特許第5780280号(P5780280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780280
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】空調システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   F24F11/02 A
   F24F11/02 102T
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-204146(P2013-204146)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68591(P2015-68591A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2014年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 忠史
(72)【発明者】
【氏名】木保 康介
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−149858(JP,A)
【文献】 特開平07−098143(JP,A)
【文献】 特開2002−061925(JP,A)
【文献】 特開2012−154600(JP,A)
【文献】 特開2007−139369(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0095083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器(42,52,62)を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機(40,50,60)と、
複数の前記利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器(23)を含む室外機(20)と、
複数の前記室内機の前記設定温度を用いて複数の前記室内機に共通の代表温度関連値を算出し、前記代表温度関連値に基づいて複数の前記室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置(37,47,57,67,80)と、
を備え、
前記制御装置は、前記代表温度関連値を、複数の前記室内機において各前記設定温度と各制御温度との差として得られる複数の温度差に基づいて算出する、空調システム。
【請求項2】
前記制御装置は、複数の前記室内機からの空調能力の増加要求のうち最も高い増加要求を満たすように前記室外機の運転条件を決定する、
請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記利用側熱交換器の要求蒸発温度又は要求凝縮温度を前記室内機毎に演算する要求温度演算部(47b,57b,67b)と、前記要求温度演算部において演算された複数の前記室内機の前記要求蒸発温度のうちの最小値に基づいて目標蒸発温度を決定し、又は前記要求温度演算部において演算された複数の前記室内機の前記要求凝縮温度のうちの最大値に基づいて目標凝縮温度を決定する目標値決定部(37b)とを有する、
請求項2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記制御装置は、複数の前記室内機のそれぞれの制御温度と前記設定温度との差について前記室内空間の温熱環境への影響度及び前記室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を前記代表温度関連値として用いる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の空調システム。
【請求項5】
同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器(42,52,62)を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機(40,50,60)と、
複数の前記利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器(23)を含む室外機(20)と、
複数の前記室内機の前記設定温度を用いて複数の前記室内機に共通の代表温度関連値を算出し、前記代表温度関連値に基づいて複数の前記室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置(37,47,57,67,80)と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記室内機のそれぞれの制御温度と前記設定温度との差について前記室内空間の温熱環境への影響度及び前記室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を前記代表温度関連値として用い、前記加重平均値が前記室内機毎の定格容量で重み付けされている、空調システム。
【請求項6】
同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器(42,52,62)を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機(40,50,60)と、
複数の前記利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器(23)を含む室外機(20)と、
複数の前記室内機の前記設定温度を用いて複数の前記室内機に共通の代表温度関連値を算出し、前記代表温度関連値に基づいて複数の前記室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置(37,47,57,67,80)と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記室内機のそれぞれの制御温度と前記設定温度との差について前記室内空間の温熱環境への影響度及び前記室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を前記代表温度関連値として用い、前記加重平均値が前記室内機毎の空調能力で重み付けされている、空調システム。
【請求項7】
同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器(42,52,62)を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機(40,50,60)と、
複数の前記利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器(23)を含む室外機(20)と、
複数の前記室内機の前記設定温度を用いて複数の前記室内機に共通の代表温度関連値を算出し、前記代表温度関連値に基づいて複数の前記室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置(37,47,57,67,80)と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記室内機のそれぞれの制御温度と前記設定温度との差について前記室内空間の温熱環境への影響度及び前記室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を前記代表温度関連値として用い、前記加重平均値が前記室内機毎の風量で重み付けされている、空調システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記加重平均値が前記室内機毎の周辺の在席密度で重み付けされている、
請求項4から7のいずれか一項に記載の空調システム。
【請求項9】
同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器(42,52,62)を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機(40,50,60)と、
複数の前記利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器(23)を含む室外機(20)と、
複数の前記室内機の前記設定温度を用いて複数の前記室内機に共通の代表温度関連値を算出し、前記代表温度関連値に基づいて複数の前記室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置(37,47,57,67,80)と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記室内機のそれぞれの制御温度と前記設定温度との差について前記室内空間の温熱環境への影響度及び前記室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を前記代表温度関連値として用い、前記加重平均値が前記室内機毎の重み設定値に応じて重み付けされている、空調システム。
【請求項10】
複数の前記室内機は、それぞれ、前記利用側熱交換器に対する風量調整が可能な送風機(43,53,63)をさらに含み、
前記制御装置は、前記室内機毎に前記送風機を調節し、空調能力が余っていたら風量を減少させ、空調能力が不足していたら風量を増加させる、
請求項1から9のいずれか一項に記載の空調システム。
【請求項11】
複数の前記室内機は、それぞれ、前記利用側熱交換器の出口側の過熱度又は過冷却度を調整可能な膨張機構(41,51,61)をさらに含み、
前記制御装置は、前記室内機毎に前記膨張機構の開度を調節し、空調能力が余っていたら過熱度又は過冷却度を小さくし、空調能力が不足していたら過熱度又は過冷却度を大きくする、
請求項1から10のいずれか一項に記載の空調システム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記室外機及び複数の前記室内機からデータを取得し、かつ前記室外機及び複数の前記室内機に対してデータを与えられる集中コントローラである、
請求項1から11のいずれか一項に記載の空調システム。
【請求項13】
同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器(42,52,62)を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機(40,50,60)と、複数の前記利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器(23)を含む室外機(20)と、を備える空調システムの制御方法であって、
複数の前記室内機の前記設定温度を用いて複数の前記室内機に共通の代表温度関連値を算出し、前記代表温度関連値に基づいて複数の前記室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成され、
前記代表温度関連値の算出が、複数の前記室内機において各前記設定温度と各制御温度との差として得られる複数の温度差に基づいて行われる、空調システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源側熱交換器と複数の利用側熱交換器との間で冷媒を循環させる空調システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気調和装置などの空調システムでは、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒の熱交換を行なわせる熱源側熱交換器及び利用側熱交換器と、冷媒を減圧する減圧機構とを有する冷媒回路において冷媒を循環させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行なわれている。このような空調システムの中には、例えば会議場などの広い同一室内空間について全体を十分に空調するために、利用側熱交換器を含む室内機を同一室内空間に複数台配置するものがある。
【0003】
このように複数台の室内機を有する空調システム、例えば特許文献1(特開2011−257126号公報)に記載の空気調和装置においては、室外機と複数の室内機の運転を調整することによって、複数の室内機に能力不足を発生させることなく運転効率を向上させることが行なわれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、複数の室内機の個々に対する個別の制御も行なわれているため、運転状態によっては複数の室内機の中でサーモオンしているものとサーモオフしているものが混在する状況が発生する場合がある。このような場合に、個別の室内機では運転効率が高くても全体としては未だ運転効率を上げられる余地が残っているときがある。
【0005】
本発明の課題は、同一室内空間に複数の室内機を配置する空調システムにおいて、空調システム全体としての効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る空調システムは、同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機と、複数の利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器を含む室外機と、複数の室内機の設定温度を用いて複数の室内機に共通の代表温度関連値を算出し、代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置と、を備え、制御装置は、代表温度関連値を、複数の室内機において各設定温度と各制御温度との差として得られる複数の温度差に基づいて算出する
【0007】
第1観点の空調システムにおいては、共通の代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されているので、サーモオンしている室内機とサーモオフしている室内機が混在するのを避けることができる。このとき共通の代表温度関連値を用いているので、空調システム全体としての効率の改善も行なえる。
【0008】
本発明の第2観点に係る空調システムは、第1観点に係る空調システムにおいて、制御装置は、複数の室内機からの空調能力の増加要求のうち最も高い増加要求を満たすように室外機の運転条件を決定する、ものである。
【0009】
第2観点の空調システムにおいては、複数の室内機のうちの最も高い空調能力を要求されるものに応えて室外機を運転することができ、一部で空調能力が不足するのを防ぎながら空調システム全体としての効率を改善できる。
【0010】
本発明の第3観点に係る空調システムは、第2観点に係る空調システムにおいて、制御装置は、利用側熱交換器の要求蒸発温度又は要求凝縮温度を室内機毎に演算する要求温度演算部と、要求温度演算部において演算された複数の室内機の要求蒸発温度のうちの最小値に基づいて目標蒸発温度を決定し、又は要求温度演算部において演算された複数の室内機の要求凝縮温度のうちの最大値に基づいて目標凝縮温度を決定する目標値決定部とを有する、ものである。
【0011】
第3観点の空調システムにおいては、複数の室内機のうちの最も高い空調能力を要求されるものに応えて室外機の目標蒸発温度又は目標凝縮温度を決定することで、一部で空調能力が不足するのを防ぎながら空調システム全体としての効率を改善できる。
【0012】
本発明の第4観点に係る空調システムは、第1観点から第3観点のいずれかに係る空調システムにおいて、制御装置は、複数の室内機のそれぞれの制御温度と設定温度との差について室内空間の温熱環境への影響度及び室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を代表温度関連値として用いる、ものである。
【0013】
第4観点の空調システムにおいては、複数の室内機の制御温度と設定温度との差を平均するのではなくて加重平均することで、室内空間の温熱環境への影響度及び室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方について室内機毎の相違を反映させた制御を行なうことができる。
【0014】
本発明の第5観点に係る空調システムは、同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機と、複数の利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器を含む室外機と、複数の室内機の設定温度を用いて複数の室内機に共通の代表温度関連値を算出し、代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置と、を備え、制御装置は、複数の室内機のそれぞれの制御温度と設定温度との差について室内空間の温熱環境への影響度及び室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を代表温度関連値として用い、制御装置は、加重平均値が室内機毎の定格容量で重み付けされている、ものである。
【0015】
第5観点の空調システムにおいては、室内機の定格容量を使って室内空間の温熱環境への影響度に応じて重みをつけることができ、その時々の室内機毎の室内環境への影響度を反映できる。
【0016】
本発明の第6観点に係る空調システムは、同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機と、複数の利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器を含む室外機と、複数の室内機の設定温度を用いて複数の室内機に共通の代表温度関連値を算出し、代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置と、を備え、制御装置は、複数の室内機のそれぞれの制御温度と設定温度との差について室内空間の温熱環境への影響度及び室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を代表温度関連値として用い、制御装置は、加重平均値が室内機毎の空調能力で重み付けされている、ものである。
【0017】
第6観点の空調システムにおいては、室内機の空調能力を使って室内空間の温熱環境への影響度に応じて重みをつけることで、 高い空調能力を出している室内機の制御温度と設定温度との差に重きを置くことができ、その時々の室内機毎の室内環境への影響度を反映できる。
【0018】
本発明の第7観点に係る空調システムは、同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機と、複数の利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器を含む室外機と、複数の室内機の設定温度を用いて複数の室内機に共通の代表温度関連値を算出し、代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置と、を備え、制御装置は、複数の室内機のそれぞれの制御温度と設定温度との差について室内空間の温熱環境への影響度及び室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を代表温度関連値として用い、制御装置は、加重平均値が室内機毎の風量で重み付けされている、ものである。
【0019】
第7観点の空調システムにおいては、室内機の風量を使って室内空間の温熱環境への影響度に応じて重みをつけることで、 風量の大きい室内機の制御温度と設定温度との差に重きを置くことができ、その時々の室内機毎の室内環境への影響度を反映できる。
【0020】
本発明の第8観点に係る空調システムは、第4観点から第7観点のいずれかに係る空調システムにおいて、制御装置は、加重平均値が室内機毎の周辺の在席密度で重み付けされている、ものである。
【0021】
第8観点の空調システムにおいては、室内機の周辺の在席密度を使って在席者の快適性への影響度に応じて重みをつけることで、在席密度の高い室内機の制御温度と設定温度との差に重きを置くことができ、より多くの人が快適と感じる環境を提供し易くなる。
【0022】
本発明の第9観点に係る空調システムは、同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機と、複数の利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器を含む室外機と、複数の室内機の設定温度を用いて複数の室内機に共通の代表温度関連値を算出し、代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている制御装置と、を備え、制御装置は、複数の室内機のそれぞれの制御温度と設定温度との差について室内空間の温熱環境への影響度及び室内空間の在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方に応じて重み付けされた加重平均値を代表温度関連値として用い、制御装置は、加重平均値が室内機毎の重み設定値に応じて重み付けされている、ものである。
【0023】
第9観点の空調システムにおいては、室内機の重み設定値を使って在席者の快適性への影響度に応じて重みをつけることで、重み設定値の大きい室内機の制御温度と設定温度との差に重きを置くことができ、重み設定値を通じて在席者の個別の事情に対応した環境を提供し易くなり、在席者の快適性を向上させ易くなる。
【0024】
本発明の第10観点に係る空調システムは、第1観点から第9観点のいずれかに係る空調システムにおいて、複数の室内機は、それぞれ、利用側熱交換器に対する風量調整が可能な送風機をさらに含み、制御装置は、室内機毎に送風機を調節し、空調能力が余っていたら風量を減少させ、空調能力が不足していたら風量を増加させる、ものである。
【0025】
第10観点の空調システムにおいては、室内機毎に送風機の風量によって空調能力を自律的に調整して能力を適正化し、サーモオン条件の変更によって効率が悪化するのを抑制することができる。
【0026】
本発明の第11観点に係る空調システムは、第1観点から第10観点のいずれかに係る空調システムにおいて、複数の室内機は、それぞれ、利用側熱交換器の出口側の過熱度又は過冷却度を調整可能な膨張機構をさらに含み、制御装置は、室内機毎に膨張機構の開度を調節し、空調能力が余っていたら過熱度又は過冷却度を小さくし、空調能力が不足していたら過熱度又は過冷却度を大きくすることができる。
【0027】
第11観点の空調システムにおいては、室内機毎に膨張機構の開度を自律的に調整して能力を室内機毎に適正化し、サーモオン条件の変更によって効率が悪化するのを抑制することができる。
【0028】
本発明の第12観点に係る空調システムは、第1観点から第11観点のいずれかに係る空調システムにおいて、制御装置は、室外機及び複数の室内機からデータを取得し、かつ室外機及び複数の室内機に対してデータを与えられる集中コントローラである、ものである。
【0029】
第12観点の空調システムにおいては、室外機と複数の室内機を集中コントローラで一元的に管理することができ、空調システム全体の調和を取りやすくなる。
【0030】
本発明の第13観点に係る空調システムの制御方法は、同一室内空間に設置され、それぞれに利用側熱交換器を含み、個別に設定温度を設定可能な複数の室内機と、複数の利用側熱交換器に循環する冷媒の熱交換を行なう熱源側熱交換器を含む室外機と、を備える空調システムの制御方法であって、複数の室内機の設定温度を用いて複数の室内機に共通の代表温度関連値を算出し、代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成され、代表温度関連値の算出が、複数の室内機において各設定温度と各制御温度との差として得られる複数の温度差に基づいて行われる
【0031】
第13観点の空調システムの制御方法においては、空調システムが共通の代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されているので、サーモオンしている室内機とサーモオフしている室内機が混在するのを避けることができる。このとき共通の代表温度関連値を用いているので、空調システム全体としての効率の改善も行なえる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1観点に係る空調システム又は第13観点に係る空調システムの制御方法では、同一室内空間に複数の室内機を配置する空調システムにおける全体的な効率の改善が行える。
【0033】
第2観点の空調システムでは、十分な空調能力を維持しながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0034】
第3観点の空調システムでは、目標値決定部における目標蒸発温度又は目標凝縮温度の決定によって十分な空調能力を維持しながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0035】
第4観点の空調システムでは、温熱環境への影響度及び在席者の快適性への影響度のうちの少なくとも一方について室内機毎の相違を反映させながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0036】
第5観点の空調システムでは、室内機の定格容量を使って室内機毎の温熱環境への影響度の相違を反映させながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0037】
第6観点の空調システムでは、室内機の空調能力を使って室内機毎の温熱環境への影響度の相違を反映させながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0038】
第7観点の空調システムでは、室内機の風量を使って室内機毎の温熱環境への影響度の相違を反映させながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0039】
第8観点の空調システムでは、室内機の周辺の在席密度を使って多くの人が快適と感じる環境を提供しながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0040】
第9観点の空調システムでは、室内機の重み設定値を使って在席者の個別の事情に対応した環境を提供しながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0041】
第10観点の空調システムでは、室内機毎に送風機の風量によって自律的にサーモオン条件の変更による効率悪化を抑制しながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0042】
第11観点の空調システムでは、室内機毎に膨張機構の開度によって自律的にサーモオン条件の変更による効率悪化を抑制しながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【0043】
第12観点の空調システムでは、集中コントローラで空調システム全体の調和を取りながら空調システムの全体的な効率の改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施形態に係る空気調和装置の概略構成を示す回路図。
図2】空気調和装置の制御系統を説明するためのブロック図。
図3】冷房運転における省エネルギー制御の流れを示すフローチャート。
図4】暖房運転における省エネルギー制御の流れを示すフローチャート。
図5】平均温度制御の下での室内機の動作を説明するためのグラフ。
図6】サーモオフの判断とサーモオンの判断で異なる加重指標値を用いる冷房時の平均温度制御の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面に基づいて、本発明に係る空調システム及びその制御方法として空気調和装置及びその制御方法を例に挙げて説明する。
【0046】
(1)空気調和装置の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る空気調和装置の概略構成図である。空気調和装置10は、蒸気圧縮式の冷凍サイクル運転を行うことによって、ビル等の室内の冷暖房に使用される装置である。空気調和装置10は、主として、1台の熱源ユニットとしての室外機20と、それに並列に接続された複数台(本実施形態では、3台)の利用ユニットとしての室内機40,50,60と、室外機20と室内機40,50,60とを接続する冷媒連絡管としての液冷媒連絡管71及びガス冷媒連絡管72とを備えている。すなわち、本実施形態の空気調和装置10の蒸気圧縮式の冷媒回路11は、室外機20と、室内機40,50,60と、液冷媒連絡管71及びガス冷媒連絡管72とが接続されることによって構成されている。
【0047】
(1−1)室内機
室内機40,50,60は、ビル等の室内の天井に埋め込みや吊り下げ等により、または、室内の壁面に壁掛け等により例えば会議室などの一つの部屋1に設置されている。室内機40,50,60は、液冷媒連絡管71及びガス冷媒連絡管72を介して室外機20に接続されており、冷媒回路11の一部を構成している。
【0048】
次に、室内機40,50,60の構成について説明する。なお、室内機40と室内機50、60とは同様の構成であるため、ここでは、室内機40の構成のみについて説明し、室内機50、60の構成については、それぞれ、室内機40の各部を示す40番台の符号の代わりに50番台または60番台の符号を付して、各部の説明を省略する。
【0049】
室内機40は、主として、冷媒回路11の一部を構成する室内側冷媒回路11a(室内機50では室内側冷媒回路11b、室内機60では室内側冷媒回路11c)を有している。この室内側冷媒回路11aは、主として、膨張機構としての室内膨張弁41と、利用側熱交換器としての室内熱交換器42とを有している。なお、本実施形態では、膨張機構として室内機40,50,60それぞれに室内膨張弁41,51,61を設けているが、これに限らずに、膨張機構(膨張弁を含む)を室外機20に設けてもよいし、室内機40,50,60や室外機20とは独立した接続ユニットに設けてもよい。
【0050】
室内膨張弁41は、室内側冷媒回路11a内を流れる冷媒の流量の調節等を行うために、室内熱交換器42の液側に接続された電動膨張弁であり、冷媒の通過を遮断することも可能である。
【0051】
室内熱交換器42は、例えば伝熱管と多数のフィンとにより構成されたクロスフィン式のフィン・アンド・チューブ型熱交換器であり、冷房運転時には冷媒の蒸発器として機能して室内空気を冷却し、暖房運転時には冷媒の凝縮器として機能して室内空気を加熱する熱交換器である。
【0052】
室内機40は、ユニット内に室内空気を吸入して、室内熱交換器42において冷媒と熱交換させた後に、熱交換後の室内空気を供給空気として室内に供給するための送風機としての室内ファン43を有している。室内ファン43は、室内熱交換器42に供給する空気の風量を所定風量範囲において可変することが可能なファンであり、例えばDCファンモータ等からなるモータ43mによって駆動される遠心ファンや多翼ファン等である。この室内ファン43では、風量が最も小さい弱風、風量が最も大きい強風、及び弱風と強風との中間程度の中風の3種類の固定風量に設定する風量固定モードと、過熱度SHや過冷却度SCなどに応じて弱風から強風までの間において自動的に風量を変更する風量自動モードと、リモートコントローラ等の入力装置によって手動で変更する風量設定モードのいずれかを選択して設定することができる。すなわち、利用者が例えばリモートコントローラを使って「弱風」、「中風」及び「強風」のいずれかを選択した場合には、弱風で固定される風量固定モードとなり、「自動」を選択した場合には、運転状態に応じて自動的に風量が変更される風量自動モードとなる。なお、ここでは、室内ファン43の風量のファンタップが「弱風」、「中風」及び「強風」の3段階で切り換えられる構成を説明している。また、室内ファン43の風量である室内ファン風量Gaは、例えばモータ43mの回転数をパラメータとする演算から導くことができる。そのほかに、室内ファン風量Gaは、モータ43mの電流値に基づく演算から導く方法や、設定されているファンタップに基づく演算から導く方法などがある。
【0053】
また、室内機40には、各種のセンサが設けられている。室内熱交換器42の液側には、冷媒の温度(すなわち、暖房運転時における凝縮温度Tcまたは冷房運転時における蒸発温度Teに対応する冷媒温度)を検出する液側温度センサ44が設けられている。室内熱交換器42のガス側には、冷媒の温度を検出するガス側温度センサ45が設けられている。室内機40の室内空気の吸入口側には、ユニット内に流入する室内空気の温度(すなわち、室内温度Tr)を検出する室内温度センサ46が設けられている。液側温度センサ44、ガス側温度センサ45及び室内温度センサ46には、例えばサーミスタを用いることができる。また、室内機40は、室内機40を構成する各部の動作を制御する室内側制御装置47を有している。室内側制御装置47は、室内機40における現在の空調能力等を演算する空調能力演算部47aと、現在の空調能力に基づいてその能力を発揮するのに必要な要求蒸発温度Terまたは要求凝縮温度Tcrを演算する要求温度演算部47bとを有する(図2参照)。そして、室内側制御装置47は、室内機40の制御を行うために設けられたマイクロコンピュータ(図示せず)やメモリ47c等を有しており、室内機40を個別に操作するためのリモートコントローラ(図示せず)との間で制御信号等のやりとりを行ったり、室外機20との間で伝送線80aを介して制御信号等のやりとりを行ったりすることができるようになっている。
【0054】
(1−2)室外機
室外機20は、ビル等の室外に設置されており、液冷媒連絡管71及びガス冷媒連絡管72を介して室内機40,50,60に接続されており、室内機40,50,60とともに冷媒回路11を構成している。
【0055】
次に、室外機20の構成について説明する。室外機20は、主として、冷媒回路11の一部を構成する室外側冷媒回路11dを有している。この室外側冷媒回路11dは、主として、圧縮機21と、四路切換弁22と、熱源側熱交換器としての室外熱交換器23と、膨張機構としての室外膨張弁38と、アキュムレータ24と、液側閉鎖弁26と、ガス側閉鎖弁27とを有している。
【0056】
圧縮機21は、運転容量を可変することが可能な圧縮機であり、インバータにより回転数が制御されるモータ21mによって駆動される容積式圧縮機である。なお、ここに示されている室外機20が有する圧縮機21は、1台であるが、室内機の接続台数が多い場合などには、圧縮機の台数を2台以上とすることもできる。
【0057】
四路切換弁22は、冷媒の流れの方向を切り換えるための弁である。四路切換弁22は、冷房運転時には、圧縮機21によって圧縮される冷媒の凝縮器として室外熱交換器23を機能させ、かつ、室外熱交換器23において凝縮される冷媒の蒸発器として室内熱交換器42,52,62を機能させるために、圧縮機21の吐出側と室外熱交換器23のガス側とを接続するとともに圧縮機21の吸入側(具体的には、アキュムレータ24)とガス冷媒連絡管72側とを接続する(冷房運転状態:図1の四路切換弁22の実線を参照)。一方、暖房運転時に四路切換弁22は、圧縮機21によって圧縮される冷媒の凝縮器として室内熱交換器42,52,62を機能させ、かつ、室内熱交換器42,52,62において凝縮される冷媒の蒸発器として室外熱交換器23を機能させるために、圧縮機21の吐出側とガス冷媒連絡管72側とを接続するとともに圧縮機21の吸入側と室外熱交換器23のガス側とを接続することが可能である(暖房運転状態:図1の四路切換弁22の破線を参照)。
【0058】
室外熱交換器23は、例えばクロスフィン式のフィン・アンド・チューブ型熱交換器であり、空気を熱源とするために空気と冷媒との間の熱交換をさせるための機器である。室外熱交換器23は、冷房運転時には冷媒の凝縮器として機能し、暖房運転時には冷媒の蒸発器として機能する熱交換器である。室外熱交換器23は、そのガス側が四路切換弁22に接続され、その液側が室外膨張弁38に接続されている。
【0059】
室外膨張弁38は、室外側冷媒回路11d内を流れる冷媒の圧力や流量等の調節を行うために、冷房運転を行う際の冷媒回路11における冷媒の流れ方向において室外熱交換器23の下流側に配置された電動膨張弁である。つまり、室外膨張弁38は、室外熱交換器23の液側に接続されている。
【0060】
室外機20は、ユニット内に室外空気を吸入して、室外熱交換器23において冷媒と熱交換させた後に、室外に排出するための送風機としての室外ファン28を有している。この室外ファン28は、室外熱交換器23に供給する空気の風量を可変することが可能なファンであり、例えばDCファンモータ等からなるモータ28mによって駆動されるプロペラファン等である。
【0061】
液側閉鎖弁26及びガス側閉鎖弁27は、液冷媒連絡管71及びガス冷媒連絡管72との接続口に設けられた弁である。液側閉鎖弁26は、冷房運転を行う際の冷媒回路11における冷媒の流れ方向において室外膨張弁38の下流側であって液冷媒連絡管71の上流側に配置されており、冷媒の通過を遮断することが可能である。ガス側閉鎖弁27は、四路切換弁22に接続されており、冷媒の通過を遮断することが可能である。
【0062】
また、室外機20には、圧縮機21の吸入圧力(すなわち、冷房運転時における蒸発圧力Peに対応する冷媒圧力)を検出する吸入圧力センサ29と、圧縮機21の吐出圧力(すなわち、暖房運転時における凝縮圧力Pcに対応する冷媒圧力)を検出する吐出圧力センサ30と、圧縮機21の吸入温度を検出する吸入温度センサ31と、圧縮機21の吐出温度を検出する吐出温度センサ32とが設けられている。室外機20の室外空気の吸入口側には、ユニット内に流入する室外空気の温度(すなわち、室外温度)を検出する室外温度センサ36が設けられている。吸入温度センサ31、吐出温度センサ32、及び室外温度センサ36には、例えばサーミスタを用いることができる。また、室外機20は、室外機20を構成する各部の動作を制御する室外側制御装置37を有している。室外側制御装置37は、図2に示すように、圧縮機21の運転容量を制御するための目標蒸発温度Tetまたは目標凝縮温度Tct(又は目標蒸発温度差ΔTetまたは目標凝縮温度差ΔTct)を決定する目標値決定部37aを有する。そして、室外側制御装置37は、室外機20の制御を行うために設けられたマイクロコンピュータ(図示せず)、メモリ37bやモータ21mを制御するインバータ回路等を有しており、室内機40,50,60の室内側制御装置47,57,67との間で伝送線80aを介して制御信号等のやりとりを行うことができるようになっている。すなわち、室内側制御装置47,57,67と室外側制御装置37とそれらの間を接続する伝送線80aとによって、空気調和装置10全体の運転制御を行う運転制御装置80が構成されている。
【0063】
運転制御装置80は、図2に示されているように、吸入圧力センサ29、吐出圧力センサ30、吸入温度センサ31、吐出温度センサ32、室外温度センサ36、液側温度センサ44,54,64、ガス側温度センサ45,55,65及び室内温度センサ46,56,66の検出信号を受けることができるように接続されている。また、運転制御装置80は、これらの検出信号等に基づいて室外機20及び室内機40,50,60を制御することができるように圧縮機21、四路切換弁22、室外ファン28、室外膨張弁38、室内膨張弁、41,51,61及び室内ファン43,53,63などに接続されている。さらに、運転制御装置80を構成するメモリ37b、47c,57c,67cには、空気調和装置10を制御するための各種データが格納されている。
【0064】
(1−3)冷媒連絡管
冷媒連絡管71、72は、空気調和装置10をビル等の設置場所に設置する際に、現地にて施工される冷媒管であり、設置場所や室外機と室内機との機種の組み合わせ等の設置条件に応じて種々の長さや管径を有するものが使用される。例えば、新規に空気調和装置10をビルなどに設置する場合には、空気調和装置10に対して、冷媒連絡管71、72の長さや管径等の設置条件に応じた適正な量の冷媒が充填される。
【0065】
以上のように、室内側冷媒回路11a、11b、11cと、室外側冷媒回路11dと、冷媒連絡管71,72とが接続されて、空気調和装置10の冷媒回路11が構成されている。そして、空気調和装置10は、室内側制御装置47,57,67と室外側制御装置37とから構成される運転制御装置80によって、四路切換弁22により冷房運転及び暖房運転を切り換えて運転を行うとともに、各室内機40,50,60の運転負荷に応じて、室外機20及び室内機40,50,60の各機器の制御を行うようになっている。
【0066】
(2)空気調和装置の動作
空気調和装置10は、冷房運転及び暖房運転において、利用者がリモートコントローラ等の入力装置により、それぞれの室内機40,50,60に個別に設定している設定温度Ts1、Ts2,Ts3に室内温度Tr1、Tr2,Tr3を近づける室内温度制御を、各室内機40,50,60に対して行っている。この室内温度制御では、室内ファン43,53,63が風量自動モードに設定されている場合には、設定温度Ts1に室内温度Tr1が収束するように室内ファン43の風量及び室内膨張弁41の開度が調整され、設定温度Ts2に室内温度Tr2が収束するように室内ファン53の風量及び室内膨張弁51の開度が調整され、設定温度Ts3に室内温度Tr3が収束するように室内ファン63の風量及び室内膨張弁61の開度が調整される。
【0067】
また、室内ファン43,53,63が風量固定モードに設定されている場合には、設定温度Ts1に室内温度Tr1が収束するように室内膨張弁41の開度が調整され、設定温度Ts2に室内温度Tr2が収束するように室内膨張弁51の開度が調整され、設定温度Ts3に室内温度Tr3が収束するように、室内膨張弁61の開度が調整される。なお、室内膨張弁41,51,61の開度の調整によって制御されるのは、冷房運転の場合には各室内熱交換器42,52,62の出口の過熱度であり、暖房運転の場合には各室内熱交換器42,52,62の出口の過冷却度である。
【0068】
(2−1)冷房運転
まず、冷房運転について、図1を用いて説明する。
【0069】
冷房運転時は、四路切換弁22が図1の実線で示される状態、すなわち、圧縮機21の吐出側が室外熱交換器23のガス側に接続され、かつ、圧縮機21の吸入側がガス側閉鎖弁27及びガス冷媒連絡管72を介して室内熱交換器42,52,62のガス側に接続された状態となっている。ここで、室外膨張弁38は、全開状態にされている。液側閉鎖弁26及びガス側閉鎖弁27は、開状態にされている。室内膨張弁41は、室内熱交換器42の出口(すなわち、室内熱交換器42のガス側)における冷媒の過熱度SH1が目標過熱度SHt1になるように開度が調節され、室内膨張弁51は、室内熱交換器52の出口(すなわち、室内熱交換器52のガス側)における冷媒の過熱度SH2が目標過熱度SHt2で一定になるように開度が調節され、室内膨張弁61は、室内熱交換器62の出口(すなわち、室内熱交換器62のガス側)における冷媒の過熱度SH3が目標過熱度SHt3になるように開度が調節されるようになっている。
【0070】
なお、目標過熱度SHt1,SHt2,SHt3は、所定の過熱度範囲の内で室内温度Tr1,Tr2,Tr3が設定温度Ts1,Ts2,Ts3に収束するために最適な温度値に設定される。各室内熱交換器42,52,62の出口における冷媒の過熱度SH1,SH2,SH3は、各ガス側温度センサ45,55,65により検出される冷媒温度値から各液側温度センサ44,54,64により検出される冷媒温度値(蒸発温度Teに対応)を差し引くことによってそれぞれ検出される。ただし、各室内熱交換器42,52,62の出口における冷媒の過熱度SH1、SH2,SH3は、上述の方法で検出することに限らずに、吸入圧力センサ29により検出される圧縮機21の吸入圧力を蒸発温度Teに対応する飽和温度値に換算し、各ガス側温度センサ45,55,65により検出される冷媒温度値からこの冷媒の飽和温度値を差し引くことによって検出してもよい。
【0071】
なお、本実施形態では採用していないが、各室内熱交換器42,52,62内を流れる冷媒の温度を検出する温度センサを設けて、この温度センサにより検出される蒸発温度Teに対応する冷媒温度値を、ガス側温度センサ45,55,65により検出される冷媒温度値から差し引くことによって、各室内熱交換器42,52,62の出口における冷媒の過熱度SH1,SH2,SH3をそれぞれ検出するようにしてもよい。
【0072】
この冷媒回路11の状態で、圧縮機21、室外ファン28及び室内ファン43,53,63を運転すると、低圧のガス冷媒は、圧縮機21に吸入されて圧縮されて高圧のガス冷媒となる。その後、高圧のガス冷媒は、四路切換弁22を経由して室外熱交換器23に送られて、室外ファン28によって供給される室外空気と熱交換を行って凝縮して高圧の液冷媒となる。そして、この高圧の液冷媒は、液側閉鎖弁26及び液冷媒連絡管71を経由して、室内機40,50,60に送られる。
【0073】
この室内機40,50,60に送られた高圧の液冷媒は、室内膨張弁41,51,61によってそれぞれ圧縮機21の吸入圧力近くまで減圧されて低圧の気液二相状態の冷媒となって室内熱交換器42,52,62に送られ、室内熱交換器42,52,62においてそれぞれ室内空気と熱交換を行って蒸発して低圧のガス冷媒となる。
【0074】
この低圧のガス冷媒は、ガス冷媒連絡管72を経由して室外機20に送られ、ガス側閉鎖弁27及び四路切換弁22を経由して、アキュムレータ24に流入する。そして、アキュムレータ24に流入した低圧のガス冷媒は、再び、圧縮機21に吸入される。このように、空気調和装置10では、室外熱交換器23を圧縮機21において圧縮される冷媒の凝縮器として、かつ、室内熱交換器42,52,62を室外熱交換器23において凝縮された後に液冷媒連絡管71及び室内膨張弁41,51,61を通じて送られる冷媒の蒸発器としてそれぞれ機能させる冷房運転を行うことが可能である。なお、空気調和装置10では、室内熱交換器42,52,62のガス側に冷媒の圧力を調整する機構が室内機40,50,60のそれぞれにないため、全ての室内熱交換器42,52,62における蒸発圧力Peが共通の圧力となる。
【0075】
空気調和装置10では、この冷房運転において、省エネルギー制御が行われている。以下、図3のフローチャートに基づいて、冷房運転における省エネルギー制御について説明する。
【0076】
まずステップS11において、各室内機40,50,60の室内側制御装置47,57,67の空調能力演算部47a,57a,67aが、その時点における、室内温度Tr1、Tr2,Tr3と蒸発温度Teとの温度差である温度差ΔTer1,ΔTer2,ΔTer3と、室内ファン43,53,63による室内ファン風量Ga1,Ga2,Ga3と、過熱度SH1,SH2,SH3とに基づいて、室内機40,50,60における空調能力Q11,Q12,Q13をそれぞれ演算する。演算された空調能力Q11,Q12,Q13は、室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。なお、空調能力Q11,Q12,Q13は、温度差ΔTer1,ΔTer2,ΔTer3の代わりに蒸発温度Teを採用して演算してもよい。
【0077】
ステップS12では、空調能力演算部47a,57a,67aが、室内温度センサ46,56,66がそれぞれ検出する室内温度Tr1,Tr2,Tr3と、その時に利用者がリモートコントローラ等により設定している設定温度Ts1,Ts2,Ts3との温度差ΔT1,ΔT2,ΔT3とに基づいて室内空間の空調能力の変位ΔQ1,ΔQ2,ΔQ3をそれぞれ演算し、空調能力Q11,Q12,Q13に加えることにより、要求能力Q21,Q22,Q23をそれぞれ演算する。演算された要求能力Q21,Q22,Q23は、室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。
【0078】
そして、図3には図示しないが、上述のように、各室内機40,50,60においては、室内ファン43,53,63が風量自動モードに設定されている場合には、要求能力Q21,Q22,Q23に基づいて、設定温度Ts1,Ts2,Ts3に、室内温度Tr1,Tr2,Tr3がそれぞれ収束するように、各室内ファン43,53,63の風量及び各室内膨張弁41,51,61の開度を調整する室内温度制御が行われている。また、室内ファン43,53,63が風量固定モードに設定されている場合には、要求能力Q21,Q22,Q23に基づいて、設定温度Ts1,Ts2,Ts3に、室内温度Tr1,Tr2,Tr3がそれぞれ収束するように、各室内膨張弁41,51,61の開度を調整する室内温度制御が行われている。
【0079】
すなわち、室内温度制御によって、各室内機40,50,60の空調能力は、上述の空調能力Q11,Q12,Q13と要求能力Q21,Q22,Q23との間にそれぞれ維持され続けることになる。実質的には、室内熱交換器42,52,62の熱交換量に相当するものは、室内機40,50,60の空調能力Q11,Q12,Q13と要求能力Q21,Q22,Q23の間にある。したがって、運転開始から十分な時間が経過してほぼ定常状態に達しているときの省エネルギー制御においては、室内機40,50,60の空調能力Q11,Q12,Q13や要求能力Q21,Q22,Q23は、現在の室内熱交換器42,52,62の熱交換量にほぼ相当するものである。
【0080】
ステップS13では、各室内ファン43,53,63のリモートコントローラにおける風量設定モードが風量自動モードになっているか風量固定モードになっているかを確認する。各室内ファン43,53,63の風量設定モードが、風量自動モードになっている場合にはステップS14へ移行し、風量固定モードになっている場合にはステップS15へ移行する。
【0081】
ステップS14では、要求温度演算部47b,57b,67bが、要求能力Q21,Q22,Q23、各室内ファン43,53,63の風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3(「強風」における風量)、及び過熱度最小値SHmin1,SHmin2,SHmin3に基づいて、各室内機40,50,60の要求蒸発温度Ter1,Ter2,Ter3をそれぞれ演算する。要求温度演算部47b,57b,67bはさらに、要求蒸発温度Ter1,Ter2,Ter3からその時に液側温度センサ44,54,64により検出される蒸発温度Te1,Te2,Te3を減算した蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3をそれぞれ演算する。なお、ここに言う「過熱度最小値SHmin」とは、室内膨張弁41,51,61の開度調整による過熱度設定可能範囲の内の最小値であり、機種によりそれぞれの値SHmin1,SHmin2,SHmin3が設定され、設定値が互いに異なることもあり、設定値が互いに同じこともある。また、各室内機40,50,60において、各室内ファン43,53,63の風量や過熱度を風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3及び過熱度最小値SHmin1,SHmin2,SHmin3にすると、現在が風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3及び過熱度最小値SHmin1,SHmin2,SHmin3でなければ、現在よりも大きい室内熱交換器42,52,62の熱交換量を発揮させる状態を作り出すことができるため、風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3及び過熱度最小値SHmin1,SHmin2,SHmin3という運転状態量は、現在よりも大きい室内熱交換器42,52,62の熱交換量を発揮させる状態を作り出すことができる運転状態量を意味する。そして、演算された蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3は室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。
【0082】
ステップS15では、要求温度演算部47b,57b,67bが、要求能力Q21,Q22,Q23、各室内ファン43,53,63の固定風量Ga1,Ga2,Ga3(例えば「中風」における風量)、及び過熱度最小値SHmin1,SHmin2,SHmin3に基づいて、各室内機40,50,60の要求蒸発温度Ter1,Ter2,Ter3をそれぞれ演算する。要求温度演算部47b,57b,67bはさらに、要求蒸発温度Ter1,Ter2,Ter3からその時に液側温度センサ44,54,64により検出される蒸発温度Teを減算した蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3をそれぞれ演算する。演算された蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3は室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。このステップS15では、風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3ではなく固定風量Ga1,Ga2,Ga3が採用されるが、これは利用者が設定した風量を優先するためであり、利用者が設定している範囲においての風量最大値として認識することになる。
【0083】
ステップS16では、ステップS14及びステップS15において室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶された蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3が室外側制御装置37に送信され、室外側制御装置37のメモリ37bに記憶される。そして、室外側制御装置37の目標値決定部37aが蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3の内で最小の最小蒸発温度差ΔTeminを目標蒸発温度差ΔTetとして決定する。例えば、各室内機40,50,60の蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3が1℃、0℃、−2℃の場合、ΔTeminは、−2℃である。
【0084】
ステップS17では、ΔTeminで更新された新たな目標蒸発温度Tetに近づくように圧縮機21の運転容量が制御される。このように、目標蒸発温度差ΔTetに基づいて圧縮機21の運転容量が制御される結果として、目標蒸発温度差ΔTetとして採用された最小蒸発温度差ΔTeminを演算した室内機(ここでは、仮に室内機40とする)では、室内ファン43が風量自動モードに設定されている場合には風量最大値GaMAX1となるように調整されることになり、室内熱交換器42の出口の過熱度SHが最小値SHmin1となるように室内膨張弁41が調整されることになる。
【0085】
なお、ステップS11の空調能力Q11,Q12,Q13の演算、及び、ステップS14またはステップS15において行なわれる蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3,の演算には、室内機40,50,60毎の空調(要求)能力Q11,Q12,Q13(Q21,Q22,Q23)、風量Ga1,Ga2,Ga3、過熱度SH1,SH2,SH3、及び温度差ΔTer1,ΔTer2,ΔTer3の関係を考慮した室内機40,50,60毎に異なる冷房用熱交関数がそれぞれ用いられる。この冷房用熱交関数は、各室内熱交換器42,52,62の特性を表す空調(要求)能力Q11,Q12,Q13(Q21,Q22,Q23)、風量Ga1,Ga2,Ga3、過熱度SH1,SH2,SH3、及び温度差ΔTer1,ΔTer2,ΔTer3が関連づけられた関係式であり、室内機40,50,60の室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶されている。そして、空調(要求)能力Q11,Q12,Q13(Q21,Q22,Q23)、風量Ga1,Ga2,Ga3、過熱度SH1,SH2,SH3、及び温度差ΔTer1,ΔTer2,ΔTer3の内の1つの変数は、その他の3つの変数を冷房用熱交関数に入力することによりそれぞれ求められることになる。これにより、蒸発温度差ΔTe1,ΔTe2,ΔTe3を精度よく適正な値とすることができ、正確に目標蒸発温度差ΔTetを求めることができる。このため、蒸発温度Teの上げすぎを防止することができる。したがって、各室内機40,50,60の空調能力の過不足を防ぎつつ、室内機40,50,60の最適な状態を素早く安定的に実現でき、省エネルギー効果をより発揮させることができる。
【0086】
なお、このフローにおいて目標蒸発温度差ΔTetに基づいて目標蒸発温度Tetを更新して圧縮機21の運転容量を制御しているが、目標蒸発温度差ΔTetに限らずに、各室内機40,50,60において演算された要求蒸発温度Terの最小値を目標蒸発温度Tetとして目標値決定部37aが決定し、決定された目標蒸発温度Tetに基づいて圧縮機21の運転容量を制御してもよい。
【0087】
(2−2)暖房運転
次に、暖房運転について、図1を用いて説明する。
【0088】
暖房運転時は、四路切換弁22が図1の破線で示される状態(暖房運転状態)、すなわち、圧縮機21の吐出側がガス側閉鎖弁27及びガス冷媒連絡管72を介して室内熱交換器42,52,62のガス側に接続され、かつ、圧縮機21の吸入側が室外熱交換器23のガス側に接続された状態となっている。室外膨張弁38は、室外熱交換器23に流入する冷媒を室外熱交換器23において蒸発させることが可能な圧力(すなわち、蒸発圧力Pe)まで減圧するために開度が調節されるようになっている。また、液側閉鎖弁26及びガス側閉鎖弁27は、開状態にされている。室内膨張弁41,51,61は、室内熱交換器42,52,62の出口における冷媒の過冷却度SC1,SC2,SC3がそれぞれ目標過冷却度SCt1,SCt2,SCt3になるように開度が調節されるようになっている。なお、目標過冷却度SCt1,SCt2,SCt3は、その時の運転状態に応じて特定される過冷却度範囲の内で室内温度Tr1,Tr2,Tr3が設定温度Ts1,Ts2,Ts3に収束するために最適な温度値に設定される。室内熱交換器42,52,62の出口における冷媒の過冷却度SC1,SC2,SC3は、吐出圧力センサ30により検出される圧縮機21の吐出圧力Pdを凝縮温度Tcに対応する飽和温度値に換算し、この冷媒の飽和温度値から液側温度センサ44,54,64により検出される冷媒温度値を差し引くことによってそれぞれ検出される。
【0089】
なお、本実施形態では採用していないが各室内熱交換器42,52,62内を流れる冷媒の温度を検出する温度センサを設けて、この温度センサにより検出される凝縮温度Tcに対応する冷媒温度値を、液側温度センサ44,54,64により検出される冷媒温度値から差し引くことによって室内熱交換器42,52,62の出口における冷媒の過冷却度SC1,SC2,SC3をそれぞれ検出するようにしてもよい。
【0090】
この冷媒回路11の状態で、圧縮機21、室外ファン28及び室内ファン43,53,63を運転すると、低圧のガス冷媒は、圧縮機21に吸入されて圧縮されて高圧のガス冷媒となり、四路切換弁22、ガス側閉鎖弁27及びガス冷媒連絡管72を経由して、室内機40,50,60に送られる。
【0091】
そして、室内機40,50,60に送られた高圧のガス冷媒は、室内熱交換器42,52,62において、室内空気と熱交換を行って凝縮して高圧の液冷媒となった後、室内膨張弁41,51,61を通過する際に、室内膨張弁41,51,61の弁開度に応じて減圧される。
【0092】
この室内膨張弁41,51,61を通過した冷媒は、液冷媒連絡管71を経由して室外機20に送られ、液側閉鎖弁26及び室外膨張弁38を経由してさらに減圧された後に、室外熱交換器23に流入する。室外熱交換器23に流入した低圧の気液二相状態の冷媒は、室外ファン28によって供給される室外空気と熱交換を行って蒸発して低圧のガス冷媒となり、四路切換弁22を経由してアキュムレータ24に流入する。そして、アキュムレータ24に流入した低圧のガス冷媒は、再び、圧縮機21に吸入される。なお、空気調和装置10では、室内熱交換器42,52,62のガス側に冷媒の圧力を調整する機構がないため、全ての室内熱交換器42,52,62における凝縮圧力Pcが共通の圧力となる。
【0093】
空気調和装置10では、この暖房運転において、省エネルギー制御が行われている。以下、図4のフローチャートに基づいて、暖房運転における省エネルギー制御について説明する。
【0094】
まずステップS21において、各室内機40,50,60の室内側制御装置47,57,67の空調能力演算部47a,57a,67aが、その時点における、室内温度Tr1,Tr2,Tr3と凝縮温度Tcとの温度差である温度差ΔTcr1,ΔTcr2,ΔTcr3と、室内ファン43,53,63による室内ファン風量Ga1,Ga2,Ga3と、過冷却度SC1,SC2,SC3とに基づいて、現在の室内機40,50,60における空調能力Q31,Q32,Q33を演算する。演算された空調能力Q31、Q32,Q33は、室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。なお、空調能力Q31,Q32,Q33は、温度差ΔTcr1,ΔTcr2,ΔTcr3の代わりに凝縮温度Tcを採用して演算してもよい。
【0095】
ステップS22では、空調能力演算部47a,57a,67aが、室内温度センサ46,56,66がそれぞれ検出する室内温度Tr1,Tr2,Tr3と、その時に利用者がリモートコントローラ等により設定している設定温度Ts1,Ts2,Ts3との温度差ΔT1,ΔT2,ΔT3とに基づいて室内空間の空調能力の変位ΔQ1,ΔQ2,ΔQ3をそれぞれ演算し、空調能力Q31,Q32,Q33に加えることにより要求能力Q41,Q42,Q43をそれぞれ演算する。演算された要求能力Q41,Q42,Q43は、室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。そして、図4には図示しないが、上述のように、各室内機40,50,60においては、室内ファン43,53,63が風量自動モードに設定されている場合には、要求能力Q41,Q42,Q43に基づいて、設定温度Ts1,Ts2,Ts3に、室内温度Tr1,Tr2,Tr3が収束するように、各室内ファン43,53,63の風量及び各室内膨張弁41,51,61の開度を調整する室内温度制御が行われている。また、室内ファン43,53,63が風量固定モードに設定されている場合には、要求能力Q41,Q42,Q43に基づいて、設定温度Ts1,Ts2,Ts3に、室内温度Tr1,Tr2,Tr3が収束するように、各室内膨張弁41,51,61の開度をそれぞれ調整する室内温度制御が行われている。
【0096】
すなわち、室内温度制御によって、各室内機40,50,60の空調能力は、上述の空調能力Q31,Q32,Q33と要求能力Q41,Q42,Q43との間に維持され続けることになる。実質的には、室内熱交換器42,52,62の熱交換量は、室内機40,50,60の空調能力Q31,Q32,Q33と要求能力Q41,Q42,Q43との間にある。したがって、運転開始から十分な時間が経過してほぼ定常状態に達しているときの省エネルギー制御においては、室内機40,50,60の空調能力Q31,Q32,Q33や要求能力Q41,Q42,Q43は、現在の室内熱交換器42,52,62の熱交換量にほぼ相当するものである。
【0097】
ステップS23では、各室内ファン43,53,63のリモートコントローラにおける風量設定モードが風量自動モードになっているか風量固定モードになっているかを確認する。各室内ファン43,53,63の風量設定モードが、風量自動モードになっている場合にはステップS24へ移行し、風量固定モードになっている場合にはステップS25へ移行する。
【0098】
ステップS24では、要求温度演算部47b,57b,67bが、要求能力Q41,Q42,Q43、各室内ファン43,53,63の風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3(「強風」における風量)、及び過冷却度最小値SCmin1,SCmin2,SCmin3に基づいて、各室内機40,50,60の要求凝縮温度Tcr1,Tcr2,Tcr3をそれぞれ演算する。要求温度演算部47b,57b,67bはさらに、要求凝縮温度Tcr1,Tcr2,Tcr3からその時に液側温度センサ44,54,64により検出される凝縮温度Tc1,Tc2,Tc3を減算した凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3をそれぞれ演算する。なお、ここに言う「過冷却度最小値SCmin」とは、室内膨張弁41,51,61の開度調整による過冷却度設定可能範囲の内の最小値であり、機種によりそれぞれの値SCmin1,SCmin2,SCmin3が設定される。また、各室内機40,50,60において、各室内ファン43,53,63の風量や過熱度を風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3及び過冷却度最小値SCmin1,SCmin2,SCmin3にすると、現在が風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3及び過冷却度最小値SCmin1,SCmin2,SCmin3でなければ、現在よりも大きい室内熱交換器42,52,62の熱交換量を発揮させる状態を作り出すことができるため、風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3及び過冷却度最小値SCmin1,SCmin2,SCmin3という運転状態量は、現在よりも大きい室内熱交換器42,52,62の熱交換量を発揮させる状態を作り出すことができる運転状態量を意味する。そして、演算された凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3は室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。
【0099】
ステップS25では、要求温度演算部47b,57b,67bが、要求能力Q41、Q42,Q43、各室内ファン43,53,63の固定風量Ga1、Ga2,Ga3(例えば「中風」における風量)、及び過冷却度最小値SCmin1,SCmin2,SCmin3に基づいて、各室内機40,50,60の要求凝縮温度Tcr1,Tcr2,Tcr3をそれぞれ演算する。要求温度演算部47b,57b,67bはさらに、要求凝縮温度Tcr1,Tcr2,Tcr3からその時に液側温度センサ44,54,64により検出される凝縮温度Tc1,Tc2,Tc3を減算した凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3をそれぞれ演算する。演算された凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3は室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶される。このステップS25では、風量最大値GaMAX1,GaMAX2,GaMAX3ではなく固定風量Ga1,Ga2,Ga3が採用されるが、これは利用者が設定した風量を優先するためであり、利用者が設定している風量の範囲においての最大値として認識することになる。
【0100】
ステップS26では、ステップS24及びステップS25において室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶された凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3が室外側制御装置37に送信され、室外側制御装置37のメモリ37bに記憶される。そして、室外側制御装置37の目標値決定部37aが凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3の内で最大の最大凝縮温度差ΔTcMAXを目標凝縮温度差ΔTctとして決定する。例えば、各室内機40,50,60の凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3が1℃、0℃、−2℃の場合、ΔTcMAXは、1℃である。
【0101】
ステップS27では、目標凝縮温度差ΔTctに基づいて、圧縮機21の運転容量が制御される。このように、目標凝縮温度差ΔTctに基づいて圧縮機21の運転容量が制御される結果として、目標凝縮温度差ΔTctとして採用された最大凝縮温度差ΔTcMAXを演算した室内機(ここでは、仮に室内機40とする)では、室内ファン43が風量自動モードに設定されている場合には風量最大値GaMAX1となるように調整されることになり、室内熱交換器42の出口の過冷却度SCが最小値SCmin1となるように室内膨張弁41が調整されることになる。
【0102】
なお、ステップS21の空調能力Q31,Q32,Q33の演算、及び、ステップS24またはステップS25において行なわれる凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3の演算には、室内機40,50,60毎の空調(要求)能力Q31,Q32,Q33(Q41,Q42,Q43)、風量Ga1,Ga2,Ga3、過冷却度SC1,SC2,SC3、及び温度差ΔTcr1,ΔTcr2,ΔTcr3(室内温度Trと凝縮温度Tcとの温度差)の関係を考慮した室内機40,50,60毎に異なる暖房用熱交関数がそれぞれ用いられる。この暖房用熱交関数は、各室内熱交換器42,52,62の特性を表す空調(要求)能力Q31,Q32,Q33(Q41,Q42,Q43)、風量Ga1,Ga2,Ga3、過冷却度SC1,SC2,SC3、及び温度差ΔTcr1,ΔTcr2,ΔTcr3がそれぞれ関連づけられた関係式であり、室内機40,50,60の室内側制御装置47,57,67のメモリ47c,57c,67cにそれぞれ記憶されている。そして、空調(要求)能力Q31,Q32,Q33(Q41,Q42,Q43)、風量Ga1,Ga2,Ga3、過冷却度SC1,SC2,SC3、及び温度差ΔTcr1,ΔTcr2,ΔTcr3の内の1つの変数は、その他の3つの変数を暖房用熱交関数に入力することによりそれぞれ求められることになる。これにより、凝縮温度差ΔTc1,ΔTc2,ΔTc3を精度よく適正な値とすることができ、正確に目標凝縮温度差ΔTctを求めることができる。このため、凝縮温度Tcの上げすぎを防止することができる。したがって、各室内機40,50,60の空調能力の過不足を防ぎつつ、室内機40,50,60の最適な状態を素早く安定的に実現でき、省エネルギー効果をより発揮させることができる。
【0103】
なお、このフローにおいて目標凝縮温度差ΔTctに基づいて圧縮機21の運転容量を制御しているが、目標凝縮温度差ΔTctに限らずに、各室内機40,50,60において演算された要求凝縮温度Tcrの最大値を目標凝縮温度Tctとして目標値決定部37aが決定し、決定された目標凝縮温度Tctに基づいて圧縮機21の運転容量を制御してもよい。
【0104】
なお、以上のような運転制御は、冷房運転及び暖房運転を含む通常運転を行う運転制御手段として機能する運転制御装置80(より具体的には、室内側制御装置47,57,67と室外側制御装置37とそれらの間を接続する伝送線80a)によって行われる。
【0105】
(2−3)室内機運転状態の平準化
次に、室内機の同一グループ内の一部の室内機がサーモオンしている偏り状態を発生させないために行なわれる平均温度制御について説明する。
【0106】
ここでは、室内機40,50,60が一つのグループAAに設定されているものとして説明する。また、グループAAについては、室内機40を親機とする場合を例に説明する。室内側制御装置47,57,67は、それぞれ室内機40,50,60がグループAAに属しているという情報及び室内機40が親機であるという情報を有している。そして、室内側制御装置47は、室内側制御装置57,67から室内機50,60のサーモオン/サーモオフの情報を入手する。具体的には、室内機50の設定温度、制御温度及び定格容量並びに室内機60の設定温度、制御温度及び定格容量が、室内機40の室内側制御装置47に送信される。
【0107】
ここでサーモオンディファレンシャルとは、サーモオフ状態にある室内機をサーモオンさせる温度と設定温度との温度差であり、サーモオフディファレンシャルとは、サーモオン状態にある室内機をサーモオフさせる温度と設定温度との温度差であるとする。
【0108】
室内側制御装置47はグループAAに属する室内機について平均温度制御を実施する。平均温度制御では、次の(1)式と(2)式を用いてサーモオンとサーモオフの切り換えを全室内機40,50,60で同時に行なう。(1)式及び(2)式においてTsnは設定温度であり、Ts1,Ts2,Ts3がそれぞれ室内機40,50,60の設定温度、Trnは各室内機の制御温度であり、Tr1,Tr2,Tr3がそれぞれ室内機40,50,60の制御温度、Capnは各室内機の定格容量であり、Cap1,Cap2,Cap3が各室内機40,50,60の定格容量である。制御温度Tr1,Tr2,Tr3は、ここでは、室内温度センサ46,56,66の検知温度である。
【0109】
【数1】
【0110】
(1)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフする。
【0111】
【数2】
【0112】
(2)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンする。
【0113】
上記平均温度制御では、サーモオンディファレンシャルとサーモオフディファレンシャルを仮に1℃,−1℃としているが、サーモオンディファレンシャルとサーモオフディファレンシャルは1℃,−1℃に限られるものではない。
【0114】
図5は、冷房時において、平均温度制御によって室内機40,50,60が制御された場合の一例を示すグラフである。図5において、曲線C1は室内機40の制御温度(室内温度センサ46の検知温度)であり、曲線C2は室内機50の制御温度(室内温度センサ56の検知温度)であり、曲線C3は室内機60の制御温度(室内温度センサ66の検知温度)である。また、図5において、矢印Ar4は室内機40がサーモオンしている期間を示しており、矢印Ar1,Ar7は室内機40がサーモオフしている期間を示している。矢印Ar2,Ar8は室内機50がサーモオフしている期間を示しており、矢印Ar5は室内機50がサーモオンしている期間を示している。また、矢印Ar3,Ar9は室内機60がサーモオフしている期間を示しており、矢印Ar6は室内機60がサーモオンしている期間を示している。
【0115】
図5に示されている時刻t0では、室内機40,50,60がサーモオフしている。室内機40,50,60は平均温度制御を行っている。そのため、親機である室内機40は、各室内機40,50,60の設定温度、制御温度及び定格容量を用いて、上述の(1)式及び(2)式の左辺の計算を行なう。時刻t0からt1までの間は上述の(1)及び(2)の左辺の計算結果(加重平均温度C)が−1から1の間にあるため、室内機40,50,60はサーモオフ状態を継続する。
【0116】
時刻t1では、上述の(1)式及び(2)式の計算の結果、(1)式の条件が満たされているので、室内機40,50,60が全てサーモオンする。
【0117】
時刻t1から時刻t2までの時間は、平均温度制御の結果、上述の(1)式及び(2)式の左辺の計算結果が−1から1の間にあるため、室内機40,50,60は継続してサーモオン状態にある。
【0118】
時刻t2では、上述の(1)式及び(2)式の計算の結果、(2)式の条件が満たされているので、室内機40,50,60が全てサーモオフする。
【0119】
上述のように、時刻t1から時刻t2までは一旦全ての室内機40,50,60がサーモオンし、時刻t1から時刻t2及び時刻t2から時刻t3までは一旦全ての室内機40,50,60がサーモオフすることになる。それにより、空気調和装置10の全体としての効率が改善される。
【0120】
(3)特徴
(3−1)
以上説明したように、空気調和装置10の室内機40,50,60は一つの部屋1(同一室内空間の例)に設置されている。室内機40,50,60は、それぞれに室内熱交換器42,52,62(利用側熱交換器の例)を含んでおり、個別に設定温度を設定することができるように構成されている。室内側制御装置47,57,67(制御装置の例)は、所定の条件下において室内機40,50,60の設定温度を用いて上述の(1)式及び(2)式を用いて室内機40,50,60に共通の(1)式及び(2)式の左辺の値(代表温度関連値の例)を算出する。上述の(1)式及び(2)式のいずれを満足するかによって室内機40,50,60のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換える(代表温度関連値に基づいて複数の室内機のサーモオンとサーモオフとを同時に切り換えられるように構成されている例)。
【0121】
通常の個別温度制御では3台の室内機40,50,60にサーモオンしているものとサーモオフしているものが混在する時刻t1に、全機を同時にサーモオンすることでサーモオンしている室内機数を増やして室外熱交換器23(熱源側熱交換器の例)を循環する冷媒が熱交換する室内熱交換器42,52,62を増加させることができる。全体としての熱交換している室内熱交換器42,52,62の伝熱面積(サーモオンしている室内熱交換器42,52,62の伝熱面積の総和)が増えた状態で熱交換をバランスさせることができ、空調システムの蒸発圧力と凝縮圧力との差圧を小さくして空調システム全体としての効率を改善することができる。
【0122】
(3−2)
運転制御装置80の室外側制御装置37(制御装置の例)は、室内機40,50,60からの空調能力の増加要求のうち最も高い増加要求を満たすように室外機20の運転条件を決定する。その結果、室内機40,50,60のうちの最も高い空調能力を要求されるものに応えて室外機20を運転することができ、全ての室内機40,50,60の空調能力の要求に応えられる。それにより、一部の室内機で空調能力が不足するのを防ぎながら効率が改善できる。
【0123】
(3−3)
運転制御装置80の室内側制御装置47,57,67は、要求温度演算部47b、57b、67bで、室内熱交換器42,52,62の要求蒸発温度又は要求凝縮温度を室内機毎に演算する。そして、運転制御装置80の室外側制御装置37は、目標値決定部37aで、要求温度演算部47b、57b、67bにおいて演算された室内機40,50,60の要求蒸発温度のうちの最小値に基づいて目標蒸発温度を決定する。または、運転制御装置80の室外側制御装置37は、目標値決定部37aで、要求温度演算部47b、57b、67bにおいて演算された室内機の40,50,60の要求凝縮温度のうちの最大値に基づいて目標凝縮温度を決定する。それにより、室内機40,50,60のうちの最も高い空調能力を要求されるものに応えて室外機20の目標蒸発温度又は目標凝縮温度を決定することで、全ての室内機40,50,60の空調能力の要求に応えられる目標蒸発温度又は目標凝縮温度に決定して一部で空調能力が不足するのを防ぎながら効率が改善できる。
【0124】
(3−4)
上述の親機である室内機40の室内側制御装置47は、上述の(1)式及び(2)式を用いているので、室内機40,50,60のそれぞれの室内温度センサ46,56,66の検知温度(制御温度の例)と設定温度との差に定格容量(室内空間の温熱環境への影響度の例)を掛けている。つまり、定格容量で重み付けされた加重平均値を代表温度関連値として用いている。それにより、定格容量が大きくて室内空間の温熱環境への影響度の大きいものに重点を置くことができ、室内機40,50,60毎の室内環境への影響度を反映できる。
【0125】
(3−5)
室内機40,50,60は、それぞれ、室内熱交換器42,52,62に対する風量調整が可能な室内ファン43,53,63(送風機の例)を備えている。室内側制御装置47,57,67は、室内機毎に室内ファン43,53,63を調節し、空調能力が余っていたら風量を減少させ、空調能力が不足していたら風量を増加させる。このような制御により、室内側制御装置47,57,67は、室内ファン43,53,63の風量によって空調能力を室内機毎に自律的に調整でき、空調能力を自律的に適正化することができる。平均温度制御によりサーモオン室内機が増加し、一時的に効率の悪化につながる空調能力過多状態となる場合があるが、その場合もこの自律適正化がはたらき効率の悪化が抑制される。
【0126】
(3−6)
室内機40,50,60は、それぞれ、室内熱交換器42,52,62の出口側の過熱度又は過冷却度を調整可能な室内膨張弁41,51,61(膨張機構の例)を備えている。室内側制御装置47,57,67は、室内機毎に室内膨張弁41,51,61の開度を調節し、空調能力が余っていたら過熱度又は過冷却度を小さくし、空調能力が不足していたら過熱度又は過冷却度を大きくする。このような室内膨張弁41,51,61の開度の調整によって空調能力を室内機毎に自律的に適正化することができる。平均温度制御によりサーモオンしている室内機が増加し、一時的に効率の悪化につながる空調能力過多状態となる場合があるが、その場合もこの自律適正化がはたらき効率の悪化が抑制される。
【0127】
(4)変形例
(4−1)変形例1A
上記実施形態では、定格容量で重み付けを行なっているが、定格容量に代えて室内機40,50,60の空調能力(室内空間の温熱環境への影響度の例)で重み付けをすることができる。この場合、上述の(1)式や(2)式に代えて例えば次の(3)式及び(4)式が用いられる。つまり、空調能力で重み付けされた加重平均値(次の(3)式及び(4)式の左辺の値)を代表温度関連値として用いている。それにより、(3)式や(4)式の計算を行った時点で空調能力が大きくて室内空間の温熱環境への影響度の大きいものに重点を置くことができ、室内機40,50,60毎の室内環境への影響度を反映できる。空調能力は、例えばその時点での室内機の稼動状況から算出することができる。(3)式及び(4)式において、ACapnは各室内機の空調能力であり、ACap1,ACap2,ACap3が各室内機40,50,60の空調能力である。
【0128】
【数3】
【0129】
(3)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフする。
【0130】
【数4】
【0131】
(4)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンする。
【0132】
但し、変形例1Aの場合、室内機40,50,60がサーモオフしている間は上記空調能力を算出することができない。よって室内機40,50,60がサーモオフしている間(図6のステップS31)は、例えば(1)式や(2)式の計算をもとにした定格容量など、室内機のサーモオン/サーモオフに左右されない指標値を用いて制御を行う(図6のステップS32)か、前回サーモオン時の空調能力値をデータとして保持しておき、その値を用いて(3)式及び(4)式の計算を行う。なお、図6において、Anは、定格容量、在席密度又は重み設定値などの室内機のサーモオン/サーモオフに影響されない指標値であり、Bnは室内機のサーモオン/サーモオフに影響される指標値、ここでは空調能力である。つまり、室内機40,50,60がサーモオンしている間(図6のステップS33)は、(3)式や(4)式の計算により、空調能力を指標値として用いて制御を行う(図6のステップS34)。
【0133】
(4−2)変形例1B
上記実施形態では、定格容量で重み付けを行なっているが、定格容量に代えて室内機40,50,60の風量(室内空間の温熱環境への影響度の例)で重み付けをすることができる。この場合、上述の(1)式や(2)式に代えて例えば次の(5)式及び(6)式が用いられる。つまり、空調能力で重み付けされた加重平均値(次の(5)式及び(6)式の左辺の値)を代表温度関連値として用いている。それにより、風量が大きくて室内空間の温熱環境への影響度の大きいものに重点を置くことができ、室内機40,50,60毎の室内環境への影響度を反映できる。(5)式及び(6)式において、AVonは各室内機の風量であり、AVo1,AVo2,AVo3が各室内機40,50,60の風量である。
【0134】
【数5】
【0135】
(5)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフする。
【0136】
【数6】
【0137】
(6)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンする。
【0138】
但し、変形例1Bを用いる場合も変形例1Aを用いる場合と同様、室内機40,50,60がサーモオフしている間(図6のステップS31)は上記風量を算出することができない。よって室内機40,50,60がサーモオフしている間は、例えば(1)式や(2)式の計算をもとにした定格容量など、室内機のサーモオン/サーモオフに左右されない指標値を用いて制御を行う(図6のステップS32)か、前回サーモオン時の風量値をデータとして保持しておき、その値を用いて(5)式及び(6)式の計算を行う。なお、ここでのBnは室内機のサーモオン/サーモオフに影響される指標値、ここでは風量である。つまり、室内機40,50,60がサーモオンしている間(図6のステップS33)は、(3)式や(4)式の計算により、風量を指標値として用いて制御を行う(図6のステップS34)。
【0139】
(4−3)変形例1C
上記実施形態では、定格容量で重み付けを行なっているが、定格容量に代えて室内機40,50,60の周辺の在席密度(室内空間の在席者の快適性への影響度の例)で重み付けをすることができる。この場合、上述の(1)式や(2)式に代えて例えば次の(7)式及び(8)式が用いられる。つまり、在席密度で重み付けされた加重平均値(次の(7)式及び(8)式の左辺の値)を代表温度関連値として用いている。それにより、在席密度が大きくて在席者の快適性への影響度の大きいものに重点を置くことができ、室内機40,50,60毎の室内環境への影響度を反映できる。(7)式及び(8)式において、SDnは各室内機の在席密度であり、SD1,SD2,SD3が各室内機40,50,60の在席密度である。在席密度は、例えば、人検知センサーなどを各室内機40,50,60に設けて、室内側制御装置47,57,67毎に検知した人の数を在席密度とすることができる。あるいは、人検知センサーで検知できるエリアの面積で検知した人の数を除して在席密度としてもよい。
【0140】
【数7】
【0141】
(7)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフする。
【0142】
【数8】
【0143】
(8)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンする。
【0144】
(4−4)変形例1D
上記実施形態では、定格容量で重み付けを行なっているが、定格容量に代えて室内機40,50,60の重み設定値(室内空間の在席者の快適性への影響度の例)で重み付けをすることができる。この場合、上述の(1)式や(2)式に代えて例えば次の(9)式及び(10)式が用いられる。つまり、重み設定値で重み付けされた加重平均値(次の(9)式及び(10)式の左辺の値)を代表温度関連値として用いている。それにより、重み設定値が大きくて在席者の快適性への影響度が大きいと考えているものに重点を置くことができ、室内機40,50,60毎の室内環境への影響度を反映できる。(9)式及び(10)式において、WPは各室内機の重み設定値であり、WP1,WP2,WP3が各室内機40,50,60の重み設定値である。重み設定値は、例えば、リモートコントローラなどによって各室内機40,50,60の室内側制御装置47,57,67に入力できるように構成することができる。
【0145】
【数9】
【0146】
(9)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフする。
【0147】
【数10】
【0148】
(10)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンする。
【0149】
(4−5)変形例1E
上記実施形態では、親機である室内機40の室内側制御装置47で上述の(1)式及び(2)式の計算を行なっている。しかし、上述の(1)式及び(2)式の計算やそれにともなう平均温度制御は室外側制御装置37で行なってもよい。
【0150】
(4−6)変形例1F
上記実施形態では、室内側制御装置47,57,67あるいは室内側制御装置47,57,67と室外側制御装置37を含む運転制御装置80を制御装置の例として示しているが、制御装置の例はこれらに限られるものではなく、制御装置は、室外機20及び室内機40,50,60からデータを取得し、かつ室外機20及び室内機40,50,60に対してデータを与えられる集中コントローラであってもよい。集中コントローラで一元的に管理することで、空調システム全体の調和を取り易くなる。
【0151】
(4−7)変形例1G
上記実施形態では、図6を用いて、サーモオフ時とサーモオン時で異なる指標値を使用する場合について説明した。しかし、異なる指標値の使い分けは、サーモオンとサーモオフの場合に限られるものではない。例えば、運転開始から所定時間までは定格容量で重み付けを行い、所定時間経過後は在席密度で重み付けを行うこともできる。このような重み付けのための指標値の切り換えは、種々の条件設定を行うことによって様々な場面に対応させることが可能である。
【0152】
(4−8)変形例1H
上記実施形態では、各判定式にはそれぞれ一つの指標値しか使用されていないが、判定式に同時に複数の指標値を使用することもできる。このことを一般化して示せば、(11)式及び(12)式のようになる。
【0153】
【数11】
【0154】
(11)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフする。
【0155】
【数12】
【0156】
(12)式を満たすときは、冷房時であれば全室内機40,50,60をサーモオフし、暖房時であれば全室内機40,50,60をサーモオンする。
【0157】
上述の(11)式及び(12)式において、変数x1n,x2nには各室内機の定格容量Capn、各室内機の空調能力ACapn、各室内機の風量Avon、各室内機の在席密度SDn及び各室内機の重み設定値WPから選択したものを用いることができる。例えば、f(x1n,x2n)=Capn×SDnのように、2種類の指標値を掛け合わせて新たな指標値を形成することができる。ここでは、2つの変数を掛け合わせる場合について説明したが、変数の種類は3つ以上であってもよく、また関数も変数同士の掛け算に限られるものではない。
【0158】
(4−9)変形例1I
上記実施形態では、常に平均温度制御を行なう場合について説明したが、従来と同様に同一室内空間にあるグループAAの室内機40,50,60が独立して温度制御を行なう個別温度制御を行なっている場合にサーモオンしている室内機とサーモオフしている室内機の混在が発生したとき、或いは混在が発生しかつ所定条件を満たしたときに、個別温度制御から平均温度制御に切換えるように構成してもよい。混在が発生しかつ所定条件を満たしたときに切換える例としては、個別温度制御において、グループAAの室内機40,50,60のうち、第1所定時間以上(例えば10分以上)サーモオンを継続している室内機が存在し、かつ第2所定時間以上(例えば10分以上)サーモオフを継続している室内機が存在するときに、個別温度制御から平均温度制御に切換える構成を挙げられる。この場合、平均温度制御から個別温度制御への復帰は、例えば第3所定時間だけ平均温度制御を行なった後に行えばよい。
【符号の説明】
【0159】
10 空気調和装置
11 冷媒回路
20 室外機
23 室外熱交換器
37 室外側制御装置
40,50,60 室内機
41,51,61 室内膨張弁
42,52,62 室内熱交換器
43,53,63 室内ファン
47,57,67 室内側制御装置
80 運転制御装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0160】
【特許文献1】特開2011−257126号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6