【実施例1】
【0026】
以下、本発明の一実施例の全体構成を示すブロック図の(a)本発明の一実施例の差動相関の実施例について、図示の実施形態により詳細に説明する。
具体的な実施例について説明する前に、伝送する信号の信号フォーマットについて説明する。
【0027】
図2に示すように送信信号は受信部での等化処理を容易にするためのプリアンブル期間とデータを伝送するためのデータ期間でフレームが構成される。プリアンブル期間の信号P(m)(mはサンプル番号)はN
Pサンプル期間の間、振幅、位相が既知の信号で生成される。既知信号の生成方法としては、既知の擬似ランダム信号(PN)などを用いてBPSKやQPSKなどの変調方式を用いた信号とすることが多い。データ期間の信号D(m)はBPSKから64QAMなど、伝送レートに応じた変調方式を用いてデータを伝送する。データ期間長はN
Dサンプルとする。このようにフレーミングされた信号を繰り返し伝送する。
【0028】
本発明は、プリアンブル期間の信号P(m)を用いて、受信信号レベルを推定し、推定結果に基づいたアンテナ方向調整方法及びその装置を提供するものである。以下、本発明の実施例について
図1を用いて詳細に説明する。前述したように、受信部に到達した信号は受信アンテナ1で受信され、受信高周波部2で周波数変換してベースバンド信号に変換される。ベースバンド信号はA/D3に入力され受信サンプリング系列Rin(m)(mはサンプル番号)を得る。得られた受信サンプリング系列Rin(m)は直交検波器4に入力される。直交検波器4では実数信号からIQ複素信号への変換処理を行い、受信複素サンプリング系列Z(m)を出力する。直交検波処理はデジタル信号処理で行ってもよいが、アナログの直交ミキサを用いて行い、IQそれぞれにA/D変換器を用いてサンプリングすることで実現してもよい。受信複素サンプリング系列Z(m)は複素乗算部5に入力される。複素乗算部5では
図4に示すように、プリアンブルサンプル期間N
Pと同程度の長さを有するシフトレジスタなどの記憶素子41に受信複素サンプリング系列Z(m)を入力し、式(1)に示すようにシフトレジスタ41の各段の値Z(m+t)と、送信側であらかじめ規定されたプリアンブル信号P(t)に対する複素共役信号P
*(t)との複素乗算を演算し、複素乗算信号M(m+t)を得る。
(1)
特に、プリアンブル信号がBPSK変調されている場合には、複素乗算処理はZ(m+t)の符号を反転/非反転する処理で簡易に実現できる。
【0029】
受信装置で送信側のクロック周波数とキャリア周波数が正確に再生できている場合であって、シフトレジスタ41に入力されるタイミングが受信サンプル系列Z(m)のプリアンブル期間と一致している場合、複素乗算信号M(m+t)は全て同位相の信号となる。
【0030】
しかし、本発明では低C/Nでの受信信号電力推定を目的としているため、C/Nが低い領域での正しいキャリア再生処理は非常に困難であり、キャリア周波数がずれる可能性が高い。このような場合、複素乗算信号M(m)はN
Pサンプル期間内で一定の位相ずれが生じ、
図5に示すように回転する。この回転量はキャリア周波数ずれ量をΔfとすると、プリアンブル期間の複素受信サンプリング系列Z(m)は
(2)
で表される。ここで、f
CLKは受信クロック周波数、θは固定位相、N(m)は雑音信号を示している。従って、回転が生じた時の式(1)で示した複素乗算信号M(m+t)は
(3)
である。ただし、
(4)
とした。
【0031】
一般的な相関処理では、M(m+t)を積分範囲N
Pで積分処理するが、このような回転が生じた信号をそのまま積分処理すると、逆極性の信号同士で相殺してしまい、その結果は0に近い値となってしまう。
そのため、本発明では複素乗算信号M(m+t)を差分処理部6に入力し、この回転成分を除去する。差分処理部6では
図6及び式(5)に示すように複素乗算信号M(m+t)とその1サンプル後の信号M(m+t+1)の複素共役信号との複素乗算を行う。
(5)
式(3)で示すキャリア周波数ずれによる回転が生じた複素乗算信号M(m)を式(5)に代入すると
(6)
となる。
式(6)において、第一項は信号成分を示し、第二〜四項は雑音成分であり、N’(m+t)で置換える。
(7)
式(7)において、受信キャリア再生周波数に急激な変動がないと仮定すると、即ちΔfが一定であるとすると、差分結果D(m)はサンプル時間mによらず一定値となり、回転成分を除去することが可能となる。積分器7では差分信号D(m+t)をtについて積分を行い、積分結果を絶対値二乗演算することで、積分信号I(m)を出力する。
(8)
差分処理により、差分信号D(m+t)は全ての位相はほぼ一致しているため、
図7に示すように、積分結果は受信信号のプリアンブル期間と、積分期間が一致した時に大きな値を有する。
【0032】
次に、積分器7の出力信号I(m)のS/Nについて説明する。信号成分Sは積分器7の出力I(m)の最大値であり、信号電力の約N
P倍となる。また、雑音成分は式(6)よりと
なる。ここで、
は入力段でのC/Nで定義した雑音電力を示している。以上のことより、積分器出力のS/Nは式(9)となる。
(9)
【0033】
式(9)の一例として、ARIB STD−B11で規定されるFPU規格について言及する。プリアンブル期間はN
P=240サンプルであり、この時の積分器7の出力I(m)のS/Nの結果を
図8に示す。C/Nが−10dBの時のS/Nは約3dB程度である。S/Nが3dB程度では信号と雑音の分別が困難であるため、積分器7の出力結果I(m)を加算平均部8に入力し、加算平均部7ではフレーム方向に加算平均を行い、S/Nを改善する。
図2で示したようにフレーム長は(N
P+N
D)であり、移動平均型の加算平均処理では過去Kフレームの積分結果I(m)を加算平均処理する。この平均処理を式(10)を用いて表す。
(10)
式(10)において、例えば加算回数Kを100とすると、約20dBのS/N改善効果がある。従って、先のFPUの例において、入力C/Nが−10dBの環境では加算平均部8の出力結果I(m)のS/Nは約23dBとなり、信号成分と雑音成分の分別が容易になる。
【0034】
以上では、伝搬路のモデルが単純な加法性白色雑音モデル(AWGN)について説明を行ってきたが、実際の伝搬路では複数の反射波が存在するマルチパス環境が想定される。そこで、加算平均結果F(m)を矩形フィルタ部9に入力し、矩形フィルタ部9では複数存在するマルチパスのエネルギーの総和を演算する。具体的な構成について、
図9を用いて説明する。
図9の上部に示すようなマルチパスが混入した加算平均結果F(m)に対して、所定の時間幅Wを有する矩形窓を畳み込み演算し、
図9の下部に示すような出力信号C(m)を得る。設ける窓幅Wは、予め想定されるマルチパスの最長遅延時間をLとすると、窓幅WはL以上であることが望ましい。しかし、窓幅Wを必要以上に長く設定すると、窓幅W内の雑音成分が多くなり、S/Nが劣化してしまうため、適切な幅に設計する必要がある。また、受信機側でマルチパス遅延時間を逐次算出できる場合には、窓幅Wを受信環境に応じて適応的に制御しても良い。矩形フィルタ部9の出力信号C(m)は最大値検出部10に入力され、フレーム毎にC(m)の最大値MAXを算出する。最大値MAXは最大値平均部11にて更に平均化され、擾乱成分を除去する。
【0035】
最大値平均部11からの出力信号は受信電力変換部12に入力され、入力値に対応する受信電力レベルを変換して出力する。この変換について
図10を用いて説明する。通常、受信装置では、受信条件で大きく変化する受信信号のレベルを自動利得制御(AutomaticGain
Control:AGC)回路にて一定のレベルになるような制御を行った後に、各種の信号処理を実施する方式が用いられている。そのため、A/D3に入力される信号Rin(m)の電力も一定に保たれる。このような制御が行われている場合には、最大値平均部11の出力信号は
図10の点線で示した理想特性にならず、鎖線で示すようにC/Nが高くなると、即ち受信信号レベルが大きくなると最大値平均部11の出力レベルは、ある一定値に漸近してしまう。そのため、
図11の実線で示したように、最大値平均部11の出力レベルにその逆特性を乗じることで、理想特性になるように変換し、その結果を方向調整信号Aとして出力する。
図10の例では、受信レベル信号の値をdB単位に変換しているが、アンテナの方向調整が容易になる単位系の値に変換しても良い。
【0036】
以上説明した処理により、低C/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルを出力することが可能となり、受信アンテナの方向調整の初期段階においても微弱な受信信号を捉えることができる。
この方向調整信号Aは、受信信号レベル表示器13に入力され、受信信号レベル表示器13では、アンテナ方向調整者が実施しやすいように方向調整信号Aをメータ表示や波形、色など視覚的情報に変換する。また、音階、音量等の聴覚的な情報に変換しても良い。
【0037】
このように、本実施例による受信装置を用いると、受信信号のC/Nが−10dB程度になり、従来方法即ち受信検波レベルを用いる方法では、受信信号の存在すら検出できないような受信アンテナの方向調整の初期段階においても、受信信号のレベルを正確に検出できるようになる。これにより、受信アンテナの方向を変えながら、受信信号レベルが最大になる方向を探すことができるようになり、算出した方向調整信号Aを用いて、容易に受信アンテナの方向調整ができるシステムを構築することができるようになる。