(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸気通路に設けられた燃料噴射手段から吸気流れ下流の吸気弁方向に、前記吸気弁の開弁中に燃料が燃焼室に達するよう燃焼室内に向けて燃料を噴射する吸気行程噴射モードと、吸気行程の前行程である排気行程、前記吸気行程の2行程前である膨張行程、及び前記吸気行程の3行程前である圧縮行程を少なくとも1つ含む前記吸気弁の閉弁中に燃料が該吸気弁の近傍に達するよう前記吸気弁に向けて燃料を噴射する排気行程噴射モードとを併用する吸気通路噴射のエンジンであって、
前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記運転状態に基づいて前記燃料噴射手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記運転状態検出手段の検出結果に基づいて算出される前記吸気行程噴射モードと前記排気行程噴射モードの燃料噴射割合と、前記燃料噴射手段より噴射される燃料噴射量のうち、前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面に付着して前記燃焼室内に直接導入されない割合である付着率及び前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面に付着した燃料のうち、前記吸気弁の閉弁までに気化して前記燃焼室内に導入される割合である気化率のいずれか一方または両方とに基づいて、前記燃料噴射手段の燃料噴射量を算出し、
前記付着率のうち前記吸気行程噴射モードで噴射された燃料の付着率となる第1の付着率と、前記気化率のうち前記吸気行程噴射モードで噴射された燃料の気化率となる第1の気化率は、前記制御手段により前記吸気行程噴射モードの燃料噴射時期に基づいて、該燃料噴射時期に対応する前記付着率及び前記気化率を噴射開始時期から噴射終了時期に亘る燃料噴射期間で時間積分することにより算出されることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
前記第1の付着率と前記第1の気化率は、前記第2の付着率と前記第2の気化率に比べて、それぞれ小さく設定されること特徴とする、請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
前記温度推定手段は、前記エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段であって、前記冷却水温度に基づいて前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面の温度を推定することを特徴とする、請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2の技術では、燃料の吸気ポートや吸気バルブ等の壁面への付着率の算出に燃料噴射時期を考慮しておらず、特に上記のように吸気行程及び排気行程の双方で燃料噴射を行なうガソリンエンジンに適用しようとしても、吸気行程での噴射と排気行程での噴射とで吸気ポートや吸気バルブ等の壁面への燃料の付着率が大幅に変化するため、燃焼室内へ導入される正確な燃料量を算出することができなくなり、ひいては燃料噴射弁より噴射するべき燃料噴射量を正確に算出することができず、排出ガス中の化学成分排出量及びエンジンの出力を正確に制御することができなくなり好ましいことではない。
【0007】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エンジンの運転状態に応じて必要量の燃料を燃焼室内に確実に導入することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の内燃機関の燃料噴射制御装置では、吸気通路に設けられた燃料噴射手段から吸気流れ下流の吸気弁方向に、前記吸気弁の開弁中に燃料が燃焼室に達するよう燃焼室内に向けて燃料を噴射する吸気行程噴射モードと、吸気行程の前行程である排気行程、前記吸気行程の2行程前である膨張行程、及び前記吸気行程の3行程前である圧縮行程を少なくとも1つ含む前記吸気弁の閉弁中に燃料が該吸気弁の近傍に達するよう前記吸気弁に向けて燃料を噴射する排気行程噴射モードとを併用する吸気通路噴射のエンジンであって、前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態に基づいて前記燃料噴射手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記運転状態検出手段の検出結果に基づいて算出される前記吸気行程噴射モードと前記排気行程噴射モードの燃料噴射割合と、前記燃料噴射手段より噴射される燃料噴射量のうち、前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面に付着して前記燃焼室内に直接導入されない割合である付着率及び前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面に付着した燃料のうち、前記吸気弁の閉弁まで(圧縮開始前)に気化して前記燃焼室内に導入される割合である気化率のいずれか一方または両方とに基づいて、前記燃料噴射手段の燃料噴射量を算出し、前記付着率のうち前記吸気行程噴射モードで噴射された燃料の付着率となる第1の付着率と、前記気化率のうち前記吸気行程噴射モードで噴射された燃料の気化率となる第1の気化率は、前記制御手段により前記吸気行程噴射モードの燃料噴射時期に基づいて
、該燃料噴射時期に対応する前記付着率及び前記気化率を噴射開始時期から噴射終了時期に亘る燃料噴射期間で時間積分することにより算出されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1において、前記
燃料噴射手段より噴射された前記燃料が付着する前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面の温度を推定する温度推定手段を備え、前記付着率のうち前記排気行程噴射モードで噴射された燃料の付着率となる第2の付着率と、前記気化率のうち前記排気行程噴射モードで噴射された燃料の気化率となる第2の気化率は、前記制御手段により前記温度推定手段により推定された前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面の温度に基づいて算出されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項2において、前記第1の付着率と前記第1の気化率は、前記第2の付着率と前記第2の気化率に比べて、それぞれ小さく設定されること特徴とする
。
【0013】
また、請求項
4の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項
2において、前記温度推定手段は、前記エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段であって、前記冷却水温度に基づいて前記吸気通路及び前記吸気弁の壁面の温度を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードとを併用する吸気通路噴射のエンジンにおいて、運転状態検出手段の検出結果に基づいて吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードの燃料噴射割合と、燃料の付着率と気化率のいずれか一方または両方に基づいて燃料噴射手段の燃料噴射量を算出し、吸気行程噴射モードで噴射された燃料の付着率となる第1の付着率及び燃料の気化率となる第1の気化率を、吸気行程噴射モードの燃料噴射時期に基づき
、燃料噴射時期に対応する付着率及び気化率を噴射開始時期から噴射終了時期に亘る燃料噴射期間で時間積分することにより算出している。
従って、運転状態に応じて変化する吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードの燃料噴射割合と、付着率と気化率とを考慮することで、燃焼室内に導入される燃料量がエンジンの運転状態に適した燃料量となるように正確に決定することができるので、エンジンの運転状態に応じた必要量の燃料を燃焼室内に確実に導入でき、さらに吸気行程噴射モードの燃料噴射時期に基づき吸気行程噴射モードでの第1の付着率と第1の気化率を正確に算出することができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、吸気
通路及び吸気弁の壁面の温度に基づいて、排気行程噴射モードで噴射された燃料の付着率となる第2の付着率及び燃料の気化率となる第2の気化率を算出している。
従って、
排気行程噴射モードでの第2の付着率と第2の気化率を正確に算出することができる。
【0016】
また、請求項3の発明によれば、吸気行程噴射モードでの付着率と気化率、即ち第1の付着率と第1の気化率は、排気行程噴射モードでの付着率と気化率、即ち第2の付着率と第2の気化率に比べて小さく設定されている。
従って、吸気行程噴射モードにおける燃料が吸気弁近傍に達したときの吸気弁が開状態であることによる付着率の小ささ、また燃料噴射から吸気弁の閉弁までの気化時間が短いことによる気化率の小ささを反映することで、燃焼室内に導入される燃料量がエンジンの運転状態に適した燃料量となるように燃料噴射手段から噴射する燃料噴射量を正確に決定することができるので、エンジンの運転状態に応じた必要量の燃料を更に燃焼室内に確実に導入することができる。
【0020】
また、請求項
4の発明によれば、冷却水温度に基づいて吸気通路及び吸気弁の壁面の温度を推定するようにしているので、特別に吸気通路及び吸気弁の壁面の温度を検出する検出手段を用いることなく安価に吸気通路及び吸気弁の壁面の温度を認識することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、内燃機関の燃料噴射制御装置が適用された吸気ポート燃料噴射エンジン(以下、エンジン1という)の概略構成図である。
図1に示すように、エンジン1は、エンジン1の運転状態に応じて、吸気マニホールド(吸気通路)21、またはシリンダヘッド3に配設された燃料噴射弁(燃料噴射手段)22から吸気バルブ(吸気弁)14が開弁している期間中に燃焼室10内へ燃料を噴射する吸気行程噴射モードと、吸気バルブ14が閉弁している排気行程(前行程)、膨張行程(2行程前)、または圧縮行程(3行程前)中に吸気ポート(吸気通路)12内へ燃料を噴射する排気行程噴射モードとを備えた4サイクル直列4気筒型ガソリンエンジンである。ここでは、噴射した燃料が吸気バルブ14近傍に到達した際に、吸気バルブ14が開弁している場合を吸気行程噴射と定義し、吸気バルブ14が開弁前である場合を排気行程噴射と定義する。また、燃料噴射弁22への駆動指令から燃料が吸気バルブ14近傍に到達するまでには、燃料噴射弁22の図示しない針弁の開弁遅れ、燃料噴射弁22から吸気バルブ14までの燃料の輸送遅れなどの時間遅れが存在するので、吸気行程噴射における燃料噴射弁22への駆動指令が排気行程もしくはそれ以前に行われる場合もある。
【0023】
図1にはエンジン1の1つの気筒についての縦断面が示されている。なお、他の気筒についても同様の構成をしているものとして図示及び説明を省略する。
図1に示すように、エンジン1はシリンダブロック2にシリンダヘッド3が載置されて構成されている。
シリンダブロック2には、エンジン1を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサ(運転状態検出手段、冷却水温度検出手段)4が設けられている。また、シリンダブロック2に形成されているシリンダ5内には上下摺動可能にピストン6が設けられている。当該ピストン6はコンロッド7を介してクランクシャフト8に連結されている。また、シリンダブロック2には、当該エンジン1の回転速度及びクランクシャフト8の位相を検出するクランク角センサ(運転状態検出手段)9が設けられている。また、シリンダヘッド3とシリンダ5とピストン6で燃焼室10が形成されている。
【0024】
シリンダヘッド3には、燃焼室10に臨むようにして点火プラグ11が設けられている。また、シリンダヘッド3には、燃焼室10からシリンダヘッド3の一側面に向かって吸気ポート12が形成されており、燃焼室10からシリンダヘッド3の他側面に向かって排気ポート13が形成されている。そして、シリンダヘッド3には、燃焼室10と吸気ポート12との連通及び遮断を行う吸気バルブ14と、燃焼室10と排気ポート13との連通及び遮断を行う排気バルブ15がそれぞれ設けられている。また、シリンダヘッド3上部には吸気バルブ14及び排気バルブ15を駆動するカム16、17を有したカムシャフト18、19がそれぞれ設けられている。そして、シリンダヘッド3の上部には、カムシャフト18の位相を検出するカム角センサ(運転状態検出手段)20が設けられている。また、シリンダヘッド3の一側面には吸気ポート12と連通するように吸気マニホールド21が接続されている。
【0025】
吸気マニホールド21には燃焼室10内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁22が設けられている。なお、燃料噴射弁22はシリンダヘッド3に設けても良い。燃料噴射弁22は、燃料噴射口が燃焼室10に向けて配置されており、噴射した燃料が燃焼室10内に直接届くように設定されている。また、吸気マニホールド21の吸気上流端には図示しない吸気管、吸入空気流量を調節する図示しない電子制御スロットルバルブが設けられている。そして、電子制御スロットルバルブには、スロットルバルブの開き度合を検出する図示しないスロットルポジションセンサ(運転状態検出手段)が備えられている。
【0026】
また、運転席に設けられた図示しないアクセルペダルには、運転者のアクセル踏み込み度合いを検出する図示しないアクセルポジションセンサ(運転状態検出手段)が備えられている。
電子制御スロットルバルブの上流側の吸気管には吸入空気流量を検出する図示しないエアフローセンサ(運転状態検出手段)が設けられているとともに、吸気管の吸気上流端には図示しないエアクリーナが設けられている。
【0027】
一方、シリンダヘッド3の吸気マニホールド21が接続された側面とは反対側の側面には、排気ポート13と連通するように排気マニホールド23が接続されている。排気マニホールド23の排気下流端には、図示しない排気管を介して三元触媒等の排気浄化触媒が備えられている。
そして、上記水温センサ4、クランク角センサ9、カム角センサ20、吸気圧センサ、スロットルポジションセンサ、アクセルポジションセンサ、エアフローセンサ及び車両の車速を検出する図示しない車速センサ等の各種センサ類は、車両に搭載されている電子コントロールユニット(ECU)(制御手段)30の入力側に電気的に接続されており、これらセンサ類からの検出情報がECU30に入力される。
【0028】
一方、ECU30の出力側には、上記点火プラグ11、燃料噴射弁22、電子制御スロットルバルブ等の各種装置が電気的に接続されており、これら各種装置には各種センサ類からの検出情報に基づき演算された点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等がそれぞれ出力される。
また、ECU30は、吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードとを併用し、各種センサ類からの検出情報に基づきエンジン1の運転状態を判別して、当該運転状態に応じて当該吸気行程噴射モードと当該排気行程噴射モードの燃料噴射割合を変化させる。そして、ECU30は、燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量(吸入空気量と目標空燃比から算出)と等しくなるように燃料噴射弁22の燃料噴射量を決定する。
[第1実施例]
次に第1実施例に係るECU30での燃料噴射量の算出方法について説明する。
【0029】
図2は、本発明の第1実施例に係る燃料噴射制御の燃料噴射量の算出手順を示すフローチャートである。
図3は、吸気行程噴射モードでの付着率算出マップであり、
図4は、吸気行程噴射モードでの気化率算出マップである。また、
図5は、排気行程噴射モードでの付着率算出マップであり、
図6は、排気行程噴射モードでの気化率算出マップである。なお、
図3及び
図4の図中白抜き矢印は、付着率算出マップでは付着率が大となる方向を示し、気化率算出マップでは気化率が小となる方向を示す。また、
図3及び
図4の図中斜めハッチングされた長方形は、あるエンジン回転速度での燃料噴射時期の一例を示しており、SOIは、噴射開始時期(Start of Injection)を、EOIは、噴射終了時期(End of Injection)をそれぞれ示す。なお、吸気行程噴射モードでの付着率は、排気行程噴射モードでの付着率より小さくなるように設定される。また、吸気行程噴射モードでの気化率も付着率と同様に、排気行程噴射モードでの気化率より小さくなるように設定される。
【0030】
図2に示すルーチンはエンジン運転時に繰り返し行なわれる。
始めにステップS10では、エンジン1の運転状態を検出する。例えば、水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度や、クランク角センサ9の検出情報であるエンジン回転速度、吸気圧センサやエアフローセンサ、またはアクセルポジションセンサ、スロットルポジションセンサの検出情報であるエンジン負荷に基づき、エンジン1の運転状態を検出する。そして、ステップS12に進む。
【0031】
ステップS12では、エンジン1の運転状態より、吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードの燃料噴射割合及び、それぞれのモードの燃料噴射時期を決定する。そして、ステップS14に進む。
ステップS14では、
図3の吸気行程噴射モードの付着率算出マップより、吸気行程噴射モードにて燃料噴射弁22より噴射した燃料が吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面に付着する割合である付着率(第1の付着率)Kstick_intを算出する。例えば、
図3の斜めハッチングされた長方形で示すように、エンジン回転速度において、噴射開始時期SOIより燃料噴射を開始し、噴射終了時期EOIで燃料噴射を終了する燃料噴射時期である場合には、下記式(1)のように噴射時期ITの時間積分式で算出することができる。そして、ステップS16に進む。
【0033】
ステップS16では、
図4の吸気行程噴射モードの気化率算出マップより、吸気行程噴射モードにて燃料噴射弁22より噴射され、吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面に付着した燃料が吸気バルブ14の閉弁まで(圧縮開始前)に気化して燃焼室10内に導入される割合である気化率(第1の気化率)Kevapo_intを算出する。例えば、
図4の斜めハッチングされた長方形で示すように、エンジン回転速度において、噴射開始時期SOIより燃料噴射を開始し、噴射終了時期EOIで燃料噴射を終了する燃料噴射時期である場合には、下記式(2)のように噴射時期ITの時間積分式で算出することができる。そして、ステップS18に進む。
【0035】
ステップS18では、
図5の排気行程噴射モードの付着率算出マップと、水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度とに基づき、燃料が付着する吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面の温度を推定し、排気行程噴射モードにて燃料噴射弁22より噴射された燃料が吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面に付着する割合である付着率(第2の付着率)Kstick_exhを算出する。そして、ステップS20に進む。
【0036】
ステップS20では、
図6の排気行程噴射モードの気化率算出マップと、水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度とに基づき、燃料が付着する吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面の温度を推定し、排気行程噴射モードにて燃料噴射弁22より噴射され、吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面に付着した燃料が吸気バルブ14の閉弁まで(圧縮開始前)に気化して燃焼室10内に導入される割合である気化率(第2の気化率)Kevapo_exhを算出する。そして、ステップS22に進む。
【0037】
ステップS22では、吸気行程噴射モードでの燃料噴射量Qn_intを算出する。詳しくは、nサイクルに吸気行程噴射モードにて燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_n_intは、nサイクル(現サイクル)に吸気行程噴射モードで噴射する燃料量Qn_int、n−1サイクル(前サイクル)に吸気行程噴射モードで噴射した燃料量Qn_int-1、上記ステップS14及びS16で求めた付着率Kstick_int及び気化率Kevapo_intに基づき、下記式(3)で表されるため、当該式(3)を変形した下記式(4)からnサイクルに吸気行程噴射モードにて燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_n_intが、燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量(吸入空気量と目標燃費から算出)にステップS12にて決定された吸気行程噴射モードの燃料噴射割合を乗じた燃料量と等しくなるようにnサイクルの燃料噴射量Qn_intを算出する。そして、ステップS24に進む。
【0040】
ステップS24では、排気行程噴射モードでの燃料噴射量Qn_exhを算出する。詳しくは、nサイクルに排気行程噴射モードにて燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_n_exhは、nサイクル(現サイクル)に排気行程噴射モードで噴射する燃料量Qn_exh、n−1サイクル(前サイクル)に排気行程噴射モードで噴射した燃料量Qn_exh-1、上記ステップS18及びS20で求めた付着率Kstick_exh及び気化率Kevapo_exhに基づき、下記式(5)で表されるため、当該式(5)を変形した下記式(6)からnサイクルに排気行程噴射モードにて燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_n_exhが、燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量(吸入空気量と目標燃費から算出)にステップS12にて決定された排気行程噴射モードの燃料噴射割合を乗じた燃料量と等しくなるようにnサイクルの燃料噴射量Qn_exhを算出する。そして、ステップS26に進む。
【0043】
ステップS26では、式(7)より吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードとを合算したnサイクルの総燃料噴射量Qnを算出する。そして、本ルーチンをリターンする。
【0045】
このように本発明の第1実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置では、
図3の付着率算出マップに基づき式(1)を用いて、燃料噴射時期及びエンジン回転速度より吸気行程噴射モードでの付着率Kstick_intを算出する。更に
図4の気化率算出マップに基づき式(2)を用いて、燃料噴射時期及びエンジン回転速度より気化率Kevapo_intを算出し、付着率Kstick_intと気化率Kevapo_intとを考慮して吸気行程噴射モードでnサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_n_intが燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量に吸気行程噴射モードの燃料噴射割合を乗じた燃料量と等しくなるように、エンジンの運転状態に応じて最適となる吸気行程噴射モードでの燃料噴射量Qn_intを決定する。また、水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度に基づき、排気行程噴射モードでの付着率Kstick_exhと気化率Kevapo_exhとを算出し、吸気行程噴射モードと同様に付着率Kstick_exhと気化率Kevapo_exhとを考慮して排気行程噴射モードでnサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_n_exhが燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量に排気行程噴射モードの燃料噴射割合を乗じた燃料量と等しくなるように、エンジン1の運転状態に応じて最適となるように排気行程噴射モードでの燃料噴射量Qn_exhを決定する。そして、それぞれの噴射モードでの燃料噴射量Qn_int,Qn_exhよりエンジン運転状態に応じて最適となる燃料噴射量Qnを決定する。
【0046】
従って、吸気行程噴射モード及び排気行程噴射モードのそれぞれの燃料噴射モード毎に付着率Kstickと気化率Kevapoとが設定され、これらの付着率Kstickと気化率Kevapoとを考慮して、nサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_nがエンジン1の運転状態に応じた必要量となるように燃料噴射弁22から噴射する燃料噴射量Qnを正確に決定することができるので、エンジン1の運転状態に応じた必要量の燃料を燃焼室10内に確実に導入することができる。
[第2実施例]
次に第2実施例に係るECU30での燃料噴射量の算出方法について説明する。
【0047】
第2実施例では、上記第1実施例に対して、エンジン運転状態に応じて最適となる燃料噴射量Qnの算出方法が異なっており、以下にECU30での燃料噴射量Qnの算出方法に付いて説明する。
図7は、本発明の第2実施例に係る燃料噴射制御の燃料噴射量の算出手順を示すフローチャートである。
図8は、付着率算出マップである。
図9は、付着率補正値算出マップである。
図10は、気化率算出マップである。また、
図11は、気化率補正値算出マップである。なお、
図8の図中白抜き矢印は、
図3と同様に付着率が大となる方向を示し、図中斜めハッチングされた長方形は、あるエンジン回転速度での燃料噴射時期の一例を示す。
【0048】
図7に示すルーチンはエンジン運転時に繰り返し行なわれる。
始めにステップS10からS12では、第1実施例と同様に、エンジン1の運転状態より、吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードの燃料噴射割合及び、それぞれのモードの噴射時期を決定する。そして、ステップS14’に進む。
ステップS14’では、
図8の付着率算出マップより、燃料噴射時期に基づいて、燃料噴射弁22より噴射した燃料が吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面に付着する割合である付着率Kstick_bcを算出する。例えば、
図8の斜めハッチングされた長方形で示すように、エンジン回転速度において、噴射開始時期SOIより燃料噴射を開始し、噴射終了時期EOIで燃料噴射を終了する燃料噴射時期である場合には、下記式(8)のように噴射時期ITの時間積分式で算出することができる。そして、ステップS15’に進む。
【0050】
ステップS15’では、
図9の付着率補正値算出マップと吸気行程噴射モードの燃料噴射割合とに基づき、付着率補正値を算出する。そして、ステップS14’にて算出した付着率Kstick_bcに付着率補正値を乗じて、付着率Kstickを算出する。そして、ステップS20’に進む。
【0051】
ステップS20’では、
図10の気化率算出マップと、水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度とに基づき、燃料が付着する吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面の温度を推定し、燃料噴射弁22より噴射され、吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面に付着した燃料が吸気バルブ14の閉弁までに気化して燃焼室10内に導入される割合である気化率Kevapo_bcを算出する。そして、ステップS21’に進む。
【0052】
ステップS21’では、
図11の気化率補正値算出マップと吸気行程噴射モードの燃料噴射割合とに基づき、気化率補正値を算出する。そして、ステップS20’にて算出した気化率Kevapo_bcに気化率補正値を乗じて、気化率Kevapoを算出する。そして、ステップ26’に進む。
ステップS26’では、燃料噴射量Qnを算出する。詳しくは、nサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_nは、nサイクル(現サイクル)に吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードで噴射する燃料量Qn、n−1サイクル(前サイクル)に吸気行程噴射モードと排気行程噴射モードで噴射した燃料量Qn-1、上記ステップS15’及びS21’で算出した付着率Kstickと気化率Kevapoに基づき、下記式(9)で表されるため、当該式(9)を変形した下記式(10)からnサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_nが、燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量(吸入空気量と目標燃費から算出)と等しくなるようにnサイクルの燃料噴射量Qnを算出する。そして、本ルーチンをリターンする。
【0055】
このように本発明の第2実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置では、
図8の付着率算出マップに基づき、式(8)を用いて燃料噴射時期及びエンジン回転速度より付着率Kstick_bcを算出する。そして、
図9の付着率補正値算出マップと吸気行程噴射モードの燃料噴射割合とに基づき付着率補正値を算出し、付着率Kstick_bcを付着率補正値で補正し付着率Kstickを算出する。また、
図10の気化率算出マップと水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度とに基づき、気化率Kevapo_bcを算出する。そして、
図11の気化率補正値算出マップと吸気行程噴射モードの燃料噴射割合とに基づき気化率補正値を算出し、気化率Kevapo_exhを気化率補正値で補正し気化率Kevapoを算出する。更に、付着率Kstickと気化率Kevapoとを考慮してnサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_nが燃焼室10内に導入されるべき必要燃料量と等しくなるように、エンジン1の運転状態に応じて最適となる燃料噴射量Qnを決定する。
【0056】
燃料噴射時期が吸気バルブ14の開弁期間に近い場合には、燃料噴射弁22から噴射した燃料の噴霧が吸気ポート13や吸気バルブ14に殆ど衝突せずに燃焼室10内に導入されるので、吸気ポート13や吸気バルブ14に燃料量が付着しにくくなる。即ち付着率は小さくなる。また噴射から吸気バルブ14の閉弁まで(圧縮開始前)の時間が短いので、燃焼室10内に導入される燃料量は気化時間が短く、またエンジン1の水温の影響を受ける時間が短いので気化する燃料量は非常に少なくなる。即ち、気化率は非常に小さくなる。これに対し、燃料噴射時期が吸気バルブ14の開弁時期より大幅に早い場合には、燃料噴射弁22から噴射した燃料の噴霧の殆どが吸気ポート13や吸気バルブ14に衝突するので燃料の付着率が大きくなるが、噴射から吸気バルブ14の閉弁まで(圧縮開始前)の時間も長く、エンジン1の水温の影響を比較的大きく受けるので付着した燃料の殆どが気化する。即ち気化率が大きくなる。
【0057】
このような特性を鑑み、第2実施例では、上記のように燃料噴射時期に基づいて付着率Kstick_bcを、吸気通路及び吸気弁の壁面の温度に基づいて気化率Kevapo_bcを算出し、更にそれらの付着率Kstick_bc或いは気化率Kevapo_bcを吸気行程噴射モードの燃料噴射割合より決まる付着率補正値或いは気化率補正値で補正し付着率Kstick及び気化率Kevapoを算出している。そして、付着率Kstick及び気化率Kevapoを考慮して、nサイクルに燃焼室10内に導入される燃料量Qcyl_nがエンジン1の運転状態に応じた必要量となるように燃料噴射弁22から噴射する燃料噴射量Qnの演算を簡素化し、燃料噴射量Qnを正確に決定することができるので、エンジン1の運転状態に応じた必要量の燃料を燃焼室10内に確実に導入することができる。
【0058】
以上で本発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の実施形態は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記第1実施例では、吸気行程噴射モード時には、付着率Kstick_intと気化率Kevapo_intとをエンジン1の回転速度と燃料噴射時期に基づいて算出しているが、これに限定されるものではなく、エンジン1の回転速度と燃料噴射時期に加え、エンジン1の冷却水温度も考慮して算出するようにしても良い。この場合、更に精度良く付着率Kstick_intと気化率Kevapo_intとを算出することができるので、更に正確に燃料噴射弁22から噴射される燃料噴射量Qnを算出することができる。
【0059】
また、排気行程噴射モード時には、水温センサ4の検出情報であるエンジン1の冷却水温度より、吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面の温度を推定して、付着率Kstick_exhと気化率Kevapo_exhとを算出するようにしているが、これに限定されるものではなく、エンジン1の回転速度も考慮して算出するようにしても良い。この場合、更に精度良く付着率Kstick_exhと気化率Kevapo_exhとを算出することができるので、更に正確に燃料噴射弁22から噴射される燃料噴射量Qnを算出することができる。また、吸気ポート12或いは吸気バルブ14等の壁面の温度をセンサ等で直接検出するようにしても良い。この場合、実際に燃料の付着する壁面の温度を検出しているので、更に精度良く付着率Kstick_exhと気化率Kevapo_exhとを算出することができ、更に正確に燃料噴射弁22から噴射する燃料噴射量Qnを算出することができる。
【0060】
また、上記第1実施例では、それぞれの噴射モードでの付着率、気化率と噴射割合から、それぞれの噴射モードでの燃料噴射量Qn_int,Qn_exhを算出し、これらを足し合わせてエンジン運転状態に応じて最適となる燃料噴射量Qnを決定したが、これに限定されるものではない。例えば、それぞれの噴射モードでの付着率Kstick_int及びKstick_exhと噴射割合から1燃焼サイクルにおける燃料噴射全体の気化率Kstick、それぞれの噴射モードでの気化率Kevapo_int及びKevapo_exhと噴射割合から1燃焼サイクルにおける燃料噴射全体の付着率Kevapoを算出し、これらを式(10)に適用して燃料噴射量Qnを決定しても良い。