(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780748
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】医用画像処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20150827BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
A61B6/03 360D
A61B5/00 G
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-279675(P2010-279675)
(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公開番号】特開2012-125407(P2012-125407A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】東芝メディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】篠田 健輔
(72)【発明者】
【氏名】若井 智司
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−213863(JP,A)
【文献】
特開2010−000306(JP,A)
【文献】
特開2006−167287(JP,A)
【文献】
特開2008−220464(JP,A)
【文献】
特開2011−212313(JP,A)
【文献】
特開2010−178906(JP,A)
【文献】
特開2010−125330(JP,A)
【文献】
特開2009−195586(JP,A)
【文献】
特開2005−095340(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/089218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元医用画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部で取得した前記3次元医用画像に基づき、血管領域を抽出する血管領域抽出部と、
前記血管領域抽出部で抽出した前記血管領域の血管形状の画像を作成する血管形状画像作成部と、
前記画像取得部で取得した前記医用画像から、灌流解析を行って、前記血管領域周辺の組織内の血流量である灌流値を解析する灌流解析部と、
前記灌流解析部で解析した前記灌流値を示す画像を作成する灌流画像作成部と、
前記血管形状画像作成部で作成した前記血管の攣縮箇所における血管形状の画像と、前記灌流画像作成部で作成した前記灌流値を示す画像のうち前記血管の攣縮箇所を含む前記血管領域周辺の組織内の画像とを合成した血管形状灌流合成画像を作成する画像合成部と、
前記画像合成部で合成した前記血管形状灌流合成画像を表示する表示部と、
を有することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記血管形状画像作成部で作成する前記血管形状の画像は、
血管の3次元的な走行方向に沿った曲面上の血管断面の形状を現したものであることを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記画像合成部は、前記血管の3次元的な走行方向に沿った曲面上の血管断面の形状の画像と、前記灌流画像作成部で作成した前記灌流値を示す画像のうち前記血管の攣縮箇所を含む前記血管領域の周辺の組織内の画像と、を合成することを特徴とする請求項2記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記血管領域抽出部で抽出した前記血管領域から、血管の攣縮箇所を抽出して設定する攣縮領域設定部を更に有する、
ことを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記画像取得部で取得した医用画像のうち、脳の医用画像を第1の領域および第2の領域に分割する領域分割部と、
前記灌流解析部で解析した灌流値のうち、前記領域分割部で分割した前記第1の領域における灌流値と前記第2の領域における灌流値を比較し差を算出する灌流値差分算出部と、
をさらに有することを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記灌流値差分算出部は、前記第1の領域と前記第2の領域とを位置合わせした上で、前記第1の領域における灌流値と前記第2の領域における灌流値を比較し差を算出する、
ことを特徴とする請求項5記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記血管領域抽出部で抽出した前記血管領域から、血管の攣縮箇所を抽出して設定する攣縮領域設定部と、
前記攣縮領域設定部で抽出した血管の攣縮箇所において、前記灌流解析部で解析した灌流値、かつ前記灌流値差分算出部で算出した、前記第1の領域における灌流値および前記第2の領域における灌流値の差より、前記攣縮領域設定部で抽出した血管の攣縮箇所における危険度を評価する危険度評価部と、
をさらに有することを特徴とする請求項5または6に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記灌流解析部で解析した灌流値の閾値、および前記灌流値差分算出部で算出した灌流値の差の閾値を格納する記憶部をさらに有し、
前記危険度評価部は、前記記憶部に格納された前記灌流値の閾値、および前記灌流値の差の閾値に基づいて危険度を評価するよう構成される、
ことを特徴とする請求項7記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記表示部は、前記画像合成部で合成した前記血管形状灌流合成画像とともに、少なくとも前記画像取得部で取得した前記医用画像、および前記危険度評価部で評価した、攣縮箇所における危険度のうちひとつを含む画像を表示するよう構成される、
ことを特徴とする請求項8記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記表示部は、所定の攣縮箇所に対応した、少なくとも前記医用画像、前記血管形状灌流合成画像、および危険度のうちひとつを表示する、
ことを特徴とする請求項9記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
過去検査での医用画像から作成した血管形状灌流合成画像と、現在検査における医用画像から作成した血管状態灌流合成画像との差分を算出する差分算出部と、
をさらに有し、
前記表示部は、前記差分算出部で算出した、灌流値の差分を示す画像を、前記血管形状の画像と合成して表示する、
ことを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
くも膜下出血の発症後、4日後から2週間後に起こる脳血管攣縮という症状がある。これは脳内の血管が細くなる症状であり、くも膜下出血のほぼ全例に起こるとされている。脳血管攣縮が起こり脳内の血管が細くなると、脳梗塞を併発しやすい。よって、脳血管の攣縮箇所を、早期かつ確実に確定する必要がある。
【0003】
脳血管攣縮の有無の判定の診断方法として、経頭蓋的なドプラー検査が行われる。この検査で中大動脈水平部の平均血流速度が通常より早くなっていれば、血管攣縮が発生していると疑われる。次に、造影剤やMR(磁気共鳴)を用いた検査により、血管攣縮が発生しているか否かの確定診断が行われる。診断の例として、造影剤を用いて行う3次元CT angiography(CTA)やCT perfusion(CTP:血流解析)、磁気共鳴によるMRA(Magnetic Resonance Angiography:磁気共鳴血管画像)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴イメージング)、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単光子放出コンピュータ断層)があり、これらの検査で撮影された画像を単体あるいは複数用いて診断を行う。特に、CTAとCTPとの併用診断は、検査が患者に対して低侵襲であり、迅速かつ簡便に行われるため、その有用性が注目されている。
【0004】
CTPは血管から組織内の毛細血管に流れる血流量(灌流値)を表す。流入された造影剤による脳動脈と脳組織部分での時間経過に伴う濃度変化の様子から、脳組織内の単位体積および単位時間あたりの血流量(CBF)、脳組織内の単位体積あたりの血液量である脳血液量(CBV)、脳組織内の血流の平均通過時間(MTT)をそれぞれ検出し、灌流値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−125330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CTAによる診断では、脳血管のどの位置に攣縮があるのか、情報がない状態で観察者が画像を移動させて攣縮箇所を探すことになるため、密集した脳血管の中では攣縮箇所を見落とす可能性がある。また、CTAの表示条件によって、脳血管の攣縮箇所がCTAの画像上で見えない場合もある。また、従来ではCTAとCTPとの併用診断を行っても、血管形状と血流量について画面に同時表示しておらず、血流量の悪化がどの位置の血管攣縮によるものなのか、判断が難しかった。また、CTAとCTPの両検査画像を単純に並べて表示すると、血管攣縮箇所で脳梗塞を発症する危険度を評価する際、観察者の主観に依存してしまい、定量的な評価が出来なくなる。
【0007】
本発明の実施形態はこのような点を考慮してなされたもので、血管の攣縮を検出して表示し危険度を定量的に評価する医用画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の医用画像処理装置は、3次元医用画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部で取得した前記3次元医用画像に基づき、血管領域を抽出する血管領域抽出部と、前記血管領域抽出部で抽出した前記血管領域の血管形状の画像を作成する血管形状画像作成部と、前記画像取得部で取得した前記医用画像から、灌流解析を行って、前記血管領域周辺の組織内の血流量である灌流値を解析する灌流解析部と、前記灌流解析部で解析した前記灌流値を示す画像を作成する灌流画像作成部と、前記血管形状画像作成部で作成した前記血管の攣縮箇所における血管形状の画像と、前記灌流画像作成部で作成した前記灌流値を示す画像のうち
前記血管の攣縮箇所を含む前記血管領域周辺の組織内の画像とを合成した血管形状灌流合成画像を作成する画像合成部と、前記画像合成部で合成した前記血管形状灌流合成画像を表示する表示部と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る医用画像処理装置の概略構成を示すブロック図。
【
図2】医用画像処理装置内の制御部の詳細な構成を示すブロック図。
【
図3】血管の攣縮箇所を抽出する動作を示すフローチャート。
【
図4】血液の灌流値を解析し低灌流領域を抽出する動作を示すフローチャート。
【
図5】脳の左右の灌流値の差を判定する動作を示すフローチャート。
【
図6】血管攣縮と灌流値の同時表示を行う動作を示すフローチャート。
【
図7】血管攣縮位置Aにおける血管形状画像と、所定の閾値以下の灌流値遷移画像との合成画像の例を示す図。
【
図8】危険度評価部で危険度を評価する指標を示す図。
【
図9】血管攣縮位置A、B、Cにおける、危険度評価の一覧の例を示す図。
【
図10】血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像と、危険度評価の一覧と、3D造影画像データを同時に表示した例を示す図。
【
図11】過去の検査と現在の検査を比較した場合の、血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像と、危険度評価の一覧と、3D造影画像データを同時に表示した例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る医用画像処理装置100の概略構成を示すブロック図である。医用画像処理装置100は、パーソナルコンピュータまたはワークステーションをベースとして構成される。なお、医用画像処理装置100は、モダリティに含まれる機能であってもよい。医用画像処理装置100は、制御部10、表示部12、操作部13、通信部15、記憶部16、情報記憶媒体17、危険度評価データベース21、血管情報データベース22が、バスによって相互に通信可能に接続されて構成されている。本実施形態では、脳の医用画像を用いて説明を行う。
【0012】
表示部12はモニタ等である。操作部13は操作キーやマウス等の入力装置である。通信部15は、病院内LANに接続し、他のモダリティ等との通信を行う。
【0013】
記憶部16は、制御部10や通信部15などのワーク領域となるもので、RAM(Random Access Memory)などにより実現できる。
【0014】
情報記憶媒体17(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、ハードディスク、或いはメモリ(Flash Memory、ROM:Read Only Memory)などにより実現できる。情報記憶媒体17には、本実施形態の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム(各部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラム)、複数のアプリケーション等が記憶される。
【0015】
制御部10は、全体の制御を司り、例えばOS(Operating System)等の基本プログラム及び所定のプログラムに従って処理を実行する演算装置である。制御部10は、情報記憶媒体17に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。
【0016】
危険度評価データベース21は、後述する灌流解析部33で解析する灌流値について、危険度が高いか否かを判定する閾値、および脳の灌流値の左右差について、危険度が高いか否かを判定する閾値を格納する。格納したこれらの閾値は、危険度の評価に用いる。
【0017】
血管情報データベース22は、血管領域を含む3Dの造影画像、血管形状の2次元画像、および血管の灌流値のデータを格納する。
【0018】
図2に制御部10の詳細なブロック図を示す。制御部10は、画像処理部31、攣縮領域設定部32、灌流解析部33、領域分割部34、比較部35、危険度評価部36を含む。
【0019】
画像処理部31は、画像取得部311、血管領域抽出部312、画像作成部313、画像合成部314を含む。画像取得部311は、例えば外部の3D−CT装置が撮影した、脳等の3Dの造影画像データを、通信部15を介して取得する。血管領域抽出部312は、造影画像データより血管の領域を抽出する。画像作成部313は、血管領域抽出部312で抽出した、3D画像である血管領域のうち、攣縮領域設定部32で抽出した攣縮箇所を含む血管領域について、血流の走行方向に沿った、曲面上の血管断面の形状である2次元の血管画像を作成する。詳細は後述する。画像合成部314は、画像作成部313で作成した2次元の血管画像と、後述する灌流解析部33で解析した灌流値を示す画像とを合成する。
【0020】
攣縮領域設定部32は、血管芯線探索部321、血管形状抽出部322、推定部323、狭窄箇所識別部324、攣縮判定部325を含む。血管芯線探索部321は、血管領域抽出部312で抽出した血管領域より、血管芯線を抽出する。血管形状抽出部322は、血管芯線探索部321で抽出した血管芯線に基づき、現在の血管の内壁および外壁をそれぞれ抽出する。
【0021】
推定部323は、血管芯線探索部321で抽出した血管芯線に沿った血管内壁の断面積変化から、血管が正常な場合の血管内壁を推定する。狭窄箇所識別部324は、血管形状抽出部322で抽出した現在の血管の内壁と、推定部323で推定した、正常な場合の血管の内壁との断面積の差分に基づいて、血管狭窄箇所を識別する。
【0022】
攣縮判定部325は、狭窄箇所識別部324で識別した狭窄箇所について、血管内壁と外壁間の性状解析により、その狭窄箇所が血管攣縮によるものか否かを判定する。
【0023】
灌流解析部33は、画像取得部311で取得した時系列な複数の3Dの造影画像データより、灌流解析を行って、血流の状態を解析する。具体的には、造影画像データの脳動脈部分に対応する画素値(造影剤の濃度に対応する値)の時間変化と、脳組織部分に対応する画素値の時間変化の情報から、灌流値(CBF、CBV、MTT等の血流の状態を表した情報)を求める。
【0024】
領域分割部34は、画像取得部311で取得した脳の医用画像から、脳正中線に沿って左右の脳を分割する。
【0025】
比較部35は、領域分割部34で分割した左右脳について、血流量(灌流値)の差を比較する。また比較部35は、血管情報データベース22に格納される過去の検査の灌流値と、現在の検査の灌流値との差を比較する。
【0026】
危険度評価部36は、灌流解析部33で解析した灌流値、および比較部35で比較した灌流値の左右差の値に基づき危険度の評価を行う。
【0027】
次に、上記構成の医用画像処理装置の動作について説明する。本実施形態では、脳血管の造影画像データについて扱うものとする。まず、血管の攣縮箇所を抽出する動作について、
図3を参照して説明する。
【0028】
外部の3D−CT装置が被検体に造影剤を注入して撮影した頭部の造影画像データについて、制御部10内の画像取得部311は、その頭部の3D造影画像データを、通信部15を介して取得する(ステップS101)。次に血管領域抽出部312は、ステップS101で画像取得部311が取得した頭部の造影画像データより、血管領域を抽出する(ステップS103)。次に攣縮領域設定部32内の血管芯線探索部321は、ステップS103で抽出した血管領域より、血管の芯線を抽出する(ステップS105)。次に血管形状抽出部322は、ステップS105で血管芯線探索部321が抽出した血管の芯線に基づき、領域拡張法を用いて現在の血管内壁および外壁をそれぞれ抽出する(ステップS107)。
【0029】
次に推定部323は、ステップS105で血管芯線探索部321が抽出した血管芯線に沿った血管内壁の断面積変化から、血管が正常な場合の血管内壁を推定する(ステップS109)。次に狭窄箇所識別部324は、ステップS107で抽出した現在の血管の内壁と、ステップS109で推定した正常な場合の血管内壁との断面積の差分を取り、その差分が所定値より大きい箇所を、血管狭窄箇所として識別する(ステップS111)。
【0030】
次に攣縮判定部325は、狭窄箇所識別部324で識別された狭窄箇所における血管の内壁と、当該箇所における、血管形状抽出部322で抽出した現在の血管の外壁との性状を解析し、当該狭窄箇所がプラーク(血管内に蓄積する脂肪や繊維質)によるものか、血管攣縮によるものかを判定する(ステップS113)。なお、操作者が画像の目視等を行って血管攣縮箇所を判定してもよい。
【0031】
次に、灌流値を解析して、低灌流領域を抽出する動作について、
図4を参照して説明する。
【0032】
灌流解析部33は、ステップS101で画像取得部311が取得した頭部の時系列な複数の造影画像データより、灌流解析を行ってCBF、CBV、MTTを算出し(ステップS201)、全脳の灌流値を算出する(ステップS203)。次に灌流解析部33は、ステップS203で算出した全脳の灌流値のうち、危険度評価データベース21に格納される灌流値の閾値以下の血流量の領域(低灌流領域)を抽出する(ステップS205)。
【0033】
次に、脳の左右の灌流値の差を判定する動作について、
図5を参照して説明する。
【0034】
領域分割部34は、画像取得部311が取得した任意の時相の頭部の3D造影画像データより脳正中線を抽出し(ステップS301)、全脳領域を抽出後、脳正中線に沿って左右の領域に分割する(ステップS303)。次に比較部35は、ステップS203で灌流解析部33が算出した全脳の灌流値のうち、ステップS303で領域分割部34が分割した左右の領域における灌流値を比較し、左右の灌流値の差を算出する(ステップS305)。
【0035】
次に、血管攣縮と灌流値の同時表示を行う動作について、
図6を参照して説明する。
【0036】
図3のステップS113で血管攣縮と判定した特定の位置(これを位置Aとする)および位置Aの周辺について、画像作成部313は、2次元の血管形状画像を作成する(ステップS401)。本実施形態では、血流の走行方向に沿った曲面上の血管断面の形状であって、血管を伸ばした形状であるStretch MPR画像(Multi Planar Reconstruction:多断面再構成画像)を作成する。このときStretch MPR画像では、ステップS107で抽出した、現在の攣縮している血管の内壁と、ステップS109で推定した、血管が正常な場合の血管の内壁との両方を同時に表示する。
【0037】
また画像作成部313は、
図4で求めた灌流値から、位置Aおよび位置Aの周辺における、灌流値の変化を示す2次元の灌流値遷移画像を作成する(ステップS403)。次に画像合成部314は、位置Aにおける、ステップS401で作成したStretch MPR画像と、ステップS403で作成した灌流値遷移画像とを合成し、表示部12に表示させる(ステップS405)。このとき、灌流値の変化は、例えばステップS203で算出した全脳の灌流値のうち、危険度評価データベース21に格納される灌流値の閾値以下の血流量の領域(低灌流領域)についてのみ表示されても良い。
【0038】
図7に、血管攣縮位置Aにおける血管形状画像(Stretch MPR画像)と、所定の閾値以下の灌流値についての灌流値遷移画像との合成画像の例を示す。血管攣縮位置Aでは、血管内壁の断面積変化が不連続であり、内壁が隆起している現在の血管形状と、内壁の断面積変化が一定で隆起していない推定された血管形状との両方を表示している。また伸ばした血管形状の周辺には脳組織内の血液の灌流の様子を示している。
図7における灌流値は、カラーバーで示す所定の閾値以下について色表示しており、低い灌流値ほど濃い色で示している。
図7では、血流の向きを左から右とすると、血管攣縮位置Aから右側に進むにつれて、低い灌流値の領域が血管に近づくように広がっている。これは、位置Aの攣縮により、攣縮箇所より右側の血管に流れる血液が滞り、それと共に脳組織内への血液の灌流が次第に滞っていることを示している。
【0039】
なお、血管形状画像は、Stretch MPR画像に限らず、曲断面であるCurved MPR画像であっても、他の形状画像であっても良い。
【0040】
また、脳内の血管攣縮位置において、その攣縮が脳梗塞等の病変の危険度の高いものであるか否かを評価し、治療の要否を検討する必要がある。
図8に、危険度評価部36で危険度を評価する指標を示す。血管攣縮位置およびその周辺において、灌流値が所定の閾値以下であり、かつ灌流値の左右差が所定の閾値より大きい場合、危険度評価部36は評価を「高」とし、優先して治療を行うべき位置とする。灌流値が所定の閾値以下、かつ灌流値の左右差が所定の閾値より小さい場合、または灌流値が所定の閾値以上、かつ灌流値の左右差が所定の閾値より大きい場合は、危険度評価部36は評価を「中」とし、注意すべき攣縮であると評価する。灌流値が所定の閾値以上、かつ灌流値の左右差が所定の閾値より小さい場合、危険度評価部36は危険度の評価を「低」とし、攣縮は起きているが軽微なものと評価する。
【0041】
図9は、血管攣縮位置A、B、Cにおける灌流値および灌流値の左右差について、それぞれ危険度評価データベース21に格納される閾値以下であるか否かにより、危険度評価部36が危険度を評価する危険度評価の一覧の例である。
【0042】
図9において、位置Aと位置Bでは、灌流値の低下は所定の閾値以下であるが、灌流値の左右差は所定の閾値より小さいため、危険度評価部36は危険度の評価を「中」とする。位置Cでは、灌流値の低下が所定の閾値以下であり、かつ灌流値の左右差は所定の閾値より大きいため、危険度評価部36は危険度の評価を「高」とする。よって、位置Cが最も危険度の高い血管攣縮であると判定できる。
【0043】
なお、
図9に示した危険度評価の一覧、または血管攣縮の位置に対応する3D造影画像データの少なくともひとつを、
図7に示した血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像に同時に表示してもよい。血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像、危険度評価の一覧、3D造影画像データを同時に表示した例を
図10に示す。
図10では、位置Aにおける合成画像を表示し、対応する危険度評価の一覧の、位置Aの欄を反転表示している。例えば、3D造影画像データで所定の位置を指定すると、対応する血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像を表示し、危険度評価一覧の、対応する所定の位置の欄を反転表示させる等、合成画像、危険度評価の一覧、3D造影画像データの画面を連動させて表示してもよい。また、各攣縮位置A、B、Cの、3D造影画像における位置を四角で囲み、危険度評価が「高」である位置Cについては、3D造影画像データ上で他よりも目立つように表示してもよい。
【0044】
また、過去の検査と現在の検査とを比較して、回復の度合いを表示部12に表示させても良い。この場合、まず血管情報データベース22に格納された過去の検査の3D造影画像データと、現在の検査の3D造影画像データとの位置合わせを行う。例えば、頭部領域から頭蓋骨領域を閾値処理により抽出し、2つの3D造影画像データから抽出される頭蓋骨領域間で線形位置合わせを行う。さらに、脳領域に対し、解剖学情報を用い非線形位置合わせを行って、位置合わせの精度を向上してもよい。
【0045】
上記の位置合わせを行った上で、比較部35は、血管情報データベース22に格納された、血管の攣縮位置周辺における、過去の検査における灌流値と、現在の検査における灌流値との差分を算出し、当該箇所の血管における灌流値が改善されているかを判定する。
【0046】
過去の検査Xと現在の検査Yとを比較した場合の、血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像、危険度評価の一覧、3D造影画像データの同時表示例を
図11に示す。血管形状画像と灌流値遷移画像との合成画像では、位置Aにおける、過去の検査Xでの血管形状と現在の検査Yでの血管形状とが同時に表示される。また灌流値は、比較部35で算出した、過去の検査Xと現在の検査Yとの差分に基づき、改善の度合いを表示する。
図11では、灌流値の回復が高くなるにつれて、濃い色で示している。
【0047】
また危険度評価の一覧も、過去の検査Xと現在の検査Yとの比較を行い、過去の検査Xからの改善度を表示する。
図11では、改善度を矢印の向きで表し、例えば位置Aにおいて、CBVの低下が少し改善された場合には斜め上向きの矢印を、CBVの左右差は変化がない場合には横向きの矢印を、それぞれ表示させる。
【0048】
図11のように、過去の検査と比較して、改善の度合いを表示することにより、攣縮箇所における現在の状態が改善しているか、または悪化しているかを明瞭に判断できるため、今後の治療計画に役立てることが出来る。
【0049】
以上説明した実施形態によれば、3D造影画像データの血管領域から血管攣縮箇所を抽出して2次元の血管形状画像を作成し、3D造影画像データから灌流解析を行って2次元の灌流値遷移画像を作成し、この血管形状画像と灌流値遷移画像とを合成して表示する。これにより、血管攣縮箇所における灌流値の様子を総合的に判断することが出来る。また、特定の攣縮箇所における灌流値、および当該攣縮箇所の灌流値と、対照の位置における灌流値との差から、脳梗塞等病変の危険度を評価することで、主観に寄らない定量的な危険度の評価を行うことが出来る。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10…制御部、12…表示部、13…操作部、15…通信部、16…記憶部、17…情報記憶媒体、21…危険度評価データベース、22…血管情報データベース、31…画像処理部、32…攣縮領域設定部、33…灌流解析部、34…領域分割部、35…比較部、36…危険度評価部。