特許第5780312号(P5780312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780312
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20150827BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   H01J49/42
   G01N27/62 D
   G01N27/62 X
   G01N27/62 C
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-545701(P2013-545701)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2011076953
(87)【国際公開番号】WO2013076826
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2014年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹▲羽▼ 明彦
【審査官】 桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−198882(JP,A)
【文献】 特開2001−249114(JP,A)
【文献】 特開2002−181784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフのカラムで時間方向に分離された試料成分を順次イオン化部に導入して質量分析を行う質量分析装置であって、
a)前記イオン化部で生成されたイオンに対してMS分析を繰り返し実行するMS分析実行手段と、
b)前記MS分析の結果から、予め定められた質量範囲におけるイオン強度の経時変化を示すクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成手段と、
c)前記クロマトグラム上の信号強度に基づいてMS/MS分析の実行タイミングを決定するタイミング決定手段と、
d)前記タイミング決定手段で決定された実行タイミングに従って、前記イオン化部で生成されたイオンのうち前記質量範囲に属するイオンをプリカーサイオンとするMS/MS分析を実行するMS/MS分析実行手段と、
を有し、
前記タイミング決定手段が、前記クロマトグラム上の信号強度が予め定められた下限値を超えた後、予め定められた上限値に達した場合にはその時点を前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定し、前記下限値を超えた後、前記上限値に達することなくピークトップに至った場合にはその時点を前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
更に、
e)前記上限値及び下限値をユーザに入力設定させる上下限値設定手段、
を有することを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記クロマトグラム作成手段が、予め定められた複数の質量範囲に関する複数のクロマトグラムを作成するものであり、
前記タイミング決定手段が、前記複数のクロマトグラムの少なくともいずれか1つの信号強度が予め定められた下限値を超えた後、予め定められた上限値に達した時点、又は前記下限値を超えた後、前記上限値に達することなくピークトップに至った時点を前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定するものであり、
前記MS/MS分析実行手段が、前記イオン化部で生成されたイオンのうち、前記タイミング決定に使用されたクロマトグラムに対応する質量範囲に属するイオンをプリカーサイオンとするMS/MS分析を実行するものである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフのカラムで時間方向に分離された試料成分を順次イオン化して質量分析する質量分析装置に関し、特に、特定の質量(厳密にはm/z)を持つイオンをプリカーサイオンとして開裂させ、それにより生成されたプロダクトイオンを質量分析するMS/MS(=MS)分析機能を有する質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)や液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)では、GC又はLCのカラムで時間方向に分離された試料成分を順次、質量分析装置(MS)に導入し、各成分をそれぞれイオン化した後に質量分離して検出する。ここで、特定の時刻に着目して質量を横軸に、強度を縦軸にとることによりマススペクトルが作成される。また、特定の質量に着目して時間を横軸に、強度を縦軸にとることによりクロマトグラム(マスクロマトグラム)が作成される。また、これらを統合することで、時間、強度(イオン強度)、質量を軸とする三次元クロマトグラムを作成することもできる。
【0003】
こうしたGC/MSやLC/MSにおける質量分析計(MS)として、特定の質量を持つイオンをプリカーサイオンとして開裂させ、それにより生成したプロダクトイオンを質量分析するMSn(nは2以上の整数)型の質量分析装置を用いたものがある。更に、MS型の質量分析装置には、MSn−1分析の結果に基づいて自動的にプリカーサイオンを選択してMS分析を実行する自動MS分析機能を備えたものがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
こうした自動MS分析機能を有する質量分析装置を用いたGC/MSやLC/MSでは、例えば、GCやLCのカラムからの溶出液を順次MSに導入してMS(=MS)分析を繰り返し実行しながら、1つ又は複数の質量に関するクロマトグラムを作成していく。そして、該クロマトグラム上の信号強度が所定の条件を満たした時点、例えば図6中のt1、t2のように、予め定めた閾値を超えた時点で該クロマトグラムに対応した質量を持つイオンをプリカーサイオンとして採取してMS/MS分析を行う。また、S/N比の高いMS/MSスペクトルを得るためには、プリカーサイオンとして採取するイオンの量をできるだけ多くすることが好ましいため、図7のように、前記閾値を超えた後、クロマトグラムのピークトップが現れるまで待ってからプリカーサイオンの採取を行う方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-19655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、S/N比の高いMS/MSスペクトルを得るためには、プリカーサイオンをできるだけ多量に採取してMS/MS分析を行うことが望ましい。しかしその反面、四重極質量フィルタや3次元四重極型イオントラップ等の質量分析器では、導入されるイオンの量が多過ぎると、空間電荷効果の影響により質量分離性能が低下してしまい、結果的に高品質なMS/MSスペクトルを得ることができない場合がある。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、クロマトグラフと組み合わせて使用され、プリカーサイオンの選別及び開裂操作を伴うMS/MS分析を自動的に実行可能な質量分析装置において、適切な量のプリカーサイオンに対してMS/MS分析を行うことを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
クロマトグラフのカラムで時間方向に分離された試料成分を順次イオン化部に導入して質量分析を行う質量分析装置であって、
a)前記イオン化部で生成されたイオンに対してMS分析を繰り返し実行するMS分析実行手段と、
b)前記MS分析の結果から、予め定められた質量範囲におけるイオン強度の経時変化を示すクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成手段と、
c)前記クロマトグラム上の信号強度に基づいてMS/MS分析の実行タイミングを決定するタイミング決定手段と、
d)前記タイミング決定手段で決定された実行タイミングに従って、前記イオン化部で生成されたイオンのうち前記質量範囲に属するイオンをプリカーサイオンとするMS/MS分析を実行するMS/MS分析実行手段と、
を有し、
前記タイミング決定手段が、前記クロマトグラム上の信号強度が予め定められた下限値を超えた後、予め定められた上限値に達した場合にはその時点を前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定し、前記下限値を超えた後、前記上限値に達することなくピークトップに至った場合にはその時点を前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定することを特徴としている。
【0009】
前記タイミング決定手段で使用される上限値及び下限値は、質量分析装置に固有に設定された値としてもよく、ユーザが任意の値を入力設定できるようにしてもよい。また、クロマトグラフ及び/又は質量分析装置における分析条件をユーザが入力設定することにより、該分析条件に応じた適切な上限値及び下限値が装置側で自動的に設定されるようにしてもよい。
【0010】
また、前記クロマトグラムの作成対象とする質量範囲は、質量分析装置に固有に設定された値としてもよいが、例えば、ユーザが任意の質量範囲を設定できるようにすることが望ましい。なお、該質量範囲は、1点の質量のみとしたり、前記MS分析で分析対象とする全質量範囲としたりすることもできる。
【0011】
上記で決定された実行タイミングにおいてMS/MS分析のプリカーサイオンとして選択し得るイオンが複数存在する場合、つまり、前記MS分析の結果、前記実行タイミングに対応する時刻において前記質量範囲に複数のイオンが検出されている場合、前記MS/MS分析実行手段は更に、前記複数のイオンのうち、いずれのイオンをどのような順序でプリカーサイオンに設定してMS/MS分析を行うのかを決定する。例えば、前記複数のイオンをピーク強度の大きい順又は小さい順、質量の小さい順又は大きい順に全て(又は予め定められた個数だけ)選択して順次MS/MS分析したり、前記複数のイオンのうち所定の基準を満たすもの(例えば、ピーク強度が予め定められた下限値以上のもの、又はピーク強度が予め定められた下限値と上限値の間に位置するもの)のみを選択して所定の順序でMS/MS分析したりすることができる。なお、前記のようにプリカーサイオンとして選択し得るイオンが複数存在する場合に、いずれのイオンをどのような順序でプリカーサイオンに設定してMS/MS分析を行うかは、装置に対し決めておいてもよいし、分析条件の一つとしてユーザが予め設定できるようにしてもよい。
【0012】
また、前記本発明に係る質量分析装置は、
前記クロマトグラム作成手段が、予め定められた複数の質量範囲に関する複数のクロマトグラムを作成するものであり、
前記タイミング決定手段が、前記複数のクロマトグラムの少なくともいずれか1つの信号強度が予め定められた下限値を超えた後、予め定められた上限値に達した時点、又は前記下限値を超えた後、前記上限値に達することなくピークトップに至った時点を前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定するものであり、
前記MS/MS分析実行手段が、前記イオン化部で生成されたイオンのうち、前記タイミング決定に使用されたクロマトグラムに対応する質量範囲に属するイオンをプリカーサイオンとするMS/MS分析を実行するものとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成から成る本発明に係る質量分析装置によれば、前記クロマトグラム上の信号強度が、前記下限値と上限値の間で最も大きくなるタイミングをMS/MS分析の実行タイミングとして決定し、該タイミングに従ってMS/MS分析用のプリカーサイオン採取を行うことができる。これにより、最適な量のプリカーサイオンに対してMS/MS分析を行うことが可能となり、従来よりも高品質なMS/MSスペクトルを得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係るLC/IT−TOFMSの概略構成図。
図2】同実施例における分析手順の一例を示すフローチャート。
図3】同実施例において収集される3次元データを模式的に表した図。
図4】同実施例におけるMS/MS分析実行タイミングの決定方法を説明する図。
図5】同実施例における分析手順の別の例を示すフローチャート。
図6】従来のMS/MS分析実行タイミング決定方法の一例を説明する図。
図7】従来のMS/MS分析実行タイミング決定方法の別の例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例である液体クロマトグラフ/イオントラップ飛行時間型質量分析装置(LC/IT−TOFMS)について、図1図4を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は本実施例のLC/IT−TOFMSの要部の構成図である。このLC/IT−TOFMSは、大別して、液体クロマトグラフ(LC)部1と質量分析(MS)部2とを有し、LC部1とMS部2とを接続する大気圧イオン化インターフェースには、エレクトロスプレイイオン化(ESI)インターフェースが用いられている。なお、イオン化法はこれに限るものでなく、例えば大気圧化学イオン化法(APCI)や大気圧光イオン化法(APPI)など、他の各種態様のイオン化インターフェースを用いることができる。
【0017】
液体クロマトグラフ(LC)部1に設けられた送液ポンプ12は移動相容器11に貯留されている移動相を吸引し、一定流量でインジェクタ13を通してカラム14へと送給する。インジェクタ13はオートサンプラを備え、予め用意された試料を自動的に選択し、所定のタイミングで所定量の試料を移動相中に注入する。インジェクタ13により移動相中に試料が注入されると、移動相の流れに乗って試料はカラム14へと導入される。カラム14を通過する間に試料中の各種成分は分離され、時間的にずれてカラム14の出口から溶出し、MS部2に導入される。
【0018】
MS部2は、大気圧雰囲気に維持されるイオン化室21(本発明における「イオン化部」に相当)と、ターボ分子ポンプ(図示せず)により真空排気され、高真空雰囲気に維持される分析室29と、を有し、その間には、段階的に真空度が高くされた第1段中間真空室24及び第2段中間真空室27が配設されている。イオン化室21と第1段中間真空室24とは細径の脱溶媒管23を介して連通しており、第1段中間真空室24と第2段中間真空室27とは、円錐形状のスキマー26の頂部に穿設された小径のオリフィスを介して連通している。
【0019】
LC部1から供給された試料成分を含む溶出液がイオン源としてのESIノズル22に達すると、高圧電源(図示せず)から印加されている直流高電圧により電荷を付与され、帯電した微小液滴としてイオン化室21内に噴霧される。この帯電液滴は大気由来のガス分子と衝突してさらに微細な液滴に粉砕され、速やかに乾燥して(脱溶媒化されて)試料分子が気化する。この試料分子はイオン蒸発反応を生じてイオン化される。発生したイオンを含む微小液滴は、差圧によって脱溶媒管23内に引き込まれ、脱溶媒管23内を通る間に一層脱溶媒化が進行してイオンが発生する。イオンはイオンガイド25、28で収束されつつ2つの中間真空室24、27を通過し分析室29へ送られる。分析室29内で、イオンは3次元四重極型のイオントラップ30の内部に導入される。
【0020】
イオントラップ30では、電源(図示せず)より各電極に印加される高周波電圧により形成される四重極電場によって、イオンが一旦捕捉・蓄積される。イオントラップ30の内部に蓄積された各種イオンは、所定のタイミングで一斉に運動エネルギーを付与され、質量分離器としての飛行時間型質量分離器(TOF)31に向けてイオントラップ30から放出される。つまり、イオントラップ30がTOF31に対するイオンの飛行の出発点となる。TOF31は直流電源(図示せず)から直流電圧が印加されるリフレクトロン電極32を備え、これにより形成される直流電場の作用によってイオンは折り返され、検出器としてのイオン検出器33に到達する。一斉にイオントラップ30から出射されたイオンは質量(厳密にはm/z)の小さいイオンほど速く飛行し、質量に応じた時間差を以てイオン検出器33に到達する。イオン検出器33は到達したイオン数に応じた電流を検出信号として順次出力する。
【0021】
この検出信号はA/D変換器34でデジタル値に変換された後に、データ処理部40に入力される。データ処理部40では、マススペクトル作成部41においてイオントラップ30からイオンが一斉に出射された時点からイオン検出器33に到達するまでの時間毎のイオンの信号強度を計測し、その時間情報を質量情報に換算して、横軸を質量、縦軸を信号強度とするマススペクトルを作成する。このデータ処理部40は、前記マススペクトル作成部41に加えて、本実施例に特徴的な動作を達成するために、クロマトグラム作成部42、タイミング決定部43、プリカーサイオン決定部44を機能ブロックとして備える。
【0022】
分析制御部46は、中央制御部47からの指示に基づいて、LC部1による試料の分離及びMS部2によるMS分析又はMS/MS分析を実行するためにLC部1及びMS部2の各部の動作を制御する。中央制御部47にはユーザインターフェースとしての操作部48及び表示部49が接続されており、操作部48によるオペレータの操作を受けて分析のための各種の指令を分析制御部46やデータ処理部40に出力するとともに、マススペクトル及びクロマトグラム等の分析結果を表示部49に出力する。また、中央制御部47にはMS部2により収集される膨大な量のデータ及び操作部48から入力された設定情報などを格納する記憶部45が接続されている。中央制御部47、分析制御部46、及びデータ処理部40は、例えば、所定の制御/処理ソフトウエアを搭載したパーソナルコンピュータにより具現化することができる。なお、本実施例におけるイオントラップ30、TOF31、及び分析制御部46が協同して本発明におけるMS分析実行手段及びMS/MS分析実行手段として機能する。
【0023】
イオントラップ30は図示するように、例えばアルゴン等の衝突誘起解離(CID)ガスを供給できる構成となっており、イオントラップ30に蓄積したイオンをCIDにより開裂させてプロダクトイオンを生成させることができる。MS/MS分析を行う際には、まず、イオン化室21で生成された各種イオンをイオントラップ30に蓄積した後に、それらイオンの中で特定の質量を有するイオンのみをプリカーサイオンとして選択的に残すようにイオントラップ30の各電極に印加する電圧を制御し、それからCIDガスをイオントラップ30に導入してプリカーサイオンを開裂させる。そうして生成されたプロダクトイオンをイオントラップ30から一斉にTOF31に向けて放出し、質量毎に分離して検出することで、プロダクトイオンのマススペクトル、つまりMS/MSスペクトルを得ることができる。
【0024】
上記構成を有するLC/IT−TOFMSにおける特徴的な動作を、図2図4を参照して説明する。図2は本実施例に係るLC/IT−TOFMSの制御・処理手順を示すフローチャートである。
【0025】
オペレータが操作部48から分析条件を入力設定した上で自動分析の実行を指示すると、この指示を受けた中央制御部47はまずインジェクタ13に用意された目的試料のLC/MS分析を実行するように分析制御部46に指示を出し、これに応じて分析制御部46はLC部1及びMS部2をそれぞれ制御する。これにより、インジェクタ13から移動相中に目的試料が注入されて(ステップS11)カラム14に送り込まれ、カラム14からの溶出液はMS部2に導入される。MS部2は順次導入される前記溶出液を対象として繰り返し質量分析を実行する(ステップS12)。なお、この段階ではイオンの選別及び開裂を伴わない質量分析(すなわちMS分析)が行われる。
【0026】
上記MS分析によってイオン検出器33で得られた検出信号は、A/D変換器34を経てデータ処理部40のマススペクトル作成部41に送出される。マススペクトル作成部41では、イオントラップ30からの1回のイオン出射に応じて所定の質量範囲のマススペクトルが作成される。こうしたMS分析及びマススペクトルの作成が時間経過に伴って繰り返し実行されることにより、データ処理部40では、図3に示すような質量(m/z)、強度、時間の3つのディメンジョンを持つ3次元データが得られ、これが記憶部45に保存される。
【0027】
クロマトグラム作成部42では、記憶部45に保存された3次元データの中で、予め設定された質量範囲(図3中のΔM)のデータを抽出し、質量(m/z)軸方向に強度データを積算して、横軸が時間、縦軸が強度の2次元データに変換する。これは前記質量範囲ΔMに対応したクロマトグラム(マスクロマトグラム)である。このクロマトグラムはクロマトグラム作成部42によりリアルタイムで更新、つまりMS部2から新たなデータが入力される毎にそのデータに対応したカーブを追加するように更新される(ステップS13)。図4にこのクロマトグラムの一例を示す。
【0028】
該クロマトグラムの作成対象とする質量(すなわちΔMの幅)は予め装置に対し決めておいてもよいし、分析条件の1つとしてユーザ(分析担当者)が設定できるようにしてもよい。なお、前記のΔMは、ある1つの質量であってもよく、その場合には積算処理は不要である。
【0029】
MS/MS分析のプリカーサイオンとするイオンの質量が予め決まっている場合は、クロマトグラム作成部42は、該質量についてのクロマトグラムのみを生成すればよい。そうでない場合には、クロマトグラム作成部42は、MS部2によるMS分析で分析対象とされる質量範囲の全域に関するクロマトグラム(いわゆるトータルイオンクロマトグラム)を作成するか、あるいは該質量範囲を複数の区間に分割し、各区間に対応する質量範囲のクロマトグラム(マスクロマトグラム)をそれぞれリアルタイムで作成する。
【0030】
カラム14からの溶出液中に試料成分が存在しないときにはクロマトグラムの信号強度はほぼゼロ(又はベースライン)を維持するが、ある時点で試料成分が流出し始めると、それに対応するクロマトグラムの信号強度が上昇し始める(図4参照)。タイミング決定部43はクロマトグラム作成部42で作成される1つ又は複数のクロマトグラムについて最新の強度データ(信号強度)を常に監視し、これが予め設定された条件に適合するか否かを順次判定する。そして、いずれかのクロマトグラムの強度が前記条件を満たすと判定された時点で、該クロマトグラムに対応するイオンをプリカーサイオンとして採取し、MS/MS分析を行う。このように、クロマトグラムに基づいて自動的にプリカーサイオンの採取及びMS/MS分析を実行することにより、LC部1での一回の試料注入に対して、カラム14から目的成分が溶出するタイミングで該目的成分に由来するイオンを捉え、該成分の構造や組成を反映したMS/MSスペクトルを自動的に取得することができる。
【0031】
本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置の特徴は、上述のようにMS分析により得られるクロマトグラムからMS/MS分析用のプリカーサイオンの採取タイミングを決定する際にタイミング決定部43において行われるタイミング決定動作にある。以下、この点について詳しく説明する。タイミング決定部43によるプリカーサイオンの採取タイミング決定を行うに際し、ユーザは予め操作部48から判定条件を入力して記憶部45に記憶させておく。ここでは、判定条件の一つとして、信号強度の上限値ULと下限値LL(但しUL>LL)とをペアで設定することができる。
【0032】
タイミング決定部43は、MS部2でのMS分析の繰り返しにより、クロマトグラム作成部42で時々刻々と作成される1つ又は複数のクロマトグラムの最新の強度データを下限値LLと順次比較し、信号強度が下限値LLを超えたときに試料成分に関するピークの開始点であると判断する。さらに時間が経過して信号強度が上限値ULに到達すると、その時点をMS/MS分析の実行タイミング(すなわちプリカーサイオンの採取タイミング)として決定する。また、下限値LLを超えた後、上限値ULに到達することなくピークトップに至った場合にも、その時点をプリカーサイオンの採取タイミングとして決定する。つまり、図4に示すクロマトグラムの場合、時刻t1及びt2がそれぞれプリカーサイオンの採取タイミングとなる。なお、ピークトップに到達したか否かの判定には周知の方法を利用することができ、例えば、信号強度の変化(すなわちクロマトグラム波形の傾き)を調べ、傾きが正から負に転じた時点をピークトップの位置と判断することができる。
【0033】
上記のタイミング決定部43における判断手順を図2のフローチャートに沿って説明する。まず、タイミング決定部43は、クロマトグラムが更新される毎に該クロマトグラムの最新の強度データを下限値LLと比較し、信号強度が下限値LL以上であるか否かを判定する(ステップS14)。信号強度が下限値LL未満であった場合(ステップS14でNo)にはステップS12に戻って、MS分析及び同様の判定を繰り返し実行する。一方、信号強度が下限値LL以上であった場合(ステップS14でYes)には、続いて該信号強度が上限値UL以上であるか否かを判定し(ステップS15)、上限値UL未満であった場合(ステップS15でNo)には、続いてクロマトグラムがピークトップに到達したか否かを判定する(ステップS16)。クロマトグラムがピークトップに到達していなかった場合(ステップS16でNo)には、再びMS分析を実行し(ステップS17)、クロマトグラムを更新して(ステップS18)、ステップS15に戻る。一方、信号強度が上限値UL以上であった場合(ステップS15でYes)、又はクロマトグラムがピークトップに到達した場合(ステップS16でYes)には、その時点をMS/MS分析の実行タイミングとして決定する(ステップS19)。
【0034】
なお、上記の例ではMS分析を一回実行する毎にクロマトグラムを更新し、クロマトグラムが一回更新される毎にタイミング決定部43における判定(ステップS14、又はS15及びS16)を行うようにしたが、これに限らず、MS分析を複数回実行する毎にクロマトグラムを更新したり、クロマトグラムを複数回更新する毎にタイミング決定部43における判定を行ったりするようにしてもよい。
【0035】
以上により、MS/MS分析の実行タイミングが決定されると、続いて、プリカーサイオン決定部44が、該実行タイミングとして決定された時刻にMS部2で検出されたイオンのうち、前記タイミング決定に用いられたクロマトグラム(すなわち上記所定の判定条件を満たしたクロマトグラム)に対応した質量範囲ΔMに属するイオンをMS/MS分析のプリカーサイオンとして決定する(ステップS20)。具体的には、前記実行タイミングとして決定された時刻、例えばt1におけるマススペクトル(MSスペクトル)を記憶部45から取得し、該MSスペクトルにおいて、前記質量範囲ΔM内に出現しているピークに対応する質量をプリカーサイオンの質量として決定する。このとき、前記質量範囲ΔM内に複数のピークが存在する場合は、予め定められた条件を満たすピーク、例えば該ΔM内で最大のピーク強度を与える質量をプリカーサイオンの質量とする。
【0036】
プリカーサイオンの質量が決定すると、前記MS/MS分析の実行タイミングを示すタイミング信号及びプリカーサイオンの質量の情報がデータ処理部40から中央制御部47に送られる。中央制御部47は、該タイミング信号を受け取った時点で直ちに前記質量のイオンを採取してMS/MS分析を行うように分析制御部46に指示を出し、これに応じて分析制御部46がMS部2を制御する(ステップS21)。なお、上記の例において、タイミング決定部43によりMS/MS分析の実行タイミング、例えば図4の時刻t1が決定された時点では当然ながら該時刻t1は過ぎているため、時刻t1にMS部2で検出されたイオンはイオントラップ30内に存在していない。そのため、実際にはその直後にイオントラップ30に捕捉・蓄積されたイオンについてMS/MS分析(つまりイオントラップ30におけるイオンの質量選別と開裂操作、開裂により生じた各種プロダクトイオンのTOF31による質量分離、及びイオン検出器33による検出)が行われることとなる。
【0037】
MS/MS分析が完了したらカラム14から試料成分の溶出が完了したか否かを中央制御部47が判定する(ステップS22)。溶出が完了したか否かは、例えば、上述のステップS11における試料注入から所定の時間が経過したか否かによって判定することができる。ここで、溶出が完了していないと判断された場合(ステップS22でNo)には、再びステップS12に戻ってカラム14からの溶出液に対するMS分析が実行され、試料成分の溶出が完了するまで(すなわちステップS22でYesになるまで)ステップS12〜S22が繰り返し実行される。
【0038】
以上のように、本実施例に係る質量分析装置によれば、MS分析で得られるクロマトグラムを2つの閾値(上限値ULと下限値LL)に基づいて判定することにより、試料成分に由来するピークの信号強度が前記2つの閾値の間で最も大きくなるタイミングでMS/MS分析用のプリカーサイオンを採取することができる。これにより、質量分離性能が低下しない範囲でできるだけ多量のプリカーサイオンをMS/MS分析に供することができるため、従来の自動MS/MS分析機能を備えた質量分析よりも品質の高いMS/MSスペクトルを得ることが可能となる。
【0039】
なお、上記の例ではLC部1での一回の試料注入に対してMS分析とMS/MS分析の両方を実行する構成としたが、これに限らず、例えば、同一の試料をLC部1に二回導入するものとし、一回目の試料導入ではMS分析のみを行って、その結果からMS/MS分析の実行タイミングとプリカーサイオンの質量を決定し、二回目の試料導入において前記の実行タイミングで前記質量のイオンをプリカーサイオンとするMS/MS分析を行うようにしてもよい。この場合の動作を図5のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
この例では、まずLC部1のインジェクタ13から移動相中に目的試料を注入し(ステップS31)、試料成分の溶出が完了するまでカラム14からの溶出液に対して繰り返しMS分析を実行する(ステップS32、S33)。試料成分の溶出が完了したら(すなわちステップS33でYesになったら)、前記MS分析の結果に基づいてクロマトグラム作成部42が予め定められた1つ又は複数の質量範囲に関するクロマトグラムを作成する(ステップS34)。
【0041】
続いて、該クロマトグラムに基づいてタイミング決定部43がMS/MS分析の実行タイミングを決定する(ステップS35)。具体的には、タイミング決定部43が前記クロマトグラム上で信号強度が前記下限値LLを超えた後、上限値ULに達する箇所、又は下限値LLを超えた後、上限値ULに達することなくピークトップに至る箇所を探し、該箇所に対応する時刻をMS/MS分析の実行タイミングとして決定する。
【0042】
続いて、プリカーサイオン決定部44が前記MS/MS分析の実行タイミングとして決定された各時刻におけるマススペクトルを記憶部45から読み出し、該マススペクトルにおいて、該実行タイミングの決定に用いられたクロマトグラムに対応する質量範囲ΔM内に出現しているピークの質量を、該実行タイミングにおけるプリカーサイオンの質量として決定する(ステップS36)。以上により決定された1つ又は複数の実行タイミングと各実行タイミングにおけるプリカーサイオンの質量の情報は互いに関連付けて記憶部45に記憶される。
【0043】
続いて、上記のステップS31と同一の試料を再びインジェクタ13から移動相中に注入し(ステップS37)、その後、MS/MS分析の実行タイミングとして記憶部45に記憶された時刻に到達した時点(すなわちステップS38でYesになった時点)で、該実行タイミングに対応する質量のイオンがイオントラップ30で採取され、該イオンをプリカーサイオンとするMS/MS分析が実行される(ステップS39)。その後も、MS/MS分析の実行タイミングとして記憶部45に記憶された時刻が到来する毎に、MS/MS分析が実行され(ステップS38、S39)、全ての実行タイミングにおけるMS/MS分析が完了した時点(すなわちステップS40でYesになった時点)で、一連の分析が完了する。
【0044】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を挙げて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容されるものである。
【0045】
例えば、本発明は、飛行時間型質量分離器以外の他の質量分離器を用いた質量分析装置にも適用可能であり、例えば四重極質量フィルタを用いた質量分析装置にも適用することができる。また、3次元四重極型イオントラップの代わりに、高周波電圧が印加される四重極又は多重極ロッドを内装したコリジョンセルを用いることも可能である。この場合、プリカーサイオンの選択はそのコリジョンセルの前段で行う必要があるから、典型的な例としては、三連四重極型MS/MS質量分析装置となる。また、上記のLC部1に代えてガスクロマトグラフ(GC)を用いる構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1…LC部
13…インジェクタ
14…カラム
2…MS部
21…イオン化室
29…分析室
30…イオントラップ
31…TOF
33…イオン検出器
34…A/D変換器
40…データ処理部
41…マススペクトル作成部
42…クロマトグラム作成部
43…タイミング決定部
44…プリカーサイオン決定部
45…記憶部
46…分析制御部
47…中央制御部
48…操作部
49…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7