特許第5780370号(P5780370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5780370ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド樹脂−繊維複合材
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  • 特許5780370-ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド樹脂−繊維複合材 図000028
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780370
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド樹脂−繊維複合材
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20150827BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20150827BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20150827BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20150827BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20150827BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20150827BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20150827BHJP
   F16C 25/00 20060101ALI20150827BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C08L79/08 Z
   C08G73/10
   C08K3/00
   C08K5/00
   C08J5/04CFG
   G02B5/20
   H01L31/04 132
   F16C25/00
   G03G15/16
【請求項の数】29
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2014-548788(P2014-548788)
(86)(22)【出願日】2014年8月4日
(86)【国際出願番号】JP2014070533
(87)【国際公開番号】WO2015020020
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2014年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-163310(P2013-163310)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-163319(P2013-163319)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-163321(P2013-163321)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-163323(P2013-163323)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-163324(P2013-163324)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-163325(P2013-163325)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-163329(P2013-163329)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇希
(72)【発明者】
【氏名】三田寺 淳
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5365762(JP,B2)
【文献】 特開2002−206057(JP,A)
【文献】 特開2009−114439(JP,A)
【文献】 特開2011−246726(JP,A)
【文献】 特開2005−320424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08G 73/00−73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有し、該添加剤(B)が、充填剤(b1)、難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、酸化防止剤(b5)、及び導電剤(b6)から選ばれる少なくとも1種であり、該添加剤(B)の含有量が0.0001〜80質量%であるポリイミド樹脂組成物を含むカラーフィルター
【化1】
(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。Rは炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項2】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有し、該添加剤(B)が、充填剤(b1)、難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、酸化防止剤(b5)、及び導電剤(b6)から選ばれる少なくとも1種であり、該添加剤(B)の含有量が0.0001〜80質量%であるポリイミド樹脂組成物を含む太陽電池基板。
【化2】
(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。Rは炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項3】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有し、該添加剤(B)が、充填剤(b1)、難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、酸化防止剤(b5)、及び導電剤(b6)から選ばれる少なくとも1種であり、該添加剤(B)の含有量が0.0001〜80質量%であるポリイミド樹脂組成物を含む自動車用軸受け。
【化3】
(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。Rは炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項4】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有し、該添加剤(B)が、充填剤(b1)、難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、酸化防止剤(b5)、及び導電剤(b6)から選ばれる少なくとも1種であり、該添加剤(B)の含有量が0.0001〜80質量%であるポリイミド樹脂組成物を含むコピー機用軸受け。
【化4】
(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。Rは炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項5】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有し、該添加剤(B)が、充填剤(b1)、難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、酸化防止剤(b5)、及び導電剤(b6)から選ばれる少なくとも1種であり、該添加剤(B)の含有量が0.0001〜80質量%であるポリイミド樹脂組成物を含む電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト。
【化5】
(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。Rは炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項6】
が下記式(R1−1)又は(R1−2)で表される2価の基である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【化6】
(m11及びm12は、それぞれ独立に、0〜2の整数である。m13〜m15は、それぞれ独立に、0〜2の整数である。)
【請求項7】
が下記式(R1−3)で表される2価の基である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【化7】
【請求項8】
が炭素数5〜12のアルキレン基である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項9】
が下記式(R2−1)又は(R2−2)で表される2価の基である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【化8】
(m21及びm22は、それぞれ独立に、1〜19の整数である。m23〜m25は、それぞれ独立に、1〜18の整数である。)
【請求項10】
及びXが、それぞれ独立に、下記式(X−1)〜(X−4)のいずれかで表される4価の基である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【化9】
(R11〜R18は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。p11〜p13は、それぞれ独立に、0〜2の整数である。p14、p15、p16及びp18は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。p17は0〜4の整数である。L11〜L13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【請求項11】
ポリイミド樹脂(A)が、さらに下記式(3)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(3)の繰り返し構成単位の含有比が25モル%以下である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【化10】
(Rは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。Xは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項12】
ポリイミド樹脂(A)が、360℃以下の融点を有し、かつ200℃以上のガラス転移温度を有する、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項13】
充填剤(b1)が、シリカ、アルミナ、カオリナイト、ワラストナイト、マイカ、タルク、クレー、セリサイト、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウィスカー、珪素系ウィスカー、アクリル繊維、ポリ(ベンズイミダゾール)繊維、及び全芳香族ポリイミド繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項14】
難燃剤(b2)が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、及び金属酸化物系難燃剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項15】
着色剤(b3)が、青色染料、緑色染料、黒鉛、カーボンブラック、二酸化チタン、硫酸カルシウム、及び炭酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項16】
摺動性改良剤(b4)が、二硫化モリブデン、金属石鹸、鉱油、合成油、ワックス、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、及び球状フェノールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項17】
酸化防止剤(b5)が、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及びアミン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項18】
導電剤(b6)が、炭素系導電剤、金属系導電剤、金属酸化物系導電剤、及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項19】
前記ポリイミド樹脂組成物中の充填剤(b1)の含有量が、0.1〜70質量%である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項20】
前記ポリイミド樹脂組成物中の難燃剤(b2)の含有量が、0.1〜50質量%である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項21】
前記ポリイミド樹脂組成物中の着色剤(b3)の含有量が、0.0001〜50質量%である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項22】
前記ポリイミド樹脂組成物中の摺動性改良剤(b4)の含有量が、0.1〜50質量%である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項23】
酸化防止剤(b5)の含有量が、ポリイミド樹脂(A)100質量部に対し0.01〜10質量部である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項24】
前記ポリイミド樹脂組成物中の導電剤(b6)の含有量が、0.1〜60質量%である、請求項1に記載のカラーフィルター、請求項2に記載の太陽電池基板、請求項3に記載の自動車用軸受け、請求項4に記載のコピー機用軸受け、又は、請求項5に記載の電子画像形成装置用定着ベルト又は中間転写ベルト
【請求項25】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)を繊維材料(C)に含浸してなる複合材。
【化11】
(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。Rは炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【請求項26】
繊維材料(C)が、無機繊維、合成繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項25に記載の複合材。
【請求項27】
繊維材料(C)が、平均繊維長1cm以上である請求項25又は26に記載の複合材。
【請求項28】
請求項2527のいずれかに記載の複合材を含む成形体。
【請求項29】
請求項2527のいずれかに記載の複合材を300〜400℃で熱成形する工程を有する、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂組成物及びポリイミド樹脂−繊維複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合によって、高熱安定性、高強度、高耐溶媒性を有する有用なエンジニアリングプラスチックであり、幅広い分野で応用されている。また結晶性を有しているポリイミド樹脂はその耐熱性、強度、耐薬品性をさらに向上させることができることから、金属代替等としての利用が期待されている。しかしながらポリイミド樹脂は高耐熱性である反面、熱可塑性を示さず、成形加工性が低いという問題がある。
【0003】
ポリイミド成形材料としては高耐熱樹脂ベスペル(登録商標)等が知られているが(特許文献1)、高温下でも流動性が極めて低いため成形加工が困難であり、高温、高圧条件下で長時間成形を行う必要があることからコスト的にも不利である。これに対し、結晶性樹脂のように融点を有し、高温での流動性がある樹脂であれば容易にかつ安価で成形加工が可能である。
【0004】
そこで近年、熱可塑性を有するポリイミド樹脂が報告されている。熱可塑性ポリイミド樹脂はポリイミド樹脂が本来有している耐熱性に加え、成形加工性にも優れる。そのため熱可塑性ポリイミド樹脂は、汎用の熱可塑性樹脂であるナイロンやポリエステルは適用できなかった過酷な環境下で使用される成形体への適用も可能である。
【0005】
熱可塑性のポリイミド樹脂としては、Aurum(登録商標)等が知られている(非特許文献1)。しかしながらAurumは融点が高く、成形温度は通常400℃以上となるため使用できる装置が制限される。
【0006】
ポリイミド樹脂の成形加工性を向上させる方法、すなわちポリイミド樹脂の融点を低くする方法の一つとしては、原料ジアミンとして長直鎖の脂肪族ジアミンを使用する方法がある(非特許文献2)。これによりポリイミド樹脂の剛直性が低下するため、融点も低くなる。しかしながらこの方法では、融点の低下とともにガラス転移温度も低下し、特に高温時の強度低下が起こる懸念がある。更に、脂肪族ジアミンを主成分とする原料ジアミンを用いたポリイミド樹脂の合成は困難であるという問題もある。
【0007】
熱可塑性ポリイミド樹脂には、その用途に応じて各種性能、例えば、優れた機械的強度、難燃性、意匠性、摺動性、耐熱老化性、導電性等を付与することが望まれる。
【0008】
機械的強度の付与に関して、熱可塑性ポリイミド樹脂はガラス繊維や炭素繊維等の各種充填剤により強化することも可能である。コンパウンド樹脂の中でも、高耐熱樹脂をガラス繊維や炭素繊維等の充填剤によって強化した材料は、表面実装用の電子部材、自動車や航空機のエンジン回り用部材やダクト用部材等、高強度、高耐熱性、及び長期耐熱性が要求される分野で広く採用が進んでいる。近年では技術の進歩とともに強度や耐熱への要求も高まっており、各種充填剤の添加による強度や耐熱性等の各種特性の向上は顕著であるため、市場においてもコンパウンド樹脂が占める割合は高い。しかしながらAurumに充填剤を添加すると更に流動性が低下し、成形加工性が低くなると予想される。
【0009】
難燃性の付与に関して、Aurumは全芳香族ポリイミドであるため、UL94規格でV−0レベルの高い難燃性を示す。しかしながらAurumは前述のように融点が高く、成形加工性が低いという問題がある。一方で、ポリイミド樹脂の成形加工性を向上させるために原料ジアミンとして長直鎖の脂肪族ジアミンを使用すると、ポリイミド樹脂の脂肪族部位が耐熱分解性を低下させるため、全芳香族ポリイミド樹脂のような極めて高い難燃性は発現しない(非特許文献3)。
【0010】
意匠性の付与に関して、ポリイミド樹脂は、通常褐色に着色している。これは分子間、分子内で電荷移動が発生することに起因する。ポリイミド樹脂の着色は、優れた色相を要求される分野や、医療用機械、食品製造用機械、太陽電池用基板等、意匠性を要求される分野においては問題となる場合がある。
このような着色は各種着色剤による改善が可能である。ポリイミド樹脂は赤味と黄色味が混ざったような褐色を呈しているが、これらの色の補色である青や緑の着色剤により褐色を打ち消すことが可能であると考えられる。また、白色の着色剤を数十質量%程度添加することでも、ポリイミド樹脂由来の着色を抑えることが可能と考えられる。
【0011】
しかしながら、通常のポリイミド樹脂は分解温度以前に融点を示さないため、着色剤が均一に分散されたポリイミド樹脂を得るためには、その前駆体であるポリアミド酸溶液の段階で着色剤を添加する必要がある。この場合、最終成形品はフィルムやシート形状に限られる。可溶性ポリイミド樹脂においてもポリイミド樹脂溶液の状態で着色剤を添加する必要があるため、同様に最終成形品の形状が限定される。
【0012】
熱可塑性ポリイミド樹脂は、加熱溶融時に着色剤を添加できると同時に、各種形状を有する成形体の製造が可能であるため有用である。しかしながらAurumは前述のように融点が高く、成形温度は通常400℃以上となるため使用できる着色剤が制限される。
【0013】
摺動性の付与に関して、ポリイミド樹脂は一般的に良好な高温摺動特性を示すが、摺動性改良剤を添加することで更に高い高温摺動特性を目指すことが可能となる。
高耐熱樹脂に摺動性改良剤を添加した摺動性材料は歯車、軸受け、ベアリング、ブッシュなどに加工され、特に輸送機のような高耐熱が要求される分野で広く使用が進んでおり、その有用性は高い。
【0014】
耐熱老化性の付与に関して、前述のAurumは全芳香族ポリイミドであり、全芳香族ポリイミドは、一般には高い耐熱老化性を示す。しかしながらAurumは前述のように融点が高く、成形加工性が低いという問題がある。またポリイミド樹脂の成形加工性を向上させるために原料ジアミンとして長直鎖の脂肪族ジアミンを使用すると、該ポリイミド樹脂の脂肪族部位が熱劣化の開始点となってしまうため、耐熱老化性は全芳香族ポリイミドに大きく劣る(非特許文献3)。
【0015】
導電性の付与に関して、ポリイミド樹脂は耐熱性、機械的強度等に優れることから、カーボンブラック等の導電性材料を配合して、複写機、プリンター、レーザープリンター、ファクシミリ及びこれらの複合装置等に用いられる定着ベルト、中間転写ベルトに使用することが検討されている。しかしながら熱可塑性を示さない通常のポリイミド樹脂は合成、製膜が複雑な工程を経ることから、カーボンブラックを添加すると凝集しやすいという問題がある(例えば特許文献4を参照)。また前述のAurumは熱可塑性ポリイミド樹脂であるが、融点が高く、成形加工性が低いという問題がある。
【0016】
また、熱可塑性樹脂と繊維材料と組み合わせた複合材も知られている。
ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の繊維材料と樹脂とを組み合わせた複合材は、軽量で剛性が高いことから、それを使用した成形体は、機械部品、電気・電子機器部品、車両用部品・部材、航空・宇宙用機器部品等として広く用いられてきている。前記複合材の樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂が通常用いられている。熱硬化性樹脂を用いた複合材は、機械的強度等の物性に優れるといった利点がある一方で、一度加熱して成形すると再成形できないという欠点がある。このため、何度でも加熱して再成形可能な熱可塑性樹脂を用いた複合材(特許文献2及び3参照)が注目されているが、機械的強度等の物性の更なる向上が期待されている。
【0017】
機械的強度に優れた樹脂としてはポリイミド樹脂が知られている。ポリイミド樹脂は分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合によって、機械的強度に優れ、さらに熱安定性及び耐溶媒性にも優れる有用なエンジニアリングプラスチックである。しかしながら、一般的にポリイミド樹脂は分解温度より低い温度には融点を有しておらず、熱可塑性を示さない。したがって、上述した熱可塑性樹脂と比較すると、ポリイミド樹脂は繊維材料との複合化が難しく、複合材が製造できたとしても、その複合材の成形加工性が低いという難点がある。
【0018】
ポリイミド樹脂の中には熱可塑性を示すポリイミド樹脂も存在し、そのようなポリイミド樹脂としてはAurum(登録商標)等が知られている(非特許文献1参照)。構造中に柔軟なエーテル結合とメタ構造を複数持たせることで、剛直な全芳香族ポリイミドでありながら、通常観測されることは難しい融点を分解温度より低い温度に付与することに成功している。しかしながら柔軟な構造を多数取り入れているものの、その融点はポリイミド特有の高い値(388℃)であり、特に成形の際には400℃を超えるような高温を必要とし、装置上の制約やハンドリング性としては未だ難点があると言える。
【0019】
成形性の改善のため、ポリイミドの融点を下げる取り組みは幾つかあるが、実際問題としては、融点を低下させるとガラス転移温度も低下し、ポリイミド特有の高ガラス転移温度という特徴は失われることとなる。融点とガラス転移温度は経験則として、ある一定の関係を持つために(一般的には絶対温度表記で、『ガラス転移温度/融点=2/3』、程度に該当するものが多い)、成形性を上げるために融点を下げると耐熱性の基本要因の一つであるガラス転移温度も低下するのが通常である。
例えば、ポリイミド樹脂の融点を低くする方法の一つとして、原料ジアミンとして長直鎖の脂肪族ジアミンを使用する方法がある(非特許文献2)。これによりポリイミド樹脂の剛直性が低下するため、融点も低くなる。しかしながら、先述した一般則に従い、融点の低下とともにガラス転移温度も大きく低下し、ポリイミド特有の高ガラス転移温度という特徴は失われることとなる。更に、脂肪族ジアミンを主成分とする原料ジアミンを用いたポリイミド樹脂の合成は困難であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2005−28524号公報
【特許文献2】特開平7−173300号公報
【特許文献3】特開2013−10255号公報
【特許文献4】特開2005−249952号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】“オーラム技術資料/G−06 AURUMの射出成形条件”、[online]、2004年1月15日、[平成25年6月28日検索]、インターネット<URL:http://jp.mitsuichem.com/info/aurum/aurum#pdf/G#06.pdf>
【非特許文献2】Macromol.Rapid.Commun.,885,26,2005
【非特許文献3】日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編「新訂 最新ポリイミド 基礎と応用」、株式会社エヌ・ティー・エス、2010年8月発行、p.175−176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の第一の目的は、成形加工が容易であり、かつ耐熱性に優れ、所望の性能、例えば機械的強度、難燃性、意匠性、摺動性、耐熱老化性、導電性等を有する成形体を作製しうるポリイミド樹脂組成物を提供することにある。
本発明の第二の目的は、従来技術における上記したような課題を解決する、新規なポリイミド樹脂−繊維複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、特定のポリイミド樹脂と、添加剤とを含有するポリイミド樹脂組成物とすることで、上記第一の課題を解決できることを見いだした。
すなわち第一の発明は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有するポリイミド樹脂組成物を提供する。
【0024】
【化1】
【0025】
(R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。R2は炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X1及びX2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0026】
また本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の異なるポリイミド構成単位を特定の比率で組み合わせてなるポリイミド樹脂を繊維材料に含浸してなる複合材が、上記第二の課題を解決できることを見出した。
【0027】
すなわち第二の発明は、前記式(1)で示される繰り返し構成単位及び前記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)を繊維材料(C)に含浸してなる複合材、を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、ポリイミド樹脂が特定の異なるポリイミド構成単位を特定の比率で含むため、例えば、360℃以下の低融点かつ170℃以上(好ましくは200℃以上)の高ガラス転移温度を有する。ポリイミド樹脂がこのような特異な性能を有することにより、成形加工が容易であり、かつ耐熱性に優れる成形体を作製しうるポリイミド樹脂組成物を提供できる。また該ポリイミド樹脂組成物に各種添加剤を添加することで、所望の性能、例えば機械的強度、難燃性、意匠性、摺動性、耐熱老化性、導電性等を付与することができる。
また本発明においては、上記特定のポリイミド樹脂を用いることで、従来の一般的なポリイミド樹脂を用いた場合と比較して、繊維材料との複合化が容易であり、かつ、複合材にリサイクル性及び成形加工性を付与することが可能となる。さらに、ポリオレフィン樹脂やポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を用いた複合材と比較すると、本発明の複合材は、耐熱性と機械的強度に非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】製造例5のオリゴイミド環状体のFD−MSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[ポリイミド樹脂組成物]
第一の発明である本発明のポリイミド樹脂組成物は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)と、添加剤(B)とを含有する。
【0031】
【化2】
【0032】
(R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。R2は炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X1及びX2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0033】
<ポリイミド樹脂(A)>
ポリイミド樹脂(A)は、前記式(1)で示される繰り返し構成単位及び前記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%である。ポリイミド樹脂(A)は特定の異なるポリイミド構成単位を、特定の比率で組み合わせてなるため、例えば、360℃以下の低融点でありながら、170℃以上(好ましくは200℃以上)の高ガラス転移温度を有する特異な性能を有する。したがってポリイミド樹脂(A)を用いると、熱可塑性を有さない通常のポリイミド樹脂や、ガラス転移温度の低い熱可塑性樹脂を用いた場合とは異なり、易成形加工性及び高耐熱性を兼ね備えた樹脂組成物が得られる。
ポリイミド樹脂(A)は成形加工性に優れ、加熱溶融時に添加剤(B)を添加できる。そのため添加剤(B)を含む樹脂組成物を容易に調製することができる。
また、添加剤(B)が充填剤(b1)を含む場合には、該樹脂組成物を用いて得られる成形体は機械的強度が高く、高温でも高い機械的強度を維持できる。添加剤(B)が難燃剤(b2)を含む場合には、該樹脂組成物を用いて得られる成形体は難燃性にも優れるものとなる。添加剤(B)が着色剤(b3)を含む場合には、ポリイミド樹脂(A)が比較的低温での成形が可能であることから着色剤の選択範囲も広く、色相調整や意匠性の付与が容易である。更に、ポリイミド樹脂(A)は全芳香族系ポリイミド樹脂と比較して着色が少ないため、色再現性にも優れる。
添加剤(B)が摺動性改良剤(b4)を含む場合には、該樹脂組成物を用いて得られる成形体は高い摺動特性を有するものとなる。また添加剤(B)が酸化防止剤(b5)を含む場合には、該樹脂組成物を用いて得られる成形体は耐熱老化性にも優れるものとなる。添加剤(B)が導電剤(b6)を含む場合には、該樹脂組成物を用いて得られる成形体は所望の導電性を有する。
【0034】
式(1)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4〜7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
1の炭素数は6〜22であり、好ましくは8〜17である。
1は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0035】
1は、好ましくは下記式(R1−1)又は(R1−2)で表される2価の基である。
【0036】
【化3】
【0037】
(m11及びm12は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。m13〜m15は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。)
【0038】
1は、特に好ましくは下記式(R1−3)で表される2価の基である。
【0039】
【化4】
【0040】
なお、上記の式(R1−3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0041】
1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
1の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18である。
1は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0042】
1は、好ましくは下記式(X−1)〜(X−4)のいずれかで表される4価の基である。
【0043】
【化5】
【0044】
(R11〜R18は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。p11〜p13は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0である。p14、p15、p16及びp18は、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、好ましくは0である。p17は0〜4の整数であり、好ましくは0である。L11〜L13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
なお、X1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基であるので、式(X−2)におけるR12、R13、p12及びp13は、式(X−2)で表される4価の基の炭素数が6〜22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X−3)におけるL11、R14、R15、p14及びp15は、式(X−3)で表される4価の基の炭素数が6〜22の範囲に入るように選択され、式(X−4)におけるL12、L13、R16、R17、R18、p16、p17及びp18は、式(X−4)で表される4価の基の炭素数が6〜22の範囲に入るように選択される。
【0045】
1は、特に好ましくは下記式(X−5)又は(X−6)で表される4価の基である。
【0046】
【化6】
【0047】
次に、式(2)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
2は炭素数5〜20(好ましくは炭素数5〜16、より好ましくは炭素数5〜12)の2価の鎖状脂肪族基である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
2は、好ましくは炭素数5〜20のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数5〜16、更に好ましくは炭素数5〜12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数6〜10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
2は、特に好ましくはヘキサメチレン基である。
【0048】
また、R2の別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5〜20(好ましくは炭素数5〜16、より好ましくは炭素数5〜12)の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。その中でも好ましくは下記式(R2−1)又は(R2−2)で表される2価の基である。
【0049】
【化7】
【0050】
(m21及びm22は、それぞれ独立に、1〜19の整数であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜11、更に好ましくは2〜6である。m23〜m25は、それぞれ独立に、1〜18の整数であり、好ましくは1〜14、より好ましくは1〜10、更に好ましくは2〜4である。)
なお、R2は炭素数5〜20(好ましくは炭素数5〜16、より好ましくは炭素数5〜12)の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2−1)におけるm21及びm22は、式(R2−1)で表される2価の基の炭素数が5〜20(好ましくは炭素数5〜16、より好ましくは炭素数5〜12)の範囲に入るように選択される。すなわち、m21+m22は5〜20(好ましくは5〜16、より好ましくは5〜12)である。
同様に、式(R2−2)におけるm23〜m25は、式(R2−2)で表される2価の基の炭素数が5〜20(好ましくは炭素数5〜16、より好ましくは炭素数5〜12)の範囲に入るように選択される。すなわち、m23+m24+m25は5〜20(好ましくは5〜16、より好ましくは5〜12)である。
【0051】
2は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0052】
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は40〜70モル%である。式(1)の繰り返し構成単位の含有比が上記範囲である場合、ポリイミド樹脂(A)の半結晶化時間は60秒以下と結晶化速度が速く、一般的な射出成型サイクルにおいても、本発明におけるポリイミド樹脂(A)を十分に結晶化させ得ることが可能となる。式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは40〜60モル%である。
【0053】
ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは75〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、より更に好ましくは85〜100モル%である。
【0054】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【0055】
【化8】
【0056】
(R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。X3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0057】
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
3の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18である。
3は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
また、前記芳香環には1価もしくは2価の電子求引性基が結合していてもよい。1価の電子求引性基としてはニトロ基、シアノ基、p−トルエンスルホニル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基、アシル基などが挙げられる。2価の電子求引性基としては、フッ化アルキレン基(例えば−C(CF32−、−(CF2p−(ここで、pは1〜10の整数である))のようなハロゲン化アルキレン基のほかに、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−などが挙げられる。
【0058】
3は、好ましくは下記式(R3−1)又は(R3−2)で表される2価の基である。
【0059】
【化9】
【0060】
(m31及びm32は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。m33及びm34は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。R21、R22、及びR23は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、又は炭素数2〜4のアルキニル基である。p21、p22及びp23は0〜4の整数であり、好ましくは0である。L21は、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
なお、R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基であるので、式(R3−1)におけるm31、m32、R21及びp21は、式(R3−1)で表される2価の基の炭素数が6〜22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3−2)におけるL21、m33、m34、R22、R23、p22及びp23は、式(R3−2)で表される2価の基の炭素数が12〜22の範囲に入るように選択される。
【0061】
3は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0062】
ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは7モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【0063】
本発明において、ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含有してもよい。
【0064】
【化10】
【0065】
(R4は−SO2−又は−Si(Rx)(Ry)O−を含む2価の基であり、Rx及びRyはそれぞれ独立に、炭素数1〜3の鎖状脂肪族基又はフェニル基を表す。X4は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0066】
ポリイミド樹脂(A)は、例えば360℃以下の融点を有し、かつ170℃以上(好ましくは200℃以上)のガラス転移温度を有することが好ましい。
ポリイミド樹脂(A)は、示差走査型熱量計にて溶融後に10℃/min以上の冷却速度で降温させた際に観測される結晶化発熱ピークの熱量が、5mJ/mg以上であることが好ましい。
【0067】
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができ、該テトラカルボン酸成分は少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0068】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸は4つのカルボキシル基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記テトラカルボン酸は、炭素数6〜26であるものが好ましい。前記テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0069】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の誘導体としては、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の無水物又はアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6〜38であるものが好ましい。テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1〜3が好ましい。
【0070】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの炭素数は6〜22が好ましく、例えば、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含むジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0072】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5〜20が好ましく、5〜16がより好ましく、5〜12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5〜20であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは本発明の範囲内であれば1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が6〜10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,6−ヘキサメチレンジアミンが好適に使用できる。
【0073】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの仕込み量のモル比は40〜70モル%であることが好ましい。
【0074】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6〜22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2−ジエチニルベンゼンジアミン、1,3−ジエチニルベンゼンジアミン、1,4−ジエチニルベンゼンジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0075】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂(A)の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0076】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9〜1.1モルであることが好ましい。
【0077】
またポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類及びジカルボン酸類から選ばれる1種以上が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、芳香族テトラカルボン酸及び/又はその誘導体1モルに対して0.0001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.06モルがより好ましい。
モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4−メチルベンジルアミン、4−エチルベンジルアミン、4−ドデシルベンジルアミン、3−メチルベンジルアミン、3−エチルベンジルアミン、アニリン、3−メチルアニリン、4−メチルアニリン等が挙げられる。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好ましい。
ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部が閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4−クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3−ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4−ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸、4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好ましい。
【0078】
ポリイミド樹脂(A)を製造するための重合方法としては、ポリイミド樹脂を製造するための公知の重合方法が適用でき、特に限定されないが、例えば溶液重合、溶融重合、固相重合、懸濁重合法等が挙げられる。この中で特に有機溶媒を用いた高温条件下における懸濁重合が好ましい。高温条件下における懸濁重合を行う際は、150℃以上で重合を行うのが好ましく、180〜250℃で行うのがより好ましい。重合時間は使用するモノマーにより適宜変更するが、0.5〜6時間程度行うのが好ましい。
【0079】
ポリイミド樹脂(A)の製造方法としては、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分とを、下記式(I)で表されるアルキレングリコール系溶媒を含む溶媒の存在下で反応させる工程を含むことが好ましい。これにより、粉末状のポリイミド樹脂を得ることができる。
【0080】
【化11】
【0081】
(Ra1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Ra2は炭素数2〜6の直鎖のアルキレン基であり、nは1〜3の整数である。)
均一な粉末状のポリイミド樹脂を得るには、ワンポットの反応において(1)ポリアミド酸を均一に溶解させる、あるいはナイロン塩を均一に分散させる、(2)ポリイミド樹脂を全く溶解、膨潤させない、の二つの特性が溶媒に備わっていることが望ましいと考えられる。上記式(I)で表されるアルキレングリコール系溶媒を含む溶媒はこの2つの特性を概ね満たしている。
前記アルキレングリコール系溶媒は、常圧において高温条件で重合反応を可能にする観点から、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上の沸点を有する。
【0082】
式(I)中のRa1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。
式(I)中のRa2は炭素数2〜6の直鎖のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜3の直鎖のアルキレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
式(I)中のnは1〜3の整数であり、好ましくは2又は3である。
前記アルキレングリコール系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(別名:2−(2−メトキシエトキシ)エタノール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(別名:2−(2−エトキシエトキシ)エタノール)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール等が挙げられる。これら溶媒を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。これら溶媒のうち、好ましくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール及び1,3−プロパンジオールであり、より好ましくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノール及び2−(2−エトキシエトキシ)エタノールである。
【0083】
溶媒中における前記アルキレングリコール系溶媒の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。溶媒は、前記アルキレングリコール系溶媒のみからなっていてもよい。
溶媒が、前記アルキレングリコール系溶媒とそれ以外の溶媒を含む場合、当該「それ以外の溶媒」の具体例としては水、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、フェノール、p−クロルフェノール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、1,2−ジブロモエタン、1,1,2−トリブロモエタン等が挙げられる。これら溶媒を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
なお、溶媒中にγ−ブチロラクトンが5〜35質量%含まれると、得られるポリイミド樹脂(A)の色相が改善される点で好ましい。
【0084】
ポリイミド樹脂(A)の好適な製造方法としては、例えば、上記アルキレングリコール系溶媒を含む溶媒中にテトラカルボン酸成分を含ませてなる溶液(a)と、前記アルキレングリコール系溶媒を含む溶媒中にジアミン成分を含ませてなる溶液(b)を別々に調製した後、溶液(a)に対し溶液(b)を添加して又は溶液(b)に対し溶液(a)を添加して、ポリアミド酸を含有する溶液(c)を調製し、次いで、前記溶液(c)を加熱することにより前記ポリアミド酸をイミド化して、ポリイミド樹脂を合成する方法が挙げられる。
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応は、常圧下又は加圧下のいずれで行うこともできるが、常圧下であれば耐圧性容器を必要としない点で、常圧下で行われることが好ましい。
【0085】
また、ポリイミド樹脂(A)中の副生成物の量を低減する観点からは、ポリイミド樹脂(A)の製造方法は、テトラカルボン酸成分がテトラカルボン酸二無水物を含み;前記のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる工程が、前記テトラカルボン酸成分と前記アルキレングリコール系溶媒とを含む溶液(a)に、前記ジアミン成分と前記アルキレングリコール系溶媒とを含む溶液(b)を添加することで、ポリアミド酸を含有する溶液(c)を調製する工程(i)、及び前記溶液(c)を加熱して前記ポリアミド酸をイミド化することにより、ポリイミド樹脂を得る工程(ii)を含み;前記工程(i)において、前記テトラカルボン酸成分1molに対する単位時間当たりの前記ジアミン成分の添加量が0.1mol/min以下となるように、前記溶液(a)に前記溶液(b)を添加する、ことが好ましい。
【0086】
<添加剤(B)>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、ポリイミド樹脂(A)に所望の性能を付与する観点から、添加剤(B)を含有する。ポリイミド樹脂(A)が本来有する性質を利用しつつ、機械的強度、難燃性、意匠性、摺動性、耐熱老化性、導電性等の各種性能を付与する観点から、添加剤(B)は、充填剤(b1)、難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、酸化防止剤(b5)、及び導電剤(b6)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
ポリイミド樹脂組成物中の添加剤(B)の含有量は、添加剤の効果を発現させ、かつポリイミド樹脂(A)が有する成形加工性及び耐熱性を維持する観点から、好ましくは0.0001〜80質量%、より好ましくは0.001〜70質量%、更に好ましくは0.01〜65質量%である。なお「添加剤(B)の含有量」とは、(b1)〜(b6)の合計含有量を意味する。
【0087】
〔充填剤(b1)〕
本発明のポリイミド樹脂組成物は、添加剤(B)として充填剤(b1)を用いることで、ポリイミド樹脂(A)を強化し、優れた耐熱性及び機械的強度を付与することができる。
充填剤(b1)の形状は特に限定されるものではなく、粒状、板状、及び繊維状の充填剤のいずれも用いることができる。粒状又は板状充填剤の粒径は、ポリイミド樹脂組成物の用途等に応じて適宜選択することができるが、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の機械的強度向上の観点から、平均粒径は好ましくは0.1〜200μm、より好ましくは0.5〜100μmの範囲である。
繊維状充填剤の繊維形状としては特に制限はないが、クロス状、マット状、集束切断状、短繊維、フィラメント状、及びウィスカー等が挙げられる。また、優れた耐熱性及び機械的強度を付与する観点から、繊維形状としては平均繊維長さ0.005〜6mm、平均繊維径0.005〜100μmの範囲のものが好ましい。
充填剤(b1)としては、無機充填剤及び有機充填剤のいずれも用いることができるが、耐熱性及び機械的強度の観点からは無機充填剤が好ましい。
なお、繊維状充填剤の平均繊維長の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば樹脂組成物をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、濃硫酸等に溶解させ、ポリイミド樹脂を溶解させた後に残る繊維の長さを測ればよい。目視あるいは光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察し、直接又は間接的に測定することが可能である。
【0088】
無機充填剤のうち粒状又は板状の無機充填剤としては、シリカ、アルミナ、カオリナイト、ワラストナイト、マイカ、タルク、クレー、セリサイト、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化カルシウム、炭化ケイ素、三硫化アンチモン、硫化錫、硫化銅、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、金属粉末、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ等が挙げられる。繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、グラファイト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウィスカー、珪素系ウィスカー等が挙げられる。炭素繊維としてはポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
これらの無機充填剤は、表面処理を施したものでもよい。
【0089】
有機充填剤のうち粒状の有機充填剤としては、架橋アクリル樹脂粒子、全芳香族ポリアミド粒子、本発明のポリイミド樹脂(A)以外のポリイミド樹脂粒子等が挙げられる。
繊維状有機充填剤としては、有機合成繊維、天然繊維等が挙げられ、耐熱性及び機械的強度の点から、有機合成繊維が好ましい。有機合成繊維としては、アクリル繊維、ポリアミド繊維、全芳香族ポリアミド繊維、本発明のポリイミド樹脂(A)以外のポリイミド繊維等が挙げられる。耐熱性及び機械的強度を向上させる観点から、アクリル繊維、ポリ(ベンズイミダゾール)繊維及び全芳香族ポリイミド繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0090】
上記充填剤(b1)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記のうち、本発明に用いられる充填剤(b1)は、シリカ、アルミナ、カオリナイト、ワラストナイト、マイカ、タルク、クレー、セリサイト、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウィスカー、珪素系ウィスカー、アクリル繊維、ポリ(ベンズイミダゾール)繊維、及び全芳香族ポリイミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、シリカ、アルミナ、カオリナイト、ワラストナイト、マイカ、タルク、クレー、セリサイト、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、及びアルミナ繊維から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、タルク、ガラス繊維、炭素繊維、及びマイカから選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種がより更に好ましい。
【0091】
ポリイミド樹脂組成物中の充填剤(b1)の含有量は、ポリイミド樹脂組成物中、好ましくは0.1〜70質量%、より好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは5〜30質量%である。ポリイミド樹脂組成物中の充填剤(b1)の含有量が0.1質量%以上であれば、ポリイミド樹脂組成物に耐熱性及び機械的強度を付与できる。また、70質量%以下であれば、優れた耐熱性及び機械的強度を付与しつつ、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性を維持できる。
【0092】
〔難燃剤(b2)〕
本発明のポリイミド樹脂組成物は、添加剤(B)として難燃剤(b2)を用いることで、優れた難燃性を付与することができる。難燃剤(b2)としては特に制限なく用いることができ、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属酸化物系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、金属塩系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、及びホウ素化合物系難燃剤等が挙げられる。
難燃剤(b2)の形状は特に限定されるものではなく、常温で固体又は液体の難燃剤を用いることができる。本発明のポリイミド樹脂組成物は、固体状の難燃剤でも容易に添加・混合できる点で有用である。固体状の難燃剤の形状、粒径、及び平均粒子径等には特に制限はない。
【0093】
ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤(テトラブロモビスフェノールA(TBA)、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモエタン(TBE)、テトラブロモブタン(TBB)、ヘキサブロムシクロデカン(HBCD)等)、塩素系難燃剤(塩素化パラフィン、塩素化ポリフェニル、塩化ジフェニル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン等)が挙げられる。
【0094】
リン系難燃剤としては、無機系、有機系のいずれも使用することができる。
無機リン系難燃剤としては、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム類、リン酸アミド等が挙げられる。
有機リン系難燃剤としては、ホスファゼン系化合物、リン酸エステル系化合物、縮合リン酸エステル等が挙げられる。
ホスファゼン系化合物としては、環状フェノキシホスファゼン化合物、鎖状フェノキシホスファゼン化合物及び架橋フェノキシホスファゼン化合物が挙げられる。
リン酸エステル系化合物としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニル−2−エチルクレジルホスフェート、トリ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、2−ナフチルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
縮合リン酸エステルとしては、芳香族縮合リン酸エステルが好ましく、例えば、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)及び1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
上記リン系難燃剤のうち、難燃性及び耐熱性の観点から、芳香族縮合リン酸エステルが好ましい。
市販されている有機リン系難燃剤としては、例えば、CR−733S、CR−741、PX−200、PX−201、PX−202(以上大八化学工業株式会社製、商品名、いずれも芳香族縮合リン酸エステル)、SPS−100(大塚化学株式会社製、商品名、ホスファゼン化合物)等が挙げられる。
【0095】
金属酸化物系難燃剤としては、モリブデン酸亜鉛、三酸化モリブデン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化スズ、三酸化スズ亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等が挙げられる。
金属水酸化物系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、水酸化スズ亜鉛、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
有機金属塩系難燃剤としては、パーフルオロアルカンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ハロゲン化アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、又はナフタレンスルホン酸等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0096】
窒素系難燃剤としては、メラミン系化合物、トリアジン系化合物、シアヌル酸系化合物、イソシアヌル酸系化合物、フェノチアジン系化合物等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤としては、ケイ素原子を含有する有機化合物であれば特に制限がなく使用でき、例えば、オルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。オルガノシロキサンとしては、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン等が挙げられる。また、ポリオルガノシロキサンとしては、前記オルガノシロキサンの単独重合体(ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン等)及び共重合体が挙げられる。ポリオルガノシロキサンは、オリゴマーであってもよい。また、オルガノシロキサンやポリオルガノシロキサンには、分子末端や主鎖にエポキシ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基又は置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)、エーテル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの置換基を有する変性体も含まれる。
ホウ素化合物系難燃剤としては、ホウ素酸亜鉛、メタホウ素酸亜鉛、メタホウ素酸バリウム等が挙げられる。
【0097】
上記難燃剤(b2)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記のうち、本発明に用いられる難燃剤(b2)は、難燃性向上の観点から、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、及び金属酸化物系難燃剤から選ばれる少なくとも1種が好ましく、難燃剤自身の耐熱性、及び環境負荷低減の観点から、リン系難燃剤及び金属酸化物系難燃剤から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0098】
ポリイミド樹脂組成物中の難燃剤(b2)の含有量は、ポリイミド樹脂組成物中、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは5〜30質量%である。難燃剤(b2)の含有量がポリイミド樹脂組成物中0.1質量%以上であれば、ポリイミド樹脂の難燃性を向上させることができる。また、50質量%以下であれば、ポリイミド樹脂の難燃性を向上しつつ、成形加工性、耐熱性、機械強度等の優れた特性を維持できる。
【0099】
〔着色剤(b3)〕
本発明のポリイミド樹脂組成物は、添加剤(B)として着色剤(b3)を用いることで、色相を調整し、及び所望の意匠性を付与することができる。本発明のポリイミド樹脂組成物は、比較的低温での成形が可能であることから着色剤の選択範囲も広く、色相調整や意匠性の付与が容易である点で有用である。
着色剤(b3)は特に限定されるものではなく、顔料及び染料等を、用途及び着色目的に応じて適宜選択することができる。顔料と染料とは併用してもよい。
【0100】
顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも用いることができる。
有機顔料としては特に限定はなく、カラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists社発行)において顔料に分類されている化合物であればよい。例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185等のイエロー系顔料;C.I.ピグメントレッド1、C.I.ピグメント2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド177等のレッド系顔料;C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6等のブルー系顔料;C.I.ピグメントバイオレット23:19、C.I.ピグメントグリーン36;等が挙げられる。
【0101】
無機顔料としては特に限定はないが、カーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ボーンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、チタンブラック等の黒色無機顔料;二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、白雲母、リトポン、アルミナ白、モリブデン白、鉛白(炭酸亜鉛)、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、シリカ三酸化アンチモン、燐酸チタン、炭酸鉛、水酸化鉛、塩基性モリブデン酸亜鉛、塩基性モリブデン酸カルシウム、酸化亜鉛/二酸化チタン複合酸化物、酸化アルミニウム/酸化マグネシウム複合酸化物、酸化カルシウム/酸化ジルコニウム複合酸化物等の白色無機顔料;等が挙げられる。
黒色無機顔料の中では、黒色着色性、隠蔽性等の点から黒鉛、カーボンブラックが好ましい。黒鉛の市販品としては、BF−1AT、BF−3KT、G−6S、G−3、CMW−350、SMF、EMF、WF−15C(以上(株)中越黒鉛工業所製)等が挙げられる。黒鉛の形状としては、鱗状、土状、球状等に制限はなく、加熱により膨張化した膨張黒鉛であってもよい。また、黒鉛は天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよい。
カーボンブラックの市販品としては、MAシリーズ(三菱化学(株)製);Printexシリーズ、SpecialBlackシリーズ、Color Blackシリーズ(以上エポニックデグサジャパン(株)製);Monarchシリーズ、REGALシリーズ、BLACK PEARLS480、PEARLS130、VULCAN XC72R、ELFTEX−8(以上キャボットジャパン(株)製);RAVENシリーズ(コロンビヤンカーボン社製);等が挙げられる。
白色無機顔料の中では、白色着色性、隠蔽性等の点から二酸化チタン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、二酸化チタンがより好ましい。二酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型等のいずれでもよい。
二酸化チタンの市販品としては、TAシリーズ、TRシリーズ(以上富士チタン工業(株)製);Rシリーズ、PFシリーズ、CRシリーズ、PCシリーズ(以上石原産業(株)製)等が挙げられる。
上記有機顔料及び無機顔料は、必要に応じ親水化処理やグラフト処理等の表面処理が行われたものでもよい。
【0102】
染料としては特に限定はなく、カラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists社発行)において染料に分類されている化合物であればよい。例えば、赤色や青色、緑色、黄色、橙色、紫色、茶色、黒色の水溶性の酸性染料や含金属染料、塩基性染料、カチオン染料、直接染料、反応染料、及び水不溶性の分散染料や硫化染料、建染染料等が挙げられる。該染料は、有機染料、無機染料のいずれでもよい。
上記着色剤(b3)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
ポリイミド樹脂組成物の色相調整及び着色付与の観点からは、着色剤(b3)は青色、緑色、黒色、及び白色の着色剤から選ばれる少なくとも1種が好ましく、青色染料、緑色染料、黒色顔料、及び白色顔料から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。青色又は緑色の着色剤を用いれば、ポリイミド樹脂(A)由来の褐色の着色を打ち消し、良好な色相を得ることができる。また、黒色又は白色の着色剤を用いれば、ポリイミド樹脂(A)由来の着色を隠蔽することができる。
青色又は緑色の着色剤としては、前述の顔料又は染料のうち青色又は緑色のものを用いることができる。このうち青色又は緑色の染料としては、例えば、モノアゾ系染料、トリアリールメタン系染料、フタロシアニン系染料、及びアントラキノン系染料等が挙げられる。上記のうちアントラキノン系染料が好ましい。
青色又は緑色のアントラキノン系染料の市販品としては、マクロレックスブルーRR(ランクセス社製、商品名)、ダイアレジングリーンC、ダイアレジンブルーG、ダイアレジンブルーJ、ダイアレジンブルーN(以上三菱化学(株)製、商品名)、テトラゾールブルーRLS(サンド社製、商品名)、Solvent Blue45、Solvent Blue87等が挙げられる。
【0104】
黒色又は白色の着色剤としては、前述の顔料又は染料のうち黒色又は白色のものを用いることができる。中でも、ポリイミド樹脂(A)由来の着色を隠蔽する観点から、黒鉛、カーボンブラック、二酸化チタン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、黒鉛及び二酸化チタンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。黒鉛を用いることで、更に摺動性や遮光性を付与することができる。また、二酸化チタンを用いることで、更に反射率の向上効果を付与することができる。高反射率の成形体を作製しうるポリイミド樹脂組成物はリフレクター用途などに好適である。
【0105】
以上より、ポリイミド樹脂組成物の色相調整及び着色付与の観点からは、着色剤(b3)は青色染料、緑色染料、黒鉛、カーボンブラック、二酸化チタン、硫酸カルシウム、及び炭酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0106】
一方、ポリイミド樹脂組成物に所望の意匠性を付与するためには、着色剤(b3)は発色性、耐候性及び耐熱性の観点から、顔料が好ましい。顔料としては前述の有機顔料、無機顔料のいずれも用いることができる。
例えばポリイミド樹脂組成物を太陽電池基板用途に用いる場合には、着色剤(b3)として青色又は緑色の顔料を用いることが好ましい。
【0107】
ポリイミド樹脂組成物中の着色剤(b3)の含有量は、ポリイミド樹脂組成物中、好ましくは0.0001〜50質量%、より好ましくは0.01〜40質量%、更に好ましくは0.1〜30質量%である。ポリイミド樹脂組成物中の着色剤(b3)の含有量が0.0001質量%以上であれば、ポリイミド樹脂組成物に所望の色相又は意匠性を付与できる。また、50質量%以下であれば、意匠性を付与しつつ、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、耐熱性、機械強度等の優れた特性を維持できる。
【0108】
〔摺動性改良剤(b4)〕
本発明のポリイミド樹脂組成物は、添加剤(B)として摺動性改良剤(b4)を用いることで、優れた摺動特性を付与することができる。
摺動性改良剤(b4)は摺動性を改良できるものであれば特に制限はなく、公知の摺動性改良剤を用いることができる。例えば、固体潤滑剤、液体潤滑剤、及び潤滑性ポリマーから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本発明のポリイミド樹脂組成物は、固体状の摺動性改良剤でも容易に添加・混合できる点で有用である。
固体状の摺動性改良剤の平均粒径は特に制限はないが、摺動性の発現、及びポリイミド樹脂組成物の成形加工性の観点から、平均粒径が0.001〜200μmであることが好ましく、0.01〜100μmであることがより好ましい。
固体潤滑剤としては二硫化モリブデン、金属石鹸等が挙げられ、液体潤滑剤としては鉱油、合成油、ワックス等が挙げられる。潤滑性ポリマーとしてはフッ素系樹脂、ポリオレフィン、及び球状フェノール等が挙げられる。
【0109】
金属石鹸としては、炭素数8以上の飽和又は不飽和長鎖脂肪酸の金属塩;ドデシルベンゼンスルホン酸金属塩;等が挙げられる。炭素数8以上の飽和又は不飽和長鎖脂肪酸としては、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、及びエルカ酸等が挙げられる。また金属石鹸を構成する金属としては、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、及び亜鉛等が挙げられる。
上記金属石鹸としては、例えば、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛等が挙げられる。
【0110】
鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油、及びこれらの混合油等が挙げられる。合成油としては、分子中にエーテル基、エステル基、ケトン基、カーボネート基、ヒドロキシ基から選ばれる少なくとも1種の基を含有する含酸素有機化合物や、前記基と共にS、P、F、Cl、Si、N等のヘテロ原子を含有する含酸素有機化合物が挙げられる。合成油としての含酸素有機化合物としては、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリエーテル、ポリエステル、ポリオールエステル、カーボネート誘導体、ポリエーテルケトン、フッ素化油等が挙げられる。
【0111】
ワックスとしては、炭素数24以上のパラフィン系ワックス、炭素数26以上のオレフィン系ワックス、炭素数28以上のアルキルベンゼン、結晶質のマイクロクリスタリンワックス等の炭化水素系ワックス、植物由来のカルナウバワックス等が挙げられる。
【0112】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。これらのうち、摺動性向上の点から、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、KT−300M、KT−400M、KT−600M、KTL−450、KTL−610、KTL−620、KTL−20N、KTL−10N、KTL−8N、KTL−4N、KTL−2N、KTL−1N、KTL−8F、KTL−500F(以上(株)喜多村製、商品名)、TF9201Z、TF9205、TF9207(以上住友スリーエム(株)製、商品名)等が挙げられる。
フッ素系樹脂は液状あるいは固体状のいずれも用いることができるが、摺動性発現の観点からは固体状のフッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0113】
ポリオレフィンとしては、エチレンやα−オレフィンの単独重合体及び共重合体、酸化型ポリエチレン等の変性ポリオレフィン等が挙げられる。汎用性及び摺動性の観点から、ポリオレフィンとしてはポリエチレン及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
ポリオレフィンの分子量には特に制限はなく、液状あるいは固体状のいずれも用いることができるが、摺動性発現の観点からは固体状のポリオレフィンを用いることが好ましい。
【0114】
球状フェノールとしては、フェノール化合物とアルデヒド化合物とを、触媒の存在下で懸濁重合させて得られた球状フェノール樹脂を硬化させたものを好適に用いることができる。
フェノール化合物としては特に限定されないが、フェノール;クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール;ハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール化合物;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール化合物が挙げられる。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。
フェノール化合物とアルデヒド化合物との反応に用いられる触媒は、通常、アルカリ性触媒である。アルカリ性触媒としては特に限定されないが、例えば、アンモニア、1級アミン化合物、2級アミン化合物、及び3級アミン化合物のようなアミン系化合物、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。
球状フェノールの粒径は特に限定されないが、好ましい平均粒径は前述の通りである。
【0115】
上記摺動性改良剤(b4)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記のうち、本発明に用いられる摺動性改良剤(b4)は、二硫化モリブデン、金属石鹸、鉱油、合成油、ワックス、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、及び球状フェノールから選ばれる少なくとも1種が好ましく、摺動性向上の観点から、フッ素系樹脂及びポリオレフィンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フッ素系樹脂が更に好ましく、ポリテトラフルオロエチレンがより更に好ましい。
【0116】
ポリイミド樹脂組成物中の摺動性改良剤(b4)の含有量は、ポリイミド樹脂組成物中、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは7〜25質量%である。ポリイミド樹脂組成物中の摺動性改良剤(b4)の含有量が0.1質量%以上であれば、ポリイミド樹脂組成物の摺動性を向上できる。また、50質量%以下であれば、優れた摺動性を付与しつつ、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、機械強度を維持できる。
【0117】
〔酸化防止剤(b5)〕
本発明のポリイミド樹脂組成物は、添加剤(B)として酸化防止剤(b5)を用いることで、優れた耐熱老化性を付与することができる。酸化防止剤(b5)としては特に制限なく用いることができ、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、銅系酸化防止剤、及びアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
酸化防止剤(b5)の形状は特に限定されるものではなく、常温で固体又は液体の酸化防止剤を用いることができる。本発明のポリイミド樹脂組成物は、固体状の酸化防止剤でも容易に添加・混合できる点で有用である。
【0118】
フェノール系酸化防止剤としては特に制限はなく、フェノール構造を有し、酸化防止剤としての機能を有する公知の化合物を用いることができる。例えば、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス−2−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビタミンE等が挙げられる。これらのうち、ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル構造を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、Irganox1010、Irganox1098、Irganox1035、Irganox1078、Irganox1135、Irganox1330、Irganox1425、Irganox259、Irganox3114、Irgamod295、等が挙げられる(以上BASF社製、商品名)。
【0119】
硫黄系酸化防止剤としては、ジアルキルチオジプロピオネート及びアルキルチオプロピオン酸の多価アルコールエステルが好ましい。例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジオクタデシルサルファイド、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。市販されている硫黄系酸化防止剤としては、SUMILIZER TP−D(ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート))、SUMILIZER TPS(ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート)、SUMILIZER TPM(ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート)、SUMILIZER TPL−R(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート)等が挙げられる(以上住友化学工業(株)製、商品名)。
【0120】
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等のホスファイト類;9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のオキサホスファフェナントレンオキサイド類;等が挙げられる。
市販されているリン系酸化防止剤としては、Irgafos168、Irgafos12、Irgafos38(以上BASF社製、商品名)、アデカスタブ329K、アデカスタブPEP36(以上ADEKA製、商品名)等が挙げられる。
【0121】
銅系酸化防止剤としては、酸化第一銅、塩化第一銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅等が挙げられる。
【0122】
また、アミン系酸化防止剤としては、特に制限はなく、公知のアミン系酸化防止剤を用いることができるが、耐熱老化性向上の観点からはヒンダードアミン系酸化防止剤が好ましい。
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ〔{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチル{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、ポリ〔(6−モルホリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、N,N′−4,7−テトラキス〔4,6−ビス{N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ}−1,3,5−トリアジン−2−イル〕−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン等が挙げられる。
市販されているヒンダードアミン系酸化防止剤としては、CHIMASSORB 2020 FDL、CHIMASSORB 944 FDL、TINUVIN PA144、TINUVIN 765、TINUVIN 770 DF(以上BASF社製、商品名)等が挙げられる。
その他のアミン系酸化防止剤としては、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン系化合物;4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン系化合物;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン系化合物;及びアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン系化合物等が挙げられる。
【0123】
上記酸化防止剤(b5)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に酸化防止剤は、反応初期に発生するラジカルを捕捉する一次酸化防止剤(例えばフェノール系酸化防止剤)と、一次酸化防止剤から発生したハイドロパーオキサイドを分解する二次酸化防止剤(例えば硫黄系酸化防止剤)を組み合わせて使用するとより高い耐熱老化性が得られる傾向があるため好ましい。
上記のうち、本発明に用いられる酸化防止剤(b5)は、耐熱老化性向上の観点から、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及びアミン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種が好ましく、フェノール系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を併用することが特に好ましい。
【0124】
ポリイミド樹脂組成物中の酸化防止剤(b5)の含有量は、ポリイミド樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、更に好ましくは0.1〜3質量部である。酸化防止剤(b5)の含有量がポリイミド樹脂(A)100質量部に対し0.01質量部以上であれば、ポリイミド樹脂組成物に耐熱老化性を付与できる。また、10質量部以下であれば、優れた耐熱老化性を付与しつつ、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、耐熱性、機械強度等の優れた特性を維持できる。
フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を併用する場合には、その合計含有量が上記範囲であることが好ましい。また、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の含有比(フェノール系酸化防止剤/硫黄系酸化防止剤)は、好ましくは質量比で0.5〜2の範囲である。
【0125】
〔導電剤(b6)〕
本発明のポリイミド樹脂組成物は、添加剤(B)として導電剤(b6)を用いることで、用途及び目的に応じた所望の導電性を付与することができる。
導電剤(b6)としては、所望の導電性を付与できるものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、炭素系導電剤、金属系導電剤、金属酸化物系導電剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
炭素系導電剤としては、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。
金属系導電剤を構成する金属としては、Au、Ag、Cu、Al、Fe、Ni、Pd、Pt等が挙げられる。金属酸化物系導電剤を構成する金属酸化物としては、アンチモン錫酸化物(ATO)、インジウム錫酸化物(ITO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、フッ素化酸化スズ(FTO)等が挙げられる。
導電剤(b6)として使用できる界面活性剤としては、第4級アンモニウム、ソルビタン・ラウリン酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、グリセロール・ボレート・アルキレート、ポリグリセリンエステル、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ベタイン系両性界面活性剤等が挙げられる。
上記のうち、本発明に用いられる導電剤(b6)は、導電性及び耐熱性の観点から、炭素系導電剤あるいは金属系導電剤が好ましい。
上記導電剤(b6)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0126】
ポリイミド樹脂組成物中の導電剤(b6)の含有量は、所望の導電性を付与できる量であれば特に制限はない。例えばポリイミド樹脂組成物が複写機、プリンター、レーザープリンター、ファクシミリ及びこれらの複合装置等の電子写真式画像形成装置に用いられる定着ベルトや中間転写ベルト等に用いられる場合には、得られる成形体が、好ましくは表面抵抗で1×108〜1×1013[Ω/□]、体積抵抗で1×106〜1×1012[Ω・cm]程度の導電性を発現できる量であればよい。
上記観点からは、ポリイミド樹脂組成物中の導電剤(b6)の含有量は、ポリイミド樹脂組成物中、好ましくは0.1〜60質量%、より好ましくは1〜40質量%、更に好ましくは5〜35質量%である。ポリイミド樹脂組成物中の導電剤(b6)の含有量が0.1質量%以上であれば、ポリイミド樹脂組成物に導電性を付与できる。また、60質量%以下であれば、所望の導電性を付与しつつ、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、機械強度を維持できる。
【0127】
なお本発明のポリイミド樹脂組成物においては、前述した充填剤(b1)、難燃剤(b2)や着色剤(b3)等の各種添加剤(B)のうち導電性を有するものを用いることで所望の導電性を付与することを妨げない。例えば電子写真式画像形成装置用の定着ベルトや中間転写ベルト等に用いるポリイミド樹脂組成物であれば、添加剤(B)のうち着色剤(b3)として例示されているカーボンブラックを添加することにより導電性を付与してもよい。
【0128】
例えば上記(b1)〜(b6)から選ばれる添加剤(B)は、所望の性能に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
<その他成分>
本発明のポリイミド樹脂組成物には、目的に応じて他の樹脂を混合して使用してもよい。上記樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、液晶ポリマー、及びポリイミド樹脂(A)以外のポリイミド等が挙げられる。
また、本発明のポリイミド樹脂組成物には、その特性が阻害されない範囲で、艶消剤、結晶核剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、及び、樹脂改質剤等の任意成分を、必要に応じて配合することができる。樹脂改質剤としては後述するオリゴイミド環状体等が挙げられる。
【0130】
添加剤(B)として充填剤(b1)を用いる場合には、上記任意成分のうち、結晶化度を向上させるため、結晶核剤を併用することが好ましい。
添加剤(B)として難燃剤(b2)を用いる場合には、充填剤(b1)、酸化防止剤(b5)、及び結晶核剤から選ばれる少なくとも1種を併用することが好ましい。
添加剤(B)として着色剤(b3)を用いる場合には、ポリイミド樹脂の変質等による色調変化を抑制する観点から、紫外線吸収剤及び酸化防止剤(b5)から選ばれる少なくとも1種を併用することが好ましい。
添加剤(B)として摺動性改良剤(b4)を用いる場合には、ポリイミド樹脂の短期的な高温摺動特性を改善する観点からは結晶核剤を併用することが好ましく、長期的な高温摺動特性を確保する観点からは酸化防止剤(b5)を併用することが好ましい。
【0131】
結晶核剤は公知のものを用いることができる。
紫外線吸収剤としては特に制限はなく、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)フェノール等のトリアジン系紫外線吸収剤;p−tert−ブチルフェニルサリシレート、フェニルサリシレート等のサリシレート系紫外線吸収剤;等を用いることができる。
紫外線吸収剤の添加量は、樹脂組成物中、通常0.1〜5質量%の範囲である。
上記紫外線吸収剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0132】
[成形体]
本発明の成形体は、前述の各種成分を含有するポリイミド樹脂組成物を含む。ポリイミド樹脂(A)は本質的に360℃以下の温度で溶融するため、該ポリイミド樹脂(A)を含有する本発明のポリイミド樹脂組成物を熱成形することにより成形体を製造できる。熱成形方法としては射出成形、押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、溶接、溶着等が挙げられ、熱溶融工程を経る成形方法であればいずれの方法でも成形が可能である。
【0133】
本発明の成形体の製造方法は、本発明のポリイミド樹脂組成物を300〜400℃で熱成形する工程を有することが好ましい。具体的な手順としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、ポリイミド樹脂(A)に添加剤(B)、及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、これを押出機内に導入して、好ましくは300〜400℃で溶融混練及び押出し、本発明のポリイミド樹脂組成物からなるペレットを作製する。あるいは、ポリイミド樹脂(A)を押出機内に導入して、好ましくは300〜400℃で溶融し、ここに添加剤(B)を導入して押出機内でポリイミド樹脂(A)と溶融混練し、押出すことで前述のペレットを作製してもよい。
上記ペレットを乾燥させた後、各種成形機に導入して好ましくは300〜400℃で熱成形し、所望の形状を有する成形体を製造することができる。
本発明のポリイミド樹脂組成物は300〜400℃という比較的低い温度で押出成形等の熱成形を行うことが可能であるため、成形加工性に優れ、所望の形状を有する成形品を容易に製造することができる。熱成形時の温度は、好ましくは320〜380℃、より好ましくは330〜370℃である。
【0134】
添加剤(B)として充填剤(b1)を含む場合には、本発明の成形体は、80mm×10mm×4mm厚の板状に成形した際の曲げ強度を好ましくは60〜300MPa、より好ましくは100〜250MPaの範囲とすることができる。また、曲げ弾性率を好ましくは2.5〜35GPa、より好ましくは10〜30GPaの範囲とすることができる。
また添加剤(B)として充填剤(b1)を含む場合には、本発明の成形体は、JIS K7139タイプAの試験片に成形した際の引張強度を好ましくは50〜280MPa、より好ましくは60〜260MPaの範囲とすることができる。また、引張弾性率を好ましくは2.4〜30GPa、より好ましくは10〜30GPaの範囲とすることができる。
曲げ強度、曲げ弾性率はJIS K7171に準拠して、引張強度、及び引張弾性率はJIS K7113に準拠して測定することができる。
【0135】
添加剤(B)が難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、及び酸化防止剤(b5)から選ばれる少なくとも1種である場合には、本発明の成形体は、80mm×10mm×4mm厚の板状に成形した際の曲げ強度を好ましくは50〜170MPa、より好ましくは70〜160MPaの範囲とすることができる。また、曲げ弾性率を好ましくは2.4〜3.5GPa、より好ましくは2.6〜3.2GPaの範囲とすることができる。
また添加剤(B)が難燃剤(b2)、着色剤(b3)、摺動性改良剤(b4)、及び酸化防止剤(b5)から選ばれる少なくとも1種である場合には、本発明の成形体は、JIS K7139タイプAの試験片に成形した際の引張強度を好ましくは50〜160MPa、より好ましくは60〜140MPaの範囲とすることができる。また、引張弾性率を好ましくは2.4〜3.5GPa、より好ましくは2.6〜3.2GPaの範囲とすることができる。
曲げ強度、曲げ弾性率はJIS K7171に準拠して、引張強度、及び引張弾性率はJIS K7113に準拠して測定することができる。
【0136】
また添加剤(B)として難燃剤(b2)を含む場合には、本発明の成形体は、難燃性に優れる。難燃性の指標として、簡易的には酸素指数を測定することで難燃性の度合いを確認することができる。酸素指数とは燃焼を継続させるのに必要となる酸素濃度を表しており、21を超える場合には通常の条件において空気中での燃焼が継続されない。また、一般的には酸素指数が26を超える場合には難燃性を示すとされている。添加剤(B)として難燃剤(b2)を含む本発明の成形体は酸素指数を測定した際、酸素指数を好ましくは27以上、より好ましくは29以上の範囲とすることができる。具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0137】
また添加剤(B)として摺動性改良剤(b4)を含む場合には、本発明の成形体は、高い摺動特性を有する。例えば添加剤(B)として摺動性改良剤(b4)を含む本発明の成形体は、本明細中に記載の成形方法及び測定方法を用いた場合に、静摩擦係数を好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、さらに好ましくは0.20以下することができる。静摩擦係数は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0138】
また添加剤(B)として酸化防止剤(b5)を含む場合には、本発明の成形体は、耐熱老化性に優れる。通常、ポリイミド樹脂を含む成形体は、熱が加えられることにより酸化劣化に伴う着色が生じたり、機械強度が低下したりするなどの熱老化が起こる場合がある。しかしながら添加剤(B)として酸化防止剤(b5)を含む本発明のポリイミド樹脂組成物を用いて成形体を作製した場合には、上記酸化劣化に伴うYI値の上昇等を抑えることができる。耐熱老化性は、具体的には実施例に記載の方法により評価することができる。
さらに添加剤(B)として導電剤(b6)を含む場合には、本発明の成形体は、用途及び目的に応じた所望の導電性を有する。
【0139】
本発明の成形体の形状としては特に限定はなく、フィルム、シート、ストランド、ペレット、繊維、丸棒、角棒、球状、パイプ、チューブ、シームレスベルト等が挙げられる。
【0140】
本発明の成形体の用途にも特に制限はなく、代表的なものとして、例えば、フィルム、繊維、耐熱接着剤、カラーフィルター、太陽電池基板、自動車用軸受け、コピー機用軸受け、及び、複写機、プリンター、ファクシミリ及びこれらの複合装置などの各種電子写真式画像形成装置用の定着ベルトや中間転写ベルト等が挙げられる。
添加剤(B)として充填剤(b1)を含む本発明の成形体は耐熱性及び機械的強度に優れ、ワッシャー、ニードルベアリング、シールリング、ギア、ABSパーツ、クラッチリング等の自動車用部材;表面実装用電子部材;コンデンサー用ガスケット;リレースイッチハウジング;コピー機用軸受;ICチップトレイ、液晶ディスプレイ(LCD)搬送ローラー;シリコンウェハキャリア;携帯電話用部材;ポンプ、バルブ、シール、ホース等のコンプレッサー用部品;発電装置;及びボールベアリング等に好適に用いられる。
【0141】
添加剤(B)として難燃剤(b2)を含む本発明の成形体は耐熱性及び難燃性に優れ、光コネクタ、光ピックアップ、表面実装部材、ランプソケット、変圧器、放熱スペーサ、パワーモジュール、反射器等の電気・電子部材;エンジン取付物、ホース、油圧ライン、クラッチライン、ブレーキライン等の自動車部材;家庭電化部材;及びベアリング等に好適に用いられる。
また、添加剤(B)として難燃剤(b2)を含む本発明のポリイミド樹脂組成物は加熱、加圧により耐熱接着剤として使用することができるため、フレキシブル基板、銅張積層板等への利用が可能である。
【0142】
添加剤(B)として着色剤(b3)を含む本発明の成形体は、照明用リフレクター、自動車用リフレクター、太陽電池基板、カラーフィルター、電子部品被覆材、ベアリング等に好適に用いられる。
【0143】
添加剤(B)として摺動性改良剤(b4)を含む本発明の成形体は、優れた摺動特性を有し、特に自動車用軸受け、コピー機用軸受け等の各種軸受けや、歯車、ベアリング、ブッシュ、メカニカルシール、トランスミッション用シール等に好適に用いられる。
【0144】
また、添加剤(B)として酸化防止剤(b5)を含む本発明のポリイミド樹脂組成物は加熱、加圧により耐熱接着剤として使用することができるため、フレキシブル基板、銅張積層板等への利用が可能である。
【0145】
また、添加剤(B)として導電剤(b6)を含む本発明のポリイミド樹脂組成物は導電性を有することから、導電性フィルム、各種電子写真式画像形成装置用の定着ベルトや中間転写ベルト、電池用電極又はセパレータ、電磁シールド材、各種電子デバイス等に好適に用いられる。
【0146】
[複合材]
第二の発明である本発明の複合材は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40〜70モル%であるポリイミド樹脂(A)を繊維材料(C)に含浸してなる。
【0147】
【化12】
【0148】
(R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。R2は炭素数5〜20の2価の鎖状脂肪族基である。X1及びX2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
本発明の複合材に用いられるポリイミド樹脂(A)は、前記と同じである。
【0149】
<繊維材料(C)>
本発明の複合材に用いる繊維材料(C)としては、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維等)等の無機繊維;アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、芳香族ポリイミド繊維等の合成繊維;などが挙げられる。なかでも、軽量でありながら、高強度、高弾性率であるという優れた特徴を有するため、炭素繊維が好ましく用いられる。炭素繊維はポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維を好ましく用いることができる。
【0150】
繊維材料(C)は、例えば単にモノフィラメントまたはマルチフィラメントを一方向または交互の交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布あるいはマット等の種々の形態であり得る。これらのうちモノフィラメント、布帛、不織布あるいはマットの形態が好ましい。さらに、これらを載置または積層し、バインダー等を含浸したプリプレグも好ましく用いられる。
【0151】
繊維材料(C)の平均繊維径は、1〜100μmであることが好ましく、3〜50μmがより好ましく、4〜20μmであることがさらに好ましく、5〜10μmが特に好ましい。平均繊維径がこの範囲であると、加工が容易であり、得られる成形体の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することが可能である。50本以上の繊維を無作為に選んで長さを測定し、個数平均の平均繊維径を算出することができる。
【0152】
繊維材料(C)の繊度は、20〜3,000texが好ましく、50〜2,000texがより好ましい。繊度がこの範囲であると、加工が容易であり、得られる成形体の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、繊度は任意の長さの長繊維の重量を求めて、1,000m当りの重量に換算して求めることができる。フィラメント数は通常、500〜30,000程度の炭素繊維を好ましく用いることができる。
【0153】
本発明の複合材中に存在する繊維材料(C)の繊維長は、平均繊維長で、好ましくは1cm以上であり、より好ましくは1.5cm以上、さらに好ましくは2cm以上であり、特に好ましくは3cm以上である。平均繊維長の上限としては、用途によって異なるが、好ましくは500cm以下、より好ましくは300cm以下、さらに好ましくは100cm以下である。
なお、複合材中における平均繊維長の測定方法は、特に限定されるものではないが、たとえば複合材をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)あるいは濃硫酸中に入れて、ポリイミド樹脂を溶解させた後に残る繊維の長さを測ればよく、目視、場合によっては光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することが可能である。100本の繊維を無作為に選んで長さを測定し、個数平均の平均繊維長を算出することができる。
【0154】
また、使用する繊維材料の使用前の原料の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1〜10,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜7,000m程度、さらに好ましくは1,000〜5,000m程度である。
【0155】
本発明で使用する繊維材料(C)は、従来から繊維強化複合材に使用されるような、集束された繊維ストランドを集めて一定の長さに切断したチョップドストランドの形態で使用する必要はない。本発明でのより好ましい態様としては、繊維材料(C)が、このようにより長い繊維のものを用いることであって、従来から多用されるチョップドストランドを樹脂と溶融混練してペレット化するようなものとは異なり、長い繊維材料はそのまま使用し、ポリイミド樹脂(A)と重ね合わせて、これを加熱加圧して、含浸して複合材を得る。長い繊維状態の繊維材料(C)を用いることで、従来型のチョップドストランドや所謂、長繊維といった破断された繊維材料を用いた成形材料よりも、得られる成形体の弾性率や強度を向上させることができる。また、長い繊維状の繊維材料を用いることで成形体の特定の方向の強度を向上させるなど、成形体の強度に異方性を持たせることも可能になる。また、チョップドストランドを製造する工程を省略することができ、製造コストを低減させることができる。
しかし、当然のことであるが、本発明が、繊維材料(C)の短繊維(D)を合わせて用いることを排除するものではない。短繊維(D)を併用する場合は、短繊維(D)の平均繊維径が、繊維材料(C)の平均繊維径よりも短いことが好ましい。
【0156】
ポリイミド樹脂(A)との濡れ性、界面密着性を向上させるために、繊維材料表面にポリイミド樹脂と親和性や反応性を有する官能基を有するものが好ましい。
ポリイミド樹脂(A)と親和性や反応性を有する官能基を有する例として、表面処理剤または収束剤等で表面処理したものが好ましく挙げられる。
【0157】
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物からなるものが挙げられ、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等であり、シラン系カップリング剤が好ましい。
シラン系カップリング剤としては、アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシまたはトリアリロキシシラン化合物、ウレイドシラン、スルフィドシラン、ビニルシラン、イミダゾールシラン等が挙げられる。
【0158】
収束剤としては、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂、1分子中にアクリル基またはメタクリル基を有するエポキシアクリレート樹脂であって、ビスフェノールA型のビニルエステル樹脂、ノボラック型のビニルエステル樹脂、臭素化ビニルエステル樹脂等のビニルエステル系樹脂が好ましく挙げられる。またエポキシ系樹脂やビニルエステル系樹脂のウレタン変性樹脂であってもよい。
【0159】
[ポリイミド樹脂−繊維複合材の製造]
ポリイミド樹脂(A)は繊維材料(C)と重ね合わせられ、次いで、加熱、加圧されることにより、ポリイミド樹脂(A)の全量あるいは少なくとも一部は溶融して、繊維材料(C)層に含浸し、該含浸体は加熱、加圧されることにより、圧密(緻密)化して、複合材となる。
ポリイミド樹脂(A)はフィルム状、繊維状、粉末状、およびペレット状などの如何なる形態であっても繊維材料(C)と複合することが可能であるが、成形性、含浸性などの観点からはフィルム状、繊維状、粉末状であることが好ましく、特にフィルム状、繊維状であることが好ましい。
【0160】
ポリイミド樹脂(A)をフィルム状または繊維状にするには、公知の方法が採用できる。例えば、ポリイミド樹脂ペレットから溶融紡糸により繊維を製造する、樹脂を押出機より押し出して連続的にフィルムを成形する、熱プレス機によりフィルムを成形するといった方法により製造される。
【0161】
ポリイミド樹脂(A)をフィルム状に加工する際は、フィルム表面にシボ加工を施す方法を採用し、フィルムを成形することも好ましい。特に、成形加工時の微細な応力や不均等な応力がかかることによって、薄く加工しようとする際に破断しやすい場合に有効である。表面にシボ加工されていること、すなわち表面に微細な凹凸を有する凹凸状シボ表面を有するフィルムとすることにより、フィルムを成形する際にフィルム表面と引取り機、すなわちロール等との摩擦抵抗が少なくなり、フィルムにかかる応力を少なくかつ均一に制御できるため、フィルムの破断を防ぐことができるものと考えられる。また、ロール状に巻き取る際には、フィルム表面同士の摩擦を低減しシワなく巻き取ることが可能であり、巻取り時の応力を緩和し、フィルムの破断を防ぐことができる。さらに、フィルムロールを任意の幅にスリット加工することやドライラミネーションにより他のフィルムと張り合わせるなどの後加工する際に、装置との摩擦を防止し破断を防ぐことから生産性を向上させることができる。
【0162】
シボは、フィルムの片面のみに設けてあっても、また両面に設けてあってもよいが、表裏両面に設けることが好ましい。
なお、シボとは、広義の意味でのシボ模様であり、皮シボ、梨地、木目、砂目、しわ模様、岩目等、高低差のある微細な凹凸状表面が含まれる。
【0163】
このようにして得られたポリイミド樹脂(A)のフィルムは、その厚みが5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは10〜120μmである。200μmを超えると、得られるポリイミド樹脂フィルムの厚みが大きすぎて、後の繊維材料(C)への含浸性が悪くなったり、そり量が多くなったりして、目的とする複合材が得られにくくなり、また下限は生産性の点から5μmであることが好ましい。
【0164】
ポリイミド樹脂(A)を繊維状物として使用する場合は、繊維、モノフィラメント、マルチフィラメント、糸、より糸、撚糸、ひも、延伸糸、ロープ、長さ方向にデニール変化を有するもの、繊維表面を粗面化したもの、あるいは、これらを織成したもの、ヤーン、不織布等であってもよい。
【0165】
またポリイミド樹脂(A)繊維の繊度としては、トータル繊度は10〜200texであることが好ましい。トータル繊度は、より好ましくは20〜150tex、さらには30〜100texである。単糸繊度は0.1〜3texが好ましく、より好ましくは0.3〜2tex、さらに好ましくは0.5〜1texである。
トータル繊度は任意の長さのマルチフィラメントの重量を測定し、1,000mあたりの重量に換算することによって求めることができる。単糸繊度はトータル繊度をマルチフィラメントの繊維の本数で除して求めることができる。
また、繊維の引張強度は1〜20gf/dであるものが好ましく、より好ましくは2〜15gf/d、さらには3〜10gf/dである。
ポリイミド樹脂(A)の繊維としては、これらのなかでも、マルチフィラメントであって、引張強度が2〜10gf/dであるものが好ましい。
引張強度は、マルチフィラメントを23℃、50%RHの条件下で、引張試験機を用いて引張試験を実施し、最大応力を繊度で除し、単位繊度あたりの強度として求めることができる。
【0166】
ポリイミド樹脂(A)を繊維材料(C)に含浸させる工程は、ポリイミド樹脂(A)がフィルム、繊維状である場合は加熱雰囲気下で複数のロールで連続的に加圧することによって行うことが好ましい。連続的に加圧することで、繊維材料(C)間に含まれる空気を複合材あるいはさらにこれを成形して得られる成形体の外側に押し出すことが出来、複合材やこれを成形して得られる成形体中の空隙を少なくすることが出来る。
なお、ロールの材質に特に制限は無いが、加熱加圧時にポリイミド樹脂(A)のロールへの粘着を防ぐために、ロール表面をフッ素樹脂でコーティングしたロールを好ましく用いることができる。
ポリイミド樹脂(A)が粉体である場合は、繊維材料(C)の表面にポリイミド樹脂(A)の粉体を分散させたのち、加熱雰囲気下でのロールによる加圧、あるいはレーザー照射によって溶融、含浸させることができる。
また、上記加圧工程が、ポリイミド樹脂(A)のフィルムまたは繊維と、ボビンに巻かれた繊維材料(C)を開繊しながら加圧する工程をとる場合、あるいはボビンに巻かれたモノフィラメント状の繊維材料(C)を繰出しながら加圧する工程を取る場合は、繊維材料(C)の平均繊維径は1〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましく、4〜20μmがさらに好ましく、5〜10μmが特に好ましい。
【0167】
加熱加圧は、ポリイミド樹脂(A)のフィルムまたは繊維に繊維材料(C)を重ね合わせ又は積層したものを、複数枚以上重畳して行ってもよい。複数枚以上重畳する場合は、例えば、ポリイミド樹脂(A)フィルム/繊維材料(C)積層物の少なくとも2枚、好ましくは5枚以上を、その両外側がポリイミド樹脂層になるように重ね合わせた重畳物に対して加熱加圧するのが望ましい。
【0168】
加熱加圧において、繊維材料(C)層へのポリイミド樹脂(A)の含浸、これらの一体化のための温度は、ポリイミド樹脂(A)が軟化溶融する温度以上とする必要があり、ポリイミド樹脂(A)の種類や分子量によっても異なるが、340〜400℃が好ましく、より好ましくは350〜380℃である。このような温度範囲で加熱加圧することで、ポリイミド樹脂(A)の繊維材料(C)への含浸がより良く行われ、複合材さらには複合材を成形して得られる成形体の物性が向上する傾向にある。
【0169】
また、加圧の際のプレス圧力は0.1MPa以上が好ましい。加熱加圧は、減圧下、特には真空下で行うのが好ましく、このような条件で行うと、得られる複合材に気泡が残存しにくくなり好ましい。
【0170】
また、本発明の複合材をさらに加熱溶融して成形体に加工する場合には、複合材中のポリイミド樹脂(A)の結晶化熱量は5J/g以上であることが好ましい。このような範囲であると、複合材を成形体に加工する際の成形性が良好になる。また、複合材をロール状に巻き取って保管する際に、複合材は適度な柔軟性を有し、巻取り性が良好となる。
【0171】
このようにして製造された本発明の複合材は、固体、半固体状または粘性体状であってもよく、その形態は特に限定されないが、通常は固体ないし半固体である。好ましくは、複合材をロールに巻き取って保管することができる。また、ポリイミド樹脂(A)が熱可塑性であるので、複合材をさらに加熱加工して各種の成形法により成形体とすることができる。
【0172】
また、本発明における複合材は、ポリイミド樹脂(A)/繊維材料(C)の、断面における面積比率が20/80〜80/20であることが好ましい。断面における面積比率は、より好ましくは30/70〜70/30、さらには40/60〜60/40である。なお、ここでいう断面とは、繊維材料(C)が一方向に配向しているような場合には、繊維材料(C)の長手方向に直角な断面をいう。繊維材料(C)が複数の方向に配向しているような場合には、複数の配向方向から任意に一方向を選択し、その配向している繊維材料(C)の長手方向に直角な面を断面とする。繊維材料(C)が配向していない場合は、複合材の任意の一方向を断面とする。ポリイミド樹脂(A)/繊維材料(C)の面積比率は、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることができる。
なお、加熱加圧する際に、ポリイミド樹脂が溶融し流れ出すことがあるので、必ずしも用いたポリイミド樹脂(A)の質量と繊維材料(C)の質量とそれらの密度から計算される面積比率どおりに、複合材断面の面積比率がならないことがあるが、上記範囲の面積比率にすることによって、成形体の強度が良好となる。
【0173】
[複合材からの成形体の製造]
上述の方法で得られた複合材は、その両表面は、好ましくはポリイミド樹脂(A)層で形成される構成となっている。
本発明の複合材は、熱可塑性樹脂材料からなるので、これをそのまま、あるいは所望の形状・サイズに切断して、これを成形用材料として使用し、好ましくはこれを加熱し、次いで、好ましくは加熱された成形用の型に入れて成形し、型から取り外して各種の成形体を得ることが可能である。また、上記の成形は、成形用の型を用いる方法に限らず、例えば、ロールを用いて行うこともできる。複合材を好ましくは加熱し、次いで、好ましくは加熱されたロールにより加圧し、成形することも可能である。
成形時に複合材を加熱する場合の加熱温度は、好ましくは300〜400℃であり、より好ましくは330〜380℃である。また、成形時の圧力は好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上、さらに好ましくは1MPa以上である。成形時の型(好ましくは金型)の温度は、好ましくは150〜260℃、より好ましくは170〜250℃である。
【0174】
本発明の複合材を成形体とする方法には特に制限はなく、公知の技術が適用でき、圧縮成形法、真空成形法、真空圧縮成形法、加圧成形法等を利用できる。
【0175】
また、複合材を成形して得られた成形体は、さらに熱処理を行っても良い。成形体を熱処理することによって、反りが少なくなり、寸法安定性をより向上させることができる。熱処理温度は190〜250℃が好ましい。
【0176】
また、複合材を成形して得られる成形体は、ポリイミド樹脂(A)/繊維材料(C)の、断面における面積比率が20/80〜80/20であることが好ましい。このような範囲とすることにより、成形体の強度がより向上する傾向にある。断面における面積比率は、より好ましくは30/70〜70/30、さらには40/60〜60/40である。なお、成形体におけるポリイミド樹脂(A)/繊維材料(C)の断面面積比率は、複合材の面積比率の測定と同様の方法で求めることができる。
【0177】
また、複合材を成形して得られる成形体は、空隙の少ない緻密なものとすることが好ましい。断面における空隙面積率は5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、さらには2%以下である。なお、成形体における断面空隙面積率は、複合材の空隙面積比率の測定と同様の方法で求めることができる。
【0178】
複合材を成形して得られる成形体中に存在する繊維材料(C)の繊維長は、平均繊維長で、好ましくは1cm以上であり、より好ましくは1.5cm以上、さらに好ましくは2cm以上であり、特に好ましくは3cm以上である。平均繊維長の上限としては、用途によって異なるが、好ましくは500cm以下、より好ましくは300cm以下、さらに好ましくは100cm以下である。
なお、成形体中における平均繊維長の測定方法は、特に限定されるものではないが、たとえば複合材をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)あるいは濃硫酸に入れて、ポリイミド樹脂を溶解させた後に残る繊維の長さを測れば良く、目視、場合によっては光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することが可能である。100の繊維を無作為に選んで長さを測定し、個数平均の平均繊維長を算出することができる。
【0179】
成形体の表面平滑性や高級感が特に要求されるような用途向けの場合は、得られた成形体の表面にさらにポリイミド樹脂層を設けることが好ましい。ポリイミド樹脂層を設けるには成形体の表面にポリイミド樹脂フィルムを積層して加熱融着させる方法、成形体を溶融したポリイミド樹脂に浸漬する方法、あるいはポリイミド樹脂の粉体を塗布した後融解させる方法等が挙げられる。
成形体の表面にさらにポリイミド樹脂層を設ける場合は、ポリイミド層の厚みとしては1〜1,000μmが好ましく、より好ましくは3〜500μm、特には5〜100μmである。
ポリイミド樹脂層に使用する樹脂としては、ポリイミド樹脂(A)が好ましい。
【0180】
<ポリイミド樹脂(A)へのその他成分>
ポリイミド樹脂(A)は、繊維材料(C)の短繊維(D)を含有することも好ましい。繊維材料(C)の短繊維(D)としては、繊維材料(C)より平均繊維長が短いものをいい、またその平均繊維径が繊維材料(C)より小さいものが好ましい。具体的にはいわゆるチョップトストランドが代表的なものとして挙げられる。このようなものとしては、平均繊維径1〜100μm、特には3〜50μm、平均繊維長0.02〜30mm、特には0.1〜20mmのものが好ましく挙げられる。短繊維(D)は、好ましくはポリイミド樹脂(A)に予めコンパウンドされていることが好ましい。短繊維(D)は、繊維材料(C)と同じ種類のものであっても異なっていてもよいが、繊維材料(C)と同じ種類のものを用いることが好ましい。
【0181】
さらに、本発明の複合材の場合、ポリイミド樹脂(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤等の添加剤等を加えることができる。
【0182】
上記の中でも安定剤(酸化防止剤、熱安定剤)を配合することが好ましい。安定剤としては、例えば、リン系、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、シュウ酸アニリド系、有機硫黄系、芳香族第2級アミン系などの有機系安定剤、アミン系酸化防止剤、銅化合物やハロゲン化物などの無機系安定剤が好ましい。リン系安定剤としては、ホスファイト化合物およびホスホナイト化合物が好ましい。
【0183】
本発明においては、上記の安定剤のうち、加熱加圧時の加工安定性、耐熱老化性、フィルム外観、着色防止の点から、アミン系酸化防止剤、無機系、有機硫黄系、芳香族第2級アミン系の安定剤が特に好ましい。
【0184】
前記の安定剤の含有量は、ポリイミド樹脂(A)100質量部に対し、通常0.01〜1質量部、好ましくは0.01〜0.8質量部である。含有量を0.01質量部以上とすることにより、熱変色改善、耐候性/耐光性改善効果を十分に発揮することが出来、含有量を1質量部以下とすることにより、機械的物性低下を抑制することが出来る。
【0185】
[オリゴイミド環状体]
本明細書は、オリゴイミド環状体及びその製造方法を開示する。当該オリゴイミド環状体は、樹脂改質剤として本発明のポリイミド樹脂組成物及び複合材に配合することができる。
【0186】
芳香族ポリイミド樹脂は、高熱安定性、高強度、高耐溶媒性を有する有用なエンジニアリングプラスチックである。この優れた特性はイミド結合に由来する分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合によるものである。しかしながらポリイミドはその強い構造安定性のため不溶・不融である場合が多く、取り扱われる際には用途、形状に制限が掛かる場合が多い。
【0187】
一方で、イミドオリゴマー類であれば、単独使用用途は限られるものの、溶解性の付与が容易であるため、耐熱性充填剤としての使用などが想定される。特開平10−195195号公報ではイミドオリゴマーを合成し、樹脂添加剤として使用している。また、特表平9−509928号公報では目的とする大環状イミドオリゴマー類を合成、単離することに成功している。
【0188】
しかしながら、特開平10−195195号公報において、導入後の樹脂組成物に関しての耐熱性付与に関する知見はない。
【0189】
また、一般的にはポリイミドは末端のカルボン酸やアミンが酸化劣化を受けやすく、分子量の低いオリゴイミドはより複数の末端が存在するため耐熱性への影響や高温時の色相悪化が懸念される。
オリゴイミド環状体は直鎖のオリゴイミドに比較して、末端が存在しないことによる化学的安定性向上、充填剤として使用した場合の分散性向上、といったメリットが想定される。
さらに、モノマー同士の結合は全てイミド基により行われているため、熱安定性も一般的な有機オリゴマー類に比較して高い。このように特殊な物性を持ち合わせるため、耐熱添加剤としての使用や、ある種の選択的錯形成材料といった用途が想定される。
【0190】
特表平9−509928号公報では既述のとおり、大環状イミドオリゴマー類を合成、単離することに成功しているが、この方法では複数の合成工程を必要とするため生産性が悪く、また環状体中にアミド構造が含まれることによる物性、特に耐熱性の低下が懸念される。
【0191】
オリゴイミド環状体を簡便に、かつ選択的に得ることができれば適用できる用途範囲は広いと推定される。
【0192】
本明細書は、種々の樹脂に配合することで耐熱性を付与しうるオリゴイミド環状体及びその製造方法、ならびに当該オリゴイミド環状体からなる樹脂改質剤を提供することを開示する。また、当該オリゴイミド環状体を種々の樹脂に配合して当該樹脂の改質を行う樹脂改質方法を提供することを開示する。
【0193】
本発明者らは、特定の構造を有するオリゴイミド環状体により、上記課題を解決できることを見いだした。
当該オリゴイミド環状体は、下記式(5)で表されるオリゴイミド環状体である。
【0194】
【化13】
(上記式中、nは1〜3の整数である。)
【0195】
上記式中nは1〜3の整数であるが、単離生成する際の溶剤溶解性を十分に確保するという観点からは、1であることが好ましい。
【0196】
当該オリゴイミド環状体は、イミド構造を有しているため分解温度が高い。そのため、これを樹脂改質剤とすることで、種々の樹脂の耐熱性を向上させることができる。
【0197】
当該オリゴイミド環状体は、下記のような簡便な方法で製造することができる。
すなわち、ピロメリット酸と、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとを重合溶媒中で混合し、120〜180℃で反応を行う。効率よく反応させるために加圧下にて行うことが好ましい。このときの圧力としては、常圧〜1.0MPaであることが好ましい。
反応を常圧で行う場合の温度は、120〜160℃と比較的低温で行うことが好ましく、加圧下にて行う場合も120〜160℃と比較的低温で行うことが好ましい。
加圧する際には、オートクレーブのような内部を高圧にすることが可能な耐圧性の装置や容器を用いることが好ましい。
反応後、固形物の濾過を行い、固形物とろ液を分離したのち、固形物中のオリゴイミド環状体を有機溶媒から抽出して精製を行うことでオリゴイミド環状体が製造される。
【0198】
ここで、ピロメリット酸と1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのモル比は、オリゴイミド環状体を効率よく得る観点から、0.5〜2.0とすることが好ましく、0.5〜0.9および1.1〜2.0とすることがより好ましく、0.6〜0.9および1.1〜1.5とすることがさらに好ましい。
また、オリゴイミド環状体を効率よく得ることを考慮して、ピロメリット酸と1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとの合計濃度は、5〜30質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがより好ましい。
【0199】
ここで、重合溶媒としては、水、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、メチルグリコール、メチルトリグリコール、ヘキシルグリコール、フェニルグリコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、プロピルプロピレングリコール、フェニルプロピレングリコール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、フェノール、p−クロルフェノール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、1,2−ジブロモエタン、1,1,2−トリブロモエタンあるいはこれらのうち2種類以上の混合物による溶媒等が推奨される。これらのうち、2−(2−メトキシエトキシ)エタノールが好適に使用できる。
【0200】
ピロメリット酸と、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとの仕込みモル比は、ピロメリット酸1モルに対して1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが0.5〜2.0とすることが好ましく、0.5〜0.9および1.1〜2.0とすることがより好ましく、0.6〜0.9および1.1〜1.5とすることがさらに好ましい。
【0201】
当該オリゴイミド環状体は、樹脂に配合して当該樹脂を改質する樹脂改質剤及び樹脂改質方法に好ましく適用することができる。当該方法により、耐熱性(例えば、耐熱摺動性)を向上させたり、オリゴイミド環状体に起因する白色を付与した際に高温でもその色味の低下を抑えたりすることができる。
【0202】
配合される樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、液晶ポリマー、ポリイミド等が例示できる。
樹脂中に配合する当該オリゴイミド環状体は、樹脂の種類にもよるが樹脂100質量部に対して1〜30質量部とすることが好ましい。
【0203】
当該オリゴイミド環状体は種々の樹脂に配合することで耐熱性を向上させることができるので、自動車用部材、工業用機械部材、電気電子部品用部材といった高温特性を必要とする樹脂組成物の材料の1つとして利用することができる。
【実施例】
【0204】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各製造例、実施例及び参考例における各種測定及び評価は以下のように行った。
【0205】
<対数粘度μ>
ポリイミド樹脂の対数粘度μは、得られたポリイミド樹脂を190〜200℃で2時間乾燥した後、ポリイミド樹脂0.100gを濃硫酸(96%、関東化学(株)製)20mLに溶解し、キャノンフェンスケ粘度計を使用して30℃において測定を行った。対数粘度μは下記式により求めた。
μ=ln(ts/t0)/C
0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5g/dL
【0206】
<融点、ガラス転移温度、結晶化温度>
ポリイミド樹脂の融点、ガラス転移温度、及び結晶化温度は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC−6220」)を用いて測定した。窒素雰囲気下、ポリイミド樹脂に下記条件の熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/min)、その後冷却(冷却速度20℃/min)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/min)である。
融点は昇温1度目、あるいは昇温2度目で観測された吸熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。ガラス転移温度は昇温1度目、あるいは昇温2度目で観測された値を読み取り決定した。また、結晶化温度は降温1度目で観測された発熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。
なお、本実施例中では、昇温1度目の融点をTm0、昇温2度目の融点をTm、昇温1度目のガラス転移温度をTg0、昇温2度目のガラス転移温度をTg、昇温1度目の結晶化温度をTc0、降温1度目の結晶化温度をTcとして記載した。
【0207】
<半結晶化時間>
ポリイミド樹脂の半結晶化時間は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC−6220」)を用いて測定した。
半結晶化時間が20秒以下のポリイミド樹脂の測定条件は窒素雰囲気下、420℃で10分保持し、ポリイミド樹脂を完全に溶融させたのち、冷却速度70℃/分の急冷操作を行った際に、観測される結晶化ピークの出現時からピークトップに達するまでにかかった時間を計算し、決定した。
【0208】
<赤外線分光分析(IR測定)>
ポリイミド樹脂及びオリゴイミド環状体のIR測定は日本電子(株)製「JIR−WINSPEC50」を用いて行った。
【0209】
<1%分解温度>
ポリイミド樹脂及びオリゴイミド環状体の1%分解温度は示差熱・熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「TG/DTA−6200」)を用いて測定した。空気雰囲気下、昇温10℃/minで測定を行った際に、初期重量に対して1%の重量減少が起こった温度を1%分解温度とした。
【0210】
<FD−MS測定>
オリゴイミド環状体の分子量は日本電子(株)製「JMS−700」を用いて行った。測定時はオリゴイミド環状体をクロロホルムに溶解し、希薄溶液として測定した。
【0211】
<機械的強度>
実施例1−1及び参考例1−1で作製したポリイミド樹脂及びポリイミド樹脂組成物の成形体を試験片として用いた。引張試験にはJIS K7139 タイプA試験片、曲げ試験にはJIS K7139 タイプA試験片から切り出した80×10×4mm厚の試験片を使用した。曲げ試験機(東洋精機工業(株)製「ベンドグラフII」)及び引張試験機(東洋精機工業(株)製「ストログラフAPIII」)を用いて曲げ試験及び引張試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、及び引張弾性率を測定した。曲げ試験はJIS K7171、引張試験はJIS K7113に準拠して測定を行った。
【0212】
<酸素指数>
酸素指数はJIS K7201−2の方法に従い、実施例2−1〜2−2及び参考例2−1において、80mm×10mm×4mm厚の試験片を用いて測定を行った。測定装置はキャンドル燃焼試験機D型(東洋精機製作所製)により行った。
【0213】
<Lab値及びYI値(色相評価)>
参考例3−1〜3−4、実施例3−1〜3−4、及び実施例3−6〜3−7において、長さ3〜4mm、直径0.7〜1.2mmのペレットを作製した。このペレットを190℃で10時間乾燥した後、色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)を用いて反射法によりLab値とYI値を測定した。
ここで、Lは明度を表し、値が大きいほど白色度が高いことを示す。aは赤−緑の程度を表し、値が大きいほど赤みが強く、値が小さいほど緑味が強いことを示す。bは黄−青の程度を表し、値が大きいほど黄色味が強く、値が小さいほど青みが強いことを示す。また、YIは黄色度であり、値が小さいほど黄色味が弱く、色相が良好であることを意味する。
【0214】
<全光線透過率>
実施例3−5で得られたペレットを、真空プレス装置((株)小平製作所製)を使用して、プレス機温度350℃、プレス圧5kN、プレス時間30秒で熱プレス成形し、厚み97μmのフィルムを作製した。このフィルムの全光線透過率を色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)により測定した。
【0215】
<表面粗さ>
表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)の測定は(株)キーエンス製のレーザー顕微鏡(VK−X210)を用いて行った。実施例4−1〜4−2及び参考例4−1で作製したフィルムに対して表裏それぞれ2回ずつ測定を行い、合計4回の測定の平均値を求めた。
以下の実施例4−1〜4−2及び参考例4−1において、作製されたフィルムのRaが同程度であれば、下記方法により測定される静摩擦係数が低いほど摺動性が高いことを意味する。
【0216】
<静摩擦係数>
静摩擦係数はポータブル摩擦計(新東科学(株)製「3Dミューズ」TYPE:37)を用いて測定を行った。実施例4−1〜4−2及び参考例4−1で作製したフィルム2枚に対して表裏それぞれ3回ずつ、合計12回測定を行い、平均値を求めた。
【0217】
<YI値(耐熱老化性の評価)>
実施例5−1〜5−2及び参考例5−1において、長さ3〜4mm、直径0.7〜1.2mmのペレットを作製した。このペレットを190℃で10時間乾燥した後、色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)を用いて反射法によりYI値を測定した。
ここで、YIは黄色度であり、YI値が低い方が、加熱による酸化劣化に伴う着色が抑制され、耐熱老化性に優れているものとした。
【0218】
[製造例1]ポリイミド樹脂1の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)650gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)257.75g(1.180mol)を導入し、窒素フローとした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)83.96g(0.5902mol)、1,6−ヘキサメチレンジアミン(和光純薬工業(株)製)54.86g(0.4722mol)、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(和歌山精化工業(株)製)23.64g(0.1180mol)を2−(2−メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール100gとベンジルアミン(関東化学(株)製)1.897g(0.0177mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、黄色透明な均一ポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が130〜150℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2−(2−メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で190℃、10時間乾燥を行い、360gのポリイミド樹脂1の粉末を得た。
DSC測定した結果、昇温1度目にはTm0が338℃に観測されるのみであり、Tg0、Tc0は明確には観測されなかった(すなわち、高い結晶化度を有していた)。冷却時にはTcが308℃(発熱量12.0mJ/mg)に観測され、高い結晶性を有していることが確認された。また、昇温2度目ではTgが226℃、Tmが335℃に観測された。更に、半結晶化時間を測定したところ20秒以下と決定された。1%分解温度は411℃、対数粘度は0.63dL/gであった。またIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1771、1699(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。
【0219】
[製造例2]ポリイミド樹脂2の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)650gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)260.97g(1.197mol)を導入し、窒素フローとした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)100.94g(0.7096mol)、1,6−ヘキサメチレンジアミン(和光純薬工業(株)製)54.96g(0.4730mol)を2−(2−メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール100gとベンジルアミン(関東化学(株)製)3.17g(0.0296mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、黄色透明な均一ポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が130〜150℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2−(2−メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で190℃、10時間乾燥を行い、360gのポリイミド樹脂2の白色粉末を得た。
DSC測定した結果、昇温1度目にはTm0が342℃に観測されるのみであり、Tg0、Tc0は明確には観測されなかった(すなわち、高い結晶化度を有していた)。冷却時にはTcが294℃(発熱量11.6mJ/mg)に観測され、高い結晶性を有していることが確認された。また、昇温2度目ではTgが224℃、Tmが341℃に観測された。更に、半結晶化時間を測定したところ20秒以下と決定された。対数粘度は0.69dL/gであった。またIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1771、1699(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。
【0220】
[製造例3]ポリイミド樹脂3の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)650gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)163.59g(0.750mol)を導入し、窒素フローとした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)42.36g(0.2978mol)、1,10−デカメチレンジアミン(小倉合成(株)製)76.967g(0.4467mol)を2−(2−メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール100gとベンジルアミン(関東化学(株)製)1.19g(0.0112mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、黄色透明な均一ポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が130〜150℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2−(2−メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で190℃、10時間乾燥を行い、247gのポリイミド樹脂3の白色粉末を得た。
DSC測定した結果、昇温1度目にはTgが184℃、Tm0が272℃に観測されるのみであり、Tc0は明確には観測されなかった(すなわち、高い結晶化度を有していた)。冷却時にはTcが225℃(発熱量17.7mJ/mg)に観測され、高い結晶性を有していることが確認された。また、昇温2度目ではTgが187℃、Tmが267、277℃に観測された。更に、半結晶化時間を測定したところ20秒以下と決定された。対数粘度は0.71dL/gであった。またIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1771、1699(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。
【0221】
[製造例4]ポリイミド樹脂4の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)650gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)163.59g(0.750mol)を導入し、窒素フローとした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)42.36g(0.2978mol)、1,12−ドデカメチレンジアミン(東京化成(株)製)89.50g(0.4467mol)を2−(2−メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール100gとベンジルアミン(関東化学(株)製)1.19g(0.0112mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、黄色透明な均一ポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が130〜150℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2−(2−メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で190℃、10時間乾燥を行い、260gのポリイミド樹脂4の白色粉末を得た。
DSC測定した結果、昇温1度目にはTm0が249℃に観測されるのみであり、Tg0、Tc0は明確には観測されなかった(すなわち、高い結晶化度を有していた)。冷却時にはTcが212℃(発熱量22.8mJ/mg)に観測され、高い結晶性を有していることが確認された。また、昇温2度目ではTgが173℃、Tmが253℃に観測された。更に、半結晶化時間を測定したところ20秒以下と決定された。対数粘度は0.73dL/gであった。またIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1771、1699(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。
【0222】
<実施例1−1、参考例1−1;充填材(b1)を含有する樹脂組成物>
[実施例1−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末4000gに、充填剤1としてタルク10.7g(林化成(株)製「ミクロンホワイト(MICRON WHITE)#5000S」、平均粒子径2.8μm)を添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM37BS」)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数254rpmで押し出した。この際、サイドフィーダーを用いて、充填剤2としてガラス繊維(日本電気硝子(株)製「T−275H」、直径10.5μm、繊維長3mm)を押出機内に導入し、溶融時に混合、押出しした。ガラス繊維はポリイミド樹脂組成物の全量に対して25質量%となるように導入した。
押出機より押し出されたストランドを水冷後、ペレタイザー(いすず化工機製「SCF−150」)によってペレット化した。得られたペレットは190℃、10時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。また、乾燥したペレットの1%分解温度は447℃であった。射出成形は射出成形機(ファナック(株)製「ROBOSHOT α−S50iA」)を使用して、バレル温度355℃、金型温度210℃、成形サイクル60秒として行い、成形体(JIS K7139 タイプA)を作製した。この成形体を試験片として用いて、前述の方法で曲げ試験及び引張試験を行った。結果を表1に示す。
【0223】
[参考例1−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM37BS」)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数254rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを水冷後、ペレタイザー(いすず化工機製「SCF−150」)によってペレット化した。得られたペレットは190℃、10時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。また、乾燥したペレットの1%分解温度は430℃であった。実施例1−1と同様の方法及び条件で射出成形を行い、試験片を作製して、曲げ試験及び引張試験を行った。結果を表1に示す。
【0224】
【表1】
【0225】
<実施例2−1〜2−2、参考例2−1;難燃剤(b2)を含有する樹脂組成物>
[実施例2−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末540gに、金属酸化物系難燃剤として三酸化スズ亜鉛(日本軽金属(株)製「フラムタードS」)60gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで押し出した。押出し機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは190℃、10時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。射出成形は射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製「HAAKE MiniJet II」)を使用し、バレル温度360℃、金型温度170℃で行い、成形体(80mm×10mm×4mm厚)を作製した。この成形体を試験片として用いて、前述の方法で酸素指数を測定したところ30.4であった。
【0226】
[実施例2−2]
実施例2−1において、フラムタードSの代わりに、芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業(株)製「PX−202」)60gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にして成形体を作製した。この成形体を試験片として用いて、前述の方法で酸素指数を測定したところ29.7であった。
【0227】
[参考例2−1]
難燃剤を添加しなかったこと以外は、実施例2−1と同様にして成形体を作製した。この成形体を試験片として用いて、前述の方法で酸素指数を測定したところ26.2であった。
【0228】
<参考例3−1〜3−4、実施例3−1〜3−7;着色剤(b3)を含有する樹脂組成物>
[参考例3−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットの外観は褐色半透明となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0229】
[参考例3−2]
製造例2で得られたポリイミド樹脂2の粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は淡褐色半透明となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0230】
[参考例3−3]
製造例3で得られたポリイミド樹脂3の粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度310℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は淡褐色不透明となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0231】
[参考例3−4]
製造例4で得られたポリイミド樹脂4の粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度300℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は微褐色不透明となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0232】
[実施例3−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末198gに、着色剤としてアントラキノン系緑色有機染料(三菱化学(株)製「ダイアレジングリーンC」)2gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は深い緑色となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。参考例3−1と比較して、a、b、YIの値が著しく小さくなったことが確認された。
【0233】
[実施例3−2]
実施例3−1において、着色剤をアントラキノン系青色有機染料(三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」)2gに変更したこと以外は、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は深い青色となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。参考例3−1と比較して、a、b、YIの値が著しく小さくなったことが確認された。
【0234】
[実施例3−3]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末240gに、白色無機顔料として酸化チタン(石原産業(株)製「CR−60」)60gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度360℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は乳白色となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。参考例3−1と比較してLが増加し、かつYIが低下したことから、白色度(明度)が向上し、黄色味も少なくなったことが確認された。
【0235】
[実施例3−4]
製造例2で得られたポリイミド樹脂2の粉末240gに、白色無機顔料として酸化チタン(石原産業(株)製「CR−60」)60gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度360℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は白色となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。参考例3−2と比較してLが増加し、かつYIが低下したことから、白色度(明度)が向上し、黄色味も少なくなったことが確認された。
【0236】
[実施例3−5]
製造例2で得られたポリイミド樹脂2の粉末270gに、鱗状黒鉛((株)中越黒鉛工業所製「BF−10AK」)30gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度360℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は黒色となっていた。
また、前述の方法で厚み97μmのフィルムを作製した。得られたフィルムの外観は黒色であった。このフィルムの全光線透過率を測定したところ0%であり、透過光が完全に遮光されることが確認された。
【0237】
[実施例3−6]
製造例3で得られたポリイミド樹脂3の粉末198gに、着色剤としてアントラキノン系緑色有機染料(三菱化学(株)製「ダイアレジングリーンC」)2gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度310℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は深い緑色となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。参考例3−3と比較して、a、b、YIの値が著しく小さくなったことが確認された。
【0238】
[実施例3−7]
製造例4で得られたポリイミド樹脂4の粉末198gに、着色剤としてアントラキノン系緑色有機染料(三菱化学(株)製「ダイアレジングリーンC」)2gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度300℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、参考例3−1と同様の方法でペレットを作製した。得られたペレットの外観は深い緑色となっていた。このペレットのLab、YIを前述の方法で測定した。結果を表2に示す。参考例3−4と比較して、a、b、YIの値が著しく小さくなったことが確認された。
【0239】
【表2】
【0240】
<実施例4−1〜4−2、参考例4−1;摺動性改良剤(b4)を含有する樹脂組成物>
[実施例4−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末540gに、摺動性改良剤としてPTFE系潤滑剤((株)喜多村製「KT−300M」)60gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで押し出した。
押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは190℃、10時間乾燥を行った後、熱プレス成形に使用した。
該ペレットを25cm×25cm×0.115mm厚のフッ素樹脂含浸ガラスクロス(中興化成工業(株)製「FGF−400−6」)上に重ならないように敷き詰め、そのペレット上にさらに25cm×25cm、厚さ0.115mmのフッ素樹脂含浸ガラスクロスを設置した。これを真空プレス装置((株)小平製作所製)を使用して、プレス機温度345℃、プレス圧5kN、プレス時間30秒で熱プレス成形した。プレスの際には成形後の搬送を容易にするため、25cm×25cm×0.5mm厚のアルミ板をプレス機の上下に設置した。冷却後、フッ素樹脂含浸ガラスクロスを取り除き、厚み110μmのフィルムを得た。得られたフィルムの表面粗さ(Ra)は6.01μmであり、静摩擦係数は0.191であった。
【0241】
[実施例4−2]
実施例4−1において、ポリイミド樹脂1の粉末を480g、摺動性改良剤をPTFE系潤滑剤((株)喜多村製「KTL−610」)120gに変更したこと以外は、実施例4−1と同様の方法で厚み102μmのフィルムを作製した。フィルムの表面粗さ(Ra)は6.36μmであり、静摩擦係数は0.183であった。
【0242】
[参考例4−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、実施例4−1と同様の方法で厚み97μmのフィルムを作製した。フィルムの表面粗さ(Ra)は6.26μmであり、静摩擦係数は0.204であった。
【0243】
<実施例5−1〜5−2、参考例5−1;酸化防止剤(b5)を含有する樹脂組成物>
[実施例5−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末495gに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製「Irganox1010」)2.5g及び硫黄系酸化防止剤であるペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(住友化学工業(株)製「SUMILIZER TP−D」)2.5gを添加し、ドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミルμ((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数30rpmで押し出した。押出し機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは190℃、10時間乾燥を行った後、YI値を前述の方法で測定した結果、YI値は66.26であった。酸化防止剤を導入しない場合(参考例5−1)と比較してYI値が低くなり、加熱による酸化劣化が抑制されたことを確認した。
【0244】
[実施例5−2]
実施例5−1において、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製「Irganox1010」)2.5gの代わりに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製「Irganox1098」)2.5gを用いたこと以外は、実施例5−1と同様にしてペレットを作製し、YI値を前述の方法で測定した。YI値は67.98であった。
【0245】
[参考例5−1]
酸化防止剤を添加しなかったこと以外は、実施例5−1と同様にしてペレットを作製し、YI値を前述の方法で測定した。YI値は83.89であった。
【0246】
<実施例6−1〜6−2、参考例6−1〜6−2;複合材>
[実施例6−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで押し出した。押出し機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。
該ペレットを25cm×25cm×0.115mm厚のフッ素樹脂含浸ガラスクロス(中興化成工業(株)製「FGF−400−6」)上に重ならないように敷き詰め、そのペレット上にさらに25cm×25cm、厚さ0.115mmのフッ素樹脂含浸ガラスクロスを設置した。これを真空プレス装置((株)小平製作所製)を使用して、プレス機温度350℃、プレス圧5kN、プレス時間30秒で熱プレス成形した。プレスの際には成形後の搬送を容易にするため、25cm×25cm×0.5mm厚のアルミ板をプレス機の上下に設置した。冷却後、フッ素樹脂含浸ガラスクロスを取り除き、厚み108μmのフィルムを得た。同様の操作を行いさらにもう一枚の厚み102μmのフィルムを得た。
続いて、25cm×25cm、厚さ0.115mmのフッ素樹脂含浸ガラスクロス(中興化成工業(株)製)上に前記フィルムを敷き、そのフィルム上に炭素繊維開繊糸織物(サカイオーベック製『BUS−070G24WH』)を20cm×20cmに切断したものを載せた。その炭素繊維開繊糸織物上に前記フィルムを敷いた後、最後に25cm×25cm、厚さ0.115mmのフッ素樹脂含浸ガラスクロスを最上部においた。すなわちこの時点で『フッ素樹脂含浸ガラスクロス−樹脂フィルム−炭素繊維開繊糸織物−樹脂フィルム−フッ素樹脂含浸ガラスクロス』の順に積層させた。この積層体を真空プレス装置を使用して、プレス機温度350℃、プレス圧10kN、プレス時間40秒で行い、冷却してフッ素樹脂含浸ガラスクロスを取り除くことで、両表面がポリイミド樹脂1の板状の複合材を得た。
得られた複合材は1cm×15cmの形状に切り取った。この際、炭素繊維開繊糸織物の縦糸と横糸がそれぞれ試験片の長辺と短辺に直行するように切り取った。得られた試験片はJIS K7127の方法により引張強度、引張弾性率を測定した。測定は引張試験機((株)東洋精機製作所製『ストログラフEII』)により行い、引張強度127MPa、引張弾性率15.2GPaとなった。
【0247】
[実施例6−2]
製造例2で得られたポリイミド樹脂2の粉末を実施例6−1と同様の方法でペレット化、フィルム化、炭素繊維開繊糸織物との複合化を行った。得られた複合材は実施例6−1と同様の方法で引張試験を行った。引張強度119MPa、引張弾性率13.1GPaとなった。
【0248】
[参考例6−1]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1の粉末を実施例6−1と同様の方法でペレット化、フィルム化を行った。得られたポリイミド樹脂1のフィルムは実施例6−1と同様の方法で引張試験を行った。引張強度65MPa、引張弾性率2.5GPaとなった。
【0249】
[参考例6−2]
ポリイミド樹脂1をポリイミド樹脂2に変えた以外は参考例6−1と同様の方法でポリイミド樹脂2のペレット化、フィルム化を行った。
得られたポリイミド樹脂2のフィルムは実施例6−1と同様の方法で引張試験を行った。引張強度62MPa、引張弾性率2.5GPaとなった。
【0250】
[製造例5]オリゴイミド環状体の製造
熱電対、4枚パドル翼を設置した200mLオートクレーブ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)100gとピロメリット酸(三菱ガス化学(株)製)10.0g(0.0393mol)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)3.91g(0.02751mol)、を導入し、窒素フローとした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。この段階で、白色のナイロン塩スラリー液が得られた。次に、オートクレーブを密閉状態、撹拌速度を100rpmとした後に、内温を150℃まで昇温した。150℃で60分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られた白色固体をN−メチル−2−ピロリドン(三菱化学(株)製)100.0gから抽出を行った。この抽出液をロータリーエバポレーター RE−301(ヤマト科学(株)製)で液量が20g程度になるまで濃縮し、析出する固体を濾過により取り除いた。さらに、濾過により得られたろ液をロータリーエバポレーターにより液量が10g程度になるまで濃縮し、再度析出する固体を濾過により取り除いた。得られたろ液を乾固して得た固体に、メタノール(三菱ガス化学(株)製)20gを加え撹拌したのち濾過、150℃で5時間乾燥することで白色固体、1.6gを得た。
【0251】
得られた白色固体のIR測定を行うと1701cm-1、1770cm-1にイミド環の特性吸収が見られた。
また、FD−MS測定を行うと大部分が分子量648.2であるピークが観測され(図1参照)、目的とするオリゴイミド環状体が単離されたことが確認された。
さらに、TG−DTAにより空気雰囲気での1%分解温度を測定したところ359℃と高い値が得られた。
【0252】
上記オリゴイミド環状体は種々の樹脂に配合することで耐熱性を向上させることができるので、自動車用部材、工業用機械部材、電気電子部品用部材といった高温特性を必要とする樹脂組成物の材料の1つとして利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0253】
本発明においては、ポリイミド樹脂が特定の異なるポリイミド構成単位を特定の比率で含むため、例えば、360℃以下の低融点かつ170℃以上(好ましくは200℃以上)の高ガラス転移温度を有する。ポリイミド樹脂がこのような特異な性能を有することにより、成形加工が容易であり、かつ耐熱性に優れる成形体を作製しうるポリイミド樹脂組成物を提供できる。また該ポリイミド樹脂組成物に各種添加剤を添加することで、所望の性能、例えば機械的強度、難燃性、意匠性、摺動性、耐熱老化性、導電性等を付与することができる。
また本発明においては、上記特定のポリイミド樹脂を用いることで、従来の一般的なポリイミド樹脂を用いた場合と比較して、繊維材料との複合化が容易であり、かつ、複合材にリサイクル性及び成形加工性を付与することが可能となる。さらに、ポリオレフィン樹脂やポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を用いた複合材と比較すると、本発明の複合材は、耐熱性と機械的強度に非常に優れている。
図1