(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記推定部(53)は、前記交流成分推定値(iα2[q],iβ2[q])に、それぞれ前記直流成分(iα0,iβ0)を加えて前記所定の時点における前記二つの電流の瞬時値を算出する、請求項1に記載の電力変換装置。
前記電力変換回路(2)は、一対の直流線(LH,LL)の間で相互に直列に接続される第1及び第2のスイッチング素子(S1〜S6)を三相分有し、前記第1及び前記第2のスイッチング素子を接続する接続点がそれぞれ前記3つの交流線(Pu,Pv,Pw)に接続され、
前記電力変換装置(1)は、
所定の周期(T)の各々において、前記3つの交流線の一つが前記一対の直流線の一方に接続され、前記3つの交流線の他の2つが前記一対の直流線の他方に接続される6つのスイッチングパターンのうち、互いに異なる第1及び第2のスイッチングパターンと、前記3つの交流線の全てが前記一対の直流線の一方又は他方に接続される第3のスイッチングパターンとを、それぞれ第1から第3の期間に渡って採用して、前記電力変換回路に前記変換を行わせるスイッチング制御部(6)と、
前記所定の周期のうち前記タイミングを含む周期の各々において、前記第1及び前記第2の期間(ti,tj)の少なくとも何れか一方が基準期間よりも小さいときに、その前記周期において前記第1及び前記第2の期間の両方が前記基準期間以上となるように前記第1及び前記第2の期間の少なくとも何れか一方を補正する補正部(63)と
を更に備え、
前記線電流検出部(3)は、
前記一対の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する直流電流検出部(31)と、
前記基準期間以上の前記第1の期間において検出された前記直流電流を、前記第1スイッチングパターンによって決定される第1相の前記線電流の瞬時値とみなし、前記基準期間以上の前記第2の期間において検出された前記直流電流を、前記第2スイッチングパターンによって決定される第2相の前記線電流の瞬時値とみなす直流電流/線電流対応部(32)と
を有する、請求項1から3の何れか一つに記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1の実施の形態.
<構成>
図1に示すように、本電力変換装置1は電力変換回路2と直流線LH,LLと交流線Pu,Pv,Pwと制御部7とを備えている。電力変換回路2は直流線LH,LLの組と交流線Pu,Pv,Pwの組との間に設けられる。電力変換回路2は、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧と、交流線Pu,Pv,Pwに印加される交流電圧との間の変換を実行する。例えば電力変換回路2はインバータであって、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して、当該交流電圧を交流線Pu,Pv,Pwへと出力する。ここでは直流線LLに印加される電位は直流線LHに印加される電位よりも低い。また電力変換回路2は例えばコンバータであってもよい。この場合、交流線Pu,Pv,Pwには交流電源が接続され、電力変換回路2が交流線Pu,Pv,Pwに印加される交流電圧を直流電圧に変換する。或いは電力変換回路2は入力された交流電圧を直流電圧に変換することなく直接に任意の交流電圧に変換するマトリクスコンバータであってもよい。以下では、電力変換回路2として代表的にインバータを例に挙げて説明する。
【0022】
インバータ2はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。スイッチング素子S1〜S3は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LHとの間に設けられる。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼び、スイッチング素子S1〜S3を纏めて上側のスイッチング素子群とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ交流線Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。
【0023】
各スイッチング素子S4〜S6は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LLとの間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼び、スイッチング素子S4〜S6を纏めて下側のスイッチング素子群とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6のアノードは直流線LLに接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。なお、スイッチング素子S1〜S6が寄生ダイオードを含む構造を有している場合、ダイオードD1〜D6は当該寄生ダイオードであってもよい。
【0024】
これらのスイッチング素子S1〜S6には制御部7からそれぞれスイッチング信号Sが与えられる。かかるスイッチング信号Sにより各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部7が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチング信号Sを与えることにより、インバータ2は直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ2の制御については後に詳述する。
【0025】
なお
図1の例示では、直流線LH,LLの間に平滑コンデンサC1が設けられている。これによって直流線LH,LLの間の直流電圧を平滑することができる。ただし、直流電圧の脈動が許容される場合、平滑コンデンサC1は必ずしも必要ではない。
【0026】
インバータ2は例えば誘導性負荷8を駆動することができる。誘導性負荷8は交流線Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷8は例えばモータである。インバータ2によって誘導性負荷8に交流電圧が印加されれば、誘導性負荷8に略正弦波状の交流電流が流れる。理想的には交流線Pu,Pv,Pwにはそれぞれ正弦波状の線電流iu,iv,iwが流れる。これによって誘導性負荷8が駆動される。ここでは、インバータ2から誘導性負荷8へと流れる線電流の方向を正、誘導性負荷8からインバータ2へと流れる線電流の方向を負とそれぞれ定義する。
【0027】
この線電流は所定のタイミング毎に線電流検出部3によって検出される。なお、三相の線電流の値を得るためには三相の線電流の全てを検出しなくても良く、二相の線電流を検出すればよい。なぜなら、三相の線電流の総和が零であるという関係を用いて、二相の線電流に基づいて残りの1相の線電流を算出できるからである。よって線電流検出部3は三相の線電流iu,iv,iwの少なくともいずれか二相の線電流を検出すればよい。
【0028】
また
図1の例示では、線電流検出部3は直流電流検出部31と直流電流/線電流対応部32とを有している。これらは協働して、直流線LH,LLを流れる直流電流Idcから線電流を検出するものの、本願の最上位概念においてはこの検出方法に限らない。線電流検出部3は線電流を交流線から直接に検出してもよい。したがって、直流電流Idcから線電流を検出する方法については第3の実施の形態で述べ、ここでは線電流の検出方法については不問とする。またこれに伴って、直流電流Idcから線電流を検出する技術と関連する補正部63についても第3の実施の形態で述べる。
【0029】
制御部7は線電流推定部5とスイッチング信号生成部6とを備えている。線電流推定部5は、線電流検出部3によって検出された少なくとも二相の線電流に基づいて所定の時点における線電流を推定する。この点については後に詳述する。
【0030】
スイッチング信号生成部6はスイッチング信号Sを生成する。かかるスイッチング信号Sは例えば次のように生成される。即ち、例えば外部から入力される角速度指令値ω*と線電流推定部5によって算出された線電流iu,iv,iwとに基づいて交流線Pu,Pv,Pwにそれぞれ印加する相電圧Vu,Vv,Vwについての相電圧指令値を生成し、かかる相電圧指令値とキャリア波形との比較によってスイッチング信号Sを生成する。このようなスイッチング信号Sの生成は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0031】
またスイッチング信号生成部6は後に詳述するように線電流検出部3による線電流の検出タイミングを決定することができる。
図1の例示では、スイッチング信号生成部6が電流検出タイミング信号SHを線電流検出部3へと与えることで、これを示している。例えば線電流検出部3の検出タイミングは交流電圧の電圧位相60度毎のタイミングである。
【0032】
またここでは、制御部7はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部7はこれに限らず、制御部7によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0033】
<線電流の交流成分の推定の概要>
線電流推定部5は、
図2に例示するように、三相/二相変換部511と、直流成分抽出部512,513と推定部53とを備えている。
【0034】
三相/二相変換部511は線電流検出部3によって検出された線電流を三相の固定座標系から二相の固定座標系へと変換する。
図2の例示では、三相/二相変換部511は線電流検出部3から二相の線電流ix,iyの瞬時値を受け取る。線電流ix,iyは線電流iu,iv,iwのうちのいずれか二相の線電流である。勿論、線電流検出部3が三相の線電流iu,iv,iwの全てを検出する場合には、三相の線電流iu,iv,iwの瞬時値を受け取っても良い。三相/二相変換部511は線電流ix,iyに対して例えば公知の座標変換を適用し、二相の固定座標系のα軸及びβ軸の線電流iα,iβを算出し、これらをそれぞれ直流成分抽出部512,513に出力する。
【0035】
直流成分抽出部512は線電流iαの直流成分iα0を抽出する。より詳細には
図3も参照して、直流成分抽出部512は線電流iαの瞬時値iα[k−n+1],・・・,iα[k](kは自然数)の一連のn(nは2以上の整数)個の平均を、直流成分iα0として求める。瞬時値iα[k−n+1],・・・,iα[k]は交流電圧のm(mは自然数であって、m/nは整数ではない)周期をn分割した期間(以下、算出期間と呼ぶ)毎のタイミングで検出される。
図3の例示では、交流電圧の1周期を6分割した算出期間(電圧位相60度)が示されている。即ち
図3の例示ではm=1,n=6である。また
図4の例示ではm=3,n=8である。直流成分抽出部512は例えば当該平均を演算により求めても良く、例えば移動平均やローパスフィルタ等により求めても良い。具体的な内部構成の一例は後に詳述する。なお、nを無限大と把握すれば、線電流iαの瞬時値の一連のn個の平均は線電流iαのm周期の積分を交流電圧のm周期で除算した値とも把握できる。
【0036】
直流成分抽出部513は、直流成分抽出部512と同様にして線電流iβの直流成分iβ0を抽出するので、繰り返しの説明を省略する。
【0037】
なお、直流成分抽出部512,513へと上述のn個の線電流の瞬時値を与えるべく、線電流検出部3は交流電圧のm周期をn分割した算出期間毎のタイミングで線電流の瞬時値を検出する。
【0038】
推定部53は、線電流iα,iβの瞬時値iα[p],iβ[p](pは自然数)から直流成分iα0,iβ0を除いた交流成分の瞬時値iα2[p],iβ2[p]と、基本波成分についての波形の式とに基づいて、所定の時点における交流成分の瞬時値iα2[q],iβ2[q](qは自然数)を推定する。線電流iα,iβの基本波成分iα1,iβ1についての波形の式は次式で表される。
【0039】
iα1=IM・sinψ ・・・(1)
iβ1=IM・cosψ ・・・(2)
ここで、IMは電流振幅を表し、ψは電流位相を表す。
【0040】
推定部53は、交流成分の瞬時値iα2[p],iβ2[p]を基本波成分iα1,iβ1の瞬時値と見なし、式(1)と式(2)とを用いて、所定の時点における交流成分の瞬時値iα2[q],iβ2[q]を算出する。
【0041】
ここで比較のために、本実施の形態とは異なって、直流成分iα0,iβ0を含んだ瞬時値iα[p],iβ[p]に基づいて、式(1)と式(2)とを用いて、所定の時点における線電流の瞬時値を推定することを、考察する。直流成分iα0,iβ0はほぼ一定値であって、それぞれ式(1)及び式(2)を満足しない。よって、この推定方法の結果には直流成分iα0,iβ0による誤差が含まれる。
【0042】
一方、本実施の形態によれば、瞬時値iα[p],iβ[p]から直流成分iα0,iβ0を除いた交流成分の瞬時値iα2[p],iβ2[p]を用いている。したがって、直流成分iα0,iβ0による誤差を回避して、交流成分の瞬時値iα2[q],iβ2[q]を算出することができる。換言すれば交流成分の瞬時値iα2[q],iβ2[q]の推定精度を向上することができる。
【0043】
なお、直流成分抽出部512,513は、交流電圧のm周期をnで除算した算出期間毎のn個の瞬時値を平均してそれぞれ直流成分iα0,iβ0を算出する。よって、その平均値(直流成分iα0,iβ0)はn/m次の高調波成分を含む。このn/m次の高調波成分も式(1)及び式(2)を満足しない。したがって、本推定方法によれば、n/m次の高調波成分による誤差も回避することができる。
【0044】
<線電流の交流成分の推定の具体例>
図5に例示するように、直流成分抽出部512は(n−1)(
図5の例示ではnは6)個のメモリ5a〜5fと加算部5gと除算部5hとローパスフィルタ5iとを備えている。(n−1)個のメモリ5a〜5fは入力された線電流iαをそれぞれ、算出周期(例えば電圧位相60度)で1周期,・・・,(n−1)周期保持した上で、加算部5gへと出力する。よって加算部5gには線電流iαのn個の瞬時値iα[p],・・・,iα[p−n+1]が入力される。加算部5gは瞬時値iα[p],・・・,iα[p−n+1]の和を除算部5hへと出力する。除算部5hは当該和をnで除算して得られた平均をローパスフィルタ5iへと出力する。ローパスフィルタ5iは当該平均をさらに平滑して出力する。
【0045】
なおメモリの個数は(n−1)個に限らない。例えば算出周期毎に入力される瞬時値iαを順次に加算して得られる加算値を記録するメモリが1個あればよい。そして、m周期分の瞬時値iαの加算値をnで除算することで直流成分iα0を算出する。これによって、交流電圧のm周期毎に直流成分iα0を算出できる。また、このメモリが2個あればさらに細かい周期毎に直流成分iα0を算出できる。例えばm=1,n=6の場合について説明する。第1メモリは電圧位相180度のタイミングで6個の瞬時値iαの加算値を出力する。そしてそのタイミングで直流成分iα0が算出される。また、第1メモリは加算値を出力した後にこれをクリアし、次の電圧位相180度までの電圧位相60度毎に瞬時値iαを順次に加算する。一方、第2メモリは電圧位相360度のタイミングで6個の瞬時値iαの加算値を出力する。そしてそのタイミングで直流成分iα0が算出される。第2メモリは加算値を出力した後にこれをクリアし、次の電圧位相360度までの電圧位相60度毎に瞬時値iαを順次に加算する。これによって、電圧位相180度毎(交流電圧の1/2周期毎)に直流成分iα0を算出できる。メモリの個数を更に増やせば、さらに細かい周期毎に直流成分iα0を算出することができる。
【0046】
なお、直流成分抽出部512は、例えばメモリ5a〜5fと加算部5gと除算部5hとからなる演算部のみを有していても良く、また例えばローパスフィルタ5iのみを有していても良い。また直流成分抽出部513の内部構成の一例は直流成分抽出部512のそれと同様であるので繰り返しの説明を避ける。
【0047】
再び
図2を参照して、推定部53は、ある検出タイミングでの線電流iα,iβの瞬時値iα[p],iβ[p]を用いて、線電流iα,iβの交流成分の所定の時点における瞬時値を推定する。より詳細には、推定部53は、例えば減算部516,517と、電流振幅算出部514と、力率角算出部515と、電流位相算出部521と、推定部522,523とを備えている。
【0048】
減算部516は瞬時値iα[p]から直流成分iα0を減算し、これを交流成分の瞬時値iα2[p]として電流振幅算出部514および力率角算出部515へと出力する。減算部517は瞬時値iβ[p]から直流成分iβ0を減算し、これを交流成分の瞬時値iβ2[p]として電流振幅算出部514および力率角算出部515へと出力する。
【0049】
電流振幅算出部514は瞬時値iα2[p],iβ2[p]に基づいて次式を用いて電流振幅IMを算出し、これを推定部522,523に出力する。
【0050】
IM=sqrt(Iα2[p]^2+Iβ2[p]^2) ・・・(3)
【0051】
ここで、sqrtは括弧内の値の平方根を示し、A^BはAのB乗を示す。
図5の例示では、電流振幅算出部514に属して式(3)の演算を実行する機能ブロックとして、RMS部5kが示されている。また
図5の例示では式(3)で算出された電流振幅IMは、電流振幅算出部514に属する平均部5pを経て出力される。平均部5pは例えばローパスフィルタであって、電流振幅IMを平均する。これにより、外乱ノイズ等の影響を抑制することができる。なお平均部5pは必須要件ではない。
【0052】
力率角算出部515はまず瞬時値iα2[p],iβ2[p]に基づいて次式を用いて電流位相ψ[p]を算出する。
【0053】
ψ[p]=arctan(Iβ2[p]/Iα2[p]) ・・・(4)
【0054】
ここで、arctanは括弧内の値の逆正接値を示す。
図5の例示では、力率角算出部515に属して式(4)の演算を実行する機能ブロックとして、演算部5jが示されている。
【0055】
また力率角算出部515には、瞬時値iα2[p],iβ2[p]と実質的に同じ時点での交流電圧の電圧位相φ[p]が入力される。
【0056】
図1も参照して、交流電圧についての電圧位相φは例えば電圧位相取得部61によって取得される。例えば電圧位相取得部61は相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて電圧位相φを算出する。例えば相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に公知の座標変換を適用して二相の固定座標系のα軸およびβ軸の相電圧指令値Vα*,Vβ*を算出し、式(4)と同様に、これらの比の逆正接値を電圧位相φとして算出する。或いは、電圧位相指令値φ*に基づいて相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を導出する場合、電圧位相指令φ*を電圧位相φとして用いることができる。或いは、交流線Pu,Pv,Pwに印加される交流電圧を検出して、これに基づいて電圧位相φを算出しても良い。
【0057】
力率角算出部515は電流位相ψ[p]と電圧位相φ[p]とに基づいて次式を用いて力率角θを算出する。
【0058】
θ=ψ[p]−φ[p] ・・・(5)
【0059】
図5の例示では、力率角算出部515に属して式(5)の演算を実行する機能ブロックとして、減算部5mが示されている。また
図5の例示では式(5)で算出された力率角θは、力率角算出部515に属する平均部5nを経て出力される。平均部5nは例えばローパスフィルタであって、力率角θを平均する。これにより、外乱ノイズ等の影響を抑制できる。なお平均部5nは必須要件ではない。
【0060】
再び
図2を参照して、電流位相算出部521は力率角θと所定の時点における電圧位相φ[q]とに基づいて、次式を用いて所定の時点における電流位相ψ[q]を算出する。
【0061】
ψ[q]=θ+φ[q] ・・・(6)
【0062】
図6の例示では、電流位相算出部521に属して式(6)の演算を実行する機能ブロックとして、加算部5rが示されている。
【0063】
推定部522は電流振幅IMと電流位相ψ[q]とに基づいて次式を用いて瞬時値iα2[q]を算出する。
【0064】
iα2[q]=IM・sinψ[q] ・・・(7)
【0065】
図6の例示では、推定部522に属して電流位相ψ[q]の正弦値を求める機能ブロックとして、演算部5sが示され、推定部522に属して当該正弦値と電流振幅IMとの乗算を実行する機能ブロックとして、乗算部5tが示されている。
【0066】
推定部523は電流振幅IMと電流位相ψ[q]とに基づいて次式を用いて瞬時値iβ2[q]を算出する。
【0067】
iβ2[q]=IM・cosψ[q] ・・・(8)
【0068】
図6の例示では、推定部523に属して電流位相ψ[q]の余弦値を求める機能ブロックとして、演算部5uが示され、推定部523に属して当該余弦値と電流振幅IMとの乗算を実行する機能ブロックとして、乗算部5vが示されている。
【0069】
式(7)(8)は式(1)(2)から理解できる通り、基本波成分についての波形の式である。
【0070】
なお
図2の例示では、推定部522,523には直流成分iα0,iβ0が入力されているものの、本実施の形態では必ずしも必要ではなく、推定部522,523には直流成分iα0,iβ0が入力されていなくても良い(
図6も参照)。直流成分iα0,iβ0が推定部522,523に入力される場合については第2の実施の形態で述べる。
【0071】
また所定の時点における電流位相ψ[q]の算出は必ずしも上述の態様に限らない。例えば電圧位相φ[p],φ[q]の差Δφ(=φ[q]−φ[p])を、電流位相ψ[p]に加算して電流位相ψ[q](=ψ[p]+Δφ)を算出しても良い。或いは、例えば電流位相ψまたは電圧位相φから角速度ωを求め、電流位相ψ[p]の時点と電流位相ψ[p]の時点との間の時間Δtと、角速度ωとの乗算値(=ω・Δt)を、電流位相ψ[p]に加算して電流位相ψ[q](=ψ[p]+ω・Δt)を算出しても良い。なお誘導性負荷8がモータの場合、角速度ωはモータの回転速度からも求めることができる。
【0072】
なお、上述の例では二相の固定座標系において線電流を推定した。しかしながら、これに限らず、三相の固定座標系において線電流を推定しても良い。この場合、三相/二相変換部511は必須要件ではない。
【0073】
三相の固定座標系で線電流を取り扱う場合は、基本波成分の波形の式として例えば次式を採用する。
【0074】
iu=sqrt(2/3)・IM・sinψ ・・・(9)
iv=sqrt(2/3)・IM・sin(ψ−2/3π) ・・・(10)
iw=sqrt(2/3)・IM・sin(ψ+2/3π) ・・・(11)
【0075】
図2に即して述べると、線電流検出部3は二相の線電流ix,iyを検出し、直流成分抽出部512,513によって線電流ix,iyの直流成分ix0,iy0が抽出され、減算部516,517によって線電流ix,iyの瞬時値ix[p],iy[p]から直流成分ix0,iy0を除いた交流成分の瞬時値ix2[p],iy2[p]が算出される。
【0076】
式(9)〜式(11)のうちx相、y相についての2つの式において、左辺のix,iyとしてix2,iy2が採用される。よって、これらの2つの式において、未知数は電流振幅IMと電流位相ψ[p]との2つである。独立した式が2つで未知数が2つであるので、当該2つの式を用いてこれらの未知数を求めることができる。つまり、電流振幅算出部514は電流振幅IMを求めることができ、力率角算出部515は電流位相ψ[p]を求めることができる。ただし、線電流ix,iyを二相の固定座標系に変換すれば、より簡易な式(3)(4)により電流振幅IMと電流位相ψ[p]とを求めることができる。
【0077】
そして、力率角算出部515が式(5)により力率角θを算出し、電流位相算出部521が例えば式(6)を用いて電流位相ψ[q]を算出する。推定部522,523は電流振幅IMと電流位相ψ[q]とに基づいて上記2つの式を用いて交流成分の瞬時値ix2[q],iy2[q]を算出する。
【0078】
また線電流検出部3が三相の線電流iu,iv,iwを検出する場合には、線電流iu,iv,iwからそれぞれの直流成分を除いた交流成分と、式(9)〜(11)を用いて上述したのと同様にして所定の時点における三相の瞬時値を推定してもよい。
【0079】
なお、線電流検出部3が検出する少なくとも二相の線電流ix,iyと、二相の線電流iα,iβを纏めて二つの電流と表現すると、直流成分抽出部および推定部35は次のように表現できる。即ち、直流成分抽出部は二つの電流の瞬時値の一連のn個の平均をそれぞれ二つの電流の直流成分として求め、推定部35は一のタイミングにおける二つの電流の瞬時値からそれぞれ直流成分を除いて一のタイミングにおける二つの電流の交流成分の瞬時値を求め、交流成分の瞬時値と、二つの電流の基本波成分についての波形の式とに基づいて、所定の時点における交流成分の瞬時値を推定する。
【0080】
<線電流の交流成分の推定のフローチャートの具体例>
図7のフローチャートは所定周期(以下、制御周期とも呼ぶ)毎に繰り返し実行される。まずステップST1にて、線電流検出部3は線電流ix,iyを検出する電流検出フラグがセットされているかどうかを判断する。なお電流検出フラグは例えば
図1の電流検出タイミング信号SHと同じ機能を有しており、以下では電流検出フラグSHと呼ぶ。この電流検出フラグSHがどのようにしてセットされるのかは後述する。ステップST1において肯定的な判断がなされれば、ステップST2にて線電流検出部3は線電流ix,iyを検出する。
【0081】
次にステップST3にて、直流成分抽出部512,513は線電流の直流成分を抽出する。なお図中のオフセット量は直流成分と同義である。次に、ステップST4にて、電流振幅算出部514が電流振幅IMを算出し、力率角算出部515が力率角θを算出する。なお
図7ではステップST3,ST4の処理を纏めて符号51を付すとともに、
図2ではこの処理に相当する機能ブロックとして電流振幅・位相角推定部51を示している。
【0082】
ステップST1にて否定的な判断がなされた場合又はステップST4を実行した後に、ステップST5,ST6からなる一連の第1処理と、ステップST7〜ST10からなる一連の第2処理とが実行される。第1処理及び第2処理は、そのいずれが先に実行されてもよく、あるいは例えば時分割処理などにより互いに並行して実行されてもよい。
【0083】
ここでは、先に第2処理について説明する。第2処理はステップST2〜ST4の実行の契機となる電流検出フラグSHをセット/クリアするための処理であり、例えば制御部7に属する電流検出タイミング決定部62によって実行される。
【0084】
ステップST7にて、電流検出タイミング決定部62は次の制御周期における電圧位相φを算出する。より詳細には、例えば電流検出タイミング決定部62は、次の制御周期で採用される相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて電圧位相φを算出する。
【0085】
次にステップST8にて、電流検出タイミング決定部62はステップST7にて算出した電圧位相φが電流検出をすべき電圧位相かどうかを判断する。なお電流検出をすべきタイミングは、上述の通り、交流電圧の周期のm倍をnで除算した算出期間毎のタイミングであり、例えば予め定められている。例えばm,nとしてそれぞれ1,6を採用し、電流を検出すべきタイミングの一つとして、電圧位相φが30度となるタイミングを採用する。このとき、電流を検出すべきタイミングは電圧位相φが30度、90度、150度、210度、270度又は330度となるタイミングである。そして、電流検出タイミング決定部62はステップST7にて算出した電圧位相φが実質的に上述の角度に相当するかどうかを判断する。例えば電圧位相φ[p]と上述の角度との偏差が最も小さい制御周期において、電圧位相φが実質的に上述の角度に相当すると判断する。
【0086】
ステップST8にて肯定的な判断がなされれば、ステップST9にて電流検出タイミング決定部62は電流検出フラグSHをセットする。ステップST8にて否定的な判断がなされれば、ステップST10にて電流検出タイミング決定部62は電流検出フラグSHをクリアする。
【0087】
次に、第1処理について説明する。第1処理は、今回又は前の制御周期でのステップST3,ST4で求められた電流振幅IMと力率角θとに基づいて、今回の制御周期における線電流の交流成分の瞬時値を求めるための処理である。なお、
図7例示では、第1処理は、ステップST1において肯定的な判断がなされた場合にも実行されている。しかしながら、ステップST1にて肯定的な判断がなされれば、ステップST2において線電流の検出が行われるので、必ずしもその制御周期における線電流を推定する必要がない。よって、第1処理はステップST1にて否定的な判断がなされたときのみ実行されてもよい。ここでは
図7の例示に沿って説明する。
【0088】
ステップST5にて、電流位相算出部521は電圧位相φと力率角θとに基づいて電流位相ψを算出する。なお、ステップST1にて肯定的な判断がなされれば、理想的にはステップST5にて算出される電流位相ψはステップST4で算出される電流位相ψと同じ値を採り得る。一方で、例えば力率角θがローパスフィルタなどで平均化されれば、ステップST4,ST5において電流位相ψは異なり得る。
【0089】
次にステップST6にて、推定部522,523は電流振幅IMと電流位相ψとを用いて線電流の交流成分の瞬時値を算出する。なお、
図7ではステップST5,ST6の処理を纏めて符号52を付すと共に、
図3にはこの処理に相当する機能ブロックとして電流推定部52が示されている。
【0090】
以上の動作によって、制御周期毎に交流電流の瞬時値を推定することができる。
【0091】
第2の実施の形態.
第1の実施の形態では、検出した線電流の瞬時値を用いて所定の時点における交流成分の瞬時値を推定した。第2の実施の形態では、線電流のオフセットも考慮して所定時点における線電流を推定することを企図する。
【0092】
第2の実施の形態にかかる電力変換装置1の概念的な構成の一例は
図1のそれと同様である。第2の実施の形態では、
図8に例示するように、推定部522,523には直流成分iα0,iβ0が入力される。推定部522,523は、第1の実施の形態で説明したように、所定の時点における交流成分の瞬時値を算出する。第2の実施の形態では、推定部522,523は算出した交流成分の瞬時値にそれぞれ直流成分iα0,iβ0を加算して、所定の時点における線電流の瞬時値を算出する。
【0093】
図8の例示では、推定部522,523に属して交流成分の瞬時値iα2[q],iβ2[q]にそれぞれ直流成分iα0,iβ0を加える機能ブロックとして、加算部5w,5xがそれぞれ示されている。
【0094】
これにより、線電流の直流成分(いわゆるオフセット量)も考慮に入れて、所定時点における線電流の瞬時値を推定することができる。
【0095】
そして例えばスイッチング生成部6が、上述のようにして推定した線電流と線電流指令値との偏差に基づいて当該偏差が小さくなるようにスイッチング信号を生成する場合には、線電流のオフセットが低減される。線電流のオフセットは損失増加や電力の脈動の原因となる。また誘導性負荷がモータである場合、トルク脈動・回転速度の脈動を招き、その脈動が高ければ脱調を招き得る。よって、このようなオフセットの低減は有効である。
【0096】
なお、推定部522,523は直流成分をそのまま交流成分の瞬時値に加算するのではなく、直流成分になんらかの補正を行って交流成分の瞬時値に加算しても良い。例えば線電流検出部3の装置として生じる検出誤差を考慮して、直流成分を補正しても良い。また第1の実施の形態では、直流成分を補正してこれを0として、この値を交流成分の瞬時値に加算している、と把握することもできる。
【0097】
第3の実施の形態.
第2の実施の形態にかかる電力変換装置1の概念的な構成の一例は
図1のそれと同様である。第3の実施の形態では、線電流検出部3の検出方法と、その関連について述べる。
【0098】
線電流検出部3は直流電流検出部31と直流電流/線電流対応部32とを備えている。直流電流検出部31は直流線LH,LLを流れる直流電流Idcを検出する。
図1の例示では直流電流検出部31は直流線LLに設けられているものの、直流線LHに設けられていても良い。直流電流/線電流対応部32は直流電流検出部31から直流電流Idcを受け取り、スイッチング信号生成部6からスイッチング信号Sを受け取る。直流電流/線電流対応部32はスイッチング信号Sに基づいてスイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンを認識し、直流電流検出部31によって検出された直流電流Idcを、このスイッチングパターンに基づいた所定の相の線電流とみなす。以下、この点について詳述する。まずインバータ2の制御について説明することでスイッチングパターンについて説明し、当該スイッチングパターンと、線電流との関係について説明する。
【0099】
<インバータ2の制御>
インバータ2はスイッチング信号Sによって以下で述べるように制御される。まず、同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子および下側のスイッチング素子は相互に排他的に導通する。即ち、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、直流線LH,LLが短絡して各スイッチング素子S1〜S6に大電流が流れることを防止するためである。
【0100】
したがって、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンとして8種類のパターンが存在する。上側および下側のスイッチング素子が導通することをそれぞれ「1」「0」で示し、各相のスイッチングパターンを並べて表すと、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンは次の8種類である。即ち、スイッチングパターンは、(000)(001)(010)(011)(100)(101)(110)(111)である。例えば下側のスイッチング素子S4,S5が導通し、上側のスイッチング素子S3が導通するときにはスイッチングパターン(001)が採用される。
【0101】
また、これらのスイッチングパターンが採用されるときにインバータ2が出力する電圧(交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧)についてのベクトルを、上記数字の並びを2進数の数字と把握し、これを10進数で表して、それぞれ電圧ベクトルV0〜V7と表す。例えばスイッチングパターン(100)が採用されるときには電圧ベクトルV4が採用される。
【0102】
図9は電圧ベクトルV0〜V7の位置関係を示す電圧ベクトル図である。各電圧ベクトルV1〜V6はこれらの始点を中心点に一致させそれらの終点を放射状に外側に向けて配置される。各電圧ベクトルV1〜V6の終点同士を結ぶと正六角形を構成する。電圧ベクトルV0,V7に対応するスイッチングパターンでは交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡されるので、電圧ベクトルV0,V7は大きさを有さない。よって電圧ベクトルV0,V7は中心点に配置される。以下では電圧ベクトルV0,V7を零電圧ベクトルとも呼び、電圧ベクトルV1〜V6を非零電圧ベクトルとも呼ぶ。なお、上述の説明から理解できるように、非零電圧ベクトルV1〜V6においては、交流線Pu,Pv,Pwのうち、直流線LH,LLの一方が1つの交流線と導通し、他方が2つの交流線と導通する。また零電圧ベクトルV0,V7においては、交流線Pu,Pv,Pwの全てが直流線LHまたは直流線LLと導通する。以下では、
図9に例示するように、非零電圧ベクトルのうち周方向で隣り合う二者の間の領域を領域R1〜R6と呼ぶ。
【0103】
さて制御部7は、各領域R1〜R6を構成する2つの非零電圧ベクトルVi,Vj(i,j=1〜6,i≠j)と零電圧ベクトルV0(或いは零電圧ベクトルV7)とを所定周期Tにおいて適宜に採用する。換言すれば、6つのスイッチングパターン(001)(010)(011)(100)(101)(110)のうち互いに異なる2つのスイッチングパターンと、スイッチングパターン(000)(或いはスイッチングパターン(111))が所定周期において採用される。所定周期Tにおける平均的な電圧ベクトルVは各電圧ベクトルの合成で表される。よって以下では電圧ベクトルVを合成電圧ベクトルと呼ぶ。例えば所定周期Tにおいて領域R1を構成する電圧ベクトルV0,V4,V6がそれぞれ期間t0,t4,t6(t0,t4,t6≧0,T=t0+t4+t6)に渡って採用される。言い換えれば、期間t0,t4,t6においてそれぞれスイッチングパターン(000)(100)(110)が採用される。このときの合成電圧ベクトルVは次式で表される。
【0104】
V=(t0・V0+t4・V4+t6・V6)/T ・・・(12)
【0105】
制御部7は所定周期T毎に期間t0,t4,t6を適宜に調整して電圧ベクトルV0,V4,V6を採用することで、電圧ベクトルVをその大きさを一定に保ちつつも、領域R1内において中心点を中心として電圧ベクトルVの方向を回転させることができる。同様にして、制御部7が領域R2内において電圧ベクトルV0(V7),V2,V6を適宜に採用する。領域R3〜R6内においても同様である。これによって合成電圧ベクトルVを、その大きさを一定に保ちつつも、その方向を回転させることができる。よって交流線Pu,Pv,Pwには三相交流電圧が出力されることになる。なお、合成電圧ベクトルVの大きさが交流線Pu,Pv,Pwから出力される三相交流電圧の振幅に相当し、角速度の逆数が三相交流電圧の周期に相当する。よって大きさも角速度も一定であれば当該三相交流電圧は対称三相交流電圧となる。
【0106】
以上のように、制御部7は所定周期T毎に互いに異なる非零電圧ベクトルVi,Vjと零電圧ベクトルとをそれぞれ期間ti(≧0),tj(≧0),t0(或いはt7、或いはt0+t7)に渡って採用する。言い換えれば、上側および下側のスイッチング素子群の一方に属するスイッチング素子の2つと他方に属するスイッチング素子の一つとが導通するスイッチングパターン(001)(010)(011)(100)(101)(110)のうち、互いに異なる2つのスイッチングパターンがそれぞれ期間ti,tjに渡って採用され、上側および下側のスイッチング素子群の一方のみに属する3つのスイッチング素子を導通させるスイッチパターン(000)(111)のうち少なくともいずれか一つがそれぞれ少なくとも期間t0,t7に渡って採用される。
【0107】
<線電流検出>
上述の各スイッチングパターンが採用されているときにインバータ2に流れる電流について考察する。なお上述の通りスイッチングパターンは電圧ベクトルと対応するので、以下では電圧ベクトルを用いて説明する。
図10〜
図17はそれぞれ電圧ベクトルV0〜V7が採用されたときのインバータ2に流れる電流を示している。
図10,17に示すように零電圧ベクトルV0,V7が採用されている場合は、交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡するので、直流線LH,LLには直流電流Idcが流れない。
【0108】
図11に示すように非零電圧ベクトルV1が採用されるときには上側のスイッチング素子S3と下側のスイッチング素子S4,S5とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcはスイッチング素子S3を経由して線電流iwとして交流線Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iwは誘導性負荷8において分岐する。分岐された2つの電流は線電流iu,ivとしてそれぞれ交流線Pu,Pvを負の方向に流れる。線電流iu,ivはそれぞれスイッチング素子S4,S5を経由して直流線LLにおいて合流し、直流電流Idcとして流れる。したがって、非零電圧ベクトルV1が採用されているときには直流電流Idcは線電流iwと等しい。
【0109】
また
図13に示すように非零電圧ベクトルV3が採用されるときには、上側のスイッチング素子S2,S3と下側のスイッチング素子S4とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcは分岐してそれぞれスイッチング素子S2,S3を経由して線電流iv,iwとして交流線Pv,Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iv,iwは誘導性負荷8において合流して線電流iuとして交流線Puを負の方向に流れる。線電流iuはスイッチング素子S4を経由して直流電流Idcとして直流線LLを流れる。したがって、非零電圧ベクトルV3が採用されているときには直流電流Idcは、負の値を有する線電流iuと対応する。以下では、線電流が負であることを表現すべく、その符号にマイナスを付与する。
【0110】
図12、
図15〜
図16に示すように、他の非零電圧ベクトルV2,V4〜V6が採用されるときにも直流電流Idcと線電流とが対応付けられる。
図9には各非零電圧ベクトルに対応する線電流が付記されている。
【0111】
図9に示されるように、非零電圧ベクトルV1〜V6が採用されているときには直流電流Idcは線電流iu,iv,iwのいずれかと対応する。したがって、直流電流Idcを、非零電圧ベクトルに基づいて決定される相の線電流として推定することができる。例えば非零電圧ベクトルV4が採用される期間において直流電流Idcを線電流iuとして検出する(
図15も参照)。
【0112】
またインバータ2の制御について上述したように、所定周期T毎に非零電圧ベクトルVi,Vjがそれぞれ期間ti,tjに渡って採用される。しかも
図9から理解できるように、各領域R1〜R6で採用される非零電圧ベクトルVi,Vjについて、直流電流Idcと一致する線電流の相は互いに異なる。例えば領域R1で採用される非零電圧ベクトルV4,V6について考慮すると、非零電圧ベクトルV4が採用される期間t4では直流電流Idcはu相の線電流と対応し、非零電圧ベクトルV6が採用される期間t6直流電流Idcはw相の線電流−iwと対応する。したがって所定周期T内の期間ti,tjにおいて直流電流Idcをそれぞれ異なる2相の線電流として検出することができる。3相の線電流iu,iv,iwの総和は零であるので、検出した2相の線電流から残りの1相の線電流を算出することもできる。よってこの場合には所定周期T毎に3相の線電流が算出される。
【0113】
<期間の補正>
しかしながら実際には期間ti,tjの少なくともいずれか一方が直流電流Idcを検出するために必要な期間よりも短い場合が生じ、その期間において適切に直流電流Idcを検出できない。この点について以下に説明する。
【0114】
図18は所定周期Tにおけるスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通と直流電流Idcの一例を示している。
図18の例示では、期間t0,t4,t6,t7に渡ってそれぞれ電圧ベクトルV0,V4,V6,V7が採用されている。即ち、
図18は領域R1における一例を示している。さて
図18の例示では所定周期Tの始期においてスイッチング素子S1〜S3は非導通である。そして、所定周期Tの始期から期間t0が経過したときにスイッチング素子S1が導通し、スイッチング素子S1が導通を開始した時点から期間t4が経過したときにスイッチング素子S2が導通し、スイッチング素子S2が導通を開始した時点から期間t6が経過したときにスイッチング素子S3が導通している。
【0115】
そして
図18に例示するように、直流電流Idcはスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通の切り替えによって過渡的には脈動する。かかる過渡的な脈動は期間の経過と共に低減して直流電流Idcは安定する。なお
図18の例示では脈動から安定までの期間が期間t11で表されている。一般的には、このような期間t11を避けて直流電流Idcが検出される。
【0116】
しかしながら
図19に例示するように期間t6が期間t11よりも短ければ、適切な精度で期間t6における直流電流Idcを検出できない。
【0117】
また線電流検出部3が直流電流Idcの値をアナログからデジタルに変換する場合であれば、かかる変換にも期間t13を要する。したがって、たとえ過渡的な脈動が非常に小さく期間t11が無視できる程度に小さいとしても、期間t6が期間t13よりも短いときにはその期間t6において直流電流Idcを検出できない。
【0118】
図19の例示では、期間t4は直流電流Idcの検出に必要な期間tref(
図19の例示では期間t11,t13の和)よりも長い。よって、期間t4のうち最初の期間t11と最後の期間t13を除いた期間t12において直流電流Idcの検出することで、適切な精度で直流電流Idcを検出できる。一方、期間t6は期間trefよりも短い。よって期間t6において直流電流Idcを適切な精度で検出できない。したがって、
図19の例示では、所定周期Tにおいて1相の線電流iuの値を取得することができるものの、他の2相の線電流iv,iwを適切な精度で取得できない。また例えば所定周期Tにおいて期間ti,tjの両方が期間trefよりも短いときには、所定周期Tにおいて1相の線電流すら適切な精度で検出できない。
【0119】
さて期間ti,tjが期間trefよりも短いという事象は、例えば合成電圧ベクトルVが各非零電圧ベクトルV1〜V6の近傍に位置する、若しくは零電圧ベクトルV0,V7の近傍に位置するときに生じる。例えば
図20を参照して、合成電圧ベクトルVが領域R1に位置して非零電圧ベクトルV4の近傍に位置する場合、期間t6が期間trefよりも短い。
図20では、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短い領域を斜線のハッチングで示し、期間ti,tjの両方が期間trefよりも短い領域を砂地のハッチングで示している。
【0120】
第3の実施の形態では、これらの領域においても線電流検出を可能にすべく、
図1に例示するように、電力変換装置1は補正部63を有している。補正部63は、線電流検出部3によって線電流を検出すべきタイミングを含む所定周期Tの各々において、期間ti,tjの少なくとも何れか一方が期間trefよりも短いときに、その所定周期Tにおいて期間ti,tjの両方が期間tref以上となるように補正を行う。
【0121】
図18,19から理解できるように、期間ti,tjの調整はスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通のタイミングを調整することで実行することができる。よって、補正部63はスイッチング信号Sを調整することで期間ti,tjの補正を行う。これはたとえばスイッチング信号Sを生成するための相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*などを調整することでも実現できる。
【0122】
この補正部63の補正によって、電流検出すべきタイミング、即ち交流電圧のm周期をnで除算した期間毎(例えば電圧位相60度毎)のタイミングが、所定周期Tに含まれている場合、その所定周期Tにおいて期間ti,tjの両方が期間tref以上となる。したがって、線電流検出部3はこの期間ti,ijにおいて適切に線電流ix,iyを検出することができる。
【0123】
このような電力変換装置において、第1又は第2の実施の形態と同様に、推定部35は所定の時点における交流成分の瞬時値を推定するところ、当該所定の時点は期間ti,tjの少なくとも何れか一方が期間trefよりも小さい所定周期Tに含まれる。換言すれば、合成電圧ベクトルVが斜線または砂地のハッチングの領域内に位置するタイミングでの交流成分の瞬時値が推定される。
【0124】
交流成分を推定するためには、期間ti,tjが期間tref以上であることを必要としないので、補正部63は所定の時点を含む所定周期Tにおける期間ti,tjを補正する必要はない。一方で、期間ti,tjを補正すれば、本来出力すべき交流電圧とは異なる波形の交流電圧が出力されてその波形が歪むところ、第3の実施の形態では期間ti,tjを補正する必要性を低減できるので、当該歪みの低減に資することができる。
【0125】
なお、期間ti,tjの両方が期間tref以上である所定周期Tに含まれる所定の時点での、交流成分の瞬時値を推定してもよいことは当然である。
【0126】
また例えば、合成電圧ベクトルVの軌跡が
図20の砂地のハッチングを付与された領域で円を描くとき、従来であれば、線電流の瞬時値を検出するたびに期間ti,tjの補正が必要であった。一方、第3の実施の形態によれば、交流電圧の一周期(合成電圧ベクトルVの1回転)において、線電流の瞬時値を検出するn/m回(例えば6回)だけ期間ti,tjの補正を行えばよい。これにより、交流電圧の歪みを抑制できる。
【0127】
また電流を検出すべきタイミングは、期間ti,tjの両方が期間tref以上である所定周期Tに含まれることが望ましい。換言すれば、合成電圧ベクトルVが
図20の白抜きの領域に位置するタイミングで、電流検出を行うことが望ましい。これを満足しやすくするように、電流検出タイミングは電圧位相φが実質的に30度、90度、150度、210度、270度及び330度を採るタイミングであることが望ましい。なぜなら、合成電圧ベクトルVの大きさが小さい場合であっても、他のタイミングに比べて、合成電圧ベクトルVが白抜きの領域に位置しやすいからである。