特許第5780850号(P5780850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5780850車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム、および車両用灯具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780850
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム、および車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/115 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   B60Q1/115
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-139617(P2011-139617)
(22)【出願日】2011年6月23日
(65)【公開番号】特開2012-30783(P2012-30783A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2014年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2010-146526(P2010-146526)
(32)【優先日】2010年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和緒
(72)【発明者】
【氏名】伴野 寿紀
(72)【発明者】
【氏名】笠羽 祐介
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敦之
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−056437(JP,A)
【文献】 特開2003−040029(JP,A)
【文献】 特開2004−182194(JP,A)
【文献】 特開2010−018118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/10−1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜検出装置から水平面に対する車両の傾斜角度を受信するための受信部と、
前記傾斜検出装置が車両に搭載された状態における傾斜検出装置側の軸と、前記車両の姿勢を決める車両側の軸との位置関係を示す補正情報によって、傾斜検出装置から得られた現在の車両の傾斜角度を補正し、車両用灯具の光軸位置を決定するための制御部と、
決定した光軸位置を車両用灯具の光軸調節部に送信するための送信部と、
を備え
前記補正情報は、予め記録された第1状態にある車両の第1基準傾斜角度と、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両の第2基準傾斜角度とから得られた情報であることを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記第1状態は、車両が水平面にある状態であり、
前記第2状態は、前記第1状態にあった車両の前部または後部に荷重が掛けられた状態である請求項に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1状態は、車両が停止している状態であり、
前記第2状態は、車両が前進または後退している状態である請求項に記載の制御装置。
【請求項4】
光軸を調節可能な車両用灯具と、
水平面に対する車両の傾斜角度を検出可能な傾斜検出部と、
前記車両用灯具を制御するための制御部と、を備え、
前記制御部は、予め記録された第1状態にある車両の第1基準傾斜角度と、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両の第2基準傾斜角度とから得られた補正情報によって、前記傾斜検出部から得られた現在の車両の傾斜角度を補正して車両用灯具の光軸位置を決定し、前記車両用灯具の光軸を調節することを特徴とする車両用灯具システム。
【請求項5】
車両のピッチ角度に応じて光軸が調節される車両用灯具であって、
前記ピッチ角度は、傾斜検出装置から受信した傾斜角度が第1状態にある車両の第1基準傾斜角度と、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両の第2基準傾斜角度とから得られる補正情報によって、傾斜検出装置から取得した現在の車両の傾斜角度が補正されて得られた傾斜角度により決定されることを特徴とする車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム、および車両用灯具に関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム、および車両用灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の傾斜角度に応じて車両用前照灯の光軸位置を自動的に調節して照射方向を変化させるオートレベリング制御が知られている。一般にオートレベリング制御では、車両の傾斜検出装置として車高センサが用いられ、車高センサにより検出される車両のピッチ角度に基づいて前照灯の光軸位置が調節される。これに対し、特許文献1には、傾斜検出装置として重力センサを用いてオートレベリング制御を実施する構成が開示されている。また、特許文献2には、傾斜検出装置として三次元ジャイロセンサを用いてオートレベリング制御を実施する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−085459号公報
【特許文献2】特開2004−314856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の傾斜検出装置として重力センサや三次元ジャイロセンサなどの加速度センサを用いた場合、車高センサを用いた場合に比べてオートレベリングシステムをより安価にすることができ、また軽量化を図ることもできる。一方で、加速度センサを用いた場合であっても、車両に対するセンサの取付誤差に起因した車両傾斜角度の検出誤差を減らして、より高精度にオートレベリング制御を実施したいという要求はある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、傾斜検出装置から車両の傾斜角度を取得して車両用灯具の光軸位置を調節するオートレベリング制御をより高精度に実施することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具の制御装置であり、当該制御装置は、傾斜検出装置から水平面に対する車両の傾斜角度を受信するための受信部と、傾斜検出装置が車両に搭載された状態における傾斜検出装置側の軸と、車両の姿勢を決める車両側の軸との位置関係を示す補正情報によって、傾斜検出装置から得られた現在の車両の傾斜角度を補正し、車両用灯具の光軸位置を決定するための制御部と、決定した光軸位置を車両用灯具の光軸調節部に送信するための送信部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、傾斜検出装置から車両の傾斜角度を取得して車両用灯具の光軸位置を調節するオートレベリング制御をより高精度に実施することができる。
【0008】
上記態様において、補正情報は、予め記録された第1状態にある車両の第1基準傾斜角度と、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両の第2基準傾斜角度とから得られた情報であってもよい。この態様によっても、オートレベリング制御をより高精度に実施することができる。
【0009】
上記態様において、第1状態は、車両が水平面にある状態であり、第2状態は、第1状態にあった車両の前部または後部に荷重が掛けられた状態であってもよい。この態様によれば、精度良く車両のピッチ角度のみを変化させることができる。また、上記態様において、第1状態は、車両が停止している状態であり、第2状態は、車両が前進または後退している状態であってもよい。この態様によれば、オートレベリング制御の工程数の増加を抑えることができる。
【0010】
また、本発明の他の態様は車両用灯具システムであり、当該車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、水平面に対する車両の傾斜角度を検出可能な傾斜検出部と、車両用灯具を制御するための制御部と、を備え、制御部は、予め記録された第1状態にある車両の第1基準傾斜角度と、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両の第2基準傾斜角度とから得られた補正情報によって、傾斜検出部から得られた現在の車両の傾斜角度を補正して車両用灯具の光軸位置を決定し、車両用灯具の光軸を調節することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のさらに他の態様は車両用灯具であり、当該車両用灯具は、車両のピッチ角度に応じて光軸が調節される車両用灯具であって、ピッチ角度は、傾斜検出装置から受信した傾斜角度が第1状態にある車両の第1基準傾斜角度と、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両の第2基準傾斜角度とから得られる補正情報によって、傾斜検出装置から取得した現在の車両の傾斜角度が補正されて得られた傾斜角度により決定されることを特徴とする。
【0012】
これらの態様によっても、傾斜検出装置から車両の傾斜角度を取得して車両用灯具の光軸位置を調節するオートレベリング制御をより高精度に実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、傾斜検出装置から車両の傾斜角度を取得して車両用灯具の光軸位置を調節するオートレベリング制御をより高精度に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る車両用灯具システムの内部構造を説明する概略鉛直断面図である。
図2】前照灯ユニットの照射制御部と車両側の車両制御部との動作連携を説明する機能ブロック図である。
図3図3(A)〜図3(C)は、傾斜角度の補正方法における各ベクトルの関係を示す模式図である。
図4】実施形態1に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御フローチャートである。
図5】変形例1に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御フローチャートである。
図6】変形例2に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る車両用灯具システムの内部構造を説明する概略鉛直断面図である。本実施形態の車両用灯具システム200は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1つずつ配置された配光可変式前照灯システムである。左右に配置された前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明し、左側の前照灯ユニットの説明は適宜省略する。なお、左側の前照灯ユニットの各部材について記載する場合には、説明の便宜上、各部材に対して前照灯ユニット210Rの対応する部材と同一の符号を付す。
【0017】
前照灯ユニット210Rは、車両前方側に開口部を有するランプボディ212と、この開口部を覆う透光カバー214とを有する。ランプボディ212は、その車両後方側にバルブ14の交換時等に取り外すことができる着脱カバー212aを有する。ランプボディ212と透光カバー214とによって灯室216が形成されている。灯室216には、光を車両前方に照射する灯具ユニット10(車両用灯具)が収納されている。
【0018】
灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。したがって、灯具ユニット10は、エイミング調整ネジ220の調整状態で定められた灯室216内の所定位置に固定されるとともに、その位置を基準にピボット機構218aを中心として、前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢変化可能である。
【0019】
また、灯具ユニット10の下面には、曲線道路走行時などに進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)などを構成するためのスイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は、車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、対向車や先行車を含む前方車と自車との相対位置の関係などに基づいて、灯具ユニット10を、ピボット機構218aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット10の照射領域が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視認性を向上させる。スイブルアクチュエータ222は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。
【0020】
ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は、例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸Oのピッチ角度、すなわち、光軸Oの上下方向の角度を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸Oのピッチ角度を下方に向けるレベリング調整ができる。このようなレベリング調整を実施することで、車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用灯具システム200による前方照射光の到達距離を最適な距離に調整することができる。
【0021】
灯具ユニット10下方の灯室216の内壁面には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御、灯具ユニット10の光軸調節などを実行する照射制御部228(制御部、制御装置)が配置されている。図1の場合、前照灯ユニット210Rを制御するための照射制御部228Rが配置されている。この照射制御部228Rは、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226などの制御も実行する。なお、照射制御部228Rは、前照灯ユニット210Rの外に設けられてもよい。
【0022】
灯具ユニット10は、エイミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エイミング調整時の揺動中心となるエイミングピボット機構(図示せず)を配置する。また、ランプブラケット218には前述したエイミング調整ネジ220が車幅方向に間隔を空けて配置されている。例えば2本のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸Oが下方に調整される。同様に2本のエイミング調整ネジ220を時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸Oが上方に調整される。また、車幅方向左側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸Oが調整される。また、車幅方向右側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸Oが調整される。このエイミング調整は、車両出荷時や車検時、前照灯ユニット210Rの交換時に行われる。そして、前照灯ユニット210Rが設計上定められた姿勢に調整され、この姿勢を基準に配光パターンの形成制御や光軸位置の調節制御が行われる。
【0023】
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、および投影レンズ20を備える。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16は、バルブ14から放射された光を反射する。そして、バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
【0024】
回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒形状の部材であり、軸方向に一部が切り欠かれた切欠部と、複数のシェードプレートとを備える。切欠部またはシェードプレートのいずれかが光軸O上に移動されて、所定の配光パターンが形成される。リフレクタ16は、その少なくとも一部が楕円球面状であり、この楕円球面は、灯具ユニット10の光軸Oを含む断面形状が楕円形状の少なくとも一部となるように設定されている。リフレクタ16の楕円球面状部分は、バルブ14の略中央に第1焦点を有し、投影レンズ20の後方焦点面上に第2焦点を有する。
【0025】
投影レンズ20は、車両前後方向に延びる光軸O上に配置される。バルブ14は、投影レンズ20の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として車両用灯具システム200前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。なお、灯具ユニット10の構成は特にこれに限定されず、投影レンズ20を持たない反射型の灯具ユニットなどであってもよい。
【0026】
図2は、上述のように構成された前照灯ユニットの照射制御部と車両側の車両制御部との動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、上述のように右側の前照灯ユニット210Rおよび左側の前照灯ユニット210Lの構成は基本的に同一であるため、前照灯ユニット210R側のみの説明を行い前照灯ユニット210L側の説明は省略する。
【0027】
前照灯ユニット210Rの照射制御部228Rは、受信部228R1と、制御部228R2と、送信部228R3と、メモリ228R4とを有する。照射制御部228Rは、車両300に搭載された車両制御部302から得られた情報に基づいて電源回路230の制御を行い、バルブ14の点灯制御を実行する。また、照射制御部228Rは、車両制御部302から得られた情報に基づいて可変シェード制御部232、スイブル制御部234、レベリング制御部236(光軸調節部)を制御する。車両制御部302から送信された各種情報は受信部228R1によって受信され、制御部228R2によって当該情報と必要に応じてメモリ228R4に記憶されている情報とから各種制御信号が生成される。そして、送信部228R3によって当該制御信号が灯具ユニット10の電源回路230や可変シェード制御部232、スイブル制御部234、レベリング制御部236等に送信される。メモリ228R4は、例えば不揮発メモリである。
【0028】
可変シェード制御部232は、回転シェード12の回転軸12aにギア機構を介して接続されたモータ238を回転制御して、所望のシェードプレートまたは切欠部を光軸O上に移動させる。なお、可変シェード制御部232には、モータ238や回転シェード12に備えられたエンコーダなどの検出センサから回転シェード12の回転状態を示す回転情報が提供される。これにより、フィードバック制御による正確な回転制御が実現される。また、スイブル制御部234は、スイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸Oの角度を車幅方向(左右方向)について調整する。例えば、曲路走行や右左折走行などの旋回時に灯具ユニット10の光軸Oをこれから進行する方向に向ける。
【0029】
レベリング制御部236は、レベリングアクチュエータ226を制御して、灯具ユニット10の光軸Oを車両上下方向(ピッチ角度方向)について調整する。例えば、加減速時や、積載荷量増減時、乗車人数増減時における車両姿勢の前傾、後傾に応じて灯具ユニット10の姿勢を調整して前方照射光の到達距離を最適な距離に調整する。車両制御部302は、前照灯ユニット210Lに対しても同様の情報を提供し、前照灯ユニット210Lに設けられた照射制御部228L(制御部、制御装置)が、照射制御部228Rと同様の制御を実行する。
【0030】
本実施形態の場合、前照灯ユニット210L,210Rによって形成される配光パターンは、運転者によるライトスイッチ304の操作内容に応じて切り替え可能である。この場合、ライトスイッチ304の操作に応じて、照射制御部228L,228Rが可変シェード制御部232を介してモータ238を制御して灯具ユニット10により形成する配光パターンを決定する。
【0031】
本実施形態の前照灯ユニット210L,210Rは、ライトスイッチ304の操作によらず、車両周囲の状況を各種センサで検出して、車両300の状態や車両周囲状況に最適な配光パターンを形成するように自動制御してもよい。例えば、自車の前方に先行車や対向車、歩行者などが存在することが検出できた場合には、照射制御部228L,228Rは車両制御部302から得られた情報に基づいてグレアを防止するべきであると判定し、灯具ユニット10によりロービーム用配光パターンを形成する。また、自車の前方に先行車や対向車、歩行者などが存在しないことが検出できた場合には、照射制御部228L,228Rは運転者の視認性を向上させるべきであると判定して回転シェード12による遮光を伴わないハイビーム用配光パターンを形成する。また、ロービーム用配光パターンおよびハイビーム用配光パターンに加えて、従来公知の特殊ハイビーム用配光パターンや特殊ロービーム用配光パターンを形成可能な場合には、前方車の存在状態に応じて前方車を考慮した最適な配光パターンを形成してもよい。このような制御モードをADB(Adaptive Driving Beam)モードという場合がある。
【0032】
このように先行車や対向車などの対象物を検出するために、車両制御部302には対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ306が接続されている。カメラ306で撮影された画像フレームデータは、画像処理部308で対象物認識処理などの所定の画像処理が施され、その認識結果が車両制御部302へ提供される。例えば、画像処理部308から提供された認識結果データの中に車両制御部302が予め保持している車両を示す特徴点を含むデータが存在する場合、車両制御部302は車両の存在を認識して、その情報を照射制御部228L,228Rに提供する。照射制御部228L,228Rは、車両制御部302から車両の情報を受けて、その車両を考慮した最適な配光パターンを決定し、当該配光パターンを形成する。ここで、前記「車両を示す特徴点」とは、例えば前方車の前照灯や、テールランプなどの標識灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点である。また、例えば、画像処理部308から提供された認識結果データの中に予め保持している歩行者を示す特徴点を含むデータが存在する場合、車両制御部302がその情報を照射制御部228L,228Rに提供し、照射制御部228L,228Rは、その歩行者を考慮した最適な配光パターンを形成する。
【0033】
また、車両制御部302は、車両300に搭載されているステアリングセンサ310、車速センサ312、ナビゲーションシステム314、加速度センサ316(傾斜検出部、傾斜検出装置)などからの情報も取得可能である。そして、これにより照射制御部228L,228Rは、車両300の走行状態や走行姿勢に応じて形成する配光パターンを選択したり、光軸Oの方向を変化させて簡易的に配光パターンを変化させたりすることができる。たとえば、車両300が走行中に加速する場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。あるいは、車両後部の荷室に荷物を載せたり後部座席に乗員がいる場合は車両姿勢は後傾姿勢となり、荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合は車両姿勢が後傾姿勢の状態から前傾する。灯具ユニット10の照射方向も車両300の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。
【0034】
そこで、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302を経由して加速度センサ316から車両300の傾斜角度を受信し、レベリング制御部236を介してレベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度を車両姿勢に応じた角度とする。このように、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで実行することで車両300の使用状況に応じて車両姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。このような制御モードをオートレベリング制御モードという場合がある。以上説明した各種制御モードを含む配光パターンの自動形成制御は、例えばライトスイッチ304によって配光パターンの自動形成制御が指示された場合に実行される。
【0035】
続いて、上述の構成を備えた車両用灯具システム200によるオートレベリング制御について詳細に説明する。図3(A)〜図3(C)は、傾斜角度の補正方法における各ベクトルの関係を示す模式図である。図3(A)は、XZ軸平面上のベクトルを示し、図3(B)は、XY軸平面上のベクトルを示し、図3(C)は、YZ軸平面上のベクトルを示す。本実施形態におけるオートレベリング制御では、加速度センサ316の取付誤差に起因した車両傾斜角度の検出誤差を減らすべく、記録された基準傾斜角度から得られる補正情報によって車両300の傾斜角度が補正され、光軸Oの位置が決定される。
【0036】
本実施形態にかかる車両用灯具システム200の加速度センサ316は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ316は、センサのX軸が車両300の前後軸と、センサのY軸が車両300の左右軸と、センサのZ軸が車両300の上下軸と沿うように車両300に取り付けられている。加速度センサ316は、重力加速度ベクトルと車両300の移動により生じる運動加速度ベクトルとが合成された合成加速度ベクトルを検知することができ、3軸方向における合成加速度ベクトルの各成分の数値を出力する。加速度センサ316は、車両300が静止状態にある場合、3軸方向における重力加速度ベクトルの各成分の数値を出力する。照射制御部228Rは、これらのベクトル成分から車両300のピッチ角度方向の傾斜角度を検出する。
【0037】
本実施形態のオートレベリング制御では、傾斜検出装置が車両300に搭載された状態における傾斜検出装置側の軸と、車両300の姿勢を決める車両側の軸との位置関係を示す補正情報によって、傾斜検出装置から得られた現在の車両の傾斜角度が補正され、灯具ユニット10の光軸位置が決定される。より具体的には、予め記録された第1状態にある車両の第1基準傾斜角度ベクトル(第1基準傾斜角度)と、第2状態にある車両の第2基準傾斜角度ベクトル(第2基準傾斜角度)とから得られた補正情報によって、加速度センサ316から得られた現在の車両300の傾斜角度、言い換えれば加速度センサ316から得られた現在の車両姿勢におけるベクトル成分が補正され、灯具ユニット10の光軸位置が決定される。第1基準傾斜角度ベクトルおよび第2基準傾斜角度ベクトルは、次のようにして生成される。
【0038】
まず、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて第1状態とされる。第1状態では、車両300の運転席に1名乗車している状態、あるいは空車状態とされる。工場の初期化処理装置のスイッチ操作、または照射制御部228Rと加速度センサ316とを車両制御部302を介して接続するCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、照射制御部228Rに第1初期化信号が送信される。照射制御部228Rに送信された第1初期化信号は、受信部228R1から制御部228R2に送られる。制御部228R2は、第1初期化信号を受けると、受信部228R1が受信した加速度センサ316の出力値を、第1基準傾斜角度ベクトルS=(X,Y,Z)としてメモリ228R4に記録する。第1基準傾斜角度ベクトルSは、たとえば照射制御部228Rが第1初期化信号を受信した後の約1秒間に受信した加速度センサ316の出力値の平均とされる。必要に応じて、第1基準傾斜角度ベクトルSを用いた初期エイミング調整が実施される。
【0039】
次に、第1状態にある車両300の前部または後部に荷重が掛けられて車両300が第2状態とされる。第2状態は、ピッチ角度のみが第1状態と異なる状態である。本実施形態では、第1状態にある車両300の後部荷室あるいは後部座席に重りあるいは乗員が配置されて車両300が第2状態とされる。照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値が所定量以上変化し、かつ安定したことを検知したときに、加速度センサ316の出力値を第2基準傾斜角度ベクトルS=(X,Y,Z)としてメモリ228R4に記録する。第2基準傾斜角度ベクトルSは、たとえば加速度センサ316の出力値が所定量以上変化し、かつ安定したことを検知した後の約1秒間に受信した加速度センサ316の出力値の平均とされる。照射制御部228Rは、センサ出力値の所定量以上の変化と安定とを検知することで、車両300が第2状態となったことを認識することができる。前記「所定量」および前記「安定」の判断は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。また、前記「ピッチ角度のみが第1状態と異なる状態」とは、実質的にピッチ角度のみが変化した状態であり、第2基準傾斜角度ベクトルSの記録に影響を与えない範囲でピッチ角度変化以外の状態変化が起こった状態をも含むものである。
【0040】
このようにして第1基準傾斜角度ベクトルSおよび第2基準傾斜角度ベクトルSが予め記録される。そして、車両300が実際に使用されている状況で、現在の車両300の傾斜角度が加速度センサ316から得られると、照射制御部228Rは、記録された第1基準傾斜角度ベクトルSおよび第2基準傾斜角度ベクトルSとから得られる補正情報によって現在の車両の傾斜角度を補正する。
【0041】
第1基準傾斜角度ベクトルSを取得することで、水平面に対する加速度センサ316の取付誤差を検知してエイミング調整を実施することができる。しかしながら、第1基準傾斜角度ベクトルSだけでは車両300の前後、左右、上下の各軸と加速度センサ316のX、Y、Zの各軸とのずれを把握することができない場合がある。たとえば、加速度センサ316が水平面に対して水平に取り付けられている場合、すなわち、車両300の上下軸と加速度センサ316のZ軸とが一致している場合、第1基準傾斜角度ベクトルSは(0,0,1)となる。この場合、加速度センサ316がZ軸を中心にして回転しても、加速度センサ316のX軸成分およびY軸成分の検出値は0のままである。したがって、加速度センサ316のX軸およびY軸がそれぞれ車両の前後軸および左右軸に対してずれていても、そのずれを検出することができない。加速度センサ316のX、Y軸が車両の前後、左右軸に対してずれている場合には、車両300のピッチ角度変化を正確に把握することが困難である。
【0042】
また、本実施形態では、加速度センサ316の各軸が車両300の各軸と沿うように車両300に取り付けられている。しかしながら、加速度センサ316は、車両設計の都合上、車両300に対して任意の姿勢で取り付けられることがあり、その結果、加速度センサ316の各軸と車両300の各軸とが一致しない場合もある。この場合も、加速度センサ316に取付誤差が生じた場合と同様に、第1基準傾斜角度ベクトルSを取得することで加速度センサ316のZ軸と車両300の上下軸とを一致させることができるが、X軸と前後軸およびY軸と左右軸とを一致させることができない。特に、オートレベリング制御では、X軸と前後軸とを一致させることが特に重要である。
【0043】
これに対し、本実施形態では、第1状態での第1基準傾斜角度ベクトルSと、第1状態からピッチ角度のみを変化させた第2状態での第2基準傾斜角度ベクトルSとを車両傾斜角度の補正に用いている。上述のように第2状態は第1状態からピッチ角度のみが変化しているため、加速度センサ316の出力値ベクトルが第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSとを含む面内で変化した場合は、車両300の姿勢がピッチ角度方向に変化したことを示す。一方、加速度センサ316の出力値ベクトルがこの面から外れた場合は車両300の姿勢が少なくともロール方向に変化したことを示す。したがって、現在の車両300の傾斜角度を示す加速度センサ316の出力値ベクトルを、第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSとを含む面に含まれるベクトルに補正することで、車両300のピッチ角度方向の変化を正確に把握することができる。
【0044】
現在の傾斜角度の補正方法および光軸位置の決定方法を、図3(A)〜図3(C)を参照しながら説明する。まず、照射制御部228Rは、第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSとを含む面に垂直なベクトルである法線ベクトルnを計算する。法線ベクトルnは、第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSの外積で求められ、以下の式(1)で表される。
【0045】
【数1】
【0046】
次に、照射制御部228Rは、法線ベクトルnと方向が同じで大きさが1である単位法線ベクトルnを計算する。単位法線ベクトルnは、以下の式(2)で求められる。
【0047】
【数2】
【0048】
そして、照射制御部228Rは、現在の加速度センサ316の出力値ベクトルVにおける第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSとを含む面に含まれる成分(面内成分ベクトル)V’を計算する。面内成分ベクトルV’は、内積を用いて求められ、以下の式(3)で表される。
【0049】
【数3】
【0050】
第1基準傾斜角度ベクトルSと面内成分ベクトルV’とのなす角が現在の車両300のピッチ角度θである。照射制御部228Rは、オートレベリング制御に必要なtanθを以下の式(4)に基づいて計算する。
【0051】
【数4】
【0052】
照射制御部228Rは、このようにして得られたtanθに基づいて灯具ユニット10の光軸Oの位置を決定する。照射制御部228Rが決定した光軸Oの位置は、送信部228R3によりレベリング制御部236に送信される。レベリング制御部236は、受信した光軸Oの位置に応じてレベリングアクチュエータ226を制御して、光軸Oを現在の車両300の傾斜角度に応じた角度に調節する。本実施形態では、法線ベクトルnおよび単位法線ベクトルnが、第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSとから得られる補正情報に含まれる。なお、法線ベクトルnおよび単位法線ベクトルnは、予めメモリ228R4に記録しておくことができる。
【0053】
図4は、実施形態1に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御フローチャートである。図4のフローチャートではステップを意味するS(Stepの頭文字)と数字との組み合わせによって各部の処理手順を表示する。また、Sと数字との組み合わせによって表示した処理で何らかの判断処理が実行され、その判断結果が肯定的であった場合は、Y(Yesの頭文字)を付加して、例えば(S101のY)と表示し、逆にその判断結果が否定的であった場合は、N(Noの頭文字)を付加して、例えば(S101のN)と表示する。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御モードの実行指示がなされている場合に、照射制御部228Rが所定のタイミングで繰り返し実行する。
【0054】
まず、照射制御部228Rは、第1初期化済みフラグがセットされているか否かを判定して、第1初期化が済んでいるか判断する(S101)。第1初期化が済んでいない場合(S101のN)、照射制御部228Rは、第1初期化信号を検出したか判断する(S102)。第1初期化信号を検出した場合(S102のY)、照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値を第1基準傾斜角度ベクトルSとして記録する(S103)。そして、照射制御部228Rは、第1初期化済みフラグをセットし(S104)、光軸Oの調節を禁止して(S105)、本ルーチンを終了する。第1初期化信号を検出しない場合(S102のN)、照射制御部228Rは、第1基準傾斜角度ベクトルSを記録せずに、光軸Oの調節を禁止して(S105)、本ルーチンを終了する。
【0055】
第1初期化が済んでいる場合(S101のY)、照射制御部228Rは、第2初期化済みフラグがセットされているか否かを判定して、第2初期化が済んでいるか判断する(S106)。第2初期化が済んでいない場合(S106のN)、照射制御部228Rは、第1基準傾斜角度ベクトルSと現在の加速度センサ316の出力値との差を計算し(S107)、その差が所定量以上であり、かつ加速度センサ316の出力値が安定しているか判断する(S108)。差が所定量以上でセンサ出力値が安定している場合(S108のY)、照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値を第2基準傾斜角度ベクトルSとして記録する(S109)。そして、照射制御部228Rは、第2初期化済みフラグをセットし(S110)、光軸Oの調節を禁止して(S105)、本ルーチンを終了する。差が所定量未満であるか、センサ出力値が不安定である場合(S108のN)、照射制御部228Rは、第2基準傾斜角度ベクトルSを記録せずに、光軸Oの調節を禁止して(S105)、本ルーチンを終了する。
【0056】
第2初期化が済んでいる場合(S106のY)、照射制御部228Rは、現在の加速度センサ316の出力値を補正して、車両300のピッチ角度を計算する(S111)。そして、照射制御部228Rは、得られたピッチ角度に応じて決まる光軸Oの位置に、灯具ユニット10の光軸Oを調節し(S112)、本ルーチンを終了する。
【0057】
なお、左側の前照灯ユニット210Lについては、照射制御部228Lが同様の制御を実行する。あるいは、照射制御部228L,228Rの一方が光軸Oの位置を決定し、他方は決定された光軸Oの位置を取得して光軸Oを調節する構成であってもよい。
【0058】
上述の実施形態1に対して、以下の変形例1、2を挙げることができる。
【0059】
(変形例1)
上述の実施形態1では、第1基準傾斜角度ベクトルSが記録された後、加速度センサ316の出力値が所定量以上変化し、かつ安定したときに第2基準傾斜角度ベクトルSが記録されているが、次のようにして第2基準傾斜角度ベクトルSが記録されてもよい。すなわち、第1基準傾斜角度ベクトルSが記録された後、工場の初期化処理装置のスイッチ操作またはCANシステムの通信等により、照射制御部228Rに第2初期化信号が送信される。そして、照射制御部228Rは、第2初期化処理信号を受信した後に第2基準傾斜角度ベクトルSを記録する。第2基準傾斜角度ベクトルSは、たとえば照射制御部228Rが第2初期化指令信号を受信した後の約1秒間に受信した加速度センサ316の出力値の平均とされる。
【0060】
図5は、変形例1に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御フローチャートである。まず、照射制御部228Rは、第1初期化が済んでいるか判断する(S201)。第1初期化が済んでいない場合(S201のN)、照射制御部228Rは、第1初期化信号を検出したか判断する(S202)。第1初期化信号を検出した場合(S202のY)、照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値を第1基準傾斜角度ベクトルSとして記録する(S203)。そして、照射制御部228Rは、第1初期化済みフラグをセットし(S204)、光軸Oの調節を禁止して(S205)、本ルーチンを終了する。第1初期化信号を検出しない場合(S202のN)、照射制御部228Rは、第1基準傾斜角度ベクトルSを記録せずに、光軸Oの調節を禁止して(S205)、本ルーチンを終了する。
【0061】
第1初期化が済んでいる場合(S201のY)、照射制御部228Rは、第2初期化が済んでいるか判断する(S206)。第2初期化が済んでいない場合(S206のN)、照射制御部228Rは、第2初期化信号を検出したか判断する(S207)。第2初期化信号を検出した場合(S207のY)、照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値を第2基準傾斜角度ベクトルSとして記録する(S208)。そして、照射制御部228Rは、第2初期化済みフラグをセットし(S209)、光軸Oの調節を禁止して(S205)、本ルーチンを終了する。第2初期化信号を検出しない場合(S207のN)、照射制御部228Rは、第2基準傾斜角度ベクトルSを記録せずに、光軸Oの調節を禁止して(S205)、本ルーチンを終了する。
【0062】
第2初期化が済んでいる場合(S206のY)、照射制御部228Rは、現在の加速度センサ316の出力値を補正して、車両300のピッチ角度を計算する(S210)。そして、照射制御部228Rは、得られたピッチ角度に応じて決まる光軸Oの位置に、灯具ユニット10の光軸Oを調節し(S211)、本ルーチンを終了する。
【0063】
(変形例2)
上述の実施形態1では、第1状態にある車両300の前部または後部に荷重が掛けられて第2状態が作り出されているが、次のようにして第2状態が作り出されてもよい。すなわち、第1状態を車両300が停止している状態とし、車両300を前進または後退させて第2状態を作り出してもよい。車両300を前進または後退させることで、車両300のピッチ角度を上方または下方に変化させることができる。照射制御部228Rは、車速センサ312により検出される車速の単位時間あたりの変化量が所定量以上であることを検知したときに、加速度センサ316の出力値を第2基準傾斜角度ベクトルSとして記録する。第2基準傾斜角度ベクトルSは、たとえば照射制御部228Rが単位時間あたりの車速変化量が所定量以上であることを検知した後の約1秒間に受信した加速度センサ316の出力値の平均とされる。照射制御部228Rは、単位時間あたりの車速変化量が所定量以上であることを検知することで、車両300が第2状態となったことを認識することができる。前記「所定量」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0064】
図6は、変形例2に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御フローチャートである。まず、照射制御部228Rは、第1初期化が済んでいるか判断する(S301)。第1初期化が済んでいない場合(S301のN)、照射制御部228Rは、第1初期化信号を検出したか判断する(S302)。第1初期化信号を検出した場合(S302のY)、照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値を第1基準傾斜角度ベクトルSとして記録する(S303)。そして、照射制御部228Rは、第1初期化済みフラグをセットし(S304)、光軸Oの調節を禁止して(S305)、本ルーチンを終了する。第1初期化信号を検出しない場合(S302のN)、照射制御部228Rは、第1基準傾斜角度ベクトルSを記録せずに、光軸Oの調節を禁止して(S305)、本ルーチンを終了する。
【0065】
第1初期化が済んでいる場合(S301のY)、照射制御部228Rは、第2初期化が済んでいるか判断する(S306)。第2初期化が済んでいない場合(S306のN)、照射制御部228Rは、単位時間あたりの車速変化量を計算し(S307)、車速変化量が所定量以上であるか判断する(S308)。車速変化量が所定量以上である場合(S308のY)、照射制御部228Rは、加速度センサ316の出力値を第2基準傾斜角度ベクトルSとして記録する(S309)。そして、照射制御部228Rは、第2初期化済みフラグをセットし(S310)、光軸Oの調節を禁止して(S305)、本ルーチンを終了する。車速変化量が所定量未満である場合(S308のN)、照射制御部228Rは、第2基準傾斜角度ベクトルSを記録せずに、光軸Oの調節を禁止して(S305)、本ルーチンを終了する。
【0066】
第2初期化が済んでいる場合(S306のY)、照射制御部228Rは、現在の加速度センサ316の出力値を補正して、車両300のピッチ角度を計算する(S311)。そして、照射制御部228Rは、得られたピッチ角度に応じて決まる光軸Oの位置に、灯具ユニット10の光軸Oを調節し(S312)、本ルーチンを終了する。
【0067】
実施形態1や変形例1のように、車両300の前部または後部に荷重を掛けて第2状態を作り出す方法によれば、精度良く車両のピッチ角度のみを変化させることができる。一方、変形例2のように車両を前進または後退させて第2状態を作り出す方法によれば、製造工場内の組立ラインで車両300を自走により移動させている状態を第2状態として利用することができるため、オートレベリング制御の工程数の増加を抑えることができる。
【0068】
なお、上述した実施形態1、変形例1および変形例2では、加速度センサ316で検出されたベクトルを面内成分ベクトルに変換し、これにより加速度センサ316のX軸と車両300の前後軸、および加速度センサ316のZ軸と車両300の上下軸を一致させているが、例えば以下に示す方法により、加速度センサ316側のX、YおよびZ軸と、車両300の前後、左右および上下軸をそれぞれ対応付けて(一致させて)、言い換えればセンサ座標系を車両座標系に変換してオートレベリング制御を実施してもよい。
【0069】
すなわち、車両300のX軸、Y軸、Z軸に平行な単位ベクトルをそれぞれベクトルnx、ベクトルny、ベクトルnzとすると、ベクトルnxは、第1基準傾斜角度ベクトルSとベクトルnyを含む面の単位法線ベクトルとすることができる。また、ベクトルnyは、第1基準傾斜角度ベクトルSと第2基準傾斜角度ベクトルSを含む面の単位法線ベクトルとすることができ、ベクトルnzは、第1基準傾斜角度ベクトルSの単位ベクトルとすることができる。そのため、加速度センサ316によってベクトルVが検出された場合は、車両300の前後軸、左右軸および上下軸の各成分はそれぞれ、ベクトルnxとベクトルVの内積、ベクトルnyとベクトルVの内積、ベクトルnzとベクトルVの内積で表すことができる。なお、以上説明した方法により、X軸と前後軸、およびZ軸と上下軸のみを一致させてもよい。
【0070】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用灯具システム200において、照射制御部228は、加速度センサ316が車両300に搭載された状態におけるセンサ側の軸と、車両側の軸との位置関係を示す補正情報によって、加速度センサ316から得られた現在の車両300の傾斜角度、すなわち車両300の傾斜角度に対応するベクトルを補正し、光軸Oの位置を決定している。より具体的には、照射制御部228は、第1状態にある車両300の第1基準傾斜角度ベクトルSと、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態にある車両300の第2基準傾斜角度ベクトルSとから得られる補正情報によって、現在の車両300の傾斜角度を補正している。そして、この補正された傾斜角度を用いて光軸Oの位置を決定している。そのため、傾斜検出装置としての加速度センサ316から車両300の傾斜角度を取得して灯具ユニット10の光軸位置を調節するオートレベリング制御をより高精度に実施することができる。また、本実施形態では、加速度センサ316を用いて車両300の傾斜角度を検知しているため、車高センサを用いる必要がない。そのため、車高センサを用いる場合と比べてコスト低減面で有利であり、また、車体設計上の自由度が高い。
【0071】
なお、本実施形態に係る車両用灯具システム200は本発明の一態様である。この車両用灯具システム200は、光軸Oを調節可能な灯具ユニット10と、水平面に対する車両300の傾斜角度を検出可能な加速度センサ316(傾斜検出部)と、灯具ユニット10を制御するための照射制御部228とを備え、照射制御部228により上述の傾斜角度補正と光軸位置の決定が実施される。
【0072】
本発明の他の態様としては、制御装置としての照射制御部228を挙げることができる。照射制御部228は、加速度センサ316から車両の傾斜角度を受信するための受信部228L1,228R1と、上述の傾斜角度補正と光軸位置の決定を実施するための制御部228L2,228R2と、決定した光軸位置をレベリング制御部236に送信するための送信部228L3,228R3とを備える。車両用灯具システム200における照射制御部228は広義の制御部に相当し、照射制御部228における制御部228L2,228R2は狭義の制御部に相当する。
【0073】
さらに、本発明の他の態様としては、車両用灯具としての灯具ユニット10を挙げることができる。灯具ユニット10は、上述の傾斜角度補正が実施されて決定された車両300のピッチ角度に応じて灯具ユニット10の光軸Oが調節されるものである。
【0074】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、実施形態と変形例を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などのさらなる変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくはさらなる変形が加えられた実施形態や変形例も本発明の範囲に含まれる。上述の実施形態と変形例の組み合わせによって生じる新たな実施形態や、以下のさらなる変形が加えられて生じる新たな実施形態は、実施形態や変形例、およびさらなる変形がそれぞれ有する効果をあわせもつ。
【0075】
上述の実施形態および各変形例における自車両の走行状態の判断や、光軸位置の決定、配光パターンの決定は、車両制御部302および照射制御部228のどちらが実施してもよい。照射制御部228がこれらの判断を実施する場合、各種センサやナビゲーションシステムからの情報が車両制御部302を経由して照射制御部228に送信される。また、照射制御部228がこれらの判断を実施する場合、照射制御部228Lおよび照射制御部228Rの一方または両方がこれらの判断を実施することができる。また、照射制御部228がレベリング制御部236を介さずに光軸調節部としてのレベリングアクチュエータ226を制御してもよい。すなわち、照射制御部228がレベリング制御部236として機能してもよい。車両制御部302がこれらの判断を実施する場合、照射制御部228は、車両制御部302からの指示に基づいてバルブ14の点消灯や、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226、およびモータ238の駆動などを制御する。
【符号の説明】
【0076】
O 光軸、 10 灯具ユニット、 200 車両用灯具システム、 226 レベリングアクチュエータ、 228,228L,228R 照射制御部、 228L1,228R1 受信部、 228L2,228R2 制御部、 228L3,228R3 送信部、 236 レベリング制御部、 300 車両、 316 加速度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6