(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原油に含まれる成分が数多く存在するため、原油の組成の分析は、多大な手間と労力とを要する。また、手間と労力をかけて得た分析の結果は、必ずしも再現性が高いものではない。
【0006】
原油の物性として、例えば、炭化水素管理委員会(HMC)によって公開されているデータベースHMC−4A、石油関連企業によって公開されている油種や産地ごとのAPIなどの公開データがある。また、吸収プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータには、蒸留曲線に基づいて沸点で代表される成分を原油の仮想成分として模擬組成を作成する機能(原油模擬組成作成機能)を有するものがある。このため、組成が不明でも、公開されているデータに基づいてプロセスシミュレータによって仮想成分による模擬組成を作成し、この模擬組成を使用することで一通りのプロセスシミュレーションが可能となる。ところが、模擬組成は、実際の化学物質成分(炭化水素成分)の組成と異なるため、シミュレーションに使用すると精度に改善の余地がある。これは、ベーパーの組成が実在する化学物質成分であり、原油の組成が仮想成分であるので、正確に気液平衡計算を行うことができないためである。
【0007】
そこで、本願の発明者は、原油のベーパーの組成を詳しく分析、調査した。その結果、原油のベーパーは、産地などによらず含まれる成分が類似していることが分かった。また、原油に含まれる成分のうち吸収操作に大きく影響する軽質成分について調査した。その結果、どのような原油であっても軽質成分は、ほとんど同じ成分であることが分かった。このような分析、調査の結果から、本願の発明者は、原油の成分表の代表的な成分ごとの含有濃度(原油の組成)が正確に分かれば精度のよいシミュレーションができる、という知見を得た。
【0008】
さらに、吸収操作において、通常、ベーパー中の炭化水素成分を最大限回収しようとすることから吸収能力に余裕を持たせるために使用する原油の量が多い。このため、液相側の吸収前と吸収後の原油の組成とを分析してもその差異は非常に小さい。このため、液相側の分析の結果から原油の組成を推定することは困難である。これに対して、気相側は、軽質成分の分析が容易であることに加え、炭化水素成分の大半が吸収されるために、吸収前と吸収後の組成が大きく変化する。この結果、各成分の吸収量を精度よく把握できる。これらのことにより、本願の発明者は、原油によるベーパーからの炭化水素吸収プロセスにおいては、気相側の軽質成分の分析値から原油の組成を推定することができる、という知見を得た。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、原油の組成を推定し、精度のよいシミュレーション結果を得ることができる原油組成推定方法
、吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法
、および、回収設備のプロセスシミュレーション方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る原油組成推定方法では、
(1)
原油から放出されるベーパーを前記原油により吸収する吸収液化設備におけるマテリアルバランスのシミュレーションに用いる前記原油の組成を推定する原油組成推定方法であって、
前記ベーパーの供試ガスを前記原油により吸収する吸収試験を行い、前記供試ガスの成分ごとの含有濃度と、
前記原油により前記供試ガスの一部
を吸収した後に排出される処理ガスの成分ごとの含有濃度と
を計測し、
前記原油の物性を示す原油公開データに基づいて、前記原油の模擬組成を沸点で代表される仮想成分ごとの含有濃度の組成で作成し、
作成した前記原油の模擬組成の仮想成分をそれぞれ対応する実在の炭化水素成分に置換して得られた前記原油に含まれる成分ごとの含有濃度をシミュレーションの入力値とし、
前記原油に含まれる成分ごとの含有濃度と前記吸収試験において計測した前記供試ガスの成分ごとの含有濃度とに基づいて、前記吸収試験において前記供試ガスを前記原油により吸収する吸収プロセスのマテリアルバランスをシミュレーションし、
前記シミュレーションにより算出された前記処理ガスの成分ごとの含有濃度と前記吸収試験において計測した前記処理ガスの成分ごとの含有濃度とを比較し、
前記シミュレーションにより算出された前記処理ガスの成分ごとの含有濃度と前記吸収試験において計測した前記処理ガスの成分ごとの含有濃度とが一致する場合、前記原油に含まれる成分ごとの含有濃度は、正しい原油組成であると推定し、
前記シミュレーションにより算出された前記処理ガスの成分ごとの含有濃度と前記吸収試験において計測した前記処理ガスの成分ごとの含有濃度とが一致しない場合、前記原油に含まれる成分ごとの含有濃度を修正して、前記シミュレーションにより算出された前記処理ガスの成分ごとの含有濃度と前記吸収試験において計測した前記処理ガスの成分ごとの含有濃度とを比較する処理を、前記シミュレーションにより算出された前記処理ガスの成分ごとの含有濃度と前記吸収試験において計測した前記処理ガスの成分ごとの含有濃度とが一致するまで繰り返し、一致した場合における修正した前記原油に含まれる成分ごとの含有濃度は、正しい原油組成であると推定する、ことを特徴とする。
【0011】
(2)また、上記(1)の原油組成推定方法において、
前記原油公開データに基づいて、前記原油の模擬組成を沸点で代表される仮想成分ごとの含有濃度の組成で作成し、作成した前記原油の模擬組成の仮想成分をそれぞれ対応する実在の炭化水素成分に置換して得られた前記原油に含まれる成分ごとの含有濃度をシミュレーションの入力値とする際に、前記原油の仮想成分のうち、炭素数1から炭素数10に相当する仮想成分をそれぞれ対応する実在の炭化水素成分に置換する、ことが好ましい。
【0015】
(
3)本発明に係る
吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法は、上記(1)
または(2)の原油組成推定方法によって推定された前記原油の組成と、
吸収液化設備で吸収液化されるベーパーの成分ごとの含有濃度とに基づいて
、吸収液化設備の大きさ、ベーパーの流量、原油の流量、温度、圧力などの設置条件を変えて吸収液化設備におけるプロセス
のマテリアルバランスをシミュレーションする、ことを特徴とする。
【0016】
(
4)本発明に係る回収設備のプロセスシミュレーション方法は、上記(3)の吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法によってシミュレーションされる前記ベーパーを前記原油により吸収する吸収プロセスに、炭化水素を選択的に透過する膜分離プロセス、または、炭化水素を選択的に吸着する吸着剤を使用したガス分離プロセスと
を組み合わせて前記
ベーパーを回収する回収設備のプロセスの全体をシミュレーションする、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る原油組成推定方法は、
ベーパーの供試ガスの成分ごとの含有濃度と、供試ガスの一部を原油で吸収した後に排出される処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油に含まれる成分ごとの含有濃度を推定する。これにより、気相側における成分ごとの含有濃度によって原油の組成を推定することができる、という効果を奏する。
【0018】
また、
吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法は、原油組成推定方法によって推定された原油の組成と、
吸収液化設備で吸収液化されるベーパーの成分ごとの含有濃度とに基づいて
吸収液化設備における吸収プロセス
のマテリアルバランスをシミュレーションする。このため、精度のよいシミュレーション結果を得ることができる、という効果を奏する。
また、回収設備のプロセスシミュレーション方法は、吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法によってシミュレーションされるベーパーを原油により吸収する吸収プロセスに、炭化水素を選択的に透過する膜分離プロセス、または、炭化水素を選択的に吸着する吸着剤を使用したガス分離プロセスとを組み合わせてベーパーを回収する回収設備のプロセスの全体をシミュレーションすることができる。このため、回収設備全体を適切に設計することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る
、原油組成推定方法
、吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法
、および、回収設備のプロセスシミュレーション方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
[実施形態]
図1ないし
図4を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、原油組成推定方法
、吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法
、および、回収設備のプロセスシミュレーション方法に関する。原油組成推定方法は、吸収試験装置1において
ベーパーの供試ガス(供試試料ガス)の一部を吸収油としての調査対象原油(以下、単に原油という)で吸収した際に気相側における成分ごとの含有濃度(組成)によって原油の成分ごとの含有濃度を推定する方法である。
【0022】
吸収試験装置1は、例えば、タンカーの船倉から排出された原油のベーパーを原油によって吸収液化して回収する吸収液化設備における吸収プロセスと同等の吸収プロセスを再現する吸収試験を行うものである。吸収試験装置1は、吸収液化設備と同等の機能、構成を有する。吸収試験装置1は、吸収液化設備を小型化、簡易化した簡易装置である。吸収試験装置1は、
図1に示すように、吸収液化設備において吸収液化するものと同一の原油のベーパー(供試ガス)を原油により吸収する吸収試験を行うものである。吸収試験装置1は、内径が数10mmで軸方向の長さが数10〜数100mmの円筒状の吸収塔(充填塔)である。吸収試験装置1は、その内部において多段の気液平衡である向流接触の連続吸収で定常状態を作る。吸収試験装置1は多段の気液平衡状態となるため、後述するプロセスシミュレータ40によって吸収プロセスの物質収支(マテリアルバランス)をシミュレーション(吸収プロセスシミュレーション)することができる。具体的に、例えば、BWR式などに基づいた多段の気液平衡計算によって吸収試験装置1における吸収プロセスのマテリアルバランスをシミュレーションして処理ガスの成分ごとの含有濃度(組成)を算出する。
【0023】
吸収試験装置1は、主として、第1配管11と第2配管12と第3配管13と第4配管14と接続されている。第1配管11は、供試ガスを吸収試験装置1に供給するものである。第2配管12は、原油を吸収試験装置1に供給するものである。第2配管12には、原油を吸収試験装置1の上部に導入するためのポンプが接続されている。第3配管13は、供試ガスの一部を原油で吸収した後の処理ガスを吸収試験装置1から排出するものである。第4配管14は、供試ガスの一部を吸収した吸収済み原油を吸収試験装置1から排出するものである。流量・温度調整部15は、第2配管12の流路上に配設されている。流量・温度調整部15は、原油の流量や温度を調整するものである。流量・温度調整部15は、例えば、バルブ、サーモスタットで構成される。本実施形態において、供試ガスの流量は、20〜200NL/minに設定する。また、原油の流量は、0.3〜3L/minに設定する。吸収試験装置1の内部の温度(吸収操作の温度(温度条件))は、常温〜60℃に設定する。吸収試験装置1の内部の温度が高くなると吸収量が低下する。吸収操作の圧力(圧力条件)は、大気圧〜0.5MPaに設定する。このような吸収試験装置1は、吸収液化設備の設置予定地に設置される。ただし、これが不可能な場合は、若干精度が低下する場合もあるが、適切な試験室に設置し原油を持ち込んで吸収試験を行ってもよい。
【0024】
供試ガス用分析計20は、供試ガスの成分を分析するものであり、第1配管11から吸収試験装置1への供試ガスの入口に配設される。供試ガス用分析計20は、炭化水素成分を分析するガスクロマトグラフや、酸素成分を分析するガルバニ電池式酸素濃度計、他の成分を分析するオルザット分析計や赤外線分析計などで構成される。供試ガス用分析計20は、分析した供試ガスの成分ごとの含有濃度を含む供試ガス分析データを後述するプロセスシミュレータ40に送信する。処理ガス用分析計30は、処理ガスの成分を分析するものであり、供試ガス用分析計20と同様に構成される。処理ガス用分析計30は、吸収試験装置1から第3配管13への処理ガスの出口に配設される。処理ガス用分析計30は、分析した処理ガスの成分ごとの含有濃度を含む処理ガス分析データを後述するプロセスシミュレータ40に送信する。
【0025】
プロセスシミュレータ40は
、吸収プロセスシミュレーション方法によって
吸収試験装置における吸収
プロセスをシミュレーションする機能を有
し、シミュレーション結果により原油の組成を推定する。プロセスシミュレータ40は、
図3に示すように、主として、入力部41と、記憶部42と、表示部43と、処理部44とを備えたコンピュータを含む処理装置である。また、プロセスシミュレータ40は、供試ガス用分析計20から供試ガス分析データを受信し、処理ガス用分析計30から処理ガス分析データを受信する。
【0026】
入力部41は、プロセスシミュレータ40に対して供試ガスの分析データや、処理ガス分析データ、原油公開データ、供試ガスの流量、原油の流量、吸収試験装置1における吸収試験時の温度と圧力などを入力するものである。入力部41は、供試ガス用分析計20と処理ガス用分析計30とに接続されている。また、入力部41は、キーボード、マウスなどの入力装置で構成されている。
【0027】
記憶部42は、揮発性のメモリや、不揮発性のメモリ、磁気ディスクなどの記憶装置で構成されている。記憶部42は、入力部41によって入力された供試ガス分析データ、処理ガス分析データ、原油公開データ、シミュレーション結果、プロセスシミュレータ40における情報処理に必要なプログラム、タスクなどを記憶する。
【0028】
表示部43は、ディスプレイなどの表示装置やプリンタなどの出力装置で構成されている。表示部43は、プロセスシミュレータ40におけるシミュレーション結果を表示または出力する。
【0029】
処理部44は、主として、原油公開データに基づいて原油の模擬組成を作成する原油模擬組成作成機能と
、吸収プロセスシミュレーション方法によって
吸収試験装置における吸収プロセスのマテリアルバランスをシミュレーションする機能(シミュレーション機能)と
、原油組成推定方法によって原油の組成を推定する機能(原油組成推定機能)とを有する。ここで、原油組成推定機能を有していない場合、入力値を試行錯誤で修正して原油の組成を推定することも可能である。詳細については後述する。
【0030】
供試ガスは、吸収液化設備において吸収液化するものと同一の
ベーパーの供試ガスを昇圧して使用する。また、供試ガスが入手できない場合、原油の成分表の代表的な成分を含む標準ガスのボンベを吸収試験用に用意して使用する。
【0031】
供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油の成分ごとの含有濃度を推定する。
【0033】
表1は、24℃の温度条件下における吸収試験時の分析による供試ガスの含有濃度、分析による処理ガスの含有濃度を示す。この例で供試ガスの成分ごとの含有濃度は、処理ガスではいずれも減少する。具体的に、供試ガスの炭化水素成分の合計(炭化水素合計)の含有濃度は、20.02vol%であり、処理ガスの炭化水素成分の合計の含有濃度は、7.53vol%である。供試ガスの成分ごとの含有濃度の減少分は、原油に吸収されたと考えられる。すなわち、原油は、供試ガスの成分ごとの含有濃度の減少分に相当する吸収容量を有すると考えられる。このようにして、供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油の成分ごとの含有濃度を推定する。
【0034】
また、供試ガスにおいて含有濃度がゼロより大きく、かつ、処理ガスにおいて含有濃度がゼロの成分は、原油にすべて吸収されたと考えられる。このような場合、原油の成分ごとの含有濃度を正確に推定することができない。そこで、異なる温度条件下で吸収試験を行い、供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度とをそれぞれ対で取得する。そして、第1温度における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油の一部の成分の含有濃度を推定する。そして、第1温度と異なる温度における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油の他の成分の含有濃度を推定する。
【0035】
具体的に、表1に示すように、24℃の温度条件下における吸収試験で炭素数6の2メチルペンタンの含有濃度は、供試ガスが0.03vol%であり、処理ガスが0.00vol%である。このため、24℃の温度条件下における吸収試験で2メチルペンタンは、すべて原油に吸収されてしまうため原油の成分ごとの含有濃度を正確に推定することができない。そこで、吸収操作の温度を36℃として24℃の温度条件下における吸収試験よりも吸収量を低下させる。これにより、処理ガスの2メチルペンタンの含有濃度がゼロより大きくなるようにする。
【0037】
表2は、36℃の温度条件下における吸収試験時の分析による供試ガスの含有濃度、分析による処理ガスの含有濃度を示す。36℃の温度条件下における吸収試験で2メチルペンタンの含有濃度は、供試ガスが0.02vol%であり、処理ガスが0.01vol%である。このように、36℃の温度条件下における吸収試験では2メチルペンタンの含有濃度に基づいて原油の2メチルペンタンの含有濃度がより正確に推定される。同様に、炭素数7のn−ヘプタン、トルエン、炭素数8の2メチルヘプサン、p−キシレンについても36℃の温度条件下における吸収試験での成分ごとの含有濃度に基づいて原油の成分ごとの含有濃度が正確に推定される。すなわち、36℃の温度条件下における供試ガスの成分ごとの含有濃度の変化分によって原油の吸収容量が推定される。このようにして、ある温度条件下における吸収試験で成分がすべて原油に吸収されて原油の成分ごとの含有濃度を正確に推定することができない成分については、異なる温度条件下における吸収試験での供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度の差分に基づいて原油の対応する成分ごとの含有濃度を推定する。また、36℃の温度条件下におけるメタンの含有濃度は、供試ガスが0.99vol%であり、処理ガスが1.03vol%である。これはメタンがほとんど吸収されていないことを意味しており、メタンの吸収容量については24℃の温度条件下における吸収試験結果が必要である。
【0038】
原油は、吸収液化設備において吸収液化するものと同一の原油を使用する。原油は、成分表に示されるように炭化水素成分を主成分として、その他に窒素や酸素、二酸化炭素などを含む。原油の炭化水素成分は、例えば、炭素数1のメタン、炭素数2のエタン、炭素数3のプロパン、炭素数4のiso−ブタン、n−ブタン、炭素数5のiso−ペンタン、n−ペンタン、2,2ジメチルブタン、炭素数6の2メチルペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、炭素数7の2メチルヘキサン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トルエン、炭素数8の2メチルヘプサン、n−オクタン、エチルシクロヘキサン、p−キシレン、1,2ジメチルシクロヘキサン、炭素数9の2メチルオクタン、n−ノナン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルベンゼン、炭素数10の2メチルノナン、n−デカン、1,2−ジエチルシクロヘキサン、ナフタレンがある。また、原油に関する物性は、米国試験材料協会(ASTM)、米国石油協会(API)を含む公的機関などから公開される原油公開データがある。原油公開データとしては、例えば、原油の軽質成分の含有濃度や、蒸留曲線、API比重、リード蒸気圧(RVP)、ワトソン特性係数などがある。
【0039】
次に、吸収試験装置1を使用した原油組成推定方法
、吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法
、および、回収設備のプロセスシミュレーション方法とその作用について説明する。本実施形態は、タンカーの船倉から排出された原油のベーパーを原油によって吸収液化する吸収液化設備の設計時に、原油組成推定方法によって原油の組成を推定し、
吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法によって吸収液化設備をシミュレーションするものとして説明する。
【0040】
まず、吸収液化設備の設置予定地に吸収試験装置1を設置する。この吸収試験装置1によって、吸収液化設備において吸収液化するものと同一の原油のベーパー(供試ガス)を同一の原油により吸収する吸収試験を行う。吸収試験装置1には、第1配管11から供試ガスが供給され、第2配管12から原油が供給される。また、吸収試験装置1からは、第3配管13を介して処理ガスが排出され、第4配管14を介して吸収済み原油が排出される。吸収試験時の原油の流量や温度は、流量・温度調整部15によって調整される。供試ガス用分析計20によって供試ガスの成分ごとの含有濃度が分析され、処理ガス用分析計30によって処理ガスの成分ごとの含有濃度が分析される。供試ガス用分析計20は、供試ガス分析データをプロセスシミュレータ40に送信する。処理ガス用分析計30は、処理ガス分析データをプロセスシミュレータ40に送信する。このような吸収試験装置1においては、多段の気液平衡状態が成立する。
【0041】
そして、プロセスシミュレータ40の
吸収プロセスシミュレーション方法によって吸収試験装置における吸収プロセスをシミュレーションし(シミュレーション機能)、原油組成推定方法によって原油組成を推定
する(原油組成推定機能)
。シミュレーション機能とは、プロセスシミュレータ40における
図4に示すフローに沿った処理のステップS13である。
また、原油組成推定機能とは、プロセスシミュレータ40における図4に示すフローに沿った処理(ステップS11ないしステップS17)のことである。
【0042】
まず、蒸留曲線やAPI比重、リード蒸気圧などの原油公開データをプロセスシミュレータ40に入力する。そして、入力された原油公開データに基づいて原油模擬組成作成機能によって原油の模擬組成を作成する(ステップS11)。作成された原油の模擬組成は、
図2に示すように、沸点で代表される仮想成分(沸点成分)に分割した模擬組成となる。
【0043】
そして、本実施形態では、原油の模擬組成の仮想成分のうち炭素数1から炭素数10に相当する仮想成分を実際の化学物質成分(炭化水素成分)に置換する(ステップS12)。すなわち、炭素数1から炭素数10に相当する仮想成分の含有濃度は、実際には炭化水素成分に含まれるものとして炭化水素成分の含有濃度に置換する。具体的に、例えば、後述する表3に示すように、沸点51℃、沸点77℃、沸点101℃、沸点128℃、沸点155℃の仮想成分は、仮想成分の含有濃度をゼロとして炭化水素成分の含有濃度に置換する。ここで、炭素数範囲ごとに実測値が入手できる場合、その値を参考にして炭化水素成分の含有濃度として入力してもよい。また、ワトソン特性係数が示される場合、鎖状飽和炭化水素と環状飽和炭化水素と芳香族炭化水素との割合を推定して、これを参考にして炭化水素成分の含有濃度として入力してもよい。このようにして、
作成した原油の模擬組成の仮想成分をそれぞれ対応する実在の炭化水素成分に置換して得られた原油の組成をシミュレーション機能の入力値とする。
【0044】
そして、シミュレーション機能によって
、分析された供試ガスの組成と
原油の模擬組成の仮想成分をそれぞれ対応する実在の炭化水素成分に置換して得られ入力された原油の組成と供試ガスの流量と原油の流量と吸収試験装置1における吸収試験時の温度と圧力とに基づいて気液平衡計算によって吸収試験装置1における吸収プロセスのマテリアルバランスをシミュレーションして処理ガスの組成と吸収済み原油の組成とを算出する(ステップS13)。このようにして、ステップS13に示すシミュレーション機能(
吸収プロセスシミュレーション方法)によって
吸収試験装置における吸収プロセスがシミュレーションされる。
【0045】
そして、分析された処理ガスの組成とシミュレーションで算出された処理ガスの組成とを比較する(ステップS14)。そして、分析された処理ガスの組成とシミュレーションで算出された処理ガスの組成とが一致しているか否かを判断する(ステップS15)。一致すると判断した場合(「Yes」の場合)、入力された原油の組成が正しいと判断する。そして、シミュレーション機能によって得られた結果を表示部43に出力する(ステップS17)。具体的に、シミュレーション機能によって得られた結果は、例えば、表3に示すデータとして表示部43に出力される。
【0046】
一致しないと判断した場合(「No」の場合)、入力された原油の組成は、実際の原油の組成とずれがあると判断する。ここで、先に述べたように、原油は、供試ガスの成分ごとの含有濃度の減少分に相当する吸収容量を有すると考えられる。このため、分析された処理ガスの組成とシミュレーションで算出された処理ガスの組成とが一致しない場合、シミュレーションした原油の吸収容量が実際の原油の吸収容量とずれていると考えられる。すなわち、入力された原油の組成が実際の原油の組成とずれていると考えられる。
【0047】
そして、一致しないと判断した場合、入力された原油の組成のうち、ずれがある成分の含有濃度を修正する(ステップS16)。具体的に、供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油の成分ごとの含有濃度を再考して修正する。そして、ステップS13に戻って再度シミュレーションする。このようにステップS13からステップS16の処理を分析された処理ガスの組成とシミュレーションで算出された処理ガスの組成との差分が収束するまで繰り返して合わせ込みをする。このようにして、原油組成推定方法によって原油の組成が推定される。
【0049】
表3は、20.7℃の供試ガスを15℃の原油で吸収した吸収試験時の吸収プロセスのマテリアルバランスをシミュレーションした結果であり、分析された供試ガスの組成と算出された処理ガスの組成と入力された原油の組成と算出された吸収済み原油の組成とを示す。なお、表3において、供試ガスの組成は、吸収塔入口として示され、処理ガスの組成は、吸収塔出口として示され、原油の組成は、原油入口として示され、吸収済み原油の組成は、原油出口として示される。後述する表4、表5についても同様である。
【0050】
この条件下における吸収試験では、原油の組成のうち炭素数3から炭素数10の成分ごとの含有濃度を修正して合わせ込みを行った。気液平衡計算によるシミュレーションのため、処理ガスの組成としては、微量ながらモル分率値が算出される。しかし、通常使用するガスクロマトグラフの検出限界値は0.1mol%である。すなわち、含有濃度が0.1mol%より小さい成分は、ガスクロマトグラフによる分析でゼロとなる。この吸収試験において炭素数8以上の成分ごとの含有濃度は、すべて検出限界値以下のモル分率で算出される。このため、炭素数8以上の成分ごとの含有濃度は、ガスクロマトグラフによる分析でゼロとなる。このため、処理ガスの炭素数8以上の成分ごとの含有濃度は、すべてゼロとして扱うことができる。また、処理ガスの仮想成分ごとの含有濃度は、すべて検出限界値以下のモル分率で算出されるので、同様に、すべてゼロとして扱うことができる。このように、この温度条件下における吸収試験の結果は、非常に扱いやすいものとなる。
【0052】
表4は、表3と同じ原油について、35.3℃の供試ガスを30℃の原油で吸収した吸収試験を行って
、吸収プロセスシミュレーション方法によって得られた結果である。表4は、供試ガスの組成と処理ガスの組成と原油の組成と吸収済み原油の組成とを示す。
【0053】
この条件下における吸収試験では、処理ガスの組成は、計算値と分析値との整合性が高い。また、表3と同様に、炭素数8以上の成分ごとの含有濃度は、すべてゼロとして扱うことができる。また、処理ガスの仮想成分ごとの含有濃度も、すべて検出限界値以下のモル分率で算出されるので、同様に、すべてゼロとして扱うことができる。
【0054】
つづいて、
吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法は、原油組成推定方法によって推定された原油の組成と
ベーパーの組成とに基づいて吸収液化設備の大きさ、ベーパーの流量、原油の流量、温度、圧力などの設置条件を変えた吸収液化設備における吸収プロセス
をシミュレーションする。これにより、設置条件を変えたシミュレーション結果を比較することで、吸収液化設備の大きさ、ベーパーの流量、原油の流量、温度、圧力が適切に設定される。
【0055】
また、
回収設備のプロセスシミュレーション方法は、
吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法によってシミュレーションされる吸収プロセス
に、炭化水素を選択的に透過する膜分離プロセス、または、炭化水素を選択的に吸着する吸着剤を使用したガス分離プロセスと
を組み合わせて
ベーパーを回収する回収設備のプロセスの全体をシミュレーションする。これにより、
ベーパーの回収設備のプロセス全体がシミュレーションされる。
【0056】
以上の原油組成推定方法は、吸収試験における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油の成分ごとの含有濃度を高精度に推定することができる。すなわち、吸収試験における気相側のデータに基づいて原油組成推定機能によって液相の原油の成分ごとの含有濃度を高精度に推定できる。
【0057】
また、
吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法は、原油組成推定方法で推定した高精度な原油の成分ごとの含有濃度に基づいて吸収プロセスをシミュレーションするので、シミュレーションの精度が向上する。これにより、吸収液化設備の大きさ、ベーパーの流量、原油の流量、温度、圧力を適切に設定することができる。このため、吸収液化設備における原油の回収率を高く、かつ、
ベーパーの排出濃度を低くすることができる。
【0058】
さらに、
回収設備のプロセスシミュレーション方法は、原油組成推定方法で推定した原油の成分ごとの含有濃度に基づい
た吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法によってシミュレーションされる吸収プロセス
に、膜分離プロセスや吸着剤を使用したガス分離プロセスを
組み合わせてベーパーを回収する回収設備のプロセスの全体をシミュレーションすることができる。また、膜分離プロセスは、
図7に示すように、濃縮ガスがベーパーと合流するためシミュレーションに繰り返し計算が必要になる。この繰り返し計算も1回のシミュレーションで収束させることができる。このように、
ベーパーの回収設備全体を適切に設計することができる。
【0059】
[比較例]
表5は、比較例として、蒸留曲線とAPI比重とRVP蒸気圧とに基づいてプロセスシミュレータ40の原油模擬組成作成機能によって仮想成分を作成して、作成された仮想成分をプロセスシミュレータ40のシミュレーション機能の入力値としたシミュレーション結果である。すなわち、原油組成推定方法によって原油の組成を推定していない。なお、炭素数3から炭素数5の成分についての含有濃度が示された公開されるデータも参考した。表5は、供試ガスの組成と処理ガスの組成と原油の組成と吸収済み原油の組成とを示す。
【0061】
この比較例では、原油の炭素数6のn−ヘキサンと炭素数7のn−ヘプタンの含有濃度はゼロ、すなわち、原油に存在しないものとして計算される。このため、供試ガスのn−ヘキサンとn−ヘプタンは大部分が吸収済み原油に吸収されるということが示される。また、沸点51℃から沸点128℃の仮想成分は、炭素数6から炭素数8程度の炭化水素成分に相当すると考えられる。これらの仮想成分は、供試ガス中に存在しないものとなっているため原油から気相側に蒸発していることが示される。
【0062】
このように、比較例においては、シミュレーション結果が実態を表現していない。このため、分析値と比較することは困難である。また、シミュレーション後に仮想成分を炭化水素成分に置換しても整合しなかった。さらに、公開されるデータに含まれていた炭素数3から炭素数5の組成についても、本発明の原油組成推定方法で合わせ込んだ組成とはかい離しており、そのまま使用するとシミュレーションの精度を下げる。このように、原油組成推定方法によって原油の組成を推定せずにシミュレーションを行っても、シミュレーションの精度が悪い。
【0063】
なお、上述した本発明の実施形態に係る原油組成推定方法
、吸収液化設備の吸収プロセスシミュレーション方法
、および、回収設備のプロセスシミュレーション方法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0064】
本実施形態では、炭素数1から炭素数10に相当する仮想成分の含有濃度を炭化水素成分の含有濃度に置換したが、すべての仮想成分の含有濃度を炭化水素成分の含有濃度に置換してもよい。また、炭素数1から炭素数8に相当する仮想成分の含有濃度を対応する炭化水素成分の含有濃度に置換してもよい。この場合、炭素数9や炭素数10に相当する仮想成分の含有濃度はプロセスシミュレータ40の原油模擬組成作成機能で作成された値のままとする。この炭素数9や炭素数10に相当する仮想成分は、シミュレーションに影響しないためである。なお、炭素数9や炭素数10に相当する仮想成分の含有濃度は、シミュレーションで成分ごとの含有濃度を算出する際に緩衝地帯として作用する。
【0065】
また、仮想成分の含有濃度を炭化水素成分の含有濃度に置換する際に、公開される原油の成分表を参考にすることで、プロセスシミュレータ40のシミュレーション機能の入力値とする原油の組成の精度が向上する。
【0066】
また、温度条件を変えて複数の温度における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度とをそれぞれ対で取得するものとして説明したが、圧力条件を変えてもよい。この場合、原油組成推定方法において、
ベーパーを原油で吸収する際の圧力を変化させて、複数の圧力における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度とをそれぞれ対で取得し、第1圧力における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油に含まれる一部の成分の含有濃度を推定し、第1圧力と異なる圧力における供試ガスの成分ごとの含有濃度と処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油に含まれる他の成分の含有濃度を推定する、ようにすればよい。具体的には、吸収操作の圧力を第1圧力の圧力条件下における吸収試験よりも吸収効率が低下するように設定する。このようにして、処理ガスの当該成分の含有濃度がゼロより大きくなるようにする。
【0067】
さらに、原油組成推定機能を有していない場合、シミュレーション機能の入力値とする原油の組成を試行錯誤で修正して原油の組成を推定してもよい。具体的に、処理ガスの成分ごとの含有濃度や、処理ガスの流量、供試ガスの成分ごとの含有濃度、供試ガスの流量に基づいて、成分ごとの時間当たりの吸収量を算出する。そして、液相全体の成分ごとの溶解度(吸収容量)に基づいて、成分ごとの液側濃度とガス側濃度との関係を算出する。そして、成分ごとにもともと気相または液相に存在している量の合計をその関係で再分配して、原油の組成を推定する。そして、推定した原油の組成をシミュレーション機能の入力値とする。そして、
図4に示すフローのステップS13からステップS16の処理を分析された処理ガスの組成とシミュレーションで算出された処理ガスの組成との差分が収束するまで繰り返して合わせ込みをする。このようにして、原油の組成を推定してもよい。
【解決手段】揮発性有機化合物の吸収油として使用する原油の組成を推定する原油組成推定方法であって、揮発性有機化合物の供試ガスの成分ごとの含有濃度と、供試ガスの一部を原油で吸収した後に排出される処理ガスの成分ごとの含有濃度との差分に基づいて原油に含まれる成分ごとの含有濃度を推定する。