【文献】
S.RAPAGNA et al.,Development of catalysts suitable for hydrogen or syn-gas production from biomass gasification,Biomass and Bioenergy,2002年 5月,Vol.22 No.5,Pages377-388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記タール含有ガス改質用触媒の存在下又は還元後の前記触媒の存在下において、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガス中の水素、二酸化炭素、及び、水蒸気を接触させて、前記タール含有ガス中のタールを改質してガス化することを特徴とする請求項2に記載のタール含有ガスの改質方法。
前記タール含有ガス改質用触媒の存在下又は還元後の前記触媒の存在下において、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガスに、外部から水素、二酸化炭素、水蒸気の少なくともいずれかを接触させて、前記タール含有ガスを改質してガス化することを特徴とする請求項2又は3に記載のタール含有ガスの改質方法。
前記タール含有ガスが、木質系バイオマス、食品廃棄物系バイオマスの少なくともいずれかを乾留したときに発生する乾留ガスであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のタール含有ガスの改質方法。
請求項2〜9のいずれか1項に記載のタール含有ガスの改質方法を実施した後、炭素析出、硫黄被毒の少なくともいずれかにより性能劣化した前記触媒に、水蒸気又は空気の少なくともいずれかを接触させて、前記触媒を再生し、再び前記タール改質用触媒として用いることを特徴とするタール含有ガスの改質方法。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業は、我が国の総エネルギー消費量の約1割を占めるエネルギー多消費産業であるが、高炉法一貫製鉄プロセスのうち、約4割が未利用廃熱である。そのうち、回収しやすいが従来は利用されていない熱源として、コークス炉から発生する高温の未精製COG(コークス炉ガス、以下、粗COG)の顕熱がある。
【0003】
粗COGの顕熱の回収技術として、従来から間接熱回収を主体とする方法が特許文献1及び2に提案され、コークス炉上昇管内部、又は、上昇管部と集気管部の間に伝熱管を設け、この伝熱管内部に熱媒体を循環流通させて顕熱を回収する方法が開示されている。
【0004】
しかし、これらの方法では、伝熱管外表面への発生COGに随伴するタール、軽油等の付着、炭化・凝集による緻密化が進行し、経時伝熱効率の低下・熱交換効率低下という問題が不可避である。
【0005】
これら問題点を解決する技術として、伝熱管外表面に、結晶性アルミノシリケート、結晶性シリカ等の触媒を塗布し、タール等の付着物を触媒を介して低分子量の炭化水素に分解し、伝熱効率を安定維持する方法が、特許文献3に開示されている。
【0006】
しかし、この方法も、粗COG顕熱の間接熱回収技術の域を出ず、また、タール等の重質炭化水素の分解生成物がガス燃料等として利用しやすい軽質炭化水素になるかどうか等、全く考慮されていない。さらには、粗COG中に含有する高濃度の硫化水素等の触媒被毒性硫黄化合物成分による分解活性の経時劣化の影響についても検討されていない。
【0007】
高温で生成する反応性ガスにその顕熱を利用して、触媒存在下、直接化学反応を導入して化学エネルギーに転換する技術はほとんどない。従来、高温ガスの顕熱は間接的に回収されて、又は全く利用されず、冷却されたガスを種々処理して利用するケースがほとんどである。
【0008】
しかし、粗COGは顕熱を有しているものの、硫黄化合物の含有量が2000ppmを越えるので、タール等の重質炭化水素の分解反応に関する触媒反応設計の観点から、顕熱の利用は極めて実現が困難と考えられる。
【0009】
この検討は、特許文献6に記載されているように、従来も行われていたが、改質活性は必ずしも十分とは言えなかった。また、エネルギー変換触媒は、硫黄被毒や炭素析出を受けやすいため、上記の高濃度硫黄化合物を含んだ雰囲気下で、炭素析出を起こしやすい縮合多環芳香族主体のタールの分解反応に適する触媒を製造することが困難であった。
【0010】
また、一旦反応を進行させて性能が劣化した後、再生のため空気燃焼することにより、担持金属粒子のシンタリング(粗大化)が起こりやすく、再生による活性の再現を実現することも困難であった。
【0011】
粗COG中に含まれる不純物(H
2S、COS、芳香族炭化水素、タール、ダスト等)を常法による精製(例えば、特許文献7)をしたもの(以下精製COG)は、都市ガス等の燃料や、化学合成用の原料として使用されてきている。
【0012】
コークス炉ガスを用いてメタノール合成プラントを建設する際には、常法による精製ガスには、低級炭化水素や芳香族炭化水素が低濃度だが残留しており、それらが改質装置の触媒の被毒を起こすおそれがある。それを避けるために、市販の触媒を用いたプレリフォーミングを行った後、改質装置で合成ガスを製造する製造システムが開示されている(例えば、特許文献8)。
【0013】
しかし、後段の合成ガスを製造する改質装置に用いる触媒については言及されていない等、粗COGや精製COGの改質触媒に関しては検討されていない。
【0014】
一方、炭化水素の改質用原料として一般に用いられるメタンの改質用触媒としては、古くから数多くの研究がなされている。
【0015】
例えば、メタンの部分酸化触媒としては、非特許文献1のように、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムの溶液から沈殿物を経由して製造される触媒、メタンの水蒸気又は二酸化炭素による改質用触媒としては、特許文献9のように、マグネシア、アルミナ等の担体にニッケル、及び、ペロブスカイト化合物を担持した触媒が検討されている。
【0016】
さらに、特許文献10のように、ニッケル、マグネシウム、カルシウムで構成される酸化物に第3B族元素、第4A族元素、第6B族元素、第7B族元素、第1A族元素及びランタノイド元素の少なくとも一種を混合した触媒が検討されている。
【0017】
また、メタンを主成分とする低級炭化水素との水蒸気改質触媒としては、特許文献11のように、マグネシウム、アルミニウム、ニッケルを構成元素とし、かつ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Zn、Co、Ce、Cr、Fe、Laから選ばれる一種又は二種以上の元素を含有する触媒が検討されている。
【0018】
特許文献12では、メタンや天然ガス、都市ガスの水蒸気改質用触媒として、ニッケル、ランタンを含んだペロブスカイト型酸化物が検討されている。
【0019】
特許文献13では、低級飽和炭化水素の酸化反応による合成ガス製造用触媒として、アルカリ土類金属とチタンからなるペロブスカイト酸化物にニッケルを担持した化合物が検討されている。
【0020】
特許文献14では、ペロブスカイト酸化物中の金属元素の析出−固溶現象を利用して、自動車排ガス浄化用触媒として白金族元素を含んだ化合物が検討されている。
【0021】
また、非特許文献2のように、メタンの二酸化炭素、スチーム及び酸素によるトリリフォーミング反応用としてセリア、ジルコニア、及びセリアジルコニア化合物へのNi担持触媒と共に、セリアジルコニア化合物へのマグネシア及びNi担持触媒が検討されている。
【0022】
一方、都市ガス、イソオクタン、灯油、プロパン等の、原料中に硫黄分を含みかつ比較的低級の炭化水素から燃料電池用水素を発生する触媒としては、特許文献15のように、アルミニウムとマグネシウムからなる多孔質担体に、珪素、ジルコニウム、セリウム、チタン、アルミニウム、イットリウム、スカンジウム、第1A族元素、第2A族元素から選ばれる少なくとも1種類以上の元素の酸化物が検討されている。
【0023】
さらに、特許文献16では、プロパン、ブタン、都市ガス等の低級炭化水素からの水素製造触媒として、マグネシウム、アルミニウム、ニッケルを構成元素とし、かつ、珪素を含有する触媒等が提案、開示されており、特許文献17では、Co含有ペロブスカイト酸化物触媒等が提案、開示されている。
【0024】
しかし、これらの触媒の対象となる炭化水素は、いずれも低級かつ鎖式炭化水素で分解しやすく、かつ、原料中に含まれる触媒毒となり得る硫黄分は、特許文献15に示されているような、高々50ppm以下のものに限られている。
【0025】
一方、非特許文献3では、硫黄分が含まれるジェット燃料用ケロシンの改質用触媒として、LaFeO
3を基にLa
0.6Ce
0.4Fe
0.8MeNi
0.2O
3(Me=K、Ru等)が開示されているが、ケロシンとして実験に用いたのはデカン、ドデカンが主体の鎖式飽和炭化水素であり、かつ、H
2Sが50ppm以上ではMeが存在しないと大きく活性が低下する等、耐硫黄被毒性に大きな課題があった。
【0026】
したがって、炭素質原料を乾留した際に発生するベンゼン環が縮合した多環芳香族主体のタール等重質炭化水素を高濃度の硫化水素存在下で高効率に改質することへの検討は、全く行われていなかった。
【0027】
さらに、近年の地球温暖化問題により、二酸化炭素排出量削減の有効手段として、炭素質原料の一つであるバイオマス利用が注目されており、バイオマスの高効率エネルギー転換に関する研究が行われている。また、昨今のエネルギー資源確保の観点から、過去精力的に行われてきた石炭の有効活用に関する研究も、実用化に向けて見直されてきている。
【0028】
その中で、バイオマスの乾留で生成するタールをガス化して、粗ガス(未精製ガス)を生成し、その顕熱を利用する方法については、特に、触媒を用いたタールの触媒改質を中心に、特許文献18、19等を始めとして種々検討されているが、貴金属を使用していて高価であったり、触媒寿命が短いという課題を有していた。
【0029】
こうした中、特許文献20では、バイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分解触媒として、ABO
3(AはLa、Ba、Sr、Caであり、BはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Zr、Nb、Sn又はCeである)のペロブスカイト型酸化物を用いる提案がなされている。しかしながら、本文献では、触媒として機能する活性種がどの元素であるのか、ペロブスカイト型構造を有した場合、どういう効果を発揮してタール分が分解するかについて、全く記載されていない。
【0030】
また、ペロブスカイト型酸化物のBサイトにFeやCo等が存在しても分解率が高いとしているが、Niが存在する場合についての触媒活性は何ら触れられていない。また、実施例では、バイオマスガス化ガス中のタールとしてトルエンを用い、H
2Sが2000ppmの高濃度雰囲気下で5〜10時間試験を行った結果が示されているが、具体的にバイオマスを使用した試験は行われていない。さらに、長期安定性を含めた記載がなく、実タールで試験を行った際の触媒活性の安定性等は調べられていないという課題を有していた。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、具体例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
【0062】
本発明のタール含有ガスの改質方法で用いるタール含有ガス改質用触媒は、ANi
xB
1-xO
3(Aは、La、Ce、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種類の金属元素、Bは、Co、Fe、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Re、Wから選ばれる少なくとも1種類の金属元素、0.1≦X≦1)で表される、化合物の単位格子がペロブスカイト型構造である複合酸化物である。また、さらに上記複合酸化物に、シリカ、アルミナ、ゼオライトから選ばれる少なくとも1種類の酸化物を加えた酸化物である。
【0063】
ABO
3の組成式をもつ多くの化合物が、ペロブスカイト型構造をつくり、立方単位格子の中心をA原子が、隅をB原子が、稜の中心をO原子が占めた構造を有する。しかしながら、Bで表される占有位置(Bサイト)を、Niが一部又は全部占有した場合には、Niイオンの大きさや電荷との違いから、Bサイトとして上述した元素でのみ本構造を形成することができる。また、この場合には、Aサイトとして、上述のような限定した元素でのみ本構造を形成することができる。さらに、還元雰囲気になっても安定して存在することが必須なため、A、Bは上記の元素群に限定される。
【0064】
ニッケルは、重質炭化水素を、ガス中に存在又は外部より導入される水蒸気、水素、若しくは二酸化炭素との間で改質反応を進行させる主活性成分として機能する。タール含有ガス中に高濃度の硫化水素が共存する場合でも、上記ニッケル金属が触媒表面上でクラスター上に微細分散して表面積が大きく、かつ、還元雰囲気下では反応中に活性金属粒子が被毒を受けても新たな活性金属粒子がマトリクス(ペロブスカイト型酸化物)から微細析出するので、硫黄被毒による活性低下の影響を受けにくいと考えられる。
【0065】
このマトリクスの化合物から、還元雰囲気下で、活性金属粒子を微細クラスター状に析出させることができる。また、縮合多環芳香族主体のタールも、乾留直後の高温状態で反応性に富む状態であり、かつ、微細分散して高比表面積をもった高活性なニッケル金属と接触することにより、高効率に軽質炭化水素へ変換・分解するものと考えられる。また、析出したニッケルがマトリクスの化合物と強固に結合しているために、ニッケル粒子間での凝集(シンタリング)を抑制し、長時間の反応中でも触媒活性が低下しにくい効果があると考えられる。
【0066】
シリカ、アルミナ、又は、ゼオライトは、反応場としての担体の役割を果たすだけでなく、ペロブスカイト型酸化物と一部反応して、ペロブスカイト型酸化物結晶相を細かく分断すること等の役割を果たす。その結果、各結晶相から表面に析出する活性種のニッケルが高度な分散状態になり、特に、炭素析出の起点となりやすいニッケルの偏在部分等が形成されにくく、高い耐炭素析出性を発揮するような機能も果たすものと推察される。また、シリカについても同様の役割を果たす。
【0067】
本発明でいう炭素質原料とは、熱分解してタールを生成する炭素を含む原料のことであり、石炭及びバイオマスやプラスチックの容器包装類等の、構成元素に炭素を含む広範囲なものを指す。バイオマスとは、林地残材、間伐材、未利用樹、製材残材、建設廃材、稲わら等の木質系廃棄物、又は、それらを原料とした木質チップ、ペレット等の二次製品や、再生紙として再利用できなくなった古紙等の製紙系廃棄物、農業残渣、厨芥類等の食品廃棄物、活性汚泥等を指す。
【0068】
炭素質原料を熱分解した際に発生するタールとは、熱分解される原料により性状が異なるが、炭素が5個以上含まれた常温で液体の有機化合物であって、鎖式炭化水素や芳香族炭化水素等からなる混合物を指す。石炭の熱分解であれば、例えば、ナフタレン、フェナンスレン、ピレン、アントラセン等の縮合多環芳香族等が主成分であり、木質系廃棄物の熱分解であれば、例えば、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、インデン、アントラセン、フェノール等が主成分であり、食品廃棄物の熱分解であれば、例えば、上記以外にインドール、ピロール等の六員環又は五員環に窒素等の異種元素を含むヘテロ化合物も含まれるが、特にそれらに限定されるものではない。熱分解タールは、熱分解直後の高温状態ではガス状で存在する。また、ほぼ室温に冷却された精製COG中では、ミスト状で存在する。
【0069】
炭素質原料の熱分解には、石炭を原料とする場合には一般にコークス炉が用いられ、バイオマスを原料とする場合には外熱式ロータリーキルンや移動床炉、流動床炉等を用いることができるが、特にこれらに限定するものではない。
【0070】
タール含有ガスを接触分解してガス化するタール含有ガスの改質反応は、重質炭化水素であるタールからメタン、一酸化炭素、水素等の軽質化学物質へ変換する反応である。反応経路が複雑で必ずしも明らかではないが、タール含有ガス中の又は外部より導入する水素や水蒸気、二酸化炭素、若しくは酸素等との間で起こり得る水素化反応やスチームリフォーミング反応、ドライリフォーミング反応等が考えられる。
【0071】
これら一連の反応は吸熱反応なので、実機に適用した場合、反応器に入る高温の顕熱を有するガスが触媒層内で改質されて出口では温度が低下する。より高効率にタール等の重質炭化水素成分を改質する場合には、必要に応じて、空気又は酸素を触媒層内に導入することで、一部水素や炭化水素成分を燃焼させた燃焼熱で、触媒層の温度をある程度保ちながら、さらに改質反応を進めることも可能である。
【0072】
次に、本発明のタール含有ガス改質用触媒の製造方法について説明する。
【0073】
本発明のタール含有ガスの改質用触媒は、ANi
xB
1-xO
3(Aは、La、Ce、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種類の金属元素、Bは、Co、Fe、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Re、Wから選ばれる少なくとも1種類の金属元素、0.1≦X≦1)を構成する、ニッケルと他の金属化合物との混合溶液から共沈により沈殿物を生成し、該沈殿物を、少なくとも乾燥及び焼成して、ペロブスカイト型酸化物を生成することにより製造することができる。
【0074】
本発明のタール含有ガスの改質用触媒は、前記複合酸化物に、さらに、シリカ、アルミナ、ゼオライトから選ばれる少なくとも1種類の酸化物を加えた酸化物とすることもできる。上記酸化物は、ニッケル化合物と、ペロブスカイト型酸化物を構成するニッケル以外の金属の化合物との混合溶液に沈殿剤を添加して、ニッケルとニッケル以外の金属を共沈させて沈殿物を生成し、共沈時、又は、該沈殿物の生成後に、さらにケイ素又はアルミニウム成分を加えて、ニッケル、他の金属元素、及び、ケイ素又はアルミニウムを含有した混合物とし、該混合物を少なくとも乾燥及び焼成して製造することができる。
【0075】
他の方法として、ニッケル化合物と、ペロブスカイト型酸化物を構成するニッケル以外の金属の化合物との混合溶液に沈殿剤を添加して、マグネシウム化合物、及び金属化合物との混合溶液に沈殿剤を添加して、ニッケルとニッケル以外の金属を共沈させて沈殿物を生成した後、該沈殿物を乾燥及びか焼して、ニッケルとニッケル以外の金属を含むペロブスカイト型酸化物を生成し、その後、該酸化物に、シリカ粉末と水、又は、シリカゾル、又は、アルミナ粉末と水、又は、アルミナゾル、又は、ゼオライト粉末と水を加えて混合して混合物を生成し、その混合物を少なくとも乾燥及び焼成して製造することができる。この方法の中で混合物を乾燥、粉砕した後に焼成する、又は、乾燥、か焼、粉砕、成型した後に焼成することもできる。
【0076】
他の方法として、ニッケル化合物とペロブスカイト型酸化物を構成するニッケル以外の金属の化合物との混合溶液に沈殿剤を添加して、ニッケルとニッケル以外の金属を共沈させて沈殿物を生成した後、該沈殿物に、シリカ粉末と水、又は、シリカゾル、又は、アルミナ粉末と水、又は、アルミナゾル、又は、ゼオライト粉末と水を加えて混合して混合物を生成し、その混合物を少なくとも乾燥及び焼成した後、さらにシリカ粉末と水、又は、シリカゾル、又は、アルミナ粉末と水、又は、アルミナゾル、又は、ゼオライト粉末と水を混合して第2の混合物を生成、その第2の混合物を、少なくとも乾燥及び焼成して製造することができる。この方法の中で混合物を乾燥、粉砕した後に焼成する、又は、乾燥、か焼、粉砕、成型した後に焼成することもできる。
【0077】
他の方法として、ニッケル化合物、ニッケル以外の金属化合物、及び、ケイ素又はアルミニウム化合物の混合溶液に沈殿剤を添加して、ニッケル、マグネシウム、金属元素、及び、ケイ素又はアルミニウムを共沈させて沈殿物を生成し、その混合物を少なくとも乾燥及び焼成して製造することができる。この方法の中で沈殿物を乾燥、粉砕した後に焼成する、又は、乾燥、か焼、粉砕、成型した後に焼成することもできる。
【0078】
各製法における沈殿物の乾燥は、特に温度や乾燥方法を問わず、一般的な乾燥方法でよい。乾燥後の共沈殿物は、必要に応じて粗粉砕を行った後、焼成すればよい。流動層等の乾燥により乾燥後の沈殿物が粉状を保っている場合は、粗粉砕は不要である。
【0079】
沈殿物の乾燥の前には、ろ過をしておくことが、乾燥の手間を少なくすることができ、好ましい。さらに、ろ過後の沈殿物は、純水等で洗浄しておくことが、不純物量を低減できることからより好ましい。
【0080】
上記混合物の焼成は、空気中で行うことができ、温度は700〜1300℃の範囲であればよい。焼成温度が高いと混合物の焼結が進行し、強度は上昇するが、比表面積が小さくなり、触媒活性は低下するので、そのバランスを考慮して決定するのが望ましい。
【0081】
乾燥と焼成の間に、か焼や成型工程も加えることができ、その場合、か焼は空気中で400〜800℃程度で行えば良く、成型は、プレス成型等で行えばよい。焼成後は、そのまま触媒として使用することもできるし、プレス成型等で成型して成型物して使用することもできる。
【0082】
他の方法として、ニッケル化合物とペロブスカイト型酸化物を構成する他の金属の酸化物を含んだ溶液を、粉末、粒、成型したシリカ、又は、アルミナ担体上に担持して製造することができる。その過程において、担体表面に各化合物をインシピエントウエットネス法、蒸発乾固法等の通常の含浸法により調製できる。また、各元素を担持する方法は、すべての元素を含んだ溶液を一度に担持する同時含浸法であってもよいし、各化合物の一部を含んだ溶液を一旦含浸した後に、それ以外の化合物を含んだ溶液を1回又は複数回に分けて含浸する逐次含浸法であってもよい。
【0083】
このようにして調製した触媒前駆体を、50〜150℃において乾燥し、水又は有機溶媒を除去する。その際、有機溶媒を用いた場合には、経済性の面から有機溶媒を回収し、再使用することが望ましい。次いで、得られた触媒前駆体乾燥品を焼成することにより調製することができる。なお、最終的な焼成温度は各化合物の熱分解温度及びその速度、比表面積、並びに成型体の強度等を総合的に考慮して適宜決めることが望ましい。
【0084】
このような製造方法で製造される触媒を用いることにより、炭素質原料を熱分解した際に発生する多量の硫化水素を含み、炭素析出を起こしやすい縮合多環芳香族主体のタール含有ガスであっても、随伴するタール等の重質炭化水素を高効率に改質して、水素、一酸化炭素を主体とする軽質炭化水素に変換することが可能となる。
【0085】
また、触媒性能が劣化した際、水蒸気又は空気の少なくともいずれかを高温下で触媒に接触させることにより、触媒上の析出炭素や吸着硫黄を除去して触媒性能を回復させることができ、長期間安定した運転が可能になる。
【0086】
この製造方法で製造されたタール含有ガスの改質用触媒は、担持法では担体表層部、その他の方法では材料全体にわたり、ニッケル、ペロブスカイト型酸化物を構成する他の金属元素、及び、シリカ又はアルミニウム成分が、ニッケル含有ペロブスカイト型酸化物との間で高度に均質な混合物を形成する。そのため、その混合物を乾燥及び焼成、又は乾燥、か焼、粉砕、成型及び焼成することで、ニッケル、他の金属元素、及び、シリカ又はアルミニウムが均質に分布した焼結体を形成し、ニッケル含有ペロブスカイト型酸化物相がより一層微細化され、そこから析出するNi粒が高度に微細分散することから、高活性で炭素析出量の少ない成型物を得ることができると予想される。
【0087】
これら製造法の中で、ニッケル、ペロブスカイト酸化物を構成する他の金属、及び、必要に応じて加えられるケイ素又はアルミニウム化合物の溶液を作成する際には、水に対して溶解度の高い各金属化合物を用いることが適当である。例えば、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩のみならず、酢酸塩等の有機塩も好適に用いられる。特に好ましいのは、焼成後に触媒被毒になり得る不純物が残りにくいと考えられる硝酸塩、炭酸塩又は酢酸塩である。
【0088】
それらの溶液から沈殿物を形成する場合に用いる沈殿剤は、上記溶液のpHを、ニッケル、ペロブスカイト酸化物を構成する他の金属、及び、必要により添加されるケイ素又はアルミニウムが主に水酸化物として沈殿する中性〜塩基性へ変化させるものであれば、何でも用いることができる。例えば、炭酸カリウム水溶液や炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液や尿素溶液等が好適に用いられる。
【0089】
上記の方法で製造されたタール含有ガス改質用触媒を用いることにより、炭素質原料を熱分解した際に発生する多量の硫化水素を含み、炭素析出を起こしやすい縮合多環芳香族主体のタール含有ガスであっても、高い耐炭素析出性を示し、随伴するタール等の重質炭化水素を高効率に改質して、一酸化炭素、水素を主体とする軽質化学物質に、経時劣化が少なく安定に変換することができる。
【0090】
本発明のタール含有ガス改質方法は、硫化水素含有雰囲気下でも安定して改質反応が進行するが、ガス中の硫化水素濃度は低ければ低いほど被毒されないため好ましい。ガス中の硫化水素濃度は、4000ppm以下が好ましく、3000ppm以下がより好ましい。
【0091】
さらに、本発明のタール含有ガス改質方法で用いるタール含有ガス改質用触媒は、ペロブスカイト構造のBサイトを占めるニッケル及び金属元素Bの中で、主活性成分であるニッケルが占める割合が10〜100原子量%である。ニッケルが占める割合が10原子量%未満では、ニッケルの改質性能が十分発揮されないため、好ましくない。
【0092】
ニッケルが占める割合は、100%であってもよい。すなわち、本発明のタール含有改質用触媒は、Co、Fe、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Re、Wから選ばれる少なくとも1種類の金属元素は必須ではなく、ANiO
3(Aは、La、Ce、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種類の金属元素)で表されるペロブスカイト型酸化物であってもよい。
【0093】
また、上記ペロブスカイト型酸化物と混合するシリカ又はアルミナの含有量は、20〜80質量%であることが好ましい。シリカ又はアルミナの含有量が20質量%未満では、ニッケル含有ペロブスカイト型酸化物主体のセラミックスとなり、成型した際、強度が著しく低くなる傾向がある。シリカ又はアルミナの含有量が80質量%を超えると、主活性成分であるニッケルの割合が低くなるので、触媒の改質活性を十分発揮できなくなるおそれがある。
【0094】
また、ケイ素又はアルミナを担体として用いる場合は、表面積と強度との兼ね合いで細孔容積、細孔径を、また、特に成型体であれば、形状等を適宜調整することが好ましい。
【0095】
本発明の改質触媒は、ニッケル含有量が10〜80原子量%となるように製造することが、さらに好ましい。
【0096】
本発明の改質触媒は、粉体、粒体又は成型体のいずれの形態としてもよく、成型体の場合には、球状、シリンダー状、リング状、ホイール状、粒状等、さらに、金属又はセラミックスのハニカム状基材へ触媒成分をコーティングしたもの等、いずれでもよい。
【0097】
各金属種の含有量を上記範囲になるように調製するためには、各出発原料をあらかじめ計算の上準備しておくことが好ましい。一度触媒が狙いの成分組成となれば、それ以降はその時の配合で調製すればよい。
【0098】
上記の元素以外に、本発明の特性を損なわない範囲で、触媒製造工程等で混入する不可避的不純物や触媒性能が変わらない他成分を含んでも構わないが、できるだけ不純物が混入しないようにするのが望ましい。
【0099】
上記の改質触媒を構成する各金属種の含有量の測定方法は、走査型高周波誘導結合プラズマ法(ICP)を用いた。具体的には、試料を粉砕後、アルカリ融解剤(例えば、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等)を加えて白金坩堝内で加熱融解し、冷却後に塩酸溶液に加温下で全量溶解させる。その溶液をICP分析装置へインジェクションすると、装置内の高温プラズマ状態の中で試料溶液が原子化・熱励起し、これが基底状態に戻る際に元素固有の波長の発光スペクトルを生じるので、その発光波長及び強度から含有元素種、量を定性・定量することができる。
【0100】
調製した酸化物がペロブスカイト型構造を形成しているかどうかを確認するためには、例えば、以下のとおり、触媒の広角X線回折により評価する。
【0101】
まず、材料を粉末試料用ホルダーにセットした後、Rigaku製RINT1500を用い、40kV、150mAの出力でCuKα線を発生させる。モノクロメーターを黒鉛とし、発散スリット及び散乱スリットを1°、受光スリットを0.15mm、モノクロ受光スリットを0.8mmとして、サンプリング幅を0.01deg、スキャン速度を2deg/minの条件で測定し、ピーク位置、強度より結晶構造を評価する。
【0102】
本発明の触媒を用いたタール含有ガス改質方法は、上述したタール含有ガス改質触媒の存在下、又は、還元後の触媒の存在下で、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガス中の水素、二酸化炭素、及び水蒸気を接触させて、タール含有ガスを改質してガス化するものである。
【0103】
また、タール含有ガス改質触媒の存在下、又は、還元後の触媒の存在下で、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガスに、前記水素、二酸化炭素、水蒸気の少なくともいずれかを加えて、タール含有ガスを改質してガス化するものである。
【0104】
タール含有ガス中のタールを接触改質してガス化するタールガス化反応は、反応経路が複雑で必ずしも明らかではないが、タール含有ガス中又は外部より導入する水素との間では、例えば、式1で表されるようなタール中縮合多環芳香族の水素化分解によるメタンを始めとする軽質炭化水素への転化反応が進行すると考えられる(式1ではメタンのみが生成される場合を記す)。
【0105】
C
mH
n+(2m−n/2)H
2 → mCH
4 (式1)
【0106】
タール含有ガス中又は外部より導入する二酸化炭素との間では、式2で表されるようなタール中縮合多環芳香族の二酸化炭素によるドライリフォーミングによる水素と一酸化炭素への転化反応が進行する。
【0107】
C
mH
n+m/2CO
2 → mCO+n/2H
2 (式2)
【0108】
タール含有ガス中又は外部より導入する水蒸気との間では、式3で表されるようなスチームリフォーミング及び水性ガスシフト反応が進行する。また、タール含有ガス中タール以外の炭化水素成分についても、同様にして反応が進行する。
【0109】
C
mH
n+2mH
2O → mCO
2+(m+n/2)H
2 (式3)
【0110】
したがって、メタン等の高カロリーガスを製造する場合には、外部から水素を加えることが望ましい。また、水素や一酸化炭素を製造する場合には、外部から二酸化炭素を加えることが望ましい。さらに、水素をより多く製造する場合には、外部から水蒸気を加えることが望ましい。タール以外の炭化水素成分も、上記の式1〜3に従って、反応が進行する。
【0111】
タール含有ガス改質用触媒は、還元することが好ましいが、反応中に還元が進行するため、還元しなくてもよい。特に、タール含有ガス改質触媒が反応前に還元処理を必要とする場合、本発明の触媒から活性金属であるニッケル粒子が微細クラスター状に析出するので、還元条件は、比較的高温でかつ還元性雰囲気にするのであれば特に制限されるものではない。
【0112】
例えば、水素、一酸化炭素、メタンの少なくともいずれかを含むガス雰囲気下、又は、それら還元性ガスに水蒸気を混合したガス雰囲気下、又は、それらのガスに窒素などの不活性ガスを混合した雰囲気下であってもよい。還元温度は、例えば、500℃〜1000℃が好適である。還元時間は充填する触媒量にも依存し、例えば、30分〜4時間が好適であるが、充填した触媒全体が還元するのに必要な時間であればよく、特にこの条件に制限されるものではない。
【0113】
触媒反応器としては、触媒が粉末の場合には流動床形式や移動床形式等が、触媒が成型体の場合には固定床形式や移動床形式等が好適に用いられる。触媒層の入口温度は、500〜1000℃であることが好ましく、550〜1000℃であることがより好ましい。触媒層の入口温度が500℃未満の場合は、タール及び炭化水素が水素、一酸化炭素を主体とする軽質炭化水素へ改質する際の触媒活性がほとんど発揮されないため、好ましくない。触媒層の入口温度が1000℃を超える場合は、耐熱構造化が必要になる等、改質装置が高価になるので、経済的に不利となる。炭素質原料が石炭の場合には比較的高温で、バイオマスの場合には比較的低温で反応を進めることも可能である。
【0114】
炭素質原料を熱分解、又は部分酸化して生成されるタール含有ガスが、コークス炉から排出される粗COGのような硫化水素濃度が非常に高いタール含有ガスであっても、本発明によりガス中のタールや炭化水素を改質してガス化することができる。熱分解又は部分酸化とは、具体的には、乾留、又は炭素質原料をガス化のために一部のみ酸化させてタール含有ガスを製造することを言う。
【0115】
現在のコークス炉では、炉内に原料の石炭を充填後、加熱・乾留してコークスを製造する。
図1に示すように、付随して発生するコークス炉ガスは、炉頂部の上昇管1から安水2(アンモニア水)を噴霧して冷却後、集気管であるドライメーン4に集められる。ガス成分は、コークス炉3の上昇管1で800℃程度の顕熱を有しているにもかかわらず、安水2噴霧後には100℃以下まで急冷されてしまい、その顕熱を有効に利用できていない。
【0116】
このガス顕熱を有効に利用し、かつ、タール含有ガスを水素、一酸化炭素等軽質炭化水素等の燃料成分に転換できれば、エネルギー増幅に繋がる。さらに、そこで生成される還元性ガス体積が大幅に増幅されることにより、例えば、鉄鉱石に適用して還元鉄を製造するプロセスが可能となれば、現在鉄鉱石をコークスにより還元する高炉プロセスで発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減できる可能性がある。
【0117】
また、それを従来の燃料用途のみに用いるのでなく、有用物に変換可能であり、また、鉄鉱石の直接還元にも適する合成ガスに転換することにより、より高度なエネルギー利用に繋がる可能性がある。
【0118】
粗COG中に含まれるタールは、コークス炉装炭から窯出しまでの間で経時的に変化し、おおよそ0.1〜150g/Nm
3の範囲で変動する。上記粗COGをコークス炉の上昇管で安水2を噴霧して冷却し、ドライメーン4で集められた後、常法で精製した精製COGは、プライマリークーラー、タール抽出器、電気集塵機等の処理を行って精製したとはいえ、おおよそ0.01〜0.02g/Nm
3程度のタールが存在する。その後のファイナルクーラーで精製してもナフタレンを約0.2〜0.4g/Nm
3、スクラバー処理をした後でも軽油分を5〜10g/Nm
3程度含んでいる。
【0119】
そのタール含有ガスである精製COGを、水素、一酸化炭素等軽質炭化水素等の燃料成分に転換できれば、粗COGの転換と同様、二酸化炭素排出量の削減や、燃料以外の有用物への変換等の可能性が期待できる。
【0120】
触媒反応器に内蔵されるタール含有ガス改質触媒は、タール及び炭化水素成分から、水素、一酸化炭素を主体とする軽質化学物質への転換時に、触媒表面上に析出する炭素、又は熱分解工程で得られた熱分解ガス中に含まれる硫黄成分が触媒に吸着することで、触媒が性能劣化する。劣化した触媒は、触媒反応器へ水蒸気を導入し、水蒸気と炭素の反応により触媒表面の炭素を除去、又は、水蒸気と硫黄の反応により触媒に吸着した硫黄を硫化水素の形で除去することで、再生することが可能である。
【0121】
また、水蒸気の一部又は全部を空気に変えて導入することで、空気中の酸素と炭素の燃焼反応により触媒表面の炭素を除去、又は酸素と硫黄の反応により触媒に吸着した硫黄を除去することで、触媒を再生することも可能である。再生した触媒は、全量再使用することも可能であるし、また、一部を新触媒に置き換えて使用することも可能である。
【0122】
(実施例)
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0123】
(実施例1)
ニッケル、及び、表1に示す第一金属元素、第二金属元素の原子量比が、3:10:7になるように精秤して、60℃の加温で混合水溶液を調製したものに、60℃に加温した炭酸カリウム水溶液を加えて、ニッケルとマグネシウムと金属元素を水酸化物として共沈させ、スターラーで十分に攪拌した。その後、60℃に保持したまま一定時間攪拌を続けて熟成を行った後、吸引ろ過を行い、80℃の純水で十分に洗浄を行った。
【0124】
洗浄後に得られた沈殿物を120℃で乾燥し粗粉砕した後、空気中600℃で焼成(か焼)したものを解砕し、その後、粉末を圧縮成形器を用いて3mmφの錠剤状にプレス成型し、錠剤成型体を得た。その成型体を空気中950℃で焼成を行い、ANi
0.3B
0.7O
3からなる触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、ANi
0.3B
0.7O
3がペロブスカイト型構造を形成していることが確認できた。
【0125】
この触媒を60cm
3用い、SUS製反応管の中央に位置するよう石英ウールで固定し、触媒層中央位置に熱電対を挿入し、これら固定床反応管を所定の位置にセットした。
【0126】
改質反応を始める前に、反応器を窒素雰囲気下で800℃まで昇温した後、水素ガスを100mL/min流しながら30分間還元処理を行った。その後、コークス炉ガス(粗ガス)の模擬ガスとして水素:窒素=1:1、H
2S=2000ppm、トータルで125mL/minになるよう各ガスを調整して導入し、常圧下、800℃で8時間反応を行い、触媒性能を評価した。
【0127】
また、石炭乾留時発生タールの模擬物質として、タール中にも実際に含まれかつ常温で粘度の低い液体物質である1−メチルナフタレンを代表物質として用い、精密ポンプで0.025g/minの流量で反応管へ導入した。
【0128】
また、S/C=3となるよう、純水を精密ポンプで0.1g/minの流量で反応管へ導入した。出口から排出された生成ガスを室温トラップ、氷温トラップを経由させて、各々ナフタレン、水分を除去した後、ガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード製HP6890)に注入してTCD、FID分析を行った。
【0129】
改質反応の反応度合(メチルナフタレンの分解率)は、メタン選択率、CO選択率、CO
2選択率、触媒上に堆積した炭素析出率で判断した。それらは出口ガス中の各成分濃度より、以下の式で算出した。
【0130】
メタン選択率(%)=(CH
4の体積量)/(供給された1−メチルナフタレンのC供給量)×100
【0131】
CO選択率(%) =(COの体積量)/(供給された1−メチルナフタレンのC供給量)×100
【0132】
CO
2選択率(%)=(CO
2の体積量)/(供給された1−メチルナフタレンのC供給量)×100
【0133】
炭素析出率(%) =(析出炭素重量)/(供給された1−メチルナフタレンのC供給量)×100
【0134】
また、入口水素ガス体積に対する出口水素ガス体積の比(水素増幅率)も併記した。
【0136】
表1の結果から、H
2S濃度が2000ppmという高濃度に含まれる雰囲気下でも、模擬タールである1−メチルナフタレンの分解反応が進んでおり、ニッケル、及び、表1の各第一金属元素、第二金属元素からなるペロブスカイト型複合酸化物の触媒は耐硫黄被毒性に強く、耐炭素析出性が高く、模擬タールの分解活性に優れていることが分かる。
【0137】
(実施例2)
硝酸ランタン、硝酸ニッケル、硝酸鉄を各金属元素のモル比が10:3:7になるように精秤して、60℃の加温で混合水溶液を調製したものに、60℃に加温した炭酸カリウム水溶液を加えて、ランタン、ニッケル、及び、鉄を水酸化物として共沈させ、スターラーで十分に攪拌した。その後、60℃に保持したまま一定時間攪拌を続けて熟成を行った後、吸引ろ過を行い、80℃の純水で十分に洗浄を行った。
【0138】
洗浄後に得られた沈殿物を120℃で乾燥し粗粉砕した後、空気中600℃で焼成(か焼)したものを解砕した後にビーカーに入れ、アルミナゾルを加えて攪拌羽を取り付けた混合器で十分混合したものを、なすフラスコに移してロータリーエバポレーターに取り付け、攪拌しながら吸引することで、水分を蒸発させた。
【0139】
なすフラスコ壁面に付着したランタン、ニッケル、鉄、及び、アルミナの化合物を蒸発皿に移して、120℃で乾燥した後、600℃でか焼し、その後、粉末を圧縮成形器を用いて3mmφの錠剤状にプレス成型し、錠剤成型体を得た。その成型体を、空気中950℃で焼成を行い、LaNi
0.3Fe
0.7O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、LaNi
0.3Fe
0.7O
3がペロブスカイト型構造を形成していることが確認できた。
【0140】
この触媒60cm
3を、SUS製反応管の中央に位置するよう石英ウールで固定し、触媒層中央位置に熱電対を挿入し、反応管を所定の位置にセットした。
【0141】
改質反応を始める前に、反応器を窒素雰囲気下で800℃まで昇温した後、水素ガスを100mL/min流しながら30分間還元処理を行った。その後、コークス炉ガス(粗ガス)の模擬ガスとして、水素:窒素=1:1、H
2Sを表2に示す濃度で、トータルで125mL/minになるよう各ガスを調整して導入し、常圧下、表1に示す各温度で8時間反応を行って触媒活性を評価した。それ以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0143】
表2のNo.9〜13の結果から、H
2S濃度が2000ppmという高濃度に含まれる雰囲気下でも、模擬タールである1−メチルナフタレンの分解反応が進んでおり、本製造方法で作成した触媒は耐硫黄被毒性に強いことが分かる。また、特に反応温度の上昇に伴い分解率(メタン選択率+CO選択率+CO
2選択率+炭素析出率)が高く、耐硫黄被毒性が高く、炭素析出性の高い過酷な状況下であっても,1−メチルナフタレンの分解反応が進行していることが分かる。
【0144】
また、No.11、14、15の結果から、H
2S濃度が低くなるに従い、硫黄被毒の影響が少なくなり、より分解率が向上したことが分かる。さらに、模擬タールの分解率の上昇に伴い、水素増幅率も上昇したことから、1−メチルナフタレンを構成する炭素と結合した水素が、触媒による分解に伴って水素分子に変換されたと考えられる。
【0145】
また、炭素析出率は、比較的低い数値であり、温度が上昇するほど低くなる。全体の改質反応は、800℃以上の高温領域で改質反応がほぼ全量分解していることが判明した。
【0146】
(実施例3)
硝酸カルシウム、タングステン酸アンモニウム、硝酸ニッケルを各金属元素のモル比が2:1:1になるようにする他は実施例2と同様にして、共沈及び熟成を行った後、吸引ろ過を行い、80℃の純粋で十分に洗浄を行った。
【0147】
その後、この沈殿物にアルミナゾルがアルミナとして50質量%になるように加えて攪拌羽を取り付けた混合器で十分混合したものを、なすフラスコに移して、ロータリーエバポレーターに取り付け、攪拌しながら吸引することで、水分を蒸発させた。
【0148】
なすフラスコ壁面に付着したカルシウム、タングステン、ニッケルとアルミナの化合物を蒸発皿に移して120℃で乾燥、乳鉢で粉砕後、600℃でか焼した粉末を圧縮成形器を用いて3mmφの錠剤状にプレス成型し、錠剤成型体を得た。その成型体を空気中950℃で焼成を行い、CaW
0.5Ni
0.5O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることを確認した。また、広角XRD解析の結果、CaW
0.5Ni
0.5O
3がペロブスカイト型構造を形成していることが確認できた。
【0149】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.5%、炭素析出率は3.2%、水素増幅率は2.6倍を発現し、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率が低い性能を示すことを確認できた。
【0150】
(実施例4)
ランタン、ストロンチウム、クロム、ニッケル、及び、アルミニウムを含んだ水溶液から沈殿剤により沈殿物を作成、焼成する製法で調製した。すなわち、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸クロム、及び、硝酸ニッケルを、ランタン、ストロンチウム、クロム、ニッケルの金属元素のモル比が、8:2:9:1になるようにし、アルミナとして50質量%になるように計算して精秤し、60℃の純粋に混合した混合溶液を調製したものに、実施例1と同様、60℃に加温した炭酸カリウム水溶液を加え、スターラーで十分に攪拌した。
【0151】
その後、60℃に保持したまま、一定時間攪拌を続けて熟成を行った後、吸引ろ過を行い、80℃の純水で十分に洗浄した。
【0152】
その後、この沈殿物を蒸発皿に移して、120℃で乾燥、乳鉢で粉砕後、600℃でか焼した粉末を圧縮成型器を用いて、実施例1と同様にプレス成型し、錠剤成型体を得た。その成型体を空気中950℃で焼成を行って、La
0.8Sr
0.2Cr
0.9Ni
0.1O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることを確認した。また、広角XRD解析の結果、La
0.8Sr
0.2Cr
0.9Ni
0.1O
3がペロブスカイト型構造を形成していることが確認できた。
【0153】
この触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.8%、炭素析出率は3.5%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0154】
(実施例5)
1200℃で3時間かけて予備焼成したアルミナ(表面積:143m
2/g)に、硝酸ランタン、塩化チタン、硝酸ニッケルの混合水溶液を、ランタン、チタン、ニッケルの金属元素のモル比が、実施例1と同じ、10:8:2になるようにし、アルミナとして80質量%になるように含浸後、110℃で12時間かけて乾燥させ、その後500℃で3時間かけて焼成を行って、LaTi
0.8Ni
0.2O
3にアルミナを80質量%混合した触媒成型体を調整した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることを確認した。また、広角XRD解析の結果、LaTi
0.8Ni
0.2O
3がペロブスカイト型構造を形成していることが確認できた。
【0155】
この触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.2%、炭素析出率は3.6%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を保有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0156】
(実施例6)
硝酸バリウム、硝酸コバルト、硝酸ニッケルを、各金属元素のモル比が2:1:1になるようにする他は実施例2と同様に調製して、BaCo
0.5Ni
0.5O
3にアルミナを50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、BaCo
0.5Ni
0.5O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0157】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.4%、炭素析出率は3.8%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0158】
(実施例7)
ストロンチウム、ニオブ、ニッケルを各金属元素のモル比が3:2:1になるようにする他は実施例2と同様に調製して、SrNb
0.67Ni
0.33O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、SrNb
0.67Ni
0.33O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0159】
この触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.0%、炭素析出率は3.7%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0160】
(実施例8)
ストロンチウム、タンタル、ニッケルを各金属元素のモル比が3:2:1になるようにする他は実施例2と同様に調製して、SrTa
0.67Ni
0.33O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることを確認できた。また、広角XRD解析の結果、SrTa
0.67Ni
0.33O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0161】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.1%、炭素析出率は3.8%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0162】
(実施例9)
ストロンチウム、モリブデン、ニッケルを各金属元素のモル比が2:1:1になるようにする他は実施例2と同様に調製して、SrMo
0.5Ni
0.5O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、SrMo
0.5Ni
0.5O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0163】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.2%、炭素析出率は3.8%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0164】
(実施例10)
バリウム、レニウム、ニッケルを各金属元素のモル比が2:1:1になるようにする他は実施例2と同様に調製して、BaRe
0.5Ni
0.5O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、BaRe
0.5Ni
0.5O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0165】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.1%、炭素析出率は3.6%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0166】
(実施例11)
ストロンチウム、バナジウム、ニッケルを各金属元素のモル比が3:2:1になるようにする他は実施例2と同様に調製してSrV
0.67Ni
0.33O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、SrV
0.67Ni
0.33O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0167】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.3%、炭素析出率は3.9%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0168】
(実施例12)
ランタン、ジルコニウム、ニッケルを各金属元素のモル比が10:8:2になるようにする他は、実施例2と同様に調製して、LaZr
0.8Ni
0.2O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることを確認し、広角XRD解析の結果、LaZr
0.8Ni
0.2O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0169】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は90.5%、炭素析出率は4.0%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0170】
(実施例13)
ランタン、ニッケルを各金属元素のモル比が1:1になるようにする他は実施例2と同様に調製してLaNiO
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、LaNiO
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0171】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は89.7%、炭素析出率は9.7%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0172】
(実施例14)
アルミナの代わりにシリカを用いる他は実施例2と同様に調製してLaNi
0.3Fe
0.7O
3にシリカが50質量%混合した触媒成型体を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、LaNi
0.3Fe
0.7O
3がペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0173】
触媒成型体の調製方法以外はすべて実施例2と同様にして、表2のNo.11の条件で8時間の改質実験を行った結果、模擬タールの分解率は89.6%、炭素析出率は9.9%、水素増幅率は2.6倍を発現し、実施例2と同様、安定して非常に高い改質活性を有し、かつ、炭素析出率の低い性能を示すことを確認できた。
【0174】
(実施例15)
ランタン、セリウム、鉄、ニッケル、及び、アルミニウムの酸化物のうち、各金属元素の原子量%、及び、アルミナの質量%が表3になるように調製する他は、実施例2と同様に触媒を調製した。成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることが確認できた。また、広角XRD解析の結果、ペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0175】
実験条件としては、表2のNo.11の条件で評価した。その結果を表3に示す。
【0177】
表3の結果から分かるように、主活性成分であるNi原子量%が小さいものほど1−メチルナフタレンの分解率は低く、水素増幅率も低くなり、Ni原子量%が10%を下回るNo.16の場合には、分解率、水素増幅率共に低い結果となった。一方、Ni原子量が大きくなるほど分解率、水素増幅率も高くなった。Ni質量が100原子量%のNo.24の場合には、炭素析出量が多い結果となった。
【0178】
また、No.19とNo.22を比較すると、ほぼ同等のNi質量であってもアルミナ質量の違いにより、アルミナ成分が少ない方が触媒活性は高かった。
【0179】
(実施例16)
反応温度800℃、H
2S濃度2000ppm、反応時にH
2O、CO
2及びO
2を表4に示した各条件になるように導入した他は、実施例2と同様に触媒調製、評価を行った。その結果を表4に示す。なお、ここでH
2O/C、CO
2/C及びO
2/CのCは供給された1−メチルナフタレンのC供給量を示す。
【0181】
表4の結果、外部からH
2OやCO
2やO
2を導入することにより、表2のNo.11の結果と比較すると、改質反応が進むことが確認された。なお、O
2を導入する場合、H
2OによるスチームリフォーミングやCO
2によるドライリフォーミングの吸熱を燃焼熱で熱補償できるため、実際の反応器を想定した場合、非常に有効な手法である。また、O
2を導入することにより、炭素析出率がさらに低下した。
【0182】
(実施例17)
コークス炉をシミュレートできるバッチ炉に、実際のコークス炉で使用している装入炭を80kg充填し、実コークス炉に合わせて昇温して、実コークス炉ガス及び随伴する実タールを発生させた。そのガスを吸引ポンプで捕集し、実験に用いた。
【0183】
反応温度が800℃になるよう昇温した電気炉内部に反応管を配置して、その中央部に実施例2と同様にして、LaNi
0.3Fe
0.7O
3にアルミナが50質量%混合した触媒成型体を調製し、リング状に成型した。
【0184】
成型体の成分をICP分析で確認した結果、所望の成分であることを確認し、広角XRD解析の結果、ペロブスカイト型構造を形成していることを確認した。
【0185】
触媒成型体を、反応管の所定の位置に設置し、水素を10NL/min流通して2時間還元後、バッチ炉から捕集したガスを触媒層へ流すことにより、実コークス炉ガス及び随伴実タールの触媒分解活性を5時間継続して評価した。
【0186】
入口ガス流量は10NL/minで、触媒充填量は約1Lであった。なお、入口ガス組成は、実コークス炉ガスとほぼ同じ組成であることをガスクロマトグラフィーで確認した。また、そのガス中には硫化水素が2400〜2500ppm含まれていることを確認した。
【0187】
タール分解率は、触媒層の入口と出口からガスをサンプリングし、秤量することにより評価した。その結果、タール分解率は平均89%、水素増幅率は平均で2.6倍まで到達した。タール分解率は、触媒層入口ガス中のタール質量に対する、触媒層出口ガス中のタール質量の割合である。
【0188】
(実施例18)
表2のNo.11の条件で8時間継続して反応を進行させた後、原料の投入を停止し、キャリアガスとしてN
260mL/min、H
2Oをガス換算で60mL/minを供給し、触媒層温度を800℃で5時間保持して、触媒上に堆積した炭素や硫黄を除去した。その後、新たに実施例2と同じ条件で原料の投入を開始したところ、再生前の9割以上の活性を示すことが確認された。また、本試験における改質後のガス中の水素濃度も高く、水素、一酸化炭素、メタンが主成分のガスに変換されたことが確認された。
【0189】
(実施例19)
実施例18と同様、表2のNo.6の条件で8時間継続して反応を進行させた後、原料の投入を停止し、キャリアガスとしてN
260mL/min、空気60mL/minを供給し、触媒層温度を800℃で2時間保持して、触媒上に堆積した炭素や硫黄を除去した。その後、新たに実施例2と同じ条件で原料の投入を開始したところ、再生前の9割以上の活性を示すことが確認された。また、本試験における改質後のガス中の水素濃度も高く、水素、一酸化炭素、メタンが主成分のガスに変換されたことが確認された。
【0190】
(実施例20)
実施例5と同様にして調製した触媒1gを用いて、固定床反応器で、バイオマスとして杉の粉(約0.2mm、C:51.1%、H:5.9%、O:42.5%、N:0.1%、灰分:0.3%)のガス化を行った。
【0191】
杉の粉は、固定床反応器の上部よりN
2をキャリアガスとして、連続的に供給を行った。反応温度は、反応器外壁に取り付けた熱電対により制御した。生成ガスの流量は、石鹸膜流量計により測定し、ガス組成の分析は、ガスクロマトグラフを用いて行った。使用したガスクロマトグラフは、Shimadzu CG−14BでH
2をTCD(モレキュラーシーブ13X)、それ以外の生成物はFID(ガスクロパック54)を用いて分析し、その記録はインテグレーター(Shimadzu クロマトパックCR−5A)で行った。
【0192】
反応器には、改質用触媒とチャー(析出した固体状の炭素成分)が別々に貯留されるデュアルベッド式を使用した。デュアルベッド式の利点として、バイオマスのガス化時に発生するチャーや灰分を直接触媒と接触させないため、触媒寿命の長期化が図れることがあげられる。また、燃焼しても殆どCO
2にしかならないチャーをガス化しないことによって、生成ガスの組成をより有用なものとすることができる。反応器の下流には、蒸気及びタールをトラップするために、氷を入れたデュワー瓶を設置した。
【0194】
改質用触媒量:1g、
杉の粉供給速度:60mg/min(C:2191μmol/min、H:3543μmol/min、O:1475μmol/min、)、キャリアガスN
2:60mL/min、H
2O/C=0.5(H
2O:1110μmol/min)、
反応時間:15分、
水素還元:500℃、30分間。
【0195】
改質用触媒の性能は、タール分解率(Tar−conv.%)、出口ガスのH
2生成速度、出口ガス中の水素組成で判断し、それらは以下の式で算出した。なお、本試験条件で発生したバイオマスガス化ガスの生成速度並びにガス組成及び入口タール(Tar)量は表5に示すとおりであり、そのガス中に含まれる硫化水素濃度は約20ppmであった。
【0196】
coke% =(コーク中のC原子量)/(供給されたバイオマスの総C原子量)
×100
【0197】
char% = (チャー中のC原子量)/(供給されたバイオマスの総C原子量)
×100
【0198】
tar% = (100−(C−conv.%)−(char%)−(coke%))
【0199】
入口Tar量(mg・min
-1) = 入口tar%×(供給されたバイオマスの
総C供給速度)
【0200】
出口Tar量(mg・min
-1) = 出口tar%×(供給されたバイオマスの
総C供給速度)
【0201】
Tar−conv.% = (1−(出口Tar量mg・min
-1)
/(入口Tar量mg・min
-1)×100
【0203】
コーク(coke)とは、改質用触媒表面に堆積した炭素のことであり、チャーとは、バイオマスの熱分解により生成され、ガス化されずに残った固定炭素分のことである。
【0204】
コーク中のC原子量、及び、チャー中のC原子量の測定方法は、以下のとおりである。
【0205】
(コーク中C原子量)
(1) 15分間の改質試験後、バイオマスの供給を停止し、反応器にN
2を添加することで、反応器内のガスを追い払う。
(2) O
2を反応器1の上部より添加し、改質用触媒に発生したチャーの燃焼時に発生するCO、CO
2の発生量をガスクロマトグラフで測定する。
(3) CO、CO
2発生量からチャー中のC原子量を算出する。
【0206】
(チャー中のC原子量)
(1) コーク中のC量の測定完了後、反応器の上部からのO
2の添加を停止し、反応器の下部からのO
2を添加する。
(2) コーク中C量測定と同様に、チャーの燃焼時に発生するCO、CO
2の発生量をガスクロマトグラフで測定する。
(3) CO、CO
2発生量からチャー中のC原子量を算出する。
【0207】
以上のような固定床反応器において、反応温度を表6に示すように550、600、650℃の各温度で15分間の改質試験を行ったところ、表6に示すような改質ガスの生成速度並びにガス組成及び出口Tar量・分解率の結果が得られ、表5と比較すると、いずれの反応温度でも、タール分解率(Tar−conv.)が高く、かつ水素が大きく増幅され(水素ガス生成速度又は水素ガス組成)、高活性な性能を発揮することが確認された。
【0209】
(実施例21)
精製COGを用いた改質装置としては、通常の水素製造プラントの規模を縮小した以外は全く同一の試験プラントで、改質ガス流量が約400Nm
3/h規模の設備を用いた。
【0210】
触媒充填反応管は、改質炉の中に約80mmφ、約10mのものを4本設置し、そこへ改質触媒として、実施例17で用いたのと同じリング状に成型した触媒をそれぞれ約25kg、合計で約100kgを充填した。
【0211】
その改質炉の天井に設置したバーナーを点火して、火炎が下方へ向かうダウンファイヤード形式により炉内を加熱し、その輻射熱で反応管を加熱する方式で所定の温度になるように昇温した。また、その高温の排ガスを熱交換器を通して、原料ガスである精製COGを加熱した。また、改質剤には水蒸気を用い、純水をボイラーで加熱した後、上記改質炉の排ガスとの熱交換で加熱蒸気にして精製COGと共に反応管上部から導入した。
【0212】
反応に先立ち、窒素ガスで約900℃、常圧の条件に設定した後、還元処理を行うべく、窒素から水素に水蒸気を混合したガス(水蒸気のモル比/水素のモル比=7)に切り替えて、約200Nm
3/hで3時間保持した。得られた改質ガスは、反応管出口に設置した冷却器で冷却し、水分離器で水分を除去した後、ガスクロマトグラフィーでガス組成を分析した。
【0213】
ここで用いた原料ガスは、常法で精製した精製COGの後段に、酸化鉄(Fe
2O
3)系市販触媒(ズードケミー製、N−IDS)を充填した脱硫装置により、硫化水素の濃度を約0.5ppmまで脱硫したものを用いた。
【0214】
そのようにして脱硫した原料ガス、及び、改質剤としての水蒸気は、水蒸気のモル数と原料ガス中の炭化水素成分の炭素モル数との比(S/C)が1となるよう、各々約260Nm
3/h、約80Nm
3/h(約60kg/h相当)を反応管に導入した。また、反応温度、圧力は、反応管の出口温度、圧力として約900℃、常圧となるように調整して約1000時間の運転を行った。その結果、改質後のガスとして、約400Nm
3/hの合成ガスを安定して得ることができた。
【0215】
[比較例1]
実施例2と同じ実験手法で、表2のNo.11の条件で、触媒として工業触媒の一つであるズードケミー製ナフサ一次リフォーミング触媒(SC11NK;Ni−20質量%担持)を用いて改質試験を行ったところ、メタン選択率が2.5%、CO選択率が4.2%、CO
2選択率が5.9%、炭素析出率が32.8%、分解率45.4%、水素増幅率が1.3となった。
【0216】
したがって、工業触媒は、1−メチルナフタレンのガス成分への変換率が低い(12.6%)一方、炭素析出率が非常に高い結果となった。工業触媒は、炭素析出率が非常に高いため、触媒寿命が短いおそれがある。反応後に再生処理を行ったとしても、高温又は長期間酸化処理を行う必要があるために、その際の大きな燃焼熱により触媒活性粒子がシンタリングを引き起こして、再生後の性能がさらに低くなると予想される。
【0217】
[比較例2]
実施例17と同じ試験設備を用い、実施例17と同じ条件で、比較例1で用いた工業触媒(SC11NK)を反応管に設置して、評価を行った。その結果、タール分解率は22%にとどまり、水素増幅率も約1.5となり、工業触媒は、実コークス炉ガス、実タール下での評価でも、タール分解率が低いことが判明した。
【0218】
[比較例3]
実施例1と同様にして、ニッケルとマグネシウムの沈殿物を調製した後、ろ過、洗浄、乾燥した後、空気中950℃で焼成を行い、ニッケルとマグネシアの化合物を得た。その後、アルミナ粉末を50質量%になるように秤量し、両者を乳鉢を用いて物理的に混合した。その混合物を実施例1と同じ実験手法で成型、焼成した後、表2のNo.11と同じ条件で活性評価を行った。その結果、触媒活性は、1−メチルナフタレンの分解率が66.7%程度、水素増幅率は1.6と中程度の触媒活性であった。
【0219】
[比較例4]
非特許文献1や特許文献8等で開示されている要領で、ニッケル、マグネシウム、及び、アルミナを含んだ水溶液から、沈殿剤により沈殿物を作成、焼成する製法で調製した。すなわち、硝酸ニッケル、硝酸マグネシウム、及び、硝酸アルミニウムを、ニッケルとマグネシウムの金属元素のモル比が、実施例1と同じく、1:9になるようにし、アルミナとして50質量%になるように計算して精秤した後、60℃の純水に混合して、混合溶液を調製したものに、実施例1と同様に、60℃に加温した炭酸カリウム水溶液を加え、スターラーで十分に攪拌した。
【0220】
その後、60℃に保持したまま、一定時間攪拌を続けて熟成を行った後、吸引ろ過を行い、80℃の純水で十分に洗浄した。次いで、この沈殿物を蒸発皿に移して、120℃で乾燥、乳鉢で粉砕後、粉末を圧縮製計器を用いて、実施例1と同様に、プレス成型し、錠剤成型体を得た。その成型体を空気中950℃で焼成を行って触媒成型体を調製した。
【0221】
調製した触媒成型体を用いて、表2のNo.11と同じ条件で活性評価を行った。その結果、触媒活性はメチルナフタレンの分解率が62.6%程度(うち、炭素析出率が19.9%)、水素増幅率は1.6と中程度の触媒活性しか示さず、炭素析出量が非常に多いことが判明した。
【0222】
[比較例5]
特許文献20で開示されている方法で、LaFeO
3、LaCoO
3、Rh/LaAlO
3、Ni/LaFeO
3を調製した。これを用いて、表2のNo.11と同じ条件で活性評価を行った。その結果を、表7に各々No.29、No.30、No.31、No.32で示す。
【0224】
表7のNo.29、30に示すように、Niを含まず、単にペロブスカイト型構造を有する酸化物を触媒に用いるだけでは、タール分解がほとんど起こらないことが分かる。また、メタン等の低級炭化水素に対する水蒸気改質活性を有するRhを担持したNiを含まないペロブスカイト型酸化物のNo.31では、ごくわずかに分解しているにとどまった。
【0225】
同様に水蒸気改質活性を示すNiを担持したNiを含まないペロブスカイト型酸化物のNo.32では、Niを担持した後850℃で焼成しているため、一部LaFeO
3のペロブスカイト型構造に固溶すると予想され、タール分解活性も中程度発現した。しかし、担持したNiすべてがペロブスカイト型構造に固溶していないため、触媒表面に形成するNi粒のほとんどが担持Niから形成されるために粗大なものが多くなってしまう。その結果、タール分解活性に劣り、かつ、炭素析出量も非常に多くなった。