【実施例1】
【0017】
図1ないし
図5は、本発明の実施例1による車両用フードの衝撃力吸収構造を説明するための図である。
【0018】
図において、1は自動車のフードを示している。このフード1は、左,右のフェンダエプロン部2,2により囲まれたエンジンルームEの上部を覆うように配設されている。このエンジンルームE内には、図示していないが、剛体物であるエンジンユニット及びラジエータ,バッテリ等のエンジン補機が搭載されている。
【0019】
前記左,右のフェンダエプロン部2の下方には前輪3が配設され、前側にはフロントバンパ4が配設されている。なお、5はフロントガラスである。
【0020】
前記左,右のフェンダエプロン部2の車内側には、ストラットタワー6,6が結合されている。この左,右のストラットタワー6には、前輪3に連結されたショックアブソーバ(剛体物)7の上端部7aが複数本の締結ボルト(剛体物)8,8により固定されている(
図4参照)。
【0021】
前記フード1は、外装板としてのアウタパネル10とインナパネル11とを中空状をなすよう外周縁部10a,11a同士をヘミング結合した構造を有する。
【0022】
前記フード1は、低所に位置させた低フード意匠となっており、このためインナパネル11は、前記ショックアブソーバ7の上端部7a及び締結ボルト8に近接した位置に配置されている。ちなみに両者の隙間は概ね10mm程度となっている。
【0023】
前記インナパネル11の左,右後端部には、ヒンジ取付け座11b,11bが
形成され、前端部にはストライカ取付け座11cが形成されている。また前記インナパネル11の左,右前部には、フード閉時の衝撃力を吸収する複数のクッションゴム取付け座11dが形成されており、中央部分には複数の肉抜き孔11eが形成されている。
【0024】
前記フード1内の左,右のショックアブソーバ7及びバッテリに望む部分には、それぞれ衝撃吸収部材15が配設されている。これらの衝撃吸収部材15は、何れも略同一構造であることから、ショックアブソーバ7に配設された衝撃吸収部材15について、以下詳細に説明する。
【0025】
前記衝撃吸収部材15は、板金製のものであり、インナパネル11に配置された前後一対の固定部15a,15aと、各固定部15aから前記アウタパネル10に向かって屈曲して延びる前,後の縦壁部15b,15bと、該縦壁部15bの上端同士を一体に連結する天壁部15cとを有する。この天壁部15cは、アウタパネル10に近接しており、両者10,15cは接着剤を介して固定されている。
【0026】
また前記前,後の縦壁部15bの中途部には、折れ変形を誘発する屈曲部が15dが外側に凸をなすように屈曲形成されている。これにより、軽衝突時に被衝突物がフード1に落下して衝撃力Fが加わると、前,後の縦壁部15bが屈曲部15dを起点に外側へ折れ曲がり、パンタグラフ状に折り畳まれるように座屈変形する。
【0027】
前記衝撃吸収部材15は、各固定部15aに対して天壁部15cが車幅方向内側に偏位するよう縦壁部15bを傾斜させた構造となっている。これにより前,後の縦壁部15bは、前記衝撃力Fの入力方向と略一致するように配置されている。この衝撃吸収部材15の傾斜角度,傾斜方向は、剛体物の配置位置関係,あるいは入力方向に応じて適宜設定することとなる。例えば、衝撃吸収部材を、固定部に対して天壁部が車両前側に偏位するように縦壁部を傾斜させてもよい。
【0028】
前記インナパネル11の前記衝撃吸収部材15が配置された部分には、該衝撃吸収部材15の外周部分を囲む大きさの開口11fが形成されている。
【0029】
前記インナパネル11の開口11fには、該インナパネル11の一般部より板厚の大きい厚板部材16が配設されている。この厚板部材16は、前記開口11fの周縁部に溶接等により固定されており、該厚板部材16に前記衝撃吸収部材15の各固定部15aが溶接等により固定されている。
【0030】
前記衝撃吸収部材15の板厚t1は、前記アウタパネル10及びインナパネル11の板厚t2より大きい値に設定されており、前記厚板部材16の板厚t3は、前記衝撃吸収部材15の板厚t1の同等以上の値に設定されている(
図4参照)。ちなみに、インナパネルの板厚t2は0.5〜0.6mm、厚板部材16の板厚t3は1.6mmに設定されている。
【0031】
本実施例によれば、衝撃吸収部材15を一対の固定部15aと、各固定部15aに続いてアウタパネル10に向かって屈曲して延びる縦壁部15bと、各縦壁部15bの上端同士を一体に連結する天壁部15cと、前記各縦壁部15bの中途部に所定角度をなすよう形成された屈曲部15dとを有するものとし、インナパネル11の衝撃吸収部材15が配置される部分に開口11fを形成し、該開口11fにインナパネル11の一般部より板厚の大きい厚板部材16を配置し、該厚板部材16に衝撃吸収部材15を固定した。
【0032】
このように構成したので、
図5(a),(b)に示すように、軽衝突時に被衝突物が倒れ込むことにより、フード1に衝撃力Fが加わると、アウタパネル10が下方に凹むように変形するとともに、インナパネル11の厚板部材16の周辺部分11′が下方に屈曲するように変形して厚板部材16の下方移動を抑制するように突っ張ることとなる。これにより、厚板部材16がショックアブソーバ,締結ボルト等の剛体物Aに当接する前に衝撃吸収部材15が座屈変形することとなる。これにより被衝突物がフード1に落下したときの衝撃力Fを吸収することができ、被衝突物への影響を抑制できる。
【0033】
即ち、フード1全体の撓みと同時に厚板部材16が踏ん張ることにより、剛体物Aに底着きする前に衝撃吸収部材15が変形を開始することとなり、被衝突物のフード衝突初期の段階で衝突エネルギーのほとんどを効率よく吸収することができる。これにより、フード1と剛体物Aとの間に必要なエネルギー吸収スペースSを大幅に縮小することができ、フードの高さ位置に対する意匠の制約を解消でき、ひいては低フード意匠の採用が可能となる。
【0034】
本実施例では、前記衝撃吸収部材15の前,後の縦壁部15bに所定角度をなすよう屈曲部15dを形成したので、各屈曲部15dが衝撃吸収部材15の座屈変形を誘発することから、衝撃吸収部材15が大略パンタグラフ状に均等に折り畳まれるように変形することとなり、エネルギー吸収効果を十分に発揮することができる。
【0035】
本実施例では、前記インナパネル11の厚板部材16が剛体物Aに底着きする前にエネルギーを吸収するので、例えばフード1のエネルギー吸収量を超える衝撃力が加わった場合には、この超えた衝撃力を厚板部材16が剛体物Aに当接するまでの間で吸収することができ、エネルギー吸収量を拡大できる。
【0036】
また前記インナパネル11の厚板部材16が仮に剛体物Aに底着きした場合にも、厚板部材16はインナパネル11の一般部より板厚が大きいので、従来のようなインナパネルの底着きによる変形が生じることはなく、狙い通りのエネルギー吸収効果を得ることができる。さらに厚板部材16により剛体物Aの車外側への飛び出しを抑えることができるとともに、インナパネル全体を厚板化する場合の重量及びコストアップを抑制できる。
【0037】
なお、前記実施例では、インナパネル11の開口11fに別体の厚板部材16を配置したが、本発明は、差厚鋼板によりインナパネルに厚板部を一体に設けることも可能である。
【0038】
また前記実施例では、フード1のショックアブソーバ7に望む部分に1つの衝撃吸収部材15を配置したが、本発明では、複数の衝撃吸収部材を配置してもよい。例えば、エンジンのシリンダヘッドが近接している場合は、該シリンダヘッドに対応して複数配置してもよい。また衝撃吸収部材の大きさについても剛体物に応じて適宜設定することとなる。