特許第5780573号(P5780573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5780573
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】蓄光性蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   C09K11/64CPM
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-519124(P2015-519124)
(86)(22)【出願日】2015年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2015056862
【審査請求日】2015年4月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-47157(P2014-47157)
(32)【優先日】2014年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】709001395
【氏名又は名称】株式会社ネモト・ルミマテリアル
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将
(72)【発明者】
【氏名】坂口 朋也
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/155428(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/007970(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/098426(WO,A1)
【文献】 特開2006−152242(JP,A)
【文献】 EFFECT OF ALKALINE IONS ON THE PHASE EVOLUTION, PHOTOLUMINESCENCE, AND AFTERGLOW PROPERTIES OF SrAl2,Ceramics - Silikaty,2012年,Vol.56(4), pp.295-300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00−11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAlで表される化合物で、Mで表す金属元素は、ストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)およびバリウム(Ba)からなる化合物を母結晶にすると共に、
賦活剤としてユウロピウム(Eu)を含み、
共賦活剤としてジスプロシウム(Dy)を含む蓄光性蛍光体であって、
ユウロピウム(Eu)の含有量は、モル比で0.001≦Eu/(M+Eu+Dy)≦0.05であり、
ジスプロシウム(Dy)の含有量は、モル比で0.004≦Dy/(M+Eu+Dy)≦0.06であり、
マグネシウム(Mg)の含有量は、モル比で0.02≦Mg/(M+Eu+Dy)≦0.1であり、
バリウム(Ba)の含有量は、モル比で0.03≦Ba/(M+Eu+Dy)≦0.15であり、
かつ、リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb)の群の少なくとも一つのアルカリ金属元素を含み、
アルカリ金属元素の含有量は、Mで表す金属元素とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)の合計の1モルに対して、0.06ミリモル以上10ミリモル以下であることを特徴とした蓄光性蛍光体。
【請求項2】
アルカリ金属元素は、ナトリウム(Na)であることを特徴とした、請求項記載の蓄光性蛍光体。
【請求項3】
ホウ素(B)を、Mで表す金属元素とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)の合計の1モルに対して、0.0004モル以上0.024モル以下含有することを特徴とした、請求項1または2記載の蓄光性蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に蛍光体の残光時間は極めて短く、外部からの刺激を停止すると速やかにその発光は減衰する。しかし、まれに外部からの刺激を停止した後もかなりの長時間(数10分から数時間)肉眼で認められる程度の残光を有する蛍光体があり、通常の蛍光体とは区別して蓄光性蛍光体あるいは燐光体と呼称している。
この蓄光性蛍光体としては、CaS:Bi(紫青色発光)、CaSrS:Bi(青色発光)、ZnS:Cu(緑色発光)、ZnCdS:Cu(黄色−橙色発光)等の硫化物蛍光体が知られている。これらいずれの硫化物蛍光体も、化学的に不安定であったり、耐光性が劣ったりするなどの問題がある。またこの硫化亜鉛系蓄光性蛍光体を夜光時計に用いる場合であっても、肉眼でその時刻を認識可能な残光時間は約30分から2時間程度である等、実用面での問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するため、上記硫化物蛍光体より化学的に安定であり、耐光性に優れ、かつ長時間の残光を有するアルミン酸塩系蓄光性蛍光体が提案された。すなわち、MAlで表される化合物で、Mはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にした蓄光性蛍光体が提案された(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
さらに、例えば屋内用の避難誘導用安全標識などの、低照度環境において使用した場合に高い残光輝度を有する蓄光性蛍光体(例えば、特許文献2および3参照。)や、屋外用途の安全標識などの、太陽光により日中から日没までの間励起された場合に長時間後に高い残光輝度を有する蓄光性蛍光体(例えば、特許文献4参照。)のように、様々な使用状況にあわせた蓄光性蛍光体が提案された。また、高温における残光特性に着目した蓄光性蛍光体が提案された(例えば、特許文献5参照。)。
しかしながら、さらなる残光輝度の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2543825号公報
【特許文献2】特許第4597865号公報
【特許文献3】特許第4628957号公報
【特許文献4】国際公開第2011/155428号公報
【特許文献5】特許第4932189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた残光輝度を有する蓄光性蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、種々の蓄光性蛍光体を検討した結果、マグネシウムおよびバリウムを含み、かつナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属元素を少量含む蓄光性蛍光体が好ましいことを見出した。
【0008】
第1の発明に係る蓄光性蛍光体は、MAlで表される化合物であり、Mで表す金属元素は、ストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)およびバリウム(Ba)からなる化合物を母結晶にすると共に、賦活剤としてユウロピウム(Eu)を含み、共賦活剤としてジスプロシウム(Dy)を含む蓄光性蛍光体であって、ユウロピウム(Eu)の含有量は、モル比で0.001≦Eu/(M+Eu+Dy)≦0.05であり、ジスプロシウム(Dy)の含有量は、モル比で0.004≦Dy/(M+Eu+Dy)≦0.06であり、マグネシウム(Mg)の含有量は、モル比で0.02≦Mg/(M+Eu+Dy)≦0.1であり、バリウム(Ba)の含有量は、モル比で0.03≦Ba/(M+Eu+Dy)≦0.15であり、かつ、リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb)の群の少なくとも一つのアルカリ金属元素を含み、アルカリ金属元素の含有量は、Mで表す金属元素とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)の合計の1モルに対して、0.06ミリモル以上10ミリモル以下であることを特徴としている。アルカリ金属元素の含有量を0.06ミリモル以上10ミリモル以下とすることを特徴としている。上記組成の蓄光性蛍光体が、マグネシウムとバリウムと前記アルカリ金属元素とを同時に含むことで、高い残光輝度を有する蓄光性蛍光体となる。
【0010】
の発明に係る蓄光性蛍光体は、第の発明の蓄光性蛍光体において、アルカリ金属元素は、ナトリウム(Na)であることを特徴としている。アルカリ金属元素をナトリウムとすることで、高い残光輝度を有する蓄光性蛍光体となる。
の発明に係る蓄光性蛍光体は、第1または第2の発明の蓄光性蛍光体において、ホウ素(B)を、Mで表す金属元素とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)の合計の1モルに対して、0.0004モル以上0.024モル以下含有することを特徴としている。ホウ素の量を上記の範囲とすることで、高い残光輝度を有するとともに、粒子形状が角張らず、収率も高い優れた蓄光性蛍光体となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蓄光性蛍光体によれば、マグネシウム、バリウムおよびアルカリ金属元素を同時に含有することで、高い残光輝度を有する蓄光性蛍光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の試料1−(5)の蓄光性蛍光体の粒度分布を示すグラフである。
図2】本発明の試料1−(5)の蓄光性蛍光体の粉末X線回折図形である。
図3】本発明の試料1−(5)の蓄光性蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。
図4】本発明の試料1−(5)の蓄光性蛍光体の粒子形状を示す顕微鏡写真である。
図5】本発明の蓄光性蛍光体の粒子形状を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の一実施形態として、蓄光性蛍光体を製造する工程を説明する。
【0014】
蛍光体原料は、ストロンチウム(Sr)の原料として例えば炭酸ストロンチウム(SrCO)と、マグネシウム(Mg)の原料として例えば酸化マグネシウム(MgO)や塩基性炭酸マグネシウム等と、バリウム(Ba)の原料として例えば炭酸バリウム(BaCO)と、アルミニウム(Al)の原料として例えばアルミナ(Al)と、賦活剤としてのユウロピウム(Eu)の原料として例えば酸化ユウロピウム(Eu)と、共賦活剤としてのジスプロシウム(Dy)の原料として例えば酸化ジスプロシウム(Dy)と、アルカリ金属元素として例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)の原料として例えば炭酸ナトリウム(NaCO)や炭酸カリウム(KCO)とを用意する。
これら蛍光体原料と、フラックスとして例えばホウ酸(HBO)を所定量秤量し、ボールミル混合等を用いて充分に混合し、蛍光体原料の混合粉末を得る。
この際、アルカリ金属元素のナトリウム(Na)やカリウム(K)の原料である炭酸ナトリウム(NaCO)や炭酸カリウム(KCO)は、水溶液にした状態で所定量を添加してもよい。
【0015】
得られた混合粉末をアルミナるつぼ等の耐熱性容器に充填し、電気炉に入れて1200℃以上1800℃以下の温度範囲、好ましくは1300℃以上1600℃以下の温度範囲にて、2時間以上18時間以下、好ましくは5時間以上15時間以下、還元雰囲気中で焼成する。
還元雰囲気としては、例えば窒素(N)+水素(H)混合ガス、一酸化炭素(CO)ガス等が挙げられる。また、蛍光体原料の混合粉末に活性炭またはグラファイト等の炭素粉末を加えて焼成を行うことで還元雰囲気をつくってもよい。
焼成後、室温まで2時間から10時間かけて冷却する。得られた焼成物を粉砕し、篩別して所定の粒径の蓄光性蛍光体を得る。
【0016】
なお、蛍光体原料として炭酸塩や酸化物を例示したが、この他に高温で分解して酸化物になる化合物であれば、蛍光体原料として用いることができる。また、フラックスとしてホウ酸を例示したが、ホウ酸以外のホウ素化合物を用いることもできる。フラックスとしてのホウ酸の量は適宜選択できるが、過剰であれば焼成物が硬くなる。例えば蛍光体原料の1質量%を超えると焼成物が硬くなることで収率が著しく下がる。また硬くなった焼成物を粉砕する際に、粒子の形状が角張りやすく、塗面に加工した際や、樹脂と混合して成形した場合に外観がざらつくなど美観や品質の低下を招く。このため、フラックスとしてのホウ酸は蛍光体原料の0.05〜0.3質量%程度添加して用いることは、収率向上や粒子形状の球状維持等の効果を発揮するため、より好ましい。また、焼成温度を高温にしたり、原材料に例えば球状のアルミナを選択したり、するなどの条件を選択すれば、フラックスを添加しなくとも、ほぼ同等の性能を有する蓄光性蛍光体が製造可能である。
【0017】
次に、上記一実施の形態の実施例として、本発明の蓄光性蛍光体とその特性について説明する。
【実施例1】
【0018】
原料として、126.23gの炭酸ストロンチウム(SrCO)(Srとして0.855モル)、4.72gの塩基性炭酸マグネシウム(MgO含有率42.7%のロットを仕様)(Mgとして0.05モル)、9.87gの炭酸バリウム(BaCO)(Baとして0.05モル)、101.96gのアルミナ(Al)(Alとして2モル)、2.64gの酸化ユウロピウム(Eu)(Euとして0.015モル)、5.59gの酸化ジスプロシウム(Dy)(Dyとして0.03モル)を秤量する。さらにフラックスとして0.25gのホウ酸(HBO)(原料質量の約0.1%、Bとして約0.004モル)を秤量する。さらに5.3gの炭酸ナトリウム(NaCO)(Naとして0.1モル)を水に溶解し100mlとして、Naとして1ミリモル/mlの炭酸ナトリウム水溶液を調製する。これら原料とフラックスに、前記炭酸ナトリウム水溶液1.5ml(Naとして1.5ミリモル分)を添加し、ボールミルを用いて充分によく混合する。
【0019】
この混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素(N)ガス97%+水素(H)ガス3%の混合ガス(流量:25リットル毎時)による還元雰囲気中にて、1500℃、5時間焼成する。その後室温まで約8時間かけて冷却し、得られた焼成体を、粉砕工程、篩別工程(ナイロンメッシュ#380通過)を経て、目的の蓄光性蛍光体を得た。これを試料1−(5)とした。
【0020】
同様に、加える炭酸ナトリウム水溶液の量を、適宜変化させて合成し、併せて試料1−(1)ないし試料1−(8)とした。次に炭酸ナトリウム水溶液を添加しない試料を比較例1として、さらにマグネシウムとバリウムも含まない試料を比較例2として合成した。
得られた試料1−(1)ないし試料1−(8)について、まず酸分解後にフレーム光度法を用いてナトリウムの含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
次に、試料1−(5)についてレーザー回折式粒度分布測定装置(型式:SALD−2100 島津製作所製)で粒度分布を測定した。この結果を図1に示す。さらに、試料1−(5)についてX線回折装置(型式:XRD−6100 島津製作所製)により、Cu管球を用いて粉末X線回折分析を行った。その結果である粉末X線回折図形を図2に示す。この図2より、母結晶がSrAl結晶であることがわかる。さらに、試料1−(5)について分光蛍光光度計(型式:F−4500 日立製作所製)で励起スペクトルと発光スペクトルを測定した。この結果を図3に示す。
【0023】
また、粒子形状を確認するため、デジタルマイクロスコープで試料1−(5)を撮影した。比較のため、ホウ酸の添加量を3g(約1.2質量%、ホウ素Bとして約0.048モル)とした以外は試料1−(5)と同様に試料を作成し、これも同様に粒子形状を撮影し、試料1−(5)とともに図4に示す。図4から、試料1−(5)である図4(a)は略球状でなめらかな粒子形状であるが、比較してホウ酸が過剰な図4(b)は硬くなった焼成物を粉砕したため、角張っていることがわかる。なお、ホウ酸を0.75g(約0.3質量%)とした場合においても、図4(a)と同様の粒子形状が維持されていることを確認した。
【0024】
次に、試料1−(1)ないし試料1−(8)および比較例1、比較例2の残光輝度特性を調べた。
蓄光性蛍光体が実際に多く使われる形態の一つである、塗膜サンプルを作成して残光輝度特性を評価した。すなわち、蓄光性蛍光体の試料と透明スクリーンインキ(VGスクリーンインキ;000メジウム 帝国インキ製造製)を10:7の質量比で混合したものを、基材である蛍光増白剤を使用しない紙(無蛍光紙)の上にアプリケーター(YA型 ヨシミツ精機製)で塗布し、自然乾燥させ、蓄光性蛍光体塗膜を形成する。塗膜の蓄光性蛍光体含有量は、単位面積当たりの蓄光性蛍光体質量で表して、約180g/mとなるように形成した。
得られた各塗膜サンプルを暗所にて約90℃で約2時間加熱し残光を消去する。まず第1の励起条件として、励起用光源に標準光源D65を用い照度500lxの光を10分間、残光を消去した各塗膜サンプルに照射する。照射終了後10分後、1時間後、5時間後の残光輝度を輝度計(色彩輝度計BM−5A トプコン製)を用いて測定する。その結果を、比較例1の残光輝度を100として、相対輝度を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
表2に示す結果において、ナトリウムを添加した試料1−(1)ないし試料1−(7)は、ナトリウムを含まない比較例1と比較して、各々残光輝度が向上していることがわかる。また、マグネシウム、バリウム、ナトリウムを含まない比較例2と比較しても、同様に残光輝度が向上していることがわかる。なお、10ミリモルを超えてナトリウムを過剰に添加した試料1−(8)は、残光輝度が低下していることがわかる。
【0027】
次に、第2の励起条件として、励起用光源にキセノンランプを用い、紫外線放射強度計(紫外線強度計 UM−10 コニカミノルタ製)(受光部:UM−400)が400μW/cmの値を示す照度の光を60分間、再度残光を消去した上記各塗膜サンプルに照射する。上記第1の励起条件時と同様に照射終了後10分後、1時間後、5時間後の残光輝度を測定し、その結果を、比較例1の残光輝度を100として、相対輝度を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
表3に示す結果において、第2の励起条件時においても、ナトリウムを添加した試料1−(1)ないし試料1−(7)は、ナトリウムを含まない比較例1と比較して、各々残光輝度が向上していることがわかる。また、マグネシウム、バリウム、ナトリウムを含まない比較例2と比較しても、同様に残光輝度が向上していることがわかる。なお、ナトリウムを10ミリモルを超えて過剰に添加した試料1−(8)は、残光輝度が低下していることがわかる。
【0030】
このように、マグネシウムとバリウムとナトリウムとを同時に添加した本発明の蓄光性蛍光体は、上記比較例1および比較例2と比較して、優れた残光輝度を有していることがわかる。特に、ナトリウムの量が0.1ミリモルから3.2ミリモルの範囲の試料1−(2)ないし試料1−(6)において、より高い残光輝度を有していることがわかる。
【0031】
次に、上記一実施の別の形態の実施例として、アルカリ金属元素としてカリウム、リチウム、ルビジウムを添加した例を示す。
【実施例2】
【0032】
アルカリ金属元素の炭酸塩として炭酸ナトリウムに代わり、炭酸カリウム(KCO)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ルビジウム(RbCO)を用いて適宜添加した他は、実施例1の試料1−(5)と同様の製造方法にて試料を合成し、それぞれ試料2−(1)ないし試料2−(7)とした。各々のアルカリ金属元素の含有量は、実施例1と同様にフレーム光度法により測定した。
【0033】
【表4】
【0034】
得られた試料2−(1)ないし試料2−(7)について、実施例1と同様の方法で蓄光性蛍光体塗膜サンプルを作成し、実施例1と同様の方法で、第1の励起条件(D65光源/500lx/10分)を用いて残光輝度を測定した。その結果を、比較例1の残光輝度を100として、相対輝度を表4に示す。
【0035】
【表5】
【0036】
表5に示す結果において、比較例1と比較して、カリウム、リチウム、ルビジウムのいずれのアルカリ金属元素を添加した場合において、いずれも残光輝度が向上していることがわかる。なお、試料2−(7)の他、上記アルカリ金属元素を複数組み合わせた場合についても実験したところ、例示はしていないものの同様の残光輝度向上効果を確認した。
【0037】
次に、マグネシウム、バリウム、ユウロピウム、ジスプロシウムの量を変化させた蓄光性蛍光体の例を示す。
【実施例3】
【0038】
アルカリ金属元素として、ナトリウムを添加し、マグネシウム、バリウム、ユウロピウム、ジスプロシウムの添加量を表6に示す通りに変化させた他は、実施例1の試料1−(5)と同様の製造方法にて試料を合成し、それぞれ試料3−(1)ないし試料3−(4)とした。ナトリウムの含有量は、実施例1と同様にフレーム光度法により測定した。さらに、ナトリウムを添加しない他は、前記試料3−(1)ないし試料3−(4)と同じ組成で試料を合成し、それぞれ比較例3−(1)ないし比較例3−(4)とした。
【0039】
【表6】
【0040】
得られた試料3−(1)ないし試料3−(4)、および対応する比較例3−(1)ないし比較例3−(4)について、実施例1と同様の方法で蓄光性蛍光体塗膜サンプルを作成し、実施例1と同様の方法で、第1の励起条件(D65光源/500lx/10分)を用いて残光輝度を測定した。その結果を、それぞれ対応する比較例の残光輝度を100として、相対輝度を表7に示す。
【0041】
【表7】
【0042】
表7に示す結果において、いずれの試料においても、対応するナトリウムを含まない比較例と比較して、残光輝度が向上していることがわかる。
【0043】
次に、フラックスとして用いるホウ酸の添加量を変化させた蓄光性蛍光体の例を示す。
【実施例4】
【0044】
フラックスとして用いるホウ酸(HBO)の添加量を表8に示す通りに変化させた他は、実施例1の試料1−(5)と同様の製造方法にて試料を合成し、それぞれ試料4−(1)ないし試料4−(5)とした。また、比較のため特許文献1中の実施例40に相当する組成として、マグネシウムおよびバリウムを含まず、ユウロピウムの量は0.01モル、ジスプロシウムの量は0.02モルとし、ナトリウムを10ミリモル添加し、ホウ酸を0.08モル(ホウ素(B)として0.08モル)添加した試料を合成し、比較例4とした。ナトリウムの含有量は、実施例1と同様にフレーム光度法により測定した。
【0045】
【表8】
【0046】
得られた試料4−(1)ないし試料4−(5)、および比較例4について、実施例1と同様の方法で蓄光性蛍光体塗膜サンプルを作成し、実施例1と同様の方法で、第1の励起条件(D65光源/500lx/10分)を用いて残光輝度を測定した。その結果を、比較例1の残光輝度を100として、相対輝度を表9に示す。なお、添加したホウ酸の量をホウ素元素のモル数で表現した。また、各々の粒子形状を確認するため、デジタルマイクロスコープで各試料を撮影した。この結果を図5に示す。
【0047】
【表9】
【0048】
表9に示す結果において、ホウ素の量が0.0004モル以上あれば、比較例1を上回る残光輝度を有することがわかる。特にホウ素の量が0.002モル以上の試料で特に優れた残光輝度を有することがわかる。また、特許文献1中の実施例40に相当する比較例4は比較例1に対して著しく残光輝度が低いことがわかる。
また、図5および前述の図4に示す結果において、ホウ素の量が0.0004モル以上0.024モル以下である試料4−(1)ないし試料4−(4)および試料1−(5)(図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)および図4(a)に相当)は、いずれも粒子形状が略球状であり、特にホウ素の量が0.0004モル以上0.012モル以下である試料4−(1)ないし試料4−(3)および試料1−(5)では、なめらかな粒子形状を有しており、より好ましい。一方、ホウ素の量が0.024モルを超え、0.04モルないし0.08モルである試料4−(5)、比較例4および図4(b)の試料はホウ素が過剰なため、硬くなった焼成物を粉砕したことにより粒子形状が角張っていることがわかる。
【0049】
蓄光性蛍光体の粒子形状は、蓄光性蛍光体を産業上利用する上で重要な要素の一つである。略球状や、表面がなめらかな粒子形状を有する蓄光性蛍光体であれば、例えば蓄光性蛍光体を用いたインキで塗膜を形成した場合に、得られる塗膜の外観は平滑であり美観を備えたものとなるため、時計を始め様々な用途で利用可能となる。一方、角張った粒子形状を有する蓄光性蛍光体であれば、同様に塗膜を形成した場合に、得られる塗膜の外観は粗くざらつき、美観を損なったものとなるため、さまざまな製品に具備して使用する際に問題となる。特に時計などのような外観が重要な要素を占める製品には使用できない問題を有する。これら塗膜以外に、例えば樹脂に混練して成形品を作製する場合でも、略球状でなめらかな粒子形状を有する蓄光性蛍光体に比較して、角張った粒子形状を有する蓄光性蛍光体を用いた場合は、得られた成形品の外観が悪くなるため、実際の製品としては使用できない問題を有する。また、別の観点から、ホウ素の量が多すぎる場合は焼結体が硬く固まってしまうため、これを粉砕して所定の粒径の蓄光性蛍光体を得ることが困難となり、製品の収率も低下する問題がある。
これらの結果から、ホウ酸の添加量は、ホウ素の含有量として、0.0004モル以上0.024モル以下が好ましく、0.002モル以上0.012モル以下が、高い残光輝度を有し、かつ略球状でなめらかな粒子形状を有する蓄光性蛍光体となるため、特に好ましいことがわかる。
【0050】
以上のとおり、本発明の蓄光性蛍光体は、マグネシウムおよびバリウムを含み、かつナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属元素を含むことで、高い残光輝度を有する、優れた蓄光性蛍光体を提供するものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の蓄光性蛍光体は、様々な用途に利用可能であるが、特に長時間後にも所定の水準以上の残光輝度を要求される時計用途に好適に利用できる。また、案内標識、安全標識や誘導標識等にも好適に利用できる。
【要約】
高い残光輝度を有する蓄光性蛍光体を提供する。蓄光性蛍光体は、MAlで表される化合物であり、Mで表す金属元素は、Sr、MgおよびBaからなる化合物を母結晶にすると共に、賦活剤としてEuを含み、共賦活剤としてDyを含み、Euの含有量は、モル比で0.001≦Eu/(M+Eu+Dy)≦0.05であり、Dyの含有量は、モル比で0.004≦Dy/(M+Eu+Dy)≦0.06であり、Mgの含有量は、モル比で0.02≦Mg/(M+Eu+Dy)≦0.1であり、Baの含有量は、モル比で0.03≦Ba/(M+Eu+Dy)≦0.15であり、かつ、Li,Na,K,Rbの群の少なくとも一つのアルカリ金属元素を含む。MgとBaとアルカリ金属元素を同時に含むことで、高い残光輝度を有する優れた蓄光性蛍光体となる。
図1
図2
図3
図4
図5