特許第5780164号(P5780164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780164
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】屋根葺き構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 1/04 20060101AFI20150827BHJP
   E04D 1/30 20060101ALI20150827BHJP
   E04D 13/18 20140101ALI20150827BHJP
   H02S 20/26 20140101ALI20150827BHJP
【FI】
   E04D1/04 G
   E04D1/30 603H
   E04D13/18ETD
   H02S20/26
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-11803(P2012-11803)
(22)【出願日】2012年1月24日
(65)【公開番号】特開2013-151793(P2013-151793A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2013年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越宗 篤史
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02072708(EP,A1)
【文献】 特開平11−131735(JP,A)
【文献】 特開2008−057172(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02601983(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/04
E04D 1/30
E04D 13/18
H02S 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向における片側略半部に山部、他側略半部に谷部がそれぞれ形成された非対称断面の波形瓦と、矩形の平板形状を有する瓦型太陽電池パネルとを、勾配屋根面上に葺設する屋根葺き構造であって、
前記波形瓦には、流れ方向の水下側から水上側に向かって左側に谷部、右側に山部が形成された「谷山タイプ」の波形瓦と、左側に山部、右側に谷部が形成された「山谷タイプ」の波形瓦との2種類が用意され、
前記「谷山タイプ」の波形瓦、及び前記「山谷タイプ」の波形瓦のいずれも、幅方向における同じ側にアンダーラップ部が張り出し、他側には前記アンダーラップ部に重なるオーバーラップ部が形成されるとともに、水上側縁部には山部を削ぎ落として谷部の上部を埋めた形状の平坦なパネル受部が形成される一方、水下側縁部には底辺が一直線状をなす垂面部が形成されて、
屋根面の一段ごとに、ひとつの段には前記「谷山タイプ」の波形瓦が一定方向に葺き重ねられ、その上段には前記「山谷タイプ」の波形瓦が前記下段の葺き重ね方向と同じ方向に葺き重ねられることにより、波形瓦の山部及び谷部を流れ方向に揃えつつ、各段の葺き重ね部が千鳥となるように波形瓦が葺設されるとともに、
前記波形瓦と少なくとも1枚の前記瓦型太陽電池パネルとが取り合う部位については、瓦型太陽電池パネルの水下側の段に葺設された波形瓦のパネル受部の上に瓦型太陽電池パネルの水下側縁部が葺き重ねられ、瓦型太陽電池パネルの水上側縁部の上に、更にその水上側の段に葺設される波形瓦の垂面部が葺き重ねられたことを特徴とする屋根葺き構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勾配屋根面上に、瓦型太陽電池パネルと波形瓦とを一緒に葺き上げる屋根葺き構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋根に太陽電池パネル(太陽電池モジュール)を設置する建物が増加している。その種の建物のうち、とくに瓦葺きの勾配屋根を有する住宅等にあっては、例えば特許文献1に開示されているように、瓦と同程度の厚さの平板状に形成した瓦型太陽電池パネルを、通常の瓦と一緒に葺き上げる屋根葺き構造がよく採用されている。瓦型太陽電池パネルは一般的に、ガラス製のセルをアルミ型材からなる枠体で囲った構成になっており、その枠体は瓦を横方向に数枚分並べた大きさに形成されている。そして、下段の瓦又は瓦型太陽電池パネルの水上側縁部に、上段の瓦又は瓦型太陽電池パネルの水下側縁部を被せるようにして階段状に葺き上げられる。
【0003】
この種の屋根葺き構造では、瓦と瓦型太陽電池パネルとの葺き重ね部分の水密性を確保するために、全体が略平坦な形状の平板瓦が用いられている。平板瓦は、工業化住宅用の屋根瓦としても広く利用されている種類の瓦であり、日本工業規格(JIS)A5208「粘土かわら」(1996)には「F形」という名称で、その基本的形状が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−138638号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JISハンドブック(8)建築I 材料・設備 2011年版 財団法人日本規格協会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
屋根葺き材は、建物の様式や趣味嗜好に応じて選択され、建物の外観意匠を大きく左右する造形要素である。瓦にも様々な形状のものがあるが、例えば屋根面の重厚間を強調したい古典的な様式の建物では、山谷起伏の大きい波形瓦が好まれることが多い。
【0007】
波形瓦の代表的なものは、前記JISにおいて、「J形」、「S形」という名称で、その基本的形状が規定されている。「J形」は、日本の伝統的建築に採用されてきた本瓦(平瓦と丸瓦)を簡略一体化したもので、近世以降、現在まで、日本国内における最も一般的な瓦屋根用の和風桟瓦として普及している。「S形」は、西洋風建築に採用されてきたスパニッシュ瓦を、J形と同様に簡略一体化したS字状の洋風桟瓦である。これらの波形瓦はいずれも、瓦の幅方向における片側略半部に山部、他側略半部に谷部がそれぞれ形成された左右非対称の断面形状を有している。
【0008】
ところが、J形やS形のような形状の波形瓦瓦型太陽電池パネルとを一緒に葺き上げようとしても、山谷起伏を有する波形瓦と平板状の瓦型太陽電池パネルとの葺き重ね部分の水密性を確保するのが難しい。そのため、現状ではもっぱら平板瓦が利用されており、その結果、瓦型太陽電池パネルを葺設する屋根の造形的印象は平坦で単調になりがちである。また、波形瓦は通常、横方向の葺き重ね部(目地)を流れ方向に揃える葺き方(本明細書においては、説明の便宜上、これを「筋葺き」と呼ぶ。)で葺設されるが、一般論としては、葺き重ね部(目地)の位置を一段ごとに瓦幅の半分だけずらす葺き方(本明細書においては、これを「千鳥葺き」と呼ぶ。)のほうが、筋葺きに比べて防水性(排水性)や耐風性の面で有利であるとされている。しかし、大きい山谷起伏が設けられた左右非対称かつ非合同の断面形状を有する波形瓦を千鳥葺きしようとすると、当然ながら山谷起伏の流れ方向における連続性が互い違いにずれてしまう。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、J形やS形のように大きい山谷起伏を有する波形瓦と、平板状の瓦型太陽電池パネルとを、千鳥葺きで一緒に葺き上げることのできる屋根葺き構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するため、本発明の屋根葺き構造は、幅方向における片側略半部に山部、他側略半部に谷部がそれぞれ形成された非対称断面の波形瓦と、矩形の平板形状を有する瓦型太陽電池パネルとを、勾配屋根面上に葺設する屋根葺き構造であって、前記波形瓦には、流れ方向の水下側から水上側に向かって左側に谷部、右側に山部が形成された「谷山タイプ」の波形瓦と、左側に山部、右側に谷部が形成された「山谷タイプ」の波形瓦との2種類が用意され、前記「谷山タイプ」の波形瓦、及び前記「山谷タイプ」の波形瓦のいずれも、幅方向における同じ側にアンダーラップ部が張り出し、他側には前記アンダーラップ部に重なるオーバーラップ部が形成されるとともに、水上側縁部には山部を削ぎ落として谷部の上部を埋めた形状の平坦なパネル受部が形成される一方、水下側縁部には底辺が一直線状をなす垂面部が形成されて、屋根面の一段ごとに、ひとつの段には前記「谷山タイプ」の波形瓦が一定方向に葺き重ねられ、その上段には前記「山谷タイプ」の波形瓦が前記下段の葺き重ね方向と同じ方向に葺き重ねられることにより、波形瓦の山部及び谷部を流れ方向に揃えつつ、各段の葺き重ね部が千鳥となるように波形瓦が葺設されるとともに、前記波形瓦と少なくとも1枚の前記瓦型太陽電池パネルとが取り合う部位については、瓦型太陽電池パネルの水下側の段に葺設された波形瓦のパネル受部の上に瓦型太陽電池パネルの水下側縁部が葺き重ねられ、瓦型太陽電池パネルの水上側縁部の上に、更にその水上側の段に葺設される波形瓦の垂面部が葺き重ねられる、との構成を採用するものである。
【0012】
このように、瓦型太陽電池パネルとの葺き重ね部分に葺設される波形瓦の水下側縁部及び水上側縁部に、瓦型太陽電池パネルとの取り合いを考慮した形状的工夫を施すことにより、波形瓦と瓦型太陽電池パネルとの葺き重ね部分の水密性が好適に確保される。
【0013】
また、この波形瓦は、瓦型太陽電池パネルの水下側及び水上側、さらに瓦型太陽電池パネルとは接しない一般部も含めて、屋根面略全体(棟際や隅谷などの特殊部位を除く)の葺き上げに利用することができる。
【0014】
さらに、流れ方向の水下側から水上側に向かって左側に谷部、右側に山部が形成された「谷山タイプ」の波形瓦と、左側に山部、右側に谷部が形成された「山谷タイプ」の波形瓦との2種類用意して、屋根面の一段ごとに、ひとつの段には前記「谷山タイプ」の波形瓦一定方向に葺き重ね、その上段には前記「山谷タイプ」の波形瓦前記下段の葺き重ね方向と同じ方向に葺き重ねるという葺き方を採用することにより、波形瓦の断面形状が左右非対称かつ非合同の山谷起伏を有する場合でも、波形瓦の山部及び谷部を流れ方向に揃えつつ、波形瓦と瓦型太陽電池パネルとを千鳥葺きすることが可能になる。
【0016】
また、この屋根葺き構造、前記波形瓦の幅方向における同じ側にアンダーラップ部が張り出し、他側には前記アンダーラップ部に重なるオーバーラップ部が形成されているので、横方向の葺き重ね部分も水密性が好適に確保される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の屋根葺き構造は、「谷山タイプ」の波形瓦と「山谷タイプ」の波形瓦との2種類を用意し、屋根面の一段ごとに、どちらか一方の波形瓦を一定方向に葺き重ね、その上段には他方の波形瓦を同じ方向に葺き重ねるという葺き方を採用しているので、波形瓦の断面形状が左右非対称かつ非合同の山谷起伏を有する場合でも、波形瓦の山部及び谷部を流れ方向に揃えながら千鳥葺きすることができる。さらに、瓦型太陽電池パネルとの葺き重ね部分に葺設される波形瓦の水下側縁部及び水上側縁部に、瓦型太陽電池パネルとの取り合いを考慮した形状的工夫を施しているので、波形瓦と瓦型太陽電池パネルとの葺き重ね部分の水密性が好適に確保される。これにより、瓦型太陽電池パネルを平板瓦と一緒に葺き上げていた従来の屋根よりも、波形瓦の山谷起伏を強調した、重厚感や立体感のある屋根を施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の前提となる屋根葺き構造の一例として、波形瓦と瓦型太陽電池パネルを一緒に筋葺きした屋根面の瓦割付け図である。
図2】前記屋根葺き構造に用いられる3種類の波形瓦の構成を示す斜視図であって、(1)は一般部用瓦、(2)は瓦型太陽電池パネルの水下側に葺設される役物瓦、(3)は瓦型太陽電池パネルの水上側に葺設される役物瓦をそれぞれ示す。
図3】瓦型太陽電池パネルの水下側に葺設される役物瓦の上面図である。
図4】前記屋根葺き構造における波形瓦と瓦型太陽電池パネルとの流れ方向の葺き重ね部分(A−A)の概略断面図である。
図5】前記屋根葺き構造における波形瓦と瓦型太陽電池パネルとの横方向の葺き重ね部分(B−B)の概略断面図である。
図6本発明の屋根葺き構造に用いられる波形瓦(谷山タイプ)の構成例を示す斜視図である。
図7】本発明の実施形態に係る屋根葺き構造の一例として、波形瓦と瓦型太陽電池パネルを一緒に千鳥葺きした屋根面の瓦割付け図である。
図8図7に示した屋根葺き構造において、図6に示した波形瓦と併用される他の波形瓦(山谷タイプ)の構成を示す斜視図である。
図9図7に示した屋根面における横方向の葺き重ね部分(D−D)及び(E−E)の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の前提となる屋根葺き構造の一例を示す瓦割付け図であり、図2は、この屋根葺き構造に用いられる波形瓦1の構成を示す斜視図である。
【0021】
例示形態にあっては、3種類の波形瓦1(1A、1B、1C)と、波形瓦1を横方向に4枚分並べた大きさの平坦な瓦型太陽電池パネル2とが、葺き重ね部(目地)の位置を流れ方向(図1における下向き)に揃えて葺設されている。このように、隣り合う屋根葺き材同士の葺き重ね部を流れ方向に揃える葺き方を、本明細書においては説明の便宜上、「筋葺き」と呼ぶ。
【0022】
例示の波形瓦1(1A、1B、1C)は、JISのS形に準じたもので、流れ方向の水下側から水上側に向かって左側に谷部3、右側に山部4がそれぞれ形成された左右非対称かつ非合同の断面形状を有している。図1では、山谷の並びを分かりやすくするために、各波形瓦の山部4の位置に薄網を付している。(図1では山部4を長方形で表しているが、実際には山部4が上下で重なり合うため、各山部4は水下側に向かってやや拡幅する扇形になる。)
図2の(1)に示した波形瓦1Aは、瓦型太陽電池パネル2と流れ方向に重ならない一般部、すなわち瓦型太陽電池パネル2の横方向に連なる部位、及び瓦型太陽電池パネル2とは全く接しない部位に葺設される瓦である。この一般部用瓦は、従来一般のS形瓦と同様に水下側の端面が湾曲しており、谷部3の水上側縁部には水返し5が立ち上げられ、その近傍に2ヶ所程度の釘孔6が形成されている。
【0023】
図2の(2)に示した波形瓦1Bは、瓦型太陽電池パネル2の水下側に葺設される役物瓦である。この役物瓦の水上側縁部には、瓦の幅方向にわたって平坦なパネル受部7が形成されている。パネル受部7は、水上側縁部から流れ方向における所定寸法の範囲内で、水上側縁部と平行に山部4の上部を削ぎ落とすとともに、谷部3の上部を埋めた形状をなしている。パネル受部7の水上側縁部には、一直線状に延びる水返し5が一般部用瓦と同じように立ち上げられるとともに、その近傍に2ヶ所程度の釘孔6が形成されている。
【0024】
パネル受部7から山部4に連続する面には、その隅に雨水が溜まるの防ぐために、図3及び図4に示すような上面視三角形状の分水嶺8が形成されている。また、パネル受部7から谷部3に連続する面9もなだらかに傾斜した弓形状をなしている。
【0025】
図2の(3)に示した波形瓦1Cは、瓦型太陽電池パネル2の水上側に葺設される役物瓦である。この役物瓦の水下側縁部には、底辺が一直線状をなす垂面部10が形成されている。垂面部10は、山部4の水下側開口面を塞ぐようにして、山部4及び谷部3の水下側縁部から流れ方向と略直交する向きに延設されており、その底辺は、谷部3の最も低い中央部分の裏面とほぼ同じ高さに揃えられている。この役物瓦においても、谷部3の水上側縁部には一般部用瓦と同様の水返し5が立ち上げられ、その近傍に2ヶ所程度の釘孔6が形成されている。
【0026】
これら一般部用瓦(波形瓦1A)及び役物瓦(波形瓦1B、波形瓦1C)のいずれも、瓦全体の実質的な利き幅(働き幅)及び利き足(働き長さ)は共通で、谷部3及び山部4それぞれの幅方向における湾曲形状や流れ方向における傾斜形状も共通である。そして、従来一般のF形瓦と同様に、いずれのタイプも、水下側から水上側に向かって左側の縁部に数センチ幅のアンダーラップ部11が張り出しており、右側の縁部には、前記アンダーラップ部11に重なるオーバーラップ部12が形成されている。
【0027】
波形瓦1(1A、1B、1C)と瓦型太陽電池パネル2は、屋根面の各段において、アンダーラップ部11の向きに合わせて右側から左側へと順次、葺き重ねられる。波形瓦1Aと瓦型太陽電池パネル2とが横方向に取り合う部位は、図5に示すように、波形瓦1Aのアンダーラップ部11の上に瓦型太陽電池パネル2の右枠材13が載り、また、瓦型太陽電池パネル2の左枠材14に延設された瓦受部15の上に波形瓦1Aのオーバーラップ部12が載るようにして葺き重ねられる。
【0028】
また、流れ方向については図4に示すように、瓦型太陽電池パネル2の水下側に葺設される役物瓦(波形瓦1B)のパネル受部7が、屋根下地上16に配設した瓦桟17に釘等で打ちつけられ、その上に瓦型太陽電池パネル2の水下側枠材18が載り、さらに、瓦型太陽電池パネル2の水上側枠材19の上に水上側の役物瓦(波形瓦1C)の垂面部10が載るようにして葺き重ねられる。
【0029】
こうして、四周が平坦な形状の瓦型太陽電池パネル2と、山谷起伏を有する波形瓦1(1A、1B、1C)とが、互いの取り合い部分を水密的に封止した状態で一体的に葺設されることとなる。
【0030】
図6に示した波形瓦1Dは、本発明の屋根葺き構造に用いられる波形瓦の構成例を示すものである。この波形瓦1Dは、前述した3種類の波形瓦1(1A、1B、1C)の機能的特徴を一体化したものである。
【0031】
すなわち、この波形瓦1Dは、JISのS形に準じて、流れ方向の水下側から水上側に向かって左側に谷部3、右側に山部4がそれぞれ形成された左右非対称かつ非合同の断面形状を有している。
【0032】
波形瓦1Dの水上側縁部には、瓦型太陽電池パネル2の水下側に葺設される役物瓦(波形瓦1B)と同様に、瓦の幅方向にわたって平坦なパネル受部7が形成されている。パネル受部7は、水上側縁部から流れ方向における所定寸法の範囲内で、水上側縁部と平行に山部4の上部を削ぎ落とすとともに、谷部3の上部を埋めた形状をなしている。パネル受部7の水上側縁部には、一直線状に延びる水返し5が立ち上げられるとともに、その近傍に2ヶ所程度の釘孔6が形成されている。パネル受部7から山部4に連続する面には、その隅に雨水が溜まるの防ぐため、波形瓦1Bと同様の分水嶺(図示せず)が形成されている。また、パネル受部7から谷部3に連続する面9はなだらかに傾斜した弓形状をなしている。
【0033】
波形瓦1Dの水下側縁部には、瓦型太陽電池パネル2の水上側に葺設される役物瓦(波形瓦1C)と同様に、底辺が一直線状をなす垂面部10が形成されている。垂面部10は、山部4の水下側開口面を塞ぐようにして、山部4及び谷部3の水下側縁部から流れ方向と略直交する向きに延設されており、その底辺は、谷部3の最も低い中央部分の裏面とほぼ同じ高さに揃えられている。
【0034】
このような形状を有する波形瓦1Dは、瓦型太陽電池パネル2の水下側縁部及び水上側縁部のいずれにも葺設することができる。
【0035】
波形瓦1Dと瓦型太陽電池パネル2とが横方向及び流れ方向に取り合う部位の断面は、図5及び図4に示した形態に準じる。すなわち、波形瓦1Dのアンダーラップ部11の上に瓦型太陽電池パネル2の右枠材13が載り、また、瓦型太陽電池パネル2の左枠材14に延設された瓦受部15の上に波形瓦1Dのオーバーラップ部12が載る。また、流れ方向については、瓦型太陽電池パネル2の水下側に葺設される波形瓦1Dのパネル受部7が、屋根下地上16に配設した瓦桟17に釘等で打ちつけられ、その上に瓦型太陽電池パネル2の水下側枠材18が載り、さらに、瓦型太陽電池パネル2の水上側枠材19の上に水上側の波形瓦1Dの垂面部10が載るようにして葺き重ねられる。
【0036】
さらに、この波形瓦1Dは、それ自体の水上側縁部と水下側縁部とが平坦面同士で水密的に葺き重ね可能なので、瓦型太陽電池パネル2とは接しない一般部にも葺設することができる。つまり、この1種類の波形瓦1Dだけで、瓦型太陽電池パネル2が葺設される部分以外の屋根面略全体(棟際や隅谷などの特殊部位を除く)を葺き上げることが可能である。したがって、瓦型太陽電池パネル2との位置関係に応じて3種類の波形瓦1(1A、1B、1C)を使い分ける前述の実施形態に比べて、施工性が各段に向上する。
【0037】
図7は、本発明の実施形態に係る屋根葺き構造の一例を示す瓦割付け図である。また、図8は、この屋根葺き構造において、図6に示した波形瓦1Dと併用される他の波形瓦1Eの構成例を示す斜視図である。
【0038】
例示形態にあっては、2種類の波形瓦1(1D、1E)と、波形瓦1を横方向に4枚分並べた大きさの平坦な瓦型太陽電池パネル2とが、葺き重ね部(目地)の位置を一段ごとに瓦幅の半分だけずらせて葺設されている。このように、隣り合う屋根葺き材同士の葺き重ね部を互い違いにずらす葺き方を、本明細書においては「千鳥葺き」と呼ぶ。
【0039】
千鳥葺きは、一般論としては、筋葺きよりも防水性(排水性)や耐風性の面で有利であるとされている。しかし、前述のように大きい山谷起伏が設けられた左右非対称かつ非合同の断面形状を有する波形瓦1を千鳥葺きしようとすると、当然ながら山谷起伏の流れ方向における連続性が互い違いにずれてしまう。そこで、本実施形態では、そのような形状の波形瓦の千鳥葺きを可能にするために、図6に示した波形瓦1Dと、図8に示す波形瓦1Eとを併用する。
【0040】
波形瓦1Eは、図6に示した波形瓦1Dとは反対に、流れ方向の水下側から水上側に向かって左側に山部4、右側に谷部3が設けられている。本発明においては、この形状の違いを区別するために、図6の波形瓦1Dを「谷山タイプ」と呼び、図8の波形瓦1Eを「山谷タイプ」と呼ぶ。詳細にいえば、両者の形状は、幅方向の断面を全体的に左右反転させた形状ではなく、幅方向における略中間部で谷部3と山部4との境目を分割し、それらの位置関係を左右入れ替えた形状になっている。
【0041】
山谷タイプの波形瓦1Eの水上側縁部には、谷山タイプの波形瓦1Dと同様に、瓦の幅方向にわたって平坦なパネル受部7が形成されている。パネル受部7は、水上側縁部から流れ方向における所定寸法の範囲内で、水上側縁部と平行に山部4の上部を削ぎ落とすとともに、谷部3の上部を埋めた形状をなしている。パネル受部7の水上側縁部には、一直線状に延びる水返し5が立ち上げられるとともに、その近傍に2ヶ所程度の釘孔6が形成されている。パネル受部7から山部4に連続する面には、その隅に雨水が溜まるの防ぐため、波形瓦1Bと同様の分水嶺(図示せず)が形成されている。また、パネル受部7から谷部3に連続する面9はなだらかに傾斜した弓形状をなしている。
【0042】
山谷タイプの波形瓦1Eの水下側縁部には、谷山タイプの波形瓦1Dと同様に、底辺が一直線状をなす垂面部10が形成されている。垂面部10は、山部4の水下側開口面を塞ぐようにして、山部4及び谷部3の水下側縁部から流れ方向と略直交する向きに延設されており、その底辺は、谷部3の最も低い中央部分の裏面とほぼ同じ高さに揃えられている。
【0043】
谷山タイプの波形瓦1D、及び山谷タイプの波形瓦1Eいずれも、瓦全体の実質的な利き幅(働き幅)及び利き足(働き長さ)は共通で、谷部3、山部4それぞれの幅方向における湾曲形状や流れ方向における傾斜形状も共通である。そして、両タイプとも、水下側から水上側に向かって左側の縁部に数センチ幅のアンダーラップ部11が張り出しており、右側の縁部には、前記アンダーラップ部11に重なるオーバーラップ部12が形成されている。
【0044】
これら2タイプの波形瓦1(1D、1E)は、図7に示すように、屋根面の一段ごとに葺き分けられる。つまり、あるひとつの段には、谷山タイプの波形瓦1D、山谷タイプの波形瓦1Eのうちいずれか一方が、当該段の屋根幅の略全体にわたって同じ向きで葺き重ねられる。そして、その1段上の段には、前記下段とは異なるタイプの波形瓦1が、下段とは葺き重ね位置を瓦幅の略半分ずらして葺き重ねられる。図7においても、山谷の並びを分かりやすくするために、各波形瓦1(1D、1E)の山部4の位置に薄網を付している。(図7では山部4を長方形で表しているが、実際の各山部4は水下側に向かってやや拡幅する扇形になる。)どの段においても横方向の葺き重ね順は共通で、例示形態の場合はアンダーラップ部11及びオーバーラップ部12の向きに合わせて、各波形瓦1(1D、1E)及び瓦型太陽電池パネル2が右側から左側へと葺き重ねられる。
【0045】
図8は、各段における波形瓦1(1D、1E)の横方向の葺き重ね部分の概略断面である。D−D断面は谷山タイプの波形瓦1Dの葺き重ね部分、E−E断面は山谷タイプの波形瓦1Eの葺き重ね部分をそれぞれ示している。これらの図から把握されるように、一段ごとに葺き重ね部分の位置が千鳥状にずれていても、屋根面全体としては波形瓦1(1D、1E)の山部4及び谷部3が、それぞれ流れ方向に揃うこととなる。
【0046】
波形瓦1(1D、1E)と瓦型太陽電池パネル2とが横方向及び流れ方向に取り合う部位の断面は、図5及び図4に示した形態に準じる。すなわち、波形瓦1(1D、1E)のアンダーラップ部11の上に瓦型太陽電池パネル2の右枠材13が載り、また、瓦型太陽電池パネル2の左枠材14に延設された瓦受部15の上に波形瓦1(1D、1E)のオーバーラップ部12が載る。また、流れ方向については、瓦型太陽電池パネル2の水下側に葺設される波形瓦1(1D、1E)のパネル受部7の上に瓦型太陽電池パネル2の水下側枠材18が載り、さらに、瓦型太陽電池パネル2の水上側枠材19の上に水上側の波形瓦1(1D、1E)の垂面部10が載るようにして葺き重ねられる。こうして、四周が平坦な形状の瓦型太陽電池パネル2と、左右非対称かつ非合同の山谷起伏を有する波形瓦1(1D、1E)とが、互いの取り合い部分を水密的に封止した状態で、千鳥葺きされることとなる。
【0047】
なお、図示は省略するが、J形瓦その他の左右非対称かつ非合同の山谷形状を有する波形瓦についても、例示したS形の波形瓦1(1A、1B、1C、1D、1E)に準じて、瓦型太陽電池パネル2との一体葺きを実現することができる。波形瓦における谷部の表面は、必ずしも凹状に湾曲していなくてもよい。谷部に相当する片側部分が山部に相当する他側部分よりも明確に低くなっておりさえすれば、例えば谷部が略平坦面や緩い片傾斜面等であってもよい。
【0048】
瓦型太陽電池パネル2の四周を囲む枠材の詳細な断面形状は、波形瓦の形状や寸法に応じて適宜、設計されればよい。波形瓦のアンダーラップ部及びオーバーラップ部の詳細な形状についても、波形瓦自体の本体形状や瓦型太陽電池パネルとの取り合いに応じて適宜、改変可能である。
【符号の説明】
【0049】
1(1A、1B、1C、1D、1E) 波形瓦
2 瓦型太陽電池パネル
3 谷部
4 山部
7 パネル受部
10 垂面部
11 アンダーラップ部
12 オーバーラップ部
図2
図3
図4
図5
図6
図8
図9
図1
図7