特許第5780840号(P5780840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780840
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/10 20060101AFI20150827BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20150827BHJP
   F21Y 101/02 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
   F21S8/10 170
   F21W101:10
   F21Y101:02
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-127486(P2011-127486)
(22)【出願日】2011年6月7日
(65)【公開番号】特開2012-256442(P2012-256442A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】府川 紀子
(72)【発明者】
【氏名】表 征史
(72)【発明者】
【氏名】小菅 守
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕久
(72)【発明者】
【氏名】清水 武洋
(72)【発明者】
【氏名】相馬 紀人
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−212021(JP,A)
【文献】 特開2003−185955(JP,A)
【文献】 特開2004−205990(JP,A)
【文献】 実開平3−68301(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/10
F21V 5/00
F21V 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源を搭載するための光源搭載部と、
前記光源からの光を入射する入射面と、該光を灯具前方に出射する出射面とを備える投影レンズと、
を備える車両用灯具であって、
前記投影レンズは、前記入射面が平面に形成され、前記出射面が凸面に形成された平凸非球面レンズであり、
前記入射面に微細凹凸構造が形成され、
前記微細凹凸構造は、可視光波長以下のピッチでランダムに形成された凹部または凸部を含み、
前記微細凹凸構造は、アスペクト比1以上の凹部または凸部を含むことを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記出射面に微細凹凸構造が形成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記微細凹凸構造は、ピッチ10nmから780nmの凹部または凸部であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関し、投影レンズを用いたプロジェクタ型の車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プロジェクタ型の車両用灯具は、車両前後方向に延びる光軸上に投影レンズが配置されるとともに、その後側焦点よりも後方側に光源が配置されており、この光源からの光をリフレクタにより投影レンズへ向けて反射させるように構成されている。そして、このプロジェクタ型の車両用灯具によりロービーム用配光パターンを形成する場合には、投影レンズの後側焦点近傍に、リフレクタからの光の一部を遮蔽するシェードを、その上端縁が光軸近傍に位置するように配置し、これによりロービーム用配光パターンの上端縁に所定のカットオフラインを形成するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−35547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなプロジェクタ型の車両用灯具においては、リフレクタからの光が投影レンズに入射する際に、光の一部が投影レンズの入射面で反射する。この投影レンズの入射面における反射により、光の利用効率が低下する。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、投影レンズを用いた車両用灯具において、光の利用効率を高めることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用灯具は、光源を搭載するための光源搭載部と、光源からの光を入射する入射面と、該光を灯具前方に出射する出射面とを備える投影レンズとを備える。投影レンズの入射面および出射面のうち、少なくとも一方には、微細凹凸構造が形成されている。
【0007】
投影レンズの入射面および出射面の両方に微細凹凸構造が形成されてもよい。
【0008】
微細凹凸構造は、可視光波長以下のピッチで形成された凹部または凸部を含んでもよい。
【0009】
微細凹凸構造は、ピッチ10nmから1000nmの凹部または凸部であってもよい。
【0010】
微細凹凸構造は、アスペクト比1以上の凹部または凸部を含んでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、投影レンズを用いた車両用灯具において、光の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る灯具ユニットを用いた車両用灯具の断面図である。
図2図2(a)(b)は、本実施形態に係る投影レンズを説明するための図である。
図3図3(a)(b)は、試作した微細凹凸構造のAFM(原子力間顕微鏡)像を示す図である。
図4】本実施例に係る投影レンズを入射面側から見た図である。
図5】本実施例に係る投影レンズの入射面における反射率特性を示す図である。
図6】本実施例に係る投影レンズの透過率特性を示す図である。
図7】本実施例に係る車両用灯具と比較例に係る車両用灯具の光束を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用灯具100の断面図である。車両用灯具100は、プロジェクタ型の車両用前照灯であり、車両前方にロービームを照射する機能を有する。
【0015】
車両用灯具100は、図1に示すように、灯具前方に開口された凹部を有するランプボディ12と、該ランプボディ12の開口面を閉塞するカバー14とを備え、ランプボディ12とカバー14によって形成された内部空間が灯室16として形成されている。
【0016】
灯室16内には、灯具ユニット10が配置されている。図1に示すように、灯具ユニット10は、ブラケット18の略中央部に取り付けられている。ブラケット18の上部には第1エイミングスクリュー21が取り付けられており、ブラケット18の下部には第2エイミングスクリュー22が取り付けられている。ブラケット18は、第1エイミングスクリュー21および第2エイミングスクリュー22によってランプボディ12に傾動自在に支持されている。下方の第2エイミングスクリュー22には、エイミングアクチュエータ24が設けられている。そして、エイミングアクチュエータ24の駆動されると、ブラケット18の傾動に伴って灯具ユニット10が傾動されて、照明光の光軸調整(エイミング調整)が行われる。
【0017】
灯具ユニット10は、光源としてのLED26と、光源搭載部としての基板28と、LED26からの光を灯具前方へ反射するリフレクタ30と、基板28を支持する基板支持部材32と、投影レンズ40と、レンズ支持部材41とを備える。
【0018】
LED26は、1mm四方程度の大きさの発光部(発光チップ)を有する白色発光ダイオードであって、光出射面を上方に向けて基板28上に載置されている。基板28は、LED26を保持すると共に、LED26に電流を供給する。
【0019】
リフレクタ30は、鉛直断面形状が略楕円形状であり、水平断面形状が楕円をベースとした自由曲面形状に形成されている。リフレクタ30は、その第1焦点がLED26の発光部近傍となり、第2焦点が基板支持部材32の先端部32a近傍となるように配置されている。基板支持部材32の先端部32aは、リフレクタ30から反射された光を選択的にカットして、車両前方に投影される配光パターンに斜めカットオフラインを形成するように構成されている。すなわち、基板支持部材32の先端部32aは、リフレクタからの光の一部を遮蔽するシェードとして機能する。
【0020】
投影レンズ40は、LED26から出射された後、リフレクタ30で反射された光を入射する入射面42と、該光を灯具前方に出射する出射面44とを備える。投影レンズ40は、入射面42が平面に形成され、出射面44が凸面に形成された平凸非球面レンズである。投影レンズ40は、レンズ支持部材41によりリフレクタ30の前方に設けられている。投影レンズ40の光軸Axは、車両の前後方向と略平行となっている。また、投影レンズ40の後方側焦点は、リフレクタ30の第2焦点と略一致している。投影レンズ40は、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として車両用灯具100の前方に投影する。
【0021】
図2(a)(b)は、本実施形態に係る投影レンズを説明するための図である。図2(a)は投影レンズの全体図である。図2(a)に示すように、投影レンズ40への入射光は、その一部が反射光となり、残りが出射面44から出射する透過光となる。入射面42で反射する反射光を減らすことができれば、出射面44から出射する透過光を増やすことができ、光利用効率を向上できる。
【0022】
図2(b)は投影レンズの入射面の拡大図である。本実施形態においては、図2(b)に示すように、投影レンズ40の入射面42に微細凹凸構造46が形成されている。この微細凹凸構造46は、可視光波長(380nm〜780nm)以下のピッチPで形成された凹部または凸部を含むナノパターンである。
【0023】
図3(a)(b)は、試作した微細凹凸構造の原子力間顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)像を示す。図3(a)は微細凹凸構造を上方から見たAFM像であり、図3(b)は微細凹凸構造を斜めから見たAFM像である。
【0024】
図2(b)では凹部または凸部のピッチPは一定となっているが、図3(a)(b)に示すように、入射面42上には様々なピッチPの凹部または凸部がランダムに存在してよい。より具体的には、微細凹凸構造46は、可視光波長以下のピッチPの凹部または凸部を含んでいればよく、それに加えて可視光波長以下のピッチPよりも大きいピッチの凹部または凸部が存在していてもよい。例えば、微細凹凸構造46は、ピッチ10nmから1000nmの凹部または凸部から構成されていてもよい。また、微細凹凸構造46の凹部または凸部は、アスペクト比が1以上であることが好ましい。ここで、アスペクト比とは、凹部または凸部の高さを幅で割った値である。
【0025】
通常、光が空気中から屈折率が空気よりも高い物質に入射する場合、境界面において光の一部が反射する。しかしながら、上記のような微細凹凸構造46を入射面42上に形成した場合、光は境界面を認識しにくくなるので、反射光が減少し、透過光が増加する。従って、入射面に微細凹凸構造46を形成した投影レンズ40を用いることにより、光利用効率を向上した車両用灯具100を実現できる。
【0026】
投影レンズ40の材料としては、例えばアクリルやポリカーボネートなどの可視光に対して透明な樹脂を用いることができる。投影レンズ40を射出成形により形成する場合、微細凹凸構造46は、表面にナノオーダの微細凹凸構造を形成した金型を用いることにより形成できる。微細凹凸構造46の形成方法は特に限定されず、例えばエッチングなど方法により入射面42に微細凹凸構造46を形成してもよい。
【0027】
次に、本発明者が試作した投影レンズの実施例について説明する。図4は、本実施例に係る投影レンズを入射面側から見た図である。図4において矢印は、入射面における反射率の測定ポイントを示す。ここでは、分光測定器を用いて反射率を測定した。投影レンズの材料はアクリルであり、射出成形により形成した。この投影レンズに対し、ピッチ10nmから1000nm且つアスペクト比1以上の凹部または凸部を形成した。
【0028】
図5は、本実施例に係る投影レンズの入射面における反射率特性を示す。図5において、縦軸は反射率(%)であり、横軸は波長(nm)である。図5には、本実施例に係る投影レンズの反射率特性の他に、比較例として微細凹凸構造が形成されていない投影レンズの反射率特性を図示している(符号Ref)。
【0029】
図5に示すように、微細凹凸構造が形成されていない投影レンズにおいては、380nm〜780nmの可視光波長全域において反射率は約4%であった。一方、本実施例に係る投影レンズにおいては、可視光波長全域において反射率は2.5%以下であった。このように、投影レンズの入射面に微細凹凸構造を形成することにより、入射面における反射率を低減できることが分かる。
【0030】
図6は、本実施例に係る投影レンズの透過率特性を示す。図6において、縦軸は透過率(%)であり、横軸は波長(nm)である。図6には、本実施例に係る投影レンズの透過率特性の他に、比較例として微細凹凸構造が形成されていない投影レンズの透過率特性を図示している(符号Ref)。図4で示した投影レンズについて、分光測定器を用いて透過率特性を測定した。
【0031】
図6から、本実施例に係る投影レンズは、可視光波長の広い範囲において、比較例に係る投影レンズと比較して、高い透過率を実現できることが分かる。
【0032】
次に、投影レンズを車両用灯具に組み込んだ実施例について説明する。図7は、本実施例に係る車両用灯具と比較例に係る車両用灯具の光束を比較した図である。比較例は、微細凹凸構造が形成されていない投影レンズを組み込んだ車両用灯具である。ここでは、射出成形の条件が異なる4つの投影レンズのサンプルについて、光束を測定した。
【0033】
図7に示すように、比較例に係る車両用灯具の光束は、233〜235lm程度であっが、本実施例に係る車両用灯具の光束は、239〜241lmと増加している。このように、入射面に形成した微細凹凸構造が光束の増加に有効であることが分かる。
【0034】
以上説明したように、微細凹凸構造を形成した投影レンズを用いることにより、光の利用効率を向上できる。これにより、より高輝度の車両用灯具を実現できる。
【0035】
上述の実施形態では、投影レンズ40の入射面42に微細凹凸構造46を形成したが、これに加えて、投影レンズ40の出射面44に微細凹凸構造を形成してもよい。あるいは、投影レンズ40の出射面44にのみ、微細凹凸構造を形成してもよい。出射面44の微細凹凸構造の条件は、入射面42の微細凹凸構造46と同一でよい。この場合、出射面44における反射が低減されるので、光の利用効率をより向上できる。
【0036】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0037】
例えば、上述の実施形態では、光源としてLEDを例示したが、光源はLEDに限定されない。また、上述の実施形態では、リフレクタで反射した光を投影レンズに入射する構成としたが、光源からの光を直接投影レンズに入射する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10 灯具ユニット、 26 LED、 28 基板、 30 リフレクタ、 32 基板支持部材、 40 投影レンズ、 42 入射面、 44 出射面、 46 微細凹凸構造、 100 車両用灯具。
図1
図2
図5
図6
図7
図3
図4