(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の圧力印加機構によりMEMS圧力センサ部及び皮膚を介して血管に対して応力を印加して、上記MEMS圧力センサ部からの出力電圧の信号を血管脈波信号として測定する測定手段を備える血管脈波測定システムのための脈波及び圧力検出印加装置であって、
上記脈波及び圧力検出印加装置は、
血管上の皮膚を介して設けられ当該血管に流れる脈波の圧力変化を抵抗値変化として検出するMEMS圧力センサ部と、
上記圧力印加機構とを備え、
上記圧力印加機構は、両端の一軸関節が固定された5個の第1〜第5の一軸関節と、上記5個の一軸関節のうちの互いに隣接する一対の一軸関節を連結する4本の第1〜第4のリンクとを備えた5関節リンク機構であり、
上記5関節リンク機構は、位置が固定された第1の一軸関節が第1のリンクを介して第2の一軸関節に連結され、第2の一軸関節が第2のリンクを介して第3の一軸関節に連結され、第3の一軸関節が第3のリンクを介して第4の一軸関節に連結され、第4の一軸関節が第4のリンクを介して位置が固定された第5の一軸関節に連結されており、
上記MEMS圧力センサ部は上記第3の一軸関節に設けられ、
使用者により上記第2及び第4の一軸関節もしくは上記第1及び第4のリンクを押し下げ又は押し上げて上記第3の一軸関節の位置を移動させることにより、上記5関節リンク機構は上記第3の一軸関節から上記MEMS圧力センサ部及び皮膚を介して血管に対して所定の圧力を印加することを特徴とする脈波及び圧力検出印加装置。
上記第2及び第4の一軸関節もしくは上記第1及び第4のリンクと一体的に形成され、使用者が押し上げ又は押し下げるための応力被印加部材をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載の脈波及び圧力検出印加装置。
上記第2及び第4の一軸関節に連結され、上記第1及び第4のリンクが平衡状態で上記第2及び第4の一軸関節が実質的に同一の高さで移動させるコイルバネをさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の脈波及び圧力検出印加装置。
上記第1の空間及び上記第2の空間はそれぞれ、上記ダイアフラムの圧力検出面に実質的に平行な底面を有し、かつ互いに同軸である実質的に円筒形状又は楕円筒形状を有することを特徴とする請求項6記載の脈波及び圧力検出印加装置。
上記測定手段は、上記測定された所定周期分の血管脈波信号に基づいて、最大血圧値の時間に対する傾きと、最大血圧値の平均値と、最大血圧値と最小血圧値との差である脈圧とを含む複数の判断パラメータを演算し、当該複数の判断パラメータに基づいて、被測定者が覚醒状態であるか、もしくは無呼吸状態であるかを判断することを特徴とする請求項10記載の血管脈波測定システム。
上記測定手段は、所定時刻の最大血圧値が上記最大血圧値の平均値に対して所定の第1のしきい値割合以上減少し、かつ上記脈圧が上記最大血圧値の平均値に対して所定の第2のしきい値割合以上減少していることが所定周期分連続して発生したときに、上記最大血圧値の時間に対する傾きが所定のしきい値を超えたときに、被測定者が覚醒状態であると判断する一方、上記しきい値以下のときに無呼吸状態であると判断することを特徴とする請求項11記載の血管脈波測定システム。
【背景技術】
【0002】
物質の特性を評価する技術として振動を用いる方法が知られている。特許文献1には、物質特性の相違は振動の周波数の変化よりも位相の変化が大きいが、位相測定技術の精度が必ずしも高くないことを考慮し位相変化を周波数変化に変換する方法が開示されている。この方法を用いた装置は、物質に振動として超音波を入射する振動子と物質からの反射波を検出する振動検出センサと、振動検出センサの信号出力端に入力端が接続された増幅器と、増幅器の出力端と振動子の入力端との間に設けられ、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形との間に位相差が生じるときは、周波数を変化させて前記位相差をゼロにシフトする位相シフト回路と、位相差をゼロにシフトさせるための周波数変化量を検出する周波数変化量検出手段とを含むことを特徴とする。
【0003】
特許文献1の装置においては、具体的には、周波数偏差検出回路を利用した硬さ測定器において、軟質の被測定物から硬質の被測定物までの広い範囲において硬さ情報を正確に測定するために、接触要素、振動子、自励発振回路及びゲイン変化補正回路を備え、自励発振回路は振動子の振動情報を帰還し共振状態にし、ゲイン変化補正回路は自励発振回路に設け、ゲイン変化補正回路は、自励発振回路の中心周波数と異なる中心周波数を有し、周波数の変化に対してゲインを上昇させる。
【0004】
上記装置では、周波数変化量検出手段において、硬さの相違による位相差をゼロにシフトさせてこれを周波数変化量に変換している。この変換は、周波数に対する反射彼の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めておいてこれを用いている。また、振動として超音波振動を用いているが、これを電気回路における電気信号の振動とすることができる。例えば、発光素子を駆動信号で駆動して光を放射し、その光を受光素子で検出し検出信号を発光素子の駆動信号として帰還することで帰還ループを形成するが、この帰還ループを流れる電気信号の振動を用いることができる。
【0005】
すなわち、発光素子の駆動信号と放射される光信号との間には、発光素子の構造に起因する信号の遅れがあり、同様に受光素子に入射する光信号と受光素子が出力する検出信号との間にも受光素子の構造に起因する信号の遅れがある。従って、発光素子と受光素子とを組み合わせて帰還ループを形成すると、これらの遅れである位相差をゼロにするようにして自励発振が生じる。この帰還ループに特許文献1で開示されている位相シフト回路を設けることで、位相差を周波数差に変換することができる。
【0006】
そして、発光素子から放射した光を評価対象の物質に当て、その物質から反射した光を受光素子で受けて、上記の帰還ループを形成すると、自励発振回路の周波数は、受光素子と発光素子の構造に起因する遅れと、評価対象の物質の特性に起因する遅れに依存することになる。従って、この帰還ループに位相シフト回路を設け、位相差を周波数毎に変換して周波数差を観察することで、非接触的に、あるいは非侵襲的に、物質特性を測定することができる。
【0007】
例えば特許文献2には、血圧測定装置として、赤外光を体内に送波し体内における反射波を受波するセンサユニットと、受波した反射波に基づく電気信号を送波部に帰還して自励発振する自励発振回路とを備え、自励発振回路には周波数の変化に対しゲインを変化させ、入力位相と出方位相との間の位相差をゼロに調整して帰還発振を促進するゲイン変化補正回路を含み、このようにして得られる自励発振回路の発振周波数に基づいて血圧を算出することが述べられている。
【0008】
特許文献2の装置では、血圧の測定を精度良く行いかつ被測定者の負担を軽減するために、送波部は、電気信号を変換して電磁波または超音波例えば赤外光の体内へ送波し、受波部は、体内における反射波を受波して電気信号に変換し、周波数測定部により測定された自励発振回路の周波数は、血圧計算部において呼び出された相関パラメータに基づいて血圧値に変換され、表示部においてこの血圧値あるいは血圧波形の表示が逐次実施される。
【0009】
このように、位相シフト法の技術によれば、発光素子と受光素子とを用いて血管の脈動波形を精度よく求めることができる。ところが、血管の脈動を測定する対象の生体、例えば被測定者は必ずしも測定中に安定した状態を維持していない。発光素子と受光素子とが取り付けられた腕を動かす等のように姿勢を変化させることがあり、また、発光素子と受光素子の取り付け状態が不完全であると、測定中に取り付け状態が変化することがある。
【0010】
従って、測定中に脈動波形が次第に変化し例えば測定範囲、演算範囲を外れてしまうことが生じ得る。このように脈動波形が測定範囲に対しずれてゆくと正確な血管脈波測定を行うことができない。当該問題点を解決するために、より正確な測定を可能とする血管脈波測定システムを提供するために、本願出願人らは、特許文献3において、以下の血管脈波測定システムを提案した。
【0011】
特許文献3の血管脈波測定システムは、被測定者の血管の脈動取得に適した部位に取り付けられる光探触子と、光探触子回路を介して光探触子に接続され位相シフト法を用いることで周波数の時間変化として脈動波形を出力する脈動波形出力部と、演算処理部とを備え、演算処理部の浮動中央値設定処理モジュールは周期的な周波数データの最大振幅値が演算範囲に対して予め定めた比率となるように最大振幅値を増幅し、その中央値をその絶対値に関わらず浮動的に演算範囲の中央値に設定する機能を有することを特徴としている。
【0012】
さらに、特許文献4では、脈波の状態を示す脈波信号に基づいて、脈拍数及び脈拍振幅を求め、これらに基づいて呼吸異常の判定を行う呼吸異常判定手段を備えた呼吸異常検出装置が提案されている。当該装置では、例えば、脈波振幅と単位時間当たりの脈拍数との比に基づいて呼吸異常を検出し、もしくは、呼吸数の変化、脈拍数の変化、血液中の酸素飽和濃度の変化に基づいて呼吸異常を検出することを特徴としている。
【0013】
しかしながら、上記特許文献1〜3で開示された従来技術に係る各装置では、
(a)発光素子と受光素子の取り付け状態の変化に加えて、
(b)例えば手首の橈骨動脈部に取り付けるか、もしくは、指先に取り付けるかの取り付け部位に応じて、
(c)また、例えば同一の橈骨動脈部の部位に取り付けるにしても、痩せた被測定者と、太った被測定者とでその者の皮膚の厚さに応じて、
(d)さらに、例えば血管からの反射光を用いる反射型光探触子を用いるか、もしくは、血管を通過した通過光を用いる通過型光探触子を用いるかの光探触子の種類に応じて、
血管の脈動取得動作がしばしば不安定な状態になり、脈動波形データを取得できない場合が多発して、測定現場ではほとんど全く使いものにならないという問題点があった。
【0014】
また、上記特許文献4で開示された従来技術に係る呼吸異常検出装置では、上記の問題点に加えて、呼吸異常の検出精度がいまだ低いという問題点があった。
【0015】
これに対して、発光素子から受光素子までの光の伝搬距離が異なる場合であっても、従来技術に比較して簡単な構成で脈動波形データを取得でき、血管脈波測定を行うことができる血管脈波測定システムが特許文献7において開示されている。ここで、特許文献7において開示された血管脈波測定システムは、
皮膚を介して血管に光を放射する発光素子と、上記血管からの反射光又は上記血管を介した透過光を皮膚を介して受光する受光素子とを含む光探触子と、
入力される駆動信号に基づいて上記発光素子を駆動する駆動回路と、
上記受光素子により受光された光を電気信号に変換して出力する検出回路とを備えた光探触子回路を用いて血管脈波測定を行う血管脈波測定システムにおいて、
上記電気信号を上記駆動信号として上記駆動回路に直接に同期帰還することで、上記検出回路から自励発振信号を発生して、当該自励発振信号を血管脈波信号として測定する測定手段と、
上記自励発振信号のレベルが実質的に最大となるように、上記検出回路及び上記駆動回路の少なくとも一方の動作点を制御する制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献7において開示された血管脈波測定システムでは、光探触子、駆動回路及び検出回路を含む光探触子回路が比較的大きいという問題点があった。また、当該光探触子回路を用いて血圧測定装置を構成する場合、脈波及び圧力検出印加装置をさらに備える必要があるため、装置構成が複雑になるとともにその装置サイズも大きくなるという問題点があった。
【0019】
本発明の第1の目的は以上の問題点を解決し、従来技術に比較して装置構成が簡単であって装置サイズも大幅に小さくすることができ、測定を手動で行う血管脈波測定システムのための脈波及び圧力検出印加装置及びそれを用いた血管脈波測定システムを提供することにある。
【0020】
また、本発明の第2の目的は以上の問題点を解決し、上記血管脈波測定システムを用いて、従来技術に比較して簡単な構成でかつ高精度で、呼吸異常を検出することができる血管脈波測定システムを提供することにある。
【0021】
さらに、本発明の第3の目的は、上記血管脈波測定システムを用いて、従来技術に比較して簡単な構成でかつ高精度で、血管脈波信号の血圧値電圧を血圧値に変換するように校正することができる血管脈波測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
第1の発明に係る脈波及び圧力検出印加装置は、所定の圧力印加機構によりMEMS圧力センサ部及び皮膚を介して血管に対して応力を印加して、上記MEMS圧力センサ部からの出力電圧の信号を血管脈波信号として測定する測定手段を備える血管脈波測定システムのための脈波及び圧力検出印加装置であって、
上記脈波及び圧力検出印加装置は、
血管上の皮膚を介して設けられ当該血管に流れる脈波の圧力変化を抵抗値変化として検出するMEMS圧力センサ部と、
上記圧力印加機構とを備え、
上記圧力印加機構は、両端の一軸関節が固定された5個の第1〜第5の一軸関節と、上記5個の一軸関節のうちの互いに隣接する一対の一軸関節を連結する4本の第1〜第4のリンクとを備えた5関節リンク機構であり、
上記5関節リンク機構は、位置が固定された第1の一軸関節が第1のリンクを介して第2の一軸関節に連結され、第2の一軸関節が第2のリンクを介して第3の一軸関節に連結され、第3の一軸関節が第3のリンクを介して第4の一軸関節に連結され、第4の一軸関節が第4のリンクを介して位置が固定された第5の一軸関節に連結されており、
上記MEMS圧力センサ部は上記第3の一軸関節に設けられ、
使用者により上記第2及び第4の一軸関節もしくは上記第1及び第4のリンクを押し下げ又は押し上げて上記第3の一軸関節の位置を移動させることにより、上記5関節リンク機構は上記第3の一軸関節から上記MEMS圧力センサ部及び皮膚を介して血管に対して所定の圧力を印加することを特徴とする。
【0023】
上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記第1及び第5の一軸関節にそれぞれ連結された回転ダンパーをさらに備えることを特徴とする。
【0024】
また、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記第2及び第4の一軸関節もしくは上記第1及び第4のリンクと一体的に形成され、使用者が押し上げ又は押し下げるための応力被印加部材をさらに備えることを特徴とする。
【0025】
さらに、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記第2及び第4の一軸関節に連結され、上記第1及び第4のリンクが平衡状態で上記第2及び第4の一軸関節が実質的に同一の高さで移動させるコイルバネをさらに備えることを特徴とする。
【0026】
またさらに、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記MEMS圧力センサ部と上記測定手段との間に挿入されるホイー
トストンブリッジ回路であって、上記MEMS圧力センサ部と3個の抵抗とを、4個の接続点を有するブリッジ形状で接続して構成され、上記4個の接続点のうちの互いに対向する2つの接続点に直流電圧を印加し、他の2つの接続点から出力電圧を出力するホイー
トストンブリッジ回路をさらに備えることを特徴とする。
【0027】
また、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記圧力センサ部は、
ダイアフラムの圧力検出面側に第1の空間を有し、上記第1の空間に対面する圧力検出面を用いて圧力の検出を行うダイアフラムを有し、検出した圧力に対応する電気信号を出力するMEMS圧力センサと、
上記MEMS圧力センサを支持して被測定部に接触して載置されるパッドであって、上記第1の空間に連通しかつ上記第1の空間よりも大きな、上記圧力検出面に平行な方向のサイズを有する第2の空間を有するパッドとを備え、
上記MEMS圧力センサ部を上記被測定部に載置したときに、上記第1の空間及び上記第2の空間が密閉されて密閉空間となり、上記被測定部の圧力が上記第1の空間及び上記第2の空間を介して上記MEMS圧力センサのダイアフラムに伝達されて上記MEMS圧力センサが圧力の検出を行うことを特徴とする。
【0028】
さらに、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記第1の空間及び上記第2の空間はそれぞれ、上記ダイアフラムの圧力検出面に実質的に平行な底面を有し、かつ互いに同軸である実質的に円筒形状又は楕円筒形状を有することを特徴とする。
【0029】
またさらに、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記第2の空間の底面の直径は上記第1の空間の底面の直径よりも大きいことを特徴とする。
【0030】
またさらに、上記脈波及び圧力検出印加装置において、上記パッドは粘着性シートであることを特徴とする。
【0031】
第2の発明に係る血管脈波測定システムは、上記脈波及び圧力検出印加装置を備える血管脈波測定システムであって、
上記測定手段は、上記血管脈波信号を測定したときに、上記圧力印加機構を用いて使用者が上記MEMS圧力センサ部及び皮膚を介して血管に対して応力を印加して押圧した後、上記血管脈波信号を測定しなくなったとき、その直前の血管脈波信号よりも前の血管脈波信号の一周期期間内の最大電圧値を最大血圧値電圧として記憶し、上記MEMS圧力センサ部の検出圧力値を最大血圧値として記憶し、次いで、上記押圧を低下させて上記血管脈波信号を測定したとき、その直後の血管脈波信号の一周期期間内の最小電圧値を最小血圧値電圧として記憶し、上記MEMS圧力センサ部の検出圧力値を最小血圧値として記憶し、上記記憶された最大血圧値電圧とそれに対応する最大血圧値、及び上記記憶された最小血圧値電圧とそれに対応する最小血圧値に基づいて、血圧値電圧から血圧値への変換を示す変換式を生成することにより、当該変換式を用いて上記血管脈波信号の血圧値電圧を血圧値に変換するように校正する校正手段をさらに備えることを特徴とする。
【0032】
上記血管脈波測定システムにおいて、上記測定手段は、上記測定された所定周期分の血管脈波信号に基づいて、最大血圧値の時間に対する傾きと、最大血圧値の平均値と、最大血圧値と最小血圧値との差である脈圧とを含む複数の判断パラメータを演算し、当該複数の判断パラメータに基づいて、被測定者が覚醒状態であるか、もしくは無呼吸状態であるかを判断することを特徴とする。
【0033】
また、上記血管脈波測定システムにおいて、上記測定手段は、所定時刻の最大血圧値が上記最大血圧値の平均値に対して所定の第1のしきい値割合以上減少し、かつ上記脈圧が上記最大血圧値の平均値に対して所定の第2のしきい値割合以上減少していることが所定周期分連続して発生したときに、上記最大血圧値の時間に対する傾きが所定のしきい値を超えたときに、被測定者が覚醒状態であると判断する一方、上記しきい値以下のときに無呼吸状態であると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る血管脈波測定システムのための脈波及び圧力検出印加装置、並びにそれを用いた血管脈波測定システムによれば、以下の特有の作用効果を有する。
(1)本発明は、血管脈波の振動のみならず、従来技術に係る非侵襲的測定方法では取得しえなかった、覚醒反応による交感神経活動上昇と抹消の血管抵抗の一時的上昇、その後反射的な血管拡張による脈圧低下、並びに、無呼吸による交感神経活動の過剰上昇などの血圧値のベースライン(電圧信号DCレベル)の変化(脈動波形信号のデータ)をも測定でき、しかも装置構成が簡単でしかもサイズが極めて小さい、MEMS圧力センサを含む脈波及び圧力検出印加装置を用いて、手動測定できる血管脈波測定システムを実現できるという特有の作用効果を有している。
(2)また、上記脈波波形信号のデータを用いて、従来技術に比較して簡単な構成でかつ高精度で、無呼吸状態などの呼吸異常を検出することができる。
(3)さらに、上記脈波波形信号のデータを用いて、従来技術に比較して極めて簡単な校正でかつ高精度で、血管脈波信号の血圧値電圧を血圧値に変換するように校正することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。以下では、測定対象として人間の血管の脈波について説明するが、生体の血管の脈波であればよく、人間以外の動物等を対象とすることができる。また、以下では、血管脈波測定として、脈拍、最大血圧、最小血圧の測定について説明するが、これ以外に、血管の脈動波形を用いて測定するものであればよい。例えば、脈拍波形の積分値から血流量に対応する量の測定を行い、脈動波形の微分値から血管の柔軟性を評価する測定を行うものであってもよい。以下で説明する材料、形状等は例示であって、使用目的に応じこれらの内容を適宜変更してもよい、
【0037】
図1は本発明の一実施形態に係る血管脈波測定システムの構成を示すブロック図である。また、
図2は
図1の脈波及び圧力検出印加装置20の詳細構成を示す側面図である。
【0038】
図1において、血管脈波測定システム10の構成要素ではないが、血圧等を測定する対象の被測定者6が示されている。なお、以下の図において、被測定者6の皮膚については図示を省略する。本実施形態に係る血管脈波測定システム10は、従来用いられているコロトコフ音を測定する圧迫カフ法、あるいは、動脈内に、圧力センサが連結されたカテーテルを挿入侵襲させて血管内の圧力を直接測定する観血法に代えて、
図1及び
図2に示すように、脈波及び圧力検出印加装置20内のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)圧力センサ101を用いた圧力センサ部30A(
図4、
図14A、
図14B)及びホイー
トストンブリッジ回路15(
図4)を用いて血管の脈動波形を収得して脈波測定を行うシステムであり、特に、圧力測定を行う圧力センサ部30A、ホイー
トストンブリッジ回路15(
図4)及び手動の圧力印加機構である5関節リンク機構21を備えた脈波及び圧力検出印加装置20を用いた血圧測定を行うことを特徴としている。
【0039】
血管脈波測定システム10は、
図1及び
図2に示すように、
(a)被測定者6の血管の脈動取得に適した部位に取り付けられる圧力センサ部30A及び手動の圧力印加機構である5関節リンク機構21を備えた脈波及び圧力検出印加装置20と、
(b)脈波及び圧力検出印加装置20の圧力センサ部30Aからの出力電圧Voutを電圧増幅する電圧増幅器32と、
(c)電圧増幅器32からの出力電圧をディジタルデータにA/D変換して装置コントローラ50に出力するA/D変換器33と、
(d)内部メモリ50mを含む例えばディジタル計算機などの制御装置であって、血管脈波測定処理モジュール51と、血圧値校正処理モジュール52と、睡眠状態判別処理モジュール53とを備え、A/D変換器33からのディジタルデータを処理して血管脈波データを発生し、血管脈波データに対して血圧値校正処理(
図11)、血管脈波測定処理(
図12)及び睡眠状態判別処理(
図13)を実行する装置コントローラ50と、
(e)例えばディスプレイ又はプリンタであって、装置コントローラ50からの出力データに基づいて、脈動波形表示(移動平均処理後の脈動波形表示61及びローパスフィルタ処理後の脈動波形表示62)及び各血管脈波測定値表示63(脈拍、最大血圧値Pmax及び最小血圧値Pmin)、並びに、ユーザに対して指当部24a,24bを用いた圧力センサ部30Aの押し下げを指示する押下ランプ64、ユーザに対して指当部24a,24bを用いた圧力センサ部30Aの押し上げを指示する押上ランプ65、ユーザに対して脈波検出を示す脈波検出ランプ66を表示する表示部60と、
を備えて構成される。
【0040】
図1に示すように、脈波及び圧力検出印加装置20の圧力センサ部30Aからの出力電圧信号(交流)は増幅器32及びA/D変換器33を介して装置コントローラ50に出力される。ここで、血管が脈動により変化すると、圧力センサ部30Aからの交流の出力電圧Voutが変化し、すなわち、出力電圧Voutは脈動の変化に対応して変化する。なお、
図11の血圧値校正処理における血管への圧力測定については、圧力センサ部30Aからの出力電圧Voutの時間平均値(時間積分値)を測定することで、血管への印加圧力を測定する。
【0041】
特許文献1〜3などの従来技術では、大きな出力電圧の変化を得ることができなかったために、その周波数変化を電圧変化に変換して、脈動の変化を検出していたが、本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、圧力センサ部30Aからの出力電圧Voutを測定することで、脈動波形をきわめて簡単に得ることができる。また、同じ圧力センサ部30Aを用いて、上述のように、血管への印加圧力を測定できる。従って、脈波及び圧力検出印加装置20は、
図2に示すように、例えば集積化された圧力センサ部30Aと、5関節リンク機構21とを従来技術に比較して簡単な構成でしかも小型化して構成できる。なお、脈波測定のみで血圧測定をしないときは、5関節リンク機構21が不要であって、さらに極めて小さくなる。
【0042】
次いで、
図2を参照して、脈波及び圧力検出印加装置20の5関節リンク機構21の構成及び動作について以下に説明する。
図2は
図1の脈波及び圧力検出印加装置20の詳細構成を示す側面図である。
【0043】
図2において、脈波及び圧力検出印加装置20は、5関節リンク機構21と、その関節J3の先端に取り付けられた圧力センサ部30Aと、脈波及び圧力検出印加装置20を被測定者の手首の橈骨動脈部7に巻回して支持するためのカフ布27とを備えて構成される。5関節リンク機構21は、5個の一軸関節J1〜J5と、当該関節J1〜J5の互いに隣接する各一対の関節を連結する直線バー形状のリンクL1〜L4とを備えて構成される。ここで、位置が固定された関節J1はリンクL1を介して関節J2に連結され、関節J2はリンクL2を介して関節J3に連結される。関節J3はリンクL3を介して関節J4に連結され、関節J4はリンクL4を介して位置が固定された関節J5に連結される。リンクL1〜L4はより好ましくは互いに同一の長さを有し、もしくは、好ましくはリンクL1とL4とが互いに同一の長さを有しかつリンクL2とL3とが互いに同一の長さを有する。
【0044】
また、リンクL1と一体的に、使用者がリンクL1を手動で押し下げ又は押し上げるための指当部24aを備える応力被印加部材(使用者により応力を印加されて連結されたリンクに応力を伝達する部材をいう。)26aが形成され、リンクL4と一体的に、使用者が手動でリンクL4を押し下げ又は押し上げるための指当部24bを備える応力被印加部材26bが形成される。応力被印加部材26a,26bを設けることで、使用者が容易に押し下げ又は押し上げすることができる。なお、ここで応力被印加部材26a,26bを設けず、使用者がリンクL1,L4又は関節J2,J4を直接に手動で押し下げ又は押し上げてもよい。また、応力被印加部材26a,26bはそれぞれリンクL1,L4に一体的に形成することに代えて、少なくとも関節J2,J4に一体的に形成してもよい。
【0045】
筐体22は所定の間隔だけ離隔されて互いに平行な軸受け孔22a,22bを有し、軸受け孔22aには関節J1の軸がXY平面と垂直なZに平行な軸の周りで回転可能に挿入され、軸受け孔22bには関節J5の軸がXY平面と垂直なZに平行な軸の周りで回転可能に挿入される。また、関節J1の軸は回転ダンパー23aの回転軸と連結され、関節J5の軸は回転ダンパー23bの回転軸と連結される。回転ダンパー23a,23bは手動での押し下げ又は押し上げのときに緩やかに回転させるために設けられる。回転ダンパー23a,23bを設けることにより、使用者が急激に押し下げ又は押し上げても、緩やかに圧力センサ部30Aが移動し、被測定部への応力印加を緩和できる。さらに、リンクL1,L4が平衡状態でバランスよく関節J2,J4が実質的にほぼ同一の高さで移動させるために、関節J2,J4の間であって、リンクL2,L3に対して対向するように、コイルバネ25が連結されている。なお、5関節リンク機構21、筐体22及び圧力センサ部30Aを例えば柔軟性のある樹脂などの装置カバーケース(図示せず)で被覆される。
【0046】
使用者による指当部24a,24bを用いて手動の押し下げ(矢印201,202の方向)又は押し上げ(矢印201,202とは逆方向)により、位置が固定された関節J1,J5の各軸をそれぞれ正転(
図2の時計周り方向の回転)又は逆転(
図2の反時計回り方向の回転)で回転させるとき、関節J1〜J5の各軸とは互いに平行となり、各リンクL1〜L4は実質的に1つの平面上で移動し、関節J2〜J4は当該平面上で移動するが、関節J3はX方向又は−X方向、Y方向又は−Y方向、もしくはそれらの組合せ方向で移動させることができる。本実施形態では、
図2に示すように、関節J3を圧力センサ部30Aを介して被測定者の手首の橈骨動脈部7の血管8の直上に移動させかつ応力21fを印加するために、使用者による上述の押し下げ又は押し上げの手動により5関節リンク機構21を制御する。
【0047】
なお、圧力センサ部30Aを被測定者の手首の橈骨動脈部7に固定する方法としては、カフを用いて固定してもよいし、粘着シートを介して、もしくは粘着テープを用いて固定してもよい。
【0048】
次いで、
図3及び
図4を参照して、脈波及び圧力検出印加装置20の圧力センサ部30Aの構成及び動作について以下に説明する。
図3は
図2の圧力センサ部30Aを構成する複数N個の単位センサ31−1〜31−Nの配置構成を示す平面図であり、
図4は
図3の圧力センサ部30Aの回路構成を示す回路図である。
【0049】
図3において、圧力センサ部30Aは、以下に示すように、機械要素部品、圧力センサ、アクチュエータ、電子回路を、例えばシリコン基板、ガラス基板、有機材料基板などの基板上に集積化したデバイスであって、
図3に示すように、複数N個の単位センサ回路31−1〜31−Nを例えば8×8など複数×複数の2次元配置形状で配置されて、より好ましくは集積化されて構成される。
図4において、単位センサ回路31−1は、直流電圧Vinを有する直流電圧源11と、抵抗R1〜R3及び抵抗値RxのMEMS圧力センサ抵抗12からなるホイー
トストンブリッジ回路15とを備えて構成される。ここで、直流電圧源11からの直流電圧Vinはホイー
トストンブリッジ回路15の互いに対向する所定の2つの接続端子に印加される一方、他の2つの接続端子から出力電圧Voを得る。ここで、ホイー
トストンブリッジ回路15の抵抗R1,R2,R3,Rxにおいて、好ましくは、次式のときに平衡状態となるように各抵抗値が設定される。
【0051】
また、他の単位センサ回路31−2〜31−Nは、単位センサ回路31−1と同様に構成される。ここで、各単位センサ回路31−1〜31−Nからの出力電圧をそれぞれVo1〜VoNとし、各単位センサ回路31−1〜31−Nからの出力電圧Vo1〜VoNを直列接続して出力電圧Voutを得る。本実施形態では、圧力センサ部30AのMEMS圧力センサ抵抗12の抵抗値Rxは印加圧力により変化し、その変化量(抵抗値変化)をホイー
トストンブリッジ回路15により検出して、圧力変化量に対応して変化する出力電圧Voutを得る。
【0052】
なお、
図4の実施形態では、各単位センサ回路31−1〜31−Nからの出力電圧Vo1〜VoNを直列接続して出力電圧Voutを得ているが、本発明はこれに限らず、並列接続して出力電圧Voutを得てもよいし、各出力電圧Vo1〜VoNの平均値などの所定の計算値を計算して出力電圧Voutを得てもよい。また、本実施形態では、複数N個の単位センサ回路31−1〜31−Nを用いているが、本発明はこれに限らず、1つの単位センサ回路を用いて構成してもよい。さらに、ホイー
トストンブリッジ回路15を用いず、センサ出力電圧をそのまま出力してもよい。
【0053】
図5は
図2の脈波及び圧力検出印加装置20を被測定者の手首の橈骨動脈部7に取り付けた場合の一例を示す正面図である。
図5に示すように、
図2の脈波及び圧力検出印加装置20を被測定者の手首の橈骨動脈部7に取り付けて脈波測定及び血圧測定等を行うことができる。
【0054】
図6Aは
図1の血管脈波測定システムにより測定された脈波電圧値(例えば、電圧増幅器32の出力電圧値)の最大電圧値Vmax及び最小電圧値Vminを示すグラフである。
図6Aから明らかなように、脈波電圧値は、脈動の変化に応じて周期的に変化し、最大電圧値Vmaxと最小電圧値Vminをとり、互いに隣接する2つの最小電圧値Vmin間の時間期間を時間期間Tintと定義する。
【0055】
図6Bは
図1の血管脈波測定システムにより測定された脈波電圧値に対応する血圧値の最大血圧値Pmax及び最小血圧値Pminを示すグラフである。
図6Bから明らかなように、血圧値は、脈動の変化に応じて
図6Aの脈波電圧値と同様に周期的に変化し、最大血圧値Pmaxと最小血圧値Pminをとる。
【0056】
図6Cは
図1の血管脈波測定システムにより測定された脈波電圧値から血圧値への変換を示すグラフである。公知の通り、被測定者が異なれば、脈波電圧値と血圧値との間の相関関係が異なるので、予め被測定者ごとに相関関係を求めておく必要がある。また、同じ被測定者であっても、安静状態と運動状態等で、脈波電圧値と血圧値との間の相関関係が異なることがあるので、予め測定状態を設定してそれぞれ相関関係を求めておく必要がある。
図1の血管脈波測定システムで得られる脈波電圧値と血圧値との間の相関関係は、被測定者ごとに、測定条件ごとに関連付けられて変換式(又は変換テーブル)の形式で装置コントローラ50の内部メモリ50mに格納される。
図6Cは、被測定者より変換式Q1,Q2で異なることを示すものである。このようにして、脈波電圧値から血圧値への変換を行うと、これに基づいて、脈拍数、最大血圧Pmax、最小血圧Pmin等の血管脈波測定を行うことができる。
【0057】
図7は、
図1の血管脈波測定システムにより測定された脈動波形を血圧波形に変換して示すグラフである。
図7から明らかなように、出力電圧波形を血圧波形に変換することで
図9の脈波波形の表示を得ることができる。
【0058】
図8は
図1の血管脈波測定システムにおいて、移動平均法を用いて脈動波形を処理する動作を示すグラフである。
図8において、血管脈波測定システムにより得られた脈波電圧の生データから移動平均法を用いて滑らかな脈動波形を生成する様子を示す図である。
図8(a)は、横軸が時間で、縦軸は脈波電圧であり、各サンプリングタイムにおける脈波電圧の変化の様子が示されている。
図8(b)は、横軸が時間で、その原点位置等は
図8(a)と揃えてある。縦軸は、
図8(a)の各サンプリングタイムにおけるデータの移動平均値bである。移動平均値は、例えば5つのデータについて行うものとした。この場合、サンプリングタイムiのとぎの脈波電圧の生データをaiとすると、サンプリングタイムiのときの移動平均値biは次式(2)を用いて計算できる。
【0059】
b=(ai−4+ai−3+ai−2+ai−1+ai)/5 (2)
【0060】
すなわち、サンブリングデータaiが取得されると直ちに移動平均値biが算出できるのでリアルタイム処理が可能である。なお、移動平均に用いるデータ数は5でなくてもよい。
【0061】
図9(a)は
図1の血管脈波測定システムにより測定されたある被測定者の覚醒時の各種信号波形の一例を示すグラフであり、
図9(b)は
図1の血管脈波測定システムにより測定されたある被測定者の無呼吸時の各種信号波形の一例を示すグラフである。
【0062】
図9(a)において、覚醒時の各測定波形は以下の通りである。
(a)R−EOG A1:公知の眼球電計により測定された眼球電波形である。
(b)Chin−Ref:公知の顎運動測定器により測定された顎の変位量である。
(c)心電図:公知の心電計により測定された心電波形である。
(d)筋電図:公知の筋電計により測定された筋電波形である。
(e)いびき:小型マイクロホンにより測定されたいびき音である。
(f)呼吸波形:被測定者の呼吸にともなう身体下の圧力変化を感圧センサが検出し、呼吸波形を計測したときの呼吸波形である。
(g)SpO2:公知のパルスオキシメーターにより測定された血中酸素飽和度である。
(h)本システム:本実施形態に係る血管脈波測定システムにより測定された脈波波形である。
【0063】
図9(b)において、無呼吸時の各測定波形は以下の通りである。
(a)R−EOG A1:公知の眼球電計により測定された眼球電波形である。
(b)Chin−Ref:公知の顎運動測定器により測定された顎の変位量である。
(c)心電図:公知の心電計により測定された心電波形である。
(d)筋電図:公知の筋電計により測定された筋電波形である。
(e)いびき:小型マイクロホンにより測定されたいびき音である。
(f)呼吸温度センサ:口元に設けられた温度センサにより測定された呼吸温度である。
(g)呼吸圧:被測定者の呼吸にともなう身体下の圧力変化を感圧センサが検出し、呼吸波形を計測したときの呼吸圧波形である。
(h)胸郭変動:被測定者の胸郭の変化を測定する応力センサにより測定された胸郭変動量である。
(i)腹部変動:被測定者の腹部の変化を測定する応力センサにより測定された腹部変動量である。
(j)SpO2:公知のパルスオキシメーターにより測定された血中酸素飽和度である。
(k)本システム:本実施形態に係る血管脈波測定システムにより測定された脈波波形である。
【0064】
本実施形態に係る血管脈波測定システムにより測定された
図9のデータには、いままでの測定装置ではわからなかった多くの情報が含まれている。
図9(a)においては、正常レム睡眠中であるが、当該記録120秒間に2回の覚醒反応があり、その2回とも覚醒反応開始とともに脈圧はやや上昇しその後、急激な低下を示している。覚醒反応による交感神経活動上昇と抹消の血管抵抗の一時的上昇、その後反射的な血管拡張による脈圧低下が観察され、正常睡眠において脈圧の変化が、脳波上の覚醒反応と同期していると考えられる。これは脳波を測定しない小型の血管脈波測定システムで睡眠評価が可能となると考えられる。
【0065】
図9(b)では、典型的な無呼吸、努力性呼吸〜覚醒反応、過呼吸という一連の中で、無呼吸中の努力性呼吸に同期する小さな周期の変動がみられながら(変動が小さいため実測定数から周波数解析をする必要があると考えられる)無呼吸終了まで、脈圧が徐々に上昇していくことがわかる。その後、覚醒反応、呼吸再開〜過呼吸とともに脈圧は急激に降下する。おそらくこの患者の昼の安静時の血圧はこの降下した後、安定したレベルであり、無呼吸中の血圧上昇は、無呼吸による交感神経活動の過剰上昇によるもので、過去に本発明者らが調べた中では、ピークが収縮期血圧228という患者もいた。従って、無呼吸症候群の患者の場合は合併頻度が問題となる、循環器系疾患の発症に関わる、睡眠中の特殊な循環動態を評価できると考えられる。
【0066】
図9(a)及び
図9(b)の脈波波形のグラフから、レム覚醒時は、最大血圧値Pmaxが無呼吸時に比較して緩やかに上昇した後、下降し、それを繰り返していることがわかる。また、無呼吸時は、最大血圧値Pmaxがレム覚醒時に比較して早く上昇した後、下降し、それを繰り返していることがわかる。
【0067】
図10(a)は覚醒時の最大血圧値Pmaxの変化をモデル化して示す図であり、
図10(b)は無呼吸時の最大血圧値Pmaxの変化をモデル化して示す図である。
図10(a)及び
図10(b)の最大血圧値Pmaxのモデル図から明らかなように、レム覚醒時の最大血圧値Pamxの変化周期Tarは無呼吸時のそれに比較して長く、原点Sから見た、レム覚醒時の最大血圧値Pmaxの上昇傾斜角度αarは無呼吸時のそれに比較して小さいことがわかる。これらの知見及び治験に基づいて、
図13の睡眠状態判別処理のフローチャートを作成した。
【0068】
図11は、従来技術に係るカフ圧迫法と同様の原理を用いて、最大血圧値と最小血圧値を校正するための、
図1の装置コントローラ50の血圧値校正処理モジュール52により実行される血圧値校正処理を示すフローチャートである。
【0069】
図11において、まず、ステップS11で圧力センサ部30Aを用いて脈波信号を検出し、脈波信号の時間的に互いに隣接する2つの最小電圧値の時間期間Tint(
図6A参照)を演算し、ステップS12において時間期間Tintは所定のしきい値範囲に入っているか否かが判断され(すなわち、脈波信号が検出されているか否かが判断され)、YESのときはステップS13に進む一方、NOのときはステップS11に戻る。ここで、時間期間Tintの所定のしきい値範囲は、脈波信号を検出したか否かの判断範囲であり、上記しきい値範囲は経験値として、例えば0.2秒≦Tint≦2秒である。当該しきい値範囲に時間期間Tintが入っておれば、脈波を検出したと判断する。ステップS13Aにおいて、被測定者6の脈波を検出したと判断し、押下ランプ64を点灯させ、ステップS13Bにおいて使用者(被測定者6又は他の測定者等をいい、以下同様である。)は指当部24a,24bを用いて圧力センサ部30Aを押し下げる。ステップS14において、時間期間Tintは所定のしきい値範囲に入っているか否かが判断され(すなわち、脈波信号が検出されているか否かが判断され)、NOのときはステップS15に進む一方、YESのときはステップS13Bに戻る。
【0070】
ステップS15では、被測定者6の脈波を検出しなくなったと判断し、押下ランプ64を消灯させた後、検出しなくなったサンプリングタイミングよりも1つ前のサンプリングタイミングよりも前の脈波信号の一周期期間内の最大電圧値を最大血圧値電圧として内部メモリ50mに格納するとともに、圧力センサ部30Aの検出圧力値を最大血圧値として内部メモリ50mに格納する。そして、ステップS16Aにおいて、押上ランプ65を点灯させ、ステップS16Bにおいて、使用者は指当部24a,24bを用いて圧力センサ部30Aを押し上げる。次いで、ステップS17において、時間期間Tintは所定のしきい値範囲に入っているか否かが判断され(すなわち、脈波信号が検出されているか否かが判断され)、YESのときはステップS18に進む一方、NOのときはステップS16Bに戻る。
【0071】
ステップS18では、被測定者6の脈波を検出したと判断し、押上ランプ65を消灯させ、脈波検出ランプ66を点灯させる。これに基づいて使用者は押し上げを停止する。検出したサンプリングタイミングからその直後の脈波信号の一周期期間内の最小電圧値を最小血圧値電圧として内部メモリ50mに格納するとともに、圧力センサ部30Aの検出圧力値を最小血圧値として内部メモリ50mに格納する。また、ステップS19において、内部メモリ50mに格納された最大血圧値電圧とそれに対応する最大血圧値及び最小血圧値電圧とそれに対応する最小血圧値に基づいて、
図6Cを参照して説明したように、直線近似法を用いて電圧値から血圧値への変換を示す変換式(又は血圧変換テーブル)を生成して内部メモリ50mに格納し、当該処理を終了する。
【0072】
以上で説明した
図2の脈波及び圧力検出印加装置20又は圧力センサ部30Aのみの装置と、
図11の血圧値校正処理を用いることにより、当該血管脈波測定システムにおいて、従来技術に比較して極めて簡単な校正でかつ高精度で、血管脈波信号の血圧値電圧を血圧値に変換するように校正することができる。
【0073】
図12は
図1の装置コントローラ50の血管脈波測定処理モジュール51により実行される血管脈波測定を示すフローチャートである。
【0074】
図12において、ステップS21で例えば直近の5周期分の脈波波形データ(A/D変換器33からの電圧値データをいう。)をバッファメモリに格納し、ステップS22において脈波波形データのデータ値は演算範囲以内であるか否かが判断され、YESのときはステップS23に進む一方、NOのときはステップS21に戻る。ステップS23において、上記5周期分の脈波波形データに対して高周波ノイズ除去のためのローパスフィルタ処理を実行し、ステップS24において、ローパスフィルタ処理後の脈動波形データに対して、
図8を参照して説明した移動平均法を用いた移動平均処理を実行し、さらに、ステップS25において変換式を用いた電圧値から血圧値への変換による血圧測定処理を実行する。さらに、ステップS26において、変換された血圧値を用いて脈波表示データを作成して脈波(リアルタイム)を表示部60に表示し、脈拍及び最大血圧値及び最小血圧値を演算して表示部60に表示する。ステップS27では、測定終了か否かが判断され、YESのときは当該処理を終了する一方、NOのときはステップS21に戻る。
【0075】
図13は
図1の装置コントローラ50の睡眠状態判別処理モジュール53により実行される睡眠状態判別処理を示すフローチャートである。
【0076】
図13において、ステップS31で例えば直近の21周期分の脈波波形データをバッファメモリに格納し、ステップS32において格納された21周期分の脈波波形データに基づいて上記変換された最大血圧値及び最小血圧値を用いて、21周期分の最大血圧値Pmax(1)〜Pmax(21)及び21周期分の最小血圧値Pmin(1)〜Pmin(21)を演算し、時刻t(1)〜t(21)をバッファメモリに格納する。次いで、ステップS33において、21周期分(n=1,2,…,21)について以下のパラメータを演算する。
【0077】
最大血圧値Pmaxの時間に対する傾き(20周期の期間)
P’=(Pmax(21)−Pmax(1))/(t(21)―t(1)) (3)
【0078】
Pmaxave=平均値(Pmax(1)〜Pmax(20)) (4)
【0079】
脈圧Pp=Pmax(20)−Pmin(20) (5)
【0080】
次いで、ステップS34において、Pmax(21)がPmaxaveに対して20%以上減少している(以下、条件1という。)か否かが判断され、YESのときはステップS35に進む一方、NOのときはステップS31に戻る。次いで、ステップS35において、脈圧Ppが平均値Pmaxaveに対して20%以上減少している(以下、条件2という。)か否かが判断され、YESのときはステップS36に進む一方、NOのときはステップS31に戻る。そして、ステップS36において、ステップS21〜S25を3周期分についてそれぞれ1周期ごと移動シフトして実行し、条件1及び条件2の判定を行って3周期分以上連続して満足するか否かが判断され、YESのときはステップS37に進む一方、NOのときはステップS31に戻る。ステップS37において、傾きP’>P’th(所定のしきい値であって、
図10の傾斜角度αarと傾斜角度αsaとを識別するためのしきい値である。)であるか否かが判断され、YESのときはステップS38に進む一方、NOのときはステップS39に進む。ステップS38では、被測定者は「無呼吸状態」であると判断して表示部60に表示し、ステップS40に進む。一方、ステップS39では被測定者は「覚醒状態」であると判断して表示部60に表示し、ステップS40に進む。ステップS40では、測定終了か否かが判断され、YESのときは当該処理を終了する一方、NOのときはステップS31に戻る。
【0081】
図13の睡眠状態判別処理において、処理データ数や判断分岐などの「20周期」「21周期」「20%」「3周期分」などは一例であって、本発明はこれに限られない。例えば、「20%」は判断するための所定のしきい値割合である。
【0082】
以上の実施形態において、上記の各処理をソフトウエアで実現してもよいし、それらの一部をハードウエア回路で実現してもよい。
【0083】
以上の実施形態において、カフ圧迫法により最大血圧値と最小血圧値の校正を行っているが、本発明はこれに限らず、その他の校正方法を用いてもよい。
【0084】
図14Aは
図2の圧力センサ部40の具体的構成を示す縦断面図であり、
図14Bは
図14Aの圧力センサ部40の底面図である。なお、
図14A及び
図14Bの圧力センサ部40のときは
図2のカフ布27を用いず、例えば下記の粘着シートであるパッド111を用いる。
【0085】
図14A及び
図14Bにおいて、例えばガラス又はエポキシなどの誘電体にてなり、厚さt1及び幅d4の四角平板形状の誘電体基板(半導体基板であってもよい)110の下側中央部に、MEMS圧力センサ101が複数の半田ボール131を用いて固定される。半田ボール131の厚さ分だけの空間130が形成される。MEMS圧力センサ101は例えば幅d3の四角平板形状を有し、その中央部に例えば円形又は楕円形状を有する圧力検出面102aであるダイアフラム102を有する。ダイアフラム102の圧力検出面102aに対向する面102b側に上記空間130が形成される。ダイアフラム102はMEMS圧力センサ101の最上部の近傍においてMEMS圧力センサ101の厚さt2よりも薄い厚さt3を有し、当該ダイアフラム102の下側に例えば円筒形状又は楕円筒形状の孔である空間121が形成される。空間121はダイアフラム102に対して密閉されているが、下側方向は開放されており、空間121と空間130とは連通されていない。MEMS圧力センサ101は、ダイアフラム102の圧力検出面102a側に高さt2の空間121を有し、空間121に対面する圧力検出面102aを用いて圧力の検出を行い、検出した圧力に対応する電気信号を、誘電体基板110を貫通して挿入されたケーブル141を介して出力する。
【0086】
誘電体基板110の下面の一部110a及びMEMS圧力センサ101の側面101a及び下面101bの一部に接触して例えば両面の粘着性シートである厚さt3のパッド111が貼付され、パッド111はMEMS圧力センサ101及び誘電体基板110を支持する。ここで、パッド111はその上部の厚さ(t3−t4)の中央部の空間の底面111b(中央部に後述する下方向の空間122の孔を有する)で支持する。そして、パッド111はその底面111aが例えば被測定者の橈骨動脈部7(
図5参照)である被測定部に接触して載置され、パッド111の中央部において空間121に連通しかつ空間121よりも大きな、圧力検出面102aに平行な方向のサイズを有する貫通孔である空間122を有する。ここで、空間121及び空間122はそれぞれ、例えばダイアフラム102の圧力検出面102aに実質的に平行な底面を有し、かつ例えば互いに同軸である実質的に円筒形状又は楕円筒形状を有する。実施形態では、空間122の底面の直径d2は空間121の底面の直径d1よりも大きくなるように構成されている。
【0087】
以上のように構成された圧力センサ部40を、例えば被測定者の橈骨動脈部7(
図5参照)である被測定部に接触して載置したときに、空間121及び空間122が密閉されて密閉空間となり、被測定部の圧力が空間121及び空間122を介してMEMS圧力センサ101のダイアフラム102に伝達されてMEMS圧力センサ101が圧力の検出を行う。MEMS圧力センサ101の圧力検出信号はケーブル141を介して出力される。
【0088】
発明者らは、本発明の実施形態に係る圧力センサ部40及び圧力計測システムを試作した。圧力センサ部40のMEMS圧力センサ101のダイアフラム2(空間121)の直径d1は1mm程度が最も好ましいという設計結果を得た。ここで、誘電体基板110及びパッド111の1辺の長さd4は3〜4mmとし、空間122の直径d2は2〜3mmとした。なお、MEMS圧力センサ101の厚さt2は400μmであり、パッド111の下部の厚さは0.5〜1mmであった。すなわち、従来技術のごとく空間122がないときは、MEMS圧力センサ101のダイアフラム2の直径d1の1mmの範囲で血管の位置決めをする必要があり、その位置がずれたときは脈圧を検出できなかった。しかし、本実施形態では、空間122を備えることにより、MEMS圧力センサ101のダイアフラム102が1〜1.5mm程度ずれても空間122の範囲にあれば、脈圧を確実に検出することができる。また、本実施形態のMEMS圧力センサ装置では、圧力を印加することなく、脈圧を検出できるので、長時間にわたって非観血的血圧脈波の測定を行うことができる。
【0089】
以上のように構成された本実施形態に係る圧力センサ部40を被測定部に載置したときに、空間121及び空間122が密閉されて密閉空間となり、被測定部の圧力が空間121及び空間122を介してMEMS圧力センサ101のダイアフラム102に伝達されてMEMS圧力センサ101が圧力の検出を行う。従って、MEMS圧力センサ101の位置が測定位置に対してずれていても、被測定部の圧力を正確に測定することができる。また、被測定部に対して圧力を印加する必要がないので、長時間にわたって、例えば非観血的血圧脈波の測定を行うことができる。
【0090】
以上の本実施形態においては、血管脈波測定システム又は脈圧計測システムについて説明しているが、本発明はこれに限らず、人間以外の動物の脈圧、及び一般的な圧力を計測する圧力計測システムに適用することができる。また、圧力センサ部40は圧力センサ装置として用いることができ、血管の脈圧のみならず、人間以外の動物の脈圧、及び一般的な圧力を検出することができる。
【解決手段】血管上の皮膚を介して設けられ当該血管に流れる脈波の圧力変化を抵抗値変化として検出するMEMS圧力センサ部と、圧力印加機構とを備える脈波及び圧力検出印加装置20であって、圧力印加機構は、両端の一軸関節が固定された5個の第1〜第5の一軸関節と、5個の一軸関節のうちの互いに隣接する一対の一軸関節を連結する4本の第1〜第4のリンクとを備えた5関節リンク機構である。MEMS圧力センサ部は第3の一軸関節に設けられ、使用者により第2及び第4の一軸関節もしくは第1及び第4のリンクを押し下げ又は押し上げて第3の一軸関節の位置を移動させることにより、5関節リンク機構は第3の一軸関節からMEMS圧力センサ部及び皮膚を介して血管に対して所定の圧力を印加する。