を介して連なっている。
【0028】
端面5は、側面4との間に副切れ刃7となす稜線を生じさせる第1の面5aと、その第1の面の両側に配置される第2、第3の面5b,5cが含まれた面になっている。
【0029】
第1の面5aは端面の対角方向に延びており、この第1の面5aが副切れ刃7の逃げ面を構成する。また、第1の面5aが端面の対角方向に延びている関係で、第2、第3の面5b,5cは、逆向き三角形の面になっている。
【0030】
その第2、第3の面5b,5cは、カッタボディに対する切削インサートの軸方向位置決めに利用される。その第2、第3の面5b,5cがカッタボディに形成された座溝の座側面に支えられ、その位置でフライス加工において切削インサート1に加わる軸方向の荷重が受け止められる。このように、第2、第3の面5b,5cを、切削インサートの位置決めに利用する場合は、それぞれの面を平面で形成することが好ましいが、曲面であっても構わない。
【0031】
図3に示した副切れ刃7の刃幅tは、インサート厚みTの1/3〜2/3程度に設定される。その刃幅tが1/3T以下では、前掲の特許文献1,2が開示している切削インサートと比較して加工の条件変動に対する対応の自由度などの面であまり優位差のないものになる。
【0032】
また、その刃幅tが2/3Tを超えると、副切れ刃の切削負担が増して切削トルクが過大になる。
【0033】
副切れ刃7と主切れ刃6との間に形成されるコーナのコーナ角θは、85°〜95°(85°≦θ≦95°)の範囲が適当である。この範囲を外れると、加工面のコーナの直角度を好ましいと考えられる範囲に維持するのが難しくなる。
【0034】
なお、図示の切削インサートは副切れ刃7を直線の刃にしたが、これは、凸円弧の刃であってもよく、その円弧刃の場合、円弧の半径は、200〜1000mm程度が適当である。その範囲の円弧半径であれば、一般的に要求される加工面粗さを確保することができる。
【0035】
ノーズR部8,9の曲げの半径R1,R2は、R1<R2の関係を満たすものにしている。
【0036】
主切れ刃6の先端と副切れ刃7との間に形成されるノーズR部8の曲げの半径R1は、一般的に要求される0.4〜6.0mm程度でよい。主切れ刃の後端側のノーズR部9の曲げの半径R2は、R1の5〜100倍程度にするとよい。
【0037】
この第1形態の切削インサート1を使用した隅削りフライスカッタの一例を
図5〜
図8に示す。図示の隅削りフライスカッタ20は、カッタボディ21の外周に座溝22と切屑ポケット23を、回転方向に所定の間隔をあけて複数設けている。
【0038】
そして、各座溝22に切削インサート1を挿入し、その切削インサート1を取付けねじ24で座溝の座底面22a上に固定している。
【0039】
切削インサート1は、座溝22に、片方の側面4がすくい面、上面2(又は下面3)とすくい面との交差部の稜線が主切れ刃6、上面2(又は下面3)が主切れ刃の逃げ面、側面の片方の短辺の主切れ刃先端に連なる側が副切れ刃7、最先端に置かれる片方の端面5が副切れ刃7の逃げ面となる向きに装着されている。
【0040】
なお、切削に関与しない側の側面4は、座溝22の座側面22bによって支持され、その座側面22bによる支持部によって切削インサートのカッタ回転方向の位置決めがなされる。
【0041】
また、切削に関与しない側の端面5の第2、第3の面5b,5cは、座溝22の座側面22c、22dによって支持され、その座側面22c、22dによる支持部によって切削インサート1のカッタ軸方向の位置決めがなされる。
【0042】
切削インサート1のカッタ径方向の位置決めは、座底面22aによる支持部によってなされる。
【0043】
図9、
図10は、この発明の切削インサートの第2形態を示している。この第2形態の基本構成は第1形態と同じである。この第2形態は、主切れ刃6に沿ってすくい面となす側面4に切屑を処理するブレーカ溝10を設けており、この部分が第1形態と異なる。その他の構成は第1形態と同じであるので説明を省く。
【0044】
図11〜
図14は、この発明の切削インサートの第3形態を示している。この第3形態も基本構成は第1形態と同じである。この第3形態は、主切れ刃6に沿って側面4にブレーカ溝10を設けている。
【0045】
また、副切れ刃7の位置を最も高くし、主切れ刃6を副切れ刃7に連なる先端側から後端側に行くに従って位置が下がる方向に傾斜させている。このために、端面5の短辺の副切れ刃となる側とは反対側も、インサートの端面視(
図14)において傾斜してローテーションにより位置の入れ替えがなされる側の主切れ刃の後端に連なっている。
【0046】
その他の構成は、この第3形態も第1形態と同じである。従って、これについても同一箇所については説明を省く。
【符号の説明】
【0047】
1 切削インサート
2 上面
3 下面
4 側面
5 端面
5a 第1の面
5b 第2の面
5c 第3の面
6 主切れ刃
7 副切れ刃
8 主切れ刃先端のノーズR部
9 主切れ刃後端のノーズR部
10 ブレーカ溝
20 隅削りフライスカッタ
21 カッタボディ
22 座溝
22a 座底面
22b,22c,22d 座側面
23 切屑ポケット
24 取付けねじ
R1 主切れ刃先端のノーズR部の曲げ半径
R2 主切れ刃後端のノーズR部の曲げ半径
θ コーナ角
t 副切れ刃の刃幅
T インサート厚み