【実施例】
【0040】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1:ポリL−乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体(PLLA−PEG)の合成
メトキシ−PEG40g(Mw5200、日本油脂社製)、L−ラクチド40g(プラーク社製)、オクチル酸スズ(400mg)を二口丸底フラスコに入れ十分に混合した。油圧ポンプにて脱気後、オイルバスにて110℃で加熱し溶解した。溶解後155℃に昇温し、4時間反応させた。反応物(固形物)を冷却後、250mL程度のジクロロメタンに溶解し、氷冷したイソプロパノール2.5Lに徐添加で再沈精製し、凍結乾燥することでポリL−乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体(PLLA−PEG)を合成した。合成物は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)あるいはプロトンNMRにて評価した。
【0042】
GPCから、メトキシ−PEGに比べ分子量の増大が認められ、またプロトンNMRからポリ乳酸の存在が確認できたことから、PLLA−PEGが合成された。また、L−ラクチドの量を変えて上記と同様に操作し、分子量の異なるPLLA−PEGを得た。
【0043】
実施例2:ベラプロストナトリウムを封入したPLAとPDLLA−PEGからなるナノ粒子の製造法(溶媒拡散法による製造)
PLA(多木化学社製)の26mgを300μLのジオキサンに溶解した。実施例1で合成したPLLA−PEGの24mgをアセトン500μLに溶解し、前記のジオキサン溶液とともに混合した。
この混合液に、2.5mgのベラプロストナトリウムを溶解したジオキサン/メタノール混液700μLを添加し、つづいて9.5mgのジエタノールアミンを溶解した200μLのアセトン溶液を添加した。直ちに、2.4mgの無水塩化第二鉄のアセトン200μL溶液を加えて混和し、室温で10分間放置した。
50mLのサンプル瓶に25mLの水を入れ2cmのスターラーバーで攪拌しながら、そこに26G注射針をつけた3mLシリンジで上記の反応液を徐々に滴下した(スターラー回転数:1000rpm、注射針:26G、シリンジ:ニプロ3mL、滴下速度:48L/hr)。得られた懸濁液に500mMのEDTA水溶液(pH7)を2.5mL及び200mg/mLのTween80[ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート]水溶液を12μL添加した。限外濾過(YM−50、アミコン社製)にて濃縮後、50mMのEDTA水溶液(pH7)を添加し、再び濃縮を行った(これを2回繰返した)。得られた濃縮懸濁液を超音波照射30秒後、遠心(1000rpm、5分)にて凝集塊を除去し、動的光散乱測定装置で粒径測定及び粒子内のベラプロストナトリウムの封入量をHPLCにて定量した。
【0044】
下記表1に、上記の処方による各成分の配合量の一例を示した。なお、この処方に限定されないことはいうまでもない。
【0045】
【表1】
【0046】
<ナノ粒子の平均粒子径、封入率、回収収率>
得られたベラプロストナトリウム含有ナノ粒子における粒子径の分布、封入率、回収率を以下に示した。
図1に、ベラプロストナトリウム含有ナノ粒子における平均粒子径の分布を、下記表2に、ベラプロストナトリウム含有ナノ粒子におけるベラプロストナトリウムの封入率、回収率を示した。
【0047】
【表2】
本発明が提供するベラプロストナトリウム含有ナノ粒子は、平均粒子径120nmを有し、封入率1%、回収率9%のナノ粒子を再現良く作成することが可能であった。
【0048】
実施例3:塩化第二鉄の存在下での不溶性コンプレックスの形成
本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子においては、ベラプロストナトリウムは塩化第二鉄の存在下で初めて不溶性のコンプレックスを形成し、その結果、効率よくナノ粒子として作成されることが判明した。
すなわち、ベラプロストナトリウムは、塩化第二鉄との相互作用によってナノ粒子中に封入されているものであった。
その点を確認するため、塩化第二鉄の存在/非存在下において、ジエタノールアミン(DEA)の添加の変化による溶液のpHの変動と、その上清中におけるベラプロストナトリウムの残存率を検討した。
具体的には、一定濃度の鉄イオン(455mM)とベラプロストナトリウム(32.5mM)の水溶液中に、ジエタノールアミンを添加することで溶液のpHを種々のpHになるように調整した。その溶液(懸濁液)を16,500gで10分遠心し、上清に溶解しているベラプロストナトリウムの量を、HPLCで定量した。また、その溶液のpHも測定した。
一方、一定濃度の鉄イオンの代わりに塩酸を用いて、ベラプロストナトリウム(32.5mM)の水溶液中にジエタノールアミンを添加することで、溶液のpHを種々のpHになるように調整した。その溶液(懸濁液)を16,500gで10分遠心し、上清に溶解しているベラプロストナトリウムの量を、HPLCで定量した。また、その溶液のpHも測定した。
【0049】
その結果を、
図2及び
図3に示した。
図2は、塩化第二鉄の存在下において、ジエタノールアミンの添加の変化による溶液のpHの変動と、その上清中におけるベラプロストナトリウムの残存率を示した結果であるが、不溶性コンプレックスが形成されている点が確認され、本発明のナノ粒子の調製には、塩化第二鉄の存在が重要なポイントであることが理解される。
一方、
図3は塩化第二鉄の非存在下において、ジエタノールアミンの添加の変化による溶液のpHの変動と、その上清中におけるベラプロストナトリウムの残存率を示した結果であるが、不溶性コンプレックスは全く形成されていなかった。
【0050】
実施例4:ベラプロストナトリウム含有ナノ粒子のin vitroにおける安定性
ベラプロストナトリウムナノ粒子の懸濁液45μLに、ウシ胎児血清(FBS)を50μL、ペニシリン・ストレプトマイシン溶液を1μL、およびリン酸緩衝生理食塩水5μL加え、よく混合した後100μLをマイクロチューブに分注した。その後サンプル溶液を37℃インキュベーター内に静置し、各日サンプリングを行った。
なお、FBSを用いたのは、生体内の環境を模倣するためである。
サンプリングは、サンプル溶液に50mMリン酸緩衝液(pH7)を900μL加え、超遠心(30,000rpm、4℃、30分間)にかけた。超遠心後、上清を除去し、沈殿物に超純水1mLを加え、同様に超遠心を行った。上清除去後の沈殿物をベラプロストナトリウム定量用のサンプルとした。
ベラプロストナトリウムの定量は、封入率測定法の項で述べた操作方法で行った。
【0051】
その結果を
図4に示した。
図中からの結果からも判明するように、約2週間にわたってナノ粒子中からベラプロストナトリウムが放出されていることが確認された。
ベラプロストナトリウムの生体内半減期1.1時間程度、また化学的半減期も10日と比較すれば、本発明のナノ粒子とすることにより、封入されたベラプロストナトリウムが長期間にわたって安定的に放出され点で、本発明は極めて特異的なものである。
【0052】
実施例5:血中滞留性評価
Wister系雄性ラット(5週齢:n=3)の尾静脈からベラプロストナトリウムナノ粒子、ベラプロストナトリウム(比較例)をそれぞれ静脈内投与した。投与後、各時間において投与部位とは異なる尾静脈をメスで切開し、採血管(ヘパリン処理済み)を用いて採血した。1,4−ジオキサン(150μL)入りのマイクロチューブに血液を50μL添加し、サンプル溶液とした。サンプル溶液を遠心分離(13,200rpm、4℃、10分間)した後、上清中に含まれるベラプロストナトリウムを、HPLCを用いて定量した。
【0053】
その結果を
図5に示した。
図中に示した結果からも判明するように、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子は、静脈内投与後24時間後でも血中に存在していることが判明するが、ベラプロストナトリウムは、投与後3時間後には血中には殆ど存在していないものであった。
このことから、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子とすることにより、ベラプロストナトリウムの血中滞留性が著しく向上する点が理解される。
【0054】
実施例6:ベラプロストナトリウム含有ナノ粒子の投与による持続的なcAMP上昇
プロスタサイクリンは血管平滑筋のプロスタサイクリン受容体を介してアデニルサイクラーゼを活性化し、cAMP濃度を増加させることによって、血管平滑筋の弛緩をもたらし、肺血管の拡張作用を発揮する。
そこで、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子を投与し、持続的なcAMPの上昇を検討した。
Wister系雄性ラット(5週齢:n=2)の尾静脈からベラプロストナトリウム含有ナノ粒子、ベラプロストナトリウム(比較例)をそれぞれ静脈内投与した。投与後、各時間において投与部位とは異なる尾静脈をメスで切開し、採血管を用いて採血した。遠心分離(2,000g、4℃、10分間)により血清(上清)を採取し、血清サンプルとした。これを適宜希釈し、cAMP ELISAキットを用いて、血清中に含まれるcAMPを定量した。測定方法は、assay design社のプロトコールに従った。
【0055】
その結果を
図6に示した。
図中に示した結果からも判明するように、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子は、24時間後でも血漿中のcAMP上昇が維持されている。
これに対して、ベラプロストナトリウムの静脈内投与ではcAMP上昇の持続が観察されず、ベラプロストナトリウムは、ナノ粒子化することによって持続的な薬理効果が得られることが理解される。
【0056】
実施例7:MCT病態モデルを用いた、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子の薬効評価(生存率)
MCT(モノクロタニン)により、肺高血圧症誘発モデル動物を用いて、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子の薬効を評価した。
MCTを、まず1M−塩酸水溶液に溶解させ、その後1M−水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、中性としたものを用いた。
5週齢Wister系雄性ラット(体重:128〜150g、n=8〜12)にペントバルビタール(50mg/kg;腹腔内投与)で麻酔をかけ、調整したMCT溶液を頸部に皮下注射した。MCT投与後4週間の間、生存率の変化を検討した。
【0057】
その結果を、
図7及び8に示した。
図7は、ベラプロストナトリウムの経口投与並びにVehicleの結果を示した図であり、
図8は、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子の投与の結果を示した図である。
両図の対比から明らかなように、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子を3日に1回静脈内投与することにより、生存率の顕著な改善が認められた。
【0058】
実施例8:MCT病態モデルを用いた、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子の薬効評価(右心室利モデリング、肺血管肥厚)
MCT(モノクロタニン)により、肺高血圧症誘発モデル動物を用いて、本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子の薬効を評価した。
実施例7において、MCT投与4週後(28日後)に生存しているラットをサンプリングし、右心室重量、肺血管肥厚を定量した。
すなわち、MCT投与から4週間後において生存しているラットに関して、体重を測定し、脱血屠殺後、心臓をおよび肺を摘出した。
摘出した心臓は、まず右心室を切り出し、左心室は中隔部分を除いて左室自由壁のみとし、それぞれの重量を測定した。右心室肥大の定量は、体重に対する右心室重量の割合で算出した。また、摘出した肺を用いて肺血管肥厚の定量を行った。肺摘出後10%ホルマリンで浸漬固定した。パラフィン包埋し、約4μm厚の切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)した後、鏡検にて肺血管肥厚を評価した。Kayらの方法に従い、肺細動脈の中膜の厚さを評価した。評価対象とした血管は直径20〜200μmの筋性動脈で、短軸断面で切断されているもののみを計測した。
各標本につき10個の血管を計測し、血管壁厚/血管径を%で算出して中膜肥厚(%wall thickness)とした。
【0059】
MCT投与から4週間後において生存している動物をサンプリングし、右心室重量、肺血管肥厚を定量した。
その結果を、
図9及び10に示した。
図9は、右心室重量(対全体重)の結果を示した図であり、
図10は、肺血管肥厚を示した図である。
本発明のベラプロストナトリウム含有ナノ粒子を3日に1回静脈内投与することにより、顕著な病態改善効果が認められた。