特許第5779877号(P5779877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5779877溶接材料におけるビード領域の画像を取り込むための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779877
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】溶接材料におけるビード領域の画像を取り込むための装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20150827BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20150827BHJP
【FI】
   B23K26/00 P
   B23K26/21 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-284818(P2010-284818)
(22)【出願日】2010年12月21日
(65)【公開番号】特開2012-130939(P2012-130939A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100118407
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 尚美
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100125036
【弁理士】
【氏名又は名称】深川 英里
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100162330
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 幹規
(72)【発明者】
【氏名】石田 英伸
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−082129(JP,A)
【文献】 特開2002−144065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接材料におけるビード領域の画像を取り込むための装置であって、
前記溶接材料に溶接用レーザを照射するレーザ照射部と、
該レーザ照射部から照射される前記溶接用レーザを制御するレーザ照射制御部と、
前記溶接材料上の前記溶接用レーザを照射した部分の画像を連続的に取得するモニタ部と、
前記モニタ部によって取得された画像を記憶する記憶部と、
前記画像内の平均輝度が所定の画像取込用閾値以下の場合に前記記憶部から前記画像を取得する画像取込部と
を備え、
前記レーザ照射制御部には、溶接開始点から溶接終了点までの本溶接部分の情報と、前記溶接開始点に連続する予備溶接部分の情報とが設定されており、前記レーザ照射部は、前記溶接開始点から溶接を開始する前に、前記予備溶接部分を溶接用レーザによって照射するように構成され、前記画像取込部が、前記溶接開始点から前記溶接終了点までのビード領域の画像を取得するようになっており、
前記レーザ照射部は、予備溶接を行う際に、前記溶接材料が溶融する閾値未満の出力値で前記溶接用レーザを照射するように構成され、
前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間で前記溶接用レーザを連続して照射するように構成され、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間でビード領域が連続するようになっていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記予備溶接部分の長さは、前記溶接開始点から前記溶接終了点までの長さの半分であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記レーザ照射部は、前記溶接用レーザとしてディフォーカスレーザを更に備えており、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分を前記ディフォーカスレーザで照射するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記溶接材料の溶接箇所が複数ある場合、前記レーザ照射制御部には、前記1つ前の溶接の溶接終了点と次の溶接開始点との間が前記予備溶接部分として設定されており、
前記レーザ照射部は、前記1つ前の溶接の溶接終了点と前記次の溶接開始点との間で予備溶接を行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接材料に溶接用レーザを照射した際に形成されるビード領域の画像を取り込むための装置に関するものである。詳しくは、本発明は、レーザ溶接による溶接を行う際、溶接直後に金属からの熱発光が残っている極めて短い時間内に、ビード領域の画像を高速カメラで取得する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ溶接などによる溶接を行う際に、レーザ溶接における溶接欠陥を判定するために、カメラや光センサなどでビード領域からの信号を検出し、その検出信号を解析する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、溶接プロセス中に熱放射光センサ及び反射光センサを用いて溶接箇所からの信号を検出し、この検出信号の経時変化を溶接条件に対応する基準データテーブルと比較し、溶接可能な状態かを判定している。特許文献1では、溶接プロセスの開始から終了まで判定を行い、溶接の溶接割れや溶接欠陥を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−326134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ溶接の溶接欠陥を判定する場合、溶接プロセスの開始から終了までの全体を判定することが望ましいが、レーザ溶接直後の熱発光を利用してセンサやカメラでビード領域の画像を取得する場合、以下のような問題がある。
【0006】
図8は、円弧状に溶接した場合の残熱発光の度合いを示した図であり、図9は、直線状に溶接した場合の残熱発光の度合いを示した図である。
図8及び図9に示すように、溶接プロセスの前半部分F,Fは熱発光が弱く、溶接プロセスの後半部分F,Fは強くなっている。このように残熱発光が観察されるのは、溶接材料はもともと常温で冷え切った状態になっているので、前半部分F,Fでは、溶接用レーザで溶接を行っても溶接材料への熱逃げや時間経過による熱逃げが大きくなり、ビード領域からの残熱発光が弱くなるためである。一方、後半部分F,Fでは、溶接を開始してからある程度時間が経過しているので、溶接材料に熱が蓄積しており、溶接材料への熱逃げや時間経過による熱逃げが小さく、ビード領域からの残熱発光が強くなる。
【0007】
したがって、従来では、熱発光が強い溶接プロセスの後半部分F,Fでは、ビード領域の画像をカメラで取得して、穴欠陥の判定のために使用することができた。一方、溶接プロセスの前半部分F,Fにおいては、黒体放射式に基づく赤外線は放射されているが、熱発光が弱く、可視域の感度を有するカメラでは、ビード領域の画像を捉えることができなかった。したがって、溶接プロセスの全体で溶接欠陥の判定を行うことができなかった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、溶接プロセスの前半部分及び後半部分の全体において、ビード領域の穴欠陥の判定に用いることができる画像を取り込むことが可能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記従来技術の有する課題を解決するために、溶接材料におけるビード領域の画像を取り込むための装置であって、前記溶接材料に溶接用レーザを照射するレーザ照射部と、該レーザ照射部から照射される前記溶接用レーザを制御するレーザ照射制御部と、前記溶接材料上の前記溶接用レーザを照射した部分の画像を連続的に取得するモニタ部と、前記モニタ部によって取得された画像を記憶する記憶部と、前記画像内の平均輝度が所定の画像取込用閾値以下の場合に前記記憶部から前記画像を取得する画像取込部とを備え、前記レーザ照射制御部には、溶接開始点から溶接終了点までの本溶接部分の情報と、前記溶接開始点に連続する予備溶接部分の情報とが設定されており、前記レーザ照射部は、前記溶接開始点から溶接を開始する前に、前記予備溶接部分を溶接用レーザによって照射するように構成され、前記画像取込部が、前記溶接開始点から前記溶接終了点までのビード領域の画像を取得するようになっており、前記レーザ照射部は、予備溶接を行う際に、前記溶接材料が溶融する閾値未満の出力値で前記溶接用レーザを照射するように構成され、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間で前記溶接用レーザを連続して照射するように構成され、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間でビード領域が連続するようになっている装置が提供される。
【0012】
また、本発明に係る装置の別の実施態様によれば、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間で前記溶接用レーザの出力値を低下させるように構成され、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間でビード領域が連続しないようになっている。
【0013】
また、本発明に係る装置の別の実施態様によれば、前記予備溶接部分の長さは、前記溶接開始点から前記溶接終了点までの長さの半分である。
【0014】
また、本発明に係る装置の別の実施態様によれば、前記レーザ照射部は、前記溶接用レーザとしてディフォーカスレーザを更に備えており、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分を前記ディフォーカスレーザで照射するように構成されている。
【0015】
また、本発明に係る装置の別の実施態様によれば、前記溶接材料の溶接箇所が複数あり、且つ1つ前の溶接の溶接終了点と次の溶接開始点とが近接している場合、前記レーザ照射制御部には、前記予備溶接部分として1つ前の溶接箇所が設定されており、前記レーザ照射部は、1つ前の溶接が終了した後に、前記次の溶接開始点から溶接を開始し、前記1つ前の溶接を予備溶接として利用するように構成されている。
【0016】
また、本発明に係る装置の別の実施態様によれば、前記溶接材料の溶接箇所が複数ある場合、前記レーザ照射制御部には、前記1つ前の溶接の溶接終了点と次の溶接開始点との間が前記予備溶接部分として設定されており、前記レーザ照射部は、前記1つ前の溶接の溶接終了点と前記次の溶接開始点との間で予備溶接を行うように構成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置は、前記溶接材料に溶接用レーザを照射するレーザ照射部と、該レーザ照射部から照射される前記溶接用レーザを制御するレーザ照射制御部と、前記溶接材料上の前記溶接用レーザを照射した部分の画像を連続的に取得するモニタ部と、前記モニタ部によって取得された画像を記憶する記憶部と、前記画像内の平均輝度が所定の画像取込用閾値以下の場合に前記記憶部から前記画像を取得する画像取込部とを備え、前記レーザ照射制御部には、溶接開始点から溶接終了点までの本溶接部分の情報と、前記溶接開始点に連続する予備溶接部分の情報とが設定されており、前記レーザ照射部は、前記溶接開始点から溶接を開始する前に、前記予備溶接部分を溶接用レーザによって照射するように構成され、前記画像取込部が、前記溶接開始点から前記溶接終了点までのビード領域の画像を取得するようになっているので、予備溶接部分を溶接している間に、溶接材料に熱が蓄積することになる。これにより、本溶接部分の溶接開始点から溶接を行うときに、溶接材料への熱逃げや時間経過による熱逃げが小さくなり、本溶接部分の前半部分においてもビード領域からの残熱発光が強くなる。その結果、本溶接部分の前半部分及び後半部分の全体において、ビード領域の穴欠陥の判定に用いることができる画像を取り込むことが可能となる。
【0018】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記レーザ照射部は、予備溶接を行う際に、前記溶接材料が溶融する閾値未満の出力値で前記溶接用レーザを照射するように構成されているので、予備溶接部分において溶接材料を溶融させずに、溶接材料に対して熱の蓄積のみを行うことができる。これにより、予備溶接部分にビード領域ができないため、予備溶接部分において穴欠陥が生じることもなく、穴欠陥の判定も不要となる。
また、本発明によれば、予備溶接部分において溶接材料が溶融しないので、溶接材料の流動がなくなる。これにより、溶接用レーザによるエネルギーが下方向に飛散することがなく、溶接材料に熱を効率的に蓄積することができる。
【0019】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間で前記溶接用レーザを連続して照射するように構成され、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間でビード領域が連続するようになっているので、溶接用レーザの出力値などを制御する必要がなく、装置の制御が容易になる。
【0020】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間で前記溶接用レーザの出力値を低下させるように構成され、前記予備溶接部分と前記溶接開始点との間でビード領域が連続しないようになっているので、予備溶接部分と溶接開始点との間でビード領域ができない部分が生じ、予備溶接部分と本溶接部分との間に明確に境目を作ることができる。これにより、画像取り込み後のビード領域の形状判定をより容易に行うことが可能となる。
【0021】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記予備溶接部分の長さは、前記溶接開始点から前記溶接終了点までの長さの半分であるので、溶接プロセスの時間の増加を最小限にしつつ、溶接材料への熱の蓄積を十分に行うことができる。
【0022】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記レーザ照射部は、前記溶接用レーザとしてディフォーカスレーザを更に備えており、前記レーザ照射部は、前記予備溶接部分を前記ディフォーカスレーザで照射するように構成されているので、溶接開始点に近接する広い範囲に対して熱を効率的に蓄積させることができる。
【0023】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記溶接材料の溶接箇所が複数あり、且つ1つ前の溶接の溶接終了点と次の溶接開始点とが近接している場合、前記レーザ照射制御部には、前記予備溶接部分として1つ前の溶接箇所が設定されており、前記レーザ照射部は、1つ前の溶接が終了した後に、前記次の溶接開始点から溶接を開始し、前記1つ前の溶接を予備溶接として利用するように構成されているので、次の溶接箇所に対して予備溶接部分を別個に設定しなくても、次の溶接箇所の前半部分の残熱発光が強くなる。これにより、次の溶接箇所の前半部分及び後半部分の全体において、ビード領域の穴欠陥の判定に用いることができる画像を取り込むことが可能となる。
【0024】
また、本発明に係るビード領域の画像を取り込むための装置によれば、前記溶接材料の溶接箇所が複数ある場合、前記レーザ照射制御部には、前記1つ前の溶接の溶接終了点と次の溶接開始点との間が前記予備溶接部分として設定されており、前記レーザ照射部は、前記1つ前の溶接の溶接終了点と前記次の溶接開始点との間で予備溶接を行うように構成されているので、1つ前の溶接の溶接終了点から連続して、次の溶接に対する予備溶接を行うことができる。しかも、1つ前の溶接の溶接終了点と次の溶接開始点とが、予備溶接部分でつながっているので、溶接をスムーズに行うことができる。したがって、溶接材料の溶接箇所が複数ある場合でも、溶接材料に熱を蓄積しつつ、スムーズに溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る溶接装置の全体の構成を示したブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る画像取込部による画像取り込み処理を示した図である。
図3】第1実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置の動作を示した図であり、(a)は第1実施形態における装置の溶接形態を示した図であり、(b)は装置のレーザの出力値を示した図である。
図4】第2実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図であり、(a)は第2実施形態における装置の溶接形態を示した図であり、(b)は装置のレーザの出力値を示した図である。
図5】第3実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図であり、装置のレーザの出力値を示した図である。
図6】第4実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図であり、複数の溶接箇所がある場合の溶接形態を示した図である。
図7】第5実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図であり、複数の溶接箇所がある場合の溶接形態を示した図である。
図8】溶接材料を溶接開始点Oから溶接終了点Pまで円弧状に溶接した場合の残熱発光の度合いを示した図である。
図9】溶接材料を溶接開始点Oから溶接終了点Pまで直線状に溶接した場合の残熱発光の度合いを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る溶接装置の構成を示したブロック図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る溶接装置10は、溶接材料20を重ね合わせ溶接する際に用いられる装置である。溶接装置10は、ビード領域の画像を取り込むための装置1と、ビード領域の形状を判定する装置2とを備えている。ビード領域の画像を取り込むための装置1は、レーザ照射部3と、レーザ照射制御部4と、モニタ部5と、記憶部6と、画像取込部7とを備えている。以下に各部分について詳細に説明する。
【0028】
レーザ照射部3は、溶接用レーザを照射するものであり、光ファイバなどを経由して送られてくるレーザを重ね合わせた溶接材料20に照射するヘッド部(図示せず)を有している。なお、本実施形態において、レーザ照射部3は、波長1064nm付近のレーザ光を発生させるように構成されている。
【0029】
レーザ照射制御部4は、レーザ照射部3から照射される溶接用レーザの出力値を制御するようになっている。加えて、レーザ照射制御部4には、溶接箇所の位置情報なども設定されており、レーザ照射制御部4は、溶接用レーザの照射位置を制御するようになっている。
【0030】
図1に示すように、モニタ部5は、レーザ照射部3付近に設けられ、溶接用レーザを照射した部分の画像を連続的に取得するように構成されている。モニタ部5は、1台の高速カメラ、例えば、高ダイナミックレンジカメラで構成されている。この高ダイナミックレンジカメラは、信号検出のダイナミックレンジが広く(すなわち、計測可能な輝度の範囲が広い)、溶接中と溶接直後の両方の画像を撮像できるものである。
【0031】
また、図1に示すように、記憶部6は、モニタ部5に接続されており、モニタ部5により取得された画像を時間経過に沿って連続的に記憶するようになっている。
【0032】
図1に示すように、画像取込部7は、記憶部6に接続されており、記憶部6に記憶されている画像の中から、溶接直後の画像を取り込むように構成されている。ここで、溶接材料20における残熱発光の現象を観察できるのは、溶接直後から概ね数10msと短い時間であり、その後は、溶接材料20からの発光の減衰が大きくなって観察は厳しくなる。実験の結果、発光を観察できる時間は、典型的には、20msであった。本実施形態では、モニタ部5を500Hz前後のフレームレートを有する高速カメラで構成し、画像取込部7は、10枚前後(20ms÷2ms)の画像を取得するようになっている。
【0033】
また、画像取込部7は、画像内の平均輝度を利用して溶接直後の画像を取り込むようになっている。実験では、溶接プロセス中の画像内の平均輝度は、溶接プロセス直後と比較して3〜4桁ほど高いことがわかった。したがって、所定の第1の閾値(画像取込用閾値)を、溶接プロセス中と溶接プロセス直後の平均輝度の間になるように設定する。
【0034】
図2に示すように、画像取込部7は、画像内の平均輝度が所定の第1の閾値(画像取込用閾値)以下の場合に記憶部6から画像を取得するように構成されている。なお、上述したように、溶接プロセス中と溶接プロセス直後とでは、平均輝度が大きく異なるので、溶接プロセス直後の画像を取り込むための第1の閾値は、容易に設定することができる。
また、発光を観察できる時間の経過後は、モニタ部5によって取得される画像は、真っ暗になって穴欠陥の判定に使用することができなくなる。本実施形態においては、第1の閾値より小さい第2の閾値も設定し、図2に示すように、画像取込部7は、画像内の平均輝度が第2の閾値以下の場合、発光現象が終了したと判定して、画像の取り込み処理を終了する。
【0035】
図1に示すように、ビード領域の形状を判定する装置2は、画像取込部7に接続されており、画像取込部7が取り込んだ画像を処理するものである。例えば、ビード領域の形状を判定する装置2は、画像内において所定の閾値以上の輝度を有する領域をビード領域として決定し、決定されたビード領域に凹形状などの穴欠陥があるかを判定するようになっている。
【0036】
[第1実施形態]
図3は、第1実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図である。
本発明の特徴としては、レーザ照射部3(図1参照)が、本溶接部分を溶接する前に予備溶接を行うようになっている。これにより、本溶接部分を行う前に溶接材料に熱を蓄積させることができる。
【0037】
詳細に説明すると、本実施形態において、レーザ照射制御部4(図1参照)には、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの本溶接部分の位置情報と、溶接開始点Bに近接した位置にある予備溶接部分の位置情報とが設定されている。図3(a)に示すように、予備溶接部分は、線分ABである。この予備溶接部分は、本溶接部分の溶接開始点Bから接線方向に延びている。
【0038】
なお、この予備溶接部分の長さは、長すぎると、溶接プロセスの時間が増加して適当でない。一方、予備溶接部分の長さが短すぎると、溶接材料20への熱の蓄積が十分にできない可能性もある。実験では、予備溶接部分の長さを溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの長さの約半分に設定すれば、溶接直後の残熱発光が観察できることが確認できた。したがって、溶接プロセス時間も考慮すると、予備溶接部分の長さは、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの長さの半分に設定するのが好ましい。
【0039】
本実施形態では、レーザ照射部3は、溶接開始点Bから溶接を開始する前に、予備溶接部分を溶接用レーザによって照射するように構成されている。画像取込部7は、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでのビード領域の画像を取得するようになっている。ここで、図3(b)に示すように、レーザ照射部3は、予備溶接部分及び本溶接部分において、所定の閾値以上の出力値で溶接用レーザを照射する。この閾値は、重ね合わせた溶接材料20(図1参照)が溶融して貫通溶接される閾値に設定されている。
【0040】
また、本実施形態では、レーザ照射部3は、予備溶接部分と溶接開始点Bとの間で溶接用レーザを連続して照射するように構成され、予備溶接部分と溶接開始点Bとの間でビード領域が連続するようになっている。
【0041】
本発明の第1実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1によれば、溶接材料20に溶接用レーザを照射するレーザ照射部3と、レーザ照射部3から照射される溶接用レーザを制御するレーザ照射制御部4と、溶接材料20上の溶接用レーザを照射した部分の画像を連続的に取得するモニタ部5と、モニタ部5によって取得された画像を記憶する記憶部6と、画像内の平均輝度が所定の画像取込用閾値以下の場合に記憶部6から画像を取得する画像取込部7とを備え、レーザ照射制御部4には、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの本溶接部分の位置情報と、溶接開始点Bに近接した位置にある予備溶接部分の位置情報とが設定されており、レーザ照射部3は、溶接開始点Bから溶接を開始する前に、予備溶接部分を溶接用レーザによって照射するように構成され、画像取込部7が、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでのビード領域の画像を取得するようになっているので、予備溶接部分を溶接している間に、溶接材料20に熱が蓄積することになる。これにより、本溶接部分の溶接開始点Bから溶接を行うときに、溶接材料20への熱逃げや時間経過による熱逃げが小さくなり、本溶接部分の前半部分においてもビード領域からの残熱発光が強くなる。その結果、本溶接部分の前半部分及び後半部分の全体において、ビード領域の穴欠陥の判定に用いることができる画像を取り込むことが可能となる。
【0042】
本発明の第1実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1によれば、レーザ照射部3は、予備溶接部分と溶接開始点Bとの間で溶接用レーザを連続して照射するように構成され、予備溶接部分と溶接開始点Bとの間でビード領域が連続するようになっているので、溶接用レーザの出力値などを制御する必要がなく、装置1の制御が容易になる。
また、予備溶接部分は、本溶接部分の溶接開始点Bから接線方向に延びているので、予備溶接部分から本溶接部分への接続をスムーズに行うことができる。
また、予備溶接部分の長さは、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの長さの半分であるので、溶接プロセスの時間の増加を最小限にしつつ、溶接材料への熱の蓄積を十分に行うことができる。
【0043】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図である。
本実施形態において、レーザ照射制御部4には、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの本溶接部分の位置情報と、予備溶接部分の位置情報と、出力低減部分の位置情報とが設定されている。図4(a)に示すように、予備溶接部分は、線分Aであり、出力低減部分は、線分ABである。なお、予備溶接部分及び出力低減部分は、本溶接部分の溶接開始点Bから溶接終了点Cに対して反対側に直線状に延びている。
【0044】
この第2実施形態においては、図4(b)に示すように、レーザ照射部3は、予備溶接部分及び本溶接部分において、所定の閾値以上の出力値で溶接用レーザを照射する。この閾値は、重ね合わせた溶接材料20(図1参照)が溶融して貫通溶接される閾値に設定されている。一方、レーザ照射部3は、出力低減部分において、所定の閾値未満の出力値で溶接用レーザを照射する。このように、出力低減部分においてレーザの出力値を低減させることによって、予備溶接部分と溶接開始点Bとの間の出力低減部分でビード領域が生じないようになっている。
【0045】
本発明の第2実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1によれば、レーザ照射部3は、予備溶接部分の終了点Aと溶接開始点Bとの間で溶接用レーザの出力値を低下させるように構成され、予備溶接部分と溶接開始点との間でビード領域が連続しないようになっているので、予備溶接部分と溶接開始点との間にある出力低減部分でビード領域が形成されず、予備溶接部分と本溶接部分との間に明確に境目を作ることができる。これにより、画像取り込み後のビード領域の形状判定をより容易に行うことが可能となる。
【0046】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図であり、予備溶接部分及び本溶接部分のレーザの出力値を示した図である。
本実施形態において、図5に示すように、レーザ照射部3は、本溶接部分(図3の線分BC)において、所定の閾値以上の出力値で溶接用レーザを照射する。この閾値は、重ね合わせた溶接材料20(図1参照)が溶融して貫通溶接される閾値に設定されている。一方、レーザ照射部3は、予備溶接部分(図3の線分AB)において、所定の閾値未満の出力値で溶接用レーザを照射する。このように、予備溶接部分においてレーザの出力値を低減させることによって、予備溶接部分では、ビード領域が形成されないことになる。
【0047】
なお、溶接用レーザの出力値を上述した閾値未満に設定すると、溶接材料20に熱が蓄積されにくいとも思われる。しかしながら、溶接材料20が溶融すると、溶接用レーザのエネルギーは、溶接材料20の流動に従って溶接材料20の下方向へ飛散する傾向にある。したがって、溶接用レーザの出力値を閾値未満に設定した方が、溶接材料20の流動が生じないので、溶接用レーザのエネルギーが下方向へ飛散することが小さくなり、溶接材料20への熱の蓄積がより効率的に行える。
【0048】
本発明の第3実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1によれば、レーザ照射部3は、予備溶接を行う際に、溶接材料20が溶融する閾値未満の出力値で溶接用レーザを照射するように構成されているので、予備溶接部分において溶接材料20を溶融させずに、溶接材料20に対して熱の蓄積のみを行うことができる。これにより、予備溶接部分にビード領域ができないため、予備溶接部分において穴欠陥が生じることもなく、穴欠陥の判定も不要となる。
また、本実施形態によれば、予備溶接部分において溶接材料20が溶融しないので、溶接材料20の流動がなくなる。これにより、溶接用レーザによるエネルギーが下方向に飛散することがなく、溶接材料20に熱を効率的に蓄積することができる。
【0049】
[第4実施形態]
図6は、第4実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図である。
本実施形態において、図6に示すように、溶接材料には、第1の溶接部分及び第2の溶接部分の2箇所の溶接箇所が設定されている。第1の溶接部分は、線分Bであり、第2の溶接部分は、線分Bである。また、第1の溶接部分の溶接終了点Cと第2の溶接部分の溶接開始点Bとは、近接している。
【0050】
本実施形態において、レーザ照射制御部4には、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの第1の溶接部分の位置情報と、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの第2の溶接部分の位置情報とが設定されている。また、レーザ照射制御部4には、予備溶接部分として第1の溶接部分が設定されている。レーザ照射部3は、第1の溶接部分の溶接が終了した後に、第2の溶接部分の溶接開始点Bから溶接を開始し、第1の溶接部分を予備溶接として利用するように構成されている。
【0051】
本発明の第4実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1によれば、レーザ照射制御部4には、予備溶接部分として第1の溶接部分が設定されており、レーザ照射部3は、第1の溶接部分の溶接が終了した後に、第2の溶接部分の溶接開始点Bから溶接を開始し、第1の溶接部分を予備溶接として利用するように構成されているので、第2の溶接部分に対して予備溶接部分を別個に設定しなくても、第2の溶接部分の前半部分の残熱発光が強くなる。これにより、第2の溶接部分の前半部分及び後半部分の全体において、ビード領域の穴欠陥の判定に用いることができる画像を取り込むことが可能となる。
また、溶接材料を溶接する場合には、通常、複数のシームラインを設けて、強度を保持する。本実施形態は、複数のシームラインを設定する場合に好適であり、1つ前の溶接箇所の近くに次の溶接箇所を設定することで、無駄にビード領域を増やさずに、溶接材料への熱の蓄積を行うことができる。
【0052】
[第5実施形態]
図7は、第5実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1の動作を示した図である。
本実施形態において、図7に示すように、溶接材料には、第1の溶接部分及び第2の溶接部分の2箇所の溶接箇所が設定されている。第1の溶接部分は、線分Bであり、第2の溶接部分は、線分Bである。
【0053】
本実施形態において、レーザ照射制御部4には、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの第1の溶接部分の位置情報と、溶接開始点Bから溶接終了点Cまでの第2の溶接部分の位置情報とが設定されている。また、レーザ照射制御部4には、第1の溶接部分の溶接終了点と第2の溶接部分の溶接開始点との間が予備溶接部分として設定されている。レーザ照射部3は、第1の溶接部分の溶接が終了した後に、第1の溶接部分の溶接終了点Cと第2の溶接部分の溶接開始点Bとの間で予備溶接を行うように構成されている。
【0054】
本発明の第5実施形態に係るビード領域の画像を取り込むための装置1によれば、レーザ照射制御部4には、第1の溶接部分の溶接終了点Cと第2の溶接部分の溶接開始点Bとの間が予備溶接部分として設定されており、レーザ照射部3は、第1の溶接部分の溶接終了点Cと第2の溶接部分の溶接開始点Bとの間で予備溶接を行うように構成されているので、第1の溶接部分の溶接終了点Cから連続して、第2の溶接部分に対する予備溶接を行うことができる。しかも、第1の溶接部分の溶接終了点Cと第2の溶接部分の溶接開始点Bとが予備溶接部分でつながっているので、溶接をスムーズに行うことができる。したがって、溶接材料の溶接箇所が複数ある場合でも、溶接材料20に熱を蓄積しつつ、スムーズに溶接を行うことができる。また、第1の溶接部分と第2の溶接部分とが連続的に溶接されるので、溶接プロセスの時間も短縮することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものでなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【0056】
レーザ照射部3は、溶接用レーザとしてディフォーカスレーザを更に備えてもよい。レーザ照射部3は、予備溶接部分をディフォーカスレーザで照射して、溶接材料に熱を蓄積させてもよい。この場合、好ましくは、ディフォーカスレーザの出力値は、重ね合わせた溶接材料20が溶融して貫通溶接される閾値未満に設定するのがよい。
【0057】
上述の実施形態では、重ね合わせ溶接を対象としているが、溶接材料の溶接位置に穴欠陥が存在するかという幾何学的な状況を判定するものであるため、形状段差溶接や突合せ溶接など、孤立した穴欠陥が生じる溶接に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 溶接装置
20 溶接材料
1 ビード領域の画像を取り込むための装置
2 ビード領域の形状を判定する装置
3 レーザ照射部
4 レーザ照射制御部
5 モニタ部
6 記憶部
7 画像取込部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9