(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の燃料電池は、燃料電池の分解及び組み立てを繰り返すと各部品が各々の接触部で破損してしまい、出力電圧等において当初の性能を発揮することができない場合がある。特に、燃料電池に導入される燃料ガスのシール部材が破損する場合には、燃料ガスがリークして電極に燃料ガスを十分に導入することができなくなり、著しく性能が劣化してしまう。また、部品数が多いと燃料電池の分解及び組み立てを繰り返す際に部品を損失したり装着し忘れることもある。
【0005】
本発明の目的は、必要な部品数を少なくして組み立て及び分解を容易にするとともに、良好な出力電圧を有する燃料電池、その駆動システム及び燃料電池組み立てキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究の結果、セパレータに所望の処理を施すとともに、Oリングを用いずに燃料電池を構成することにより上述の目的を達し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
(1) 本発明の燃料電池は、固体高分子電解質膜部材と、固体高分子電解質膜部材の一方の面の上に配置された第1シート状電極部材と、前記第1シート状電極部材の上に配置され、シート状部材と、該シート状部材の表面に前記シート状部材とは異なる材質で形成された凸部とを有する酸化剤ガス極用セパレータ部材と、前記酸化剤ガス極用セパレータ部材の上に配置された酸化剤ガス極用プレート部材と、前記固体高分子電解質膜部材の他方の面の下に配置された第2シート状電極部材と、前記第2シート状電極部材の下に配置され、シート状部材と、該シート状部材の表面に前記シート状部材とは異なる材質で形成された凸部とを有する燃料ガス極用セパレータ部材と、前記燃料ガス極用セパレータ部材の下に配置され、前記第2シート状電極部材に導入される燃料ガスをシールする燃料ガス極用ガスケット部材と、前記燃料ガス極用ガスケット部材の下に配置された燃料ガス極用プレート部材と、前記固体高分子電解質膜部材、前記第1シート状電極部材、前記第2シート状電極部材、前記酸化剤ガス極用セパレータ部材、前記燃料ガス極用セパレータ部材及び前記燃料ガス極用ガスケット部材によってセルを構成するように、前記酸化剤ガス極用プレート部材と前記燃料ガス極用プレート部材との間にそれらを挟持させるネジ締め組立部材とを有する。
【0008】
(2) (1)に記載の燃料電池において、前記第1シート状電極部材及び前記第2シート状電極部材は、拡散層付き電極部材及び該拡散層付き電極部材が配置される電極用開口を有するガスケット部材からなり、前記酸化剤ガス極用セパレータ部材及び前記燃料ガス極用セパレータ部材は、前記電極用開口を有するガスケット部材側の面に前記凸部を有する。
【0009】
(3) (1)又は(2)に記載の燃料電池において、前記燃料ガス極用プレート部材には、一方の面から他方の面に前記燃料ガスを供給する第1燃料ガス流路と、供給された前記燃料ガスを排出する第2燃料ガス流路とが、前記一方の面から突出して設けられ、前記燃料ガス極用ガスケット部材には、前記第1燃料ガス流路に対応する位置にあって、前記燃料ガス極用プレート部材と接する面から前記燃料ガス極用セパレータ部材と接する面に貫通する第3燃料ガス流路と、前記第2燃料ガス流路に対応する位置にあって、前記燃料ガス極用プレート部材と接する面から前記燃料ガス極用セパレータ部材と接する面に貫通する第4燃料ガス流路とが設けられ、前記燃料ガス極用セパレータ部材には、前記第3燃料ガス流路に対応する位置にあって、前記燃料ガス極用ガスケット部材と接する面から前記第2シート状電極部材と接する面に貫通する第5燃料ガス流路と、前記第4燃料ガス流路に対応する位置にあって、前記燃料ガス極用ガスケット部材と接する面から前記第2シート状電極部材と接する面に貫通する第6燃料ガス流路とが設けられるとともに、前記第2シート状電極部材と接する面には前記第5燃料ガス流路から供給される前記燃料ガスを前記第2シート状電極部材の表面に沿って流し、前記第6燃料ガス流路に排出させる溝である燃料ガス分散路が形成され、前記第1燃料ガス流路と前記第3燃料ガス流路との接続部分、前記第3燃料ガス流路と前記第5燃料ガス流路との接続部分、前記第2燃料ガス流路と前記第4燃料ガス流路との接続部分、及び前記第4燃料ガス流路と前記第6燃料ガス流路との接続部分は、前記燃料ガス極用ガスケット部材でシールされている。
【0010】
(4) (3)に記載の燃料電池において、前記燃料ガス極用セパレータ部材は、前記第2シート状電極部材と接する面であって、前記燃料ガス分散路が形成されていない部分に前記凸部を有する。
【0011】
(5) (1)〜(4)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記酸化剤ガス極用セパレータ部材及び前記燃料ガス極用セパレータ部材に形成された前記凸部はエンボス加工により形成される。
【0012】
(6) (1)〜(5)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記酸化剤ガス極セパレータには、酸化剤ガス流路として短冊状に貫通された酸化剤ガス供給スリットが前記第1シート状電極の面積にわたり平行に形成されている。
【0013】
(7) (1)〜(6)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記燃料ガスの供給ラインに、燃料ガスを加湿するとともに燃料ガスの気流を検知する気流検知器を配置した。
【0014】
(8) また、本発明の燃料電池駆動システムは、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の燃料電池の燃料ガス供給ラインに、燃料ガスを加湿するとともに燃料ガスの気流を検知する気流検知器を配置した。
【0015】
(9) また、本発明の燃料電池の組み立てキットは、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の燃料電池を構成する部材を有する。
【0016】
(10) (9)に記載の組み立てキットにおいて、更に、前記燃料電池の燃料ガス供給ラインに、燃料ガスを加湿するとともに燃料ガスの気流を検知する気流検知器を有する。
【発明の効果】
【0017】
必要な部品数を少なくして組み立て及び分解を容易にするとともに、良好な出力電圧を有する燃料電池、その駆動システム及び燃料電池組み立てキットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態に係る燃料電池1は、酸化剤ガスとして空気を用い、燃料ガスとして水素を用いたものを一例として説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る燃料電池1の分解斜視図である。
図2(a)は本実施の形態に係る燃料電池の平面図であり、
図2(b)は本実施の形態に係る燃料電池の正面図であり、
図2(c)は本実施の形態に係る燃料電池の左側面図であり、
図2(d)は本実施の形態に係る燃料電池の底面図である。燃料電池1は、空気極用プレート10(酸化剤ガス極用プレート部材)と、空気極用セパレータ20(酸化剤ガス極用セパレータ部材)と、ガスケット30及び拡散層付き電極31からなる空気極用シート状電極35(第1シート状電極部材)と、ガスケット34及び拡散層付き電極33からなる水素極用シート状電極36(第2シート状電極部材)と、固体高分子電解質膜32と、水素極用セパレータ40(燃料ガス極用セパレータ部材)と、水素極用ガスケット41(燃料ガス極用ガスケット部材)と、水素極用プレート50(燃料ガス極用プレート部材)と、組立ネジ60(ネジ締め組立部材)とから構成されている。
【0021】
空気極用プレート10について説明する。
図3(a)は空気極用プレート10の平面図であり、
図3(b)は空気極用プレート10の正面図であり、
図3(c)は空気極用プレート10の底面図である。空気極用プレート10は燃料電池1の組立状態や内部がよく見えるように、絶縁性を有する透明な材質で形成されている。空気極用プレート10の材質が絶縁性を有することにより、空気極用セパレータ20と水素極用セパレータ40が外部の導体への接触を抑制することができる。空気極用プレート10の左右端部には、各々位置決め支柱10aが設けられている。位置決め支柱10aの中央部には、組立ネジ60のネジ山の外径よりも若干大きい貫通孔10bが設けられ、組立ネジ60をガイドする。貫通孔10bの下方には、組立ネジ60と螺合する固定メスネジ穴10cが設けられている。また、空気極用プレート10には、空気極用セパレータ20に空気を導入するための空気供給穴10dが設けられている。
【0022】
空気極用セパレータ20について説明する。
図4(a)は空気極用セパレータ20の平面図であり、
図4(b)は空気極用セパレータ20の正面図であり、
図4(c)は空気極用セパレータ20の底面図であり、
図4(d)は
図4(a)のA−A断面図である。空気極用セパレータ20は、シート状部材20fと導電性膜20eとを有する。シート状部材20fは、不透過性の金属、導電性セラミックス、炭素、膨張黒鉛又は導電性ポリマから形成されている。シート状部材20fの材質としては、空気供給スリット20dの加工性の観点からSUS等の金属であることが好ましい。
【0023】
空気極用セパレータ20には外部に電力を供給する端子20aが正面方向へ延出している。端子20aの端部には電力取りだしコネクタ取付穴20bが開口されている。
【0024】
空気極用セパレータ20の左右端部には、空気極用プレート10の位置決め支柱10aに嵌合するように位置決め半穴20cが設けられている。空気極用セパレータ20の中央部には厚み方向に貫通する短冊状の空気供給スリット20dが開口されている。空気供給スリット20dは、従来の金属加工方法にて短冊状に形成されており、円形状のものと比較して開口面積が増加するとともに拡散層付き電極31に満遍なく空気を供給することができるため、効率よく電力を供給することができる。
【0025】
空気極用セパレータ20には、シート状部材20fのガスケット30と接する面に導電性膜20eが形成されている。導電性膜20eは、例えば金、銀、炭素等の導電性粒子を有する導電性ペーストにより形成されており、シート状部材20fとは異なる材料が用いられている。
【0026】
空気極用セパレータ20の表面は、
図4(b)や
図4(d)に示すように凹凸の形成により粗面化されている。
【0027】
図5(a)は空気極用セパレータ20の導電性膜20eと拡散層付き電極31との接触面近傍の断面模式図であり、
図5(b)はセパレータ20の導電性膜20eとガスケット30との接触面近傍の断面模式図である。
図5に示すように、導電性膜20eはベース部20g及び凸部20hを有する。導電性膜20eの表面には複数の窪みが設けられ、エンボス加工にて形成された凹凸の上に導電性粒子による小さな凹凸が形成されている。導電性膜20eの凹凸は拡散層付き電極31と密着している。また、導電性膜20eは、特に、ガスケット30に
図5に示すような凹凸が形成されている場合には、
図5(b)に示すようにガスケット30と密着する。この凹凸は、例えばエンボス加工にて凹部を設けることにより形成される他、導電性ペーストによりベース部20gを塗布して形成した後に凸部20hを塗布して形成することができる。
【0028】
導電性膜20eの膜厚Hは20〜100μm程度である。また、導電性膜20eの凹凸の深さ(凸部20hの高さ)は、拡散層付き電極31やガスケット30と密着できる程度であればよく、
拡散層付き電極31に対してはシール性又は密着性等の観点から導電性膜20eに含有される粒子の粒径より大きいことが好ましい。また、
ガスケット30に対してはエンボス加工にて形成された凹凸は
図5に示すように断面形状がなだらかであることが好ましい。
【0029】
ガスケット30及び34、拡散層付き電極31及び33、固体高分子電解質膜32について説明する。
図6(a)及び
図6(e)は各々ガスケット30及び34の平面図であり、
図6(b)及び
図6(d)は各々拡散層付き電極31及び33の平面図であり、
図6(c)は固体高分子電解質膜32の平面図である。ガスケット30及び34はシリコーン樹脂材やフッ素樹脂材等で形成されている。ガスケット30は固体高分子電解質膜32と空気極用セパレータ20との隙間をシールする。ガスケット34は固体高分子電解質膜32と水素極用セパレータ40との隙間をシールする。ガスケット30及び34の中央部には各々電極用開口30b及び34bが設けられており、各々拡散層付き電極31及び33が嵌合される。
【0030】
拡散層付き電極31及び33は、カーボンペーパ、カーボンクロス等の黒鉛繊維による多孔質基材に、白金、白金ルテニウム合金等の触媒層が固体高分子電解質膜32側の面に形成されてなる。固体高分子電解質膜32は親水基及び疎水基を有する固体の電解質高分子膜である。固体高分子電解質膜32は、拡散層付き電極31で生成されたプロトンを拡散層付き電極33に供給する。
【0031】
ガスケット30及び34、拡散層付き電極31及び33、固体高分子電解質膜32は、空気極用セパレータ20と水素極用セパレータ40との間にそれぞれ配置される。
【0032】
水素極用セパレータ40について説明する。
図7(a)は水素極用セパレータ40の平面図であり、
図7(b)は水素極用セパレータ40の正面図であり、
図7(c)は水素極用セパレータ40の底面図であり、
図7(d)は
図7(a)のA−A断面図である。水素極用セパレータ40は、空気極用セパレータ20と同様にシート状部材40gと導電性膜40fとを有し、シート状部材40gが金属等により形成されているとともに、空気極用プレート10の位置決め支柱10aに嵌合するように位置決め半穴40cが設けられ、シート状部材40gのガスケット30と接する面に導電性膜40fが形成されている。導電性膜40fは、導電性膜20eと同様にベース部40h及び凸部40iを有する。また、導電性膜40fは、特に水素極用セパレータ40に形成されることにより、水素ガスが金属に進入して脆化する水素侵食を抑制することができる。
【0033】
水素極用セパレータ40には、電力取りだしコネクタ取付穴40bが端部に開口している端子40aが正面方向へ延出している。端子40aは、空気極用セパレータ20の端子20aと線対象の位置に配置されている。
【0034】
また、水素極用セパレータ40には厚み方向に貫通する二つの水素ガス供給穴40dが形成されており、一方の水素ガス供給穴40d(第5ガス流路)からジグザグ状の経路を経て他方の水素ガス供給穴40d(第6ガス流路)に連絡している溝である水素ガス流路40e(燃料ガス分散路)が設けられている。水素ガス流路40eは一方の水素ガス供給穴40から導入された水素を拡散層付き電極31の表面に沿って流すための流路である。水素ガス流路40eは、拡散層付き電極31と水素ガスとの接触面積を増加させる観点から、ジグザグ状に形成されている。
【0035】
水素極用ガスケット41について説明する。
図8は水素極用ガスケット41の平面図である。水素極用ガスケット41は、ガスケット30と同様の材質で形成されており、水素極用セパレータ40と水素極用プレート50との間をシールして水素の漏洩を防止する。
【0036】
水素極用ガスケット41には、厚み方向に貫通する二つの水素ガス供給穴41a(第3燃料ガス流路、第4燃料ガス流路)が形成されている。二つの水素ガス供給穴41aは、各々水素極用セパレータ40の二つの水素ガス供給穴40d(第5燃料ガス流路、第6燃料ガス流路)と対応する位置に設けられている。
【0037】
水素極用プレート50について説明する。
図9(a)は水素極用プレート50の上面図であり、
図9(b)は水素極用プレート50の正面図であり、
図9(c)は水素極用プレート50の底面図である。水素極用プレート50は、空気極用プレート10と同様に絶縁性を有する透明な材質で形成されている。
【0038】
水素極用プレート50の水素極用ガスケット41と接する面の反対側の面には、中心部に水素ガス供給穴50b(第1燃料ガス流路、第2燃料ガス流路)が設けられた2本の水素ガス供給チューブ50aが突出するように形成されている。水素ガス供給穴50bは、水素極用プレート50が水素極用ガスケット41に組み付けられたとき、水素極用ガスケット41の水素ガス供給穴41aと連通する。
【0039】
また、水素極用プレート50の左右端部には、組立ネジ60による組立て時に組立ネジ60の頭部を収納するためのネジ穴50cと、ネジ穴50cに連結して組立ネジ60に螺合する固定メスネジ穴50dとを有する。
【0040】
本実施の形態に係る燃料電池1の組立て方法の一例について説明する。この説明では、空気極用プレート10の上に各構成部材を順に配置する方法について説明する。まず、空気極用プレート10の上に、空気極用セパレータ20及びガスケット30をこの順で置く。ガスケット30の電極用開口30bにシート状の拡散層付き電極31を嵌入する。ガスケット30と拡散層付き電極31とはほぼ同じ厚みを有するため、両者の上面はほぼ平らになる。
【0041】
次に、ガスケット30と拡散層付き電極31とが形成する平面の上にシート状の固体高分子電解質膜32を置く。固体高分子電解質膜32の上に更にガスケット34及び拡散層付き電極33を置く。空気極用セパレータ20、ガスケット30、固体高分子電解質膜32は、配置する際、位置決め半穴20c、30a、32a及び34aが空気極用プレート10の位置決め支柱10aに沿って移動して配置される。
【0042】
これらのシート状の部材が平らな層をなすように置かれた上に水素極用セパレータ40及び水素極用ガスケット41を置く。水素極用セパレータ40及び水素極用ガスケット41は、配置する際、位置決め半穴40c及び41bが空気極用プレート10の位置決め支柱10aに沿って移動して配置される。
【0043】
そして、水素極用ガスケット41の上に水素極用プレート50を置く。この際、水素極用セパレータ40の水素ガス供給穴40dと水素極用ガスケット41の水素ガス供給穴41a、及び水素極用ガスケット41の水素ガス供給穴41aと水素極用プレート50の水素ガス供給穴50bは各々連通するようにする。
【0044】
上述のように各部材が重ねられた後に、水素極用プレート50のネジ穴50cから下に向けて組立ネジ60を挿入し、組立ネジ60のネジ山が空気極用プレート10の固定メスネジ穴10bのネジと螺合するように組立てる。この場合、
図3に示す空気極側プレート10の位置決め支柱10aの高さH0は、組立が完了したとき、空気極セパレータ20と水素極セパレータ40とに挟まれたシート状の部材が適切な圧力で保持されるように設定されている。負荷は端子20aと40aの間に接続される。
【0045】
このようにして組立てた燃料電池1の駆動方法について説明する。まず、一方の水素ガス供給チューブ50aから供給された水素は、一方の水素ガス供給穴50b、41a及び40dを通過し、水素極用セパレータ40の水素ガス流路40eに導入されるとともに拡散層付き電極33の表面に供給される。反応後の残余の水素は、他方の水素ガス供給穴40d、41a及び50bを通過し、他方の水素ガス供給チューブ50aから排出される。
【0046】
空気極用プレート10の空気供給穴10dを通過した空気は自然供給の形で空気極用セパレータ20の空気供給スリット20dを経て拡散層付き電極31の表面に供給される。そして、固体高分子電解質膜32を介して発生するイオン電導性と電子非電導性とにより、端子20aと40aとの間に接続される負荷に電力が供給される。
【0047】
以上のように、本実施の形態に係る燃料電池1は、シール機能を有する水素極用ガスケット41自体に水素ガス供給穴41aを設けることにより、従来では二つのOリングの線接触にてシールしていたものを一つのシート部材の面接触にてシールすることができる。また、空気極用セパレータ20および水素極用セパレータ40はセパレータの他に集電板の役目も担っており、集電板を別途設ける必要がない。このため、部品数の削減により燃料電池1が組み立てやすく、5〜10分で組立てることができ、部品数の削減により組立て・分解時に部品を装着し忘れることを抑制するとともに水素ガス供給穴を容易にシールすることも可能となる。したがって、燃料電池1は、各種の空気極用セパレータ20、水素極用セパレータ40、固体高分子電解質膜32の交換が容易であり、評価実験によく適合している。また、燃料電池1は、その組み立て前の状態において燃料電池組み立てキットとして好適に用いることが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態に係る燃料電池1は、空気極用セパレータ20及び水素極用セパレータ40に各々形成された導電性膜20e及び40fによりこれらのセパレータの腐食を抑制することができる。特に、水素極用セパレータ40では水素ガスによる水素侵食を抑制するとともにガスケット30の固着を防止することができる。このため、燃料電池1は耐久性に優れるとともに、組立て時に取り付け方向を誤ることがないため組立て易い。また、導電性膜20eには、含有する導電性粒子の凹凸の他にエンボス加工により形成された凹凸を有するため、拡散層付き電極31の密着性に優れる。
【0049】
本実施の形態に係る燃料電池1では空気極用セパレータ20、空気極用シート状電極35、固体高分子電解質膜32、水素極用シート状電極36、水素極用セパレータ40及び水素極用ガスケット41で構成されるセル(単セル)について説明したが、単セルを直列に配線接続すればスタック構造を形成することができる。
【0050】
本実施の形態に係る燃料電池1では、更に、水素供給ラインに例えば
図10に示すような簡易な気流検知器(水素ガス気流検知器)70を接続すれば、水素の供給量や供給状態を目視で簡単に観察することができる燃料電池駆動システムを構成することができる。この場合に用いられる
図10の気流検知器70は、密閉された透明容器71に半分ほど水を入れ、一本のガラスチューブ72(プラスチックのチューブでもよい)の下端が水の中にあるように、もう一本のガラスチューブ72の下端が水よりも上にあるように配置したものである。水素をガラスチューブ72に供給し、ガラスチューブ73から出てくる水素を水素極側プレート50の水素ガス供給穴50bにビニールチューブ等を介して供給する。このように構成すれば、水素の供給量や供給状態を、気流検知器70の中の水に生じる泡の状態で容易に観察することができる。また、このように気流検知器において加湿機能を持たせるようにすることで、固体高分子電解質膜32の乾燥を防止することができる。
【0051】
本実施の形態に係る燃料電池1では、酸化剤ガスとして空気を用い、燃料ガスとして水素を用いる燃料電池について説明したが、酸化剤ガスとして酸素等、燃料ガスとしてメタンガス等を用いてもよい。メタンガスを用いる場合、拡散層付き電極31の拡散層の膜厚を増加して出力を確保する等の手段を講じてもよい。また、燃料ガスの変わりにメタノールやエタノール等の液体燃料を用いてもよい。この場合、液体燃料の種類に応じて拡散層付き電極31の触媒成分を白金系合金、酸化物系材料、カーボン系材料、錯体系材料等に適宜変更してもよい。
【0052】
本実施の形態に係る燃料電池1では、空気極側プレート10の空気供給穴10dと、空気極セパレータ20の空気供給スリット20dとを介して拡散層付き電極31の表面に空気が自然供給されるようにしたが、酸化剤ガスとして酸素を用いる場合には、
図11に示すように、閉鎖された空間で強制供給可能な形に構成してもよい。すなわち、
図11の空気極側プレート80は、実質的に、
図9に示す水素極用プレート50に空気極側プレート10の位置決め支柱10aと同様な位置決め支柱80aを追加した形状をしている。
【0053】
また、この場合、空気極用セパレータ20の代わりに用いる空気極用セパレータ90としては、水素極用セパレータ40を水素極用ガスケット41とともに用いることができる。この他の部材および組立ネジよる組立構造については空気極用セパレータ20の場合と同様に構成する。したがって、水素ガスの供給は水素極用セパレータ40の場合と同様に行われるが、酸素の供給は空気極用プレート80の一方の酸素ガス供給チューブ80bから供給し、他方の酸素ガス供給チューブ80bから排出する。この構成は、純酸素および純水素を用いた種々の実験などを行うのに便利である。
【0054】
本実施の形態に係る燃料電池1では、水素極用セパレータ40のガスケット34と接する面に凹凸を有する導電性膜40fを形成したが、水素極用セパレータ40のガスケット34と接する面において、水素ガス流路40e以外の箇所にのみ導電性膜を形成してもよい。
【0055】
本実施の形態に係る燃料電池1では、水素極用セパレータ40のガスケット34と接する面に凹凸を有する導電性膜40fを形成したが、その面とは反対側の面である水素極用ガスケット41と接する面にも凹凸を有する導電性膜を形成してもよい。ガスケット34及び水素極用ガスケット41の破損を極力抑制し、導電性膜の表面の凹凸により水素ガスのシール性を向上させ、水素極用セパレータ40の水素侵食も抑制することができる。
【0056】
本実施の形態に係る燃料電池1ではガスケット30及び拡散層付き電極31により空気極用シート状電極35を構成し、ガスケット34及び拡散層付き電極33により水素極用シート状電極36を構成しているが、コストなどを無視すれば、拡散層付き電極31及び33の材料で空気極用シート状電極35及び水素極用シート状電極36の全体を形成してもよい。
【0057】
また、本実施の形態に係る空気極用セパレータ20及び水素極用セパレータ40は、
図5及び
図12に示すように、シート状部材20fにベース部20g及び凸部20hがこの順で形成されているが、
図13に示すように、シート状部材20fに凸部20hのみを形成してもよい。この場合、ベース部20gを形成する工程を省略することができるとともに、導電性ペーストの使用量がベース部20gを省いた分だけ低減するため、低コスト化を実現することが可能となる。
【実施例】
【0058】
次に本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、酸化剤ガスとして空気を用い、燃料ガスとして水素を10cc/minの流速で導入した燃料電池を用いた。燃料電池の構成物品である空気極用プレート、空気極用セパレータ、空気極用シート状電極、固体高分子電解質膜、水素極用シート状電極、水素極用セパレータ、水素極用ガスケット及び水素極用プレートは、各々
図3に〜
図9に記載の形状を有する。
【0060】
空気極用セパレータ及び水素極用セパレータに形成された導電性膜の表面を光学顕微鏡で撮影した写真を
図14に示す。
図14(a)は空気極用セパレータ及び水素極用セパレータに形成された導電性膜の表面の写真(×100)であり、
図14(b)は
図14(a)における窪み箇所を明記した図であり、
図14(c)は
図14(a)の拡大写真(×300)であり、
図14(d)は
図14(c)における窪み箇所を明記した図である。
図14に示すように、導電性膜の表面には凹凸が形成されており、これらは肉眼で容易に確認することができる程度の大きさであった。また、導電性膜の膜厚は60μmであった。
【0061】
導電性膜の凹凸の深さを株式会社キーエンス社製のビデオマイクロスコープ(型番:VHX−200)で測定した。その結果を
図15に示す。
図15(a)は凹凸を有する導電性膜の断面形状の模式図である。
図15(a)に示すように、エンボス加工した導電性膜の凹凸の深さは最大で16μmであった。
【0062】
このような各部品を前述の組立方法により組立てて実施例1の燃料電池を組立てた。組立ネジを1N・mのトルクで締め付けた。
【0063】
(比較例1)
実施例1において空気極用セパレータ及び空気極用セパレータに導電性膜を形成していないことを除き、実施例1と同様の燃料電池を比較例1の燃料電池とした。すなわち、水素極用プレート及び水素極用セパレータは母材が露出していることになる。
図15(b)に示すように、導電性膜が形成されていない水素極用セパレータの凹凸の深さは最大で5μmであった。
【0064】
(比較例2)
実施例1において、水素極用ガスケットの代わりに、Oリングを水素ガスの導入側と排気側に配置して水素ガス流路をシールしたことを除き、実施例1と同様の燃料電池を比較例2の燃料電池とした。
【0065】
(比較例3)
実施例1において、水素極用ガスケットの代わりにOリングを用いて水素ガス流路をシールし、空気極用セパレータ及び空気極用セパレータには導電性膜を形成していないことを除き、実施例1と同様の燃料電池を比較例3の燃料電池とした。
【0066】
実施例1及び比較例1〜3について、組立て易さ、分解性、耐久性及び出力電圧について評価した。評価方法は以下の通りである。
【0067】
組み立て易さは部品の数により次の基準で相対評価した。
・実施例1と同じ部品数 :○
・実施例1より部品数が多い:△
【0068】
分解性は部品の数により次の基準で相対評価した。
・実施例1と同じ部品数 :○
・実施例1より部品数が多い:△
【0069】
耐久性:組み立て及び分解を100回繰り返し、ガスケットの剥離やその他の部品の劣化等に該当する箇所の個数に基づいて、以下の基準で評価した。
・該当箇所の個数が0個 :◎
・該当箇所の個数が1〜5個 :○
・該当箇所の個数が5〜10個:△
・該当箇所の個数が10個以上:×
【0070】
出力電圧:株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製の電圧測定器(FUEL CELL ANALYZER、型番:AS−510−4)をセパレータの端子に取り付けて測定した電圧値を次の基準で相対評価した。
・実施例1の電圧値 :○
・実施例1の電圧値より10%以上劣化した電圧値:△
【0071】
評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示されるように、実施例1は、すべての評価項目において○及び◎であり、種々の実験などを行うのに適していることがわかった。
【0074】
一方、比較例1は、シール部材としてガスケットを使用しており組み立て易いが、空気極用セパレータ及び水素極用セパレータにエンボス加工が施された導電性膜が形成されていない。このため、比較例1は、分解時にガスケットの破片が各セパレータに付着したため分解性及び耐久性に劣り、電圧値も劣化した。また、比較例1では、実施例1と比較して部品数が同じであるものの、空気極用セパレータ及び水素極用セパレータに導電性膜が形成されていないため、これらを組み込む際に取り付け方向を誤る可能性が高い。よって、比較例1は、前述の組み立て易さに部品を取り付ける方向を誤るか否かの観点を含めると、実施例1より劣ることになる。
【0075】
図16は、比較例1(従来)の燃料電池におけるガスケットが固着した水素極用セパレータの表面写真である。このように、比較例1では、ガスケットの破片が水素極用セパレータに固着してしまう。
【0076】
比較例2は、各セパレータにエンボス加工された導電性膜が形成されているために電圧値が実施例1と同等であったものの、Oリングを用いているため実施例1より部品数が多く、組立て易さ及び分解性が劣る結果となった。また、耐久性については、組み立て及び分解を繰り返すにつれてOリングが劣化してきたため、実施例1より劣る結果となった。
【0077】
比較例3は、Oリングを用い、且つ空気極用セパレータ及び水素極用セパレータに導電性膜が形成されていないため、すべての評価項目において実施例1より劣る結果となった。また、比較例1と同様に、
図16に示すようなガスケット破片の固着が発生した。