(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780657
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】光学活性ジアミン誘導体の塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 269/08 20060101AFI20150827BHJP
C07C 271/24 20060101ALI20150827BHJP
C07D 513/04 20060101ALI20150827BHJP
A61P 7/02 20060101ALN20150827BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20150827BHJP
A61K 31/444 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
C07C269/08CSP
C07C271/24
C07D513/04 343
!A61P7/02
!A61P43/00 111
!A61K31/444
【請求項の数】24
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2012-522715(P2012-522715)
(86)(22)【出願日】2011年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2011065192
(87)【国際公開番号】WO2012002538
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-151922(P2010-151922)
(32)【優先日】2010年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100153039
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真有
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100119622
【弁理士】
【氏名又は名称】金原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】川波 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】石河 秀明
(72)【発明者】
【氏名】東海林 正寛
【審査官】
斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/032498(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/021093(WO,A1)
【文献】
米国特許第04582570(US,A)
【文献】
特開昭62−126173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の無水物結晶の製造方法であって、下記式(1a)
【化2】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物を、
4重量%以上の含水
アセトニトリル中で無水シュウ酸と処理して、下記式(1b)
【化3】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物の1水和物結晶を得る工程;及び
式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、加温下、1重量%未満の水分含量の
アセトニトリル中で攪拌する工程、を含む、式(1)で表される化合物の無水物結晶の製造方法。
【請求項2】
加温が、50〜80℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
加温が、70〜75℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、撹拌工程において、アセトニトリル全体に対して1/2〜4/7容量のアセトニトリルを40〜75℃の範囲で減圧留去し、その後、留去した量に相当する量のアセトニトリルを再添加することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
アセトニトリルの減圧留去及び再添加において、アセトニトリル中の水分含量を0.2重量%未満にすることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
下記式(1b)
【化4】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の1水和物結晶の製造方法であって、下記式(1a)
【化5】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物を、
4重量%以上の含水
アセトニトリル中で無水シュウ酸と処理することを特徴とする、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶の製造方法。
【請求項7】
含水アセトニトリルが、4〜10重量%の含水アセトニトリルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
無水シュウ酸との処理が、無水シュウ酸のアセトニトリル溶液を滴下するものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
滴下を50〜80℃で行う、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
滴下終了後、さらに50〜80℃で2〜5時間撹拌を行う、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
式(1b)で表される化合物の1水和物結晶の純度が97.0%以上である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項12】
式(1b)で表される化合物の1水和物結晶の純度が99.0%以上である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項13】
式(1)で表される化合物の無水物結晶の純度が97.0%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
式(1)で表される化合物の無水物結晶の純度が99.0%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
粉末X線回折による回折角(2θ)として、5.6及び27.7°(±0.2°)に特徴的ピークを有する、下記式(1)
【化6】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物のForm−2型の無水物結晶。
【請求項16】
粉末X線回折スペクトルが
下記の図に示すパターンを有することを特徴とする、請求項
15に記載の式(1)で表される化合物のForm−2型の無水物結晶。
【化7】
【請求項17】
粉末X線回折による回折角(2θ)として、7.0及び22.9°(±0.2°)に特徴的ピークを有する、下記式(1b)
【化8】
(式中、Bocは
tert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物のForm−2型の1水和物結晶。
【請求項18】
粉末X線回折スペクトルが
下記の図に示すパターンを有することを特徴とする、請求項
17に記載の式(1b)で表される化合物のForm−2型の1水和物結晶。
【化9】
【請求項19】
粉末X線回折による回折角(2θ)として、8.5及び26.5°(±0.2°)に特徴的ピークを有する、下記式(1b)
【化10】
(式中、Bocは
tert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物のForm−1型の1水和物結晶。
【請求項20】
粉末X線回折スペクトルが
下記の図に示すパターンを有することを特徴とする、請求項
19に記載の式(1b)で表される化合物のForm−1型の1水和物結晶。
【化11】
【請求項21】
請求項1に記載の方法
で下記式(1)
【化12】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の無水物結晶を
製造し、次いで該化合物の無水物結晶を使用することを特徴とする、下記式(X−a)
【化13】
で表される化合物の製造方法。
【請求項22】
請求項1に記載の方法
で式(1)で表される化合物の無水物結晶を
製造し、次いで該化合物の無水物結晶を使用することを特徴とする、下記式(X−a)
【化14】
で表される化合物を製造する方法であって、
式(1)で表される無水物結晶を、塩基の存在下に、下記式(4)
【化15】
で表される化合物と処理して、下記式(5)
【化16】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物を得る工程;
該式(5)の化合物のBoc基
(tert−ブトキシカルボニル基)を脱保護した後、塩基の存在下に、下記式(7)
【化17】
で表される化合物と処理して、下記式(X)
【化18】
で表されるフリー体の化合物を得る工程;及び
該式(X)で表される化合物を、溶媒中、p−トルエンスルホン酸又はその水和物と処理して、式(X−a)で表される化合物を得る工程、
を含む、式(X−a)で表される化合物の製造方法。
【請求項23】
式(X−a)で表される化合物の純度が99.50重量%以上である、請求項21又は22に記載の製造方法。
【請求項24】
式(X−a)で表される化合物の純度が99.75重量%以上である、請求項21又は22に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化血液凝固第X因子(FXa)の阻害薬である、式(X)で表される化合物、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の製造のために重要である光学活性なジアミン誘導体の工業的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(X)で表される化合物[以下、化合物(X)と表記する場合がある。]、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物は、特許文献1〜3に開示されているように、FXaの阻害作用を示し、血栓性及び/又は塞栓性疾患の予防・治療薬として有用な化合物である。
【0003】
【化1】
【0004】
国際公開第2007/032498号パンフレットには、FXa阻害薬である化合物(X)、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の製造方法が開示されている。化合物(X)の製造方法は、下記の[スキーム A]に示すように、化合物(2)をアジド化してアジド体である化合物(3)を製造し、次いで化合物(3)を還元してアミノ体である化合物(1a)とし、次いで化合物(1a)を無水シュウ酸と処理して得られる化合物(1)を、塩基の存在下にエチル[5−クロロピリジン−2−イル]アミノ](オキソ)アセタート 塩酸塩である化合物(4)と処理して化合物(5)を製造し、さらに化合物(5)から数工程を経て製造するものであり、製造中間体として化合物(1)のシュウ酸塩の結晶が開示されている。
【0005】
【化2】
【0006】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/058715号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2003/016302号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2003/000680号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/032498号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、FXa阻害薬である化合物(X)、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の効率的な製造方法の検討を重ねてきた。化合物(1)は、FXa阻害薬である化合物(X)、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の製造における重要中間体の一つであり、化合物(1)を高収率かつ高純度で製造することは重要な課題である。
【0009】
本発明者らは、化合物(1)の製造方法の検討の中で、以下の(a)〜(c)の3つの解決すべき新たな課題を見いだした。
(a):化合物(1)の無水度:上記スキームで化合物(1)からシュウ酸ジアミド誘導体である化合物(5)を製造する工程は、無水条件で実施することが、生成物である化合物(5)を高収率で得るために重要であり、そのため化合物(1)が、付着水として水分を含むものや、水和物結晶を使用した場合には、化合物(5)の収率が大きく低下するため、化合物(1)の無水度を維持することが課題である。
(b):cis−ジアミノ誘導体である化合物(1)の純度:化合物(2)から、アジド体である化合物(3)の製造では、目的のcis−体である化合物(3)の他に、類縁物質として異性体であるtrans−体の化合物(3-trans)が生成する(国際公開第2001/74774号パンフレット参照)。したがって、粗アジド体を還元して得られるアミノ体(1a)にもアジド化工程で生成したtrans異性体を同じ割合で含むことから、trans異性体の化合物(1a-trans)の除去が課題である。
(c):反応収率、操作性など、工業的スケールで実施可能な製造法の提供が課題である。
【0010】
上記の(b)の課題解決には結晶化による精製が考えられ、国際公開2007/032498号パンフレットには、アミノ体である化合物(1a)と無水シュウ酸から式(1)で表される化合物を結晶として得たことが記載されている。しかしながら、上記の製造方法には、以下の(d)〜(h)の新たな解決すべき問題点があることが明らかになった。
(d):国際公開2007/032498号パンフレットにおける化合物(1)の製造法は、無水シュウ酸溶液を添加するときに滴下近傍で非晶質の析出が観察されることから、非晶質を経由して結晶化が徐々に進行することが明らかになり、結晶化に長時間を要し、また非晶質が生成したときの撹拌が困難になる。
(e):無水シュウ酸溶液の滴下時間によって多形結晶が析出することが明らかになり、製造工程の安定性がなく、また多形結晶があることから単一結晶形での結晶化の完結に長時間を要する。
(f):(e)において、結晶化が完結しない場合は非晶質を含むため、ろ過操作が不可能になる程度に操作性が低下する。
(g):長時間撹拌することにより、撹拌溶液中に存在する類縁物質であるtrans-異性体の化合物(1-trans)の結晶が、過飽和状態により析出が開始することがわかり、化合物(1-trans)の混在によるcis−ジアミノ誘導体である化合物(1)の純度が低下する。
(h):trans異性体である化合物(1-trans)の混入は、撹拌時間や温度のコントロール、また結晶化溶媒の変更や溶媒量の増量である程度は防止が可能であるが、溶媒量の増加は生産装置の大型化を伴って好ましくなく、また撹拌時間のさらなる長時間化による化合物(1-trans)の再混入現象が観察され、堅牢な工業的製造方法として問題点が潜在していることが明らかになった。
【0011】
したがって、上記の新たな問題点を解決できる、抜本的な結晶化方法を見いだし、高純度の式(1)で表される無水物結晶を製造するという新たな課題が見いだされた。
【0012】
一方、化合物(1)の結晶の検討を行っている中で、cis-誘導体である化合物(1)と、trans-異性体である化合物(1-trans)には、無水物結晶と含水結晶の数種の結晶多形が存在することが明らかになった。その中で、1水和物結晶である式(1b)で表される1水和物結晶とそのtrans-異性体である式(1b-trans)で表される1水和物結晶では、両者の水への溶解性が大きく異なり、式(1b-trans)で表される1水和物結晶が高い水溶性を有することがわかった。そこで本願発明者らは、式(1b)で表される1水和物結晶と、式(1-trans)の1水和物結晶の水溶性の差を利用し、すなわち、晶析溶媒に水を加えることにより、所望のcis−ジアミノ誘導体である式(1b)で表される1水和物結晶を、高純度かつ高選択的に製造できることを見いだした。さらに、cis−ジアミノ誘導体である式(1b)で表される1水和物結晶から、式(1)で表される無水物結晶を製造する新たな結晶転移(結晶転換)方法を見いだして本発明を完成した。
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は下記の(1)〜(36)を提供するものである。
(1):下記式(1)
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の無水物結晶の製造方法であって、下記式(1b)
【0020】
【化6】
【0021】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物の1水和物結晶を、加温下、1重量%未満の水分含量の有機溶媒中で攪拌する工程、を含む、式(1)で表される化合物の無水物結晶の製造方法。
(2):下記式(1)
【0022】
【化7】
【0023】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の無水物結晶の製造方法であって、下記式(1a)
【0024】
【化8】
【0025】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物を、含水有機溶媒中で無水シュウ酸と処理して、下記式(1b)
【0026】
【化9】
【0027】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物の1水和物結晶を得る工程;及び
式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、加温下、1重量%未満の水分含量の有機溶媒中で攪拌する工程、を含む、式(1)で表される化合物の無水物結晶の製造方法。
(2a):下記式(1)
【0028】
【化10】
【0029】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の無水結晶の製造方法であって、下記式(2)
【0030】
【化11】
【0031】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocは前記と同じものを示す。)
で表される化合物を、溶媒中でアジ化試薬と処理して、下記式(3)
【0032】
【化12】
【0033】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物を得る工程;
式(3)で表される化合物を還元して、下記式(1a)
【0034】
【化13】
【0035】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物を得る工程;
式(1a)で表される化合物を、含水有機溶媒中で無水シュウ酸と処理して、下記式(1b)
【0036】
【化14】
【0037】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物の1水和物結晶を得る工程;及び
式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、加温下、1重量%未満の水分含量の有機溶媒中で攪拌する工程、を含む、式(1)で表される化合物の無水結晶の製造方法。
(3):加温が、50〜80℃である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4):加温が、70〜75℃である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(5):さらに、撹拌工程において、有機溶媒全体に対して1/2〜4/7容量の有機溶媒を40〜75℃の範囲で減圧留去し、その後、留去した量に相当する量の有機溶媒を再添加することを含む、(1)〜(4)のいずれか1に記載の製造方法。
(6):有機溶媒の減圧留去及び再添加において、有機溶媒中の水分含量を0.2重量%未満にすることを特徴とする、(5)に記載の製造方法。
(7):下記式(1b)
【0038】
【化15】
【0039】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の1水和物結晶の製造方法であって、下記式(1a)
【0040】
【化16】
【0041】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物を、含水有機溶媒中で無水シュウ酸と処理することを特徴とする、高純度の式(1b)で表される化合物の1水和物結晶の製造方法。
(8):含水有機溶媒が、4%以上の含水有機溶媒である、(2)〜(7)のいずれか1に記載の製造方法。
(9):含水有機溶媒が、4〜10%の含水有機溶媒である、(2)〜(7)のいずれか1に記載の製造方法。
(10):無水シュウ酸との処理が、無水シュウ酸の有機溶媒溶液を滴下するものである、(2)〜(9)のいずれか1に記載の製造方法。
(11):滴下を50〜80℃で行う、(10)に記載の製造方法。
(12):滴下終了後、さらに50〜80℃で2〜5時間撹拌を行う、(11)に記載の製造方法。
(13):有機溶媒が、酢酸C1〜C5アルキルエステル系溶媒、直鎖状又は分枝鎖状のC1〜C8アルコール系溶媒、C1〜C6ケトン系溶媒、トルエン系溶媒、及びC2〜C5ニトリル系溶媒からなる群より選ばれる1種又は2種以上の溶媒である、(1)〜(12)のいずれか1に記載の製造方法。
(14):有機溶媒が、アセトニトリル、トルエン、又はアセトニトリルとトルエンの混合溶媒である、(1)〜(12)のいずれか1に記載の製造方法。
(15):有機溶媒が、アセトニトリルである、(1)〜(12)のいずれか1に記載の製造方法。
(16):高純度の式(1b)で表される化合物。
(17):1水和物結晶である、(16)に記載の化合物。
(18):式(1b)で表される化合物の純度が97.0%以上である、(7)に記載の製造方法。
(19):式(1b)で表される化合物の純度が99.0%以上である、(7)に記載の製造方法。
(20):高純度の式(1)で表される化合物。
(21):無水物結晶である、(20)に記載の化合物。
(22):式(1)で表される化合物の純度が97.0%以上である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(23):式(1)で表される化合物の純度が99.0%以上である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(24):粉末X線回折による回折角(2θ)として、5.6及び27.7°(±0.2°)に特徴的ピークを有する、下記式(1)
【0042】
【化17】
【0043】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物のForm−2型の無水物結晶。
(25):粉末X線回折スペクトルが
図2に示すパターンを有することを特徴とする、(24)に記載の式(1)で表される化合物のForm−2型の無水物結晶。
(26):粉末X線回折による回折角(2θ)として、7.0及び22.9°(±0.2°)に特徴的ピークを有する、下記式(1b)
【0044】
【化18】
【0045】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物のForm−2型の1水和物結晶。
(27):粉末X線回折スペクトルが
図4に示すパターンを有することを特徴とする、(26)に記載の式(1b)で表される化合物のForm−2型の1水和物結晶。
(28):粉末X線回折による回折角(2θ)として、8.5及び26.5°(±0.2°)に特徴的ピークを有する、下記式(1b)
【0046】
【化19】
【0047】
(式中、Bocは上記と同じものを示す。)
で表される化合物のForm−1型の1水和物結晶。
(29):粉末X線回折スペクトルが
図3に示すパターンを有することを特徴とする、(28)に記載の式(1b)で表される化合物のForm−1型の1水和物結晶。
(30):(1)に記載の方法で製造した、下記式(1)
【0048】
【化20】
【0049】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物の無水物結晶を使用することを特徴とする、下記式(X−a)
【0050】
【化21】
【0051】
で表される化合物の製造方法。
(31):(1)に記載の方法で製造した、式(1)で表される化合物の無水物結晶を使用することを特徴とする、下記式(X−a)
【0052】
【化22】
【0053】
で表される化合物を製造する方法であって、
式(1)で表される無水物結晶を、塩基の存在下に、下記式(4)
【0054】
【化23】
【0055】
で表される化合物と処理して、下記式(5)
【0056】
【化24】
【0057】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物を得る工程;
式(5)の化合物のBoc基を脱保護した後、塩基の存在下に、下記式(7)
【0058】
【化25】
【0059】
で表される化合物と処理して、下記式(X)
【0060】
【化26】
【0061】
で表されるフリー体の化合物を得る工程;及び
式(X)で表される化合物を、溶媒中、p−トルエンスルホン酸又はその水和物と処理して、式(X−a)で表される化合物を得る工程、を含む、式(X−a)で表される化合物の製造方法。
(32):高純度の式(X−a)で表される化合物。
(33):純度が99.50重量%以上である、(32)に記載の化合物。
(34):純度が99.75重量%以上である、(32)に記載の化合物。
(35):式(X−a)で表される化合物の純度が99.50重量%以上である、(30)又は(31)に記載の製造方法。
(36):式(X−a)で表される化合物の純度が99.75重量%以上である、(30)又は(31)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、FXa阻害薬(X)、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の製造における重要中間体であるcis−ジアミノ誘導体である式(1)で表される無水物結晶を高純度で製造することができる。従って、本発明は、FXa阻害薬(X)、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】:式(1)で表される化合物のForm 1型の無水物結晶の粉末X線図を示すものである。
【
図2】:式(1)で表される化合物のForm 2型の無水物結晶の粉末X線図を示すものである。
【
図3】:式(1b)で表される化合物のForm 1型の1水和物結晶の粉末X線図を示すものである。
【
図4】:式(1b)で表される化合物のForm 2型の1水和物結晶の粉末X線図を示すものである。
【
図5】:式(1)で表される化合物の無水物結晶(Form 1型)の熱分析チャートを示すものである。
【
図6】:式(1)で表される化合物の無水物結晶(Form 2型)の熱分析チャートを示すものである。
【
図7】:式(1b)で表される化合物の1水和物結晶(Form 1型)の熱分析チャートを示すものである。
【
図8】:式(1b)で表される化合物の1水和物結晶(Form 2型)の熱分析チャートを示すものである。
【
図9】:式(1b)で表される化合物の1水和物結晶、式(1-trans)で表されるtrans-異性体の無水物結晶、及び式(1b-trans)で表されるtrans-異性体の1水和物結晶の3種の結晶の水溶性を比較した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0065】
本明細書における「FXa阻害薬」の具体的な例としては、上記の化合物(X)が好ましい。化合物(X)はフリー体(遊離塩基)或いはその水和物でもよく、また化合物(X)は薬理学上許容される塩或いはその塩の水和物であってもよい。
【0066】
化合物(X)の薬理上許容される塩としては、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等を挙げることができる。
【0067】
化合物(X)の塩としては、塩酸塩又はp−トルエンスルホン酸塩が好ましく;
p−トルエンスルホン酸塩が特に好ましい。
【0068】
化合物(X)又はその塩、それらの水和物としては、以下の
N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド;
N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド・塩酸塩;
N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド・モノp−トルエンスルホン酸塩;及び
N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド・モノp−トルエンスルホン酸塩・1水和物;
が好ましく;
下記式(X−a)
【0069】
【化27】
【0070】
で表される、N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド・モノp−トルエンスルホン酸塩・1水和物が特に好ましい。
【0071】
アミノ体である式(1a)で表される化合物は、国際公開第2007/032498号パンフレットに記載された方法で製造することができる。すなわち、化合物(1a)は、メシルオキシ体である化合物(2)をアジド化して化合物(3)を製造し、引き続いてアジド体である化合物(3)を還元して製造することができる。
【0072】
【化28】
【0073】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
ここで、上記の製造方法では、アジド化の工程でトランス異性体である化合物(3-trans)が副生するため、いずれかの工程で精製操作を行わない限り、化合物(3)、化合物(1a)及びそのシュウ酸塩である化合物(1)には、下記の類縁物質であるtrans-異性体の化合物(3-trans)、化合物(1a-trans)、及び化合物(1-trans)が副生物として混在することが知られている(国際公開第2001/74774号パンフレット参照)。FXa阻害薬である式(X)で表される化合物、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の製造において、製造中間体の類縁物質の分離除去は最終物である医薬品化合物の品質向上に重要であり、また分離除去における効率性は原薬製造の収率の向上に非常に大切である。
【0074】
【化29】
【0075】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
国際公開第2001/74774号パンフレットにおいて、メシルオキシ体である化合物(2)のアジド化によるアジド体の化合物(3)の製造では、目的のcis−体である化合物(3)の他に、類縁物質としてtrans−体の異性体である化合物(3-trans)が生成することが開示されている。また、アジド化工程の終了後には、化合物(3)の精製操作を行わないので、化合物(3)を還元して得られるアミノ体(1a)にも、trans-異性体である化合物(1a-trans)が類縁物質として含まれている。
【0076】
本願発明は、高純度の式(1)で表される化合物の無水物結晶の製造に関するものであり、下記の(A工程)及び(B工程)の2工程によって構成されるものである。
【0077】
第1の工程である(A工程)は、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を製造する。すなわち、上記の化合物(2)から製造したアミノ体である化合物(1a)を、含水有機溶媒中で無水シュウ酸と処理して、類縁物質の含有率を低減した高純度の式(1)で表される化合物の1水和物結晶を製造する。
(A−1):化合物(1a)に、有機溶媒、及び4容量%以上の含水有機溶媒となるように水を添加して、懸濁又はスラリーとする。
(A−2):撹拌しながら内温を50〜70℃に加温する。
(A−3):シュウ酸を有機溶媒に溶解した溶液を調製し、上記(A−2)の溶液中に、内温50〜70℃の範囲で、1〜2時間をかけて滴下して懸濁液又はスラリーとする。
(A−4):滴下終了後、反応混合液を50〜70℃の範囲で、2〜5時間撹拌する。
(A−5):反応混合液を攪拌下に20〜40℃に冷却する。
(A−6):析出する結晶をろ取し、有機溶媒で結晶を洗浄後、乾燥する。
【0078】
以下に、(A−1)〜(A−6)の各操作の好ましい態様について説明する。
【0079】
(A−1)の操作における有機溶媒としては、単独又は混合溶媒として水溶性のある有機溶媒でよく、例えば、酢酸C1〜C5アルキルエステル系溶媒、直鎖状又は分枝鎖状のC1〜C8アルコール系溶媒、C1〜C6ケトン系溶媒、トルエン系溶媒、及びC2〜C5ニトリル系溶媒から選ばれる1種又は2種以上の混合溶媒を挙げることができる。酢酸C1〜C5アルキルエステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル等を挙げることができ;直鎖状又は分枝鎖状のC1〜C8アルコール系溶媒としては、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜8のアルコールでよく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールを挙げることができ;C1〜C6ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることができ;トルエン系溶媒としては、トルエン、キシレン等を挙げることができ;C2〜C5ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独溶媒として、又は2種以上を混合有機溶媒として使用してもよく、本操作において水を加えることから、上述した有機溶媒は水と分離しないものがよい。これらの有機溶媒中、アセトニトリル及びトルエンが好ましく;単独有機溶媒としてはアセトニトリルが特に好ましい。水和物結晶の製造のための有機溶媒中の含水率としては、4容量%(v/v)以上であればよく;4〜10容量%(v/v)程度が好ましく;4〜6容量%(v/v)程度が好ましい。使用する溶媒全体の量としては、化合物(1a)に対して5〜30容量部(V/W)の範囲で実施でき;7〜15容量部(V/W)の範囲が好ましい。
【0080】
(A−2)の操作における内温としては、50〜70℃の範囲が好ましく;60±5℃程度がより好ましい。また、撹拌している混合物は、懸濁あるいはスラリー状態で実施できる。
【0081】
(A−3)の操作におけるシュウ酸としては、無水シュウ酸として市販のものを使用すればよい。無水シュウ酸の使用量は、化合物(2)に対して0.8〜1モル当量が好ましく;化合物(2)に対して0.9モル当量がより好ましい。無水シュウ酸は溶液として滴下するのが好ましい。無水シュウ酸溶液の溶媒は、上記の(A−1)の溶媒を使用すればよく、アセトニトリルが好ましい。無水シュウ酸溶液に用いる溶媒量としては、化合物(2)に対して2〜5倍容量部(2〜5V/W)の範囲が好ましく;3倍容量部(3V/W)程度がより好ましい。無水シュウ酸溶液を滴下する温度としては、反応液の撹拌の操作性を向上させるために加温するのが好ましく;上記の(A−2)工程での加温を維持するのがより好ましい。すなわち、反応液の内温が50〜70℃の範囲がより好ましく;60±5℃程度がさらに好ましい。無水シュウ酸溶液を滴下する時間としては、1〜2時間程度が好ましく;1時間程度がより好ましい。
【0082】
(A−4)の操作は、無水シュウ酸溶液を滴下終了後、結晶化が進行して撹拌性の低下を防ぐために加温下で行うのが好ましい。加熱する温度としては、上記(A−2)及び(A−3)工程と同じ、反応液の内温が50〜70℃の範囲が好ましく;60±5℃程度がより好ましい。撹拌時間としては、2〜5時間が好ましく、2〜3時間がより好ましい。ここで、(A工程)が、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を製造する工程であるため、従来法に比べて非晶質の混在が少なく、撹拌効率が良好で撹拌時間を短縮できる。
【0083】
(A−5)の操作は、結晶化を完結させて結晶をろ過するために反応液を冷却する工程である。冷却する温度としては、ろ過性を維持するために反応液の内温を20〜40℃の範囲で冷却するのが好ましく;30℃程度がより好ましい。ろ過は通常の自然ろ過、又は、減圧ろ過を行えばよい。
【0084】
(A−6)の操作は、析出結晶をろ過し、結晶を洗浄後、乾燥する。洗浄に用いる溶媒は、上記で用いた溶媒でよく;アセトニトリルが好ましい。洗浄に使用する溶媒量は化合物(2)に対して1倍容量部(V/W)程度が好ましい。ろ過にて得られた結晶は、乾燥して次の(B工程)に使用する。
【0085】
上記(A工程)にて製造した、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶には2種の結晶多形が確認でき、それらは、後述の実施例に記載されているように、粉末X線回折による回折角(2θ)として、7.0及び22.9°(±0.2°)に特徴的ピークを有し、
図4に示した粉末X線回折スペクトルのパターンを有するForm−2型の1水和物結晶と、同じく粉末X線回折による回折角(2θ)として、8.5及び26.5°(±0.2°)に特徴的ピークを有し、
図3に示した粉末X線回折スペクトルのパターンを有するForm−1型の1水和物結晶の2種を調製できる。上述の(A工程)の製造法の好ましい態様においては、より次の(B工程)において好ましい出発物質となる、式(1b)で表される化合物のForm−2型の1水和物結晶を選択的に製造することができる。
【0086】
第2の工程である(B工程)は、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、加温下、1重量%未満の水分含量の有機溶媒中で攪拌することによる結晶転移によって式(1)で表される化合物の無水物結晶を製造する。
【0087】
なお、本明細書における「結晶転移」とは、一般に結晶転位又は結晶転換とも称され、例えば加熱など、外部からのエネルギーにより、結晶構造の安定化エネルギーの障壁(閾値)を越えて他の結晶構造に変化することを示し、化合物の結晶に多形結晶が存在する場合に生じる現象であるが、「結晶転移」を引き起こし、多形を作り分ける技術、条件は化合物によって異なる場合が多い。
(B−1):第1の工程である(A工程)で製造した式(1b)で表される化合物の1水和物結晶に、溶媒を添加し、溶媒中の水分含量を1%(1重量%)未満になるように、溶媒の無水度、反応系内に水分が入り込まないように、懸濁又はスラリーとする。
(B−2):内温を60℃〜80℃に加温して、溶媒中の水分含量が1重量%未満であることを確認して撹拌する。
(B−3):内温を40℃以上、外温80℃以下に加温して、減圧下に溶媒を留去して、反応溶媒中の水分を共沸脱水して反応混合液の溶媒中の水分含量を0.2重量%未満にするために、使用溶媒の総容量の半量以上を留去する。
(B−4):留去した量と同量の溶媒を添加し、反応混合液の溶媒中の水分含量を0.2重量%未満にであることを確認後、混合液の内温を40〜75℃で添加して、撹拌する。水分含量を0.2重量%未満とするためには、添加する溶媒の無水度、外部の湿度を反応系内に取り込まないようにする。
(B−5):混合液の水分含量を0.2重量%未満で、20〜40℃に冷却する。冷却中に外部湿度を取り込まないように、反応を湿度(水分)の低い不活性ガスの環境下で実施してもよい。
(B−6):析出した結晶を集め、用いた溶媒で結晶を洗浄した後、乾燥する。
【0088】
以下に、(B−1)〜(B−6)の各操作の好ましい態様について説明する。
【0089】
(B−1)の操作は、第1の工程である(A工程)で製造した式(1)で表される1水和物結晶に、溶媒を添加して懸濁又はスラリーとする。使用する溶媒は、単独又は混合有機溶媒を使用できるが、第2の工程である(B工程)が無水物結晶を製造する工程であることから、無水の有機溶媒が好ましく、無水の有機溶媒としては市販の無水有機溶媒を使用すればよい。
有機溶媒としては、単独又は混合溶媒でもちればよく、例えば、酢酸C1〜C5アルキルエステル系溶媒、直鎖状又は分枝鎖状のC1〜C8アルコール系溶媒、C1〜C6ケトン系溶媒、トルエン系溶媒、及びC2〜C5ニトリル系溶媒から選ばれる1種又は2種以上の混合溶媒を挙げることができ、これらの溶媒の例示としては、上述と同様である。これらの溶媒は、単独溶媒として、又は2種以上を混合有機溶媒として使用してもよく、本操作において低水分含量が必要であるため、市販の無水の有機溶媒を用いればよい。これらの有機溶媒中、アセトニトリル、トルエン、及びアセトニトリルとトルエンの混合溶媒が好ましく、アセトニトリルが特に好ましい。使用する溶媒量は、化合物(2)に対して5〜30倍容量部(V/W)の範囲が好ましく;7〜10倍容量部(V/W)の範囲がより好ましい。
ここで、溶媒中の水分含量を1%(1重量%)未満の確認方法としては、溶媒中の水分含量を測定する方法として公知の、例えば、カール・フィッシャー法等で実施でき、例えば、カール・フィッシャー水分計等の市販の測定装置を用いて実施すればよい。
【0090】
(B−2)の操作は、上記(B−1)の懸濁液又はスラリーを加温して、撹拌する操作である。この操作で、結晶転移が進行する。結晶転移のために撹拌温度は、内温60〜80℃の範囲が好ましく;内温70〜75℃の範囲がより好ましい。撹拌時間は、1時間以上が必要であり、1〜5時間程度撹拌するのが好ましい。ここで、上記の(B−1)、及び(B−2)の操作における、撹拌混合液の溶媒中の水分含量を1重量%未満に保持することで、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶から、式(1)で表される化合物の無水物結晶への結晶転移を進行させる。溶媒中の水分含量を1重量%未満に保持するためには、上述の溶媒の無水度、外気の湿度の反応系内への混入を防止すればよい。
(B−3)の操作は、溶媒を濃縮留去する。濃縮留去するときの温度としては、好ましくは内温40〜75℃、外温80℃以下;より好ましくは内温45〜60℃、外温80℃以下;である。濃縮留去としては、減圧又は常圧で実施できるが、減圧下で行うのが好ましい。濃縮留去する量は、総量の半量以下にするのが好ましく、具体的には、(B−1)の操作で添加した量の半量以上を濃縮留去するのが好ましい。この溶媒の濃縮留去操作は、系内の水分含量を有機溶媒との共沸留去によって混合液系内の水分量を減らし、無水物結晶から、再び1水和物結晶に再度水和物化するのを防止する。混合液の溶媒中の水分含量としては、0.2重量%未満が好ましく;0.15重量%以下がより好ましい。
【0091】
(B−4)操作は、(B−3)の操作で濃縮留去した量と同量の溶媒を、(B−3)の操作で加温した温度を保って添加した後、撹拌する。添加する溶媒としては、濃縮留去したものと同じ溶媒でも異なる溶媒でもよく、また今後溶媒でもよい。添加する溶媒としては、アセトニトリル、メタノール及びトルエンの単一又は混合溶媒が好ましく;アセトニトリル及びトルエンの単一又は混合溶媒がより好ましく;アセトニトリルの単一溶媒が特に好ましい。溶媒を添加した後の懸濁液又はスラリーは、同温度で1時間程度撹拌するのが好ましい。
(B−5)の操作は、(B−4)の操作で溶媒を添加後、撹拌した混合液を冷却する。冷却は反応装置の外部を、水などで冷却するか、又は自然放冷してもよく、冷却する温度としては、内温を20〜40℃の範囲になるように冷却すればよい。上記(B−4)の操作及び(B−5)の冷却操作では、混合液の溶媒中の水分含量を、0.2重量%未満、より好ましくは0.15重量%以下に保持する。水分含量を0.2重量%未満に保持するためには上述のように、反応操作を不活性ガスの環境下で行う等の方策を採ればよい。このように、溶媒中の水分含量を、0.2重量%未満、より好ましくは0.15重量%以下に保持することにより、式(1)で表される化合物の無水物結晶が再水和化して、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶へ転移するのを防止する。したがって、(B−5)の操作における撹拌時間は特に問題ではなく、製造スケジュールに合致した時間で撹拌すればよい。
(B−6)の操作は、析出結晶をろ過にて集め、結晶を洗浄後、乾燥する。洗浄に用いる溶媒は、上記で用いた溶媒でよく;アセトニトリルが好ましい。洗浄に使用する溶媒量は化合物(2)に対して1倍容量部(V/W)程度が好ましい。乾燥は、常圧又は減圧でよく、温度は40℃程度が好ましい。ここで、乾燥後、目的の式(1)で表される化合物の無水物結晶を、化合物(2)からの通算収率として、60%以上で得ることができる。
【0092】
上記(B工程)にて製造した、式(1)で表される化合物の無水物結晶には2種の結晶多形が確認でき、それらは、後述の実施例に記載されているように、粉末X線回折による回折角(2θ)として、5.1及び20.4°(±0.2°)に特徴的ピークを有し、
図1に示した粉末X線回折スペクトルのパターンを有するForm−1型の無水物結晶と、同じく粉末X線回折による回折角(2θ)として、5.6及び27.7°(±0.2°)に特徴的ピークを有し、
図2に示した粉末X線回折スペクトルのパターンを有するForm−2型の無水物結晶の2種を調製できる。上述の(B工程)の製造法の好ましい態様においては、実施例に示すように、より吸湿性の少ない、好ましい多形結晶の一方の、式(1)で表される化合物のForm−2型の無水物結晶を選択的に製造することができる。
【0093】
第2の工程である上記の(B工程)の代替法として、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、40℃で加温下、減圧乾燥することにより、次の製造工程に使用可能な、式(1)で表される化合物の無水物結晶の水分含量と同程度の水分含量に乾燥した、式(1)で表される化合物を固体として得ることができる。しかし、乾燥時間にきわめて長時間を要することから、実験室的な少量スケールでは実施できるが、工業的なスケールにおいては、再現性が低いことから、実際の医薬品中間体の製造方法としては採用することができない。また、第2の工程である(B工程)は、式(1b)で表される1水和物結晶を、塩基処理してフリー体(1a)とし、これをトルエンなどの有機溶媒で抽出操作を行い、抽出液の濃縮操作で、低水分含量のフリー体(1a)を得ることができる。しかし、化合物(1a)の抽出効率が極めて低く、操作収率は大幅に低下した。
【0094】
本願発明の特徴は、FXa阻害薬である化合物(X)又は化合物(X−a)の製造のための重要中間体である式(1)で表される化合物の無水物結晶を、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶のcis-異性体とtrans-異性体(1-trans)の水溶性が異なる点を利用して、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を高純度で製造する工程を経由し、引き続き、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、結晶転移を用いて従来法より高純度で、かつ高収率で、式(1)で表される化合物の無水物結晶を製造することにある。
【0095】
本願発明の1つの特徴は、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を、結晶転移して式(1)で表される化合物の無水物結晶を製造する上記の第2の工程(B工程)にある。第2の工程である(B工程)の好ましい態様として、具体的には下記の操作スキームを挙げることができる。
【0096】
【数1】
【0097】
*1:アセトニトリルを、化合物(2)に対して10倍容量部(V/W)を添加する。アセトニトリル溶媒中の水分含量は1重量%以下を保持する。<溶媒総量は10倍容量部>
*2:*1で添加したアセトニトリルの半量(V)を濃縮留去して半量(V)にする。この濃縮操作により、結晶転移で脱離した結晶水も留去することが可能であることから、留去後アセトニトリル溶媒中の水分含量は0.2重量%未満に低減される。<溶媒総量は5倍容量部>
*3:*2で濃縮留去した量のトルエンを添加する。<溶媒総量は10倍容量部>
*4:溶媒量を濃縮留去して、初期量(10倍容量部)の3/10とする。濃縮後は高沸点のトルエンが3/10<溶媒総量は3倍容量部>
*5:*4で濃縮留去した同量のアセトニトリルを添加する。添加後のアセトニトリル溶媒中の水分含量は0.2重量%未満。<溶媒総量は10倍容量部>
*6:ろ過した結晶を、アセトニトリルを化合物(2)に対して1容量部(V/W)で洗浄する。
【0098】
上記(B工程)の好ましい態様によると、好ましい多形結晶の一方の、式(1)で表される化合物のForm−2型の無水物結晶を選択的に製造することができる。
【0099】
本願発明の一つの特徴である、第2の工程である(B工程)のさらに好ましい態様として、具体的には以下の操作スキームを挙げることができる。
【0100】
【数2】
【0101】
*1:アセトニトリルを化合物(2)に対して7倍容量部(V/W)を添加する。アセトニトリル溶媒中の水分含量は1重量%以下を保持する。<溶媒総量は7倍容量部>
*2:*1で添加したアセトニトリルの4/7容量(V)を濃縮留去する。この濃縮操作により、結晶転移で脱離した結晶水も留去することが可能であることから、留去後アセトニトリル溶媒中の水分含量は0.2重量%未満に低減される。<溶媒総量は3/7倍容量部>
*3:*2で濃縮留去したものと同量のアセトニトリルを添加する。添加後の残留アセトニトリル溶媒中の水分含量は0.2重量%未満。<溶媒総量は7倍容量部>
*4:ろ過した結晶を、アセトニトリルを化合物(2)に対して1容量部(V/W)で洗浄する。
【0102】
上記(B工程)のさらに好ましい態様によると、好ましい多形結晶の一方の、式(1)で表される化合物のForm−2型の無水物結晶を選択的に製造することができる。
【0103】
本願発明は、下記のスキームで示すように化合物(2)から、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を経由し、これを結晶転移して式(1)で表される化合物の無水物結晶を製造する方法を提供するものである。
【0104】
【化30】
【0105】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
[アジド化工程]:化合物(2)を、溶媒中でアジ化試薬と処理して化合物(3)を製造する。
4級アンモニウム塩及びアジ化金属塩を水に添加して4級アンモニウム塩−アジ化金属塩からなるアジ化試薬複合体の水溶液を調製し、引き続いて該水溶液を、芳香族炭化水素系溶媒を用いて脱水処理を行って、水分含量が0.2重量%以下の4級アンモニウム塩−アジ化金属塩からなるアジ化試薬複合体の芳香族炭化水素系溶媒混合液とし、次いで化合物(2)と処理して化合物(3)を製造する。
4級アンモニウム塩としては、アルキルアミンの4級アンモニウム塩、及びピリジニウム塩が好ましく;具体的には塩化アンモニウム、1−ドデシルピリジニウム クロリド(別名:1−ラウリルピリジニウム クロリド)などが特に好ましい。アジ化金属塩としては、アジ化アルカリ金属塩が好ましく;アジ化ナトリウム及びアジ化リチウムがより好ましく;アジ化ナトリウムが特に好ましい。
4級アンモニウム塩の使用量としては、化合物(2)に対して0.5モル当量程度が好ましく、アジ化金属塩の使用量としては、化合物(2)に対して2.0モル当量程度が好ましいが、なんらこの範囲に限定されるものではない。
4級アンモニウム塩及びアジ化金属塩から、アジ化試薬複合体を調製するときの水の使用量としては、化合物(2)の1重量部に対して1〜2容量部[1.0(v/w)]程度が好ましいが、なんらこの範囲に限定されるものではない。水は、次の共沸脱水操作で除去するため、少ない量が好ましい。
アジ化試薬複合体を調製する温度としては、室温でよく、20〜40℃の範囲が好ましい。脱水処理としては、水を共沸させる有機溶媒を用いた共沸脱水処理を意味し、芳香族炭化水素系溶媒を用いた共沸脱水が好ましい。芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン及びジクロルベンゼンが好ましく、これら溶媒を単独(1種類)で、又は2種以上を混合した混合溶媒として用いてもよい。芳香族炭化水素系溶媒としては、トルエンがより好ましい。共沸脱水処理によって、水分含量を0.2重量%未満にするのが好ましく;0.1重量%以下にするのがより好ましく;0.1重量%以下が特に好ましい。
【0106】
引き続き、化合物(2)を上記のアジ化試薬複合体の芳香族炭化水素系溶媒混合液に添加し、反応混合物の内温として70℃で、撹拌下に18時間程度処理するのが好ましい。
【0107】
反応終了後の後処理としては、反応混合液を、アルカリ水溶液で処理するのが好ましい。芳香族炭化水素系溶媒で抽出して、化合物(3)芳香族炭化水素系溶液とする。芳香族炭化水素系溶媒としてはトルエンが最も好ましい。製造の具体例としては、参考例2に記載の方法を挙げることができる。
【0108】
[還元工程]:化合物(3)を還元してアミノ体である化合物(1a)を製造する工程であり、国際公開第2007/032498号パンフレットに記載された方法を用いればよい。化合物(1a)は、化合物(3)を、溶媒中、金属触媒および水素源の存在下、水素化分解を行なうことにより得ることができる。溶媒は各種溶媒を使用することができるが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、t−ブタノールなどの炭素数1〜4のアルコール系溶媒が好ましく;メタノール、エタノールが特に好ましい。反応温度は、室温〜70℃が好ましい。水素源としては、ギ酸、ギ酸塩が好ましく;ギ酸アンモニウムが特に好ましい。ギ酸アンモニウムは、化合物(3)に対して5〜10倍量(モル比)程度の範囲で使用すればよい。金属触媒としては、この種の水素化分解にて通常使用する金属触媒でよく、例えば、パラジウム−炭素、ラネーニッケル、ラネーコバルトなどを挙げることができ、パラジウム−炭素が好ましい。
(A工程)及び(B工程):上述の(A工程)及び(B工程)と同様に行う。
【0109】
本願発明の特徴である、化合物(2)から、式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を経由し、これを結晶転移して式(1)で表される化合物の無水物結晶を製造する具体的態様については、実施例として後述する。
【0110】
上記のメタンスルホニルオキシ誘導体である化合物(2)は、例えば下記の[スキーム1]に示すように製造することができ、製造の具体例としては、参考例1に記載の方法を挙げることができる。
【0111】
すなわち、化合物(2)は、化合物(10)から化合物(11)を製造し、これをメタンスルホニル化して製造することができる。化合物(10)及び化合物(11)は、国際公開第2007/032498号パンフレットに記載された方法で製造することができる。
【0112】
【化31】
【0113】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
本願発明で製造した高純度の式(1)で表される無水物結晶を用いた、FXa阻害薬である化合物(X)又は化合物(X−a)の製造は、以下に示すとおりであり、高純度の式(1)で表される化合物の無水物結晶を用いたことにより、高純度の化合物(X)又は化合物(X−a)が製造できる。
【0114】
アミド誘導体である化合物(5)は、下記のスキームに示すように、三級アミンの存在下に、本願発明の高純度の式(1)で表される化合物の無水物結晶から製造することができる。
【0115】
【化32】
【0116】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
化合物(4)は、下記に示すように製造することができ、製造の具体例としては、例えば参考例4に記載された方法を挙げることができる。すなわち、化合物(4)は、市販であるアニリン誘導体の化合物(4b)をC2−C4ニトリル系溶媒中で攪拌下に、化合物(4c)を添加して製造することができる。
【0117】
【化33】
【0118】
本反応のC2−C4ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリルを挙げることができ、アセトニトリルが好ましい。溶媒の使用量としては、化合物(4b)の1重量部に対して、10〜17容量部の範囲[10〜17(V/W)]が好ましい。化合物(4c)の使用量としては、化学量論的に化合物(4b)に対して、1.06〜1.21モル当量の範囲が好ましい。反応温度としては、40〜80℃の範囲が好ましい。反応時間としては、1時間以上が好ましく;1〜7時間程度が好ましい。このように製造した化合物(4)は晶析により、結晶としてろ取して単離することができる。晶析の温度としては、−25〜35℃の範囲が好ましい。晶析した化合物(4)はろ取して単離することができる。ろ取した化合物(4)は、常圧又は減圧下で乾燥し、乾燥体(乾体)として用いてもよく;湿潤体(湿体)として使用してもよい。
【0119】
本発明の式(1)で表される化合物の無水物結晶から製造した化合物(5)を用いて、高純度のFXa阻害薬の化合物(X)、及び化合物(X)のモノp−トルエンスルホン酸塩・1水和物である式(X−a)で表される化合物を製造する方法としては、特許文献1又は特許文献3に開示されている方法を用いればよく、具体的には下記のスキーム及び後述の参考例6及び7に示すとおりである。
【0120】
【化34】
【0121】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
本願発明の特徴である高純度の化合物(1)の化合物の無水物結晶を使用することにより、高純度のFXa阻害薬の化合物(X)、及び化合物(X)のモノp−トルエンスルホン酸塩・1水和物である化合物(X−a)を製造することができる。
【0122】
本発明の製造方法で製造した化合物(X−a)の純度は、通常HPLCを用いて製造工程に由来する類縁物質、不純物などのピーク面積を、常法に従って定量測定した。HPLCに用いる分析定量用のカラムとしては、市販の順相、逆相、及びそれらのキラルカラムを使用し、流動層としては、上記の類縁物質、不純物の保持時間(retention time:Rt)が重複しない溶媒系を選択して使用した。また、上記の類縁物質、不純物は、それぞれの順品の標準品を製造し、それら類縁物質及び不純物の定量のための検量線を作成し、本発明の製造方法で製造した化合物(X−a)の純度分析を行った。その結果、本発明の製造方法で製造した原薬である化合物(X−a)には、個々の類縁物質、不純物として0.1重量%を超えるものは含まれておらず、類縁物質及び不純物の総量は、製造ロットにより多少の差はあるが、測定した2ロットでは0.17〜0.19重量%程度であった。
【0123】
本発明の製造方法で製造した化合物(X−a)の純度としては、98.5重量%以上、99.0重量%以上、99.30重量%以上、99.50重量%以上、99.60重量%以上、99.70重量%以上、99.75重量%以上、99.80重量%以上、99.85重量%以上、99.90重量%以上、99.95重量%以上、又は99.99重量%以上が好ましい。
【実施例】
【0124】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、なんらこれに限定されるものではない。
【0125】
磁気共鳴スペクトル(NMR)における内部標準物質としては、テトラメチルシランを使用し、多重度を示す略語は、s=singlet、d=doublet、t=triplet、q=quartet、m=multiplet、及びbr s=broad singletを示す。
【0126】
(参考例1) (1R,2R,4S)−2−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシルメタンスルホナート(2)
【0127】
【化35】
【0128】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示し、Msはメタンスルホニル基を示す。)
[工程1] tert−ブチル{(1R,2R,5S)−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−ヒドロキシシクロヘキシルカルボニル}カルバマート(11)の合成
【0129】
【化36】
【0130】
(式中、Bocは前記と同じものを示す。)
(1S,3S,6R)−N,N−ジメチル−7−オクサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボキサミド(10)(1g)に28%アンモニア水溶液(5ml)を室温で加えた。混合液を、40℃で時間攪拌後、溶媒を減圧濃縮し、(1S,3R,4R)−3−アミノ−4−ヒドロキシ−N,N−ジメチルシクロヘキサンカルボキサミド(1.18g)を得た。
【0131】
得られた(1S,3R,4R)−3−アミノ−4−ヒドロキシ−N,N−ジメチルシクロヘキサンカルボキサミド(1.18g)を、水(5ml)に溶解後、ジ−tert−ブチル ジカルボネート(1.93g)、10規定水酸化ナトリウム水溶液(1.5ml)を室温で加えた。反応混合物を、40℃で2時間攪拌後、4−メチル−2−ペンタノン(MIBK)(5ml)で3回抽出し、抽出液の溶媒を減圧留去した。残渣に4−メチル−2−ペンタノン(MIBK)(3ml)を加え、室温で攪拌した。析出した結晶をろ取、乾燥して標題化合物(11)(1.26g)を得た。
1H−NMR(CDCl
3)δ:1.44(9H,s),1.48−1.59(2H,m),1.77−1.78(2H,m),1.86−1.97(1H,m),2.11−2.17(1H,m),2.78−2.83(1H,m),2.92(3H,s),3.02(3H,s),3.53−3.60(1H,m),3.94(1H,br.s),4.52−4.68(1H,m).
[工程2] (1R,2R,4S)−2−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシルメタンスルホナート(2)の合成
【0132】
【化37】
【0133】
(式中、Boc及びMsは前記と同じものを示す。)
tert−ブチル {(1R,2R,5S)−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−ヒドロキシシクロヘキシルカルボニル}カルバマート(11)(214.59g)の4−メチル−2−ペンタノン(MIBK)溶液(1875ml)に、室温攪拌下で塩化メタンスルホニル(159.07g)を加えた。混合液に、室温でトリエチルアミン(170.62g)を加え、同温度で1時間攪拌した。反応液に水を加えた後、有機層を分取した。溶媒を減圧濃縮後、濃縮残渣にMIBK(750ml)を加え、室温で3時間攪拌した。析出した結晶をろ取、乾燥して標題化合物(2)(242.57g)を得た。
1H−NMR(CDCl
3)δ:1.45(9H,s),1.58−1.66(1H,m),1.67−1.76(1H,m),1.84−1.96(2H,m),2.04−2.15(1H,m),2.17−2.26(1H,m),2.75−2.81(1H,m),2.94(3H,s),3.04(3H,s),3.07(3H,s),4.00−4.08(1H,m),4.69−4.82(2H,m).
(参考例2) tert−ブチル{(1R,2R,5S)−2−アジド−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート(3)(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)
【0134】
【化38】
【0135】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
(1R,2R,4S)−2−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシルメタンスルホナート(2)(20.0g)のN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)溶液(40ml)に、室温にて、アジ化ナトリウム(7.14g)及びドデシルピリジニウム クロリド(7.80g)を加えた。混合液を60℃で72時間攪拌後、室温に放冷した。反応液に水を加え酢酸エチル エステルで抽出した。抽出液を飽和重層水、水で洗浄後、溶媒を減圧濃縮した。濃縮残渣にn−ヘキサン−酢酸エチルエステル(5:1)の混合溶媒(300ml)を加え、室温で1時間攪拌した。析出した結晶をろ取した。得られた結晶にn−ヘキサン−酢酸エチルエステル(5:1)の混合溶媒(300ml)を加え、攪拌・結晶ろ過の操作を2回繰り返し、標題化合物(3)(4.6g,26.9%)を得た。
1H−NMR(CDCl
3)δ:1.46(9H,s),1.55−1.74(3H,m),1.75−1.82(1H,m),2.02−2.12(2H,m),2.74−2.83(1H,m),2.93(3H,s),3.02(3H,s),3.72−3.78(1H,m),4.07−4.13(1H,m),4.61−4.66(1H,m).
(参考例3) tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート(1)(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)
【0136】
【化39】
【0137】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
(1R,2R,4S)−2−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシルメタンスルホナート(2)(20.0g)のトルエン溶液(100ml)に、室温でアジ化ナトリウム(7.14g)およびドデシルピリジニウム クロリド(7.80g)を加えた。混合液を60℃で72時間攪拌後、室温に放冷した。反応液に水を加え、有機層を分取した。有機層を飽和重層水、水にて洗浄後、溶媒を留去した。
【0138】
残渣にメタノールを加え、7.5%Pd−C及びギ酸アンモニウムを加えて40℃で1時間攪拌した。Pd−Cをろ過にて除去後、溶媒を減圧濃縮し、これに含水アセトニトリル(200ml)および無水シュウ酸(4.94g)を加え、室温で17時間攪拌した。析出した結晶をろ取した。得られた結晶をアセトニトリル(200ml)に添加し、40℃で24時間攪拌した。析出した結晶をろ取・乾燥して標題化合物(1)(12.7g)を得た。
1H−NMR(D
2O)δ:1.30(9H,s),1.37−1.49(2H,m),1.63(1H,t,J=2.7Hz),1.72−1.83(3H,m),2.77(3H,s)2.80(1H,t,J=12.4Hz),2.96(3H,m),3.32(1H,d,J=12.2Hz),4.10(1H,br).
元素分析:C
16H
29N
3O
7.
理論値:C;50.70%、H;7.75%、N;10.96%.
実測値:C;51.19%、H;7.79%、N;11.19%.
(参考例4) 2−[(5−クロロピリジン−2−イル)アミノ]−2−オキソアセタート エチルエステル 1・塩酸塩(4)(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)
【0139】
【化40】
【0140】
2−アミノ−5−クロロピリジン(10.0g)のアセトニトリル懸濁液(120ml)に、50℃でエチル オキサリル クロリド(11.7g)を加え、そのままの温度にて2時間攪拌した。反応液を冷却して10℃で結晶を濾取し、結晶をアセトニトリル(40ml)で洗浄後、減圧下乾燥して標記化合物(4)(19.7g)を得た。
【0141】
(参考例5) tert−ブチル (1R,2S,5S)−2−({2−[(5−クロロ−2−ピリジン−2−イル)アミノ]−2−オキソアセチル}アミノ)−5−(ジメチルアミノカルボニル)シクロヘキシルカルバマート(5)(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)
【0142】
【化41】
【0143】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
tert−ブチル (1R,2S,5S)−2−アミノ−5−(ジメチルアミノカルボニル)シクロヘキシルカルバマート 1・シュウ酸塩(1)(100.1g)のアセトニトリル懸濁液(550ml)に、60℃にてトリエチルアミン(169ml)を加えた。そのままの温度にて、2−[(5−クロロピリジン−2−イル)アミノ]−2−オキソアセタート エチルエステル 1・塩酸塩(4)(84.2g)を加え、6時間攪拌後、室温にて16時間攪拌した。反応液に水を加え、10℃にて1時間30分攪拌後、結晶をろ取して標題化合物(5)(106.6g)を得た。
1H−NMR(CDCl
3)δ:1.25−1.55(2H,m),1.45(9H,s),1.60−2.15(5H,m),2.56−2.74(1H,br.s),2.95(3H,s),3.06(3H,s),3.90−4.01(1H,m),4.18−4.27(1H,m),4.70−4.85(0.7H,br),5.70−6.00(0.3H,br.s),7.70(1H,dd,J=8.8,2.4Hz),7.75−8.00(1H,br),8.16(1H,br.d,J=8.8Hz),8.30(1H,d,J=2.4Hz),9.73(1H,s).
(参考例6) N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド(X)(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)
【0144】
【化42】
【0145】
tert−ブチル[(1R,2S,5S)−2−({[(5−クロロピリジン−2−イル)アミノ](オキソ)アセチル}アミノ)−5−(ジメチルアミノカルボニル)シクロヘキシル]カルバマート(5)(95.1g)のアセトニトリル(1900ml)懸濁液に、室温下、メタンスルホン酸(66ml)を加え、そのままの温度にて2時間攪拌した。反応液に氷冷下、トリエチルアミン(155ml)、5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ[1,3]チアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−カルボン酸・塩酸塩(8)(52.5g)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(33.0g)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(46.8g)を加え、室温にて16時間攪拌した。トリエチルアミン、水を加え、氷冷下、1時間攪拌後、結晶を濾取し、標題化合物(X)(103.2g)を得た。
1H−NMR(CDCl
3)δ:1.60−1.98(3H,m),2.00−2.16(3H,m),2.52(3H,s),2.78−2.90(3H,m),2.92−2.98(2H,m),2.95(3H,s),3.06(3H,s),3.69(1H,d,J=15.4Hz),3.75(1H,d,J=15.4Hz),4.07−4.15(1H,m),4.66−4.72(1H,m),7.40(1H,dd,J=8.8,0.6Hz),7.68(1H,dd,J=8.8,2.4Hz),8.03(1H,d,J=7.8Hz),8.16(1H,dd,J=8.8,0.6Hz),8.30(1H,dd,J=2.4,0.6Hz),9.72(1H,s).
MS(ESI)m/z:548(M+H)
+.
(参考例7) N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド・モノp−トルエンスルホン酸塩・1水和物(X−a)(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)
【0146】
【化43】
【0147】
N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド(X)(6.2g)を塩化メチレン(120ml)に溶解し、p−トルエンスルホン酸−エタノール溶液(1mol/L溶液:11.28ml)を加え、溶媒を留去した。残渣に15%含水エタノール(95ml)を加え、60℃にて撹拌し、溶解した。その後、室温まで冷却し、1日撹拌した。析出晶を濾取し、エタノールで洗浄後、室温にて2時間減圧乾燥して標題化合物(X−a)(7.4g)を得た。
1H−NMR(DMSO−d
6)δ:1.45−1.54(1H,m),1.66−1.78(3H,m),2.03−2.10(2H,m),2.28(3H,s),2.79(3H,s),2.91−3.02(1H,m),2.93(3H,s),2.99(3H,s),3.13−3.24(2H,m),3.46−3.82(2H,m),3.98−4.04(1H,m),4.43−4.80(3H,m),7.11(2H,d,J=7.8Hz),7.46(2H,d,J=8.2Hz),8.01(2H,d,J=1.8Hz),8.46(1H,t,J=1.8Hz),8.75(1H,d,J=6.9Hz),9.10−9.28(1H,br),10.18(1H,br),10.29(1H,s).
MS(ESI)m/z:548(M+H)
+.
元素分析:C
24H
30ClN
7O
4S・C
7H
8O
3S・H
2O
理論値:C;50.43,H;5.46,N;13.28,Cl;4.80,S;8.69.
実測値:C;50.25,H;5.36,N;13.32,Cl;4.93,S;8.79.
mp(分解):245〜248℃.
(参考例8)
国際公開第2007/032498号パンフレットに記載に従って、化合物(1a)と無水シュウ酸から、式(1)で表される化合物を製造し、化合物(1)に混在するtrans−異性体である化合物(1-trans)の割合を測定した。なお、基質は異なるが、国際公開第2001/74774号パンフレットの参考例157に記載のアジド化によるcis−異性体とtrans-異性体の生成比とほぼ同じような比率で、化合物(1a)中には、化合物(1a)のtrans-異性体である化合物(1a-trans)を約10%程度含む。
【0148】
【表1】
<結果>
国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の、2回の結晶化工程を経由する化合物(1)の製造における、第1回目の結晶化における類縁物質である化合物(1-trans)の、経時的な混入の割合を検討したところ、Run1では1〜3%程度であったが、Run2及びRun3では、それぞれ4.2%以上及び3.7〜6.7%(撹拌時間に比例して増加)となり、類縁物質(1-trans)の混入割合が、撹拌時間が増すにつれて急激に増加し、国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の含有率に比べて約1.5〜2.5倍に増加する結果であった。
(参考例9)
国際公開第2007/032498号パンフレットの記載にしたがって、化合物(1a)と無水シュウ酸から、化合物(1)を製造し、撹拌時間による化合物(1)に混在するtrans−異性体である化合物(1-trans)の割合を測定した。結果は表2に示した。
【0149】
【表2】
<結果>
上記の表1に示した類縁物質である化合物(1-trans)の混入割合の低減を目的に、(第2回目の結晶化)における結晶化の溶媒量を増量して、その効果を検討した。表2に検討結果を示したが、溶媒量を増量しても、撹拌時間が長くなると類縁物質(1-trans)の混入の割合が急激に増加することが明らかになり、結晶化による製造方法の堅牢性に懸念を残す結果であった。
【0150】
表1、2に示したように、従来法(国際公開第2007/032498号パンフレットに記載の製造方法)の2回の結晶化工程を経由する化合物(1)の製造において、第1回目の結晶化における類縁物質である化合物(1-trans)の混入割合の経時変化を検討したところ、撹拌時間が長くなると類縁物質(1-trans)の混入割合が急激に増加し、その割合は約1.5〜2.5倍に増加することが判った。また、使用溶媒量を増加させた場合、増加に比例して類縁物質(1-trans)の混入割合は低くなるが、撹拌時間を長くすると混入割合が急激に増加した。工業的生産において不純物などの品質管理の観点から、製造工程の堅牢性に懸念を残す結果であった。
(参考例10)
化合物(1a)と無水シュウ酸から、従来法(国際公開第2007/032498号パンフレット)の第1回目の結晶化における析出結晶の結晶形の経時変化を粉末X線で測定した。
【0151】
<結果>
従来法(国際公開第2007/032498号パンフレット)の第1回目の結晶化において、結晶析出直後はアモルファスであることが粉末X線結晶回析図から明らかになった。また、第1回目の結晶化における結晶析出直後に、シュウ酸溶液滴下箇所における局所的な過飽和により非晶化が目視で観察された。さらに、シュウ酸溶液の滴下速度(滴下時間)によって結晶形が異なり、結晶化工程の安定性に問題があることが明らかになり、工業的製造方法としては適さないことが判明した。
【0152】
(実施例1) tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート(1) の無水物結晶の多形結晶(Form 1型の無水物結晶、及びForm 2型の無水物結晶)
【0153】
【化44】
【0154】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
上記の参考例3に記載の方法で製造した化合物(1)の無水物結晶は、25℃で撹拌を行うと母液の水分含有率により、1水和物に結晶転移することがわかった。一方、上記の参考例3の製造方法とは異なり、アセトニトリル溶液中の水分含有率を0.65%以下に保ち、撹拌温度を60〜80℃で1時間以上処理する方法では、先のForm 1型の無水物結晶とは異なり、1水和物に結晶転移しにくいForm 2型の無水物結晶が得られた。Form 2型の無水物結晶はろ過性などの操作性にも優れていることがわかった。化合物(1)の無水物結晶のForm 1型及びForm 2型の粉末X線回析図を
図1、2に、熱分析による回析図を、それぞれ
図5、6に示した。
【0155】
(実施例2) tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート 1水和物(1b)の多形結晶(Form 1型の1水和物結晶、及びForm 2型の1水和物結晶)
【0156】
【化45】
【0157】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
化合物(1a)を、6%含水アセトニトリル中で、無水シュウ酸と処理して、標題の2種の式(1b)で表される化合物の1水和物結晶の多形結晶が得られた(製造方法は下記の実施例3に記載した)。Form 1型及びForm 2型の1水和物結晶の粉末X線回析を
図3、4に、熱分析による回析図を、それぞれ
図7、8に示した。Form 1型の1水和物結晶は、室温で約2時間放置するとForm 2型の1水和物結晶に転移することがわかり、Form 2型の1水和物結晶が準安定晶であることがわかった。さらに、Form 1型の1水和物結晶を、化合物(1)の化合物の無水物結晶に結晶転移を行った場合、Form 1型の1水和物結晶が、1水和物結晶の準安定晶であるForm 2型への結晶転移を経由して無水物結晶に転移することから、化合物(1)の無水物結晶を製造する場合、出発物質として用いる1水和物結晶としては、Form 2型の1水和物結晶が好ましいことがわかった。
【0158】
(実施例3) tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート 1水和物(1b)の結晶
【0159】
【化46】
【0160】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
[A工程]
化合物(1a)(45.61g,0.16mol)にアセトニトリル(595ml)及び水(43ml)を加え、攪拌下に内温が50〜70℃になるように加熱した。あらかじめ無水シュウ酸(18.87g,0.21mol)とアセトニトリル(255ml)から調製した溶液を、上記の溶液に、内温を50〜70℃に保ちながら、1時間をかけて滴下した。滴下終了後、反応混合液を50〜70℃で5時間撹拌した後、内温が20〜40℃になるように冷却した。析出結晶を集め、アセトニトリルで洗浄後、乾燥して式(1b)で表される化合物の1水和物結晶(59.14g,94.1%)を得た。得られた式(1b)で表される1水和物結晶の粉末X線回析図、及び熱分析の結果は、
図4、8に示した、実施例2のForm 2型の1水和物結晶のものと同じであった。
【0161】
(実施例4) tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート (1)の無水物結晶
【0162】
【化47】
【0163】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
[B工程]
式(1b)で表される化合物の1水和物結晶(13.25g,33.68mmol)に、アセトニトリル(126ml)を加え、反応系内の水分含量が約0.7%であることを確認後、内温70〜75℃で、5時間撹拌した。反応液を内温40〜70℃(外温は80℃以下)に保って、アセトニトリル(66ml)を減圧留去した。次に、濃縮留去した量と同量の市販の無水アセトニトリル(66ml)を反応混合液に添加した後、反応混合液の水分含量が約0.15%であることを確認後、反応混合液を50〜70℃で1時間撹拌した。反応混合液を内温20〜40℃に冷却後、析出結晶をろ取し、アセトニトリルで洗浄、及び乾燥して表題物である式(1)で表される化合物の無水物結晶(12.46g,98.6%)を得た。得られた式(1)で表される化合物の無水物結晶の粉末X線回析図、及び熱分析の結果は、
図2、6に示した実施例1のForm 2型の無水物結晶のものと同じであった。
【0164】
(実施例5)
[
図9]に示したように、式(1b)で表される化合物の1水和物の結晶、新たに調製したtrans-異性体である式(1b-trans)で表される化合物の1水和物結晶、及び式(1-trans)で表される化合物の無水物結晶の、trans-異性体3種の結晶の水溶性を比較した。
13%トルエン/アセトニトリル溶液に水を添加して含水率を変化させ、式(1b)で表される化合物の1水和物の結晶、及びtrans-異性体である式(1b-trans)で表される化合物の1水和物の水溶性を比較した。
【0165】
<結果> 式(1b-trans)で表される化合物の1水和物結晶は、cis-体である式(1b)で表される化合物の1水和物結晶より水溶性が高く、溶媒中の含水率の上昇にしたがって、cis-体である式(1b)で表される化合物の1水和物結晶と、trans-異性体である式(1b-trans)で表される1水和物結晶の水溶性の差が増大した。このことから、水への溶解性の差を利用し、含水溶媒系を用いた両異性体の分離の可能性が示された。
【0166】
(実施例6)
従来法(国際公開第2007/032498号パンフレット)の第1回目の結晶化における類縁物質であるtrans-異性体の式(1-trans)で表される化合物の無水物結晶の割合と、本願発明の(A法)によって製造した式(1b)で表される化合物の1水和物結晶中のtrans-異性体(1-trans)の含有割合を比較した。
【0167】
【表3】
<結果> 本願発明の(A法)である、水を添加して1水和物を製造する方法では、trans-異性体の含有率が大幅に低減した。また、加温下においてはシュウ酸溶液の滴下時間による操作性などの問題は生じなく、また結晶の単離におけるろ液へのロスは従来法と同等であった。本願発明の(A法)は、高純度の化合物(1)の1水和物結晶を製造する方法であることがわかった。
【0168】
(実施例7) tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート (1)の無水物結晶
【0169】
【化48】
【0170】
(式中、Msはメタンスルホニル基を示し;Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。)
[アジド化工程]
アジ化ナトリウム(32.82g)及びドデシルピジニウム クロリド(35.83g)に水(184ml)を加え、60℃で1時間撹拌した。反応溶液にトルエン(460ml)を加え、同温度で減圧下に水をディーン・スターク装置を用いて共沸脱水した。トルエン懸濁液の水分が0.1%程度であるのを確認後、留去したトルエン量を添加した。(1R,2R,4S)−2−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシルメタンスルホナート(2)を加え、内温60〜65℃で48時間撹拌した。反応液を40℃に冷却後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(460ml)を添加し、40℃に加温したトルエン(184ml)で3回抽出した。抽出液を合わせ、40℃に加温した水(138ml)で2回洗浄後、抽出液を約半分の容量まで濃縮した。得られた化合物(3)のトルエン溶液は、これ以上の精製を行うことなく次の工程で使用した。
[還元工程]
上記の[アジド化工程]で得られた化合物(3)のトルエン溶液に、メタノール(460ml)、市販の7.5%パラジウム−炭素(川研ファインケミカル株式会社製:12.88g)、及びギ酸アンモニウム(17.48g)を加え、内温30〜50℃の範囲で1時間撹拌した。不溶物である金属触媒をろ過にて除去し、これをメタノール(184ml)で洗浄した。ろ液を減圧濃縮し、濃縮残渣にトルエン(230ml)を加え、減圧濃縮を行って、粗生成物である化合物(1a)を得た。得られた粗生成物の化合物(1a)はこれ以上の精製を行うことなく次の工程で使用した。
[A工程]
上記の[還元工程]で得られた化合物(1a)にアセトニトリル(644ml)及び水(46ml)を加え、攪拌下に内温が50〜70℃になるように加熱した。ここに、あらかじめ無水シュウ酸(18.18g)とアセトニトリル(276ml)から調製した溶液を、内温を50〜70℃に保ち、1時間をかけて滴下した。滴下終了後、反応混合液を50〜70℃で5時間撹拌した後、内温が20〜40℃になるように冷却した。析出結晶を集め、アセトニトリル(92ml)で洗浄後、乾燥して式(1b)で表される化合物の1水和物結晶を得た。
[B工程]
上記の[A工程]で得られた式(1b)で表される化合物の1水和物結晶に、アセトニトリル(920ml)を加え、反応系内の水分含量が約0.7%であることを確認後、内温が70〜75℃で、5時間撹拌した。反応液を内温40〜70℃(外温は80℃以下)に保って、アセトニトリル(526ml)を減圧留去した。あらたに留去した量と同容量のアセトニトリル(526ml)を添加し、反応混合液の水分含量が約0.15%であることを確認後、反応混合液を50〜70℃で1時間撹拌した。反応混合液を内温20〜40℃に冷却後、析出結晶をろ取し、乾燥して表題物[52.12g、化合物(2)から55%]を得た。
【0171】
(実施例8) N
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N
2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド・モノp−トルエンスルホン酸塩・1水和物(X−a)の純度の測定
本発明の実施例7で製造した tert−ブチル {(1R,2S,5S)−2−アミノ−5−[(ジメチルアミノ)カルボニル]シクロヘキシル}カルバマート オキサレート (1)の無水物結晶を用い、参考例7に記載された方法を用い、式(X−a)で示した化合物の純度測定をHPLC法で行った。
【0172】
合計3ロットの測定結果から、類縁物質等の不純物は総量で0.17〜0.19重量%の範囲であった。したがって、式(X−a)で示した化合物の純度は99.81重量%〜99.83重量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の製造法は、FXaの阻害薬として有用な化合物(X)、その薬理上許容される塩又はそれらの水和物の新規な工業的製造方法として利用できる。