【実施例】
【0013】
微粒子として、電子顕微鏡を用いて実測した1次平均粒子径(以下単に、平均粒子径)が0.05μm,0.1μm,2μmのTiO
2を負極活物質に含有させ、負極活物質の全細孔容積と細孔径の分布とを調整した。負極格子としてPb-Ca-Sn合金を用い、ボールミル法で製造した鉛粉にTiO
2微粒子と、リグニンと硫酸バリウムとポリプロピレン繊維とを添加した。0〜8質量%のTiO
2微粒子を含み、リグニン含有量は0.2質量%、硫酸バリウム含有量は0.6質量%、ポリプロピレン繊維含有量は0.1質量%となるように、鉛粉含有量を調整した。上記の組成の負極活物質原料粉体100質量%に対し、20℃で比重が1.40の硫酸20質量%とイオン交換水80質量%とを加えて混練し、負極活物質ペーストとした。負極活物質ペーストを上記の負極格子に充填し、50℃相対湿度50%で50時間熟成後に、50℃相対湿度20%で30時間乾燥させて、未化成の負極板とした。各負極活物質は、TiO
2含有量が異なる他は同じ組成で、かつ負極板を化成するまでの条件も同じである。TiO
2に替えて、シリカ、アルミナ、カーボンブラック等の他の微粒子を用いても良い。負極格子の組成、鉛粉の製造方法とその酸化度、微粒子以外の鉛粉への添加物等は任意である。また微粒子は負極活物質ペーストに添加しても良いが、鉛粉に微粒子を混合した後にペースト化すると、分散性が向上するので好ましい。
【0014】
定法に従い正極板を作成した。正極格子にはPb-Ca-Sn合金を用い、正極活物質ペーストとして、鉛粉に補強剤を加え硫酸とイオン交換水とを加えて混練したものを正極格子に充填し、熟成と乾燥とを施して、未化成の正極板とした。正極板の組成と製造条件は、全ての試験例で共通である。また正極板の組成と製造条件は任意である。
【0015】
未化成の負極板1枚をガラスセパレータで包み、両側から2枚の正極板で挟み、圧迫力を加えながら電槽に挿入した。次いで所定量の希硫酸を加え、0.1Aで20時間充電することにより、単セル型の化成済みの制御弁式鉛蓄電池を作成した。なお制御弁式に替えて液式の鉛蓄電池でも良く、電解液にはAl
3+イオン、Na
+イオン等を含有させても良い。
【0016】
負極活物質の重量、細孔容積の測定等では、化成済み(使用を開始した後の鉛蓄電池では再充電済み)の負極板から負極活物質を取り出し、水洗により電解液を洗い流した後に乾燥させたものを用いた。負極活物質の重量は乾燥後の重量で、全細孔容積と細孔径の分布は水銀圧入法で乾燥後の負極活物質に対して測定した。
【0017】
鉛蓄電池の5hR放電容量は0.6Ahで、この容量に対して3CAのハイレート放電を、25℃の水槽中で電圧が1.0Vを下回るまで行った。ハイレート放電後に0.06A×15時間の充電により満充電状態とし、次いで25℃の水槽中で3CA×5分間の放電と、3CA×5分間の充電とを繰り返し、放電の終期電圧が1.0Vを下回るまでのサイクル数を、ハイレート充放電サイクル寿命として測定した。これらの測定では、試料を3個ずつ用い、結果はその平均で表す。結果を表1に示し、寿命性能はハイレート充放電でのサイクル寿命を、試料No.1(比較例1)の性能を100とする相対値で示す。
【0018】
図1(試料No.11 TiO
2 0.05μm×4.0質量%)及び
図2(試料No.1 TiO
2 0.1μm×0.1質量%)は、TiO
2微粒子の細孔容積分布への影響を示す。縦軸でのVは細孔容積を、Dは細孔直径を示す。TiO
2微粒子の含有量が僅かな
図2の比較例では、細孔容積は直径が2〜3μm付近に集中し、直径1μm以下の細孔が占める割合は30vol%である。またTiO
2微粒子の含有量を0としても、細孔容積の分布は
図2とほぼ同じで、含有量が0.1質量%以下の微粒子は負極活物質の細孔にほとんど影響を与えないことが分かった。これに対して、
図1のようにTiO
2微粒子を4質量%含有させると、細孔直径が2〜3μmのピークは消失し、分布のピークは直径が0.1μm付近へ移動し、ピークの0.1μmは含有させたTiO
2の平均粒子径の0.05μmよりもやや大きい。また全細孔容積は0.12cm
3/gから0.17cm
3/gへと増加した。
【0019】
微粒子の影響を表1に示す。平均粒子径の影響を検討すると、微粒子の平均粒子径を2.0μmとした場合(試料No.15-No.16)、ハイレート充放電でのサイクル寿命性能の向上は僅かである。これに対して微粒子の平均粒子径を0.1μm及び0.05μmとすると、ハイレート充放電でのサイクル寿命性能が著しく向上する。
図1から明らかなように、微粒子の平均粒子径よりもやや大きな細孔が増加し、この一方で平均粒子径が0.02μmよりも小さな微粒子は製造が難しいので、微粒子の平均粒子径は0.5μm〜0.02μmが好ましく、より好ましくは0.3μm〜0.02μmとし、特に好ましくは0.1μm〜0.02μmとする。
【0020】
【表1】
【0021】
微粒子の含有量の影響を検討すると、
0.4質量%以下(試料No.1,2)ではハイレート充電でのサイクル寿命性能は不十分で、0.9質量%以上8質量%以下で寿命性能が向上し、特に2〜7質量%含有させると(
試料No.5-7,No.10-13)、寿命性能は著しく向上する。従って、微粒子に関して最も好ましい条件は、平均粒子径が0.1μm〜0.02μmで、負極活物質中の含有量が2質量%〜7質量%であり、この時、直径が0.01〜1μmの細孔が全細孔容積に占める割合は61〜76vol%、全細孔容積は0.16cm
3/g〜0.19cm
3/gである。
【0022】
微粒子のハイレート充放電でのサイクル寿命性能への影響を、発明者は以下のように推定した。
(1)
図1のように、微粒子を含有させることにより大きな細孔が減少し、小さな細孔が細孔径分布の中心になると、放電時に硫酸鉛が生成するサイトが増すと共に細孔径が小さいので、硫酸鉛が大きな粒子まで成長し難くなる。
(2) 硫酸鉛が微細な粒子のままでとどまっていると、充電による金属鉛への還元が容易になり、サルフェーションが進行し難くなる。
【0023】
以上のように、実施例では平均粒径が0.1〜0.05μmのTiO
2微粒子を0.9質量%以上で8質量%以下、好ましくは2.0質量%以上で7質量%以下含有させることにより、ハイレート充放電に対するサイクル寿命性能を向上させることができる。なおTiO
2に替えて、例えば平均粒子径が0.08μmのシリカを負極活物質中に3質量%含有させても、同様にハイレート充放電寿命を向上させることができる。