【文献】
ANDREAUS B,PROTON-CONDUCTING POLYMER MEMBRANES IN FUEL CELLS-HUMIDIFICATION ASPECTS,SOLID STATE IONICS,NL,NORTH HOLLAND PUB. COMPANY,2004年 3月31日,V168 N3-4,P311-320
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電気化学デバイスの物理化学作用を少なくとも部分的にモデル化する少なくとも一つの物理化学パラメータからの、電気化学デバイスの具合状態の測定方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする方法。
−該電気化学デバイスの動作点の周囲において、該動作点における電流値に部分的に重畳された、該電流値の10%未満の振幅を有し、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電流摂動のシーケンス、または、前記動作点における電圧値に部分的に重畳された、該電圧値の10%未満の振幅を有し、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電圧摂動のシーケンスと、
ステップ状の電流または電圧と、
ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧と、の中から選択される特有の刺激区分に属する、少なくとも2つの異なる刺激区分からなる入力信号を適用する(10)ステップ、
−該入力信号に応じた該電気化学デバイスの出力信号を測定する(20)ステップ、
−該出力信号から、該電気刺激信号のそれぞれに関連する応答信号を抽出する(30)ステップ、
−第一区分に属する電気刺激と対応する応答信号とから、少なくとも一つの第一のパラメータを推定する(41)ステップ、
−第一区分とは異なる区分に属する電気刺激と対応する応答信号、及び少なくとも一つの推定された第一のパラメータから、該第一のパラメータを静的または動的モデルとして用いる最適化法によって、少なくとも一つの該物理化学パラメータを推定する(43)ステップ、
−少なくとも一つの該物理化学パラメータの既推定値と所定の基準値との間の差異として、電気化学デバイスの該具合状態を推定する(50)ステップ。
第一区分の電気刺激がステップ状の電流または電圧であり、第一区分とは異なる区分の電気刺激が、前記電気化学デバイスの動作点の周囲における、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電流摂動のシーケンス、または、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電圧摂動のシーケンスと、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧と、の中から選択されること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
第一区分の電気刺激が、前記電気化学デバイスの動作点の周囲における、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電流摂動のシーケンス、または、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電圧摂動のシーケンスであり、
第一区分とは異なる区分の前記電気刺激が、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧であること、
を特徴とする請求項3に記載の方法。
さらに、少なくとも一つの前記第一のパラメータの推定値と所定の基準値との間の差異として、及び/または、少なくとも一つの前記第二のパラメータの推定値と所定の基準値との間の差異として、前記具合状態が推定される(50)こと、
を特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
前記入力信号が、前記電気化学デバイスの動作点の周囲における、異なる周波数からなる正弦電流摂動のシーケンスである主たる組(A)、または異なる周波数からなる正弦電圧摂動のシーケンスである主たる組(A)は、さらに、高い周波数から低い周波数、または低い周波数から高い周波数の順に並べられた複数の周波数の副次的な組(A1, …, An)からなり、該複数の副次的な組(A1, …, An)の中の各副次的な組の周波数は、少なくともひとつの別の副次的な組の2つの連続した周波数の間に含まれるものであって、
前記正弦電流摂動のシーケンスまたは前記正弦電圧摂動のシーケンスが、前記複数の周波数の副次的な組(A1, …, An)の中のひとつの副次的な組を単調な順番にスキャンして適用されるものであること、
を特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
前記パラメータの一つが、前記電気化学デバイスの内部電気抵抗であり、ステップ状の電流または電圧と、該ステップ状の電流または電圧と対応する応答信号とからの前記パラメータの推定が、以下から成ること、
を特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
−前記入力信号と前記対応する応答信号とから、前記電気刺激を適用する前の各値を抽出し、電流変化と電圧変化とを取得し、
−前記電圧変化を前記電流変化で割ることにより瞬時インピーダンスを算出し、前記電気刺激の適用時間t0より後の、前記瞬時インピーダンスが最小となる時間t1を検出し、
−時間t1よりも後の時間tにおける前記瞬時インピーダンスを、数学的関数Z(t)(t≧t1)で近似して、時間t=t0における前記数学的関数の値と対応する前記電気化学デバイスの内部抵抗の値を推定する。
【背景技術】
【0003】
一般に、電気化学デバイスは、ライフサイクルに亘って、その性能が次第に低下する。これは、主にデバイスの動作中と、デバイスの停止時にも生じる、不可逆的な物理化学変化に起因する。
【0004】
その結果、デバイスの一般的な劣化の状態の情報を有し、これによりライフサイクルがどの程度進んだかを知ることが不可欠である。
【0005】
さらに、電気化学デバイスの動作中、性能の急激な低下を生じるある物理現象が生じ得る。例えば、プロトン交換膜タイプの燃料電池の場合、充満及びドレナージ現象が、セルの性能の相当な低下を生じる。
【0006】
従って、これらの現象を直ちに解決するために、これらの現象をリアルタイムで検出可能であることが望ましい。
【0007】
デバイスの状態の全体的な劣化の測定、及び、ある有害な現象の検出は、電気化学デバイスの具合状態の測定を意味する。
【0008】
電気化学デバイスの具合状態は、電気化学デバイスの物理化学作用を少なくとも部分的にモデル化する少なくとも一つの物理化学パラメータの推定値または測定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異として定義可能である。この差異は、長期的(余寿命)及び短期的(性能を急に低下させる、物理現象の出現)双方で、デバイスの動作特性を説明する。言うまでも無く、これは、相対的または絶対的差異を含む。
【0009】
言うまでもなく、具合状態の概念は、ユーザーが獲得を願う情報に依存する、多様な現実をカバーする。
【0010】
一般に、具合状態は、前記電気化学デバイスの静的及び/または動的作用の情報を提供する特性パラメータのセットから測定されてもよい。これらのパラメータは、電気化学デバイス内で作用し始める、例えば、反応速度論に関連する現象、抵抗現象、及び、燃料電池の場合、反応部位に対する反応液の拡散現象等の、種々の物理化学現象を表してもよい。
【0011】
一例として、プロトン交換膜(PEM)タイプの燃料電池の具合状態の測定は、一方では、一般的な劣化状態をモニタし、他方では、膜のドレナージ現象を検出する目的で、内部電気抵抗(通常、膜の電気抵抗に接続されている)、膜の吸湿量等のあるパラメータ、または、拡散現象または反応速度論に関するパラメータの、リアルタイムの推定を含んでも良い。従って、このタイプの現象が継続し、セルを不可逆的に損傷することを防ぐために、より急速に対応可能である。
【0012】
デバイスの具合状態を測定するための、幾つかのパラメータ推定方法が、PEMタイプの燃料電池に関連して、一般に用いられている。
【0013】
一般に、各方法は、実験データを取得する第一のステップと、測定値を利用して一つ以上の特性パラメータを推定する第二のステップとを通常含む。
【0014】
第一のステップは、特有の電気刺激を電気化学デバイスに適用し、その電気的な応答を測定することから成る。
【0015】
第二のステップは、セルの作用を少なくとも部分的に特性化する、一つ以上のパラメータを推定するための、入力及び出力信号の解析である。これらのパラメータは、セルの全体的または部分的作用を表す、静的及び/または動的モデルに属してもよい。
【0016】
最後に、セルの具合状態が、パラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異として推定される。
【0017】
第一の方法は、公知の電気化学インピーダンス分光法に基づく。この方法は、非特許文献1に記載されるように、燃料電池の充満またはドレナージの検出に利用可能である。
【0018】
幅広い周波数帯域を走査する振幅の小さい正弦摂動のシーケンスを有する入力電流が、セルに適用される。これらの摂動に対する応答電圧が、セルの端子で測定される。そして、インピーダンス解析デバイスを用いて、セルのインピーダンスを得ることができる。このインピーダンスは、ナイキスト平面でトレース可能であり、実数部の関数として、インピーダンスの虚数部の変化をもたらす。
【0019】
続いて、等価電気セルタイプの前記インピーダンス(微小信号の動的モデル)のモデルのパラメータ値が、最適化法、例えば、最小二乗法を用いて測定された信号から推定される。インピーダンスモデルは、以下の等価電気回路であってもよい。
ここで、R
mem、R
diff、R
actは、それぞれ、膜の抵抗、拡散に対する抵抗、活性化に対する抵抗であり、C
dc及びC
diffは、それぞれ、二重層容量及び等価拡散層の容量である。このタイプのモデルの利用の記述は、非特許文献2で見ることが出来る。
【0020】
続いて、モデルの一つ以上のパラメータの推定値が、同じパラメータの所定の基準値と比較される。推定値と基準値との間の差異が、セルの具合状態を特性化する。
【0021】
当業者自明の第二の推定方法は、例えば電流遮断等の
ステップ状の電
流適用時の、電気化学デバイスの電圧応答の観察に基づく。
【0022】
この方法は、特に、非特許文献3に記載されている。
【0023】
適用電流及び電圧応答の計測から、デバイスの内部電気抵抗を容易に推定することができる。
【0024】
続いて、内部電気抵抗から推定された値と、所定の基準値との比較により、差異が算出され、該差異が、セルの具合状態を特性化する。
【0025】
大振幅走査と呼ばれる第三の方法は、前述した非特許文献2に記載されている。
【0026】
第三の方法は、電気化学デバイスに対する、好ましくは低周波数で、実質的にゼロから公称電流に至る電流範囲に対応する振幅の、周期的な入力電流の適用と、応答電圧の測定とから成る。走査周波数が非常に低い範囲で、電流/電圧分極曲線が自動的に描かれる。
【0027】
続いて、適用電流の関数として電圧変化を表す電気化学デバイスの、走査周波数に依存する静的または動的モデルのパラメータが、例えば最小二乗法タイプの最適化法を利用して、実験値を用いて推定される。
【0028】
実例として、PEMタイプの燃料電池に関する非特許文献4に示されるように、一定温度及び気圧での、実験分極曲線U
cellule=f(I)は、以下の静的4変数モデルと比較される。
ここで、α*及びI*
0は、活性化過電圧に関するパラメータであり、R
memは主に膜における抵抗損失に起因するセルの電気抵抗であり、R
dif,0は、拡散による損失に関する抵抗、特に、拡散過電圧に関する抵抗である。上に示したように、モデルの複数のパラメータが、最小二乗法タイプの最適化法を用いて推定可能である。
【0029】
前述同様に、続いて静的モデルの一つ以上のパラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との比較により、差異が算出され、該差異が、セルの具合状態を特性化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
しかしながら、これらの複数の方法それぞれの動作時間及び/または結果の品質は、不十分であることが分かっている。方法の動作時間とは、本明細書においては、実験データを得て、パラメータを得るためにそれを処理する時間を指す。結果の品質とは、本明細書においては、一方では、公知で期待される大きさで得られるパラメータの一貫性を指し、他方では、これらの各パラメータの値の取り得る範囲の面での正確さを指す(この範囲は、各パラメータに対して単一の値に低減されるのが理想である)。
【0031】
さらに、各方法は、利用できるパラメータに関して、限定的な情報しか提供し得ず、調査中の電気化学デバイスの実際の具合状態を測定するには不十分である。一つの解決策は、これらの複数の方法を連続的に適用することであるが、各方法のロバスト性のさらなる改善なしでは、処理時間がかかり過ぎる。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の目的は、先行技術の欠点を少なくとも部分的に解決可能な、電気化学デバイスの具合状態の測定方法を提供することである。
【0033】
前述したように、電気化学デバイスの具合状態は、ここでは、一方では、電気化学デバイスの物理化学作用を少なくとも部分的にモデル化する少なくとも一つの物理化学パラメータの推定または測定値と、他方では、同じパラメータの所定の基準値との間の差異として定義される。
【0034】
この目的のために、本発明は、電気化学デバイスの物理化学作用を少なくとも部分的にモデル化する少なくとも一つの物理化学パラメータからの、電気化学デバイスの具合状態の測定方法に関する。
【0035】
本発明によれば、該方法は、以下のステップを含む。
−該電気化学デバイス
の動作点の周囲において、該動作点における電流値に部分的に重畳された、該電流値の10%未満の振幅を有し、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電流摂動のシーケンス、または、前記動作点における電圧値に部分的に重畳された、該電圧値の10%未満の振幅を有し、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電圧摂動のシーケンスと、
ステップ状の電流または電圧と、
ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧と、の中から選択される特有の刺激区分に属する、少なくとも2つの異なる刺激区分からなる入力信号を
適用するステップ、
−該入力信号に応じた該電気化学デバイスの出力信号を測定するステップ、
−該出力信号から、該電気刺激信号のそれぞれに関連する応答信号を抽出するステップ、
−第一区分に属する電気
刺激と対応する応答信号とから、少なくとも一つの第一のパラメータを推定するステップ、
−第一区分とは異なる区分に属する電気
刺激と対応する応答信号、及び少なくとも一つの推定された第一のパラメータから、
該第一のパラメータを静的または動的モデルとして用いる最適化法によって、少なくとも一つの該物理化学パラメータを推定するステップ、
−少なくとも一つの該物理化学パラメータの既推定値と所定の基準値との間の差異として、電気化学デバイスの該具合状態を推定するステップ。
【0036】
物理化学パラメータは、電気化学デバイスの物理化学作用を少なくとも部分的にモデル化するパラメータを意味する。物理化学パラメータは、デバイスであり得る活性化または拡散現象に関するパラメータであってもよい。また、例えば、デバイスの内部電気抵抗、それらのインピーダンスやアドミタンス等の、電気的パラメータであってもよい。
【0037】
入力信号に含まれる電気刺激は、電気化学デバイスの特性化を得る、すなわち、電気化学デバイスを定義する少なくとも一つの電気的パラメータを推定することを可能とすることを目的としている。
【0038】
従って、本発明による方法は、従来技術の推定法に対して、正確性及び一貫性の観点において、結果の品質が向上する。
【0039】
要するに、本発明により、特に、事前に推定された第一のパラメータから、物理化学パラメータの推定値が得られる。従って、物理化学パラメータの推定に用いられる情報は、より豊かであり、より良好な品質の結果を得ることを可能とし、すなわち、結果はより一貫性があり、より正確である。従って、本方法は、より信頼性がある。
【0040】
さらに、入力信号が、具合状態の後続の測定に必要な複数の電気刺激を含む場合、本発明に関する方法は、実行速度が非常に速い。
【0041】
従って、本手法は、実行時間が非常に速く、信頼性が高い。
【0042】
第一区分の電気刺激と、第一区分とは異なる区分の電気刺激とは、連続して適用されることが有利である。
【0043】
少なくとも一つの第一区分の電気刺激は、第一区分とは異なる区分の電気刺激に、少なくとも部分的に、一時的に重畳されることが有利である。従って、入力信号は、同じ期間で最大電気刺激を含む。そして、前記方法の実行時間は、特に減少する。
【0044】
第一区分の電気刺激が
ステップ状の電流または電
圧であり
(以下、単に電流ステップ、電圧ステップと呼ぶ)、第一区分とは異なる区分の電気刺激が、前記電気化学デバイスの
動作点の周囲
における、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電流摂動のシーケンス、または、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する正弦電圧摂動のシーケンスと、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧と、の中から選択されることが好ましい。
【0045】
また、第一区分の電気刺激が、電気化学デバイスの
動作点の周囲
における、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する複数の正弦電流摂動のシーケンス、または、異なる周波数からなり特有の周波数を伝播する複数の正弦電圧摂動のシーケンスであり
、第一区分とは異なる区分の前記電気刺激が、ゼロ
と前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧である。
【0046】
さらに、少なくとも一つの第一のパラメータの推定値と所定の基準値との間の差異として、具合状態が推定されることが有利である。
【0047】
本発明の実施形態によれば、入力信号は、少なくとも三つの異なる区分の刺激を含む。少なくとも一つの物理化学パラメータを推定するステップの前に、第一区分とは異なる第二区分に属する電気刺激と、対応する応答信号とから、少なくとも一つの第二のパラメータを推定する。少なくとも一つの物理化学パラメータの推定は、第一区分及び第二区分とは異なる第三区分に属する電気刺激と、対応する応答信号と、既に推定された、少なくとも一つの第一のパラメータと、少なくとも一つの第二のパラメータとから行われる。
【0048】
従って、少なくとも一つの第一のパラメータと、少なくとも一つの第二のパラメータとが、この推定ステップで利用されるため、前記少なくとも一つの物理化学パラメータは、信頼性が向上されて推定される。その結果、ここでは少なくとも一つの前記物理化学パラメータからの、具合状態の測定は、この信頼性向上の恩恵を受ける。
【0049】
少なくとも一つの前記第二のパラメータが、少なくとも一つの前記第一のパラメータから推定されることが好ましい。従って、少なくとも一つの第一のパラメータが、この推定ステップで利用されるため、前記少なくとも一つの第二のパラメータは、信頼性が向上されて推定される。当然ながら、前記少なくとも一つの物理化学パラメータの推定は、より正確でより一貫性がある第二のパラメータの推定値を用いるため、より正確でより一貫性がある。
【0050】
少なくとも三つの刺激区分の場合、第一区分の電気刺激は電流または電圧ステップであり、第二区分の電気刺激は、前記電気化学デバイスの
動作点の周囲での、正弦電流
摂動または
正弦電圧摂動のシーケンスであり、各摂動は、特有の周波数組を通じて伝播するための
異なる周波数を有し、第三区分の電気刺激は、ゼロ
と前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧であることが好ましい。
【0051】
さらに、少なくとも一つの前記第一のパラメータの推定値と所定の基準値との間の差異として、及び/または、少なくとも一つの前記第二のパラメータの推定値と所定の基準値との間の差異として、前記具合状態が推定されることが有利である。
【0052】
区分が摂動のシーケンスである電気刺激を入力信号が含む場合、摂動のシーケンスが、主たる組に由来する周波数の複数の副次的な組を順番に走査するように適用され、前記複数の副次的な組それぞれが、同一の複数の副次的な組の少なくとも一つの他の副次的な組と組み合わされることが有利である。
【0053】
副次的な組の組み合わせは、周波数の走査における前進後退を意味する。その結果、主たる組における周波数の走査中、新たな高い周波数の要請は、急速な物理現象の検出を可能とする。同様に、新たな低い周波数の要請は、長時間の識別可能な物理現象の検出を可能とする。従って、全測定を通じて、遅いまたは速い物理現象を識別することができる。
【0054】
第一の副次的な組の少なくとも一つの周波数は、第一の副次的な組が組み合わされる第二の副次的な組の2つの連続する周波数の間にあることが好ましい。
【0055】
前記複数の副次的な組それぞれは、同一の複数の副次的な組の他の副次的な組全てと組み合わされてもよい。
【0056】
前記シーケンスの摂動は、各副次的な組の周波数を単調にまたはランダムに走査するように適用されてもよい。
【0057】
さらに、前記シーケンスの摂動が、前記複数の前記副次的な組を単調にまたはランダムに走査するように適用され、副次的な組が、所定の順番に従い並べられてもよい。
【0058】
副次的な組は、各副次的な組の最大周波数の昇順または降順で並べられてもよい。また、副次的な組の順番は、各副次的な組の最小周波数に依存してもよい。
【0059】
一般に、電流または電圧ステップと、対応する応答信号とからのパラメータの推定が、以下から成ることが有利である。
−前記入力信号と前記対応する応答信号とから、前記電気刺激を適用する前の各値を抽出し、電流変化と電圧変化とを取得し、
−前記電圧変化を前記電流変化で割ることにより瞬時インピーダンスを算出し、前記電気刺激の適用時間t
0より大きい、前記瞬時インピーダンスが最小となる時間t
1を検出し、
−時間t
1での前記瞬時インピーダンスを推定し、前記推定の値を時間t
0に投影して、これにより前記電気化学デバイスの内部抵抗の値を推定する。
【0060】
電流の関数としての電圧の実験変化が、前記入力信号と前記対応する応答信号とから得られ、電流の関数としての電圧のモデル変化が、少なくとも一つの前記パラメータによりパラメータ化され、ゼロ
と前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電流、または、ゼロと前記電気化学デバイスの公称値の間で周期的に変化する電圧からの前記パラメータの推定が
、前記電圧のモデル変化とそのN個の連続する導関数との間に存在
する差異、または、前記電圧の実験変化とそのN個の連続する導関数との間に存在する差
異を最小化することにより得られることが有利である。
【0061】
前記電気化学デバイスは、電解槽または燃料電池であってもよい。
【0062】
また、本発明は、以下を含む電気化学デバイスの制御方法に関する。
−前述した特徴のいずれか一つに従って、具合状態を測定し、
−前記具合状態の測定値と具合状態の基準値との間の差異を測定し、
−測定された前記差異が所定の閾値差異を超える場合、前記電気化学デバイスにコマンドを適用すること。
【0063】
本発明の他の利点及び特徴は、以下の非限定的な詳述で示される。
【0064】
以下、非限定的な例として、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下の説明では、電気化学システムは、プロトン交換膜タイプの燃料電池である。
【0067】
しかしながら、電気化学システムは、燃料電池に限定されず、電解槽、一次電池または充電池、あるいは他のどのような電気化学デバイスであってもよい。
【0068】
燃料電池は、アプリケーションのインターフェースとして電流を与えることが可能な、能動負荷または静電変換器等の、電力デバイスに接続される。
【0069】
電力デバイスは、支持命令を与えることが可能な、“信号”タイプの入力により、指示され得る。
【0070】
測定デバイスは、電圧を測定するために、燃料電池の端子に接続される。また、測定デバイスは、セルに実際に適用される電流の測定も実施することが好ましい。また、測定デバイスは、測定信号を取得することも可能である。
【0071】
図1に示すような本発明の好ましい第一の実施形態によれば、入力信号は複数の電気刺激を含み、各刺激は、特有の刺激区分に属し、該入力信号は、ここでは、異なる区分の2つの刺激を含んでいる。
【0072】
以下の説明では、E(t)は入力信号を定義し、e
i(1)(t)は第一区分の電気刺激を定義し、i∈[1, N
(1)]であり、1以上のN
(1)は、その区分の電気刺激の数であり、e
j(2)(t)は第二区分の電気刺激を定義し、j∈[1, N
(2)]であり、1以上のN
(2)は、その区分の電気刺激の数であり、e
k(3)(t)は第三区分の電気刺激を定義し、k∈[1, N
(3)]であり、1以上のN
(3)は、該区分の電気刺激の数である。
【0073】
また、S(t)は、出力信号を表し、s
i(1)(t)は第一区分の電気刺激に対する応答信号を表し、s
j(2)(t)は第二区分の電気刺激に対する応答信号を表し、s
k(3)(t)は第三区分の電気刺激に対する応答信号を表す。
【0074】
従って、好ましい第一の実施形態では、ここでは電流である入力信号E(t)は、N
(1)刺激e
(1)(t)と、N
(2)刺激e
(2)(t)とを含み、N
(1)及びN
(2)は、互いに関連なく、1以上である。
【0075】
好ましい第一の実施形態によれば、第一区分の電気刺激は、該電気化学デバイスの分極点周囲での、正弦電流摂動71のシーケンスであり、各摂動は、特有の周波数組で伝播するように、種々の周波数を有する。
【0076】
摂動71の振幅は、セルの応答が線形のままであるように、十分低い。このために、振幅は、考慮中の動作点での電流値の実質的に10%未満であり、該%値に近いことが好ましい。
【0077】
各摂動71は、種々の周波数を有し、摂動のシーケンスは、高い周波数から低い周波数までに至る、またはその逆の、特有の周波数組で伝播する。この周波数組は、単調に伝播されてもよく、後述するように、異なる方法で伝播されてもよい。
【0078】
周波数組は、数ミリヘルツから、数十キロヘルツまでに至ってもよい。
【0079】
好ましい第一の実施形態によれば、第二区分の電気刺激は、ゼロから公称値に至る、電流変化73である。公称値は、セルの動作が保証される信号の最大値を意味する。当然ではあるが、変化の方向は、ゼロから公称値まで、またはその逆のどちらであってもよい。
【0080】
前記電流変化73は、周期的であり、正弦形状または三角形状を有することが好ましい。周波数は、可能な限り準静的負荷に近くなるように、低い周波数範囲、例えば、数ミリヘルツから数ヘルツの間であることが好ましい。
【0081】
振幅は、実質的に、ゼロから公称電流値まで変化する。
【0082】
この刺激区分を通じて、周波数が低い範囲で、燃料電池の電圧/電流分極曲線の自動描画を実現することができる。
【0083】
図2A及び
図2Bは、前記第一区分の刺激及び第二区分の刺激を含む、入力信号の例を示している。
図2Bは、破線の方眼における
図2Aの信号の拡大部位である。
【0084】
最小時間で最大の電気刺激を含む入力信号を得るために、電気刺激e
(1)が、電気刺激e
(2)に一時的に重畳される。
【0085】
測定デバイスにより、出力信号S(t)が測定される(20)。該信号S(t)は、適用された各電気刺激に応じた応答信号を含む。
【0086】
信号が処理されて、出力信号S(t)から、各電気刺激に応じた応答信号s
(1)及びs
(2)が抽出される(30)。
【0087】
第一の推定ステップ(41)が実施され、電気刺激e
(1)及び対応する応答信号s
(1)からセルを特性化する、第一のパラメータの値の取得が可能となる。
【0088】
インピーダンス解析デバイスは、走査された周波数組に対するセルの複素インピーダンスをもたらす。実数部の関数としてのインピーダンスの虚数部の変化は、ナイキスト平面に描画可能である。
【0089】
入力信号が、セルの端子での電圧である場合、インピーダンス解析デバイスは、セルの複素インピーダンスではなく、複素アドミタンスを推定することに留意されたい。しかしながら、インピーダンスは、アドミタンスから容易に推定可能である。
【0090】
続いて、実験データが、セルの物理化学的動作を少なくとも部分的に特性化する等価電気回路タイプの微小信号動的モデルと比較される。用いられるモデルは、先行技術によるパラメータを推定するための第一の方法を参照して前述したものである。
【0091】
前記第一のパラメータを含むモデルのパラメータは、従来の最適化法、例えば最小二乗法を用いて、推定される。
【0092】
先行技術を参照して前述したモデルの場合、パラメータは、セルの内部電気抵抗に接続される、膜の抵抗R
mem、拡散抵抗R
diff、及び、活性化抵抗R
act、また、二重層容量C
dc、及び、等価拡散層の容量C
diffであってもよい。
【0093】
前記第一のパラメータは、燃料電池の内部電気抵抗であることが好ましい。
【0094】
あるパラメータは、燃料電池の等価電気回路タイプモデルを用いずに測定可能であることに留意されたい。
【0095】
実際には、インピーダンスの変化と高い周波数に向かう実数軸との交点が、主にセルの膜における抵抗低下に起因する電気抵抗値を定義する。そして、この値から、膜の水和レベルを推定することが可能であり、従って、膜の構造及びセルの性能に非常に有害な現象である、膜のドレナージ現象を直ちに検出することができる。
【0096】
第一の推定ステップに続いて、第二区分に属する電気刺激e
(2)、対応する応答信号s
(2)、及び、既に推定された前記第一のパラメータからセルを特性化する物理化学パラメータを推定するために、第二の推定ステップ(43)が行われる。
【0097】
本発明の好ましい第一の実施形態によれば、第二区分の電気刺激は、ゼロから公称値に至る電流変化73であることを思い出されたい。
【0098】
計測信号から、電圧が適用電流の関数として表現される。
【0099】
ヒステリシスが見られる場合は、電圧と電流との間の全単射関係を得るために、値を平均化する。
【0100】
続いて、実験データが、電圧が電流の関数として表される静的な燃料電池モデルと比較される。
【0101】
静的なモデルは、先行技術によるパラメータを推定するための第三の方法を参照して前述したものであってもよい。
【0102】
モデルのパラメータは、従来の最適化法、例えば最小二乗法を用いて推定される。
【0103】
これらのパラメータは、前述した静的なモデルの場合、活性化過電圧に関するパラメータである、α*及びI*
0、セルの電気抵抗であるR
mem、及び、拡散による損失、特に、拡散過電圧に関する抵抗であるR
diff,0であってもよい。
【0104】
しかしながら、実験データのみから第一のパラメータを推定する第一の推定ステップ(41)とは異なり、第二の推定ステップ(43)は、実験データを用いるだけでなく、前記第一のパラメータの既推定値をも用いる。
【0105】
第二の推定ステップ(43)による第一のパラメータの推定値の利用に関し、第一のパラメータが、物理化学パラメータと異なるか否か、例えば、第一のパラメータが、セルの内部電気抵抗であるか否か、及び、物理化学パラメータが、活性化または拡散現象に関する前記パラメータの一つであるか否か、という第一の問題が生じる。
【0106】
この場合、最適化手続きは、前記第一のパラメータと等しい静的なモデルのパラメータに、第一のパラメータの推定値を与え、前記物理化学パラメータを含む他のパラメータに、ランダムな初期値を与えることにより開始される。
【0107】
続いて、与えられた値が、固定値として見なされ、この場合、静的なモデルの推定すべきパラメータの数は、より少ない。従って、第二の推定ステップ(43)は、推定すべきパラメータの数がより少ないため、より高速である。
【0108】
また、与えられた値を、初期値と見なしてもよい。その結果、第二の推定ステップ(43)は、前記パラメータを推定する。しかしながら、最終値への収束時間は、第一のステップで推定され、従って実際の値に近い初期値が、最終値に近い限り、特に短い。
【0109】
第二の推定ステップ(43)による第一のパラメータの推定値の利用に関する第二の問題は、第一のパラメータ及び物理化学パラメータが同一である場合である。例えば、パラメータは、セルの内部電気抵抗、または拡散抵抗を含む。
【0110】
この場合、最適化手続きは、物理化学パラメータに、第一の推定ステップ(41)で推定された値を与えることにより開始される。
【0111】
続いて、与えられた値が、初期値として見なされてもよい。その結果、第二の推定ステップ(43)は、前記パラメータを推定する。しかしながら、前述と同様に、最終値への収束時間は、特に短い。
【0112】
どの場合も、第二の推定ステップの速度の増加に加えて、第二の推定ステップがよりロバストになり、すなわち、一貫しない値を取得する可能性が低減される。ロバスト性は、測定すべきパラメータの数が増えると、一般に低下することに留意されたい。また、ロバスト性は、初期値が実際の値に非常に近い場合、改善される。
【0113】
続いて、物理化学パラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異を算出し(50)、該差異が、セルの前記具合状態を特性化する。
【0114】
第一及び/または第二の推定ステップで推定されるパラメータ値、および、同じパラメータの所定の基準値から、他の差異を算出することが可能であることに留意されたい。これらのさらなる差異も、前記具合状態を特性化する。
【0115】
実例として、具合状態は、一方では、セルの電気抵抗の推定値と、該抵抗の基準値との間の差異として、他方では、拡散または活性化現象に関するパラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異として、推定されてもよい。
【0116】
本発明の好ましい第一の実施形態の第一の代案によれば、第一区分の電気刺激は正弦摂動のシーケンスではなく、電流ステップ72である。
【0117】
ステップは、初期値から異なる最終値への理想的な瞬間的遷移を意味する。電流遮断が、一般的に用いられる
電流ステップの一例である。
【0118】
第二区分の電気刺激は、前述したものと同じままである。
【0119】
図3は、本発明の好ましい第一の実施形態の第一の代案用の前記第一及び第二区分の刺激を含む、入力信号の例を示す。
【0120】
少なくとも一つの電流ステップ72が、2つの第二区分の電気刺激の間に配置される。従って、第一区分及び第二区分の刺激が、連続して適用される。
【0121】
刺激e
(1)及びe
(2)に対応する応答信号s
(1)及びs
(2)を抽出するための、前述したものと同じステップ後、第一のパラメータに対する第一の推定ステップ(41)が実施される。
【0122】
実験結果は、セルの内部電気抵抗を好ましくは測定する目的で解析される。
【0123】
当業者に知られる手続きにより、実効電流ステップΔIと、応答電圧変化ΔUとが測定され、これらから、例えばステップの適用の瞬間(理想的)の比ΔU/ΔIを直接算出することにより、内部抵抗値Reが推定される。
【0124】
また、公知の方法で、電圧及び電流の時間的な導関数から、内部抵抗を得ることができる。内部抵抗は、以下の関係から得られる。
【0125】
最後に、内部抵抗を得る他の手続きが用いられることが好ましい。
【0126】
電流ステップを適用する瞬間を、t
0と定義する。
【0127】
このステップの前の電流値を抽出することにより、電流変化ΔIが、時間の関数である電流値から、算出される。同様の算出が、電圧に対しても行われる。従って、ΔI(t)=I(t)−I
init、及び、ΔU(t)=U(t)−U
initが得られる。
【0128】
続いて、電流及び電圧変化ベクトルから、瞬時インピーダンスベクトル:Z(t)=ΔU(t)/ΔI(t)が算出される。
【0129】
インピーダンスZ(t)が最小となるt
0より大きい瞬間t
1が、厳密に検出される。
【0130】
続いて、t≧t
1で、Z(t)が、数学的関数、例えばn次多項式により近似される。
【0131】
最後に、セルの内部電気抵抗は、t=t
0に対する前記数学的関数の値に一致する。
【0132】
この手続きは、完全に自動化可能であるという利点を有する。従って、値を選択する操作介入は不要である。この手続きは、非常に正確でロバストであることが判明している。従って、ステップ直前のインピーダンス分光法測定に対する相対誤差が、0.5%以下であったことを示し得た。
【0133】
続いて、第二の推定ステップ(43)が行われ、第二区分の電気刺激、対応する応答信号、及び、既に推定された第一のパラメータ、ここでは内部抵抗から、物理化学パラメータの推定を可能とする。この第二のステップは、前述したものと同一であり、または類似し、従って、ここで再度説明はしない。ここでは、物理化学パラメータは、内部電気抵抗、または、活性化または拡散現象に関するパラメータであってもよい。
【0134】
続いて、物理化学パラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異が算出され(50)、この差異が、セルの前記具合状態を特性化する。
【0135】
前述したように、第一及び/または第二の推定ステップで推定されたパラメータ値と、同じパラメータの所定の基準値とから、他の差異を算出することが可能である。これらのさらなる差異も、前記具合状態を特性化する。
【0136】
本発明の好ましい第一の実施形態の第二の代案では、方法は、第一区分の刺激が電流ステップ72であり、第二区分の刺激が、前記電気化学デバイスの
動作点周囲での、正弦電流
摂動71または
正弦電圧摂動のシーケン
スであり、各摂動が、所定の周波数組で伝播するように、
異なる周波数を有することを除いて、前述したものと同様である。
【0137】
これらの複数の刺激は、前述したものと同じであるか、類似する。
【0138】
図4は、本発明の好ましい第一の実施形態の前記第二の代案用の、前記第一及び第二区分の刺激を含む、入力信号の一例である。
【0139】
少なくとも一つの電流ステップ72が、2つの正弦摂動71の間に配置される。従って、第一及び第二区分の刺激は、連続して適用される。
【0140】
刺激e
(1)及びe
(2)に対応する応答信号s
(1)及びs
(2)を抽出する、前述したものと同じステップ後、第一のパラメータに対する第一の推定ステップ(41)が実施される。
【0141】
このステップは、本発明の第一の実施形態の前記第一の代案で説明したものと同一であり、従って、ここでは再度説明はしない。第一のパラメータは、燃料電池の内部電気抵抗であることが好ましい。
【0142】
続いて、第二の推定ステップ(43)が、第一の物理化学パラメータが特に第一のパラメータから推定されることを除いて、本発明の第一の実施形態に対して説明したものと同様に実施される。
【0143】
実験データが、セルの物理化学作用を少なくとも部分的に特性化する等価電気回路タイプの微小信号の動的モデルと比較される。
【0144】
前記第一のパラメータを含む、モデルのパラメータは、従来の最適化法、例えば最小二乗法を用いて推定される。
【0145】
第二の推定ステップによる第一のパラメータの推定値の利用に関し、第一及び第二のパラメータの固有性に関して前述した2つの問題が、ここで再度見出される。
【0146】
続いて、物理化学パラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異が算出され(50)、この差異がセルの前記具合状態を特性化する。
【0147】
前述したように、第一及び/または第二の推定ステップで推定されたパラメータ値と、同じパラメータの所定の基準値とから、他の差異を算出することが可能である。これらのさらなる差異も、前記具合状態を特性化する。
【0148】
入力信号が少なくとも3つの異なる区分の刺激を含む、本発明の好ましい第二の実施形態を、
図5を参照して詳述する。
【0149】
刺激区分は、前述した3つの区分と類似し、または、同一である。
【0150】
好ましい第二の実施形態によれば、第一区分の刺激は、電流刺激72である。第二区分の刺激は、前記電気化学デバイスの
動作点周囲での、正弦電流摂動
71のシーケン
スであり、各周波数は、特有の周波数組で伝播するように、
異なる周波数を有する。第三区分の刺激は、ゼロから公称値73に至る低い周波数での電流変化である。
【0151】
図6は、本発明の好ましい第二の実施形態用の、前記第一区分、第二区分、および、第三区分の刺激を含む、入力信号の一例である。
【0152】
少なくとも一つの電流ステップ72が、2つの正弦摂動71の間に配置される。従って、第一及び第二区分の刺激は、連続して適用される。
【0153】
最小時間で最大の電気刺激を含む入力信号を取得するために、第二区分の電気刺激が、少なくとも部分的に、第三区分の刺激に一時的に重畳される。
【0154】
この方法は、物理化学パラメータを推定するためのステップ(43)の前に行われる、第二の推定ステップ(42)を含む。この第二のステップ(42)は、第二区分に属する電気刺激と、対応する応答信号とから、第二のパラメータを推定することから成る。
【0155】
本実施形態によれば、続いて、前記第一のパラメータ及び前記第二のパラメータから、物理化学パラメータが推定される。
【0156】
刺激e
(1)、e
(2)、及びe
(3)に対応する応答信号s
(1)、s
(2)、及びs
(3)を抽出する、前述したものと実質的に同じステップ後、第一のパラメータを推定するための第一のステップが実施される。
【0157】
第一の推定ステップ(41)は、本発明の第一の実施形態の第一の代案において記述されたものと同一である。
【0158】
第二の推定ステップ(42)は、第一の推定ステップと同時に実施されることが好ましい。このステップは、本発明の第一の実施形態において記述されたものと同一であり、第一の推定ステップに対応する。
【0159】
続いて、第三の推定ステップ(43)が、第三区分の刺激、対応する応答信号、及び、既に推定された前記第一及び第二のパラメータから物理化学パラメータを推定するために実施される。
【0160】
続いて、物理化学パラメータの推定値と、同じパラメータの所定の基準値との間の差異が算出され(50)、該差異がセルの前記具合状態を特性化する。
【0161】
前述したように、第一及び/または第二及び/または第三の推定ステップで推定されたパラメータ値と、同じパラメータの所定の基準値とから、他の差異を算出することが可能である。これらのさらなる差異も、前記具合状態を特性化する。
【0162】
従って、物理化学パラメータは、より正確に推定される。従って、この方法は、より正確でよりロバストである。
【0163】
好ましい第一の実施形態におけるように、または、第一の実施形態の第一の代案におけるように、第一のパラメータは、セルの内部電気抵抗であることが好ましい。
【0164】
第二のパラメータは、内部電気抵抗であってもよく、活性化または拡散現象、例えば拡散抵抗に起因する電圧降下に関するパラメータの一つであっても良い。
【0165】
物理化学パラメータは、内部電気抵抗であってもよく、活性化または拡散現象、例えば拡散抵抗に起因する電圧降下に関するパラメータの一つであっても良い。
【0166】
入力信号が少なくとも三つの異なる区分の刺激を含む、本発明の好ましい第三の実施形態を、
図7を参照して記述する。
【0167】
本第三の実施形態は、前述した第二の実施形態と実質的に同一である。
【0168】
しかしながら、第二の推定ステップ(42)は第一のステップ(41)と同時には行われず、その後に行われる。さらに、第二のステップは、特に既に推定された第一のパラメータから、第二のパラメータを推定する。
【0169】
従って、第二のパラメータは、より正確に推定される。物理化学パラメータの推定は、このより一層の正確さから直接恩恵を受ける。従って、この方法は、より正確で、よりロバストである。
【0170】
前述したように、この方法は、該電気化学デバイスの
動作点周囲での、正弦電流摂動
71のシーケンスタイプの電気刺
激を含み、各摂動は、主たる周波数組に属する、種々の周波数を有する。
【0171】
動作点は、摂動のシーケンスの全適用長に亘り、一定であることが好ましい。
【0172】
各摂動は、どのような過渡状態も減衰する複数の期間、そして、インピーダンスを算出するための複数の期間を含むことが好ましい。
【0173】
各摂動は、摂動のシーケンスが主たる周波数組A={f
1, f
2, …, f
N}を走査するように、種々の周波数を有する。より正確には、摂動のシーケンスは、組Aの各周波数に対する少なくとも一つの摂動を含む。
【0174】
主たる周波数組Aの範囲は、数ミリヘルツから数十キロヘルツに至り、例えば、百ヘルツ前後で、N個の周波数を含む。
【0175】
摂動の振幅は、セルの応答が線形のままであるように、十分小さい。このために、振幅は、考慮中の動作点での電流値の実質的に10%未満であり、該%値に近いことが好ましい。
【0176】
インピーダンス解析デバイスは、主たる組Aの各周波数に対するセルの複素インピーダンスをもたらす。そして、インピーダンスの虚数部の変化を、実数部の関数として、ナイキスト平面に描画可能である。
【0177】
入力信号が、セルの端子での電圧である場合、インピーダンス解析デバイスは、セルの複素インピーダンスではなく、複素アドミタンスを推定することに留意されたい。しかしながら、インピーダンスは、アドミタンスから容易に推定可能である。
【0178】
前記主たる組Aの周波数は、複数の周波数の副次的な組A
1, …, A
nを形成するように分配される。
【0179】
周波数の副次的な組(A
i)
i=1…nは、主たる組Aから抽出された、または得られた周波数のセットを表す。
【0180】
副次的な組(A
i)
i=1…nの和集合は、周波数の主たる組Aに一致する。
【0181】
副次的な組それぞれは、他の副次的な組と共通の周波数を含まないことが好ましい。
【0182】
周波数の副次的な組(A
i)
i=1…nのそれぞれは、N
i個の周波数を有し、N
i個の周波数の和が、主たる組Aの周波数の数Nに等しいことが好ましい。
【0183】
副次的な組A
iそれぞれは、周波数の範囲を有する。副次的な組A
iの範囲G
iは、前記副次的な組の周波数の最高周波数と最低周波数との間に含まれ得ると見なされる副次的な組の周波数セットを意味する。従って、
ここで、
である。
【0184】
前記複数の副次的な組の副次的な組A
iそれぞれは、該複数の副次的な組の少なくとも一つの他の副次的な組A
iと組み合わされる。
【0185】
2つの副次的な組A
iとA
i’の組み合わせは、第二の副次的な組の連続する2つの周波数の間における、少なくとも一つの第一の副次的な組の周波数の存在を意味する。
【0186】
より正確には、以下のような、副次的な組A
iとA
i’の組み合わせがある。
and
ここで、
または
【0187】
第一の代案では、副次的な組それぞれは、前記複数の副次的な組の全ての副次的な組と組み合わされる。
【0188】
副次的な組それぞれは、摂動のシーケンスにより、同じ方向で単調に伝播され、高い周波数から低い周波数へ向かうのが好ましい。
【0189】
また、前記複数の周波数の副次的な組は、単調に伝播される。単調な順とは、複数の周波数の副次的な組が、副次的な組の指示順位に従って、副次的な組から隣り合う副次的な組へ伝播されることを意味する。前記副次的な組は、各副次的な組の最高周波数の降順に従って順位付けされることが好ましい。
【0190】
一例として、
図8Aおよび
図8Bに示すように、走査される周波数の主たる組Aは、2Hzから10kHzであり、12個の周波数を含む。従って、組Aは、A={10kHz, 5kHz, 2kHz, 1kHz, 500Hz, 200Hz, 100Hz, 50Hz, 20Hz, 10Hz, 5Hz, 2Hz}である。
【0191】
3つの副次的な組A
1、A
2、A
3が、周波数の三分の一のデシメーションにより、主たる組Aから作られる。
A
1={10kHz, 1kHz, 100Hz, 10Hz}
A
2={5kHz, 500Hz, 50Hz, 5Hz}
A
3={2kHz, 200Hz, 20Hz, 2Hz}
【0192】
本代案では、周波数の副次的な組それぞれは、他の副次的な組の2つの連続する周波数の間に含まれる、少なくとも一つの周波数を有する。従って、2つの隣り合う副次的な組の間の組み合わせだけでなく、3つの副次的な組のそれぞれの間の組み合わせがある。
【0193】
従って、前述した先行技術の従来の解決策におけるように、主たる組AのN個の周波数を連続的に走査するために摂動のシーケンスを適用することに代わり、摂動のシーケンスは、三つの周波数の副次的な組を介して順番に伝播する。
【0194】
摂動のシーケンスは、副次的な組A
1の周波数、続いて副次的な組A
2の周波数等を介して、連続的に伝播することが好ましい。
【0195】
従って、前記副次的な組を組み合わせることにより、本方法は、測定中にシステムが安定しているか否かを直ちに知ることを可能にする。
【0196】
つまり、燃料電池が不安定な場合、副次的な組A
iの適用での前記副次的な組の周波数に対するインピーダンスの実験ポイントは、先行する副次的な組A
i-1に対して計測されたインピーダンスに対応するポイントに連続して存在しない。
【0197】
例えば、
図8A及び
図8Bに示すように、副次的な組A
1を走査する摂動の適用は、検討周波数:Z(10kHz)、Z(1kHz)、Z(100Hz)…に対して、インピーダンスZ(A
1)の値を得ることを可能とする。
【0198】
副次的な組A
2の周波数に対するインピーダンスZ(A
2)の値は、セルが測定期間を通じて安定している場合、Z(A
1)の値に連続して位置するべきである。
図8A(安定したセル)に示すように、周波数の副次的な組それぞれに対するインピーダンスの値は、所与の曲線(実線)に沿って連続して位置する。
【0199】
副次的な組A
1及びA
2間でセルが不安定になる場合、2つの副次的な組の範囲の間の重複領域において、Z(A
1)とZ(A
2)の間に不連続が出現する。
図8Bは、この不連続を示している。Z(A
2)の値は、Z(A
1)の値(実線)とは異なる曲線(破線)上に位置する。不連続は、副次的な組A
2の最初に適用された周波数に対応するZ(A
2)の最初の値として出現する。
【0200】
検討中の重複領域における不連続は、容易に推定することが可能である。従って、第一の副次的な組A
1の第一の周波数f
1iは、第二の副次的な組A
2の2つの連続する周波数f
2jとf
2j+1との間に位置する。従って、第一及び第二の副次的な組A
1及びA
2は、組み合わされる。
【0201】
続いて、第二の副次的な組の2つの周波数に対応するインピーダンスZ(f
2j)及びZ(f
2j+1)から、第一の周波数に対するインピーダンスの値Z
int(f
1i)が算出される。この算出は、例えば、線形、三次(三次スプラインによる)、または多項補間により、行われる。
【0202】
続いて、第一の周波数に対するインピーダンスの推定値Z(f
1i)と、補間により得られるインピーダンスの値Z
int(f
1i)との間の差異が算出される。
【0203】
最後に、算出された差異と、所定の閾値差異とが比較される。この差異が、閾値差異を超える場合、燃料電池の不安定性がそれらから推定される。
【0204】
従って、摂動のシーケンスは、測定期間を通じてシステムが安定しているか否かを直ちに知ることを可能とする。
【0205】
また、ここでは各副次的な組の開始時での、新たな高い周波数の要請は、測定中に予期される急速な物理現象を識別可能とする。
【0206】
当然ではあるが、この例は、実例として提供されているに過ぎない。副次的な組の数を増やしたり減らしたりすることが可能であり、従って、各副次的な組において、周波数の数をそれぞれ減らしたり増やしたりすることができる。
【0207】
例えば、400個の周波数を含む主たる組Aに対して、摂動のシーケンスは、それぞれ略20個の周波数を含む、略20個の周波数の副次的な組を通じて伝播してもよい。
【0208】
第二の代案によれば、周波数の副次的な組A
iそれぞれは、隣り合う副次的な組A
i-1及びA
i+1とのみ組み合わされる。この相違を除いて、第二の実施形態は、第一の実施形態と同様である。
【0209】
一例として、主たる組A={10kHz, 5kHz, 2kHz, 1kHz, 500Hz, 200Hz, 100Hz, 50Hz, 20Hz, 10Hz, 5Hz, 2Hz}に対して、副次的な組は、
A
1={10kHz, 2kHz}
A
2={5kHz, 500Hz}
A
3={1kHz, 100Hz}
A
4={200Hz, 20Hz}
A
5={50Hz, 5Hz}
A
6={10Hz, 2Hz}
である。
【0210】
摂動のシーケンスは、副次的な組を、最高周波数の降順に従い、順番に走査する。
【0211】
従って、摂動のシーケンスは、高い周波数から低い周波数へ向かって次第に変化しつつ、往復運動の連続を表す動きを示す。
【0212】
前述したように、セルが不安定の場合は、隣り合う副次的な組の間の重複領域で、インピーダンスの値において不連続が現れる。
【0213】
この不連続は、例えば燃料電池のドレナージまたは充満等の、現れ始めた問題を自己診断し、燃料電池の制御コマンドにフィードバックすることに活かすことが可能である。
【0214】
前述した複数の代案に対して、各副次的な組A
iの周波数は、単調ではなく、前記摂動のシーケンスにより、ランダムに走査されてもよい。
【0215】
同様に、前記複数の周波数の副次的な組A
1, …, A
nは、前記摂動のシーケンスにより、ランダムに伝播してもよい。
【0216】
組み合わせ分光法は、前述した代案にかかわらず、セルが安定である場合、従来の分光法の結果と同じ結果となることに留意されたい。
【0217】
以下、ゼロから公称値に至る電流変化タイプの電気刺激からパラメータを推定するステップの代案を説明する。
【0218】
好ましい第一の実施形態で説明したように、測定された実験データは、電圧が電流の関数として表される、静的な燃料電池モードと比較される。モデルのパラメータは、従来の最適化法、例えば最小二乗法を用いて推定される。
【0219】
結果の信頼性を向上するために、実験曲線U
exp=f(I
exp)を静的モデル曲線U
th=F(I
th)と比較するだけでなく、同じ実験曲線及びその連続的な導関数∂
IU
exp、∂
IIU
exp…を、モデル曲線とその連続的な導関数∂
IU
th、∂
IIU
th…とそれぞれ比較してもよい。
【0220】
従って、最適化手続きは、実験データから得られる連立方程式と、静的モデルから得られる連立方程式との間の差異を最小にする。
【0221】
方程式の数が増える一方で未知数が同じであれば、一貫しない結果を得る可能性は大きく低減され、これは実質的に、方法の信頼性を向上する。
【0222】
前述した本発明の実施形態は、燃料電池に適用される入力信号が、燃料電池の端子での電圧である場合においても同様であることに留意されたい。
【0223】
最後に、本発明は、以下を含む電気化学デバイスの制御方法にも関する。
−前述した特性のいずれか一つに従う具合状態の測定、そして、
−
少なくとも1つの前記物理化学パラメータの既推定値と所定の基準値との間の差異が所定の閾値差異を超えた場合の、前記電気化学デバイスへのコマンドの適用。
【0224】
従って、測定された具合状態がセルの膜のドレナージを示す場合、セルへのコマンドの適用は、ドレナージの継続の防止及び膜の劣化の防止を特に可能とする。