【実施例】
【0057】
本実施例で用いた菌株サッカロマイセス・セレビシエBY4741(非特許文献8)およびサッカロマイセス・セレビシエMT8-1(MATa ade his3 leu2 trp1 ura3株)(非特許文献9)はそれぞれ、フナコシ株式会社および非特許文献9著者より入手した。
【0058】
本実施例に示す全てのPCR増幅は、KOD-Plus-DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を用いて実施した。
【0059】
本実施例に示す全ての酵母形質転換は、YEAST MAKER酵母形質転換システム(Clontech Laboratories, Palo Alto, California, USA)を用いて酢酸リチウム法によって実施した。
【0060】
(調製例1:pIHPGBGL、pIHPGAGCBHII、およびpIWPGAGEGII、ならびにpIWPGAGEGPGBGLの構築)
通常のインテグレーションによりトリコデルマ・リーセイ由来セロビオヒドロラーゼIIを発現するためのプラスミドpIHPGAGCBHII、およびトリコデルマ・リーセイ由来エンドグルカナーゼIIとアスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)由来β−グルコシダーゼ1とを発現するためのプラスミドpIWPGAGEGPGBGLの構築を行った。これらの構築の手順を以下に説明する。
【0061】
酵母のゲノム上に存在するホスホグリセリン酸キナーゼの1種であるPGK1のプロモーター配列(pPGK)をプライマーpPGKF(XhoI)(配列番号1)およびpPGKR(SmaI)(配列番号2)、そしてターミネーター配列(tPGK)をtPGKF(SmaI)(配列番号3)およびtPGKR(NotI)(配列番号4)を用いて、酵母サッカロマイセス・セレビシエBY4741のゲノムDNAをテンプレートとしてPCR法により増幅した。
【0062】
増幅したpPGKおよびtPGKをそれぞれ、ベクタープラスミドpBluescript II KS+(Stratagene社)のXhoI/SmaIサイトおよびSmaI/NotIサイトに挿入した。
【0063】
構築したプラスミドからpPGKおよびtPGKを含む配列を、BSSHIIによる制限酵素処理により取得し、酵母発現用ベクターpRS403(HIS3酵母発現ベクター:Stratagene社)およびpRS404(TRP1酵母発現ベクター:Stratagene社)のBSSHIIサイトに挿入し、得られたそれぞれのプラスミドをpIHPGおよびpIWPGと命名した。
【0064】
BGL/AG-anchor、CBHII/AG-anchor、およびEGII/AG-anchor遺伝子をそれぞれ、プライマーBGLF(XbaI)(配列番号5)およびBGLR(XbaI)(配列番号6)、CBHIIF(XbaI)(配列番号7)およびCBHIIR(XbaI)(配列番号8)、そしてEGIIF(NheI)(配列番号9)およびEGIIR(SmaI)(配列番号10)を用い、pBG211(AG-anchor:α−アグルチニン遺伝子の3’側の半分の領域(α−アグルチニン遺伝子のコード領域の991位から1953位までのヌクレオチドからなる領域、およびコード領域下流445bpのターミネーター領域)を有するβ−グルコシダーゼの表層発現用ベクター:非特許文献7)、pFCBH2w3(α−アグルチニン遺伝子の3’側の半分の領域を有するセロビオヒドロラーゼIIの表層発現用ベクター:非特許文献7)、およびpEG23u31H6(α−アグルチニン遺伝子の3’側の半分の領域を有するエンドグルカナーゼIIの表層発現用ベクター:非特許文献7)をテンプレートとしてPCR法により増幅した。
【0065】
増幅したBGL/AG-anchorおよびCBHII/AG-anchorはpIHPGに挿入し、得られたプラスミドをそれぞれpIHPGBGLおよびpIHPGAGCBHIIと命名し、そして増幅したEGII/AG-anchor遺伝子はpIWPGに挿入し、得られたプラスミドをpIWPGAGEGIIと命名した。
【0066】
pPGK-BGL/AG-anchor遺伝子をプライマーpPGKF(NotI)(配列番号11)およびtAGR(NotI)(配列番号12)を用い、pIHPGBGLをテンプレートとしてPCR法により増幅し、pIWPGAGEGIIのNotIサイトに挿入し、得られたプラスミドをpIWPGAGEGPGBGLと命名した。
【0067】
(調製例2:pIU-PGAGEGII、およびpIW-PGAGCBHIIの構築)
通常のインテグレーションによりトリコデルマ・リーセイ由来エンドグルカナーゼIIを発現するためのプラスミドpIU-PGAGEGII、およびトリコデルマ・リーセイ由来セロビオヒドロラーゼIIを発現するためのプラスミドpIW-PGAGCBHIIの構築を行った。これらの構築の手順を以下に説明する。
【0068】
PGK1のプロモーター配列(pPGK)、エンドグルカナーゼII遺伝子およびAG-anchorをこの順に含む領域をプライマーpPGKF(NotI)(配列番号11)およびtAGR(NotI)(配列番号12)を用いて、プラスミドpIWAGEGII(非特許文献10)をテンプレートとしてPCR法により増幅した。
【0069】
増幅したインサートDNAをベクタープラスミドpRS406(URA3酵母発現ベクター:Stratagene社)のNotIサイトに挿入し、得られたプラスミドをpIU-PGAGEGIIと命名した。
【0070】
PGK1のプロモーター配列(pPGK)、セロビオヒドロラーゼII遺伝子およびAG-anchorをこの順に含む領域をプライマーpPGKF(NotI)、tAGR(NotI)を用いて、プラスミドpIHAGCBHII(非特許文献10)をテンプレートとしてPCR法により増幅した。
【0071】
増幅したインサートDNAをベクタープラスミドpRS404(TRP1酵母発現ベクター:Stratagene社)のNotIサイトに挿入し、得られたプラスミドをpIW-PGAGCBHIIと命名した。
【0072】
(調製例3:pδWおよびpδUの構築)
以下に説明するように、δインテグレーション用ベクタープラスミドpδWおよびpδUの構築を行った。
【0073】
まず、酵母のゲノム上に存在するδ配列の5’側167bp(5’δ配列)を、プライマー5’DSF(SacI)(配列番号13)および5’DSR(SacI)(配列番号14)を用い、酵母サッカロマイセス・セレビシエBY4741のゲノムDNAをテンプレートとしてPCR法により増幅した。
【0074】
次いで、ベクタープラスミドpBluescript II KS+のSacIサイトに、増幅したインサートDNA(5’δ配列)を挿入した。
【0075】
同様にδ配列の3’側167bp(3’δ配列)をプライマー3’DSF(KpnI)(配列番号15)および3’DSR(KpnI)(配列番号16)を用い、PCR法により増幅し、上述の5’δ配列導入済みのpBluescript II KS+のkpnIサイトに導入した。
【0076】
プラスミドpRS404(TRP1酵母発現ベクター:Stratagene社)上に存在するTRP1遺伝子からTRP1欠損マーカー(TRP1d)を、プライマーTRP1dF(XhoI)(配列番号17)およびTRP1dR(XhoI)(配列番号18)を用いPCR法により増幅し、上述の5’δ配列および3’δ配列を導入済みのpBluescript II KS+のXhoIサイトに挿入し、得られたプラスミドをpδWと命名した。したがって、pδWは、選択マーカーとしてTRP1欠損マーカー、および酵母δ配列を含むδインテグレーション用ベクタープラスミドである。
【0077】
同様に、プラスミドpRS406(URA3酵母発現ベクター:Stratagene社)上に存在するURA3遺伝子からURA3欠損マーカー(URA3d)を、プライマーURA3dF(XhoI)(配列番号19)およびURA3dR(XhoI)(配列番号20)を用いPCR法により増幅し、上述の5’δ配列および3’δ配列を導入済みのベクタープラスミドpBluescript II KS+のXhoIサイトに挿入し、得られたプラスミドをpδUと命名した。したがって、pδUは、選択マーカーとしてURA3欠損マーカー、および酵母δ配列を含むδイングレーション用ベクタープラスミドである。
【0078】
(調製例4:pδHの構築)
以下に説明するように、δインテグレーション用ベクタープラスミドpδHの構築を行った。
【0079】
プラスミドpRS403(HIS3酵母発現ベクター:Stratagene社)上に存在するHIS3遺伝子からHIS3欠損マーカー(HIS3d)を、プライマーHIS3dF(XhoI)(配列番号21)およびHIS3dR(XhoI)(配列番号22)を用いPCR法により増幅し、pδseq(非特許文献11)のXhoIサイトに導入し、得られたプラスミドをpδHと命名した。したがって、pδHは、選択マーカーとしてHIS3欠損マーカー、および酵母δ配列を含むδインテグレーション用ベクタープラスミドである。
【0080】
(実施例1:pδW(U, H)-PGAGBGL、pδW(U, H)-PGAGCBHII、およびpδW(U, H)-PGAGEGIIの構築)
δインテグレーション用ベクタープラスミドpδW、pδUおよびpδHに、種々のセルラーゼ発現カセットを挿入し、9種のセルラーゼ発現δインテグレーション用ベクタープラスミドpδW-PGAGBGL、pδW-PGAGCBHII、およびpδW-PGAGEGII、pδU-PGAGBGL、pδU-PGAGCBHII、およびpδU-PGAGEGII、ならびにpδH-PGAGBGL、pδH-PGAGCBHII、およびpδH-PGAGEGIIを構築した。これらの構築の手順を以下に説明する。
【0081】
調製例1で調製したプラスミドpIHPGBGL、pIHPGAGCBHII、およびpIWPGAGEGIIのそれぞれをテンプレートとし、プライマーpPGKF(NotI)(配列番号11)およびtAGR(NotI)(配列番号12)を用いて、PCR法により、それぞれのセルラーゼ発現カセット(プロモーター、分泌シグナル、発現酵素遺伝子、および細胞表層提示因子をこの順に含む領域(すなわち、それぞれ、PGKプロモーター、分泌シグナル、β−グルコシダーゼ遺伝子、AG-anchor;PGKプロモーター、分泌シグナル、セロビオヒドロラーゼII遺伝子、AG-anchor;ならびにPGKプロモーター、分泌シグナル、エンドグルカナーゼII遺伝子、AG-anchorがその記載の順に配置されている)を増幅した。
【0082】
調製例3で作製したpδWまたはpδUのNotIサイトに上記のそれぞれのセルラーゼ発現カセットを挿入し、得られたプラスミドをそれぞれ、pδW-PGAGBGL、pδW-PGAGCBHII、およびpδW-PGAGEGII、ならびにpδU-PGAGBGL、pδU-PGAGCBHII、およびpδU-PGAGEGIIと命名した。
【0083】
プラスミドpIHAGBGL-NotI(非特許文献10)、ならびに調製例2で作製したプラスミドpIU-PGAGEGIIおよびpIW-PGAGCBHIIから、それぞれのセルラーゼ発現カセット(プロモーター、分泌シグナル、発現酵素遺伝子、および細胞表層提示因子をこの順に含む領域(すなわち、それぞれ、PGKプロモーター、分泌シグナル、β−グルコシダーゼ遺伝子、AG-anchor;PGKプロモーター、分泌シグナル、セロビオヒドロラーゼII遺伝子、AG-anchor;ならびにPGKプロモーター、分泌シグナル、エンドグルカナーゼII遺伝子、AG-anchorがその記載の順に配置されている)を、NotIによる制限酵素処理により取得した。
【0084】
調製例4で作製したpδHのNotIサイトに上記のそれぞれのセルラーゼ発現カセットを挿入し、得られたプラスミドをそれぞれ、pδH-PGAGBGL、pδH-PGAGCBHII、およびpδH-PGAGEGIIと命名した。
【0085】
これらのプラスミドのそれぞれの模式図を
図1〜3に示す(
図1:pδW-PGAGBGL、pδU-PGAGBGL、およびpδH-PGAGBGL、
図2:pδW-PGAGCBHII、pδU-PGAGCBHII、およびpδH-PGAGCBHII、
図3:pδW-PGAGEGII、pδU-PGAGEGII、およびpδH-PGAGEGII)。
【0086】
(実施例2:形質転換酵母の創製1)
実施例1で調製したプラスミドのうち、TRP1欠損マーカーを有する3種類のプラスミドpδW-PGAGBGL、pδW-PGAGEGII、およびpδW-PGAGCBHIIを同時に酵母サッカロマイセス・セレビシエMT8-1株(MATa ade his3 leu2 trp1 ura3株)に供し、酢酸リチウム法により共形質転換した(1サイクルカクテルδインテグレーション)。形質転換の成功のスクリーニングのために、トリプトファンを含まず、かつPASCを単一炭素源とした選択培地プレート上でのコロニー形成の目視観察によるスクリーニングを行い、次いでPASC分解活性の測定(手順については、以下の実施例3に示した通りである)によりスクリーニングを行い、1サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC株を取得した。
【0087】
さらに同様に、MT8-1/cocδBEC株に、URA3欠損マーカーを有する3種類のプラスミドpδU-PGAGBGL、pδU-PGAGEGII、およびpδU-PGAGCBHIIを共形質転換した(2サイクルカクテルδインテグレーション)。形質転換の成功のスクリーニングについては、選択培地を、トリプトファンの代わりにウラシルを含まないようにしたこと以外は、MT8-1/cocδBEC株の取得のためのスクリーニングと同様に行い、その結果、2サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBECII株を取得した。
【0088】
コントロールとして、調製例1で作製したpIHPGAGCBHIIおよびpIWPGAGEGPGBGLで酵母サッカロマイセス・セレビシエMT8-1株を形質転換し(便宜上、「通常のインテグレーション」と称する)、形質転換体MT8-1/IBEC株を取得した。この通常のインテグレーションによる形質転換体については、ヒスチジンとトリプトファンとを含まず、かつグルコースを炭素源とした選択培地プレート上でのコロニー形成の目視観察によるスクリーニングを行い、PASC分解活性の測定によりスクリーニングを行った。
【0089】
(実施例3:形質転換体の活性測定1)
実施例2で創製したカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC株およびMT8-1/cocδBECII株、ならびに通常のインテグレーションによる形質転換体MT8-1/IBEC株のそれぞれについて、β−グルコシダーゼ活性およびPASC分解活性を測定した。なお、それぞれの活性の測定の手順は以下に示した通りである。
【0090】
β−グルコシダーゼ活性測定
菌体のβ−グルコシダーゼ活性の測定は、以下のように行った:
(1)酵母菌体をYPD培地(グルコース−ペプトン−酵母エキス培地)5mlに植菌し、24時間培養;
(2)菌体を蒸留水で2回洗浄;
(3)反応液500μl(組成:10mM pNPG(p-ニトロフェニル-β−D-グルコピラノシド) 100μl(最終濃度2mM);1M NaAc(pH5.0) 25μl(最終濃度50mM);酵母100μl;および蒸留水275μl)を調製し、30℃にて10分間反応;
(4)反応終了後、3M Na
2CO
3 500μlを加え反応を停止;そして
(5)10,000gで5分間遠心後、上清の400nmにおける吸光度ABS
400を測定。
【0091】
PASC分解活性測定
菌体のPASC分解活性の測定は、以下のように行った:
(1)酵母菌体をYPD培地5mlに植菌し、72時間培養;
(2)菌体を蒸留水で2回洗浄;
(3)反応液500μl(組成:PASC 250μl;1M NaAc(pH5.0) 25μl(最終濃度50mM);酵母100μl(最終濃度10g湿潤量/l);および蒸留水125μl)を調製し、50℃にて4時間反応;
(4)反応後のサンプルを遠心し、上清100μlにSomogyi銅試薬(sigma-aldrich)100μlを加え、100℃にて20分間インキュベート後、直ちに氷上で冷却;
(5)冷却後、Nelson試薬(sigma-aldrich)200μlを混合して還元銅沈殿を溶解、発色;
(6)30分間静置後、20℃にて14,000rpmで10分間遠心し、上清200μlに蒸留水800μlを混合し、520nmでの吸光度を測定。1分間で1μmolのグルコース換算還元糖を遊離する酵素量を1Uとする。
【0092】
図4および
図5はそれぞれ、MT8-1/cocδBEC株、MT8-1/cocδBECII株、およびMT8-1/IBEC株のそれぞれのβ−グルコシダーゼ活性およびPASC(リン酸膨潤セルロース)分解活性を示す。
図4では、縦軸は反応後の400nmにおける吸光度を表し、これは、β−グルコシダーゼ酵素活性の指標である。
図5では、縦軸は1g酵母湿潤量当たりの酵素量Uを表し、これは、PASC分解活性の指標である。
図4および
図5とも、横軸の「1」はMT8-1/IBEC株、「2」はMT8-1/cocδBEC株、そして「3」はMT8-1/cocδBECII株を表す。
【0093】
1サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC株は、通常のインテグレーションによる形質転換体MT8-1/IBEC株と比較して、β−グルコシダーゼ活性が低下しているが、PASC分解活性は向上していることが確認された。2サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBECII株では、β−グルコシダーゼ活性がさらに低下しているが、PASC分解活性がさらに向上していた。
【0094】
(実施例4:形質転換体の遺伝子導入の確認)
実施例2で創製したカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC株および通常のインテグレーションによる形質転換体MT8-1/IBEC株へのβ−グルコシダーゼ遺伝子、セロビオヒドロラーゼII遺伝子、およびエンドグルカナーゼII遺伝子の3種の遺伝子の導入を、コロニーPCRにより確認した。
【0095】
選択培地プレート上の酵母コロニーを20μLの0.25%(w/v)のSDSに懸濁し、5分間ボルテックスをかけた。次いで、蒸留水180μLを添加し、14,000rpmにて30秒間遠心し、上清を採った。この上清をテンプレートとし、KOD-plus-DNAポリメラーゼを用いてPCRを行った。プライマーは、BGL用としてBGL500-1000(F)(配列番号23)およびBGL500-1000(R)(配列番号24)、EGII用としてEGII300-800(F)(配列番号25)およびEGII300-800(R)(配列番号26)、そしてCBHII用としてCBHII300-800(F)(配列番号27)およびCBHII300-800(R)(配列番号28)を用いた。
【0096】
結果を
図6に示す。BGLの組のレーンはβ−グルコシダーゼ遺伝子の導入、EGIIの組のレーンはエンドグルカナーゼII遺伝子の導入、そしてCBHIIの組のレーンはセロビオヒドロラーゼII遺伝子の導入の結果を示す。いずれの組も、レーン1が通常のインテグレーションによる形質転換体の結果を、そしてレーン2がカクテルδインテグレーションによる形質転換体の結果を表す。カクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC株には、β−グルコシダーゼ遺伝子、エンドグルカナーゼII遺伝子、およびセロビオヒドロラーゼII遺伝子のいずれもが導入されていたことが確認された。
【0097】
(実施例5:形質転換酵母の創製2)
実施例1で調製したプラスミドのうち、HIS3欠損マーカーを有するプラスミドpδH-PGAGBGL、URA3欠損マーカーを有するpδU-PGAGEGII、およびTRP1欠損マーカーを有するpδW-PGAGCBHIIを同時に酵母サッカロマイセス・セレビシエMT8-1株(MATa ade his3 leu2 trp1 ura3株)に供し、酢酸リチウム法により共形質転換した(通常のδインテグレーション)。形質転換の成功のスクリーニングのために、ヒスチジン、ウラシルおよびトリプトファンを含まず、かつPASCを単一炭素源とした選択培地プレート上でのコロニー形成の目視観察によるスクリーニングを行い、次いでPASC分解活性の測定によりスクリーニングを行い、通常のδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/δBEC株を取得した。
【0098】
実施例1で調製したプラスミドのうち、TRP1欠損マーカーを有する3種類のプラスミドpδW-PGAGBGL、pδW-PGAGEGII、およびpδW-PGAGCBHIIを同時に酵母サッカロマイセス・セレビシエMT8-1株(MATa ade his3 leu2 trp1 ura3株)に供し、酢酸リチウム法により共形質転換した(1サイクルカクテルδインテグレーション)。形質転換の成功のスクリーニングのために、トリプトファンを含まず、かつPASCを単一炭素源とした選択培地プレート上でのコロニー形成の目視観察によるスクリーニングを行い、次いでPASC分解活性の測定によりスクリーニングを行い、1サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC1株を取得した。
【0099】
さらに同様に、MT8-1/cocδBEC1株に、URA3欠損マーカーを有する3種類のプラスミドpδU-PGAGBGL、pδU-PGAGEGII、およびpδU-PGAGCBHIIを共形質転換した(2サイクルカクテルδインテグレーション)。形質転換の成功のスクリーニングについては、選択培地を、トリプトファンの代わりにウラシルを含まないようにしたこと以外は、MT8-1/cocδBEC1株の取得のためのスクリーニングと同様に行い、その結果、2サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC2株を取得した。
【0100】
さらに同様に、MT8-1/cocδBEC2株に、HIS3欠損マーカーを有する3種類のプラスミドpδH-PGAGBGL、pδH-PGAGEGII、およびpδH-PGAGCBHIIを共形質転換した(2サイクルカクテルδインテグレーション)。形質転換の成功のスクリーニングについては、選択培地を、トリプトファンの代わりにヒスチジンを含まないようにしたこと以外は、MT8-1/cocδBEC1株の取得のためのスクリーニングと同様に行い、その結果、3サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC3株を取得した。
【0101】
コントロールとして、プラスミドpIHAGBGL-NotI(非特許文献10)、ならびに調製例2で作製したプラスミドpIU-PGAGEGIIおよびpIW-PGAGCBHIIで酵母サッカロマイセス・セレビシエMT8-1株を形質転換し、形質転換体MT8-1/IBEC2を取得した。この通常のインテグレーションによる形質転換体については、ヒスチジン、ウラシルおよびトリプトファンを含まず、かつグルコースを炭素源とした選択培地プレート上でのコロニー形成の目視観察によるスクリーニングを行い、次いでPASC分解活性の測定によりスクリーニングを行った。
【0102】
(実施例6:形質転換体の活性測定2)
実施例5で創製した通常のδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/δBEC株、カクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC1株、MT8-1/cocδBEC2株、およびMT8-1/cocδBEC3株、ならびに通常のインテグレーションによる形質転換体MT8-1/IBEC2株および野生株のそれぞれについて、実施例3と同様にして、β−グルコシダーゼ活性およびPASC分解活性を測定した。
【0103】
図7は、MT8-1/δBEC株、MT8-1/cocδBEC1株、MT8-1/cocδBEC2株、MT8-1/cocδBEC3株、MT8-1/IBEC2株および野生株のそれぞれのβ−グルコシダーゼ活性(A)およびPASC分解活性(B)を示す。
【0104】
通常のδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/δBEC株は、通常のインテグレーションによる形質転換体MT8-1/IBEC2と比較して、β−グルコシダーゼ活性、PASC分解活性ともに大幅に向上していることが確認された。また、1サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC1株は、通常のδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/δBEC株と比較して、β−グルコシダーゼ活性は低下しているが、PASC分解活性は向上していることが確認された。この結果から、通常のδインテグレーションによる形質転換体はβ−グルコシダーゼ活性が過剰であり、3種類のセルラーゼの発現バランスが適切でないのに対して、1サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC1株では3種類のセルラーゼの発現バランスが適切であり、PASCを効率的に分解していることが示唆された。2サイクルおよび3サイクルのカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC2株およびMT8-1/cocδBEC3株においては、PASC分解活性がさらに向上しており、3種類のセルラーゼの発現バランスがより適切になったものと考えられる。
【0105】
(実施例7:形質転換体の遺伝子導入コピー数の測定)
通常のδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/δBEC株、カクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC1株、MT8-1/cocδBEC2株、およびMT8-1/cocδBEC3株、ならびに通常のインテグレーションによる形質転換体MT8-1/IBEC2株へのβ−グルコシダーゼ遺伝子、セロビオヒドロラーゼII遺伝子、およびエンドグルカナーゼII遺伝子の3種の遺伝子の導入コピー数を、リアルタイムPCR法により測定した。
【0106】
選択培地で培養した酵母5mLからYeaStar Genomic DNA kit(Zymo Research社)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。このゲノムDNAをテンプレートとし、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems社)を用いてリアルタイムPCRを行った。プライマーは、BGL用としてBGL761F(配列番号29)およびBGL858R(配列番号30)、EGII用としてEGII694F(配列番号31)およびEGII774R(配列番号32)、そしてCBHII用としてCBHII571F(配列番号33)およびCBHII653R(配列番号34)を用いた。リアルタイムPCRによる測定結果を標準化するためのコントロールとしてハウスキーピング遺伝子のPGK1遺伝子を用いた。
【0107】
結果を
図8に示す。通常のδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/δBEC株ではβ−グルコシダーゼ遺伝子、エンドグルカナーゼII遺伝子、およびセロビオヒドロラーゼII遺伝子の導入コピー数が6、5および9とほぼ同程度であったのに対し、1サイクルカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC1株ではβ−グルコシダーゼ遺伝子、エンドグルカナーゼII遺伝子、およびセロビオヒドロラーゼII遺伝子の導入コピー数が1、8および2となり、エンドグルカナーゼII遺伝子の導入コピー数が特異的に増加することが確認された。また、2サイクルおよび3サイクルのカクテルδインテグレーションによる形質転換体MT8-1/cocδBEC2株およびMT8-1/cocδBEC3株においてもエンドグルカナーゼII遺伝子の導入コピー数が特異的に増加することが確認された。
【0108】
図7および8より、セルラーゼ遺伝子の導入によるセルロース分解性酵母の作製において、エンドグルカナーゼII遺伝子の導入コピー数の他のセルラーゼ遺伝子の導入コピー数に対する比率の増大につれ、PASC分解活性が増大することがわかった。遺伝子の比が、エンドグルカナーゼII/β−グルコシダーゼで2以上、かつエンドグルカナーゼII/セロビオヒドロラーゼIIで1以上である酵母は、より向上したPASC分解活性を有することがわかった。