特許第5780156号(P5780156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780156
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブインク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20150827BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20150827BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C09D11/03
   C09D11/38
   B41M5/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-525743(P2011-525743)
(86)(22)【出願日】2010年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2010004090
(87)【国際公開番号】WO2011016172
(87)【国際公開日】20110210
【審査請求日】2013年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2009-180834(P2009-180834)
(32)【優先日】2009年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150197
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩幸
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−249399(JP,A)
【文献】 特開平10−237366(JP,A)
【文献】 特開2000−160072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/38
C09D 11/03
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカーボンナノチューブと、溶媒と、下記の一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物と、炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として有するポリエチレングリコール化合物とを含有してなることを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物。
【化1】
(但し、上記の一般式(1)中、mは0〜5の整数を表し、nは0〜5の整数を表す。R〜Rは水素原子または炭素数が1〜6の直鎖または分枝の炭化水素基を表す。R〜Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール化合物の含有量は、質量比で前記カーボンナノチューブの含有量と同量であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項3】
前記溶媒が水であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項4】
前記炭素数が10以上のアルコキシ基が炭素数18〜20の直鎖の飽和アルコキシ基であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブインク組成物をインクジェットヘッド装置から印刷媒体の印刷面に噴霧させることを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物の噴霧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを分散質として均一に分散させたカーボンナノチューブインク組成物に関し、特に、印刷装置を用いた印刷における印刷性に優れたインクを得ることが可能なカーボンナノチューブインク組成物に関する。
本願は、2009年8月3日に、日本に出願された特願2009−180834号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを円筒状に丸めた構造をなしており、一般的に、ストローまたは麦わら状の構造をなしている。
また、カーボンナノチューブは、単層のチューブからなるシングルウォールカーボンナノチューブ(Single Walled Carbon Nano Tube:SWCNT)、直径の異なる2本のチューブが積層した構造(二層構造)のダブルウォールカーボンナノチューブ(Double Walled Carbon Nano Tube:DWCNT)、直径の異なる多数のチューブが積層した構造(多層構造)のマルチウォールカーボンナノチューブ(Multi Walled Carbon Nano Tube:MWCNT)に分類されており、それぞれの構造における特徴を活かした応用研究が進められている。
【0003】
このようなカーボンナノチューブの中でも、SWCNTは、グラフェンシートの巻き方により半導体特性を有する構造が存在し、高い移動度が期待されることから、薄膜トランジスタ(TFT)への応用が期待され、その研究が活発に進められている。例えば、非特許文献1〜4などには、カーボンナノチューブを用いたTFTが、シリコンまたはシリコン以上の性能を有することが開示されている。
カーボンナノチューブをチャネルの半導体材料の成分の1つとして用いる場合、1本または数本のカーボンナノチューブをこの半導体材料に分散させるか、あるいは、多数本のカーボンナノチューブをこの半導体材料に分散させて、TFTを製造する。
【0004】
1本または数本のカーボンナノチューブを用いる場合、一般的に、カーボンナノチューブの長さは1μm程度またはそれ以下であることが多いため、TFTを作製する際に微細加工が必要となり、ソース電極とドレイン電極の間、いわゆるチャネル長をサブミクロンスケールで製造する必要がある。
これに対して、多数本のカーボンナノチューブを用いる場合、カーボンナノチューブのネットワークをチャネルとして利用するので、チャネル長を大きくすることが可能となるから、チャネルを簡便に製造できるようになる。多数本のカーボンナノチューブを溶媒などに分散させてTFTを製造する方法としては、例えば、非特許文献5に開示されている方法が挙げられる。
【0005】
また、DWCNTやMWCNTは、高い電気伝導性を示すため、電極材料や配線材料、帯電防止膜、透明電極への応用が期待され、その研究が進められている。
多数本のカーボンナノチューブが均一に分散したTFTを形成するには、多数本のカーボンナノチューブを溶媒などに分散させて分散液とし、この分散液を用いてTFTを形成する。例えば、非特許文献6〜9などには、この分散液によりカーボンナノチューブからなる薄膜を形成する方法が開示されている。 このカーボンナノチューブを含む分散液を用いて、カーボンナノチューブからなる薄膜を形成することにより、素子、デバイスまたは製品の基板にフレキシブル性を付与できるだけでなく、ガラスなどの硬い材料はもちろんのこと、天然樹脂やプラスチックを適用することにより、素子、デバイス、製品全体にフレキシブル性を付与できる。さらに、この分散液を用いることにより、塗布プロセスを採用することができるので、塗布プロセス、印刷プロセスを適用した製造方法により、素子、デバイスまたは製品の製造コストを低下させることができる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.J.Tans等、NATURE、393号、49頁、1998年
【非特許文献2】R.Martel等、Appl.Phys.Lett.、73巻、17号、2447頁、1998年
【非特許文献3】S.Wind等、Appl.Phys.Lett.、80巻、20号、3817頁、2002年
【非特許文献4】K.Xiao等、Appl.Phys.Lett.、83巻、1号、150頁、2003年
【非特許文献5】S.Kumar等、Appl.Phys.Lett.、89巻、143501頁、2006年
【非特許文献6】N.Saran等、J.Am.Chem.Soc.、126巻、4462頁、2004年
【非特許文献7】Z.Wu等、SCIENCE、305号、1273頁、2004年
【非特許文献8】M.Zhang等、SCIENCE、309号、1215頁、2005年
【非特許文献9】Y.Zhou等、Appl.Phys.Lett.、88巻、123109頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、保存安定性に優れたカーボンナノチューブを含む分散液を調製することは非常に困難であり、このような分散液を調製するには、イオン性の界面活性剤や、特殊な構造を有する分散剤を分散液に添加する必要があった。これらの界面活性剤や分散剤は、分散液の保存安定性を向上させることができるものの、この分散液を用いたインクを印刷に適用した場合、印刷性が低下することや、印刷装置に悪影響を及ぼすことが多かった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、保存安定性に優れ、かつ、印刷装置を用いた印刷における印刷性にも優れたカーボンナノチューブ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カーボンナノチューブインク組成物に特定の構造を有する化合物を含有させることによって、保存安定性に優れ、かつ、印刷特性に優れたカーボンナノチューブインク組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るカーボンナノチューブインク組成物は、少なくともカーボンナノチューブと、溶媒と、下記の一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物と、炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として有するポリエチレングリコール化合物とを含有してなることを特徴とする。
【0011】
【化1】
【0012】
(但し、上記の一般式(1)中、mは0〜5の整数を表し、nは0〜5の整数を表す。R〜Rは水素原子または炭素数が1〜6の直鎖または分枝の炭化水素基を表す。R〜Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るカーボンナノチューブインク組成物によれば、少なくともカーボンナノチューブと、溶媒と、上記の一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物と、を含有してなるので、カーボンナノチューブの分散安定性に優れ、印刷特性にも優れたカーボンナノチューブインク組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物の実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、少なくともカーボンナノチューブと、溶媒と、下記の一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物と、を含有してなる組成物である。
【0016】
【化2】
【0017】
但し、上記の一般式(1)中、m、nは同一であっても異なっていてもよく、mは0〜5の整数を表し、nは0〜5の整数を表す。また、上記の一般式(1)中、R、R、R、Rは同一であっても異なっていてもよく、R〜Rは水素原子または炭素数が1〜6の直鎖または分枝の炭化水素基を表す。また、上記の一般式(1)中、R、R、R、Rは、同一であっても異なっていてもよく、R〜Rは水素原子またはメチル基を表す。
【0018】
上記の一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物は、分子中に三重結合を有するアセチレン骨格と、三重結合に隣接する炭素原子にそれぞれ1つの水酸基またはエチレングリコール基を有する化合物である。
【0019】
アセチレングリコール化合物は、従来、インクの濡れ性を向上させるための濡れ剤として用いられており、印刷装置、特に、インクジェットヘッド装置内の部材に対するインクのなじみを向上させ、インクジェットヘッド装置内でのインクの安定性を保持し、結果として、インクジェットヘッド装置からのインクの吐出性を向上させることができる。
【0020】
本発明で用いられるアセチレングリコール化合物としては、例えば、3,4−ジ(2-ヒドロキシエトキシ)−2,5−ジメチル−3−ヘキシン、4,5−ジ(2-ヒドロキシエトキシ)−3,6−ジメチル−4−オクチン、4,5−ジ(3-ヒドロキシ−2−ブトキシ)−3,6−ジメチル−4−オクチン、4,5−ジ(2-ヒドロキシエトキシ)−2,3,6,7−テトラメチル−4−オクチン、5,6−ジ(2-ヒドロキシエトキシ)−4,7−ジメチル−5−デシン、5,6−ジ(2-ヒドロキシエトキシ)−4,7−ジエチル−5−デシンなどが挙げられる。
【0021】
また、このアセチレングリコール化合物は、特開2003−038906号公報に記載の方法により調製することができる。
【0022】
本発明者等は、アセチレングリコール化合物が、印刷装置からのインクの吐出性を向上させるだけでなく、溶媒に対するカーボンナノチューブの分散安定性にも大きく寄与することを見出した。すなわち、アセチレングリコール化合物は、グリコール鎖のアルキレン構造と、三重結合に隣接する炭素原子に結合するアルキル構造を有するので、カーボンナノチューブとの親和性を有する。また、アセチレングリコール化合物は、分子内にエーテル結合を有し、化合物によっては末端の水酸基が大きな双極子モーメントを有するので、溶媒に対する親和性を有する。このように、アセチレングリコール化合物は、分子内にカーボンナノチューブとの親和性を有する部位(構造)と、溶媒に対する親和性を有する部位(構造)とを備えているので、溶媒に対するカーボンナノチューブの良好な分散状態を保持することができる。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物は、上述した印刷性の向上と、カーボンナノチューブの分散安定性とを確保することができる。しかしながら、このアセチレングリコール化合物は、主鎖の炭素数が大きくなり、R〜Rのアルキル基の長さが長くなると、カーボンナノチューブの分散安定性が向上するものの、溶媒に対する溶解性が低下するため、目的とする印刷安定性が得られ難くなる。
【0024】
したがって、アセチレングリコール化合物のR〜Rは、炭素数が1のメチル基から、炭素数が6のヘキシル基の範囲から選択されることが好ましく、炭素数が1のメチル基から、炭素数が4のブチル基の範囲から選択されることがより好ましい。なお、アルキル基がノルマルアルキル基のような直鎖構造ではなく、イソアルキル基のような分枝構造をなしていれば、同じ炭素数であっても、アセチレングリコール化合物の溶解性が向上する。
【0025】
また、一般式(1)において、グリコールの重合度を表すm、nがどちらも0である場合、アセチレングリコール化合物のグリコール鎖(アルキレン構造)は水酸基となり、このアセチレングリコール化合物でも本発明の効果が得られる。しかしながら、この化合物は、溶媒に対する溶解性が低下するため、印刷装置からのインクの吐出性も低下することがある。したがって、分散安定性と、溶解性に基づく印刷特性とを両立したカーボンナノチューブインク組成物を得るためには、一般式(1)におけるm、nが1〜3の範囲から選択されることが好ましい。また、グリコール鎖のエチレン基は、メチル基(一般式(1)におけるR〜Rがメチル基)を有していてもよい。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、アセチレングリコール化合物の含有量は特に限定されないが、実用的には、カーボンナノチューブの含有量に応じて適宜調整されるが、アセチレングリコール化合物の含有量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して10質量部以上、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、50質量部以下である。
アセチレングリコール化合物の含有量が10質量部未満では、カーボンナノチューブの分散安定性が低下し、カーボンナノチューブの析出、凝集、沈殿現象が起こり、結果として、印刷安定性が低下するおそれがある。一方、アセチレングリコール化合物の含有量が50質量部を超えると、インクの表面張力の著しい低下を招き、印刷装置からの印刷特性が低下する。
【0027】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、カーボンナノチューブのサイズ等は、 特に限定されないが、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)としては、直径0.7nm〜2nm、長さ0.5μm〜2.0μmのものが好適に用いられ、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)としては、直径1.0nm〜3.0nm、長さ0.5μm〜5.0μmのものが好適に用いられ、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)としては、外径5.0nm〜40.0nm、内径0.7nm〜2nm、長さ1.0μm〜10.0μmのものが好適に用いられる。
【0028】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、カーボンナノチューブの含有量は特に限定されないが、実用的には、カーボンナノチューブの含有量は、0.005質量%以上、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、1質量%以下である。
カーボンナノチューブの含有量が、0.005質量%未満では、このカーボンナノチューブインク組成物を用いて、薄膜トランジスタ(TFT)を形成することが難しくなる。一方、カーボンナノチューブの含有量が10質量%を超えると、カーボンナノチューブインク組成物自体の粘ちょう性が増してペースト状になり、インクジェットヘッド装置からのインクの吐出性が低下するおそれがある。
【0029】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、溶媒としては、水または有機溶媒が用いられる。
有機溶媒としては、例えば、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノールなどの一価アルコール類、α−テルピネオールなどの単環式モノテルペンに属するアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、低沸点で溶媒が蒸発し、CNT(カーボンナノチューブ)の薄膜が形成しやすく、燃焼・爆発の危険性が少ないという観点から、ジクロロエタンが好ましい。
【0030】
また、本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、さらに、炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として有するポリエチレングリコール化合物を含有してなることが好ましい。この炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として有するポリエチレングリコール化合物をさらに添加することによって、より高濃度にカーボンナノチューブを安定に分散させることができる。
炭素数が10以上のアルコキシ基としては、飽和アルコキシ基または不飽和アルコキシ基のいずれであってもよく、また、直鎖のアルコキシ基または分枝のアルコキシ基であっても高い分散安定性を得ることができる。なかでも、炭素数が10以上のアルコキシ基が、炭素数が18〜20の直鎖の飽和アルコキシ基である場合、このポリエチレングリコール化合物は、特にカーボンナノチューブの高い分散安定性を示す。
【0031】
この炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として有するポリエチレングリコール化合物を添加することにより、本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、カーボンナノチューブの濃度が10質量%まで、カーボンナノチューブを安定に分散させることができる。
また、本発明のカーボンナノチューブインク組成物において、炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として有するポリエチレングリコール化合物の含有量は特に限定されないが、質量比でカーボンナノチューブの含有量と同量とすることにより、カーボンナノチューブの高い分散安定性を保持できる。
【0032】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物によれば、少なくともカーボンナノチューブと、溶媒と、上記の一般式(1)で表されるアセチレングリコール化合物と、を含有してなるので、カーボンナノチューブの分散安定性に優れ、かつ、このインク組成物の印刷装置の部材に対する濡れ性を効果的に改善させることができるから、印刷装置、特に、インクジェットヘッド装置に対する濡れ性が非常に良くなり、印刷装置を用いて、このインク組成物を印刷媒体の印刷面に印刷する場合、高い印刷特性が得られる。
特に、カーボンナノチューブインク組成物を、インクジェットヘッド装置から印刷媒体の印刷面に噴霧、吐出させる場合、インク組成物の濡れ性が悪いと、インクジェットヘッド装置内部にこのインク組成物を十分に充填できないことや、インク組成物を安定して噴霧、吐出させることができない。そこで、本発明のカーボンナノチューブインク組成物を用いれば、インクジェットヘッド装置内部へのインク組成物の充填が容易となるばかりでなく、このインク組成物を安定して噴霧、吐出させることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
「実施例1」
本実施例1では、カーボンナノチューブインク組成物1を以下の手順で調製した。
まず、ガラス製の容器(ガラス容器)に、Hipco(High Pressure Carbon monooxide)法により作製したシングルウォールカーボンナノチューブを10mg秤量し、さらに、このガラス容器に下記の化学式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)という。)を5mg加えた。
次いで、ガラス容器に水を10g加え、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行い、カーボンナノチューブの分散液(カーボンナノチューブインク組成物1)を調製した。
超音波処理直後のカーボンナノチューブインク組成物1は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。
また、このカーボンナノチューブインク組成物1を放置して、超音波処理から10日後および超音波処理から30日後に観察したところ、超音波処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
この評価結果を表1に示す。
なお、カーボンナノチューブインク組成物1の分散状態を下記の3段階で評価した。
◎:残留物、沈殿物なし
△:残留物、沈殿物あり
×:全て沈殿
【0035】
【化3】
【0036】
また、このカーボンナノチューブインク組成物1をコニカミノルタ社製のインクジェットヘッド装置に充填し、インクジェットヘッド装置からこのインク組成物を吐出させて、その吐出状態を観察した。
その結果、カーボンナノチューブインク組成物1を充填したインクジェットヘッド装置を動作させたところ、いずれの場合も、このインク組成物を安定して吐出させることができるのが確認された。
この評価結果を表1に示す。
なお、カーボンナノチューブインク組成物1の吐出状態を下記の3段階で評価した。
◎:安定して吐出できた
△:吐出することができるものの、安定して吐出できなかった
×:全く吐出できなかった
【0037】
「比較例1」
化合物(2)を用いない以外は実施例1と全く同様にして、カーボンナノチューブインク組成物101を調製した。
実施例1と同様にして、得られたカーボンナノチューブインク組成物101について、超音波処理直後、超音波処理から10日後および超音波処理から30日後における分散状態を評価した。
その結果、超音波処理直後のカーボンナノチューブインク組成物101は、ある程度分散が見られ、若干の残留物が見られただけであった。このインク組成物を10日後、30日後に観察したところ、全てのカーボンナノチューブが沈殿していることが確認された。
また、実施例1と同様にして、得られたカーボンナノチューブインク組成物101について、インクジェットヘッド装置からの吐出状態を評価した。
その結果、インクジェットヘッド装置からのインク吐出性が悪く、安定したインク液滴を形成することができなかった。
これらの結果を表1に示す。
【0038】
「実施例2〜10」
表1に示すカーボンナノチューブ(A)、アセチレングリコール化合物(B)および溶媒(C)を用いた以外は実施例1と全く同様にして、カーボンナノチューブインク組成物2〜10を調製した。
実施例1と同様にして、得られたカーボンナノチューブインク組成物2〜10について、超音波処理直後、超音波処理から10日後および超音波処理から30日後における分散状態、並びに、インクジェットヘッド装置からの吐出状態を評価した。
これらの結果を表1に示す。
また、アセチレングリコール化合物(B)の置換基を表2に示す。
【0039】
「比較例2〜5」
表1に示すカーボンナノチューブ(A)および溶媒(C)を用いた以外は比較例1と全く同様にして、カーボンナノチューブインク組成物102〜105を調製した。
実施例1と同様にして、得られたカーボンナノチューブインク組成物102〜105について、超音波処理直後、超音波処理から10日後および超音波処理から30日後における分散状態、並びに、インクジェットヘッド装置からの吐出状態を評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0040】
「実施例11」
本実施例11では、カーボンナノチューブインク組成物11を以下の手順で調製した。
まず、ガラス製の容器(ガラス容器)に、Hipco法により作製したシングルウォールカーボンナノチューブを100mg秤量し、さらに、このガラス容器に化合物(2)を50mg加えた。
さらに、このガラス容器に、末端にラウリルアルコキシ基(C1837O−)を導入したポリエチレングリコール(分子量1000)を1g加えた。
次いで、ガラス容器に水を10g加え、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行い、カーボンナノチューブインク組成物11を調製した。
超音波処理直後のカーボンナノチューブインク組成物11は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。
また、このカーボンナノチューブインク組成物11を放置して、超音波処理から10日後および超音波処理から30日後に観察したところ、超音波処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
この評価結果を表1に示す。
また、このカーボンナノチューブインク組成物11をコニカミノルタ社製のインクジェットヘッド装置に充填し、インクジェットヘッド装置からこのインク組成物を吐出させて、このインク組成物の吐出状態を観察した。
その結果、カーボンナノチューブインク組成物11を充填したインクジェットヘッド装置を動作させたところ、このインク組成物を安定して吐出させることができるのが確認された。
これらの評価結果を表1に示す。
【0041】
「比較例6」
化合物(2)を用いない以外は、実施例11と全く同様にして、カーボンナノチューブインク組成物106を調製した。
実施例11と同様にして、得られたカーボンナノチューブインク組成物106について、超音波処理直後、超音波処理から10日後および超音波処理から30日後における分散状態を評価した。
その結果、超音波処理直後のカーボンナノチューブインク組成物106は、均一に分散していた。しかし、このインク組成物は、10日後および30日後には沈殿が一部生じて、安定した分散性が得られなかった。
また、実施例11と同様にして、得られたカーボンナノチューブインク組成物106について、インクジェットヘッド装置からの吐出状態を評価した。
その結果、インクジェットヘッド装置からのインク吐出性が悪く、安定したインク液滴を形成することができなかった。
これらの結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明に係るカーボンナノチューブインク組成物は、上述の実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、上述の実施形態の構成から種々の修正および変更を施したカーボンナノチューブインク組成物も、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るカーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブの分散安定性に優れ、印刷特性にも優れているので、産業上極めて有用である。