(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークを載置するテーブルと、ヘッドに回転自在に支持されたスピンドルと、前記スピンドルに装着されて前記ワークに溝加工を行うアングルヘッド切削工具とを有するアングルヘッド工作機械であって、
前記切削工具は、
前記スピンドルに装着されるシャンクと、前記シャンクからその回転軸線に沿って延びるシャンク軸と、前記シャンク軸を回転自在に支持するケースと、前記ケースを前記ヘッドに接続するジョイントと、前記ケースに回転自在に支持されかつ前記シャンク軸と交叉方向に配置されたロータ軸と、前記シャンク軸の回転を前記ロータ軸に伝達する伝達機構と、前記ロータ軸に接続されて前記ロータ軸と一体に回転するロータと、前記ロータに設置されて前記ロータ軸の回転軸線に平行なカッタ軸を有する複数のカッタと、を有し、
前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向に並んだ状態とすることで、加工される前記ワークに加工される溝の幅を最小とし、
前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向と直角に並んだ状態とすることで、前記ワークに加工される溝の幅を最大とし、
前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向に並んだ状態と前記溝加工の方向に直角に並んだ状態との中間の位置とすることで、前記ワークに加工される溝の幅を中間的な寸法とすることを特徴とするアングルヘッド工作機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した溝加工用の切削工具では、ワークに形成される溝の幅が工具によって決まる。つまり、工具の外周面に形成された刃先の最外周部分が描く回転軌跡の直径がワークの溝幅となって現れる。
従って、ワークの溝幅を変更したい場合あるいは異なる幅の溝加工を行う場合には、切削工具を交換する必要が生じていた。このような工具交換は、人手による場合は勿論のこと、工具交換装置による交換であっても所定の時間を要し、作業効率を低下させる原因となっていた。
【0007】
なお、工具の外周径よりも大きい溝幅を加工する場合、溝加工を2回以上繰り返すことにより、工具交換なしに加工が可能である。しかし、この場合でも作業効率の低下は避けられない。
さらに、ワークに加工する溝が、溝の長手方向に沿ってその幅寸法が変化する形状である場合、同じ工具のまま1回で加工することは不可能であり、必ず幅寸法を規定する両側内面に沿った2回以上の切削が必要となっていた。
同様に、例えば横中ぐり盤など、ワークが切削工具に対して回転する形式の装置において、ワークにその回転中心に沿って延びる溝を加工する場合、溝内の対向する両側内面は正確にはワークの径方向の面となり、その結果、溝断面は矩形ではなく扇形となる。特に、溝幅がワーク直径に対して大きい場合、扇形が顕著となり、通常の矩形断面の溝を形成できないことになる。
【0008】
前述のように、加工内容によっては、同じ切削工具による複数回の加工が必要になる場合がある。さらに、同じ切削工具では加工ができないため、異なる切削工具に取り替えて複数回の加工を行う場合もある。このような場合、切削工具の交換を伴う複数回の加工は避けられないものであった。
【0009】
例えば、幅広い溝の底部に狭い溝を二段に形成する場合、狭い溝に対応した切削工具で全てを加工することも可能であるが、加工の繰り返し回数が多数となり煩雑で非効率的である。このため、先ず幅広い溝の幅に対応する大径の切削工具で1段目の溝を形成し、その底面に狭い溝の幅に対応する小径の切削工具で2段目の溝を形成することが行われる。しかし、このような場合でも工具交換を伴う2回の溝加工が必要となる。
工具交換が必要となる他の例として、表面仕上げ精度が異なる研削あるいは研磨を行う場合、粗密の2種類の工具を取り替えて2回の加工を行う必要がある。
このように、異なる幅や高さ等の寸法、異なる仕上げ精度、複雑な形状など、異なる条件での加工が必要な場合、複数の工具を交換しつつ2回以上の加工動作が必須であった。
【0010】
本発明の目的は、異なる幅の溝を加工できるアングルヘッド切削工具およびアングルヘッド工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のアングルヘッド切削工具は、ヘッドに回転自在に支持されたスピンドルを有する工作機械に装着されてワークに溝加工を行うためのアングルヘッド切削工具であって、
前記スピンドルに装着されるシャンクと、前記シャンクからその回転軸線に沿って延びるシャンク軸と、前記シャンク軸を回転自在に支持するケースと、前記ケースを前記ヘッドに接続するジョイントと、前記ケースに回転自在に支持されかつ前記シャンク軸と交叉方向に配置されたロータ軸と、前記シャンク軸の回転を前記ロータ軸に伝達する伝達機構と、前記ロータ軸に接続されて前記ロータ軸と一体に回転するロータと、前記ロータに設置されて前記ロータ軸の回転軸線に平行なカッタ軸を有する複数のカッタと、を有
し、前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向に並んだ状態とすることで、加工される前記ワークに加工される溝の幅を最小とし、前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向と直角に並んだ状態とすることで、前記ワークに加工される溝の幅を最大とし、前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向に並んだ状態と前記溝加工の方向に直角に並んだ状態との中間の位置とすることで、前記ワークに加工される溝の幅を中間的な寸法とすることを特徴とする。
本発明において、複数のカッタとしては、同一仕様のカッタを複数用いるとしてもよく、仕様(例えば、径や高さ等の寸法、形状、刃物の配置や向き、加工精度など)の一部が異なるカッタを用いてもよい。
本発明において、カッタとしては、ワークの切削を行うものに限らず、研磨、研削あるいは穿孔など、ワークからその材料を除去することで加工を行うための手段を広く含む。
【0012】
このような本発明によれば、ロータに設置されたカッタを回転させることにより、ワークの溝加工あるいは切削、研磨、研削、穿孔等を行うことができる。
この際、ケースはジョイントによりヘッドに廻り止めされるのに対し、シャンクおよびシャンク軸はスピンドルにより回転駆動され、この回転は伝達機構を介してロータおよびロータ軸に伝達される。そして、ロータが回転することで、複数のカッタの並びが変更され、ワークに対する溝加工の幅の変更、切削や研磨を行う範囲の変更などが可能となる。
【0013】
本発明では、ロータ軸とシャンク軸とを交叉方向に配置することで、ロータおよびカッタがスピンドルの回転軸方向に対して交叉方向に向けて配置される(アングルヘッド機能)。このため、例えば立方体状のワークの側面に縦方向の溝加工を行うことができる。
本発明では、アングルヘッドとしての向き(スピンドルの回転軸まわりの向き)を変化させるための機構をもたないが、テーブルに固定されたワークの向きを変更する等により、ワークの他の側面の加工を行うことができる。
このように、アングルヘッドとしての向きを変える機構を省略することで、構造的な簡略化が可能となり、コストの低減および保守性の向上が可能である。
【0014】
本発明において、同一仕様の複数のカッタを用いた場合、ロータに支持された複数のカッタを回転させ、各々の側面の刃物でワークを切削することで、任意の幅の溝加工を行うことができる。この際、ワークに切削される溝の幅は、ロータの角度位置によって変化させることができる。
例えば、ロータに設置されたカッタが2つとして、カッタが溝加工の方向に並んでいる状態では一方のカッタが切削した後、他方のカッタは形成された溝内を通過するだけであり、形成される溝の幅は最小幅であるカッタの外周面の直径寸法となる。一方、2つのカッタが溝加工の方向と直角に並んだ状態では、2つのカッタが並列に切削を行うことになり、2つのカッタの外側を結んだ最大幅の溝が加工されることになる。さらに、ロータを前述した二位置の中間にした場合、2つのカッタの外側を結んだ幅が、前述した最大幅より小さいが前述した最小幅より大きい中間的な任意の寸法とすることができる。
このように、本発明によれば、ロータの回転角度位置によって複数のカッタの配置を変更することができ、この配置変更により溝加工の幅を自由に変更することが可能となる。
【0015】
一方、仕様が異なる複数のカッタを用いる場合、ワークに対して適用されるカッタをロータの回転角度位置によって選択することができ、工具交換を伴う2回の加工を1回で実行することができる。また、異なるカッタを用いることで、複数の加工内容の組み合わせ、あるいは複数の断面形状の組み合わせ等にも1回の加工で対応できる。
例えば、工具への負荷を軽減するために先溝加工を行う場合があるが、このような場合、先ず小径のカッタで狭い幅の溝を加工しておき、続いて狭い溝に沿って大径のカッタで幅の広い溝を加工してゆくことで、工具交換なしに加工を完了することができる。
あるいは、幅広い溝の底部に狭い溝を二段に形成する場合、高さ寸法が大きく小径のカッタと、高さ寸法が小さく大径のカッタとを組み合わせた切削工具とすることで、工具交換なしに加工を完了することができる。
【0016】
本発明のアングルヘッド切削工具において、前記カッタは、前記スピンドルを通して供給される高圧空気により回転駆動されるエアモータを有する構成が採用できる。
あるいは、前記カッタは、電動モータを有するものとしてもよい。
このような本発明では、ロータがスピンドルの回転動作を利用して回転駆動されるのに対し、カッタの回転駆動に個別のモータを用いるため、構成を簡略にでき、保守性も向上できる。また、カッタおよび各ロータの駆動が独立しているため、カッタを回転させて溝加工を実行している最中であっても各ロータをそれぞれ回転させることができ、同時に回転させることで加工される溝幅を連続的に変化させることも可能である。
【0017】
本発明のアングルヘッド切削工具において、前記ジョイントは、前記シャンクの回転軸線と平行な軸線に沿って延びかつ前記ヘッドに嵌合するサブシャンクであることが望ましい。
このようなサブシャンクを用いることで、シャンクをスピンドルに装着する動作の際に、一括してサブシャンクをヘッドに接続することができ、切削工具としての着脱を効率よくかつ確実に行うことができる。
【0018】
本発明のアングルヘッド切削工具において、前記ケースには、前記ロータを前記ケースに対して廻り止めする解除可能な廻り止め機構が形成されていることが望ましい。
このような廻り止めを採用することで、ワークの切削中に切削負荷によりケースが移動することを防止でき、スピンドルの回転により高精度に割り出したロータの回転角度位置を確実に維持することができる。
【0019】
本発明のアングルヘッド切削工具において、前記廻り止め機構は、通電時に前記ロータを前記ケースに対して廻り止めするとともに、非通電時に廻り止めを解除する電磁クラッチであることが望ましい。
このような電磁クラッチとすることで、廻り止めの断続を簡単かつ確実に操作することができる。
なお、通電時に廻り止めする機構は通常のソレノイド等を利用すればよく、非通電時に廻り止めを解除する機構としてはばね等でソレノイド等を逆向きに付勢しておく構造などが採用できる。
【0020】
本発明のアングルヘッド工作機械は
、ワークを載置するテーブルと、ヘッドに回転自在に支持されたスピンドルと、前記スピンドルに装着されて前記ワークに溝加工を行うアングルヘッド切削工具とを有するアングルヘッド工作機械であって、前記切削工具は、前記スピンドルに装着されるシャンクと、前記シャンクからその回転軸線に沿って延びるシャンク軸と、前記シャンク軸を回転自在に支持するケースと、前記ケースを前記ヘッドに接続するジョイントと、前記ケースに回転自在に支持されかつ前記シャンク軸と交叉方向に配置されたロータ軸と、前記シャンク軸の回転を前記ロータ軸に伝達する伝達機構と、前記ロータ軸に接続されて前記ロータ軸と一体に回転するロータと、前記ロータに設置されて前記ロータ軸の回転軸線に平行なカッタ軸を有する複数のカッタと、を有
し、前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向に並んだ状態とすることで、加工される前記ワークに加工される溝の幅を最小とし、前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向と直角に並んだ状態とすることで、前記ワークに加工される溝の幅を最大とし、前記ロータを回転させて、前記カッタが前記溝加工の方向に並んだ状態と前記溝加工の方向に直角に並んだ状態との中間の位置とすることで、前記ワークに加工される溝の幅を中間的な寸法とすることを特徴とする。
このような本発明では、前述したアングルヘッド切削工具について述べた本発明の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ロータに支持されたカッタとシャンクとをケースにおいて交叉方向に配置することでアングルヘッド機能が得られるとともに、ロータの回転角度位置によって複数のカッタの配置を変更することができ、この配置変更により異なる幅の溝をワークに加工できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1から
図7には、本発明の第1実施形態が示されている。
図1に示すように、本発明のアングルヘッド切削工具1は、シャンク10、ケース20、ジョイント30、ロータ40、一対のカッタ50を有する。そして、
図2に示すように、工作機械のスピンドル2およびこれを支持するヘッド3に装着されてワークに対する溝加工を行うものである。
【0024】
シャンク10は、通常の工具に多用されるテーパーシャンク11および自動工具交換用の支持部12を備え、このテーパーシャンク11でスピンドル2に接続されることで、スピンドル2と一体に回転可能である。
シャンク10は、テーパーシャンク11からその回転軸線に沿ってケース20内へと延びるシャンク軸13を有する。
【0025】
ケース20は、円筒形の上ケース21および下ケース22を有し、下ケース22の周面には側ケース23が接続されている。
ジョイント30は、ケース20の周面から径方向へ膨出した保持部32を有し、この保持部32には円錐台状のサブシャンク31が形成されている。このサブシャンク31は、前述したテーパーシャンク11と平行な軸線で円錐台状に形成され、ヘッド3から延びる延長部3Aに接続可能である。この延長部3Aとサブシャンク31との接続により、ケース20はヘッド3に対して廻り止め固定される。
【0026】
ロータ40は、側ケース23の端面に設置された円盤状のプレート41を有するとともに、プレート41の中心軸線に沿ってケース20内へと延びるロータ軸43を有する。
ロータ軸43は、前述したシャンク軸13に対して直交方向に配置されている。
カッタ50は、ロータ40のプレート41に2個一対で設置されている。
カッタ50は、円筒状のホルダ51の周面ないし端面にかけて複数の刃物52を装着したものであり、カッタ駆動用のモータ53で回転駆動されることで、刃物52によりワークに対する溝加工を行うことができる。
図3に示すように、カッタ50の刃物52およびモータ53の回転軸線AC(カッタ軸)は、前述したロータ軸43の回転軸線ARに対して平行、つまりシャンク軸13およびスピンドル2の回転軸線ASとは直交方向に配置されている。
【0027】
図3において、ケース20の内部には、シャンク軸13およびロータ軸43を支持する軸受14,44が設置されている。さらに、ケース20の内部には、シャンク軸13およびロータ軸43の回転伝達を行う伝達機構60が設置され、ロータ40をケース20に対して廻り止めする解除可能な廻り止め機構70が設置されている。
【0028】
上ケース21の内部にはボール式の軸受14が設置され、この軸受14によりシャンク軸13が回転自在に支持されている。
側ケース23の内部にはボール式の軸受44が設置され、この軸受44によりロータ軸43が回転自在に支持されている。
【0029】
伝達機構60は、シャンク軸13の先端に固定された傘歯車61と、ロータ軸43の先端に固定された傘歯車62とを有し、これらの噛合により直交配置されたシャンク軸13およびロータ軸43の間で回転伝達を行うことができる。
【0030】
廻り止め機構70は、側ケース23で支持された電磁クラッチ71を有する。
電磁クラッチ71は、ロータ軸43に固定された傘歯車62の裏面に対向する摩擦板72を有する。摩擦板72は、ばね73により傘歯車62に向けて付勢されており、通常は傘歯車62の裏面に圧接されることで、傘歯車62ないしロータ軸43をケース20に対して制動し、廻り止めを行う。一方、ばね73と並列に設置されたソレノイド74に電線75から通電があった際には、ソレノイド74により摩擦板72が傘歯車62の裏面から離隔され、前述した制動および廻り止めが解除されるようになっている。
なお、電磁クラッチ71を操作するための電線75は、ケース20外に引き出され、工作機械の制御装置等に接続され、その制御下におかれる。
【0031】
本実施形態においては、カッタ50は、カッタ駆動用のモータ53として高圧空気によって回転するエアモータを用いている。
このエアモータ式のモータ53に高圧空気を供給するために、次のような構成が採用されている。
シャンク軸13には、その中心軸線に沿って貫通する通路15が形成されており、シャンク10がスピンドル2に装着された状態では、スピンドル2から供給される高圧空気がシャンク軸13の傘歯車61側の先端まで導入される。
【0032】
ロータ軸43にも、その中心軸線に沿って貫通する通路45が形成され、この通路45はプレート41に形成された通路46を経由して各モータ53まで連通されている。
シャンク軸13の傘歯車61側の先端とロータ軸43の傘歯車62側の先端との間は、回転自在なカプラを含む連結配管63で接続されている。
これらにより、シャンク軸13の傘歯車61側の先端まで導入された高圧空気は、ロータ軸43の通路45およびプレート41の通路46を経て各モータ53に供給され、供給された高圧空気により各モータ53が回転駆動されるようになっている。
【0033】
このような本実施形態においては、次のような手順により、溝幅を調整しつつ、溝加工を行う。
先ず、溝幅の設定として、廻り止め機構70を解除した状態で、スピンドル2を回転させる(C軸制御する)。これにより、シャンク軸13、伝達機構60およびロータ軸43を介してロータ40が回転され、加工する溝に対するカッタ50の並び方向を変更することができ、この並び方向により加工する溝幅を調整することができる。
溝幅が設定できたら、廻り止め機構70を制動状態とし、加工を開始する。
加工にあたっては、スピンドル2から高圧空気を供給することでカッタ50を回転させ、ワークに対して切削を行う。その際、カッタ50の回転速度等は、スピンドル2からの高圧空気の供給状態(圧力および流量)を介して工作機械側から制御することができる。
【0034】
図4から
図6には、ワーク4に溝5を加工する際の溝幅調整の具体例が示されている。
なお、各図において、一対のカッタ50は各々のカッタ回転軸ACを中心に、例えば反対方向に回転駆動され、ワーク4に対する切削を行う。また、溝5の連続方向となるカッタ50の送り方向DM、カッタ50単体の最大外径D、一対のカッタ50の並び方向DC、溝5の最小幅W1、中間的な幅W2、最大幅W3とする。
【0035】
図4において、溝5を最小幅W1とする場合、一対のカッタ50を回転させてカッタ50の並び方向DCを溝5の方向DMに合わせる。
この状態では、方向DMから見ると、一対のカッタ50は重なって最外側の距離はカッタ50の最大外径Dひとつ分になる。
従って、この状態でカッタ50を回転させて切削を行いつつ、カッタ50を方向DMへと送ることで、最小幅W1=最大外径Dの溝5が形成される。
【0036】
図5において、溝5を中間的な幅W2とする場合、一対のカッタ50を回転させてカッタ50の並び方向DCを溝5の方向DMに対して角度S2だけ傾斜させる。
この状態では、方向DMから見ると、一対のカッタ50が並び、最外側の距離はカッタ50の最大外径Dひとつ分よりも大きくなる。
従って、この状態でカッタ50を回転させて切削を行いつつ、カッタ50を方向DMへと送ることで、幅W2>最大外径Dの溝5が形成される。
【0037】
図6において、溝5を最大幅W3とする場合、一対のカッタ50を回転させてカッタ50の並び方向DCを溝5の方向DMに対して直交方向とする。
この状態では、方向DMから見ると、一対のカッタ50が互いに真横に並び、最外側の距離はカッタ50の最大外径Dひとつ分と一対のカッタ回転軸の距離との和となる。
従って、この状態でカッタ50を回転させて切削を行いつつ、カッタ50を方向DMへと送ることで、最大幅W3の溝5が形成される。
【0038】
さらに、本実施形態のアングルヘッド切削工具1は、カッタ50を回転させつつ廻り止め機構70を解除し、ロータ40を回転させることで、カッタ50の並び方向DCを変化させながら同時に切削加工を進めることができる。このような加工により、連続的に幅が変化する溝を加工することができる。
【0039】
図7において、溝5は板状のワーク4の端面に加工されるテーパ溝である。このような溝5は本発明のアングルヘッド切削工具1で簡単に加工することができる。
先ず、一対のカッタ50の最外側の距離が幅W4となるようにカッタ50の並び方向DCの傾きS4を調整しておく。この状態でカッタ50をそれぞれ回転させてワーク4に切り込む。
続いて、切削と平行してカッタ50の並び方向DCの傾きを変化させつつ切削を進め、ワーク4の出口側でカッタ50の最外側の距離が幅W5となるような並び方向DCの傾きS5となるまで回転位置を調整する。
【0040】
このような並び方向DCの調整と平行して切削を進めることで、テーパ溝の加工が1パスで実施できる。
なお、
図7において、一対のカッタ50は、並び方向DCがカッタ50の送り方向DMに対して傾斜しており、ふたつのカッタ50は送り方向DMに対して前後になる。一方、テーパ状の溝5は送り方向DMに沿って幅が変化するため、それぞれカッタ50がある位置では異なる幅となる。従って、送り動作にあたっては、送り方向DMに対して幅方向にオフセットOFをとり、前後のカッタ50が正確に溝5の内側を切削するように補正することが好ましい。
【0041】
〔第2実施形態〕
図8には、本発明の第2実施形態が示されている。
図8において、アングルヘッド切削工具1Aは、前述した第1実施形態と同様なシャンク10、ケース20、ジョイント30、ロータ40、カッタ50、伝達機構60、廻り止め機構70を有する。これらの共通する構成については、簡略化のため同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0042】
前記第1実施形態では、カッタ50の駆動用にエアモータ式のモータ53を用いていた。これに対し、本実施形態では、電動モータ式のモータ53Aを用いる。
モータ53Aは、プレート41に対する設置状態は前記第1実施形態と同様であるが、モータ53Aの側面には接続端子54Aが形成され、この接続端子54Aに接続された電線55Aは、プレート41の中心に形成された通路46Aからロータ軸43を貫通する通路45を経てケース20内へ導かれ、廻り止め機構70の電線75とともにケース20外へと引き出されるようになっている。
【0043】
このような本実施形態によっても、一対のカッタ50をそれぞれ回転駆動できるとともにロータ40の回転により一対のカッタ50の並び方向DC(
図4〜
図6参照)を調節することができ、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0044】
〔第3実施形態〕
図9には、本発明の第3実施形態が示されている。
図9において、アングルヘッド切削工具1Aは、前述した第1実施形態と同様なシャンク10、ケース20、ジョイント30、ロータ40、カッタ50、伝達機構60、廻り止め機構70を有する。これらの共通する構成については、簡略化のため同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0045】
前記第1実施形態では、ロータ軸43は軸受44によりケース20に支持され、その一端にロータ41が接続され、他端に傘歯車62が固定されていた。
これに対し、本実施形態では、ロータ軸43はケース20内を横断するように延長され、ロータ41と反対側の端部はケース20に設置された軸受44Bで支持され、その近傍に傘歯車62Bが固定されている。
【0046】
軸受44Bは、下ケース22の側面のうち、側ケース23と反対側になる位置に設置され、ロータ軸43の端部を回転自在に支持している。
傘歯車62Bは、ロータ軸43の途中部分に固定され、シャンク軸13の傘歯車61に噛合されており、シャンク軸13の回転をロータ軸43に伝達可能である。本実施形態では、これらの傘歯車61,62Bにより、伝達機構60が構成される。
【0047】
本実施形態において、廻り止め機構70は、下ケース22の内面のうち、側ケース23と反対側になる位置に電磁クラッチ71Bを備えている。
電磁クラッチ71Bは、第1実施形態と同様な要素、すなわち摩擦板72、ばね73、ソレノイド74、電線75を備えたものである。
電磁クラッチ71Bは、下ケース22の内面に設置され、傘歯車62Bの裏面に圧接されて制動可能であり、これらにより廻り止め機構70が構成される。
【0048】
本実施形態では、ロータ軸43の外周に回転自在なカプラ64Bが設置されている。
ユニバーサルカプラ64Bは、ロータ軸43に対して回転自在に装着され、両側に一対のガスシールの間に内周を一巡するキャビティを有する。
ロータ軸43においては、エア供給用の通路45がロータ41側からカプラ64Bが設置された位置まで形成されており、側方に延びるバイパス孔を介して通路45とカプラ64B内のキャビティが連通される。
カプラ64Bの外周には、第1実施形態と同様な連結配管63Bが接続され、カプラ64B内のキャビティとシャンク軸13の通路15とが連通されている。
このようなシャンク軸13の通路15、連結配管63B、カプラ64B、ロータ軸43の通路45により、第1実施形態と同様に、スピンドル2からの高圧空気がモータ53に供給されるようになっている。
【0049】
このような本実施形態によっても、一対のカッタ50をそれぞれ回転駆動できるとともにロータ40の回転により一対のカッタ50の並び方向DC(
図4〜
図6参照)を調節することができ、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
加えて、本実施形態では、第1実施形態よりもロータ軸43が延長され、間隔をあけて配置された軸受44,44Bにより支持されるととも
に、軸受44,44Bが伝達機構60を挟んだ両側に配置されるため、ロータ軸43の軸心位置精度を高めることができる。
なお、本実施形態の構成において、第2実施形態のような電動式のモータ53Aを用いてもよい。
【0050】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、ロータ軸43とシャンク軸13とを互いに直交させたが、直交ではなく他の角度で交叉させるようにしてもよい。
前記実施形態では、廻り止め機構70として、摩擦板72を用いた電磁クラッチ71としたが、摩擦板ではなく噛み合い式のクラッチであってもよく、電磁式ではなくエア圧で動作するもの等であってもよく、要するにケース20に対してロータ40の制動が行えればよい。
そして、ロータ40ないしロータ軸43の一部を制動するのではなく、これに一体に回転する伝達機構60の一部あるいはシャンク軸13、シャンク10を制動するものであってもよい。
【0051】
前記実施形態では、ジョイント30としてヘッド3に対してシャンク10と同方向に係合するサブシャンク31を用いたが、ヘッド3の側面に係合するような構造を用いてもよく、簡単な凹凸嵌合に限らず、螺合その他の他の係合構造を利用してもよい。
【0052】
前記実施形態では、2つのカッタを用いたが、3つ以上のカッタを用いてもよい。3つ以上のカッタは、複数が一列に並ぶ配置、V字状の配置など、適宜な配置とすることができる。
本発明において、カッタとしては、ワークの切削を行うものに限らず、研磨、研削あるいは穿孔など、ワークからその材料を除去することで加工を行うための手段を広く含む。
【0053】
前記実施形態では、2つのカッタ50を同じものとしたが、一方を大径とし、他方を小径としてもよい。このような場合、並び方向DCを送り方向DMとした際の溝幅は大径のカッタの径となるが、小径のカッタを送り方向DMの前側とすることで、先に小径の溝の切削を行い、続いて大径の溝に拡げるという二段切削を行うことができ、切削性が低い材料への適用などで効果的である。
同様に、2つのカッタ50の一方を軸方向の高さが大きく、他方を高さが小さいものとしてもよい。このような構成では、溝の深さについての二段切削を行うことができる。さらに、高さおよび径の両方が異なるカッタを用いてもよい。