(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780282
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】リミッタアンプ回路及びドライバ回路
(51)【国際特許分類】
H03F 3/08 20060101AFI20150827BHJP
H03F 3/45 20060101ALI20150827BHJP
H03F 3/34 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
H03F3/08
H03F3/45 Z
H03F3/34 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-212962(P2013-212962)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-76801(P2015-76801A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2013年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148057
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 淑己
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 初史
(72)【発明者】
【氏名】河野 誠
(72)【発明者】
【氏名】和田 尚也
【審査官】
柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−038556(JP,A)
【文献】
特開2011−250136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 3/08
H03F 3/34
H03F 3/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正相入力信号と逆相入力信号とからなる差動入力信号を増幅する第1の差動増幅回路と、
前記第1の差動増幅回路の差動出力信号を増幅する第2の差動増幅回路と、
前記正相入力信号の直流成分と前記逆相入力信号の直流成分との電圧差に応じて前記第1の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する第1のオフセット調整回路と、
前記第2の差動増幅回路の差動出力信号の一方の信号の直流成分と基準電圧に応じて前記第2の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する第2のオフセット調整回路と、
外部調整回路とを備え、
前記基準電圧が所定の値に調整され、前記第2のオフセット調整回路は、前記差動入力信号が入力された場合は前記第2の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加せず、前記差動入力信号が入力されていない場合は前記第2の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加し、
前記第2のオフセット調整回路は、
前記第2の差動増幅回路の差動出力信号の一方の信号の直流成分を検出する第1のピーク検出回路と、
前記第1のピーク検出回路の出力が入力される第1の入力端子と、前記基準電圧が入力される第2の入力端子とを有し、前記第1のピーク検出回路の出力と前記基準電圧との電圧差を増幅する第3の差動増幅回路と、
前記第1のピーク検出回路の出力端子と前記第3の差動増幅回路の前記第1の入力端子との間に接続された第1の抵抗とを有し、
前記外部調整回路は、前記第3の差動増幅回路の前記第1の入力端子と前記第1の抵抗との接続点の電圧を調整することを特徴とするリミッタアンプ回路。
【請求項2】
前記外部調整回路は、
前記第3の差動増幅回路の前記第1の入力端子と接地との間に接続された第2の抵抗と、
前記第3の差動増幅回路の前記第1の入力端子と電源端子との間に接続された第3の抵抗とを有することを特徴とする請求項1に記載のリミッタアンプ回路。
【請求項3】
前記第1のオフセット調整回路は、
前記正相入力信号の直流成分を検出する第2のピーク検出回路と、
前記逆相入力信号の直流成分を検出する第3のピーク検出回路と、
前記第2のピーク検出回路の出力と前記第3のピーク検出回路の出力との電圧差を増幅する第4の差動増幅回路と、
前記第2のピーク検出回路の出力端子と前記第4の差動増幅回路の差動入力の一方との間に接続された第4の抵抗と、
前記第3のピーク検出回路の出力端子と前記第4の差動増幅回路の差動入力の他方との間に接続された第5の抵抗とを有し、
前記第4及び第5の抵抗の抵抗値が前記第1の抵抗の抵抗値と等しいことを特徴とする請求項2に記載のリミッタアンプ回路。
【請求項4】
前記第2の差動増幅回路の差動出力は飽和していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のリミッタアンプ回路。
【請求項5】
N個の信号を多重化する多重化回路と、
容量を介して入力された前記多重化回路の出力を減衰させる減衰器と、
前記減衰器の出力が入力される請求項1〜4の何れか1項に記載のリミッタアンプ回路と、
前記リミッタアンプ回路の出力を増幅するドライバ増幅回路とを備えることを特徴とするドライバ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力振幅に対して適切なDCオフセット量を設定することができ、受信感度及び応答特性の改善をはかることができるリミッタアンプ回路及びドライバ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
高速データ伝送を可能とする光伝送システムとして、複数のデータ信号のパケットを時間多重する光伝送システムが知られている。このシステムにおいてバースト信号を受信するために光受信回路が用いられる。
【0003】
図1は従来の光受信回路を示す図である。フォトダイオード100は微小な光信号を電流信号に変換する。トランスインピーダンスアンプ101(TIA: Trans Impedance Amplifier)は、この電流信号を電圧信号に変換増幅する。リミッタアンプ回路102は、トランスインピーダンスアンプ101の出力信号を一定振幅に増幅する。
【0004】
このような構成の光受信回路では、トランスインピーダンスアンプ101の差動出力の正相側IPと逆相側INにそれぞれDCオフセットが生じる。入力信号のDCオフセットはトランスインピーダンスアンプ101の利得分だけ増幅される。DCオフセットの大きさはトランスインピーダンスアンプ101の個体差により異なるが、DCオフセットが大きい場合、リミッタアンプ回路102のバースト応答性を劣化させ、良好な応答特性が得られないという問題がある。
【0005】
図2はAC結合構成の従来の光受信回路を示す図である。トランスインピーダンスアンプ101とリミッタアンプ回路102の間に結合容量C1,C2が設けられている。これにより、
図1の光受信回路のDCオフセットの影響を無くすことができる。しかし、結合容量C1,C2とリミッタアンプ回路102の入力インピーダンスで決まる時定数によりDCレベルが変化して、適正なDCオフセットになるまでの時間がかかるという問題がある。さらに、差動入力信号が入力されていない場合に正相出力信号と逆相出力信号のDC出力レベルが等しくなり、無信号時にノイズが出力され、後段の受信装置の特性に影響が生じるという問題もある。
【0006】
これらの問題を解決するために改善されたリミッタアンプ回路が提案された(例えば、特許文献1参照)。
図3は改善された従来のリミッタアンプ回路を示す図である。差動増幅回路11は、正相入力信号IPと逆相入力信号INとからなる差動入力信号を増幅する。差動増幅回路12,13は、差動増幅回路11の差動出力信号を増幅する。
【0007】
オフセット調整回路14は、ピーク検出回路15,16と、差動増幅回路17とを有する。ピーク検出回路15は、正相入力信号IPの直流成分を検出して保持する。ピーク検出回路16は、逆相入力信号INの直流成分を検出して保持する。差動増幅回路17は、ピーク検出回路15,16により検出した正相入力信号IPの直流成分と逆相入力信号INの直流成分との電圧差を差動増幅回路11に負帰還し、この電位差に応じて差動増幅回路11の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する。
【0008】
オフセット調整回路18は、ピーク検出回路19と、差動増幅回路20とを有する。ピーク検出回路19は、飽和している差動増幅回路13の差動出力信号の一方の信号の直流成分を検出して保持する。差動増幅回路20は、ピーク検出回路19により検出した差動増幅回路13の差動出力信号の一方の信号の直流成分と基準電圧REFとの電圧差を差動増幅回路12に正帰還し、この電位差に応じて差動増幅回路12の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する。
【0009】
基準電圧REFは所定の値に調整されている。オフセット調整回路18は、リミッタアンプ回路102の入力に差動信号が入力された場合は差動増幅回路13の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加せず、リミッタアンプ回路102の入力に差動信号が入力されていない場合は差動増幅回路13の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加する。このため、リミッタアンプ回路102の入力に差動信号が入力されていない場合に正相出力信号と逆相出力信号のDC出力レベルが等しくなるのを防ぐことができ、良好な応答特性を得ることができる。
【0010】
図4は
図3のリミッタアンプ回路の入力信号応答特性を示す図である。
図4(a)はリミッタアンプ回路の入力信号を示す。入力信号は10Gbpsの10(イチゼロ)の交番信号である。入力信号は無入力の状態からプリアンブルの信号、ペイロードの信号が入力される。
図4(b)はリミッタアンプ回路102内の差動増幅回路12の出力の過渡応答波形を示す。
図4(c)はリミッタアンプ回路102の出力OP、ONの過渡応答波形で、初期の応答特性の時間幅を拡大した波形を示す。この
図4(c)の波形は、リミッタアンプ回路102に差動入力信号が入力されている時にDCオフセットを適切な値になるように与えた場合の条件での過渡応答特性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−38556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図3のリミッタアンプ回路では、回路の入力に差動信号が入力されていない場合のDCオフセット量は所定の基準電圧REFの値で決まる一定値となる。このため光信号が入力された場合、PD変換効率(フォトダイオードの光−電流変換効率)、トランスインピーダンスアンプの利得により決まる入力振幅に対して基準電圧REFで与えられる動作点(DCオフセット)が必ずしも適切な値とは限らない。このため、
図4(c)から分かるように、過渡的に差動増幅回路12の差動出力のデューティ比が50%とならず、受信感度が低下し、応答特性も劣化するという問題がある。
【0013】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は入力振幅に対して適切なDCオフセット量を設定することができ、受信感度及び応答特性の改善をはかることができるリミッタアンプ回路を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るリミッタアンプ回路は、正相入力信号と逆相入力信号とからなる差動入力信号を増幅する第1の差動増幅回路と、前記第1の差動増幅回路の差動出力信号を増幅する第2の差動増幅回路と、前記正相入力信号の直流成分と前記逆相入力信号の直流成分との電圧差に応じて前記第1の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する第1のオフセット調整回路と、前記第2の差動増幅回路の差動出力信号の一方の信号の直流成分と基準電圧に応じて前記第2の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する第2のオフセット調整回路と、外部調整回路とを備え、前記基準電圧が所定の値に調整され、前記第2のオフセット調整回路は、前記差動入力信号が入力された場合は前記第2の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加せず、前記差動入力信号が入力されていない場合は前記第2の差動増幅回路の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加し、前記第2のオフセット調整回路は、前記第2の差動増幅回路の差動出力信号の一方の信号の直流成分を検出する第1のピーク検出回路と、前記第1のピーク検出回路の出力が入力される第1の入力端子と、前記基準電圧が入力される第2の入力端子とを有し、前記第1のピーク検出回路の出力と前記基準電圧との電圧差を増幅する第3の差動増幅回路と、前記第1のピーク検出回路の出力端子と前記第3の差動増幅回路の前記第1の入力端子との間に接続された第1の抵抗とを有し、前記外部調整回路は、前記第3の差動増幅回路の前記第1の入力端子と前記第1の抵抗との接続点の電圧を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、入力振幅に対して適切なDCオフセット量を設定することができ、受信感度及び応答特性の改善をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】AC結合構成の従来の光受信回路を示す図である。
【
図3】改善された従来のリミッタアンプ回路を示す図である。
【
図4】
図3のリミッタアンプ回路の入力信号応答特性を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るリミッタアンプ回路を示す図である。
【
図6】第2のオフセット調整回路の動作を説明するための図である。
【
図7】リミッタアンプ回路に入力されるトランスインピーダンスアンプの出力振幅の光入力レベル依存性の計算例を示す図である。
【
図8】リミッタアンプ回路の入力振幅に対して最適のDCオフセット量(入力振幅に等しいDCレベル量)を与えるための電圧PKsを外部調整抵抗の値の関係で示した図である。
【
図9】
図7の光入力レベルをmW単位で表示した計算例を示す図である。
【
図10】トランスインピーダンスアンプの出力振幅に対する第2の差動増幅回路の出力波形を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係るリミッタアンプ回路の入力信号応答特性を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係るリミッタアンプ回路を適用したパケット送信器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図5は、本発明の実施の形態に係るリミッタアンプ回路を示す図である。フォトダイオード100が光信号を電気信号に変換する。その電気信号をトランスインピーダンスアンプ101が増幅する。トランスインピーダンスアンプ101の差動出力信号をリミッタアンプ回路102が増幅する。
【0018】
リミッタアンプ回路102において、差動増幅回路11が、正相入力信号IPと逆相入力信号INとからなる差動入力信号を増幅する。差動増幅回路12,13が差動増幅回路11の差動出力信号を増幅する。差動増幅回路13の差動出力信号がリミッタアンプ回路102の正相出力信号OP及び逆相出力信号ONとなる。
【0019】
オフセット調整回路18は、飽和している差動増幅回路13の差動出力信号の一方の信号の直流成分と基準電圧REFに応じて差動増幅回路12の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する。基準電圧REFは所定の値に調整されている。オフセット調整回路18により正帰還ループを構成し、自動的に差動増幅回路12のDCオフセット電圧を調整する。具体的には、オフセット調整回路18は、リミッタアンプ回路102に差動入力信号が入力された場合は差動増幅回路12の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加せず、差動入力信号が入力されていない場合は差動増幅回路12の差動出力信号のDCオフセット電圧にDCオフセットを付加する。
【0020】
オフセット調整回路18は、ピーク検出回路19と、差動増幅回路20と、抵抗R1とを有する。ピーク検出回路19は、飽和している差動増幅回路13の差動出力信号の一方の信号の直流成分を検出して保持する。差動増幅回路20は、ピーク検出回路19の出力が入力される第1の入力端子と、基準電圧が入力される第2の入力端子とを有し、ピーク検出回路19の出力と基準電圧との電圧差を増幅する。抵抗R1は、ピーク検出回路19の出力端子と差動増幅回路20の第1の入力端子との間に接続されている。
【0021】
外部調整回路30は、差動増幅回路20の第1の入力端子と接地(GND)との間に接続された抵抗R2と、差動増幅回路20の第1の入力端子と電源端子(定電圧源VEE)との間に接続された抵抗R3とを有する。外部調整回路30は、差動増幅回路20の第1の入力端子と抵抗R1との接続点の電圧PKsを調整する。従って、差動増幅回路20は、抵抗R1,R2,R3により調整された直流成分と基準電圧REFとの電圧差を差動増幅回路12に正帰還し、この電位差に応じて差動増幅回路12の差動出力のDCオフセット電圧を調整する。
【0022】
オフセット調整回路14は、正相入力信号IPの直流成分と逆相入力信号INの直流成分との電圧差に応じて差動増幅回路11の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する。具体的には、オフセット調整回路14は、正相入力信号IPの直流成分を検出して保持するピーク検出回路15と、逆相入力信号INの直流成分を検出して保持するピーク検出回路16と、ピーク検出回路15の出力とピーク検出回路16の出力との電圧差を増幅する差動増幅回路17と、ピーク検出回路15の出力端子と差動増幅回路17の差動入力の一方との間に接続された抵抗R4と、ピーク検出回路16の出力端子と差動増幅回路17の差動入力の他方との間に接続された抵抗R5とを有する。差動増幅回路17は、ピーク検出回路15,16により検出した正相入力信号IPの直流成分と逆相入力信号INの直流成分との電圧差を増幅して、差動増幅回路11に
与えるフィードフォワード系を構成し、この電圧差に応じて差動増幅回路11の差動出力信号のDCオフセット電圧を調整する。
【0023】
ここで、抵抗R4,R5の抵抗値は抵抗R1の抵抗値と等しい。これにより、オフセット調整回路14,18の回路構成と回路定数を同じにして、オフセット調整回路14,18の応答時間を合わせることができる。
【0024】
図6は、第2のオフセット調整回路の動作を説明するための図である。フォトダイオード100に光バースト信号が入力されると、動作初期には
図6(a)に示すように、差動増幅回路12の入力IP’はDC電位の安定点から、振幅分上側に波形が現れる。また、差動増幅回路12の入力IN’は振幅分下側に波形が現れる。IP’,IN’の信号は、オフセット調整回路14で決まる時間で両信号のオフセット電圧が一致し、安定となる。即ち、当初のオフセットはIP’又はIN’の入力振幅に相当する値になり、オフセット調整回路14で決まる時間でオフセットが減少していく。オフセット調整回路18はオフセットの変化に追随していくよう差動増幅回路20の入力DCオフセット電圧を調整するように動作する。
【0025】
ここで、差動増幅回路20の入力に印加される基準電圧REFと電圧PKsの間の電圧差(オフセット電圧に相当)を例えば当初IP’の入力振幅に相当する値となるように基準電圧REFを与える。そうすると、バースト信号入力時に差動増幅回路12では信号IP’のDCレベルが入力振幅分下がって、信号IN’のDCレベルと一致するように動作する。
【0026】
ピーク検出回路19は、通常、整流用のダイオードとピーク値に相当する電荷を充電する容量で構成される。入力信号が入力されている間、差動増幅回路13のリミット振幅のピーク値を検出し、ピーク検出回路19の出力電圧がリミット振幅のピーク値になるまで、容量に電荷を充電し、電圧を保持する。従って、時間の経過とともに、ピーク検出回路19の出力である電圧PKsが増加し、基準電圧REFと電圧PKsの間の電圧差が減少していく。
図6(b)(c)はこのときのオフセット調整回路18における電圧PKsの動作及び差動増幅回路12の出力間のDCオフセット電圧の動作を示す。
【0027】
図6(b)は、外部抵抗R2,R3が無い従来例の動作、
図6(c)は外部抵抗R2,R3を付加した本実施の形態の動作を示す。ここで、REF1はREFの電圧に無入力時の電圧PKsよりIP’の入力振幅に等しいDCオフセット電圧を与えた場合を示し、REF2は電圧REFを第1のオフセット調整回路が安定になる時間での電圧PKsと等しい電圧に調整した場合を示す。
【0028】
図6(b)において、REF1の場合、バースト信号入力当初は差動増幅回路12に適正なオフセットが与えられ、差動増幅回路12の出力間のDCオフセット電圧は0となる。IP’、IN’の信号が安定な状態に近づくに従って、PKsの電圧がREF1の場合の電圧を超えた値となり(回路シミュレーションに用いた差動増幅回路12の利得は1であり、差動増幅回路13の利得は5で、リミッタ動作をしているため)、最終的に第1のオフセット調整回路が安定になる時間(IP’、IN’の信号が安定な状態)で差動増幅回路12にはオフセット電圧Vofを与えることになる。このため、差動増幅回路の差動信号の動作DC電圧が異なり、出力信号のデューティ比が50%とならなくなり、受信感度が劣化してしまう。また、REF2の場合、バースト信号入力当初に差動増幅回路12に適正なオフセットが与えられておらず(IP’とIN’のDC電圧にはVof分のオフセット電圧が与えられ)、差動増幅回路12の出力信号のデューティ比が50%とならなくなり、受信感度が劣化してしまう。
図4はこの状態での動作波形を示す。従って従来回路では、電圧REFの調整だけではバースト信号入力当初からIP’とIN’の信号が安定になった後も全ての期間において出力信号のデューティ比を50%の出力波形にすることはできず、受信感度の劣化をまねく。
【0029】
図6(c)は、本実施の形態で外部抵抗R2,R3を付加した場合のPKs端子電圧の動作を示す。電圧REFはREF1の場合のようにバースト信号入力当初の電圧PKsにIP’の入力振幅に相当する値のDCオフセット電圧を与え、外部抵抗R2,R3の値はオフセット調整回路14が安定になる時間での電圧PKsが電圧REFに等しくなるように与えている。このため、バースト信号入力当初は電圧REFには適正なオフセットが与えられ、差動増幅回路12の出力間のDCオフセット電圧は理想的に0となり、オフセット調整回路14が安定になる時間の経過中、正帰還により適正なオフセットが与えられるように追随する。
【0030】
また、IP’とIN’の信号が安定になる時に電圧PKsが電圧REFに等しくなるように外部抵抗R2,R3により与えられるので、差動増幅回路12の出力間のDCオフセット電圧は0とすることができる。従って、バースト信号入力当初からIP’とIN’の信号が安定になった後も、差動増幅回路12の出力間のDCオフセット電圧を0とすることができるので、出力信号のデューティ比を50%の出力波形にすることが可能となり、波形応答特性と受信感度を向上させることができる。
【0031】
以下、具体的なDCオフセット量の調整とその条件による入力信号応答特性について示す。
図7は、リミッタアンプ回路に入力されるトランスインピーダンスアンプの出力振幅の光入力レベル依存性の計算例を示す図である。トランスインピーダンスアンプ101の出力振幅は、フォトダイオード100のPD変換効率とトランスインピーダンスアンプ101のトランスインピーダンスゲイン(Zt)により求められる。計算においてPD変換効率は0.9A/W、Zt=700Ωとした。
【0032】
図8は、リミッタアンプ回路の入力振幅に対して最適のDCオフセット量(入力振幅に等しいDCレベル量)を与えるための電圧PKsの変化幅(入力信号が無しの場合と有りの場合の電圧PKsの差)を外部調整抵抗の値の関係で示した図である。外部抵抗R2,R3の抵抗値の組合せに対して、横軸はPKs−GND間の抵抗R2の抵抗値、縦軸左側に電圧PKsの変化幅を示す。具体的には、リミッタアンプ回路の入力振幅に対応したリミッタアンプ出力の過渡応答波形のデューティ比がパケット先頭部から50%となるDCオフセット電圧および電圧PKsの変化幅を決めるためのR2/R3抵抗値をシミュレーションにより求めた。差動増幅回路11,12の間に利得5の差動増幅回路31を挿入した場合のシミュレーション結果であり、縦軸右側の入力振幅への換算値は利得5で電圧PKsの変化幅の値を割った値である。差動増幅回路31の利得はG=5であり、光受信装置の仕様により適宜差動増幅回路31の利得を設計して追加することができる。
【0033】
ここで、抵抗R1と差動増幅回路20の接続点において外部抵抗R2,R3で決まるDC電位が一定となるようにするため、外部抵抗R2,R3の比は一定として外部抵抗R2,R3のそれぞれの抵抗値を変えた。また、抵抗R1,R4,R5の抵抗値は500Ωの一定値とした。
【0034】
光受信回路の最小受信感度を維持するための適切なDCオフセット量は、最小受信感度に対応するトランスインピーダンスアンプ101の出力振幅(リミッタアンプ回路102の入力振幅に相当)と等しい。
図7においてトランスインピーダンスアンプ101の最小受信感度を−18dBmとすると、トランスインピーダンスアンプ101の出力振幅は約20mVppとなる。
図8において抵抗比R2/R3=5KΩ/10KΩに調整することにより、最小受信感度の入力振幅に近い21mVppの入力振幅で、DCオフセット量105mVが得られている。この値が差動増幅回路20に入力される。この条件で光受信回路の受信感度特性を実験により調べた結果、誤り率1E−12で受信感度は約−17.5dBmとほぼ最小受信感度に近い値が得られた。
【0035】
次に波形応答特性について説明する。
図9は
図7の光入力レベルをmW単位で表示した計算例を示す図である。この計算例は、トランスインピーダンスアンプ101の出力振幅で飽和出力まで算出したものである。
【0036】
図10はトランスインピーダンスアンプの出力振幅に対する差動増幅回路12の出力波形を示す図である。
図10(a)は
図9の丸印で示す最小受信レベルに対応するトランスインピーダンスアンプ101の出力振幅をリミッタアンプ回路102に入力した場合の差動増幅回路12の出力波形を示す。差動増幅回路12には最小受信レベルに等しいDCオフセットが与えられている。この場合、波形のデューティ比は50%であり、高受信感度が得られている。
【0037】
図10(b)は
図9の丸印で示す飽和前のトランスインピーダンスアンプ101の出力振幅をリミッタアンプ回路102に入力した場合の差動増幅回路12の出力波形を示し、差動増幅回路12には最小受信レベルに等しいDCオフセットが与えられている。DCオフセット量に対して振幅が大きいが、受信は可能である。これは、飽和前レベルまではトランスインピーダンスアンプ101の出力は線形出力であるため、デューティ50%が維持される。光入力レベルが大きくなるほど信号成分に対するノイズ成分は低くなり、後段のCDR(クロックデータリカバリ)回路は、高入力時のリミッタアンプで発生する過渡的なデューティ変化が許容できる。
【0038】
さらに、トランスインピーダンスアンプ101が飽和点以上の入力レベルになると、トランスインピーダンスアンプ101のデューティ比変化が加わってしまうため、パケット受信はできなくなる。従って、パケット信号入力による受信範囲は、最小受信レベル〜飽和レベルまでの高入力レンジが可能となる。
【0039】
図11は、本発明の実施の形態に係るリミッタアンプ回路の入力信号応答特性を示す図である。
図11(a)はリミッタアンプ回路の入力信号を示す。入力信号は10Gbpsの10(イチゼロ)の交番信号である。入力信号は無入力の状態からプリアンブルの信号、ペイロードの信号が入力される。
図11(b)はリミッタアンプ回路102内の差動増幅回路12の出力の過渡応答波形を示す。
図11(c)はリミッタアンプ回路の出力OP、ONの過渡応答波形で、初期の応答特性の時間幅を拡大した波形を示す。
【0040】
本実施の形態に係るリミッタアンプ回路では、差動増幅回路12には最小受信レベルに等しいDCオフセットが与えられている。このため、光入力信号が入力された場合、フォトダイオード100の光−電流変換効率、トランスインピーダンスアンプ101の利得により決まる入力振幅に対して、差動増幅回路12の動作点(DCオフセット)を適切な値に設定できる。従って、バースト信号入力時の過渡応答初期時でもピーク検出回路の出力のデューティ比が50%となり、受信感度が従来回路より改善される。また、
図3の回路に比べて高速な応答特性が得られる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係るリミッタアンプ回路は、オフセット調整回路18のDCオフセット量を外部抵抗R2,R3の抵抗値により調整できるので、入力振幅に対して適切なDCオフセット量を設定することができ、受信感度及び応答特性の改善をはかることができる。
【0042】
続いて、
図12は、本発明の実施の形態に係るリミッタアンプ回路を適用したパケット送信器を示す図である。多重化回路41、減衰器42、リミッタアンプ回路102、及びドライバ増幅回路43は、EA−DFBレーザダイオード44を駆動するドライバ回路である。
【0043】
多重化回路41はN個のパケット信号を多重化する。減衰器42は容量C1,C2を介して入力された多重化回路41の出力を減衰させる。リミッタアンプ回路102に減衰器42の出力が入力される。ドライバ増幅回路43がリミッタアンプ回路102の出力を増幅する。ドライバ増幅回路43はEA−DFBレーザダイオード44を駆動できる電圧振幅にまでリミッタアンプ回路102の出力信号を増幅する。EA−DFBレーザダイオード44は入力されたパケット電気信号により光パケット信号を出力する。ここで、多重化回路41の出力、減衰器42及びリミッタアンプ回路102の入出力、ドライバ増幅回路43の入力は差動で行われる。
【0044】
多重化回路41に正電源が用いられ、ドライバ増幅回路43に負電源が用いられる。パケット信号では、AC結合時はCRによる効果でピーク値が除々に変化するため、信号劣化が大きくなる。また、DC結合では耐圧を満たすためのレベルシフトに複数段が必用となり、出力ジッタが増大してしまう。このため、入力のバースト信号に対して適正なオフセットを与えることができる本実施の形態に係るリミッタアンプ回路102をパケット送信器に適用する。
【0045】
しかし、リミッタアンプ回路102を送信器側に使用した場合、多重化回路41の出力振幅が大きく、リミッタアンプ回路102が適正に動作するために必要なオフセットはリミッタアンプ回路102で調整できるオフセット量を超えてしまう。そこで、リミッタアンプ回路102に入力されるパケット信号を、受信器として使用される場合の入力信号レベルと同程度に減衰器42により減衰する。これにより、リミッタアンプ回路102は適切なオフセット量を与えることができ、波形劣化のないリミッタ出力信号が得られる。この結果、本実施の形態に係るパケット送信器は波形劣化のない光パケット出力信号を得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
11,12,13,17,20 差動増幅回路、14,18 オフセット調整回路、15,16,19 ピーク検出回路、30 外部調整回路、41 多重化回路、42 減衰器、43 ドライバ増幅回路、102 リミッタアンプ回路、C1,C2 容量、R1,R2,R3,R4,R5 抵抗