(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記隔壁は、前記凹部の前記弁部と対向する面における前記第1の突出部より内側に、前記弁部に向かって突出する第2の突出部が設けられた、請求項1から4のいずれかに記載の逆止弁。
【背景技術】
【0002】
流体通路内に配設する逆止弁として、弁体部の弾性変形により流体通路を閉塞または開通させる逆止弁が従来から提案されている。また、このような逆止弁は特許文献1にも開示されている。
【0003】
図1(A)は、従来の第1の逆止弁の弁開時の側面断面図であり、
図1(B)は、従来の第1の逆止弁の弁閉時の側面断面図である。第1の逆止弁109は、
図1(A)に示すように、傘状の弁部50と、第1の空間S1と第2の空間S2とを隔てる隔壁41と、を備える。第1の逆止弁109は、燃料(例えばメタノール)を貯蔵する燃料カートリッジに取り付けられ、燃料カートリッジ内の内圧が大気圧以下にならないよう、弁を開いて内圧を調整する。
【0004】
隔壁41には、第1の空間S1から第2の空間S2へ圧力を開放するための開口部42が形成されている。さらに、隔壁41は、開口部42を取り囲み且つ弁体部53に対向する位置に弁座面46を有している。隔壁41の材質は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂である。
【0005】
弁部50は、棒状の軸部52と、軸部52の一端から外側に折り返されてなる傘カバー状の弁体部53と、軸部52と弁体部53の付け根に位置し、弁体部53が弁座面46に密着したときに、隔壁41における開口部42周縁に当接して弁部50の姿勢を保持させる保持部54と、を有する。弁部50の材質は、例えばエチレンプロピレンゴムまたはシリコーンゴムである。
【0006】
ここで、上述の燃料カートリッジが高温となった場合、燃料カートリッジ内において流体の蒸気圧が急激に上昇し、第2の空間S2と第1の空間S1とに差圧が生じる。この場合、弁体部53は、第2の空間S2と第1の空間S1との当該差圧により弾性変形して潰れた形状となり、弁座面46に密着する(
図1(B)参照)。これにより、第2の空間S2から第1の空間S1への流体の流出が遮断される。
【0007】
次に、特許文献1に係る逆止弁11の構造について説明する。
図2(A)は、特許文献1に係る逆止弁11の外観斜視図であり、
図2(B)は、特許文献1に係る逆止弁11の側面断面図である。逆止弁11は、筒状部12、傘状部13、及び凸部14より構成される。これら筒状部12、傘状部13、及び凸部14は、弾性体により一体で成形されている。
【0008】
傘状部13は、筒状部12の一端から外側に折り返されてなる傘状の部材である。傘状部13の最大径は、流体通路の径より僅かに大きく設定される。また、凸部14は、筒状部12の外周上であって傘状部13の内側と対向する所定の部位に複数設けられている。
【0009】
流体通路内を流体が逆流しようとする際には傘状部13が開いて逆流が防止される。一方、流体が正流方向に流れる際には傘状部13が閉じて流体通路が開通する。この際、傘状部13は凸部14と当接するため、凸部14は筒状部12と傘状部13とが固着するのを防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図1(A)に示す第1の逆止弁109では、矢印の方向へ高圧がかかると、
図1(B)に示すように弁体部53が弾性変形して潰れた形状となり、弁体部53の大部分が弁座面46と密着する。ここで、弁体部53と弁座面46との接触面積が広い場合、弁体部53と弁座面46とが固着し、第1の逆止弁109が開かなくなってしまうことがあった。
【0012】
そこで、本願の発明者は、上記特許文献1に係る逆止弁11の凸部14を第1の逆止弁109に適用した第2の逆止弁110を考案した。
【0013】
図3(A)は、第2の逆止弁110の弁開時の側面断面図であり、
図3(B)は、第2の逆止弁110の弁閉時の側面断面図である。第2の逆止弁110は、弁体部53に向かって突出する突出部44を弁座面46に設けた点で第1の逆止弁109と相違する。第2の逆止弁110では、矢印の方向へ高圧がかかり、弁体部53が弾性変形した際、弁体部53は突出部44に当接する。そのため、第2の逆止弁110では弁体部53と弁座面46とが固着するのを防止できる。
【0014】
しかしながら、第2の逆止弁110の低背化に伴い、突出部44を設けることのできる隙間d(弁体部53の下面から弁座面46までの隙間)は狭くなっていく。即ち、第2の逆止弁110の低背化に伴い、突出部44の高さを低くせざるを得なくなっていく。そのため、低背化した構造の第2の逆止弁110では突出部44の高さを、弁体部53と弁座面46とが固着するのを防止するのに十分な高さに設定することができなかった。
【0015】
従って、低背化した構造の第2の逆止弁110では、弁体部53と隔壁41の弁座面46とが固着するのを防止できず、流体制御の十分な信頼性が得られないという問題があった。
【0016】
そこで本発明は、低背な構造でも、弁部と隔壁とが固着するのを防ぐことができる逆止弁、この逆止弁を備える燃料電池システム、及びこの逆止弁を備えるポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の逆止弁は、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0018】
(1)第1の空間と第2の空間とを隔てるとともに、第1の空間から第2の空間へ流体を通すための開口部が形成された隔壁と、
前記第2の空間と前記第1の空間との差圧により前記隔壁に当接して、前記第2の空間から前記第1の空間への流体の流出を遮断する弁部と、を備え、
前記隔壁には、前記弁部と対向する部分に凹部が形成され、前記弁部に向かって突出する第1の突出部が前記凹部の前記弁部と対向する面に設けられた。
【0019】
この構成において、第2の空間と第1の空間とに差圧が生じた場合、弁部は、第2の空間と第1の空間との当該差圧により第1の突出部に当接し、弁部の一部が隔壁に密着する。これにより、第2の空間から第1の空間への流体の流出が遮断されるとともに、弁部と隔壁とが固着するのを防止できる。
【0020】
ここで、この構成の逆止弁では、隔壁に凹部が形成され、第1の突出部が凹部の弁部と対向する面に設けられている。そのため、この構成の逆止弁では第1の突出部を設けることができる隙間が、凹部の深さの分、
図3(A)に示した第2の逆止弁110の隙間dより広くなる。そのため、低背化した構造の逆止弁でも、第1の突出部の高さを、弁部と隔壁とが固着するのを防止するのに十分な高さに設定することができる。
以上より、この実施形態の逆止弁によれば、低背な構造でも、弁部と隔壁とが固着するのを防ぐことができる。従って、流体制御の信頼性を向上できる。
【0021】
(2)前記弁部は、棒状の軸部と前記軸部の片端から前記軸部の外側へ折り返してなる傘カバー状の弁体部とを有する傘状であり、
前記弁体部の材質は、弾性部材であり、
前記第1の突出部は、前記凹部の前記弁体部と対向する面に設けられ、
前記弁体部は、前記第2の空間と前記第1の空間との差圧により弾性変形して前記隔壁に当接する。
【0022】
この構成において、第2の空間と第1の空間とに差圧が生じた場合、弁体部は、第2の空間と第1の空間との当該差圧により弾性変形して潰れた形状となる。この際、弁体部は、第1の突出部に当接し、弁体部の一部が隔壁に密着する。これにより、第2の空間から第1の空間への流体の流出が遮断した後も、第1の突出部の接触部分を起点として、弁体部が隔壁から離れやすくなるため、逆止弁では弁体部と隔壁とが固着するのを防止できる。
【0023】
(3)前記第1の突出部は、高さをh、直径をφで表したとき、h/φ≧0.5の関係式を満たすことが好ましい。
【0024】
h/φ≧0.5の関係式を満たす高さhは、弁体部と隔壁とが固着するのを防止するのに有効な高さである。
【0025】
(4)前記凹部は、前記第1の空間から前記第2の空間へ流体を通すための孔部を有することが好ましい。
【0026】
この構成では、孔部により、第1の空間から第2の空間への流体経路が多くなる。そのため、この構成では流動抵抗を低く抑えることができる。従って、粘性の高い流体(例えば液体)を用いる際に逆止弁としてより有効である。
【0027】
(5)前記隔壁は、前記凹部の前記弁体部と対向する面における前記第1の突出部より内側に、前記弁体部に向かって突出する第2の突出部が設けられることが好ましい。
【0028】
この構成のように、弁体部の形状に併せて第2の突出部を設けても構わない。
【0029】
(6)上記(5)における前記第2の突出部の高さは、前記第1の突出部の高さより高いことが好ましい。
【0030】
この構成は、弁体部の形状が傘カバー状となる上記(2)の構成において好適である。
【0031】
また、本発明の燃料電池システムは、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0032】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の逆止弁と、
前記逆止弁に接続され、前記逆止弁を介して空気が内部に流入する燃料貯蔵部と、
前記燃料貯蔵部に接続され、前記燃料貯蔵部の内部から燃料を吸引するポンプと、を備える。
【0033】
この構成により、上記(1)〜(6)のうちいずれかに記載の逆止弁を用いることで、当該逆止弁を備える燃料電池システムにも同様の効果を奏する。
【0034】
また、本発明のポンプは、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0035】
(8)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の逆止弁を備える。
【0036】
この構成により、上記(1)〜(6)のうちいずれかに記載の逆止弁をポンプに用いることで、弁を閉じることにより流体が逆流するのを防止することができると共に、逆止弁が固着しにくく、流体制御の信頼性の高いポンプを提供できる。
【発明の効果】
【0037】
この発明によれば、低背な構造でも、弁部と隔壁とが固着するのを防ぐことができる。従って、流体制御の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1(A)は、従来の第1の逆止弁109の弁開時の側面断面図である。
図1(B)は、従来の第1の逆止弁109の弁閉時の側面断面図である。
【
図2】
図2(A)は、特許文献1に係る逆止弁11の外観斜視図である。
図2(B)は、特許文献1に係る逆止弁11の側面断面図である。
【
図3】
図3(A)は、第2の逆止弁110の弁開時の側面断面図である。
図3(B)は、第2の逆止弁110の弁閉時の側面断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101を取り付けた燃料カートリッジ102を備える燃料電池システム100のシステム構成図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101′、101´´を備えるマイクロポンプ108の分解斜視図である。
【
図6】
図6(A)は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の外観斜視図である。
図6(B)は、
図6(A)に示すS−S線の断面図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の分解斜視図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101のバルブ筐体40の平面図である。
【
図9】
図9(A)は、
図8に示す隔壁141の拡大平面図である。
図9(B)は、
図9(A)に示すT−T線の断面図である。
【
図10】
図10(A)は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の弁開時の側面断面図である。
図10(B)は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の弁閉時の側面断面図である。
【
図11】逆止弁の順止圧の測定方法を示す説明図である。
【
図12】各逆止弁101、109、110の順止圧を測定した実験結果を示す説明図である。
【
図13】
図13(A)は、本発明の第2の実施形態の逆止弁201に備えられる隔壁241の拡大平面図である。
図13(B)は、
図13(A)に示すT−T線の断面図である。
【
図14】
図14(A)は、本発明の第3の実施形態の逆止弁301に備えられる隔壁341の拡大平面図である。
図14(B)は、
図14(A)に示すT−T線の断面図である。
【
図15】
図15(A)は、本発明の第3の実施形態に係る逆止弁301の弁開時の側面断面図である。
図15(B)は、本発明の第3の実施形態に係る逆止弁301の弁閉時の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
《第1の実施形態》
本発明の第1の実施形態に係る逆止弁について説明する。ここで、当該逆止弁は、燃料電池システムやマイクロポンプ等に用いられる。まず、当該逆止弁を用いた燃料電池システムについて以下説明する。
【0040】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101を取り付けた燃料カートリッジ102を備える燃料電池システム100のシステム構成図である。
【0041】
燃料電池システム100は、
図4に示すように、燃料注入孔102Aが側壁に形成され、燃料であるメタノールMを貯蔵する燃料カートリッジ102と、メタノールMを輸送するマイクロポンプ103(以後、「ポンプ103」と称する。)と、ポンプ103からメタノールMの供給を受けて発電する発電セル104と、を備える。
【0042】
逆止弁101は、
図4に示すように、第1の空間S1と第2の空間S2とを隔てる隔壁141を有するバルブ筺体40と、蓋体20と、傘状の弁部50とを有し、燃料カートリッジ102に取り付けられる。
【0043】
バルブ筐体40は、蓋体20に接合され、蓋体20とともにバルブ室30を構成する。バルブ筐体40には、バルブ筐体40外部からバルブ室30へ空気が流入する流入孔としての開口部42が形成されている。また、蓋体20には、バルブ室30から燃料カートリッジ102内へ空気が流出する流出孔21が形成されている。
【0044】
燃料電池システム100では、ポンプ103によるメタノールMの吸引圧力によって燃料カートリッジ102内からポンプ103へ(即ち矢印Fの方向へ)メタノールMが流出する構成となっている。この際、メタノールMは燃料カートリッジ102内からポンプ103へ流出していくため、燃料カートリッジ102の内圧は低下していく。
【0045】
そこで、燃料カートリッジ102に取り付けられる逆止弁101は、燃料カートリッジ102の内圧が大気圧以下にならないよう、弁を開いて内圧を調整する。また、外的環境によっては燃料カートリッジ102が高温となるおそれがある。その結果、燃料カートリッジ102内においてメタノールMの蒸気圧が急激に上昇する場合がある。そこで、逆止弁101は、弁を閉じてメタノールMがバルブ筐体40外部へ飛散するのを防止する。
【0046】
次に、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁を用いたマイクロポンプについて以下説明する。
【0047】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101′、101′′を備えるマイクロポンプ108の分解斜視図である。
図5(A)はマイクロポンプ108を表面側から見た分解斜視図であり、
図5(B)はマイクロポンプ108を裏面側から見た分解斜視図である。
【0048】
マイクロポンプ108(以後、「ポンプ108」と称する。)は、
図5に示すように、圧電体71に電気的に接続する外部端子70と、外部端子70を介して駆動電圧が印加されて伸縮する圧電体71と、圧電体71の筐体73側の面を覆い、圧電体71の伸縮により屈曲するダイヤフラム72と、流入孔73Aと流出孔73Bとが形成され、ダイヤフラム72とともにポンプ室75を形成する筐体73と、メタノールMを通過させる孔部74Aと孔部74Bとが形成されたフィルム74と、を備え、それらを積層し接合した構成である。
【0049】
図5(B)に示した逆止弁101′は、
図4に示した逆止弁101と同じ弁構造であり、弁部50と隔壁141′と蓋体に相当するフィルム74とを備える。また、
図5(A)に示した逆止弁101′′も、
図4に示した逆止弁101と同じ弁構造であり、弁部50と隔壁141′′と蓋体に相当する筐体73とを備える。逆止弁101′及び逆止弁101′′の各弁部50は、
図5に示すように、フィルム74における孔部74A、74Bの形成箇所と筐体73における流入孔73A、流出孔73Bの形成箇所とに位置合わせした後に筐体73とフィルム74とに挟持されてポンプ108に内蔵される。これにより、ポンプ108では、隔壁141′が筐体73に構成され、隔壁141′′がフィルム74に構成される。
【0050】
ポンプ108では、
図5の矢印に示すように、流体供給源(図示せず)から流出したメタノールMが孔部74Aと逆止弁101′と流入孔73Aを介してポンプ室75へ流入し、メタノールMがポンプ室75から流出孔73Bと逆止弁101′′と孔部74Bを介して供給先(図示せず)へ供給される。ポンプ108に取り付けられる逆止弁101′及び逆止弁101′′は、弁を閉じてメタノールMが逆流するのを防止する。
【0051】
なお、この実施形態では、ポンプ108を
図4に示した燃料電池システム100に用いていないが、実施の際は、
図4に示したポンプ103をポンプ108に置き換えて、ポンプ108を燃料電池システム100に用いても構わない。
【0052】
ここで、上述したように、
図4に示した逆止弁101は、
図5に示した逆止弁101′、101′′と同じ弁構造を有する。そこで、以下、
図4の逆止弁101および
図5の逆止弁101′、101′′を代表して、燃料カートリッジ102に取り付けられる逆止弁101について詳述する。
【0053】
図6(A)は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の外観斜視図である。
図6(B)は、
図6(A)に示すS−S線の断面図である。
図7は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の分解斜視図である。
図8は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101のバルブ筐体40の平面図である。
図9(A)は、
図8に示す隔壁141の拡大平面図である。
図9(B)は、
図9(A)に示すT−T線の断面図である。
図10(A)は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の弁開時の側面断面図である。
図10(B)は、本発明の第1の実施形態に係る逆止弁101の弁閉時の側面断面図である。
【0054】
逆止弁101は、
図6〜
図10(A)に示すように、第1の空間S1と第2の空間S2とを隔てる隔壁141を有するバルブ筐体40と、傘状の弁部50と、蓋体20とを備える。
【0055】
バルブ筐体40は、
図6、
図7に示すように、蓋体20に接合され、蓋体20とともにバルブ室30を構成する。バルブ筐体40には、バルブ筐体40外部からバルブ室30へ空気が流入する流入孔としての開口部42と、開口部42に連通する開口部47と、が形成されている。
また、蓋体20には、バルブ室30から燃料カートリッジ102内へ空気が流出する流出孔21が形成されている。バルブ筐体40の直径は、5mmであり、バルブ筐体40と蓋体20との接合体の厚みは、1.0mmである。
なお、蓋体20及びバルブ筐体40の材質は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂である。
【0056】
弁部50は、
図10(A)に示すように、棒状の軸部52と、軸部52の一端から外側に折り返されてなる傘カバー状の弁体部53と、軸部52と弁体部53の付け根に位置し、弁体部53が弁座面146に密着したときに、隔壁141における開口部42周縁に当接して弁部50の姿勢を保持させる保持部54と、を有する。
なお、弁部50の材質は、例えばエチレンプロピレンゴムまたはシリコーンゴムである。
【0057】
隔壁141には、
図7〜
図10(A)に示すように、第1の空間S1から第2の空間S2へ圧力を開放するための開口部42が形成されている。また、隔壁141は、開口部42を取り囲み且つ弁体部53に対向する位置に弁座面146を有している。さらに、隔壁141には、弁体部53と対向する部分に深さ約50μmの凹部43が形成されている。
【0058】
なお、凹部43の深さは特に限定されるものではなく、0μmよりも大きければよい。凹部43の弁体部53と対向する面には、弁体部53に向かって突出する半球状の第1の突出部44が複数設けられている。第1の突出部44は、高さをh、直径をφで表したとき、h/φ≧0.5の関係式を満たすことが好ましい。h/φ≧0.5の関係式を満たす高さhは、弁体部53と弁座面146とが固着するのを防止するのに有効な高さである。なお、この実施形態における第1の突出部44は、h/φ=0.6の関係式を満たす。第1の突起部44の高さの上限は、逆止弁101が開いている状態時に、弁体部53に接していなければよい。
【0059】
以上の構成において、外的環境によって、上述の燃料カートリッジ102が高温となった場合、燃料カートリッジ102内において流体の蒸気圧が急激に上昇し、第2の空間S2と第1の空間S1とに差圧が生じる。この場合、弁体部53は、第2の空間S2と第1の空間S1との当該差圧により弾性変形して潰れた形状となる(
図10(B)参照)。この際、弁体部53は、複数の突出部44に当接し、弁体部53の一部が弁座面146に密着する。これにより、第2の空間S2から第1の空間S1への流体の流出が遮断される。
【0060】
また、第2の空間S2から第1の空間S1への流体の流出が遮断された後も、突出部44との接触部分を起点として弁体部53が弁座面146から離れやすくなるため、逆止弁101では弁体部53と弁座面146とが固着するのを防止できる。
【0061】
ここで、この実施形態の逆止弁101では、隔壁141に凹部43が形成され、第1の突出部44が凹部43の弁体部53と対向する面に設けられている。そのため、この実施形態の逆止弁101では突出部44を設ける隙間d(弁体部53から凹部43までの隙間)が、凹部43の深さの分、
図3(A)に示した第2の逆止弁110の隙間dより広い。そのため、低背化した構造の逆止弁101でも、突出部44の高さhを、弁体部53と弁座面146とが固着するのを防止するのに有効な高さ(具体的にはh/φ≧0.5の関係式を満たす高さh)に設定することができる。
【0062】
また、隔壁141に凹部43を形成する際の加工条件に関して、突出部44の直径を変えずに凹部43の深さを深くすればするほど、突出部44の先端の曲率が大きくなる。突出部44の先端の曲率が大きいほど、弁体部53との接触面積が小さいため、突出部44と弁体部53との密着を防ぎやすい。
【0063】
以上より、この実施形態の逆止弁101によれば、低背な構造でも、弁体部53と隔壁141とが固着するのを防ぐことができる。従って、流体制御の信頼性を向上できる。
また、この実施形態の逆止弁101を用いることで、燃料電池システム100においても同様の効果を奏する。
【0064】
次に、この実施形態の逆止弁101の固着防止能力について、
図1に示した第1の逆止弁109及び
図3に示した第2の逆止弁110と比較しながら説明する。
なお、逆止弁101、第1の逆止弁109及び第2の逆止弁110のそれぞれが相違する点は、隔壁の構造であり、その他の構成については同じである。まず、固着防止能力を示す順止圧(即ち逆止弁が開くのに必要な圧力)の測定方法について説明する。
【0065】
図11は、逆止弁の順止圧の測定方法を示す説明図である。この測定方法では、圧空源106から空気を送り出し、当該空気の圧力をレギュレータ105を使って上げていき、各逆止弁101、109、110へ流入する空気の流量を流路計107で監視する。そして、流量が急激に増加した時(2ml/min以上)の圧力を、各逆止弁101、109、110の順止圧とする。
【0066】
図12は、各逆止弁101、109、110の順止圧を測定した実験結果を示す説明図である。
図12では、第1の逆止弁109について試作品を2つ用意し、それぞれ第1の逆止弁109−1、第1の逆止弁109−2と表記している。同様に、逆止弁101についても試作品を2つ用意し、それぞれ逆止弁101−1、逆止弁101−2と表記している。
【0067】
また、
図12では、初期状態での各逆止弁101、109、110の順止圧と、所定の高温・高圧の負荷をかけた後の各逆止弁101、109、110の順止圧と、を測定した。初期状態は常温(25℃)で各逆止弁101、109、110の順止圧を測定した。また前記負荷の条件は、110℃−0.6Mpa−12時間である。詳述すると、第2の空間S2に相当するバルブ室30及び燃料カートリッジ102内の温度を110℃、第2の空間S2の気圧を0.6Mpaの状態にし、その状態で12時間経過させた後に大気開放した後の各逆止弁101、109、110に対して順止圧の測定を行った。
【0068】
図12に示すように、第1の逆止弁109−1、第1の逆止弁109−2、第2の逆止弁110では110℃−0.6Mpa−12h後の順止圧が初期値から大幅に増加しているのに対し、この実施形態の逆止弁101−1、逆止弁101−2では、110℃−0.6Mpa−12h後の順止圧が初期値から変化していないことが実験により明らかとなった。即ち、この実施形態の逆止弁101によれば、固着防止能力が大幅に向上することが実験により明らかとなった。
【0069】
《第2の実施形態》
図13(A)は、本発明の第2の実施形態の逆止弁201に備えられる隔壁241の拡大平面図であり、
図13(B)は、
図13(A)に示すT−T線の断面図である。
【0070】
この実施形態における逆止弁201が第1の実施形態に係る逆止弁101と相違する点は、凹部43に孔部242を設けた隔壁241である。この孔部242は、第1の空間S1から第2の空間S2へ流体を通すための孔部である。
【0071】
この孔部242により、第1の空間S1から第2の空間S2への流体経路が多くなる。そのため、逆止弁201では流動抵抗を低く抑えることができる。従って、粘性の高い流体(例えば液体)を用いる際により有効である。よって、逆止弁201は、
図5に示したポンプ103内に取り付けられる場合に好適である。
【0072】
また、以上の構成においても、例えば外的環境等により上述の燃料カートリッジ102内において流体の蒸気圧が急激に上昇した際、弁体部53は、弾性変形して潰れた形状となって複数の突出部44に当接し、弁体部53の一部が弁座面146に密着する。そのため、逆止弁201では、第2の空間S2から第1の空間S1への流体の流出が遮断されるとともに、弁体部53と弁座面146とが固着するのを防止できる。
【0073】
従って、この実施形態の逆止弁201によれば、逆止弁101と同様の効果を奏する。また、この実施形態の逆止弁201を用いることで、当該逆止弁201を備える燃料電池システムにおいても同様の効果を奏する。
なお、この実施形態に係る逆止弁201の固着防止能力に関しては、上記第1の実施形態に係る逆止弁101と同様の固着防止能力が確認された。
【0074】
《第3の実施形態》
図14(A)は、
図14(A)は、本発明の第3の実施形態の逆止弁301に備えられる隔壁341の拡大平面図であり、
図14(B)は、
図14(A)に示すT−T線の断面図である。
図15(A)は、本発明の第3の実施形態に係る逆止弁301の弁開時の側面断面図であり、
図15(B)は、本発明の第3の実施形態に係る逆止弁301の弁閉時の側面断面図である。
【0075】
この実施形態における逆止弁301が第1の実施形態に係る逆止弁101と相違する点は、
図14及び
図15(A)に示すように、弁体部53に向かって突出する突出部45(第2の突出部)を凹部43における突出部44(第1の突出部)より内側の面に設けた点である。弁体部53の傘カバー形状は、弁体部53における中央部位の高さが、弁体部53における中央部位より外側の周縁部位の高さより高い形状である。
【0076】
そこで、突出部45の高さは、弾性変形して潰れた形状となった弁体部53と突出部45が当接するよう、弁体部53の傘カバー形状に併せて突出部44の高さより高くなっている。
【0077】
以上の構成では、上述の燃料カートリッジ102内において流体の蒸気圧が急激に上昇した際、弁体部53は、
図15(B)に示すように、弾性変形して潰れた形状となって複数の突出部44及び突出部45に当接し、弁体部53の一部が弁座面146に密着する。これにより、第2の空間S2から第1の空間S1への流体の流出が遮断される。ここで、弁体部53の厚みが薄く、かつ、異常に高い圧力が加わった場合、弁体部53が軸部52と突出部44との間に入り込むおそれがある。
【0078】
しかしながら、突出部44よりも高さが高い突出部45が軸部52側に存在するため、弁体部53は突出部45に当接する。そのため、弁体部53が軸部52と突出部44との間に入り込むのを防ぐことができる。
【0079】
また、第2の空間S2から第1の空間S1への流体の流出が遮断された後も、突出部44及び45との接触部分を起点として弁体部53が弁座面146から離れやすくなるため、逆止弁301では弁体部53と弁座面146とが固着するのを一層防止できる。
【0080】
従って、この実施形態の逆止弁301によれば、逆止弁101と同様の効果を奏する。また、この実施形態の逆止弁301を用いることで、当該逆止弁301を備える燃料電池システムにおいても同様の効果を奏する。
なお、この実施形態に係る逆止弁301の固着防止能力に関しては、上記第1の実施形態に係る逆止弁101と同様の固着防止能力が確認された。
【0081】
《その他の実施形態》
以上の実施形態では流体として空気およびメタノールを用いているが、当該流体が、気体、液体、気液混合流、固液混合流、固気混合流などのいずれであっても適用できる。
【0082】
なお、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。