(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緻密体は、前記凹部における前記銀シール部上に形成された部位の厚さが、前記凹部における前記燃料電池セル上に形成された部位の厚さ、及び、前記隔壁部上に形成された部位の厚さよりも大きくされたものである、
請求項3〜5の何れか1項記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、SOFCにおいて燃料ガス側と酸化剤ガス側を隔離するためのガスシールとして銀シール材を用いることには、阻害要因が存在し得るものの、上述したとおり、銀が本来的に有する優れた特性上、可能であれば、銀シール材を使用することが切望されている。
【0009】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、酸化反応が生じる側と還元反応が生じる側を隔離するためのガスシールとして銀材料を用いた場合でも、その劣化や変質を抑止することができ、これにより、燃料ガスと酸化剤ガスのリーク及び接触を防止して発電効率及び出力を高く維持することが可能な固体酸化物形燃料電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明による固体酸化物形燃料電池(SOFC)装置は、燃料ガスと酸化剤ガスとにより発電を行うものであって、燃料ガスが供給される燃料極層、酸化剤ガスが供給される空気極層、及び、燃料極層と空気極層との間に設けられた固体電解質層を有する複数の燃料電池セルを有する燃料電池セル集合体を備えており、燃料電池セルは、燃料ガス側と酸化剤ガス側とを隔離する銀シール部と、その銀シール部における燃料ガス側に位置する部位及び酸化剤ガス側に位置する部位のうち少なくとも何れか一方の少なくとも一部を覆うように形成された緻密体とを有し、緻密体は、
少なくとも水素原子、酸素原子、及び水蒸気の何れかの侵入を抑止するものであり、ガラス、又はランタン及びクロムを含む酸化物である。
【0011】
このように構成されたSOFC装置においては、燃料電池セルが、燃料ガス側と酸化剤ガス側とを隔離するための銀シール部を有しているので、その部位の緻密性(ガス非透過性)が向上され、且つ、燃料電池セルの運転時においても酸化等による変質が極めて生じ難く、また、焼結形成する際にも酸化による形質劣化が防止される。
【0012】
そして、その銀シール部における燃料ガス側に位置する部位及び酸化剤ガス側に位置する部位のうち少なくとも何れか一方の少なくとも一部が緻密体で覆われている(コートされている)ので、銀シール部の内部に、少なくとも水素原子(H)、酸素原子(O)、及び水蒸気(H
2O)の何れかが侵入することが抑止される。これにより、銀シール部内に、水蒸気に起因する空孔や亀裂が生じるような銀の変質が生じること、及び、それに起因して燃料ガスと酸化剤ガスが接触して水が生じてしまい、その結果、それらのガスが消費されて発電効率ひいては出力低下が生じてしまうこと(端的に言えば、銀シール部の膨張多孔化による出力低下)を防ぐことができる。或いは、銀シール部の内部に、たとえ多少の空孔等が生じ得たとしても、緻密体が燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を妨げるバリア材として機能するので、これによっても、それらのガスが消費されて発電効率及び出力が低下してしまうこと(銀シール部の膨張多孔化による出力低下)を抑止することができる。
【0013】
ここで、銀シール部の材料としては、銀、銀を主成分とする合金、銀や銀を主成分とする合金に金属酸化物を少量(数質量%)添加した材料を用いることができる。
【0014】
また、緻密体の材料としては、ガラスやセラミックス等の無機材料を用いることができ、
緻密体がガラスであるとより好ましい。ここで、「ガラス」とは、非晶質ガラス、結晶化ガラス、及び非晶質と結晶質が混在したガラスを含む概念である。また、「非結晶ガラス」とは、ガラス転移を示す(ガラス点移転Tgを有する)非晶質(狭義のガラス)のみならず、ガラス転移を示さない非晶質のものも含む概念である。
【0015】
ガラスは、一般に、銀シール部の構成材料である銀の融点以下で軟化又は溶融し得るので、緻密体としてガラスを用いることにより、銀シール部を、ガラス以外のものに比してより確実に覆うことができ、その部分の密封性及び銀シール部によるシール性が高められる。また、ガラスは、一般に、燃料電池セルの運転温度における形状安定性に優れているので、この点においても、銀シール部の密封性及び銀シール部によるシール性が更に高められる。その結果、銀シールを介した燃料ガスと酸化剤ガスの接触がより確実に抑止され、銀シール部の膨張多孔化による出力低下を一層効果的に防止することができる。
【0016】
また、複数の燃料電池セル間に設けられた隔壁部を備えており、銀シール部が、燃料電池セルと隔壁部との間に充填されており、緻密体が、燃料電池セル、銀シール部、及び隔壁部に亘って形成されたものであっても好適である。
【0017】
このように構成すれば、燃料電池セルと銀シール部との境界、及び、銀シール部と隔壁部との境界を含む銀シール部周辺の広範囲が、緻密体によって覆われるので、その範囲の密閉性が向上され、その結果、銀シール部によるシール性も更に高められる。これにより、銀シール部を介した燃料ガスと酸化剤ガスの接触がより一層抑止され、銀シール部の膨張多孔化による出力低下を更に防止することができる。
【0018】
さらに、燃料電池セル、銀シール部、及び隔壁部に囲まれて画成された凹部を有しており、緻密体がその凹部の内壁を覆うように形成されたものであっても好ましい。
【0019】
このようにすれば、凹部が緻密体の言わば溜まり部として機能し、かかる凹部に緻密体を充填することにより、その凹部内に緻密体を保持し易くなる。これにより、緻密体を、燃料電池セル、銀シール部、及び隔壁部に亘ってより確実に形成させることができるので、銀シール部の膨張多孔化による出力低下を更に一層防止することができる。
【0020】
より具体的な構成としては、隔壁部が、燃料電池セルの一部を覆うように設けられた導電性キャップを有する態様が挙げられ、この場合、上記の凹部が、燃料電池セル、銀シール部、及び、その隔壁部における導電性キャップに囲まれて画成され得る。
【0021】
またさらに、緻密体は、凹部における銀シール部上に形成された部位の厚さが、凹部における燃料電池セル上に形成された部位の厚さ、及び、隔壁部上に形成された部位の厚さよりも大きくされたものであるとより好適である。換言すれば、緻密体は、銀シール部側の部位が相対的に厚く形成されており、且つ、燃料電池セル側の部位及び隔壁部(導電性キャップ)側の部位が相対的に薄く形成されていると有用である。
【0022】
上述の如く、緻密体が例えばガラスからなり、また、銀シール部が、燃料電池セルにおける導電体部分(例えば燃料極層や空気極層)、及び、隔壁部における導電性キャップといった導電体部分に接して設けられている場合、通常、緻密体とそれらの導電体部分との熱膨張係数(熱膨張率)が大きく異なる傾向にある。このとき、そのように熱膨張係数が異なる部位の緻密体の厚さを薄く形成することにより、燃料電池セルの運転/停止による膨張/収縮時に、緻密体にクラックが生じ難くなるので、銀シール部の密封性及び銀シール部によるシール性を好適に維持することができる。その結果、銀シールを介した燃料ガスと酸化剤ガスの接触が更に一層抑止され、銀シール部の膨張多孔化による出力低下を殊に有効に防止することができる。
【0023】
また、緻密体として、例えばペロブスカイト型の複合酸化物であるランタンクロマイト(LaCrO
3)等のランタン及びクロムを含む酸化物を用いても好適である。なかでも、Ca、Sr等の添加成分をドープしたランタンクロマイト系焼結体は導電性を有し、高温下においても酸化及び還元雰囲気下で安定であり、 且つ、水素及び酸素と反応し難い物性を有するので、本発明における緻密体として特に好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、燃料ガス側と酸化剤ガス側とを隔離するために燃料電池セルに設けられた銀シール部において、燃料ガス側に位置する部位及び酸化剤ガス側に位置する部位のうち少なくとも何れか一方の少なくとも一部が緻密体で覆われているので、銀シール部内に空孔や亀裂が生じるような銀の変質が生じること、及び、それに起因して燃料ガスと酸化剤ガスが接触して水が生じてしまうことを有効に防止することができる。これにより、燃料ガス側と酸化剤ガス側を隔離するためのガスシールとして銀材料を用いた場合でも、その劣化や変質を抑止することができ、その結果、燃料ガスと酸化剤ガスのリーク及び接触、並びに、銀シール部の膨張多孔化を防止してSOFCの発電効率及び出力を高く維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0027】
図1は、本発明の好適な一実施形態におけるSOFC装置の外観を概略的に示す斜視図である。燃料電池モジュール2は、本発明によるSOFC装置1の一部を構成するものである。SOFC装置1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット(図示せず)とを備える。
【0028】
なお、
図1においては、3次元軸座標として、x軸、y軸、及びz軸を定義する。すなわち、燃料電池モジュール2の高さ方向をy軸方向とし、そのy軸に直交する平面に沿ってx軸及びz軸を定め、燃料電池モジュール2の短手方向に沿った方向をx軸方向とし、燃料電池モジュール2の長手方向に沿った方向をz軸方向とする。また、
図2以降において図中に記載されているx軸、y軸、及びz軸は、
図1におけるx軸、y軸、及びz軸を基準としている。またさらに、z軸における原点から負方向に延びる方向をA方向とし、x軸における原点から正方向に延びる方向をB方向とする。
【0029】
燃料電池モジュール2は、燃料電池セル(詳細は後述する)を収容するケーシング56と、ケーシング56の上部に設けられている熱交換器22とを備える。ケーシング56には、被改質ガス供給管60と、水供給管62とが接続されている。一方、熱交換器22には、発電用空気導入管74と、燃焼ガス排出管82とが接続されている。
【0030】
被改質ガス供給管60は、ケーシング56の内部に都市ガスといった改質用の被改質ガスを供給する管路である。また、水供給管62は、被改質ガスを水蒸気改質する際に用いられる水を供給する管路である。さらに、発電用空気導入管74は、改質後の燃料ガスと発電反応を起こさせるための空気を供給する管路である。また、燃焼ガス排出管82は、発電反応後の燃料ガスが燃焼して生じる燃焼ガスを排出する管路である。
【0031】
続いて、
図2〜
図6を参照しながら、燃料電池モジュール2の内部構成について説明する。
図2は、燃料電池モジュール2をその中央近傍において
図1のA方向から見た断面図であり、
図3は、燃料電池モジュール2をその中央近傍において
図1のB方向から見た断面図である。また、
図4は、
図1に示す燃料電池モジュール2から燃料電池セル集合体を覆うケーシング56の一部(外板)を取り外した状態を示す斜視図である。さらに、
図5は、
図2に対応する模式図であって、発電用空気及び燃焼ガスの流れを示す図であり、図は6、
図3に対応する模式図であって、同様に発電用空気及び燃焼ガスの流れを示す図である。
【0032】
図2〜
図4に示すように、燃料電池モジュール2の燃料電池セル集合体12は、ケーシング56によって全体が覆われるように、その内部に収容されている。また、
図5に示す如く、燃料電池セル集合体12は、全体としてB方向よりもA方向の方が長い略直方体形状をなしており、改質器20側の上面、燃料ガスタンク68側の下面、
図2のA方向に沿って延びる長辺側面、及び、
図2のB方向に沿って延びる短辺側面とが画定されている。
【0033】
本実施形態の場合、水供給管62から供給される水を蒸発させるための蒸発混合器(図に明示せず)は、改質器20の内部に設けられている。蒸発混合器は、燃焼ガスにより加熱され、水を水蒸気にするとともに、この水蒸気と、被改質ガスである燃料ガス(都市ガス)と空気とを混合するためのものである。
【0034】
被改質ガス供給管60及び水供給管62は、ケーシング56の内部に導かれた後、共に改質器20に連結されており、より具体的には、
図3に示すように、改質器20の上流端である図示右側の端部に繋がれている。また、改質器20は、燃料電池セル集合体12の上方に画成された燃焼室18の更に上方に配置されている。これにより、改質器20は、発電反応後の残余の燃料ガス及び空気による燃焼熱によって熱せられ、蒸発混合器、及び、改質反応を生起させるための改質器として機能する。さらに、改質器20の下流端(
図3における図示左側の端部)には、燃料供給管66の上端が接続されており、その燃料供給管66の下端側66aは、燃料ガスタンク68内に入り込むように配置されている(
図2参照)。
【0035】
一方、
図3及び
図4に示すように、燃料ガスタンク68は、燃料電池セル集合体12の略真下に設けられており、各燃料電池セルユニット16の下端部を支持し、且つ、燃料ガスを各燃料電池セルユニット16に分配するように構成されている。この燃料ガスタンク68内に挿入された燃料供給管66の下端側66aの外周には、長手方向(A方向)に沿って複数の小穴(図示せず)が形成されている。改質器20で改質された燃料ガスは、これら複数の小穴(図示せず)によって燃料ガスタンク68内に長手方向に沿って均一に供給されるようになっている。また、燃料ガスタンク68に供給された燃料ガスは、燃料電池セル集合体12を構成する各燃料電池セルユニット16の内側にある燃料ガス流路(詳細は後述する)内に供給され、燃料電池セルユニット16内を上昇して、燃焼室18に至るようになっている。
【0036】
さらに、
図2〜
図6を参照しながら、発電用空気を燃料電池モジュール2の内部へ供給するための機構について説明する。
図5及び
図6に示すように、改質器20の上方には、熱交換器22が設けられている。この熱交換器22には、複数の燃焼ガス配管70が設けられており、その燃焼ガス配管70の周囲には、発電用空気流路72が画成されている。
【0037】
熱交換器22の上面における一端側(
図3における右端側)には、発電用空気導入管74が取り付けられている。この発電用空気導入管74により、発電用空気流量調整ユニット(図示しない)から、発電用空気が熱交換器22内に導入されるようになっている。また、熱交換器22の上側の他端側(
図3における左端側)には、発電用空気流路72の出口ポート76aが一対形成されている。この出口ポート76aは、一対の連絡流路76に連通されている。さらに、
図2に示す如く、燃料電池モジュール2のケーシング56における幅方向(B方向:短辺側面方向)の両外側には、燃料電池セル集合体12の長手方向に沿って、発電用空気供給路77a,77bが設けられている。
【0038】
かかる構成により、発電用空気供給路77a,77bには、発電用空気流路72の出口ポート76a及び連絡流路76から、発電用空気が供給されるようになっている。また、発電用空気供給路77a,77b及び燃料電池セル集合体12の下方側(燃料電池セルユニット16の下端部側)に対応する位置には、発電室10内の燃料電池セル集合体12の各燃料電池セルユニット16に向けて発電用空気を送出するための複数の吹出口78a(第1吹出口)及び吹出口78b(第2吹出口)が形成されている。これらの吹出口78a,78bから複数の燃料電池セルユニット16の間隙空間に送出された発電用空気は、各燃料電池セルユニット16の外側に沿って、流上する(下方から上方へ流れる)ようになっている。
【0039】
続いて、燃焼室18において燃料ガスと発電用空気(酸化剤ガス)の燃焼によって生成する燃焼ガスを排出するための機構について説明する。燃料電池セルユニット16の上方で発生した燃焼ガスは、燃焼室18内を上昇し、開口21aが設けられた整流板21に至る。燃焼ガスは、この開口21aから熱交換器22側へ導かれ、開口21aを通過した燃焼ガスは、熱交換器22の他端側に至る。上述したとおり、熱交換器22内には、その燃焼ガスを排出するための複数の燃焼ガス配管70が設けられており、これらの燃焼ガス配管70の下流端側には、燃焼ガス排出管82が接続され、これにより、燃焼ガスが外部に排出されるようになっている。
【0040】
次に、
図7を参照しながら燃料電池セルユニット16について説明する。
図7は、本実施形態の燃料電池セルユニット16を示す部分断面図である。同図に示す如く、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の図示上下端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
【0041】
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を画成する円筒形の内側電極層90(燃料極層)、円筒形の外側電極層92(空気極層)、及び、内側電極層90と外側電極層92との間に配された電解質層94を備えている。内側電極層90は、燃料ガスが流通する燃料極であって(−)極として機能し、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であって(+)極として機能する。
【0042】
燃料電池セルユニット16の上端側及び下端側に取り付けられた内側電極端子86,86は、同一構造を有するので、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86を例にとって具体的に説明する。内側電極層90の露出部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、内側電極層90の上端面90cに直接接続され、或いは、主として銀(Ag)を含む導電性のシール材96(銀シール部)を介して内側電極層90の外周面90b、及び、内側電極層90の上端面90cと接続されており、これにより、内側電極層90と電気的に接続されている。なお、
図7においては、内側電極端子86が内側電極層90の上端面90cと直接接触するように記載し、後記の
図9及び
図10においては、特に、内側電極層90の上端面と外周面の両方が導電性のシール材96を介して内側電極端子86に接続された構成について例示した。また、内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が画成されている。
【0043】
この内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体の少なくとも一種から形成される。
【0044】
また、電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレートの少なくとも一種から形成される。
【0045】
さらに、外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀等の少なくとも一種から形成される。
【0046】
続いて、
図8を参照しながら燃料電池セルスタック14について説明する。
図8は、本発実施形態の燃料電池セルスタック14を示す斜視図である。同図に示す如く、一つの燃料電池セルスタック14は、例えば16本の燃料電池セルユニット16を備えており、複数の燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の燃料ガスタンク上板68a及び上支持板100によって一体に支持されている。これらの燃料ガスタンク上板68a及び上支持板100には、各燃料電池セルユニット16の内側電極端子86が貫通可能な貫通穴が形成されている。
【0047】
また、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と、隣接する燃料電池セルユニット16の空気極である外側電極層92の外周面とを電気的に接続するためのものである。また、外部端子104は、各燃料電池セルスタック14の端に位置する2つの燃料電池セルユニット16,16の上側端及び下側端の内側電極端子86に接続されており、さらに、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86にも接続され、燃料電池セルユニット16の全て(例えば上述した160本)が直列接続されるようになっている。このように、それぞれ複数の燃料電池セルユニット16を有する複数の燃料電池セルスタック14が連設され且つ電気的に接続されて、上述の如く略直方体形状をなす燃料電池セル集合体12が構成されている。
【0048】
さらに、
図9〜
図13を参照して、前述した燃料ガス側と酸化剤ガス側とを隔離する構造(シール構造)の構成及び作用についてより詳細に説明する。
【0049】
まず、
図9は、
図7に示す燃料電池セルユニット16の一部を拡大して示す部分断面図であり、内側電極層90の露出部90aと内側電極端子86に備わる集電キャップ86a(導電性キャップ)の周囲の状態を模式的に示す図である。上述の如く、内側電極端子86(の集電キャップ86a)は、銀シール部としてのシール材96を介して内側電極層90と接続されている。集電キャップ86aは、カップ状をなしており、内側電極層90の露出部90aの外壁面に対向配置されており、それらの集電キャップ86aと内側電極層90との間に、シール材96が充填されている。このように、集電キャップ86aを含む内側電極端子86は、複数の燃料電池セルユニット16間に設けられ、燃料ガスと酸化剤ガスとを隔離する隔壁部の一部を構成している。
【0050】
また、シール材96の図示上端面96a上は、内側電極層90及び電解質層94と集電キャップ86aとの間を充填するように設けられたガラスコーティング30(緻密体)によって被覆されている。このように、燃料電池セルユニット16は、燃料ガス側と酸化剤ガス側とを隔離する銀シール部としてのシール材96と、そのシール材96における燃料ガス側に位置する部位及び酸化剤ガス側に位置する部位のうち少なくとも何れか一方の少なくとも一部を覆うように形成された緻密体としてのガラスコーティング30を有する。
【0051】
このように構成された燃料電池モジュール2を備えるSOFC装置1においては、燃料電池セルユニット16における燃料ガス側と酸化剤ガス側が、銀を主成分とするシール材96によって隔離されているので、その部位の緻密性(ガス非透過性)が向上され、且つ、SOFC装置1の運転時においても酸化等による変質が極めて生じ難い。また、シール材96を焼結形成する際に、酸化による形質劣化が防止される。電解質層94は、シール材96の上端面96aよりもシール材96に入り込むように延びている。
【0052】
しかも、そのシール材96の上端面96a(燃料ガス側に位置する部位及び酸化剤ガス側に位置する部位のうち少なくとも何れか一方の少なくとも一部)が、緻密体であるガラスコーティング30によって覆われているので、ガラスコーティング30がバリア材として機能し、シール材96の内部に、少なくとも酸化剤ガス由来の酸素原子(O)や水蒸気(H
2O)が侵入することが抑止され、これにより、銀シール部内に、水蒸気に起因する空孔や亀裂が生じるような銀の変質が生じること、及び、それに起因して燃料ガスと酸化剤ガスが接触して水が生じてしまい、その結果、それらのガスが消費されてSOFC装置1の発電効率ひいては出力が低下してしまうこと(シール材96の膨張多孔化による出力低下)を防ぐことができる。
【0053】
ここで、
図12(A)〜(C)は、それぞれ、シール材96にガラスコーティング30が設けられていない従来の構成において膨張多孔化が生じる状態を模式的に示す部分断面図である。このように、シール材96の上端面96aにガラスコーティング30が形成されていない場合、燃料ガスF1由来の水素ガス又は水素原子、及び、酸化剤ガスF2由来の酸素ガス又は酸素原子が、シール材96の端部からその内部に侵入するおそれがある(
図12(A))。そうすると、シール材96の内部で水(水蒸気)が生じ、その体積膨張によって空孔が発生してシール材96が膨張多孔化する。そして、そのシール材96によって集電キャップ86a及び内側電極層90の露出部90aを押圧するような応力(図示矢印Y1)が印加される(
図12(B))。
【0054】
図13は、このようにして膨張多孔化したシール材及びその周囲の状態の一例を示す断面顕微鏡写真である。このような状態になると、燃料ガスF1及び酸化剤ガスF2のリーク(漏れ)と混合が生起され始める。さらに、SOFC装置を運転して燃料電池セルユニットによる発電を繰り返し行うと、集電キャップ86a及びシール材96のそれぞれの図示上端部が、ともに内側電極層90の反対側に引っ張られるような応力(図示矢印Y2)が印加され、シール材96の一部が内側電極層90から剥離されるように変形し、その結果、燃料ガスF1及び酸化剤ガスF2のリークがより顕著になってしまう(
図12(C))。
【0055】
これに対し、再言すれば、本実施形態のSOFC装置1では、
図9に示すとおり、シール材96の上端面96aにガラスコーティング30が形成されているので、そもそも、
図12(A)に示すような言わば初期のリークが生じ得ない。
【0056】
また、ガラスコーティング30を形成するガラス材は、一般に、シール材96の主構成材料である銀の融点以下で軟化又は溶融し得るので、ガラス以外のものに比して、シール材96をより確実に覆うことができ、その部分の密封性及びシール材96によるシール性が高められる。さらに、緻密体をガラスコーティング30とすれば、燃料電池セルユニット16の運転温度においても、形状が安定して変形及び変質し難いので、この点においても、シール材96の密封性及びシール材96によるシール性をより向上させることができる。その結果、シール材96を介した燃料ガスと酸化剤ガスの接触をより確実に抑止し、シール材96の膨張多孔化に起因するSOFC装置1の出力低下を一層効果的に防止することができる。
【0057】
次に、
図10は、
図7に示す燃料電池セルユニット16の他の態様の一部を拡大して示す部分断面図であり、
図9と同様に、内側電極層90の露出部90aと内側電極端子86に備わる集電キャップ86aの周囲の状態を模式的に示す図である。この燃料電池セルユニット16は、集電キャップ86aの図示上端部が、内側電極層90の反対側にやや屈曲され、且つ、ガラスコーティング30が、燃料電池セルユニット16の内側電極層90、電解質層94、シール材96、及び、上述した隔壁部の一部を構成する集電キャップ86aに亘って形成されていること以外は、
図9に示す燃料電池セルユニット16と同様に構成されたものである。
【0058】
このように構成された燃料電池セルユニットを有するSOFC装置1においても、ガラスコーティング30による先述した優れたガスバリア効果、すなわち、シール材96の膨張多孔化による出力低下の抑止効果を得ることができる(重複した説明を避けるため、詳細については省略する。)。また、内側電極層90及び電解質層94とシール材96との境界、及び、シール材96と集電キャップ86aとの境界を含む広い範囲の部位が、ガラスコーティング30によって覆われているので、その部位の密閉性が向上される。これにより、シール材96によるシール性を更に高めることができ、シール材96のバリア機能が一層強化されるので、シール材96を介した燃料ガスと酸化剤ガスの接触をより一層抑えることができ、シール材96の膨張多孔化によるSOFC装置1の出力低下を更に一層防止することが可能となる。
【0059】
さらに、ガラスコーティング30が、内側電極層90、電解質層94、シール材96、及び、集電キャップ86aに囲まれて画成された凹部の内壁を覆うように形成されているので、この凹部がガラスコーティング30の言わば溜まり部(貯留部)として働くことによって、充填されたガラスコーティング30が保持され易くなる。これにより、ガラスコーティング30を、内側電極層90、シール材96、及び、集電キャップ86aに亘ってより確実に形成させることができ、シール材96の膨張多孔化によるSOFC装置1の出力低下を更に一層防止することができる。
【0060】
またさらに、ガラスコーティング30と、導電性を有する内側電極層90、電解質層94、及び集電キャップ86aとでは、両者の熱膨張係数(熱膨張率)が大きく異なる傾向にあるところ、
図10に示すとおり、ガラスコーティング30において、シール材96の上端面96a上に形成された部位の厚さが、内側電極層90上に形成された部位の厚さ、及び、集電キャップ86a上に形成された部位の厚さよりも大きくされていることにより、SOFC装置1の各燃料電池セルユニット16の運転/停止による膨張/収縮時に、ガラスコーティング30にクラックが生じ難くなる。
【0061】
すなわち、ガラスコーティング30におけるシール材96側の部位を相対的に厚く形成し、且つ、内側電極層90、電解質層94、及び集電キャップ86a側の部位を相対的に薄く形成することにより、シール材96の密封性及びシール材96によるシール性を好適に維持することが可能となる。その結果、シール材96を介した燃料ガスと酸化剤ガスの接触を更に一層抑止することができ、シール材96の膨張多孔化によるSOFC装置1の出力低下を更に防止することができる。
【0062】
なお、ガラスコーティング30は、例えばガラス粉末、有機バインダー、溶媒等を含有するスラリーを凹部に流し込み、乾燥、焼成することにより得ることができる。ここで焼成については、ガラスの軟化点温度以上で加熱することにより緻密なガラスコーティングを得ることができる。さらに、結晶化ガラスを用いた場合には、結晶化温度以上で加熱することで、結晶化したガラスコーティングを得ることができる。
【0063】
さらに、
図11は、
図7に示す燃料電池セルユニット16の更に他の態様の一部を拡大して示す部分断面図であり、
図9と同様に、内側電極層90の露出部90aと内側電極端子86に備わる集電キャップ86aの周囲の状態を模式的に示す図である。この燃料電池セルユニット16は、ガラスコーティング30に代えて、内側電極層90の露出部90aの側面と、シール材96との間にコーティングされた導電性を有するランタンクロマイトコーティング32を備えること以外は、
図9に示す燃料電池セルユニット16と同様に構成されたものである。
【0064】
このように、例えばSr、Ca等の添加成分がドープされて導電性を有するペロブスカイト型複合酸化物であるランタンクロマイト(LaCrO
3)は、高温下においても酸化及び還元雰囲気下で極めて安定な材料であり、 且つ、水素及び酸素と反応し難い物性を有するので、緻密体としての安定性に優れ、これにより、ランタンクロマイトコーティング32のバリア機能をより長期に亘って好適に維持することが可能となる。
【0065】
なお、上述したとおり、本発明は上記の実施の形態において説明した具体例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の技術的範囲に包含される。換言すれば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに制限されず適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
具体的には、例えば、
図9〜
図11に示す内側電極層90の上端面90cはシール材96を介して内側電極端子86に接続されているが、
図7に示すように内側電極層90の上端面90cが直接内側電極端子86に接続されるように構成されてもよい。
図9に示す内側電極層90の上端面90cを内側電極端子86まで伸ばした変形例を
図14に示し、
図10に示す内側電極層90の上端面90cを内側電極端子86まで伸ばした変形例を
図15に示す。また、
図9〜
図11に示す電解質層94の端部はシール材96の上端面96aよりもシール材96に入り込むように延びていたが、上端面96aに一致するように構成されていてもよい。
【0067】
さらに、前述した各実施形態においては、燃料極が内側で空気極が外側に設けられた燃料電池セルにおいて燃料ガスと酸化剤ガスとを隔離するシール材96にガラスコーティング30やランタンクロマイトコーティング32といった緻密体を設ける態様について説明したが、同様にして、燃料極が外側で空気極が内側に設けられた燃料電池セルにおいてシール材96を設け、そのシール材96に同種の緻密体を設けても勿論よい。またさらに、前述した各実施形態においては、円筒形セルに関する態様ついて説明したが、平板形セルにおいて用いられる燃料ガスと酸化剤ガスとを隔離する場合においても、本発明を同様に適用することができる。そうした場合、円筒形セルにおける隔壁部は平板形セルの場合におけるセパレータに相当するが、それ以外の燃料極、空気極、電解質層等は、円筒形セルの場合と同様に考えればよい。具体的な平板形セルへの適用例について
図16,
図17,
図18,
図19,
図20を参照しながら説明する。
【0068】
図16は、平板形の燃料電池セルスタックに本実施形態の緻密体を適用した変形例を示す外観斜視図である。
図17は、
図16のI-I断面を模式的に示す概略断面図である。
図18は、
図16のII-II断面を模式的に示す概略断面図である。
図19は、
図17の空気フレーム中央近傍をフレームが沿う面に沿って切断した状態を示す概略断面図である。
図20は、
図17の燃料フレーム中央近傍をフレームが沿う面に沿って切断した状態を示す概略断面図である。
【0069】
図16に示すように、燃料電池セルスタック200は、平板形のセルスタックである。燃料電池セルスタック200は、燃料ガス流路201と、酸化剤ガス流路202とを備えている。
【0070】
図17及び
図18に示すように、燃料電池セルスタック200の内部は、積層構造をなしている。図の下方より、セパレータ203と、アノード集電部材212と、アノード210と、電解質層209と、カソード208と、中間プレート207とが積層されている。中間プレート207の中央は、カソード208が露出するように矩形開口が設けられている。カソード208は、カソード集電部材211によって、一段上のセパレータ203に繋げられている。
【0071】
セパレータ203の外周に沿って、燃料フレーム205が配置されている。燃料フレーム205は、ろう材206によってセパレータ203と接合されている。燃料フレーム205は更に、ろう材206によって中間プレート207と接合されている。中間プレート207と電解質層209との間には、銀シール材213と緻密体としてのガラスコーティング214とが配置されている。
【0072】
ガラスコーティング214を銀シール材213のカソード208側に設けることで、運転中に銀シール材213が酸素と触れることを防止し、銀の酸化被膜発生による導電率の低下を抑えることが出来る。
【0073】
中間プレート207の外周に沿って、空気フレーム204が配置されている。空気フレーム204は、ろう材206によって中間プレート207と接合されている。空気フレーム204は更に、ろう材によって上段のセパレータ203と接合されている。
【0074】
図19に示すように、空気フレーム204の中央近傍において、空気フレーム204が沿う平面の断面を見ると、酸化剤ガス流路202を通った空気がカソード208側に流れるように構成されている。
【0075】
一方、
図20に示すように、燃料フレーム205の中央近傍において、燃料フレーム204が沿う平面の断面を見ると、燃料ガス流路201を通った燃料ガスがアノード210側に流れるように構成されている。