(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の静電荷像現像用トナー、静電荷像現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ及び画像形成装置の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<静電荷像現像用トナー>
本実施形態に係る静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」と称することがある。)は、アルケニル基を有し、アルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数が5%以上である非晶性ポリエステル樹脂と、下記式で表されるエステル基濃度Mが
0.077以上0.08以下の結晶性ポリエステル樹脂と、を含有する結着樹脂を含む。但し、以下の実施形態に係るトナーでは、非晶性ポリエステル樹脂に含まれるアルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数は5%以上20%以下とする。また、結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度Mは
0.077以上0.08以下とし、前記エステル基濃度Mを有する結晶性ポリエステル樹脂は脂肪族系結晶性ポリエステル樹脂とする。
式:エステル基濃度M=K/A
ただし、上記式中、Kは結晶性ポリエステル樹脂中のエステル基数を表し、Aは結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖を構成する原子数を表す。
【0023】
本実施形態のトナーが上記構成であることにより、トナーの帯電性の低下が抑制される。そのため、本実施形態のトナーを用いて画像形成をおこなうと、トナーの帯電性の低下に起因する現像性及び転写性の低下が抑制され、現像性及び転写性の低下によって非画像部へトナーが飛散して起こるカブリ等が抑制される。また、本実施形態のトナーを用いると、例えば高温高湿(例えば、温度35℃、相対湿度50%)環境下において画像形成を行っても、トナーの帯電性の低下に起因する上記現像性及び転写性の低下が抑制される。さらに、本実施形態のトナーを用いると、例えば現像工程に交流電界を用いて画像形成を行っても、上記現像性及び転写性の低下が抑制される。
すなわち、本実施形態のトナーにおいては、トナーの帯電性の低下を抑制するために、エステル基濃度Mが上記範囲である結晶性ポリエステル樹脂と、分岐構造を有するアルケニル基の数が上記範囲である非晶性ポルエステル樹脂と、を組み合わせて用いる。
【0024】
ここで、例えば低温定着性を実現するためにエステル基濃度Mを上記範囲内とすると、エステル基濃度Mが上記範囲よりも低い場合に比べ、結晶性ポリエステル樹脂中のエステル基における運動の自由度が増加し、それに伴いトナーの帯電性が低下すると考えられる。特に、現像工程等においてトナーが電界(特に交流電界)にさらされると、上記エステル基における運動の自由度の増加による影響が大きくなると考えられ、それに起因するトナーの帯電性の低下が顕著になると考えられる。さらに、上記高温高湿環境下での画像形成においても、例えば温度が高いためエステル基の運動が増してトナーの帯電性が低下したり、湿度が高いため水蒸気の影響を受けて帯電性が低下したりすると考えられる。
しかしながら本実施形態のように、エステル基濃度Mが上記範囲内であり、かつ、分岐構造を有するアルケニル基の数を上記範囲とすると、トナーの低温定着性が実現されるだけでなく、トナーの帯電性低下の抑制も実現される。その理由は明確ではないが、次のように推測される。
【0025】
本実施形態のトナーにおいては、結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度Mが上記範囲であるとともに、非晶性ポリエステル樹脂に含まれるアルケニル基全体に対する、分岐構造を有するアルケニル基の数が5%以上である。よって、上記分岐構造を有するアルケニル基の数が5%未満の場合に比べ、非晶性ポリエステル樹脂のアルケニル基が、結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖と、より複雑に絡み合うと考えられる。それにより、本実施形態のトナーでは、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との親和性が高くなるとともに、上記絡み合いにより結晶性ポリエステル樹脂のエステル基における運動の自由度が低下すると考えられる。したがって、上記エステル基濃度Mが上記範囲であっても、エステル基における運動の自由度の増加に起因するトナーの帯電性の低下が抑制され、その帯電性の低下に起因する現像性及び転写性の低下が抑制されると推測される。
【0026】
また、本実施形態のトナーでは、結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度Mが上記範囲内であるため、エステル基濃度Mが上記範囲よりも高い場合に比べ、上記エステル基における運動の自由度の増加に起因するトナーの帯電性の低下は起こりにくい。
さらに本実施形態では、上記エステル基濃度Mが上記範囲内であるため、エステル基濃度Mが上記範囲よりも低い場合に比べ、上記の通りトナーの低温定着性が良好である。ここで「低温定着」とは、トナーを150℃程度以下で加熱して定着させることをいう。なお、本実施形態においてトナーの低温定着性が良好である理由は定かではないが、上記エステル基濃度Mが低すぎることに起因する結晶性ポリエステル樹脂の融点上昇が抑制されるためであると推測される。
【0027】
また、上記エステル基における運動の自由度の増加に起因するトナーの帯電性の低下は、特に結晶性ポリエステル樹脂が脂肪族系ポリエステル樹脂である場合に顕著となると考えられる。その理由は、脂肪族系ポリエステル樹脂の方が、芳香族系ポリエステル樹脂に比べて立体障害が小さく、エステル基が動きやすくなるからと推測される。
しかしながら、本実施形態のトナーを用いれば、結晶性ポリエステル樹脂が芳香族である場合に限られず、脂肪族である場合においても、上記トナーの帯電性の低下が抑制され、それに起因する現像性及び転写性の低下が抑制される。
ここで、結晶性ポリエステル樹脂が脂肪族系ポリエステル樹脂であるとは、結晶性ポリエステル樹脂を構成する構造単位のうち、脂肪族系の構造単位(すなわち、芳香環を有さない構造単位)が75モル%以上であることを言う。
【0028】
また本実施形態においては、特に、非晶性ポリエステル樹脂の分岐構造を有するアルケニル基における分岐部の炭素数が2以上5以下である場合には、分岐部の炭素数が上記範囲から外れる場合に比べて、上記トナーの帯電性の低下が抑制される。その理由は定かではないが、分岐部の炭素数が上記範囲であることにより、分岐部の炭素数が上記範囲よりも小さい場合や大きい場合に比べ、上記分岐構造を有するアルケニル基が結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖とより絡みやすくなるためであると推測される。
ここで、「分岐部」とは、分岐構造を有するアルケニル基のうち、一番長い幹である主鎖を除くその他の部分、すなわちアルケニル基の側鎖部分を意味する。また「分岐部の炭素数」とは、上記側鎖を構成する炭素の数の合計であり、分岐部が複数存在する場合はその複数の分岐部を構成する炭素の数の合計を意味する。
上記分岐部の炭素数は、NMR分析から推定することが可能である。分岐度合いの差異はアルケニルコハク酸の融点に影響を与えることから、分岐度の異なるアルケニルコハク酸は分留により分離することができる。上記分留により得られた分岐度が各々異なるアルケニルコハク酸のH−NMRおよびC−NMRのスペクトルデータを参考に、実際のトナーのNMRにおけるアルケニルコハク酸由来のスペクトル形状を詳細比較することにより、実際のトナー中におけるアルケニルコハク酸の分岐部の炭素数を推定することが可能である。
【0029】
以下、本実施形態において使用される材料、工程条件、評価・分析条件などについて詳細に記載する。
−結着樹脂−
本実施形態に係るトナーには、結着樹脂として、アルケニル基を有する非晶性ポルエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが用いられる。必要に応じて、その他の結着樹脂(例えば、スチレンアクリル系樹脂)などを併用してもよい。ただし、その他の結着樹脂を併用する場合、全結着樹脂に占めるアルケニル基を有する非晶性ポルエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との合計量の割合としては、例えば50質量%以上が挙げられ、70質量%以上であってもよい。
【0030】
結着樹脂の溶融温度やガラス転移温度としては、例えば45℃以上110℃以下の範囲が挙げられ、60℃以上90℃以下の範囲内であってもよい。具体的には、例えば、溶融温度60℃以上90℃以下の結晶性ポリエステル樹脂と、ガラス転移温度50℃以上90℃以下の非晶性ポリエステル樹脂とを組み合わせて、結着樹脂として用いる形態が挙げられる。
【0031】
アルケニル基を有する非晶性ポルエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との混合割合は、結晶性ポリエステル樹脂の溶融温度と非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度との関係を考慮して選択される。なお、一般的には相対的に含有量が多い成分の熱的溶融特性が支配的となるため、低温定着性を阻害しない樹脂成分を選択することが重要である。
【0032】
上記溶融温度は、JIS K−7121に基づいて入力補償示差走査熱量測定の融解ピーク温度として求められる。なお、結晶性ポリエステル樹脂には、複数の融解ピークを示す場合があるが、この場合は、最大のピークをもって溶融温度とみなす。
また、ガラス転移温度は、ASTM D3418−82に規定された方法(DSC法)で測定した値をいう。
【0033】
−結晶性ポリエステル樹脂−
結晶性ポリエステル樹脂は多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とから合成される。なお、本実施形態においては、結晶性ポリエステル樹脂として市販品を使用してもよいし、合成したものを使用してもよい。以下に、結晶性ポリエステル樹脂の合成に好適な多価カルボン酸成分および多価アルコール成分について説明する。
【0034】
多価カルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸等の二塩基酸等の芳香族ジカルボン酸、などが挙げられ、さらに、これらの無水物やこれらの低級アルキルエステルも挙げられるがこの限りではない。
【0035】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸等、及びこれらの無水物やこれらの低級アルキルエステルなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、多価カルボン酸成分としては、前述の脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸の他に、スルホン酸基を持つジカルボン酸成分が含まれていてもよい。
スルホン酸基を持つジカルボン酸としては、例えば、2−スルホテレフタル酸ナトリウム塩、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩、スルホコハク酸ナトリウム塩等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの低級アルキルエステル、酸無水物等も挙げられる。これらスルホン酸基を有する2価以上のカルボン酸成分の含有量としては、ポリエステルを構成する全カルボン酸成分に対して、例えば1モル%以上15モル%以下の範囲が挙げられ、2モル%以上10モル%以下の範囲であってもよい。
【0037】
さらに、前述の脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸の他に、2重結合を持つジカルボン酸成分を含有してもよい。ジカルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、3−ヘキセンジオイック酸、3−オクテンジオイック酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの低級エステル、酸無水物等も挙げられる。
【0038】
多価アルコール成分としては、例えば、脂肪族ジオールが挙げられ、具体的には、例えば、主鎖部分の炭素数が7以上20以下である直鎖型脂肪族ジオールが挙げられる。前記炭素数としては14以下であってもよい。
【0039】
結晶性ポリエステルの合成に好適に用いられる脂肪族ジオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,14−エイコサンデカンジオールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち例えば、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールが特に挙げられる。
【0040】
3価以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
多価アルコール成分のうち、脂肪族ジオール成分の含有量としては、全ジオール成分のうち80モル%以上が挙げられ、90モル%以上であってもよい。
【0042】
なお、必要に応じて、酸価や水酸基価の調製等の目的で、酢酸、安息香酸等の1価の酸や、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等の1価のアルコールを使用してもよい。
【0043】
結晶性ポリエステル樹脂の『結晶性』とは、示差走査熱量測定において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することを指し、具体的には、昇温速度10℃/minで測定した際の吸熱ピークの半値幅が6℃以内であることを意味する。一方、半値幅が6℃を超える樹脂や、明確な吸熱ピークが認められない樹脂は、非晶性樹脂を意味するが、本実施形態において用いられる非晶性樹脂としては、明確な吸熱ピークが認められない樹脂が用いられてもよい。
【0044】
また、前記の「結晶性ポリエステル樹脂」は、その構成成分が100%ポリエステル構造のポリマー以外にも、ポリエステルを構成する成分と他の成分とを共に重合してなるポリマー(共重合体)も意味する。但し、後者の場合には、ポリマー(共重合体)を構成するポリエステル以外の他の構成成分が50質量%以下である。
【0045】
ポリエステル樹脂の酸価(樹脂1gを中和するに必要なKOHのmg数)としては、例えば、1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下の範囲が挙げられる。ポリエステル樹脂の酸価は、原料の多価カルボン酸と多価アルコールとの配合比と反応率により、ポリエステルの末端のカルボキシル基を制御することによって調整される。又は、ポリエステル樹脂の酸価は、多価カルボン酸成分として無水トリメリット酸を使用することによってポリエステルの主鎖中にカルボキシル基を含有させることで調整される。
【0046】
本実施形態においては、上記の通り、エステル基濃度Mが上記範囲内である。
ここで、エステル基濃度Mは、上記の通り下記式で表され、下記式中、Kは結晶性ポリエステル樹脂中のエステル基数を表し、Aは結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖を構成する原子数を表す。
式:エステル基濃度M=K/A
【0047】
なお、上記エステル基濃度Mは、結晶性ポリエステル樹脂におけるエステル基の含有割合を示す一つの指標である。また上記式中のKで表される「結晶性ポリエステル樹脂中のエステル基数」は、結晶性ポリエステル樹脂全体に含まれるエステル結合の数を指す。
【0048】
さらに上記式中のAで表される「結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖を構成する原子数」は、結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖を構成する原子の数の合計であり、エステル結合に関与する原子数は全て含むが、その他の構成部位における枝分かれした部分の原子数は含まない。即ち、エステル結合に関与するカルボキシル基やアルコール基に由来する炭素原子および酸素原子(1つのエステル結合中酸素原子は2個)や、高分子鎖を構成する、例えば芳香環における6つの炭素は、前記原子数の計算に含まれるが、高分子鎖を構成する、例えば芳香環やアルキル基における水素原子、その置換体の原子又は原子群は、前記原子数の計算に含まれない。
【0049】
具体例を挙げて説明すれば、高分子鎖を構成するアリーレン基における、炭素原子6つと水素原子4つとの計10個の原子のうち、前記「結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖を構成する原子数」に含まれるものは、炭素原子の6つのみであり、また、水素原子がいかなる置換基に置換されたとしても、当該置換基を構成する原子は、前記「結晶性ポリエステル樹脂の高分子鎖を構成する原子数」に含まれない。
【0050】
例えば結晶性ポリエステル樹脂が、1の繰り返し単位(例えば、高分子化合物がH
O[−COR
1COOR
2O−]
nHで表される場合、1の繰り返し単位は、[ ]内で表される。R
1及びR
2は二価の基を、nは1以上の整数を表す。)のみからなる単重合体の場合には、1の繰り返し単位内には、エステル結合は2個存在する(即ち、当該繰り返し単位内におけるエステル基数K’=2)ので、エステル基濃度Mは、下記式により、求められる。
式:エステル基濃度M=2/A’
(上記式中、A’は1の繰り返し単位における高分子鎖を構成する原子数を表す。)
本明細書に記載のエステル基濃度Mは、以上の算出方法によって求めた値である。
【0051】
尚、完成品である電子写真用トナーからのエステル基濃度Mの算出は、まず、トナーよりトルエン可溶分を除去したのち、結晶性樹脂を分離し、NMR等の分析により、ポリマー構造を同定し、エステル基濃度Mが算出される。
【0052】
結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度Mを上記範囲に制御する手段としては、例えば、エステル基濃度が上記範囲となるような酸・アルコールのモノマーを選択し重縮合する方法が挙げられる。また、エステル基濃度Mが上記範囲である結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、上記多価カルボン酸成分として1,10−ドデカン二酸を用い、上記多価アルコール成分として1,9−ノナンジオールを用いたものが挙げられる。
なお、トナーの帯電性の低下がさらに抑制されるエステル基濃度Mとしては、例えば、
0.077以上0.08以下の範囲が挙げられる。
【0053】
−非晶性ポリエステル樹脂−
本実施形態において使用される非晶性ポリエステル樹脂は、アルケニル基を有し、アルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数が5%以上である。
【0054】
ここで、上記分岐構造を有するアルケニル基の数は、以下のようにして測定される。具体的には、例えば、分岐構造を有するアルケニルコハク酸を意図的に使用して非晶性ポリエステル樹脂を作製し、その
1H−NMR測定を行う。そして、分岐構造を有するアルケニル基の数に対する
1H−NMRスペクトルのアルケニル基に由来するピーク強度の検量線を作成し、目的の試料における
1H−NMR測定の結果と比較することにより、上記含有量が推測される。
【0055】
具体的には、例えば、ドデセニル基を有する非晶性ポリエステル樹脂について測定を行う場合は、分岐構造を有するドデセニルコハク酸を使用して非晶性ポリエステル樹脂を作製して
1H−NMR測定を行う。そして、用いたドデセニルコハク酸中における分岐構造を有するドデセニルコハク酸の割合が5モル%以上20モル%以下の範囲において、
1H−NMRスペクトルの形状が異ならないことを確認する。その上で、分岐構造を有するドデセニルコハク酸の割合が20モル%のものと、分岐構造を有するドデセニルコハク酸の割合が5モル%以下のものとを用い、添加量の比率を変えて、分岐構造を有するドデセニル基の数が異なる4種類の非晶性ポリエステル樹脂を作製する。そして、この4種類の非晶性ポリエステル樹脂を用いて検量線を作成する。
【0056】
非晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸と多価アルコールとを脱水縮合して合成される。アルケニル基を有する非晶性ポリエステル樹脂を合成する方法としては、例えば、多価カルボン酸成分として、アルケニル基を有するアルケニルコハク酸を用いる方法が挙げられる。
上記アルケニルコハク酸としては、例えば炭素数12以上18以下のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸が挙げられ、具体的には、例えば、炭素数12のアルケニル基を有するドデセニルコハク酸、炭素数16のアルケニル基を有するヘキサデセニルコハク酸、炭素数17のアルケニル基を有するヘプタデセニルコハク酸、及び炭素数18のアルケニル基を有するオクタデセニルコハク酸等が挙げられる。また、それらのうち特に入手が容易なものとしては、例えば、炭素数12のアルケニルコハク酸、すなわちドデセニルコハク酸が挙げられる。ドデセニルコハク酸を多価カルボン酸として用いることにより、炭素数12のアルケニル基(すなわちドデセニル基)を有する非晶性ポリエステル樹脂が合成される。
【0057】
また、上記の通り、本実施形態においては、アルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数が5%以上である。この非晶性ポリエステル樹脂を合成する方法としては、例えば、アルケニル基を有するアルケニルコハク酸のうち、分岐構造を有するアルケニルコハク酸の割合が5モル%以上であるものを、多価カルボン酸として用いる方法が挙げられる。
【0058】
また、上記分岐構造を有するアルケニルコハク酸の割合が5モル%以上であるものを得る方法としては、例えば、分岐構造を有するアルケンの割合が5モル%以上であるアルケンを用いてアルケニルコハク酸を合成する方法が挙げられる。
ここで、分岐構造を有するアルケンの割合が5モル%以上であるアルケンを得る方法としては、例えば、上記アルケンを分留することにより、分岐構造を有するアルケンの割合を5モル%以上とする方法が挙げられる。上記分留は、例えば、分岐構造の有無や分岐部の炭素数によってアルケンの沸点が異なることを利用して行われる。
【0059】
非晶性ポリエステル樹脂中のアルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数は、上記の通り5%以上であるが、7%以上であってもよく、10%以上であってもよい。
【0060】
多価カルボン酸としては、上記アルケニル基を有するアルケニルコハク酸以外のものを併用してもよい。非晶性ポリエステル樹脂の合成に用いる多価カルボン酸のうち、上記アルケニル基を有するアルケニルコハク酸の割合としては、例えば、5質量%以上35質量%以下が挙げられ、10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0061】
上記以外の多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、などの芳香族カルボン酸類、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アルケニル無水コハク酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸類が挙げられる。
【0062】
多価アルコールの例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、などの脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール類が挙げられる。これら多価アルコールの1種又は2種以上を用いてもよい。これら多価アルコールのうち、芳香族ジオール類、脂環式ジオール類を用いてもよく、このうち芳香族ジオールであってもよい。また良ジオールとともに3価以上の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール)を併用してもよい。
【0063】
なお、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合によって得られたポリエステル樹脂に、さらにモノカルボン酸、および/またはモノアルコールを加えて、重合末端のヒドロキシル基、および/またはカルボキシル基をエステル化し、ポリエステル樹脂の酸価を調整しても良い。モノカルボン酸としては酢酸、無水酢酸、安息香酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸等が挙げられる。モノアルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、トリフルオロエタノール、トリクロロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、フェノールなどが挙げられる。
【0064】
本実施形態に用いられるポリエステル樹脂は上記多価アルコールと多価カルボン酸とを常法に従って縮合反応させることによって製造してもよい。例えば、上記多価アルコールと多価カルボン酸、必要に応じて触媒を入れ、温度計、撹拌器、流下式コンデンサを備えた反応容器に配合し、不活性ガス(窒素ガス等)の存在下、150℃以上250℃以下で加熱し、副次的に生成する低分子化合物を連続的に反応系外に除去し、予め定められた酸価に達した時点で反応を停止させ、冷却し、目的とする反応物が取得される。
【0065】
ポリエステル樹脂の合成に使用する触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド等の有機金属やテトラブチルチタネート等の金属アルコキシドなどのエステル化触媒が挙げられる。触媒の添加量は、原材料の総量に対して0.01質量%以上1.00重量%以下の範囲で使用される。
【0066】
−その他の非晶性樹脂−
本実施形態においては、非晶性ポリエステル樹脂と共に、非晶性ポリエステル樹脂以外のその他の非晶性樹脂を併用してもよい。本実施形態に係るトナーに用いられるその他の非晶性樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性結着樹脂などが挙げられ、具体的には、例えば、スチレン、パラクロロスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類の単独重合体又は共重合体(スチレン系樹脂);アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のビニル基を有するエステル類の単独重合体又は共重合体(ビニル系樹脂);アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体又は共重合体(ビニル系樹脂);ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類の単独重合体又は共重合体(ビニル系樹脂);ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類の単独重合体又は共重合体(ビニル系樹脂);エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン類の単独重合体又は共重合体(オレフィン系樹脂);エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテル樹脂等の非ビニル縮合系樹脂、及びこれらの非ビニル縮合系樹脂とビニル系モノマーとのグラフト重合体などが挙げられる。
【0067】
これらその他の非晶性樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの樹脂の中でもビニル系樹脂を用いてもよい。
【0068】
ビニル系樹脂の場合、イオン性界面活性剤などを用いて乳化重合やシード重合により樹脂粒子分散液が容易に調製される点で有利である。前記ビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ビニルスルフォン酸、エチレンイミン、ビニルピリジン、ビニルアミンなどのビニル系高分子酸やビニル系高分子塩基の原料となるモノマーが挙げられる。
【0069】
−着色剤−
本実施形態のトナーには、必要に応じて着色剤が含まれていてもよい。
着色剤としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;ベンガラ、紺青、酸化チタン等の無機顔料;ファストイエロー、ジスアゾイエロー、ピラゾロンレッド、キレートレッド、ブリリアントカーミン、パラブラウン等のアゾ顔料;銅フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン顔料;フラバントロンイエロー、ジブロモアントロンオレンジ、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料;等が挙げられる。
【0070】
着色剤として、さらに具体的には、例えば、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラロゾンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、デュポンオイルレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ローズベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、マラカイトグリーンオクサレート、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・57:1、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3などの種々の顔料などが挙げられ、これらを1種のみ使用してもよく、2種以上を併せて使用してもよい。
【0071】
また、必要に応じて表面処理された着色剤を使用してもよく、顔料分散剤を併用してもよい。そして、これらの着色剤の種類を選択することにより、イエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナー等が得られる。
着色剤の含有量としては、例えば、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下が挙げられ、1質量部以上20質量部以下でもよく、1質量部以上10質量部以下でもよく、2質量部以上10質量部以下でもよく、2質量部以上7質量部以下でもよい。
【0072】
−離型剤−
本実施形態のトナーには、必要に応じて離型剤を用いてもよい。
離型剤としては、例えば、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス等の天然ワックス、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、サゾールワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス等の合成或いは鉱物・石油系ワックス;脂肪酸エステル、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス;などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、これらの離型剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0073】
離型剤の融点としては、保存性の観点から、例えば60℃以上が挙げられ、70℃以上であってもよい。また離型剤の融点としては、低温定着(例えば150℃以下における定着)時における耐オフセット性の観点から、例えば110℃以下が挙げられ、100℃以下であってもよい。さらには、融点が100℃以下の離型剤と、融点が100℃を超える離型剤とを、併用して用いてもよい。
離型剤の含有量としては、例えば、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下の範囲内が挙げられ、2質量部以上20質量部以下の範囲内であってもよい。
【0074】
−内添剤−
内添剤は、例えば湿式法により添加が行われてもよい。内添剤としては、例えば、フェライト、マグネタイト、還元鉄、コバルト、ニッケル、マンガン等の金属、合金、またはこれら金属を含む化合物などの磁性体等が挙げられる。
【0075】
帯電制御剤としては、例えば4級アンモニウム塩化合物、ニグロシン系化合物、アルミ、鉄、クロムなどの錯体を含む染料、トリフェニルメタン系顔料などが挙げられる。
また、無機粉体は、トナーの粘弾性調整を目的として添加されてもよい。無機粉体の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、燐酸カルシウム、酸化セリウム等のトナー表面の外添剤として使用されるすべての無機粒子が挙げられる。
【0076】
−外添剤−
トナー母粒子表面に乾式法により添加される外添剤としては、無機粒子や有機粒子が挙げられる。
【0077】
無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、塩化セリウム、ベンガラ、酸化クロム、酸化セリウム、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。中でも、シリカ粒子や酸化チタン粒子であってもよく、疎水化処理された粒子であってもよい。
【0078】
無機粒子は、一般に流動性を向上させる目的で使用される。前記無機粒子の1次粒径としては、1nm以上200nm未満が好ましく、その添加量としては、トナー母粒子100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下であってもよい。
【0079】
また、有機粒子は、一般にクリーニング性や転写性を向上させる目的で使用されてもよい。有機粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0080】
−トナーの諸物性−
トナーの溶融温度は、特に限定されるものではないが、45℃以上110℃以下の範囲内であってもよく、60℃以上90℃以下の範囲内であってもよい。
この溶融温度はJIS K−7121に基いて入力補償示差走査熱量測定の融解ピーク温度として求められる。
【0081】
本実施形態に係るトナーの体積平均粒径としては、1μm以上20μm以下であってもよく、2μm以上8μm以下であってもよく、また、個数平均粒径としては、1μm以上20μm以下であってもよく、2μm以上8μm以下であってもよい。
ここで、体積平均粒径および個数平均粒径は、コールターマルチサイザーII(コールター社製)を用い、電解液はISOTON−II(コールター社製)を使用して測定される。
【0082】
上記体積平均粒径および個数平均粒径の測定に際しては、分散剤として界面活性剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの5質量%水溶液2ml中に測定試料を0.5mg以上50mg以下の範囲で加える。これを電解液100mlないし150mlの中に添加する。
試料を懸濁した電解液は超音波分散器で1分間分散処理を行い、コールターマルチサイザーII型により、アパーチャー径として100μmアパーチャーを用いて2μm以上50μm以下の範囲にある粒子の粒度分布を測定する。なお、サンプリングする粒子数は50000個である。
【0083】
このようにして測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャネル)に対して体積、数をそれぞれ小径側から累積分布を描いて、累積16%となる粒径を累積体積平均粒径D16v、累積数平均粒径D16p、累積50%となる粒径を累積体積平均粒径D50v、累積数平均粒径D50p、累積84%となる粒径を累積体積平均粒径D84v、累積数平均粒径D84pと定義する。
【0084】
ここで、体積平均粒径は累積体積平均粒径D50vとして求められ、個数平均粒径は累積数平均粒径D50pとして求められる。
【0085】
−トナーの製造方法−
本実施形態に係るトナーの製造方法としては、例えば、乳化凝集・合一法を利用して作製する方法が挙げられる。ここで、トナーの作製に際しては、例えば、トナーを構成する各材料を水系分散液に分散させた分散液(樹脂粒子分散液等)を準備する(乳化工程)。続いて、樹脂粒子分散液や、その他必要に応じて用いられる各種の分散液(着色剤分散液や離型剤分散液等)を混合して原料分散液を準備する。
次に、原料分散液中で、凝集粒子を形成する凝集粒子形成工程と、凝集粒子を融合する融合工程とを経て、トナー母粒子を得る。なお、コア粒子と、このコア粒子を被覆するシェル層とを有するいわゆるコアシェル構造型のトナーを作製する場合には、例えば、凝集粒子形成工程を終えた後の原料分散液に、樹脂粒子分散液を添加して(トナー化した際にコア粒子となる)凝集粒子表面に樹脂粒子を付着させて(トナー化した際にシェル層となる)被覆層を形成する被覆層形成工程を実施し、その後に融合工程を実施する。なお、被覆層形成工程に用いる樹脂成分は、コア粒子を構成する樹脂成分と同一であっても異なっていてもよいが、通常は、非晶性樹脂が用いられる。
【0086】
以下、各工程について詳細に説明する。
−乳化工程−
凝集粒子形成工程に用いる原料分散液を準備するために、乳化工程では、トナーを構成する主要な材料を、水系媒体中に分散させた乳化分散液を調整する。以下、樹脂粒子分散液や、着色剤分散液、離型剤分散液等について説明する。
【0087】
−樹脂粒子分散液−
樹脂粒子分散液中に分散する樹脂粒子の体積平均粒径としては、例えば0.01μm以上1μm以下の範囲が挙げられ、0.03μm以上0.8μm以下であってもよく、0.03μm以上0.6μmであってもよい。
なお、樹脂粒子等、原料分散液中に含まれる粒子の体積平均粒径は、レーザー回析式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−700)で測定される。
【0088】
樹脂粒子分散液やその他の分散液に用いられる分散媒としては、例えば水系媒体が挙げられる。
前記水系媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水、アルコール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記水系媒体に界面活性剤を添加混合しておいてもよい。
【0089】
界面活性剤としては特に限定されるものでは無いが、例えば、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系、せっけん系等のアニオン界面活性剤;アミン塩型、4級アンモニウム塩型等のカチオン界面活性剤;ポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系等の非イオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも特に、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が挙げられる。前記非イオン系界面活性剤は、前記アニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤と併用されてもよい。前記界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
なお、前記アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどが挙げられる。また、前記カチオン界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0091】
樹脂粒子が、ポリエステル樹脂である場合、中和によりアニオン型となり得る官能基を含有しているため自己水分散性をもっており、親水性となり得る官能基の一部又は全部が塩基で中和された、水性媒体の作用下で水分散体を形成する。
【0092】
ポリエステル樹脂において中和により親水性基と成り得る官能基はカルボキシル基やスルホン酸基等の酸性基である為、中和剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の無機塩基や、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミンなどの有機塩基が挙げられる。
【0093】
ポリエステル樹脂を用いて樹脂粒子分散液を調整する場合は、転相乳化法を利用してもよい。なお、ポリエステル樹脂以外の結着樹脂を用いて樹脂粒子分散液を調整する場合にも転相乳化法を利用してもよい。転相乳化法とは、分散すべき樹脂を、その樹脂が可溶な疎水性有機溶剤中に溶解せしめ、有機連続相(O相)に塩基を加えて、中和したのち、水媒体(W相)を投入することによって、W/OからO/Wへの、樹脂の変換(いわゆる転相)が行われて不連続相化し、樹脂を、水媒体中に粒子状に分散する方法である。
【0094】
この転相乳化に用いられる有機溶剤としては例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が例示される。これらの溶剤は単一でも、また2種以上を併用して使用してもよい。
【0095】
転相乳化に用いる有機溶媒の溶媒量に関しては、樹脂の物性により所望の分散粒径を得るための溶媒量が異なるため、一概に決定することは困難である。しかし、本実施形態においては、錫化合物触媒の樹脂中の含有量が通常のポリエステル樹脂に対して多量であるため、樹脂重量に対する溶媒量は比較的多くてもよい。
【0096】
結着樹脂を水中に分散させる場合、必要に応じて樹脂中のカルボキシル基の一部または全部を中和剤によって中和してもよい。中和剤としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機アルカリ、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−nプロピルアミン、ジメチルn−プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン等のアミン類等が挙げられ、これらから選ばれるところの1種または2種以上を使用してもよい。これらの中和剤を添加することによって、乳化の際のpHを中性に調節し、得られるポリエステル樹脂分散液の加水分解が防止される。
【0097】
また、この転相乳化の際に分散粒子の分散や水系媒体の増粘防止を目的として、分散剤を添加してもよい。該分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウムの等の水溶性高分子、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等のアニオン界面活性剤、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のノニオン性界面活性剤等の界面活性剤、リン酸三カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の無機化合物等が挙げられる。これらの分散剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。分散剤は、結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下添加してもよい。
【0098】
転相乳化の際の乳化温度は、有機溶剤の沸点以下でかつ、結着樹脂の溶融温度あるいはガラス転移温度以上であればよい。乳化温度が結着樹脂の溶融温度あるいはガラス転移温度未満の場合、樹脂粒子分散液を調整することが困難となる。なお、有機溶剤の沸点以上で乳化する場合は、加圧密閉された装置で乳化を行えば良い。
【0099】
樹脂粒子分散液に含まれる樹脂粒子の含有量は通常、5質量%以上50質量%以下であってもよく、10質量%以上40質量%以下であってもよい。含有量が前記範囲外にあると、樹脂粒子の粒度分布が広がり、特性が悪化する場合がある。
【0100】
−着色剤分散液−
着色剤分散液を調整する際の分散方法としては、例えば回転せん断型ホモジナイザーや、メディアを有するボールミル、サンドミル、ダイノミルなどの一般的な分散方法を使用してもよく、なんら制限されるものではない。必要に応じて、界面活性剤を使用して着色剤の水分散液を調製したり、分散剤を使用して着色剤の有機溶剤分散液を調製したりしてもよい。分散に用いる界面活性剤や分散剤としては、結着樹脂を分散させる際に用い得る分散剤と同様のものを用いてもよい。
また、原料分散液を調整する際に、着色剤分散液は、その他の粒子を分散させた分散液と共に一度に混合してもよいし、分割して多段回で添加混合してもよい。
着色剤分散液に含まれる着色剤の含有量としては、例えば、5質量%以上50質量%以下が挙げられ、10質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0101】
−離型剤分散液−
離型剤分散液は、ポリエステル樹脂以外の結着樹脂を乳化分散する場合と同様、例えば、離型剤を水中にイオン性界面活性剤等と共に分散し、離型剤の溶融温度以上に加熱し、ホモジナイザーや圧力吐出型分散機を用いて強い剪断力を印加することにより調製される。これにより、例えば体積平均粒径が1μm以下の離型剤粒子を分散させる。また、離型剤分散液における分散媒としては、例えば結着樹脂に用いる分散媒と同様のものを用いてもよい。
【0102】
なお、結着樹脂や着色剤等を分散媒と混合して、乳化分散させる装置としては、例えばホモミキサー(プライミックス株式会社)、あるいはスラッシャー(三井鉱山株式会社)、キャビトロン(株式会社ユーロテック)、マイクロフルイダイザー(みずほ工業株式会社)、マントン・ゴーリンホミジナイザー(ゴーリン社)、ナノマイザー(ナノマイザー株式会社)、スタティックミキサー(ノリタケカンパニー)などの連続式乳化分散機等が利用される。
【0103】
なお、目的に応じて、例えば、結着樹脂分散液に、既述した離型剤、内添剤、帯電制御剤、無機粉体等の成分を分散させておいてもよい。
【0104】
また、結着樹脂、着色剤、離型剤以外のその他の成分の分散液を調整する場合、この分散液中に分散する粒子の体積平均粒径としては、例えば1μm以下が挙げられ、0.01μm以上0.5μm以下であってもよい。
【0105】
−凝集粒子形成工程−
凝集粒子形成工程においては、例えば、樹脂粒子分散液の他に、着色剤分散液及び離型剤分散液を加え、必要に応じて添加されるその他の分散液を混合して得られた原料分散液に対して、凝集剤を更に添加して加熱し、これらの粒子を凝集させた凝集粒子を形成する。なお、上記加熱においては、例えば、結晶性ポリエステル樹脂の溶融温度付近(溶融温度±20℃)の温度で、且つ、溶融温度以下の温度にて加熱し、これらの粒子を凝集させた凝集粒子を形成する。
【0106】
凝集粒子の形成は、例えば、上記原料分散液を回転せん断型ホモジナイザーで攪拌下、室温で凝集剤を添加し、原料分散液のpHを酸性にすることによってなされる。また、加熱による急凝集を抑える為に、室温で攪拌混合している段階でpH調整を行ない、必要に応じて分散安定剤を添加してもよい。
なお、本実施形態において「室温」とは25℃をいう。
【0107】
凝集粒子形成工程に用いられる凝集剤としては、例えば、原料分散液に添加される分散剤として用いる界面活性剤と逆極性の界面活性剤、すなわち無機金属塩の他、2価以上の金属錯体が好適に用いられる。特に、凝集剤として金属錯体を用いた場合には、界面活性剤の使用量が低減され、帯電特性が向上する。
また、凝集剤の金属イオンと錯体もしくは類似の結合を形成する添加剤を必要に応じて用いてもよい。この添加剤としては、キレート剤が好適に用いられる。
【0108】
ここで、無機金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩、および、ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシウム等の無機金属塩重合体などが挙げられる。その中でも特に、アルミニウム塩およびその重合体が好適である。よりシャープな粒度分布を得るためには、無機金属塩の価数が1価より2価、2価より3価、3価より4価の方が、また、同じ価数であっても重合タイプの無機金属塩重合体の方が、より適している。
【0109】
また、キレート剤としては、水溶性のキレート剤を用いてもよい。
キレート剤としては、例えば、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシカルボン酸、イミノジ酸(IDA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などが挙げられる。
【0110】
キレート剤の添加量としては、例えば、結着樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5.0質量部以下の範囲内が挙げられ、0.1質量部以上3.0質量部未満であってもよい。
なお、キレート剤は、凝集粒子形成工程や被覆層形成工程の実施中や実施前後において添加されるものであるが、添加に際して原料分散液の温度調整は必要なく、室温のまま加えてもよいし、凝集粒子形成工程や被覆層形成工程での槽内温度に調節した上で加えてもよい。
【0111】
−被覆層形成工程−
凝集粒子形成工程を経た後には、必要であれば被覆層形成工程を実施してもよい。被覆層形成工程では、上記した凝集粒子形成工程を経て形成された凝集粒子の表面に、被覆層形成用の樹脂粒子を付着させることにより被覆層を形成する。これにより、いわゆるコアシェル構造を有するトナーが得られる。
【0112】
被覆層の形成は、凝集粒子形成工程において凝集粒子(コア粒子)を形成した原料分散液中に、例えば非晶性樹脂粒子を含む樹脂粒子分散液を追添加することにより行われる。
なお、被覆層形成工程を終えた後は、融合工程が実施されるが、被覆層形成工程と融合工程とを交互に繰り返し実施することにより、被覆層を多段階に分けて形成してもよい。
【0113】
−融合工程−
凝集粒子形成工程、あるいは、凝集粒子形成工程および被覆層形成工程を経た後に実施される融合工程では、これらの工程を経て形成された凝集粒子を含む懸濁液のpHを6.5以上8.5以下程度の範囲にすることにより、凝集の進行を停止させる。
そして、凝集の進行を停止させた後、加熱を行うことにより凝集粒子を融合させる。結着樹脂の溶融温度以上の温度で加熱を行うことにより凝集粒子を融合させてもよい。
【0114】
−洗浄、乾燥工程等−
凝集粒子の融合工程を終了した後、洗浄工程、固液分離工程、乾燥工程を経て所望のトナー粒子を得る。洗浄工程では、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸の水溶液でトナー粒子に付着した分散剤を除去後、ろ液が中性になるまでイオン交換水などで洗浄する。また、固液分離工程としては、特に制限はないが、例えば、吸引濾過、加圧濾過等が挙げられる。さらに、乾燥工程も特に制限はないが、例えば、凍結乾燥、フラッシュジェット乾燥、流動乾燥、振動型流動乾燥等が挙げられる。
【0115】
乾燥工程では、通常の振動型流動乾燥法、スプレードライ法、凍結乾燥法、フラッシュジェット法などの方法を採用してもよい。この際、トナー粒子の乾燥後の含水分率としては、例えば、1.0質量%以下が挙げられ、0.5質量%以下に調整してもよい。
また、乾燥後のトナー粒子には、既述した種々の外添剤を必要に応じて添加してもよい。
【0116】
<静電荷像現像剤>
本実施形態に係る静電荷像現像剤(以下、単に「現像剤」と称することがある。)は、本実施形態に係るトナーを含むものであれば特に限定されず一成分現像剤あるいは二成分現像剤のいずれであってもよい。二成分現像剤として用いる場合にはトナーと、キャリアとを混合して使用される。
【0117】
二成分現像剤に使用し得るキャリアとしては、特に制限はなく、例えば酸化鉄、ニッケル、コバルト等の磁性金属、フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物や、これら芯材表面に樹脂被覆層を有する樹脂コートキャリア、磁性分散型キャリア等が挙げられる。またキャリアは、マトリックス樹脂に導電材料などが分散された樹脂分散型キャリアであってもよい。
【0118】
キャリアに使用される被覆樹脂・マトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、オルガノシロキサン結合からなるストレートシリコーン樹脂またはその変性品、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
導電材料としては、例えば、金、銀、銅といった金属やカーボンブラック、更に酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、酸化スズ、カーボンブラック等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
またキャリアの芯材としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の磁性金属、フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物、ガラスビーズ等が挙げられるが、キャリアを磁気ブラシ法に用いるためには、磁性材料であってもよい。
キャリアの芯材の体積平均粒径としては、例えば、10μm以上500μm以下の範囲が挙げられ、30μm以上100μm以下であってもよい。
【0121】
またキャリアの芯材の表面を樹脂被覆する方法としては、例えば、前記被覆樹脂、および必要に応じて各種添加剤を溶媒に溶解した被覆層形成用溶液により被覆する方法が挙げられる。溶媒としては、特に限定されるものではなく、使用する被覆樹脂、塗布適性等を勘案して選択すればよい。
【0122】
具体的な樹脂被覆方法としては、例えば、キャリアの芯材を被覆層形成用溶液中に浸漬する浸漬法、被覆層形成用溶液をキャリアの芯材表面に噴霧するスプレー法、キャリアの芯材を流動エアーにより浮遊させた状態で被覆層形成用溶液を噴霧する流動床法、ニーダーコーター中でキャリアの芯材と被覆層形成用溶液とを混合し、溶剤を除去するニーダーコーター法等が挙げられる。
【0123】
前記二成分現像剤におけるトナーとキャリアとの混合比(重量比)としては、例えば、トナー:キャリア=1:100乃至30:100の範囲が挙げられ、3:100乃至20:100の範囲であってもよい。
【0124】
<画像形成装置>
次に、本実施形態に係る静電荷像現像用トナーを用いた本実施形態に係る画像形成装置について説明する。
本実施形態に係る画像形成装置は、感光体(像保持体)と、前記感光体を帯電する帯電手段と、帯電した前記感光体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成手段と、前記感光体上に形成された前記静電荷像を本実施形態に係る静電荷像現像剤によりトナー像として現像する現像手段と、前記トナー像を被転写体上に転写する転写手段と、前記トナー像を定着する定着手段と、を有するものである。
【0125】
なお、この画像形成装置において、例えば前記現像手段を含む部分が、画像形成装置本体に対して脱着するカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよく、該プロセスカートリッジとしては、上記本実施形態の静電荷像現像剤を収容する現像手段を備えたプロセスカートリッジが好適に用いられる。
以下、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示すが、これに限定されるわけではない。なお、図に示す主用部を説明し、その他はその説明を省略する。
【0126】
図1は、4連タンデム方式のカラー画像形成装置を示す概略構成図である。
図1に示す画像形成装置は、色分解された画像データに基づくイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を出力する電子写真方式の第1乃至第4の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10K(画像形成手段)を備えている。これらの画像形成ユニット(以下、単に「ユニット」と称する場合がある)10Y、10M、10C、10Kは、水平方向に互いに予め定められた距離離間して並設されている。なお、これらユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成装置本体に対して脱着するプロセスカートリッジであってもよい。
【0127】
各ユニット10Y、10M、10C、10Kの図面における上方には、各ユニットを通して中間転写体としての中間転写ベルト20が延設されている。中間転写ベルト20は、図における左から右方向に互いに離間して配置された駆動ローラ22および中間転写ベルト20内面に接する支持ローラ24に巻きつけて設けられ、第1のユニット10Yから第4のユニット10Kに向う方向に走行されるようになっている。尚、支持ローラ24は、図示しないバネ等により駆動ローラ22から離れる方向に力が加えられており、両者に巻きつけられた中間転写ベルト20に張力が与えられている。また、中間転写ベルト20の像保持体側面には、駆動ローラ22と対向して中間転写体クリーニング装置30が備えられている。
また、各ユニット10Y、10M、10C、10Kの現像装置(現像手段)4Y、4M、4C、4Kのそれぞれには、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kに収められたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーが供給される。
【0128】
上述した第1乃至第4のユニット10Y、10M、10C、10Kは、同等の構成を有しているため、ここでは中間転写ベルト走行方向の上流側に配設されたイエロー画像を形成する第1のユニット10Yについて代表して説明する。尚、第1のユニット10Yと同等の部分に、イエロー(Y)の代わりに、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を付した参照符号を付すことにより、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kの説明を省略する。
【0129】
第1のユニット10Yは、像保持体として作用する感光体1Yを有している。感光体1Yの周囲には、感光体1Yの表面を予め定められた電位に帯電させる帯電ローラ2Y、帯電された表面を色分解された画像信号に基づくレーザ光線3Yよって露光して静電荷像を形成する露光装置(静電荷像形成手段)3、静電荷像に帯電したトナーを供給して静電荷像を現像する現像装置(現像手段)4Y、現像したトナー像を中間転写ベルト20上に転写する1次転写ローラ5Y(1次転写手段)、および1次転写後に感光体1Yの表面に残存するトナーを除去する感光体クリーニング装置(クリーニング手段)6Yが順に配置されている。
尚、1次転写ローラ5Yは、中間転写ベルト20の内側に配置され、感光体1Yに対向した位置に設けられている。更に、各1次転写ローラ5Y、5M、5C、5Kには、1次転写バイアスを印加するバイアス電源(図示せず)がそれぞれ接続されている。各バイアス電源は、図示しない制御部による制御によって、各1次転写ローラに印加する転写バイアスを可変する。
【0130】
以下、第1ユニット10Yにおいてイエロー画像を形成する動作について説明する。まず、動作に先立って、帯電ローラ2Yによって感光体1Yの表面が−600V乃至−800V程度の電位に帯電される。
感光体1Yは、導電性(20℃における体積抵抗率:1×10
−6Ωcm以下)の基体上に感光層を積層して形成されている。この感光層は、通常は高抵抗(一般の樹脂程度の抵抗)であるが、レーザ光線3Yが照射されると、レーザ光線が照射された部分の比抵抗が変化する性質を持っている。そこで、帯電した感光体1Yの表面に、図示しない制御部から送られてくるイエロー用の画像データに従って、露光装置3を介してレーザ光線3Yを出力する。レーザ光線3Yは、感光体1Yの表面の感光層に照射され、それにより、イエロー印字パターンの静電荷像が感光体1Yの表面に形成される。
【0131】
静電荷像とは、帯電によって感光体1Yの表面に形成される像であり、レーザ光線3Yによって、感光層の被照射部分の比抵抗が低下し、感光体1Yの表面の帯電した電荷が流れ、一方、レーザ光線3Yが照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成される、いわゆるネガ潜像である。
このようにして感光体1Y上に形成された静電荷像は、感光体1Yの走行に従って予め定められた現像位置まで回転される。そして、この現像位置で、感光体1Y上の静電荷像が、現像装置4Yによって可視像(現像像)化される。
【0132】
現像装置4Y内には、例えば、少なくともイエロートナーとキャリアとを含む静電荷像現像剤が収容されている。イエロートナーは、現像装置4Yの内部で攪拌されることで摩擦帯電し、感光体1Y上に帯電した帯電荷と同極性(負極性)の電荷を有して現像剤ロール(現像剤保持体)上に保持されている。そして感光体1Yの表面が現像装置4Yを通過していくことにより、感光体1Y表面上の除電された潜像部にイエロートナーが静電的に付着し、潜像がイエロートナーによって現像される。
現像効率、画像粒状性、階調再現性等の観点から、直流成分に交流成分を重畳させたバイアス電位(現像バイアス)を現像剤保持体に付与してもよい。具体的には、現像剤保持体直流印加電圧Vdcを−300乃至−700Vとしたとき、現像剤保持体交流電圧ピーク幅Vp−pを0.5乃至2.0kVの範囲としてもよい。
イエローのトナー像が形成された感光体1Yは、引続き予め定められた速度で走行され、感光体1Y上に現像されたトナー像が予め定められた1次転写位置へ搬送される。
【0133】
感光体1Y上のイエロートナー像が1次転写位置へ搬送されると、1次転写ローラ5Yに1次転写バイアスが印加され、感光体1Yから1次転写ローラ5Yに向う静電気力がトナー像に作用され、感光体1Y上のトナー像が中間転写ベルト20上に転写される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と逆極性の(+)極性であり、例えば第1ユニット10Yでは制御部に(図示せず)よって+10μA程度に制御されている。
一方、感光体1Y上に残留したトナーはクリーニング装置6Yで除去されて回収される。
【0134】
また、第2のユニット10M以降の1次転写ローラ5M、5C、5Kに印加される1次転写バイアスも、第1のユニットに準じて制御されている。
こうして、第1のユニット10Yにてイエロートナー像の転写された中間転写ベルト20は、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kを通して順次搬送され、各色のトナー像が重ねられて多重転写される。
【0135】
第1乃至第4のユニットを通して4色のトナー像が多重転写された中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20と中間転写ベルト内面に接する支持ローラ24と中間転写ベルト20の像保持面側に配置された2次転写ローラ(2次転写手段)26とから構成された2次転写部へと至る。一方、記録紙(被転写体)Pが供給機構を介して2次転写ローラ26と中間転写ベルト20とが圧接されている隙間に予め定められたタイミングで給紙され、2次転写バイアスが支持ローラ24に印加される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と同極性の(−)極性であり、中間転写ベルト20から記録紙Pに向う静電気力がトナー像に作用され、中間転写ベルト20上のトナー像が記録紙P上に転写される。尚、この際の2次転写バイアスは2次転写部の抵抗を検出する抵抗検出手段(図示せず)により検出された抵抗に応じて決定されるものであり、電圧制御されている。
【0136】
この後、記録紙Pは定着装置(ロール状定着手段)28における一対の定着ロールの接触部へと送り込まれトナー像が加熱され、色重ねしたトナー像が溶融されて、記録紙P上へ定着される。
【0137】
トナー像を転写する被転写体としては、例えば、電子写真方式の複写機、プリンター等に使用される普通紙、OHPシート等が挙げられる。
【0138】
カラー画像の定着が完了した記録紙Pは、排出部へ向けて搬出され、一連のカラー画像形成動作が終了される。
なお、上記例示した画像形成装置は、中間転写ベルト20を介してトナー像を記録紙Pに転写する構成となっているが、この構成に限定されるものではなく、感光体から直接トナー像が記録紙に転写される構造であってもよい。
なお、本実施形態に係る画像形成装置において、トナーカートリッジには本実施形態に係るトナーが納められる。また、現像装置には本実施形態に係るトナーとキャリアとを含む本実施形態に係る現像剤が収容される。
【0139】
<プロセスカートリッジ、トナーカートリッジ>
図2は、本実施形態に係る静電荷像現像剤を収容するプロセスカートリッジの好適な一例の実施形態を示す概略構成図である。プロセスカートリッジ200は、現像装置111とともに、感光体107、帯電ローラ108、感光体クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117を取り付けレール116を用いて組み合わせ、そして一体化したものである。なお、
図2において符号300は被転写体を示す。
そして、このプロセスカートリッジ200は、転写装置112と、定着装置115と、図示しない他の構成部分とから構成される画像形成装置本体に対して着脱自在としたものであり、画像形成装置本体とともに画像形成装置を構成するものである。
【0140】
図2で示すプロセスカートリッジ200では、感光体107、帯電装置108、現像装置111、クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117を備えているが、これら装置は選択的に組み合わせてもよい。本実施形態のプロセスカートリッジでは、現像装置111のほかには、感光体107、帯電装置108、クリーニング装置(クリーニング手段)113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117から構成される群から選択される少なくとも1種を備えてもよい。
【0141】
次に、本実施形態に係るトナーカートリッジについて説明する。本実施形態に係るトナーカートリッジは、画像形成装置に着脱されるように装着され、少なくとも、前記画像形成装置内に設けられた現像手段に供給するためのトナーを収容するトナーカートリッジにおいて、前記トナーが既述した本実施形態に係る静電荷像現像用トナーとしたものである。なお、本実施形態に係るトナーカートリッジには少なくともトナーが収容されればよく、画像形成装置の機構によっては、例えば現像剤が収められてもよい。
【0142】
従って、トナーカートリッジが着脱される構成を有する画像形成装置においては、本実施形態に係る静電荷像現像用トナーを収めたトナーカートリッジを利用することにより、本実施形態に係る静電荷像現像用トナーが容易に現像装置に供給される。
【0143】
なお、
図1に示す画像形成装置は、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kが着脱する構成を有する画像形成装置であり、現像装置4Y、4M、4C、4Kは、各々の現像装置(色)に対応したトナーカートリッジと、図示しないトナー供給管で接続されている。また、トナーカートリッジ内に収納されているトナーが少なくなった場合には、このトナーカートリッジが交換される。
【0144】
本実施形態においては、像保持体として感光体を用いているが、これに限られず、例えば誘電記録体でもよい。
また像保持体として電子写真感光体を用いる場合、帯電手段としては、例えば、コロトロン帯電器、接触帯電器等が挙げられる。また転写手段においてコロトロン帯電器を用いてもよい。
【0145】
−画像形成方法−
本実施形態の画像形成方法は、上記の通り、像保持体表面に静電潜像を形成する潜像形成工程と、現像剤保持体に保持された現像剤を用いて像保持体表面に形成された静電潜像を現像してトナー画像を形成する現像工程と、像保持体表面に形成されたトナー画像を被転写体表面に転写する転写工程と、被転写体表面に転写されたトナー画像を熱定着する定着工程と、を少なくとも有するものであり、現像剤として上記本実施形態の静電荷像現像用トナーを含む現像剤を用いる。本実施形態の画像形成方法は、上記工程以外の工程を含むものであってもよい。
【実施例】
【0146】
以下、実施例および比較例を挙げ、本実施形態をより具体的に詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
なお、以下に示す実施例16〜実施例22は、本発明に対する参考例として示すものである。
【0147】
<トナーの作製>
−結晶性樹脂粒子分散液1の調製−
加熱乾燥した三口フラスコに、1,10−ドデカン二酸(多価カルボン酸)250質量部、1,9−ノナンジオール(多価アルコール)150質量部、触媒としてジブチル錫オキサイド0.4質量部とを入れ、その後減圧操作により、三口フラスコ内の空気を窒素に置換して不活性雰囲気下として、機械攪拌により180℃、5時間攪拌し、且つ還流して反応を進行させた。反応中には、反応系内において生成した水を留去した。その後、減圧下において、230℃まで徐々に昇温し、3時間攪拌して粘稠な状態となったところでGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ;ポリスチレン換算)にて分子量を確認し、重量平均分子量25000になったところで、反応を停止し結晶性ポリエステル樹脂(結晶性樹脂1)を得た。
【0148】
ついで、この結晶性ポリエステル樹脂350質量部と、メチルエチルケトン210質量部、イソプロピルアルコール61.8質量部をセパラブルフラスコに入れ、これを40℃で充分混合、溶解した後、10質量%アンモニア水溶液を16.24質量部滴下した。加熱温度を65℃に下げ、攪拌しながらイオン交換水を送液ポンプを用いて送液速度8g/minで滴下し、液が白濁したのち、送液速度12g/minに上げ、総液量が1400質量部になったところで、イオン交換水の滴下を止めた。その後、減圧下で溶媒の除去を行い、結晶性樹脂粒子分散液1を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及びエステル基濃度Mを表1に示す。
【0149】
−結晶性樹脂粒子分散液2から結晶性樹脂粒子分散液5の調製−
結晶性樹脂粒子分散液1の調製において、表1に示す多価カルボン酸及び多価アルコールを用いた以外は、同様の方法にて結晶性樹脂粒子分散液2から結晶性樹脂粒子分散液5を作製した。樹脂粒子の体積平均粒子径、固形分濃度、及びエステル基濃度Mを表1に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
−非晶性樹脂粒子分散液1の調製−
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物525質量部、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物225質量部、テレフタル酸375質量部、フマル酸20質量部、分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が3)の割合が15モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸1)120質量部、分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が3)の割合が2モル%未満であるドデセニルコハク酸(コハク酸2)180質量部、ジブチル錫オキサイド6質量部、を加熱乾燥した三口フラスコに入れた後、減圧操作により容器内の空気を減圧し、さらに窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械攪拌にて230℃、常圧(101.3kPa)にて10時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して無水トリメリット酸を75質量部添加し、1時間反応させた後、8kPaにて軟化温度が120℃になるまで反応させ、非晶性ポリエステル樹脂(非晶性樹脂1)を得た。
なお、樹脂の軟化温度はフローテスター(島津製作所、CFT−5000)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出し、試料の半量が流出した温度とした。
【0152】
ついで、不溶分を除去した後の非晶性ポリエステル樹脂350質量部と、メチルエチルケトン245質量部と、イソプロピルアルコール70質量部、10質量%アンモニア水溶液11.2質量部とをセパラブルフラスコに入れ、混合、溶解した後、40℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水を送液ポンプを用いて送液速度8g/minで滴下した。液が白濁した後、送液速度12g/minに上げて転相させ、送液量が1050質量部になったところで滴下を止めた。その後減圧下で溶剤除去を行い、非晶性樹脂粒子分散液1を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0153】
−非晶性樹脂粒子分散液2、非晶性樹脂粒子分散液5、非晶性樹脂粒子分散液6、非晶性樹脂粒子分散液9、及び非晶性樹脂粒子分散液10の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1及びコハク酸2の添加量を表2のようにした以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0154】
−非晶性樹脂粒子分散液3の調製−
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物675質量部、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物75質量部、テレフタル酸300質量部、上記コハク酸1を120質量部、上記コハク酸2を180質量部、ジブチル錫オキサイド6質量部、を加熱乾燥した三口フラスコに入れた後、減圧操作により容器内の空気を減圧し、さらに窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械攪拌にて230℃、常圧(101.3kPa)にて10時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。180℃まで冷却してフマル酸300質量部、ハイドロキノン1.5質量部を添加し、210℃まで4時間かけて昇温した後、1時間反応させた後、8kPaにて軟化温度が110℃になるまで反応させ、非晶性ポリエステル樹脂(非晶性樹脂3)を得た。
【0155】
ついで、不溶分を除去した後の非晶性ポリエステル樹脂350質量部と、メチルエチルケトン175質量部と、イソプロピルアルコール61.8質量部、10質量%アンモニア水溶液12.3質量部とをセパラブルフラスコに入れ、混合、溶解した後、40℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水を送液ポンプにて送液速度8g/minで滴下した。液が白濁した後、送液速度12g/minに上げて転相させ、送液量が1050質量部になったところで滴下を止めた。その後減圧下で溶剤除去を行い、非晶性樹脂粒子分散液3を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0156】
−非晶性樹脂粒子分散液4、非晶性樹脂粒子分散液7、及び非晶性樹脂粒子分散液8の調製−
非晶性樹脂粒子分散液3の調整において、コハク酸1及びコハク酸2の添加量を表2のようにした以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0157】
−非晶性樹脂粒子分散液11の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1、コハク酸2、及び分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が3)の割合が20モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸3)の添加量を表2のようにした以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0158】
−非晶性樹脂粒子分散液12の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1、コハク酸2、及び分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が2)の割合が15モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸4)の添加量を表2のようにした以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0159】
−非晶性樹脂粒子分散液13の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1、コハク酸2、及び分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が4)の割合が15モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸5)の添加量を表2のようにした以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0160】
−非晶性樹脂粒子分散液14の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1及びコハク酸2の代わりに、分岐構造を有するトリデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が3)の割合が15モル%であるトリデセニルコハク酸(コハク酸6)を用い、その添加量を表2のようにした以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径、固形分濃度、及び分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表2に示す。
【0161】
【表2】
【0162】
−非晶性樹脂粒子分散液15の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1、コハク酸2、及び分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が1)の割合が15モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸7)を300質量部用いた以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は164nmであり、固形分濃度は40質量%であり、分岐構造を有するアルケニル基の数の割合は15モル%であった。
【0163】
−非晶性樹脂粒子分散液16の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1、コハク酸2、及び分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が5)の割合が15モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸8)を300質量部用いた以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は166nmであり、固形分濃度は40質量%であり、分岐構造を有するアルケニル基の数の割合は15モル%であった。
【0164】
−非晶性樹脂粒子分散液17の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1、コハク酸2、及び分岐構造を有するドデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が6)の割合が15モル%であるドデセニルコハク酸(コハク酸9)を300質量部用いた以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は164nmであり、固形分濃度は40質量%であり、分岐構造を有するアルケニル基の数の割合は15モル%であった。
【0165】
−非晶性樹脂粒子分散液18の調製−
非晶性樹脂粒子分散液1の調整において、コハク酸1及びコハク酸2の代わりに、分岐構造を有するヘキサデセニルコハク酸(分岐部の炭素数が3)の割合が15モル%であるヘキサデセニルコハク酸(コハク酸10)を300質量部用いた以外は、同様の操作を実施し、非晶性樹脂粒子分散液を得た。得られたポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は165nmであり、固形分濃度は40質量%であり、分岐構造を有するアルケニル基の数の割合は15モル%であった。
【0166】
−離型剤分散液1の調製−
・エステルワックスWEP5(日本油脂(株)製):500質量部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株):ネオゲンRK):50質量部
・イオン交換水:1700質量部
以上を110℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザ(ゴ−リン社)で分散処理し、平均粒径が0.180μmである離型剤を分散させてなる離型剤分散液1(離型剤濃度:31.1重量%)を調製した。
【0167】
−着色剤分散液1の調製−
・シアン顔料(大日精化(株)製、Pigment Blue 15:3(銅フタロシアニン)):1000質量部
・アニオン界面活性剤(第一工業製薬社製:ネオゲンRK):150質量部
・イオン交換水:9000質量部
以上を混合し、溶解し、高圧衝撃式分散機アルティマイザー((株)スギノマシン製、HJP30006)を用いて1時間分散して着色剤(シアン顔料)を分散させてなる着色剤分散液1を調製した。着色剤分散液における着色剤(シアン顔料)の平均粒径は、0.136μm、着色剤粒子濃度は25.1重量%であった。
【0168】
−トナー1の作製−
・結晶性樹脂粒子分散液1 57質量部
・非晶性樹脂粒子分散液1 310質量部
・着色剤分散液1 62質量部
・アニオン性界面活性剤(Dowfax2A1 20%水溶液) 15質量部
・離型剤分散液1 77質量部
【0169】
pHメーター、攪拌羽、温度計を具備した重合釜に、上記原料のうち、結晶性樹脂粒子分散液1、非晶性樹脂粒子分散液1、アニオン性界面活性剤及びイオン交換水250質量部を入れ、130rpmで15分間攪拌しながら、界面活性剤をポリエステル樹脂粒子分散液になじませた。これに着色剤分散液1および離型剤分散液1を加え混合した後、この原料混合物に0.3Mの硝酸水溶液を加えて、pHを4.8に調製した。ついで、ウルトラタラックスにより3000rpmでせん断力を加えながら、凝集剤として硫酸アルミニウムの10%硝酸水溶液13質量部を滴下した。この凝集剤滴下の途中で、原料混合物の粘度が増大するので、粘度上昇した時点で、滴下速度を緩め、凝集剤が一箇所に偏らないようにした。凝集剤の滴下が終了したら、さらに回転数5000rpmに上げて5分間攪拌し、凝集剤と原料混合物を充分混合した。
【0170】
ついで上記原料混合物をマントルヒーターにて25℃に加温しながら500rpmで攪拌した。10分攪拌後、コールターマルチサイザーII(アパーチャー径:50μm;コールター社製)を用いて一次粒径が形成するのを確認した後、凝集粒子を成長させるために0.1℃/分で43℃まで昇温した。凝集粒子の成長はコールターマルチサイザーを用いて随時確認するが、その凝集速度によって、凝集温度や攪拌の回転数を変えた。
【0171】
一方、凝集粒子被覆用として、非晶性樹脂粒子分散液1を171質量部に対し、イオン交換水118質量部、アニオン性界面活性剤(Dowfax2A1 20%水溶液)8.2質量部を加えて混合し、予めpH3.8に調製し、被覆用樹脂粒子分散液とした。上記凝集工程で凝集粒子が5.2μmに成長したところで、予め調製した被覆用樹脂粒子分散液を加え、攪拌しながら20分間保持した。その後、被覆した凝集粒子の成長を停止させるために、EDTAを1.5pph添加した後、1Mの水酸化ナトリウム水溶液を加え、原料混合物のpHを7.6に制御した。ついで、凝集粒子を融合させるために、pHを7.6に調整しながら昇温速度1℃/minで85℃まで昇温した。85℃に達してからは、融合を進めるためにpHを7.6もしくはそれ未満に調整し、光学顕微鏡で凝集粒子が融合したのを確認した後、粒径の成長を停止させる為に、氷水を注入して降温速度10℃/分で急冷した。
【0172】
ついで、得られた粒子を洗浄する目的で、15μmメッシュで一度篩分した。その後、固形分に対しておよそ10倍量のイオン交換水(30℃)を加え、20分攪拌した後、一旦濾過を行った。さらにろ紙上に残った固形分をスラリーに分散して、30℃のイオン交換水で4回繰り返し洗浄を行い、乾燥させ、体積平均粒径5.8μmのトナー粒子1を得た。
【0173】
上記作製したトナー粒子1を100質量部に対し、チタニア粉末(綜研化学社製)を1.2質量部添加し、攪拌混合機にて外添してトナー1を得た。
トナー1の体積平均粒径は5.8μmであった。トナーに含まれる非晶性ポリエステル樹脂のアルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表3に示す。
【0174】
−トナー2からトナー41の作製−
トナー1の作製において、用いた結晶性樹脂粒子分散液及び非晶性樹脂粒子分散液の種類を表3から表5のようにした以外は、同様の作業を行い、トナーを得た。なお、非晶性樹脂粒子分散液を二種類用いている場合は、二種類の非晶性樹脂粒子を等量ずつ用い、合計でトナー1の場合と同じ添加量となるようにした。トナーの体積平均粒径はいずれも5.8μmであった。トナーに含まれる非晶性ポリエステル樹脂のアルケニル基のうち分岐構造を有するアルケニル基の数の割合を表3から表5に示す。
【0175】
<実施例、比較例>
ポリメチルメタアクリレート樹脂(Mw:80000、綜研化学社製)を1%コートした体積平均粒径が35μmのフェライトキャリアに対し、トナー濃度が5%になるように表3から表5に記載したトナーを秤量し、ボールミルで5分間攪拌、混合して現像剤を作製した。
画像形成装置には、現像器の現像バイアスとして直流成分と交流成分とのどちらも印加されるように改造した富士ゼロックス社製カラー複写機DocuCentreII−C3300を用いた。上記現像バイアスは、具体的には、直流バイアスとして−520V,交流バイアスとしてVpp1.5kVを各々独立に印加した。
上記改造機を画像形成装置として用い、これに前記現像剤を装填し、直流バイアス又はと交流バイアスを印加した現像条件でトナー載り量を15.0g/m
2に調整して画像出しを行い、以下の低温定着性評価及びカブリ評価を行った。
【0176】
−低温定着性評価−
具体的には、まず、前記画像形成装置から定着装置を取り外し、未定着画像を採取した。画像条件は25mm×25mmのソリッド画像で、トナー載り量は15.0g/m
2、記録紙は富士ゼロックス社製JD紙を使用した。
次いで、DocuCentreII−C3300の定着器を定着温度が100℃から200℃まで5℃おきに変わるように改造して、定着温度を段階的に上昇させながら、前記未定着画像の定着性を評価した。
なお、定着性は、離型不良による画像欠損のない良好な定着画像を折り曲げて50g重の荷重をかけ、その部分の画像欠損度合いを観察し、多少の画像の剥がれが観測されるものの実用上の問題がないと判断されるレベル以上となる定着温度を最低定着温度として、低温定着性の指標とした。得られた結果を表3から表5に示す。
【0177】
−カブリ評価−
上記のDocuCentreII−C3300改造機を用いて、温度35℃、相対湿度50%の環境条件において、同様に直流バイアス又は交流バイアスを印加した現像条件で5000枚の連続印刷を行った後、感光体表面及び定着画像の画像評価を目視にてカブリの観点から実施した。
【0178】
定着後の画像に関するカブリ評価について、以下の判断基準により評価した。得られた結果を表3から表5に示す。
○○○○:感光体表面及び定着画像にカブリが全く見られない。
○○○ :感光体表面にカブリが見られるが、定着画像にカブリが見られない。
○○ :定着画像にごく軽微なカブリが見られるが、実使用上問題ない。
○ :定着画像に若干カブリが見られるが、実使用上許容される。
× :定着画像に若干カブリが見られ、実使用上許容されない。
×× :定着画像のカブリが顕著であり、実使用上明らかに許容されない。
【0179】
【表3】
【0180】
【表4】
【0181】
【表5】
【0182】
上記表に示すように、実施例においては、比較例に比べ、現像工程において交流電界を用いた場合においても、温度35℃、相対湿度50%の環境条件において、カブリが抑制されることが分かる。
一方、非晶性ポリエステル樹脂における分岐構造を有するアルケニル基の数の割合が上記範囲よりも低い比較例1から比較例6及び比較例13から比較例18においては、実施例に比べ、カブリが抑制されていないことが分かる。
また、非晶性ポリエステル樹脂中にアルケニルコハク酸を含有しない比較例19では、トナーが形成されなかった。