(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来より、2サイクルエンジンの掃気行程では、排気ポートと掃気ポートの両方がシリンダに開口しているため、燃焼室内の既燃焼ガスとともに、掃気ポートから燃焼室内に流入した未燃焼の混合ガスも、排気ポートに排気される。そして、排気ガスに含まれる未燃焼ガスが増加すると、排気ガスに含まれる炭化水素量(HC)が増加することになる。
また、従来の2サイクルエンジンでは、掃気効率および燃焼効率が低い場合には、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)が増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決し、排気ガスに含まれる未燃焼ガスを低減させるとともに、掃気効率および燃焼効率を向上させることができる2サイクルエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、シリンダおよびクランク室が形成されたシリンダブロックと、前記シリンダ内に摺動自在に装着されたピストンと、を備え、前記シリンダブロックには、前記シリンダの内周面に開口した排気ポートを通じて、前記シリンダ内の燃焼室に通じる排気通路と、前記シリンダの内周面に開口した掃気ポートと、前記掃気ポートから前記シリンダの径方向に形成された連通路と、前記シリンダの軸方向に形成され、前記クランク室に通じるとともに、前記連通路の底面に開口部が形成された掃気通路と、が形成された2サイクルエンジンである。前記連通路を形成する反排気ポート側の側面が、前記燃焼室内の反排気ポート側に向かうように形成されている。また、前記連通路の底部に、前記掃気通路の開口部と、前記掃気通路の開口部の周囲に形成された棚部と、が形成され
、前記棚部は、前記掃気通路の開口部と、前記連通路の反排気ポート側の側面との間に入り込んでおり、前記棚部は、前記連通路の反排気ポート側の側面を、前記掃気通路に対して反排気ポート側にオフセットさせることで形成されている。
【0008】
この構成では、掃気ポートから燃焼室内に流入する混合ガスが反排気ポート側へ指向されるため、排気ポートに排気される未燃焼の混合ガスの量を大幅に低減することができる。
また、掃気通路の開口部の周囲に棚部を形成することで、連通路内において開口部周辺の空間が拡張されるため、掃気通路内で圧縮された混合ガスが、連通路内で膨張して燃焼室内に噴出される。これにより、混合ガスの霧化や混合を促進させるとともに、混合ガスの圧力および速度に変化を持たせることができる。より詳細には、混合ガスがシリンダへ流入する際の圧力および速度を一定程度低下させる効果がある。また、燃焼室内の反排気ポート側に流入した混合ガスによって、燃焼室内の既燃焼ガスが排気ポートに押し出される。したがって、掃気効率および燃焼効率を向上させることができる。
【0009】
また、掃気効率および燃焼効率が向上することで、掃気通路の断面積を小さくしても燃焼に必要な量の混合ガスをシリンダ内に導入することができ、クランク室内および掃気通路内における混合ガスの圧縮比(一次圧縮比)を大きくすることができるため、エンジンの出力性能を向上させることができる。
また、掃気通路の断面積が小さくなることで、シリンダブロックの設計の自由度を高めることができる。例えば、シリンダブロックの側壁部の厚さを大きくし、クランクシャフトのクランクジャーナルを回転自在に支持するベアリングの受け面を大きくすることで、ベアリングの供回りを防ぐとともに、ベアリングの耐久性を高めることができる。
【0010】
また、前記棚部は、前記掃気通路の開口部と、前記連通路の排気ポート側の側面との間に入り込むように形成してもよい。さらに、掃気通路の開口部と、連通路の反排気ポート側および排気ポート側の両側面との間にそれぞれ棚部を形成してもよい。
【0011】
前記棚部を、前記掃気通路の開口部と、前記連通路の反排気ポート側の側面との間に入り込むように形成した場合には、棚部によって、掃気通路の開口部が反排気ポート側の側面から離れ、掃気通路の開口部から連通路に流入した混合ガスが反排気ポート側の側面に当たり難くなるため、混合ガスが反排気ポート側の側面に当たって、排気ポート側に反射するのを防ぐことができる。
したがって、掃気ポートから燃焼室内に流入する混合ガスを反排気ポート側へ確実に指向することができるため、排気ポートに排気される未燃焼の混合ガスの量を大幅に低減することができる。
【0012】
また、前記連通路の反排気ポート側の側面を、前記掃気通路に対して反排気ポート側にオフセットさせることで、前記棚部を形成することができる。したがって、シリンダブロックを鋳造などによって成形する際に、連通路内に棚部を形成することができるため、既存のエンジンの基本構造や製造工程を変更することなく、エンジンの性能を大幅に向上させることができる。
【0013】
前記した2サイクルエンジンにおいて、前記連通路における前記シリンダの軸線方向の断面積を前記掃気通路における前記シリンダの径方向の断面積よりも大きくすることが好ましい。
この構成では、掃気通路内で圧縮された混合ガスを、連通路内でより効果的に膨張させることができるため、混合ガスの霧化や混合を促進させるとともに、混合ガスの圧力および速度に変化を持たせることができ、掃気効率および燃焼効率を大幅に向上させることができる。
【0014】
さらに、前記連通路において前記シリンダの周方向の開口幅を、前記掃気通路の開口部側から前記掃気ポート側に向かうに従って拡大したり、前記連通路の天井面を前記掃気通路側から前記掃気ポート側に向かうに従って、シリンダヘッド側に傾斜させたりすることで、掃気ポートをダイバージェント形状に形成した場合には、掃気ポートから燃焼室内に噴出された混合ガスが効果的に拡散されるため、掃気効率および燃焼効率をより向上させることができる。
【0015】
前記した2サイクルエンジンにおいて、前記排気ポートの両側に二つの前記掃気ポートを形成した場合には、排気ポートの両側から燃焼室内の反排気ポート側に流入した混合ガスによって既燃焼ガスが排気ポートに押し出されるため、掃気効率をより向上させることができる。
また、両掃気ポートから燃焼室内に流入した混合ガスが、燃焼室内で衝突することで、混合ガスの混合および拡散が促進されるため、燃焼効率をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の2サイクルエンジンでは、既存のエンジンの基本構造や製造工程を変更することなく、排気ガスに含まれる炭化水素量(HC)を大幅に低減するとともに、掃気効率および燃焼効率を向上させることができ、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)を大幅に低減することができる。
特に、掃気ポートをダイバージェント形状に形成した場合には、掃気ポートから燃焼室内に噴出された混合ガスが効果的に拡散されるため、掃気効率および燃焼効率をより向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
【0019】
(第一実施形態)
図1に示す第一実施形態のエンジン1は、チェンソー、刈払機、ブロワなどの小型作業機械に用いられるもの2サイクルエンジンである。
エンジン1は、
図2に示すように、シリンダ61aおよびクランク室62aが形成されたシリンダブロック60と、シリンダ61a内に摺動自在に装着されたピストン50と、クランク室62aに通じる吸入通路70と、燃焼室40に通じる排気通路80と、クランク室62aと燃焼室40とを連通させる掃気通路10A,10B(
図5参照)と、クランク室62a内に収容されたクランクシャフト90と、を主に備えている。
第一実施形態のエンジン1における各種の動力機構は、公知の2サイクルエンジンと同様の構成であるため、本発明を構成する特徴的な構成以外は詳細な説明を省略している。
【0020】
前記したエンジン1では、シリンダ61a内でピストン50が上昇すると、クランク室62a内が負圧となり、気化器(図示せず)において生成された燃料と空気の混合ガスが吸入通路70を通じてクランク室62a内に充填される。
ピストン50が上死点に達すると、前回の掃気行程でシリンダ61a内に流入していた混合ガスが燃焼室40内で圧縮される。そして、点火プラグ41によって混合ガスに着火されると、その膨張力によってピストン50が押し下げられる。
【0021】
ピストン50が下降すると、
図4に示すように、排気通路80が燃焼室40に通じた状態となり、既燃焼ガスが排気通路80に排気される。また、
図3に示すように、ピストン50が下降することで、クランク室62aに充填された混合ガスが圧縮される。
ピストン50が下死点に達すると、
図5に示すように、掃気通路10A,10Bが燃焼室40に通じた状態となり、混合ガスが掃気通路10A,10Bを通じて燃焼室40内に流入する。
図3に示すように、下死点に達したピストン50は、クランクシャフト90の回転力によって再び上昇し、吸入・圧縮行程が繰り返される。
【0022】
シリンダブロック60は、
図1に示すように、シリンダ61aおよびクランク室62a上部が形成された上部ブロック61と、クランク室62a下部が形成された下部ケース62とに分割されており、上部ブロック61と下部ケース62とが上下に組み付けられている。
【0023】
クランクシャフト90には、下部ケース62に回転自在に軸支されるクランクジャーナル91と、クランクジャーナル91に形成されたクランクウェブ92と、が形成されている。
下部ケース62の側壁部62bに形成された挿通孔62cの内周面には、ベアリング62dが内嵌されている。すなわち、挿通孔62cの内周面は、ベアリング62dの受け面となっている。
クランクジャーナル91は、ベアリング62dに挿通されており、その先端部は下部ケース62の外部に突出している。
クランクウェブ92は、コンロッド51を介してピストン50に連結されており、ピストン50の往復動に連動して、クランクウェブ92がクランクジャーナル91の軸回りに回転するように構成されている。
【0024】
吸入通路70は、
図2に示すように、上部ブロック61の側部(
図2における右側部)に形成されており、一端はシリンダ61aの下部に開口し、他端は図示しない燃料供給通路に接続されている。
吸入通路70のシリンダ61a側の開口部71は、
図4に示すように、ピストン50が下死点に位置したときには、ピストン50の側面によって閉塞され、
図2に示すように、ピストン50が上死点に位置したときには、シリンダ61aの下部に開口してクランク室62a内に通じる。
【0025】
排気通路80は、
図2に示すように、上部ブロック61の側部(
図2の左側部)において、吸入通路70の反対側となる位置に形成されている。排気通路80の一端には、シリンダ61aの内周面に開口した排気ポート81が形成され、他端は図示しない排気管に接続されている。
排気ポート81は、
図4に示すように、ピストン50が下死点に位置したときには、燃焼室40に通じた状態となり、
図2に示すように、ピストン50が上死点に位置したときには、ピストン50の側面によって閉塞される。
【0026】
掃気通路10A,10Bは、
図5に示すように、上部ブロック61においてシリンダ61aの側方(
図5における上下側方)となる位置に、シリンダ61aの軸方向に沿って形成されている(
図1参照)。
【0027】
シリンダ61aの中心位置P1よりも排気ポート81側には、二つの第一掃気通路10A,10Aがシリンダ61aを挟んで、
図5において上下対称となる位置に形成されている。また、シリンダ61aの中心位置P1よりも吸入通路70側には、二つの第二掃気通路10B,10Bがシリンダ61aを挟んで、
図5において上下対称となる位置に形成されている。
【0028】
第一掃気通路10Aは、
図1に示すように、下端部がクランク室62aに通じている。また、第一掃気通路10Aの上端部には、後記する第一連通路30Aの底面31に開口した矩形断面の開口部11が形成されている。
なお、
図1および
図3では、第一掃気通路10A、第一連通路30Aおよび第一掃気ポート20Aの構成を分かり易く説明するために、シリンダブロック60の中心位置の断面に第一掃気通路10A、第一連通路30Aおよび第一掃気ポート20Aを図示している。
また、
図5に示す第二掃気通路10Bも第一掃気通路10Aと同様に、下端部がクランク室62a(
図1参照)に通じるとともに、上端部には後記する第二連通路30Bの底面31に開口した開口部11が形成されている。
【0029】
掃気ポート20A,20Bは、
図5に示すように、シリンダ61aの内周面に開口した矩形断面の開口部である(
図4参照)。
シリンダ61aの中心位置P1よりも排気ポート81側で、排気ポート81の両側(
図5における上下両側)となる位置には、シリンダ61aを挟んで対向している二つの第一掃気ポート20A,20Aが形成されている。また、中心位置P1よりも吸入通路70側で、排気ポート81の両側となる位置には、シリンダ61aを挟んで対向している二つの第二掃気ポート20B,20Bが形成されている。
【0030】
各掃気ポート20A,20Bは、
図4に示すように、排気ポート81と略同じ高さでシリンダ61aの内周面に開口している。したがって、掃気ポート20A,20Bは、ピストン50が下死点に位置したときには、シリンダ61aの上部に開口して燃焼室40に通じた状態となり、
図2に示すように、ピストン50が上死点に位置したときには、ピストン50の側面によって閉塞される。
【0031】
連通路30A,30Bは、
図5に示すように、シリンダ61aの径方向に形成された通路であり、この連通路30A,30Bの底部35に、掃気通路10A,10Bの開口部11と、開口部11の周囲に形成された棚部36と、が形成されている。連通路30A,30Bは、底部35の底面31に開口した開口部11,11と、シリンダ61aの内周面に開口した掃気ポート20A,20Bとを連通する通路である。
【0032】
連通路30A,30Bは、底面31に形成された開口部11から燃焼室40(シリンダ61a)内において排気ポート81の反対側(吸入通路70側)となる反排気ポート側に向けて形成されている。
したがって、開口部11から連通路30A,30B内に流入した混合ガスは、連通路30A,30Bによって反排気ポート側に向けて案内され、掃気ポート20A,20Bから燃焼室40内の反排気ポート側に向けて噴出される。
【0033】
連通路30A,30Bは、
図4に示すように、底面31、両側面32,33、天井面34が形成された矩形断面となっている。
連通路30A,30Bを形成する両側面32,33のうち反排気ポート側の側面33は、
図5に示すように、上部ブロック61においてシリンダ61aの径方向の外側から掃気ポート20A,20Bに向かうに従って、排気ポート81側の側面32から離れるように傾斜している。つまり、連通路30A,30Bの反排気ポート側の側面33は、燃焼室40(シリンダ61a)内の反排気ポート側に向かうように形成されている。そして、連通路30A,30Aにおいてシリンダ61aの周方向(水平方向)の開口幅は、開口部11から掃気ポート20A,20Bに向かうに従って拡大されている。
【0034】
また、連通路30A,30Bの天井面34は、
図1に示すように、開口部11から掃気ポート20A,20B(
図5参照)に向かうに従って、シリンダヘッド側(
図1における上側)に傾斜している。すなわち、連通路30A,30Aの高さは、上部ブロック61においてシリンダ61aの径方向の外側から掃気ポート20A,20Bに向かうに従って大きくなっている。
【0035】
このように、連通路30A,30Bは、開口部11から掃気ポート20A,20Bに向かうに従って、断面積が大きくなるダイバージェント形状に形成されている。また、連通路30A,30Bにおけるシリンダ61aの軸線方向の断面積は、開口部11におけるシリンダ61aの径方向の断面積よりも大きくなっている。
【0036】
連通路30Aの底部35に形成された棚部36は、
図6に示すように、開口部11の縁部と、反排気ポート側の側面33との間に入り込んでいる。棚部36は、開口部11側から第一掃気ポート20A側に向かうに従って幅が広くなる平面視で三角形状の部位であり、底部35の底面31と同じ高さで、底面31の一部を構成する平面36aを有している。
棚部36は、連通路30Aの反排気ポート側の側面33を、開口部11の反排気ポート側の縁部(第一掃気通路10Aの反排気ポート側の内面)に対して、反排気ポート側にオフセットさせることで形成された部位である。
連通路30A内には、第一掃気通路10Aの内周面、棚部36および反排気ポート側の側面33によって段差部が形成されている。
このように、開口部11の縁部と反排気ポート側の側面33とは、棚部36を挟んで横方向(シリンダ61aの周方向)に離れている。そして、開口部11の周囲において、棚部36の上方には、反排気ポート側に拡張された空間が形成されている。
【0037】
以上のように構成された第一実施形態のエンジン1は、次のような作用効果を奏する。
図3に示すように、ピストン50が下死点に達すると、第一掃気ポート20A,20Aが燃焼室40に通じた状態となる。これにより、クランク室62a内に充填されていた混合ガスが第一掃気通路10A,10A、第一連通路30A,30Aおよび第一掃気ポート20A,20Aを通じて燃焼室40内に流入する。なお、混合ガスはクランク室62aから第一掃気通路10Aに流入した際に圧縮される。
【0038】
図5に示すように、第一掃気通路10Aの開口部11と、第一連通路30Aの反掃気ポート側の側面33との間に形成された棚部36によって、第一連通路30A内において開口部11周辺の空間が拡張されており、第一連通路30Aにおけるシリンダ61aの軸線方向の断面積は、第一掃気通路10Aの開口部11におけるシリンダ61aの径方向の断面積よりも大きいため、開口部11から第一連通路30A内に流入した混合ガスは、第一連通路30A内で膨張する。
連通路30Aは、
図3に示すように、開口部11から第一掃気ポート20Aに向かうに従って、断面積が大きくなるダイバージェント形状に形成されているため、第一掃気ポート20Aから燃焼室40内に噴出される混合ガスが効果的に拡散される。
したがって、混合ガスの霧化や混合を促進させるとともに、混合ガスの圧力および速度に変化を持たせることができるため、混合ガスの掃気効率および燃焼効率を大幅に向上させることができる。
【0039】
図5に示すように、開口部11の縁部と反排気ポート側の側面33とは、棚部36を挟んで離れているため(
図6参照)、開口部11から第一連通路30A内に流入した混合ガスが反排気ポート側の側面33に当たり難くなっている。
したがって、混合ガスが反排気ポート側の側面33に当たって、排気ポート81側に反射するのを防ぐことができ、第一掃気ポート20Aから燃焼室40内に流入する混合ガスを反排気ポート側へ確実に指向することができる。これにより、排気ポート81に排気される未燃焼の混合ガスの量が大幅に低減される。
【0040】
なお、ピストン50が下死点に達したときには、第一掃気ポート20Aと同様に、第二掃気ポート20Bからも燃焼室40内に混合ガスが流入する。第二掃気ポート20Bから燃焼室40内に流入した混合ガスは、第二掃気ポート20Bよりも排気ポート81側で、第一掃気ポート20Aから反排気ポート側に流入した混合ガスによって、反排気ポート側へ指向される。
したがって、第一実施形態の第二連通路30Bには、第一連通路30Aのように棚部36が形成されていないが、第二連通路30Bに棚部を形成した場合には、各掃気ポート20A,20Bから燃焼室40内に流入する混合ガスを、よりスムーズに反排気ポート側に流すことができる。
【0041】
また、排気ポート81の両側に配置された各掃気ポート20A,20Bから、燃焼室40内の反排気ポート側に流入した混合ガスによって、既燃焼ガスが排気ポート81に押し出されるため、混合ガスの掃気効率を向上させることができる。
また、各掃気ポート20A,20Bから燃焼室40内に流入した混合ガスが、燃焼室40内で衝突することで、混合ガスの混合および拡散が促進されるため、混合ガスの燃焼効率を向上させることができる。
【0042】
以上のように、第一実施形態のエンジン1では、排気ガスに含まれる炭化水素(HC)を大幅に低減するとともに、掃気効率および燃焼効率を向上させることができ、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)を大幅に低減することができる。
【0043】
また、
図6に示すように、反排気ポート側の側面33を、開口部11の縁部に対して、反排気ポート側にオフセットさせることで、棚部36を形成することができる。したがって、シリンダブロック60を鋳造する際に、第一連通路30A内に棚部36を形成することができるため、既存のエンジンの基本構造や製造工程を変更することなく、エンジン1の性能を大幅に向上させることができる。
【0044】
第一実施形態のエンジン1は、第一連通路30A内に棚部36が形成されていない従来のエンジンと比較して、排気ガスに含まれる炭化水素を約75%低減するとともに、排気ガスに含まれる一酸化炭素を約31%低減することが確認された。
また、第一実施形態のエンジン1は、前記した従来のエンジンと比較して、燃料消費量が約22%低減されるとともに、熱効率が向上することで、燃料消費率が約26%低減された。
【0045】
また、掃気効率および燃焼効率が向上することで、
図5に示すように、掃気通路10A,10Bの断面積を小さくしても燃焼に必要な量の混合ガスをシリンダ61a内に導入することができる。これにより、クランク室62a(
図3参照)および掃気通路10A,10Bにおける混合ガスの圧縮比(一次圧縮比)が大きくなるため、エンジン1の出力性能を向上させることができる。
具体的には、第一実施形態のエンジン1では、前記した従来のエンジンと比較して、掃気通路10A,10Bの断面積を約17%低減することができ、出力が約4%向上することが確認された。
【0046】
また、掃気通路10A,10Bの断面積が小さくなることで、
図3に示すように、下部ケース62の側壁部62bの厚みを大きくすることができる。したがって、クランクジャーナル91を回転自在に支持するベアリング62dの受け面を大きくすることができるため、ベアリング62dの共回りを防ぐとともに、ベアリング62dの耐久性を高めることができる。
【0047】
以上、本発明の第一実施形態について説明したが、本発明は前記第一実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
第一実施形態では、
図5に示すように、四つの掃気ポート20A,20Bが形成されているが、その数は限定されるものではなく、二つの第一掃気ポート20A,20Aのみが形成されていてもよい。
【0048】
また、
図6に示すように、棚部36が平面視で三角形状となっているが、その形状は限定されるものではなく、例えば、側面33の下縁部に沿って長方形に形成してもよく、側面33を二次曲線状に湾曲させてもよい。
また、
図5に示すように、開口部11が矩形断面となっているが、その形状は限定されるものではなく、例えば、円形状や三角形状の断面であってもよい。
【0049】
(第二実施形態)
第二実施形態のエンジン2は、
図7に示すように、連通路30Aの底部35の棚部37が、開口部11の縁部と、排気ポート81側の側面32との間に入り込んでいる点が、第一実施形態のエンジン1(
図5参照)と異なっている。
【0050】
図8に示すように、第二実施形態の棚部37は、連通路30Aの奥側から第一掃気ポート20A側に向かうに従って幅が狭くなる平面視で略三角形状の部位であり、底面31の一部を構成する平面37aを有している。
棚部37は、
図7に示すように、排気ポート81側の側面32の奥側の一部を、開口部11の排気ポート81側の縁部(第一掃気通路10Aの排気ポート81側の内面)に対して、排気ポート81側にオフセットさせることで形成された部位である。
連通路30A内には、
図8に示すように、第一掃気通路10Aの内周面、棚部37および排気ポート81側(
図7参照)の側面32によって段差部が形成されており、開口部11の縁部と排気ポート81側の側面32とは、棚部37を挟んで横方向(シリンダ61aの周方向)に離れている。そして、開口部11の周囲において、棚部37の上方には、排気ポート81側に拡張された空間が形成されている。
【0051】
また、第二実施形態の連通路30Aは、第一実施形態の連通路30A(
図1参照)と同様に、開口部11から掃気ポート20Aに向かうに従って、断面積が大きくなるダイバージェント形状に形成されている。また、連通路30Aにおけるシリンダ61aの軸線方向の断面積は、開口部11におけるシリンダ61aの径方向の断面積よりも大きくなっている。
【0052】
以上のように構成された第二実施形態のエンジン2は、次のような作用効果を奏する。
図7に示すように、第一掃気通路10Aの開口部11と、第一連通路30Aの掃気ポート側の側面32との間に形成された棚部37によって、第一連通路30A内において開口部11周辺の空間が拡張されている。つまり、第一連通路30Aにおけるシリンダ61aの軸線方向の断面積は、第一掃気通路10Aの開口部11におけるシリンダ61aの径方向の断面積よりも大きくなっている。これにより、ピストンの下降に伴って、開口部11から第一連通路内30Aに流入した混合ガスは、第一連通路30A内で膨張する。
また、連通路30Aは、開口部11から第一掃気ポート20Aに向かうに従って、断面積が大きくなるダイバージェント形状に形成されているため、第一掃気ポート20Aから燃焼室40内に噴出される混合ガスが効果的に拡散される。
したがって、混合ガスの霧化や混合を促進させるとともに、混合ガスの圧力および速度に変化を持たせることができるため、混合ガスの掃気効率および燃焼効率を大幅に向上させることができる。
【0053】
また、第一掃気ポート20Aから燃焼室40内に流入する混合ガスが、反排気ポート側へ指向されるため、排気ポート81に排気される未燃焼の混合ガスの量を大幅に低減することができる。
【0054】
また、排気ポート81の両側に配置された各掃気ポート20A,20Bから、燃焼室40内の反排気ポート側に流入した混合ガスによって、既燃焼ガスが排気ポート81に押し出されるため、混合ガスの掃気効率を向上させることができる。
また、各掃気ポート20A,20Bから燃焼室40内に流入した混合ガスが、燃焼室40内で衝突することで、混合ガスの混合および拡散が促進されるため、混合ガスの燃焼効率を向上させることができる。
【0055】
以上のように、第二実施形態のエンジン2では、排気ガスに含まれる炭化水素(HC)を大幅に低減するとともに、掃気効率および燃焼効率を向上させることができ、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)を大幅に低減することができる。
【0056】
また、
図7に示すように、排気ポート81側の側面32を、開口部11の縁部に対して、排気ポート81側にオフセットさせることで、棚部37を形成することができる。
【0057】
また、掃気効率および燃焼効率が向上することで、掃気通路10A,10Bの断面積を小さくすることができ、クランク室および掃気通路10A,10Bにおける混合ガスの圧縮比が大きくなるため、エンジン2の出力性能を向上させることができる。
また、掃気通路10A,10Bの断面積が小さくなることで、下部ケースの側壁部の厚みを大きくすることができ、クランクジャーナルを回転自在に支持するベアリングの受け面を大きくすることができるため、ベアリングの共回りを防ぐとともに、ベアリングの耐久性を高めることができる。
【0058】
以上、本発明の第二実施形態について説明したが、本発明は前記第二実施形態に限定されることなく、第一実施形態と同様に、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
第二実施形態では、
図7に示すように、四つの掃気ポート20A,20Bが形成されているが、その数は限定されるものではない。また、
図8に示すように、棚部37が平面視で三角形状となっているが、その形状は限定されるものではない。また、
図7に示すように、開口部11が矩形断面となっているが、その形状は限定されるものではない。
【0059】
(他の実施形態)
本発明のエンジンの他の構成としては、
図9(a)に示すように、第一掃気通路10Aの開口部11の縁部と、第一連通路30Aの反排気ポート側および排気ポート側の両側面32,33との間にそれぞれ棚部36,37を形成してもよい
。