(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線受光装置の平面図である。
【
図3】
図1のB−B断面における要部拡大図である。
【
図4】
図1に示す赤外線受光装置の湾曲後の状態を示す側面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る赤外線受光装置の平面図である。
【
図6】受光素子の検知領域を説明するための概略側面図である。
【
図7】赤外線受光装置の検知領域を説明するための概略側面図である。
【
図8】赤外線受光装置の湾曲状態における検知領域を説明するための概略側面図である。
【
図9】赤外線受光装置の他の湾曲状態における検知領域を説明するための概略側面図である。
【
図10】本発明の各実施形態に係る赤外線受光装置にチョッパを設けたセンサ装置の一実施形態を示す側面図である。
【
図12】赤外線受光装置の更に他の湾曲状態における検知領域を説明するための概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外線受光装置の平面図であり、
図2は、
図1のA−A断面図である。
図1および
図2に示すように、赤外線受光装置1は、焦電体基板10と、焦電体基板10の表面側に配置された集光レンズ20と、焦電体基板10および集光レンズ20を厚み方向に所定の間隔をあけて保持するケーシング30とを備える焦電型赤外線センサである。
【0010】
図3は、
図1のB−B断面における焦電体基板10の構成を示す要部拡大図である。
図3に示すように、焦電体基板10は、支持基材11の表面に焦電体膜12が形成されており、焦電体膜12の表裏面に受光電極13および対向電極14が配置されている。支持基材11は、例えばポリイミドやポリエチレン等の高分子材料からなる厚みが5〜200μm程度のシート状部材であり、可撓性を有することが好ましい。焦電体膜12は、主として屈曲に耐える柔軟な有機強誘電体であることが好ましい。焦電効果を示す材料要件は、自発分極を有する誘電体であって、分子構造や分子間の相互作用によって極性部位を有するものである。本発明において上記要件を満たせば特に限定されないが、たとえば、炭素(C)鎖に水素(H)とフッ素(F)が配置されたCH2-CF2を極性部位の基本単位とするポリフッ化ビニリデン(PVDF)やその共重合体など一連の化合物、Cと窒素(N)のCNを極性部位とするシアン化ビニリデン系化合物、尿素結合部分(NH-C=O-NH)を極性部位とするポリ尿素などのウレタン系化合物、水素結合が極性部位として働くポリアミド化合物であるナイロン(特に炭素数7と11のナイロン7、ナイロン11)、OH基を有するポリ乳酸L体などの一部のポリエステル材料が挙げられる。また、焦電効果の向上を目的として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウムなどの無機系の極性材料と有機材料との複合系でも柔軟性を有していれば利用できる。
【0011】
受光電極13および対向電極14は、例えば、Au、Ag、Al、Cr、Ni、Pt等の金属またはこれらの合金の蒸着膜や、炭素蒸着膜、あるいは、ポリアニリン、ポリチオフェン、PEDOT−PSSなどの有機電極等を用いることができる。受光電極13は、赤外線吸収性が高い材質からなることが好ましい。
【0012】
上記の構成を備える焦電体基板10は、例えば、支持基材11の表面に対向電極14を真空蒸着やスピンコート等により形成した後、対向電極14の表面に焦電体膜12を真空蒸着等により形成し、焦電体膜12の表面に受光電極13を真空蒸着やスピンコート等により形成して得ることができる。焦電体基板10は、後述するケーシング30の曲げ変形に容易に追従することができるように、全体として可撓性を有することが好ましい。
【0013】
受光電極13および対向電極14は、支持基材11の長手方向に沿って複数に分割されており、それぞれ焦電体膜12を挟んで互いに対向するように配置されている。焦電体膜12は、対向する受光電極13と対向電極14との間で分極処理が施されることで、一列に配置された複数の受光素子16a〜16e(
図3では、2つの受光素子16c,16dを示す)を形成している。受光素子16a〜16eの数は複数であれば特に限定されないが、3つ以上であることが好ましい。受光電極13および対向電極14は、いずれか一方のみを分割して形成し、他方は単一の共通電極として構成することも可能である。受光素子16a〜16eは、マスクやフォトリソグラフィにより焦電体膜12をパターニングして形成することができる。
【0014】
集光レンズ20は、
図1および
図2に示すように、ポリエチレンなどの赤外線透過性を有する基材フィルム21の一方面に、金型を用いた射出成形等により形成されており、各受光素子16a〜16eの直上に位置するように複数配置されている。集光レンズ20は、外部から入射した赤外線を対応する各受光素子16a〜16eに集光できるように、例えばフレネルレンズ等から構成されている。集光レンズ20の表面側または裏面側には、赤外線のみを透過する赤外線フィルタ(図示せず)を設けてもよい。
【0015】
ケーシング30は、
図2に示すように、フレーム31の表裏面がそれぞれキャップ32およびベース33で覆われて、平面視が矩形の偏平な筐体状に形成されている。ケーシング30の側壁を構成するフレーム31は、細長の平板状部材の長手方向(
図2を貫通する方向)に沿って等間隔に貫通孔311を設けて形成されており、ベース33上に配置された焦電体基板10の各受光素子16a〜16eをそれぞれ貫通孔311内に収容する。フレーム31の厚みは、集光レンズ20から各受光素子16a〜16eまでの焦点距離によって決定され、例えば1mm程度である。
【0016】
キャップ32は、各受光素子16a〜16eの直上にそれぞれ窓部321を有している。キャップ32の表面には、集光レンズ20が窓部321に位置するように、基材フィルム21が配置されている。ベース33は、各受光素子16a〜16eの直下に、各受光素子16a〜16eと略同じ大きさを有する凹部331が形成されており、低熱容量化を図っている。フレーム31の貫通孔311は、基材フィルム21、キャップ32およびベース33により密閉される。この密閉空間は、窒素等の不活性ガスを注入したり真空引きする等して、受光素子16a〜16eや集光レンズ20の劣化を抑制するようにしてもよい。
【0017】
ケーシング30は、ゴム、合成樹脂、金属等の材料により形成され、板厚方向(ベース33、フレーム31およびキャップ32の積層方向)に曲げ変形が可能となるように、厚みを約2mm以下にすることが好ましい。ケーシング30の変形は、弾性変形または塑性変形のいずれであってもよいが、曲げた後の形状保持が容易となるように、ケーシング30をアルミニウムや銅などの塑性変形が容易な材料により形成することが好ましい。この場合、フレーム31のみをアルミニウム等で形成し、キャップ32およびベース33は、他の変形可能な材料で形成してもよい。ケーシング30は、貫通孔311の内部を外乱からシールドするため、導電性材料により形成したり、内面側に導電性コート層を形成することが好ましい。また、必要に応じて集光レンズ20の内面側にも、赤外線透過性を有する導電性薄膜や金網等からなる電磁波シールド層を形成してもよい。
【0018】
図1に示すように、ケーシング30には、信号処理ボックス40がコネクタ42を介して着脱自在に装着されている。信号処理ボックス40は、例えば、各受光素子16a〜16eの検出電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路や、電圧信号を増幅して検知信号を生成する増幅回路等が、高剛性の筐体内に収容されて構成されている。信号処理ボックス40により生成された検知信号は、有線または無線で接続された外部の制御装置(図示せず)に送信され、この制御装置において検知信号と閾値との比較や閾値の調整等が行われて、各受光素子16a〜16eによる人体等の検出の有無が判別される。
【0019】
このように構成された赤外線受光装置1は、
図4に示すように、ケーシング30を厚み方向に湾曲させて、設置面に対して直接あるいはブラケット等を介して取り付けることにより、位置及び湾曲後の形状が固定された状態で使用することができる。
図4に示すケーシング30は、広範囲を検出できるように、集光レンズ20(
図4では1つの位置のみを示す)が外面側となるように湾曲させているが、集光レンズ20が内面側となるようにケーシング30を湾曲させることも可能であり、例えば円管の外周面を検査する等の用途に好適である。信号処理ボックス40は、ケーシング30に対してコネクタ42を介して接続されているため、信号処理ボックス40には曲げ変形は生じない。したがって、赤外線受光装置1の信頼性や耐久性を高めることができると共に、受光素子の一部が損傷した場合や受光素子の数や配置を異ならせるニーズが生じた場合でも、新たなケーシング30に迅速容易に取り替えることができる。但し、信号処理ボックス40の筐体をフレキシブルパッケージとして、
図5に示すようにケーシング30の表面に設けることにより、信号処理ボックス40がケーシング30と一体的に曲げ変形するように構成してもよい。
【0020】
次に、上記赤外線受光装置1の使用方法を説明する。
図6に示すように、受光素子16aの検知領域E1は、集光レンズ20のレンズ形状によって、それぞれの間に非検知領域が介在するように複数に分割されている(他の受光素子16b〜16eについても同様)。各受光素子16a〜16eの検知領域は、レンズ形状の設定による以外に、例えば、それぞれを複数の素子から構成することによって分割することもできる。
【0021】
ケーシング30を湾曲させる前の各受光素子16a〜16eが直線状に配置された状態では、
図7に示すように、各受光素子16a〜16eの検知領域E1〜E5は、大部分が互いに重複する。したがって、赤外線受光装置1の周辺に人体等の検知対象となる空間領域S1〜S3を設定した場合、いずれの空間領域S1〜S3においても、全ての受光素子16a〜16eの検知領域が重複するため、赤外線受光装置1の検知角度や検知精度は、受光素子が単一の場合と比べてほとんど変わらないことになる。
【0022】
これに対し、
図8に示すように、ケーシング30を各受光素子16a〜16eの配列方向に沿って側面視円弧状に湾曲させた場合には、赤外線受光装置1の検知角度が拡がるだけでなく、各受光素子16a〜16eの検知領域の重複が、それぞれの空間領域によって変化する。すなわち、5つの空間領域S11〜S15を設定した場合、空間領域S11においては、2つの受光素子16a,16bの検知領域E1,E2のみが重複するのに対し、空間領域S12においては、更に受光素子16cを加えた3つの受光素子16a〜16cの検知領域E1〜E3が重複する。また、空間領域S13においては、3つの受光素子16b〜16dの検知領域E2〜E4が重複し、空間領域S14においては、3つの受光素子16c〜16eの検知領域E3〜E5が重複する。空間領域S15においては、2つの受光素子16d,16eの検知領域E4,E5が重複する。
【0023】
このように、本実施形態の赤外線受光装置1は、ケーシング30の湾曲によって、各空間領域S11〜S15における検知領域E1〜E5の重複が、空間領域S11〜S15毎に異なる受光素子16a〜16eの組み合わせによって生じるため、人体等を単に検知するだけでなく、検知した人体等がどの空間領域S11〜S15に存在するかを、受光素子16a〜16eの組み合わせによって正確に判別することができる。判別可能な空間領域の数は、各受光素子の検知領域の分割と共に、受光素子の数を増やすことによって相乗的に増加させることができ、検知対象となる広範囲の領域を細分化して、高い精度で検知することができる。
【0024】
また、本実施形態の赤外線受光装置1は、ケーシング30の湾曲によって、各受光素子16a〜16eの相対的な位置や向きが変化するだけでなく、受光素子16a〜16c自体も湾曲することで、検知領域E1〜E5の大きさを変化させることができる。すなわち、曲げ角に応じて視野角や分解能を連続的に細かく調整することが可能であり、複数の赤外線センサを個別に配置する場合と比較して、上述した検知領域E1〜E5の所望の組み合わせを迅速容易に実現することができる。焦電体基板10および集光レンズ20は、厚み方向に間隔をあけて保持されているため、ケーシング30の湾曲状態においても、良好な検知領域E1〜E5が維持される。
【0025】
図8に示す赤外線受光装置1の湾曲形状は、空間領域S11〜S15を互いに間隔をあけて設定した場合に対応しており、人の流れや速度を検知するのに適している。これに対し、
図9に示すように、空間領域S21〜S29を隙間無く設定して人体等の位置検出を行う場合には、湾曲させたケーシング30の曲率半径を、
図8の場合よりも大きくすればよい。このように、ケーシング30の湾曲形状を変えることで、設置環境や目的等に応じた最適なセッティングを迅速容易に行うことができる。静止状態の人体等を検知可能とするために、赤外線受光装置1には、各受光素子16a〜16eの検知領域E1〜E5を遮断するチョッパを適宜設けてもよい。
【0026】
図9において、複数の受光素子16a〜16eの組み合わせによる検知領域E1〜E5の重複は、設定した全ての空間領域S21〜S29で生じる必要はなく、一部の空間領域S21〜S29のみで生じていればよい。例えば、空間領域S21,S22,S28,S29においては、それぞれ単一の検知領域E1,E2,E4,E5しか存在しないが、この場合でも、他の空間領域(例えばS23,S24)において検知領域の重複(例えばE1およびE3,E2およびE4)が生じることによって、これらを判別することが可能である。すなわち、複数の空間領域S21〜S29と検知領域E1〜E5との間に生じる重複は、空間領域S21〜S29毎に異なる受光素子16a〜16eによって生じていれば、単一の受光素子16a〜16eによるものであってもよい。更に、各空間領域S21〜S29と検知領域E1〜E5との重複を生じさせる受光素子16a〜16eは、必ずしも全ての空間領域S21〜S29で異なる必要はない。例えば、空間領域S24,S26は、いずれも同じ受光素子16b,16dの組み合わせによって検知領域E2,E4の重複が生じているが、隣接する空間領域における検知状況等から判別することができる。
【0027】
図10は、湾曲させた赤外線受光装置1に対して、チョッパ44を設けたセンサ装置の一実施形態を示す側面図であり、
図11は、
図10のC−C断面図である。
図10および
図11に示すように、赤外線受光装置1は、側面視半円状に湾曲させた状態で、駆動モータ45と共に保持ブロック46の表面に固定されている。チョッパ44は、有蓋円筒状に形成されており、蓋部の中心に駆動モータ45の回転軸45aが結合されて、回転可能に支持されている。チョッパ44の側壁44aは、赤外線受光装置1の各受光素子16a〜16eとの間に生じる隙間が一定となるように赤外線受光装置1の湾曲形状に沿って形成されており、各受光素子16a〜16eと対向する位置に、各受光素子16a〜16eと略同じ大きさを有する開口44bを有している。このセンサ装置によれば、各受光素子16a〜16eは、チョッパ44の回転により開口44bと重なったときのみセンシングを行うことができるので、各受光素子16a〜16eに入射する赤外線がチョッピングされる。したがって、検知領域E1〜E5内で人体等が静止している場合であっても確実に検出することができ、且つその位置を特定することができる。開口44bは、本実施形態では単一としているが、複数設けてもよい。
【0028】
図8および
図9に示す実施形態は、赤外線受光装置1のケーシング30を側面視円弧状に湾曲させているが、
図12に示すように、側面視円形状に湾曲させて、360度の視野角を有する配置としてもよい。この構成によれば、設定した全ての空間領域S31〜S40に対して単一の検知領域E1〜E5が存在するか、あるいは、2つの受光素子16a〜16eの組み合わせによる検知領域E1〜E5の重複が得られ、全方向における人の流れを検出することができる。
【0029】
その他、側面視を波形状や楕円形状としたり、台形状などの多角形状とする等、ケーシング30の湾曲形状は特に限定されるものではなく、設定された空間領域において所望の検知領域の重複が生じるように、任意の形状とすることができる。また、ケーシング30の先端部など一部のみを湾曲させたものであってもよい。本実施形態の赤外線受光装置1は、受光素子16a〜16eを一列に配置しているが、マトリクス状や放射状など他の配置であってもよい。例えば、マトリクス状に配置された受光素子を収容したケーシングを球面状に湾曲させることにより、検知領域を平面状に拡げることができ、広範囲の検知を行うことができる。