(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料炭を流動床式乾燥分級機に装入し、0.5mmの分級点で微粉炭と粗粒炭に分級し、微粉炭を塊成化して塊成炭とした後、該塊成炭と前記粗粒炭を装入炭として室式コークス炉に装入して乾留する際、装入時に装入炭から発塵する発塵量Hdst(質量%)を、下記式(1)で推定することを特徴とする装入炭の発塵量の推定方法。
Hdst=k1[HGI]+k2[Gv]+k3[Dp]+k4[M]+k5[OL]
+k6[Mrf]+k7[Rsep]+k8[Mcp]+k9 ・・・(1)
HGI:石炭の粉砕性指数
Gv:ガス流速(m/s)
Dp:所定の開口径の篩を用いて測定した時の篩下の質量%
M:石炭の水分含有率(質量%)
OL:石炭へのオイル添加率(質量%)
Mrf:粗粒炭中の0.3mm以下の微粉の割合(質量%)
Rsep:微粉炭の分級率(質量%)
Mcp:装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子の割合(質量%)
k1〜k9:実測した発塵量を目的関数とし、前記HGI、Gv、Dp、M、OL、Mrf、Rsep、Mcpを説明変数として重回帰分析することにより定まる係数
【背景技術】
【0002】
コークス炉炭化室で石炭を乾留してコークスを製造する過程において、石炭から発生した乾留ガス(炭化水素系化合物)が熱分解してカーボンが生成し、炭化室の炉壁や炉頂空間部、さらに、上昇管基部に付着する。炭化室の炉壁や炉頂空間部における
付着カーボ
ン量が増加すると、石炭の乾留後のコークス押出し時に、コークス押出し抵抗が増大して炉体の損傷及びコークス押し詰まり等の操業障害や経済的損失を招くことになる。
【0003】
また、石炭の乾留において、上昇管基部の
付着カーボ
ン量が過度に増加し、上昇管が閉塞すると、コークス炉乾留ガスのガス精製プロセスへの流れが遮断されるので、一貫製鉄所のエネルギー需給バランスを乱したり、コークス炉の装入口や炉蓋から乾留ガスが漏洩したりするので、環境・エネルギーへの影響が極めて大きい。
【0004】
それ故、これまで、上昇管基部へのカーボンの付着又は付着カーボンに対する種々の対策が、(1)カーボンを付着させないとの観点、又は、(2)付着カーボンを除去するとの観点から提案されている((1)の観点:特許文献1〜5、参照、(2)の観点:特許文献6〜10、参照)。
【0005】
これらの対策は、いずれも、カーボンの付着抑制、又は、付着カーボンの除去の点で、効果が期待できるものであるが、乾留ガスの熱分解が著しく速く進行する場合には、カーボンの付着抑制又は付着カーボンの除去が間に合わず、上昇管が閉塞することがある。
【0006】
そこで、本発明者らは、カーボンの付着による上昇管の閉塞問題を解決するため、付着カーボン厚の推定方法と、該推定方法を用いるコークス炉の操業方法を提案した(特許文献11、参照)。
【0007】
上記推定方法は、従来の石炭の水分や揮発分、炉頂空間部(上昇管基部を含む)の温度等に加え、装入時の発塵や、炉頂空間部の体積を考慮して、付着カーボン厚を推定するものである。そして、上記操業方法によれば、上昇管基部の閉塞を回避することができ、操業が安定するので、大きな経済的及び技術的効果を得ることができる。
【0008】
ところが、石炭を微粉炭と粗粒炭に分級し、微粉炭からの発塵量を低減するため、微粉炭を塊成化して塊成炭とした後、これを粗粒炭と混合して炭化室に装入するコークスの製造方法(例えば、特許文献12、参照)の場合、特に、塊成炭の使用割合が増大すると、特許文献11の推定方法で推定した付着カーボン厚よりも実測付着カーボン厚が厚くなり、推定値と実測値が乖離することが判明した。
【0009】
このように、推定値が実測値を下回るような乖離では、推定値で、乾留中に閉塞は発生しないと予測しても、実際の操業で、上昇管の閉塞が発生してしまうことになるので、好ましいことではない。それ故、特許文献11の推定方法に替り、塊成炭と粗粒炭を混合して使用する場合でも適用できる上昇管基部における付着カーボン厚の推定方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明について詳細に説明する。本発明者らは、特許文献11で、発塵量の推定式Hを提案した。
H=k1'[HGI]+k2'[Gv]+k3'[Dp]+k4'[M]+k5'[OL]
k1'〜k5'は、重回帰分析で定める係数
【0029】
HGIは、石炭の粉砕性指数であり、通常、ハードグローブ指数(JIS M8801の石炭類の試験方法による指数)を用いる。Gvは、ガス流速(m/s)であり、通常、JIS Z8808の排ガス中のダスト濃度の測定方法で測定したガス流速を用いる。
【0030】
Dpは、石炭の粒度指数であり、
所定の開口径の篩を用いて測定した時の篩下の質量%を用いる。Mは、石炭の水分含有率(質量%)であり、通常、JIS M8812の工業分析法で測定した水分含有率を用いる。OLは、石炭へのオイル添加率(質量%)である。k1'〜k5'は、重回帰分析で定まる係数である。
【0031】
図1に、微粉炭からなる塊成炭を装入炭として使用しない場合における、推定式Hによる推定発塵量(質量%)と実測発塵量(質量%)の相関を示す。なお、推定式Hによる推定発塵量(質量%)は、特許文献11の推定方法により求めた。塊成炭を装入炭として使用しない場合、推定発塵量(質量%)と実測発塵量(質量%)は極めてよく一致する。
【0032】
しかし、塊成炭と粗粒炭の混合物からなる装入炭を装入する場合において、推定式Hで発塵量を推定すると、
図2に示すように、推定発塵量と実測発塵量(質量%)は相関しない。このことは、推定式Hが、本来無視できない塊成物に起因する微粉の衝撃・発塵効果を考慮していないことに起因する。
【0033】
図3に、微粉炭からなる塊成炭と粗粒炭の混合装入炭を製造する事前処理工程の一態様を示す。
【0034】
粉砕した石炭1を流動床乾燥分級機2に装入し、流動床乾燥分級機2の底部から加熱ガス3を噴出し、石炭1を流動しながら乾燥しつつ粗粒炭4と微粉
炭5に分級する。この際、粗粒炭4と微粉
炭5の分級点は、コークス炉の操業条件によって適宜決められるが、一般的には、乾燥炭の搬送時の発塵を抑制する点から0.5mm程度の分級点で、粗粒炭4と微粉
炭5に分級する。
【0035】
なお、この実施形態では、流動床乾燥分級2を用いて石炭の乾燥及び分級を同時に行っているが、乾燥機を用いて石炭の乾燥後、引き続き、分級機を用いて微粉炭と粗粒炭に分級しても良い。
【0036】
分級後の微粉
炭5は、そのまま、成型機6に搬送されて、塊成炭7に成型される。この塊成炭7は粗粒炭4と混合され、装入炭としてコークス炉炭化室8へ装入される。
【0037】
分級した微粉
炭を塊成炭とすることにより、乾燥炭を分級せずに装入炭とし、コークス炉炭化室に装入する時に比べて、その発塵をかなりの程度まで抑制することができる。
【0038】
しかし、分級した粗粒炭粒子に微粉粒子が付着、または、同伴した状態で分級機2から排出され、そのままの状態で塊成炭と混合され、コークス炉炭化室に装入される残留微粉粒子も多く存在する。
【0039】
この残留微粉粒子が、微粉炭からなる塊成炭と粗粒炭を装入炭としてコークス炉炭化室に装入する場合に、塊成炭による衝撃・発塵効果で発塵する原因であると推定される。この発塵が、
図2に示すように、特許文献11の推定方法を用いた場合の推定発塵量と実測発塵量(質量%)が相関しない原因であることを、次の試験で確認した。
【0040】
図4に試験装置を示す。アクリル製パイプ(φ125×高さ2000mm)14の上部に設置した試料容器10に、所定粒度と量(例えば、1kg)の試料(塊成炭と粗粒炭の混合装入炭)9を充填する。
【0041】
吸引機接続口12に接続した吸引機(図示せず)を作動させ、アクリル製パイプ14の内部に、所定の流速(例えば、実炉相当の3.7m/s)で、空気吹込口15から上方向に空気17を流通させた状態で、上部のスライドゲート11を開き、試料9を重力で落下させる。ここで、吸入流速は、実炉に装入炭を装入する時の炭化室内吸引ガス流速に基づいて設定する。
【0042】
上部のスライドゲート11を開いてから1分間経過後に、吸引装置の作動を停止させ、下部のスライドゲート11を開いて下部のスライドゲート11の上に堆積した石炭試料を試料受器16に収容して、その質量を測定する。
【0043】
発塵量(質量)及び発塵率(質量%)は、以下のようにして求められる。
発塵量(質量)=アクリル製パイプ14の外部に取り出された微紛の質量
=(試料容器10に充填した試料の質量)−(試料受器16に収容した試料の質量)
発塵率(質量%)=[{(試料容器10に充填した試料の質量)−(試料受器16に収容した試料の質量)}/(試料容器10に充填した試料の質量)]×100
【0044】
試料は、塊成炭と粗粒炭の混合物からなる装入炭であるから、発塵量は、塊成炭に起因する微粉の衝撃・発塵効果を含む発塵量である。また、吸引機の吸引流速を、装入炭を実炉に装入する時の炭化室内吸引ガス流速に設定しているから、発塵量は、塊成炭と粗粒炭の混合装入炭を実炉に装入した時の発塵量に相当する。
【0045】
本発明者らは、性状の異なる6種の装入炭からなる試料A〜Fを用意し、
図4に示す試験装置で、発塵率(質量%)を測定した。その結果を、表1に示す。
【0048】
(o)試料Aの発塵率と、(a1)試料B及び試料Cの発塵率との対比から、残留微粉粒子量が減少すると、発塵率も減少し、また、(a2)試料D及び試料Eの発塵率との対比から、残留微粉粒子量をほぼ完全に除去すると、発塵率が大幅に減少する。
【0049】
(p)試料Bと試料Cを対比すると、試料Cは、残留微粉粒子量が少ない(試料Bに比べ25質量%の減)にもかかわらず、試料Cの発塵率(10.6質量%)は、試料Bの発塵率(10.5質量%)と同じである。
【0050】
(q)試料Dと試料Eを対比すると、試料Eは、粗粒炭が少ない(試料Dに比べ25質量%の減)にもかかわらず、試料Eの発塵率(4.4質量%)は、試料Dの発塵率(4.7質量%)と同じである。この場合も、塊成炭による微粉の衝撃・発塵効果が発現していると考えられる。
【0051】
(r)試料F(塊成炭:100質量%)からの発塵はない。
【0052】
上記(p)の試験結果(試料Bと試料Cにおいて、発塵率に差がない)は、次の発塵機構によると考えられる。
【0053】
図5に、装入炭装入時の発塵機構を示す。
図5(a)に、粗粒炭(0.3mm以下の残留微粉粒子:19質量%を含む)の試料Bの場合の発塵機構を示す、
図5(b)に、粗粒炭B:75質量%+塊成炭:25質量%の試料Cの発塵機構を示す。
【0054】
図5(a)に示すように、試料Bの粗粒炭Cc(0.3mm以下の残留微粉粒子Cf:19質量%を含む)の場合、炭化室内に落下すると、落下衝撃により当然のことながら、残留微粉粒子Cfが飛散して発塵する。
【0055】
また、
図5(b)に示すように、試料Cの“試料Bの粗粒炭Cc(0.3mm以下の残留微粉粒子Cf:19質量%を含む):75質量%+塊成炭Cb:25質量%”の場合、炭化室内に落下すると、塊成炭Cbの落下衝撃で、残留微粉粒子Cfが飛散して発塵する。
【0056】
試料Cの場合、元々、含まれている残留微粉粒子Cfの量は、試料Bの粗粒炭に比べ少ないが、塊成炭Cbの落下衝撃で、残留微粉粒子Cfが飛散し、結果的に、発塵率に差が生じなかったと考えられる。
【0057】
上記(o)の試験結果は、
図6に示す別の試験結果からも裏付けられる。
図6に示す試験結果は、装入炭中に含まれる残留微粉粒子の量を同じにし、塊成炭の有無で、発塵率がどの程度変化するかを調査した結果である。この図より、装入炭中に含まれる残留微粉粒子の量が同じでも、塊成炭が存在すると、発塵率は増大することがわかる。
【0058】
上記(p)及び(q)の試験結果は、塊成炭による微粉の衝撃・発塵効果の存在を定量的に裏付けるものである。
【0059】
そこで、本発明者らは、特許文献11の推定式Hを前提に、塊成炭による微粉の衝撃・発塵効果を考慮する推定式を鋭意検討し、下記式(1)で定義する推定式Hdstを創案した。
【0060】
Hdst=k1[HGI]+k2[Gv]+k3[Dp]+k4[M]+k5[OL]
+k6[Mrf]+k7[Rsep]+k8[Mcp]+k9 ・・・(1)
k1〜k9は、重回帰分析で定まる係数である(詳しくは後述する。)。
【0061】
上記式(1)は、微粉の衝撃・発塵効果を考慮して、Mrf:粗粒炭中の微粉の割合(質量%)、Rsep:分級率(質量%)、及び、Mcp:装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子の割合(質量%)に係る新規項を、推定式Hに線形一次結合で追加したことを特徴とする。上記式(1)が、本発明の基礎をなす知見である。
【0062】
粗粒炭中に残留する微粉粒子が飛散して発塵するのであるから、発塵量は、粗粒炭中に残留する微粉粒子の割合(質量%):Mrfに依存する。それ故、粗粒炭中に残留する微粉の割合(質量%):Mrfを、発塵量を定義する上記式(1)に、線形一次結合で組み入れた。
【0063】
また、塊成炭は、微粉粒子の衝撃・発塵効果に関与しており、その割合は、分級率(質量%):Rsepに依存する。それ故、分級率(質量%):Rsepを、発塵量を定義する上記式(1)に、線形一次結合で組み入れた。
【0064】
さらに、
図7(後で説明する。)に示すように、装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子も発塵に関与していることが実験的に判明したので、装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子の割合(質量%):Mcpも、発塵量を定義する上記式(1)に、線形一次結合で組み入れた。
【0065】
図7は、
図4に示す試験装置で測定した、石炭試料の落下前の粒度分布と、落下後の粒度分布を示す図である。
【0066】
図7(a)は、粗粒炭(0.3mm以下の残留微粉粒子:1質量%未満を含む)の試料D(表1、参照)の落下前後の粒度分布を示し、
図7(b)は、「試料Dの粗粒炭:75質量%+塊成炭:25質量%」の試料E(表1、参照)の落下前後の粒度分布を示す。
【0067】
いずれの試料も、0.3mm以下の成分を極力少なくした試料である。なお、
図7(b)に示す粒度分布は、塊成炭を除いた粗粒炭の粒度分布である。
【0068】
図7(a)及び(b)から、粒径0.3〜1mmの石炭粒子においても、落下前後の粒度分布に差が生じることが解る。このことから、塊成炭と粗粒炭の混合物からなる装入炭中の粒径0.3〜1mmの石炭粒子も、塊成炭による微粉の衝撃・発塵効果に関与しているということができるので、装入炭中0.3〜1mmの石炭粒子の割合(質量%):Mcpも、発塵量を定義する上記式(1)に、線形一次結合で組み入れた。
【0069】
本発明者らは、上記式(1)を定義した後、k1〜k9の係数を定めるため、表2に示す水準で、さらに試験を行った。
【0071】
石炭の粉砕性を示す指数として、JIS M 8801で規定されているハードグローブ指数(HGI)を用いた。また、HGIとは別に、実際に粉砕された石炭の粒度を表す指数(Dp)として、3mm以下の石炭粒子の質量割合(質量%)(以下、−3mm%とも記す)を用いた。
【0072】
実測発塵量を目的関数とし、また、石炭の粉砕性指数(HGI)、ガス流速(Gv)、
所定の開口径の篩を用いて測定した時の篩下の質量%(Dp)、石炭の水分含有率(M)、石炭へのオイル添加率(OL)、粗粒炭中の
0.3mm以下の微粉の割合(Mrf)、
微粉炭の分級率(Rsep)、及び、装入炭中の0.3〜1mmの割合(Mcp)を説明変数として、表2に示した値の範囲で重回帰分析を行った。
【0073】
その結果、上記式(1)で用いる係数k1〜k9について、それぞれ、k1=0.0253、k2=0.1756、k3=−0.065、k4=−0.002、k5=−0.258、k6=0.002、k7=−0.076、k8=0.021、及び、k9=7.211が得られた。
【0074】
次に、上記式(1)で定義するHdstの推定精度を確認するため、k1=0.0253、k2=0.1756、k3=−0.065、k4=−0.002、k5=−0.258、k6=0.002、k7=−0.076、k8=0.021、k9=7.211として、Hdstを定め、発塵量の推定値と実測値を対比した。結果の一部を、
図8に示す。
【0075】
図8において、横軸は、前記試験で求めた実測発塵量(質量%)であり、縦軸は、上記k1〜k9で定めたHdstで計算した推定発塵量(質量%)である。
【0076】
実測発塵量(質量%)と推定発塵量(質量%)の相関は極めてよい。よって、上記式(1)で定義するHdstにより、塊成炭を含む装入炭装入時の発塵量を、正確に推定することが可能となる。ただし、上記式(1)で求まる発塵量は、装入炭を炭化室へ装入した時の発塵量である。
【0077】
一般に、実炉において、発塵量は、装入からの時間の経過とともに減少する(Ironmaking Conference Proceedings、AIME、1998年、p.1041〜1051、参照)から、上記式(1)で求まる発塵量を、付着カーボンの成長速度を求める式に組み入れる場合、発塵量が、時間経過とともに減少するように、発塵量を補正する必要がある。この点については、後述する。
【0078】
本発明者らは、特許文献11で、付着カーボンの成長速度を推定する式として、下記式を提案した。
【0079】
Doil-space-fine'
=64.5×Exp(k6'×OL+k7'×W+k8'−7950/T)×VM
×(1−0.0476×M)×Exp{(k9’+k10’×H)×(1−ξ(τ))}
H=k1'[HGI]+k2'[Gv]+k3'[Dp]+k4'[M]+k5'[OL]
OL:石炭へのオイル添加率(質量%)
W:炭化室への石炭装入量(ton)
T:上昇管基部の温度(K)
VM:石炭の揮発分(質量%)
M:石炭の水分含有率(質量%)
H:石炭の発塵量(質量%)
ξ(τ):補正係数
τ:石炭装入後の経過時間(h)
k1'〜k10':係数
【0080】
上記「Doil-space-fine'」の式で、発塵量Hに係る項を、補正係数ξ(τ)で補正する理由について説明する。
【0081】
前述したように、実炉において、発塵量は、時間の経過とともに減少する(Ironmaking Conference Proceedings、AIME、1998年、p.1041〜1051、参照)から、上記式における“Exp(k9'+k10’×H)”の項をそのまま用いると、装入時の発塵量で、乾留1サイクルの発塵量を計算することになり、実態と整合しない。
【0082】
そこで、本発明者らは、発塵量Hの時間経過を、実態と整合させるため、補正係数ξ(τ)を導入した。石炭装入後の経過時間τは、乾留1サイクルに対する相対値として無次元化した時間であるので、0≦ξ(τ)<1の範囲で変化する。
【0083】
上記「Doil-space-fine'」の式は、装入炭が微粉炭からなる塊成炭を含まない場合に、有効に機能するが、装入炭が塊成炭を含む場合、実際の付着カーボンの成長速度と乖離する。
【0084】
本発明者らは、まず、上記式(1)で規定する発塵量Hdstと、付着カーボンの成長速度(kg/m
2/h)との関係を、実験的により調査した。
【0085】
図14に実験装置の概要を示す。まず、石炭供給ホッパー21に石炭18を10kg充填する。次いで、乾留容器24を乾留炉23で加熱し、排気管27内に設置した試験材料19を電気炉20で加熱して、所定の温度まで昇温する。所定の温度に到達したら、石炭供給ホッパー21のスライドゲート25を開いて、石炭18を、乾留容器24内に装入する。
【0086】
乾留容器24内で加熱された石炭から生成した乾留ガスは、排気管27内を上昇して系外へ排気されるが(発生ガスの流れ26、参照)、その途中で、排気管27内に設置した試験材料19の表面に、付着カーボンを生成する。
【0087】
乾留容器24内に装入した石炭の温度は、熱電対(図示せず)で測定し、この温度が1000℃に到達したら、電気炉20と乾留炉23の電源をオフにする。試験材料19の温度が室温近傍まで低下したら、排気管27を開放して試験材料19を取り出し、重量を測定する。
【0088】
初めに測定しておいた試験材料19の重量と、付着カーボンを生成させた時の重量の差から付着カーボン量を算出し、その量を、試験材料の表面積と乾留時間の積で除した値を付着カーボンの成長速度とした。
【0089】
図9に、表1に示す試料A、C、及び、Eについて、試験材料19の温度が835℃と950℃(乾留中の熱電対22の温度の平均温度)で測定した付着カーボンの成長速度(kg/m
2/h)を示す。
図9(a)は、835℃での付着カーボンの成長速度を示し、
図9(b)は、950℃での付着カーボンの成長速度を示す。
【0090】
試料Aは、粗粒炭(0.3mm以下の残留微粉粒子:25質量%を含む)であり、試料Cは、“試料Bの粗粒炭:75質量%+塊成炭:25質量%”であり、試料Eは、“試料Dの粗粒炭(0.3mm以下の残留微粉粒子:1質量%未満を含む):75質量%+塊成炭:25質量%”であるから、発塵量が減少するに従い、付着カーボンの成長速度(kg/m
2/h)は低下する。
【0091】
図10に、発塵量(質量%)と付着カーボンの成長速度(kg/m
2/h)の関係を示す。発塵量を低減することで、カーボンの付着量が低減することは明らかである。なお、カーボンの付着量の低減は、温度が低いほうが大きい。これは、高温ほど、熱分解に由来するカーボンの寄与が大きいことによると考えられる。
【0092】
本発明者らは、以上の調査結果を踏まえ、上記「Doil-space-fine'」の式で、Hを、前記式(1)で定義するHdstに置き換え、乾留1サイクルの間に上昇管の内面に付着するカーボンの水平方向の厚さ:Doil-space-fine(mm/日)を推定する式を、下記式(2)で定義した(基本的には、特許文献11で提案した推定式と同じである。)。
【0093】
Doil-space-fine=64.5×Exp(k10×OL+k11×W+k12−7950/T)
×VM×(1−0.0476×M)
×Exp{(k13+k14×Hdst)×(1−ξ(τ))} ・・・(2)
Hdst=k1[HGI]+k2[Gv]+k3[Dp]+k4[M]+k5[OL]
+k6[Mrf]+k7[Rsep]+k8[Mcp]+k9 ・・・(1)
OL:石炭へのオイル添加率(質量%)
W:炭化室への石炭装入量(ton)
T:上昇管基部の温度(K)
VM:石炭の揮発分(質量%)
M:石炭の水分含有率(質量%)
Hdst:石炭の発塵量(質量%)
ξ(τ):補正係数
τ:石炭装入後の経過時間(h)
HGI:石炭の粉砕性指数
Gv:ガス流速(m/s)
Dp:石炭の粒度指数
Mrf:粗粒炭中の微粉の割合(質量%)
Rsep:分級率(質量%)
Mcp:装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子の割合(質量%)
k1〜k14:係数
【0094】
上記式(2)を実炉の操業に適用する場合、実炉においては、温度、ガス流速、微粉濃度等が時々刻々と変化するので、この変化を踏まえて、より正確に付着カーボン量を推定するためには、下記式(3)に示すように、微小区間毎に付着カーボン量を求め、その総和を用いることが好ましい。
【0095】
Doil-space-fine
=64.5×Σ[Exp(k10×OL+k11×W+k12−7950/Tm(Δτ))
×VM×(1−0.0476×M)
×Exp{(k13+k14×Hdst)×(1−ξm(Δτ))}] ・・・(3)
Δτ:微小時間(乾留1サイクルに対する相対値)
Tm:微小時間Δτにおける温度の平均値(K)
ξm:微小時間Δτにおける補正係数の平均値(−)
【0096】
ここで、上昇管の内面に付着するカーボンの量を、上記式(1)及び(2)に基づいて、精度よく推定し、該推定値に基づいて操業を制御する手順を説明する。
図11に、その手順を示す。
【0097】
装入炭の性状Aとして、石炭の水分含有率、オイル添加率、揮発分、粒度(例えば、3mm以下の石炭粒子の割合(質量%)(以下−3mm%という))、及び、HGIの他、新規要因として、粗粒炭中の微粉割合、分級率、及び、装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子の割合を用いる。
【0098】
なお、装入炭の粒度は、−3mm%に限定されない。篩い粒子径6mm以下の石炭粒子の割合(質量%)(以下−6mm%という)や、0.1mm以下の石炭粒子の割合等、石炭の種類や粉砕の程度、水分含有率によって変化する粒度構成を、正しく表示できる粒度であれば、どのような粒度でもよい。
【0099】
これらの要因に係るデータは、日常の工程分析と、その他、石炭入荷時に実施する分析や、コークス品質を制御する配合や粒度の変更の際に行う分析等により入手できる。
【0100】
一方、炉の操業条件Bとして、石炭装入量と炉壁温度を用いる。石炭装入量は、操業管理データとして入手可能である。炉壁温度は、押出機のラムヘッドに取り付けた温度計で測定する温度が望ましいが、温度計が取り付けられていない場合は、燃焼室温度の実測値から伝熱計算で推定した温度でもよい。なお、炉温管理のために炉体の所定箇所に設置した温度計の指示値を用いることも可能である。
【0101】
まず、石炭の水分含有率、オイル添加率、及び、石炭装入量から、炉頂空間容積を計算する。これは、炭化室の容積と、石炭の装入密度、及び、装入量から計算した充填容積との差から、炉頂空間容積を求める計算である。この炉頂空間容積より、予め求めておいた炭化室の炉頂空間容積と上昇管基部の温度との関係(特許文献11、参照)に基づいて、炉頂空間部の温度を推定する。
【0102】
次に、炉の操業条件から、乾留時のガス発生量を求める。これは、伝熱計算により、コークス炉炭化室の石炭充填層内の温度分布を推定し、石炭からのガス発生量を部位毎、時間毎に求める計算である。得られたガス発生量、炉頂空間容積、及び、炉頂空間温度から、炉頂空間部のガス流速を推定する。
【0103】
得られたガス流速、石炭の水分含有率、オイル添加率、粒度、及び、HGIに加え、新規要因の粗粒炭中の微粉割合、分級率、及び、装入炭中の0.3〜1mmの石炭粒子の割合より、装入時の装入炭の発塵量を、回帰式で推定する。
【0104】
次に、炉頂空間温度と発塵量の各推定値と、石炭水分と揮発分から、最終的な付着カーボン量を推定する。
【0105】
ここで、得られた推定カーボン量(質量)を、付着カーボンの密度で除し“厚さ”に換算する。この“厚さ”を、カーボンが付着している上昇管の内筒径と比較して、閉塞状況を判断する。
【0106】
即ち、付着カーボンが成長して上昇管のガス通過面積をゼロにする時間が、乾留1サイクル(炭化室への石炭装入からコークスの押出し終了まで)より短い場合には、乾留の途中で、上昇管が閉塞する。上昇管の閉塞が予測される場合には、装入炭の性状及び/又は炉の操業条件を、上昇管が閉塞しない条件に変更する。
【0107】
カーボンの付着状況に応じて、装入炭の性状及び/又は炉の操業条件を制御する具体的な方法について説明する。まず、装入炭の性状の制御は、水分の増加、揮発分の低減、粒度のいずれか1又は2以上を調整して行う。オイルの添加率は、発塵量を抑制して付着カーボン量を低減するが、一方で、揮発分を増加させるので、
付着カーボ
ン量が増加するという相反効果があるので、実際には、両者の最適値を見いだすことが望ましい。
【0108】
コークス炉の操業条件において、石炭装入量は、規定の装入レベルを確保する装入量とし、炉壁温度は下げることが
付着カーボ
ン量を低減する点から有効である。しかし、炉壁温度を下げると、乾留時間が長くなり、コークスの生産性が低下するので、通常操業における現実的な対応策は、石炭装入量を確保することである。
【0109】
コークス炉炭化室において、石炭装入量が少なく、規定の装入レベルより低い場合は、炉頂空間容積が増加して、炉頂空間温度が上昇し、
付着カーボ
ン量が増加するので、好ましくない。
【0110】
以上の対策は、炭化室へ石炭を装入する前に行うことが可能な対策である。石炭装入後の閉塞抑制方法は、例えば、特開平9−104869号公報等に開示されているように、(i)炉頂空間温度を低下させて、付着カーボンの生成(成長)速度を低下させる方法、又は、(ii)上昇管のトップカバーを開放して、上昇管の内壁面に付着したカーボンを機械的に除去する方法である。
【0111】
上昇管が閉塞に至らない場合でも、上昇管のガス通過断面積が減少すれば、通気抵抗が増加して、炉内のガス圧が上昇し、炉体からガスが洩れる原因となる。したがって、推定に用いる諸要因が、乾留途中で変化しても、利用可能であれば、時々刻々の付着カーボン量を推定し、乾留のどの時点で上昇管が閉塞するかを推定することが可能となる。
【0112】
ここで、上昇管の閉塞の有無は、完全に閉塞してガスの流通が不可能になる場合を除き、上昇管の内壁面にカーボンが付着した場合の開口部の面積が、付着カーボンがない場合の開口部面積の80質量%以下となったとき、好ましくは、50質量%以下となったときに判断する。
【実施例】
【0113】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0114】
(実施例)
Δτ=0.0139とした上記式(3)に、石炭性状及びコークス炉の操業条件を代入して、上昇管基部の付着カーボン量を、本発明の推定式で推定し、測定した付着カーボン量と比較した。その結果を
図12に示す。推定値と実測値は極めて良く一致している。したがって、本発明の推定式により、上昇管基部に付着するカーボン量を精度良く推定することができる。
【0115】
本発明の推定式により、上昇管基部に付着するカーボン量を推定し、付着カーボンの成長によって、乾留中に上昇管が閉塞することがない管理システムを構築した。この管理システムを実炉の操業に適用し、本発明の上昇管の閉塞防止効果を調査した。その結果を、
図13に示す。
【0116】
図13において、縦軸は、石炭装入からコークス押出しまでの間に、上昇管が閉塞した割合を示す。この割合が低いほど、上昇管が閉塞せずに、好ましい状態にあることを意味する。
【0117】
Aは、本発明を適用する前の従来例であり、Bは、本発明を適用して、装入炭の粒度(−3mm%)を、通常の85質量%から75質量%に下げ、装入時の発塵量を低下させ、微粉の発生を抑制した場合である。
図13から、本発明の推定式に基づく管理システムによれば、上昇管の閉塞率が大きく低下することが解る。