【実施例】
【0061】
実施例1:Evf2突然変異体マウスの調製および特徴づけ
機能性非コーディングRNA(ncRNA)をコードするゲノムの可能性が解明され始めたところである(Prasanthら(2007)およびMattickら(2006)。多くのncRNAは低分子調節RNAのクラスに属するが、1つのサブセットの長いポリアデニル化ncRNA(lpncRNA)はタンパク質パートナーと協同的に作用する(Shamovskyら(2006))。以前に、発達途中の終脳におけるソニックヘッジホッグ(SHH)シグナリングのlpncRNA標的であるEvf2が、DLXホメオドメインタンパク質とトランス作用性の転写協同作用を呈し、神経幹細胞株においてDlx5/6エンハンサー活性を増加させることが見出された(Fengら(2006))。超保存されたDlx5/6の相互遺伝子DNAの調節要素の同定(Zeruchaら(2000)は、重要な発達調節因子または転写因子の近くの1,000を超える超保存されたDNA配列の発見を導いた(Gilliganら(2002),Santiniら(2003),およびBejeranoら(2004))。転写の調節活性に必要且つ十分なEvf2のドメインは、Evf2 RNAの5’末端におけるこの超保存された配列中に存在する(Fengら(2006))。Evf2が、転写調節活性を有するという発見は(Fengら(2006))は、超保存されたDNA配列のサブセットが転写され機能的である可能性を高めた。最近、超保存されたncRNAが転写調節超保存ncRNA(trucRNA)の新たなクラスを構成する可能性を支持する、さらなる超保存脳lpncRNAが同定された(Mercerら(2008))。この研究において、我々は、Evf2 trucRNAが脳において主要な抑制性神経伝達物質であるGABAを産生する、遺伝子調節および介在ニューロンの発達にとって重要であることを、我々の知る限り初めて見出した。
【0062】
脳における興奮および抑制間のバランスは、適切な機能にとって重要であり、2つの主要なクラスのニューロンによって保持される:刺激性投射ニューロンおよび抑制性局所回路介在ニューロンである。興奮は、神経伝達物質グルタミン酸によって主として媒介されるが、GABAは主として抑制を媒介する。最近、GABA作動性介在ニューロンの多くの調節的役割が同定された(Di Cristo(2007))。GABA調節回路の機能障害は、統合失調症、自閉症およびトゥーレット症候群ならびにてんかん等の、異なる精神障害に関係してきた。ヒト自閉症スペクトル障害(ASD)Rett症候群のモデルである、メチルCpG結合タンパク質(Mecp2)突然変異体マウス(Bienvenuら(2006)、Morettiら(2006)、およびChahrourら(2007))において、GABA依存性の抑制性皮質活性が減少する(Daniら(2005))。統合失調症患者の背外側前前頭皮質において、最も一貫した知見の1つは、GABA合成の原因となる酵素であるGAD67の減少である(Lewisら(2005))。したがって、多数の一連の証拠は、様々な神経学的疾患におけるGABA作動性機能の異常を結び付ける。本明細書において、GABA作動性介在ニューロンおよび成体脳回路の発達を制御し、このメカニズムを発達および疾患両方の研究の標的とする非コーディングRNAが例証される。
【0063】
方法:
Evf2
TS/TSマウスの作出
3倍ポリA配列(TS)を使用して、強い転写停止シグナルを提供するそれらの能力に関し、Evf2発現を変化させた。Evf2突然変異体の調製のため、TSをEvfエクソンl、Evfエクソンlの開始からの84ヌクレオチドに挿入した。使用された隣接配列は以下の通りであった:
【0064】
【化1】
このTSの挿入位置を使用して、Evf2TS/TSマウスにおいて最も大きな可能性のあるEvf2転写物は、Fengら2006に定義されるように、転写調節ドメインを欠損する、84ヌクレオチド長である。
【0065】
Evf2ターゲッティングコンストラクトを、以前に記載されるように大腸菌中でラムダファージ系組換え技術を使用して作出した(Liu,らGenome Res.13,476−484(2003))。ハイフィデリティTaq(ロッシュ)を使用して、BAC DNAからおよそ500bpの相同性アームが(追加された制限部位により)PCR増幅された。3つの断片ライゲーションを使用して、相同性アームはPL253のClaIおよびNheI部位へと、それらの間に操作されたHindIII部位によりクローニングされた。16.I−kb領域(マウス染色体6上の6、809、651〜6、825、742位に対応する、NCBI集合体)は、組換え誘導性EL250細胞を使用して、回復プラスミドへのpBACe3.6M8(M.Ekker)から回復された(Liu,ら)。さらなるターゲッティングは、回復プラスミド上で行われた。ポリアデニル化ターゲッティングベクターは、floxed−Neo−含有プラスミドであるPL452において構築された。3倍ポリアデニル化シグナルは、PL452のEcoRIおよびSalI部位へとクローニングされた。およそ500bpのターゲッティング相同性アームが、polyA−floxed−Neo挿入物のいずれか片方上に連続してクローニングされた。簡潔には、断片は上述のようにPCR増幅され、ClaIおよびKpnI部位、またはNotIおよびSacII部位中へとクローニングされた。この3倍polyA−floxed−Neoカセットは組換え誘発性EL250細胞を用いて、回復された16.I−kb領域中へとターゲットティングされた。ターゲッティングの成功は、完成したコンストラクトの内部プローブを用いたサザンブロット解析により確認された(NEBlot kit,NEB)。
【0066】
マウスES細胞は、標準的手法を使用して、相同組換えによってターゲッティングされた。ES細胞におけるターゲッティングの成功は、サザンブロットにより確認され、5’および3’末端の両方における適切な相同組換えが立証された。プローブは、16.I−kb相同性領域の外で作出された。5’プローブは、499bp(染色体6塩基6,808,430〜6,808,928)であり、3’プローブは、991bp(染色体6塩基6,825,821〜6,826,811)であった。野生型ApaLI部位は、染色体6塩基6,828,765および6,817,913に存在し、3’プローブとハイブリダイズする10.8−kbの断片を生じる。EL250細胞および組換えプラスミドPL253およびPL452はN.Copelandによって提供された(ウェブサイトでワールドワイドウェブ上にも記載される:recombineering.ncifcrf.gov/Plasmid.asp)。
【0067】
Evf2TS(flexed−Neo)ヘテロ接合体はサザンブロットによって立証され、2世代間EIIAcreマウス(Jacson Labs)と交差された。Neo排除は、PCR(データ非表示)によって立証された。マウスを、混合された129/FVB/C57B16バックグラウンド上で保持し、IACUCガイドラインに従って収容した。
【0068】
Evf2変異体の調製および立証に使用されたプライマー配列は以下の通りであった。遺伝子ターゲッティングについては、回復相同性アームに対する以下のプライマーを使用した:CLaI(5’−GAT GCG AAT CGA TCG GCT TAG GCC TCC AGG TTT C−3’;配列番号2)、Hindlll(5’−AAA CCC TAA GCT TGA CTA GCG TGG CCC AAA GGT−3’;配列番号3)、Hindlll
*(5’−GAT GCG AAA GCT TCT GTC AGT GCC AAA ATG GAA GGA CAT−3’;配列番号4)、NheI(5’−GAT GCG AGC TAG CGG GGT TGG GAC CTG GTT TTA GG−3’;配列番号5)。ターゲッティングアームについて、我々は以下を使用した。SacII(5’−TTA GTT CCG CGG CCT GGT CCT TTC TTC GTC TCA AGT C−3’;配列番号6)、Not1(5’−ATT TGC GGC CGC CTT AAG AGA TAT TCA CCG GGG TAA GTT TTT ATT−3’;配列番号7)、ClaI(5’−GAT TTT ATC GAT CAA TGA TCA GGG TCT AGA AAT CTA TAC TGA G−3’;配列番号8)、Kpn(5’−GAT TTT GGT ACC TTC AGG GTT TGA TTT GAT CGC TAC TG−3’;配列番号9)、5’ESサザンプローブmEvf5’.1(5’−TGG TGA AGC TGG AGG AAG GAC−3’;配列番号10)およびmEvf5’.2(5’−CAC ACT GAC TTC TGA ACA CCC CTG−3’;配列番号11)、および3’サザンプローブmEvD’.1(5’−GGG GTG AAG GAT GGT GAT TAA AGA GC−3’;配列番号12)およびmEvf3’.1(5’−GTG GCT GGC TGT CCT TTG GT−3’;配列番号13)。
【0069】
定量的逆転写PCRについては、我々はSYBRグリーンと共に以下のプライマーを使用した。Evf2−F(0.2μM,5’−CTC CCT CCG CTC AGT ATA GAT TTC−3’;配列番号14)、Evf2−R(0.2μM,5’−CCT CCC CGG TGA ATA TCT CTT−3’;配列番号15)、Dlx2−F(0.15μM,5’−CCC TAC GGC ACC AGT TCG T−3’;配列番号16)、Dlx2−R(0.15μM,5’−TCG GAT TTC AGG CTC AAG GT−3’;配列番号17)、Nrp2−F(0.5pM,5’−ACT TTT CAG GAC ACG AAG TGA GAA−3’;配列番号18)、Nrp2−R(0.5μM,5’−GCC AGC ATC TTT GGA ATT CAG−3’;配列番号19)、Gad67−F(0.4μM,5’−ACT CCT TCG CCT GCA ACC T−3’;配列番号20)、Gad67−R(0.4μM,5’−CGC CAC ACC AAG TAT CAT ACG T−3’;配列番号21)、β−アクチン−F(0.3μM,5’−GCG AGC ACA GCT TCT TTG C−3’;配列番号22)およびβ−アクチン−R(0.3μM,5’−TCG TCA TCC ATG GCG AAC T−3’;配列番号23)。TaqMan PCRについて、我々は、以下のプライマーを使用した:Dlx5プローブ(0.1μM,5’−CAA GCA TCC GAT CCG GCG ACT TC−3’;配列番号24)、Dlx5−F(0.1μM,5’−TAT GAC AGG AGT GTT TGA CAG AAG AGT−3’;配列番号25)、Dlx5−R(0.1μM,5’−ACG TCG GGA ACG GAG CTT−3’;配列番号26)、Dlx6プローブ(0.1μM,5’−AAC GCC T AC GGA GCT TCT GAA GGA GAC A−3’;配列番号27)、Dlx6−F(0.1μM,5’−GAG ACC ACA GAT GAT GTG ACT TCT CT−3’;配列番号28)、Dlx6−R(0.1pM,5’−CTG CCA TGT TTG TGC AGA TTC T−3’;配列番号29)、Evflプローブ(0.1μM,5’−AGA GCT ATG CGA CTG TAG GCA AGC CAT−3’;配列番号30)、Evfl−F(0.1μM,5’−GCA TGG AAA CTT TGA TAC CTT GGT−3’;配列番号:31)、Evfl−R(0.1μM,5’−GCC TTT CAG AAC TAG AAG GGA TTT AAA−3’;配列番号32)、β−アクチンプローブ(0.1μM,5’−CAA CGA GCG GTT CCG ATG CCC T−3’;配列番号:33)、β−アクチン−F(0.1μM,5’−ACG GCC AGG TCA TCA CTA TTG−3’;配列番号34)およびβ−アクチン−R(0.1μM,5’−CAA GAA GGA AGG CTG GAA AAG A−3’;配列番号35)。定量的PCRについて、我々は、SYBR Green PCR Core Reagents Kitと共に以下のプライマーを使用した:I−F(0.25μM,5’−TAT GAA AAG CCC AGG ATT GC−3’;配列番号36)、I−R(0.25μM,5’−TGT CCCAGCTTC CTA TCA CC−3’;配列番号37)、2−F(0.25μM,5’−TGG TTT GAA AGA GGG GAA TG−3’;配列番号38)、2−R(0.25μM,5’−AGA GCG CTT ATT CTG AAA CCA−3’;配列番号39),3−F(0.12μM,5’−CCC AGG ATC AAT TCT GAA CAA AG−3’;配列番号40)、3−R(0.50μM,5’−TCC CCA ATG TCT GCT TCA AAT−3’;配列番号41),4−F(0.10μM,5’−TGG ATT CCCTGA ACT CCA AG−3’;配列番号42)。4−R(0.10μM,5’−AGG GCT TGG GAA CTC AAA CT−3’;配列番号43)、5−F(0.24μM,5’−GGC GCA TCT TTG CAA ATT ACA−3’;配列番号44)、5−R(0.50μM,5’−GCA GGC TGG ATT AGG ATG CTA−3’;配列番号45)、6−F(1.0μM,5’−TCG AAA GTA TTG CGT GGA TG−3’;配列番号46)、6−R(1.0μM,5’−GTG TGT ACC AAG CGC ATG TC−3’;配列番号47)、7−F(0.25μM,5’−GGC GTG TCA GCA CCT GAT TT−3’;配列番号48)および7−R(0.25μM,5’−GCC AAG TCA CTG CCC ATC TC− 3’;配列番号49)。
【0070】
ChIP法
MGE組織は、E135マウスEvf2
+/+またはEvf2
TS/TS胚(1グループ当たり10〜15の胚)から採取した。組織を、ピペッティングにより単一細胞へと破壊し、70μmフィルターを通して回転(spun)した。DNAを、ローテーター上で1%のパラホルムアルデヒドで90分間架橋し、その後、SDS溶解緩衝溶液(1%SDS、50mM Tris−HC1(pH8.1)および10mM EDTA)およびプロテアーゼ阻害剤PMSF(170μgml
−1)、ペプスタチン(0.7μgml
−1)、ロイペプチン(10μgml
−1)およびアプロチニン(10μgml
−1’)中に再懸濁した。架橋DNAを、Microson Ultrasonic Cell Disruptor上で、パワー6で10秒間ごとに6パルス超音波処理した。超音波で処理された混合物を遠心沈殿させ、上澄み液をChIPに使用した。
【0071】
各免疫沈降条件について、全量1,000μlのTES緩衝溶液(50mM Tris−HC1(pH8.1)、1mM EDTAおよび150mM NaCl)およびプロテアーゼ阻害剤に対し、20μgのクロマチンを使用した。クロマチンを4℃でローテーター上であらかじめ純化した(precleared)。我々は、洗浄された75μlのプロテインG−アガロースビーズを1時間添加し、上澄み液を10μlのウサギ前免疫血清で1時間インキュベートした。その後、75μlのプロテインG−アガロースを1時間添加し、上澄み液を抗体条件およびウサギ前免疫条件について半分に分けた。クロマチンを4℃で免疫沈降させた。抗体(5μg)またはウサギ前免疫血清(2μl)を4時間添加し、その後100μlのプロテインG−アガロースを一晩添加した。プロテインG−アガロースビーズを、低塩緩衝溶液(0.1%SDS、1%TritonX−100、2mM EDTA、20mM Tris−HC1(pH9.1)および150mM NaCl)で2回、500mM NaClで1回、LiCl緩衝溶液(0.25M LiCl、1%デオキシコール酸ナトリウム、1mM EDTA、10mM Tris−HC1(pH8.1)および1%IGEPAL)で2回、TE緩衝溶液(10mM Tris−HC1(pH8.1)およびImM EDTA)で2回洗浄した。その後、クロマチンを100μlの溶出緩衝溶液(1%SDS、および0.1M NaHCO
3)で2回インキュベートすることにより、プロテインG−アガロースビーズから溶出した。0.5M NaCl中65℃で5時間インキュベートすることにより、DNA架橋を逆転した。その後、15mM EDTA/30mM Tris−HC1(pH8.1)および750μgml
−1プロテイナーゼKの半量を65℃で1時間添加することにより、DNAをプロテイナーゼK処理した。非架橋DNAを、フェノール抽出し、グリコーゲンを用いてエタノール沈殿させた。Dllに対するウサギ全抗体を実験室において産生した。元々記載されるように(Panganibanら、1995)、Dlxに対する全抗体を我々の実験室において作製し、広範囲にわたって特徴づけた(Feng,ら(2006))。62アミノ酸の蝶Dllホメオドメイン含有断片に対し、ウサギにおいてDlxに対する全抗体が産生され、親和性精製され、そしてウェスタンブロット(Dll断片およびゼブラフィッシュDlxl、2、4および6、ならびにマウスDlx2)および免疫組織化学(神経外植片、胚前脳切片)により試験された。Dlxに対する全抗体は、Dlx1、2、4および6を含むゼブラフィッシュDlxファミリーメンバーを認識する(Fengら(2006))。
【0072】
モノクローナル抗Mecp2抗体を、商業的に入手し(Affinity Bioreagents)、前もって特徴づけた(Kishiら(2004))。我々は、Mecp2に対するこれらの抗体が、ウェスタン解析により成体嗅球抽出物中の2つのバンドのみに結合することを立証した(データは示されていない)。HDAC1に対する抗体はSigmaから入手した。プライマーを、約−3.32の標準曲線勾配を有する100%有効である濃度まで最適化した。
【0073】
下記式を使用して、免疫沈降条件のCt値とインプットクロマチンのCt値とを比較することによって抗体の富化およびウサギ前免疫血清を決定した:2
−(Ct(IP)−Ct(lnput))。一旦富化を計算すると、各抗体の相対的な富化を、Evf2
+/+およびEvf2
TS/TS EI3.5 MGE組織について前免疫富化により抗体富化を除することによって計算した。
【0074】
免疫組織化学
脳組織を、4%パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、15%スクロースのリン酸緩衝食塩水(PBS)、その後30%スクロースのリン酸緩衝食塩水(PBS)に継続的に一晩浸漬した。組織を、18μmにクライオスタットで切片を作製し、風乾して染色した。以前に公開されているように、インサイチュハイブリダイゼーションを行った(Fengら(2006))。免疫組織化学を、チラミド増幅を用いて行った(TSA Kit#12,Invitrogen)。組織を65℃で2時間50%ホルムアミド/50% 2×SSCにより処理し、その後2×SSCで洗浄した。細胞を0.5%Triton X−100のPBSで透過処理し、この組織を1%過酸化水素のPBSにおいて30分間インキュベートすることによって内因性ペルオキシダーゼ活性を消失させた。組織を、1%ブロッキング溶液(成分D)でブロッキングし、ブロッキング溶液中の一次抗体、すなわちGABAに対するウサギ抗体(Sigma,1:500)またはDllに対する全抗体(0.01mg ml
−1,実験室において精製された)で一晩標識化した。組織をPBS中で洗浄し、その後、ウサギIgG−西洋ワサビペルオキシダーゼ接合体に対するヤギ抗体である二次抗体(成分C,1:100)中で1時間インキュベートした。組織をPBS中で洗浄し、実用性のあるチラミド溶液を15分間適用した:0.0015%過酸化水素(成分F)を有するAlexa Fluor488染料(成分A,1:100)の増幅緩衝溶液(成分E)。最後に、核局在化についてDAPI染色を適用した。
【0075】
ウェスタンブロット
Evf2
+/+およびEvf2
TS/TS E13.5 MOE組織をSDS−PAGE試料緩衝溶液中でホモジナイズし、12.5%SDS−PAGEゲル上で分離し、ニトロセルロースに転写し、そしてD.EisenstatからのDlx2に対する一次ウサギ抗体(1:2,000)でプローブし、その後ウサギペルオキシダーゼに対する二次抗体(1:5,000,Sigma)でプローブした。ブロットを、β−アクチンに対するマウス抗体(1:20,000,AC−15,Sigma)で再プローブした。バンドを、ケミルミネッセンスキット(Perkin Elmer)を用いて可視化した。
【0076】
エレクトロポレーション
DNAを、0.04%トリパンブルーを注入の間可視化用に用いて水中0.1μg μl
−1の濃度に溶解した。E12.5 Evf2
TS/TS胚は、Evf2
TS/TS雄および雌を交差して得、冷L−15培地中で解剖した。頭を冷PBS中に配置し、解剖顕微鏡の下で1.5μlのDNAを前脳の側脳室に注入した。方形波プロトコル(BioRad Gene Pulser XCell)を用いたエレクトロポレーションは、1秒間の間隔を開けて、30Vの5×50msパルスを伝達した。各側の外側に配置され、その後、脳の左右の両側をエレクトロポレーションするために逆転されたエレクトロポレーションパドル(Pro tech)を用いて、各胚を2回エレクトロポレーションした。MGEを解剖し、神経細胞培養用培地(0.02μmフィルター(Nunc)上のB−27(Gibco)、N2サプリメント(Gibco)、200μM L−グルタミン、0.1μg ml
−1ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1μg/mlマイトマイシンCを含有するDMEM/F12)中で培養された。培養24時間後、RNAを、qRT−PCR解析のための4つのMGE外植片のプールから分離した。
【0077】
RNA単離および逆転写
一対のE13.5 MGE組織からのトータルRNAを単離し(Chomczynskiら(1987))、RNASEを含有していないDNASE I(NEB)で処理し、ランダムヘキサマー(NEB)およびMMoL V逆転写酵素(Invitrogen)を用いて(ising)逆転写した。
【0078】
定量的PCR
SYBR Green PCR Core Reagents Kit(Applied Biosystems,4304886)を、7500Fast RealTime PCR System(Applied Biosystems)上での全ての定量的ChIP PCRで使用した。以下のPCRプログラムを使用した:AMPErase UNG処理を50℃で2分間、AmpliTaq Gold活性化を95℃で10分間、95℃で10秒間の変性を40サイクル、アニーリングを58℃で5秒間、および伸長を72℃で32秒間。各25μlの反応液には、5μlの1:50免疫沈降希釈液、2.5μlの10×PCR緩衝溶液、3μlの25mM MgCl
2、2.0μlのdNTPブレンド、0.25μlのAmpErase UNGおよび0.25μlのAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼが含まれていた。プライマーは、100%有効であるか、または約−3.32の標準曲線勾配を有する濃度まで最適化された。
【0079】
TaqMan PCR Core Reagents Kit(Applied Biosystems, N8080228)を、7500 Fast RealTime PCR System(Applied Biosystems)上の残りの定量的RT−PCRプライマーで使用した。以下のPCRプログラムを使用した:AMPErase UNG処理を50℃で2分間、AmpliTaq Gold活性化を95℃で15分間、95℃で30秒間の変性を40サイクルおよびアニーリング/伸長を59℃で1分間。各25μlの反応液には、50ngのcDNA、2.5μ1のl0xPCR緩衝溶液、5.0μ1の25mM MgC1
2、0.75μ1のdATP、0.75μ1のdGTP、0.75μ1のdCTP、0.75μ1のdUTP、0.25μ1のAmpErase UNGおよび0.25μ1のAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼが含まれていた。
【0080】
Evf2
+/+およびEvf2
TS/TS E13.5 MGE組織の倍遺伝子発現は、以下の式を使用し、標的遺伝子のCt値をコントロール遺伝子(β−アクチン)のCt値と比較することにより決定した:2
−(Ct(IP)−Ct(Input))。
【0081】
電気生理学
海馬横断スライス(300μm)を3〜5か月齢のEvf2
TS/TSマウスから調製した。スライスを、氷冷(約4℃)した酸素を含ませたACSF中で切断し、その後、1〜2時間回復させた後、32〜34℃に加熱し、95%O
2/5%CO
2で飽和した溶液で継続的に灌流した、記録チャンバーに移動させた。標準的な細胞外溶液は、124mM NaCl、3mM KC1、1.25mM KH
2PO
4、2.0mM CaCl
2、1.3mM MgC1
2、26mM NaHCO
3および10mMグルコースを含有した。スライシング溶液中のMgCl
2の濃度は、2.0mMまで高められ、CaCl
2の濃度は1.4mMまで低下した。GABA作動性電流を単離するため、20μM CNQXおよび50μM D−AP5を標準的ACSFへ添加した。テトロドトキシン(2μM)を薬物溶液に添加し、最少IPSCを単離した。
【0082】
全体細胞記録を、赤外線微分干渉顕微鏡を用いて、目視ガイダンスの下、CA1錐体ニューロンから得た。パッチピペットを、ホウケイ酸ガラスキャピラリーチュービング(A−M Systems)から引いた。パッチピペット用内部溶液は、120mMメタンスルホン酸セシウム、10mM CsCl、5mM NaCl、10mM HEPES、10mM EGTA、5mM TEA−Cl、4mM Mg−ATP、0.3mM GTPおよび5mM QX−314(pH7.3〜7.4)を含有し、CsOHによりモル浸透圧濃度290±10mOsmに調整した。
【0083】
ボルテージクランプ記録を、Axopatch−200B(Axon Instruments)を用いて行った。我々のすべての記録において、シリーズ抵抗は22MΩ未満であり、80%で補足された。記録されたシグナルを、5kHzで低域フィルターし、PCI−MIO−16E−4ボード(National Instruments)により10kHzでデジタル化した。全てのデータを、C++Builder5.0(Borland)およびNI DAQ6.5ドライバー(National Instruments)を用いて特注ソフトウェアによりPCコンピューター上に保存した。
【0084】
誘発されたIPSCを、記録される細胞の150μm内(シャッファー側枝交連線維位置部位)の放射状層上に位置された双極Pt/Ir電極(2x25μm)により0.1〜0.07Hzで引き出した。各実験の開始時に、刺激強度を調整して、0.4〜0.2nAの振幅によりEPSCを誘発した。誘発されたIPSCを、CNQXおよびD−AP5を含有する溶液でEPSCをブロッキングした後、10mVの電圧ステップで−70mV〜+20mVの保持電位で記録した。
【0085】
自発的なIPSCをMiniAnalysis 6.0.3ソフトウェア(Synaptosoft)を用いて解析した。全てのイベントを、それらの動態に基づいて手作業で選択した。250〜450の個別のイベントを、各細胞について解析した。誘発されたIPSPの記録後の解析を、Clampfit 10(Axon Instruments)を用いて行った。全ての統計学的値を、Origin 8(MicroCal Software)により評価した。値を、平均±s.e.m.で示した。統計学的相違を、特に指示がない限りスチューデントt検定を用いてP<0.05で確立した。
【0086】
動物使用
マウスを、研究所のガイドラインに沿ってIACUC承認のもとで飼育した。
【0087】
統計学的解析
統計学的な有意性を、各図面の凡例に
*P<〜0.05、
**P<0.01、および
***P<0.001により示されるように、種々の異なる検定を用いて決定した。グラフ上のエラーバーはs.e.mに対応する。
【0088】
結果:
インビボにおけるEvf2によるトランスおよびシス遺伝子調節
Evf2機能喪失マウスを開発して、インビボにおけるEvf2の役割を決定した。鍵となるDlx5/6DNA調節要素とのEvf2のオーバーラップのために、転写終了部位は、DNA断片の排除ではなく、挿入された(
図1a)。マウスBACからのDlx5、Dlx6およびEvf遺伝子に及ぶ19.4kbの断片を、サブクローニングした。その後、3倍ポリアデニル化シグナル(Soriano,(1999))をエクソン1へ導入した(Evf2
TS/TS;
図1a)。サザン解析は、胚性幹(ES)細胞株(
図1b)およびマウス(データ非表示)において正確にターゲッティングすることを立証した。Evf2
TS/TS突然変異体マウスは繁殖可能であり、少なくとも1年生存し、野生型同腹仔コントロールと形態学的に識別不可能であった(データ非表示)。インサイチュハイブリダイゼーション解析は、Evfエクソン1への転写停止挿入が、胚性13.5日(E13.5)腹側終脳におけるEvf2発現を排除したが、Evf1またはDlx5発現を排除しなかったことを示した(
図1e〜h)。Evf2
TS/TSマウスからのE13.5内側神経節隆起(MGE)組織のリアルタイムqRT−PCRは、Dlx6および5転写物が、それぞれ、8および2倍増加したことを示した(
図1i)。EvflおよびDlx5転写開始部位は、3倍ポリアデニル化シグナル挿入部位からほぼ等距離である(
図1a)という事実にもかかわらず、Evf1転写ではなく、Dlx5がEvf2突然変異体において影響を受けた(
図1i)。選択的転写効果は、3倍ポリアデニル化シグナル配列の挿入ではなく、Evf2喪失が原因であるという考えを支持した。3倍ポリアデニル化シグナル挿入が、観察された転写効果を引き起こす場合、Evflを含む全てのDlx5/6エンハンサー活性が変化することが期待されるであろう。
【0089】
トランスおよびシス依存性Evf2 RNA調節効果を識別するため、我々は2つの異なる濃度でE12.S Evf2
TS/TS脳へのEvf2エレクトロポレーションを行った(
図1j)。より低いEvf2濃度(1μg)において、Dlx5発現は減少したが、Dlx6およびEvfl濃度は依然として変化しなかった。より高いEvf2濃度(2μg)において、Dlx5とDlx6の両方の濃度が増加したが、Evflの濃度は変わらなかった。Evf2が部分的にDlx5増加をレスキューする能力は、Evf2トランス調節メカニズムがDlx5転写制御に関与していることを示唆した。異所的に発現されたEvf2がEvf2TS/TS突然変異体のDlx6増加をレスキューし得ないことは、Evf2が、トランスよりもむしろ、シスメカニズムにおいてアンチセンス競合を介してDlx6発現を低下させるという考えを支持した。より高いEvf2濃度(2μg)において、Dlx5およびDlx6の両方の濃度が増加し、異所的に発現された場合、Evf2 RNAは、Dlx5およびDlx6eiおよびeiiの転写活性化因子として機能し得るという、先に公開された結果を支持した(Feng,ら(2006))。また、E12.5脳へのEvf2siRNAコンストラクトのエレクトロポレーションは、Dlx5転写物のレベルを増加させ(データ非表示)、Evf2トランス作用性メカニズムがDlx5発現を調節するという考えをさらに支持した。併せて、これらのデータは、インビボにおいてトランスおよびシス調節メカニズムの両方を使用して、Evf2媒介性転写制御が濃度依存性であることを示唆した。
【0090】
遺伝子間エンハンサーへのDLXおよびMECP2のEvf2補充
Evf2がインビボにおいてDLXタンパク質と複合体を形成し、C17細胞において標的およびホメオドメイン特異性の両方によりDLX活性の転写活性化補助因子として作用することが示されてきた(Fengら(2006))。加えて、Evf2がDlx5/6遺伝子間エンハンサーへDLXタンパク質を補充するというモデルが提案されてきた。しかしながら、ここで、qRT−PCR解析は、Evf2欠損マウス(
図1i)がDlx5およびDlx6転写物のレベルの増加を示したことを示しており、Evf2がインビボにおいて、ポジティブというよりもむしろネガティブな転写調節の役割を有することを示唆した。レスキュー実験(
図1j)は、Evf2
TS/TS突然変異体におけるDlx6レベルの増加は、シスにおけるアンチセンス干渉の喪失に起因するが、トランスにおいては、Dlx5転写に対してよりわずかな抑制効果が生じたことを示唆した。Evf2依存性転写制御のメカニズムをさらに調査するため、我々は、クロマチン免疫沈降(ChIP)を使用し、続いて野生型およびEvf2
TS/TS突然変異体E13.5 MGEクロマチンに関する定量的PCR(ChiP−PCR)を行って、Evf2がDlx5およびDlx6eiおよび/またはeiiへのDLXの結合に影響を及ぼすかどうかを決定した。DLX1および2に対する抗体を用いた定量的ChIPアッセイは、以前に、Dlx5/6eiおよびeiiを特異的結合部位として同定した(Zhouら(2004))。野生型E13.5 MGEにおいて、DLXタンパク質に対する全抗体(Fengら(2006)、Panganibanら(1995)、Kohtzら(1998)、Kohtzら(2001)およびFengら(2004))は、DLXタンパク質−Dlx5/6エンハンサー(eiおよびeii)複合体を認識した(
図2b)。Evf2
TS/TS突然変異体クロマチンにおいて、DLXはeiおよびeiiに結合せず(
図2b)、Evf2がDlx調節エンハンサーeiおよびeiiへのDLXタンパク質の補充に重要であることを示した。
【0091】
Dlxlおよび2の両方を欠損するマウスが、Dlx5およびDlx6の発現減少を示した(Anderson,1997)という以前の報告を前提とすると、Dlx5/6eiおよびeiiにDLXタンパク質を補充することができないことが、Dlx5/6転写を減少させることは予想されるであろう。しかしながら、Dlx5/6転写物の数は増加し、Dlx2発現は変わらなかった(
図1i)。転写抑制因子Mecp2の喪失がDlx5の2倍の増加を成体前前頭皮質に生じ得るという報告(Horike,ら(2005))によって、我々は、胚の脳におけるEvf2喪失がDlx5/6領域においてMECP2結合に影響し得るかどうか調査した。Evf2の欠如において、抑制されたクロマチンと関連するDNAメチル結合タンパク質であるMECP2(Bienvenuら(2006))は、eiまたはeiiに結合しなかった(
図2c)。MECP2媒介性転写抑制について提案された1つのメカニズムは、クロマチン不活性化の原因であるHDAC、ヒストンデアセチラーゼを補充するその能力である(Nanら(1997))。しかしながら、Evf2突然変異体におけるeiへのMECP2結合の喪失は、eiへのHDAC結合を変化させず(
図2d)、MECP2結合は、この部位および発達段階での代替メカニズムを通して機能することを示唆した。eiiにおけるMECP2結合の喪失は、実際にHDAC結合を減少させ、eiおよびeiiが、MECP2機能がこれらの部位による転写調節活性にどのように作用するのかにおいて異なることを示唆した。部位2は、先に成体前前頭皮質におけるMECP2およびHDAC結合部位として定義されていたが(Horikeら(2005))、今回MECP2は、発達の間部位2にわずかに結合した。加えて、HDACは、野生型の胚性MGEにおける部位2に結合したが、Evf2TS/TS突然変異体における減少は、統計学的に有意ではなかった(
図2d)。したがって、Evf2突然変異体におけるDlx5発現増加は、eiおよびeiiへのMECP2結合の喪失、およびその後のeiiからのHDAC喪失に起因し得る。
【0092】
Evf2は、eiとeiiへDLXおよびMECP2を補充し、Evf1ではなくDlx5等の特異的な近傍の遺伝子に対してトランスでDlx5/6エンハンサー活性に影響を及ぼし、シスにおいてアンチセンス阻害を通してDlx6転写を調節する(
図1および2)。Dlx5、Dlx6およびEvf1が、どのようにeiとeiiへのDLX結合の非存在下で転写されるのかという、いくつかの可能性が説明され得る。第1に、DLX1I2は、単にEvf2非依存的にDlx5/6発現の初期の活性化にとって重要であり得る;その後のDLXおよびMECP2によるDlx5/6レベルの調節は、その後、Evf2と関与し得る。第2に、他のDLX結合部位は、DLX ei/eii相互作用の非存在下で補足し得る。第3に、DLX1および2の主要な役割は、MECP2がei/eiiに結合するのを防ぐことであり、直接の活性化因子としてではなく阻害を通して作用し得る。
【0093】
Evf2はDLXまたはMECP2の核局在化を制御しなかった
Evf2TS/TSマウスにおけるeiおよびeiiに結合するDLXおよびMECP2タンパク質の欠如が、Evf2がタンパク質の安定性および/または核局在化に影響を及ぼす可能性を高めた。CI7神経細胞におけるDLX2タンパク質安定性に対するEvf2の影響に関する直接検定で、Evf2の存在下または非存在下において、共トランスフェクションに起因するDLX2タンパク質レベルは変化しなかった(
図3a)。加えて、Evf2
TS/TS突然変異胚の神経節隆起におけるDLX2タンパク質レベルは、野生型のそれと比較して変化しなかった(
図3b)。Evf2突然変異核におけるDLXタンパク質分布(
図3f〜h)は、免疫蛍光可視化により、野生型におけるそれと区別できなかった(
図3c〜e)。加えて、DLX1/2の直接的な標的である、ニューロピリン2(Nrp2)の転写物(Le,ら(2007))は、Evf2
TS/TS突然変異体において変化しなかった(
図1i)。Evf2がDLXタンパク質の安定性を制御している場合、Nrp2を含む全てのDLX1/2活性が影響を受けるであろうが、そうではない。これらのデータは、Evf2が、DLXタンパク質を安定化するか、またはDLX核局在化に方向付けるというよりも、eiおよびeiiへのDLXを補充するというメカニズムを支持する。
【0094】
次に、Evf2突然変異体におけるei/eiiへのMECP2結合の喪失が、核局在化に対するその効果に起因するかどうかを決定した。発達途中の脳におけるMECP2局在化の解析は、未熟なニューロンでは発現がほとんどみられず、それらが成熟するにつれてニューロンにおける発現増加の勾配を示す(Kishiら(2004))。しかしながら、E13.5 MGEにおける発現は報告されていない。Evf2およびDLXが正常に発現するE13.5 MGE核におけるMECP2の解析は、不均一な、斑点状のMECP2局在化を示した(
図3i)。Evf2
TS/TS突然変異体において、MECP2分布は野生型のそれと区別不可能であり(
図3i、j)、Evf2突然変異体においてeiおよびeiiへMECP2を補充できないことが、変更された細胞内局在に起因するものではないことを示した。
【0095】
Evf2
TS/TS海馬介在ニューロン数の減少
DLXホメオドメインタンパク質ファミリーは、ショウジョウバエDistal−less遺伝子(DU)27と関連がある。Dlxlおよび2欠損マウスは、胚性MGEからの不完全な遊走の結果、皮質(約75%)および海馬(約90%)においてGABA作動性介在ニューロン(intemeurons)の本質的な喪失を有する(Andersonら(1997)、Pleasureら(2000)、およびMarinら(2003))。Evf2の喪失は、海馬および歯状回へと遊走するであろうGABA作動性介在ニューロン前駆体の大半の起源であるE13.5 MGEにおけるDlx5/6発現およびDLX機能(
図1および2)に影響を及ぼした(Pleasureら(2000)およびWichterleら(2001))。その後、P2海馬または歯状回におけるGABA作動性介在ニューロン発達がEvf2欠損マウスに影響を及ぼすかどうかを調査した。
【0096】
腹側終脳/脳室下帯の発達におけるEvf2の発現は、P2脳室下帯および海馬へと遊走すると思われる細胞において、誕生まで持続した(
図4a)。しかしながら、Evf2は、野生型の出生後2日目(P2)の海馬および歯状回、ならびに成体の脳室下帯または海馬において検出不可能であった(データ非表示)。グルタミン酸をGABAに転換するために必要な酵素であるGAD67に対するプローブを用いたインサイチュハイブリダイゼーションは、Evf2突然変異体の歯状回ならびに海馬CA1およびCA3層におけるGABA作動性介在ニューロンの数が40〜65%減少したことを示した(
図4b〜d)。GABA免疫化学により示されるように、Evf2突然変異体におけるGad1(GAD67をコードするマウス遺伝子)の発現減少は、GABAにおける減少を伴った(
図4e、f)。グルタミン酸作動性ニューロンに特異的に発現する遺伝子である、小胞性グルタミン酸トランスポーター1(vGlut1、Slc17a7としても知られる)に対するインサイチュハイブリダイゼーションは、Evf2
TS/TSおよび野生型海馬におけるvGlut1発現が類似することを示した(
図4g、h)。加えて、Evf2
TS/TSならびに野生型海馬および歯状回のTUNEL染色は、類似の細胞死のレベルを示した(
図4i〜k)。併せて、これらのデータは、Evf2が適切なGABA作動性介在ニューロンの発達に重要であり、運命形質転換(fate transformation)または細胞死増加はこの減少が原因でないことを示した。
【0097】
Evf2は、成体脳ではなく胚においてGad1を調節した
GABA作動性介在ニューロンの発達におけるEvf2の役割をさらに理解するため、GABA作動性介在ニューロン前駆物質が最初に生成されるE13.5 MGEにおけるGad1 RNAレベルを解析した。野生型E13.5 MGEと比較し、Evf2
TS/TSにおいてGad1転写レベルは−30%に減少した(
図5a)。Evf2
TS/TS E12.5 MGEへのEvf2のエレクトロポレーションは、pcDNAコントロールと比較して、−30%までGad1レベルを回復した(
図5b)。Evf2がEvf2
TS/TS突然変異体におけるGad1レベルの減少をレスキューする能力は、Evf2がトランス作用性メカニズムによってGAD67転写を活性化することを示唆する。
【0098】
前脳において、Evf2発現は、胚および出生後初期の発達に限定され(
図1cおよび4a)、成体脳室下帯や海馬では検出できなかった(データ非表示)。次に、我々は、出生後初期の海馬におけるGallの胚性発現の減少およびGABA作動性介在ニューロンの減少が成年期まで持続するかどうかという質問に達した。P60において、Evf2
TS/TS Gad1転写レベルは、野生型におけるものに匹敵した(
図5c)。加えて、8か月齢のEvf2
TS/TSならびに野生型の海馬および歯状回におけるGABA作動性介在ニューロンの数は、類似した(
図5d)。これは、Evf2突然変異体におけるGad1発現およびGABA作動性介在ニューロン数が、Evf2下方制御のタイミングと一時的に関連する、出生後初期から2か月間の海馬の発達において、正常なレベルに時々回復したことを示唆する。
【0099】
Evf2TS/TSのS錐体ニューロンにおけるシナプス抑制の減少
Dlxl
−/−マウスは、後のシナプス抑制の減少を結果として生じる、海馬GABA作動性介在ニューロンの特定集団における喪失を示した(Cobosら(2005))。Evf2
TS/TS海馬の解析は、Dlxl
−/−マウスよりも出生後初期の海馬において合計GABA作動性介在ニューロンの大きなパーセント喪失を示すのみならず(
図4b)(Cobosら(2005))、GABA作動性欠損はそれ以前に出現したことを示した。加えて、Dlx1
−/−マウスと異なり、Evf2
TS/TSマウスは、老齢動物においてGABA作動性介在ニューロンの回復を示した(
図5c、d)。これにより我々は、明白な転写の回復にもかかわらず、より低いレベルの胚および周産期のGad1が、成人のシナプスの活性に対する長期的な影響を引き起こす場合があるかどうか、という質問に達した。
【0100】
この質問に答えるため、抑制シナプス後電流(IPSC)を、Evf2
TS/TSおよび野生型の同腹仔からのCAl錐体細胞において、Gad1 mRNAレベルが正常レベルに回復した場合、P60より高齢で比較した。最初に、我々は自発的な抑制シナプス後電位(sIPSC)および最小抑制シナプス後電流(mIPSC)を解析した。グルタミン酸塩受容体アンタゴニスト(20μM 6−シアノ−7−ジニトロキノキサリン−2,3ジオン(CNQX)および50μM D(−)−2−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(D−AP5))を含有する人工脳脊髄液(ACSF)中の外部抑制電流を最大限にするため、+20mVで記録した。我々は、テトロドトキシン(2μM)を添加してmIPSCを単離した(
図6a、b)。全てのマウスを2つの年齢グループに分けた:成体(3〜5か月)および12か月齢未満のマウス。この2つの年齢グループによって、我々は、特異的な発達段階に起因し得るものから、突然変異体マウスおよび野生型マウスの間の任意の持続的な差を区別することができた。
【0101】
両方のEvf2
TS/TS年齢グループが、CAl錐体細胞中のsIPSCイベント周波数の顕著な減少を示した。成体グループにおけるsIPSCの平均周波数は、野生型のマウスにおけるものと比較し、突然変異体マウスにおいて42%低かった。老齢マウスにおいて、突然変異体マウスにおけるsIPSCイベント周波数は、野生型よりも38%低かった。我々は、mIPSCイベント周波数の同様の顕著な減少を、野生型と比較した成体および老齢Evf2
TS/TSグループにおいて観察した。累積確率プロットおよび対応するKoimogorov−Smirnov統計学的解析は、さらに、Evf2
TS/TSマウスにおけるIPSC周波数の減少を確認した(
図6c,d)。これに対し、我々は、野生型および突然変異体マウス間でのsIPSP振幅またはmIPSP振幅の顕著な相違を見出さなかった。これは、Evf2がシナプス接触の特性または正常に分化した介在ニューロンにより形成されたGABA受容体を制御しなかったが、その代わり、CA1錐体ニューロン上に形成されたGABA作動性シナプスの数を減少させたことを示唆した。
【0102】
特に、sIPSCおよびmIPSCの周波数は、成体マウスよりも老齢マウスにおいて低かったが、Evf2
TS/TSおよび野生型マウスの両方において同等の年齢依存性変化が生じた。したがって、突然変異体マウスおよび野生型マウス間での相違は持続した。同様に、sIPSCの振幅は、老齢マウスにおいて増加した。これらの年齢差は、以前に報告されたものと一致する(Potierら(2006)およびXuら(2009))。
【0103】
CA1錐体ニューロンにおける抑制インプットが突然変異体において変化するかどうかをさらに決定するため、我々は、放線状層の刺激について、成体マウスグループからのCA1錐体ニューロンにおいて誘発されたIPSCを計測した。最初に、我々は、必要に応じて刺激強度を調整しながら、−70mVにおいて振幅0.4〜0.2nAで誘発された興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録した。グルタミン酸アンタゴニストは、EPSCをブロックし(上記参照)、一連の誘発されたIPSCは異なる保持電位において(−70mV〜+20mV)記録された。これらの記録から構築されたI−Vプロットは、−70mVで誘発されたEPSCの振幅を正常化した(
図6g)。我々は、解析において類似の生理学的特徴を有する細胞のみを含めた(野生型n=5;突然変異体n=4)。誘発されたIPSCは、突然変異体マウスにおいて有意に小さく(P<0.01,ペアt検定)、さらに、CA1錐体ニューロンがより小さなGABA作動性神経支配を受けることを示唆した。
【0104】
最後に、我々は、自発的および誘発されたIPSCについて立ち上がりまたは減衰時間において顕著な変化を認めなかった。ACSFの記録において追加される場合、0.25mMのピクロトキシンは、すべての我々の記録における自発的および誘発されたIPSCの両方を消滅させ、GABA
A受容体の進化を確認した。従って、老齢マウスにおけるGABA作動性介在ニューロンの回復は、海馬における正常なシナプス抑制の回復を結果として生じなかった。
【0105】
考察:
これらの結果は、Evf2非コーディングRNAが腹側前脳の発達における均衡のとれた遺伝子調節に重要であることを示す。Evf2
TS/TS突然変異体において、Dlx6転写物は、8倍に増加した。Evf2
TS/TS突然変異体において増加したDlx6をレスキューし得ないということは、Dlx6のEvf2アンチセンス転写阻害が、アンチセンスアニーリングよりもむしろ逆鎖転写を通じてシスに生じるという考えを支持する。より高いEvf2レベルがDlx6の減少ではなく増加を引き起こしたことを示しているデータ(
図1j)は、アンチセンスアニーリングメカニズムにより期待されるように、逆鎖転写阻害を支持する。3倍ポリアデニル化シグナル挿入がEvf2アンチセンス干渉の喪失よりもむしろ、Dlx6転写の増加を結果として生じることを除外することはできないが、Evf1転写がEvf2
TS/TS突然変異体において影響されないままだったとすれば、3倍ポリアデニル化シグナル挿入はDlx5/6eiまたはeiiを乱すことはあり得ない。さらに、Air非コーディングRNAの5’末端への3倍ポリアデニル化シグナル挿入(Sleutelsら(2002))は、隣接の転写に影響を与えない。併せて、これらのデータは、Evf2 RNAよりもむしろインビボ Evf2転写において、シスにおける競合的アンチセンス阻害を通してネガティブにDlx6転写を調節することを示唆する。
【0106】
Dlx6の効果に反し、Dlx5の増加およびGad1の減少をレスキューするEvf2の能力は、Evf2 RNAが、トランスにおいてネガティブにDlx5を調節し、ポジティブにGad1を調節したことを示した。したがって、Evf2媒介性のトランス作用性転写調節効果は、標的および濃度依存性であり、低レベルのEvf2がDlx5を抑制し、高レベルではDlx5、Dlx6およびGad1を活性化した。また、これらの結果は、Evf2によってDlx5/6eiおよびeiiのトランス作用性転写活性化を同定した以前のデータを支持する(Fengら(2006))。Evf2がトランスでDlx5を抑制するように作用するという考えのさらなる支持は、我々のノックダウン研究から端を発する(データ非表示)。
【0107】
研究は、SHHがDlxおよびEvf遺伝子および、胚前脳におけるGad1の胚形態を活性化することを示している(Fengら(2006)およびKohtzら(1998))。加えて、Dlx2およびDlx5の異所的発現は、胚前脳スライスにおけるGad1を活性化する(Stuhmerら(2002)。併せて、これらのデータは、GAD67を活性化するシグナリングカスケードの構成成分としてEvf2およびDLXを同定し、Evf2
TS/TS突然変異体中のGad1レベル低下が、GAD67のEvf2/DLX調節干渉に起因し得るという考えを支持している。しかしながら、我々の結果および先の結果の両方ともが、Evf2の損失は、Gad1転写に直接的に影響しているのか、間接的に影響しているのかどうかを区別しない。DLX1/2シグナリングの2つの既知の直接標的のうち、Evf2の喪失は、Nrp2ではなく(Leら(2007))、Dlx5/6に影響し(Zeruchaら(2000))(
図1i)、Evf2が全てのDlx1/2活性に影響しなかったことを示した。したがって、Evf2の未確認の標的がGAD67調節の原因であり得る可能性がある。これらの実験によって提起された重要な問題は、Evf2/DLXが、直接または間接的にGAD67発現を調節するかどうかである。
【0108】
非コーディングRNAによる転写因子補充
我々の結果は、Evf2 trucRNAが、腹側前脳の発達における超保存DNA調節要素Dlx5/6eiおよびDlx5/6eii(
図2)へのポジティブ(DLX)およびネガティブ(MECP2)転写因子の補充に重要であることを示す。Evf2の喪失は、Dlx5転写において、減少よりむしろ予想外の増加を伴って、ポジティブに作用するDNA調節要素への公知の転写活性化因子(DLX)の補充を防止する(Dlx5/6eiおよびeii)。公知の転写抑制因子である、MECP2のEvf2媒介性の補充は、eiおよびeiiの両方から喪失され、MECP2喪失がDlx5の調節解除を説明し得ることを提案する。Dlx5/6領域における胚性および成体MECP2結合部位間の相違にもかかわらず、成体脳におけるDlx5の2倍の増加がMECP2の喪失に対して生じ(Horikeら(2005))、Dlx5/6ei活性に対するMECP2の抑制性の役割を支持する。eiiにおいて、MECP2喪失は、HDACIの喪失を伴い、Evf2突然変異体においてeiiにおけるクロマチンがより活性であることを示唆し、これは次にDlx5転写を増加し得た。しかしながら、eiへのHDACI結合は変化せず、代わりの調節メカニズムがこの部位に採用されたことを示唆した。最近の証拠は、MECP2は、時に、活性化された標的においてCREBIと関連して転写活性化因子として作用し得ることを示唆する(Chahrourら(2008))。我々のデータは、MECP2補充はEvf2依存性であり、トランス作用性RNAが、追加の因子の共補充を通して、または未知のメカニズムによるいずれかで、活性化因子または抑制因子活性間の選択に影響し得るという可能性を支持する。
【0109】
MECP2およびDLXタンパク質のEvf2媒介性補充のメカニズムを解析して、補充が競合的に、同等に両方の対立遺伝子について生じるのか、または互いに排他的な方法で生じるのかを決定した(データ非表示)。対立遺伝子不均衡は、遺伝子調節におけるわずかな(1.5倍)および目立った(9倍)変化の両方を生じ、試験された遺伝子の20〜50%に生じる(Cowlesら(2002)、Vanら(2002)、およびDossら(2005))。同様に、特定の対立遺伝子に局在するEvf2のレベルが、補充された因子の程度または同一性を決定し得ることが可能である。先の蛍光RNAインサイチュハイブリダイゼーションデータは、E13.5 MGE核が対立遺伝子間でEvf2の不均一な分布を有するという考えを支持する;E13.5 MGE切片において、Evf2転写物は、単独の均等ダブル(equal double)および不均等ダブル(unequal double)対立遺伝子上に分布し得る(Fengら(2006))。また、我々は、DLXおよびMECP2が異なる細胞間およびMGE核において非均質に分布されていることを見出した(
図3c〜j)。これらのデータは、Evf2、DLXおよびMECP2の不均等な分布が、ニューロン前駆体の異なる集団において対立遺伝子不均衡を調節する役割を有し得、ニューロンの多様性または表現型のバリエーションを導くことを示唆する。
【0110】
ヒトにおいて、15〜25%の遺伝子が、アンチセンス転写に関与する(Yeiinら(2003))。しかしながら、特異的なアンチセンス転写調節を採用するインビボメカニズムの報告はごくわずかしか存在しない(Prasanthら(2007))。これらのうち、アンチセンス転写物のインビボでの役割は、インプリンティング制御におけるAir(Sleutelsら2002)およびKcnqlotl(Mancini−DiNardoら(2006))について記載されている。我々のEvf2突然変異体解析からのデータは、我々のレスキュー実験からのデータと組み合わせて、Dlx6のアンチセンス転写物であるEvf2が逆鎖転写競合を通して、シスにおけるDlx6転写をネガティブに調節することを示唆する。しかしながら、トランスにおけるDlx5およびGad1を調節するEvf2の能力は、アンチセンス転写物がシス作用性メカニズムまたは局所性調節さえにも限定され得ないという可能性を高める。非インプリント領域における公知のアンチセンス転写物の数があるとすれば、どのくらいの頻度でアンチセンス転写物がトランス調節性効果を有するか、また様々な生物学的プロセスにおけるこの調節の役割を決定することが重要であろう。
【0111】
非コーディングRNA依存性GABA作動性介在ニューロン発達
胚性MGEは、Dlx依存性メカニズムによって調節され、その後海馬に集合するGABA作動性介在ニューロン前駆体を産生する(Pleasureら(2000))。Evf2の喪失は、胚性MGEにおける不均衡な遺伝子発現を結果として生じ、出生後初期(P2)の海馬および歯状回におけるGABA作動性介在ニューロンの減少をもたらす。さらに、P2 Evf2突然変異体におけるこのGABA作動性介在ニューロンの減少は、海馬における増大する細胞死または細胞運命形質転換に起因するものではなかった(
図4g〜k)。
【0112】
GABA作動性介在ニューロンがP2 Evf2突然変異体海馬において減少し得るいくつかの可能性のある理由が存在する。1つの可能性は、E13.5 Evf2突然変異体MGEにおけるGad1の減少が、介在ニューロン前駆体におけるGABAレベルを低下させ、その接線腹側を背側遊走へ変更し、そして、海馬中の目的地に到達するGABA作動性介在ニューロンの数を減少させることである。これは、GABAは、MGEから皮質への接線方向の遊走を包含する(Cowlesら(2002)、Cuzonら(2006)、およびLopez−Bendito(2003))多数のコンテキストにおけるニューロン遊走に影響する(Hengら(2007))という報告により支持される。加えて、Evf2突然変異体で見られるDLX1/2活性の干渉は、E13.5 MGEからのGABA作動性介在ニューロン遊走を害すると予想されるであろう(Andersonら(1997)およびPleasureら(2000))。大多数のGABA作動性介在ニューロンが、Evf2突然変異体において欠損する胚および出生初期の腹側起源に由来する場合、GABA作動性介在ニューロン数が成体のEvf2突然変異体海馬においてどのように回復するか、さらにいくつかの可能性がある。1つの可能性は、Evf2突然変異成体が、海馬の脳室下帯または吻側脳室下帯のいずれかにおけるGABA作動性介在ニューロンの神経新生により補足することである。そうであれば、これらのニューロンは、その胎性に生成された相当物に対して、シナプスレベルでは機能的に等価ではなかったことが、我々の電気生理学の実験から明らかである。代替の可能性は、Evf2突然変異体におけるGABA作動性前駆体が適切な時期に、適切な目的地へ遊走したが、Evf2の非存在下でより低いレベルのGad1を産生したということである。遊走の欠陥が見出された場合、なぜGABA作動性介在ニューロンの数がP2で減少するか、それは最終的にどのように回復するか、そのシナプスの欠陥の根拠が何であるかを調査するためにさらなる実験が必要であり得る。
【0113】
胚の腹側前脳におけるSHHシグナリングは、適切なGABA作動性介在ニューロン発達のため、DLXタンパク質、Evf2、MECP2およびGAD67に関与する転写カスケードを開始する(データ非表示)。MECP2の出生後の影響はRett症候群には致命的であろうと文献の主要部分が示唆するものの(Guyら(2007)およびGiacometti(2007))、我々の結果は、Evf2喪失およびMECP2喪失が、胚性MGEにおける転写効果が、シナプスレベルで成体のGABA作動性欠損を引き起こす共通のメカニズムを共有するという可能性を高める。Rett症候群の病因におけるMECP2の単一または複数の標的を同定する努力は、決定的でなかった。論争の的になっている証拠は、成体Mecp2
−/−脳におけるDlx5の調節解除が、GABA作動性欠陥の原因であり得るいう可能性を高めた(Horikeら(2005)およびSchuleら(2007))。しかしながら、Evf2突然変異体の解析は、MECP2喪失、増加したDlx5およびGABA作動性欠陥の間の相関が間接的であり得ることを明らかにする。
【0114】
DLX5がGAD67の活性化因子であるとすれば(Stuhmerら(2002))、GABA作動性介在ニューロン喪失は、Evf2突然変異体における予測されたDlx5の2倍の増加の影響ではないであろう。実際、Evf2レスキュー実験は、Evf2突然変異体のGABA作動性欠損の原因としてのDlx5上方制御に反して示唆し、Dlx遺伝子のEvf2調節に関与するメカニズムがGAD67のEvf2調節とは別であることを示唆した。我々のレスキュー実験は、Evf2が明確に異なるトランスおよびシスメカニズムを通してGad1、Dlx5およびDlx6を制御することを示唆した。加えて、2μgのEvf2レスキュー濃度で、Dlx5は増加したが、GAD67はレスキューされた。Dlx5の2倍の増加がGABA作動性欠損の原因である場合、GAD67は増加するとは予想されないであろう。これらの実験は、Dlx5の増加ではなくむしろ、Gad1減少がGABA作動性介在ニューロン欠損を生じる可能性が高いことを示唆する。
【0115】
我々の知る限り、これらの知見は、ncRNA依存性メカニズムが、成体の脳においてGABA依存性の結合性を決定し得る初期のGABA作動性介在ニューロン発達にとって重要であるという最初の論証を説明する。適切な結合性を回復し得ないということは、成体脳において回復されたGad1およびGABA作動性介在ニューロンの数にかかわらず、発達途中の胚において重要な因子が、成体においてGABA作動性介在ニューロン機能に影響するという考えを強いものとする。これは、精神障害が明白な成体の身体的欠陥がない状態において、異常な胚発達に起因し得るかどうかという、特に重要な長年与えられた質問である。
【0116】
これらのデータは、Evf2 TS/TSマウスが単にGABA作動性介在ニューロンの正常な発達を研究するのに有用であるのみならず、自閉症および学習行動の病因を明確にするために有用であろうことを示している。そのようなマウスモデルを使用して、自閉症スペクトル障害、学習障害、記憶障害および社会的混乱を包含する自閉症等の広範囲の脳障害を予防または処置するために有効な可能性のある治療薬を試験し得る。
【0117】
実施例2:Evf1突然変異体マウスの調製および特徴付け
Evf2突然変異体の調製と同様の技術を用いて、Evf配列へ転写停止配列を挿入することによりEvf1突然変異体を調製した。Evf1突然変異体の調製のため、TS配列をEvf配列のエクソン3、Evfエクソン3の開始から1つのヌクレオチドへと挿入した。使用された隣接配列は以下の通りである:
【0118】
【化2】
したがって、Evfl TS/TSマウス中の最も大きい可能性のあるEvfl転写物は、1nt長になるであろう。
【0119】
Dlx5/6領域(
図19に図式化される)の上流にEvflエクソンを含むBACを構築し、ES細胞中へエレクトロポレーションし、そして細胞をPCRおよびサザンブロットによりシングルコピーした非相同組換えについてスクリーニングした。タモキシフェン誘導性ereの細胞質形態を送達するため、そしてGFPを有するレスキューコンストラクトを含む細胞をマーキングするため、Dlx6をER−cre−IRES−GFPで置換した。3倍ポリA部位を、上記配列を用いてloxP部位に隣接するエクソン3の5つのプライム末端に挿入した。Evfl TS/TSX Evflレスキューにより交差し、タモキシフェン処理をE9.5、E17.5またはP30で行った。その後、P60の成体の脳を、上記されるようにD2受容体、pDynおよびGAD67のPFC発現について解析した。
【0120】
マウスにおけるDlx1/2喪失の最も劇的な効果のうちの1つは、胚の神経節隆起(MGEおよびCGE)から海馬へと遊走するGABA作動性介在ニューロンの約90%の減少である(Pleasureら2000)。インサイチュハイブリダイゼーション解析は、Evf−1およびEvf−2が出生後の海馬におけるDlx遺伝子と共に発現され、Evf1発現は成体において持続することを示す(
図11)。P2でEvf−1およびEvf−2発現は、SVZおよび背側で遊走するする細胞においてオーバーラップする。Dlx−1および5に類似して、Evf−2は脳室下帯の細胞において、それが外部カプセルに沿って背側で出て遊走するにつれ、P12で発現される。Evf−1およびDlx−6はこの段階でこの細胞において検出されない。しかしながら、Evf−1およびDlx−6はP60の海馬内に発現される;放線状層(radiatum)(Rad)はEvf−1発現において富化される。Dlx−2発現は、海馬においてこれらのどの年齢でも検出されなかった。興味深いことに、胚性海馬(E15.5)における最も初期のDlx−2発現は、放線状層において濃縮され、この層の細胞密度はDlx1/2−/−マウスにおいて減少するという報告が以前になされている(Pleasureら2000)。放線状層におけるGABA作動性介在ニューロンは、Dlx1/2−/−マウスにおいて最も影響を受ける(Pleasureら2000)。
【0121】
また、GABAにおけるDlx遺伝子および嗅球ニューロンに発現するチロシン加水分解酵素の重要な役割が実証された(Quiら、1995,Bulfoneら1998,Longら2003)。
図12は、出生後の嗅球において、Dlx遺伝子が、Evf2ではなくEvf1とオーバーラップすることを示す。
【0122】
発達中の神経節隆起におけるEvf1およびEvf2の解析は、脳室下帯においてオーバーラップする発現パターンを示す(KohtzおよびFishell 2004,Fengら2006)。しかしながら、Evf1のみが、出生後の海馬および嗅球において発現される。嗅球に加え、側神経節隆起からの前駆細胞は、側坐核よりもコカインに対して大きな反応を示す領域(Ikemoto)である嗅結節へと遊走する(Wichterleら2001)。
図13は、Evfl発現は出生後12日および成体嗅結節において持続するが、Evf2発現は検出されないことを示す。Calleja島およびドーパミン受容体3発現が集中していると以前に示されたところに類似する大きな核において、Evfl発現とGAD67発現ニューロンがオーバーラップする。
【0123】
海馬に加え、胚の内側神経節隆起から遊走するGABA作動性前駆細胞により集合される別の領域は、脳皮質である。成体の背内側前頭皮質(PFCとしても知られる)の試験は、GABA作動性介在ニューロンの合計数がEvfl TS/TSにおいて、野生型コントロールに比べて減少することを示す(
図14)。これは、両方が異常なドーパミンシグナリングの指標である、D2受容体を発現するニューロンの数の劇的な増加、ならびにプロダイルノルフィン(pDyn)を発現するニューロンの数の減少を伴う。D2受容体活性化およびGABAが同一経路上に収束することから、D2受容体の発現増加は、この領域におけるGABAの減少によるものであり得る。GABA作動性シグナリングの減少に対する補足メカニズムの結果として、D2受容体活性化が残りのGABA作動性介在ニューロン集団において生じるかどうかも決定され得る。
【0124】
また、突然変異体マウスも異常なコカイン反応について解析される。Evfl TS/TS脳が薬物反応および報酬を調節すると知られている領域における異常なGABA作動性/ドーパミン受容性シグナリングを呈するとして、Evfl TS/TS突然変異体を異常なコカイン反応について試験した。バイアスされていない条件付け場所嗜好性(CPP)アッセイを、通常野生型動物における弱い反応を引き出すための閾値用量である、5.0mg/kgのコカインを用いて行った。この5.0mg/kgのコカイン用量において、Evfl TS/TSマウス(青色)は、コカイン側の嗜好を呈したが、Evfl+/+野生型同腹仔(黄色)は、コカイン側の嗜好を呈さなかった(
図15)。CPPにおいて試験される動物の数を15に増やすこと、ならびに異なる薬物(コカイン)用量を用いて、追加の試験を行ってもよい。より高いコカイン用量(7mg/kg)がEvfl TS/TSと野生型マウスとの相違をマスクし得る一方で、それらはより顕著な相違を生じるであろう可能性もある。低用量でのCPP反応の増加は、Evf1喪失がコカインの作用強度を増加することをさらに支持する。
図16において、Evfl TS/TSマウスにおける増加したコカインの作用強度に関するメカニズムモデルが提案される。このデータは、特定のニューロン分集団のEvf1依存性制御とコカイン反応とのリンクをさらに支持する。
【0125】
実施例3:結果の概要
2つの発達的および空間的に制限された、Dlx5および6ホメオボックス遺伝子とオーバーラップした発現パターンを有する非コーディングRNA(Evf)が同定されている。Dlx遺伝子のように、Evfは、主要なシグナリングタンパク質であるソニックヘッジホッグの標的である。Dlx2と協同して、Evf1または2は、マウスおよびゼブラフィッシュDlx5/6および4/6エンハンサーを転写的に活性化することができる。Dlx5/6エンハンサーに対するこの協同効果は、両者とも標的特異的であると同時に、Dlxホメオドメイン含有タンパク質に限定される。EvfおよびDlx5/6の発現は腹側前脳の発達、および出生後の脳室下帯においてオーバーラップするが、それらは、誕生後、海馬、嗅球および嗅結節において分岐する。発達の間のEvfとDlxとの間の密接な機能的および発達的関連は、EvfがインビボにおいてDlx5/6調節の役割を果たすこと、またこの調節の乱れが、Dlx突然変異体解析において乱れることが知られている発達プロセスにおける異常を結果として生じ得ることを示唆する。
【0126】
Evf2の機能喪失突然変異体の表現型解析は、Dlx1/2シグナリングの減少と一致する。Evf2機能喪失突然変異体は、野生型同腹仔コントロールと形態学的に区別し得ないが、出生後2日目の海馬および歯状回におけるGABA作動性介在ニューロン数の減少が観察される。Evf2突然変異体は、胚間における変動性を伴って、出生後の嗅球でのGAD67発現介在ニューロンにおける減少を呈する(非表示)。出生後2日目のEvf2突然変異体において、腹側Evf1 SVZドメインが拡大される(非表示)。
【0127】
しかしながら、リアルタイムqRT−PCRおよびqCHIP−PCRは、Evf2の喪失は、eiおよびeiiエンハンサーへのDlxタンパク質の補充の失敗にもかかわらず、Dlx5およびDlx6を上方制御することを示す。
図17は、Dlx5/6遺伝子間エンハンサーに対するポジティブおよびネガティブ転写因子の両方の補充が、Evf2喪失に対するDlx5/6増加をどのように説明し得るかを説明するモデルを提案する。上記データは、(1)Evf2 RNAは、ポジティブ(Dlx)およびネガティブ(Mecp2)転写調節因子の補充を通してエンハンサー活性を調節する;(2)Dlxタンパク質は、Dlx5/6eiおよびeii調節性転写を、Mecp2結合を防ぐことにより促進する;および(3)Mecp2は、Dlx5/6遺伝子発現を、Dlx転写因子結合を防ぐことにより抑制する、ことを支持する。
【0128】
図18は、GABA作動性介在ニューロン発達におけるEvfの役割を説明するための1つのモデルを提供する。腹側正中線からのShhは胚の神経節隆起においてDlx遺伝子およびEvfを誘導することがきちんと確立されている。Dlx遺伝子の喪失は、神経節隆起において起こるGABA作動性介在ニューロンの顕著な喪失を結果として生じることを示した。本発明は、部分的に、Evf2の喪失が、海馬および嗅球からのGABA作動性介在ニューロンの分集団の喪失を結果として生じることを示す。併せて、これらのデータは、Evf2が、発現および活性の両方を調節することによりDlx遺伝子を制御し、DlxおよびEvfの適切な均衡がGABA作動性介在ニューロンの分集団の発達に重要であることを示唆する。
【0129】
Evf1TS/TSマウスは、コカイン反応に関与する、介在ニューロンの胚性および成体それぞれのEvf1非コーディングRNA制御の役割の開示を伴って、異なる領域(成体PFC)においてGABA作動性介在ニューロンの喪失を呈する。
【0130】
実施例4:Evf1突然変異体の追加解析
発達している脳におけるEvf1が、成体の脳における不均衡なシグナリングを産生し、コカイン等の覚醒剤に対する感受性を高めることをさらに支持するため、追加の解析を実施する。そのような追加の解析は、Evf1が前頭皮質においてGABA作動性介在ニューロンのサブセットの適切な形成に重要な因子であることをさらに支持するために実施される。加えて、Evf1突然変異体の前頭皮質におけるGABA作動性介在ニューロンの喪失は、発達途中での前駆体の不完全な遊走に起因することをさらに支持し得る。さらに、Evf1の胚性発現は、成体前頭皮質におけるGABA作動性およびドーパミン均衡において重要な役割を果たすこと、およびEvf1の胚性発現がコカイン等の覚醒剤に対して成体の高められた感受性を制御することを支持し得る。
【0131】
したがって、一組の追加の調査を使用して、コカイン反応に関与する脳領域における特定のニューロン集団に対するEvf1喪失の効果を決定し得る。成体Evf1 TS/TS PFCの解析は、GABA作動性介在ニューロンおよびプロダイノルフィン発現ニューロンの数が減少する一方で、D2受容体発現細胞の数が増加することを示す。これは、Evf1がPFCにおいて均衡なGABA作動性およびドーパミンシグナリングの維持に関与するという考えを支持する。
【0132】
以下の実験を行って、Evf1突然変異体PFCにおいて異常なGABA作動性およびドーパミン受容性シグナリングを生じる細胞の変化をさらに特徴付けてもよいし、支持してもよい:
1:Evf1TS/TS成体前頭皮質における異なるGABA作動性介在ニューロンおよびD2受容体発現集団の特徴づけ。
【0133】
発達途中の脳において、Dlx1/2二重突然変異体マウスの解析は、皮質におけるGABA作動性介在ニューロンの約75%の減少を明らかにし、歯状回微粒細胞層を除く、海馬からのほぼ完全な喪失(約90%)を明らかにした(Andersonら、1997、およびPleasureら、2000)。海馬は、Dlx1/2二重およびDlx1一重突然変異体解析の両方において、皮質よりもより強い影響を受けた(Cobosら2005)。加えて、Dlx1一重突然変異体は、海馬におけるGABA作動性介在ニューロンのサブタイプ特異的喪失を呈する。Dlx5−/−マウスは、嗅球におけるGABA作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンの減少を示す(Longら2003)。GABA作動性介在ニューロンの皮質および海馬への遊走の解析は、Dlx5/6−/−マウスについて報告されておらず、おそらく、これらのマウスが重篤な脳奇形を呈するからであろう。以下の一連の証拠は、PFCでのGABA作動性介在ニューロン発達におけるEvf1の役割を支持する:(1)Evf1は、PFCに集合するGABA作動性介在ニューロン前駆体が生成される、E13.5 MGEにおいて発現される。(2)E13.5 MGEに移植されたE13.5 MGEからの標識された前駆体を用いたホモタイプの移植実験は、MGEが皮質のGABA作動性介在ニューロンをもたらすことを示す(Wichterleら2001)。ならびに(3)Evf1 TS/TS成体PFCはGABA作動性介在ニューロン数の減少を含む(本明細書において開示される)。
【0134】
手法:グルタミン酸からGABAへの変換に必要な酵素であるGAD67に対するRNA インサイチュハイブリダイゼーション(RISH)は、GABA作動性介在ニューロンを同定する。
図18において、Evf1 TS/TS成体PFCのGAD67 RISHは、GABA作動性介在ニューロン数の減少を示す。しかしながら、GABA作動性介在ニューロンの大半が残存していることから、すべてのGABA作動性介在ニューロンのサブタイプがわずかに減少するのか、または、Dlx−/−海馬について報告されたように(Cobosら2005)、特定のサブタイプが優先的に喪失されるのかという疑問が残る。Evf1 TS/TSおよび野生型同腹仔コントロールPFC切片は、先に特徴づけた抗体を用いて、パルブアルブミン(PV)、ニューロペプチドY(NPY)、およびソマトスタチン(SOM)のGABA作動性介在ニューロンサブタイプ特異的発現について試験されるであろう。3つの異なる脳における4切片からの少なくとも2箇所を、各遺伝子型について計算した。計算は、Bregma座標および形態学的基準によって判断されるように同じ相対的な吻側/尾側配置で判断され、マウス脳アトラス(Paxinos)によって定義されるように背内側前頭皮質のレベルで判断されるであろう。加えて、PFCにおけるD2受容体は、GABA作動性介在ニューロンにより発現されることが示されている(Mrzljakら1996)。したがって、D2Rに関する免疫組織化学と組み合わせたGAD67に関するRISHを使用して、残されたGABA作動性介在ニューロンに対して、D2受容体の異所的活性化が生じるかどうか判断される。
【0135】
Evf1は、同様にEvf2作用して、胚の神経節隆起におけるDlx1/2依存性転写イベントのサブセットに影響を及ぼし得、これらの実験は、Evf1 TS/TS成体PFCにおけるGABA作動性介在ニューロンの喪失が特定のサブタイプに限定されるかどうかを決定し得る。
【0136】
Evf1喪失により、Dlx1−/−海馬(NPY+,SOM+,PV−)において喪失すると報告される、サブタイプ特異的GABA作動性介在ニューロン数が減少するという1つの可能性がある。また、Evf1がDlx1/2およびその標的以外の転写因子に影響する可能性もある。後者の場合、複数のGABA作動性介在ニューロンのサブタイプが影響されるであろう。加えて、成体Evf1発現の喪失は、GABA作動性介在ニューロン機能および/または維持において未知の役割を果たしそうである。成体Evf1発現は、特定のGABA作動性介在ニューロンの生存に必要であり得る。正確なGABA作動性喪失のサブタイプの定義は、成体Evf1 TS/TS脳のPFCに現われる不均衡なシグナリング欠損を理解する一助となるであろう。
【0137】
概説された調査も、D2受容体活性化がGABA作動性介在ニューロンに生じるかどうかの判断の一助となり得る。
【0138】
抗NPY、SOMおよびPVに関するプロトコルは既に確立されている。しかしながら、GABA作動性介在ニューロンのサブタイプまたは全喪失を特徴づけたとしても、なぜそのような喪失が生じるかが明らかにされ得ないことがある。したがって、サブタイプを特徴づけることに加えて、さらに、Dlx1−/−突然変異体におけるTunel染色によって先に示されたように(Cobosら2005)、細胞死におけるGABA作動性特異的変化またはニューロン特異的変化が、成体のPFCに生じるかどうかが決定され得る。DNA断片化を検出する細胞死の指標であるTunel染色は、wtコントロールと比較した場合Evf2突然変異体の海馬においては違いを検出しない(
図14i〜k)。
【0139】
Evf1 TS/TS突然変異体のPFCにおけるGABA作動性喪失、pDynの減少、およびD2受容体発現の活性化の発達時期の判断
GABA作動性/ドーパミン受容性な不均衡がどのように生じるかをさらに調査するため、これらの変化が最初に検出されるときに判断してもよい。Evf1は、終脳の脳室下帯においてE11.5で最初に発現され(KohtzおよびFishell,2004)、そして、それらが皮質に最初に遊走するにつれ、E13.5 MGE GABA作動性前駆体において発現される。E17.5では、GAD67発現介在ニューロンは、異なる皮質層において検出され得る。腹側から背側への遊走が停止する正確な時期は決定されていないが、P12までに大多数の遊走が生じたと考えられる。
【0140】
GAD67、D2受容体およびpDyn RISHを、Evf1 TS/TSおよび野生型コントロールからのE13.5およびE17.5終脳、ならびに出生後P2、P12およびP30のPFCについて行った。等価な吻側/尾側位で、3つの異なる脳からの最低4つの切片を比較して、確立された比較の立体解析方法を利用する。胚の脳において、これは形態学的基準によって判断される。出生後および成体の脳においては、これは単に形態学的基準による判断のみならず、マウスアトラス(Paxinos)によって定義されるBregmaからの距離によって判断される。個々のニューロンは、これらの各プローブによってRISHを使用して同定され得る。したがって、得られた数がOPENLABソフトウェアを用いて計算され、成体PFCについて
図18に示されるように比較される。
【0141】
海馬におけるEvf2 TS/TS GABA作動性喪失の解析は、海馬におけるGAD67発現介在ニューロンの減少が、誕生直後まで検出されないことを示す(
図14、出生2日後、E17.5解析非表示)。Dlx1−/−突然変異体において、GAD67数の減少は2か月齢まで観察されない(Cobosら2005)。したがって、Evf1突然変異体において、GABA作動性喪失が出生後(P12)に検出され、それ以前には検出されないことが期待されるであろう。さらに、GABA作動性喪失が成年期まで検知されないであろうこともあり得る。Evf1が成体SVZおよび成体皮質において発現されることから、成体の脳において、新たな前駆体が産生され、遊走し続けるという可能性がある。あるいは、Evf1は成体において特異的GABA作動性介在ニューロンの生存にとって重要であり得る。ドーパミンは、GABA作動性前駆体の腹側から背側への遊走において役割を果たす(Crandallら2007)。したがって、発達の間または出生後のいつでも、異所的なD2受容体活性化が生じる可能性がある。GABA作動性介在ニューロン喪失の前にD2受容体増加/pDyn減少が生じる場合、これは、GABA作動性介在ニューロン喪失と無関係に異常なドーパミンシグナリングが生じることを示唆するであろう。D2受容体増加/pDyn減少が、GABA作動性介在ニューロン喪失と同時に起こるか、この後に続く場合、異常なドーパミンシグナリングはGABA作動性介在ニューロン喪失の結果となり得る。これは、D2受容体の増加が、GABAレベルの低下およびドーパミンの上昇に応じて生じ得る、
図17に提案されたモデルに基づくものであろう。
【0142】
概説されるように、この実験はさらに、Evf1 TS/TSマウスにおけるGABA作動性シグナリングの減少と関連して、いつGABA作動性介在ニューロン喪失がEvf1 TS/TS皮質において最初に検出されるか、ならびにいつ異常なドーパミンシグナリングが生じるのかを支持する。
【0143】
これらのプローブおよび異なる発達段階を使用するRISHが、以前に行われた。GABA作動性介在ニューロン喪失が成体皮質においてのみ検出できることが見出された場合、これは必ずしも胚の攪乱が表現型に寄与しないことを意味するものではない。胚における遊走および/または分化のわずかな相違が、表現型の原因となり得ることは可能である。この問題を対処するために、以下に開示されるような条件付けレスキュー実験が行われてもよい。しかしながら、実験はGABA作動性介在ニューロン喪失と増加したD2R発現の関係の判断においての一助となり得る。
【0144】
皮質中の異常なドーパミンシグナリングが胚形成期に検出されない場合、皮質のGABA作動性介在ニューロン喪失と無関係に生じる可能性がある。Evf1が出生後の嗅球中で発現されるとすれば、嗅結節を神経支配する嗅球ドーパミン作動性ニューロンの数の変化が間接的に皮質ドーパミンシグナリングに影響し得る。この可能性を試験するため、Evf1 TS/TS突然変異体におけるEvf1 TS/TS嗅球のドーパミンニューロンの数を、野生型のコントロールと比較してもよい。Evf1 TS/TSおよび野生型同腹仔コントロールマウスの成体嗅球を、ドーパミンの生成にとって重要な酵素であり、ドーパミン作動性ニューロンに特異的なチロシン加水分解酵素(TH)について染色する。抗THおよびTH RISHの両方を、細胞体がmRNAレベルでTHを発現することを確認するために行う。嗅球ニューロンからのドーパミン作動性喪失または獲得が可能である一方、この喪失の影響は、PFCにおけるドーパミンシグナリングに間接的に影響するであろう。
【0145】
内側神経節隆起から皮質への遊走に対するEvf1喪失の影響の判断。
【0146】
MGEにおけるニューロンの運命特異化(fate specification)、分化および/または遊走における乱れは、皮質中の異常なGABA作動性介在ニューロン数を結果として生じる。この腹側から背側への遊走というイベントから皮質の介在ニューロンが生成される最初の論証は、Dlx1/2ダブルノックアウトマウスの特徴づけに由来する(Andersonら1997)。続いて、E13.5 MGEから皮質への遊走は、ホモタイプの移植実験によってインビボにおいて示された(Wichterleら2001)。本明細書に開示されるように、Evf1喪失はPFCにおけるGABA作動性介在ニューロンの減少を結果として生じる。この点に関して、実験を設計して、この喪失がMGE由来GABA作動性前駆体が皮質へと遊走する能力の低下に起因するかどうかを試験してもよい。
【0147】
先に記載されるように(Wichterleら2001)、E13.5 Evf1 TS/TSまたは野生型MGEに由来するactGFP標識化前駆体の、超音波ガイド(超音波生体顕微鏡、UBM)でのホモタイプの移植注入が行われ、野生型のE13.5レシピエントへ移植されるであろう。皮質は、抗OFPおよび抗TUJ1(全ニューロン)、抗GFPおよび抗GABA(GABA作動性介在ニューロン)により共染色され、Evf1がMGEからのニューロン遊走に役割を果たすかどうかを判断し得る。
【0148】
野生型のMGE、または、野生型のE13.5 MGEおよび解析された皮質中のGFP標識されたニューロンをEvf1 TS/TSへ移植する、逆実験(reverse experiment)を行うことによって、Evf1喪失の細胞非自律効果が判断されるであろう。
【0149】
概説された実験は、MGEから皮質までのニューロン遊走のEvf1制御をさらに支持する。Evf1 TS/TS MGEドナー組織が使用される場合、皮質中のGFPにより共標識化されるニューロンが少なくなるという証明は、胚においてEvf1がニューロン前駆体の遊走に影響を及ぼすことを示唆するであろう。加えて、突然変異体MGEへ移植された野生型LGEドナー組織の皮質への遊走が失敗に終わる場合、これは、Evf1喪失が遊走に対する細胞非自律効果を引き起こすことを示唆するであろう。
【0150】
インビボにおけるE13.5でのMGEへのE13.5 MGE前駆体のUBM注入と同様に、マウスE9.5脳へのレトロウイルスの超音波ガイド(UBM)注入(Fengら2006,
図2b)が行われるであろう(非表示)。結果は、LGE前駆体ではなく、移植されたMGE由来前駆体(染料PKHにより蛍光標識化されている)が皮質に遊走するという、Wichterleら(2001)の結果を再現する。Evf1 TS/TSマウスをActGFPと交差してEvf1 TS/TS−ActGFPドナー組織を得てもよい。したがって、これらのマウスはこれらの実験を行うために使用することができる。加えて、(GFP標識化されている)突然変異体ドナー組織は、ポジティブな内部制御を提供するために、mCherryマウス(Jackson Labs)からの野生型ドナー組織と共に共注入されてもよい。
【0151】
MGE/皮質遊走の欠損は、Evf1 TS/TS胚において検出されない可能性がある。GABA作動性介在ニューロン喪失は、発達の間または成体における、増殖の減少、脳室下帯での細胞死または異常な細胞運命特異化の増加等の他のメカニズムによる可能性がある。このタイプのさらなる調査が、Evf1 TS/TS成体PFCにおける異なるGABA作動性介在ニューロンおよびD2受容体発現集団の特徴づけからの結果によって導かれ、Evf1 TS/TS表現型が最初に現われる時を定義するであろう。
【0152】
覚醒剤コカインへの反応に対するEvf−1喪失の影響の判断。
【0153】
mOTuがコカイン報酬効果に重要な役割を果たす一方、PFCは、コカイン依存症の欲求側面(craving aspects)において役割を果たすと提案された。Evf1はPFCにおいてGABA作動性およびドーパミン受容性シグナリングの平衡を保つことに関与し得るという知見と併せて、これは、Evf1突然変異体が異常なコカイン反応を示し得る可能性を高める。Evf1 TS/TSマウス中の異常なコカイン反応についてさらに支持するため以下の実験が行われる:
Evf1 TS/TSおよびコントロールマウスにおけるコカイン誘導性遺伝子発現の変化の比較。
【0154】
胚脳において、Evf1およびEvf2発現はShhシグナリングに応じて活性化される(Kohtzら1998,Fengら2006)。成体におけるEvf1発現を活性化するシグナリング因子は知られていない。しかしながら、mOTuおよび皮質におけるEvf1の成体発現は、Evf1が、遺伝子調節に役割を果たすこれらの領域において外部シグナルに反応する可能性を高める。Evf1は、コカイン投与に応じて調節され得るか、または、反応に関与する調節遺伝子に関与し得る。しかしながら、これらのイベントの相対的時期の決定は、コカイン反応におけるEvf1の役割に関して追加情報を提供し得る。
【0155】
薬物投与に対する最初の反応の1つは、即時型遺伝子であるc−fosである。したがって、抗fos免疫組織化学は、コカイン暴露に対する即時反応(1時間後)の読み出し(read−out)を提供する。Evf1 TS/TS成体マウスのPFCおよびmOTuへの格別な注目を伴って、異なる濃度(5、10および15mg/kg)のコカイン注入後の野生型のコントロールと比較した異なる脳領域でのc−fos発現細胞の数または空間的分布に相違があるかどうかを同定してもよい。注入のストレスも効果を有し得ることから、食塩水注入をコントロールとして使用してストレスと薬依存効果とを識別する。次にRISHを使用して、1時間、6時間、および24時間の時間経過解析を用いてEvf1発現がコカイン注入後に変化するかどうか判断されるであろう。PFCおよびmOTuに特に焦点をおいて、Evf1 TS/TSおよび野生型コントロールの脳におけるD1受容体/エンケファリン、D2受容体/pDyn発現を解析して、コカイン誘導性ドーパミンシグナリングの増加に反応差があるかどうかを判断する。
【0156】
これらの実験は、コカインに対する即時反応におけるEvf1の役割を支持する。c−fosは薬物反応の即時指標である。コカインの異なる用量に応じて野生型と比較したEvf1 TS/TSのmOTuおよびPFCにおけるc−fos発現の比較により、Evf1喪失が即時初期段階で脳の初期反応を変化させるかどうかを決定する。GABAレベルの低下およびドーパミン取込みの低下によりドーパミンレベルがEvf1 TS/TS PFCにおいて増加する場合、より低用量コカインは、wtコントロールと比較したEvf1 TS/TSにおいて同様の反応を引き出すために十分であり得る。
【0157】
また、これらの実験は、コカインによる異常なEvf1発現を支持し得る。発達中の脳におけるEvf1喪失は、コカインに対する感度の増大をもたらし得る、成体の脳における不均衡なシグナリングを産生する。実験に基づいて、不均衡なシグナリングは、素因の場合のように、コカイン暴露に先立って予測される。Evf1 RNAがコカイン暴露に応じて調整される場合、これは、素因または用量感受性のシグナリングを越えて、RNAが薬物反応に役割を果たし得る、追加のレベルを示唆するであろう。この実験に記載されるように、Evf1 RNA発現が用量依存性または時間依存性に変化するかどうかを判断することにより、この可能性は取り扱われるであろう。
【0158】
また、これらの実験は、ドーパミンシグナリングにてコカイン誘導性の異常におけるEvf1の役割を支持し得る。Evf1 TS/TSマウスにおいて、増加したD2受容体および減少したpDyn発現は、異常なドーパミンシグナリングの指標である(
図16を参照)。ドーパミン増加がEvf1 TS/TS PFCの異所性発現またはD2受容体の増加を引き起こす場合、コカイン注入はドーパミンレベルをさらに増加して非常に敏感な状態を生じ得る。しかしながら、D2受容体発現の減少が、コントロールより100倍多い細胞外のドーパミンを呈するドーパミントランスポーター−/−マウスの線条体に生じるように(Girosら、1996)、D2受容体発現とドーパミンとの関係は皮質に明白に依存する。Evf1 TS/TSおよびコントロールの脳は、コカインに対する反応において異なり、恐らく同様に、mOTuとPFC反応間の相違がありそうであるが、これらの正確な性質は、Evf1喪失によって引き起こされたGABAおよびドーパミンの不均衡の性質に依存するであろう。
【0159】
コカインへの細胞応答に対するEvf1喪失の影響を検討するため、免疫組織化学とインサイチュハイブリダイゼーションを使用して、Evfl、D1受容体およびD2受容体、pDynおよびエンケファリンを検討する。これは観察された変化に空間分解能を与えるが、RISHはRNAレベルでの変化の定量的計測ではない。リアルタイムqRT−PCRを使用して、比較として野生型同腹仔を用いて、Evf1 TS/TSの成体のmOTuおよびPFCにて遺伝子発現におけるコカイン誘導性の変化を測定する。
【0160】
Evf1 TS/TSおよびコントロールマウスにおけるコカイン誘導性歩行運動感作の比較。
【0161】
コカインおよびアンフェタミン等の覚醒剤は、常同および歩行運動行動を増加するドーパミン取込みまたは放出を妨害する(Ritzら1987,Jaberら1995)。mOTuへのコカインの注入は、強健な歩行運動および立ち上がり行動を引き起こす(Ikemoto,2002)。mOTuにおいて高レベルのEvf1発現があれば、Evf1突然変異体は、野生型のコントロール動物からの異常な歩行運動感作プロフィールを示し得る。
【0162】
コカインアッセイに対する歩行運動感作も行われる。動物を繁殖し、遺伝子型を同定し、その後、行動解析について検討した。コカインに対する歩行運動感作試験(Birnbaumら)を以下の通り行う:歩行運動感作実験の最初の3日間、マウスに生理食塩水を注入(i.p.)し、その後、ホームケージに類似するが、少量の寝床を含む暗いプレキシガラスの箱内に配置される、プラスチックのマウスケージ(18cm×28cm)に個別におく。歩行運動感作の最後の5日間、マウスにコカイン(5,10,または15mg/kg)を注入し、直ちに試験装置中に入れる。コカイン注入の最初の日は、コカイン注入によって即時活性が引き起こされる。行動を、一次元の5光束(Photobeam Activity System,San Diego Instruments,San Diego,CA)により、ビームが遮られた回数を5分ごとに記録して2時間モニタリングする。行動は、3種の方法により特徴づけられる:単一ビームの反復性ビーム遮断を常同行動と分類し、2以上のビームの連続的ビーム遮断を歩行行動と分類し、そして、各5分間隔における合計ビーム遮断。15匹のEvf1 TS/TS突然変異体マウスおよび15匹の野生型コントロールマウスが、各用量で使用する。得られた変動に依存し、統計的有意性のため、マウスを各遺伝子型について20まで増加してもよい。
【0163】
Evf1 TS/TSマウスおよびコントロールマウスおける条件付け場所嗜好性の比較。
【0164】
ラットにおける自己投与および条件付け場所嗜好性(CPP)行動アッセイの両方の使用により、側座核を包含する試験された異なる脳領域のうち、mOTuは最も強固なコカインの報酬効果を媒介することが示される(Ikemoto,2003)。mOTuにおいてEvflの集中発現があるとすれば、CPPアッセイにおいて、Evf1 TS/TS突然変異体マウスはコントロールマウスとは異なった行動をし得る。
【0165】
Evf1突然変異体同腹仔および野生型同腹仔に対する初期のCPPアッセイ(
図15)を以下の通り行う:場所嗜好性装置は、第3の小さな別のチャンバーにより接続された、2つの別の条件付けチャンバー(異なる壁の色/模様、ならびに異なる床の手触り)からなる。動物の位置は、Med PC IVソフトウェア(Med Associates,St.Albans,VT)を実行するコンピューターに接続された16の光線によって決定される。第1日目(予備試験)に、マウスを、チャンバーの中央におき、20分間3つ全てのチャンバーを自由に探索できるようにする。動物が1つの部屋に強い予備試験バイアスを示す場合、それらを研究対象外とする。後日、動物にコカイン(2、5、または7mg/kg,i.p.)を注入し、直ちに、30分間1つのチャンバーに閉じ込める。翌日、動物に食塩水(i.p.)を注入し、30分間反対のチャンバーに閉じ込める。薬物処置は連続4日間(2日の食塩水と代替する2日のコカイン)継続する。試験の日、マウスを、薬物を投与しない状態で装置内へ戻し、20分間3つ全てのチャンバーを自由に探索させることで、それらがどちらの側を気に入るかを決定する。データ解析のため、食塩水ペアチャンバーにおける時間経過を、コカインペアチャンバーにおける時間経過から引き、コカインペアチャンバーに対する嗜好性スコア(秒)を得る。15匹のEvf1 TS/TS突然変異体マウスおよびIS野生型コントロールマウスを、各用量で使用する。あるいは、この数を20〜25まで上げて、異なる用量において得られる変動に依存する統計学的有意性(P<0.05)を得てもよい。しかしながら、各グループ中の5mg/kgおよび5匹のマウスの予備CPP試験は、p=0.025有意性を生じた。したがって、各遺伝子型のn=15が統計的有意なデータ(p<0.05)を得るのに十分となることが期待される。
【0166】
Evf1は、mOTuに集合するであろう中型有棘ニューロン(Wichterleら2001)および成体皮質に集合するであろうGABA作動性介在ニューロン(Andersonら1997)の起源である胚の神経節隆起において発現される(Kohtzら1998,KohtzおよびFishell,2004)。RISH解析は、mOTuでのD2、pDynおよびGAD67を発現する多くのニューロンにおける著しい変化を同定しないが、Nissl染色は、GABA作動性介在ニューロンとオーバーラップするニューロンの顕著で異常な形態を示す。これに対し、Evf1突然変異体PFCの特徴づけは、GABA作動性介在ニューロン数の減少、ならびにドーパミンシグナリングを明らかにする。PFC GABA作動性介在ニューロンは、D2ファミリー受容体を発現すると示された(Mrzljakら1996)。D2受容体へのドーパミン結合は、GABA放出を結果として生じ、錐体ニューロンによる発火の抑制を増加させる(BunneyおよびAghajanian,1976)。GABAはドーパミン放出を減少させることができ(Deweyら1992)、そのようにして自己調節メカニズムを提供する。Evf1 TS/TSマウスにおいて、PFC GABA作動性介在ニューロンの数は減少し(
図14)、GABAレベルを低下させる。これは、ドーパミンレベルの増加、およびニューロンの分集団におけるD2Rの発現増加を結果として生じる。しかしながら、PFC介在ニューロンのこの分集団からのGABA放出の増加が、Evf1 TS/TS PFCにおいて観察されたGABA作動性介在ニューロンの喪失を克服するのに十分であることはまずない。Evf1 TS/TS PFCは、減少したGABAに起因する、より高いレベルの細胞外ドーパミンを含み得る。ドーパミンの再取込みを防ぐことによって、コカイン処置は、wtコントロールマウスと比較してEvf1 TS/TSにおいてさらに細胞外ドーパミン濃度を増加させるであろう。このモデルは、歩行運動感作アッセイにおけるように、またはコカイン条件付け嗜好性を引き出すため、即時反応に十分なコカインの濃度が、wtコントロールよりEvf1 TS/TSマウスにおいてより低くなることを予測する。これは、コカインの3時間前に投与されたGABAアゴニストGVGが、歩行運動反応を低減することができると報告した、Deweyら(1997)に一致する。
図15に示されるデータは、CPPアッセイにおいて、Evf1 TS/TS突然変異体がコカインチャンバーに対する嗜好性の増加を示すことを支持する。これらの効果は、中脳辺縁系および中脳皮質経路の両方の欠陥の性質および程度に依存する。
【0167】
Evf1 TS/TSマウスは、動作スキルに対する試験において野生型のコントロールと相違ない。したがって、動作スキルの欠陥は、歩行運動またはCPPアッセイを混同させないであろう。CPPアッセイが学習要素を有することから、学習および記憶における相違は、結果の一因となり得る。具体的には、動物は、薬物を受け取って戻るためにチャンバーを思い出さなければならない。変異が、この能力を増加させるか、または減少させるように記憶に影響する場合、CPP結果が影響する可能性がある。Evf1突然変異体は、CPPアッセイにおけるコカインの影響に対する感受性の増加を示すことが見出された。したがって、それらは、野生型同腹仔と同様に、薬物チャンバーがどこであるかを思い出すことができる。しかしながら、Evf1突然変異体における学習能力および記憶能力の増加または減少の可能性のある寄与を直接的に試験するためのコントロール実験も実施する。2つの試験を行う:恐怖条件付けおよびモリス水迷路である。恐怖条件付けは、穏やかな電気ショックと関連する、状況または聴覚シグナルを記憶するための動物の能力を試験することにより、学習および記憶を計測する。試験は2つの段階で行う:1)状況試験:トレーニングの24〜48時間後、動物を試験するチャンバーに返し、その行動を、呼吸は別として、完全に不動と定義されるすくみ行動について5〜10分モニタリングする。2)キュー試験:トレーニングの24〜48時間後、動物を異なる発光源を有する変更済の試験チャンバー部屋に返し、プラスチック挿入物を使用してアリーナの手触りおよびサイズを変更し、少量のバニラを試験チャンバー下の寝床に添加して匂いを変更する。マウスを3〜5分間、「新しい」チャンバーを探索できるようにし、その後、聴覚刺激をさらに3〜5分間行う。動物のすくみ行動を、全セッションの間モニタリングする。モリス水迷路試験において、動物を訓練して10日間に亘ってスイミングプールにて隠されたプラットフォームを位置づける。プラットフォーム排除の後、動物を、特異的空間のキューを使用して、プラットフォームの位置を同定する能力に関してテストする。Evf1突然変異体が、学習および記憶を減少させたが、増加したCPPを示し続けることが分かれば、これはチャンバーの位置を思い出すその能力に、記憶障害が干渉しないことを示唆するであろう。Evf1突然変異体が、学習および記憶能力を増加させ、これが野生型よりも良好に薬物を受け取ったチャンバーを覚え得る可能性がある。この場合、歩行運動アッセイの結果は、CPPアッセイにおける薬物反応および増強された記憶の相対的な役割の区別の一助となるであろう。また、Evf1突然変異体は増加した歩行運動感度を示さないが、CPPの増加を示し続け、即時動作反応ではなく、より複雑な報酬を求める経路が影響されたことを示唆し得る。これらの肯定的な結果は、より複雑なコカイン補強パラダイムも使用して、Evf1 TS/TS突然変異体が他の報酬を求めるアッセイにおいて変化を呈するかどうか判断し得ることを示唆するであろう。具体的には、固定比率(3週)、その後の累進比率(6日)コカイン自己投与スケジュールは、コカインを得るために動物がどれくらい熱心に行動するかを明らかにするであろう。
【0168】
皮質GABA作動性介在ニューロン数および覚醒剤コカインに対しての反応に関する胚および成人のEvf1の役割の識別。
【0169】
Evf1は、成体皮質の大半の介在ニューロンの生成の原因となる、胚性領域の遺伝子発現を制御する。加えて、Evf1発現は成人の皮質において持続する。以下の実験を行って、胚および成人のEvflの相対的な役割を決定する:
胚または成人のEvflが、PFCにおいてGABA作動性介在ニューロン数を制御するかどうかの判断。
【0170】
Evf1は発達の間に発現され、成体において持続する。上記の特徴が、その胚および成体の役割を描写する一方、直接の試験によって、発達の異なる時期に、Evf1 TS/TS突然変異体へEvf1を再導入し、Evf1 TS/TS表現型に対する影響を試験する。
【0171】
E9.5は、Evf1 TS/TSX Evf1レスキューのタモキシフェン処置(TE9.5)に使用された最初の日であり、これが、内因性Evf1が腹側終脳に最初に検出される2日前である。部分的または全体的なレスキューが、1.GABA作動性介在ニューロンの増加、2.pDynの増加、3.D2受容体の減少、と定義される。TE9.5処置脳が部分的または全Evf1 TS/TS表現型をレスキューするであろうことが期待される。同様のレスキューがTP30処置で観察される場合、Evf1の成体発現が、PFCでのGABA作動性および/またはドーパミン受容性シグナリングの維持における役割を果たすことを示唆するであろう。実験は、均衡のとれたGABA作動性および/またはドーパミン受容性シグナリングの維持における役割を果たす、成体PFCでのEvf1発現を支持する。加えて、データは、Evf1の成体発現が、Evf1喪失で観察された表現型をレスキューするかどうかを判断するための支持を提供する。
【0172】
Evfl1レスキューコンストラクトは、投与のタイミングにかかわらず、Evf1 TS/TSホモ接合体において観察されるPFC表現型のいかなる側面もレスキューし得ない。インビボにおける非コーディングRNAのトランス作用性効果よりもむしろ、シス作用性効果に由来するEvf1喪失の表現型の結果である場合にこのようになるであろう。我々が、トランスフェクションアッセイにおいてRNAのトランス作用性転写活性を検出するとすれば、これはあり得そうもない(
図8)。しかしながら、直接これに取り組むため、我々は、先にGhanemら(2007)によって定義されるように、既にDlx1/2 la調節配列下にEvf1を発現する、Evf1レスキュートランスジェニック株を作製している。この株が、成功裏にGABA作動性介在ニューロンの表現型をレスキューすれば、上記のBACコンストラクトを使用した時間を設定した条件的レスキューが可能であろう。しかしながら、トランスジェニック株を使用したレスキューが可能でない場合、条件付けEvf1欠失コンストラクトが作製されるであろう(
図20)。このコンストラクトはES細胞中へエレクトロポレーションされ、PCRおよびサザンブロットによって相同組換えについてスクリーニングされ、そして、転写アッセイに定義されるようなEvf1の臨界領域を排除して、条件的に排除されたエクソン3を含む、遺伝子系(gennline)マウスを作出するために使用される。一旦ヘテロ接合体が得られれば、それらをEvf1 TS/+/ROSA−ERcreマウスと交差して、タモキシフェン処置(E9.5、E17.5およびP30)を用いてEvf1転写が異なる時に停止した動物を作出する。結果はレスキューから得られたものに類似するかもしれないが、それらはわずかに異なる意味合いを有する。両者とも、Evf1の成体対胚の役割の重要性の疑問に取り組むが、レスキュー実験は、Evf1の再発現が胚性喪失を補足し得るどうかに取り組む。非コーディングRNAを薬物治療の標的と見なす場合、これは特に重要である。
【0173】
胚または成体のEvf1が、コカイン条件付け場所嗜好性を制御するかどうかの判断。
【0174】
一組の実験を行って、胚または成体のEvf1が、皮質におけるGABA作動性介在ニューロン喪失を制御するかどうかを決定する。結果により、これは、Evf1再導入による胚または成人のGABA作動性レスキューもCPPアッセイにおけるEvf1 TS/TSマウスによって呈された増加したコカイン影響を逆にするかどうかという問題を提起する。
【0175】
Evf1 TS/TS(胚または成体レスキュー)は、上記により詳細に記載されるように、CPPアッセイにおいて、Evf1 TS/TS同腹仔と比較されるであろう。
【0176】
Evf1 TS/TSマウスへのEvf1の再導入が、レスキューされたGABA作動性介在ニューロンを結果として生じる一方、これが、CPPアッセイにおいて観察された、増強されたコカイン効果を逆にするであろうことが期待される。そのようなレスキューが成体において可能な場合、成体におけるEvf1の直接的な操作は、GABA依存性のコカイン反応を変更し得ることを示唆するであろう。レスキューが唯一発達の間に可能な場合、成体におけるEvf1の操作は、恐らく有効な治療ツールではないことを意味するであろう。代わりに、これらの研究は、発達の間に非コーディングRNAの発現およびGABA作動性介在ニューロンに影響を与える環境因子、母性因子および/または遺伝因子が、薬物感受性に対する素因をどのように制御または防止し得るかを理解するための将来の研究のトピックであるべきであると示唆するであろう。
【0177】
参考文献
【0178】
【数1-1】
【0179】
【数1-2】
【0180】
【数1-3】
【0181】
【数1-4】
【0182】
【数1-5】
【0183】
【数1-6】
【0184】
【数1-7】
【0185】
【数1-8】
【0186】
【数1-9】
【0187】
【数1-10】
【0188】
【数1-10A】
【0189】
【数1-11】
【0190】
【数1-12】
【0191】
【数1-13】